(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240213BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240213BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020551277
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2019056084
(87)【国際公開番号】W WO2019179815
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ヒメネス,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】プルンチャック,ロバート
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098196(JP,A)
【文献】特開2018-014326(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105048(WO,A1)
【文献】特開2012-069275(JP,A)
【文献】特開2005-251716(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03282506(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/042047(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03121874(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質を製造する方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMは、Ni、Coと、場合によりMnと、場合によりAl、TiおよびZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせであり、xは0~0.2の範囲である)で表される電極活物質を提供する工程、
(b)前記電極活物質を、該電極活物質粒子の表面と反応させた場合に交換または置換される少なくとも1種の基またはイオンを有する、少なくとも1種のWまたはMoの化合物で処理する工程、
(c)工程(b)で得られた前記物質を、WまたはMoの化合物の分解剤で処理する工程、
(d)一連の工程(b)および(c)を1回~100回繰り返す工程
を含み、
得られるコーティングの平均厚さが、0.1~50nmの範囲であり、
工程(b)、(c)および(d)が気相で行われ、
工程(b)による処理のための化合物が、WまたはMoの、カルボニル、C
1-C
5アルキル、アミド、アルコキシド、ハロゲン化物、またはこれらの少なくとも2種の組み合わせから選択され、
工程(c)の分解剤が、酸素、過酸化物、オゾン、水素、水、およびC
1-C
4アルキルアルコールから選択される、
方法。
【請求項2】
工程(b)による処理のための化合物が、W(CO)
6およびMo(CO)
6から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が熱の後処理工程(e)を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)~(d)が、ロータリーキルン、自由落下ミキサー、連続振動床、または流動床で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)と工程(c)との間においてパージ工程が行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TMが、一般式(I):
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d(I)
(式中、aが0.6~0.9の範囲であり、bが0.05~0.2の範囲であり、cが0~0.2の範囲であり、dが0~0.1の範囲であり、MがTi、Zr、およびAlから選択され、そして、a+b+c=1)
で表される遷移金属の組み合わせである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
TMが、Ni
0.85Co
0.1A
l0.05、Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2、Ni
0.7Co
0.2Mn
0.1、Ni
0.8Co
0.1Mn
0.1、Ni
0.85Co
0.1Mn
0.05、および(Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2)
1-dAl
d
(式中、dは0~0.1の範囲である)から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が更なるコーティング工程(f)を含み、Al、Zn、Ti、Si、P、Zr、Hf、Ni、Li、またはCoの少なくとも1種の酸化物およびこれらの少なくとも2種の組み合わせが請求項1~7のいずれか一項に記載の方法から得られた物質上にコーティングされる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質を製造する方法を対象としており、その方法は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Ni、Coと、場合によりMnと、場合によりAl、TiおよびZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせであり、xは、0~0.2の範囲である)で表される電極活物質を提供する工程、
(b)前記電極活物質を、該電極活物質粒子の表面と反応させた場合に交換または置換される少なくとも1種の基またはイオンを有する、WまたはMoの少なくとも1種の化合物で処理する工程、
(c)工程(b)で得られた物質を化学剤で処理して、前記のWまたはMoの化合物を分解する工程、
(d)一連の工程(b)および(c)を1回~100回繰り返す工程
を含み、
得られるコーティングの平均厚さが、0.1~50nmの範囲である。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための現代のデバイスである。携帯電話およびラップトップコンピューターなどの小さなデバイスから、自動車用バッテリーおよびe-モビリティ用のその他のバッテリーまで、多くの応用分野で検討されている。電解質、電極物質、およびセパレータなどのバッテリーの種々の部品は、バッテリーの性能に関して決定的な役割を有する。正極材料には、特に、注意が払われている。リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどの種々の物質が提案されている。広範囲にわたる調査が行われてきているが、これまでに見つかった解決策には依然として改善の余地がある。
【0003】
リチウムイオン電池の1つの問題は、正極活物質の表面における望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質または溶媒またはその両方を分解することがある。したがって、充電中および放電中においてリチウム交換を妨げないで、その表面を保護することが試みられている。例としては、正極活物質を例えば酸化アルミニウムまたは酸化カルシウムでコーティングする試みである。例えば、米国特許第8,993,051号明細書(特許文献1)および米国特許第9,196,901号明細書(特許文献2)を参照されたい。しかしながら、そのコーティングは電気化学的性能を妨げることとなり、電力密度が落ちてしまい、その結果、バッテリー出力が低下する。
【0004】
タングステン酸リチウムコーティングも提案されている(米国特許第9,406,928号明細書(特許文献3)および特許第5,359,140号公報(特許文献4)参照)。しかしながら、バッテリーの電気化学的性能が低下することが観察されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8,993,051号明細書
【文献】米国特許第9,196,901号明細書
【文献】米国特許第9,406,928号明細書
【文献】特許第5,359,140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、電極活物質をコーティングして、一般的な電気化学的性能を失うことなく繰り返しサイクル中の抵抗の増加傾向を低減することのできる方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、冒頭で定義された方法が見出され、以下、本発明の方法または(本)発明による方法とも呼ばれる。
【0008】
本発明の方法は、少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質を製造するための方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明と関連させて使用される「少なくとも部分的にコーティングされた」という用語は、1バッチの粒子状物質における粒子の少なくとも80%がコーティングされることを意味し、そして、各粒子の表面の少なくとも75%(例えば、75~99.99%、好ましくは80~90%)がコーティングされていることを意味する。「少なくとも部分的にコーティングされた」という用語は、完全にコーティングされたことを含む。
【0010】
このようなコーティングの平均厚さは、非常に薄く(例えば、0.1~50nm)してもよい。或る実施形態では、平均厚さは、0.2~15nm、さらにより好ましくは0.3~10nmの範囲であってもよい。さらなる実施形態では、このようなコーティングの厚さは、16~50nmの範囲である。この文脈における厚さは、粒子表面のm2あたりのWまたはMoの化合物の量を計算し、100%への変換を仮定することによって、数学的に決定される平均厚さを指す。
【0011】
本発明の方法は、3つの工程(a)、(b)および(c)を含み、本発明の文脈では、工程(a)、工程(b)、および工程(c)とも呼ばれる。
【0012】
工程(a)は、一般式:
Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Ni、Co、および場合によりMn、および場合によりAl、TiおよびZrから選択される少なくとも1種の金属の組み合わせであり、xは、0~0.2の範囲である)
に従って、電極活物質を提供することを含む。
【0013】
TMは、NiとCoとの組み合わせであるか、またはNi、MnとCoとの組み合わせから選択してもよく、いずれの場合においてもAl、Ti、Zr、W、およびMoから選択される少なくとも1種以上の金属、好ましくは、Al、W、TiおよびZrの少なくとも1種を有する。NiとCoとの組み合わせ、およびNiとCoとMnとの組み合わせが好ましく、場合により、いずれの場合においてもAl、W、TiおよびZrから選択される少なくとも1種以上の金属を有する。
【0014】
好ましい実施形態では、TMは、一般式(I):
(NiaCobMnc)1-dMd(I)
(式中、aは、0.5~0.95、好ましくは0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.3、好ましくは0.1~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、TiまたはZr、好ましくはAlであり、そして
a+b+c=1)
による金属の組み合わせである。
【0015】
Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.85Co0.1Mn0.05]、Li(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2、およびLi(1+x)[(Ni0.6Co0.2Mn0.2)1-dAld](1-x)O2(各々においてxとdは、あてはまる場合には、上記で定義したとおりである)が、特に好ましい。
【0016】
前記電極活物質は、好ましくは、任意の添加剤(例えば、導電性カーボンまたはバインダーなどの)を有しない、流動性粉末として提供される。
【0017】
多くの要素は、あらゆるところに存在する。たとえば、ナトリウム、銅、塩化物は、実質的にすべての無機物質において特定の非常に小さな割合で検出できる。本発明の文脈において、0.01重量%未満のカチオンまたはアニオンの割合は無視される。したがって、0.01重量%未満のナトリウムを含む式(I)の化合物は、本発明の文脈においてナトリウムを含まないと考えられる。
【0018】
本発明の一実施形態では、工程(a)で提供される電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒子直径(D50)を有する。平均粒子径は、例えば光散乱またはレーザー回折または電気音響分光法によって、決定することができる。粒子は、通常、一次粒子の凝集体で構成されており、上記の粒子径は二次粒子径を指す。
【0019】
本発明の一実施形態では、工程(a)で提供される電極活物質は、0.1~1.5m2/gの範囲の比表面積(BET)(以下、「BET表面」とも称される)を有している。そのBET表面は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃、30分以上(または、30分超え)でサンプルのガス放出した後に、窒素吸着によって決定することができる。
【0020】
工程(a)で提供される前記正極活物質は、残留水分含有量を有してもよい。例えば、それは、50~1,000ppm、好ましくは100~400ppmの範囲の残留水分含量を有してもよい。残留水分含有量は、カールフィッシャー滴定によって決定することができる。
【0021】
工程(b)において、前記電極活物質は、前記電極活物質粒子の表面と反応する際に置換または置換される少なくとも1種の基またはイオンを担持する少なくとも1種のWの化合物またはMoの化合物で処理される。以下、このような化合物を、それぞれ、Wの化合物またはMoの化合物と略して呼ばれる。
【0022】
用語「表面と反応させた」は、表面上の反応基(例えば、ヒドロキシル基または反応性酸化物基)との化学反応、または物理吸着または化学吸着によって結合された水分との化学反応、または前記電極活物質粒子の表面上の不純物(例えば、LiOHまたはLi2CO3)との化学反応を意味する。
【0023】
本発明の一実施形態において、工程(b)による処理のための化合物は、WまたはMoのカルボニル、C1-C5アルキル、アミド、アルコキシド、およびハロゲン化物、ならびにこれらの少なくとも2種の組み合わせから選択される。
【0024】
Moの化合物の例としては、以下の通りである:
- Moのハロゲン化物(例えば、オキシハロゲン化物を含めた、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、例えば、MoF6、MoCl5、MoOCl4、MoCl3、
- MoC1-C5アルキル化合物(C1-C5アルキルは同じであるかまたは異なる(例えば、ジメチルモリブデン)、または、ハロゲン化物と組み合わせて結合されたもの(例えば、ビス(シクロペンタジエニル)モリブデン(IV)二塩化物およびシクロペンタジエニルモリブデン(V)四塩化物)
- Moアルコキシドまたはオキソ錯体(好ましくは、C1-C5アルコキシド(C1-C5アルキルは同じであるかまたは異なる))、例えば、モリブデン(V)エトキシドおよびMo(thd)3(式中、thd=2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオナト)、
- Moのアミド(特に、Moのアルキルアミド)、例えば、ビス(tert-ブチルイミド)-ビス(ジメチルアミド)-モリブデン、
- Moカルボニル化合物(特に、Mo(CO)6)、および、アルコキシドまたはC1-C5アルキル化合物との組み合わせで結合物(例えば、シクロペンタジエニルモリブデン(II)トリカルボニル二量体との結合物)、
および、特に、Mo(CO)6。
【0025】
Wの化合物の例としては
- Wのハロゲン化物(例えば、オキシハロゲン化物を含めた、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、例えば、WF6、WCl4、WOCl4、
- WC1-C5アルキル化合物(C1-C5アルキルは同じであるかまたは異なる(例えば、ヘキサメチルタングステン)、または、ハロゲン化物と組み合わせて結合物(例えば、ビス(シクロペンタジエニル)タングステン(IV)ジクロリドの結合物、またはビス(シクロペンタジエニル)タングステン(IV)ジヒドリドの結合物と同じハイドライド、
- Wアルコキシドまたはオキソ錯体(好ましくは、C1-C5アルコキシド(C1-C5アルキルは同じであるかまたは異なる)、例えば、一般式WO(OR)4(式中、Rは部分的にハロゲン化されていることがあるC1-C5アルキルを表す)を有するオキソアルコキシドタングステン(VI)錯体およびβ-ジケトナートジオキソタングステン(VI)錯体、
- Wのアミド(特に、Wのアルキルアミド)、例えば、ビス(tert-ブチルイミノ)ビス(ジメチルアミノ)タングステン(VI)、WN(N(CH3)2)3およびW2(N(CH3)2)6、
- Wカルボニル化合物(特に、W(CO)6)、および、C1-C5アルキル化合物またはアルコキシドとの組み合わせの結合物(例えば、ビス(アセチルアセトナト)トリカルボニルタングステン(II)の結合物)、
および、特に、W(CO)6。
【0026】
本発明の一実施形態では、Moの化合物またはWの化合物のそれぞれの量は、0.1~1g/kg電極活物質の範囲である。
【0027】
好ましくは、Wの化合物またはMoの化合物の量は、それぞれ、1サイクルあたりの前記電極活物質上の単分子層の20~200%になるように計算される。
【0028】
本発明の方法の一実施形態では、工程(b)は、15~600℃、好ましくは15~500℃、より好ましくは20~400℃、さらにより好ましくは50~300℃の範囲の温度で行われる。工程(b)において、場合によっては、WまたはMoの化合物が、気相にあり、さらに電極活物質との相互作用の前に分解しにくい温度を選択することが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態では、工程(b)は常圧で実施されるが、工程(b)は減圧または高圧で実施されてもよい。例えば、工程(b)は、常圧より1ミリバール~1バール高い範囲の圧力で、好ましくは常圧より10~150ミリバール高い圧力で実施することができる。本発明の文脈では、通常の圧力は1気圧または1013ミリバールである。他の実施形態では、工程(b)は、常圧よりも150ミリバール~560ミリバール高い範囲の圧力で実行されてもよい。他の実施形態において、工程(b)は、常圧よりも999~1ミリバール低い圧力で行われる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、工程(b)の継続時間は、1秒~2時間、好ましくは15秒~30分の範囲である。
【0031】
本発明の一実施形態では、Moの化合物またはWの化合物は、キャリアガスの流れで、好ましくは窒素またはアルゴンの流れで反応器に導入される。
【0032】
第3の工程において、工程(c)とも呼ばれる本発明の文脈において、工程(b)で得られた物質は、WまたはMoの化合物を分解するための化学剤で処理され、前記化学剤は 、「分解剤」とも呼ばれる。
【0033】
適切な分解剤は、それぞれのWまたはMo化合物の性質およびその酸化状態に依存する。
【0034】
本発明の1つの実施形態において、工程(c)における分解剤は、酸素、過酸化物およびオゾンから選択される。そのような分解剤は、場合によってはWまたはMo化合物それぞれにおけるWまたはMoが+VI未満の酸化状態である実施形態において、選択されることが好ましい。過酸化物の例としては、過酸化水素および有機過酸化物(例えば、過酸化tert-ブチル)である。
【0035】
本発明の1つの実施形態において、工程(c)における分解剤は、水素、水およびC1-C4アルキルアルコール(例えば、メタノールまたはエタノールまたはイソプロパノール)から選択される。このような分解剤は、場合によってはWまたはMoの化合物それぞれにおけるWまたはMoが+VIの酸化状態にある実施形態において、選択されることが好ましい。
【0036】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、CO配位子が酸素、過酸化物またはオゾンで除去される場合には、前記COの少なくとも特定の割合がCO2に酸化されると考えられる。
【0037】
本発明の一実施形態において、工程(c)は、50~300℃の範囲の温度で行われる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、工程(c)の持続時間は、1秒~2時間、好ましくは15秒~最大30分の範囲である。
【0039】
本発明の一実施形態では、工程(c)は常圧で実施されるが、工程(c)は同様に減圧または高圧で実施されてもよい。例えば、工程(c)は、常圧より1ミリバール~1バール高い範囲の圧力で、好ましくは常圧より10~250ミリバール高い圧力で行うことができる。本発明の文脈では、通常の圧力は1気圧または1013ミリバールである。他の実施形態において、工程(c)は、常圧よりも高い150ミリバール~560ミリバールの範囲の圧力で実施されてもよい。 他の実施形態において、工程(c)は、常圧よりも999~1ミリバール低い圧力で行われる。
【0040】
工程(b)および(c)は、同じ圧力または異なる圧力で実施されてもよく、好ましくは同じ圧力である。
【0041】
本発明の一実施形態では、本発明の方法が実施される反応器は、工程(b)と(c)との間で、不活性ガス(例えば、乾燥窒素または乾燥アルゴン)でフラッシュまたはパージされる。適切なフラッシング(またはパージ)時間は、1秒~60分である。不活性ガスの量は反応器の内容物を1回~15回交換するのに十分であることが好ましい。このようなフラッシングまたはパージにより、副産物(例えば、金属ハロゲン化物または金属カルボニルまたは金属アルコキシドまたは金属アミドまたはアルキル金属化合物と水との反応生成物とは異なる粒子)の生成を回避することができる。トリメチルアルミニウムと水との組み合わせの場合には、そのような副産物は、メタンおよびアルミナまたは粒子状物質に堆積しない過剰の反応物トリメチルアルミニウムである。前記フラッシングは、工程(c)の後、したがって別の工程(b)の前にも行われる。
【0042】
本発明の一実施形態では、(b)と(c)との間の各パージ工程は、1秒~10分間の範囲の持続時間を有する。
【0043】
本発明の一実施形態では、反応器は、工程(b)と(c)との間で真空にされる。前記真空は、工程(c)の後、したがって別の工程(b)の前に行うこともできる。この文脈における真空は、例えば1~500ミリバール(絶対)、好ましくは1~100ミリバール(絶対)の任意の圧力低下を含む。
【0044】
工程(b)および(c)は、順次または同時に行ってもよい。好ましくは、それらは順番に行われる。
【0045】
本発明の一実施形態では、工程(b)、(c)、および(d)は、気相において行われる。これは、WまたはMoの化合物が、場合によっては、気相ならびに工程(c)におけるWまたはMoの化合物を分解する化学剤にあることを意味する。(d)に従った繰り返しでは、同様の原則が適用される。前記電極活物質は、本発明の方法において固体のままである。
【0046】
本発明の一実施形態では、工程(b)~(d)は、ロータリーキルン、自由落下ミキサー、連続振動床、または流動床で行われる。
【0047】
工程(b)および(c)のそれぞれは、固定床反応器、流動床反応器、強制流動反応器またはミキサー(例えば、強制ミキサーまたは自由落下ミキサー)で行ってもよい。流動床反応器の例は、噴流床反応器である。強制ミキサーの例は、プラウシェアミキサー、パドルミキサー、シャベルミキサーである。プラウシェアミキサーが好ましい。好ましいプローシェアミキサーは水平に設置され、水平という用語は、混合要素がその周りを回転する軸を指す。好ましくは、本発明の方法は、シャベル混合ツール、パドル混合ツール、ベッカーブレード混合ツール、そして最も好ましくは、投げ出しおよび回転原理に従ってプローシェアミキサーで行われる。自由落下ミキサーは、重力を利用して混合を実現している。好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(b)および(c)は、その水平軸の周りを回転するドラムまたはパイプ形状の容器内で行われる。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(b)および(c)は、バッフルを有する回転容器内で行われる。
【0048】
本発明の一実施形態では、回転容器は、2~100の範囲のバッフル、好ましくは2~20のバッフルを有する。このようなバッフルは、好ましくは、容器壁に対して同一平面に取り付けられる。
【0049】
本発明の一実施形態では、そのようなバッフルは、回転する容器、ドラム、またはパイプに沿って軸対称に配置される。前記回転容器の壁との角度は、5~45°、好ましくは10~20°の範囲である。このような配置により、それらは、回転容器を通して、コーティングされた正極活物質を非常に効率的に輸送することができる。
【0050】
本発明の一実施形態では、前記バッフルの直径は、回転容器内に10~30%の範囲で達する。
【0051】
本発明の一実施形態では、前記バッフルは、回転容器の全長の10~100%、好ましくは30~80%の範囲をカバーする。この文脈では、長さという用語は、回転軸に平行である。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法は、空気圧搬送(例えば、20~100m/s)により、それぞれ1つの容器または複数の容器からコーティングされた物質を取り除く工程を含む。
【0053】
工程(d)は、一連の工程(b)および(c)を1回~100回、好ましくは2回~50回繰り返すことを含む。
【0054】
(d)による繰り返しは、一連の工程(b)および(c)を毎回正確に同じ条件下または変更された条件下で繰り返されるが、依然として上記の定義の範囲内であり得る。たとえば、各工程(b)はまったく同じ条件下で実行できるか、または、例えば、各工程(b)は、異なる温度条件下で、もしくは、異なる持続時間で、例えば、220℃、次いで200℃および180℃で、それぞれ1秒~1時間で行うことができる。
【0055】
本発明の方法を実施することにより、バッテリー操作中において、改善された電気化学的性能および安定性を示す少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質が得られる。
【0056】
本発明の方法は、オプションである追加の工程によって変更されてもよい。
【0057】
任意の工程(e)において、後処理は、最後の工程(d)の後に得られた物質を150~600℃、好ましくは200~500℃であり、さらにより好ましくは 250~400℃の温度で加熱することにより行われる。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、工程(e)は、不活性ガス(例えば、窒素または希ガス(例えば、アルゴン))の雰囲気中で実施される。好ましくは、そのような不活性ガスは、0.2~10ppm、好ましくは0.2~5ppmの範囲の含水量、および0.1~10ppmの範囲の二酸化炭素含有イオンを有する。CO2含有量は、例えば、赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。
【0059】
本発明の一実施形態では、工程(e)は、10秒~2時間の範囲の持続時間を有し、好ましくは10分~2時間である。
【0060】
好ましい実施形態では、工程(e)は常圧で行われる。
【0061】
工程(e)は、ロータリーキルンで行われてもよい。特別な実施形態において、工程(e)は、工程(c)と同じ容器内で行ってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、追加のコーティング工程(f)を含み、この工程において、Al、Zn、Ti、Si、P、Zr、Hf、Ni、Li、またはCoの少なくとも1種の酸化物、およびこれらの少なくとも2種は、上記の本発明の方法から得られた物質上にコーティングされる。前記追加のコーティングは、少なくとも部分的にコーティングされた電極活物質を、Al、Zn、Ti、Si、P、Zr、Hf、Ni、Li、またはCoの化合物(例えば、アルコキシド、アミド、ハライドまたはアルキル化合物またはカルボニル化合物)に曝露して、続いて水分またはオゾンによる分解する一連の工程を追加することによって付与することができる。
【0063】
そのような化合物の適切な例は、ハロゲン化物、硝酸塩、アルキル化合物、C1-C4アルコキシド、およびアミドである。
【0064】
ハロゲン化物および硝酸塩の好ましい例は、Al(NO3)3、AlONO3、TiCl4、TiOCl2、TiO(NO3)2、ZrCl4、ZrOCl2、ZrO(NO3)2、HfCl4、HfOCl2、HfO(NO3)2、SiCl4、(CH3)3SiCl、CH3SiCl3、SnCl4、ZnCl2、Zn(NO3)2、MgCl2、Mg(NO3)2、NiCl2、Ni(NO3)2、CoCl2、およびCo(NO3)2である。
【0065】
C1-C4アルコキシドの好ましい例は、Zn(OCH3)2、Zn(OC2H5)2、Mg(OCH3)2、Mg(OC2H5)2、Ti[OCH(CH3)2]4、Ti(OC4H9)4、Zr(OC4H9)4、Zr(OC2H5)4、Si(OC2H5)4、Si(OCH3)4、Si(O-n-C3H7)4、Si(O-iso-C3H7)4、Si(O-n-C4H9)4、Al(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Al(O-n-C3H7)3、Al(O-iso-C3H7)3、
Al(O-sec-C4H9)3、およびAl(OC2H5)(O-sec-C4H9)2である。
【0066】
アルキル化合物の例は、n-C4H9-Mg(n-オクチル)、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、Zn(CH3)2、Zn(C2H5)2、およびアルミニウムアルキル化合物である。
【0067】
アルミニウムアルキル化合物の例は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、およびメチルアルモキサンである。メチルアルモキサンの例は、一般化学量論のAl(CH3)2OHおよびAl(CH3)(OH)2の化合物を含む、部分的に加水分解されたトリメチルアルミニウムタイプである。
【0068】
アミドは、イミドとも呼ばれる。金属の例は、Zr[N(C2H5)2]4、Zr[N(CH3)2]4、Zr[(CH3)N(C2H5)]4、Hf[N(CH3)2]4、SiH[N(CH3)2]3、およびTi[N(CH3)2]4である。
【0069】
特に好ましい化合物は、金属C1-C4アルコキシドおよび金属アルキル化合物から選択され、さらにより好ましいのは、トリメチルアルミニウムである。
【0070】
特に好ましいのは、湿気への暴露に続いてトリメチルアルミニウムへの暴露が一連に行われるものである。
【0071】
別のオプション工程は、工程(b)を最初に行う前の熱前処理(g)である。このような熱的な前処理は、工程(a)で提供された粒子状電極活物質を、100~300℃に、例えば15分~5時間、好ましくは不活性ガス下で、加熱することを含んでもよい。
【0072】
このような任意の工程により、電極活物質の電気化学的性能をさらに改善することができる。
【0073】
本発明のさらなる態様は、粒子状電極活物質を対象とするものであり、以下では、本発明の粒子状電極活物質とも呼ばれる。本発明の粒子状電極活物質は、一般式Li1+xTM1-xO2に相当しており、TMは、Ni、Co、および場合によりMn、および場合によりAl、TiおよびZrから選択される少なくとも1種の金属の組み合わせであり、xは0~0.2の範囲にあり、前記粒子の外表面は、酸化タングステンおよび酸化モリブデンから選択される酸化物で少なくとも部分的に被覆されており、得られるコーティングの平均厚さは、0.1~50nmの範囲であり、そして、場合により、Al、Zn、Ti、Si、P、Zr、Hf、Mo、Ni、Li、またはCoの少なくとも1種、およびこれらの少なくとも2種の組み合わせの酸化物またはオキシ水酸化物コーティングを有する。
【0074】
TMは、上記で定義されている。
【0075】
酸化タングステンの例は、WO3である。酸化モリブデンの例は、MoO2およびMoO3である。
【0076】
好ましくは、本発明の粒状物質中のTMは、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.8Co0.1Mn0.1、Ni0.85Co0.1Mn0.05、(Ni0.6Co0.2Mn0.2)1-dAldから選択される。
【0077】
本発明の一実施形態では、本発明の電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒子直径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱またはレーザー回折または電気音響分光法によって、決定することができる。粒子は、通常、一次粒子の凝集体で構成され、上記の粒子径は二次粒子径と呼ばれる。
【0078】
本発明の一実施形態では、本発明の電極活物質は、0.1~1.5m2/gの範囲の比表面積(「BET表面」)を有する。BET表面は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃、30分以上でサンプルのガス放出した後に、窒素吸着によって決定することができる。
【0079】
本発明の一実施形態では、コーティングは、0.2~2nm、好ましくは0.3~1.0nmの範囲の平均厚さを有する。
【0080】
本発明の電極活物質は、リチウムイオン電池の正極に非常によく適している。それらは、繰り返しのサイクル(例えば、500サイクル以上)を原因とする抵抗の蓄積が低いことを示す。
【0081】
本発明のさらなる観点は、本発明による電極物質活性を少なくとも1つ含む電極に関する。それらは、リチウムイオン電池のために特に有用である。本発明による少なくとも1つの電極を含むリチウムイオン電池は、良好な放電挙動を示す。本発明による少なくとも1つの電極活物質を含む電極は、以下、本発明の正極または本発明による正極とも呼ばれる。
【0082】
本発明による正極は、さらなる部品を含むことができる。それは、集電体(例えば、限定されるわけではないが、アルミニウム箔)を含むことができる。それは、さらに導電性カーボンおよびバインダーを含むことができる。
【0083】
適切なバインダーは、好ましくは有機(コ)ポリマーから選択される。適切な(コ)ポリマー(すなわち、ホモポリマーまたはコポリマー)は、例えば、アニオン、触媒、またはフリーラジカル(共)重合によって得られる(コ)ポリマーから、特に、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、および、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適している。ポリイソプレンおよびポリアクリレートがさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0084】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンまたはスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。 ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0085】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンを意味するだけでなく、少なくとも50mol%の共重合エチレンを含むエチレンと最大50mol%までの少なくとも1つのさらなるコモノマー(例えば、αオレフィン(プロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1デセン、1-ドデセン、1-ペンテン);およびまたはイソブテン、ビニル芳香族(スチレン);およびまたは(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸のC1-C10アルキルエステル(特に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート);およびまたは、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸)とのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンは、HDPEまたはLDPEである。
【0086】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンを意味するだけでなく、少なくとも50モル%の共重合プロピレンを含むプロピレンと最大50モル%までの少なくとも1つのさらなるコモノマー(例えば、エチレンおよびα-オレフィン(例えば、ブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン)とのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチックまたは本質的にアイソタクチックであるポリプロピレンである。
【0087】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーを意味するだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1-C10アルキルエステル、ジビニルベンゼン(特に、1,3-ジビニルベンゼン)、1,2-ジフェニルエチレン、およびα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0088】
別の好ましいバインダーは、ポリブタジエンである。
【0089】
他の適切なバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、およびポリビニルアルコールから選択される。
【0090】
本発明の一実施形態では、バインダーは、50,000~1,000,000g/mol、好ましくは500,000g/molの範囲の平均分子量Mwを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0091】
バインダーは、架橋または非架橋(コ)ポリマーであってよい。
【0092】
本発明の特に好ましい実施形態では、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化またはフッ素化(コ)ポリマーは、1分子あたりに少なくとも1つのハロゲン原子または少なくとも1つのフッ素原子(より好ましくは、1分子あたりに少なくとも2つのハロゲン原子または少なくとも2つのフッ素原子)を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含むこれらの(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、およびエチレン-クロロフルオロエチレン共重合体が挙げられる。
【0093】
適当なバインダーは、特にポリビニルアルコールおよびハロゲン化(コ)ポリマー(例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリ塩化ビニリデン(特にフッ素化(コ)ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニル)、および特にポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレン)である。
【0094】
本発明の正極は、1~15重量%のバインダーを含んでもよく、電極活物質と呼ばれる。他の実施形態では、本発明の正極は、0.1重量%~1重量%未満までのバインダーを含んでもよい。
【0095】
本発明のさらなる観点は、本発明の電極活物質、炭素、およびバインダーを含む少なくとも1つのカソード(正極)と、少なくとも1つのアノード(負極)と、および少なくとも1つの電解質とを含むバッテリーである。
【0096】
以上、本発明の正極の実施形態を詳細に説明した。
【0097】
前記負極は、少なくとも1つの負極活物質(例えば、炭素(グラファイト)、TiO2、リチウムチタン酸化物、シリコン、リチウム、またはスズ)を含んでもよい。前記負極は、集電体(例えば、銅箔などの金属箔)をさらに含んでもよい。
【0098】
前記電解質は、少なくとも1つの非水性溶媒、少なくとも1つの電解質塩、および場合により添加剤を含んでもよい。
【0099】
電解質用の非水性溶媒は、室温で液体または固体とすることができ、好ましくはポリマー、環状または非環状エーテル、環状および非環状アセタール、および環状または非環状有機カーボネートから選択される。
【0100】
適切なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1-C4アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ここで、ポリエチレングリコールは、最大20モル%までの1以上のC1-C4アルキレングリコールを含んでもよい。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2つのメチルまたはエチルの末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0101】
適切なポリアルキレングリコール、特に適切なポリエチレングリコールの分子量Mwは、少なくとも400g/モルとすることができる。
【0102】
適切なポリアルキレングリコール、特に適切なポリエチレングリコールの分子量Mwは、最大5000000g/モル、好ましくは最大2000000g/モルとすることができる。
【0103】
適切な非環式エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0104】
適切な環状エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび1,4-ジオキサンである。
【0105】
適切な非環式アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタンおよび1,1-ジエトキシエタンである。
【0106】
適切な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、特に1,3-ジオキソランである。
【0107】
適切な非環式有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートである。
【0108】
適切な環状有機カーボネートの例は、以下の一般式(II)および(III)の化合物である:
【化1】
(式中、R
1、R
2、およびR
3は、同じでも異なっていてもよく、水素およびC
1-C
4アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)から選択され、R
2およびR
3の両方が、好ましくは、tert-ブチルではない)。
【0109】
特に好ましい実施形態では、R1はメチルであり、さらにR2およびR3はそれぞれ水素であるか、または、R1、R2、およびR3はそれぞれ水素である。
【0110】
別の好ましい環状有機カーボネートは、ビニレンカーボネート、式(IV):
【化2】
である。
【0111】
1種または複数の溶媒は、好ましくは、水を含まない状態(すなわち、1ppm~0.1重量%の範囲の水の量;これは、例えばカールフィッシャー滴定によって、決定することができる)で使用される。
【0112】
電解質(C)は、少なくとも1つの電解質塩をさらに含む。適切な電解質塩は、特に、リチウム塩である。適切なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド(例えば、LiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である))、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、および一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩、(式中、mは次のように定義される:
t=1、Yが酸素および硫黄の中から選択される場合、
t=2、Yが窒素およびリンの中から選択される場合、および
t=3、Yが炭素およびシリコンの中から選択される場合)。
【0113】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4の中から選択され、LiPF6およびLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0114】
本発明の一実施形態では、本発明によるバッテリーは、1以上のセパレータを含み、このセパレータによって、電極が機械的に分離される。適切なセパレータは、ポリマーフィルム(特に、多孔性ポリマーフィルム)であり、このフィルムは金属リチウムに対して反応しない。セパレータに特に適した物質は、ポリオレフィン(特に、フィルム形成多孔性ポリエチレンおよびフィルム形成多孔性ポリプロピレン)である。
【0115】
ポリオレフィン(特に、ポリエチレンまたはポリプロピレン)で構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔度を有することができる。適切な細孔径は、例えば、30~500nmの範囲である。
【0116】
本発明の別の実施形態では、セパレータは、無機粒子が充填されたPET不織布の中から選択することができる。そのようなセパレータは、40~55%の範囲の多孔度を有することができる。適切な細孔径は、例えば、80~750nmの範囲である。
【0117】
本発明によるバッテリーは、任意の形状(例えば、立方体形状、または円筒形ディスク若しくはシリンダー状缶の形状)を有することができるハウジングをさらに含む。一変形形態では、ポーチとして構成された金属箔がハウジングとして使用される。
【0118】
本発明によるバッテリーは、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃に下がるかまたはそれよりも下がる)での良好な放電挙動、特に高温(45℃以上、例えば最高60℃)での特に容量損失に関する非常に良好な放電およびサイクル挙動、および高温(例えば60℃以上)での良好な安全挙動を示す。好ましくは、サイクル安定性およびCレート容量挙動も改善されるか、または、それらは、Li含有量は低いが、少なくとも同一である。
【0119】
本発明によるバッテリーは、2以上の電気化学セルを含むことができ、これらの電気化学セルは、相互に組み合わされている(例えば、直列に接続するか、または並列に接続することができる)。直列接続が、好ましい。本発明によるバッテリーでは、少なくとも1つの電気化学セルは、本発明による少なくとも1つの正極を含む。好ましくは、本発明による電気化学セルでは、電気化学セルの大部分は、本発明による正極を含む。さらにより好ましくは、本発明によるバッテリーでは、すべての電気化学セルが本発明による正極を含む。
【0120】
本発明は、さらに、機器(特に、移動機器)における本発明によるバッテリーの使用を提供する。移動機器の例は、車両(例えば、自動車、自転車、航空機、または水上車(例えば、ボートまたは船)である。移動機器の他の例は、手動で移動するもの(例えば、コンピュータ(特に、ラップトップ)、電話、または(例えば、建築部門における)電動ハンドツール(特に、ドリル、バッテリー駆動のドライバー、またはバッテリー駆動のステープラー)である。
【実施例】
【0121】
本発明は、実施例によってさらに説明される。
【0122】
一般論
sccm:標準立方センチメートル/分(標準:20℃/1atm)
ICP-OES:誘導結合プラズマ発光分析
【0123】
I.正極活物質
I.1 正極活物質の前駆体の調製
撹拌槽型反応器は、脱イオン水で満たされていた。混合された遷移金属水酸化物前駆体の沈殿は、水性遷移金属溶液とアルカリ沈殿剤とが1.9の流量比で、および8時間の滞留時間の結果となった総流量で、同時に供給することによって開始された。遷移金属水溶液は、Ni、Co、およびMnを含み、各々が硫酸塩として6:2:2のモル比で、1.65mol/kgの総遷移金属濃度であった。アルカリ性沈殿剤は、25重量%の水酸化ナトリウム溶液および25重量%のアンモニア溶液からなり、重量比は25であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12.0に維持した。粒子サイズが安定した後、得られた懸濁液を撹拌容器から連続的に取り出した。混合された遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体は、得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中において120℃で乾燥し、ふるいにかけることによって得られた。
【0124】
C-CAM.1(a.1):
I.1によって得られた混合された遷移金属オキシ水酸化物前駆体をAl2O3(平均粒子径6nm)およびLiOH一水和物と混合して、Ni+Co+Mn+AlおよびLi/(TM+Al)(これらのモル比は1.03である)に対して0.3モル%のAl濃度を得た。混合物を885℃に加熱し、酸素の強制流中に8時間保持して、電極活物質C-CAM1を得た。
【0125】
D50=10μmは、MalvernInstrumentsのMastersize3000機器でレーザー回折の手法を使用して決定された。
【0126】
II.W(CO)6およびオゾンによるコーティング
II.1 本発明による電極活物質CAM.2の製造
外部加熱ジャケットを備えた流動床反応器に100gのC-CAM.1を充填し、5mbarの平均圧力下でC-CAM.1をArで20sccmの一定流量に流動化した。流動床反応器を200℃に加熱し、200℃で4時間保持した(工程(a.1))。フィルターの詰まりを減らして粉末の流動化を助けるために、堆積には、空気圧ハンマーの衝撃と交互に行われるキャリアガスの規則的な逆パルスが包含されている。
【0127】
工程(b.1):上記4時間後、温度を220℃に上昇した。容器内で、W(CO)6を65~70℃に加熱した。
【0128】
気体状態のW(CO)6は、固体形状のW(CO)6が充填され、流動床反応器に導入するのに十分な蒸気圧を生成するために充填後に65~70℃に保持された前駆体貯蔵器へのバルブを開くことによって、焼結金属フィルタープレートを介して流動床反応器に導入された。W(CO)6は、キャリアガスとしてアルゴンで希釈された。5分間の反応期間の後、未反応のW(CO)6をAr流れから除去し、反応器をArで5分間パージした。
【0129】
工程(c.1):次に、酸素からオゾンを生成するためのオゾン発生器へのバルブを開くことにより、O2との8体積%の混合物としてのオゾンを流動床反応器に導入した。5分間の反応期間の後、アルゴン流を通して未反応のオゾンを除去し、反応器をさらに5分間アルゴンでパージした。
【0130】
工程(d.1):連続する上記の(b.1)および(c.1)を20回繰り返した。
【0131】
次に、反応器を25℃に冷却し、そのようにして得られた物質を排出した。CAM.2の結果は、次の特性を示した。D50=10μm(MalvernInstrumentsからのMastersize3000機器でレーザー回折の手法を使用して決定された);W含有量:330ppm(ICP-OESで決定された)。
【0132】
II.2:本発明の電極活物質CAM.3の製造
工程(b.2)および(c.2)を200℃で行うこと以外は、実験II.1を繰り返した。次に、反応器を25℃に冷却し、そのようにして得られた物質を排出した。得られたCAM.3は、次の特性を示した。D50=10μm(MalvernInstrumentsからのMastersize3000機器でレーザー回折の手法を使用して決定された);W含有量:300ppm(ICP-OESで決定された)。
【0133】
II.3:本発明の電極活物質CAM.4の製造
工程(b.3)および(c.3)を240℃で行うこと以外は、実験II.1を繰り返した。次に、反応器を25℃に冷却し、そのようにして得られた物質を排出した。得られたCAM.4は、次の特性を示しました。D50=10μm(MalvernInstrumentsのMastersize3000機器でレーザー回折の手法を使用して決定された);W含有量:250ppm(ICP-OESで決定された)。
【0134】
II.4:本発明の電極活物質CAM.5の製造
流動床反応器が連続するW(CO)6/オゾン処理の最後に排出されない以外は、実験II.1を繰り返した。代わりに、工程(f.4)を行った。
【0135】
流動床反応器の温度を180℃に下げた。気体状態のトリメチルアルミニウム(TMA)は、液体のTMAが含まれ、25℃に保持された前駆体リザーバーへのバルブを開くことによって、焼結フィルタープレートを介して流動床反応器に導入された。TMAは、キャリアガスとしてのArで10sccmに希釈された。210秒の反応期間の後、未反応のTMAをAr流れから除去し、反応器をArで10分間、流量:30sccmでパージした。次に、ガス状態の水は、25℃に保持された液体水を含む貯蔵器へのバルブを開くことによって流動床反応器に導入し、Arを10sccmのキャリアガスとして使用した。120秒の反応期間の後、未反応の水をAr流から除去し、反応器をArで30sccmの流速で10分間パージした。上記の連続を4回繰り返した。反応器を25℃に冷却し、そのようにして得られた物質を排出した。
【0136】
ICP-OESから決定されたAlの取り込みは、260ppmだった。
【0137】
II.5:さらなる比較物質C-CAM.6の製造
CAM.4の代わりにC-CAM.1を出発材料として使用したこと以外は、実験II.4を繰り返した。比較物質C-CAM.6が得られた。C-CAM.6は、いかなるWを含んでいない。Al含有量:420ppm(ICP-OESで決定された)。
【0138】
本発明の電極活物質の電気化学的性能は、優れていた。