(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂用流動性向上剤、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物、及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240214BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240214BHJP
G11B 7/2533 20130101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/06
G11B7/2533
(21)【出願番号】P 2020014055
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019013769
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平岡 達宏
(72)【発明者】
【氏名】松岡 新治
(72)【発明者】
【氏名】萩 実沙紀
(72)【発明者】
【氏名】井川 雅資
(72)【発明者】
【氏名】新納 洋
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/081791(WO,A1)
【文献】特開2016-079386(JP,A)
【文献】特開2006-342246(JP,A)
【文献】特開平06-322224(JP,A)
【文献】特開平06-345934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体(a1)0.5質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリル酸エ
ステル(a2)0.5質量%以上99質量%以下、及びエポキシ基を有するビニル単量体
(a3)0.5質量%以上5質量%以下を含有する単量体混合物(a)を重合して得られ
る重合体(A)0.5質量部以上99.5質量部以下と、(メタ)アクリル酸エステルを
含有する単量体混合物(b)と、カルボキシル基を有する化合物を用いて重合して得られ
る重合体(B)0.5質量部以上99.5質量部以下とを含有し、前記重合体(A)と前
記重合体(B)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が20質
量%以上80質量%以下である
、芳香族ポリカーボネート樹脂用流動性向上剤。
【請求項2】
さらに、芳香族ビニル単量体(c1)30質量%以上90質量%以下、(メタ)アクリ
ル酸エステル10質量%以上70質量%以下を含有する単量体混合物(c2)を重合して
得られる重合体(C)10質量部以上80質量部以下を含有し、前記重合体(A)と前記
重合体(B)と前記重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単
量体の量が20質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の
芳香族ポリカーボネー
ト樹脂用流動性向上剤。
【請求項3】
前記重合体(A)が有するエポキシ基と、前記重合体(B)が有するカルボキシル基を
反応させて得られる、請求項1または2のいずれかに記載の
芳香族ポリカーボネート樹脂
用流動性向上剤。
【請求項4】
芳香族ポリカーボネート樹脂70質量%以上99.9質量%以下と、請求項1~3のい
ずれかに記載の流動性向上剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有する芳香族ポリカ
ーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記流動性向上剤が、前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計100質量%に対し
て、メタクリル酸メチル単量体の量が、24質量%以上60質量%以下である流動性向上
剤である請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
前記流動性向上剤に含まれる前記重合体(A)が、芳香族ビニル単量体(a1)59.
5質量%以上74.5質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(a2)25質量%以上
40質量%以下、及びエポキシ基を有するビニル単量体(a3)0.5質量%以上5質量
%以下を含有する単量体混合物(a)を重合して得られる重合体(A)である、請求項5
に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5,6のいずれか一項に記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物70質
量%以上99.9質量%以下と、光拡散剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有する
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形
した成形品。
【請求項9】
請求項8に記載の成形品の表面にハードコート層が設けたハードコート品。
【請求項10】
請求項8に記載の成形品、または請求項9に記載のハードコート品を用いたグレージン
グ材。
【請求項11】
請求項4~7のいずれか一項に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形した
光拡散板。
【請求項12】
請求項4~7のいずれか一項に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形した
光ディスク基板。
【請求項13】
請求項4~7のいずれか一項に記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形
した導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性である耐衝撃を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させるための流動性向上剤、該流動性向上剤を含有する流動性に優れた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂」という。)は、機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性等に優れていることから、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車用部材、建築材料等の幅広い分野に使用されている。しかしながら、通常、PC樹脂は非晶性であるため、成形加工温度が高く、溶融流動性に劣るという問題点を有している。
近年、これらの用途では成形体の大型化、薄肉化、形状複雑化が進み、PC樹脂に対しては、成形加工時の溶融流動性の向上が要求されている。
【0003】
PC樹脂の優れた特性を損なうことなく、成形加工時の溶融流動性を向上させる方法として、芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸フェニル単量体と、エポキシ基を有する単量体重合体と、カルボキシル基を含有する重合体とを流動性向上剤として用い、PC樹脂と溶融混練する方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながらこの方法では、耐衝撃性が低下するために、耐衝撃性の要求される用途には適用できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、PC樹脂本来の特性である耐衝撃を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させるための流動性向上剤、該流動性向上剤を含有する流動性に優れたPC樹脂組成物、及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、エポキシ基を有する重合体と、カルボキシル基を有する重合体からなり、全量におけるメタクリル酸メチル単量体の割合が20~80質量%である流動性向上剤として用い、該流動性向上剤をPC樹脂と溶融混練することで、PC樹脂本体の特性である耐衝撃を損なうことなく、成形加工時の流動性の向上が可能であることを見出した。
【0007】
即ち、前記目的は、以下の本発明[1]~[13]によって達成される。
[1] 芳香族ビニル単量体(a1)0.5質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリ
ル酸エステル(a2)0.5質量%以上99質量%以下、及びエポキシ基を有するビニル
単量体(a3)0.5質量%以上5質量%以下を含有する単量体混合物(a)を重合して
得られる重合体(A)0.5質量部以上99.5質量部以下と、(メタ)アクリル酸エス
テルを含有する単量体混合物(b)と、カルボキシル基を有する化合物を用いて重合して
得られる重合体(B)0.5質量部以上99.5質量部以下とを含有し、前記重合体(A
)と前記重合体(B)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が
20質量%以上80質量%以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂用流動性向上剤。
[2] さらに、芳香族ビニル単量体(c1)30質量%以上90質量%以下、(メタ)
アクリル酸エステル10質量%以上70質量%以下を含有する単量体混合物(c2)を重
合して得られる重合体(C)10質量部以上80質量部以下を含有し、前記重合体(A)
と前記重合体(B)と前記重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メ
チル単量体の量が20質量%以上80質量%以下である[1]に記載の芳香族ポリカーボ
ネート樹脂用流動性向上剤。
[3] 前記重合体(A)が有するエポキシ基と、前記重合体(B)が有するカルボキシ
ル基を反応させて得られる、[1]または[2]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネ
ート樹脂用流動性向上剤。
[4] 芳香族ポリカーボネート樹脂70質量%以上99.9質量%以下と、[1]~[
3]のいずれかに記載の流動性向上剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有する芳香
族ポリカーボネート系樹脂組成物。
[5] 前記流動性向上剤が、前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計100質量%
に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が、24質量%以上60質量%以下である流動
性向上剤である[4]に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
[6] 前記流動性向上剤に含まれる前記重合体(A)が、芳香族ビニル単量体(a1)
59.5質量%以上74.5質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(a2)25質量
%以上40質量%以下、及びエポキシ基を有するビニル単量体(a3)0.5質量%以上
5質量%以下を含有する単量体混合物(a)を重合して得られる重合体(A)である、[
5]に記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
[7] [5],[6]のいずれかに記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物7
0質量%以上99.9質量%以下と、光拡散剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有
する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
[8] [4]~[7]のいずれかに記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を
成形した成形品。
[9] [8]に記載の成形品の表面にハードコート層が設けたハードコート品。
[10] [8]に記載の成形品、または[9]に記載のハードコート品を用いたグレー
ジング材。
[11] [4]~[7]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成
形した光拡散板。
[12] [4]~[7]のいずれかに記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物
を成形した光ディスク基板。
[13] [4]~[7]のいずれかに記載のある芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物
を成形した導光板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の流動性向上剤によれば、PC樹脂本体の特性である耐衝撃性を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させることができる。
本発明のPC樹脂組成物によれば、成形加工時の流動性良く、成形品を得ることができ、ハードコート品、グレージング剤、光拡散板、光ディスク基板、導光板として優れた性能を有する。
本発明の成形品は、PC樹脂本来の特性を有し、ハードコート品、グレージング材、光拡散板、光ディスク基板、導光板として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重合体(A)は、芳香族ビニル単量体(a1)、(メタ)アクリル酸エステル(a2)、及びエポキシ基を有するビニル単量体(a3)を含有する単量体混合物(a)を重合して得られる。
【0010】
芳香族ビニル単量体(a1)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-メトキシスチレン、o-メトキシスチレン、2,4-ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、重合体(A)の屈折率が芳香族ポリカーボネート樹脂と近くなり、ガラス転移温度が高くなることから、スチレン、α-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンが好ましく、スチレンとα-メチルスチレンを併用することがより好ましい。
【0011】
芳香族ビニル単量体(a1)がスチレンとα-メチルスチレンとの併用である場合、芳香族ビニル単量体(a1)中のα-メチルスチレンの含有量は10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
芳香族ビニル単量体(a1)中のα-メチルスチレンの含有量が10質量%以上であれば、得られる重合体のガラス転移温度が高くなり、高温時の透明性が良好となる。より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。
芳香族ビニル単量体(a1)中のα-メチルスチレンの含有量が70質量%以下であれば、共重合性が悪くならず、得られる重合体の重合率が高くなる。より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0012】
(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸iso-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレン等が挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が高く、成形品の耐衝撃性が良好になることから、(メタ)アクリル酸フェニルまたは(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
なお、本願において、(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0013】
エポキシ基を含有するビニル単量体(a3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、4―ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、4―ヒドロキシブチルメタクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ダイセル化学工業株式会社製「CYCLOMER M―100」、「CYCLOMER A―200」、「M―GMA」、多官能エポキシ化合物の部分(メタ)アクリレート化化合物などが挙げられる。成形品の耐熱性を損なわない点で、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。
【0014】
単量体混合物(a)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率は0.5質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率は0.5質量%以上99質量%以下、エポキシ基を含有するビニル単量体(a3)の含有率は0.5質量%以上5質量%以下である。
【0015】
単量体混合物(a)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が0.5質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることが出来る。好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは59.5質量%以上である。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が99質量%以下であれば、成形品の機械的特性が損なわれない。好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは74.5質量%以下である。
【0016】
単量体混合物(a)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率が0.5質量%以上であれば、成形品の耐表層剥離性、及び機械的特性が損なわれない。好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上である。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率が99質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させる。好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0017】
単量体混合物(a)(100質量%)中の、エポキシ基を有するビニル単量体(a3)の含有率が0.5質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に分解を生じることなく、流動性を向上させる。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、エポキシ基を有するビニル単量体(a3)の含有率が5質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に滞留による劣化を生じることがなく、流動性を向上させる。好ましくは2.5質量%以下である。
【0018】
単量体混合物(a)は、必要に応じて、単量体(a1)~(a3)と共重合可能な、他の単量体(a4)を含有してもよい。
他の単量体(a4)としては、例えば、安息香酸ビニル;酢酸ビニル;無水マレイン酸;N-フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;ピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
単量体混合物(a)(100質量%)中の、他の単量体(a4)の含有率は0質量%以上40質量%以下である。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、他の単量体(a4)の含有率が40質量%以下であれば、成形加工時の流動性を向上させ、成形品の耐衝撃性が損なわれない。
【0020】
なお、本発明の流動性向上剤中における単量体(a1)~(a3)の含有量は、流動性向上剤中の重合体(A)と重合体(B)と重合体(C)を分取採取し、組成分析することによって測定できる。分取採取する方法としては特に限定はされないが、一般的な方法が使用でき、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーといったクロマトグラフィーが使用できる。組成分析する方法としては、特に限定はされないが、一般的な方法が使用でき、例えば核磁気共鳴スペクトル測定や質量分析、元素分析といった方法が使用できる。
【0021】
本発明の重合体(A)を得るための重合方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法が挙げられるが、回収方法が容易である点で、懸濁重合法、乳化重合法が好ましい。但し、乳化重合法の場合は、重合体(A)に残存する塩類が芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を引き起こすおそれがあるため、カルボン酸系乳化剤を用いて、酸凝固等により重合体の回収を行なうか、燐酸エステル等のノニオンアニオン系乳化剤を用いて、酢酸カルシウム等で塩凝固することが好ましい。
重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、過硫酸塩、有機過酸化物または過硫酸塩と還元剤との組み合わせからなるレドックス系開始剤、アゾ化合物が挙げられる。
【0022】
重合体(A)のエポキシ基の量は0.01mmol/g以上0.2mmol/g以下であり、0.03mmol/g以上0.1mmol/g以下が好ましい。
重合体(A)のエポキシ基の量が0.01mmol/g以上であれば、重合体(B)との反応性が十分となり、成形品の耐表層剥離性、及び機械的特性が損なわれない。
重合体(A)のエポキシ基の量が0.2mmol/g以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に滞留による劣化を生じることがなく、流動性を向上させる。
なお、重合体(A)中のエポキシ基量は滴定操作によって測定できる。滴定操作としては特に限定はされないが、例えば重合体(A)を、濃度規定した塩酸含有有機溶剤に溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として水酸化カリウム溶液で滴定する方法が使用できる。
【0023】
重合体(A)の質量平均分子量は5,000以上であり、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましく、40,000以上が特に好ましい。また、重合体(A)の質量平均分子量は200,000以下であり、170,000以下が好ましく、150,000以下がより好ましく、120,000以下がさらに好ましく、100,000以下が特に好ましい。
【0024】
重合体(A)の質量平均分子量が5,000以上であれば、相対的に低分子量物が少なく、成形品の耐熱性等が損なわれない。また、溶融混練時の発煙等による成形品の外観不良も生じない。高温時の透明性が良好な成形品(透明性の温度依存性が小さい成形品)が必要な場合は、重合体の質量平均分子量は高い方がよい。
重合体(A)の質量平均分子量が200,000以下であれば、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融粘度が高くならず、充分な溶融流動性の向上効果が得られる。
【0025】
本発明の重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル(b1)を含有する単量体混合物(b)と、エポキシ基と反応し得るカルボキシル基を有する化合物を用いて重合して得られる。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル(b1)としては、前記の単量体(a2)と同様のものを用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル(b1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が高く、成形品の耐衝撃性を損なわないことから、(メタ)アクリル酸フェニルまたは(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
【0027】
単量体混合物(b)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(b1)の含有率は0.5質量%以上100質量%以下である。
単量体混合物(b)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(b1)の含有率が0.5質量%以上であれば、成形品の機械的特性が損なわれない。好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。
【0028】
単量体混合物(b)は、必要に応じて、単量体(b1)と共重合可能な、他の単量体(b2)を含有してもよい。
他の単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;ジビニルベンゼン等の多官能単量体;安息香酸ビニル;酢酸ビニル;無水マレイン酸;N-フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;ポリカプロラクトンマクロモノマー;ピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
単量体混合物(b)(100質量%)中の、他の単量体(b2)の含有率は0質量%以上99.5質量%以下である。
単量体混合物(b)(100質量%)中の、他の単量体(b2)の含有率が99.5質量%以下であれば、成形加工時の流動性を向上させることができる。好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0030】
重合体(B)は、単量体混合物(b)と、カルボキシル基を有する化合物を用いて重合して得られる。
カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体、3-メルカプトプロピオン酸等のカルボキシル基を有する連鎖移動剤、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチル-プロピオンアミジン]等のカルボキシル基を有する重合開始剤が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、重合体(B)の末端に効率よくカルボキシル基を導入できることから、カルボキシル基を有する連鎖移動剤、カルボキシル基を有する重合開始剤が好ましい。
【0031】
重合体(B)としては、3-メルカプトプロピオン酸を連鎖移動剤として用いたメタクリル酸エステル重合体が好ましい。
【0032】
本発明の重合体(B)を得るための重合方法としては、重合体(A)と同様の重合方法を用いることが出来る。
【0033】
重合体(B)のカルボキシル基の量は0.02mmol/g以上0.6mmol/g以下であり、0.05mmol/g以上0.4mmol/g以下が好ましい。
重合体(B)のカルボキシル基の量が0.02mmol/g以上であれば、重合体(A)との反応性が十分となり、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に微細化された重合体ドメインが形成され、成形品が高度な透明性を有する。
重合体(B)のカルボキシル基の量が0.6mmol/g以下であれば、溶融混練時に加水分解、熱分解を生じることがない。
【0034】
重合体(B)の質量平均分子量は5,000以上であり、10,000以上が好ましい。また、重合体(B)の質量平均分子量は200,000以下であり、120,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。
【0035】
重合体(B)の質量平均分子量が5,000以上であれば、相対的に低分子量物が少なく、成形品の耐熱性等が損なわれない。また、溶融混練時の発煙等による成形品の外観不良も生じない。
重合体(B)の質量平均分子量が200,000以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が低下せず、成形品の外観が良好となる。
【0036】
流動性向上剤中の重合体(A)の含有量は0.5質量部以上99.5質量部以下であり、30質量部以上70質量部以下であることが好ましい。流動性向上剤中の重合体(B)の含有量は0.5質量部以上99.5質量部以下であり、30質量部以上70質量部以下であることが好ましい。但し、重合体(A)及び重合体(B)の合計は100質量部である。
流動性向上剤中のエポキシ基の量は、流動性向上剤中のカルボキシル基の量よりも低いことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に滞留による劣化を生じることがなく、流動性を向上させる。
【0037】
流動性向上剤中の重合体(A)と重合体(B)の合計100質量%に対してメタクリル酸メチル単量体の量が20質量%以上80質量%以下である。好ましくは24質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
流動性向上剤中の重合体(A)と重合体(B)の合計100質量%に対してメタクリル酸メチル単量体の量が20質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が良好で、成形品の耐衝撃が良好である。80質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることができる。
【0038】
本発明の重合体(C)は、芳香族ビニル単量体(c1)、(メタ)アクリル酸エステル(c2)を含有する単量体混合物(c)を重合して得られる。
【0039】
芳香族ビニル単量体(c1)としては、前記の芳香族ビニル単量体(a1)と同様のものを用いることができる。芳香族ビニル単量体(c1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、重合体(C)の屈折率が芳香族ポリカーボネート樹脂と近くなり、ガラス転移温度が高くなることから、スチレン、α-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンが好ましく、スチレンとα-メチルスチレンを併用することがより好ましい。
【0040】
芳香族ビニル単量体(c1)がスチレンとα-メチルスチレンとの併用である場合、芳香族ビニル単量体(c1)中のα-メチルスチレンの含有量は10質量以上70質量%以下であることが好ましい。
芳香族ビニル単量体(c1)中のα-メチルスチレンの含有量が10質量%以上であれば、得られる重合体のガラス転移温度が高くなり、高温時の透明性が良好となる。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。
芳香族ビニル単量体(c1)中のα-メチルスチレンの含有量が70質量%以下であれば、共重合性が悪くならず、得られる重合体の重合率が高くなる。より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル(c2)としては、前記の単量体(a2)と同様のものを用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル(c2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が高く、成形品の耐表層剥離性を損なわないことから、(メタ)アクリル酸フェニルまたは(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
【0042】
単量体混合物(c)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率は0.5質量%以上99.5質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(c2)の含有率は0.5質量%以上99.5質量%以下である。
【0043】
単量体混合物(c)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率が0.5質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させ、成形品の耐薬品性が損なわれない。好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。
単量体混合物(c)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率が99.5質量%以下であれば、成形品の耐表層剥離性、及び機械的特性が損なわれない。好ましくは95質量%以下である。
【0044】
単量体混合物(c)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(c2)の含有率が0.5質量%以上であれば、成形品の耐表層剥離性、及び機械的特性が損なわれない。好ましくは5質量%以上である。
単量体混合物(c)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(c2)の含有率が99.5質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させ、成形品の耐薬品性が損なわれない。好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0045】
単量体混合物(c)は、必要に応じて、単量体(c1)及び(c2)と共重合可能な、他の単量体(c3)を含有してもよい。
他の単量体(c3)としては、前記の単量体(a4)と同様のものを用いることができる。他の単量体(c3)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
単量体混合物(c)(100質量%)中の、他の単量体(c3)の含有率は0質量%以上40質量%以下である。
単量体混合物(c)(100質量%)中の、他の単量体(c3)の含有率が40質量%以下であれば、成形加工時の流動性を向上させ、成形品の耐薬品性が損なわれない。
【0047】
重合体(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶であり、屈折率は芳香族ポリカーボネート樹脂に近いことが好ましい。
即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する重合体ドメインの、体積平均ドメイン径(dv)が、0.05μm以上の相分離として確認される。
【0048】
本発明の重合体(C)を得るための重合方法としては、重合体(A)と同様の重合方法を用いればよい。
【0049】
重合体(C)の質量平均分子量は5,000以上であり、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましい。また、重合体(C)の質量平均分子量は200,000以下であり、120,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。
【0050】
重合体(C)の質量平均分子量が5,000以上であれば、相対的に低分子量物が少なく、成形品の耐熱性等が損なわれない。また、溶融混練時の発煙等による成形品の外観不良も生じない。
重合体(C)の質量平均分子量が200,000以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂系組成物の溶融粘度が高くならず、溶融流動性の向上効果が得られる。
【0051】
本発明の流動性向上剤は、重合体(C)を含有してもよい。
重合体(C)を含有する場合、重合体(A)と重合体(B)および重合体(C)の合計を100質量部としたとき、流動性向上剤中の重合体(A)の含有量は10質量部以上45質量部以下であり、重合体(B)の含有量は10質量部以上45質量部以下であり、重合体(C)の含有量は10質量部以上80質量部以下である。
【0052】
流動性向上剤(100質量部)中の、重合体(C)の含有量が45質量部以下であれば、成形品の透明性を損なうことなく、成形加工時の流動性をさらに向上させることができる。
【0053】
流動性向上剤中の重合体(A)、重合体(B)と、重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が20質量%以上80質量%以下である。好ましくは25質量%以上75質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。
流動性向上剤中の重合体(A)、重合体(B)および重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が20質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が良好で、成形品の耐衝撃が良好である。80質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることができる。
【0054】
本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合して溶融混練することにより、重合体(A)が有するエポキシ基と重合体(B)が有するカルボキシル基とが反応する。エポキシ基とカルボキシル基との反応により、流動性向上剤は芳香族ポリカーボネート樹脂に対して相分離挙動を示し、成形加工時に流動性の向上効果を発現する。
成形加工後は、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に、微細化された流動性向上剤のドメインを形成する。これにより、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させることができる。
【0055】
本発明の流動性向上剤を、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合するには、以下の(I)、(II)、または(III)の方法を用いることができる。
(I):重合体(A)、重合体(B)、及び必要に応じて重合体(C)を配合した流動性向上剤を、芳香族ポリカーボネート樹脂と配合して、溶融混練する。
(II):重合体(A)、重合体(B)、及び必要に応じて重合体(C)を配合した流動性向上剤を溶融混練して、エポキシ基とカルボキシル基を反応させた後、これを芳香族ポリカーボネート樹脂と配合して、さらに溶融混練する。
(III)重合体(A)、重合体(B)、及び必要に応じて重合体(C)を配合した流動性向上剤を溶融混練して、エポキシ基とカルボキシル基を反応させている途中に芳香族ポリカーボネート樹脂を配合して、さらに溶融混練する。
【0056】
また、重合体(A)を芳香族ポリカーボネート樹脂と配合して溶融混練した後、重合体(B)を配合して、さらに溶融混練する方法や、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂のマスターバッチを調製した後、芳香族ポリカーボネート樹脂を配合して溶融混練する方法を用いることもできる。
【0057】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、公知の方法で製造されたものを用いることができる。
芳香族ポリカーボネート樹脂が、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン系ポリカーボネートである場合、その製造方法としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを原料として用い、アルカリ水溶液及び溶剤の存在下にホスゲンを吹き込んで反応させる方法;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと炭酸ジエステルとを、触媒の存在下にエステル交換させる方法等が挙げられる。
【0058】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、特に制限はないが、好ましくは21,000以上28,000以下である。粘度平均分子量は、JISK7252-2に定義されるもので、毛細管粘度測定によって得られる。一般に、粘度平均分子量が高くなれば、耐衝撃性や耐熱性が向上するが、他樹脂を添加した際の相溶性が低下し、機械特性が低下する傾向がみられる。粘度平均分子量がこの範囲であれば、本発明の流動性向上剤を添加した際の機械特性と耐熱性、流動性のバランスに優れる。好ましくは21,000以上26,000以下であり、より好ましくは21,000以上24,000以下である。
【0059】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、流動性向上剤中の重合体(A)と重合体(B)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が24質量%以上60質量%以下であることが好ましい、より好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
流動性向上剤中の重合体(A)と重合体(B)の合計、100質量%に対してメタクリル酸メチル単量体の量が24質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下の範囲であっても、相溶性が良好で、成形品の耐衝撃が良好である。60質量%以下であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることができる。
【0060】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、流動性向上剤中の重合体(A)、重合体(B)、重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が24質量%以上70質量%以下である。好ましくは35質量%以上65質量%以下である。
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、流動性向上剤中の重合体(A)、重合体(B)、重合体(C)の合計、100質量%に対して、メタクリル酸メチル単量体の量が24質量%以上であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性が良好で、成形品の耐衝撃が良好である。70質量%以下であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることができる。
【0061】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、単量体混合物(a)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率は59.5質量%以上~74.5質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率は25質量%以上~40質量%以下、エポキシ基を含有するビニル単量体(a3)の含有率は0.5質量%以上~5質量%以下であることが好ましい。
【0062】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、単量体混合物(a)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が59.5質量%以上であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させることが出来る。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が74.5質量%以下であれば、成形品の機械的特性が損なわれない。
【0063】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、単量体混合物(a)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率が25質量%以上であれば、成形品の耐表層剥離性、及び機械的特性が損なわれない。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率が40質量%以下であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂に対して非相溶となり、成形加工時の流動性を向上させる。
【0064】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、21,000以上28,000以下であるとき、単量体混合物(a)(100質量%)中の、エポキシ基を有するビニル単量体(a3)の含有率が0.5質量%以上であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に分解を生じることなく、流動性を向上させる。
単量体混合物(a)(100質量%)中の、エポキシ基を有するビニル単量体(a3)の含有率が5質量%以下であれば、粘度平均分子量が大きな芳香族ポリカーボネート樹脂との溶融混練時に滞留による劣化を生じることがなく、流動性を向上させる。好ましくは2.5質量%以下である。
【0065】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)は、芳香族ポリカーボネート樹脂70質量%以上99.9質量%以下と、本発明の流動性向上剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有する。
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)中の、流動性向上剤の含有率は0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)中の、流動性向上剤の含有率は20質量%以下が好ましい。
【0066】
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)中の、流動性向上剤の含有率が0.1質量%以上であれば、成形加工時の流動性が十分に向上する。
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)中の、流動性向上剤の含有率が30質量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の機械的特性が損なわれない。
【0067】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、光拡散剤を含有してもよい。
光拡散剤としては、例えば、硝子充填材、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、マイカ、ワラストナイト、酸化チタン等の無機微粒子;非架橋性モノマーと架橋性モノマーとを重合して得られる有機架橋粒子、シリコーン系架橋粒子、ポリエーテルサルホン粒子等の非晶性耐熱ポリマー粒子、エポキシ樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、フェノール樹脂粒子等の高分子微粒子が挙げられる。
【0068】
光拡散剤としては、無機微粒子よりも高分子微粒子の方が好ましい。高分子微粒子を用いることにより、光拡散性と全光線透過率との両立がより高いレベルにおいて実現可能である。
高分子微粒子の屈折率は、通常、1.33以上1.7以下程度である。高分子微粒子の屈折率がこの範囲であれば、樹脂組成物に配合した状態において充分な光拡散機能を発揮する。
【0069】
光拡散剤の平均粒子径は、0.01μm以上50μm以下が好ましく、0.1μm以上10μm以下がより好ましく、0.1μm以上8μm以下がさらに好ましい。平均粒子径は、レーザー光散乱法で求められる粒度の積算分布の50%(D50)で表される。
光拡散剤は、粒径分布が狭いものが好ましく、平均粒子径±2μmの範囲にある微粒子が全体の70質量%以上となるような分布を有するものがより好ましい。
【0070】
光拡散剤の屈折率と、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率との差の絶対値は、0.02以上0.2以下であることが好ましい。屈折率の差がこの範囲にあることにより、光拡散性と全光線透過率とを高いレベルで両立させることが可能となる。光拡散剤の屈折率は、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率よりも低いことがより好ましい。
【0071】
光拡散剤を含有する場合、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)は、芳香族ポリカーボネート樹脂69.9質量%以上99.8質量%以下と、本発明の流動性向上剤0.1質量%以上30質量%以下と、光拡散剤0.1質量%以上30質量%以下とを含有する。
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物(100質量%)中の、光拡散剤の含有率が0.1質量%以上30質量%以下であれば、十分な光拡散機能を発現する。
【0072】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、必要に応じて、公知の安定剤、色材、帯電防止剤、加水分解改良剤、熱線吸収剤、離型剤、強化剤、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。安定剤としては例えば、成形加工時の分子量や色相を安定化させるためにリン系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、紫外線吸収剤、および光安定剤などを含有させることができる。色材としては例えば、ブルーイング剤、蛍光染料などを含有させることができる。帯電防止剤としては例えば、有機スルホン酸リチウム、有機スルホン酸ナトリウム、有機スルホン酸カリウム、有機スルホン酸セシウム、有機スルホン酸ルビジウム、有機スルホン酸カルシウム、有機スルホン酸マグネシウム、有機スルホン酸バリウムなどの有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩が挙げられる。離型剤としては例えば、脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス、シリコーン化合物、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができ、含有することで離型不良を防ぐことができる。成形品の強度、剛性、さらには難燃性を向上させるために、硝子繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等を含有させることができる。さらに、耐薬品性の改良のためにポリエチレンテレフタレート等の他のエンジニアリングプラスチック組成物、耐衝撃性を向上させるために、ゴム状弾性体等を配合してもよい。
【0073】
更に本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、各種染料や顔料、無機充填剤、抗菌剤、光触媒系防汚剤などを配合することができる。
【0074】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単純スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダーを用いて、流動性向上剤、芳香族ポリカーボネート樹脂、及び必要に応じて光拡散剤等を配合し、混練する公知の方法によって調製される。
【0075】
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、注型成形法等の公知の方法で成形することにより得られる。本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、射出成形品の原料として特に有用である。
【0076】
本発明の成形品は、ハードコート品、グレージング材、光拡散板、光ディスク基板、導光板、建築物、建築資材、農業資材、海洋資材、電気・電子機器、機械、医療材料、車両部材、雑貨等の幅広い用途に使用できる。
【0077】
次に本発明のハードコート品について説明する。
本発明のハードコート品は、上述した芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品表面にハードコート層が設けられたものである。
ハードコート層は、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品の表面に、ハードコート剤を塗布し、硬化させて形成される。
ハードコート剤としては、例えば、シリコーン樹脂系ハードコート剤、他の有機樹脂系ハードコート剤が挙げられる。
【0078】
シリコーン樹脂系ハードコート剤は、シロキサン結合をもった硬化樹脂層を形成するものである。シリコーン樹脂系ハードコート剤としては、例えば、3官能シロキサン単位に相当する化合物(トリアルコキシシラン化合物等)を主成分とする化合物の部分加水分解縮合物、3官能シロキサン単位に相当する化合物と4官能シロキサン単位に相当する化合物(テトラアルコキシシラン化合物等)とを含む化合物の部分加水分解縮合物、これら部分加水分解縮合物にコロイダルシリカ等の金属酸化物微粒子を充填した部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0079】
他の有機樹脂系ハードコート剤としては、例えば、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、多官能アクリル樹脂が挙げられる。これらのうち、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、コロイダルシリカと(メタ)アクリロイルアルコキシシランとを縮合して得られる有機無機ハイブリッド(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレートまたは多官能(メタ)アクリレート;有機無機ハイブリッドビニル化合物等のモノマーまたはオリゴマーが好ましい。
【0080】
ハードコート剤の成形品への塗布は、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ローラーコート法等の公知の塗布方法のから、成形品の形状に応じた塗布方法を適宜選択して行なうことができる。これらのうち、複雑な形状に対応しやすく、かつ膜厚制御の容易さの点で、ディップコート法、フローコート法、およびスプレーコート法が好ましい。
ハードコート剤の硬化は、有機溶剤を使用している場合には有機溶媒を揮発させ、その後、これに紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射および/または加熱することにより行なうことができる。
【0081】
以上説明したハードコート品は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、高い溶融流動性を備えた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなるため、成形加工性に優れる。
本発明のハードコート品は、透明性、耐熱性、耐衝撃性、外観に優れることから、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、遊戯具、雑貨等の各種用途に有用である。また、大型化、軽量薄肉化、形状複雑化、高性能化が可能であることから、フロントドアウインドウ(ウインドシールド)、リアドアウインドウ、クォーターウインドウ、バックウインドウ、バックドアウインドウ、サンルーフ、ルーフパネル、各種窓材等の建築・車両用グレージング材に好適である。
【0082】
次に本発明の光拡散板について説明する。
本発明の光拡散板は、上述した樹脂組成物から、通常、公知の射出成形法により製造される。
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、とりわけ大型かつ薄肉の光拡散板(特に画像表示装置用光拡散板)の製造に適している。本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物によれば、表面積が500cm2以上50,000cm2 以下である光拡散板が得られる。光拡散板の表面積は1,000cm2以上25,000cm2 以下が好ましく、厚さは0.3mm以上3mm以下が好ましい。このように、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物によれば、大型であり、寸法安定性が高く、かつ薄肉(軽量)である光拡散板を製造できる。
【0083】
光拡散板は、フレネルレンズ形状、シリンドリカルレンズ形状等の表面形状を有する単層板であってもよく、フレネルレンズ形状、シリンドリカルレンズ形状等の表面形状を有する他の材料を光拡散板に積層した積層板であってもよい。
【0084】
以上説明した光拡散板は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、高い溶融流動性を備えた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなるため、成形加工性に優れる。
また、本発明の光拡散板は耐薬品性に優れることから、表面改質を施すことができ、結果、他の機能を付与することができる。「表面改質」とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等によって光拡散性成形品の表面に新たな層を設けることをいう。
【0085】
次に本発明の光ディスク基板について説明する。
本発明の光ディスク基板は、上述した樹脂組成物から、通常、公知の射出成形法(射出圧縮成形法を含む。)などの溶融成形により製造されるものであるが、特に、上述の樹脂組成物は高い溶融流動性を備え、転写性などの成形加工性に優れているため、本発明の光ディスク基板としては、スタンパーを使用した射出成形法により、その片面または両面にグルーブやピットが転写されるものに好適であり、通常の記録密度から高い記録密度まで幅広く対応可能である。
【0086】
使用される射出成形機およびスタンパーとしては、一般的なものでよいが、射出成形機のシリンダーやスクリューには、樹脂組成物由来の炭化物の発生を抑制し、光ディスク基板の信頼性を高める観点から、樹脂組成物との付着性が低く、かつ耐食性、耐摩耗性を有する材料から構成されたものを使用することが好ましい。
また、成形工程の環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましく、さらに、成形前には、樹脂組成物を十分乾燥して水分を除去することや、樹脂組成物が成形機内で滞留して、溶融分解しないように配慮することも重要となる。
【0087】
光ディスクは、上述の樹脂組成物からなる光ディスク基板を備えているものであれば、その具体的な積層構成には制限はなく、光ディスク基板の片面あるいは両面に、反射膜、記録層、光透過層などが必要に応じて積層された形態が例示できる。
【0088】
以上説明した光ディスク基板は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、高い溶融流動性を備えた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなるため、転写性等の成形加工性が良好で、さらに、成形品の複屈折率も改善されている。よって、このような光ディスク基板は、オーディオ用のCD(直径12cmのディスク当り約650MBの記録密度)から高密度のディスクまで適用可能である。
【0089】
次に本発明の導光板について説明する。
本発明の導光板は、上述した樹脂組成物から、通常、公知の射出成形法により製造される。導光板の具体的な形状には特に制限はないが、上述の樹脂組成物は高い溶融流動性を備え、射出成形用金型のキャビティに形成された細かい凹凸を良好に転写することができる。よって、一面が一様な傾斜の傾斜面とされ、この傾斜面に連続したプリズム形状の凹凸パターンが施され乱反射部とされた楔形断面形状の導光板が好ましく例示できる。このような導光板は、キャビティに凹凸部が形成された射出成形用金型を用い、凹凸部を転写しつつ射出成形することで製造できる。なお、射出成形用金型のキャビティに凹凸部を設ける方法としては、入れ子に凹凸部を形成する方法が簡便で好ましい。
【0090】
このような導光板と、この導光板に向けて光を射出する光源とを少なくとも備えることにより、携帯電話、携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、ディスプレイ、照明、信号、自動車のテールランプ、電磁調理器の火力表示などに使用されるエッジ式の面光源体を構成できる。光源としては、蛍光ランプの他、冷陰極管、LED、有機ELなどの自己発光体を使用できる。
【0091】
以上説明した導光板は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、高い溶融流動性を備えた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなるため、使用環境が制限されることなく、幅広い用途に使用できるうえ、射出成形用金型のキャビティに形成された細かい凹凸などが十分に転写され、良好に成形され、輝度の低下などの問題が抑制されている。よって、このような導光板を使用することにより、高性能で工業的価値の高い面光源体を提供できる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0093】
(重合率の測定)
以下の手順により、重合体の重合率を測定した。
1)アルミ皿の質量を0.1mgの単位まで測定する。(A)
2)アルミ皿に重合体を約1g取り、質量を0.1mgの単位まで測定する。(B)
3)重合体の入ったアルミ皿を180℃の乾燥機に入れ、45分間加熱する。
4)重合体の入ったアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケーター内で24℃まで冷却した後、質量を0.1mgの単位まで測定する。(C)
5)下記式により、重合体の固形分を算出する。
(C-A)/(B-A)×100[%]
6)算出した固形分を、仕込み時の固形分で割り、重合体の重合率を算出する。
【0094】
(質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定)
以下の手順により、重合体の(Mw)及び(Mn)を測定した。
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、標準ポリスチレンによる検量線から求めた。測定条件は以下のとおり。
カラム :TSK-GEL SUPER HM-H(東ソー(株)製)
測定温度 :40℃
溶離液 :テトラヒドロフラン
溶離液速度 :0.6ml/分
検出器 :RI
【0095】
(エポキシ基量の測定)
以下の手順により、重合体(A)のエポキシ基量を測定した。
1)ブランクの測定
1-1)下記の溶液Aをホールピペットで10ml採取し、100mlの共栓付き三角フラスコに入れる。
溶液A:0.1N塩酸(テトラヒドロフラン/エタノール=1/1)溶液
1-2)採取した溶液Aを、フェノールフタレインを指示薬として下記の溶液Bで滴定する。微紅色が30秒間続いた点を滴定の終点とし、このときの溶液Bの滴定量をX(ml)とする。
溶液B:0.1N水酸化カリウム(アルコール性)溶液
【0096】
2)重合体(A)の測定
2-1)100mlの共栓付き三角フラスコに、重合体(A)を4~7gの範囲でW(g)を取る。ここにテトラヒドロフラン(THF)30mlを加え、重合体(A)を溶解する。
2-2)重合体(A)の溶液が入った三角フラスコに、溶液Aをホールピペットで10ml採取して加える。
2-3)該三角フラスコに冷却管を取り付け、60℃で5分間加熱する。
2-4)該三角フラスコを冷却した後、フェノールフタレインを指示薬として溶液Bで滴定する。微紅色が30秒間続いた点を滴定の終点とし、このときの溶液Bの滴定量をY(ml)とする。
2-5)下記式により、重合体(A)のエポキシ基量を小数点以下第1位まで算出する(式中のfは溶液Bの力価を示す)。
エポキシ基量=f×0.1×((X-Y)/1000)/W×1000(mmol/g)
【0097】
<製造例1>
重合体(A-1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を投入して攪拌し、窒素雰囲気下で内温を60℃まで加熱した。
乳化剤混合物:
フォスファノールRS-610Na 1.0部
(花王(株)製、アニオン系乳化剤)
脱イオン水 293部
【0098】
次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に投入した。
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0099】
下記の単量体混合物を360分かけてセパラブルフラスコ内に滴下し、その後60分間攪拌して重合を終了し、重合体(A-1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
スチレン 47.5部
α―メチルスチレン 24.0部
フェニルメタクリレート 27.5部
グリシジルメタクリレート 1.0部
n-オクタンチオール 0.5部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0100】
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を90℃に加温し攪拌した。ここに、得られた重合体(A-1)ラテックスを徐々に滴下した。次いで、94℃に昇温して5分間保持し、ラテックスの凝固を行なった。凝固物を分離洗浄後、80℃で24時間乾燥して、重合体(A-1)を得た。
重合体(A-1)の重合率は95%、(Mw)は40,000、(Mn)は21,000であった。
【0101】
<製造例2>
重合体(A-2)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例1と同様にして重合体(A-2)を得た。
単量体混合物:
スチレン 47.5部
α―メチルスチレン 24.0部
メチルメタクリレート 27.5部
グリシジルメタクリレート 1.0部
n-オクタンチオール 0.5部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0102】
重合体(A-2)の重合率は95%、(Mw)は43,000、(Mn)は22,000であった。
【0103】
<製造例3>
重合体(A-3)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例1と同様にして重合体(A-3)を得た。
単量体混合物:
スチレン 55.0部
α―メチルスチレン 24.0部
フェニルメタクリレート 20.5部
グリシジルメタクリレート 1.0部
n-オクタンチオール 0.5部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0104】
重合体(A-3)の重合率は95%、(Mw)は43,000、(Mn)は22,000であった。
【0105】
重合体(A-1)~(A-3)の組成を表1に示す。
【0106】
【0107】
<製造例4>
重合体(B-1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を投入して攪拌し、窒素雰囲気下で内温を60℃まで加熱した。
乳化剤混合物:
ペレックスSS-L 3.0部
(花王(株)製 アニオン系乳化剤)
脱イオン水 291部
【0108】
次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に投入した。
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0109】
下記の単量体混合物を180分かけてセパラブルフラスコ内に滴下し、その後60分間攪拌して重合を終了し、重合体(B-1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
フェニルメタクリレート 25.0部
メチルメタクリレート 75.0部
3-メルカプトプロピオン酸 3.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0110】
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を90℃に加温し攪拌した。ここに、得られた重合体(B-1)ラテックスを徐々に滴下した。次いで、94℃に昇温して5分間保持し、ラテックスの凝固を行なった。凝固物を分離洗浄後、80℃で24時間乾燥して、重合体(B-1)を得た。
重合体(B-1)の重合率は96%、(Mw)は15,000、(Mn)は4,000であった。
【0111】
<製造例5>
重合体(B-2)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例3と同様にして重合体(B-2)を得た。
単量体混合物:
メチルメタクリレート 100.0部
3-メルカプトプロピオン酸 3.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0112】
重合体(B-2)の重合率は96%、(Mw)は11,000、(Mn)は5,000であった。
【0113】
<製造例6>
重合体(B-3)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例3と同様にして重合体(B-3)を得た。
単量体混合物:
フェニルメタクリレート 100.0部
3-メルカプトプロピオン酸 3.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0114】
重合体(B-3)の重合率は96%、(Mw)は15,000、(Mn)は4,000であった。
【0115】
<製造例7>
重合体(B-4)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例3と同様にして重合体(B-4)を得た。
単量体混合物:
フェニルメタクリレート 75.0部
メチルメタクリレート 25.0部
3-メルカプトプロピオン酸 3.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0116】
重合体(B-4)の重合率は99%、(Mw)は15,000、(Mn)は4,000であった。
【0117】
<製造例8>
重合体(C-1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を投入して攪拌し、窒素雰囲気下で内温を60℃まで加熱した。
乳化剤混合物:
フォスファノールRS-610Na 1.0部
(花王(株)製 アニオン系乳化剤)
脱イオン水 293部
【0118】
次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に投入した。
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0119】
下記の単量体混合物を360分かけてセパラブルフラスコ内に滴下し、その後60分間攪拌して重合を終了し、重合体(C-1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
スチレン 48.5部
α―メチルスチレン 24.0部
メチルメタクリレート 27.5部
n-オクタンチオール 0.55部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0120】
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を90℃に加温し攪拌した。ここに、得られた重合体(C-1)ラテックスを徐々に滴下した。次いで、94℃に昇温して5分間保持し、ラテックスの凝固を行なった。凝固物を分離洗浄後、80℃で24時間乾燥して、重合体(C-1)を得た。
重合体(C-1)の重合率は95%、(Mw)は40,000、(Mn)は21,000であった。
【0121】
<製造例9>
重合体(C-2)の製造
単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、製造例8と同様にして重合体(C-2)を得た。
単量体混合物:
スチレン 48.5部
α―メチルスチレン 24.0部
フェニルメタクリレート 27.5部
n-オクタンチオール 0.55部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0122】
重合体(C-2)の重合率は95%、(Mw)は38,000、(Mn)は21,000であった。
【0123】
表2に示した割合で、重合体(A)、重合体(B)、及び重合体(C)を配合し、流動性向上剤(1)~(8)を調製した。
【0124】
【0125】
<実施例1~10、比較例1~8>
芳香族ポリカーボネート樹脂(ユーピロンS-2000F、三菱ケミカルエンジニアリングプラスチックス(株)製、粘度平均分子量22,000、略称PC1)、芳香族ポリカーボネート樹脂P2(ユーピロンS-3000F、三菱ケミカルエンジニアリングプラスチックス(株)製、粘度平均分子量20,500、略称PC2)、及び流動性向上剤(1)~(8)を表3に示す割合で配合し、2軸押出機(TEM-35、東芝機械(株)製)に供給し、280℃で溶融混練して芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を得た。
芳香族ポリカーボネート樹脂への流動性向上剤の配合は、前記の(I)の方法を用いた。
【0126】
【0127】
実施例1~10及び比較例1~8で得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を用いて、以下の評価を行なった。
【0128】
(デュポン衝撃試験)
成形品の耐衝撃性を、デュポン衝撃試験により評価した。
射出成形機(IS-100、東芝機械(株)製)を用いて樹脂組成物を成形し(成形温度280℃、金型温度60℃)、縦150mm×横150mm×厚さ2mmの成形品を得た。
デュポン衝撃試験はASTM D2794に準拠して、試験片に錘を落下させることにより、試験片が貫通されるかを測定した。測定は、直径1/2インチの撃ち型と直径3cmの受け台を使用し、1kgの錘を500mmの高さから落下させる条件と、5kgの錘を300mmの高さから落下させる条件の2条件で行い、測定場所は試験片の中心と、成形時のゲート付近の2か所で実施した。評価結果を表2に示す。貫通しない場合を「○」、貫通する場合を「×」と評価した。
【0129】
(溶融流動性)
樹脂組成物のスパイラルフロー長さを、射出成形機(IS-100、東芝機械(株)製)を用いて評価した。
成形温度280℃、金型温度60℃、射出圧力22MPaとし、成形品の肉厚は2mm、幅は15mmとした。評価結果を表3に示す。
【0130】
表3から明らかなように、実施例1~10で得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の成形品は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性である耐衝撃性を大きく損なうことなく、成形加工時の流動性が向上した。これは所定の割合のメタクリル酸メチル単量体を含有することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂との相容性が良好なためと考えられる。
【0131】
また、PC1のように粘度平均分子量の高いポリカーボネート樹脂を使用した場合でも、本発明の流動性向上剤では相溶性が良好で、耐衝撃性を大きく損なうことはない。
【0132】
また、実施例1~3、6~8のように、重合体(A)中の質量組成が所定の範囲であれば、試験片の中心部およびゲート付近のいずれにおいても、良好な耐衝撃性を示した。
【0133】
所定の割合のメタクリル酸メチル単量体を含有しない比較例1~3、5~7ではポリカーボネート樹脂本体の特性である耐衝撃性を大きく損なった。
本発明の流動性向上剤を配合していない比較例4および8では、実施例1~10に比較して流動性が低かった。
【0134】
本発明の流動性向上剤によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性(透明性、耐表層剥離性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐薬品性)を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させることができる。そのため、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、大型化、薄肉化、形状複雑化した成形品の成形を実現し、ハードコート品、グレージング材、光拡散板、光ディスク基板、導光板、建築物、建築資材、農業資材、海洋資材、電気・電子機器、機械、医療材料、車両部材、雑貨等幅広い用途に好適に用いられる。