(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 81/06 20060101AFI20240214BHJP
C08L 81/10 20060101ALI20240214BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L81/06
C08L81/10
C08J5/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2020022591
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-168523(JP,A)
【文献】特表2018-503737(JP,A)
【文献】特表2010-532815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/06
C08L 81/10
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを含む樹脂組成物であって、
ポリエーテルイミドスルホン(B)が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位(b-1)を有するものであり、
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とが相溶していることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
(一般式(2)において、Y
1
~Y
6
は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Ar
11
~Ar
14
は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表し、Xは、直接結合、あるいは、-O-、-SO
2
-、-S-、又は-C(=O)-を表す。)
【請求項2】
前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a-1)を有するものである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
(一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、-O-、-SO
2-、-S-、又は-C(=O)-を表す。但し、R
1~R
4のうちの少なくとも1つは、-SO
2-であり、且つ、R
1~R
4のうちの少なくとも1つは、-O-である。Ar
1~Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表す。a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。)
【請求項3】
前記ポリエーテルイミドスルホン(B)が、下記構造式(3)で表される繰り返し単位(b-2)を有するものである、請求項
1又は2に記載の樹脂組成物。
【化3】
【請求項4】
前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)が、下記構造式(4)で表される繰り返し単位(a-2)を有するものである、請求項2
又は3に記載の樹脂組成物。
【化4】
【請求項5】
前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と前記ポリエーテルイミドスルホン(B)との含有割合が、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=90:10~10:90(質量%)の範囲である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と前記ポリエーテルイミドスルホン(B)に由来するガラス転移温度が1つである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ガラス転移温度が240℃以上320℃以下である、請求項
6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
240℃における貯蔵弾性率(E’
240)が100MPa以上6000MPa以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
20℃における貯蔵弾性率(E’
20)に対する240℃における貯蔵弾性率(E’
240)の比(E’
240/E’
20)が0.03以上1以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
360℃、せん断速度1000s
-1における溶融粘度が10Pa・s以上1000Pa・s以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
厚み200μmで、波長380nmの光の全光線透過率が10%以下である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器や自動車、航空機等における絶縁フィルムやプリント基板、スペーサー、筐体、表面材、包装材、複合材料用マトリックスフィルム等に適用することができる、スーパーエンジニアリングプラスチックによる樹脂組成物に関する。本発明はまた、この樹脂組成物を用いた成形品及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器や自動車、航空機等の用途におけるフィルムとして、耐熱性や機械特性、耐薬品性、耐久性に優れていることから、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリビフェニルエーテルスルホン(PPSU)、ポリエーテルイミドスルホン(PEIS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)等に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチックが広く採用されるようになってきている。
【0003】
近年の更なる高機能化に伴い、樹脂フィルムに求められる耐熱性の水準も上がってきており、既存のスーパーエンジニアリングプラスチックを超える耐熱性が必要となる場合がある。例えば、半田リフロー工程では240℃を超える温度で数秒~数十秒間処理されるため、この条件でも変形しない高い耐熱性が求められる。
【0004】
既存のスーパーエンジニアリングプラスチックのうち、ポリビフェニルエーテルスルホンは、成形性と耐衝撃性に優れるという特徴があるものの、用途によっては耐熱性が十分でないという課題がある。また、紫外線を透過しやすいため、紫外線吸収性が必要な用途には使用できないという課題もある。一方、ポリエーテルイミドスルホンは耐熱性や紫外線吸収性に優れるものの、溶融粘度が高く、成形性が十分でないという課題がある。
【0005】
このように、一般的には高性能なスーパーエンジニアリングプラスチックを使用しても、単一の材料系では全ての要求特性を満たすことは難しいことから、2種類以上のプラスチックのポリマーブレンドが古くから研究されてきた。
【0006】
特許文献1には、ポリビフェニルエーテルスルホンとポリエーテルイミドの相分離ブレンドが開示されており、ポリエーテルイミドはポリエーテルイミドスルホンでもよく、これらをブレンドすることで、耐衝撃性、剛性、耐加水分解性が良好となる旨の記載がある。
【0007】
特許文献2には、ポリビフェニルエーテルスルホンとポリエーテルイミドのブレンドからなるキャパシターフィルムが開示されており、電気特性と機械特性とを両立できる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2010-532815号公報
【文献】特表2018-503737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者の検討により、特許文献1のポリビフェニルエーテルスルホンとポリエーテルイミドスルホンのブレンド物は相分離しており、ポリビフェニルエーテルスルホンのガラス転移温度で弾性率が低下するため、耐熱性が十分でないことが明らかとなった。また、相分離しているため、ポリビフェニルエーテルスルホン相とポリエーテルイミドスルホン相との相界面に起因する機械物性の低下も懸念される。
【0010】
また、特許文献2のブレンド物も非相溶系、すなわち相分離を生じることから、特許文献1のブレンド物と同様に、耐熱性、機械物性の低下の問題がある。
【0011】
このように、従来、ポリビフェニルエーテルスルホンとポリエーテルイミドスルホンのブレンド物については各種検討がなされてきたものの、これらの相溶系のブレンド物は見出されておらず、その知見も得られていなかった。
【0012】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、高い耐熱性と、優れた溶融成形性と紫外線吸収性をも有する樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)を相溶させることにより、耐熱性と溶融成形性、紫外線吸収性に優れた樹脂組成物を提供するものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[14]を提供するものである。
【0015】
[1] ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを含む樹脂組成物であって、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とが相溶していることを特徴とする樹脂組成物。
【0016】
[2] 前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a-1)を有するものである、[1]に記載の樹脂組成物。
【0017】
【0018】
(一般式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、-O-、-SO2-、-S-、又は-C(=O)-を表す。但し、R1~R4のうちの少なくとも1つは、-SO2-であり、且つ、R1~R4のうちの少なくとも1つは、-O-である。Ar1~Ar3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表す。a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。)
【0019】
[3] 前記ポリエーテルイミドスルホン(B)が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位(b-1)を有するものである、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0020】
【0021】
(一般式(2)において、Y1~Y6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Ar11~Ar14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表し、Xは、直接結合、あるいは、-O-、-SO2-、-S-、又は-C(=O)-を表す。)
【0022】
[4] 前記ポリエーテルイミドスルホン(B)が、下記構造式(3)で表される繰り返し単位(b-2)を有するものである、[3]に記載の樹脂組成物。
【0023】
【0024】
[5] 前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)が、下記構造式(4)で表される繰り返し単位(a-2)を有するものである、[2]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0025】
【0026】
[6] 前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と前記ポリエーテルイミドスルホン(B)との含有割合が、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=90:10~10:90(質量%)の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0027】
[7] 前記ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と前記ポリエーテルイミドスルホン(B)に由来するガラス転移温度が1つである、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0028】
[8] 前記ガラス転移温度が240℃以上320℃以下である、[7]に記載の樹脂組成物。
【0029】
[9] 240℃における貯蔵弾性率(E’240)が100MPa以上6000MPa以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0030】
[10] 20℃における貯蔵弾性率(E’20)に対する240℃における貯蔵弾性率(E’240)の比(E’240/E’20)が0.03以上1以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0031】
[11] 360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度が10Pa・s以上1000Pa・s以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0032】
[12] 厚み200μmで、波長380nmの光の全光線透過率が10%以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0033】
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【0034】
[14] [1]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高い耐熱性と溶融成形性と紫外線吸収性を兼ね備えた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを含む樹脂組成物であって、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とが相溶していることを特徴とする。
【0038】
[ポリビフェニルエーテルスルホン(A)]
本発明で用いられるポリビフェニルエーテルスルホン(A)は、少なくともビフェニル基、エーテル基及びスルホニル基を構造単位として有する樹脂であれば特に限定されないが、中でも、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a-1)を有するものであることが、溶融成形性、耐衝撃性、耐久性等の観点から好ましい。
【0039】
【0040】
(一般式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、-O-、-SO2-、-S-、又は-C(=O)-を表す。但し、R1~R4のうちの少なくとも1つは、-SO2-であり、且つ、R1~R4のうちの少なくとも1つは、-O-である。Ar1~Ar3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表す。a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。)
【0041】
一般式(1)において、Ar1~Ar3のアリーレン基は置換基を有していてもよく、Ar1~Ar3のアリーレン基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。Ar1~Ar3が置換基を有する場合、その置換基の数には特に制限はない。Ar1~Ar3のアリーレン基としては、それぞれ独立に、フェニレン基又はビフェニレン基であることが、耐熱性、耐衝撃性、溶融成形性の観点から好ましく、フェニレン基がより好ましく、p-フェニレン基であることがより好ましい。
【0042】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)は、特に、耐熱性、耐衝撃性、耐久性、溶融成形性に優れることから、下記構造式(4)で表される、2つのエーテル基と1つのビフェニル基と1つのスルホニル基を有する繰り返し単位(a-2)を有するものであることが好ましい。
【0043】
【0044】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)の繰り返し単位(a-1)の合計数(重合度)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。一方、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましく、80以下であることが特に好ましい。ポリビフェニルエーテルスルホン(A)の繰り返し単位(a-1)の合計数(重合度)がかかる範囲であれば、本発明の樹脂組成物は耐熱性や耐衝撃性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0045】
なお、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)は、繰り返し単位(a-1)以外の繰り返し単位を含むものであってもよいが、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)を用いることによる本発明の効果をより確実に得る観点から、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)中の繰り返し単位(a-1)以外の繰り返し単位は、全繰り返し単位中に40モル%以下、更には30モル%以下、特に0~20モル%であることが好ましい。
【0046】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)のガラス転移温度は、180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。一方、ガラス転移温度は、300℃以下であることが好ましく、290℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることが更に好ましく、270℃以下であることが特に好ましく、260℃以下であることがとりわけ好ましい。ポリビフェニルエーテルスルホン(A)のガラス転移温度がかかる範囲であれば、本発明の樹脂組成物は耐熱性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0047】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)の結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂組成物の結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい傾向となる。
【0048】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7244-4:1999に準じた、動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度をいう。また、結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計を用いて、温度範囲0~400℃、加熱速度10℃/分で昇温させた際に検出されたDSC(Differential scanning calorimetry)曲線から求められる。以下においても同様である。
【0049】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)は、公知の製法により製造することができる(例えば、米国特許第4008203号明細書、米国特許第4108837号明細書、米国特許第4175175号明細書等参照)。さらに、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)としては、市販品を用いることもできる。ポリビフェニルエーテルスルホン(A)の市販品の例としては、例えば、ソルベイ社製「レーデル」シリーズ、BASF社製「Ultrason P」シリーズ、山東浩然特塑股▲分▼有限公司社製「P」シリーズ、UJU社製「PARYLS」シリーズ等が挙げられる。
【0050】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
[ポリエーテルイミドスルホン(B)]
本発明で用いられるポリエーテルイミドスルホン(B)としては特に限定はないが、下記一般式(2)で表される繰り返し単位(b-1)を有するものであることが、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)との相溶性、耐熱性、機械特性の観点から好ましい。
【0052】
【0053】
(一般式(2)において、Y1~Y6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Ar11~Ar14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基を表し、Xは、直接結合、あるいは、-O-、-SO2-、-S-、又は-C(=O)-を表す。)
【0054】
上記一般式(2)において、Ar11~Ar14のアリーレン基は互いに異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。Ar7~Ar10のアリーレン基としては、具体的にはフェニレン基、ビフェニレン基等が挙げられ、これらのうちフェニレン基が好ましく、p-フェニレン基であることが好ましい。
Ar11~Ar14のアリーレン基が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~20のアルキル基や、メトキシ基、エトキシ基等の炭素原子数1~20のアルコキシ基等が挙げられる。Ar11~Ar14が置換基を有する場合、その置換基の数には特に制限はない。
【0055】
ポリエーテルイミドスルホン(B)は、特に上記効果に優れることから、下記構造式(3)で表される繰り返し単位(b-2)を有するものであることが好ましい。
【0056】
【0057】
一般的に、ポリエーテルイミドスルホンは、結合様式の違いによって構造が分類される。本発明においては、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなり、上記構造式(3)で表される繰り返し単位(b-2)等の繰り返し単位(b-1)を有するポリエーテルイミドスルホンを用いることが、本発明の目的を達成する上で好ましい。即ち、ポリエーテルイミドスルホン(B)がこの構造を有することにより、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と相溶性を示しやすく、耐熱性や機械特性に優れる樹脂組成物が得られやすい。
一方、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる、下記構造式(5)で表される繰り返し単位(b-3)を有するポリエーテルイミドスルホンでは、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)と相溶しにくい、すなわち相分離を示しやすいため、耐熱性や機械特性の観点から好ましくない。この場合は、後述するように、例えば、樹脂組成物を製造する際の条件(例えば、溶融混錬の条件)を調整したり、両者に相溶する他の樹脂を配合したり、両者の溶融粘度を近付けたり、相溶化剤を配合して相溶性を高めたりする等の手法を、適宜採用すればよい。
【0058】
【0059】
ポリエーテルイミドスルホン(B)における繰り返し単位(b-1)の合計数(重合度)は、耐熱性と成形性のバランスに優れることから、10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上である。また、1000以下であることが好ましく、より好ましくは500以下である。
【0060】
本発明で用いるポリエーテルイミドスルホン(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記繰り返し単位(b-1)以外の繰り返し単位を有していてもよい。例えば、原料モノマーの二無水物として、以下のものに由来する繰り返し単位を有するものであってもよい。
4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル-2,2-プロパン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1、4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2,-c]-フラン-1,3-ジオン、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、(2,3,6,7-ナフタル酸二無水物などの)ナフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4、4’-ビス(3、4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロピリジンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルスルフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物、2,2’-ビス-(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロ-プロパン二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4、4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4’4’-ビスフェノールA二無水、ヒドロキノンジフタル酸無水物、エチレングリコールビストリメリット酸無水物、6,6’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)-2,2’,3、3’-テトラヒドロ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ[1H-インデン]二無水物、7,7’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)-3,3’,4,4’-テトラヒドロ-4,4,4’,4’-テトラメチル-2,2’-スピロビ[2H-1-ベンゾピラン]二無水物、1,1’-ビス[1-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)-2-メチル-4-フェニル]シクロヘキサン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォキシドテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(4-(3,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,3-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、(3,3’,4,4’-ジフェニル)フェニルホスフィンテトラカルボン酸二無水物、(3,3’,4,4’-ジフェニル)フェニルホスフィンオキシドテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジクロロ-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジメチル3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジシアノ-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジブロモ-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジヨード-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジトリフルオロメチル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1-メチル-4-フェニル)-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1-トリフルオロメチル-2-フェニル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1-トリフルオロメチル-3-フェニル)-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1-トリフルオロメチル-4-フェニル)-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1-フェニル-4-フェニル)-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(1,3-トリフルオロメチル-4-フェニル)-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5,5’-[[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(オキシ)]ビス[1,3-イソベンゾフランジオン]及びこれらの全ての異性体並びに上記の少なくとも1つを含む混合物及びブレンドからなる群から選ばれる二無水物。
【0061】
ポリエーテルイミドスルホン(B)が繰り返し単位(b-1)以外のその他の繰り返し単位を有する場合、その他の繰り返し単位は、機械特性、熱安定性、溶融成形性、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)との相溶性を維持する観点から、繰り返し単位(b-1)とその他の繰り返し単位の合計に対して20モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。
【0062】
ポリエーテルイミドスルホン(B)のガラス転移温度は、220℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることが更に好ましく、250℃以上であることが特に好ましく、260℃以上であることがとりわけ好ましい。ガラス転移温度が220℃以上であれば、耐熱性に優れる傾向となる。一方、ポリエーテルイミドスルホン(B)のガラス転移温度は340℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましく、320℃以下であることが更に好ましく、310℃以下であることが特に好ましく、300℃以下であることがとりわけ好ましい。ガラス転移温度が340℃以下であれば、溶融成形性に優れる傾向となる。
【0063】
また、ポリエーテルイミドスルホン(B)の結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂組成物の結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい。
【0064】
ポリエーテルイミドスルホン(B)は、公知の製法により製造することができる。また、市販品を用いることもできる。ポリエーテルイミドスルホン(B)の市販品の例としては、例えば、SABIC Innovative Plastics社製「EXTEM XH」シリーズが挙げられる。
【0065】
ポリエーテルイミドスルホン(B)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを含む。本発明の樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)を含むことで、耐熱性や溶融成形性、耐衝撃性に優れたものとなる。また、ポリエーテルイミドスルホン(B)を含むことで、耐熱性や紫外線吸収性に優れたものとなる。
【0067】
本発明の樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とが相溶しているものである。
ここで、相溶しているとは、動的粘弾性測定において、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)由来のガラス転移温度が1つであること、即ち、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)及びポリエーテルイミドスルホン(B)由来の損失正接(tanδ)のピークが1つであるか、或いは電子顕微鏡での観察(例えば拡大率3000~3万倍)で構造周期や分散構造の形成が確認できないことをいう。
特に、ガラス転移温度が1つであることが重要である。
【0068】
ガラス転移温度を1つ有するということは、すなわち樹脂組成物を構成する樹脂成分が全て完全に相溶しており、相分離していないことを意味する。一方、ガラス転移温度を2つ以上有する場合は、非相溶系あるいは部分相溶系であり、相分離していることを意味する。
樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K7244-4:1999に準じて、動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)のピークを読むことで評価できる。すなわち、tanδのピークが単一であればガラス転移温度が単一であり相分離していない、tanδのピークが複数あればガラス転移温度も複数あり相分離しているといえる。
なお、当該単一のピークはその裾にショルダーを有していてもよく、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)由来のピークが明らかに2つ以上観察される場合を除いて、全て相溶系として取り扱う。
【0069】
樹脂組成物を構成する樹脂成分が相分離している場合、ガラス転移温度が低い方の樹脂のガラス転移温度で弾性率が低下するため、耐熱性が不十分となる。また、ポリビフェニルエーテルスルホン相とポリエーテルイミドスルホン相との相界面に起因する機械物性の低下も懸念される。
【0070】
本発明の樹脂組成物を構成するポリビフェニルエーテルスルホン(A)及びポリエーテルイミドスルホン(B)は相溶系であり、相分離していないため、得られる樹脂組成物及び該組成物を用いて得られる成形品、フィルムは、優れた耐熱性と機械特性を有する。
【0071】
本発明の樹脂組成物を構成するポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)の含有割合は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=90:10~10:90(質量%)の範囲であることが好ましく、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=80:20~13:87(質量%)の範囲であることがより好ましく、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=70:30~17:83(質量%)の範囲であることが更に好ましく、ポリビフェニルエーテルスルホン(A):ポリエーテルイミドスルホン(B)=60:40~20:80(質量%)の範囲であることが特に好ましい。ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)の含有割合がかかる範囲であれば、耐熱性と溶融成形性、紫外線吸収性の全てにバランスよく優れる樹脂組成物が得られやすくなる。
【0072】
[他の成分]
本発明の樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)及びポリエーテルイミドスルホン(B)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)及びポリエーテルイミドスルホン(B)以外の樹脂成分を含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物が他の樹脂成分を含む場合、他の樹脂成分の含有割合は、全樹脂成分中の30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0073】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素繊維等の強化繊維、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0074】
[樹脂組成物の物性]
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度は、240℃以上であることが好ましく、245℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることが更に好ましく、255℃以上であることが特に好ましく、260℃以上であることがとりわけ好ましい。ガラス転移温度が240℃以上であれば、耐熱性に優れる傾向となる。本発明の樹脂組成物のガラス転移温度の一方、本発明の樹脂組成物のガラス転移温度ガラス転移温度は320℃以下であることが好ましく、315℃以下であることがより好ましく、310℃以下であることが更に好ましく、305℃以下であることが特に好ましく、300℃以下であることがとりわけ好ましい。ガラス転移温度が320℃以下であれば、溶融成形性に優れる傾向となる。
【0075】
本発明の樹脂組成物の240℃における貯蔵弾性率(E’240)は100MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましく、1000MPa以上であることが更に好ましく、1500MPa以上であることが特に好ましい。240℃における貯蔵弾性率(E’240)が100MPa以上であれば、高温環境においても十分な弾性率を維持しており、耐熱性に優れる傾向となる。一方、240℃における貯蔵弾性率(E’240)は6000MPa以下であることが好ましく、5000MPa以下であることがより好ましく、4000MPa以下であることが更に好ましく、3000MPa以下であることが特に好ましい。240℃における貯蔵弾性率(E’240)が6000MPa以下であれば、例えば高温環境下で賦形等の二次加工を施す際に、弾性率が高すぎないため二次加工性に優れる傾向となる。
【0076】
本発明の樹脂組成物の20℃における貯蔵弾性率(E’20)に対する240℃における貯蔵弾性率(E’240)の比(E’240/E’20)は0.03以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、0.7以上であることがとりわけ好ましい。E’240/E’20が0.03以上であれば、室温から高温環境下までの弾性率変化が小さく、耐熱性に優れる傾向となる。一方、E’240/E’20は1以下であることが好ましい。一般に、熱可塑性樹脂は、高温になるにつれて分子の運動性が高くなり、弾性率が低くなる。反対に高温になるにつれて弾性率が高くなるということは、架橋反応が生じている可能性があり好ましくない。E’240/E’20が1以下であれば、高温環境下でも架橋が生じていないと推定される。
【0077】
なお、本発明の樹脂組成物の20℃における貯蔵弾性率(E’20)については特に制限はないが、1800MPa以上であることが好ましく、1900MPa以上であることがより好ましく、2000MPa以上であることが更に好ましく、2100MPa以上であることが特に好ましい。一方、20℃における貯蔵弾性率(E’240)は3100MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることがより好ましく、2900MPa以下であることが更に好ましく、2800MPa以下であることが特に好ましい。
【0078】
本発明の樹脂組成物は、360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度が10Pa・s以上であることが好ましく、50Pa・s以上であることがより好ましく、100Pa・s以上であることが更に好ましく、300Pa・s以上であることが特に好ましく、500Pa・s以上であることがとりわけ好ましい。一方、360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度は1000Pa・s以下であることが好ましく、950Pa・s以下であることがより好ましく、900Pa・s以下であることが更に好ましく、850Pa・s以下であることが特に好ましく、800Pa・s以下であることがとりわけ好ましい。360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度がかかる範囲であれば、溶融粘度が適切な範囲にあるため、溶融成形性に優れる傾向となる。
【0079】
本発明の樹脂組成物は、厚み200μmで、波長380nmの全光線透過率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが特に好ましく、0.6%以下であることがとりわけ好ましく、0.4%以下であることが最も好ましい。波長380nmの全光線透過率が上記上限以下であれば、本発明の樹脂組成物を、例えば紫外線吸収フィルム等に使用する場合に十分な紫外線吸収性を示しやすい。
【0080】
本発明の樹脂組成物の結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂組成物の結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい傾向となる。
【0081】
上記のガラス転移温度、貯蔵弾性率(E’240),(E’20)、360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度、全光線透過率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0082】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物を製造する方法に制限はなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。例えば、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)、ポリエーテルイミドスルホン(B)及び必要に応じて配合されるその他の添加剤等の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー等の各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等の混合機で溶融混練する方法が挙げられる。中でも、各成分の分散性の点から、二軸混練押出機による溶融混練法が好ましい。
また、例えば、一部の成分(例えば、必要に応じて配合される添加剤成分)を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られるマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって、本発明の樹脂組成物を製造することもできる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常320℃以上、好ましくは330℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは380℃以下である。
【0083】
ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)由来のガラス転移温度が1つである本発明の樹脂組成物を製造するためには、例えば、以下の(1)~(5)の方法等を採用することが好ましい。
【0084】
(1) ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)について適切な組み合わせで選択する。例えば、前述の通りポリビフェニルエーテルスルホン(A)と相溶するように、ポリエーテルイミドスルホン(B)として、繰り返し単位(b-1)を有するものを用いる。
【0085】
(2) ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)の双方に相溶する他の樹脂、例えば、イミド基やアリールエーテルケトン構造を有する樹脂を混合する。特に、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)が前記構造式(4)で表される繰り返し単位を有するものであり、ポリエーテルイミドスルホン(B)が前記構造式(3)で表される繰り返し単位を有するものである場合は、該他の樹脂としてポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEKK)を使用することが効果的である。
【0086】
(3) ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを、単軸又は二軸押出機、特に相溶性がよくない樹脂の組み合わせの場合は、二軸押出機を用いて十分に混練する。中でも、スクリューの長さL(mm)と同スクリューの直径D(mm)の比であるL/Dが好ましくは15以上、より好ましくは20以上、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である二軸押出機を用いる方法が挙げられる。かかる比を15以上とすることにより、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)との相溶性をより向上させることが容易となり、かかる比を50以下とすることにより、樹脂滞留時間が長くなったり樹脂温度が高くなりすぎたりすることによって、熱劣化に伴う変色、アウトガス、ゲル状異物等の発生を抑制しやすい傾向となる。
押出機のスクリュー構成としては、ニーディングユニット、特にらせん状のニーディングユニットを有している構造が、混練性向上のため好ましい。ニーディングユニットとしては1か所又は2か所が好ましい。
【0087】
また、溶融混練時の樹脂温度としては、押出機の出口における樹脂温度で320℃以上、より好ましくは330℃以上、好ましくは400℃以下、より好ましくは380℃以下である。樹脂温度を320℃以上とすることにより相溶性をより向上させることができ、400℃以下とすることにより樹脂組成物の変色ややけ異物の発生を抑制しやすいため好ましい。
【0088】
溶融混練時の吐出量Q(kg/hr)とスクリュー回転数Ns(rpm)との比Q/Nsは好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。この値を上記範囲とすることより、樹脂温度が高くなりすぎたり、滞留時間が長くなりすぎたりすることによる樹脂組成物の変色や異物の発生を抑制しつつ、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とを十分に相溶させることが容易となる。
【0089】
また、混練機としては、連続捏和機も好ましく用いられる。連続捏和機とは、押出機のシリンダー内に回転自在に取り付けられたスクリューに複数個の回転ブレードが設けられ、さらに、それら複数個の回転ブレードの間に挿入された状態で、固定ブレードがシリンダー内に設けられている混練機である。スクリューが回転するとスクリュー軸に沿って移動する原材料が、回転ブレードと固定ブレードとの間に形成された隙間を、中心側から外周側に、更に外周側から中心側に送り込まれるというようにジグザグに通過して捏和されるため、圧縮、剪断、置換の3つの作用を効率よく原材料に与えることができ、単軸や二軸押出機よりも効果的に各成分の分散性を向上させることができる。ブレードの形状は特に制限はないが、例えば、扇形、菊形及び臼目形等のブレードを使用することができる。このような連続捏和機としては、例えば、ケミカルエンヂニアリング社製の「NES・KOシリーズ」等が挙げられる。
【0090】
(4) ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)の溶融粘度を近付ける。具体的には、360℃、せん断速度1000s-1における両者の溶融粘度の差が1000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度は、分子量や分岐構造により制御することができる。
【0091】
(5) 相溶化剤を混合して、相溶性を高める。
【0092】
[樹脂組成物の成形方法]
本発明の樹脂組成物は、一般の成形法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等によって成形して使用することができる。それぞれの成形方法において、装置および加工条件は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0093】
なお、本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、シートを包含するものとする。一般的にフィルムとは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JIS K6900:1994)、一般的にシートとは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでないため、本発明においては、フィルムはシートを包含するものとする。よって、「フィルム」は「シート」であってもよい。
【0094】
[フィルムの製造方法]
本発明の樹脂組成物をフィルムとして使用する場合、フィルムの製造方法は特に限定されず、例えば、無延伸又は延伸フィルムとして得ることができる。なお、無延伸フィルムとは、シートの配向を抑制する目的で、積極的に延伸しないフィルムであるが、Tダイからキャストロールで引き取る際の引き落としによって多少の配向が生じることから、ここでは、押出成形等において延伸ロールでの延伸倍率が2倍未満であるフィルムも含むものとする。
【0095】
無延伸フィルムの場合、例えば、上述したように各構成材料を溶融混練した後、押出成形し、冷却することにより製造することができる。溶融混練には、単軸又は二軸押出機等の公知の混練機を用いることができる。溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、樹脂の架橋や分解を抑制しつつ溶融成形性を担保する観点から、320℃以上であることが好ましく、より好ましくは330℃以上である。一方、溶融温度は400℃以下であることが好ましく、より好ましくは380℃以下である。
成形は、例えば、Tダイ等の金型を用いた押出成形により行うことができる。
【0096】
冷却は、例えば、冷却されたキャストロール等の冷却機にフィルムを接触させて急冷することにより行うことができる。これにより、成形品が固化し、無延伸フィルムが得られる。冷却温度は、溶融温度よりも低温であれば限定されないが、270℃以下であることが好ましく、265℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることが更に好ましく、255℃以下であることが特に好ましく、250℃以下であることがとりわけ好ましい。一方、キャストロール温度は120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることが更に好ましく、150℃以上であることが特に好ましく、160℃以上であることがとりわけ好ましい。キャストロールの温度がかかる範囲であれば、急冷によるシワや高温による貼り付き等が生じないため、外観良好なフィルムが得られやすい。
【0097】
本発明の樹脂組成物からなるフィルムの厚みには特に制限はないが、フィルムの強度、ハンドリング性、製膜性、二次加工性等の観点から、1μm以上の厚みとすることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることが更に好ましく、12μm以上であることが特に好ましく、20μm以上であることがとりわけ好ましい。一方、フィルムの厚みは3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが特に好ましく、100μm以下であることがとりわけ好ましい。
【0098】
また、本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層を積層させた多層フィルムとすることもできる。多層化の方法は、例えば、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等の公知の方法を用いることができる。
【0099】
[用途・使用態様]
このようにして得られる本発明の樹脂組成物、フィルム等の成形品は、電気・電子機器や自動車、航空機等における絶縁フィルムやプリント基板、スペーサー、筐体、表面材、包装材等に適用することができる。また、炭素繊維等の強化繊維との複合材料(プリプレグ、セミプレグ等)用にも、本発明の樹脂組成物をそのまま又はフィルム・繊維等の成形品に成形して適用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0101】
[フィルムの製造]
実施例及び比較例においては、下記表1に示す原料を用い、下記表2に示す配合組成のフィルムを製造した。
【0102】
【0103】
[実施例・比較例]
<実施例1>
(A)-1及び(B)-1を80:20の質量割合でドライブレンドした。この樹脂混合物を、シリンダー径40mmの単軸押出機にて360℃で混練した後、Tダイを用いてフィルム状に押出成形した。得られた成形品を240℃のキャストロールにて急冷し、厚み200μmのフィルムを作製した。
【0104】
<実施例2>
(A)-1及び(B)-1の混合割合を60:40とし、キャストロールの温度を250℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0105】
<実施例3>
(A)-1及び(B)-1の混合割合を40:60とし、キャストロールの温度を260℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0106】
<実施例4>
(A)-1及び(B)-1の混合割合を20:80とし、キャストロールの温度を270℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0107】
<比較例1>
(B)-1に代えて(B)-2を使用し、キャストロールの温度を230℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0108】
<比較例2>
(B)-1に代えて(B)-2を使用し、(A)-1及び(B)-2の混合割合を60:40とし、キャストロールの温度を230℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0109】
<比較例3>
(B)-1に代えて(B)-2を使用し、(A)-1及び(B)-2の混合割合を40:60とし、キャストロールの温度を230℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0110】
<比較例4>
(B)-1に代えて(B)-2を使用し、(A)-1及び(B)-2の混合割合を20:80とし、キャストロールの温度を230℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0111】
<比較例5>
(A)-1を単独で使用し、キャストロールの温度を230℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0112】
<比較例6>
(B)-1を単独で使用し、キャストロールの温度を280℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0113】
<比較例7>
(B)-2を単独で使用し、キャストロールの温度を250℃とした以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0114】
[フィルムの評価]
上記実施例及び比較例で製造した各フィルムについて、以下のようにして各種項目についての評価測定を行った。
【0115】
<ガラス転移温度>
実施例及び比較例で作製した厚み200μmのフィルムについて、JIS K7244-4:1999に準じて、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用いて、温度範囲0~400℃、加熱速度3℃/minで昇温させ、損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度からガラス転移温度を求めた。
【0116】
<各温度における貯蔵弾性率及び貯蔵弾性率比>
実施例及び比較例で作製した厚み200μmのフィルムについて、JIS K7244-4:1999に準じて、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用いて、温度範囲0~400℃、加熱速度3℃/minで昇温させ、各温度における貯蔵弾性率の値を読むことで、20℃における貯蔵弾性率(E’20)、240℃における貯蔵弾性率(E’240)、これらの比である(E’240/E’20)をそれぞれ求めた。
【0117】
<溶融粘度>
実施例及び比較例で作製した厚み200μmのフィルムについて、JIS K7199:1999に準じて、キャピラリーレオメーター「キャピログラフ1D(東洋精機製作所社製)」を用いて、360℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度を測定した。
【0118】
<全光線透過率>
実施例及び比較例で作製した厚み200μmのフィルムについて、JIS K7375:2008に準じて、分光光度計「U-3900H(日立ハイテクサイエンス社製)」を用いて、波長380nmにおける全光線透過率を測定した。
【0119】
下記表2に、実施例及び比較例についての評価測定結果をまとめて示す。
【0120】
【0121】
表2に示した結果からわかるように、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)及びポリエーテルイミドスルホン(B)を特定の割合で含有する実施例1~4は、240℃以上のガラス転移温度を1つだけ有しており、従って、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)とポリエーテルイミドスルホン(B)とが相溶しており、高温環境での弾性率低下も小さいことから、非常に高い耐熱性を有することが分かる。さらに、溶融粘度が適切な範囲にあるため、フィルム等の成形品成形時の溶融成形性にも優れる。加えて紫外線領域における全光線透過率が低く紫外線吸収性にも優れるため、紫外線遮蔽が必要なフィルム等の成形品にも好適に使用することができる。
【0122】
一方、(A)-1と(B)-2を組み合わせた比較例1~4では、相分離しているためガラス転移温度が2つ見られ、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)に由来するガラス転移温度で弾性率が低下し、耐熱性が十分でない。加えて、比較例4では、実施例と比較すると溶融粘度が高く、溶融成形性に劣る。
【0123】
比較例5では、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)を単独で使用しているため、ポリエーテルイミドスルホン(B)を含む実施例と比較してガラス転移温度が低く、高温環境下での弾性率低下も大きく、耐熱性に劣る。また、紫外線の透過率が高く、紫外線吸収性が十分ではない。
【0124】
比較例6及び7では、ポリエーテルイミドスルホン(B)を単独で使用しているため、ポリビフェニルエーテルスルホン(A)を含む実施例と比較して溶融粘度が高く、溶融成形性に劣る。