(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法、磁心の製造方法、Fe基ナノ結晶合金薄帯、及び磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 1/153 20060101AFI20240213BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20240213BHJP
H01F 3/04 20060101ALI20240213BHJP
H01F 27/25 20060101ALI20240213BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H01F1/153 141
H01F1/153 108
H01F1/153 133
B22D11/06 360B
H01F3/04
H01F27/25
H01F41/02 A
H01F41/02 C
(21)【出願番号】P 2020549202
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037220
(87)【国際公開番号】W WO2020066989
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018180031
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂川 淳
(72)【発明者】
【氏名】森次 仲男
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】小池 秀介
【審判官】岩間 直純
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281317(JP,A)
【文献】特開昭57-139453(JP,A)
【文献】特開2015-167228(JP,A)
【文献】特開平1-242757(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 3/04
H01F 27/25
H01F 41/02
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、前記冷却ロール上に供給された前記Fe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
前記Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、を含み、
前記冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、前記外周部の熱伝導率が、110W/(m・K)以上225W/(m・K)以下であり、
前記外周部のビッカース硬さが、250HV以上400HV以下であ
り、
前記Fe基ナノ結晶合金薄帯は、前記自由凝固面における、中央部に窪みを有する突起Pの個数が、面積100mm
2
当たり1.2個以下であり、幅方向における反りが、幅10mm当たり0.30mm以下であり、
前記Fe基合金溶湯が、下記組成式(A)で表される合金組成を有する、
Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法。
Fe
100-a-b-c-d-e
Cu
a
Si
b
B
c
Nb
d
C
e
… 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【請求項2】
Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Cを含む磁心を製造する方法であって、
回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、前記冷却ロール上に供給された前記Fe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
前記Fe基アモルファス合金薄帯の前記自由凝固面上に前記絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層が形成された前記Fe基アモルファス合金薄帯を巻回することにより、前記Fe基アモルファス合金薄帯が前記絶縁層を介して巻回されている巻回体Aを得る工程と、
前記巻回体Aを熱処理することにより前記巻回体Cを得る工程と、
を含み、
前記冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、前記外周部の熱伝導率が、110W/(m・K)以上225W/(m・K)以下であり、
前記外周部のビッカース硬さが、250HV以上であり400HV以下であ
り、
前記Fe基ナノ結晶合金薄帯は、前記自由凝固面における、中央部に窪みを有する突起Pの個数が、面積100mm
2
当たり1.2個以下であり、幅方向における反りが、幅10mm当たり0.30mm以下であり、
前記Fe基合金溶湯が、下記組成式(A)で表される合金組成を有する、磁心の製造方法。
Fe
100-a-b-c-d-e
Cu
a
Si
b
B
c
Nb
d
C
e
… 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【請求項3】
自由凝固面及びロール接触面を有し、
前記自由凝固面における、中央部に窪みを有する突起Pの個数が、面積100mm
2当たり1.2個以下であり、
幅が5mm以上65mm以下であり、
厚さが10μm以上15μm以下であり、
幅方向における反りが、幅10mm当たり0.30mm以下であ
り、
下記組成式(A)で表される合金組成を有する、
Fe基ナノ結晶合金薄帯。
Fe
100-a-b-c-d-e
Cu
a
Si
b
B
c
Nb
d
C
e
… 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【請求項4】
請求項
3に記載のFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C1を含む磁心。
【請求項5】
下記式(1)で表される絶縁率RIが、80%以上である請求項
4に記載の磁心。
RI=Rr/(Ru・Lr)×100(%) … 式(1)
式(1)中、
Rrは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯における、最内周の一端と最外周の他端との2端間の直流電気抵抗値(Ω)であり、
Ruは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯の長手方向の長さ1m当たりの直流電気抵抗値(Ω)であり、
Lrは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯の長手方向の長さ(m)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法、磁心の製造方法、Fe基ナノ結晶合金薄帯、及び磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe基ナノ結晶合金は、低損失かつ高透磁率という優れた磁気特性を有するため、磁性部品(例えば磁心)の素材として使用されている。
Fe基ナノ結晶合金薄帯を含む磁心は、例えば、Fe基合金溶湯を単ロール法によって急冷凝固させてFe基アモルファス合金薄帯を得、得られたFe基アモルファス合金薄帯を、巻回又は積層させた後に熱処理し、Fe基アモルファス合金薄帯の合金組織内にナノ結晶粒を析出させてFe基ナノ結晶合金薄帯とすることによって製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
Fe基ナノ結晶合金薄帯を含む磁心として、例えば、特許文献2には、高周波加速空胴用磁心に使用される低損失の高周波加速空胴用磁心として、単ロール法によるロール接触面と自由面とを有するFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回された形状を有する高周波加速空胴用磁心であって、Fe基ナノ結晶合金薄帯における自由面には、所定の形状の突起が分散すると共に、上記突起は、その頂部が研磨され鈍化されていることを特徴とする高周波加速空胴用磁心が開示されている。
【0004】
特許文献1:特公平4-4393号公報
特許文献2:特開2015-167228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、従来の15μmを超える厚さの合金薄帯の厚さを薄くした場合、合金薄帯の片側主面に突起が存在し、この突起の部分には絶縁層が形成されず、その結果、磁心において、絶縁層を介して隣接している合金薄帯間で接触及び導通が起こり、絶縁性が低下するという問題が記載されている。特許文献2には、上記問題を、突起の頂部を研磨して鈍化することによって解決できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている、突起の頂部を研磨して鈍化する方法では、生産工数が増加するという問題がある。また、研磨能力の維持管理工数も大きいという問題がある。また、Fe基ナノ結晶合金薄帯のほぼ全面にわたり、偏ることなく、効果的な上記研磨を継続して行うことは困難であり、このため、継続的に安定して高い絶縁性を確保することには限界がある。
従って、厚さが薄い(具体的には厚さが15μm以下である)Fe基ナノ結晶合金薄帯の突起を改善するための技術として、突起の頂部を研磨する技術に頼らずに、突起の発生自体を抑制する技術が求められる。
【0007】
本開示の第1態様の課題は、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯であって、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基ナノ結晶合金薄帯を製造できる、Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法を提供することである。
本開示の第2態様の課題は、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体を含む磁心であって、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れた磁心を製造できる、磁心の製造方法を提供することである。
本開示の第3態様の課題は、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯であって、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基ナノ結晶合金薄帯を提供することである。
本開示の第4態様の課題は、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体を含む磁心であって、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れた磁心を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、前記冷却ロール上に供給された前記Fe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
前記Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、を含み、
前記冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、前記外周部の熱伝導率が70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である、
Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<2> 前記外周部のビッカース硬さが、250HV以上である<1>に記載のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<3> 前記Fe基合金溶湯が、下記組成式(A)で表される合金組成を有する<1>又は<2>に記載のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法。
Fe100-a-b-c-d-eCuaSibBcNbdCe … 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【0009】
<4> Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Cを含む磁心を製造する方法であって、
回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、前記冷却ロール上に供給された前記Fe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
前記Fe基アモルファス合金薄帯の前記自由凝固面上に前記絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層が形成された前記Fe基アモルファス合金薄帯を巻回することにより、前記Fe基アモルファス合金薄帯が前記絶縁層を介して巻回されている巻回体Aを得る工程と、
前記巻回体Aを熱処理することにより前記巻回体Cを得る工程と、
を含み、
前記冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、前記外周部の熱伝導率が70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である、
磁心の製造方法。
<5> 前記外周部のビッカース硬さが、250HV以上である<4>に記載の磁心の製造方法。
<6> 前記Fe基合金溶湯が、下記組成式(A)で表される合金組成を有する<4>又は<5>に記載の磁心の製造方法。
Fe100-a-b-c-d-eCuaSibBcNbdCe … 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【0010】
<7> 自由凝固面及びロール接触面を有し、
前記自由凝固面における、中央部に窪みを有する突起Pの個数が、面積100mm2当たり1.2個以下であり、
幅が5mm以上65mm以下であり、
厚さが10μm以上15μm以下である、
Fe基ナノ結晶合金薄帯。
<8> 幅方向における反りが、幅10mm当たり0.30mm以下である<7>に記載のFe基ナノ結晶合金薄帯。
<9> 下記組成式(A)で表される合金組成を有する<7>又は<8>に記載のFe基ナノ結晶合金薄帯。
Fe100-a-b-c-d-eCuaSibBcNbdCe … 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【0011】
<10> <7>~<9>のいずれか1つに記載のFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C1を含む磁心。
<11> 下記式(1)で表される絶縁率RIが、80%以上である<10>に記載の磁心。
RI=Rr/(Ru・Lr)×100(%) … 式(1)
式(1)中、
Rrは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯における、最内周の一端と最外周の他端との2端間の直流電気抵抗値(Ω)であり、
Ruは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯の長手方向の長さ1m当たりの直流電気抵抗値(Ω)であり、
Lrは、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯の長手方向の長さ(m)である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の第1態様によれば、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯であって、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基ナノ結晶合金薄帯を製造できる、Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法が提供される。
本開示の第2態様によれば、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体を含む磁心であって、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れた磁心を製造できる、磁心の製造方法が提供される。
本開示の第3態様によれば、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯であって、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基ナノ結晶合金薄帯が提供される。
本開示の第4態様によれば、厚さが薄いFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体を含む磁心であって、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れた磁心が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】比較例1のFe基アモルファス合金薄帯における2個の突起P(即ち、中央部に窪みを有する突起P)を、自由凝固面に対して垂直な方向から観察した場合のレーザー顕微鏡像(倍率50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「ナノ結晶合金」とは、ナノ結晶相(即ち、ナノ結晶粒からなる相)を含む合金を意味する。「ナノ結晶合金」は、ナノ結晶相以外の相(例えばアモルファス相)を含んでいてもよい。
本開示において、「Fe基」とは、主成分(即ち、含有質量が最も大きい成分)がFeであることを意味する。
【0015】
〔Fe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法〕
本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法は、
回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、冷却ロール上に供給されたFe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、
を含み、
冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、外周部の熱伝導率が、70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である。
本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0016】
本開示において、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面とは、Fe基アモルファス合金薄帯の2つの主面のうち、Fe基アモルファス合金薄帯を製造する段階において、冷却ロールに接触せず、雰囲気に暴露されていた主面を意味する。Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の自由凝固面の意味も同様である。
本開示において、Fe基アモルファス合金薄帯のロール接触面とは、Fe基アモルファス合金薄帯の2つの主面のうち、Fe基アモルファス合金薄帯を製造する段階において、冷却ロールに接触していた主面を意味する。Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して得られるFe基ナノ結晶合金薄帯のロール接触面の意味も同様である。
合金薄帯が自由凝固面及びロール接触面を有することは、その合金薄帯が、単ロール法によって得られる合金薄帯であることを意味する。
【0017】
本発明者等の検討により、回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、供給されたFe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有するFe基アモルファス合金薄帯を得(以下、ここまでの操作を「鋳造」ともいう)、得られたFe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る場合において、特に、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さが15μm以下であり、かつ、冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、この外周部の熱伝導率が225W/(m・K)超である場合に、Fe基ナノ結晶合金薄帯の自由凝固面に突起が発生しやすいことが判明した。
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
上述したFe基アモルファス合金薄帯の鋳造は、通常、冷却ロールの外周面(即ち、外周部の表面)を研磨しながら行う。この外周面の研磨は、通常、鋳造されたFe基アモルファス合金薄帯が上記外周面から剥離されてから、この外周面に対し、次のFe基合金溶湯が供給されるまでの間に行われる。ここで、冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、かつ、上記外周部の熱伝導率が225W/(m・K)超である場合、上記外周部のビッカース硬さが低い傾向がある。その結果、冷却ロールの外周面を研磨する際、外周部に深い傷が入って粗大な研磨粉が生じ、生じた研磨粉が外周面に付着しやすくなると考えられる。研磨粉が付着した外周面上にFe基合金溶湯が供給された場合、供給されたFe基合金溶湯に空気が巻き込まれやすくなり、その結果、局所的に、冷却速度が不足して結晶化しやすい部分が発生し、この部分が突起となると考えられる。鋳造しようとするFe基アモルファス合金薄帯の厚さが薄い(具体的には15μm以下である)場合には、研磨粉の影響をより受けやすいので、突起がより発生しやすくなると考えられる。発生した突起が、Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の自由凝固面においても維持されると考えられる。
【0018】
上述した問題に関し、本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法では、厚さが15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を鋳造するにも関わらず、自由凝固面における突起の発生を抑制できる。
自由凝固面における突起の発生を抑制する効果には、冷却ロールの外周部(即ち、Cu合金で構成される外周部)の熱伝導率が225W/(m・K)以下であることが寄与している。詳細には、外周部の熱伝導率が225W/(m・K)以下であることにより、外周部のビッカース硬さが高くなり(即ち、外周部が硬くなり)、上述した粗大な研磨粉の発生が抑制され、その結果、突起の発生が抑制されると考えられる。
【0019】
以下、本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法の各工程について説明する。
【0020】
<Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程>
Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程は、回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、冷却ロール上に供給されたFe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程である。
【0021】
(Fe基合金溶湯の好ましい合金組成)
Fe基合金溶湯の好ましい合金組成は、熱処理によって合金組織中にナノ結晶相を形成させやすい点で、下記組成式(A)で表される合金組成である。
【0022】
本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法における各工程は、合金の合金組成には影響を及ぼさない。
従って、Fe基合金溶湯の合金組成は、Fe基合金溶湯を用いて製造されるFe基アモルファス合金薄帯及びFe基ナノ結晶合金薄帯においてもそのまま維持される。
即ち、下記組成式(A)で表される合金組成は、Fe基合金溶湯の好ましい化学組成であり、かつ、Fe基アモルファス合金薄帯の好ましい化学組成であり、かつ、Fe基ナノ結晶合金薄帯の好ましい化学組成である。
【0023】
Fe100-a-b-c-d-eCuaSibBcNbdCe … 組成式(A)
組成式(A)中、100-a-b-c-d-e、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を示し、かつ、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、0.30≦a≦2.00、13.00≦b≦16.00、6.00≦c≦11.00、2.00≦d≦4.00、及び、0.04≦e≦0.40を満足する。
【0024】
以下、組成式(A)で表される合金組成について説明する。
以下、各元素の含有量を示す原子%は、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計を100原子%とした場合の各元素の原子%を意味する。
【0025】
Feは、軟磁性特性の主体をなす元素である。
高い飽和磁束密度Bsを得る観点から、Feの含有量(原子%)(即ち、組成式(A)中の「100-a-b-c-d-e」)は、好ましくは72.00原子%以上であり、より好ましくは74.00原子%以上である。
【0026】
Cuは、Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る際、ナノ結晶粒の核となる元素である。この熱処理により、合金組織内に、ナノ結晶粒が析出する。
かかる効果の観点から、Cuの含有量(即ち、組成式(A)中の「a」)は、0.30原子%以上であり、好ましくは0.80原子%以上であり、より好ましくは0.90原子%以上である。
他方、Cuの含有量が2.00原子%を超えると、熱処理前のFe基アモルファス合金薄帯中に、ナノ結晶核が存在する可能性が高くなり、熱処理によりナノ結晶核とした結晶が大きく成長し、粗大化し、磁気特性が劣化するおそれがある。従って、Cuの含有量は、2.00原子%以下であり、好ましくは1.50原子%以下であり、より好ましくは1.30原子%以下である。
【0027】
Siは、Feの結晶磁気異方性を低下させて軟磁気特性を向上させ、B(ホウ素)と共にアモルファス形成能に有効な元素である。
Siの含有量が13.00原子%以上であれば、Fe基アモルファス合金薄帯作製において高いアモルファス形成能が得られる。また、熱処理によって得られたナノ結晶合金薄帯において、低い飽和磁歪を得ることができる。従って、Siの含有量(即ち、組成式(A)中の「b」)は、13.00原子%以上であり、好ましくは13.40原子%以上であり、より好ましくは13.50原子%以上である。
他方、Siの含有量が16.00原子%を超えると、合金溶湯の粘度が低下するため、合金溶湯を冷却ロール外周面上に吐出し、急冷凝固させてFe基アモルファス合金薄帯を得る際、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面の平滑性が劣化するおそれがある。従って、Siの含有量は、16.00原子%以下であり、好ましくは15.5原子%以下である。
【0028】
B(ホウ素)は、前述の通り、Siと共にアモルファス形成能に有効な元素である。また、熱処理によって合金組織にナノ結晶相(即ち、ナノ結晶粒からなる相)が形成される際、結晶化しない相であるアモルファス相の体積分率を決定する元素である。つまり、Bは、熱処理後のナノ結晶相とアモルファス相との体積比率を決定する元素である。
【0029】
ナノ結晶相の磁歪が負であるのに対して、アモルファス相は正であり、両者の比率から合金全体の磁歪が決定される。Bの含有量が多いと熱処理後のナノ結晶相に比べて、アモルファス相の体積分率が多くなり飽和磁歪が大きくなる。飽和磁歪としては、5×10-6以下が、好ましいとされる。飽和磁歪5×10
-6
以下を得る観点から、Bの含有量(即ち、組成式(A)中の「c」)は、11.00原子%以下であり、好ましくは9.00原子%以下である。飽和磁歪が小さい場合には、作製した磁心をケース等に格納する際、又は、磁心に巻線を巻回してコイルを形成する際に、磁心が機械的応力を受けたとしても、磁気特性の劣化が抑制される。
他方、Bの含有量が少ないと、合金溶湯を急冷して合金薄帯を作製した際、安定してアモルファス相が得られにくくなる。安定してアモルファス相を得る観点から、Bの含有量は、6.00原子%以上であり、好ましくは6.50原子%以上である。
【0030】
Nbは、熱処理後に析出するナノ結晶粒を合金組織内に均一に分布させ、かつ、粗大な結晶粒の生成を抑制して、微細なナノ結晶粒を析出させることに有効な元素である。
かかる効果の観点から、Nbの含有量(即ち、組成式(A)中の「d」)は2.00原子%以上であり、好ましくは2.40原子%以上であり、より好ましくは2.50原子%以上であり、更に好ましくは2.80原子%以上である。
他方、Nbは磁気特性に対しての寄与はないため、好ましくは4.00原子%以下であり、より好ましくは3.50原子%以下であり、更に好ましくは3.20原子%以下である。
【0031】
C(炭素)は、Fe基合金溶湯の粘度の安定化に有効である。かかる効果の観点から、Cの含有量(即ち、組成式(A)中の「e」)は0.04原子%以上であり、好ましくは0.05原子%以上であり、より好ましくは0.10原子%以上であり、更に好ましくは0.12原子%以上である。
他方、合金薄帯の脆化抑制の観点から、Cの含有量は、好ましくは0.40原子%以下であり、より好ましくは0.35原子%以下であり、更に好ましくは0.30原子%以下である。
【0032】
組成式(A)で表される合金組成を有するFe基合金溶湯は、この合金組成に加えて不純物元素を少なくとも1種含有してもよい(組成式(A)で表される合金組成を有するFe基アモルファス合金薄帯、及び、組成式(A)で表される合金組成を有するFe基ナノ結晶合金薄帯も同様である)。
ここで、不純物元素とは、組成式(A)で表される合金組成における各元素以外の元素を意味する。
組成式(A)で表される合金組成全体(即ち、Fe、Cu、Si、B、Nb、及びCの合計)を100原子%とした場合の不純物元素の総含有量は、0.20原子%以下が好ましく、0.10原子%以下がより好ましい。
【0033】
(冷却ロール)
Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程では、Fe基合金溶湯を冷却ロール上に供給し、冷却ロール上に供給されたFe基合金溶湯を急冷することにより、上記Fe基アモルファス合金薄帯を得る。
冷却ロールの外周部(即ち、外周面を含む部分)は、Cu合金で構成される。
Cu合金で構成される外周部の熱伝導率は、70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である。
【0034】
Cu合金で構成される外周部の熱伝導率が225W/(m・K)以下であることにより、最終的に得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の自由凝固面における突起の発生が抑制される。
突起の発生をより抑制する観点から、外周部の熱伝導率は、好ましくは220W/(m・K)以下であり、より好ましくは200W/(m・K)以下であり、更に好ましくは170W/(m・K)以下であり、更に好ましくは150W/(m・K)以下であり、更に好ましくは130W/(m・K)以下である。
他方、冷却ロール上に供給されたFe基合金溶湯を急冷する性能の観点から、外周部の熱伝導率は70W/(m・K)以上である。上記性能をより向上させる観点から、外周部の熱伝導率は、好ましくは90W/(m・K)以上であり、より好ましくは110W/(m・K)以上である。
【0035】
外周部の熱伝導率は、外周部を構成するCu合金における、Cu以外の含有金属元素の種類及び量によって制御できる。
例えば、Cu-Be合金では、Be含有量によって制御できる。熱伝導率が70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下のCu合金としては、例えば、Beを、Cu-Be合金全体に対して1.6~2.2質量%含有するCu-Be合金が挙げられる。
上記Cu-Be合金において、Beを除いた残部は、Cu及び不純物である。Cu-Be合金における不純物は、Cu及びBe以外の元素のうちの少なくとも1種である。Cu-Be合金における不純物としては、Ni、Co等が挙げられる。不純物の総含有量は、例えば1.0質量%以下である。
更に、外周部を構成するCu合金としては、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Be合金、等も挙げられる。これらのCu合金にも、不純物が含まれていてもよい。不純物としては、Si、Cr、Ag、Zr、等が挙げられる。
【0036】
冷却ロールの外周部のビッカース硬さは、250HV以上であることが好ましい。これにより、自由凝固面における突起の発生がより抑制される。
自由凝固面における突起の発生をさらに抑制する観点から、冷却ロールの外周部のビッカース硬さは、より好ましくは260HV以上であり、更に好ましくは300HV以上である。
冷却ロールの外周部のビッカース硬さの上限は、特に制限する必要はない。
冷却ロールの外周部のビッカース硬さは、例えば、400HV以下とすることができる。これにより、鋳造中(即ち、Fe基アモルファス合金薄帯の製造中)における冷却ロールの外周部の研磨がより容易となり、冷却ロールの外周面(即ち、外周部の外表面)に付着した溶着物の除去性がより向上し、溶着物に起因するFe基アモルファス合金薄帯の結晶化がより抑制される。
【0037】
本開示において、ビッカース硬さは、試験荷重20kgfにて測定された値を意味する。
【0038】
冷却ロールは、冷却ロールの内部に、外周部を冷却する構造を備えることが好ましい。これにより、Fe基合金溶湯との接触による外周面の温度上昇がより抑制され、外周面における冷却能力がより効果的に維持される。
外周部を冷却する構造としては、外周部の冷却ロール回転軸側(即ち、外周部の内表面)に、温度制御された水を接触させて循環させる構造が好ましい。
この場合、冷却ロールにおいて、外周部からみて冷却ロール回転軸側に位置する部分の素材は、別の合金を用いることが構造上好ましい。別の合金については、特に熱伝導率を考慮する必要はない。別の合金としては、ステンレス、鋳鉄等が挙げられる。
【0039】
冷却ロールの外周部の厚さは、Fe基合金溶湯に対する冷却能を確保する観点、及び、冷却ロールの外周面の表面状態を維持管理しやすい観点から、好ましくは15mm以上40mm以下である。
外周部の厚さは、より好ましくは17mm以上であり、更に好ましくは20mm以上である。
また、外周部の厚さは、より好ましくは30mm以下である。
【0040】
冷却ロールの直径は、冷却ロール本体の維持管理の点で、好ましくは300mm以上であり、より好ましくは400mm以上である。
また、冷却ロールの直径は、1000mm以下が好ましく、より好ましくは900mm以下である。
また、冷却ロールの幅は、Fe基合金溶湯の冷却能をより安定的に得る観点から、製造するFe基アモルファス合金薄帯の最大幅の2.5倍以上が好ましい。冷却ロールの幅は、より好ましくはFe基アモルファス合金薄帯の最大幅の3.0倍以上である。
他方、冷却ロールの幅は、冷却ロールの外周面の表面状態の維持管理の点で、Fe基アモルファス合金薄帯の最大幅の10.0倍以下が好ましい。
【0041】
Fe基合金溶湯の冷却速度をより向上させ、Fe基アモルファス合金薄帯をより安定的に製造する観点から、回転する冷却ロールの外周の周速は、20m/秒以上35m/秒以下が好ましい。回転する冷却ロールの外周の周速は、より好ましくは25m/秒以上35m/秒以下であり、更に好ましくは27m/秒以上30m/秒以下である。
【0042】
(Fe基アモルファス合金薄帯の幅及び厚さ)
Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程では、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る。
【0043】
Fe基アモルファス合金薄帯の幅及び厚さは、後述の熱処理が施されることによっては変化しない。従って、Fe基アモルファス合金薄帯が熱処理されて得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の幅も、5mm以上65mm以下であり、Fe基ナノ結晶合金薄帯の厚さも10μm以上15μm以下である。
【0044】
Fe基アモルファス合金薄帯の厚さが15μm以下であることにより、Fe基アモルファス合金薄帯を用いて製造される磁心において、渦電流損失が抑制される。
また、前述したとおり、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さが15μm以下である場合には、自由凝固面に突起が発生しやすい傾向となる。しかし、本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法によれば、厚さが15μm以下であるにもかかわらず、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基アモルファス合金薄帯及びFe基ナノ結晶合金薄帯が得られる。
Fe基アモルファス合金薄帯の厚さは、好ましくは14.7μm以下であり、より好ましくは14.5μm以下であり、更に好ましくは14μm以下であり、更に好ましくは13.5μm以下である。
【0045】
他方、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さは、10μm以上である。これにより、長尺のFe基アモルファス合金薄帯及び長尺のFe基ナノ結晶合金薄帯が安定して得られる。更に、後工程でのハンドリング等による破断を抑制するための機械的強度が確保される。
Fe基アモルファス合金薄帯の厚さは、好ましくは11μm以上である。
【0046】
また、Fe基アモルファス合金薄帯の幅が65mm以下であることにより、長尺のFe基アモルファス合金薄帯及び長尺のFe基ナノ結晶合金薄帯が安定して得られる。Fe基アモルファス合金薄帯の幅は、好ましくは63mm以下であり、より好ましくは60mm以下であり、更に好ましくは55mm以下である。
他方、Fe基アモルファス合金薄帯の幅が5mm以上であることにより、生産性(経済合理性)が確保される。Fe基アモルファス合金薄帯の幅は、好ましくは10mm以上であり、より好ましくは15mm以上である。
【0047】
本工程では、Fe基アモルファス合金薄帯をスリットすることにより、Fe基アモルファス合金薄帯の幅を5mm以上65mm以下に調整してもよい。
また、スリットにより、5mm以上65mm以下の幅のFe基アモルファス合金薄帯を複数条得てもよい。
【0048】
Fe基アモルファス合金薄帯の幅及び厚さは、それぞれ、Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して得られたFe基ナノ結晶合金薄帯においても維持される。
従って、Fe基ナノ結晶合金薄帯の幅及び厚さの好ましい範囲は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅及び厚さの好ましい範囲と同様である。
【0049】
(Fe基アモルファス合金薄帯の反り)
Fe基アモルファス合金薄帯の反りは、Fe基アモルファス合金薄帯の幅10mm当たり0.30mm以下が好ましい。
これにより、Fe基アモルファス合金薄帯に絶縁層を形成する場合において、絶縁層の厚さの均一性(詳細には、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の均一性)がより向上する。
その結果、絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯(又は熱処理によって得られるFe基ナノ結晶合金薄帯)からの絶縁層の脱落がより抑制される。
これにより、後述する磁心において、隣接するFe基ナノ結晶合金薄帯間での絶縁性の低下(即ち、絶縁層の脱落に起因する絶縁性の低下)が効果的に抑制される。
Fe基アモルファス合金薄帯の幅10mm当たりのFe基アモルファス合金薄帯の反りは、より好ましくは0.25mm以下であり、更に好ましくは0.20mm以下であり、更に好ましくは0.10mm以下である。
【0050】
冷却ロールの外周部の熱伝導率が、70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下であることは、Fe基アモルファス合金薄帯の反りの低減にも寄与する。
冷却ロールの外周部のビッカース硬さが250HV以上である場合には、Fe基アモルファス合金薄帯の反りがより低減される。
【0051】
Fe基アモルファス合金薄帯の反りは、定盤上に、反りの凸側を上面にしてFe基アモルファス合金薄帯を置き、レーザー光発光部及びレーザー光受光部を有する装置を用いて測定する。
装置としては、例えば、株式会社キーエンス製のLB-300を用いる。
【0052】
Fe基アモルファス合金薄帯の反りは、Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して得られたFe基ナノ結晶合金薄帯においても維持される。
従って、Fe基ナノ結晶合金薄帯の反りの好ましい範囲は、Fe基アモルファス合金薄帯の反りの好ましい範囲と同様である。
Fe基ナノ結晶合金薄帯の反りの測定方法は、Fe基アモルファス合金薄帯の反りの測定方法と同様である。
【0053】
<Fe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程>
Fe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程では、上述したFe基アモルファス合金薄帯を熱処理してFe基ナノ結晶合金薄帯を得る。
熱処理により、Fe基アモルファス合金薄帯の合金組織の少なくとも一部がナノ結晶化し(即ち、ナノ結晶粒が生成され)、その結果、Fe基ナノ結晶合金薄帯が得られる。
【0054】
本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法では、Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程で得られたFe基アモルファス合金薄帯をそのまま熱処理してもよいし、Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程で得られたFe基アモルファス合金薄帯を、積層又は巻回し、得られた積層体又は巻回体を熱処理してもよい。
Fe基アモルファス合金薄帯を巻回して得られた巻回体を熱処理する態様には、後述する本開示の磁心の製造方法が包含される。
【0055】
熱処理における最高温度は、500℃以上700℃以下が好ましく、550℃以上600℃以下がより好ましい。
熱処理において、最高温度での保持時間は、0.3時間以上5時間以下が好ましく、0.5時間以上3時間以下がより好ましく、1時間以上2時間以下が更に好ましい。
熱処理における雰囲気は、窒素等の非酸化性雰囲気であってもよいし、大気雰囲気でもよいが、品質安定化の観点から、非酸化性雰囲気が好ましい。
熱処理は、例えば、熱処理炉を使用して行う。
熱処理は、磁場中で行われてもよい。
【0056】
〔磁心の製造方法〕
本開示の磁心の製造方法は、
Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Cを含む磁心を製造する方法であって、
回転する冷却ロール上にFe基合金溶湯を供給し、冷却ロール上に供給されたFe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が5mm以上65mm以下であり、厚さが10μm以上15μm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を得る工程と、
Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面上に絶縁層を形成する工程と、
絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯を巻回することにより、Fe基アモルファス合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Aを得る工程と、
巻回体Aを熱処理することにより巻回体C(即ち、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C)を得る工程と、
を含み、
冷却ロールの外周部がCu合金で構成され、外周部の熱伝導率が、70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である。
本開示の磁心の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0057】
本開示の磁心の製造方法における、絶縁層を形成する工程、巻回体Aを得る工程、及び巻回体Cを得る工程の全体は、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法における「Fe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程」の概念に包含される。
本開示の磁心の製造方法は、この点以外は、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法と同様である。
【0058】
本開示の磁心の製造方法における「Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程」は、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法における「Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程」と同様である。従って、本開示の磁心の製造方法における「Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程」においても、自由凝固面における突起の発生が抑制されたFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
本開示の磁心の製造方法では、Fe基アモルファス合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Aを熱処理する。この熱処理により、巻回体A中のFe基アモルファス合金薄帯がFe基ナノ結晶合金薄帯となり、その結果、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Cを含む磁心が得られる。
巻回体A中のFe基アモルファス合金薄帯では、前述のとおり、自由凝固面における突起の発生が抑制されている。このため、巻回体C中において、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性の低下が抑制される。
【0059】
以上のように、本開示の磁心の製造方法によって製造される磁心では、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れる。
このため、本開示の磁心の製造方法によって製造される磁心では、渦電流損失が低減される。
一般に、磁心の損失は、ヒステリシス損失と渦電流損失とによって決定される。
渦電流損失は周波数依存性があり、適用される周波数が高くなるにつれて大きくなる傾向が顕著である。
以上の観点から、本開示の磁心の製造方法は、高周波条件(特に、MHzオーダー以上の高周波条件)で使用される磁心を製造する方法として特に好適である。
【0060】
渦電流損失をより抑制する観点から、本開示の磁心の製造方法によって製造される磁心は、後述する絶縁率RIが80%以上であることを満足することが好ましい。絶縁率RIのより好ましい範囲は、後述する本開示の一例に係る磁心における絶縁率RIのより好ましい範囲と同様である。
【0061】
以下、本開示の磁心の製造方法における、Fe基アモルファス合金薄帯を得る工程以外の工程について説明する。
【0062】
<絶縁層を形成する工程>
本開示の磁心の製造方法における絶縁層を形成する工程では、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面上に絶縁層を形成する。
絶縁層は、熱処理シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、及びマグネシア(酸化マグネシウム)等の金属酸化物を含むことが好ましい。
この場合、絶縁層に含有される金属酸化物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
絶縁層が金属酸化物を含有する場合には、巻回体Cを得る工程における熱処理の絶縁層に対する影響がより低減される。
例えば、最高温度550℃~600℃での熱処理の最高温度は、高分子等の有機物の耐熱温度を超える。この最高温度での熱処理を行う場合においても、絶縁層が金属酸化物を含有する場合には、絶縁層に対する熱処理の影響が低減され、絶縁層の絶縁性が効果的に得られる。
【0063】
絶縁層の厚さは、1.5~2.5μmであることが好ましい。
【0064】
絶縁層は、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面及びロール接触面の両方に設けられていてもよいが、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面に設けられ、かつ、ロール接触面に設けられないことが好ましい。これにより、巻回体を得る工程及びそれ以降における、絶縁層同士の接触が防止され、その結果、絶縁層同士の接触に起因する絶縁層の脱落がより抑制される。
【0065】
絶縁層は、例えば、以下のようにして形成できる。
アルコール等の有機溶剤に粉体の金属酸化物(以下、金属酸化物粉ともいう)を懸濁させた懸濁液を調製する。得られた懸濁液中に、Fe基アモルファス合金薄帯を一定時間浸漬させてFe基アモルファス合金薄帯に懸濁液を付着させ、次いで、Fe基アモルファス合金薄帯に付着している懸濁液を乾燥させることにより、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面及びロール接触面に、絶縁層を形成できる。
絶縁層の厚さは、懸濁液中の金属酸化物粉の含有量、浸漬時間等を制御することにより、決定できる。
ここで、取り出し後であって乾燥前に、ロール接触面に付着した懸濁液を除去した場合には、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面のみに絶縁層を形成できる。
【0066】
<巻回体Aを得る工程>
巻回体Aを得る工程では、絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯を巻回することにより、Fe基アモルファス合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体Aを得る。
絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯の巻回は、公知の方法に従って行うことができる。
この際、巻回体Aを、直径0.5mm程度のCu線等で仮固定して形状を維持してもよい。
【0067】
<巻回体Cを得る工程>
巻回体Cを得る工程では、巻回体Aを熱処理することにより、巻回体C(即ち、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C)を得る。
巻回体Cを得る工程では、巻回体A中のFe基アモルファス合金薄帯が熱処理されてFe基ナノ結晶合金薄帯となる。この点は、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法における「Fe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程」と同様である。
巻回体Cを得る工程における熱処理の好ましい条件は、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法における「Fe基ナノ結晶合金薄帯を得る工程」における熱処理の好ましい条件と同様である。
【0068】
前述のとおり、熱処理は、磁場中で行われてもよい。
磁場の方向としては、磁心の周方向と磁心の高さ(合金薄帯の幅)方向との2方向が好ましい。
印加磁場の強さ及び/又は磁場印加する温度領域は、磁心の用途に応じて適宜適正化できる。
更に、上記2つの磁場方向を順に変えてもよい。
【0069】
〔Fe基ナノ結晶合金薄帯、磁心〕
本開示の一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯は、
自由凝固面及びロール接触面を有し、
前記自由凝固面における、中央部に窪みを有する突起Pの個数が、面積100mm2当たり1.2個以下であり、
幅が5mm以上65mm以下であり、
厚さが10μm以上15μm以下である。
このように、本開示の一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯では、自由凝固面における突起の発生が抑制されている。
【0070】
本開示の一例に係る磁心は、本開示の一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C1を含む。
本開示の一例に係る磁心は、絶縁層を介して隣接しているFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れる。
【0071】
前述のとおり、厚さ15μm以下のFe基ナノ結晶合金薄帯では、自由凝固面に突起が生じやすいが、突起の中でも、特に、中央部に窪みを有する突起Pが生じやすい。
本発明者等の検討により、厚さ15μm以下のFe基ナノ結晶合金薄帯の自由凝固面における突起Pを、面積100mm2当たり1.2個以下に制限することにより、上記Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C1を含む磁心において、Fe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性が顕著に向上することが明らかとなった。
本一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯及び磁心は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0072】
本開示において、「Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体」(巻回体C1、巻回体C)は、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている状態となっている巻回体を意味する。
従って、「Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体」は、絶縁層が形成されたFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回して得られた巻回体には限定されない。
例えば、前述した本開示の磁心の製造方法のように、絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯を巻回して得られた巻回体を所定の条件で熱処理することにより、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている状態となっている巻回体が得られる。このような巻回体も、「Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体」の概念に包含される。
【0073】
本一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯及び磁心を製造する方法には特に制限はない。
例えば、前述した本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法によれば、本一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯を好適に製造することができる。
特に、前述した本開示の磁心の製造方法によれば、本一例に係る磁心を好適に製造することができる。この場合、本開示の磁心の製造方法における巻回体Cとして、本一例に係る磁心における巻回体C1が得られる。
【0074】
本一例において、中央部に窪みを有する突起P(以下、単に「突起P」ともいう)とは、自由凝固面に対して垂直な方向から観察した場合に、中央部に窪みを有する突起を意味する。
【0075】
本一例において、面積100mm2当たりの突起Pの個数を求めるための観察は、実体顕微鏡を用い、倍率40倍にて行う。
【0076】
自由凝固面の面積100mm2当たりの突起Pの個数は、前述のとおり1.2個以下である。上記突起Pの個数は、0個であってもよい。
上記突起Pの個数は、磁心におけるFe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性を更に向上させる観点から、1.0個以下であることが好ましい。
【0077】
本一例に係るFe基ナノ結晶合金薄帯の好ましい態様(例えば、合金組成、幅、厚さ、反り等の好ましい態様)は、本開示のFe基ナノ結晶合金薄帯の製造方法で得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の好ましい態様と同様である。
本一例に係る磁心の好ましい態様は、本開示の磁心の製造方法で得られる磁心の好ましい態様と同様である。
【0078】
<絶縁率RI>
本一例に係る磁心は、前述のとおり、Fe基ナノ結晶合金薄帯間の絶縁性に優れる。これにより、渦電流損失が低減される。
渦電流損失をより低減する観点から、本一例に係る磁心は、下記式(1)で表される絶縁率RIが80%以上であることが好ましい。
【0079】
RI=Rr/(Ru・Lr)×100(%) … 式(1)
式(1)中、
Rrは、Fe基ナノ結晶合金薄帯における、最内周の一端と最外周の他端との2端間の直流電気抵抗値(Ω)であり、
Ruは、Fe基ナノ結晶合金薄帯の長手方向の1m長さ当たりの直流電気抵抗値(Ω)であり、
Lrは、Fe基ナノ結晶合金薄帯の長さ(m)である。
【0080】
以下、式(1)で表される絶縁率RIについて説明する。
本一例に係る磁心において、Fe基ナノ結晶合金薄帯間が完全に絶縁されている場合は、式(1)中のRuとLrとの積(即ち、「Ru・Lr」)が、式(1)中のRrと同じ値になる。この場合、絶縁率RIは100%である。
他方、Fe基ナノ結晶合金薄帯間において、絶縁が破壊されている箇所(即ち、短絡されている箇所)が存在する場合には、Rrが「Ru・Lr」よりも小さくなる。この場合、絶縁率RIは100%未満である。
【0081】
式(1)中のRuは、本一例に係る磁心の直径に基づき、この磁心の最外周端部から1mの位置を見積もり、最外周端部と、最外周端部から1mの位置と、の間での直流電気抵抗値(Ω)を測定することによって求める。
【0082】
渦電流損失をより低減する観点から、本一例に係る磁心における絶縁率RIは、好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
また、本一例に係る磁心における絶縁率RIは、100%であってもよいが、磁心の製造適性(製造し易さ)の観点から、好ましくは100%未満である。
【実施例】
【0083】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0084】
(実施例1)
-Fe基アモルファス合金薄帯の製造(鋳造)-
Febal.Cu0.98Si14.99B6.68Nb2.89C0.05(原子%)で表される合金組成を有するFe基合金溶湯(9.1kg)を、回転する冷却ロール上に供給し、供給されたFe基合金溶湯を急冷凝固させることにより、自由凝固面及びロール接触面を有し、幅が25mmであり、厚さが13.4μmであるFe基アモルファス合金薄帯を得た。
ここで、「bal.」(balance)は、組成式(A)中の「100-a-b-c-d-e」に対応する値である。
得られたFe基合金薄帯が、Fe基アモルファス合金薄帯であること、即ち、合金組織がアモルファス相からなることは、薄帯の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して確認した。
【0085】
本実施例の全工程を通じ、Fe基合金の合金組成は変化しない。従って、Fe基合金溶湯、Fe基アモルファス合金薄帯、及び後述のFe基ナノ結晶合金薄帯の合金組成は同一である。
また、本実施例の全工程において、薄帯のサイズ(厚さ、幅、及び長さ)は変化しない。従って、後述するFe基ナノ結晶合金薄帯のサイズ(厚さ、幅、及び長さ)は、Fe基アモルファス合金薄帯のサイズ(厚さ、幅、及び長さ)と同一である。
【0086】
以下において、単に「薄帯」との語は、Fe基ナノ結晶合金薄帯又はFe基アモルファス合金薄帯という意味である。
【0087】
冷却ロールの回転速度は、外周の周速として28m/秒とした。
冷却ロールとしては、以下のものを用いた。
この冷却ロールは、内部に、外周部を冷却する構造として、冷却水を循環させる水路を備えている。
【0088】
-冷却ロール-
・直径:800mm
・幅:150mm
・外周部の厚さ:20mm
・外周部の素材:Cu-Be合金(Be:1.9質量%、残部:Cu及び不純物)
・外周部の熱伝導率:124W/(m・K)
【0089】
-外周部のビッカース硬さ-
外周部のビッカース硬さを、ビッカース硬さ試験機を用いて試験荷重20kgfで測定した。
結果を表1に示す。
【0090】
-自由凝固面における面積100mm2当たりの突起Pの個数の測定-
得られたFe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面における突起Pの個数を評価するため、自由凝固面を、実体顕微鏡にて、倍率40倍で30視野(面積1154mm2)観察した。
観察した結果に基づき、面積100mm2当たりの突起Pの個数を求めた。
結果を表1に示す。
Fe基アモルファス合金薄帯(即ち、熱処理前の薄帯)の自由凝固面における突起Pの個数は、この後の工程において変化しない。
即ち、後述するFe基ナノ結晶合金薄帯(即ち、熱処理後の薄帯)の自由凝固面における突起Pの個数は、Fe基アモルファス合金薄帯(即ち、熱処理前の薄帯)の自由凝固面における突起Pの個数と同一である。
【0091】
-幅方向における反り-
Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向における反りを、以下のようにして測定した。
Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造始め側の端部及び鋳造終わり側の端部から、それぞれ、長さ100mmのサンプルを1枚ずつ採取した。
定盤上に、各サンプルを、反りの凸側が上面側となるように配置し、この状態で、サンプルの上面の最上部の高さを測定した。最上部の高さの測定は、株式会社キーエンス製LB-300を用いて行った。
2枚のサンプルにおける最上部の高さの最大値は、0.10mmであった。
サンプルの幅が25mmであることから、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向における反りは、幅10mm当たり0.04mmと求められた(表1参照)。
【0092】
-絶縁層の形成-
以下のようにして、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面上に、厚さ2.1μmの絶縁層を形成した。
イソプロピルアルコール(IPA)中に、平均粒径0.5μmのシリカ粉末を懸濁させた懸濁液を準備した。
この懸濁液中に、上記で得られたFe基アモルファス合金薄帯を通し、その後、Fe基アモルファス合金薄帯のロール接触面に付着した懸濁液を除去した。
Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面に付着した懸濁液を乾燥させることにより、厚さ2.1μmの絶縁層を得た。
【0093】
-巻回体Aの作製-
絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯(長さ264m)を巻回することにより、内径60.5mm、外径100.0mmの巻回体A(即ち、Fe基アモルファス合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体A)を得た。
【0094】
-巻回体C(磁心)の作製-
上記巻回体Aを、最高保持温度580℃、保持時間2時間の条件で熱処理することにより、磁心として、巻回体C(即ち、Fe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回されている巻回体C)を得た。
巻回体C中のFe基合金薄帯が、Fe基ナノ結晶合金薄帯であること、即ち、合金組織中にナノ結晶粒が生成されていることは、巻回体C中の薄帯の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して確認した。
【0095】
-絶縁率RIの測定-
上記で得られた磁心の絶縁率RI(即ち、式(1)で表される絶縁率RI)を、前述した方法によって測定した。
結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2~4及び比較例1)
Fe基アモルファス合金薄帯の製造条件(Fe基合金溶湯の合金組成を含む)を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
但し、実施例3及び4については、更に、巻回体Aに対する熱処理の最高保持温度を550℃に変更した。
結果を表1に示す。
【0097】
実施例2では、以下の冷却ロールを用いた。
実施例2の冷却ロールも、内部に、外周部を冷却する構造として、冷却水を循環させる水路を備えている。
【0098】
-実施例2の冷却ロール-
・直径:800mm
・幅:150mm
・外周部の厚さ:20mm
・外周部の素材:Cu-Be合金(Be:2.0質量%、残部:Cu及び不純物)
・外周部の熱伝導率:120W/(m・K)
【0099】
実施例3では、以下の冷却ロールを用いた。
実施例3の冷却ロールも、内部に、外周部を冷却する構造として、冷却水を循環させる水路を備えている。
【0100】
-実施例3の冷却ロール-
・直径:450mm
・幅:300mm
・外周部の厚さ:17mm
・外周部の素材:Cu-Ni合金(Cu:90質量%以上、残部:不純物(Ni、Si及びCrを含む))
・外周部の熱伝導率:168W/(m・K)
【0101】
実施例4では、以下の冷却ロールを用いた。
実施例4の冷却ロールも、内部に、外周部を冷却する構造として、冷却水を循環させる水路を備えている。
【0102】
-実施例4の冷却ロール-
・直径:650mm
・幅:300mm
・外周部の厚さ:17mm
・外周部の素材:Cu-Ni-Be合金(Cu:90質量%以上、Ni:7質量%、Be:0.3質量%、残部:不純物(Ag、Cr及びZrを含む))
・外周部の熱伝導率:212W/(m・K)
【0103】
比較例1では、以下の冷却ロールを用いた。
比較例1の冷却ロールも、内部に、外周部を冷却する構造として、冷却水を循環させる水路を備えている。
【0104】
-比較例1の冷却ロール-
・直径:800mm
・幅:150mm
・外周部の厚さ:20mm
・外周部の素材:Cu-Be合金(Be:0.3質量%、残部:Cu及び不純物)
・外周部の熱伝導率:240W/(m・K)
【0105】
【0106】
表1に示すように、冷却ロールの外周部の熱伝導率が70W/(m・K)以上225W/(m・K)以下である実施例1~4では、薄帯の自由凝固面の面積100mm2当たりの突起Pの個数が低減され、かつ、磁心の絶縁率RIに優れていた。
これに対し、冷却ロールの外周部の熱伝導率が225W/(m・K)超である比較例1では、薄帯の自由凝固面100mm2当たりの突起Pの個数が大幅に増加し、かつ、磁心の絶縁率RIが大幅に劣化していた。
【0107】
図1は、比較例1のFe基アモルファス合金薄帯における2個の突起P(即ち、中央部に窪みを有する突起P)を、自由凝固面に対して垂直な方向から観察した場合のレーザー顕微鏡像(倍率50倍)であり、
図2は、
図1の3D(Three Dimension)表示図である。ここで、レーザー顕微鏡としては、キーエンス社製のレーザー顕微鏡「VK-8716」を用い、三次元イメージを得るための解析は、同社製の解析ソフト「VK Analayzer ver.2.4.0.0」を用いた。
比較例1では、このような突起Pが多数発生していたが、実施例1~4では、このような突起Pが低減されていた。
【0108】
2018年9月26日に出願された日本国特許出願2018-180031号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。