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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/20 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H01B1/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020031751
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136156
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】杉本 秀也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257386(JP,A)
【文献】特開2000-273317(JP,A)
【文献】特開2009-026558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/20
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する金属酸化物粒子(A)と、アミン(B)と、溶媒(C)とを含有する導電性組成物であって、
前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記アミン(B)の沸点が120℃以下であり、
前記溶媒(C)がブチルカルビトールである、
導電性組成物。
【請求項2】
前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が、平均粒子径が10nm以上100nm以下の粒子である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が酸化錫である、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性組成物としては、銀粒子などの導電性粒子に熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等)や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等)などからなるバインダー、有機溶剤、硬化剤、触媒等を添加し混合して得られる導電性ペースト(導電性組成物)が知られている。そして、この導電性組成物を基板(例えばシリコン基板、エポキシ樹脂基板など)上に所定のパターンとなるように印刷し、これらを加熱して電極や配線を形成し、太陽電池セルやプリント配線板を製造している。
【0003】
このような導電性組成物は例えば特許文献1~3に開示されている。
特許文献1には、金属粉末(A)と、脂肪酸金属塩(B)と、金属酸化物(C)とを含有し、前記金属酸化物(C)が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物である導電性組成物が記載されている。
特許文献2には、フリップチップ実装に適した導電性組成物であって、金属粒子および加熱されて気体を発生する対流添加剤を含む導電性組成物が記載されている。
特許文献3には、金属もしくは金属化合物と、アンモニウムカルバメートまたはアンモニウムカーボネート系化合物とを反応させて得られる金属錯体化合物と、添加剤とを含む導電性インク組成物が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、金属酸化物粒子の小粒子径を維持しつつ、経時安定性を維持できる導電性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下に記載する通りの導電性組成物である。
導電性を有する金属酸化物粒子(A)と、アミン(B)と、溶媒(C)とを含有する導電性組成物であって、
前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記アミン(B)の沸点が120℃以下であり、
前記溶媒(C)の沸点が200℃以上である、
導電性組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属酸化物粒子を小粒径化しつつ、経時安定性を維持できる導電性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性組成物>
本発明の導電性組成物は、以下の下記成分を含有する。
導電性を有する金属酸化物粒子(A):酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種
アミン(B):沸点が120℃以下のアミン
溶媒(C):沸点が200℃以上の溶媒
【0008】
本発明は、上記の各成分を含有することにより、導電性を有する金属酸化物粒子(A)の粒子を小粒径化しつつ、経時安定性を維持できる導電性組成物となる。
【0009】
本発明の導電性組成物が経時安定性を維持できる理由の詳細は明らかではないが、およそ以下の通りと推測される。まず、後述する比較例1に示す通り、導電性を有する金属酸化物粒子(A)に対して、アミン(B)を配合せずに沸点が200℃以上の溶媒(C)のみを配合した場合は、導電性を有する金属酸化物粒子(A)の粒子径が大きく、導電性を有する金属酸化物粒子(A)が十分に分散されていないと考えられる。
また後述する実施例1~4に示す通り、導電性を有する金属酸化物粒子(A)及びアミン(B)と共に、沸点が200℃以上の溶媒(C)を配合した場合は、粒子径は小さくなるものの、分散液の安定性が十分ではないことが分かる。これは、導電性を有する金属酸化物粒子(A)の分散性は改善されるものの、沸点が200℃以上の溶媒(C)との親和性が十分でないものと考えられる。また、配合したアミンの沸点は低沸点(120℃以下)であるため、焼成を行うことにより、作製した塗工膜中に残らないものと考えられる。
【0010】
これらの比較例の結果から、本発明においては、低沸点(120℃以下)のアミン(B)を所定量配合することにより、導電性を有する金属酸化物粒子(A)の分散性が改善され、かつ、アミン(B)自体が揮発されることにより残存しないため、導電性を阻害する抵抗成分にならないものと考えられる。
【0011】
以下に、導電性を有する金属酸化物粒子(A)、アミン(B)および溶媒(C)並びに所望により含有してもよい他の成分について詳述する。
【0012】
<導電性を有する金属酸化物粒子(A)>
本発明の導電性組成物で用いる導電性を有する金属酸化物粒子(A)は、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0013】
上記導電性を有する金属酸化物粒子(A)としては、透明導電層等に対する接触抵抗がより低くなる理由から、酸化錫であるのが好ましい。また、酸化錫の中でも、形成される電極等の体積抵抗率がより低くなり、また、透明導電層等に対する接触抵抗がより低くなる理由から、ドーパント(例えば、アンチモン、リン等)によりドープされた酸化錫であるのがより好ましい。なお、ドーパントによるドープは、酸化錫100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下程度までドープされたものが好ましい。
【0014】
上記導電性を有する金属酸化物粒子(A)は、透過性および分散性がより発現する理由から、その平均粒子径が10nm以上100nm以下の粒子であるのが好ましく、10nm以上50nm以下の粒子であるのがより好ましい。ここで、導電性を有する金属酸化物粒子(A)の平均粒子径とは、導電性を有する金属酸化物粒子の粒子径の平均値をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された50%体積累積径(D50)をいう。なお、平均値を算出する基になる粒子径は、導電性を有する金属酸化物粒子の断面が楕円形である場合はその長径と短径の合計値を2で割った平均値をいい、正円形である場合はその直径をいう。
【0015】
上記導電性を有する金属酸化物粒子(A)は、上述したアミン(B)の添加効果、すなわち、導電性を有する金属酸化物粒子の分散性がより発現する理由から、BET比表面積が10m/g以上100m/g以下であるのが好ましく、30m/g以上100m/g以下であるのがより好ましい。ここで、BET比表面積とは、JIS K1477:2007に規定された試験方法に従い、窒素吸着によるBET法を用いて測定した測定値をいう。
【0016】
<アミン(B)>
本発明の導電性組成物は、沸点が200℃以上の溶媒(C)としてブチルカルビトールを含有する場合、アミン(B)を含有するのが好ましい。上記アミン(B)としては、例えば、以下に詳述するアミンを用いるのが好ましい。
【0017】
アミンとしては、脂肪族アミン(脂肪族第1級アミン、脂肪族第2級アミン、脂肪族第3級アミン)などが挙げられる。
脂肪族第1級アミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-エトキシエチルアミン等が挙げられる。
脂肪族第2級アミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、ジ-iso-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-iso-ブチルアミン、ジプロペニルアミン、クロロブチルプロピルアミン、ジ(クロロブチル)アミン、ジ(ブロモエチル)アミン、N-メチルブチルアミン、N-(2-メトキシエチル)メチルアミン、N-(2-メトキシエチル)エチルアミン等が挙げられる。
脂肪族第3級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-ブチルジメチルアミン、等が挙げられる。
【0018】
上記アミン(B)は、導電性を有する金属酸化物粒子を小粒径化しつつ、経時安定性に優れ、低沸点(120℃以下)であることが必要である。具体例としてはプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、N-ブチルジメチルアミン、ブチルメチルアミン、3-アミノペンタン、イソアミルアミン、N-メチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-エチルブチルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、トリエチルアミン、N-メチルブチルアミン、N-(2-メトキシエチル)メチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、N-(2-メトキシエチル)エチルアミン、2-エトキシエチルアミン、エチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0019】
<溶媒(C)>
本発明の導電性組成物は、印刷性等の作業性の観点から、沸点が200℃以上の溶媒(C)を含有する。200℃以上であることにより、スクリーン印刷などの塗工時に溶媒が揮発しにくく安定的に塗工ができる。溶媒(C)は、本発明の導電性組成物を基板上に塗布することができるものであれば特に限定されず、その具体例としては、ブチルカルビトール、イソホロン、α-テルピネオール等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の導電性組成物の製造方法は特に限定されず、上記導電性を有する金属酸化物粒子(A)、上記アミン(B)および溶媒(C)等を、ロール、ニーダー、押出し機、万能攪拌機等により混合する方法が挙げられる。
【実施例
【0021】
以下、実施例を用いて、本発明の導電性組成物について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
また、以下の記載においては特に明記しない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
【0022】
実施例で導電性を有する金属酸化物粒子(A)として下記表1に示す2種類の酸化錫1及び酸化錫2を用いた。
以下の実施例1~9及び比較例1では、酸化錫1[ATO(アンチモンドープ酸化錫)]を用い、実施例10~16及び比較例2では、酸化スズ2[PTO(リンドープ酸化スズ)]を用いた。
【0023】
【表1】
【0024】
また、実施例及び比較例における、酸化錫、アミン、及び溶媒の組成比は下記表2に示す通りとした。
【0025】
【表2】
【0026】
各実施例で用いたアミンの化合物名及び沸点を下記表3に示す。
【表3】
【0027】
(実施例1)
φ0.4mmジルコニアビーズ(ニッカトー社製)100g、酸化錫1 13.75g、ブチルカルビトール(東京化成社製)45.0g、トリエチルアミン1.375gを200ml瓶に投入し、ペイントシェーカーで9時間攪拌させることにより分散させて、実施例1の導電性組成物を得た。
【0028】
(実施例2~9)
実施例1において、アミンを表3に示すアミンに代えた以外は実施例1と同様にして、実施例2~9の導電性組成物を得た。
【0029】
[比較例1]
φ0.4mmジルコニアビーズ(ニッカトー社製)100g、酸化錫1 13.75g、ブチルカルビトール(東京化成社製)45.0gを200ml瓶に投入し、ペイントシェーカーで9時間攪拌させることにより分散させて、比較例1の導電性組成物を得た。
【0030】
(実施例10)
φ0.4mmジルコニアビーズ(ニッカトー社製)100g、酸化錫2 13.75g、ブチルカルビトール(東京化成社製)45.0g、トリエチルアミン1.375gを200ml瓶に投入し、ペイントシェーカーで9時間攪拌させることにより分散させて導電性組成物を得た。
【0031】
(実施例11~18)
実施例10において、アミンを表3に示すアミンに代えた以外は実施例10と同様にして、実施例11~18の導電性組成物を得た。
【0032】
[比較例2]
φ0.4mmジルコニアビーズ(ニッカトー社製)100g、リンドープ酸化錫2 13.75g、ブチルカルビトール(東京化成社製)45.0gを200ml瓶に投入し、ペイントシェーカーで9時間攪拌させることにより分散させて比較例2の導電性組成物を得た。
【0033】
上記で調製した各導電性組成物について、平均粒子径、粗大粒子の割合、懸濁液放置後の清澄液の割合を以下に示す方法で評価した。
【0034】
<平均粒子径>
導電性を有する金属酸化物粒子(A)の平均粒子径とは、導電性を有する金属酸化物粒子の粒子径の平均値をいい、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子製_FPAR-1000)を用いて測定された50%体積累積径(D50)をいう。
【0035】
<粗大粒子の割合(質量分布)>
膜中での粒子は100nm程度以上の凝集が生じると光が散乱して白濁して見える。したがって、膜中では粒子が分散している状態にする必要がある。濃厚系粒径アナライザー(大塚電子製_FPAR-1000)により測定された粒度分布を、分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、質量分布について小径側から累積分布を描き、100nm以上の粒子を粗大粒子と定義し、凝集粒子中の粗大粒子の割合(%)を求めた。粗大粒子の割合を以下の評価基準で評価した。
評価結果を表4及び表5に示す。
(評価基準)
◎: 0.0%以上、1.5%未満
〇: 1.5%以上、3.0%未満
△: 3.0%以上、5.0%未満
×: 5.0%以上
【0036】
<懸濁液放置後の清澄液の割合>
調製したスラリーの入った50mlのスクリュー管を室温で静置し、1週間放置した。
層分離する前の懸濁液層の高さ(A)、放置したことで生じる層分離箇所の清澄液層の高さ(B)をそれぞれ測定した。測定した高さを用いて懸濁液放置後の清澄液の割合を(B/A)×100として算出し、比較評価した。
(評価基準)
◎:0.0% 層分離無(懸濁液に淀み無)
〇:0.0%超、10.0%未満 層分離無(懸濁液に淀み有)
△:10.0%以上、40.0%未満 層分離有(懸濁液と清澄液)
×:40.0%以上 分散できていない
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
表4、5に示す結果から、アミン(B)を配合せずに分散した比較例1、2は、導電性を有する金属酸化物粒子を上手く分散することができず、粒子径が大きいことが分かった。
また、アミン(B)を配合して分散したものは導電性を有する金属酸化物粒子が小粒径化しているものの、懸濁液放置後の清澄液の割合で差が見られた。これに対し、導電性を有する金属酸化物粒子(A)に対して、アルコキシ基を有するアミン(B)および沸点が200℃以上の溶媒(C)を所定量配合して調製した実施例5~9、14~18の導電性組成物は、いずれも導電性を有する金属酸化物粒子を小粒径化しつつ、経時安定性に優れることが分かった。特に、アルコキシ基を有するアミン(B)の中でも沸点が低く、常温放置後の沈降試験によって安定性が見られた実施例6が有効と考える。
【0040】
本発明は下記(1)の導電性組成物にかかるものであるが、下記(2)~(4)を実施形態として含む。
(1)導電性を有する金属酸化物粒子(A)と、アミン(B)と、溶媒(C)とを含有する導電性組成物であって、
前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記アミン(B)の沸点が120℃以下であり、
前記溶媒(C)の沸点が200℃以上である、
導電性組成物。
(2)前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が、平均粒子径が10nm以上100nm以下の粒子である、上記(1)に記載の導電性組成物。
(3)前記溶媒(C)が、ブチルカルビトールである、上記(1)又は(2)に記載の導電性組成物。
(4)前記導電性を有する金属酸化物粒子(A)が酸化錫である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【文献】国際公開第2015/118760号
【文献】国際公開第2006/095677号
【文献】特表2008-531810号公報