(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/00 20210101AFI20240214BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240214BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240214BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240214BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240214BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B22F3/00 F
B22F3/10 E
C22C33/02 H
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2020055718
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康太
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-054983(JP,A)
【文献】特開2010-045068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00,3/10
C22C 33/02,38/00
H01F 1/053,1/057,41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素の少なくとも一種でありPrを必ず含む、TはFe又はFeとCoであり、T全体に対するFeの含有量が90質量%以上である)の製造方法であって、
R-T-B系合金粉末を準備する工程と、
前記R-T-B系合金粉末を成形し、成形体を準備する工程と、
前記成形体を焼結し、焼結体を作製する工程と、を含み、
前記R-T-B系焼結磁石におけるPrの含有量はR全体の75質量%以上であり、前記焼結体を準備する工程は、前記成形体を温度950℃以上1100℃以下で加熱し、加熱時間は
34時間以上56時間以下であり、且つ、前記加熱時間をt(時間)、前記R-T-B系焼結磁石のPrの含有量(質量%)を[Pr]、Rの含有量(質量%)を[R]としたとき、t≧0.859×e
(3.26×[Pr]/[R])(eはネイピア数)を満足する、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
R-T-B系焼結磁石における前記Prの含有量はR全体の80質量%以上である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、TはFe又はFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである)は、R2T14B型結晶構造を有する化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されており、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。このため、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。
【0003】
特許文献1には、R量とB量とを適切な範囲にすることによってR2T17相の析出量を調整するとともにGa量をR2T17相の析出量に応じた最適な範囲にすることによって高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」と記載する場合がある)と高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)を有するR-T-B系焼結磁石が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されているR-T-B系焼結磁石は、R中の成分が主にNdである焼結磁石(以下、Nd磁石という場合がある)であり、室温で高いBrと高いHcJを有している。これに対して、Nd磁石よりも低温でより高いBrを示す磁石として、R中の成分が主にPrである焼結磁石(以下、Pr磁石という場合がある)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Pr磁石は、低温で高いBrが得られるため、アンジュレータ向けなどの用途に使用されている。また、特にアンジュレータなどの用途では、室温において高い角形比Hk/HcJ(以下、単にHk/HcJという場合がある)が求められている。これは室温におけるHk/HcJが低いと、アンジュレータに磁石を組み付けた時(特に磁石を組み付けて磁気回路を形成する時)などに減磁を起こしやすくなり、これにより低温において高いBrを得ることができないという問題を引き起こす可能性があるからである。そのため、Pr磁石は低温で高いBrを有するとともに、室温において高いHk/HcJを有することが求められている。しかし、本発明者らの検討によると、R-T-B系焼結磁石は、Pr含有量が多くなると室温のHk/HcJが低下するという問題があることがわかった。
【0007】
そこで本開示は、低温で高いBrを有するとともに、室温で高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、限定的でない実施形態において、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素の少なくとも一種でありPrを必ず含む、TはFe又はFeとCoであり、T全体に対するFeの含有量が90質量%以上である)の製造方法であって、R-T-B系合金粉末を準備する工程と、前記R-T-B系合金粉末を成形し、成形体を準備する工程と、前記成形体を焼結し、焼結体を作製する工程と、を含み、前記R-T-B系焼結磁石におけるPrの含有量はR全体の75質量%以上であり、前記焼結体を準備する工程は、前記成形体を温度950℃以上1100℃以下で加熱し、加熱時間は10時間以上56時間以下であり、且つ、前記加熱時間をt(時間)、前記R-T-B系焼結磁石のPrの含有量(質量%)を[Pr]、Rの含有量(質量%)を[R]としたとき、t≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R])(eはネイピア数)を満足する。
【0009】
ある実施形態において、R-T-B系焼結磁石における前記Prの含有量はR全体の80質量%以上である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、低温で高いBrを有するとともに、室温で高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは検討の結果、R-T-B系焼結磁石におけるPr含有量が多くなると低温において高いBrが得られるものの、室温におけるHk/HcJが低下することを知見した。さらに検討の結果、室温において高いHk/HcJを得るためには、Prの含有量に応じて焼結の加熱時間を適切に管理する必要があることがわかった。さらに実験を重ねた結果、加熱時間をt(時間)、R-T-B系焼結磁石のPrの含有量(質量%)を[Pr]、Rの含有量(質量%)を[R]としたとき、t≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R])(eはネイピア数)を満たせば、高いHk/HcJが得られることを見出した。これにより、低温で高いBrを有するとともに、室温で高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
なお、R-T-B系焼結磁石の分野においては、一般に、Hk/HcJを求めるために測定するパラメータであるHkは、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のH軸の読み値が用いられている。減磁曲線のHcJに対するこのHkの比 Hk/HcJ(=Hk(kA/m)/HcJ(kA/m)×100(%))が角形比として定義される。本開示においても同様に定義する。
また、本開示において低温とは、-180℃±20℃のことをいい、室温とは、25℃±10℃のことをいう。
【0012】
[R-T-B系焼結磁石]
まず、本開示の製造方法により得られるR-T-B系焼結磁石について説明する。
[R-T-B系焼結磁石の組成]
本開示のR-T-B系焼結磁石は例えば以下の組成を有する。
R:28.5質量%以上33.0質量%以下
B:0.80質量%以上1.50質量%以下、
Cu:0.05質量%以上0.50質量%以下、
T:61.5質量%以上70.0質量%以下、を含む。
以下に、各組成について詳述する。
【0013】
(R:28.5~33.0質量%)
本開示のR-T-B系焼結磁石は、Rは希土類元素の少なくとも一種でありPrを必ず含み、TはFe又はFeとCoであり、T全体に対するFeの含有量が90質量%以上である。また、本開示のR-T-B系焼結磁石におけるPrの含有量はR全体の75質量%以上である。Prの含有量がR全体の75質量%未満であると、低温で高いBrが得られない可能性がある。低温でより高いBrを得るためには、Prの含有量がR全体の80質量%以上90質量%以下が好ましい。
Rの含有量は、28.5~33.0質量%である。Rが28.5質量%未満であると焼結時の緻密化が困難となる可能性があり、33.0質量%を超えると主相比率が低下して高いBrを得られない可能性がある。Rの含有量は、好ましくは29.5~32.5質量%である。Rがこのような範囲であれば、より高いBrを得ることができる。
【0014】
(B:0.80~1.50質量%)
Bの含有量は、0.80~1.50質量%である。Bが0.80質量%未満であるとR2T17相が生成されて高いHcJが得られない可能性があり、1.50質量%を超えるとBrが低下する可能性がある。
【0015】
(Cu:0.05~0.50質量%)
Cuの含有量は、0.05~0.50質量%である。Cuが0.05質量%未満であると高いHcJを得ることができない可能性があり、0.50質量%を超えると焼結性が悪化して高いHcJが得られない可能性がある。
Tは、TはFe又はFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである。Coを含有することにより耐食性を向上させることができるが、Coの置換量がFeの10質量%を超えると、高いBrが得られない可能性がある。Tの含有量は、61.5質量%以上70.0質量%以下である。Tの含有量が61.5質量%未満であると、大幅にBrが低下する可能性があり、70.0質量%を超えるとHcJが低下する可能性がある。
【0016】
[R-T-B系焼結磁石の製造方法]
次に、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法について説明する。
(1)R-T-B系合金粉末を準備する工程
前記組成となるようにそれぞれの元素の金属または合金を準備し、ストリップキャスティング法等を用いてフレーク状の合金を得る。
得られたフレーク状の合金を水素粉砕し、粗粉砕粉のサイズを例えば1.0mm以下とする。次に、粗粉砕粉をジェットミル等により微粉砕することで、例えば粒径D50(気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(メジアン径))が2~7μmの微粉砕粉(R-T-B系合金粉末)を得る。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後のR-T-B系合金粉末に助剤として公知の潤滑剤を使用してもよい。
【0017】
(2)成形体を準備する工程
得られたR-T-B系合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥したR-T-B系合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該R-T-B系合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0018】
(3)焼結体を準備する工程
成形工程で得られた成形体を、焼結炉内で焼結することにより、焼結体(焼結磁石)を得る。本発明では、成形体を温度950℃℃以上1100℃以下で加熱する。加熱時間は10時間以上56時間以下であり、且つ、前記加熱時間は、加熱時間をt(時間)、前記R-T-B系焼結磁石のPrの含有量(質量%)を[Pr]、Rの含有量(質量%)を[R]としたとき、t≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R])(eはネイピア数(2.7183・・・)である)を満足する。
焼結温度が950℃未満又は1100℃超だとBrが低下し、低温においても高いBrが得られない可能性がある。また、加熱時間t(時間)がt≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R])を満足しないと室温におけるHk/HcJが低下する。なお、本開示におけるR-T-B系焼結磁石のHk/HcJは、好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上である。なお、焼結温度の測定方法としては、焼結炉内の成形体に熱電対を接触させて温度を測定することが好ましい。また、簡易的には、あらかじめ、焼結炉内の温度と焼結炉内に置かれた別の成形体の温度とを熱電対により同時に測定することで、焼結炉内の温度と焼結炉内の成形体の温度との対応関係を調査しておき、その対応関係に基づいて、焼結炉内の温度から焼結炉内の成形体の温度を読み取ってもよい。
また、加熱時間tは、成形体を焼結炉内で加熱し、所定の焼結温度になった時点から、所定の焼結温度での加熱保持を停止した時点までの時間とする。
【0019】
(4)熱処理工程
得られた焼結体(焼結磁石)に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行ってもよい。熱処理温度は、例えば、400℃以上900℃以下である。熱処理工程における保持時間は既知の条件を用いることができ、例えば60分以上300分以下とすることができる。なお、保持時間は、焼結体を熱処理炉内で加熱し、所定の熱処理温度になった時点から、所定の熱処理温度での加熱保持を停止した時点までの時間とする。また、雰囲気による酸化を防止するために、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で熱処理することが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0020】
本発明では、焼結工程後、熱処理工程前に、さらに追加の熱処理工程を1回以上行ってもよい。追加の熱処理工程として、例えば、焼結体を、400℃以上焼結温度以下、好ましくは700℃以上900℃以下に加熱後(例えば1回目より低い温度で加熱後)、室温の温度まで冷却してもよい。
【0021】
最終的な製品形状にするなどの目的で、得られた焼結磁石に研削などの機械加工を施してもよい。その場合、熱処理は機械加工前でも機械加工後でもよい。さらに、得られた焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理であってもよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗料などの表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0022】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
R-T-B系焼結磁石がおよそ表1の合金No.1~4に示す組成となるように、各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素雰囲気中で乾式粉砕し、D50が4.0μmのR-T-B系合金粉末を得た。得られたR-T-B系合金粉末の成分分析結果を表1の合金No.1~4に示す。表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。
【0024】
前記R-T-B系合金粉末に、潤滑剤を微粉砕粉100質量%に対して、0.4質量%添加、混合した後、磁界中成形し、成形体を得た。なお、成形装置は、磁場印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0025】
得られた成形体を1000℃以上1100℃以下で(サンプル毎に十分緻密化する温度で設定)加熱した。また、No.1~4それぞれ、加熱時間を4時間~56時間の範囲で複数サンプルを作製することにより、No.1~4それぞれのHk/HcJが89%、91%、92%となる加熱時間を求めた。結果を表2に示す。なお、Hk/HcJは以下の様にしてもとめた。R-T-B系焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B-Hトレーサで測定し、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のH軸の読み値をHkとし、減磁曲線のHcJに対するこのHkの比Hk/HcJを、Hk(kA/m)/HcJ(kA/m)×100(%)として求めた。さらに、低温のBrはR-T-B系焼結磁石に機械加工を施し、縦2.8mm、横2.8mm、厚み2.8mmの試料を作製し、日本カンタムデザイン製PPMS VSMユニットにより-173℃において測定した。Brは加熱時間による差はなく同じであった。結果を表2に示す。なお、表2における本発明例は、いずれも加熱時間は10時間以上56時間以下であり、且つ、t≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R]))を満足していた。これに対し、No.1~3の比較例は、いずれもt≧0.859×e(3.26×[Pr]/[R]を満足していなかった。また、No.4は、加熱時間(10時間以上56時間以下)が本開示の範囲外であった。
【0026】
表2に示すように、本発明例は、いずれも低温で高いBrを有するとともに、室温で高いHk/HcJ(91%以上)を有している。これに対して、Prの含有量がR全体の75質量%未満であるNo.4は、低温で高いBrが得られていない。さらに、No.4は、加熱時間によって室温のHk/HcJに差が無い。一方、Prの含有量がR全体の75質量%以上であるNo.1とNo.2を比べると、No.2(Prの含有量がR全体の80質量%)は加熱時間が12時間であると室温のHk/HcJが91%以上であるのに対し、No.1(RはPr)は加熱時間が同じ12時間であっても室温のHk/HcJが91%未満であった。No.2とNo.3を比べても同様のことが言える。このことは、Prの含有量によって、室温で高いHk/HcJが得られる加熱時間が異なることを示している。
【0027】
【0028】