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特許7434152選択的水素化によってC3~C5炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】選択的水素化によってC3~C5炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/05 20060101AFI20240213BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20240213BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
C07C5/05
C07C11/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020523758
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018079250
(87)【国際公開番号】W WO2019081628
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】17198380.2
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】イゼルボルン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ウーファー,アンドレアス イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ケッター,ヨアヒム
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04260840(US,A)
【文献】特開平10-095739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0030250(US,A1)
【文献】米国特許第04851583(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/
C07C 11/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒の存在下における特定の反応圧力及び特定の反応温度での選択的水素化によって、C~C炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法であって、反応器入口の反応圧力が前記特定の反応圧力から0.01バールを超えて逸脱せずに且つ反応器入口の反応温度が前記特定の反応温度から0.1℃を超えて逸脱しないように前記の反応器入口の反応圧力及び反応温度が調節され、前記選択的水素化に供給される水素の割合が、前記のC~C炭化水素を含む材料流中に存在するジエン1モルに対して、2~20モルの範囲である、方法。
【請求項2】
~C炭化水素を含む材料流からジエンを選択的水素化によって除去する方法であって、
(a)液体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を気化するか、C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合するか、又は気体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を凝縮して、これらの結果、2~50モル%の前記のC~C炭化水素を含む材料流が気化後の気相中に存在する工程、
(b)部分的に気化させたC~C炭化水素を含む材料流を水素化触媒が含まれる反応工程に供給し、そしてC~C炭化水素を含む材料流中に存在するジエン1モルに対して2~20モルの割合で水素を添加する工程であって、その水素が、部分的に気化させたC~C炭化水素を含む材料流と一緒に添加されるか又はそれとは別の添加の時点において添加されることがある、工程、
(c)気相と液相とを分離して、液相を生成物流として抜き出す工程
を含む、方法。
【請求項3】
不活性ガスが、前記のC~C炭化水素を含む材料流の気化された部分の量を調整するために添加される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが、窒素、メタン、二酸化炭素、希ガス、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)及び(b)が、気化部分と前記水素化触媒を含む触媒床を保持する反応部分とを有する装置で行われ;
前記のC~C炭化水素を含む材料流が前記触媒床に入る前に、2~50モル%の前記のC~C炭化水素を含む材料流が気相中に存在する程度まで前記のC~C炭化水素を含む材料流が気化されるように、前記気化部分が設計されている、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記のC~C炭化水素を含む材料流を2つの流に分割して、前記2つの流のうちの1つを完全に気化し、そして、気化後に前記2つの流のうちの他方とこれを再度混合することによって、工程(a)における前記のC~C炭化水素を含む材料流の一部の気化が行われる、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記のC~C炭化水素を含む材料流が、高圧で加熱されてから、より低い圧力で運転される反応器内で減圧される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応工程が別の反応器を含み;そして、
前記のC~C炭化水素を含む材料流が前記別の反応器に入る際においてさらなる部分が気化され、この結果、前記のC~C炭化水素を含む材料流が前記別の反応器に入った後に2~50モル%の前記のC~C炭化水素を含む材料流が気相に存在するように、工程(a)における気化が制御される、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記のC~C炭化水素を含む材料流が、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを99質量%以上含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生成物流が、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを99質量%以上含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンが、ブタ-1-エンである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記のC~C炭化水素を含む材料流中のジエン含有量が、1000ppm未満である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)で得られた気相を冷却し、この結果気相中に存在する前記の1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを凝縮させ、そしてその凝縮させた1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを生成物として抜き出す、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の基礎は、選択的水素化によってC~C炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法である。
【背景技術】
【0002】
選択的水素化は、二重結合を1つ有するアルケン又はそれに対応するアルカンにジエンを変換し、これによって、材料流からジエンを除去する。
【0003】
二重結合を1つ有するアルケンは、例えば、ポリマー製造におけるモノマー又はコモノマーとして使用される。ブタ-1-エンは、このように使用される典型的な化合物である。
【0004】
所望の化合物を含む材料流は、一般に、第2の成分も含み、この第2の成分は、例えば、製造中に望ましくない副生成物として形成される。いくつかの副生成物は、従来の精製プロセス(例えば、分離の蒸留法)によって、粗生成物から分離することができる。しかしながら、これは、特に第2の成分が所望の生成物の沸点に近い沸点を有する場合には、必ずしも直接的にできるとは限らない。特に、ブタジエンの残分量は、一般に、ブタ-1-エンの製造中及び精製中において、依然として存在する。しかしながら、このことは、ブタ-1-エンがポリマー製造においてモノマーとして使用される場合には、ブタジエンがポリマー架橋に影響を与えるので、こうした少量のブタジエンであっても問題を引き起こし得るという欠点を有する。
【0005】
沸点が類似するので、ブタジエンは、通常、選択的水素化によって除去される。これは、生成物流中のブタジエンの割合をさらに低減することができる。しかしながら、選択的水素化の欠点は、水素化によって形成されるブタ-1-エンに加えて、ブタ-2-エン及び他の望ましくない副生成物もまた形成されることである。そしてこれらの副生成物の形成は、生成物流中のブタ-1-エンの所望の濃度が必ずしも達成されない場合があるという欠点を有する。
【0006】
ブタ-1-エン及びブタジエンを含む材料流から選択的水素化によってブタジエンを除去する方法は、例えば、US4,260,840、WO-A2015/170282、WO-A2006/124167、US3,481,999又はDE-A3301164に記載されている。
【0007】
所望の目標生成物であるブタ-1-エンの損失を低減するために、DE-A3301164及びWO-A2006/124167は、反応を少量の一酸化炭素の存在下で行うべきであると開示している。所望の目標生成物の損失は、例えば、選択的水素化のために添加された水素とブタジエンとの反応だけでなく、その水素とブタ-1-エンとの反応からも生じ得る。この結果は、おそらく選択的水素化とそれにより形成される副生成物が理由で、材料流中の目標生成物含有量の目標仕様がもはや達成されなくなることとなる。特に、目標生成物を高い純度で含む材料流中のジエン含有量が低い場合には、選択的水素化によって形成される副生成物の割合は一般に非常に高いので、選択的水素化後の目標生成物の濃度は、もはや要求される仕様を満たさない。
【0008】
選択的水素化によるジエンの除去に加えて、吸着プロセスによる材料流からのジエンの除去も知られている。これは、例えば、除去対象の材料を優先的に吸着するモレキュラーシーブ又はゼオライトを使用して行われる。このような吸着プロセスは、例えば、US4,567,309、US2,882,243、US3,992,471、及びDD-A111197に開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの方法もすべて、材料流から非常に少量のジエンを除去することができないという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】US4,260,840
【文献】WO-A2015/170282
【文献】WO-A2006/124167
【文献】US3,481,999
【文献】DE-A3301164
【文献】US4,567,309
【文献】US2,882,243
【文献】US3,992,471
【文献】DD-A111197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、C~C炭化水素を含む材料流からジエンを除去することができ且つ価値ある生成物の濃度を所定の仕様内に維持する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、水素化触媒の存在下における特定の反応圧力及び特定の反応温度での選択的水素化によって、C~C炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法であって、反応器入口の反応圧力が特定の反応圧力から0.01バールを超えて逸脱せずに且つ反応器入口の反応温度が特定の反応温度から0.1℃を超えて逸脱しないように反応器入口の反応圧力及び反応温度が調節され、選択的水素化に供給する水素の割合が、C~C炭化水素を含む材料流中に存在するジエン1モルに対して、2~20モルの範囲である、前記方法によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
反応器入口の反応圧力が特定の反応圧力から0.01バールを超えて逸脱せずに且つ反応器入口の反応温度が特定の反応温度から0.1℃を超えて逸脱しないように選択的水素化を行う場合には、驚くべきことに、望ましくない副反応(つまり、生成物純度に対する所望の仕様が満たされない結果となり得る副生成物の形成)が防止又は低減できることが見出された。したがって、本発明による方法によって、過剰水素化(言い換えると、所望の目標生成物の水素化又は異性化(これを通じて、材料流中の目標生成物含有量が減少する)、なお、これは、潜在的に、要求される仕様に必要な目標生成物含有量が達成されない結果となる)を回避するか又は少なくとも著しく低減させる方法で選択的水素化を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
反応温度及び反応圧力の調節は、例えば、以下の工程:
(a)液体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を気化するか、C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合するか、又は気体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を凝縮し、この結果、2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%のC~C炭化水素を含む材料流が気化後の気相に存在することとなる工程、
(b)部分的に気化させたC~C炭化水素を含む材料流を、水素化触媒を含む反応工程に供給し、C~C炭化水素を含む材料流中に存在するジエン1モルあたり2~20モルの割合で水素を添加する工程であって、水素が、部分的に気化させたC~C炭化水素を含む材料流と一緒に添加されるか、又は別の添加の時点において添加される工程、
(c)気相と液相とを分離し、液相を生成物流として抜き出す工程、
を含む選択的水素化によってC~C炭化水素を含む材料流からジエンを除去する方法により、達成される。
【0015】
2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%の材料流が気相に存在する材料流を生成するように、C~C炭化水素を含む材料流の一部を気化することによって、あるいは、C~C炭化水素を含む材料流を2つの材料流に分けて、2つの材料流のうちの1つを気化してから2つの材料流を混合することによって、C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合することによって、又はC~C炭化水素を含む材料流の一部を凝縮することによって、過剰水素化が発生することなく選択的水素化を行うことが可能となる非常に狭いプロセス条件(すなわち、特定の反応圧力から0.01バールを超えて逸脱しない反応器入口の反応圧力、及び特定の反応温度から0.1℃を超えて逸脱しない反応器入口の反応温度)内で維持することができる。これにより、価値のある生成物の濃度に関する所望の仕様を満たすことが可能となる。
【0016】
温度又は圧力を直接制御する場合とは違って、使用するC~C炭化水素を含む材料流の一部を気化することにより、C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合することにより、又はC~C炭化水素を含む材料流の一部を凝縮することにより、はるかに簡易な制御で、要求される窓枠内に反応条件を維持することが可能となる。例えば、気化させた副流のサイズの小さな変化は、反応器における圧力と温度の変化をすぐにはもたらさない。所望の生成物の仕様が達成される温度と圧力の窓枠とは異なり、部分的な気化の窓枠はより広く、これは、パラメータを修正するために必要な時間を提供し、そして、これは、このようなパラメータを修正している間にもはや達成されることはない所望の生成物の仕様はもたらされない。
【0017】
~C炭化水素を含む材料流の一部を気化する場合には、使用するC~C炭化水素を含む材料流の気体の割合は、供給する熱流を調節するか、又はC~C炭化水素を含む材料流を分割し、その一部を気化してから2つの副流を混合することによって、調整される。
【0018】
~C炭化水素を含む材料流(2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%)が気相に存在する結果となるように、C~C炭化水素を含む材料流の気体の割合を工程(a)において調整するためのさらなる選択肢は、不活性ガスを添加することである。不活性ガスを添加するとC~C炭化水素を含む材料流の個々の成分の分圧が低下し、これによって、C~C炭化水素を含む材料流の気化温度及び気化された部分を調整する手段が提供される。
【0019】
不活性ガスは、工程(a)において、液体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を気化するか、C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合するか、又は気体のC~C炭化水素を含む材料流の一部を凝縮する前に、最中に、又は後に添加することができる。C~C炭化水素を含む気体の材料流とC~C炭化水素を含む液体の材料流とを混合する場合には、不活性ガスは、液体の材料流のみに添加するか、気体の材料流のみに添加するか、又はC~C炭化水素を含む両方の材料流に添加することが可能である。
【0020】
気化、混合又は凝縮中に不活性ガスを添加する場合には、気化、混合又は凝縮がその中で行われる装置に、例えば別個の供給口を介して、不活性ガスを添加することが可能である。
【0021】
気化中に添加することができる好適な不活性ガスの例は、窒素、メタン、二酸化炭素、希ガス、及びそれらの混合物からなる群から選択される。不活性ガスとして特に好ましいのは、メタン及び窒素である。
【0022】
添加する不活性ガスの割合は、C~C炭化水素を含む気体の材料流の割合が低すぎる場合は不活性ガスの量が増加し、C~C炭化水素を含む気体の材料流の割合が高すぎる場合は減少するように、調節する。
【0023】
使用されるC~C炭化水素を含む材料流が液体であり、さらに気体の割合がC~C炭化水素を含む材料流の一部を気化させることによって達成される場合が、特に好ましい。
【0024】
~C炭化水素を含む材料流の気相の割合は、例えば、蒸発器からの出口で決定される。この目的のために、気相の量を決定することができる任意の好適なセンサーを使用することが可能である。これは、例えば、慣例の位相検出器を使用して行うことができる。あるいは、蒸発器に供給される熱流及び材料特性から、気体割合を計算することも可能である。供給される熱流は、例えば、入口と出口の間で加熱に使用される伝熱媒体の温度差及び質量流量から、又は平均壁温度と気化されているC~C炭化水素を含む材料流の温度との温度差から得ることができる。
【0025】
別の蒸発器が気化のために使用されるか、又は、使用される蒸発器が選択的水素化のための反応器内における気化構成要素である。
【0026】
別の蒸発器を蒸発器として使用する場合には、当業者に知られている任意の蒸発器(この蒸発器を使用して、制御された気化ができる)を使用することが可能である。熱は、伝熱媒体によって間接的に供給してよく、あるいは電気加熱要素による加熱を通じて供給してよい。使用する伝熱媒体は、任意の慣例の伝熱媒体、例えば、蒸気又は熱媒油(thermal oil)でよい。好適な蒸発器の例は、シェルアンドチューブ熱交換器、流下膜式蒸発器、又は薄膜式蒸発器である。しかしながら好ましい選択肢は、C~C炭化水素を含む材料流を高圧で加熱してから、それをより低い圧力で運転される反応器内で減圧することである。これは、例えばリリーフ弁を使用して行うことができる。
【0027】
代替の実施形態では、工程(a)及び(b)を、気化部分と、水素化触媒を含む触媒床を保持する反応部分とを有する装置で行う。C~C炭化水素を含む材料流が、触媒床に入る前に、2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%の、C~C炭化水素を含む材料流が気相に存在する程度まで気化されるように、この気化部分が設計されている。
【0028】
使用する装置は、気化部分と反応部分とを有するもの、例えば、下方部に気化部分を有し、上方部に反応部分を有する装置でよい。気化部分は、例えば、シェルアンドチューブ蒸発器、又は伝熱媒体を通す二重ジャケットの区域である。あるいは、電気加熱を提供することも可能である。反応部分は気化部分の上に配置される。これは好ましくは、水素化触媒を保持する固定床を含む。
【0029】
~C炭化水素を含む材料流全体を部分的に気化する代わりに、工程(a)におけるC~C炭化水素を含む材料流の一部の気化を、C~C炭化水素を含む材料流を2つの流に分割して、2つの流のうちの1つを完全に気化し、これを気化後に2つの流のうちの他方と再度混合することで行うことも可能である。
【0030】
~C炭化水素を含む材料流を2つの部分に分割し、1つの部分を完全に気化してから2つの流を混合することにより、気化された部分の割合は、気化されている副流の規模によって決定される。これは、副流が完全に気化されるという利点を有し、それは要求される割合の材料流を気化するために、十分な熱のみを気化に確実に供給する必要がないことを意味する。従って、C~C炭化水素を含む材料流を、要求される規模の材料流に確実に分割することのみが必要である。1つの流が完全に気化されているので、ここで必要なことは、流が部分的にではなく、完全に実際に気化されていることがすべてである。気化された副流が気化されていない流と混合した後に迅速に再凝縮するのを防ぐために、気化されていない第2の副流を、C~C炭化水素を含む材料流の気化温度よりすぐ下の、好ましくは1~10℃低い温度に加熱する場合が、さらに好ましい。あるいは、気化させる材料流の選択された規模は、混合及び凝縮後に依然として十分に大きな気相が存在するのに十分な大きさである必要がある。
【0031】
副流は、任意の所望の蒸発器で気化してよい。好適な蒸発器は、C~C炭化水素を含む材料流全体が蒸発器に供給される実施形態について上述したものに対応する。
【0032】
~C炭化水素を含む材料流の気化された割合を調整するために、気化に別の蒸発器を使用する場合、蒸発器の下流に相分離器を接続することがさらに可能である。相分離器では、気相及び液相が互いに分離され、別々に抜き出される。そして、C~C炭化水素を含む材料流中の気相の割合が、適切な割合の気相と液相とを混合することによって達成される。液相の割合が大きすぎる場合、液相の一部が抜き出されて蒸発器に戻される。同様に、気相が大きすぎる場合、気相の一部が抜き出されて戻される。これにより、気相中及び液体中の材料流の割合を調整して混合し、次いで反応器に供給される混合された材料流中の気相の割合を2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%の範囲にすることができる。
【0033】
特に、気化部分と反応部分とを備える装置を使用するのではなく、別の蒸発器で気化を行う場合、すなわち、C~C炭化水素を含む材料流全体が1つの蒸発器に供給される実施形態か、あるいはC~C炭化水素を含む材料流を分割して1つの部分を気化する実施形態の両方で、C~C炭化水素を含む材料流のさらなる部分が、反応器に入る際に気化される。これは、特に反応器内の圧力が反応器に入る前の供給ライン内の材料流の圧力よりも低い場合のケースである。
【0034】
材料流の一部が反応器に入る際に気化する場合、すなわち反応工程が別の反応器を含む場合、工程(a)における気化を制御して、C~C炭化水素を含む材料流が反応器に入る際にさらなる部分が気化され、その結果、C~C炭化水素を含む材料流が反応器に入った後に、2~50モル%、好ましくは3~30モル%、特に5~25モル%の、C~C炭化水素を含む材料流が気相に存在するようにする。
【0035】
~C炭化水素を含む材料流の一部の気化が、反応器に入る際に完全に行われる場合が特に好ましい。この場合、反応器の上流に接続された蒸発器ではなく、C~C炭化水素を含む材料流を加熱する熱交換器があり、この加熱は沸点より低い温度である。C~C炭化水素を含む材料流が加熱される圧力は、反応器内の圧力よりも高い。この種の熱交換器は、強制循環フラッシュ蒸発器とも称される。
【0036】
選択的水素化に使用する反応器は、選択的水素化に好適な、当業者に知られている任意の反応器でよい。そのような反応器の例は、水素化触媒が固定床として設置されている固定床反応器である。特に好ましいのは、反応物が上から充填される固定床反応器、いわゆる「トリクルフロー反応器(trickle-flow reactor)」である。
【0037】
好適な水素化触媒の例は、水素化金属として周期表の第VIII族(Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt)の少なくとも1つの金属(特に、パラジウム)であり、そして場合により酸化物担体上の促進剤である。
【0038】
触媒の直径は、好ましくは1.5~10mm、より好ましくは1.5~5mm、特に2.5~3.5mmである。
【0039】
周期表の第VIII族の金属が触媒中にシェル構造を形成する触媒を使用することが好ましい。
【0040】
周期表の族の定義は、CAS(ケミカルアブストラクトサービス)の命名法に準拠する。
【0041】
触媒は、少なくとも1つの促進剤をさらに含む。これは例えば、周期表の第VIII、IB、及びIIB族の他の金属(Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg)であってよい。好ましい実施形態では、触媒は、周期表の第VIII族の金属に加えて、周期表の第IB族からの少なくとも1つの金属を含む。銀が特に好ましい。
【0042】
特に好ましい実施形態では、本発明による触媒は、パラジウム及び銀を含む。
【0043】
触媒は、任意の所望の形状、例えば、押出物、中空押出物、錠剤、環、球状粒子又は球体であってよい。押出物の形態の触媒が好ましい。
【0044】
金属は、純粋な金属形態でよく、又は金属は化合物の形態、例えば金属酸化物の形態でよい。水素化プロセスの運転条件下では一般に金属の形態である。水素化プロセスで触媒を使用する前に、どの酸化物も当業者に知られている方法で金属に変換してよい。これは、例えば前還元及び(前還元した触媒を伴う操作のために必要又は有利な場合には)その後の表面不動態化によって、水素化反応器の内部又は外部において行われることがある。
【0045】
周期表の第VIII族の金属(単数又は複数)(特に、パラジウム)の触媒中の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に0.15質量%以上である。この含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に0.6質量%以下である。より低い及びより高い含有量は可能ではあるが、過度に低い活性又は過度に高い原材料コストが原因で、それらは通常、経済的に満足のいくものではない。特に好ましい実施形態では、1つのみの水素化金属、特にパラジウムを使用する。
【0046】
周期表の第VIII族の水素化金属及び添加剤又はドーパントの量の割合は、個々の場合で最適化すべきパラメータである。周期表の第VIII族の金属の原子(特に好ましくは、パラジウム)の促進剤(特に好ましくは、銀)に対する原子の比率は、好ましくは0.1~10、より好ましくは2~7、特に2.5~6である。
【0047】
水素化触媒の酸化物担体は、好ましくは酸化アルミニウムであり、特に好ましくはδ-酸化アルミニウム、θ-酸化アルミニウム、及びα-酸化アルミニウムの混合物である。担体は不可避の不純物に加えて、ある程度まで他の添加剤も含んでよい。例えば担体は、他の無機酸化物(例えば、周期表の第IIA、IIIB、IVB、IIIA、及びIVA族の金属の酸化物(特に、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、及び酸化カルシウム))を含んでよい。酸化アルミニウム以外のこのような酸化物の担体の最大含有量は、実際に存在する酸化物に依存するが、水素化触媒のX線回折パターンに基づき個々の場合で決定することができる。それは、構造の変化は、X線回折パターンの顕著な変化を伴うからである。一般に、酸化アルミニウム以外のこのような酸化物の含有量は、50質量%未満、好ましくは30質量%未満、より好ましくは10質量%未満である。酸化アルミニウムの純度は、好ましくは99%より高い。
【0048】
適切な触媒及びその好適な調製方法の例は、WO-A2006/040159又はWO-A2006/040160に記載されている。
【0049】
反応器にC~C炭化水素を含む材料流に加え、選択的水素化のための水素を供給する。本発明によれば、水素の量は、C~C炭化水素を含む材料流中に存在するジエン1モルに対して2~20モルの範囲である。水素は、水素化反応器に直接添加するか、あるいはC~C炭化水素を含む材料流に添加する。この場合、添加は、工程(a)における気化、混合又は凝縮の前に、あるいは気化、混合又は凝縮の後に行ってよい。C~C炭化水素を含む材料流に水素を添加する場合には、これは、C~C炭化水素を含む材料流の気体の割合の割合調整をするために使用することができる気体としても作用する。
【0050】
選択的水素化を行うのに使用する水素化反応器内の圧力は、好ましくは2~20バール、好ましくは2.2~7バールの範囲にあり、C~C炭化水素を含む材料流の入口温度は0~80℃、好ましくは20~60℃である。C~C炭化水素を含む材料流が、気化のための水素化反応器への添加中に減圧される場合、C~C炭化水素を含む材料流の加熱は、水素化反応器内の圧力よりも好ましくは0.5~8バール、より好ましくは0.5~5バールの範囲、特に0.5~3.5バールの範囲で高い圧力で行う。
【0051】
選択的水素化を、2~20バールの範囲の圧力で、特に2~12バールの範囲の圧力で、及び0~80℃の範囲、特に20~60℃の範囲のC~C炭化水素を含む材料流の入口温度で、行うことが好ましい。
【0052】
選択的水素化は一般に、所望の濃度で明確に1つの二重結合を有するC~Cアルケンを含む生成物流として、液相を生じさせる。しかしながら、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンは、気相中にもさらに存在し得る。生成物流としてこれも得るために、気相中に存在する明確に1つの二重結合を有するC~Cアルケンを凝縮し同様に生成物として抜き出すことができるようにするために、気相を冷却することが好ましい。
【0053】
本発明による方法は、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを高い割合をすでに含み、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンの割合が、規定の仕様を満たすために特定の濃度を下回ってはならない、C~C炭化水素を含む材料流から、ジエンを除去するのに特に好適である。この方法は、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを99質量%以上含むC~C炭化水素を含む材料流から、ジエンを除去するのに特に好適である。
【0054】
慣例の選択的水素化プロセスでは、特に、1つの二重結合を明確に有するアルケンをこのように高い割合で有する材料流からジエンを除去する場合には、1つの二重結合を明確に有する所望のアルケンの含有量も同様に、副反応、例えば過剰水素化又は異性化(その結果、選択的水素化後の生成物流において、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンの割合は、もはや規定の仕様を満たさず、これを下回る)によって低減されることは、除外することができない。本発明による方法により、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを99質量%以上含む材料流を選択的に水素化して、生成物流が同様に1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンを99質量%以上含むようにすることが可能になる。
【0055】
特に好ましい実施形態では、1つの二重結合を明確に有するC~Cアルケンは、ブテン、特にブタ-1-エンである。よって、この場合のジエンは、ブタジエン、可能であればペンタジエンであり、特にブタジエンである。1つの二重結合を明確に有する所望のアルケンがブタ-1-エンである場合、この場合に形成され得る望ましくない副生成物は、特にブタ2-エン及びn-ブタンである。
【0056】
ジエンに加えて、C~C炭化水素を含む材料流は、通常、不純物として他の成分(一般に、所望されるよりも多いか又は少ない炭素原子数を有する炭化水素(例えば、目標生成物としてC~C炭化水素を含む材料流の場合にはC炭化水素あるいは5個を超える炭素を有する炭化水素(例えば、C~C炭化水素)))を含む。
【0057】
目標生成物がブテン(特に、ブタ-1-エン)である場合には、C~C炭化水素も、例えば材料流中に第2の成分として存在する。
【0058】
しかしながら、ブテンを(コ)モノマーとして重合反応で使用する場合、ジエン、特にブタジエンは、ポリマーの架橋に影響を与えるため、特に問題の多い副生成物である。この理由から、重合のための規定の仕様(すなわちブテン、特にブタ-1-エンの含有量)から逸脱することなく、材料流からブタジエンを除去することが必要である。これは、選択的水素化において、過剰水素化又は異性化が存在してはならないか又はごくわずかな程度でしか発生してはならないことを意味する。特にブタ-1-エンが目標生成物である場合には、(例えば、ブタ-1-エンの異性化又は過水素化によって)ブタ-2-エン又はブタンの含有量を増加させずに、ブタジエンを特定の限界を超える値まで除去しなければならない。
【0059】
本発明による方法はまた、微量のジエンを依然として含むC~C炭化水素を含む既に処理してある材料流から、ジエンの割合をさらに低減するのにも特に好適である。そのような材料流中のジエン含有量は一般に1000ppm未満である。この方法は、ジエン含有量が500ppm未満、特に200ppm未満であるC~C炭化水素を含む材料流から、選択的水素化によってジエンを除去するのに特に好適である。
【実施例
【0060】
99.84ppmのブタ-1-エン含有量を有し、121ppm及び182ppmのブタジエンを含有する2.5kg/hの材料流を、200mlのパラジウム/銀触媒(例えば水素化触媒としてBASF SE社からH0-43として入手可能)を保持するトリクル床反応器で水素化した。材料流をトリクルベッド反応器に入れる前に、材料流を電気的に運転される蒸発器で加熱し、部分的に気化した。熱供給は、使用した材料流の約15質量%が気化後に気相に存在するように調整した。
【0061】
反応は、反応器入口の温度が40℃あるいは30℃であるように行った。反応器入口の温度は、反応器出口の圧力を介して調整した。
【0062】
下記の表は、選択的水素化で得られた生成物流の組成、供給した水素の割合、反応器入口の温度、及び反応器出口の圧力を示す。表1は、個々の実施例のプロセスパラメータを示し、表2は、トリクル床反応器から抜き出した生成物流のそれぞれの組成を示す。
【0063】
実施例1及び2については、99.84質量%のブタ-1-エン、370ppmのn-ブタン、92ppmのトランス-ブタ-2-エン、112ppmのシス-ブタ-2-エン、及び121ppmのブタジエンを含む供給流を使用した。実施例3、4、及び5については、99.84質量%のブタ-1-エン、358ppmのn-ブタン、95ppmのトランス-ブタ-2-エン、112ppmのシス-ブタ-2-エン、及び182ppmのブタジエンを含む供給流を使用した。残りは主に不純物として存在するC及びC炭化水素と、ブテンの生成で発生する他の一般的な不純物であった。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例は、気相中の割合を調整することによって、選択的水素化(この選択的水素化において、ブタジエンが水素化を介して反応する)を行うことが可能であることを明確に示している。さらに、ブタ-1-エンの割合は、わずかしか減少しないことがわかる。ブタ-1-エン含有量が最も大きく減少することが、水素供給が増加したときに見られる。しかしながら、ここにおいても、ブタ-1-エンの含有量は0.29%しか低下せず、0.3%の材料流の減少となった。水素の割合を低下させても、ブタジエン含有量についての満足となる減少が、ブタ-1-エン含有量のわずかな減少と共に、依然として観察することができる。
【0067】
ブタ-1-エン(99.5質量%)についての要求される仕様に関しての満足のいく生成物流が得られた。