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特許7434830光学材料用樹脂組成物、光学フィルム及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】光学材料用樹脂組成物、光学フィルム及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240214BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20240214BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20240214BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L45/00
C08L25/14
C08L33/06
C08F212/08
G02B5/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019211377
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021080418
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】氏原 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】吉村 洋志
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-518052(JP,A)
【文献】特開2021-080420(JP,A)
【文献】特開2009-108286(JP,A)
【文献】特許第7375493(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 45/00
C08L 25/14
C08L 33/06
C08F 212/08
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン樹脂とスチレン-アクリル共重合体を含む光学材料用樹脂組成物であって、
前記スチレン-アクリル共重合体が下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを含む共重合体であって、数平均分子量が1,000~10,000の範囲にある共重合体であり、
前記スチレン-アクリル共重合体の含有量が、前記環状オレフィン樹脂100質量部に対して1~30質量部である光学材料用樹脂組成物。
【化1】
(前記式(1)中、
は、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基である。
nは0~5の整数である。
は、水素原子又はメチル基である。
前記式(2)中、
は、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基である。
は、水素原子又はメチル基である。)
【請求項2】
前記Rの脂環式炭化水素基が、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基又はアダマンチル基である請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン-アクリル共重合体における前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比(式(1)/式(2))が、15/85~85/15である請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン-アクリル共重合体において、前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位が、前記スチレン-アクリル共重合体を構成する全構造単位の90モル%以上である請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記環状オレフィン樹脂が極性基を有する請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の光学材料用樹脂組成物を含有する光学フィルム。
【請求項7】
偏光板保護用である請求項6記載の光学フィルム。
【請求項8】
タッチパネルセンサー用である請求項6記載の光学フィルム。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の光学フィルムを備える画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用樹脂組成物、光学フィルム及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、ノートパソコン、テレビ等のディスプレイは種々の機能を有する光学フィルムの積層体となっており、当該光学フィルムには、例えばディスプレイ内に入った外光反射を打ち消す機能を有する円偏光板を構成する偏光板保護フィルムや、静電容量の変化を感知するタッチパネルのベースフィルム等が含まれる。
上記光学フィルムには、従来からセルロースアセテートフィルムが用いられていたが、セルロースアセテートフィルムは吸湿性が高く、高湿下での性能変化や耐久性に課題があった。そこでセルロースアセテートフィルムの代わりに低吸湿性の環状オレフィン樹脂(シクロオレフィンポリマー,COP)フィルムの利用が進んでいる。
【0003】
例えばスマートフォン用の有機ELディスプレイでは、さらなる薄型化のために円偏光板の内側にタッチパネルが設置された構造が出てきている。この構成において高度な外光反射防止を達成するためには、タッチパネルのベースフィルムとして、厚み方向の位相差Rthの小さいフィルムを使用する必要がある。しかしながら、上記環状オレフィン樹脂は、正の固有複屈折を有しており、且つ、フィルム化工程で生じる応力によって厚み方向の位相差Rthを生じやすく、環状オレフィン樹脂フィルムをタッチパネルのベースフィルムとした場合に、斜めから見た際の外光反射の光漏れによる画質低下を生じるという問題があった。
【0004】
光学フィルムの製造工程においては、通常、平滑性の向上や強度向上のために延伸処理が実施される。環状オレフィン樹脂フィルムでは、延伸時に生じる応力によって樹脂鎖が配向し、Rth発現の要因になると考えられる。
延伸時の応力を低下させるために、樹脂のガラス転移温度よりも著しく高温で延伸を行い、低Rth化を目指す手法があるが、その場合、フィルムの物性が悪化するという課題があった。
【0005】
上記のような製造条件の変更のみで光学フィルムの特性改善が困難な場合、添加剤による特性改善を目指す手法がある。環状オレフィン樹脂フィルムの添加剤としては、けい皮酸誘導体ポリマー(特許文献1)、水蒸気透過を抑制することを目的としてポリエステル系添加剤(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-151526号公報
【文献】特開2018-48250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のけい皮酸誘導体ポリマーは、光や熱などにより酸化されやすく、ポリマー自身が大きく着色する傾向にあると考えられる。このように着色したポリマーを環状オレフィン樹脂に添加した場合、樹脂を製膜して得られるフィルムも着色する傾向にあると言え、無色透明を大前提とする光学フィルムの添加剤としては適当ではなかった。また、スチレンは一般に環状オレフィン樹脂との相溶性が悪いため、スチレン構造を有する特許文献1のけい皮酸誘導体ポリマー及び環状オレフィン樹脂の組成物をフィルムとした場合、フィルムが白濁してしまい、透明性が損なわれてしまう問題があった。
特許文献2のポリエステル系添加剤を環状オレフィン樹脂フィルムに添加することで、得られるフィルムの低Rth化の傾向はみられるが、Rth低減効果は十分ではなかった。また、例えばタッチパネルのベースフィルムでは、その製造過程で高温処理が必要とされるために高い耐熱性(高いガラス転移温度)が求められるが、多量の添加剤を配合した環状オレフィン樹脂はガラス転移温度が大きく低下してしまい、耐熱性が損なわれてしまう問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、透明性及び耐熱性を損なうことなく面内及び面外位相差を負の方向へ調整した光学フィルムを製造できる光学材料用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、スチレン誘導体に由来する構造単位と脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体に由来する構造単位を有する共重合体と環状オレフィン樹脂を含む光学材料用樹脂組成物であれば、透明性及び耐熱性を損なうことなく面内及び面外位相差を負の方向へ調整した光学フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、環状オレフィン樹脂とスチレン-アクリル共重合体を含む光学材料用樹脂組成物であって、前記スチレン-アクリル共重合体が下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを含む共重合体である光学材料用樹脂組成物に関するものである。
【0011】
【化1】
(前記式(1)中、
は、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基である。
nは0~5の整数である。
は、水素原子又はメチル基である。
前記式(2)中、
は、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基である。
は、水素原子又はメチル基である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明により、透明性及び耐熱性を損なうことなく面内及び面外位相差を負の方向へ調整した光学フィルムを製造できる光学材料用樹脂組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
本願明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいう。
【0014】
[光学材料用樹脂組成物]
本発明の光学材料用樹脂組成物は、環状オレフィン樹脂とスチレン-アクリル共重合体を含み、前記スチレン-アクリル共重合体が下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位を含む共重合体である。
【0015】
【化2】
(前記式(1)中、
は、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基である。
nは0~5の整数である。
は、水素原子又はメチル基である。
前記式(2)中、
は、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基である。
は、水素原子又はメチル基である。)
【0016】
スチレン樹脂及び(メタ)アクリル樹脂は、いずれも負の複屈折を有しており、スチレン樹脂及び/又は(メタ)アクリル樹脂を含む延伸フィルムは負の位相差を示すことができる。しかしながら、スチレン樹脂及び(メタ)アクリル樹脂はいずれも環状オレフィン樹脂に対する相溶性が低く、環状オレフィン樹脂とスチレン樹脂及び/又は(メタ)アクリル樹脂を含む組成物のフィルムが高い透明性を得るのは難しい。
本発明の光学材料用樹脂組成物では、スチレン-アクリル共重合体であって、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーに由来する繰り返し単位を有するスチレン-アクリル共重合体を用いる。
【0017】
以下、本発明の光学材料用樹脂組成物が含む各成分について説明する。
(環状オレフィン樹脂(A))
環状オレフィン樹脂(A)は、主鎖が炭素-炭素結合からなり、主鎖の少なくとも一部に環状炭化水素構造を有する高分子化合物であって、ノルボルネン、テトラシクロドデセン等の環状炭化水素構造中に少なくとも1つの重合性炭素-炭素不飽和結合を有する化合物(環状オレフィン)に由来する構造単位を有する高分子化合物である。
環状オレフィン樹脂(A)の構造は、特に制限はなく、鎖状、分岐状及び架橋状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0018】
環状オレフィン樹脂(A)は、例えば、環状オレフィンの付加(共)重合体又はその水素添加物(1)、環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物(2)、環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物(3)に分類される。
【0019】
前記環状オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の1環の環状オレフィン;
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;
【0020】
トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12.5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12.5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12.5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の3環の環状オレフィン;
【0021】
テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン(テトラシクロドデセン)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン等の4環の環状オレフィン;
【0022】
8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13.6.01.9.02.7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[8.4.14.7.01.10.03.8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-へキサヒドロアントラセン);ペンタシクロ[6.6.1.13.6.02.7.09.14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02.7.13.6.110.13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12.9.14.7.111.17.03.8.012.16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12.9.03.8.14.7.012.17.113.16]-14-エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィン等が挙げられる。
これらの環状オレフィンは、それぞれ1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
前記環状オレフィンと共重合可能なα-オレフィンの具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素原子数2~20のエチレン又はα-オレフィン等が挙げられる。
これらのα-オレフィンは、それぞれ1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらのα-オレフィンの使用量は、例えば、前記環状オレフィンに対して、5~200mol%の範囲である。
【0024】
環状オレフィン又は環状オレフィンとα-オレフィンとの重合方法及び得られた重合体の水素添加方法に、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0025】
環状オレフィン樹脂(A)は、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等の極性基を有していてもよい。
環状オレフィン樹脂(A)が極性基を有することにより、アクリル樹脂フィルムやセルロースエステル樹脂フィルム等の他のフィルムと本発明の光学フィルムとが接着層を介して積層した積層フィルムを製造する際に、前記接着層との密着性が良好な光学フィルムが得られる。
【0026】
極性基を有する環状オレフィン樹脂は、例えば、環状オレフィン樹脂(A)を製造した後、極性基を有する不飽和化合物をグラフト重合する、環状オレフィン樹脂(A)を製造する際に極性基を有する不飽和化合物を環状オレフィン樹脂の反応原料に含める等の方法により得ることができる。
【0027】
前記極性基を有する不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0028】
環状オレフィン樹脂(A)に極性基を導入する場合における極性基の導入量は、アクリル樹脂フィルムやセルロースエステル樹脂フィルム等の他のフィルムと本発明の光学フィルムとが接着層を介して積層した積層フィルムを製造する際に、前記接着層との密着性が良好な光学フィルムが得られることから環状オレフィン樹脂(A)1kg当り0.1~1molであることが好ましい。
【0029】
環状オレフィン樹脂(A)は、下記式(A-1)~(A-15)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む樹脂であると好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
環状オレフィン樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、強度に優れ、且つ、製造もしやすい光学フィルムが得られることから、5,000~300,000が好ましく、10,000~150,000がより好ましく、15,000~150,000がさらに好ましい
【0033】
本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲルパーミエージョンクロマトグラフィー(GPC)測定に基づきポリスチレン換算した値である。尚、GPCの測定条件は以下の通りである。
【0034】
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0035】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0036】
環状オレフィン樹脂(A)は市販品を用いることができ、当該市販品としては、APL5014DP、APL6011T、APL6013T、APL6015T、APL5514ML、APL6013T(以上、三井化学株式会社製);D5450、D4540、D4531、D4531F、D4532、D4520、F5023、F4520、G7810、RH5200、FX4727(以上、JSR株式会社製);ZEONEX K26R、ZEONEX K22R、ZEONEX E48R、ZEONEX E48R、ZEONEX F52R、ZEONEX F62R、ZEONEX 330R、ZEONEX 480R(以上、日本ゼオン株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
(スチレン-アクリル共重合体(B))
スチレン-アクリル共重合体(B)は、下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを含む共重合体である。
(前記式(1)中、
は、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基である。
nは0~5の整数である。
は、水素原子又はメチル基である。
前記式(2)中、
は、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基である。
は、水素原子又はメチル基である。)
【0038】
前記式(1)で表される繰り返し単位について、繰り返し単位毎にR、R及びnがそれぞれ同じでもよいし、異なってもよい。前記式(2)で表される繰り返し単位について、繰り返し単位毎にR及びRがそれぞれ同じでもよいし、異なってもよい。
【0039】
スチレン-アクリル共重合体(B)において、式(1)で表される繰り返し単位および式(2)で表される繰り返し単位はいずれも主鎖となる部分にメチレン基を有する。当該メチレン基を有すると、ベンジル位の酸化によって主鎖の結合開裂が発生したとしても、開裂した化合物はベンゼン環との共役構造を取り得ないため、スチレン-アクリル共重合体(B)自身が着色する傾向は少ない。よって、スチレン-アクリル共重合体(B)を環状オレフィン樹脂に添加してフィルムにした際には無色なフィルムが得られる。
【0040】
スチレン-アクリル共重合体(B)は、前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位を含む共重合体であればよく、共重合形式は特に限定されず、ブロックであってもランダムであってもよい。
【0041】
前記式(1)において、Rの炭素原子数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
の炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、t-ブトキシ基、プロポキシ基、エトキシ基、メトキシ基等が挙げられる。
nは0であると好ましい。nが1以上の整数である場合は、Rは水酸基又は炭素数1~6のアルキル基であると好ましい。
【0042】
前記式(2)において、Rの脂環式炭化水素基は、単環式及び多環式のいずれでもよい。
の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられ、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基及びアダマンチル基が好ましい。
【0043】
の脂環式炭化水素基が置換基を有する場合、当該置換基としてはハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
の置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基は、好ましくは無置換の脂環式炭化水素基又は炭素原子数1~6のアルキル基で置換された脂環式炭化水素基である。
【0044】
スチレン-アクリル共重合体(B)の前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比(式(1)/式(2))は、例えば99/1~1/99であり、好ましくは90/10~10/90であり、より好ましくは85/15~15/85である。
スチレン-アクリル共重合体(B)の前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比は、後述する反応原料の仕込み比より調整することができる。
【0045】
スチレン-アクリル共重合体(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでもよい。
前記前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、ビニル安息香酸誘導体に由来する繰り返し単位、下記式(3)で表される繰り返し単位等が挙げられる。
【0046】
【化5】
(前記式(3)中、
は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のヒドロキシルアルキル基である。
は、水素原子又はメチル基である。)
【0047】
前記式(3)で表される繰り返し単位について、繰り返し単位毎にR及びRはそれぞれ同じでもよいし、異なってもよい。
【0048】
前記ビニル安息香酸誘導体に由来する繰り返し単位とは、ビニル安息香酸もしくはビニル安息香酸誘導体のエチレン性二重結合が開裂した構成単位を意味し、当該ビニル安息香酸誘導体の具体例としてはp-ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0049】
スチレン-アクリル共重合体(B)は、前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位が、スチレン-アクリル共重合体(B)を構成する全構造単位の90モル%以上であると好ましく、93モル%以上であるとより好ましく、95モル%以上であるとさらに好ましい。スチレン-アクリル共重合体(B)は、前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位のみからなる共重合体であると特に好ましい。
【0050】
スチレン-アクリル共重合体(B)の数平均分子量は、例えば1,000~500,000の範囲であり、1,000~100,000の範囲であると好ましく、1,000~50,000の範囲であるとより好ましく、1,000~10,000の範囲であるとさらに好ましい。
スチレン-アクリル共重合体(B)の数平均分子量を上記範囲とすることで、環状オレフィン樹脂(A)に対する相溶性を確保することができる。
【0051】
本発明の光学材料用樹脂組成物中のスチレン-アクリル共重合体(B)の含有量は、環状オレフィン樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部であり、より好ましくは0.5~40質量部であり、さらに好ましくは1~30質量部である。
【0052】
スチレン-アクリル共重合体(B)は、スチレン誘導体と置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体とを反応原料に用いて重合することで製造することができる。
ここで「反応原料」とは、スチレン-アクリル共重合体(B)を構成する原料を意味し、例えばスチレン-アクリル共重合体を製造する際に用いる触媒、溶媒等のスチレン-アクリル共重合体(B)を構成しない成分は含まれない意味である。
【0053】
前記スチレン誘導体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ヒドロキシスチレン、カルボキシスチレン、メトキシスチレン、4-メトキシ-3-メチルスチレン、ジメトキシスチレン等が挙げられる。反応原料である前記スチレン誘導体は1種単独でもよく2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体としては、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル等が挙げられる。反応原料である前記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体は1種単独でもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記スチレン誘導体と前記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体の仕込み比は特に限定されないが、モル比(スチレン誘導体/脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体)で、例えば99/1~1/99であり、好ましくは90/10~10/90であり、より好ましくは85/15~15/85である。
【0056】
スチレン-アクリル共重合体(B)の製造に用いる反応原料として、本発明の効果を損なわない範囲で、前記スチレン誘導体及び前記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体以外のその他モノマーを用いてもよい。
前記その他モノマーとしては、例えばアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、パラビニル安息香酸、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。反応原料である前記その他モノマーは1種単独でもよく2種以上を併用してもよい。
【0057】
重合方法としては、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の種々の重合方法を用いることができる。重合方法の中でも、塊状重合や溶液重合が、微小な異物の混入が少ない重合体が得られることから好ましい。溶液重合を行う場合には、原料の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0058】
前記重合に用いることができる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができる。
前記開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物等が用いられる。90℃以上の高温下で重合をする場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等が好ましく、具体的には1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は通常0.005~5質量%の範囲で用いられる。
【0059】
前記重合をする際には、必要に応じて分子量調節剤を使用してもよい。
前記分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、分子量が上記の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加するとよい。
【0060】
スチレン-アクリル共重合体(B)の前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比は、反応原料であるスチレン誘導体と脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート誘導体の仕込み量を調整することで制御できる。
また、スチレン-アクリル共重合体(B)の数平均分子量は、開始剤と連鎖移動剤の種類及び使用量、並びに反応温度を調整することにより制御できる。
【0061】
(その他成分)
本発明の光学材料用樹脂組成物は、環状オレフィン樹脂(A)と、スチレン-アクリル共重合体(B)を含めばよく、これら成分以外のその他成分(任意の樹脂成分及び任意の添加剤)をさらに含んでもよい。
【0062】
前記任意の樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これら樹脂成分を1種単独で含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0063】
前記任意の添加剤としては、例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾエート系光安定剤等の光安定剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0064】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、又は99.9質量%以上が、環状オレフィン樹脂(A)、スチレン-アクリル共重合体(B)、並びに溶剤であってもよい。
本発明の光学材料用樹脂組成物は、本質的に環状オレフィン樹脂(A)、スチレン-アクリル共重合体(B)、並びに溶剤からなってもよい。この場合、不可避不純物を含んでもよい。
また、本発明の光学材料用樹脂組成物は、環状オレフィン樹脂(A)、スチレン-アクリル共重合体(B)、並びに溶剤のみからなってもよい。
【0065】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いて得られる。
本発明の光学フィルムは、高い透明性と負の位相差の両方を示すことができる。また、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いることで、例えば、製造途中の乾燥工程及びアニール工程の加熱によるフィルム収縮等も防ぐことができ、本発明の光学フィルムは耐熱性にも優れる。
【0066】
本発明の光学フィルムは、負の面内レタデーション(Re)及び負の厚み方向レタデーション(Rth)を示すことができる。ここで、面内レタデーション(Re)と厚み方向レタデーション(Rth)は下記式により定義される。
Re =(nx-ny)×d
Rth=((nx+ny)/2)-nz)×d
(式中、nxは、光学フィルム面内において屈折率が最大となる方向をxとした場合のx方向の主屈折率である。
nyは、光学フィルム面内においてx方向に垂直な方向をyとした場合のy方向の主屈折率である。
nzは、光学フィルムの厚み方向の主屈折率である。
dは、光学フィルムの厚み(nm)である。)
【0067】
本発明の光学フィルムは、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、又は99.9質量%以上が、環状オレフィン樹脂(A)及びスチレン-アクリル共重合体(B)であってもよい。
本発明の光学フィルムは、本質的に環状オレフィン樹脂(A)及びスチレン-アクリル共重合体(B)からなってもよい。この場合、不可避不純物を含んでもよい。
また、本発明の光学フィルムは、環状オレフィン樹脂(A)及びスチレン-アクリル共重合体(B)のみからなってもよい。
【0068】
本発明の光学フィルムは、光学材料として、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、光反射防止部材、タッチパネルセンサーのベースフィルム等に好適に用いることができる。
【0069】
本発明の光学フィルムの膜厚は、20~120μmの範囲が好ましく、25~100μmの範囲がより好ましく、25~80μmの範囲が特に好ましい。
【0070】
本発明の光学フィルムは、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いることにより製造できる。
本発明の光学フィルムは、例えば、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いて、押し出し成形、キャスト成形等の方法により未延伸フィルムを製造し、当該未延伸フィルムを延伸することにより得られる。
【0071】
未延伸フィルムの製造方法としては、キャスト成形である溶液流延法(ソルベントキャスト法)が挙げられる。以下、溶液流延法について詳述する。
溶液流延法で得られる未延伸フィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイ等の光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0072】
前記溶液流延法は、例えば、環状オレフィン樹脂(A)とスチレン-アクリル共重合体(B)とを溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
【0073】
環状オレフィン樹脂(A)及びスチレン-アクリル共重合体(B)を有機溶剤に混合させ溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解可能なものであれば特に限定しないが、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン、塩化メチレン等の溶媒を挙げることができる。
【0074】
前記樹脂溶液中の環状オレフィン樹脂(A)の濃度は、10~50質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましい。
【0075】
前記第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のもの等を例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0076】
前記金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0077】
前記第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30~50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50~80質量%を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0078】
次いで、前記第3工程は、前記第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100~160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。前記温度条件にて加熱乾燥することにより、前記第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0079】
尚、前記第1工程~第3工程で、溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0080】
得られた未延伸フィルムを延伸することで本発明の光学フィルムが得られる。具体的には、機械的流れ方向に縦一軸延伸、又は機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸することで本発明の光学フィルムを得ることができる。また、自由端一軸延伸によっても本発明の光学フィルムを得ることができる。自由端一軸延伸とは、一対の延伸ローラ間にはフィルムを支持したり接触したりする搬送ローラ、支持用平板、支持用ベルト等の部材がなく、フィルムが幅方向に自由に収縮・拡張できる状態で縦延伸することをいう。
また、得られた未延伸フィルムをロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、又はチューブラー延伸による2軸延伸法等によって二軸延伸することによっても本発明の光学フィルムを得ることができる。
【0081】
延伸における延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上1000%以下であることが好ましく、0.2%以上600%以下であることがさらに好ましく、0.3%以上300%以下であることがさらに好ましい。延伸倍率を当該範囲とすることにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸された光学フィルムとすることができる。
【0082】
本発明の光学フィルムの膜厚は、20~120μmの範囲が好ましく、25~100μmの範囲がより好ましく、25~80μmの範囲が特に好ましい。
【0083】
本発明の光学材料用樹脂組成物から得られる成形品は、光学フィルムに限定されず、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの基材、被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも用いることができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。尚、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0085】
合成例1
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を134g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン78g、イソボルニルメタクリレート(IBXMA、三菱ケミカル社製)56g、重合開始剤としてパーブチルO(日油株式会社製)2.5g、パーヘキサC(日油株式会社製)2.5g及びルペロックス575(アルケマ吉冨社製)2.5gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことでPGMEを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-1を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-1の数平均分子量(Mn)を前記方法により評価したところ6,000であった。
【0086】
合成例2
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒としてPGMEを134g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン78g、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA、日立化成社製)55g、重合開始剤としてパーブチルO2.5g、パーヘキサC2.5g及びルペロックス575 2.5gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことでPGMEを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-2を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-2について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,400であった。
【0087】
合成例3
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを132g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン73g、DCPMA55g、メタクリル酸4g、重合開始剤としてパーブチルO2.4g、パーヘキサC2.4g及びルペロックス575 2.4gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-3を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-3について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,900であった。
【0088】
合成例4
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを132g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン73g、DCPMA55g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート7g、重合開始剤としてパーブチルO2.4g、パーヘキサC2.4g及びルペロックス575 2.4gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-4を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-4について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,700であった。
【0089】
合成例5
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを132g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン78g、DCPMA49g、パラビニル安息香酸4g、重合開始剤としてパーブチルO2.4g、パーヘキサC2.4g及びルペロックス575 2.4gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-5を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-5について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,600であった。
【0090】
合成例6
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを132g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン5.1g、1-アダマンチルメタクリレート(ADMA;大阪有機化学工業社製)38g、重合開始剤としてパーブチルO1.1g、パーヘキサC1.1g及びルペロックス575 1.1gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-6を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-6について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ2,500であった。
【0091】
合成例7
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを132g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン99g、パラ-t-ブトキシスチレン(PTBST;北興化学工業社製)8g、DCPMA10g、重合開始剤としてパーブチルO2.1g、パーヘキサC2.1g及びルペロックス575 2.1gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-7を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-7について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,200であった。
【0092】
合成例8
温度計、攪拌機及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを110g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン68g、メタクリル酸メチル17g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル21g、重合開始剤としてパーブチルO2.1g、パーヘキサC2.1g及びルペロックス575 2.1gを混合した溶液を4時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-8を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-8について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ5,900であった。
【0093】
合成例9
温度計、攪拌機、及び還流冷却器を付した内容量0.5Lの四つ口フラスコに、溶媒として酢酸ブチルを122g加え、窒素バブリングを行ってフラスコ内を窒素置換しながら110℃まで昇温した。昇温後、スチレン78g、ベンジルメタクリレート51g、重合開始剤としてパーブチルO2.3g、パーヘキサC2.3g及びルペロックス575 2.3gとを混合した溶液を4時間かけて滴下した。滴下後、110℃で4時間ほど反応を継続した。反応終了後、減圧処理を施すことで酢酸ブチルを除去し、常温白色固体であるスチレン-アクリル樹脂B-9を得た。
得られたスチレン-アクリル樹脂B-9について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ6,700であった。
【0094】
合成例10
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四つ口フラスコに、アジピン酸を526g、プロピレングリコールを648g、安息香酸を977g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを0.130gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、220℃になるまで段階的に昇温し、合計19時間縮合反応させた。反応後に未反応のプロピレングリコールを減圧除去することで、常温高粘度液体であるエステル化合物(C-1)を得た。
得られたエステル化合物C-1について合成例1と同様にして数平均分子量(Mn)を評価したところ470であった。
また得られたエステル化合物C-1について、酸価及び水酸基価をJIS K 0070-1992に準じた方法で評価したところ、酸価は0.2、水酸基価は10であった。
【0095】
実施例1
市販の環状オレフィン樹脂であるシクロオレフィン樹脂A(株式会社JSR製のノルボルネン樹脂:F5023)を100質量部及び合成例1で製造したスチレン-アクリル樹脂B-1を5質量部に、メチレンクロライド390質量部及びメタノール10質量部を加えて溶解し、ドープ液を得た。
得られたドープ液をガラス板上に流延し、溶媒を留去する(乾燥する)ことで膜厚約80μmのフィルムを得た。得られた未延伸フィルムの透明性及び耐熱性を下記の方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0096】
(未延伸フィルムの透明性)
得られたフィルムを打ち抜き機で打ち抜いて40mm角の試験片とし、この試験片についてHAZEメーターNDH-5000(日本電色工業製)にて、HAZE値の測定を行った。
尚、HAZE値は小さいほど、透明性に優れることを示す。
(未延伸フィルムの耐熱性)
得られたフィルムについて、示差走査熱量計(DSC)装置(株式会社パーキンエルマー製)により測定したチャートから、中点法にてガラス転移温度を評価した。当該ガラス転移温度の測定は、昇温速度を10℃/分、測定温度範囲を23℃(室温)~220℃の条件で行った。
【0097】
未延伸フィルムを下記の方法と条件で自由端一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの光学特性及び透明性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0098】
(熱延伸の方法と条件1;自由端一軸延伸)
未延伸フィルムを打ち抜き機で打ち抜いて幅20mm及び長さ25mmの試験片とし、熱延伸機(ユニオプト株式会社製)を用いて、下記条件にて自由端一軸延伸を行い、延伸温度が異なる3つの評価試験片を製造した。尚、製造時に延伸フィルムにかかった応力も別途、熱延伸機に備え付けのソフトから読み取った。
倍率:1.3倍
速度:100%/min
温度:未延伸フィルムのTgを基準にし、Tg(℃)、Tg+5(℃)及びTg+10(℃)の3点
【0099】
(延伸フィルムの光学特性の測定方法1)
製造した3つの評価試験片について、それぞれ23℃かつ相対湿度55%で1時間以上静置し、複屈折測定装置(KOBRA-WR,王子計測器(株)製)を用いて波長590nmにおける面内位相差(Re値)および面外位相差(Rth値)を測定した。
3つの評価試験片の評価結果について、横軸に延伸終了時に延伸フィルムにかかった応力、縦軸に面内位相差(Re値)又は面外位相差(Rth値)を取って評価結果をプロットした。3つのプロットの2点間をそれぞれ直線で結んで、延伸終了時において延伸フィルムにかかる応力値が6MPaとなるときの面内位相差(Re値)および面外位相差(Rth値)を読み取り、延伸フィルムの面内位相差(Re値)および面外位相差(Rth値)とした。
【0100】
(延伸フィルムの透明性)
得られた延伸フィルムをHAZEメーターNDH-5000(日本電色工業製)にて、HAZE値の測定を行った。
尚、HAZE値は小さいほど、透明性に優れることを示す。
【0101】
実施例2-14及び比較例1-8
シクロオレフィン樹脂Aと、合成例で製造したスチレン-アクリル樹脂又はポリエステル樹脂を表1-3に示す配合割合で配合し、実施例1と同様にしてフィルム及び延伸フィルムを製造し評価した。結果を表1-3に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
尚、表3においてHAZE値5.0%以上の未延伸フィルムについては、透明性が悪く光学フィルムとして不適当であると判断し、耐熱性、光学特性及び延伸後の透明性については評価は行わなかった。
【0106】
実施例15-16及び比較例9-11
シクロオレフィン樹脂Aと、合成例で製造したスチレン-アクリル樹脂又はポリエステル樹脂を表4-5に示す配合割合で配合し、実施例1と同様にして未延伸フィルムを製造し評価した。結果を表4-5に示す。
また、製造した未延伸フィルムを下記条件で二軸延伸をして延伸フィルムを製造した。得られた延伸フィルムを23℃かつ相対湿度55%で1時間以上静置し、複屈折測定装置(KOBRA-WR,王子計測器(株)製)を用いて波長590nmにおける面内位相差(Re値)および面外位相差(Rth値)を測定した。結果を表4-5に示す。
【0107】
(熱延伸の方法と条件2;二軸延伸)
未延伸フィルムを50mm四方型に切り抜き、二軸熱延伸機(井元製作所製)を用いて、下記条件にて同時二軸延伸を行った。
倍率:縦横ともに1.3倍
速度:縦横ともに100%/min
温度:未延伸フィルムのTg+5(℃)
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】