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特許7434993ピンク系ジルコニア焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ピンク系ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240214BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C04B35/488 500
C01G51/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020022952
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2020132518
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019025870
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】月森 貴史
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141388(JP,A)
【文献】特開2016-026986(JP,A)
【文献】国際公開第2010/024275(WO,A1)
【文献】特開平04-114964(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157508(WO,A1)
【文献】特開2014-141393(JP,A)
【文献】特開2015-163558(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48-35/493
C01G 25/00-25/06
C01G 51/00-51/12
A61C 11/00-11/08
A61C 13/00-13/38
A44C 5/00-5/24
A44C 17/00-17/04
A44C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al換算で3.0質量%以上30.0質量%以下のアルミニウム、Fe換算で0.1質量%以上2.0質量%以下の鉄、及び、Co換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルトを含有し、残部が2mol%以上4mol%以下のエルビアを含有するジルコニアであり、アルミニウム酸化物の粒子を含み、なおかつ、試料厚み1.0mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が1%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項2】
試料厚み0.5mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が3%以下である請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記アルミニウム酸化物がアルミナである請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
コバルトの含有量が鉄の含有量より少ない請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
試料厚み0.5mmにおける色調が、以下を満たす請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
50≦L ≦74、0≦a ≦5、2≦b ≦10
【請求項6】
以下の(式A)から求まる△b の最大値が3.0以下であり、以下の(式B)から求まる△a の最大値が0.6以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
△b =b /b (-50) (式A)
△a =a /a (-50) (式B)
上記式において、△a 及び△b は、それぞれ、受光角間の色相a の差及び色相b の差であり、a 及びb は、それぞれ、受光角-50°以上30°以下のいずれかにおける色相a 及び色相b 、並びに、a (-50) 及びb (-50) は、それぞれ、受光角-50°色相a で及び色相b である。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体を含む部材。
【請求項8】
エルビアを含有するジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアを焼結してジルコニア焼結体を得る、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はピンク系統の色調を呈するジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、ランタノイド系希土類元素や遷移金属元素を着色剤として含むことで任意の呈色を示すことが知られている(特許文献1乃至4)。着色剤を含むジルコニア焼結体(以下、「着色ジルコニア焼結体」ともいう。)は、機械用途等の従来の用途に加え、装飾部材及び外装部材等の審美性が要求される用途へ適用されてきている。用途の広がりに伴い、差別化された意匠性のみならず加工性も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-59571号公報
【文献】特開2011-020875号公報
【文献】特開2014-141393号公報
【文献】特開2017-165599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピンク系統の色調を呈するジルコニア焼結体は装飾性が高く、研削等の加工により厚み1mm以下の薄い部材としての適用も検討されている。従来、ピンク系統の色調呈する焼結体として、着色剤としてエルビア(Er)を含むジルコニア焼結体が報告されている(特許文献1乃至4)。しかしながら、エルビアを含有するジルコニアに由来する透光性のため、これら従来のピンク系統の色調を呈するジルコニア焼結体は、その厚みを1mm以下にした場合、下地となる部材の色調と混ざった色調を呈し、焼結体本来の色調とは異なる色調として視認される。
【0005】
本開示では、エルビア(Er)を含むジルコニア焼結体であって、厚みを1mm以下にとしてもピンク系統の色調、特に淡いピンク色、を呈する焼結体として視認されうるジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の要旨は以下の通りである。
[1] Al換算で3.0質量%以上30.0質量%以下のアルミニウム、Fe換算で0.1質量%以上2.0質量%以下の鉄、及び、Co換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルトを含有し、残部が2mol%以上4mol%以下のエルビアを含有するジルコニアであり、アルミニウム酸化物の粒子を含み、なおかつ、試料厚み1.0mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が1%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
[2] 試料厚み0.5mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が3%以下である上記[1]に記載のジルコニア焼結体。
[3] 前記アルミニウム酸化物がアルミナである上記[1]又は[2]に記載のジルコニア焼結体。
[4] コバルトの含有量が鉄の含有量より少ない上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[5] 前記ジルコニアが、エルビアを含有するジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアである上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[6] 試料厚み0.5mmにおける色調が、以下を満たす上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
50≦L≦74、0≦a≦5、2≦b≦10
【0007】
[7] 以下の(式A)から求まる△bの最大値が3.0以下であり、以下の(式B)から求まる△aの最大値が0.6以下である上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
△b=b /b (-50) (式A)
△a=a /a (-50) (式B)
上記式において、△a及び△bは、それぞれ、受光角間の色相aの差及び色相bの差であり、a 及びb は、それぞれ、受光角-50°以上30°以下のいずれかにおける色相a及び色相b、並びに、a (-50)及びb (-50)は、それぞれ、受光角-50°色相aで及び色相bである。
【0008】
[8] 上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体を含む部材。
【発明の効果】
【0009】
本開示によりは、エルビア(Er)を含むジルコニア焼結体であって、厚みを1mm以下にとしてもピンク系統の色調、特に淡いピンク色、を呈する焼結体として視認されうるジルコニア焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るジルコニア焼結体の一例を示し、その実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態のジルコニア焼結体は、Al換算で3質量%以上30質量%以下のアルミニウム、Fe換算で0.1質量%以上2.0質量%以下の鉄、及び、Co換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルトを含有し、残部が2mol%以上4mol%以下のエルビアを含有するジルコニアであり、アルミニウム酸化物の粒子を含み、なおかつ、試料厚み1.0mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が1%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体、である。
【0012】
本実施形態において、ジルコニア焼結体はジルコニアをマトリックス(主相)とする焼結体であり、主としてジルコニアの結晶粒子から構成される焼結体である。本実施形態のジルコニア焼結体は、アルミニウム酸化物の粒子等、ジルコニア以外の粒子を含んでいてもよい。
【0013】
本実施形態において、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)及びコバルト(Co)の各元素は、それぞれ、着色剤として機能し、一方、エルビア(Er)は着色剤及び安定化剤として機能する。
【0014】
アルミニウムの含有量は、Al換算で3.0質量%以上30.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以上25.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以上7.0質量%以下である。
【0015】
鉄の含有量は、Fe換算で0.1質量%以上2.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。また、コバルトの含有量は、Co換算で0.1質量%以上1.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.2質量%以下である。さらに、コバルトの含有量が鉄の含有量より少ないことが好ましい。
【0016】
アルミニウム、鉄及びコバルトの含有量は、焼結体の重量に対するそれぞれの重量の割合である。
【0017】
エルビアを含有するジルコニアからなるマトリックスに加え、アルミニウムと、該アルミニウムに対して十分に少量の鉄及びコバルトとを含む焼結体とすることにより、本実施態様のジルコニア焼結体が、該マトリックスの色調とは異なる色調として視認できるピンク系統の色調を呈すると考えられる。
【0018】
本実施形態の焼結体におけるアルミニウム、鉄及びコバルトは、それぞれ、アルミニウム酸化物、鉄酸化物及びコバルト酸化物として含有されていることが好ましい。また、アルミニウム酸化物、鉄酸化物及びコバルト酸化物、並びに、アルミニウム、鉄及びコバルトの群から選ばれる2種以上を含む複合酸化物、として含有されていてもよい。アルミニウム、鉄及びコバルトは、それぞれ、その一部がジルコニアに固溶していてもよい。
【0019】
ジルコニアはエルビアを含有するジルコニア(以下、「エルビア含有ジルコニア」ともいう。)であり、エルビアで安定化されたジルコニア(以下、「エルビア安定化ジルコニア」ともいう。)であることが好ましい。ジルコニアのエルビア含有量は、焼結体中のジルコニア及びエルビアの合計に対するエルビアとして、2.0mol%以上4.0mol%以下であり、好ましくは2.5mol%以上3.5mol%以下である。
【0020】
ジルコニアは、エルビアに加えて色調に影響を与えない安定化剤を含むジルコニア、例えばイットリア(Y)又はカルシア(CaO)の少なくともいずれか並びにエルビアで安定化されたジルコニア、であってもよい。例えば焼結体中のジルコニア及びイットリアの合計に対するイットリアとして、1.47mol%未満であること、更には1.0mol%以下であることが挙げられる。厚みが1mm以下である部材(以下、「肉薄部材」ともいう。)とした場合であってもピンク系統の呈色が得られやすくなるため、ジルコニアは、実質的に、エルビア以外の安定化剤を含まないことが好ましい。
【0021】
別の実施形態として、ジルコニアは、エルビアを含有するジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが好ましく、加水分解で得られたエルビアを含有するジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結した状態のジルコニアであることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したエルビアを含有するジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが更に好ましい。
【0022】
ジルコニアは、その結晶相に正方晶を含むことが好ましく、結晶相が正方晶及び立方晶であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態のジルコニア焼結体は、焼結体を視認した場合の色調に影響を与えない程度の不純物、例えばランタノイド系希土類元素や金属元素等の不純物、を含んでいてもよいが、ハフニウム等の不可避不純物以外の不純物は含まないことが好ましい。例えば、本実施形態のジルコニア焼結体は実質的に亜鉛を含有しないこと、焼結体重量に対する亜鉛の含有量として、ZnO換算で0.08質量%未満であること、更には、0.05質量%以下であることが挙げられる。
【0024】
本実施形態のジルコニア焼結体は、上述の組成を有し、なおかつ、アルミニウム酸化物の粒子を含むことによって、ジルコニアに由来する透光性が抑制され、その結果、試料厚みを薄くしても、その色調が、焼結体本来の色調から変化しにくくなっていると考えられる。アルミニウム酸化物はアルミナ(Al)であることが好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態のジルコニア焼結体においては、焼結体表面のみならず、その内部にまでアルミニウム酸化物の粒子を含むと考えられる、このような組織を有することにより、試料厚み1mmにおけるD65光源に対する全光線透過率が1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下となると考えられる。好ましくは、本実施形態のジルコニア焼結体は、試料厚み0.5mmである場合であっても、D65光源に対する全光線透過率が3%以下、更には1.5%以下、また更には1%以下となる。
【0026】
ここで、本実施形態における「全光線透過率」は、拡散透過率と直線透過率を合計した透過率であり、入射光としてD65光源を使用した場合、当該入射光における透過率に相当する。全光線透過率は表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした面について、JIS K7361に準じた方法で測定することができる。
【0027】
ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径(以下、単に「平均結晶粒径」ともいう。)は平均結晶粒径は走査型電子顕微鏡観察により得られた焼結体のSEM観察図を使用したプラニメトリック法により求められる値であり、SEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)から以下の式から求められる。
平均結晶粒径=(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M
【0028】
上記式において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率(5000倍)であり、Nc+Ni≧100であり、好ましくはNc+Ni=125±25である。
【0029】
アルミニウム酸化物の粒子は、SEM鏡観察において、ジルコニアの結晶粒子とは異なる色の粒子として確認でき、ジルコニアの結晶粒子の粒界に分散した粒子として確認することができる。また、アルミニウム酸化物の形状は不定形状であることが挙げられる。
【0030】
本実施形態のジルコニア焼結体の色調は、(L)色空間におけるL、a及びbが、以下を満たすことが好ましい。以下のL、a及びbを満たすことで、焼結体がピンク系統の色調、特に淡いピンクの色調、として視認される。
【0031】
色調はJIS Z 8722:2009に準じた方法により測定することができる。
【0032】
本実施形態のジルコニア焼結体は、試料厚み1.0mmにおける色調及び試料厚み0.5mmにおける色調が同程度であることが好ましく、好ましくは、試料厚み0.5mmにおける色調が、
50≦L≦74、好ましくは50≦L≦70、より好ましくは50≦L≦65
0≦a≦5、好ましくは0≦a≦4、より好ましくは1≦a≦3
2≦b≦10、好ましくは2≦b≦8、より好ましくは3≦b≦8
である。
【0033】
色調は、試料厚み0.5mmで表面粗さRa≦0.02μmとした測定試料について、分光測色計(例えば、装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用し、以下の条件で測定することが挙げられる。
光源 : F2光源
視野角 : 10°
【0034】
従来の着色剤を含有する焼結体を目視した場合、目視角度により色調が大きく異なる場合がある。これに対し、本実施形態の焼結体は、目視角度による色調の違いが小さいこと、すなわち角度の異なる反射光における色調の相違(以下、「色違い」ともいう。)が小さいこと、が好ましい。色違いが小さいことで、本実施形態の焼結体の色調の重厚感が増し審美性が高くなりやすい。
【0035】
色違いは、受光角間の色相a及びb少なくともいずれかの差を指標とすることができる。ピンク色系統の色調を呈する本実施形態の焼結体においては、受光角間の色相a及び色相bの差、両方を指標とすることが好ましい。
【0036】
本実施形態の焼結体は、以下の(式A)から求まる△bの最大値(以下、「b MAX」ともいう。)が3.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。また、本実施形態の焼結体は、以下の(式B)から求まる△aの最大値(以下、「a MAX」ともいう。)が0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。△a及び△bの下限値は、それぞれ、0以上であり、これは受光角間で色相の差がないことを意味する。
△b=b /b (-50) (式A)
△a=a /a (-50) (式B)
【0037】
上記式において、△a及び△bは、それぞれ、受光角間の色相aの差及び色相bの差であり、a 及びb は、それぞれ、受光角-50°以上30°以下のいずれかにおける色相a及び色相b、並びに、a (-50)及びb (-50)は、それぞれ、受光角-50°色相aで及び色相bである。a 、b 、a (-50)及びb (-50)は以下の条件で測定することができる。
光源 : F2光源
入射角 : 60°
受光角 : -50°~30°
測定試料 : (形状) 縦50mm×横50mm×厚さ3mmの板状
(表面粗さ) Ra≦0.02
【0038】
本実施形態の焼結体は、着色剤を含まないジルコニア焼結体よりも透光性が低いことが好ましく、着色剤を含まないジルコニア焼結体と比べて△a*及び△bが小さいことが好ましい。
【0039】
本実施形態のジルコニア焼結体は、相対密度として95.0%以上、好ましくは99.5%以上の密度であることが好ましい。このような密度に相当する密度として、例えば、JIS R 1634に準じた方法で測定される密度(以下、「実測密度」ともいう。)が5.180g/cm以上6.250g/cm以下である、好ましくは5.400g/cm以上6.220g/cm以下であることが例示できる。
【0040】
本実施形態のジルコニア焼結体は、JIS R 1601に準じた方法により測定される三点曲げ強度が1000MPa以上であることが好ましく、1100MPa以上であることがより好ましく1310MPa以上であることが更に好ましい。三点曲げ強度は1600MPa以下、更には1500MPa以下であれば、加工しやすくなる。
【0041】
本実施形態のジルコニア焼結体は、肉薄部材とした場合であっても、淡いピンク色を呈するため、宝飾品、装飾部材等の部材、例えば、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等の様々な部材への適用はもちろん、構造材料、光学材料、歯科材料等、従来のジルコニア焼結体の用途へも適用できる。
【0042】
本実施形態のジルコニア焼結体は、Al換算で3.0質量%以上30.0質量%以下のアルミニウム化合物、Fe換算で0.1質量%以上2.0質量%以下の鉄化合物、及び、Co換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルト化合物を含有し、残部が2.0mol%以上4.0mol%以下のエルビアを含有するジルコニアである粉末組成物を含む成形体を焼結する工程、を有する製造方法で製造することができる。
【0043】
粉末組成物は、アルミニウム化合物、鉄化合物、コバルト化合物及びエルビア含有ジルコニアが均一に混合された状態の組成物である。
【0044】
アルミニウム化合物は、アルミニウム(Al)を含有する化合物又は塩であればよく、アルミナ(Al)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であることが好ましく、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群の少なくとも1種であることが好ましく、アルミナであることがより好ましく、α-アルミナであることが更に好ましい。
【0045】
鉄化合物は、鉄(Fe)を含有する化合物又は塩であればよく、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、硝酸鉄及び塩化鉄の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、水酸化鉄及びオキシ水酸化鉄の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0046】
コバルト化合物は、コバルト(Co)を含有する化合物又は塩であればよく、酸化コバルト(II)、四三酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト及び塩化コバルトの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、酸化コバルト(II)、四三酸化コバルト及び水酸化コバルトの群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0047】
エルビア含有ジルコニアは、エルビア安定化ジルコニアであることが好ましく、エルビアを含有する水和ジルコニアゾルを熱処理した状態のエルビア安定化ジルコニアであることがより好ましい。エルビア含有ジルコニアのエルビア含有量は2.0mol%以上4.0mol%以下であり、好ましくは2.5mol%以上3.5mol%以下である。
【0048】
成形体は粉末組成物が成形された状態のものである。成形体は、焼結による収縮を考慮した上で任意の形状を有していればよく、形状として、円板状、円柱状、多面体状、柱状、板状、球状及び略球状が例示できるが、用途に応じた任意形状であればよい。
【0049】
成形体は、公知の方法、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる少なくとも1種、によって、粉末組成物を成形することで得られる。
【0050】
成形体を焼結することで、これが焼結体となる。焼結方法は任意であり、常圧焼結、ホットプレス、熱間静水圧プレス又はプラズマ焼結等、公知の焼結方法が挙げられる。簡便であるため、焼結方法は常圧焼結であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼結を挙げることができる。なお、常圧焼結とは焼結時に成形体に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法である。焼結を常圧焼結のみとすることで、本実施形態のジルコニア焼結体が常圧焼結体として得られる。
【0051】
常圧焼結の場合、保持温度が1300℃以上1550℃以下、好ましくは1350℃以上1550℃以下であること、保持時間が1時間以上5時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下であること、が例示できる。
【0052】
常圧焼結後、HIP処理体とするため、焼結体を熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)処理してもよい。HIP処理の条件として、HIP処理雰囲気としてアルゴン雰囲気又は窒素雰囲気、HIP処理圧力として50MPa以上200MPa以下、HIP処理温度として1400℃以上1550℃以下、及び、HIP処理温度での保持時間として30分以上4時間以下、が例示できる。
【0053】
焼結後のジルコニア焼結体は、必要に応じて研磨又は形状加工等、任意の加工を施してもよい。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本実施形態のジルコニア焼結体を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(粉末の平均粒子径)
レーザー回折法により測定される体積粒子径分布における50%径(メジアン径)を測定し、粉末の平均粒子径とした。
粉末試料を蒸留水に懸濁させたスラリーを、超音波ホモジナイザー(装置名:US-150T、日本精機製作所製)で3分間分散処理することで前処理とした。マイクロトラック粒度分布計(装置名:9320-HRA、Honeywell社製)を使用し、前処理後のスラリーの体積粒子径分布をレーザー回折法によって測定した。得られた粒子径分布における累積体積が50%に相当する粒子径を平均粒子径とした。
【0056】
(全光線透過率)
JIS K7361に準じた方法で、入射光として光源F2を使用した場合の全光線透過率を測定した。焼結体を両面研磨し、表面粗さ(Ra)≦0.02μmとしたものを測定試料とした。全光線透過率の測定は、濁度計(装置名:NDH2000、日本電色工業製)を使用し、入射光をD65光源とし、当該入射光における全光線透過率を測定した。
【0057】
(色調の測定)
JIS Z8722に準じた方法で、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を用いた。測定条件は以下のとおりである。
光源 : F2光源
視野角 : 10°
焼結体試料は、直径20mm×厚さ2.7mmの円板形状のもの使用した。焼結体試料の表面を両面から研削し、1.0mm又は0.5mmの厚みにした上で鏡面研磨処理を行った表面を評価面とし、色調を評価した。色調評価有効面積は直径10mmを採用した。
【0058】
(色違い)
JIS Z8722に準じた方法により、色違いを測定した。測定には、一般的な変角分光システム(装置名:GCMS-4、村上色彩技術研究所社製)を使用した。測定条件は以下のとおりである。
光源 : F2光源
入射角 : 60°
受光角 :-70°~70°
あおり角 : 0°
焼結体試料は、縦50mm×横50mm×厚さ3mmの板状のものとし、表面粗さ(Ra)≦0.02となるまで研磨したものを使用した。
上述の測定結果のうち、測定ノイズの影響を大きく受ける受光角で測定されたデータを除いた、受光角-50°以上30°以下の測定結果を使用して、a 、a (-50)、b 及びb (-50)を求め、(式A)及び(式B)に従って各受光角における△a及び△b、並びに、△a MAX及び△b MAXを求めた。
【0059】
(三点曲げ強度)
JIS R 1601に準じた方法で、焼結体試料の三点曲げ強度を測定した。測定は10回行い、その平均値を三点曲げ強度として採用した。測定は、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を用い、支点間距離30mmとして実施した。
【0060】
(密度)
JIS R 1634に準じた方法により焼結体の密度を測定し、実測密度を求めた。
【0061】
(平均結晶粒径)
平均結晶粒径は走査型電子顕微鏡(装置名:JSM-6390LV、日本電子社製)を使用して得られたSEM観察図を使用したプラニメトリック法により求めた。SEM観察は、表面粗さ(Ra)≦0.02μmとなるまで研磨した焼結体を熱エッチングした焼結体試料について行った。SEM観察の条件は以下の通りである。
加速電圧 :15kV
観察倍率 :5000倍
円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)の合計が125±25となるように、SEM観察図に円を描き、以下の式から平均結晶粒径を求めた。なお、NcとNiが125±25に満たない場合は複数のSEM写真を使用した。
平均結晶粒径=(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M
上記式において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率である。
【0062】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液に対し、Er濃度が3.2mol%となるようにエルビアを添加し、これを加水分解して水和ジルコニアゾルとした。得られた水和ジルコニアゾルを乾燥させ、大気中、1100℃、2時間で熱処理し、これをイオン交換水で十分に洗浄した。得られた3.2mol%エルビア安定化ジルコニアと、高純度アルミナ(住友化学製)、酸化鉄(Fe)(関東化学製)及び酸化コバルト(Co)(キシダ化学製)とをイオン交換水に添加してスラリーとし、当該スラリーをボールミルを使用して湿式混合した。湿式混合において、適宜スラリーを抜き出し、スラリーの平均粒子径が0.50μmとなった時点でボールミルを止め、スラリーを回収した。回収後のスラリーを、大気中、110℃で乾燥し、以下の組成を有し、BET比表面積が11m/gである粉末組成物を得た。
アルミナ : 5.0質量%
酸化鉄 : 0.17質量%
酸化コバルト: 0.12質量%
3.2mol%エルビア安定化ジルコニア: 残部
【0063】
得られた粉末組成物を圧力1000kg/cmで一軸加圧成形して成形体とし、これを大気中、昇温速度100℃/時、保持温度1450℃、保持時間2時間で焼結し、ジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は淡いピンク色を呈し、その相対密度は99.9%であった。SEM観察により、焼結体の表面及び断面において、ジルコニアの結晶粒子及びアルミニウム酸化物の粒子が確認された。
【0064】
当該ジルコニア焼結体を研磨し、試料厚み1mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmとした。研磨後のジルコニア焼結体は、全光線透過率が0.02%であり、研磨面を目視した結果、淡ピンク色を呈していた。観察後、試料厚み0.5mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmとなるまで研磨した。その結果、全光線透過率が0.40%であり、研磨面を目視した結果、淡ピンク色を呈していた。
【0065】
実施例2
粉末組成物の組成を以下に示す組成にしたこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
アルミナ : 3.0質量%
酸化鉄 : 0.17質量%
酸化コバルト: 0.12質量%
3.2mol%エルビア安定化ジルコニア: 残部
【0066】
得られたジルコニア焼結体は淡ピンク色を呈し、その相対密度は99.9%であった。SEM観察により、焼結体の表面及び断面において、ジルコニアの結晶粒子及びアルミニウム酸化物の粒子が確認された。
【0067】
当該ジルコニア焼結体を実施例1と同様な方法で研磨して試料厚み1mmの状態で評価した後、更に研磨して試料厚み0.5mmの状態で再度評価した。
【0068】
ジルコニア焼結体は、試料厚み1mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmの状態で全光線透過率が0.05%及び淡ピンク色を呈し、また、試料厚み0.5mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmの状態で全光線透過率が0.80%であり、淡ピンク色を呈していた。
【0069】
実施例3
粉末組成物の組成を以下に示す組成にしたこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
アルミナ : 5.0質量%
酸化鉄 : 0.21質量%
酸化コバルト: 0.15質量%
3.2mol%エルビア安定化ジルコニア: 残部
【0070】
得られたジルコニア焼結体は淡ピンク色を呈し、その相対密度は99.9%であった。SEM観察により、焼結体の表面及び断面において、ジルコニアの結晶粒子及びアルミニウム酸化物の粒子が確認された。
【0071】
当該ジルコニア焼結体を実施例1と同様な方法で研磨して試料厚み1mmの状態で評価した後、更に研磨して試料厚み0.5mmの状態で再度評価した。
【0072】
ジルコニア焼結体は、試料厚み1mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmの状態で全光線透過率が0.01%及び淡ピンク色を呈し、また、試料厚み0.5mm、表面粗さ(Ra)≦0.02μmの状態で全光線透過率が0.20%であり、淡ピンク色を呈していた。
【0073】
これらの実施例の結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例のジルコニア焼結体の呈色は、いずれも、淡いピンク色として視認された。また、試料厚み1.0mmにおける全光線透過率が0.05%以下であり、エルビア含有ジルコニア(マトリックス)に由来する透光性が著しく抑えられていることが確認できた。さらに、三点曲げ強度が1350MPa以上であり、装飾等への適用に十分な強度を有していることが確認できた。
【0076】
さらに、実施例1の焼結体のa MAX及びb MAXは0.19及び0.62、実施例2の焼結体のa MAX及びb MAXは0.22及び0.55であり、いずれも△bの最大値が1.00未満及びの△aの最大値が0.50以下であり、異なる角度から本焼結体を視認した場合であっても、色違いがなく、どの角度からでも同様な色調として視認されうることが確認できた。
【0077】
主な受光角における△a及び△bの値を下表に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例の焼結体は、受光角毎の△a及び△bの値のばらつきが小さいことが確認できる。これより、実施例の焼結体は、観察する角度を変えてもほぼ同様な色調で視認されうることが分かる。