(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック装置、ウェアラブルデバイス、及びエレクトロクロミック装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/163 20060101AFI20240214BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
G02F1/163
G02F1/15 507
G02F1/15 503
(21)【出願番号】P 2020027317
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019053781
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】八代 徹
(72)【発明者】
【氏名】油谷 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 史育
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】浦 直樹
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-245985(JP,A)
【文献】特表2003-502693(JP,A)
【文献】特開2016-218359(JP,A)
【文献】特開2016-218437(JP,A)
【文献】特開2011-248191(JP,A)
【文献】特開昭60-242428(JP,A)
【文献】特開2016-038583(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0002919(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、
前記第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、
第二の電極と、
前記第二の電極に接触し、前記第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、
前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、
前記第一の電極、前記第二の電極、及び前記エレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、
前記エレクトロクロミック層に対し、前記第一の電極及び前記第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御手段と、
前記第一の電極と前記第二の電極の間の開放電圧を測定する測定手段と、
を備え
たエレクトロクロミック装置であって、
前記第一駆動パターン
は、前記エレクトロクロミック層を第一の発色状態にするための前記駆動パターンであって、
前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し
た後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、前記第一の発色状態を形成するための、前記第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し
た後、電圧
を印
加しない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記第二駆動パターン
は、前記第一の発色状態から、前記第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための前記駆動パターンであって、
前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し
た後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、前記第二の発色状態を形成するための、前記第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、前記第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し
た後、電圧
を印
加しない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記初期化駆動パターン
は、初期の消色状態を形成するための前記駆動パターンであって、
前記第一電圧パルスAとは逆極性であって前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し
た後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、初期の消色状態を形成するための、前記エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる前記駆動パターンであ
り、
前記制御手段は、
前記第一電圧パルスBの印加直後、又は前記第二電圧パルスBの印加直後の、前記電圧を印加しない状態を維持する際に前記測定手段が測定した前記開放電圧に応じて、前記第一電圧パルスB及び前記第二電圧パルスBのパルス特性を変化させた、第一電圧パルスB′及び第二電圧パルスB′を印加し、
前記第一駆動パターン及び前記第二駆動パターンの少なくともいずれかにおいて、前記第一電圧パルスB′の印加、及び前記第一電圧パルスB′の印加後における前記電圧を印加しない状態の維持、又は、前記第二電圧パルスB′の印加、及び前記第二電圧パルスB′の印加後における前記電圧を印加しない状態の維持を繰り返す、
ことを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【請求項2】
前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極が金属材料を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック層の一の辺に前記第一の補助電極が位置し、前記一の辺と対向する他の辺に前記第二の補助電極が位置する、請求項1から2のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項4】
前記第一電圧パルスB及び前記第二電圧パルスBの平均電圧が1.23V以下である、請求項1から3のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項5】
前記固体電解質層が、マトリックスポリマーとイオン性液体との固溶体を含む、請求項1から4のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項6】
前記エレクトロクロミック層が2電子反応可能な化合物を含む、請求項1から5のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック装置が、2つの前記エレクトロクロミック層を有し、
一の前記エレクトロクロミック層が、酸化状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第一のエレクトロクロミック層であり、
他の前記エレクトロクロミック層が、還元状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第二のエレクトロクロミック層である、請求項1から6のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置を有することを特徴とするウェアラブルデバイス。
【請求項9】
前記ウェアラブルデバイスの形状が、眼鏡型である、請求項8に記載のウェアラブルデバイス。
【請求項10】
第一の電極と、
前記第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、
第二の電極と、
前記第二の電極に接触し、前記第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、
前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、
前記第一の電極、前記第二の電極、及び前記エレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、を備えたエレクトロクロミック装置における前記エレクトロクロミック層に対し、
前記第一の電極及び前記第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御工程と、
前記第一の電極と前記第二の電極の間の開放電圧を測定する測定工程と、を含むエレクトロクロミック装置の駆動方法であって、
前記第一駆動パターンは、前記エレクトロクロミック層を第一の発色状態にするための前記駆動パターンであって、
前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加した後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、前記第一の発色状態を形成するための、前記第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加した後、電圧を印加しない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記第二駆動パターンは、前記第一の発色状態から、前記第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための前記駆動パターンであって、
前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加した後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、前記第二の発色状態を形成するための、前記第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、前記第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加した後、電圧を印加しない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記初期化駆動パターンは、初期の消色状態を形成するための前記駆動パターンであって、
前記第一電圧パルスAとは逆極性であって前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加した後、電圧を印加しない状態を維持し、
その後、初期の消色状態を形成するための、前記エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる前記駆動パターンであり、
前記制御工程は、
前記第一電圧パルスBの印加直後、又は前記第二電圧パルスBの印加直後の、前記電圧を印加しない状態を維持する際に前記測定工程が測定した前記開放電圧に応じて、前記第一電圧パルスB及び前記第二電圧パルスBのパルス特性を変化させた、第一電圧パルスB′及び第二電圧パルスB′を印加し、
前記第一駆動パターン及び前記第二駆動パターンの少なくともいずれかにおいて、前記第一電圧パルスB′の印加、及び前記第一電圧パルスB′の印加後における前記電圧を印加しない状態の維持、又は、前記第二電圧パルスB′の印加、及び前記第二電圧パルスB′の印加後における前記電圧を印加しない状態の維持を繰り返す、
ことを特徴とするエレクトロクロミック装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック装置、ウェアラブルデバイス、及びエレクトロクロミック装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象はエレクトロクロミズムと称され、このエレクトロクロミズムを利用した装置がエレクトロクロミック装置である。エレクトロクロミック装置は、様々な用途に応用可能であるとして、今日まで多くの研究がなされている。
【0003】
エレクトロクロミック装置に用いられるエレクトロクロミック材料としては、例えば、有機材料と無機材料とが挙げられる。有機材料を用いたエレクトロクロミック装置は、その分子構造により様々な色彩発色が可能であることから、カラー表示装置に用いられる。一方、無機材料を用いたエレクトロクロミック装置は、色彩度が低いことが利点となるアプリケーションとして、調光ガラスや防眩ミラーとして実用化されている。
【0004】
エレクトロクロミック装置は、例えば、エレクトロクロミック材料を対向する2つの電極間に形成し、イオン伝導可能な電解質層が電極間に満たされた状態で酸化還元反応を行う。電極としては、色彩を視認するために少なくとも一方には透明電極が用いられることが多い。
ここで、エレクトロクロミックは電気化学現象であるため、電解質層の性能(イオン伝導度等)が応答速度や発色のメモリ効果に影響する。電解質層が電解質を溶媒に溶かした液体状である場合は速い応答性を得やすいが、素子強度及び信頼性の点で固体化、ゲル化による改良が検討されている。
また、エレクトロクロミック装置については、応答性を改善する目的で、電圧印加開始時に、本来の駆動電圧よりも高い電圧を短時間印加する技術が知られている(例えば、特許文献1から2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性、並びに外部からの衝撃などに対する強度及び安全性が高く、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制できるエレクトロクロミック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段としての本発明のエレクトロクロミック装置は、
第一の電極と、
第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、
第二の電極と、
第二の電極に接触し、第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、
第一の電極及び第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、
第一の電極、第二の電極、及びエレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、
エレクトロクロミック層に対し、第一の電極及び第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御手段と、
を備え、
第一駆動パターンが、エレクトロクロミック層を第一の発色状態にするための駆動パターンであって、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し、第一の発色状態を形成するための、第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する駆動パターンであり、
第二駆動パターンが、第一の発色状態から、第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための駆動パターンであって、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し、第二の発色状態を形成するための、第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する駆動パターンであり、
初期化駆動パターンが、初期の消色状態を形成するための駆動パターンであって、第一電圧パルスAとは逆極性であってエレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し、その後、初期の消色状態を形成するための、エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる駆動パターンである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性、並びに外部からの衝撃などに対する強度及び安全性が高く、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制できるエレクトロクロミック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、2電子反応可能なエレクトロクロミック材料の一例における、ポテンショスタットを用いて測定した電流値を示す図である。
【
図2】
図2は、第一駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第二駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、初期化駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
【
図5B】
図5Bは、第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
【
図6A】
図6Aは、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
【
図6B】
図6Bは、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
【
図7】
図7は、第三の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
【
図8】
図8は、第四の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
【
図9A】
図9Aは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
【
図9B】
図9Bは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の他の一例を示す概略上面図である。
【
図9C】
図9Cは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の他の一例を示す概略上面図である。
【
図10】
図10は、エレクトロクロミック装置Aにおける透過スペクトルを測定した結果を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光の透過率スペクトルを示す図である。
【
図11B】
図11Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における透過率スペクトルを示す図である。
【
図12A】
図12Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を低くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光の透過率スペクトルを示す図である。
【
図12B】
図12Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を低くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における透過率スペクトルを示す図である。
【
図13A】
図13Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、初期化駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光の透過率スペクトルを示す図である。
【
図13B】
図13Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置を用いて、初期化駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における透過率スペクトルを示す図である。
【
図14A】
図14Aは、作製例2のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光の透過率スペクトルを示す図である。
【
図14B】
図14Bは、作製例2のエレクトロクロミック装置を用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における透過率スペクトルを示す図である。
【
図15】
図15は、第一駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、第二駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、初期化駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(エレクトロクロミック装置、エレクトロクロミック装置の駆動方法)
本発明のエレクトロクロミック装置は、第一の電極と、第一の補助電極と、第二の電極と、第二の補助電極と、エレクトロクロミック層と、固体電解質層と、制御手段を有し、測定手段、支持体、保護層、劣化防止層を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の手段を有する。
本発明のエレクトロクロミック装置の駆動方法は、第一の電極と、第一の補助電極と、第二の電極と、第二の補助電極と、エレクトロクロミック層と、固体電解質層と有するエレクトロクロミック装置におけるエレクトロクロミック層に対し特定の駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御工程を含み、測定工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0010】
本発明のエレクトロクロミック装置の駆動方法は、本発明のエレクトロクロミック装置により好適に行うことができる。
つまり、本発明のエレクトロクロミック装置の駆動方法は、本発明のエレクトロクロミック装置により実施される。そのため、本発明のエレクトロクロミック装置に関する説明を通じて、本発明のエレクトロクロミック装置の駆動方法の詳細についても明らかにする。
【0011】
また、本発明のエレクトロクロミック装置は、従来技術のエレクトロクロミック装置では、発消色を行う際の応答性及び発色濃度の均一性、並びに外部からの衝撃などに対する強度及び安全性が低くなってしまい、長時間連続して駆動させる際の耐久性に問題が生じるとともに消費電力が高くなってしまう場合があるという知見に基づくものである。
【0012】
エレクトロクロミック装置は、電極間に電圧を印加し、酸化還元反応に必要な電荷をエレクトロクロミック層に注入又は放出することで発消色駆動する。エレクトロクロミック装置のサイズが大きくなると、透明電極の電気抵抗値により電圧降下が生じるため、電極コンタクト部(電極と接する部分)から遠い領域では着色濃度が薄くなり、濃度ムラが生じる場合がある。そこで、透明電極面に補正用の電気抵抗分布を形成することや、金属の補助電極を形成することにより、濃度ムラを軽減する手法が検討されてきた。しかし、これらの手法においては、エレクトロクロミック装置の透明性が十分でなくなり、視認性が低下するという問題があった。
【0013】
また、エレクトロクロミック装置の応答性を向上させる技術としては、上述したように、特許文献1又は2などで開示されている、電圧印加開始時に本来の駆動電圧よりも高い電圧を短時間印加する技術が知られている。
しかし、イオン伝導性に優れた電解液(イオン性液体や電解質を溶媒に溶かした溶液など)を用いたエレクトロクロミック装置では、イオンが電極間(縦)方向だけでなく電解層面(横)方向にも動きやすい。このため、電圧印加コンタクトエリア周辺(電極周辺)のみが速く応答することで濃度ムラが発生し、エレクトロクロミック装置全体では応答が改善しにくいという問題があった。また、電解層面(横)方向のイオン拡散が抑えられる固体電解質層を用いるエレクトロクロミック装置においては、イオンが拡散しにくいことにより、長時間連続駆動させる場合に、エレクトロクロミック層が劣化しやすいという問題がある。
【0014】
また、近年は、ウェアラブルデバイスが、エレクトロクロミック装置の次世代の用途として注目され、開発が進んでいる。ウェアラブルデバイスに用いられるバッテリーは軽量性、安全性の観点から小型に限定されるため、ウェアラブルデバイスとしては省電力で駆動可能なものが好ましい。さらに、ウェアラブルデバイスは、身につけて使用するため、その他の用途に比べてより高い安全性が求められる。
【0015】
本発明のエレクトロクロミック装置は、第一の電極と、第一の補助電極と、第二の電極と、第二の補助電極と、エレクトロクロミック層と、固体電解質層と、制御手段を有する。
本発明のエレクトロクロミック装置においては、電解質層が固体であることにより、外部からの衝撃などに対する機械的強度が高いとともに、液漏れなどの不具合を生じることないため安全性が高い。
さらには、電解質層が固体であることにより、電源をオフにしても(電圧を印加しなくても)、着色状態及び消色状態が一定時間保持されるメモリ効果を得ることができ、第一駆動パターンや第二駆動パターンなどの間欠的な電圧の印加でも、着色濃度を維持できる。このため、本発明のエレクトロクロミック装置においては、消費電力を抑制できるととともに、連続的な電圧の印加によるエレクトロクロミック層の劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。
【0016】
加えて、本発明のエレクトロクロミック装置においては、第二の補助電極は、第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成されている。すなわち、本発明のエレクトロクロミック装置は、補助電極間の平均距離が100mm以下であり、かつ固体電解質層を有するため、効率よく均一にイオンを伝導(拡散)させることができるので、発消色駆動を行う際の発色濃度の均一性を向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明のエレクトロクロミック装置は、エレクトロクロミック層が第一の電極及び第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に形成されている。同様に、本発明のエレクトロクロミック装置においては、固体電解質層が第一の電極、第二の電極、及びエレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に形成されている。言い換えると、第一の補助電極及び第二の補助電極は、エレクトロクロミック層及び固体電解質層に対しては非接触に形成される。こうすることにより、第一の補助電極及び第二の補助電極が配線用材料(金属材料)のようなイオン化しやすい材料により形成される場合であっても、エレクトロクロミック層の電気化学反応により劣化することを防止できる。
【0018】
また、本発明のエレクトロクロミック装置は、制御手段により、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う。これらの駆動パターンにおいては、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための電圧パルスを印加しているため、発消色駆動を行う際のエレクトロクロミック層の応答性を向上させることができる。
エレクトロクロミック層を第一の発色状態(発色濃度が濃い状態)にするための第一駆動パターン、及びエレクトロクロミック層を第二の発色状態(発色濃度が薄い状態)にするための第二駆動パターンにおいては、電圧の印加をしない状態(開回路状態、オープンサーキット)を維持するパターンを含む。このため、本発明のエレクトロクロミック装置においては、上述したように、消費電力を抑制できるととともに、連続的な電圧の印加によるエレクトロクロミック層の劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。
【0019】
<第一の電極、第二の電極>
第一の電極及び第二の電極の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、透明導電性酸化物材料が好適であり、例えば、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と称する)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」と称する)などが挙げられる。これらの中でも、真空製膜により形成されたインジウム酸化物(以下、「In酸化物」と称する)、スズ酸化物(以下、「Sn酸化物」と称する)、及び亜鉛酸化物(以下、「Zn酸化物」と称する)のいずれか1つを含む無機材料が好ましい。
In酸化物、Sn酸化物、及びZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であるとともに、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料である。これらの中でも、InSnO、GaZnO、SnO、InO、ZnO、InZnO、InZrOを含む組成物が特に好ましい。
【0020】
また、第一の電極及び第二の電極の材料としては、透明性を有する銀、金、銅、アルミニウムを含有する導電性金属薄膜、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン膜、更に、導電性金属、導電性カーボン、導電性酸化物等のネットワーク電極、又はこれらの複合体も好ましい。
ここで、ネットワーク電極とは、カーボンナノチューブや他の高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して透過率を持たせた電極である。さらに、をネットワーク電極と導電性酸化物とを積層すること、又は導電性金属薄膜と導電性酸化物とを積層することがより好ましい。こうすることにより、エレクトロクロミック層をムラなく発消色させることができる。
なお、導電性酸化物層は、ナノ粒子インクとして塗布形成することもできる。導電性金属薄膜と導電性酸化物の積層構造とは、具体的には、ITO/Ag/ITOなどの薄膜積層構造において、導電性と透明性を両立させた電極である。これらの電極材料は視認性低下が許容される範囲で使用される。
【0021】
第一の電極及び第二の電極の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エレクトロクロミック層の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整されることが好ましい。具体的には、第一の電極及び第二の電極の材料としてITO真空製膜を用いた場合、第一の電極及び第二の電極の平均厚みは、20nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上200nm以下がより好ましい。
導電性酸化物層がナノ粒子インクを塗布して形成される場合の平均厚みとしては、0.2μm以上5μm以下が好ましい。また、ネットワーク電極の平均厚みとしては、0.2μm以上5μm以下が好ましい。
【0022】
さらに、エレクトロクロミック装置を調光ミラーとして利用する場合などには、第一の電極及び第二の電極のいずれかが、反射機能を有する構造であってもよい。この場合、第一の電極及び第二の電極の材料として金属材料を含むことが好ましい。金属材料としては、例えば、Pt、Ag、Au、Cr、ロジウム、Al又はこれらの合金、若しくはこれらの積層構造、電気化学反応しにくく耐久性の良好な当該金属酸化物との積層構造などが挙げられる。
【0023】
なお、第一の電極と第二の電極とにおける材料や平均厚みは、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0024】
第一の電極及び第二の電極の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などが挙げられる。また、第一の電極及び第二の電極の各々の材料を塗布して電極を形成可能な方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0025】
<第一の補助電極、第二の補助電極>
第一の補助電極は、第一の電極に接触して形成されている。
第二の補助電極は、第二の電極に接触し、第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成される。つまり、第一の補助電極と第二の補助電極との間の平均距離は、100mm以下となっている。こうすることにより、発消色駆動を行う際のエレクトロクロミック層における発色濃度のムラの発生を抑制でき、発色濃度の均一性を向上できる。
【0026】
第一の補助電極及び第二の補助電極の平面形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直線形状、曲線形状、点形状などすることができる。第一の補助電極及び第二の補助電極の平面形状は、例えば、エレクトロクロミック装置を調光眼鏡(調光サングラス)や調光フィルタとして用いる場合などには、エレクトロクロミック装置の形状に合わせた形状とすることが好ましい。
例えば、本発明のエレクトロクロミック装置を調光眼鏡として用いる場合、調光眼鏡におけるレンズ部分の形状(例えば、エレクトロクロミック層の形状)に応じて、第一の補助電極及び第二の補助電極の平面形状を選択することが好ましい。調光眼鏡におけるレンズ部分の形状が楕円形状である場合、第一の補助電極及び第二の補助電極の平面形状は、例えば、レンズ部分の側部の形状に合わせて、第一の補助電極と第二の補助電極とが、互いに向かい合うような形状とすることが好ましい。また、調光眼鏡をフレームレス(フチなし)とする場合には、補助電極としての機能が得られる程度の大きさとして、第一の補助電極及び第二の補助電極の平面形状を、点形状とすることが好ましい。
【0027】
ここで、第一の補助電極と第二の補助電極との間の平均距離とは、第一の補助電極と第二の補助電極の平均間隔(例えば、対向する端どうしの平均距離)のことを意味する。
第一の補助電極と第二の補助電極との間の平均距離を測定する際には、例えば、第一の補助電極と第二の補助電極の平面形状が、直線形状や曲線形状である場合、第一の補助電極における第二の補助電極と対向する端部における、任意の1点における第二の補助電極との最短距離を、当該1点における第一の補助電極と第二の補助電極との「距離」として測定できる。さらに、その「距離」を、当該1点以外の任意の多数の点にも測定し、これらの「距離」の平均値を「第一の補助電極と第二の補助電極との平均距離」とすることができる。
なお、任意の多数の点の数としては多いほど好ましく、任意の多数の点は、複数の「距離」の中でも最短のものと最長のものを含まないように選択することが第一の補助電極と第二の補助電極との、「距離」の平均を表すという観点からは好ましい。
また、第一の補助電極と第二の補助電極の形状が点形状(円形状や楕円形状)である場合は、第一の補助電極と第二の補助電極との間の平均距離を測定する際には、例えば、第一の補助電極の中心と第二の補助電極の中心との最短距離を「第一の補助電極と第二の補助電極との平均距離」とすることができる。
第一の補助電極と第二の補助電極との間の平均距離は、エレクトロクロミック層及び固体電解質層の厚みが十分薄い場合などにおいては、上面から平面視したときの平均距離としてもよい。
【0028】
第一の補助電極及び第二の補助電極の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、第一の電極及び第二の電極と同様の材料を用いることができるが、Au、Ag、Cu、Al、W、Ni、Wo、Crなどの配線用材料(金属材料)を用いることが好ましい。言い換えると、本発明のエレクトロクロミック装置においては、第一の補助電極及び第二の補助電極が金属材料を含むことが好ましい。こうすることにより、第一の補助電極及び第二の補助電極の電気抵抗をより小さくすることができ、より効率よく電圧パルスを印加でき、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性をより向上できる。
また、第一の補助電極及び第二の補助電極は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。さらに、金属粒子または金属被覆粒子のコート膜構造でもよい。なお、本発明のエレクトロクロミック装置は、第一の補助電極及び第二の補助電極以外に、更に補助電極を有していてもよい。
【0029】
本発明のエレクトロクロミック装置においては、エレクトロクロミック層の一の辺に第一の補助電極が位置し、当該一の辺と対向する他の辺に第二の補助電極が位置することが好ましい。こうすることにより、より効率よく電圧パルスを印加でき、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性をより向上できる。
【0030】
第一の補助電極及び第二の補助電極の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができるが、50nm以上5,000nm以下であることが好ましい。
【0031】
また、第一の補助電極及び第二の補助電極は、エレクトロクロミック層及び固体電解質層に対しては非接触に形成される。こうすることにより、第一の補助電極及び第二の補助電極が上記の配線用材料のようなイオン化しやすい材料により形成される場合であっても、エレクトロクロミック層の電気化学反応により劣化することを防止できる。
【0032】
<エレクトロクロミック層>
エレクトロクロミック層は、第一の電極及び第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に形成される。
【0033】
エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック材料を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
エレクトロクロミック材料としては、エレクトロクロミズムを示す材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物、導電性ポリマーなどが挙げられる。
【0034】
無機エレクトロクロミック化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。
有機エレクトロクロミック化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビオロゲン、希土類フタロシアニン、スチリルなどが挙げられる。
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、又はそれらの誘導体などが挙げられる。
【0035】
エレクトロクロミック層としては、導電性又は半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造を有することが好ましい。具体的には、電極表面に粒径5nm~50nm程度の微粒子を結着し、微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基等の極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造であることが好ましい。この構造は、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック装置と比較して応答性を向上できる。さらに、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック化合物の高い発色濃度を得ることができる。
また、エレクトロクロミック層としては、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性又は半導体性微粒子に担持することもできる。さらに、導電性粒子は、電極層としての導電性を兼ねることができる。
【0036】
ポリマー系及び色素系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、ベンジジン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
エレクトロクロミック材料としては、2電子反応可能な化合物であることが好ましい。すなわち、エレクトロクロミック層が2電子反応可能な化合物を含むことが好ましい。エレクトロクロミック層が2電子反応可能な化合物を含むことにより、第一電圧パルスA、第二電圧パルスA、初期化電圧パルスAなどの高い電圧のパルスを印加した際に、1電子反応に加えて2電子反応も生じ得る。エレクトロクロミック材料が2電子反応可能であると、高い電圧のパルスが印加された場合に、エレクトロクロミック材料が過剰なエネルギーを吸収して分解してしまうこと抑制でき、エレクトロクロミック装置の耐久性を向上できる。
【0038】
また、エレクトロクロミック材料が生じる2電子反応は、ポテンショスタットを用いて観測・測定することができる。より具体的には、
図1に示すように、電圧をスイープしたときに検出される電流値ピーク(酸化還元電圧)が、2つ以上検出される化合物を2電子反応可能なエレクトロクロミック材料とすることができる。なお、
図1における縦軸は電流値を表し、横軸は参照電極に対する電位を表す。
【0039】
ここで、酸化されることにより、透明状態から発色状態に変化するエレクトロクロミック材料としては、下記一般式(1)で示されるラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体を含有することが好ましい。
【化1】
【0040】
ここで、n=2の場合、mは0であり、n=1の場合、mは0又は1である。A及びBの少なくとも1つはラジカル重合性官能基を有する。Aは、下記一般式(2)で示される構造であり、R1からR15のいずれかの位置でBと結合している。なお、R3とR13、R4とR6、R10とR11はアルキル鎖により環構造を形成していてもよい。また、Bは、下記一般式(3)で示される構造であり、R16からR21のいずれかの位置でAと結合している。
【0041】
【0042】
【0043】
ただし、上記一般式(2)及び(3)中、R1からR21は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
【0044】
上記の一般式(1)表される化合物は、2電子反応可能な化合物であるため、上述したように、エレクトロクロミック材料が過剰なエネルギーを吸収して分解してしまうこと抑制でき、エレクトロクロミック装置の耐久性を向上できる。
また、エレクトロクロミック層がトリアリールアミン誘導体の重合体により形成されると、繰返し駆動(酸化還元反応)特性が良好になるとともに、光耐久性に優れる点で有利である。また、消色状態が透明であり、なおかつ酸化反応で高濃度の着色発色性能が得られる。
さらに、トリアリールアミン誘導体と、これとは異なる他のラジカル重合性化合物を含むエレクトロクロミック材料を架橋した架橋物を含有すると、重合物の耐溶解性及び耐久性が一層向上するためより好ましい。
【0045】
ここで、上記一般式(2)又は一般式(3)のようなラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体について説明する。
【0046】
<<ラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体>>
上記の一般式(2)及び一般式(3)における一価の有機基としては、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノカルボニル基、スルホン酸基、置換基を有していてもよいアルコキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、スルホンアミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノスルホニル基、アミノ基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよい複素環基などが挙げられる。
これらの中でも、安定動作及び光耐久性の点から、アルキル基、アルコキシル基、水素原子、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、アルケニル基、アルキニル基が特に好ましい。
【0047】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、4-メトキシフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基などが挙げられる。
複素環基としては、例えば、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
【0048】
置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0049】
-ラジカル重合性官能基-
前記ラジカル重合性官能基としては、炭素-炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(i)で表される1-置換エチレン官能、下記一般式(ii)で表される1,1-置換エチレン官能基などが挙げられる。これらの中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0050】
【0051】
また、上記一般式(i)中、X1は、置換基を有してもよいアリーレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基、-CO-基、-COO-基、-CON(R100)-基〔R100は、水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基を表す。〕、又は、-S-基を表す。
【0052】
一般式(i)におけるアリーレン基としては、例えば、置換基を有してもよいフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
アルケニレン基としては、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
また、一般式(i)で表される1-置換エチレン官能基の具体例としては、ビニル基、スチリル基、2-メチル-1,3-ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基などが挙げられる。
【0053】
【0054】
一般式(ii)中、Yは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、-COOR101基〔R101は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はCONR102R103(R102及びR103は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。)〕を表す。
また、X2は、一般式(i)のX1と同一の置換基、単結合、又はアルキレン基を表す。ただし、Y及びX2の少なくとも一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、芳香族環である。
【0055】
一般式(ii)におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。
一般式(ii)で表される1,1-置換エチレン官能基の具体例としては、例えば、α-塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、α-シアノエチレン基、α-シアノアクリロイルオキシ基、α-シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基などが挙げられる。
なお、これらX1、X2、Yに係る置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0056】
また、ラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体としては、以下の一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物が好ましい。
下記一般式(1-1)~(1-3)中におけるR27~R88は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、そのうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。さらに、R39とR41および、R40とR42は環状構造を形成していてもよい。なお、一価の有機基及びラジカル重合性官能基としては、一般式(1)と同じものが挙げられる。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
前記一般式(1)、及び前記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の具体例
としては、以下に示すものが挙げられるが、前記一般式(1)、及び前記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物は、これらに限定されるものではない。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
-他のラジカル重合性化合物-
他のラジカル重合性化合物とは、上記のラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体とは異なる化合物であって、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有するものを意味する。
他のラジカル重合性化合物としては、例えば、1官能、2官能、又は3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、ラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が特に好ましい。
他のラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性官能基としては、上記のラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体におけるラジカル重合性官能基と同様であってもよいが、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0102】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0103】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0104】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
なお、ここで、EO変性はエチレンオキシ変性を、PO変性はプロピレンオキシ変性を、ECH変性はエピクロロヒドリン変性を意味する。
【0105】
機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2-パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5-60503号公報、特公平6-45770号公報に記載のシロキサン繰り返し単位が20~70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエステルアクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。
【0106】
架橋物を形成する点からは、上記のラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体と前記他のラジカル重合性化合物の少なくとも一方が、ラジカル重合性官能基を2つ以上有していることが好ましい。
【0107】
ラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エレクトロクロミック組成物の全量に対して、10質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上90質量%以下がより好ましい。上記の含有量が10質量%以上であれば、エレクトロクロミック層のエレクトロクロミック機能が充分に発現し、加電圧による繰り返し使用での耐久性及び発色感度が良好である。また、上記の含有量が100質量%でもエレクトロクロミック機能は発現し、この場合、厚みに対する発色感度をより高くすることができる。使用されるプロセスによって要求される電気特性が異なるため一概には言えないが、発色感度と繰り返し耐久性の両特性のバランスを考慮すると、30質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0108】
また、還元されることにより、透明状態から発色状態に変化するエレクトロクロミック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、発消色電位が低く、良好な色値を示す点から、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物が好ましく、例えば、下記一般式(4)で表されるジピリジン系化合物がより好ましい。
【0109】
【0110】
上記一般式(4)において、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、及びアリール基のいずれかを表し、また、後述する導電性微粒子及び半導体性微粒子の少なくともいずれかにエレクトロクロミック化合物を担持した構造とする場合は、R1及びR2の少なくとも一方は、COOH、PO(OH)2、及びSi(OCkH2k+1)3(ただし、kは、1~20を表す)から選択される置換基を有する。R1又はR2の少なくとも一方に付与した、COOH、PO(OH)2、又はSi(OCkH2k+1)3が吸着反応に寄与することができる。
また、上記一般式(4)において、A、B、及びCは、各々独立に置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、アリール基、及び複素環基のいずれかを表す。
さらに、上記一般式(4)において、Xは、一価のアニオンを表す。一価のアニオンとしては、カチオン部と安定に対をなすものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Brイオン(Br-)、Clイオン(Cl-)、ClO4イオン(ClO4
-)、PF6イオン(PF6
-)、BF4イオン(BF4
-)などが挙げられる。
なお、上記一般式(4)において、n、m、及びlは、それぞれ独立に0、1、又は2を表す。
【0111】
また、エレクトロクロミック装置が、2つのエレクトロクロミック層を有し、一のエレクトロクロミック層が、酸化状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第一のエレクトロクロミック層であり、他のエレクトロクロミック層が、還元状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第二のエレクトロクロミック層であることが好ましい。この形態についての詳細は後述する。
【0112】
金属錯体系及び金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機系エレクトロクロミック化合物を用いることができる。
【0113】
金属錯体系及び金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物は真空製膜により形成することができ、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などが用いられる。さらに前駆体溶液、微粒子層として形成することも可能であり、その場合の塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0114】
<<エレクトロクロミック層におけるその他の成分>>
エレクトロクロミック層が含み得るその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合開始剤、導電性微粒子、半導電性微粒子などが挙げられる。
【0115】
<<<重合開始剤>>>
エレクトロクロミック層は、ラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体と他のラジカル重合性化合物との架橋反応を効率よく進行させるため、必要に応じて重合開始剤を含有することが好ましい。
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられるが、これらの中でも、重合効率の点から光重合開始剤が好ましい。
【0116】
熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その例としては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルペルオキサイド、t-ブチルヒドロペルオキサイド、クメンヒドロペルオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸等のアゾ系開始剤などが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0117】
光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その例としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル-2-モルフォリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム等のアセトフェノン系又はケタール系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ベンゾイルナフタレン、4-ベンゾイルビフェニル、4-ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4-ベンゾイルベンゼン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0118】
その他の光重合開始剤としては、例えば、エチルアントラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10-フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
なお、光重合促進効果を有する化合物を単独で用いたり、前記光重合開始剤と併用したりすることもできる。このような化合物としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、4,4′-ジメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0119】
<<<導電性微粒子又は半導体性微粒子>>>
まビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物などのエレクトロクロミック材料は、エレクトロクロミック層中において、導電性微粒子又は半導体性微粒子に担持されていることが好ましい。
エレクトロクロミック材料を担持する導電性微粒子又は半導体性微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属酸化物を用いることが好ましい。
【0120】
金属酸化物の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性の点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、及び酸化タングステンから選択される少なくとも1種が好ましく、より発消色の応答速度に優れた色表示が可能である点から、酸化チタン又は酸化スズが特に好ましい。
【0121】
また、導電性微粒子又は半導体性微粒子の形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下、比表面積という)が大きい形状が用いられる。例えば、微粒子が、ナノ粒子の集合体であるときは、大きな比表面積を有するため、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比が優れる。
導電性微粒子又は半導体性微粒子層は真空製膜により形成することも可能であるが、生産性の点で粒子分散ペーストとして塗布形成することが好ましい。塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0122】
導電性微粒子及び半導体性微粒子の少なくともいずれかに上記の一般式(4)エレクトロクロミック化合物(材料)を担持した構造とする場合は、吸着反応に寄与する基を有した一般式(4)のエレクトロクロミック化合物を溶媒に溶かした溶液として、導電性微粒子又は半導体性微粒子に接触させることで、容易に吸着させることができる。
吸着処理は、製膜前の導電性微粒子及び半導体性微粒子に吸着させることもできるが、導電性微粒子及び半導体性微粒子層を前述の各種印刷方法で形成した後が好ましい。エレクトロクロミック化合物を吸着した導電性微粒子及び半導体性微粒子は製膜性が悪化しやすいためである。上記一般式(4)のエレクトロクロミック化合物を溶媒に溶かした溶液を、導電性微粒子又は半導体性微粒子に接触させる方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0123】
エレクトロクロミック層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。エレクトロクロミック層の平均厚みが、0.2μm以上であると、発色濃度を向上することができ、5.0μm以下であると、製造コストを抑制できるとともに、消色状態における透明性を高くできるため視認性を向上させることができる。
【0124】
エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック材料を溶媒に溶解して塗布製膜した後、光や熱により重合させて形成される好ましい。塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0125】
<固体電解質層>
固体電解質層は、第一の電極、第二の電極、及びエレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に形成される。
固体電解質層は、光又は熱硬化樹脂中に電解質を保持した膜として形成されることが好ましい。さらに、電解質層の層厚を制御する無機粒子を混合していることが好ましい。
【0126】
固体電解質層は、無機微粒子、硬化型樹脂及び電解質を混合した溶液としてエレクトロクロミック層上に塗布した後、光又は熱で硬化した膜とすることが好ましいが、あらかじめ多孔質の無機微粒子層を形成した後、無機微粒子層に浸透するように、硬化型樹脂及び電解質を混合した溶液として塗布した後、光又は熱で硬化した膜として形成することもできる。
さらに、エレクトロクロミック層が導電性又は半導体性ナノ粒子にエレクトロクロミック化合物が担持された層である場合は、エレクトロクロミック層に浸透するように、硬化型樹脂及び電解質を混合した溶液を塗布した後、光又は熱で硬化した膜として形成することもできる。
【0127】
固体電解質層における電解質としては、イオン性液体等の液体電解質、固体電解質を溶媒に溶解した溶液などが用いられる。
電解質の材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2などが挙げられる。
【0128】
イオン性液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造であることが好ましい。この場合の分子構造は、カチオン成分とアニオン成分を含むことが好ましい。
カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体等の芳香族系の塩;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム等の脂肪族4級アンモニウム系化合物などが挙げられる。
アニオン成分としては、大気中の安定性の面でフッ素を含有する化合物が好ましく、例えば、Brイオン(Br-)、Clイオン(Cl-)、ClO4イオン(ClO4
-)、PF6イオン(PF6
-)、BF4イオン(BF4
-)、TCBイオン(テトラシアノボレート)、FSIイオン(ビス(フルオロスルホニル)イミド)、TFSIイオン(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)などが挙げられる。これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン性液体を用いることができる。
【0129】
固体電解質層における溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、又はそれらの混合溶媒などが挙げられる。
硬化樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などが挙げられるが、電解質との相溶性が高い材料が好ましい。電解質との相溶性が高い材料としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエチレングリコールの誘導体が好ましい。
また、硬化樹脂としては、光硬化可能な樹脂を用いることが好ましい。こうすることにより、熱重合や溶剤を蒸発させることにより薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間で素子を製造できる。
【0130】
固体電解質層として好ましい組み合わせとしては、例えば、オキシエチレン鎖やオキシプロピレン鎖を含有するマトリックスポリマーとイオン性液体との固溶体で形成されている固体電解質層などが挙げられる。つまり、固体電解質層が、マトリックスポリマーとイオン性液体との固溶体を含むことが好ましい。こうすることにより、電解層面(横)方向のイオン移動を抑制することで面内の濃度ムラが低減するとともに、硬度と高いイオン伝導度を両立しやすい。また、こうすることにより、マトリックス構造を調整(制御)することで、固体電解質層を所望のイオン伝導度にすることができる。
なお、固体電解質層のイオン伝導度は0.1mS/cm以上50mS/cm以下であることが好ましい。
【0131】
固体電解質層における無機微粒子としては、多孔質層を形成して電解質と硬化樹脂とを保持することができる材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エレクトロクロミック反応の安定性、視認性の点から、絶縁性、透明性、耐久性が高い材料が好ましい。
無機微粒子としては、例えば、シリコン、アルミニウム、チタン、亜鉛、錫等の酸化物又は硫化物、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。
【0132】
無機微粒子の大きさ(平均粒径)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以上10μm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0133】
固体電解質層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。固体電解質層の平均厚みが、上記の好ましい範囲内であることにより、電流の短絡を防止しつつ、製造コストを抑制することができる。
【0134】
<制御手段、制御工程>
制御手段は、エレクトロクロミック層に対し、第一の電極及び第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う手段である。
制御工程は、エレクトロクロミック装置におけるエレクトロクロミック層に対し、第一の電極及び第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う工程である。
制御手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの公知の集積回路を用いることができる。例えば、制御手段は、パルスジェネレータ(電圧印加装置)に備えられ、制御手段がパルスジェネレータを介して、エレクトロクロミック層に電圧を印加することができる。
【0135】
<<第一駆動パターン>>
第一駆動パターンは、エレクトロクロミック層を第一の発色状態にするための駆動パターンである。
第一駆動パターンにおいては、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し、第一の発色状態を形成するための、第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する。本発明のエレクトロクロミック装置は、第一駆動パターンで駆動することにより、発色濃度を増加させる駆動を行う際の応答性を向上できるとともに、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制できる。
【0136】
第一電圧パルスAは、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるためのパルスである。第一電圧パルスAによりエレクトロクロミック層の酸化還元反応に必要な電荷量を短時間でエレクトロクロミック層に注出入することが可能となるため、応答速度が高められる。第一電圧パルスAによりエレクトロクロミック層に印加されるエネルギーとしては、エレクトロクロミック層を発色させるために必要とされるエネルギーよりも大きなエネルギーであることが好ましい。
第一電圧パルスAを印加することにより、発色濃度を増加させる駆動を行う際の応答性を向上できる。
【0137】
第一電圧パルスBは、第一の発色状態を形成するためのパルスである。
ここで、第一の発色状態とは、後述する第二の発色状態よりも発色濃度が高い状態を意味する。発色濃度が高い状態とは、言い換えると、光の透過性が低い状態(エレクトロクロミック層が濃く発色しており、光をあまり通さない状態)である。
なお、エレクトロクロミック装置の発色濃度は、例えば、パネルモジュール評価装置 LCD5200(大塚電子株式社製)を用いて、発色領域の略中心部の透過率スペクトルを測定することにより求めることができる。
【0138】
第一電圧パルスBは、第一電圧パルスAよりも低いパルスである。
ここで、パルスが低いとは、そのパルスにより印加(供給)されるエネルギーが低いことを意味する。パルスにより印加されるエネルギーは、上述したように、平均電圧、電流量、印加時間などを制御することにより調節することができる。なお、以下では、平均電圧、電流量、印加時間をまとめて「パルス特性」と称することがある。
【0139】
第一電圧パルスBを第一電圧パルスAよりも小さくする際には、例えば、第一電圧パルスBにおける平均電圧を第一電圧パルスAにおける平均電圧よりも小さくすること、第一電圧パルスBにおける電圧の印加時間を第一電圧パルスAにおける電圧の印加時間よりも短くすることにより、電流量を制御することなどにより行うことができる。
ここで、それぞれのパルスにおける平均電圧の大きさは、平均電圧の同符号における大きさ(絶対値)を意味しており、例えば、1Vよりも2Vの方が大きいとし、-1Vよりも-2Vの方が大きいとする。なお、第一電圧パルスAと第一電圧パルスBとは同符号(同極性)である。
【0140】
また、第一電圧パルスBを印加することにより形成可能な第一の発色状態は、後述する第二の発色状態よりも発色濃度が高い。そのため、例えば、エレクトロクロミック装置が既に第二の発色状態である場合には、第一駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することにより、発色濃度を高く(濃く)することができる。
【0141】
第一駆動パターンにおいては、第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する。言い換えると、第一駆動パターンにおいては、第一電圧パルスBの印加後に、エレクトロクロミック装置の回路を開回路(オープンサーキット)状態にする。本発明のエレクトロクロミック装置は、固体電解質層を有するため、電圧を印加しなくても着色状態および消色状態が一定時間保持されるメモリ効果を奏するので、回路を開回路状態にしても、発色濃度を維持することができる。
【0142】
また、第一駆動パターンにおいては、第一電圧パルスBの印加、及び第一電圧パルスBの印加後における電圧の印加をしない状態の維持を繰り返すことが好ましい。こうすることにより、エレクトロクロミック装置を長時間連続して使用する場合などであっても、消費電力を抑制できるととともに、連続的な電圧の印加によるエレクトロクロミック層の劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。
【0143】
図2は、第一駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
図2に示す例において、Pw1-1は第一電圧パルスAに対応し、Pw2-1は第一電圧パルスBに対応し、Pw3-1は電圧の印加をしない状態に対応する。また、
図2における破線部は、第一電圧パルスBの印加、及び第一電圧パルスBの印加後における電圧の印加をしない状態の維持を繰り返す際の繰り返し部分を意味し、破線部の右上の添字lは、駆動時間に応じた繰り返し回数を意味する。
【0144】
図15は、第一駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
図15に示す例では、
図2に示した例とは異なり、第一電圧パルスAに対応するPw1-1と第一電圧パルスBに対応するPw2-1との間において、電圧の印加を行わない状態Pw3-1-2を維持する。
電圧の印加を行わない状態Pw3-1-2を維持する時間としては、第一電圧パルスAを印加することによる応答速度を高める効果が失われない程度の時間であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
このように、第一駆動パターンにおいては、第一電圧パルスAと第一電圧パルスBとの間において、電圧の印加をしない状態を維持してもよい。
【0145】
<<第二駆動パターン>>
第二駆動パターンは、第一の発色状態から、第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための駆動パターンである。
第二駆動パターンにおいては、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し、第二の発色状態を形成するための、第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する。本発明のエレクトロクロミック装置は、第二駆動パターンで駆動することにより、発色濃度を減少させる駆動を行う際の応答性を向上できるとともに、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制できる。
【0146】
第二電圧パルスAは、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるためのパルスであり、後述する第二電圧パルスBよりも低いパルスであるか、又は第二電圧パルスとは逆極性のパルスである。
第二電圧パルスAを印加することにより、エレクトロクロミック層の酸化還元反応に必要な電荷量を短時間でエレクトロクロミック層に注出入することが可能となるため、発色濃度を低下させる駆動を行う際の応答性を向上できる。
【0147】
第二電圧パルスBは、第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するためのパルスである。そのため、例えば、エレクトロクロミック装置が既に第一の発色状態である場合には、第二駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することにより、発色濃度を低く(薄く)することができる。
【0148】
第二電圧パルスBを第二電圧パルスAよりも小さくする際には、第一駆動パターンにおける制御とは逆に、例えば、第二電圧パルスBにおける平均電圧を第二電圧パルスAにおける平均電圧よりも大きくすること、第二電圧パルスBにおける電圧の印加時間を第二電圧パルスAにおける電圧の印加時間よりも長くすることにより、電流量を制御することなどにより行うことができる。なお、通常は、第二電圧パルスAと第二電圧パルスBとは同符号であり、第一電圧パルスA及び第一電圧パルスBとも同符号となるが、第二電圧パルスAの極性が反転して異符号となる組み合わせも可能である。すなわち、第二電圧パルスBは、第二電圧パルスAと逆極性(異符号)であってもよい。この場合、第二電圧パルスAは、第二電圧パルスBよりも大きいパルスであっても、小さいパルスであってもよい。
【0149】
第二駆動パターンにおいては、第一駆動パターンと同様に、第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する。言い換えると、第二駆動パターンにおいては、第二電圧パルスBの印加後に、エレクトロクロミック装置の回路を開回路(オープンサーキット)状態にする。本発明のエレクトロクロミック装置は、固体電解質層を有するため、電圧を印加しなくても着色状態および消色状態が一定時間保持されるメモリ効果を奏するので、回路を開回路状態にしても、発色濃度を維持することができる。
【0150】
また、第二駆動パターンにおいては、第一駆動パターンと同様に、第二電圧パルスBの印加、及び第二電圧パルスBの印加後における電圧の印加をしない状態の維持を繰り返すことが好ましい。こうすることにより、エレクトロクロミック装置を長時間連続して使用する場合などであっても、消費電力を抑制できるととともに、連続的な電圧の印加によるエレクトロクロミック層の劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。
【0151】
図3は、第二駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
図3に示す例において、Pw1-2は第二電圧パルスAに対応し、Pw2-2は第二電圧パルスBに対応し、Pw3-2は電圧の印加をしない状態に対応する。また、
図3における破線部は、第二電圧パルスBの印加、及び第二電圧パルスBの印加後における電圧の印加をしない状態の維持を繰り返す際の繰り返し部分を意味し、破線部の右上の添字mは、駆動時間に応じた繰り返し回数を意味する。
【0152】
図16は、第二駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
図16に示す例では、
図3に示した例とは異なり、第二電圧パルスAに対応するPw1-2と第二電圧パルスBに対応するPw2-2との間において、電圧の印加を行わない状態Pw3-2-2を維持する。
電圧の印加を行わない状態Pw3-2-2を維持する時間としては、第二電圧パルスAを印加することによる応答速度を高める効果が失われない程度の時間であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
このように、第二駆動パターンにおいては、第二電圧パルスAと第二電圧パルスBとの間において、電圧の印加をしない状態を維持してもよい。
【0153】
<<初期化駆動パターン>>
初期化駆動パターンは、初期の消色状態を形成するための駆動パターンである。
初期化駆動パターンにおいては、第一電圧パルスAとは逆極性であってエレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し、その後、初期の消色状態を形成するための、エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる。
【0154】
初期化電圧パルスAは、上記の第一電圧パルスA及び第二電圧パルスAとは逆極性である。ここで、逆極性とは、符号が逆であることを意味し、例えば、第一の電圧パルスの平均電圧がプラスの電圧の場合は、初期化電圧パルスの平均電圧はマイナスの電圧となる。
初期化電圧パルスAを印加することにより、発色濃度を初期化する駆動を行う際の応答性を向上できる。
【0155】
初期化電圧パルスBは、初期の消色状態を形成するための、エレクトロクロミック層の電位を略0Vにするパルスである。ここで、電位を略0Vにするとは、エレクトロクロミック層を初期の消色状態(例えば、透明状態)に戻すことができるように、電位を0Vに近づけることを意味する。
初期化電圧パルスBの印加は、例えば、略0Vの電圧のパルスを印加することにより行うことができる。
また、初期化駆動パターンにおいては、制御手段は、エレクトロクロミック層の電位を略0Vにするために、第一の電極と第二の電極を短絡させるようにしてもよい。初期化駆動パターンによる短絡は、例えば、制御手段が、第一の電極と第二の電極を接続することにより行うことができる。
【0156】
図4は、初期化駆動パターンにおける駆動パターンの一例を示す図である。
図4に示す例において、Pw4は初期化電圧パルスAに対応し、Pw5は初期化電圧パルスBに対応する。また、
図4における破線部は、初期化電圧パルスAの印加、及び初期化電圧パルスBの印加を繰り返す際の繰り返し部分を意味し、破線部の右上の添字nは、駆動時間に応じた繰り返し回数を意味する。
【0157】
図17は、初期化駆動パターンにおける駆動パターンの他の一例を示す図である。
図17に示す例では、
図4に示した例とは異なり、初期化電圧パルスAに対応するPw4と初期化電圧パルスBに対応するPw5との間において、電圧の印加を行わない状態Pw3-3を維持する。
電圧の印加を行わない状態Pw3-3を維持する時間としては、初期化電圧パルスAを印加することによる応答速度を高める効果が失われない程度の時間であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
このように、初期化駆動パターンにおいては、初期化電圧パルスAと初期化電圧パルスBとの間において、電圧の印加をしない状態を維持してもよい。
また、同様に、初期化駆動パターンでは、初期化電圧パルスAを印加してから短絡させるまでの間において、電圧の印加をしない状態を維持してもよい。
【0158】
つまり、本発明においては、第一電圧パルスAと第一電圧パルスBとの間、第二電圧パルスAと第二電圧パルスBとの間、初期化電圧パルスAと初期化電圧パルスBとの間、及び初期化電圧パルスAを印加してから短絡させるまでの間の少なくともいずれかにおいて、電圧の印加をしない状態を維持してもよい。こうすることにより、エレクトロクロミック層が2電子反応など過剰に反応した酸化還元状態から、安定状態に変化させることができるので耐久性を向上することができる。
【0159】
また、上記の第一駆動パターン及び第二駆動パターンにおいて、第一電圧パルスB及び第二電圧パルスBは1.23V以下であることが好ましい。このように、繰り返し印加する場合がある第一電圧パルスB及び第二電圧パルスBの平均電圧を、水の分解電圧である1.23V以下とすることにより、エレクトロクロミック層及び固体電解質層に存在する含有水分による駆動劣化が抑制できる。
【0160】
<測定手段、測定工程>
本発明のエレクトロクロミック装置は、第一の電極と第二の電極の間の開放電圧を測定する測定手段を有することが好ましい。なお、測定工程は測定手段により好適に行うことができる。
【0161】
エレクトロクロミック装置が測定手段を有する場合、制御手段は、第一駆動パターン及び第二駆動パターンにおける電圧の印加をしない状態を維持する際に、測定した開放電圧に応じて、第一電圧パルスB及び第二電圧パルスBのパルス特性を変化させることが好ましい。こうすることにより、第一電圧パルスB又は第二電圧パルスBの印加、及び当該パルスの印加後における電圧の印加をしない状態の維持を繰り返す際などに、所望の濃度を発色できる開放電圧に随時制御可能となるため、発色濃度の制御性を向上させることができる。
ここで、パルス特性とは、上述したように、第一電圧パルスB及び第二電圧パルスBにおける平均電圧、電流量、印加時間などのパルスの特性(形状)を制御可能なパラメータを意味する。
【0162】
<支持体>
本発明のエレクトロクロミック装置は、支持体を有することが好ましい。
支持体は、第一の電極、エレクトロクロミック層、固体電解質層、第二の電極、第一の補助電極、第二の補助電極、制御手段などを支持する。
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、周知の光透過性材料(有機材料や無機材料)を用いることができる。
【0163】
光透過性材料としては、例えば、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス基板などが挙げられる。また、光透過性材料としては、例えば、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基板を用いてもよい。
また、支持体1の表面に、水蒸気バリア性、ガスバリア性、視認性を高めるために透明絶縁層、反射防止層等がコーティングされていてもよい。なお、エレクトロクロミック装置が片側から視認する反射型表示装置である場合は、非視認側に配置される支持体の透明性は不要である。
【0164】
支持体の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。支持体の平均厚みが、0.1mm以上であることにより、支持体及びエレクトロクロミック装置の変形を抑制してハンドリングを向上でき、2.0mm以下であることにより、重量及び製造コストを抑制することができる。
【0165】
<保護層>
本発明のエレクトロクロミック装置は、保護層を有することが好ましい。
保護層とは、エレクトロクロミック装置の側面部などを物理的及び化学的に保護するように形成される層を意味する。
保護層は、例えば、紫外線硬化性や熱硬化性の絶縁性樹脂等を、側面及び/又は上面を覆うように塗布し、その後硬化させることにより形成できる。
【0166】
また、保護層としては、硬化樹脂と無機材料とを積層した保護層とすることがより好ましい。保護層を無機材料との積層構造にすることで、エレクトロクロミック装置の酸素や水に対するバリア性を向上させることができる。
無機材料としては、絶縁性、透明性、耐久性が高い材料が好ましく、具体的な材料としては、例えば、シリコン、アルミニウム、チタン、亜鉛、錫などの酸化物又は硫化物、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。これらの材料を含む保護層は、スパッタ法や蒸着法などの真空製膜プロセスで容易に形成することができる。
【0167】
保護層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上10μm以下が好ましい。また、保護層は、支持体を成形加工する場合などには加工後に形成してもよい。
【0168】
<劣化防止層>
本発明のエレクトロクロミック装置は、劣化防止層を有することが好ましい。
劣化防止層は、エレクトロクロミック層と逆反応をし、電荷のバランスをとって第二の電極が不可逆的な酸化還元反応により腐食や劣化することを抑制する。エレクトロクロミック装置が劣化防止層を有することにより、エレクトロクロミック装置の繰り返し安定性が向上する。なお、逆反応とは、劣化防止層が酸化還元する場合に加え、キャパシタとして作用することも含む。
【0169】
劣化防止層の材料としては、第一の電極及び第二の電極の不可逆的な酸化還元反応による腐食を防止可能な材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
劣化防止層の材料としては、例えば、酸化アンチモン錫、酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、又はそれらを複数含む導電性又は半導体性金属酸化物を用いることができる。さらに、劣化防止層の着色が問題にならない場合は、エレクトロクロミック材料と同じものを用いることができる。
これらの中でも、透明性が要求されるレンズのような光学素子としてエレクトロクロミック装置を作製する場合は、劣化防止層として、透明性の高い材料を用いることが好ましい。
【0170】
透明性の高い材料としては、n型半導体性酸化物微粒子(n型半導体性金属酸化物)を用いることが好ましい。 n型半導体性金属酸化物としては、100nm以下の一次粒子径粒子からなる、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、又はそれらを複数含む化合物粒子、あるいは混合物を用いることができる。さらに、n型半導体性酸化物微粒子を劣化防止層とする場合には、エレクトロクロミック層が酸化反応により色彩変化する材料であることが好ましい。こうすることにより、エレクトロクロミック層が酸化反応すると同時にn型半導体性金属酸化物が還元(電子注入)され易く、駆動電圧が低減できる。このような形態において、特に好ましいエレクトロクロミック材料としては、一般式(1)で表されるラジカル重合性官能基を有するトリアリールアミン誘導体が挙げられる。
【0171】
一方、劣化防止層として、透明性の高いp型半導体性層の材料としては、ニトロキシルラジカル(NOラジカル)を有する有機材料などが挙げられ、より具体的には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)の誘導体、又は誘導体のポリマー材料などが挙げられる。
【0172】
p型半導体性層を劣化防止層とする場合には、エレクトロクロミック層が還元反応により色彩変化する材料であることが好ましい。こうすることにより、エレクトロクロミック層が還元反応すると同時にp型半導体性金属酸化物が酸化され易く、駆動電圧が低減できる。このような形態において、特に好ましいエレクトロクロミック材料としては、前記一般式(4)で表されるジピリジン系化合物である。
【0173】
さらに、本発明のエレクトロクロミック装置においては、第一の電極又は第二の電極の表面の一方に、酸化状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック層が形成され、他方の電極表面に、劣化防止層を兼ねて還元状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック層が形成されることが好ましい。酸化着色エレクトロクロミック層と還元着色エレクトロクロミック層を同時に駆動させることにより、高い着色濃度が得られるとともに、駆動電圧を低減できる。
【0174】
すなわち、本発明のエレクトロクロミック装置が、2つのエレクトロクロミック層を有し、一のエレクトロクロミック層が、酸化状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第一のエレクトロクロミック層であり、他のエレクトロクロミック層が、還元状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第二のエレクトロクロミック層であることが好ましい。こうすることにより、酸化着色エレクトロクロミック層と還元着色エレクトロクロミック層を同時に駆動させることができ、高い着色濃度が得られるとともに、駆動電圧を低減できる。
【0175】
酸化着色エレクトロクロミック層に用いられる、酸化状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック化合物は、上記一般式(1)で示されるトリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。さらに、還元着色エレクトロクロミック層に用いられる、還元状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック化合物は、上記一般式(4)で表されるジピリジン化合物を含有することが好ましい。こうすることにより、これらの材料は、酸化還元反応電位が低く、酸化還元反応状態が安定であるとともに、分子構造を変化させることにより容易に光吸収(すなわち色彩)を調整することが可能である。特に2種の光吸収を調整することにより、ブロードな光吸収を示す黒色表示などを実現することができる。
【0176】
なお、劣化防止層としては、固体電解質層に劣化防止層用材料を混合して、固体電解質層に劣化防止機能を付与することもできる。
【0177】
劣化防止層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
また、劣化防止層の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることもできる。
【0178】
[エレクトロクロミック装置の用途]
本発明のエレクトロクロミック装置の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、調光装置としての用途に好適に用いることができる。
本発明のエレクトロクロミック装置を用いた調光装置(エレクトロクロミック調光装置)としては、例えば、調光眼鏡、防眩ミラー、調光ガラスなどが挙げられ、これらの中でも、ウェアラブルデバイスである調光眼鏡が特に好適である。
【0179】
ウェアラブルデバイスである調光眼鏡(調光サングラス)においては、用いられるバッテリーは軽量性、安全性の観点から小型に限定されるため、調光部(エレクトロクロミック層)は省電力で駆動可能なものが好ましい。さらに、ウェアラブルデバイスは、身につけて使用するため、その他の用途に比べてより高い安全性が求められる。
本発明のエレクトロクロミック装置を用いたウェアラブルデバイスは、外部からの衝撃などに対する強度及び安全性が高く、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制でき、ウェアラブルデバイスとして非常に優れた性能を有する。さらに、本発明のウェアラブルデバイスは、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性が高いため、調光眼鏡としての用途に特に好適である。
【0180】
(エレクトロクロミック装置の製造方法)
本発明のエレクトロクロミック装置を製造する方法としては、例えば、下記に示す方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明のエレクトロクロミック装置を製造する方法は、例えば、第一の支持体上に第一の電極及び第一の補助電極を形成し、該第一の電極上にエレクトロクロミック層が形成された第一の部材を作製する工程と、第二の支持体上に第二の電極及び第二の補助電極が形成された第二の部材を作製する工程と、第一の部材と第二の部材とを固体電解質層を挟んで貼り合わせ、エレクトロクロミック素子を作製する工程と、作製したエレクトロクロミック素子に制御手段(駆動回路)を接続する工程を含むことが好ましい。
【0181】
また、本発明のエレクトロクロミック装置を製造する方法としては、他の例では、第一の支持体上に第一の電極及び第一の補助電極を形成する工程と、該第一の電極上にエレクトロクロミック層を形成する工程と、該エレクトロクロミック層上に固体電解質層を形成する工程と、該固体電解質層上に第二の電極及び第二の補助電極を形成する工程と、該第二の電極層上に保護層を形成してエレクトロクロミック素子を作製する工程と、作製したエレクトロクロミック素子に制御手段(駆動回路)を接続する工程を含むことが好ましい。この方法においては、貼り合わせ工程がないため、生産性を向上することができる。
【0182】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるものではない。
なお、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0183】
<第一の実施の形態>
図5Aは、第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
図5Bは、第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
図5A及び
図5Bに示すように、エレクトロクロミック装置10は、第一の透明支持体11と、第一の電極としての第一の透明電極12と、エレクトロクロミック層13と、固体電解質層14と、第二の電極としての第二の透明電極15と、第二の透明支持体16とを、この順に有する。さらに、エレクトロクロミック装置10は、第一の透明電極12上に第一の補助電極18を、第二の透明電極15上に第二の補助電極19を有し、エレクトロクロミック層13と固体電解質層15を封止する保護層17を有する。加えて、エレクトロクロミック装置10は、第一の補助電極18、第二の補助電極19に接続された、制御手段としての駆動回路50を有する。
また、エレクトロクロミック装置10において、第一の透明電極12及び第二の透明電極15は、保護層17の一部と重なるように位置している。こうすることにより、無機材料透明電極により酸化還元反応層(エレクトロクロミック層、劣化防止層、電解質層)の酸素・水分透過の抑制効果が得られるため、特に樹脂基板を支持体に用いたエレクトロクロミック装置10の信頼性(例えば、駆動の安定性、機械的強度など)を向上させることができる。これは、以下で説明する第二の実施の形態、第三の実施の形態、第四の実施の形態、及び第五の実施の形態においても同様である。
【0184】
また、エレクトロクロミック装置10においては、第一の補助電極18と第二の補助電極19との間の平均距離は100mm以下となっている。さらに、エレクトロクロミック装置10においては、第一の補助電極18及び第二の補助電極19は、エレクトロクロミック層13及び固体電解質層14とは接触しないように(非接触に)設けられている。
【0185】
エレクトロクロミック装置10は、駆動回路50により第一の補助電極18と第二の補助電極19との間に、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンに従って電圧を印加することにより、エレクトロクロミック層13が電荷の授受により酸化還元反応することで発消色可能である。
【0186】
<<第一の実施の形態におけるエレクトロクロミック装置の製造方法>>
第一の実施の形態のエレクトロクロミック装置10の製造方法は、第一の透明支持体11上に第一の透明電極12を形成する工程と、第一の透明電極12の端部の一辺に第一の補助電極18を形成する工程と、第一の透明電極12の表面に接してエレクトロクロミック層13を積層する工程と、第二の透明支持体16上に第二の透明電極15を形成する工程と、第二の透明電極15の端部の一辺に、第二の補助電極19を形成する工程と、第一の透明支持体11と第二の透明支持体16と間に、固体電解質層14を形成後硬化させ、更に外周部を保護層17で封止する工程と、第一の補助電極18と第二の補助電極19に駆動回路50を接続する工程とを含む。
【0187】
また、第一の実施の形態のエレクトロクロミック装置10の製造方法の他の例では、第一の透明支持体11上に第一の透明電極12を形成する工程と、第一の透明電極12の端部の一辺に第一の補助電極18を形成する工程と、第一の透明電極12の表面に接してエレクトロクロミック層13を積層する工程と、エレクトロクロミック層13上に固体電解質層14を形成後硬化させ、第二の透明電極15を積層する工程と、第二の透明電極15の端部の一辺に第二の補助電極19を形成する工程と、第二の透明電極15上に硬化樹脂からなる第二の透明支持体16を形成する工程と、更に外周部を保護層17で封止する工程と、第一の補助電極18と第二の補助電極19に駆動回路50を接続する工程を含む。
【0188】
<第二の実施の形態>
図6Aは、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
図6Bは、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
図6A及び
図6Bに示すように、第二の実施の形態のエレクトロクロミック装置20は、固体電解質層14と第二の透明電極15に接して、劣化防止層21が形成されている点が、第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置10と相違する。
この第二の実施の形態では、第二の透明電極15の電気化学反応による劣化を防止するために、劣化防止層21が形成されている。これにより、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置20では、第一の実施の形態のエレクトロクロミック装置10に比べて、繰り返し特性をより向上させることができる。
【0189】
<第三の実施の形態>
図7は、第三の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
図7に示すように、第三の実施の形態のエレクトロクロミック装置30は、第二の透明支持体16が省略され、第二の透明電極15の上に保護層17が形成されている点が、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置20と相違する。
第二の透明電極15上に形成される保護層17は、エレクトロクロミック装置10において、側面部に形成される保護層17と、同様の材料で形成されるものであってもよいし、異なる材料で形成されるものであってもよい。第三の実施の形態のエレクトロクロミック装置30は一つの支持体(第一の透明支持体11)で形成されるため、エレクトロクロミック装置を薄型化できるとともに、低コストでの生産が可能となる。
【0190】
<第四の実施の形態>
図8は、第四の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略側面図である。
図8に示すように、第四の実施の形態のエレクトロクロミック装置40は、エレクトロクロミック層13と劣化防止層21の位置関係が逆になっている点が第三の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置30と相違する。
第四の実施の形態のエレクトロクロミック装置40では、他の実施形態とはそれぞれの層の位置関係が異なるが、第一の透明電極12と第二の透明電極15との間に電圧を印加することにより、他の実施形態と同様に、エレクトロクロミック層13が電荷の授受により酸化還元反応して発消色可能である。
【0191】
<第五の実施の形態>
図9Aは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の一例を示す概略上面図である。
第五の実施の形態のエレクトロクロミック装置60は、エレクトロクロミック装置の形状が、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置20と相違する。より具体的には、第五の実施の形態のエレクトロクロミック装置60は、第二の実施の形態のエレクトロクロミック装置20の平面形状を楕円形状に変更した例である。第五の実施の形態のエレクトロクロミック装置60は、例えば、調光眼鏡のレンズとして好適に用いることができる。
図9Aに示した例においては、エレクトロクロミック装置60におけるエレクトロクロミック反応領域(エレクトロクロミック層13、固体電解質層14、劣化防止層21)の側部の形状に合わせて、第一の補助電極18と第二の補助電極19とが、互いに向かい合う形状となっている。このように、本発明のエレクトロクロミック装置においては、第一の補助電極及び第2の補助電極が曲線形状であってもよい。
なお、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置60は、第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置20と同様に、第一の透明電極12、第二の透明電極15、及び駆動回路50を有するものとすることができる。
【0192】
図9Bは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の他の一例を示す概略上面図である。
図9Bに示すエレクトロクロミック装置60aは、
図9Aに示したエレクトロクロミック装置60における、第一の補助電極18及び第二の補助電極19の長さ及び配置を変更した例である。
図9Bに示すように、第五の実施の形態において、第一の補助電極18及び第二の補助電極19は、エレクトロクロミック反応領域(エレクトロクロミック層13、固体電解質層14、劣化防止層21)の側部周辺の一部分に位置していてもよい。
【0193】
図9Cは、第五の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置の他の一例を示す概略上面図である。
図9Cに示すエレクトロクロミック装置60bは、
図9Aに示したエレクトロクロミック装置60における、第一の補助電極18及び第二の補助電極19の形状を、曲線形状から点形状(楕円形状)に変更した例である。
図9Cに示すように、本発明のエレクトロクロミック装置においては、補助電極としての機能が得られる程度の大きさ及び配置であれば、第一の補助電極及び第二の補助電極を点形状とすることができる。
エレクトロクロミック装置60bは、第一の補助電極18及び第二の補助電極19が小型であるため、例えば、フレームレス(フチなし)の調光眼鏡のレンズとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0194】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0195】
(作製例1)
<エレクトロクロミック装置Aの作製>
作製例1においては、
図6A及び6Bに示すエレクトロクロミック装置20を作製する例について説明する。なお、作製例1で作製したエレクトロクロミック装置Aは、調光装置としても使用できる。
【0196】
<<第一の電極及びエレクトロクロミック層の形成>>
第一の透明支持体11として50mm×50mm、平均厚み0.7mmのガラス基板を準備した。
第一の透明支持体11上の50mm×40mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により平均厚み約100nmに製膜して、第一の透明電極12を形成した。第一の透明電極12のシート抵抗は40Ω/□であった。
さらに、第一の透明電極12上の端部40mm×2mmの領域、及び5mm×2mmの領域にAgPdCu合金膜(株式会社フルヤ金属製)をスパッタ法により、平均厚み約100nmに製膜して第一の補助電極18を形成した。
【0197】
次に、ポリエチレンジアクリレート(PEG400DA、日本化薬株式会社製)と、光重合開始剤(IRG184、BASF社製)と、下記構造式Aで表される化合物と、構造式Bで表される化合物と、2-ブタノンとを質量比(20:1:14:6:400)で混合させた溶液を作製した。そして、作製した溶液を塗布し、窒素雰囲気下で紫外線照射により硬化させ、酸化反応性のエレクトロクロミック層13を、ITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(40mm×40mm)に形成した。エレクトロクロミック層13の平均厚みは1.3μmとした。
なお、構造式Aの反応電位はAg/Ag+参照極測定(0.55 vs SHE)で、1電子反応におけるピークの平均値は+0.33Vであり、2電子反応におけるピークの平均値は+0.53Vであり、構造式Aの化合物は2電子反応可能な化合物である。また、構造式Bの反応電位はAg/Ag+参照極測定(0.55 vs SHE)で、1電子反応におけるピークの平均値は+0.36Vであり、2電子反応におけるピークの平均値は+0.95Vであり、構造式Bの化合物は2電子反応可能な化合物である。
【0198】
【0199】
【0200】
<<第二の電極及び劣化防止層の形成>>
第一の透明支持体11と同形状の第二の透明支持体16を準備し、第一の透明電極12及び第一の補助電極18と同様にして、第二の透明電極15及び第二の補助電極19を形成した。
次に、酸化スズ粒子分散液(メタノール分散、固形分質量50%、平均粒子径:18nm)に増粘材を添加して、スクリーン印刷法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、平均厚み約3.5μmの酸化スズ粒子膜からなるナノ構造半導体材料をITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(40mm×40mm)に形成した。
【0201】
続いて、下記構造式Cで表されるエレクトロクロミック化合物を2.0質量%含む、2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布した後、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、酸化スズ粒子膜に担持(吸着)させて、劣化防止層21を兼ねた還元反応性のエレクトロクロミック層を形成した。
【0202】
【0203】
続いて、エレクトロクロミック層13上に、平均一次粒径20nmのSiO2微粒子分散液(シリカ固形分濃度24.8質量%、ポリビニルアルコール1.2質量%、及び水74質量%)をスピンコートし、平均厚み2μmの絶縁性無機微粒子層を形成した。
【0204】
<<固体電解質層の形成及び貼り合わせ>>
第二の透明支持体16上の絶縁性無機微粒子層表面に、ポリエチレンジメタアクリレート(分子量600)と、光重合開始剤(IRG184、BASF社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド)とを、質量比(50:5:45)で混合した電解質溶液を作製した。次に、作製した電解質溶液をエレクトロクロミック反応領域(40mm×40mm)に塗布し、さらにその外周部にUV硬化樹脂(TB3035B 株式会社スリーボンドホールディングス製)を塗布し、減圧状態で、第一の透明支持体11上のエレクトロクロミック層13面と貼り合わせ、紫外線(UV)照射により硬化させて、固体電解質層14、保護層17を形成した。固体電解質層14、保護層17の膜厚は貼り合わせギャップをコントロールすることで、平均厚みが50μmとなるように設定し、エレクトロクロミック素子Aを作製した。なお、エレクトロクロミック素子Aにおける第一の補助電極18と第二の補助電極19の間の平均距離は、40mmであった。
【0205】
<<駆動回路の接続>>
エレクトロクロミック素子Aの第一の補助電極18と第二の補助電極19に駆動回路50を接続し、
図6A及び6Bに示すようなエレクトロクロミック装置Aを作製した。なお、駆動回路50は第一の透明支持体11の第一の補助電極18がプラス極性、第二の透明支持体16の第二の補助電極19がマイナス極性になるように接続した。また、駆動回路50としては、modulab Xm solartron analytical(株式会社東陽テクニカ製)を用いた。
【0206】
<発色試験>
続いて、作製したエレクトロクロミック装置Aの発色特性を確認する発色試験を行った。
まず、エレクトロクロミック装置Aにおける酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長、及び還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長を調べるため、-1.2Vの電圧を継続的に印加した安定状態における透過スペクトルを測定した。透過率スペクトルの測定には、パネルモジュール評価装置 LCD5200(大塚電子株式社製)を用いた。
【0207】
図10は、エレクトロクロミック装置Aにおける透過スペクトルを測定した結果を示す図である。
図10に示すように、エレクトロクロミック装置Aにおける酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長は495nm近傍であった。また、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長は610nm近傍であった。なお、
図10においては、縦軸は透過率スペクトルを表し、横軸は波長を表す。
【0208】
<<第一駆動パターンによる駆動>>
次に、消色状態に戻したエレクトロクロミック装置Aを用いて、下記の表1の着色濃度を増加させる駆動条件(第一駆動パターン)でエレクトロクロミック装置Aを発色させながら、エレクトロクロミック反応領域中心部(エレクトロクロミック層の中心部)の透過率スペクトルを測定して、酸化反応性又は還元反応性のエレクトロクロミック層の着色状態が安定するまでの時間を、応答性の指標として測定した。結果を表1並びに
図11A及び11Bに示す。なお、エレクトロクロミック装置Aの着色状態としては、-1.2Vの電圧を印加した状態を安定状態とした。
【0209】
【0210】
表1に示すように、本発明の実施例に相当する駆動パターンP01からP04においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層と還元反応性のエレクトロクロミック層の両方で、発色応答するまでの時間が35秒以下となっている。一方、本発明の比較例に相当する駆動パターンR01は、第一電圧パルスA(Pw1-1)が印加されていなく、発色応答するまでの時間が、180秒以上となっている。このことから、本発明における第一駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することで、応答性を向上できることがわかった。
なお、表1の評価においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層の場合は、駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長495nmの透過率が安定する約13%以下となるまでの時間を評価した。同様に、表1の評価においては、還元反応性のエレクトロクロミック層の場合は、第一電圧パルスBを印加してから、着色ピーク波長610nmの透過率が安定する約23%以下となるまでの時間を評価した。
【0211】
さらに、駆動パターンP01からP04においては、電圧の印加をせず、開回路状態を維持するパターンを含むにも関わらず、目視観察により着色状態にムラがなく、開回路状態でも着色濃度が保持されることを確認した。
【0212】
図11Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。
図11Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。なお、
図11A及び
図11Bにおいては、縦軸は透過率スペクトルを表し、横軸は駆動電圧の印加を開始してからの時間を表す。
図11A及び
図11Bに示すように、駆動パターンP01からP04においては、エレクトロクロミック層の応答性を向上できることがわかった。
【0213】
<<第二駆動パターンによる駆動>>
続いて、下記の表2の着色濃度を減少させる駆動条件(第二駆動パターン)でエレクトロクロミック装置Aを発色させながら、エレクトロクロミック反応領域中心部の透過率スペクトルを測定して、酸化反応性又は還元反応性のエレクトロクロミック層の着色状態が安定するまでの時間を、応答性の指標として測定した。結果を表2並びに
図12A及び12Bに示す。なお、エレクトロクロミック装置Aの着色状態としては、-1.0Vを印加した状態を安定状態(第二駆動パターンにより発色濃度が所定の濃さに減少した状態)とした。また、初期の着色状態(第二駆動パターンにより駆動する前における初期の発色状態であり、発色濃度が濃い状態)は-1.6Vを20sec印加した状態とした。
【0214】
【0215】
表2に示すように、本発明の実施例に相当する駆動パターンP05及びP06においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層と還元反応性のエレクトロクロミック層の両方で、発色応答するまでの時間が50秒となっている。一方、本発明の比較例に相当する駆動パターンR02は、第二電圧パルスA(Pw1-2)が印加されていなく、発色応答するまでの時間が、120秒以上となっている。このことから、本発明における第二駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することで、応答性を向上できることがわかった。
なお、表2の評価においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層の場合は、駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長495nmの透過率が安定する約55%以上となるまでの時間を評価した。同様に、表2の評価においては、還元反応性のエレクトロクロミック層の場合は、駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長610nmの透過率が安定する約63%以上となるまでの時間を評価した。
【0216】
さらに、駆動パターンP05及びP06においては、電圧の印加をせず、開回路状態を維持するパターンを含むにも関わらず、目視観察により着色状態にムラがなく、開回路状態でも着色濃度が保持されることを確認した。
【0217】
図12Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、発色濃度を低くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。
図12Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、発色濃度を低くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。なお、
図12A及び
図12Bにおいては、縦軸は透過率を表し、横軸は駆動電圧の印加を開始してからの時間を表す。
図12A及び
図12Bに示すように、駆動パターンP05及びP06においては、エレクトロクロミック層の応答性を向上できることがわかった。
【0218】
<<初期化駆動パターンによる駆動>>
次に、下記の表3のエレクトロクロミック装置の発色濃度を初期化する駆動条件(初期化駆動パターン)でエレクトロクロミック装置Aを駆動させながら、エレクトロクロミック反応領域中心部の透過率スペクトルを測定して、酸化反応性又は還元反応性のエレクトロクロミック層の着色状態が初期化されるまでの時間を、応答性の指標として測定した。結果を表3並びに
図13A及び13Bに示す。また、初期の着色状態(初期化駆動パターンにより駆動する前における発色状態であり、エレクトロクロミック装置が発色している状態)は-1.6Vを20sec印加した状態とした。
【0219】
【0220】
表3に示すように、本発明の実施例に相当する駆動パターンP07及びP08においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層と還元反応性のエレクトロクロミック層の両方で、初期化応答するまでの時間が6秒以下となっている。一方、本発明の比較例に相当する駆動パターンR03は、初期化電圧パルスA(Pw4)が印加されていなく、初期化応答するまでの時間が、6秒以上となっている。このことから、本発明における初期化駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することで、応答性を向上できることがわかった。
なお、表3の評価においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層の場合は、初期化駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長495nmの透過率が安定する約80%以上となるまでの時間を評価した。同様に、表3の評価においては、還元反応性のエレクトロクロミック層の場合は、初期化駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長610nmの透過率が安定する約80%以上となるまでの時間を評価した。
【0221】
図13Aは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、初期化駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。
図13Bは、作製例1のエレクトロクロミック装置Aを用いて、初期化駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。なお、
図13A及び
図13Bにおいては、縦軸は透過率を表し、横軸は駆動電圧の印加を開始してからの時間を表す。
図13A及び
図13Bに示すように、駆動パターンP07及びP08においては、エレクトロクロミック層の応答性を向上できることがわかった。
【0222】
<耐久性評価>
次に、光暴露装置Q-sun(Xe-1、Q-LAB社製)を用いて光暴露状態(38000Lux、30℃環境下)にした条件下において、下記の表4の駆動条件(第一駆動パターン及び初期化駆動パターンに対応)を用い、エレクトロクロミック装置Aを、計50時間連続して発色駆動した後に、消色駆動した。この条件における消色状態の透過率変化を測定することで耐久性を評価した。エレクトロクロミック装置を光暴露状態とする際には、第一の透明支持体11の側から照射した。なお、駆動パターンP09及びP10においては、Pw2-1及びPw3-1(合計400秒)を450回繰り返すことにより、50時間の連続駆動を行った。測定結果を表4に示す。
【0223】
【0224】
表4に示すように、本発明の実施例に相当する駆動パターンP09及びP10においては、連続駆動後の消色透過率低下が小さく、エレクトロクロミック層が着色劣化しにくいことがわかった。このことから、本発明における初期化駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することで、長時間連続して駆動させる際の耐久性を向上できることがわかった。さらに、発明の実施例に相当する駆動パターンP09及びP10においては、電圧を印加せずに開回路状態とするPw3-1を含む駆動パターンとなっているため、長時間連続して駆動させる際の消費電力を抑制できる。
【0225】
(作製例2)
<エレクトロクロミック装置Bの作製>
作製例2では、支持体の大きさ、製膜のサイズ、電極の抵抗以外は作製例1と同様にしてエレクトロクロミック反応領域(100mm×100mm)のエレクトロクロミック装置Bを作製した。
【0226】
<<第一の電極及びエレクトロクロミック層の形成>>
第一の透明支持体11として110mm×110mm、平均厚み0.7mmのガラス基板を準備した。
第一の透明支持体11上の110mm×100mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により平均厚み約200nmに製膜して、第一の透明電極12を形成した。第一の透明電極12のシート抵抗は15Ω/□であった。
さらに、第一の透明電極12上の端部100mm×2mmの領域、及び5mm×2mmの領域にAgPdCu合金膜(株式会社フルヤ金属製)をスパッタ法により、平均厚み約100nmに製膜して第一の補助電極18を形成した。
次に、作製例1と同様の組成である、酸化反応性のエレクトロクロミック層13をITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(100mm×100mm)に形成した。
【0227】
<<第二の電及び劣化防止層の形成>>
第一の透明支持体11と同形状の第二の透明支持体16を準備し、第一の透明電極12及び第一の補助電極18と同様にして、第二の透明電極15及び第二の補助電極19を形成した。
次に、酸化スズ粒子膜をITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(100mm×100mm)に形成し、作製例1と同様の組成の還元反応性のエレクトロクロミック化合物を酸化スズ粒子膜に担持(吸着)させて、劣化防止層21を兼ねた還元反応性のエレクトロクロミック層を形成した。
【0228】
<<固体電解質層の形成及び貼り合わせ>>
第二の透明支持体16上の絶縁性無機微粒子層表面に、作製例1と同様にして作製した電解質溶液を、エレクトロクロミック反応領域(100mm×100mm)に塗布し、さらにその外周部にUV硬化樹脂(TB3035B 株式会社スリーボンドホールディングス製)を塗布し、減圧状態で、第一の透明支持体11上のエレクトロクロミック層13面と貼り合わせ、紫外線(UV)照射により硬化させて、固体電解質層14、保護層17を形成した。固体電解質層14、保護層17の膜厚は貼り合わせギャップをコントロールすることで、平均厚みが50μmとなるように設定し、エレクトロクロミック素子Bを作製した。なお、エレクトロクロミック素子Bにおける第一の補助電極18と第二の補助電極19の間の平均距離は、100mmであった。
【0229】
<<駆動回路の接続>>
エレクトロクロミック素子Bの第一の補助電極18と第二の補助電極19に駆動回路50を接続し、
図6A及び6Bに示すようなエレクトロクロミック装置Bを作製した。なお、駆動回路50は第一の透明支持体11の第一の補助電極18がプラス極性、第二の透明支持体16の第二の補助電極19がマイナス極性になるように接続した。
【0230】
<<第一駆動パターンによる駆動>>
次に、消色状態に戻したエレクトロクロミック装置Bを用いて、下記の表1の着色濃度を増加させる駆動条件(第一駆動パターン)でエレクトロクロミック装置Bを発色させながら、エレクトロクロミック反応領域中心部、及び端部5mm(エレクトロクロミック層を形成した基板の補助電極から5mmの位置、かつ補助電極を形成しない短軸方向の中心部)の2点について、透過率スペクトルを測定した。酸化反応性又は還元反応性のエレクトロクロミック層の着色状態が安定するまでの時間を、応答性の指標として測定した。結果を表5並びに
図14A及び14Bに示す。なお、エレクトロクロミック装置Bの着色状態としては、-1.2Vの電圧を印加した状態を安定状態とした。
【0231】
【0232】
表5に示すように、本発明の実施例に相当する駆動パターンP11及びP12においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層と還元反応性のエレクトロクロミック層の両方で、発色応答するまでの時間が60秒となっている。一方、本発明の比較例に相当する駆動パターンR05及びR06は、第一電圧パルスA(Pw1-1)が印加されていなく、発色応答するまでの時間が、180秒以上となっている。このことから、本発明における第一駆動パターンによりエレクトロクロミック装置を駆動することで、応答性を向上できることがわかった。
なお、表5の評価においては、酸化反応性のエレクトロクロミック層の場合は、駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長495nmの透過率が安定する10秒間の変動が1%以下となるまでの時間を評価した。同様に、表5の評価においては、還元反応性のエレクトロクロミック層の場合は、駆動電圧を印加してから、着色ピーク波長610nmの透過率が安定する10秒間の変動が1%以下となるまでの時間を評価した。
【0233】
さらに、駆動パターンP11及びP12においては、電圧の印加をせず、開回路状態を維持するパターンを含むにも関わらず、目視観察により着色状態にムラがなく、開回路状態でも着色濃度が保持されることを確認した。
また、エレクトロクロミック反応領域中心部と端部とで、電圧降下により中心部の濃度が端部よりも薄くなるような不具合は生じず、発色濃度の均一性が高かった。
【0234】
図14Aは、作製例2のエレクトロクロミック装置Bを用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、酸化反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。
図14Bは、作製例2のエレクトロクロミック装置Bを用いて、発色濃度を高くする駆動を行う際における、還元反応性のエレクトロクロミック層の着色ピーク波長における光透過率の時間変化を示す図である。なお、
図14A及び
図14Bにおいては、縦軸は透過率スペクトルを表し、横軸は駆動電圧の印加を開始してからの時間を表す。
図14A及び
図14Bに示すように、駆動パターンP11からP12においては、エレクトロクロミック層の応答性が向上できるとともに、エレクトロクロミック反応領域中心部と端部とにおける応答性の差異が小さいことがわかった。
【0235】
(作製例3)
<エレクトロクロミック装置Cの作製>
作製例3では、下記の点以外は作製例1と同様にしてエレクトロクロミック反応領域(150mm×150mm)のエレクトロクロミック装置Cを作製した。エレクトロクロミック装置Cは、本発明の比較例に相当する。
【0236】
第一の透明支持体11として160mm×160mm、平均厚み0.7mmのガラス基板を準備した。
第一の透明支持体11上の160mm×150mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により平均厚み約100nmに製膜して、第一の透明電極12を形成した。第一の透明電極12のシート抵抗は15Ω/□であった。
さらに、第一の透明電極12上の端部150mm×2mmの領域、及び5mm×2mmの領域にAgPdCu合金膜(株式会社フルヤ金属製)をスパッタ法により、平均厚み約100nmに製膜して第一の補助電極18を形成した。
同様の手順で作製した第二の透明電極15及び第二の補助電極19を形成した第二の透明支持体16を準備し、電極面を対向させて、エレクトロクロミック反応領域(150mmx150mm)の外周部にUV硬化樹脂(TB3035B 株式会社スリーボンドホールディングス製)をギャップ120μmの厚さの保護層として形成した。なお、保護層の一部はエレクトロクロミック溶液の注入口として孔を作り、下記エレクトロクロミック溶液を真空注入後、再度UV硬化樹脂で孔を塞いだ。
【0237】
<エレクトロクロミック溶液>
下記、3成分を炭酸プロピレンに溶解した後、フィルタリング処理(ポアサイズ0.2μm)した。
・40mM 1,1’-Diheptyl-4,4’-bipyridinium Dibromide(東京化成工業株式会社製)
・40mM 5,10-Dihydro-5,10-dimethylphenazine(東京化成工業株式会社製)
・0.1M Tetrabutylammonium Tetrafluoroborate(東京化成工業株式会社製)
【0238】
支持体どうしを貼り合わせて作製したエレクトロクロミック素子Cの第一の補助電極18と第二の補助電極19に駆動回路50を接続し、本発明の比較例に相当するエレクトロクロミック装置Cを作製した。なお、駆動回路50は第一の透明支持体11の第一の補助電極18がプラス極性、第二の透明支持体16の第二の補助電極19がマイナス極性になるように接続した。なお、エレクトロクロミック素子Cにおける第一の補助電極18と第二の補助電極19の間の平均距離は、150mmであった。
【0239】
得られたエレクトロクロミック装置Cの発色特性を確認した。
具体的には、表5における駆動パターンP11及びR05の駆動条件で、エレクトロクロミック装置Cを発色させながら、エレクトロクロミック反応領域中心部および、端部5mm(エレクトロクロミック層を形成した基板の補助電極から5mmの位置かつ補助電極を形成しない短軸方向の中心部)の2点について、透過率スペクトルを測定した。エレクトロクロミック装置Cの着色ピーク波長は605nmであった。
【0240】
上記の測定の結果、駆動パターンR05では、エレクトロクロミック層の端部5mmの位置は着色して透過率(605nm)が30%になるものの、エレクトロクロミック反応領域中心部は発色しなかった(発色濃度が上がらなかった)。
また、駆動パターンP11のPw3-1(開回路;オープンサーキット)では、エレクトロクロミック層の端部5mmの着色が消色することが確認された。このことから、本発明の比較例に相当するエレクトロクロミック装置Cは、省電力で駆動させるために、開回路状態を含む駆動パターンで駆動しようとすると、電圧を印加しなくても着色状態および消色状態が一定時間保持されるメモリ効果を奏することができず、発色濃度を維持できないことがわかった。
【0241】
以上、説明したように、本発明のエレクトロクロミック装置は、第一の電極と、第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、第二の電極と、第二の電極に接触し、第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、第一の電極及び第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、第一の電極、第二の電極、及びエレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ第一の補助電極及び第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、エレクトロクロミック層に対し、第一の電極及び第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御手段と、を備える。
さらに、本発明のエレクトロクロミック装置は、第一駆動パターンが、エレクトロクロミック層を第一の発色状態にするための駆動パターンであって、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し、第一の発色状態を形成するための、第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する駆動パターンである。
また、本発明のエレクトロクロミック装置は、第二駆動パターンが、第一の発色状態から、第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための駆動パターンであって、エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し、第二の発色状態を形成するための、第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、前記第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する駆動パターンである。
加えて、本発明のエレクトロクロミック装置は、初期化駆動パターンが、初期の消色状態を形成するための駆動パターンであって、第一電圧パルスAとは逆極性であってエレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し、その後、初期の消色状態を形成するための、エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる駆動パターンである。
これにより、本発明のエレクトロクロミック装置は、発消色駆動を行う際の応答性及び発色濃度の均一性、並びに外部からの衝撃などに対する強度及び安全性が高く、長時間連続して駆動させる際の耐久性に優れるとともに消費電力を抑制できる。
【0242】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 第一の電極と、
前記第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、
第二の電極と、
前記第二の電極に接触し、前記第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、
前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、
前記第一の電極、前記第二の電極、及び前記エレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、
前記エレクトロクロミック層に対し、前記第一の電極及び前記第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御手段と、
を備え、
前記第一駆動パターンが、前記エレクトロクロミック層を前記第一の発色状態にするための前記駆動パターンであって、前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し、前記第一の発色状態を形成するための、前記第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記第二駆動パターンが、前記第一の発色状態から、前記第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための前記駆動パターンであって、前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し、前記第二の発色状態を形成するための、前記第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、前記第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記初期化駆動パターンが、初期の消色状態を形成するための前記駆動パターンであって、前記第一電圧パルスAとは逆極性であって前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し、その後、初期の消色状態を形成するための、前記エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる前記駆動パターンである、
ことを特徴とするエレクトロクロミック装置である。
<2> 前記制御手段が、前記第一駆動パターン及び前記第二駆動パターンの少なくともいずれかにおいて、
前記第一電圧パルスBの印加、及び前記第一電圧パルスBの印加後における前記電圧の印加をしない状態の維持、又は、
前記第二電圧パルスBの印加、及び前記第二電圧パルスBの印加後における前記電圧の印加をしない状態の維持を繰り返す、前記<1>に記載のエレクトロクロミック装置である。
<3> 前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極が金属材料を含む、前記<1>から<2>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<4> 前記エレクトロクロミック層の一の辺に前記第一の補助電極が位置し、前記一の辺と対向する他の辺に前記第二の補助電極が位置する、前記<1>から<3>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<5> 前記第一電圧パルスB及び前記第二電圧パルスBの平均電圧が1.23V以下である、前記<1>から<4>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<6> 前記第一の電極と前記第二の電極の間の開放電圧を測定する測定手段を更に有し、
前記制御手段が、前記第一駆動パターン及び前記第二駆動パターンにおける前記電圧の印加をしない状態を維持する際に、前記測定手段が測定した前記開放電圧に応じて、前記第一電圧パルスB及び前記第二電圧パルスBのパルス特性を変化させる、前記<1>から<5>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<7> 前記固体電解質層が、マトリックスポリマーとイオン性液体との固溶体を含む、前記<1>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<8> 前記エレクトロクロミック層が2電子反応可能な化合物を含む、前記<1>から<7>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<9> 前記エレクトロクロミック装置が、2つの前記エレクトロクロミック層を有し、
一の前記エレクトロクロミック層が、酸化状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第一のエレクトロクロミック層であり、
他の前記エレクトロクロミック層が、還元状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第二のエレクトロクロミック層である、前記<1>から<8>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<10> 前記第一電圧パルスAと前記第一電圧パルスBとの間、前記第二電圧パルスAと前記第二電圧パルスBとの間、前記初期化電圧パルスAと前記初期化電圧パルスBとの間、及び前記初期化電圧パルスAを印加してから短絡させるまでの間の少なくともいずれかにおいて、電圧の印加をしない状態を維持する、前記<1>から<9>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置である。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置を有することを特徴とするウェアラブルデバイスである。
<12> 前記ウェアラブルデバイスの形状が眼鏡型である前記<11>に記載のウェアラブルデバイスである。
<13> 第一の電極と、
前記第一の電極に接触して形成された第一の補助電極と、
第二の電極と、
前記第二の電極に接触し、前記第一の補助電極との平均距離が100mm以下となるようにして形成された第二の補助電極と、
前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成されたエレクトロクロミック層と、
前記第一の電極、前記第二の電極、及び前記エレクトロクロミック層の少なくともいずれかに対しては接触して、かつ前記第一の補助電極及び前記第二の補助電極に対しては非接触に、形成された固体電解質層と、を備えたエレクトロクロミック装置における前記エレクトロクロミック層に対し、
前記第一の電極及び前記第二の電極を介して、第一駆動パターン、第二駆動パターン、及び初期化駆動パターンの少なくともいずれかの駆動パターンにより電圧を印加する制御を行う制御工程を含み、
前記第一駆動パターンが、前記エレクトロクロミック層を前記第一の発色状態にするための前記駆動パターンであって、前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第一電圧パルスAを印加し、前記第一の発色状態を形成するための、前記第一電圧パルスAよりも低い第一電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記第二駆動パターンが、前記第一の発色状態から、前記第一の発色状態よりも発色濃度が低い第二の発色状態を形成するための前記駆動パターンであって、前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための第二電圧パルスAを印加し、前記第二の発色状態を形成するための、前記第二電圧パルスAよりも高い第二電圧パルスB、又は、前記第二電圧パルスAと逆極性の第二電圧パルスBを印加し、その後、電圧の印加をしない状態を維持する前記駆動パターンであり、
前記初期化駆動パターンが、初期の消色状態を形成するための前記駆動パターンであって、前記第一電圧パルスAとは逆極性であって前記エレクトロクロミック層の応答速度を高めるための初期化電圧パルスAを印加し、その後、初期の消色状態を形成するための、前記エレクトロクロミック層の電位を略0Vにする初期化電圧パルスBを印加するか、又は短絡させる前記駆動パターンである、
ことを特徴とするエレクトロクロミック装置の駆動方法である。
【0243】
前記<1>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置、前記<11>から<12>のいずれかに記載のウェアラブルデバイス、及び前記<13>に記載のエレクトロクロミック装置の駆動方法によれば、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0244】
【文献】特開2016-218364号公報
【文献】特開平9-211497号公報
【符号の説明】
【0245】
10 第一の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置
11 第一の透明支持体
12 第一の透明電極(第一の電極)
13 エレクトロクロミック層
14 固体電解質層
15 第二の透明電極(第二の電極)
16 第二の透明支持体
18 第一の補助電極
19 第二の補助電極
20 第二の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置
21 劣化防止層(第二のエレクトロクロミック層)
30 第三の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置
40 第四の実施の形態に係るエレクトロクロミック装置
50 駆動回路(制御手段の一例)