(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】水洗処理システム、及び水洗処理システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/80 20220101AFI20240213BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20240213BHJP
【FI】
B09B3/80
B09B101:30 ZAB
(21)【出願番号】P 2020054492
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 政登
(72)【発明者】
【氏名】中河 久典
(72)【発明者】
【氏名】上野 修
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-142790(JP,A)
【文献】国際公開第2011/101948(WO,A1)
【文献】特開2016-077976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性塩素含有化合物を含む粉体の水洗処理システムであって、
水溶性塩素含有化合物を含む粉体を貯蔵する貯蔵部と、
前記貯蔵部と第一搬送ラインによって接続された、前記粉体の少なくとも一部と水とを配合してスラリーを調製する水洗槽と、
前記第一搬送ライン上に設けられ、前記水洗槽に供給する前記粉体の供給量を制御する第一制御部と、
前記水洗槽と第二搬送ラインによって接続され、前記スラリーと凝集剤とを配合する混和槽と、
前記混和槽と第三搬送ラインによって接続され、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、
前記濃縮部の少なくとも一部を前記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、
前記抜出ライン上に設けられ、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、
前記抜出ラインに接続され、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、
前記排出ラインに接続され、前記濃縮部を脱水処理する濃縮部処理部と、を備え
、
前記第一制御部は、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記粉体の供給量を増加させ、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には前記粉体の供給量を減少させる、水洗処理システム。
【請求項2】
前記貯蔵部が、水溶性塩素含有化合物を含む第一の粉体を貯蔵する第一貯蔵部と、前記第一貯蔵部における第一の粉体よりも水溶性塩素含有化合物の含有量が大きな第二の粉体を貯蔵する第二貯蔵部とを有する、請求項1に記載の水洗処理システム。
【請求項3】
前記混和槽が、凝集剤添加手段と、前記測定部による前記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、前記凝集剤添加手段を制御する第二制御部と、を更に有
し、
前記第二制御部は、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には凝集剤の添加量を増加させ、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には凝集剤の添加量を減少させる、請求項1又は2に記載の水洗処理システム。
【請求項4】
前記抜出ラインに接続され、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部を前記沈殿槽に戻す返送ラインと、
前記抜出ライン、前記返送ライン及び前記排出ラインに接続され、前記濃縮部の流路を前記返送ライン及び前記排出ラインの間で切り替える切り替え部と、を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の水洗処理システム。
【請求項5】
前記測定部による前記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、前記切り替え部を制御する第三制御部を更に備え
、
前記第三制御部は、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には前記濃縮部の流路を前記排出ラインに切り替え、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記濃縮部の流路を前記返送ラインに切り替える、請求項4に記載の水洗処理システム。
【請求項6】
前記沈殿槽から前記上澄み部を排水する排水ラインと、
前記排水ラインに接続され、前記上澄み部を有用する収容槽と、
前記収容槽と接続し、前記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の水洗処理システム。
【請求項7】
前記収容槽は、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を前記上澄み部に添加する手段を更に備える、請求項6に記載の水洗処理システム。
【請求項8】
水溶性塩素含有化合物を含む粉体と水とを混合してスラリーを調製する工程と、
前記スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される前記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、
前記懸濁物質濃度の値に応じて、前記沈殿槽に供給するスラリーを調製するための前記粉体の配合量及び組成の少なくとも一方を調整する工程と、を有し、
前記調整する工程は、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記粉体の配合量を増加させ、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には前記粉体の配合量を減少させる、水洗処理システムの制御方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の水洗処理システムを制御する方法である、請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記粉体が、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、及びゴミ焼却灰からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項8又は9に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶性塩素化合物を含む粉体の水洗処理システム、及び水洗処理システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石の製錬工程、廃棄物の処理工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等において処理対象物の洗浄が行われており、この過程で大量のスラリーが生成する。当該スラリーを効率的に処理するために、有力な方法として、スラリー中の分散体を、沈殿槽を含むシックナー等で凝縮処理し、濃縮部を除去する方法が広く採用されている。
【0003】
スラリーの処理を効率的に行うためには、分散体を十分に沈降させ、濃縮部の懸濁物質濃度を高めてから装置外へ排出することが望ましい。一方で、濃縮部の懸濁物質濃度が高すぎる場合には、沈殿槽からの抜出不良が発生し得る。従来、管理者による目視観察及び経験則によって排出のタイミングを制御することが一般的である。これに対して、沈殿槽上部に超音波を送受信する超音波トランスジューサを設け、濃縮部の厚みを計測し、上述の排出のタイミングを制御しようとする検討がなされている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉱物スラリー等の溶媒と分散体との分離が比較的よいスラリーを対象とする場合には、濃縮部と上澄み部との界面が比較的明確であるため、超音波等によって濃縮部の厚みを観測することができ、特許文献1に開示の方法は有用である。一方で、廃棄物処理等の工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等で発生するスラリーは濁水であることが多く、沈殿槽内の状況を目視で観測することも、超音波によって濃縮部の厚みを計測することも困難であり、上述の抜出不良等が発生し得る。
【0006】
また、スラリーを調製する際の処理対象物である粉体の組成が必ずしも一定でなく、沈殿槽における濃縮部の濃縮度合いがシックナーを運転する間に亘って変動し得る。このような場合、シックナーから排出される濃縮部の脱水機による処理が不安定化し、予期せぬタイミングで脱水機の洗浄等のメンテナンスが必要になるなど、操業上、望ましくない事態が生じ得る。そこで、シックナーにおける濃縮速度等の制御によって、脱水機の運転間隔を一定化できる方法があれば有用である。
【0007】
本開示は、脱水機への濃縮部の供給量を従来のスラリー処理方法よりも安定化することが可能な水洗処理システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、水溶性塩素含有化合物を含む粉体の水洗処理システムであって、水溶性塩素含有化合物を含む粉体を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部と第一搬送ラインによって接続された、上記粉体の少なくとも一部と水とを配合してスラリーを調製する水洗槽と、上記第一搬送ライン上に設けられ、上記水洗槽に供給する上記粉体の供給量を制御する第一制御部と、上記水洗槽と第二搬送ラインによって接続され、上記スラリーと凝集剤とを配合する混和槽と、上記混和槽と第三搬送ラインによって接続され、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、上記濃縮部の少なくとも一部を上記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、上記抜出ライン上に設けられ、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、上記排出ラインに接続され、上記濃縮部を脱水処理する濃縮部処理部と、を備える、水洗処理システムを提供する。
【0009】
上記水洗処理システムは、沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度に着目し、この濃度を指標として、スラリーを調製する際の粉体の供給量及び組成等を調整することを可能とし、分散体の精製量及び沈降速度を調整することを可能とする。これによって、脱水機への濃縮部の供給量を安定化することができる。
【0010】
上記貯蔵部が、水溶性塩素化合物を含む第一の粉体を貯蔵する第一貯蔵部と、上記第一貯蔵部における第一の粉体よりも水溶性塩素化合物の含有量が大きな第二の粉体を貯蔵する第二貯蔵部とを有してもよい。上記貯蔵部が上述のように水溶性塩素化合物の含有量の異なる種の粉体を貯蔵する第一貯蔵部及び第二貯蔵部を有することによって、水洗槽に供給する粉体の組成を調整しやすく、スラリー中に存在する分散体の含有量の調整を容易なものとし、引いては沈殿槽に形成される濃縮部の堆積速度を調整することがより容易なものとなる。
【0011】
上記混和槽が、凝集剤添加手段と、上記測定部による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記凝集剤の配合量を制御する第二制御部と、を更に有してもよい。
【0012】
上述の水洗処理システムは、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を上記沈殿槽に戻す返送ラインと、上記抜出ライン、上記返送ライン及び上記排出ラインに接続され、上記濃縮部の流路を上記返送ライン及び上記排出ラインの間で切り替える切り替え部と、を更に備えてもよい。測定部による懸濁物質濃度の値に基づいて、濃縮部の流路を沈殿槽に返送することができることから、濃縮部を脱水処理する濃縮部処理部をより安定して運転が可能である。
【0013】
上述の水洗処理システムが上記切り替え部を備える場合、上記測定部による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記切り替え部を制御する第三制御部を更に備えてもよい。制御部を備えることによって、シックナーの運転中に監視者を必ずしも配さずに済むことから、より定常的な運転を可能とする。
【0014】
上述の水洗処理システムは、上記沈殿槽から上記上澄み部を排水する排水ラインと、上記排水ラインに接続され、上記上澄み部を有用する収容槽と、上記収容槽と接続し、上記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を更に備えてもよい。
【0015】
上記収容槽は、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を上記上澄み部に添加する手段を更に備えてもよい。
【0016】
本開示の一側面は、水溶性塩素含有化合物を含む粉体と水とを混合してスラリーを調製する工程と、上記スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、上記懸濁物質濃度の値に応じて、上記沈殿槽に供給するスラリーを調製するための上記粉体の配合量及び組成の少なくとも一方を調整する工程と、を有する、水洗処理システムの制御方法を提供する。
【0017】
上記水洗処理システムの制御方法は、沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度に着目し、この濃度を指標として、スラリーを調製する際の粉体の供給量及び組成等を調整し、分散体の生成量及び沈降速度を調整することによって、水洗処理システムを安定して運転することができる。
【0018】
上述の水洗処理システムの制御方法は、上述の水洗処理システムを制御する方法であってよい。
【0019】
上記粉体が、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、及びゴミ焼却灰からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、脱水機への濃縮部の供給量を従来のスラリー処理方法よりも安定化することが可能な水洗処理システム及びその制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、水洗処理システムの一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、水洗処理システムの別の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
[水洗処理システム]
水洗処理システムの一実施形態は、水溶性塩素含有化合物を含む粉体の水洗処理システムであって、水溶性塩素含有化合物を含む粉体を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部と第一搬送ラインによって接続された、上記粉体の少なくとも一部と水とを配合してスラリーを調製する水洗槽と、上記第一搬送ライン上に設けられ、上記水洗槽に供給する上記粉体の供給量を制御する第一制御部と、上記水洗槽と第二搬送ラインによって接続され、上記スラリーと凝集剤とを配合する混和槽と、上記混和槽と第三搬送ラインによって接続され、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、上記濃縮部の少なくとも一部を上記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、上記抜出ライン上に設けられ、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、上記排出ラインに接続され、上記濃縮部を脱水処理する濃縮部処理部と、を備える。
【0024】
上述の水洗処理システムは、沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度に着目し、この濃度を指標として、スラリーを調製する際の粉体の供給量及び組成等を調整すること、並びに、分散体の精製量及び沈降速度を調整することを可能である。
【0025】
図1は、水洗処理システムの一例を示す構成図である。
図1において、水洗処理システム100は、貯蔵部10、第一制御部20、水洗槽30、混和槽40、沈殿槽50及び濃縮部処理部80がこの順で接続した構成を備える。各構成は、それぞれ搬送ライン等によって接続されている。より具体的には、貯蔵部10は第一搬送ライン2aによって第一制御部20と接続し、第一制御部20は第二搬送ライン2bによって水洗槽30と接続し、水洗槽30は第三搬送ライン2cによって沈殿槽50と接続し、沈殿槽50は抜出ライン4及び排出ライン8によって濃縮部処理部80と接続している。
【0026】
沈殿槽50は底部に接続された抜出ライン4と、抜出ライン4に接続された返送ライン6及び排出ライン8とを備えている。抜出ライン4上には測定部60が設けられ、抜出ライン4、返送ライン6及び排出ライン8はまた切り替え部70とも接続している。切り替え部70によって、抜出ライン4からの流れ(抜出ライン4中を流れる濃縮部の流路)を、返送ライン6に送るか、排出ライン8に送るかを切り替えできる。各種ラインは、粉体、スラリー及び濃縮部を搬送できる形態であればよく、例えば、コンベア状でも、管状等であってもよい。
【0027】
水溶性塩素含有化合物は、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、及びゴミ焼却灰からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。水溶性塩素含有化合物は、水に溶解可能である。したがって、水溶性塩素含有化合物の含有量が大きい粉体を用いてスラリーを調製した場合には、スラリー中で分散体となる量が少なく、沈殿槽における濃縮部中の懸濁物質濃度が低くなる傾向にある。また水溶性塩素含有化合物の含有量が小さい粉体を用いてスラリーを調製した場合には、スラリー中で分散体となる量が多く、沈殿槽における濃縮部中の懸濁物質濃度が高くなる傾向にある。上述のような傾向を利用して、沈殿槽50から抜き出される濃縮部の懸濁物質濃度が低い場合には上記粉体の水洗槽30への供給量を増加させ、上記懸濁物質濃度が高い場合には上記粉体の水洗槽30への供給量を減少させるように、第一制御部20において粉体の供給量を調整する。
【0028】
水洗槽30は、第一制御部20において供給量が調製された粉体に水を加えてスラリーを調製する。水洗槽30は、pH調整剤を添加する手段を有していてもよい。pH調整剤を添加することによってスラリーの溶媒である水中に溶解している成分を不溶化させ沈殿が発生させたり、分散体の凝集が促進させたりすることができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ、並びに、硫酸及び塩酸等の酸などであってよい。
【0029】
混和槽40は、第二搬送ラインから供給されるスラリーに更に凝集剤等を添加する。水洗槽において調製されるスラリーにおける沈殿及び凝集体の状況によっては、混和槽40は必ずしも介す必要はなく、水洗槽30で調製されたスラリーを直接沈殿槽50に導入してもよい。混和槽40は、凝集剤添加手段を更に有してもよく、凝集剤添加手段と、上記測定部60による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記凝集剤添加手段を制御する第二制御部と、を更に有してもよい。
【0030】
スラリーに配合する凝集剤は、例えば、無機凝集剤、無機高分子凝集剤及び有機高分子凝集剤等であってよい。
【0031】
沈殿槽50は、例えば、有底円筒状の外壁部を有する。沈殿槽50の内側には、外壁部と同心となるように設けられた有底円筒状の内壁を有し、その底部は、底面に向かって凸な円錐状の形状を有する。沈殿槽50の内側が上述のような形状を有することで、スラリー中の分散体を沈降させた後、沈殿槽50の底部に接続した抜出ライン4から濃縮部をより効率よく抜き出すことができる。沈殿槽50は、底部に向かって凸な円錐状の底面に沿って駆動可能なレーキ等が配置されていてもよい。
【0032】
沈殿槽50では、スラリー中の分散体を沈降させる。凝集状態は、例えば、沈殿槽50に供給されるスラリーの性状(例えば、pH及び凝集剤の添加量)などによって制御することができる。沈殿槽50がレーキを有する場合、沈殿槽50の底部付近で、レーキをゆっくりと回転させることによって、スラリー中の濃縮を促進し、濃縮部をより均一な状態とすることができる。
【0033】
沈殿槽50の底部に形成された濃縮部は、沈殿槽50の底部に接続された抜出ライン4から抜き出される。抜出ライン4中を流れる濃縮部における懸濁物質濃度(SS濃度)が測定部60によって測定される。この際、抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度が所定値(管理者が任意に設定する値)よりも高く、充分な濃縮状態にある場合には、当該濃縮部は、排出ライン8中へ供給され、更に脱水処理する濃縮部処理部80(例えば、脱水機等)へと供給されてよい。一方、抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には、切り替え部70の動作によって、濃縮部の流れる流路が排出ライン8から返送ライン6へと切り替えられ、当該濃縮部は、返送ライン6中へと供給され沈殿槽50へ再び供給される。沈殿槽50よりも上流においてスラリーの性状を精度よく調製することが可能であれば、返送ライン6及び切り替え部70は省略することができる。
【0034】
図1において、抜出ライン4は沈殿槽50の底部に接続しているが、沈殿槽50の底部付近に形成される濃縮部を抜出可能であれば、沈殿槽50の底部に接続されている必要はなく、例えば、抜出口が沈殿槽50の内側底部に位置するように配置されていれば、沈殿槽50の底部付近の側面に接続していてもよい。抜出ライン4は後述する測定部60による、抜出ライン4中を流れる濃縮部における懸濁物質濃度を測定が可能であるように、少なくとも一部が、光又は超音波が透過可能な素材で構成されていることが好ましく、測定部に対面する位置に光が透過可能なガラス等の窓が設けられていることがより好ましい。
【0035】
水洗処理システム100が、懸濁物質濃度の測定部60を備えることによって、沈殿槽50から抜き出された濃縮部の濃縮の度合いを確認しつつ、運転することが可能であり、濃縮度合いが不十分なまま脱水処理する濃縮部処理部へと濃縮部が沈殿槽50から排出されたり、濃縮度合いが高すぎることで沈殿槽50からの抜出不良が発生したりすることを抑制することができる。水洗処理システム100であれば、排出ライン8によって排出される濃縮部は、所望の懸濁物質濃度に設定可能であることから、排出ライン8に接続する濃縮部処理部80における処理作業を及び運転間隔を一定に制御することもできる。
【0036】
測定部60は、沈殿槽50と抜出ライン4の接続部よりも下流に位置することが好ましく、抜出ライン4の切り替え部70よりも上流側には位置されることが好ましい。測定部60は抜出ライン4の外壁上に設けられていてもよい。測定部60における懸濁物質濃度の測定方法は、例えば、透過光測定法又は散乱光測定法等であってよい。水洗処理システム100は、測定部60による濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果が所定値を超えた場合に、外部の警報装置に信号を送る信号発信器を更に備えてもよい。
【0037】
切り替え部70は、抜出ライン4中を流れる濃縮部の流路を排出ライン8及び返送ライン6のいずれかに切り替えられるものであればよい。切り替え部70は、例えば、抜出ライン4、排出ライン8及び返送ライン6のそれぞれの端部と直接接続し、上述の端部と切り替え部70との接続部のそれぞれに上述のライン中の流れを止めることが可能なストップバルブを有するような形態であってもよい。切り替え部70はまた、例えば、三方弁等であってよい。切り替え部70は、測定部60における懸濁物質濃度の測定結果に応じて、人が切り替えを行ってもよいが、例えば、上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記切り替え部を制御する第三制御部によって切り替えてもよい。この場合、水洗処理システム100は、上記切り替え部を制御する第三制御部を更に備える。
【0038】
図2は、水洗処理システムの別の例を示す構成図である。
図2に示される水洗処理システム110では、第一貯蔵部10及び第二貯蔵部12のふたつになっており、それぞれの搬送ライン上に第一制御部20,22が設けられており、第一貯蔵部10及び第二貯蔵部12のそれぞれからの粉体供給量を独立して制御できる点で上述の水洗処理システム100とは異なる。その他構成は共通する。換言すれば、水洗処理システム110は、水溶性塩素化合物を含む第一の粉体を貯蔵する第一貯蔵部10と、上記第一貯蔵部における第一の粉体よりも水溶性塩素化合物の含有量が大きな第二の粉体を貯蔵する第二貯蔵部12とを有する。
【0039】
水洗処理システム110では、測定部60によって測定される、沈殿槽50から抜き出された濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、第一制御部20,22において第一貯蔵部10及び第二貯蔵部12からの粉体供給量を調整し、水洗槽30に導入される粉体の組成を調整することができる。例えば、濃縮部の懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には、分散体の含有量を増加させ、水洗槽30に導入する水溶性塩素含有化合物の割合を低下させるため、第一貯蔵部からの粉体の供給量の割合を、第二貯蔵部からの粉体の供給量の割合よりも多くなるように調整する。また濃縮部の懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には、分散体の含有量を低下させ、水洗槽30に導入する水溶性塩素含有化合物の割合を増加させるため、第一貯蔵部からの粉体の供給量の割合を、第二貯蔵部からの粉体の供給量の割合よりも少なくなるように調整する。
【0040】
上述の水洗処理システム100,110において、濃縮部処理部は、例えば、脱水機及び乾燥機などであってよい。濃縮部処理部における処理後に得られる処理物は、スラリーに含まれる成分等によって、各種用途に用いられる原料とすることもできる。例えば、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(例えば、塩素バイパスダスト等)のみを含むスラリーを上述のスラリー処理システムにおいて処理することで得られる処理物は、セメント製造の仕上げ工程における粉砕機(仕上げミルともいう)にクリンカと共に供給する原料として使用することができる。またセメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(例えば、塩素バイパスダスト等)、及びゴミ焼却灰等の石灰分を含むスラリーを上述のスラリー処理システムにおいて処理することで得られる処理物は、セメント製造の焼成前の原料粉砕機(原料ミルともいう)に供給する原料として使用することができる。
【0041】
上述の水洗処理システム100,110は、沈殿槽50で形成される上澄み部を処理する手段を更に備えてもよい。上述の水洗処理システム100,110は、例えば、沈殿槽50から上記上澄み部を排水する排水ラインと、上記排水ラインに接続され、上記上澄み部を有用する収容槽と、上記収容槽と接続し、上記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を更に備えてもよい。
【0042】
鉱石の製錬工程、廃棄物の処理工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等において処理対象物中には、各種有用な成分が含有され得る。特にセメントキルン抽気ダストには、塩素、アルカリ、硫黄、タリウム、鉛、カドミウム、クロム、マンガン、鉄、セレン等の有用な成分が含まれる。これらの成分は有用であると同時に、水質汚濁防止法などによって規制される有害物質にも該当しており、上記処理対象物の洗浄液の排水からは、これらの成分を除去することが求められる。そこで、水洗処理システム100,110を用いたスラリーの処理では、沈殿槽50等から排出される上澄み部を含む排水に更に処理を加え、水溶性の成分や有用な成分を回収、除去することが望ましい。上記排水の処理のためには、処理前に事前にスラリーを構成する分散体の含有量を極力低減し、処理しやすい排水としておくことが望ましい。上述の水洗処理システム100,110においては、スラリー調整のために供給する粉体の供給量及び組成を調整しつつ、スラリーの性状を調整し、沈殿槽を介すことで、上述のような排水を効率的に生成することができる。
【0043】
収容槽は、例えば、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を上澄み部(沈殿槽50から排水ラインを介して供給される上澄み部)に添加する手段を備えてもよい。このような手段を設けることによって、上澄み部中の可溶成分を不溶化させたり、凝集体を形成させたりすることによって沈殿を生ぜしめたり、吸着材等に可溶成分の少なくとも一部を吸着させることによって溶媒と分離させたりすることができる。pH調整剤及び凝集剤は、上述のスラリーの処理方法においてpH調整剤及び凝集剤として例示したものを用いることができる。還元剤としては、例えば、第一鉄塩化合物等を用いることができる。第一鉄塩化合物は、例えば、塩化第一鉄、塩化第一鉄・二水和物、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄・四水和物、硫酸第一鉄・五水和物、硫酸第一鉄・七水和物、及びポリ硫酸第一鉄等が挙げられる。吸着材としては、例えば、希土類化合物を含む吸着材を用いることができる。希土類化合物は、例えば、イットリウム、ランタン、セリウム、及びイッテルビウムからなる群より選択される一種以上の元素の酸化物、並びに水酸化物等が挙げられる。
【0044】
上述の水洗処理システム100,110は、その他、例えば、第二の沈殿槽において、重金属等の有効成分等を除去した後の上澄み部を電気分解する電気分解層を更に備えてもよい。上記上澄み部を電気分解することによって、上澄み部中に溶解していた溶存金属を更に回収することができる。
【0045】
[水洗処理システムの制御方法]
水洗処理システムの制御方法の一実施形態は、水溶性塩素含有化合物を含む粉体と水とを混合してスラリーを調製する工程と、上記スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される前記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、上記懸濁物質濃度の値に応じて、上記沈殿槽に供給するスラリーを調製するための上記粉体の配合量及び組成の少なくとも一方を調整する工程と、を有する。
【0046】
上述の水洗処理システムの制御方法においては、沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度に着目し、この濃度を指標として、スラリーを調製する際の粉体の供給量及び組成等を調整し、分散体の生成量及び沈降速度を調整することによって、水洗処理システムを安定して運転することができる。
【0047】
上述の水洗処理システム100,110は、上記制御方法を行うために適するように抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度を測定可能なように測定部60を備え、更には、測定部60の測定結果に基づいて、粉体の供給量及び組成の少なくとも一方を調整可能なように第一制御部20,22を備えている、また、場合によって、混和槽40における凝集剤を添加する手段も調整可能である。換言すれば、上述の制御方法は、水洗処理システム100,110の制御方法にも適用できる。
【0048】
以上、水洗処理システム及び水洗処理システムの制御方法について、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
2a…第一搬送ライン、2b…第二搬送ライン、2c…第三搬送ライン、4…抜出ライン、6…返送ライン、8…排出ライン、10,12…貯蔵部(第一貯蔵部、第二制御部)、20,22…第一制御部、30…水洗槽、40…混和槽、50…沈殿槽、60…測定部、70…切り替え部、80…濃縮部処理部、100,110…水洗処理システム。