(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】異方導電性接着フィルム、接続構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20240214BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01R11/01 501D
H01R11/01 501E
H01R43/00 H
(21)【出願番号】P 2020024529
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】成冨 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】杜 暁黎
(72)【発明者】
【氏名】森谷 敏光
(72)【発明者】
【氏名】酒井 裕行
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/051067(WO,A1)
【文献】特開2009-194359(JP,A)
【文献】特開2005-166438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 11/01
H01R 43/00
H05K 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の接着成分と、導電性粒子と、を含有する異方導電性接着フィルムであって、
前記異方導電性接着フィルムを200℃、1時間の条件で熱硬化させた硬化物が、40℃において0.7GPa~1.5GPaの貯蔵弾性率を有する、異方導電性接着フィルム
(ただし、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、平均粒径300nm以下のシリコーン微粒子と、を含有する異方導電性接着フィルムを除く)。
【請求項2】
プラスチック基板、及び前記プラスチック基板上に設けられた電極を有する第一の電子部材と、
第二の電子部材と、
前記第一の電子部材と前記第二の電子部材とを互いに電気的に接続する接続部材と、を備え、
前記接続部材が、請求項1に記載の異方導電性接着フィルムの硬化物である、接続構造体。
【請求項3】
プラスチック基板、及び前記プラスチック基板上に設けられた電極を有する第一の電子部材と、第二の電子部材との間に、請求項1に記載の異方導電性接着フィルムを配置し、前記異方導電性接着フィルムを介して前記第一の電子部材と前記第二の電子部材とを熱圧着して、前記第一の電子部材と前記第二の電子部材とを電気的に接続する工程を備える、接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性接着フィルム、接続構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビ、PCモニタ、携帯電話、スマートホン、携帯型ゲーム機、タブレット端末、ウェアラブル端末、車載用モニタ等の各種表示手段として、液晶表示装置、有機ELパネル等が用いられている。近年、このような表示装置においては、ファインピッチ化、軽量薄型化等の観点から、駆動用ICを直接表示パネルのガラス基板上に実装するいわゆるCOG(chip on glass)が採用されている。
【0003】
例えばCOG実装方式が採用された液晶表示パネルにおいては、ガラス基板等の透明基板に、ITO(酸化インジウムスズ)等からなる透明電極が複数形成されおり、これらの透明電極上に液晶駆動用IC等の半導体素子が接続される。例えば液晶駆動用ICを用いる場合、その実装面に透明電極に対応した複数の電極端子が形成されており、異方導電性接着フィルムを介して液晶駆動用ICが透明基板上に熱圧着されることにより、電極端子と透明電極とが接続されて、接続構造体が得られる。
【0004】
異方導電性接着フィルムは、接着成分に導電性粒子を配合してフィルム状としたものである。異方導電性接着フィルムを介して2つの導体が加熱圧着されると、導電性粒子によって導体間の電気的導通がとられ、接着成分によって導体間の機械的接続が保持される。接着成分としては、熱硬化性のバインダー樹脂、光硬化性のバインダー樹脂、又は光及び熱の併用により硬化するバインダー樹脂が用いられる。
【0005】
近年、曲面を有するディスプレイ(フレキシブルディスプレイ)が提案され、一部実用化されているフレキシブルディスプレイでは、基材としてガラスに替えて可撓性を有するプラスチック基板が用いられるため、駆動用IC等の各種電子部品もプラスチック基板に実装されることとなる。そのような実装の方法として、異方導電性接着フィルムを用いるCOP(chip on plastic)が検討されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、COPで用いられるプラスチック基板は、熱的性質及び機械的性質の点で、COGに用いられるガラス基板とは異なる。そのため、本発明者らの検討によれば、COGに用いられる異方導電性接着フィルムをそのままCOPに用いた場合、得られる接続構造体において、接着強度、ピール強度、及び接続抵抗(特に高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗)の点で満足な特性が得られないことがある。
【0008】
そこで、本発明は、プラスチック基板を有する電子部品の接続において、接着強度、ピール強度、及び高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗に優れた接続構造体を得ることが可能な異方導電性接着フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、熱硬化性の接着成分と、導電性粒子と、を含有する異方導電性接着フィルムであって、異方導電性接着フィルムを200℃、1時間の条件で熱硬化させた硬化物が、40℃において0.7GPa~1.5GPaの貯蔵弾性率を有する、異方導電性接着フィルムである。
【0010】
本発明の他の一側面は、プラスチック基板、及びプラスチック基板上に設けられた電極を有する第一の電子部材と、第二の電子部材と、第一の電子部材と第二の電子部材とを互いに電気的に接続する接続部材と、を備え、接続部材が、上記の異方導電性接着フィルムの硬化物である、接続構造体である。
【0011】
本発明の他の一側面は、プラスチック基板、及びプラスチック基板上に設けられた電極を有する第一の電子部材と、第二の電子部材との間に、上記の異方導電性接着フィルムを配置し、異方導電性接着フィルムを介して第一の電子部材と第二の電子部材とを熱圧着して、第一の電子部材と第二の電子部材とを電気的に接続する工程を備える、接続構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラスチック基板を有する電子部品の接続において、接着強度、ピール強度、及び高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗に優れた接続構造体を得ることが可能な異方導電性接着フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】接着フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】接続構造体の製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、異方導電性接着フィルム(以下、単に「接着フィルム」ともいう)の一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すように、一実施形態に係る接着フィルム1は、接着成分2と、接着成分2中に分散された導電性粒子3とを含有している。接着成分2は、導電性粒子3以外の固形分として定義される。
【0016】
接着成分2は、加熱されることにより硬化する熱硬化性の成分である。接着成分2は、例えば、150℃以上の加熱により硬化する成分であってよく、250℃以下の加熱により硬化する成分であってよい。接着成分2は、硬化性化合物の1種又は2種以上を含んでいる。硬化性化合物は、硬化反応を生じさせる反応性基を有している。反応性基は、例えば、ラジカル重合反応、イオン重合反応又は重付加反応を生じさせる公知の基であってよい。硬化性化合物は、反応性基を1つ有していてよく、2つ以上有していてもよい。硬化性化合物は、モノマー、オリゴマー又はポリマーのいずれであってもよい。
【0017】
ラジカル重合反応を生じさせる反応性基としては、例えば、(メタ)アクロイル基が挙げられる。(メタ)アクロイル基を有する硬化性化合物としては、エポキシ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーンアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフォスフェート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性2官能(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性3官能(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ジ(メタ)アクリロイロキシジエチルフォスフェート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート等が挙げられる。
【0018】
(メタ)アクロイル基を有する硬化性化合物は、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂の末端又は側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した化合物(例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート)であってもよい。この場合、硬化性化合物の重量平均分子量は、例えば、3000以上であってよく、5000以上であってよく、1万以上であってよく、100万以下であってよく、50万以下であってよく、25万以下であってよい。なお、重量平均分子量は、以下の条件に従って、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)より標準ポリスチレンによる検量線を用いて測定される。
(測定条件)
装置:東ソー株式会社製 GPC-8020
検出器:東ソー株式会社製 RI-8020
カラム:日立化成株式会社製 Gelpack GLA160S+GLA150S
試料濃度:120mg/3mL
溶媒:テトラヒドロフラン
注入量:60μL
圧力:2.94×106Pa(30kgf/cm2)
流量:1.00mL/min
【0019】
イオン重合反応又は重付加反応を生じさせる反応性基としては、例えばエポキシ基が挙げられる。エポキシ基を有する硬化性化合物としては、エピクロルヒドリンと、ビスフェノールA、F、AD等との反応生成物であるビスフェノール型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンと、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等との反応生成物であるエポキシノボラック樹脂、ナフタレン環を含んだ骨格を有するナフタレン系エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエーテル等の1分子内に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物などが挙げられる。
【0020】
硬化性化合物の含有量は、接着成分2の全質量基準で、10質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってよく、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下であってよい。
【0021】
硬化性化合物がラジカル重合反応を生じさせる反応性基を含む場合、接着成分2は、例えば、熱ラジカル重合開始剤を更に含有する。熱ラジカル重合開始剤は、熱により分解して遊離ラジカルを発生する。熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
【0022】
有機過酸化物の具体例としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0023】
アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0024】
熱ラジカル重合開始剤の含有量は、接着成分2の全質量基準で、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよく、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0025】
硬化性化合物がラジカル重合反応を生じさせる反応性基を含む場合、接着成分2は、例えば、重合禁止剤を更に含んでよい。重合禁止剤は、ハイドロキノン、メチルエーテルハイドロキノン等であってよい。重合禁止剤の含有量は、接着成分2の全質量基準で、0.05質量%以上であってよく、5質量%以下であってよい。
【0026】
硬化性化合物がイオン重合反応又は重付加反応を生じさせる反応性基を含む場合、接着成分2は、例えば、当該反応性基と反応して硬化性化合物を重合させる重合開始剤(硬化剤とも呼ばれる)を更に含有する。重合開始剤としては、メラミン又はその誘導体、ヒドラジド、三フッ化ホウ素-アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ジアミノマレオニトリル、ポリアミン又はその塩、ジシアンジアミド、ポリメルカプタン、ポリフェノール、酸無水物等が挙げられる。重合開始剤の含有量は、接着成分2の全質量基準で、1質量%以上であってよく、15質量%以下であってよい。
【0027】
接着成分2は、熱可塑性樹脂を更に含有してもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の含有量は、接着成分2の全質量基準で、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上であってよく、80質量%以下、75質量%以下、又は70質量%以下であってよい。
【0028】
接着成分2は、カップリング剤を更に含有してもよい。カップリング剤としては、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、イミダゾール基、エポキシ基等の有機官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。カップリング剤の含有量は、接着成分2の全質量基準で、1質量%以上であってよく、10質量%以下であってよい。
【0029】
接着成分2は、充填材、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤などを更に含有してもよい。
【0030】
接着成分2の含有量は、接着フィルム1の全体積基準で、50体積%以上であってよく、98体積%以下であってよい。
【0031】
導電性粒子3は、例えば、ポリスチレン等のポリマー粒子と、該ポリマー粒子を被覆する金属層とを備えている。ポリマー粒子は、好ましくはその表面の実質的に全体が金属層で被覆されているが、ポリマー粒子の表面の一部が金属層で被覆されずに露出していてもよい。
【0032】
ポリマー粒子を構成するポリマーは、例えば、スチレン及びジビニルベンゼンから選ばれる少なくとも1種のモノマーをモノマー単位として含むポリマーであってよい。ポリマー粒子の直径は、例えば、1μm以上又は2μm以上であってよく、40μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0033】
金属層は、Ni、Ni/Au、Ni/Pd、Cu、NiB、Ag、Ru等の金属により形成されていてよい。金属層は、めっき、蒸着、スパッタ等で作製される薄膜であってもよい。
【0034】
導電性粒子3は、絶縁性向上の観点から、金属層の外側に設けられた、金属層を覆う絶縁層を更に備えていてもよい。絶縁層は、シリカ、アクリル等の絶縁性材料から形成された層であってよい。
【0035】
導電性粒子3は、その表面に複数の突起部を有していてもよい。突起部を有する導電性粒子は、例えば、ポリマー粒子の表面上に金属メッキによって金属層を形成することによって得ることができる。
【0036】
導電性粒子3の平均粒径は、1μm以上又は2μm以上であってよく、40μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってよい。本明細書では、任意の導電粒子300個(pcs)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により粒径の測定を行い、得られた粒径の平均値を平均粒径とする。
【0037】
導電性粒子の含有量は、接続する電極の精細度等に応じて決められ、接着フィルム1の全体積基準で、2体積%以上であってよく、50体積%以下であってよい。
【0038】
以上説明した接着フィルム1は、硬化された後に特定の貯蔵弾性率を有する。具体的には、接着フィルム1を200℃、1時間の条件で熱硬化させた硬化物が、40℃において0.7GPa~1.5GPaの貯蔵弾性率を有する、接着フィルム1の硬化物がこのような貯蔵弾性率を有することにより、プラスチック基板を有する電子部品の接続において、接着強度、ピール強度、及び高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗に優れた接続構造体を得ることが可能となる。上記の効果がより好適に得られる観点から、当該貯蔵弾性率の下限値は、好ましくは0.8GPa以上、より好ましくは0.9GPa以上、更に好ましくは1.0GPa以上である。上記の効果がより好適に得られる観点から、当該貯蔵弾性率の上限値は、好ましくは1.4GPa以下、より好ましくは1.3GPa以下、更に好ましくは1.2GPa以下である。
【0039】
なお、200℃、1時間という熱硬化時の条件は、接着フィルム1を用いて実際に接続構造体を製造する際の接着フィルム1の熱硬化の条件と同等であるので、当該条件により硬化させた接着フィルム1の硬化物の貯蔵弾性率は、接続構造体の製造における接着フィルム1の硬化物の物性を反映するものとして理解することができる。
【0040】
上記貯蔵弾性率は、以下の方法により測定される。
まず、接着フィルム1を200℃の加熱炉に入れ、1時間加熱することで、接着フィルム1を硬化させて硬化物を得る。その硬化物を2.0mm×20.0mmの短冊状に切り出し、測定試料とする。なお、接着フィルム1の短辺が2.0mm未満である場合は、その短辺の長さ×20.0mmの短冊状に切り出して測定試料とする。その測定試料について、動的粘弾性測定装置(例えば、装置名RSA III、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で、40℃における貯蔵弾性率を測定する。
【0041】
接着フィルム1の貯蔵弾性率は、接着成分2の組成によって調整することができる。具体的には、例えば、硬化性化合物1分子中の反応性基の数を増やすと硬化後の架橋密度が増加し、貯蔵弾性率が増加する傾向にある。また、硬化性化合物の分子構造が剛直である(例えばナフタレン骨格を有する)と、貯蔵弾性率が増加する傾向にある。あるいは、熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度の高いフェノキシ樹脂又はポリエステルウレタン樹脂を用いると、貯蔵弾性率が増加する傾向にある。
【0042】
接着フィルム1は、電子部材同士を接続するために好適に用いられる。以下、接着フィルム1を用いた接続構造体の製造方法を説明する。
図2は、接続構造体の製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。この製造方法では、まず、
図2(a)に示すように、第一の基板4及び第一の基板4上に設けられた電極(第一の電極)5を有する第一の電子部材6と、第二の基板7及び第二の基板7上に設けられた第二の電極8を有する第二の電子部材9とを用意する。
【0043】
次に、第一の電子部材6と第二の電子部材9とを、第一の電極5と第二の電極8とが対向するように配置し、第一の電子部材6と第二の電子部材9との間に接着フィルム1を配置する。
【0044】
そして、矢印A及びB方向に全体を加圧しながら、加熱することにより、接着フィルム1を硬化させる。加圧時の圧力は、例えば、総接続面積あたり、1MPa以上であってよく、10MPa以下であってよい。加熱温度は、例えば、150℃以上であってよく、250℃以下であってよい。加圧及び加熱を行う時間は、例えば、1秒間以上であってよく、160秒間以下であってよい。このように、第一の電子部材6と第二の電子部材9とが、接着フィルム1(接着フィルム1の硬化物)を介して熱圧着される。
【0045】
このようにして得られる接続構造体11は、
図2(b)に示すように、第一の基板4及び第一の基板4上に設けられた第一の電極5を有する第一の電子部材6と、第二の基板7及び第二の基板7上に設けられた第二の電極8を有する第二の電子部材9と、第一の電子部材6と第二の電子部材9との間に配置され、第一の電極5と第二の電極8とを互いに電気的に接続する接続部材10と、を備える。接続部材10は、接着フィルム1の硬化物により構成されており、接着成分2の硬化物12と、該硬化物12中に分散された導電性粒子3とからなっている。接続構造体11では、導電性粒子3が第一の電極5と第二の電極8との間に介在することにより、第一の電子部材6と第二の電子部材9とが互いに電気的に接続されている。
【0046】
第一の基板4は、プラスチック基板であり、可撓性を有している。第二の基板7は、ポリマー基板、ガラス基板、セラミックス基板等であってよい。
【0047】
第一の基板4(プラスチック基板)の弾性率は、例えば、接続構造体11に求められるフレキシビリティ(屈曲性)、及び、第二の電子部材9との接続強度を考慮して決められる。第一の基板4(プラスチック基板)の弾性率は、例えば、2000MPa以上であってよく、4100MPa以下であってよい。
【0048】
プラスチック基板は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)及びポリエチレンナフタレート(PEN)から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂で形成されていてよい。第一の基板4は、例えば二層以上のプラスチック層から形成されていてもよく、具体的には、例えば、PET等の第一のプラスチック層と、PI等の第二のプラスチック層とを備えていてもよい。この場合、第二のプラスチック層は第一のプラスチック層よりも耐熱性に優れており、第一の電極5は、第二のプラスチック層上に設けられる。
【0049】
第一の電極5及び第二の電極8を形成する電極材料としては、Agペースト、Ni、Al、Au、Cu、Ti及びMo等の金属、並びに、ITO、IZO、銀ナノワイヤ及びカーボンナノチューブ等の透明導電体が挙げられる。
【0050】
第一の電子部材6は、二以上の部材を接着するために接着剤層を有していてもよい。ただし、接着剤層の弾性率は一般に0.1MPa~1.0MPaであり、第一の電子部材6を構成する材料の中で最も柔らかくなるため、プラスチック基板の屈曲による影響が接着剤層に現れやすい。したがって、接着剤層の変形が第一の電子部材6全体の変形に影響を及ぼし得るため、この点を考慮して接着剤層を選定することが好ましい。
【0051】
以上説明した接続構造体11の具体例として、有機EL素子が規則的に配置されたプラスチック基板に、映像表示用のドライバである駆動回路素子が実装されたフレキシブルな有機電界発光カラーディスプレイ(有機ELディスプレイ)が挙げられる。また、別の具体例として、有機ELディスプレイのような表示素子とタッチパッドのような位置入力装置を組み合わせたいわゆるタッチパネルでもよい。接続構造体11は、例えば、スマートホン、タブレット、テレビ、乗り物のナビゲーションシステム、ウェアラブル端末等であってよい。
【0052】
上記のような具体例における第一の電子部材6では、例えば、PET、PEN等のプラスチック基板(第一の基板4)上に、有機TFT等の画素駆動回路及び複数の有機EL素子R、G、Bがマトリクス状に規則配列されることにより表示領域が形成されている。この表示領域には、映像表示用の信号線及び走査線が互いに直交する方向に形成されている。有機ELディスプレイは、例えば、それぞれ赤、緑、青の光を発光する有機EL素子R、G、Bの組が一つのピクセルを構成する。有機EL素子が形成された有機層は、保護層に被覆されるとともに、接着層を介して封止基板により封止されている。
【0053】
第一の電子部材6は、表示領域の外側に、映像表示用の信号線及び走査線の各電極が引き出され、それぞれ映像表示用のドライバである駆動回路素子が接続される。駆動回路素子と接続される信号線及び走査線の各電極(第一の電極5)は、駆動回路素子に設けられたバンプの配列に応じて配列されている。なお、プラスチック基板(第一の基板4)として、光透過性を有する基板を用いることにより、有機EL素子の光を基板の背面側から取り出すことができる。
【0054】
上記のような具体例における第二の電子部材9は、半導体電子部材であってよく、具体的には、例えば、ICチップであってよく、LEDなどの光学素子であってよい。このような第二の電子部材9における第二の電極8は、金スタッドバンプ、ハンダバンプ等のバンプ電極であってよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<異方導電性接着フィルムの作製>
以下の表1,2に示す配合で接着成分を調製した後、ポリマー粒子と当該ポリマー粒子を被覆するNiめっき層とを備える導電性粒子(平均粒径:3μm)を接着成分中に分散させて、接着成分と導電性粒子の混合物を得た。このとき、導電性粒子の粒子密度が30,000個/mm2となるような量の導電性粒子を用いた。得られた混合物を、乾燥後の厚みが20μmとなるように、剥離処理されたPETフィルム上に塗布し、各実施例及び比較例の異方導電性接着フィルムを作製した。
【0057】
<貯蔵弾性率の測定>
得られた各異方導電性接着フィルムを200℃の加熱炉に入れ、1時間加熱することで硬化させた。異方導電性接着フィルムの硬化物をPETフィルムから剥離し、2.0mm×20.0mmの短冊状に切り出し、測定試料とした。その測定試料について、動的粘弾性測定装置(装置名RSA III、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で、40℃における貯蔵弾性率を測定した。結果を表1,2に示す。
【0058】
<評価>
-接続抵抗(導通抵抗)の評価-
作製した各異方導電性接着フィルムを用いて、金バンプ付きICチップ(0.9mm×20.3mm、厚み:0.3mm)と、Ti/Al/Ti回路付きプラスチック基板(厚み:0.05mm)との接続を以下のとおり行った。なお、金バンプの面積は12μm×100μmであった。金バンプ間のスペース(ピッチ)は12μmであった。金バンプの高さは15μmであった。
【0059】
続いて、異方導電性接着フィルムを2.0mm幅に切り出し、異方導電性接着フィルムがTi/Al/Ti回路付きプラスチック基板に接するように、Ti/Al/Ti付きプラスチック基板に貼り付けた。異方導電性接着フィルム上に、金バンプ付きICチップを配置した後、ヒートツールを10mm×50mmで用い、緩衝材として厚み50μmのテフロン(登録商標)を介し、170℃、60MPaの条件で、5秒間加熱及び加圧することで、接続構造体を得た。
【0060】
作製した接続構造体について、温度85℃及び湿度85%RHの条件で500時間保管後の接続抵抗(導通抵抗)を4端子法により測定した。株式会社アドバンテスト製の定電流電源装置R-6145を用いて、一定電流(1mA)を接続構造体サンプルのICチップ電極-ポリイミド基板電極間(接続部分)に印加した。電流の印加時における接続部分の電位差を、株式会社アドバンテスト製のデジタルマルチメーター(R-6557)を用いて測定した。電位差を任意の14点で測定し、その平均値を求めた。電位差の平均値を接続抵抗値に換算した。得られた接続抵抗値を下記の基準に基づき評価した。結果を表1,2に示す。
A:接続抵抗値が5Ω未満
B:接続抵抗値が5Ω以上
【0061】
-接着強度の評価-
評価電子部材として、金バンプ付きICチップ(1.7mm×17mm、厚み:0.5mm)とプラスチック基材(厚み:0.05mm)を用いた。
異方導電性接着フィルムを2.5mm幅に切り出し、異方導電性接着フィルムがプラスチック基板に接するように、プラスチック基材に貼り付けた。異方導電性接着フィルム上に、金バンプ付きICチップ配置した後、ヒートツールを10mm×50mmで用い、緩衝材として厚み50μmのテフロン(登録商標)を介し、170℃、60MPaの条件で、5秒間加熱及び加圧することで、接続構造体を得た。
【0062】
作製した接続構造体について、初期の接着強度を、接着力試験器(4000Puls Nordson社製)を用い、測定速度16μm/秒で金バンプ付きICチップを押し出して測定した。得られた接着強度を下記の基準に基づき評価した。結果を表1,2に示す。
A:接着強度が10MPa以上
B:接着強度が10MPa未満
【0063】
-ピール強度の評価-
評価電子部材として、金バンプ付きICチップ(1.7mm×17mm、厚み:0.5mm)とプラスチック基板(厚み:0.05mm)を用いた。
異方導電性接着フィルムを2.5mm幅に切り出し、異方導電性接着フィルムがプラスチック基板に接するように、プラスチック基板に貼り付けた。異方導電性接着フィルム上に、金バンプ付きICチップ配置した後、ヒートツールを10mm×50mmで用い、緩衝材として厚み50μmのテフロン(登録商標)を介し、170℃、60MPaの条件で、5秒間加熱及び加圧することで、接続構造体を得た。
作製した接続構造体について、初期のピール強度を、引張り試験器(STA-1150、株式会社オリエンテック製)を用い、測定速度50mm/分でプラスチック基板を引上げて測定した。得られたピール強度を下記の基準に基づき評価した。結果を表1,2に示す。
A:ピール強度が100N/m以上
B:ピール強度が100N/m未満
【0064】
【0065】
【0066】
表1,2中の各成分は以下のとおりである。なお、表1,2に記載のFX293、PKHC、FX316、UR-4800、UR-8200、UR-4125、UR-5537及びUA-5500-70Tの配合量は、固形分としての配合量である。
【0067】
FX293:ビフェニル・フルオレン型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、酢酸エチル/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に40質量%溶解させたもの)
PKHC:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(巴工業株式会社製、酢酸エチル/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に40質量%溶解させたもの)
ZX1356-2:ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、酢酸エチル/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に45質量%溶解させたもの)
FX316:ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、酢酸エチル/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に60質量%溶解させたもの)
HP-4032D:ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
EXA-4850:ポリアルキレンオキシ化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社)
SH-6040:シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製)
SI-60LA:重合開始剤(三新化学工業株式会社製)
UR-4800:共重合ポリエステルウレタン樹脂(東洋紡株式会社、メチルエチルケトン/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に32質量%溶解させたもの)
UR-8200:共重合ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡株式会社、メチルエチルケトン/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に30質量%溶解させたもの)
UR-4125:共重合ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡株式会社、メチルエチルケトン/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に23質量%溶解させたもの)
UR-5537:共重合ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡株式会社、メチルエチルケトン/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に30質量%溶解させたもの)
UA-5500-70T:ウレタンアクリレート(新中村化学工業株式会社、トルエンに70質量%溶解させたもの)
DCPA:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(共栄社化学株式会社製)
M215:イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(東亜合成株式会社製)
M315:イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(東亜合成株式会社製)
KBE502:3-メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
ナイパーBMT-K40:重合開始剤(日油株式会社製)
LA7RT:重合禁止剤(旭電化工業株式会社製)
【0068】
表1,2の結果から、実施例1~8の異方導電性接着フィルムを200℃、1時間の条件で熱硬化させた硬化物が40℃において0.7GPa~1.5GPaの貯蔵弾性率を有する場合、高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗、接着強度及びピール強度に優れた接続構造体が得られた。一方、当該貯蔵弾性率が1.5GPaを超える比較例1、2及び比較例5、6では、接着強度及びピール強度の点で劣っていた。また、当該貯蔵弾性率が0.7GPa未満である比較例3、4及び7、8では、高温高湿環境下に置かれた後の接続抵抗及び接着強度の点で劣っていた。
【符号の説明】
【0069】
1…接着フィルム、2…接着成分、3…導電性粒子、4…第一の基板(プラスチック基板)、5…電極(第一の電極)、6…第一の電子部材、7…第二の基板、8…第二の電極、9…第二の電子部材、10…接続部材(接着フィルムの硬化物)、11…接続構造体。