(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】払拭装置、ヘッドメンテナンス装置及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240214BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B41J2/165 307
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2020045717
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 大介
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107876(JP,A)
【文献】特開2018-154123(JP,A)
【文献】特開2014-108521(JP,A)
【文献】特開昭63-060846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0015101(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B65H 16/00、18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状部材をロール状に巻き回した繰り出し側ロールの軸芯部材と、前記繰り出し側ロールから繰り出される前記帯状部材を巻き取る巻取り側ロールの軸芯部材と、を備え、前記繰り出し側ロールの軸芯部材が前記巻取り側ロールの軸芯部材に対して相対移動可能に配置されているロールユニットと、
前記ロールユニットを摺動させる移動部材と、
前記ロールユニットの摺動を制御する制御部と、を備え、
前記繰り出し側ロールの軸心部材は、前記繰り出し側ロールの径が比較的大きい状態においては前記巻取り側ロールの軸心部材と略水平に対向する位置で支持され、前記繰り出し側ロールの径が小さくなるにつれて、前記巻取り側ロールの軸心部材と離間し、かつ上方に移動させる溝部によって支持され
、
前記制御部は、
前記繰り出し側ロールが移動により揺動するときの動き出し力(F)と、
前記繰り出し側ロールを静止状態から移動させるときに要する力(F’)を、
F<F’を満たすように制御する、
ことを特徴とする払拭装置。
【請求項2】
前記繰り出し側ロールから繰り出される帯状部材を前記繰り出し側ロールより上方に繰り出す案内ローラをさらに有する請求項1に記載の払拭装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記繰り出し側ロールの移動停止時の負の加速度の傾斜を、前記繰り出し側ロールの移動開始時の正の加速度の傾斜よりも小さくし、前記ロールユニットの移動速度を制御する、請求項1
又は2に記載の払拭装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ロールユニットの摺動時の一方向のみにおいて、当該ロールユニットの移動速度を所定速度よりも遅くなるように制御する、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項5】
前記ロールユニットの周囲の湿度を計測する湿度センサを備え、
前記制御部は、前記湿度に応じて当該ロールユニットの移動速度を可変させる、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項6】
液体吐出ヘッドのメンテナンスを行うヘッドメンテナンス装置であって、
前記液体吐出ヘッドのノズル面を払拭する請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の払拭装置を備えることを特徴とするヘッドメンテナンス装置。
【請求項7】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドのノズル面を払拭する請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の払拭装置と、かつ、請求項
6に記載のヘッドメンテナンス装置と、を備えていることを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、払拭装置、ヘッドメンテナンス装置及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置が備える液体吐出ヘッドのノズルの状態を維持し、定期的に回復させるために、ノズル面をキャッピングするキャップや、ノズル面を払拭して清掃する払拭装置(ロール装置)などを含む維持回復機構(メンテナンス装置)が知られている。また、メンテナンス装置を備える液体吐出装置も知られている。
【0003】
ノズル面を払拭する払拭部材としてウェブなどの帯状部材を使用する場合、帯状部材の全長を長くし大口径のウェブロールを用いることでウェブロールの交換頻度を低減できるが、ウェブロールの大口径化によりメンテナンス装置が大型化する。
【0004】
ウェブロールの交換頻度を低減させつつ、メンテナンス装置の小型化を図るため、ウェブロールの軸芯部材の一方を、他方の軸芯部材に対して相対的に可動可能とするロールユニットに関する技術が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のロールユニットのように、ウェブロール軸がカートリッジ内を揺動できる場合、移動においてウェブロールが揺動することになってウェブにたるみが生する。そして、この「ウェブたるみ」が蓄積することで、ウェブの巻取り時にねじれや巻き取り不良が発生する場合がある。
【0006】
本発明は、液体吐出ヘッドのノズル面などの払拭を行う払拭部材にたるみが蓄積しても、ウェブの巻き取り不良を防止できる払拭装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一態様は、払拭装置に関し、帯状部材をロール状に巻き回した繰り出し側ロールの軸芯部材と、前記繰り出し側ロールから繰り出される前記帯状部材を巻き取る巻取り側ロールの軸芯部材と、を備え、前記繰り出し側ロールの軸芯部材が前記巻取り側ロールの軸芯部材に対して相対移動可能に配置されているロールユニットと、前記ロールユニットを摺動させる移動部材と、前記ロールユニットの摺動を制御する制御部と、を備え、前記繰り出し側ロールの軸心部材は、前記繰り出し側ロールの径が比較的大きい状態においては前記巻取り側ロールの軸心部材と略水平に対向する位置で支持され、前記繰り出し側ロールの径が小さくなるにつれて、前記巻取り側ロールの軸心部材と離間し、かつ上方に移動させる溝部によって支持され、前記制御部は、前記繰り出し側ロールが移動により揺動するときの動き出し力(F)と、前記繰り出し側ロールを静止状態から移動させるときに要する力(F’)を、F<F’を満たすように制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体吐出ヘッドのノズル面などの払拭を行う払拭部材にたるみが蓄積しても、ウェブの巻き取り不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る払拭装置の一実施形態を示す側面説明図。
【
図2】本実施形態に係る払拭装置の制御部の構成例を示す構成図。
【
図3】本実施形態に係る払拭カートリッジの外観斜視説明図。
【
図5】上記払拭カートリッジが備える払拭部材のたるみが生ずる原理を説明する説明図。
【
図6】第一実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図7】第二実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図8】第三実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図9】第四実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図10】第五実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図11】第六実施形態に係る払拭カートリッジの移動制御の例を示す説明図。
【
図12】本発明に係るヘッドメンテナンス装置を含む液体吐出装置の正面説明図。
【
図13】同装置の払拭キャリッジにおけるヘッド配置の説明に供する平面説明図。
【
図14】本実施形態に係る払拭カートリッジで生ずるウェブたるみ量の具体例を説明するグラフ。
【
図15】本実施形態に係る払拭カートリッジにおける移動速度の具体例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態について説明する。
図1は、ロール装置の実施形態としての払拭カートリッジ100を含む払拭装置1の側面説明図である。
図1に示すように、払拭装置1は、液体吐出装置が備え、液体を吐出ノズルを複数備える液体吐出ヘッド(以下、「ヘッド」ともいう。)20のノズル面20aを払拭対象とする。
【0011】
ノズル面20aを払拭する帯状部材であってシート状の払拭部材としてのウェブ2をロール状に巻いて保持する払拭カートリッジ100が移動部材30上に着脱自在に装着される。なお、払拭カートリッジ100は払拭ユニットに相当する。
【0012】
移動部材30には、払拭カートリッジ100を装着したときに、繰り出し側ロール2Aから繰り出されるウェブ2を巻き取る巻取り側ロール2Bの軸芯部材である巻取りローラ6に設けたギヤ39と噛み合う伝達機構37と、伝達機構37を介して巻取りローラ6を回転させる巻取りモータ38を備えている。
【0013】
また、移動部材30には、払拭カートリッジ100のコードホイール14に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ15を設けている。これらのコードホイール14とエンコーダセンサ15によってウェブ2の移動距離(送り量)を検出するエンコーダ16を構成している。
【0014】
移動部材30は、液体吐出ヘッド20のノズル配列方向である矢印Y方向に往復移動可能に配置されている。この移動部材30の払拭方向Y1(復路方向)への移動は、ラック31及びピニオン32と、ピニオン32を回転させる移動部材移動モータ33を含む移動機構よって行われる。
【0015】
また、移動部材30は、ウェブ2がノズル面20aに対して進退する方向、ここでは上下方向に移動可能(昇降可能)に配置されている。移動部材30の昇降は、例えばカム35と、カム35を回転させる移動部材昇降モータ36を含む昇降機構によって行われる。
【0016】
ここで、払拭装置1による払拭動作について説明する。払拭装置1によって液体吐出ヘッド20のノズル面20aを払拭するときには、移動部材30が上昇して、液体吐出ヘッド20のノズル面20aの払拭開始となる一端部に、ウェブ2が所定の押し付け力で押付けられる。
【0017】
そして、移動部材30が払拭方向(Y1方向)に移動されることで、ウェブ2によってノズル面20aに残留している液体(廃液という)が払拭ないし吸収されて除去される。
【0018】
その後、又は、次の払拭動作の前に、巻取りローラ6を回転させてウェブ2を巻取り側ロール2Bに巻取り、ウェブ2の未使用部分が次に払拭するときにノズル面20aに接触するようにする。なお、巻取りローラ6を回転させてウェブ2を巻取り側ロール2Bに巻取りながら、つまり、ウェブ2を送りながら払拭を行うこともできる。
【0019】
[払拭装置1の制御構成]
次に、払拭装置1における払拭カートリッジ100の払拭動作の制御構成について説明する。払拭装置1は、制御装置としての制御部150を備える。
図2は制御部150のハードウェア構成を示す図である。
図2に示すように制御部150は、一般的な情報処理装置と同様の構成を含み、本実施形態に係る払拭装置1が備える各構成の動作を制御する。
【0020】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)151、RAM(Random Access Memory)152、ROM(Read Only Memory)153、HDD(Hard Disk Drive)154及びI/F155がバス159を介して接続されている。また、I/F155には表示部156、操作部157及び専用デバイス158が接続されている。
【0021】
CPU151は演算手段であり、払拭装置1全体の動作を制御する。RAM152は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU151が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM153は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。HDD154は情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体の一例であって、払拭装置1を動作させる基本プログラム(OS:Operating System)や、払拭装置1が払拭カートリッジ100の移動制御を行うための各種の制御プログラム、アプリケーションプログラム等が格納される。なお、制御部150において不揮発性の記憶媒体を備えればよいので、HDD154のような磁性材料を付加した金属に情報を記録させる媒体に限定するものではない。
【0022】
I/F155は、バス159と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。表示部156は、ユーザーが払拭装置1の状態や払拭装置1の動作モードの設定を確認するための視覚的ユーザインタフェースであり、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置によって実現される。操作部157は、ユーザーが払拭装置1の制御動作に関する設定を入力するためのユーザインタフェースである。
【0023】
専用デバイス158は、払拭装置1において専用の動作をする機能を実現するためのハードウェアであって、例えば画像形成部110の画像形成処理機能を実現する構成を含む。また、専用デバイス158には、エンコーダ16や湿度センサ120が含まれている。
【0024】
制御部150は、専用デバイス158に含まれる各ハードウェア構成を用いて、ROM153やHDD154などに格納されたプログラムをRAM152に読み出してCPU151によって実行されることで、所定の機能を実現するソフトウェア制御部を構成する。
【0025】
払拭装置1による払拭動作は、上記の制御部150によって制御される。例えば、制御部150は、移動部材30に設けられた透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ15からの入力を受け付けて、この入力に応じて、ウェブ2の移動距離(送り量)を検出する。また、制御部150は、検出した移動距離に基づいて、払拭カートリッジ100の移動や停止を制御する。
【0026】
さらに制御部150は、払拭カートリッジ100の移動時、停止時、それぞれにおける加速度を制御する。なお、本明細書において、停止時の加速度は、負の加速度であるから「減速度」と表記することもある。
【0027】
制御部150は、払拭カートリッジ100の加速度(減速度)を払拭カートリッジ100の速度(移動速度)に基づいて制御する。また、制御部150は、払拭カートリッジ100が備えるウェブ2の残量(質量や径)に応じて、払拭カートリッジ100の移動速度や加速度(減速度)を可変させる。また、制御部150は、払拭カートリッジ100の移動方向に応じて移動速度や加速度(減速度)を可変させる。
【0028】
また、制御部150は、払拭カートリッジ100の周囲の温度及び湿度を湿度センサ120によって計測し、その計測結果に応じて移動速度や加速度(減速度)を可変させる。
【0029】
[本実施形態に係るウェブたるみの説明]
ここで、払拭装置1が備える払拭カートリッジ100において生ずる「ウェブたるみ」について、
図3から
図5を用いて説明する。
図3は、払拭カートリッジ100の外観斜視説明図、
図4は、払拭カートリッジ100の内部側面説明図である。
図5は、払拭カートリッジ100において生ずるウェブたるみについて説明する拡大説明図である。
【0030】
本実施形態に係る払拭カートリッジ100は、帯状部材であるシート状の払拭部材をロール状に巻き回した繰り出し側ロール2Aの軸芯部材である繰り出しローラ3と、繰り出し側ロール2Aから繰り出されるウェブ2を巻き取る巻取り側ロール2Bの軸芯部材である巻取りローラ6とを備えている。なお、初期状態では巻取りローラ6にウェブ2が巻き取られていない状態であるが、説明を明確にするため、
図4では、巻取り側ロール2Bが形成されている状態で示し、繰り出し側ロールの2Aの最大外径状態は二点鎖線で図示している。
【0031】
ウェブ2としては、吸収性を有し、少なくとも使用する液体に対して耐液性を有するとともに、毛羽立ちや発塵を生じないシート状の材料からなることが好ましく、例えば、不織布、布、フィルム、紙などが挙げられる。
【0032】
ウェブ2は、繰り出しローラ3の繰り出し側ロール2Aから繰り出され、案内ローラ8、9と、搬送ローラ4、5を経て、巻取りローラ6に巻取り側ロール2Bとして巻き取られる。ここでは、繰り出し側ロール2Aからの繰り出し側と巻取り側ロール2Bへの巻取り側を対向させている。
【0033】
これらの繰り出しローラ3、巻取りローラ6、案内ローラ8、9と、搬送ローラ4、5は、払拭カートリッジ100の二分割可能なカートリッジケース101(101A、101B)に回転可能に保持されている。
【0034】
そして、繰り出しローラ3及び巻取りローラ6の内の一方の軸芯部材である繰り出しローラ3は、カートリッジケース101に形成したガイド溝102に移動可能に保持し、他方の軸芯部材である巻取りローラ6に対して相対移動可能に配置している。
【0035】
ここで、ガイド溝102は、一方の軸芯部材である繰り出しローラ3が、他方の軸芯部材である巻取りローラ6から離れながら斜め上方向に向かって移動可能となるような湾曲形状として形成されている。このガイド溝102の形状により、繰り出しローラ3は、初期状態において、繰り出し側ロール2Aの自重によって、ガイド溝102の下端位置に移動して、巻取りローラ6との距離が最も近付いた位置になる。すなわち、繰り出しローラ3のロール径が比較的大きい状態において、他方の軸心部材である巻取りローラ6との位置関係は、対向する位置において略水平の位置に、繰り出しローラ3は支持されている状態になる。
【0036】
なお、繰り出しローラ3と巻取りローラ6との位置関係は、繰り出し側ロール2Aからウェブ2が繰り出されて繰り出しローラ3のロール径が小さくなるにつれて自重が軽くることで変化する。すなわち、繰り出しローラ3は、巻取りローラ6との対向する位置関係において、繰り出しローラ3のロール径が小さくなるにつれて、巻取りローラ6と軸心距離が長くなる(巻取りローラ6と離間する)。その結果、繰り出しローラ3は、ガイド溝102の形状に沿って略水平位置から上方に離れる位置に移動する。
【0037】
また、2つの搬送ローラ4、5の間には、ウェブ2を払拭対象に押し付ける押し付け部材11が配置されている。押し付け部材11は、払拭対象にウェブ2を接触させるときには、スプリング12によって所定の押し付け力でウェブ2を払拭対象に押し付ける。搬送ローラ4にはコードホイール14が取付けられている。
【0038】
払拭カートリッジ100は、できるだけ小型化を図るために軸間距離を短くするように構成されているので、使用済みのウェブを巻取り軸で巻き取った際、巻き取り量の中間点付近で供給ウェブロールと干渉することならないように、繰り出しローラ3を逃がすための揺動機構を備えている。
【0039】
払拭カートリッジ100は、液体吐出ヘッドのノズル面20aを払拭する動作(ワイピング)を行う位置(ワイピング位置)移動する際、
図5に示すように、繰り出しローラ3が、隙間によって移動可能な状態になっている(
図5(a)参照)。ノズル面20aの払拭を終了した後に、初期位置(ホームポジション)に移動するとき、
図5(b)示すように、隙間を埋める方向に繰り出しローラ3が移動する。ホームポジションに移動するときの繰り出しローラ3の移動方向は、繰り出しローラ3に慣性によって、払拭カートリッジ100に移動方向とは相対的に反対方向になる。
【0040】
その後、ホームポジションに到達した払拭カートリッジ100が停止すると、慣性によって繰り出しローラ3は、払拭カートリッジ100が移動していた方向に移動する(
図5(c))。このとき、繰り出しローラ3は、慣性によって繰り出し方向に回転するのでウェブ2がたるむ。このようにして「ウェブたるみ」が発生する。
【0041】
なお、払拭装置1における通常の払拭動作においては、払拭動作の終了直後に使用済みのウェブロールの巻取り動作が入るので、ウェブたるみが生じても解消される。一方、ホームポジションに戻ったときには、その後に巻取り動作が行なわれないので、
図5(c)のようにウェブたるみが発生する。このウェブたるみの量は、繰り返し動作によって累積される。
【0042】
なお、速度差とウェブたるみの相関に関し、
図14のグラフを用いて補足説明する。払拭カートリッジ100の移動速度を設定する速度テーブルは
図15に例示したものを用いることとする。
【0043】
従来の移動速度を
図15に例示した速度テーブルにおける「130mm/s(520pps)」とし、本実施形態に係る移動速度は「50mm/s(200pps)」とする。従来の加速度は「65m/s
2(経過時間:0.002s)」とし、本実施形態に係る移動速度は「10m/s
2(経過時間:0.005s)」とする。
【0044】
図14のグラフに示すように、供給ロール径(繰り出しローラ3側の径)によって、ウェブたるみの長さ(たるみ長さ)は異なる。そして、低速ほど「たるみ長さ」は短くなっている。従来速度(520pps)では、たるみ長さは100~200mm程度になる。
【0045】
なお、これに対して移動速度を遅くすると、たるみ長さは短くなるが、移動速度が200pps以下になると、振動や音が大きくなるので、たるみ防止、振動、音を考慮すると、200ppsが好適となる。なお、移動速度を200ppsに設定しても、若干のウェブたるみは発生する(18mm)。
【0046】
なお、
図14に記載している「たるみ長さの目標値:25mm」は、放置後メンテ1回での巻取り量を示すものである。
【0047】
[第一実施形態]
本実施形態に係る払拭装置1が備える制御部150によって、上記のように生ずる「ウェブたるみ」を低減させるように、払拭カートリッジ100の移動制御が実行される。
図6は、第一実施形態に係る払拭カートリッジ100の移動制御の例であって、払拭動作を実行するときの動作開始時間から動作終了時間までにおける払拭カートリッジ100の移動速度の変化の様子を示すグラフである。
【0048】
図6(a)において、グラフGo1は、従来技術に係る払拭カートリッジ100の移動速度の制御を例示している。制御部150は、ウェブたるみを低減又は防止するため、払拭カートリッジ100の移動速度をグラフGn1のように、ある所定速度以下に制御する。これによって繰り出しローラ3の揺動を抑制し、ウェブたるみを防止することができる。
【0049】
また、制御部150は、
図6(b)のように、払拭カートリッジ100の移動開始時の正の加速度(加速度)と移動終了時の負の加速度(減速度)を、従来の移動制御に係るグラフGo2よりも傾きを緩やかにするように制御する。例えば、従来よりも若干加速度と減速度が緩やかなグラフGn21、より緩やかなグラフGn22、さらに緩やかなグラフGn23のように、複数の段階を設けて制御する。これによって繰り出しローラ3の揺動を抑制し、ウェブたるみを防止することができる。
【0050】
[第二実施形態]
次に、払拭カートリッジ100の第二実施形態に係る移動制御について、
図7を用いて説明する。ウェブ2が巻かれている繰り出しローラ3が慣性によって動き出す力を「F[N]」とし、繰り出しローラ3の質量wを「m[kg]」とし、払拭カートリッジ100の加速度を「a[m/s
2]」とした場合、「F=m×a」の関係が成り立つ。
【0051】
また、静止状態の繰り出しローラ3が移動し始めるときに要する力(動き出し力)を「F’[N]」とし、繰り出しローラ3の軸の摩擦係数を「μ」とし、重力加速度を「g[m/s2]」とした場合、「F’=μ×m×g」の関係が成り立つ。
【0052】
上記の式に基づいて、「F<F’」の関係が成り立つように、制御部150が払拭カートリッジ100の移動速度の制御を実行する。
【0053】
図7は、ウェブ2が巻かれている繰り出しローラ3が慣性によって動き出す力「F」と、払拭カートリッジ100の加速度「a」の相関を示すグラフである。グラフGn3に示すように「F」と「a」は正の相関関係にある。そこで、「F」が、静止している繰り出しローラ3が移動し始めるための力「F’」よりも小さくなるように、制御部150は払拭カートリッジ100の加速度aを制御する。これによって、繰り出しローラ3の慣性による動きを抑制でき、ウェブたるみを防止できる。すなわち、ウェブ2のねじれや、巻き取り不良を防止できる。
【0054】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態に係る移動制御について
図8を用いて説明する。払拭装置1が備える払拭カートリッジ100は、すでに説明したとおり、コードホイール14に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ15を備えている。これらのコードホイール14とエンコーダセンサ15によってウェブ2の移動距離(送り量)を検出するエンコーダ16が構成されている。
【0055】
制御部150は、エンコーダ16が検出するウェブ2の送り量に基づいて、繰り出しローラ3に残っているウェブ2の量から繰り出しローラ3の質量を算出する。繰り出しローラ3の質量は、繰り出しローラ3の負の加速度(減速度)に特に影響を与える。
図8(a)に示すように、繰り出しローラ3の質量(m)と、移動速度(v)及び加速度(a)は負の相関がある。
【0056】
また、
図8(b)に示すように、繰り出しローラ3の質量(m)の大小関係によって、払拭カートリッジ100の移動開始、移動、移動停止までの時間と移動速度との関係は異なる。すなわち、質量(m)が少ない場合のグラフGn51と、質量(m)が多い場合のグラフGn53と、その中間に相当する場合のグラフGn52と、を比較すると、質量(m)が少ないほど、移動速度を速くしてもウェブたるみの発生を低減できる。一方、質量(m)が多い場合は、移動速度を遅くしてウェブたるみの発生を低減させる。
【0057】
また、
図8(c)に示すように、繰り出しローラ3の質量(m)に関わらず、払拭カートリッジ100の移動速度を一定にして、加速度と減速度を調整してもよい。例えば、質量が少ない場合には、グラフGn61に示すように、加速度も減速度も傾斜をきつくしてもウェブたるみを低減できる。この場合、質量(m)が中間の場合のグラフGn62と比較すると、移動時間が時間t1だけ短くなる。また、質量(m)が多い場合のグラフGn63と比較すると、移動時間が時間t2だけ短くなる。
【0058】
以上のように、第三実施形態に係る払拭装置1によれば、生産性を上げる等の目的で払拭カートリッジ100の移動時間を短縮させつつ、ウェブ2のねじれや巻取り不良を防止できる。
【0059】
[第四実施形態]
次に、第四実施形態に係る移動制御について
図9を用いて説明する。制御部150は、払拭カートリッジ100の移動制御において、移動開始後の加速段階と、移動停止前の減速段階において、加速度と減速度を異なる傾斜に設定することもできる。
【0060】
例えば、
図9(a)に示すグラフGn71のように、制御部150は、加速度の傾斜はきつくして移動速度に達する時間を短縮し、減速度は緩やかにして、繰り出しローラ3に揺動を抑制するように制御する。
【0061】
また、
図9(b)及び
図9(c)のように、減速度の傾斜については、複数の減速度を組み合わせてもよいし、減速度の変化が曲線状になるように制御してもよい。
【0062】
図9に示したように、払拭カートリッジ100の移動速度の制御をすることで、生産性を上げる等の目的で払拭カートリッジ100の移動時間を短縮させつつ、ウェブ2のねじれや巻取り不良を防止できる。
【0063】
[第五実施形態]
次に、第五実施形態に係る移動制御について
図10を用いて説明する。制御部150は、払拭カートリッジ100の移動制御において、往路に係る移動制御と復路に係る移動制御を異なるように制御してもよい。
【0064】
図10に示すグラフGn81のように、往路のみ移動に係る移動速度の制御を制御部150が行った場合、復路での移動に係る移動速度の制御をグラフGo3のようではなく、グラフGn82のように実行する。すなわち、払拭カートリッジ100の往復移動において、往路のみ(一方向のみ)の移動速度を所定速度以下にする。つまり、ウェブたるみが発生する移動方向での移動速度を遅くして、ウェブたるみの発生を低減させつつ、払拭カートリッジ100の往復移動による払拭動作の生産性を向上できる。
【0065】
[第六実施形態]
次に、第六実施形態に係る移動制御について
図11を用いて説明する。払拭装置1が備える制御部150は、すでに説明したとおり、払拭カートリッジ100の環境湿度を計測する湿度センサ120を備える。
図11(a)に例示するように、払拭カートリッジ100の移動による繰り出しローラ3の移動速度(v)と加速度(a)は、湿度(RH)と正の相関がある。
【0066】
そこで、制御部150は、湿度センサ120が計測する湿度が低いときは、
図11(b)のグラフGn101のように、加速度も減速度も傾斜をきつくし、移動速度も速くするように、払拭カートリッジ100の移動制御を実行する。一方、湿度が高いときはグラフGn103のように加速度と減速度の傾斜を緩くして、移動速度も遅くする。また、湿度が中間のときは、グラフGn102のように、払拭カートリッジ100の移動制御を実行する。
【0067】
また、制御部150は、払拭カートリッジ100の移動速度は一定にした状態で、湿度センサ120の計測結果に基づいて、加速度と減速度の傾斜を変化させるように払拭カートリッジ100の移動制御を実行する。例えば、湿度が高いときは、
図11(c)のグラフGn111のように、加速度と減速度の勾配をきつく設定する。一方、湿度が低いときは、グラフGn113のように、加速度と減速度の勾配を緩く設定する。以上のように制御することで、湿度が高い場合の移動制御では、湿度が中間の場合のグラフGn112と比較すると、移動時間が時間t1だけ短くなる。また、湿度が低い場合のグラフGn113と比較すると、移動時間が時間t2だけ短くなる。
【0068】
以上のように、第六実施形態に係る払拭装置1の移動制御によれば、湿度に応じて払拭カートリッジ100の移動速度、加減速度を可変させることで、動作環境に応じて最適な移動速度に可変させることができる。これによって、移動時間を短縮しつつ、ウェブ2のねじれ、巻取り不良を防止できる。
【0069】
また、第六実施形態に係る払拭装置1によれば、コストダウンの目的でウェブロールの軸芯を樹脂から紙製に変更した際、紙製の軸芯が湿気を含み、払拭カートリッジ100の搖動溝との摺動性が悪化する場合にも効果を発揮する。すなわち、高湿度ほど、移動度と加減速度を大きくするように制御可能である。湿度に応じて移動速度を可変させることで、移動時間を短縮でき、且つ、ウェブねじれや、巻取り不良を防止できる。
【0070】
[ヘッドメンテナンス装置及び液体吐出装置の実施形態]
次に、本発明に係るヘッドメンテナンス装置を含む液体吐出装置の概要について
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は液体を吐出する装置の正面説明図、
図13は同装置のキャリッジにおけるヘッド配置の説明に供する平面説明図である。
【0071】
この液体を吐出する装置は、シリアル型装置であり、キャリッジ21に1又は複数の液体吐出ヘッド20(20A~20C)を搭載し、搬送手段22で媒体23を間欠的に搬送する。そして、キャリッジ21を矢印方向に移動させ、液体吐出ヘッド20から所要の液体を吐出して画像を形成する。
【0072】
また、キャリッジ21のホーム位置側には、液体吐出ヘッド20のノズル面20aをキャッピングするキャップ52と、前記第一ないし第六実施形態で説明したような払拭装置1で構成したヘッド清掃装置51とを含み液体吐出ヘッド20のメンテナンス(ヘッドメンテナンス)を行うメンテナンス装置50を配置している。
【0073】
このように、本発明に係る払拭装置を含むメンテナンス装置を備えていることで、ヘッド面を清浄化して安定した液体吐出を行うことができ、また、装置の小型化を図ることができる。
【0074】
上記実施形態においては、帯状部材としてウェブなどの払拭部材を使用したロールユニットとしての払拭カートリッジ100、ロール装置としての払拭装置1、メンテナンス装置50、液体吐出装置について説明したが、帯状部材は払拭部材に限るものではない。例えば、ロール紙のロールユニット、ロール装置等にも応用可能である。
【0075】
つまり、繰り出し側ロール及び巻取り側ロールに巻かれる対象はウェブだけに限定されるものではなく、ロール紙などの紙類、ラベル、テープ、衣類等に用いる生地など、一般的にロール状に巻かれるもの(帯状部材)であれば本発明を適用することができる。
【0076】
また、帯状部材の厚さや素材も限定されない。帯状部材の搬送ルート(這い回し)やロールの配置は、ロールユニットやロール装置の用途に応じて適宜変更可能である。
【0077】
本発明は、ロールの移動のしやすさを考慮すると、繰り出し側ロールとして巻かれている帯状部材の総質量が小さい製品に対して特に有効である。
【0078】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
100 :媒体引渡制御部
110 :方向制御部
111 :方向切替部
112 :軸
120 :巻取りローラ
121 :シート挟持部
121a :クランプ板
122 :媒体有無検知センサ
123 :ヒータ
124 :温湿度センサ
130 :媒体到達検知部
131 :第一媒体到達検知センサ
132 :第二媒体到達検知センサ
133 :第三媒体到達検知センサ
140 :媒体搬出部
141 :搬出ベルト
142 :ベルトローラ
150 :制御部
200 :画像形成部
300 :後処理部
1000 :画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0080】