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特許7434849面発光レーザ、面発光レーザ装置、光源装置及び検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】面発光レーザ、面発光レーザ装置、光源装置及び検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/187 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H01S5/187
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019217393
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086999
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 一磨
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】原坂 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮一郎
【審査官】八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-35115(JP,A)
【文献】特開2010-3873(JP,A)
【文献】特開2005-354061(JP,A)
【文献】特表2017-532783(JP,A)
【文献】特開平7-38196(JP,A)
【文献】特開2016-146417(JP,A)
【文献】特開2019-165198(JP,A)
【文献】特開2004-15027(JP,A)
【文献】米国特許第6720585(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された面発光レーザであって、
活性層と、
前記活性層を挟んで設けられた第1の反射鏡及び第2の反射鏡と、
を有し、
前記基板側から順に、前記第2の反射鏡、前記活性層、前記第1の反射鏡が配置され、
前記第1の反射鏡及び前記第2の反射鏡は、
第1の屈折率を有する複数の低屈折率層と、
前記第1の屈折率よりも高い屈折率を有する複数の高屈折率層と、
それぞれ含み、
前記低屈折率層と前記高屈折率層とが交互に積層されており、
前記第1の反射鏡に含まれる複数の前記高屈折率層は、前記活性層側から順に、第1の層と、第2の層と、第3の層と、を含み、
前記第2の層は、前記第1の層及び前記第3の層よりもバンドギャップが小さく、かつ、前記第1の層及び前記第3の層よりも面内方向に熱を拡散させやすい、面発光レーザ。
【請求項2】
活性層と、
前記活性層を挟んで設けられた第1の反射鏡及び第2の反射鏡と、
を有し、
前記第1の反射鏡はp型であり、前記第2の反射鏡はn型であり、
前記第1の反射鏡及び前記第2の反射鏡は、
第1の屈折率を有する複数の低屈折率層と、
前記第1の屈折率よりも高い屈折率を有する複数の高屈折率層と、
それぞれ含み、
前記低屈折率層と前記高屈折率層とが交互に積層されており、
前記第1の反射鏡に含まれる複数の前記高屈折率層は、前記活性層側から順に、第1の層と、第2の層と、第3の層と、を含み、
前記第2の層は、前記第1の層及び前記第3の層よりもバンドギャップが小さく、かつ、前記第1の層及び前記第3の層よりも面内方向に熱を拡散させやすい、面発光レーザ。
【請求項3】
前記第2の層の熱伝導率は、前記第1の層の熱伝導率よりも高い、請求項1又は2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記第2の層は、前記第1の層よりも厚い、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記第2の層は、GaAs層である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記活性層から発せられる光の波長をλ、nを自然数としたとき、前記第2の層の光学的厚さは、(2n+1)λ/4である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項7】
前記第2の層と前記活性層との間に、少なくとも1組の前記低屈折率層及び前記第1の層が設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項8】
前記第2の反射鏡側から光を出射する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項9】
前記第2の反射鏡に含まれる複数の前記高屈折率層は、前記活性層側から順に、の層と、第5の層と、第6の層と、を含み、
前記第5の層は、前記第4の層及び前記第6の層よりもバンドギャップが小さく、かつ、前記第4の層及び前記第6の層よりも面内方向に熱を拡散させやすい、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項10】
前記活性層、前記第1の反射鏡及び前記第2の反射鏡はメサ構造体を構成し、
前記メサ構造体の側面を覆う金属膜を有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項11】
前記第2の層はp型半導体層である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項12】
前記第1の反射鏡は被選択酸化層を含み、
前記第2の層は前記被選択酸化層よりも前記活性層から離れている、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項13】
実装基板と、
前記実装基板に実装された、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の面発光レーザと、
を有する、面発光レーザ装置。
【請求項14】
請求項13に記載の面発光レーザ装置と、
前記面発光レーザ装置を駆動する駆動装置と、
を備え、
前記面発光レーザから外部へ光を出射する、光源装置。
【請求項15】
請求項14に記載の光源装置と、
前記面発光レーザから外部へ出射され、対象物で反射された光を検出可能な受光素子と、
を備える、検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、面発光レーザ装置、光源装置及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型の面発光レーザ(vertical cavity surface emitting laser:VCSEL)は、基板に対して垂直な方向にレーザ光を発振する半導体レーザである。面発光レーザは、基板に対して平行な方向に光を照射する端面発光型の半導体レーザと比較して、低閾値電流発振、単一縦モード発振、2次元アレイ化が可能であるなどの優れた特性を有している。
【0003】
熱が及ぼす悪影響を軽減又は解消することを目的として、発光層と反射鏡との間にAlAs層を設けた面発光レーザが開示されている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の面発光レーザでは、十分な発光強度が得られないことがある。
【0005】
本発明は、優れた放熱性を得ながら、発光強度を向上することができる面発光レーザ、面発光レーザ装置、光源装置及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の一態様によれば、面発光レーザは、基板上に形成された面発光レーザであって、活性層と、前記活性層を挟んで設けられた第1の反射鏡及び第2の反射鏡と、を有し、前記基板側から順に、前記第2の反射鏡、前記活性層、前記第1の反射鏡が配置され、前記第1の反射鏡及び第2の反射鏡は、第1の屈折率を有する複数の低屈折率層と、前記第1の屈折率よりも高い屈折率を有する複数の高屈折率層と、をそれぞれ含み、前記低屈折率層と前記高屈折率層とが交互に積層されており、前記第1の反射鏡に含まれる複数の前記高屈折率層は、前記活性層側から順に、第1の層と、第2の層と、第3の層と、を含み、前記第2の層は、前記第1の層及び前記第3の層よりもバンドギャップが小さく、かつ、前記第1の層及び前記第3の層よりも面内方向に熱を拡散させやすい
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、優れた放熱性を得ながら、発光強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る面発光レーザのレイアウトを示す図である。
図2】第1の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。
図3】第1の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。
図4】第1の実施形態に係る面発光レーザの使用例を示す模式図である。
図5】AlGaAsにおけるAl組成と熱伝導率との関係を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その1)である。
図7】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その2)である。
図8】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その3)である。
図9】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その4)である。
図10】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その5)である。
図11】第1の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その6)である。
図12】第2の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。
図13】第3の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。
図14】第3の実施形態における面発光レーザ素子のメサ構造体を示す断面図である。
図15】第4の実施形態に係る面発光レーザのレイアウトを示す図である。
図16】第4の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。
図17】第4の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。
図18】検出装置の一例としての測距装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。以下の説明では、レーザ発振方向(レーザ光の出射方向)をZ軸方向とし、右手系でZ軸方向に垂直な面内における互いに直交する2つの方向をX軸方向及びY軸方向とする。また、プラスのZ軸方向を下方とする。本説明において、平面視とは、Z軸方向、すなわち基板に垂直な方向から視ることをいう。但し、面発光レーザ等は天地逆の状態で用いることができ、任意の角度で配置することもできる。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は、裏面出射型の面発光レーザ素子を備えた面発光レーザに関する。
【0011】
[面発光レーザの基本構造]
図1は、第1の実施形態に係る面発光レーザのレイアウトを示す図である。図2は、第1の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。図2は、図1中のII-II線に沿った断面図に相当する。図3は、第1の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。図3には、図2中の一部を拡大して示してある。
【0012】
図1に示すように、第1の実施形態では、面発光レーザ100は、例えば4個の面発光レーザ素子151を有する。4個の面発光レーザ素子151はX軸方向及びY軸方向に2個ずつ配列し、レーザ素子アレイ153を構成する。図2及び図3に示すように、面発光レーザ素子151は基板101の裏面101A側にレーザ光LAを出射する。レーザ素子アレイ153の周囲に、それぞれが面発光レーザ素子151に対応するように4個のパッド部156が設けられている。
【0013】
1個のパッド部156は1個の面発光レーザ素子151に電気的に接続されている。従って、通電する面発光レーザ素子151を切り換えることで、発光する面発光レーザ素子151を変更することができる。すなわち、レーザ素子アレイ153は、4チャネルの個別駆動型のアレイである。
【0014】
面発光レーザ100は発振波長が940nm帯の面発光レーザである。面発光レーザ100は、図2に示すように、基板101と、下部反射鏡102と、下部スペーサ層103と、活性層104と、上部スペーサ層105と、上部反射鏡106と、コンタクト層107と、絶縁膜111と、p側電極112と、n側電極113と、反射防止膜115とを有する。
【0015】
基板101は、一例として、表面の鏡面研磨面(主面)の法線方向が、結晶方位[100]方向に対して、結晶方位[111]A方向に向かって15度(θ=15度)傾斜したn-GaAs単結晶半導体基板である。すなわち、基板101は、いわゆる傾斜基板である。なお、基板は上記のものに限定されない。
【0016】
下部反射鏡102は、基板101の-Z側(上側)にバッファ層(図示せず)を介して積層され、n-Al0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層102Lとn-Al0.2Ga0.8Asからなる高屈折率層102Hとのペアを26ペア程度有している。各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた厚さが20nmの組成傾斜層(図示せず)が設けられている。各屈折率層はいずれも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、発振波長をλとするλ/4の光学的厚さとなるように設定されている。なお、光学的厚さがλ/4のとき、その層の実際の厚さDは、D=λ/4n(但し、nはその層の媒質の屈折率)である。
【0017】
下部スペーサ層103は、下部反射鏡102の-Z側(上側)に積層され、ノンドープのAl0.25Ga0.75Asからなる層である。下部スペーサ層103の材料はノンドープのAl0.25Ga0.75Asに限定されず、例えばノンドープのAlGaInPでもよい。
【0018】
活性層104は、下部スペーサ層103の-Z側(上側)に積層され、複数の量子井戸層と複数の障壁層とを有する多重量子井戸構造の活性層である。例えば、量子井戸層はInGaAsからなり、各障壁層はAlGaAsからなる。
【0019】
上部スペーサ層105は、活性層104の-Z側(上側)に積層され、ノンドープのAl0.25Ga0.75Asからなる層である。上部スペーサ層105の材料は、下部スペーサ層103と同様にノンドープのAl0.25Ga0.75Asに限定されず、例えばノンドープのAlGaInPでもよい。
【0020】
下部スペーサ層103と活性層104と上部スペーサ層105とからなる部分は、共振器構造体ともよばれており、その厚さが1波長分の光学的厚さとなるように設定されている。なお、活性層104は高い誘導放出確率が得られるように、電界の定在波分布における腹に対応する位置である共振器構造体の中央に設けられている。好ましくは、発振波長である940nmにおいて単一縦モード発振が得られるように、下部スペーサ層103、活性層104及び上部スペーサ層105の各層の厚さが設定されている。また、好ましくは、面発光レーザ素子151の発振閾値電流が室温で最も小さくなるように、共振波長と活性層104の発光波長(組成)との相対関係(ディチューニング)が調整されている。
【0021】
上部反射鏡106は、上部スペーサ層105の-Z側(上側)に積層され、p-Al0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層106Lとp-Al0.2Ga0.8Asからなる高屈折率層106Hとのペアを30ペア程度有している。各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた組成傾斜層(図示せず)が設けられている。
【0022】
上部反射鏡106における低屈折率層106Lの1つには、p-AlAsからなる被選択酸化層108が厚さ約30nmで挿入されている。被選択酸化層108の挿入位置は、例えば、電界の定在波分布において、活性層104から2番目となる節に対応する位置である。被選択酸化層108は、非酸化の領域108bとその周囲の酸化領域108aとを備える。被選択酸化層108を除く低屈折率層106Lは、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、光学長がλ/4になるように設定されている。
【0023】
上部反射鏡106における高屈折率層106Hの1つには、p-GaAsからなる高熱伝導層109が挿入されている。高熱伝導層109は、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、光学長が3λ/4になるように設定されている。高熱伝導層109は、例えば、被選択酸化層108よりも活性層104から離間する側に設けられている。高熱伝導層109を除く高屈折率層106Hは、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、光学長がλ/4になるように設定されている。
【0024】
コンタクト層107は、上部反射鏡106の-Z側(上側)に積層され、p-GaAsからなる層である。
【0025】
反射防止膜115は、基板101の+Z側(下側)の面(裏面101A)に形成されている。反射防止膜115は、発振波長である940nmに対する無反射コーティング膜である。
【0026】
面発光レーザ素子151において、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105及び活性層104の積層体がメサ構造体を有する。メサ構造体の底部は共振器構造体の途中にあってもよく、上部スペーサ層105の上面にあってもよい。非酸化の領域108bは、平面視でメサ構造体の中央に位置する。
【0027】
面発光レーザ素子151において、絶縁膜111は、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105、活性層104及び下部スペーサ層103を覆う。絶縁膜111は、例えば窒化シリコン(SiN)膜である。絶縁膜111にコンタクト層107の上面の一部を露出する開口部111Aが形成されている。絶縁膜111上にp側電極112が形成されている。p側電極112は開口部111Aを通じてコンタクト層107の上面に接している。p側電極112は、例えば-Z側(上側)に順に積層されたチタン(Ti)膜と、白金(Pt)膜と、金(Au)膜とを有する。フリップチップ実装により、面発光レーザ素子151のp側電極112はドライバIC又はサブマウント等のp側電極に接続される。
【0028】
パッド部156において、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105及び活性層104の積層体がメサ構造体を有する。また、パッド部156の周囲において、下部スペーサ層103及び下部反射鏡102の積層体に溝122が形成されている。
【0029】
パッド部156において、絶縁膜111は、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105、活性層104、下部スペーサ層103、下部反射鏡102及び基板101を覆う。絶縁膜111に溝122の底部で基板101の表面101Bの一部を露出する開口部111Bが形成されている。絶縁膜111上にn側電極113が形成されている。n側電極113は開口部111Bの内側で基板101の表面101Bに接している。n側電極113はパッド部156内で上部反射鏡106の-Z側(上側)に位置する部分を有する。n側電極113は、例えば-Z側(上側)に順に積層された金ゲルマニウム合金(AuGe)膜と、ニッケル(Ni)膜と、金(Au)膜とを有する。フリップチップ実装により、n側電極113はパッド部156内でドライバIC又はサブマウント等のn側電極に接続される。
【0030】
p側電極112とn側電極113との間に電位差が付与されることで、活性層104に電圧が印加される。面発光レーザ100がパッケージングされていてもよい。
【0031】
[面発光レーザ100の実装]
面発光レーザ100は、例えばサブマウントに実装されて使用される。図4は、面発光レーザ100の使用例を示す模式図である。サブマウントと、サブマウントに実装された面発光レーザ100とは面発光レーザ装置に含まれる。
【0032】
この使用例では、図4に示すように、面発光レーザ100は、フリップチップ実装によりドライバIC300上に実装されている。面発光レーザ素子151のp側電極112は、導電材301を介してドライバIC300に設けられたp側電極に電気的に接続されている。また、面発光レーザ素子151のn側電極113は、パッド部156にて導電材302を介してドライバIC300に設けられたn側電極に電気的に接続されている。面発光レーザ100はドライバIC300により駆動される。例えば、ドライバIC300の面積は基板101の面積よりも大きい。ドライバIC300は面発光レーザの駆動装置の一例である。
【0033】
面発光レーザ100が実装される対象はドライバIC300に限定されない。例えば、面発光レーザ100がサブマウント上に実装されてもよい。
【0034】
[面発光レーザ100の作用効果]
次に、面発光レーザ100の作用効果について説明する。図5は、AlGaAsにおけるAl組成と熱伝導率との関係を示す図である。図5に示すように、高熱伝導層109に用いられるGaAsの熱伝導率は、他の高屈折率層106Hに用いられるAl0.2Ga0.8Asの熱伝導率よりも高い。また、高熱伝導層109は他の高屈折率層106Hよりも厚い。従って、高熱伝導層109と他の高屈折率層106Hとを比較すると、高熱伝導層109において面内方向(厚さ方向に垂直な方向)に熱が拡散しやすい。第1の実施形態では、活性層104にて発生した熱は、まずは主に厚さ方向、つまりZ軸方向に拡散する。-Z側(上側)に拡散した熱は、高熱伝導層109に達すると面内方向にも拡散し、高熱伝導層109のほぼ全体から更に-Z側(上側)に拡散する。このようにして、活性層104にて発生した熱は広範囲に拡散し、外部に放出される。
【0035】
また、p側電極112は、導電材301を介してドライバIC300に設けられたp側電極に接続されるため、p側電極112に達した熱はドライバIC300にも伝達される。そして、ドライバIC300の面積が基板101の面積よりも大きいため、ドライバIC300に達した熱はより広範囲に拡散することができる。
【0036】
このように、第1の実施形態によれば、優れた放熱効果を得ることができる。
【0037】
なお、図5に示すように、GaAsの熱伝導率よりもAlAsの熱伝導率が高い。このため、熱伝導率のみに着目すると、低屈折率層106LにAlAsを用いることも考えられる。しかしながら、低屈折率層106LにAlAsを用いた場合には、後述のように、製造プロセスにおいて、AlAsが酸化してしまい、面発光レーザ素子151の特性が低下してしまう。また、AlAsは腐食されやすいため、信頼性が低下するおそれがある。このため、低屈折率層106LにAlAs等の、高Al組成で熱伝導率が優れた材料を用いることはできない。
【0038】
AlGaAsにおいて、Al組成が低いほど、バンドギャップが小さく、波長が940nmの光を吸収しやすい。また、活性層104に近い領域ほど、電界強度が高い。特に、共振器構造体の光学長がnλ(nは自然数)に等しい場合、共振器構造体の終端は定在波の腹に位置するため、より電界強度が高い。このため、Al組成が低い高熱伝導層109が上部反射鏡106よりも活性層104側に設けられていると、活性層104で発生した光が高熱伝導層109に吸収されやすい。これに対し、第1の実施形態では、高熱伝導層109が上部反射鏡106内に設けられており、活性層104から離間しているため、高熱伝導層109は光を吸収しにくい。このため、光吸収による損失を抑制し、高強度で光を出射することができる。
【0039】
[面発光レーザ100の製造方法]
次に、面発光レーザ100の製造方法について説明する。なお、上記のように、基板101上に複数の半導体層が積層されたものを、以下では、便宜上「積層体」ともいう。図6図11は、第1の実施形態に係る面発光レーザ100の製造方法を示す断面図である。
【0040】
まず、図6に示すように、上記積層体を有機金属気相成長(metal organic chemical vapor deposition:MOCVD)法又は分子線エピタキシャル成長(molecular beam epitaxy:MBE)法による結晶成長によって形成する。
【0041】
ここでは、MOCVD法の場合には、III族の原料には、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)を用い、V族の原料にはフォスフィン(PH)、アルシン(AsH)を用いている。p型ドーパントの原料には四臭化窒素(CBr)、ジメチルジンク(DMZn)を用い、n型ドーパントの原料にはセレン化水素(HSe)を用いている。
【0042】
次いで、図7に示すように、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105及び活性層104をエッチングすることにより、面発光レーザ素子151に相当する領域及びパッド部156に相当する領域において、メサ構造体を形成する。エッチングとしては、例えば、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma:ICP)ドライエッチング、電子サイクロトロン共鳴(electron cyclotron resonance:ECR)ドライエッチング等を行うことができる。
【0043】
その後、図8に示すように、積層体を水蒸気中で熱処理する。これにより、被選択酸化層108中のAl(アルミニウム)がメサ構造体の外周部から選択的に酸化され、メサ構造体の中央部にAlの酸化領域108aによって囲まれた非酸化の領域108bが残留する。すなわち、発光部の駆動電流の経路をメサ構造体の中央部だけに制限する、いわゆる酸化狭窄構造体が形成される。上記酸化されていない領域108bが電流通過領域である。
【0044】
低屈折率層106LにAlAs等の、高Al組成で熱伝導率が優れた材料が用いられている場合には、酸化領域108aの形成の際に、当該低屈折率層106Lは被選択酸化層108と同様に酸化されてしまう。一方、高熱伝導層109にはGaAsが用いられているため、図8に示すように、高熱伝導層109は酸化されずに、そのまま維持される。
【0045】
続いて、図9に示すように、パッド部156の周囲において、下部スペーサ層103及び下部反射鏡102をエッチングすることにより、溝122を形成する。溝122を形成するためのエッチングを、被選択酸化層108の選択酸化の後に行うことで、選択酸化前の被選択酸化層108にダメージが生じることを防ぐことができる。
【0046】
次いで、図10に示すように、基板101の表面101B側の全面に絶縁膜111を形成する。絶縁膜111は、例えば気相化学堆積(chemical vapor deposition:CVD)法により形成することができる。その後、絶縁膜111に、開口部111A及び111Bを形成する。開口部111A及び111Bは、例えばバッファードフッ酸(BHF)を用いたウェットエッチングにより形成することができる。
【0047】
次いで、図11に示すように、面発光レーザ素子151に相当する領域において、p側電極112を形成し、パッド部156に相当する領域において、n側電極113を形成する。p側電極112及びn側電極113は、例えばリフトオフ法により形成することができる。p側電極112、n側電極113のどちらを先に形成してもよい。p側電極112の形成、n側電極113の形成では、成膜後に、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で加熱処理を行い、半導体材料と電極材料との共晶化によりオーミック導通をとる。
【0048】
その後、基板101の裏面101Aの研磨及び鏡面化処理を行い、裏面101Aに反射防止膜115を形成する(図2参照)。
【0049】
このようにして、面発光レーザ100を製造することができる。
【0050】
なお、高熱伝導層109は、被選択酸化層108よりも活性層104に近く位置していてもよく、被選択酸化層108よりも活性層104から遠く位置していてもよい。
【0051】
高熱伝導層109と活性層104との間には、低屈折率層106Lと他の高屈折率層106Hとのペアが少なくとも1つ設けられていることが好ましい。高熱伝導層109を活性層104から離間させ、高熱伝導層109による光の吸収をより一層抑制するためである。
【0052】
高熱伝導層109の組成はGaAsに限定されず、他の高屈折率層106HのAl組成よりもAl組成が低いAlGaAsであってもよい。例えば、他の高屈折率層106Hの材料がAl0.2Ga0.8Asであれば、高熱伝導層109の組成がAl0.1Ga0.9As又はAl0.05Ga0.95As等であってもよい。
【0053】
高熱伝導層109が他の高屈折率層106Hよりも厚ければ、高熱伝導層109の材料の熱伝導率が高屈折率層106Hの材料の熱伝導率と同程度であってもよい。また、高熱伝導層109の材料の熱伝導率が高屈折率層106Hの材料の熱伝導率よりも高ければ、高熱伝導層109の厚さが他の高屈折率層106Hの厚さと同程度であってもよい。高熱伝導層109の光学的厚さは、例えば、(2n+1)λ/4であってもよい。ここで、nは自然数である。本開示において、高熱伝導層109に隣接して組成傾斜層が設けられている場合、高熱伝導層109の光学的厚さには、組成傾斜層の1/2の厚さが含まれる。
【0054】
高熱伝導層109の数は1つに限定されず、複数の高熱伝導層109が上部反射鏡106に含まれていてもよい。
【0055】
面発光レーザ素子151の数は限定されない。また、複数の面発光レーザ素子151が個別に駆動される方式に限定されず、複数の面発光レーザ素子151が共通に駆動されてもよい。パッド部156が複数の面発光レーザ素子151毎に1個ずつ設けられていてもよい。例えば、4個の面発光レーザ素子151に対して共通に1個のパッド部156が設けられていてもよい。
【0056】
パッド部156に代えて、レーザ光LAの出射面である裏面101A側に電極膜が設けられていてもよい。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、下部反射鏡にも高熱伝導層が含まれている点で第1の実施形態と相違する。図12は、第2の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。
【0058】
第2の実施形態では、図12に示すように、下部反射鏡102における高屈折率層102Hの1つには、n-GaAsからなる高熱伝導層209が挿入されている。高熱伝導層209は、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、光学長が3λ/4になるように設定されている。高熱伝導層209を除く高屈折率層102Hは、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、光学長がλ/4になるように設定されている。
【0059】
他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0060】
第2の実施形態では、活性層104にて発生した熱は、まずは主に厚さ方向、つまりZ軸方向に拡散する。第1の実施形態と同様に、-Z側(上側)に拡散した熱は、高熱伝導層109に達すると面内方向にも拡散し、高熱伝導層109のほぼ全体から更に-Z側(上側)に拡散する。また、+Z側(下側)に拡散した熱は、高熱伝導層209に達すると面内方向にも拡散し、高熱伝導層209のほぼ全体から更に+Z側(下側)に拡散する。このようにして、活性層104にて発生した熱はより広範囲に拡散し、外部に放出される。
【0061】
このように、第2の実施形態によれば、更に優れた放熱効果を得ることができる。
【0062】
例えば、高熱伝導層209と活性層104との間には、低屈折率層102Lと他の高屈折率層102Hとのペアが少なくとも1つ設けられていることが好ましい。高熱伝導層209を活性層104から離間させ、高熱伝導層209による光の吸収をより一層抑制するためである。
【0063】
高熱伝導層209の数は1つに限定されず、複数の高熱伝導層209が下部反射鏡102に含まれていてもよい。
【0064】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、メサ構造体の構成の点で第2の実施形態と相違する。図13は、第3の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。図14は、第3の実施形態における面発光レーザ素子のメサ構造体を示す断面図である。図14には、図13中の一部を拡大して示してある。
【0065】
第3の実施形態では、図13に示すように、コンタクト層107、上部反射鏡106、上部スペーサ層105、活性層104、下部スペーサ層103及び下部反射鏡102の積層体がメサ構造体を有する。つまり、メサ構造体の底部が下部反射鏡102の途中にある。より詳細には、図14に示すように、メサ構造体の底部が高熱伝導層209よりも基板101側にあり、高熱伝導層209が面発光レーザ素子151のメサ構造体毎に分離されている。
【0066】
他の構成は第2の実施形態と同様である。
【0067】
第3の実施形態によっても第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は、メサ構造体の周囲に金属膜が設けられている点で第3の実施形態と相違する。図15は、第4の実施形態に係る面発光レーザのレイアウトを示す図である。図16は、第4の実施形態に係る面発光レーザの内部構造を示す断面図である。図16は、図15中のXVI-XVI線に沿った断面図に相当する。図17は、第4の実施形態における面発光レーザ素子を示す断面図である。図17には、図16中の一部を拡大して示してある。
【0069】
図15図17に示すように、第4の実施形態では、面発光レーザ素子151のメサ構造体の周囲に金属膜460が設けられている。金属膜460は、絶縁膜111及びp側電極112に接してメサ構造体の側面を覆う。金属膜460は、例えば金(Au)膜を含む。
【0070】
他の構成は第3の実施形態と同様である。
【0071】
第4の実施形態によっても第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。更に、高熱伝導層209を通じて基板101に達した熱を、金属膜460を通じてドライバIC300等の実装基板に伝達することができる。従って、より優れた放熱効果を得ることができる。
【0072】
なお、金属膜460は、例えばめっき法により形成することができる。金属膜460はp側電極112と同時に形成してもよく、p側電極112とは別工程で形成してもよい。金属膜460が金(Au)膜に代えて銅(Cu)膜を含んでいてもよい。
【0073】
なお、各面発光レーザ素子151が同時に駆動される場合には、1つの金属膜460が各面発光レーザ素子151のメサ構造体の側面を覆っていてもよい。例えば、面発光レーザ素子151のメサ構造体の間が金属膜460によって埋められていてもよい。
【0074】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態は、第1~第4の実施形態のいずれかに係る面発光レーザ100を備えた光源装置および検出装置に関する。図18は、検出装置の一例としての測距装置10の概要を示したものである。
【0075】
測距装置10は、光源装置の一例としての光源装置11を含む。測距装置10は、光源装置11から検出対象物12に対してパルス光を投光(照射)し、検出対象物12からの反射光を受光素子13で受光して、反射光の受光までに要した時間に基づいて検出対象物12との距離を測定する、TOF(time of flight)方式の距離検出装置である。
【0076】
図18に示すように、光源装置11は、光源14と光学系15を有している。光源14は、第1の実施形態に係る面発光レーザ100を備え、光源駆動回路16により電流が送られて発光が制御される。光源駆動回路16は、光源14を発光させたときに信号制御回路17に信号を送信する。光学系15は、光源14から出射した光の発散角や方向を調整する光学素子(例えばレンズやDOE、プリズム等)を有し、検出対象物12に光を照射する。
【0077】
光源装置11から投光されて検出対象物12で反射された反射光は、集光作用を持つ受光光学系18を通して受光素子13に導光される。受光素子13は光電変換素子を含み、受光素子13で受光した光が光電変換され、電気信号として信号制御回路17に送られる。信号制御回路17は、投光(光源駆動回路16からの発光信号入力)と受光(受光素子13からの受光信号入力)の時間差に基づいて、検出対象物12までの距離を計算する。従って、測距装置10では、受光光学系18および受光素子13が、光源装置11から発せられて検出対象物12で反射された光が入射する検出系として機能する。また、信号制御回路17が、受光素子13からの信号に基づき、検出対象物12の有無や、検出対象物12との相対速度等に関する情報を取得するよう構成してもよい。
【0078】
本実施形態によれば、光源装置11及び測距装置10において、優れた放熱効果を得ながら、発光強度を向上することができる。
【0079】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0080】
10 測距装置
11 光源装置
13 受光素子
15 光学系
18 受光光学系
100 面発光レーザ
102 下部反射鏡
104 活性層
106 上部反射鏡
108 被選択酸化層
108a 酸化領域
108b 非酸化の領域
109、209 高熱伝導層
151 面発光レーザ素子
153 レーザ素子アレイ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【文献】特開2005-354061号公報
【文献】特開2015-177000号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18