(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】試薬及び水分測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20240214BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20240214BHJP
G01N 31/16 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N31/00 B
G01N31/22 122
G01N31/16 Z
(21)【出願番号】P 2020063653
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金石 眞理
(72)【発明者】
【氏名】稲田 圭一郎
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第00889140(GB,A)
【文献】特公昭52-034957(JP,B2)
【文献】特開2002-202299(JP,A)
【文献】特開昭62-291563(JP,A)
【文献】特開平08-151472(JP,A)
【文献】実開昭52-102778(JP,U)
【文献】特開昭48-060690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 - 31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分濃度測定用試薬であって、
該水分濃度測定用試薬は、ヨウ素、および、塩基性物質を含み
、水当量が0.9mgH
2O/ml以下であ
り、かつ、該塩基性物質の濃度が1~13質量%である、ことを特徴とする水分濃度測定用試薬。
【請求項2】
前記水分濃度測定用試薬が、二酸化硫黄、および溶剤をさらに含む、カールフィッシャー試薬である、請求項1に記載の水分濃度測定用試薬。
【請求項3】
前記塩基性物質がイミダゾール化合物またはアミン化合物である、請求項2に記載の水分濃度測定用試薬。
【請求項4】
前記塩基性物質が、ピリジン及びピリジン誘導体から選ばれる1種以上である、請求項3に記載の水分濃度測定用試薬。
【請求項5】
前記溶剤がアルコール類またはクロロホルム化合物である、
請求項2~4のいずれか一項に記載の水分濃度測定用試薬。
【請求項6】
測定対象試料に対して、請求項2~
5のいずれか1項に記載の
水分濃度測定用試薬を滴定する滴定工程を含む、
ことを特徴とする水分測定方法。
【請求項7】
前記測定対象試料の水分濃度が500ppm以下である、請求項
6に記載の水分測定方法。
【請求項8】
25℃における前記測定対象試料の動粘度が800,000mm
2/sec以下である、請求項
7に記載の水分測定方法。
【請求項9】
25℃における前記測定対象試料の動粘度が100~100,000mm
2
/secである請求項8に記載の水分測定方法。
【請求項10】
前記測定対象試料がオイル、樹脂、および医薬製剤からなる群より選択される、請求項
6~9のいずれか1項に記載の水分測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬及び水分測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質に含まれる水分を測定する方法の代表的なものの一つに、ドイツのKarl Fischerにより1935年に発表されたカールフィッシャー法が挙げられる。カールフィッシャーは、ヨウ素(I
2)、二酸化硫黄(SO
2)、塩基性物質(Base)、メタノール(CH
3OH)からなる試薬と水(H
2O)とが、下記の反応式に示すように定量的に反応すること、及び該反応を利用することにより物質に含まれる水分を測定することができることを発表した。
【化1】
上記の反応は、Mitchell&Smithにより、ヨウ素1molと水1molとが反応することが知られている。
【0003】
カールフィッシャー試薬を用いた水分測定法の代表的な方法には、滴定量から水分を求める容量滴定法と、電解酸化でヨウ素を発生させて水分を定量する電量滴定法との2つの方法がある。測定手順については、何れの滴定法においても、測定したい試料を溶解させる溶剤をヨウ素で無水化し、次いでこの無水化された溶剤に測定対象試料を入れ、ヨウ素を含む試薬で滴定する工程を経て、水分濃度を算出する。
一般的に、物質に含まれる水分濃度がおよそ1質量%を超える場合は容量滴定法(特許文献1及び2)が用いられ、また、1質量%以下となる場合は電量滴定法(特許文献3及び4)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-202299号公報
【文献】特開2014-167455号公報
【文献】特開2009-294041号公報
【文献】特開2014-186016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、水分測定において、測定対象試料として水分濃度が低い試料を用いる場合、通常は電量滴定法によりカールフィッシャー滴定を行う電量法水分測定装置と、測定対象試料中の水分を気化させるための気化装置と組み合わせて水分測定を実施する。
しかし、測定対象試料として動粘度が高い試料を用いる場合、電量滴定法では、水分測定装置の電解セル内の電極に試料が付着するために、正確に水分濃度が測定できなくなってしまう、また、気化装置内の加熱管に試料が付着するために、測定後の洗浄が困難になってしまうという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、容量滴定法により、水分濃度が低く、かつ、動粘度が高い試料の水分測定を可能とする試薬、及び該試薬を用いた水分測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、試薬の水当量を特定の量以下に減少させることにより、水分濃度が低く、かつ、動粘度が高い試料の水分濃度を容量滴定法で測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]ヨウ素を含み、かつ、試薬の水当量が0.9mgH2O/ml以下である、水分濃度測定用試薬。
[2]塩基性物質、二酸化硫黄、および溶剤をさらに含む、カールフィッシャー試薬である、[1]に記載の水分濃度測定用試薬。
[3]前記塩基性物質がイミダゾール化合物またはアミン化合物である、[2]に記載の水分濃度測定用試薬。
[4]前記溶剤がアルコール類またはクロロホルム化合物である、[2]または[3]に記載の水分濃度測定用試薬。
[5]測定対象試料に対して、[2]~[4]のいずれかに記載の試薬を滴定する滴定工程を含む、水分測定方法。
[6]前記測定対象試料の水分濃度が500ppm以下である、[5]に記載の水分測定方法。
[7]25℃における前記測定対象試料の動粘度が800,000mm2/sec以下である、[6]に記載の水分測定方法。
[8]前記測定対象試料がオイル、樹脂、および医薬製剤からなる群より選択される、[5]~[7]のいずれかに記載の水分測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容量滴定法により、水分濃度が低く、かつ、動粘度が高い試料の水分測定を可能とする試薬、及び該試薬を用いた水分測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0011】
<試薬>
本発明の一実施形態である水分濃度測定用試薬(以下、単に「水分濃度測定用試薬」や「試薬」とも称する。)は、ヨウ素を含み、かつ、試薬の水当量が0.9mgH2O/ml以下である、水分濃度測定用試薬である。
上記水分濃度測定用試薬は、測定対象試料の水分濃度の測定に用いることができる試薬であり、特に、測定対象試料に滴定されることにより水分濃度を測定することができる試薬(水分濃度測定用滴定試薬)であることが好ましい。
【0012】
ヨウ素は、下記の反応式(1)に示すように、水(対象試料中の水分)と酸化還元反応を示す。
【化2】
上記反応式(1)では、1モルの水分子に対し、1/2モルのI
2が消費される。よって、測定対象試料中の全ての水分と反応するヨウ素の量を測定することにより、測定対象
試料中の水分濃度を評価することができる。
測定対象試料中の全ての水分と反応するヨウ素の量を測定する方法は、特段制限されないが、例えば、測定対象試料に接触する試薬の量を徐々に増加させ、測定対象試料と試薬との反応の経過を観測し、測定対象試料の全ての水分の反応が完了する時点での試薬の量から反応に要するヨウ素の量を評価する方法が挙げられる。
このような方法として、具体的には、滴定法が挙げられ、例えば、滴定フラスコ内に測定対象試料を投入した後、該フラスコ内の測定対象試料に対して上記の試薬を滴下し、滴定の終点までに用いられた試薬の量から反応に要するヨウ素を評価することができる。なお、終点の確認は、後述の「水当量評価工程」の項に記載の方法で行ってよく、また、ヨウ素の色が現れるか否かを目視で観察する方法で行ってもよい。
【0013】
滴定を利用した水分濃度測定の方法の一つに、カールフィッシャー法が挙げられ、上記の試薬は、カールフィッシャー用の試薬として用いることができる。
カールフィッシャー試薬は、ヨウ素(I
2)に加え、塩基性物質(Base)、二酸化硫黄(SO
2)、および溶剤をさらに含む試薬であり、下記の反応式(2)に示すように水と定量的に酸化還元反応する。
【化3】
上記反応式(2)では、1モルの水分子に対し、1モルのI
2が消費される。よって、脱水溶剤に測定対象の試料を溶解させた溶液にカールフィッシャー試薬を滴定し、終点までに要したヨウ素の滴定量から、測定対象の試料中の水分濃度を評価することができる。
【0014】
さらに、溶剤として、上記反応式(2)中のBase・SO
3と反応するような物質を用いることにより、反応式(2)の反応の平衡を右側に進行させることができる。例えば、溶剤としてメタノール等のアルコール(ROH)を用いた場合、下記の反応式(3)に示す反応が生じ、上記反応式(2)の平衡を右側に進行させることができる。
【化4】
【0015】
以下、本実施形態に係る試薬を詳細に説明する。
本実施形態に係る試薬は、水当量(力価)が0.9mgH2O/ml以下であり、水分と接触するヨウ素の量が少ないことから過不足なく水分と反応するため、滴定法として容量滴定法を採用した場合でも、水分濃度が低く、かつ、動粘度が高い試料の水分濃度を測定することができる。試薬の水当量(力価)とは、1mL当たりの試薬と反応する水の質量である。
試薬の水当量は、測定対象試料の水分濃度をより精度よく測定でき、上記の効果を発揮することができる観点から、0.9mgH2O/ml以下であるが、0.8mgH2O/ml以下であることが好ましく、0.5mgH2O/ml以下であることがより好ましい。また、水当量が低いと測定対象試料の水分測定に要する滴定剤の消費量が大幅に増える、または滴定剤の色がヨウ素量の減量により、目視での終点判定が安定しなくなる可能性があるため、試薬の水当量は0.1mgH2O/ml以上が好ましく、0.2mgH2O/ml以上がさらに好ましい。
上記の水当量は、水を添加させることにより減少させることができ、ヨウ素を添加することにより増加させることができる。
また、一般的には、水分濃度がppmオーダーのような低い測定対象試料は電量法で測定するため、水当量が0.9mgH2O/ml以下のような水当量が非常に低い試薬は容量法では用いられない。また、電量法において、本実施形態に係る試薬が測定対象試料の水分濃度を測定する工程で用いられることはない。
【0016】
上記の水当量は、滴定フラスコ内に仕込んだ脱水溶剤を当該試薬で無水化させた後、保証値がついた水標準液を滴定フラスコに入れて、当該試薬を滴下し、滴定の終点までに用いられた試薬の量から次式により算出する。
F=S×K/T
F:水当量(mgH2O/ml)
S:水標準液の採取量(g)
K:水標準液の保証値(mgH2O/g)
T:滴定に要した本発明の試薬の滴定量(ml)
【0017】
試薬に含まれるヨウ素(I2)の態様は、特段制限されず、市販されているものを用いることできる。
試薬中のヨウ素の濃度は、特段制限されないが、低い水当量で精度よく対象試料の水分濃度測定できるの観点から、通常1質量%以上であり、2質量%以上であることが好ましく、また、通常8質量%以下であり、4質量%以下であることが好ましい。
【0018】
試薬に含まれる二酸化硫黄(SO2)の態様は、特段制限されず、市販されているものを用いることできる。
試薬中の二酸化硫黄の濃度は、特段制限されないが、カールフィッシャー反応に適正なpHを確保する観点から、通常0.1質量%以上であり、1.0質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましくまた、通常10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。
【0019】
試薬に含まれる塩基性物質(Base)の種類は、塩基性を示す物質であれば特段制限されず、例えば、イミダゾール化合物、アミン化合物等が挙げられ、滴定終点の安定性と安全な取り扱いの観点から、これらの中でも、イミダゾール化合物、又はアミン化合物が好ましい。これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で用いてもよい。
イミダゾール化合物、又はアミン化合物としては、例えば、イミダゾール及びイミダゾール誘導体、ジエタノールアミンなどのアルコールアミン、ピリジン及びアルキルアミノピリジン、ピリジン誘導体等が挙げられ、汎用性の観点から、これらの中でも、イミダゾール、又はピリジンが好ましい。
【0020】
イミダゾール誘導体としては、例えば、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-プロピルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-プロビルイミダゾール、2-ブチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、4-ブチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2,4-トリメチルイミダゾール、1-フエニルイミダゾール、ベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0021】
ピリジン誘導体としては、例えば、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2,6-ジヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシ-6-メチルピリジン、2-クロロピリジン、3-クロロピリジン、2,6-ジクロロピリジン、メ
チルエチルピリジン等が挙げられる。
【0022】
試薬中の塩基性物質の濃度は、特段制限されないが、カールフィッシャー反応に適正なpHを確保する観点から、通常1質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることが好ましい。また、通常20質量%以下であり、13質量%以下であることが好ましくい。
【0023】
試薬に含まれる溶剤の種類は、上記のヨウ素、二酸化硫黄、塩基性物質を溶解させることのできる物質であれば特段制限されず、例えば、アルコール類、クロロホルム化合物等が挙げられ、溶解力が大きいこと、滴定反応の促進、終点の明瞭化の観点から、アルコール類、又はクロロホルム化合物が好ましい。これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で用いてもよい。
アルコール類、又はクロロホルム化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル及びジエチレングリコールモノエチルエーテル等のアルキルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート、クロロホルム等が挙げられ、汎用性の観点から、これらの中でも、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、又はクロロホルムが好ましい。
【0024】
試薬中の溶剤の含有量は、特段制限されないが、好適な速度で上述の反応式(2)の平衡を右側に進行させることができる観点から、通常50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましい。また、通常90質量%以下であり、85質量%以下であることが好ましい。
【0025】
試薬は、上述したヨウ素、二酸化硫黄、塩基性物質、及び溶剤以外の物質(その他の物質)を含有してもよい。
【0026】
カールフィッシャー試薬に含まれる成分の含有量は、ガスクロマトグラフィー等で分析することができる。また、カールフィッシャー試薬の原料の仕込み量から算出することもできる。
【0027】
<水分測定方法>
本発明の別の実施形態である水分測定方法(以下、単に「水分測定方法」とも称する。)は、上述の試薬を滴定する滴定工程を含む、水分測定方法である。
上記の滴定工程を含む水分測定方法の態様は、特段制限されず、例えばカールフィッシャー滴定法が挙げられ、この滴定法で適用される各工程を含むことができる。カールフィッシャー法の代表的なものには容量滴定法(容量法)と電量滴定法(電量法)とがあるが、水分濃度が高く、かつ、動粘度が高い試料の水分濃度を測定することができる上述の試薬は、測定対象試料として動粘度が高い試料を用いる場合に水分測定装置の電解セル内の電極に試料が付着するために、正確に水分濃度が測定できなくなってしまう問題が発生する電量滴定法よりも、このような問題が生じない容量滴定法で好適に用いられる。
【0028】
容量滴定法で実施され得る工程としては、例えば、下記の工程が挙げられる。
(1)試薬を準備する試薬準備工程。
(2)滴定フラスコ内の脱水溶剤中の水分を無水化する無水化工程。
(3)試薬の水当量(力価)を決定する水当量(力価)評定工程。
(4)無水化された脱水溶剤中に測定対象試料を溶解させる測定対象試料溶解工程。
(4)試薬を滴定する滴定工程。
(5)測定対象試料の水当量(力価)を評価する水当量評価工程(測定対象試料の水分濃度を算出することも含む)。
(4)は必須の工程であり、上記の(1)~(5)の工程は、記載の順番通りに実施する必要はないが、通常、(1)~(3)の工程は、滴定工程より前に実施し、また、(5)の工程は、滴定工程と同時に実施する。
なお、容量法の場合、試料の水分濃度は滴定剤の水当量と、滴定剤が測定対象試料と反応したときに要した滴定量から下式のように算出される。
水分(%)={(滴定剤滴定量(ml) × 滴定剤の水当量(mgH2O/ml))/(測定対象試料量(ml) × 1000)}×100
水分測定を実施するための装置は、市販品を用いることができ、例えば、カールフィッ
シャー容量法滴定方式水分測定装置CA-310(三菱ケミカルアナリテック社製)等の装置が挙げられる。
【0029】
[試薬準備工程]
水分測定方法は、試薬を準備する試薬準備工程を含み得る。試薬を準備する方法は、特段制限されないが、例えば、滴定フラスコに脱水溶剤を仕込む、また、滴定剤を水分測定装置の供給部位にセットする等の工程が挙げられる。
【0030】
[無水化工程]
水分測定方法は、滴定フラスコ内の脱水溶剤中の水分を無水化する無水化工程を含み得る。
脱水溶剤の種類は、測定対象試料を溶解させることができれば特段制限されない。例えば、脱水溶剤を無水化する方法は、カールフィッシャー試薬で滴定する方法が挙げられる。
【0031】
[水当量(力価)評定工程]
水分測定方法は、試薬の水当量(力価)を決定する水当量(力価)評定工程を含み得る。
試薬の水当量を決定する方法や調整する方法は、上述の水当量に関する説明で述べた方法を適用することができる。
【0032】
[測定対象試料溶解工程]
水分測定方法は、無水化された脱水溶剤中に測定対象試料を溶解させる測定対象試料溶解工程を含み得る。
脱水溶剤中に測定対象試料を溶解させる方法は、特段制限されず、例えば、滴定フラスコ内に、無水化された脱水溶剤、測定対象試料、及び攪拌子を入れ、撹拌機により攪拌しながら該脱水溶剤に測定対象試料を溶解させる方法が挙げられる。
【0033】
[滴定工程]
水分測定方法は、上述の試薬を滴定する滴定工程を含む。滴定する方法は、特段制限されず、ビュレット等を用いた公知の滴定方法を適用することができる。
上記の滴定により、下記の反応式(2)の反応が進み、終点までに要したヨウ素の滴定量から、後述の水当量評価工程により水分含有量を評価することができる。
【化5】
【0034】
滴定温度は、特段制限されないが、通常、常温である。
【0035】
[水当量評価工程]
水分測定方法は、測定対象試料の水当量(力価)を評価する水当量評価工程を含み得る。
測定対象試料の水当量を評価する方法は、特段制限されず、公知の方法を採用することができ、例えば、定電圧分極電流滴定装置や定電流分極電位差滴定装置により水当量を評価することができる。
定電圧分極電流滴定装置を用いる場合、水分測定用試液を滴下するときに変化する電流を測定し、滴定が進むにつれて回路中の電流が大きく変化した後、再び元の位置に戻る。そして、滴定の終点に達すると、電流の変化が一定時間継続し、この電流の変化が一定時間持続する状態となったときを滴定の終点とする。
定電流分極電位差滴定装置を用いる場合、電極間に微小電流を流しておき、水分測定試
液を滴下するときに変化する電位差を測定し、滴定が進むにつれて回路中の電圧計の値が分極状態から急に減少し、消滅譲渡となり、再び元の位置に戻る。滴定の終点に達すると、消極状態が一定時間持続し、この状態になったときを滴定の終点とする。
最終的に、滴定の終点までに消費した試薬の量から、測定対象試料の水分濃度を算出する。
【0036】
容量滴定法には、特開2015-179057号公報に開示されるように、逆滴定法と称する滴定法がある。上述の説明における滴定法は逆滴定法に対して正滴定法と称される。逆滴定法は、予備滴定により無水化処理された滴定セルに試薬を試料の水分以上含まれるようにして予め滴定セルに加える。そして、ここに試料を投入し試料の水分と過剰に入っている試薬を反応させて、残った試薬を水及びメタノール標準液(脱水されたメタノールに規定の水分を添加し水分濃度を調整した標準液)で終点(正滴定の場合の終点とは逆に、ヨウ素が無くなり僅かに水分が過剰となった状態)まで滴定し、試料の水分を測定する方式である。この方法は、試薬と試料の水分の反応が遅く終点が不明瞭な場合に有効な滴定方法である。上述した試薬は、正滴定法のみでなく、逆滴定法においても用いることができる。
【0037】
上述の試薬は、一般的に使用されているカールフィッシャー試薬よりも水当量(力価)が低いので、容量滴定法の測定手順において初期の溶剤を無水化する際は、滴定量が増加してしまう。滴定量が増加してしまうと、滴定フラスコ内の溶剤交換頻度や廃液量が多くなる傾向がある。試薬の使用に伴う滴定量の消費を抑えるため、ヨウ素の水当量(力価)が異なる試薬を予め滴定フラスコに加え、溶剤中の水分を測定装置が検知できる最小水分量まで脱水させ、残りを上述の試薬で無水化してもよい。
測定の対象試料は、特段制限されないが、通常、水分濃度が低いオイル、樹脂、および医薬製剤からなる群から選ばれることが好ましい。
【0038】
水分濃度が大きいと試薬の滴定量が増加するので、測定対象試料の水分濃度は、通常10000ppm以下であり、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。測定対象試料の水分濃度の下限を設ける必要はないが、検出限界は通常1ppm以上である。
【0039】
測定対象試料の動粘度が高いと、脱水溶剤に溶けないことや、均一に対象試料が混ざらないこと、及び滴定フラスコの電極にへばりついて正確な水分濃度が算出されないことがあるので、25℃における測定対象試料の動粘度は、800,000mm2/sec以下であることが好ましく、600,000mm2/sec以下であることがより好ましく、
300,000mm2/sec以下であることがさらに好ましく、100,000mm2
/sec以下であることが特に好ましく、また、通常50mm2/sec以上であり、100mm2/sec以上であることが好ましく、300mm2/sec以上であることがより好ましい。動粘度は、増粘剤や溶媒等の使用の有無や使用量を調整することにより制御することができる。
動粘度の測定は、日本規格JIS Z 8803:2011 液体の粘度測定方法に準じて実施することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。なお、実施例で使用した材料及び評価項目の測定法は以下の通りである。実施例中の「%」は、特に記載がない場合は質量基準である。
【0041】
<実験1>
滴定剤として、下記の4種の試薬を準備した。
[比較例1]
水当量(力価)3.0mgH2O/mlの試薬:カールフィッシャー容量法試薬アクアミクロンSS 3mg(三菱ケミカル社製;ヨウ素1~5質量%、二酸化硫黄1~5質量%、ピリジン12質量%、クロロホルム81質量%)
[比較例2]
水当量(力価)1.0mgH2O/mlの試薬:カールフィッシャー容量法試薬アクアミクロンSS 1mg(三菱ケミカル社製;ヨウ素1~5質量%、二酸化硫黄1~5質量%、ピリジン12質量%、クロロホルム83質量%)
[実施例1]
水当量(力価)0.5mgH2O/mlの試薬:上記の力価1.0mgH2O/mlの試薬500mlに水250μLを加え、力価0.5mgH2O/mlの試薬を調製した。[実施例2]
水当量(力価)0.3mgH2O/mlの試薬:上記の力価1.0mgH2O/mlの試薬500mlに水350μLを加え、力価0.3mgH2O/mlの試薬を調製した。
【0042】
上記4種の試薬を使用し、市販のシリコンオイルKF-54(信越化学社製;気化法分析による水分濃度70ppm、動粘度400mm2/sec)中の水分濃度の測定の精度(繰り返し測定3回によるばらつき)を評価した。精度は、3回の測定により得られた水分濃度の標準偏差を水分濃度の平均値で除した値で評価され、この値が低いほど精度が良好であることを表す。
水分濃度の測定に際し、測定装置として、カールフィッシャー容量法滴定方式水分測定装置CA-310(三菱ケミカルアナリテック社製)を用い、脱水溶剤として、アクアミクロン脱水溶剤CP(三菱ケミカル社製、クロロホルム84質量%、プロピレンカーボネート5~15質量%、二酸化硫黄1~5質量%、2-ピロリドン1~5質量%、ピリジン2.4質量%、エタノール1質量%未満)を用いた。
上記の水分濃度の測定結果及び精度の評価結果を下記の表1に示す。
【0043】
【0044】
上記の表1から、試薬の力価を下げることにより、精度がより良好になっていることが分かる。
【0045】
<実験2>
力価1.0mgH2O/mlの比較例2の試薬、及び力価0.5mgH2O/mlの実施例1の試薬を用いて、動粘度の異なるKF-54(信越化学社製)及び粘度の異なるKF-96(信越化学社製)の2つのグレードの3種類のシリコンオイルの水分測定を行ったときの水分濃度の測定の精度(繰り返し測定3回によるばらつき)の結果を下記の表2に示す。
なお、表2に示すシリコンオイルの動粘度は、25℃における動粘度であり、カタログ値である。
【0046】
【0047】
表2より、粘度の相違によらず、力価0.5の実施例1では、力価1.0の比較例2と比較して、精度が良好となっていることが分かる。
【0048】
以上より、本発明によれば、容量滴定法により、水分濃度が低く、かつ、動粘度が高い試料の水分測定を可能とする試薬、及び該試薬を用いた水分測定方法を提供することができる。