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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】好気性生物膜処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20230101AFI20240214BHJP
   C02F 3/06 20230101ALI20240214BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
C02F3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020072936
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169062
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大月 孝之
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-042491(JP,A)
【文献】特開平07-000987(JP,A)
【文献】特開昭51-106347(JP,A)
【文献】特開平06-206087(JP,A)
【文献】特開昭60-137491(JP,A)
【文献】特開2002-336885(JP,A)
【文献】特開2016-193386(JP,A)
【文献】特開2006-289311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水が供給される曝気槽にて、曝気槽に充填された生物膜保持担体により原水中の除去対象物質を好気性生物膜処理する方法において、
以下のいずれか1つ以上を満たすときに、担体の生物膜保持量低減処理を行うことを特徴とする好気性生物膜処理方法。
i) 酸素拡散性指標の算出値(担体充填容積あたりの原水負荷・曝気条件に対する処理水水質の変化からシミュレーション計算により算出された値)が所定の下限値を下回る
iv) 原水負荷あたりの曝気風量が所定の上限値を上回る状況で処理水の所定水質項目が所定の目標値を上回る
【請求項2】
前記担体の生物膜保持量低減処理を、回転撹拌羽根又は逆洗による強撹拌、強曝気、高流速循環、及び槽内水の破砕ポンプへの通水のいずれか1又は2以上により行うことを特徴とする請求項1の好気性生物膜処理方法。
【請求項3】
前記曝気槽内に生物膜保持担体が充填されており、前記担体の生物膜保持量低減を、新品の担体及び/又は生物膜剥離処理した生物膜付着担体を曝気槽内に添加するかまたは曝気槽内の担体と入れ替えることにより行うことを特徴とする請求項1の好気性生物膜処理方法。
【請求項4】
原水が供給される曝気槽と、該曝気槽に充填された生物膜保持担体と、該曝気槽を曝気する曝気装置とを有する好気性生物膜処理装置において、
以下のいずれか1つ以上を満たすときに作動する、担体の生物膜保持量低減手段を有することを特徴とする好気性生物膜処理装置。
i) 酸素拡散性指標の算出値(担体充填容積あたりの原水負荷・曝気条件に対する処理水水質の変化からシミュレーション計算により算出された値)が所定の下限値を下回る
iv) 原水負荷あたりの曝気風量が所定の上限値であるときにおける処理水の所定水質項目が所定の目標値を上回る
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的に酸化できる汚濁物質を含む排水を、自己造粒グラニュールや流動床担体、固定床担体などにより生物膜処理する方法及び装置に係り、特にその曝気強度制御に関する。本発明においては微生物処理を行う微生物の外部に存在する排水をバルク水と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
生物学的に酸化できる汚濁物質を含む排水の処理方法として、浮遊汚泥を用いる活性汚泥法のほか、自己造粒グラニュール法や流動床担体法、固定床担体法など、微生物が生物膜とよばれる集積増殖した様態で処理を行う生物膜法などが利用されている。
【0003】
前者の浮遊汚泥を用いる活性汚泥法では、微生物フロックと称される典型的には1mm前後の微生物の凝集体内外において、微生物とバルク水相との接触面積が十分確保されているため、フロック内での酸素や汚濁物質の浸透性・拡散性が汚濁物除去速度の主要な処理性能の律速因子とならない。特許文献1には、汚濁物質の負荷を計器で計測し、これに比例して曝気風量を制御することが記載されている。
【0004】
浮遊汚泥を用いる活性汚泥法、および自己造粒グラニュール法、流動床担体法、固定床担体法などの生物膜法においては、原水の負荷に比例した酸素供給量調整を簡易に行う手法として、液中の溶存酸素濃度(以下DOと記載する)を一定に保つ風量制御を行ういわゆるDO制御システムが広く用いられている。
【0005】
自己造粒グラニュール法、流動床担体法に関して、特許文献2には、BOD容積負荷が所定値よりも小さいときは微生物担体の流動化を判断基準とし、BOD容積負荷が前記所定値よりも大きいときは廃水の酸素要求量を判断基準として廃水に対する曝気量を制御する廃水処理方法及び装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-353496号公報
【文献】特開昭63-256185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己造粒グラニュール法、流動床担体法、固定床担体法など生物膜を利用した処理を行う方法では、流入する汚濁物質の量の指標として一般的である、原水の単位時間あたりの流量と原水の汚濁物質濃度との積により求められる原水負荷や、原水負荷を反応槽の容積で除算して求められる槽負荷のみに基づいて適切な酸素供給量調整を行うことは、厳密には困難である。その理由として以下が挙げられる。
【0008】
(i) 原水負荷が同じで、原水中の有機物を酸化するために必要な酸素量が同じであっても、生物膜を利用した方法では、反応槽に生物膜の様態で保持されている微生物量が時間により変化するため、微生物自体の自己分解プロセスに起因して発生する酸素消費量が変化する。従って、装置に与える酸素供給量は同因子も考慮して決定する必要がある。
【0009】
(ii) 生物膜を利用した処理方法では、微生物が集積している生物膜内に酸素を拡散させる必要がある。生物膜内への酸素の拡散性に影響を与える主な因子としては、生物膜とバルク水との接触面積およびバルク水のDOの高低などが知られているが、自己造粒グラニュール法ではグラニュールの保持量およびグラニュールサイズが変化するため、微生物とバルク水との接触面積が変化する。
【0010】
(iii) 流動床担体法では担体内外での微生物付着量の変化により、生物膜とバルク水の接触面積が変化する。特に、担体内部に空隙部がある構造で生物膜が空隙部に増殖する場合、担体への生物膜付着量が増加し、空隙部が全て閉塞した場合には、バルク水と生物膜との接触面積は顕著に低減する。
【0011】
(iv) このようなバルク水と生物膜との接触面積の変化は、生物膜への酸素拡散性に大きな影響を与える。例えば、バルク水と生物膜との接触面積が低減した場合には、同一の酸素量を生物膜内に供給する場合でも、バルク水のDOを高める必要があり、バルク水の溶存酸素濃度を高めるためには、より大流量の空気吹き込みが必要となる。また、原水の負荷が高くなった場合、酸素消費量は増加する。そのため、必要な酸素を拡散現象で生物膜内に供給するためには、バルク水の溶存酸素濃度を高くする必要がある。
【0012】
このように負荷変動に応じて原水有機物の酸化に必要な酸素量は変化し、処理装置内に保持されている生物膜の量により供給する必要がある酸素量は変化するので、特に、酸素供給について拡散現象に依存している生物膜法の場合、生物膜に供給すべき酸素量に応じてバルク水のDOを調整する必要があり、バルク水のDOを維持するための曝気風量も調整する必要がある。
【0013】
なお、曝気風量を制御しない場合は、高負荷時を想定してバルク水のDOを過剰に高く維持した運転をすることが多い。
【0014】
DOを過剰に高く維持した運転を行うために曝気制御を行わない一定風量での運転を行う場合、最大負荷に合わせた風量で常時曝気することになり、エネルギー消費の無駄が発生する。
【0015】
また、一般的なDO一定の風量制御を行う場合も、高負荷時に生物膜内部への十分な酸素拡散量を確保することを想定したDO設定を行う必要がある。そのため、低負荷時には、必要な酸素供給量の維持に必要なDOレベル以上のDOに維持することになる。その結果、DOを維持するための曝気風量は必要量より多くなり、エネルギー消費の無駄が発生する。
【0016】
ところが、原水負荷や反応槽の運転項目が一定の場合、あるいは原水負荷に応じた適切な運転制御を行っていた場合であっても処理水水質が変動することがある。これは特に生物処理装置の運転を長期間継続した際に発生しやすい傾向がある。
【0017】
この原因として、自己造粒微生物グラニュールのような球状の生物膜や流動床もしくは固定床担体に付着させた生物膜を利用する処理装置では、経時的に生物膜の保持量が増加し、これにより微生物自体の自己分解プロセスに起因して発生する酸素消費量が変化すること、生物膜とバルク水の接触面積が減少することにより生物膜への酸素の拡散速度が低下することにより生物膜の処理性能が時間経過と共に低下することが考えられる。
【0018】
このため、負荷変動に応じた曝気強度を定めて曝気制御していたにも拘わらず、継続運転に伴って処理水水質が所定値を逸脱したときに、曝気槽中の生物膜の保持量が増加し処理性能が低下したと判定し、曝気条件を変更することが考えられる。
【0019】
具体的には、処理水水質が目標値まで低減されず水質が悪化したときは生物膜の保持量が多くなったことにより酸素拡散性が低下して酸素供給量が不足したと判定し、現状の制御ロジックよりも曝気強度の強い曝気条件の制御ロジックに変更する。
【0020】
しかしながら、曝気強度の強い曝気条件を適用すると必要曝気動力が上昇する問題がある。また、そもそも所定以上の強曝気を行える曝気システムを未構築である場合は曝気強度を高くして処理水質を回復することができない。
【0021】
本発明は、自己造粒グラニュールや生物付着担体による好気性生物膜処理を長期的に継続運転することにより生物膜の保持量が増加したときに、処理性能を改善する方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の好気性生物膜処理方法は、原水が供給される曝気槽にて、曝気槽に充填された生物膜保持担体またはグラニュールにより原水中の除去対象物質を好気性生物膜処理する方法において、以下のいずれか1つ以上を満たすときに、担体の生物膜保持量低減処理又はグラニュールの部分解体処理を行う。
i) 酸素拡散性指標の算出値が所定の下限値を下回る。
ii) グラニュールの平均粒径が所定の上限値を上回る。
iii) 担体あたりの生物膜の付着量(重量)が所定の上限値を上回る。
iv) 原水負荷あたりの曝気風量が所定の上限値を上回る状況で処理水の所定水質項目が所定の目標値を上回る。
v) 運転開始又は前回の前記処理から所定時間が経過する。
【0023】
本発明の好気性生物膜処理装置は、原水が供給される曝気槽と、該曝気槽に充填された生物膜保持担体またはグラニュールと、該曝気槽を曝気する曝気装置とを有する好気性生物膜処理装置において、以下のいずれか1つ以上を満たすときに作動する、担体の生物膜保持量低減手段又はグラニュールの部分解体処理手段を有する。
i) 酸素拡散性指標の算出値が所定の下限値を下回る。
ii) グラニュールの平均粒径が所定の上限値を上回る。
iii) 担体あたりの生物膜の付着量(重量)が所定の上限値を上回る。
iv) 原水負荷あたりの曝気風量が所定の上限値を上回る状況で処理水の所定水質項目が所定の目標値を上回る。
v) 運転開始又は前回の前記処理から所定時間が経過する。
【0024】
本発明の一態様では、前記担体生物膜保持量低減又はグラニュール部分解体処理を、回転撹拌羽根又は逆洗による強撹拌、強曝気、高流速循環、及び槽内水の破砕ポンプへの通水のいずれか1又は2以上により行う。
【0025】
本発明の一態様では、前記曝気槽内に生物膜保持担体が充填されており、前記担体生物膜保持量低減を、新品の担体及び/又は生物膜剥離処理した生物膜付着担体を曝気槽内に添加するかまたは曝気槽内の担体と入れ替えることにより行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、管理項目が所定値から逸脱したときに、自己造粒微生物グラニュールの部分解体、担体に付着している生物膜の剥離もしくは担体間に保持されている生物膜の剥離除去を行うことにより、自己造粒微生物グラニュールもしくは担体の酸素拡散性能を向上させ、曝気に関わる動力の省エネルギー性能を向上させることができる。
【0027】
特に担体を用いた生物膜処理を長期運用したとき、担体内部に稠密で処理能力の低い生物膜が堆積する傾向にあり、担体内部への酸素拡散性を劣化させ、処理性能が低下する傾向にあるが、担体内部に堆積した生物膜を検知すると共に生物膜剥離を行うことにより、担体内部への酸素拡散性を回復させて処理性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明が適用される生物処理装置の構成図である。
図2】本発明が適用される生物処理装置の構成図である。
図3】本発明が適用される生物処理装置の構成図である。
図4】生物処理装置の構成図である。
図5】生物処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明では、管理項目が所定値を逸脱したときに、生物膜の保持量が過度に増加したもの、特に自己造粒微生物グラニュールの場合はグラニュールが肥大化したものと判定し、担体の生物膜保持量低減(例えば、担体からの生物膜の剥離)、グラニュールの部分解体のいずれかを行う。
【0030】
具体的には、以下のi)~v)のいずれか1つ以上となったときに、担体からの生物膜剥離などの担体生物膜保持量低減や、グラニュールの部分解体を行う。
i) 酸素拡散性指標の算出値が所定の下限値を下回ったとき
酸素拡散性指標は、担体の充填容積当たりの生物膜保持量(mg/m)および生物膜のバルク水との接触面積に依存するが、これらの指標は実機で直接計測することは困難であるので、担体充填容積あたりの原水負荷・曝気条件に対する処理水水質の変化からシミュレーション計算により推定する。
ii) グラニュールの平均粒径が所定の上限値を上回ったとき
グラニュールの平均粒径は、完全混合状態の曝気槽から槽内水をバンドーン採水器などでサンプリングし、目視観察もしくは光学的な平均粒径計測により確認する。
iii) 担体あたりの生物膜の付着量(重量)が所定の上限値を上回ったとき
安定運転中の担体に付着する生物膜の重量を予め計測し、この数値に所定幅を加算した数値を「所定の上限値」とする。
【0031】
付着生物膜の重量は、バンドーン採水器などで一定量サンプリングした生物付着担体に対して、これを乾燥させて新品担体との重量差を計測するか、この担体を燃焼して有機性浮遊物質(VSS)を測定することにより算出する。
iv) 原水負荷あたりの曝気風量が所定の上限値を上回る状況であるときにおける処理水の所定水質項目が所定の目標値を上回ったとき
原水負荷あたりの曝気風量が「所定の上限値」とは、省エネルギーの観点から原水負荷あたりの曝気風量の上限値を定める、或いは、原水負荷が設計最大値以内であるにも関わらず設備上最大の曝気風量でも処理水質が維持できないとの理由で決定する設定値である。
v) 運転開始や前回の処理から所定時間が経過したとき
生物膜が肥大化するまでの運転経過時間を実験的またはシミュレーションで推定し、「所定時間」とする。
【0032】
なお、ii)~iv)の管理項目では異常が検知されないときでも、酸素拡散性指標が低下する場合がある。そのため、i)で管理することがより好ましい。
【0033】
生物膜剥離やグラニュール部分解体の手段としては、以下の(1)~(4)のように剪断力を付与して強制的に生物膜を低減する手段や、新品担体や使用中の生物膜付着担体を追加添加または槽内担体と入替えを行う手段が好適である。
(1) 回転撹拌羽根や逆洗により強撹拌する。
(2) 強曝気する。
(3) 高流速循環する。
(4) 槽内水を槽内又は槽外で破砕ポンプに通水する。
【0034】
なお、担体からの生物膜の剥離やグラニュールの部分解体により生じた生物膜は、SSとして処理水と共に槽外に排出され、固液分離(凝集沈殿、凝集加圧浮上、凝集濾過など)処理後、系外排出される。
【0035】
生物膜の剥離手段、部分解体手段は、剥離又は部分解体の処理業務を行うときに仮設してもよく、常設の設備として設置してもよい。
【0036】
以下に、図面を参照して流動床担体からの付着生物膜の剥離手段又は自己造粒グラニュール部分解体手段を備えた好気性生物処理装置の構成について説明する。
【0037】
図1の生物処理装置では、被処理排水(原水)は、配管1を通じて曝気槽2に導入される。曝気槽2内には、グラニュール又は生物膜を担持した担体Cが充填されている。曝気槽2内の底部には散気管3が設置されており、ブロア4から配管5を通じて空気が供給され、曝気が行われる。
【0038】
生物膜によって好気的に生物処理された水は、スクリーン6を通り抜け、配管7から処理水として取り出される。
【0039】
この生物処理装置では、生物膜剥離手段として、曝気槽2のグラニュールや担体を吸引ポンプ11で引き抜き、撹拌水槽12に導入し、攪拌機13により強撹拌してグラニュール部分解体または担体に付着した生物膜を剥離した後、配管14を通じて曝気槽2に返送する。
【0040】
グラニュールの部分解体又は担体付着生物膜の剥離の程度は、次の(a),(b),(c)などにより調整される。
(a) 吸引ポンプ11の吐出量を調節して、撹拌水槽12の滞留時間を調整する。
(b) 攪拌機13の回転速度を調節して、生物膜の解体/剥離の強度を調整する。
(c) 上記2つを共に調整する。
【0041】
なお、撹拌水槽12と攪拌機13を設ける代わりに、水中破砕ポンプを設置して代替することもできる。
【0042】
図1では、吸引ポンプ11からの送水をそのまま撹拌水槽12に供給しているが、図2のように、吸引ポンプ11からの送水を、サイクロン等の沈降速度による処理対象担体の選別装置15に供給し、生物膜保持量が多く沈降速度が大きい担体やグラニュールのみを選択的に撹拌水槽12に供給してグラニュールの部分解体又は担体からの生物膜剥離処理を行うようにしてもよい。生物膜保持量が少なく、沈降速度が小さい担体やグラニュールは配管16を通じて曝気槽2に返送する。
【0043】
図3は、強曝気により、グラニュールの部分解体又は担体付着生物膜の剥離を行うようにした生物処理装置を示している。
【0044】
図3の生物処理装置では、被処理排水(原水)は、配管1を通じて曝気槽2に導入される。曝気槽2内には、グラニュール又は生物膜を担持した担体Cが充填されている。曝気槽2内の底部には散気管3が設置されており、ブロア4から配管5を通じて空気が供給され、曝気が行われる。配管5には、強曝気用のブロア17からも空気が供給可能とされている。
【0045】
生物膜によって好気的に生物処理された水は、スクリーン6を通り抜け、配管7から処理水として取り出される。
【0046】
この生物処理装置では、曝気槽2内のDO濃度を測定するDO計19と、ブロア4から配管5へ供給される空気量を測定する風量計20が設けられており、これらの検出値が制御器21に入力される。制御器21によってブロア4が制御されることにより曝気強度が制御される。
【0047】
グラニュールの部分解体又は担体付着生物膜の剥離を行うときには、ブロア17を作動させて強曝気する。
【0048】
<酸素拡散性指標>
汚濁物質除去のために自己造粒微生物グラニュールや流動床もしくは固定床担体に付着させた生物膜を利用する生物膜処理の場合、浮遊法と比較して流動状態の液相と微生物とが接触する表面積が少なく、汚濁物質の生分解のためには生物膜の内部へ(厚み方向へ)酸素や汚濁物質が拡散浸透する必要があり、この拡散浸透プロセスの速度は微生物の増殖速度・酸素消費速度と比較して遅いため、拡散浸透プロセスが処理性能を決定する主要な要因の一つである。
【0049】
生物膜がバルク水と接触する表面積は拡散浸透プロセスに影響を与える因子である。表面積が狭くなると、バルク水のDOが同じであっても、相対的に生物膜への酸素拡散総量が減り、処理性能が低下して処理水水質が悪化する傾向となる。逆に、表面積が広くなると、バルク水のDOが同じであっても、相対的に生物膜への酸素拡散総量が増加し、処理能力が上がり、処理水質が良好となる傾向となる。また、低いDOであっても十分な処理性能を発揮することができ、曝気量および曝気に関わる電力を削減できる。
【0050】
自己造粒微生物グラニュールを利用する装置の場合、長期的な運用によりグラニュールが肥大した場合、自己造粒微生物グラニュールの充填容積あたりのバルク水と接触する比表面積が低下し、装置容積あたりのバルク水と接触する表面積が低下する。
【0051】
担体を利用する装置の場合、特に担体内部に空隙部がある構造の担体を利用した場合、長期的な運用により担体が保持する生物膜の保持量が増加すると、担体内部の空隙空間が生物膜自体およびスケール成分等の生物活性のない固形分により閉塞するため、バルク水と生物膜の接触面積が低下する。この結果、担体容積あたりのバルク水と接触する比表面積が低下し、曝気槽容積あたりのバルク水と接触する表面積が低下する。また担体内部の空隙部の有無にかかわらず、長期間の運用を行った場合、生物膜内の生物膜密度が上昇する、もしくは、スケール成分等の生物活性のない固形物の蓄積により生物膜の固形物密度が上昇することにより、酸素の拡散速度が低下する。
【0052】
特に、固定担体に付着させた生物膜を利用する処理の場合、運用期間が長期に渡ると担体間の空間に過剰な生物膜が保持されていく傾向がある。このような状況では、生物膜保持量の増加に応じバルク水相の容量が相対的に低下する。また、この状態がさらに進むと、担体間の空間が生物膜により閉塞し、バルク水が流入できない空間が発生する。この結果、バルク水相と生物膜との接触面積が徐々に低下し、生物膜への酸素や汚濁物質の浸透透過性が経時的に低下する傾向がある。
【0053】
<制御ロジックの構築例>
本発明で使用する曝気制御の手法として、高負荷時には一般的なDO制御を行い、低負荷時には弱曝気と強曝気を交互に繰り返すいわゆる間欠曝気を組み合わせた場合の事例を説明する。本事例の間欠曝気では、一定時間サイクル毎に、所定時間最低限の一定風量で曝風量の抑制を行う弱曝気工程と、残りの時間DO制御を行う強曝気工程をくりかえす。本事例の間欠曝気の説明では、弱曝気工程と強曝気工程とから構成される制御サイクルの合計工程時間をサイクル時間と称し、弱曝気工程の工程時間を弱曝気工程時間、強曝気工程の工程時間を強曝気工程時間と称する。
【0054】
原水負荷や反応槽の酸素消費速度と、DO目標値や曝気強度設定値(本事例では弱曝気工程時間の設定値)の適正値との相関関係を、複数の酸素拡散性指標において予め作成する。原水負荷とDO目標値および弱曝気工程時間との相関関係を制御表で整理した下記の表1を例に説明する。
【0055】
表1では、上から順番に5個の制御表(相関関係表)が示されている。各表は、それぞれ生物膜における酸素拡散性が異なる条件を想定して作成されており、1番目の表が最も酸素拡散性が高い条件で作成され、順次酸素拡散性が低下し、5番目の表がもっとも酸素拡散性が悪い想定での表となっている。各々の表はTOC担体容積負荷とDO目標値及び弱曝気工程時間設定値との関係を表わしている。
【0056】
例えば、上から3番目の表では、担体充填容積当りTOC負荷[kgC/(m・d)、以下、単位を省略することがある。]が0.1以上~0.6未満のTOC負荷では強曝気工程におけるDOの目標値を3.1mg/Lと設定し、TOC負荷0.1以上~0.2未満の場合は弱曝気工程時間を2時間ごとに110分、TOC負荷0.2以上0.3未満の場合は弱曝気工程時間を2時間ごとに90分、TOC負荷0.3以上0.4未満の場合は弱曝気工程時間を2時間ごとに80分、TOC負荷0.4以上0.5未満の場合は弱曝気工程時間を2時間ごとに60分、TOC負荷0.5以上0.6未満の場合は弱曝気工程時間を2時間ごとに40分をそれぞれ適正値として設定しており、TOC負荷0.6以上0.7未満の場合は強曝気工程でのDO目標値を3.8mg/L、弱曝気工程時間を2時間ごとに20分、TOC負荷0.7以上の場合は、間欠曝気を行わず(弱曝気時間を0分)TOC負荷0.7以上0.9未満の場合はDO目標値を3.9、TOC負荷0.9以上1.0未満の場合はDO目標値を4.4、TOC負荷1.0以上の場合はDO目標値を4.8をそれぞれ適正値として設定している。他の表も同様である。
【0057】
処理水水質(例えばTOC濃度)が所定時間にわたって良好なときは、1つ上の表に移行し、逆に処理水水質が所定時間にわたって不良なときは、1つ下の表に移行する。例えば、標準の制御表(上から3番目の表)を用いて適切に曝気制御を継続していたにも拘わらず処理水水質が悪化したときは酸素拡散性が悪化したとみなし、1つ下側の制御表(上から4番目の表)を用いた曝気制御に切り替える。逆に処理水水質が過度に良くなったときは曝気を弱めても安定処理できるとみなして1つ上側の制御表(上から2番目の表)を用いた曝気制御に切り替える。本制御手順の適用により、実機の生物膜の状態に応じた酸素拡散性を想定した制御表が自動的に選択されることになり、結果として酸素拡散性指標を推定していることになる。
【0058】
なお酸素拡散性指標は実機で直接計測することは困難であるが、上記の操作により通常の運転データから推定することが可能となる。
【0059】
【表1】
【0060】
さて、処理性能が低下した状況を想定した制御表(表1では最下段の表)を選択して制御しているときに処理水の水質が制御目標のTOC上限値よりも高い場合、それよりも曝気強度を大きくした制御表は設定されていないので、グラニュールの部分解体又は担体付着生物膜の剥離処理を行って性能を回復させる。
【0061】
なお、処理性能が若干低下した段階(例えば上から4番目の制御表の状態)であっても、曝気強化のエネルギー効率やコストなどを考慮して、グラニュールの部分解体又は担体付着生物膜の剥離を行って性能回復を図るようにしてもよい。
【0062】
<制御の管理指標>
原水負荷を管理指標とする場合の原水担体負荷の計算方法について、図4を用いて次に説明する。
【0063】
[TOC計と流量計から原水負荷を算出する方法]
図4に示す生物処理装置は、原水のTOC濃度の計測値を利用した原水負荷に基づく曝気制御を行うものである。
【0064】
図4の生物処理装置では、被処理排水(原水)は、配管1を通じて曝気槽2に導入される。曝気槽2内には、生物膜を担持した担体Cが充填されている。曝気槽2内の底部には散気管3が設置されており、ブロア4から配管5を通じて空気が供給され、曝気が行われる。
【0065】
生物膜によって好気的に生物処理された水は、スクリーン6を通り抜け、配管7から処理水として取り出される。
【0066】
この生物処理装置では、計測手段として、配管1を流れる原水の流量及びTOC濃度を測定する流量計22及びTOC計23と、曝気槽2内のDO濃度を測定するDO計19と、ブロア4から散気管3へ供給される空気量を測定する風量計20が設けられており、これらの検出値が制御器21に入力される。制御器21によってブロア4が制御されることにより曝気強度が制御される。
【0067】
原水流量を流量計22で測定し、TOC計23で原水のTOC濃度を測定することで、原水負荷としてTOC負荷を算出する。
【0068】
<原水負荷>
原水負荷は次式によって算出される。
【0069】
Load=Q・Conc
Load:原水負荷[kg/d]
Q:原水流量[m/d]
Conc:原水濃度[kg/m
原水濃度としてはTOCに限らず、微生物による酸化処理の対象となる物質の濃度であれば処理目的に応じて他の指標を利用してもよい。典型的にはCODCr、CODMn、亜硝酸性窒素、アンモニア性窒素、有機アミン類等の特定化学物質の濃度を利用することが可能である。
【0070】
<担体容積負荷>
担体容積負荷は次式によって算出される。
【0071】
LoadCarrierVol=Load/VCarrier
LoadCarrierVol:担体容積負荷[kg/(m・d)]
Carrier:曝気槽内の担体充填容積[m
【0072】
<担体表面積負荷>
担体表面積負荷は次式によって算出される。
【0073】
LoadCarrierSurf=Load/SCarrier
LoadCarrierSurf:担体表面積負荷[kg/(m・d)]
Carrier:曝気槽内の担体群の総表面積[m
【0074】
[ケース1:風量計と排ガス計から酸素消費速度を演算する方法]
曝気風量と排ガス中の酸素濃度を計測し、酸素消費速度qOを次式により直接的に演算する。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
【0077】
OTE:酸素移動効率[-]
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
Z:排ガス中の酸素モル分率[-]
qO:酸素消費速度[kg/d]
Gν:標準状態換算の曝気空気の吹き込み流量[Nm/d]
ν:酸素の比容[Nm/kg]
【0078】
[ケース2:DO計と曝気風量とから酸素消費速度を計算する方法]
曝気風量とDOを計測し、酸素消費速度qOを間接的に推算する。
(i)(制御装置実装前の準備)酸素消費速度の推算に必要な酸素溶解性指標φを次式により算出する。
【0079】
【数3】
【0080】
【数4】
【0081】
OTE:酸素移動効率[-]
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
Z:排ガス中の酸素モル分率[-]
φ:酸素溶解性指標[m]
ν:酸素の比容[Nm/kg]
h:散気装置の水深[m]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m
【0082】
(ii)(装置稼働時)酸素消費速度の経時変化を連続計測する。
【0083】
DO計と曝気風量の連続計測データ、および予め求めた酸素溶解性指標φから酸素消費速度qOを次式により連続推算する。
【0084】
【数5】
【0085】
qO:酸素消費速度[kg/d]
Gν:標準状態換算の曝気空気の吹き込み流量[Nm/d]
h:散気装置の水深[m]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m
φ:酸素溶解性指標[m]
【0086】
[原水負荷又は酸素消費速度と、DO目標値又は曝気強度設定値との相関関係]
原水負荷又は酸素消費速度と、DO目標値または曝気強度設定値との相関関係は、予備実験の結果データ、実機の運転実績データ、生物膜における酸素の拡散性を考慮した機構モデルのシミュレーション結果などを用いて設定される。
【0087】
なお、曝気槽においては、原水負荷もしくは酸素消費速度は経時的に分単位で急速に変動することがあるが、担体の性状(曝気槽内の担体充填容積又は曝気槽内の担体群の総表面積)の経時的変化は日から月単位で比較的緩慢に変化する。そのため、原水負荷もしくは酸素消費速度の計算値は頻繁に更新するのが好ましい。また、曝気槽内の担体充填容積又は曝気槽内の担体群の総表面積については、担体を定期的に(例えば1~3ヶ月に1回程度の頻度で)サンプリングして解析し、担体充填容積、担体群の総表面積データを更新すればよい。
【0088】
[原水負荷もしくは酸素消費速度と、DO目標値及び/又は曝気強度設定値の適正値との相関関係]
本発明と組み合わせて利用する曝気制御方法の一様態では、曝気槽の担体またはグラニュールの単位体積もしくは単位表面積あたりの原水負荷もしくは酸素消費速度と、これに対するDO目標値及び/又は弱曝気時間の適正値との相関関係を、酸素拡散性の違いに応じて予め複数設定しておき、酸素消費速度の計測値の変動に応じて特性の酸素拡散性を想定した前記相関関係に基づいて対応するDO目標値又はその他の曝気強度設定値の適正値を設定する。
【0089】
原水負荷もしくは酸素消費速度と、DO目標値及び/又は弱曝気時間設定値の適正値との組み合わせは、予備実験の結果データもしくは実機の運転実績データもしくは生物膜における酸素の拡散性を考慮した機構モデルのシミュレーション結果などを用いて設定される。
【0090】
この相関関係を制御システムに実装する手法としては、原水負荷もしくは酸素消費速度とDO目標値及び/又は弱曝気時間の適正値との相関関係を記述した関数式で実装するもしくは制御表などを利用して表現する手法のいずれでもよい。
【0091】
[制御表を作成するための生物膜機構モデル]
制御表を構築するための1手法として、汚濁物質と酸素を含む流動状態にあるバルク水相に生物膜が接したときの、汚濁物質の減少や生物膜中の活性汚泥菌体量の増減を推定する動力学モデル(以降、生物膜機構モデルと称する場合がある。)を利用することができる。このような動力学モデルは、菌体増殖と汚濁物質の消費・酸素消費が生物膜内で同時に発生する状況、バルク水相中の溶存酸素の生物膜への拡散およびエアレーションにより酸素がバルク水量に溶解する現象も考慮して構築する必要がある。また、生物膜の増加や縮小は、菌体の増殖および死滅に伴った菌体群の体積の増加および減少やバルク水からの菌体の付着およびバルク水への菌体の剥離により発生する。生物膜利用処理に動力学モデルを利用する場合これらの現象を数学モデル化する必要がある。このような現象は本来3次元空間で発生する現象のため、モデル化は複雑なものとなるが、生物膜の増加・縮小を厚さ方向のみの変化を考慮する1次元モデルで表現することでシミュレーションを比較的容易に行うことができる。活性汚泥による排水処理をシミュレーションするための数学モデルとしては、例えばInternational Water AssociationのTask groupが提案している一連の数学モデルが活用できる(下記報文1)。生物膜を対象とした数学モデル例としては、下記報文2などが報告されている。
【0092】
1. M Henze; IWA. Task Group on Mathematical Modelling for Design and Operaton of Biological Wastewater Treatment; et al
2.Boltz, J. P., Johnson, B.R., Daigger, G.T., Sandino, J.,(2009a). “Modeling Integrated Fixed-Film Activated Sludge and Moving Bed Biofilm Reactor Systems I: Mathematical Treatment and Model Development”. Water Environment Research, 81(6), 555-575
【0093】
前項のような数学モデルを利用することで、例えば流動床担体の数学モデルを構築することができる。一般にこのような数学モデルは連立常微分方程式の形式で記述されることが多く、連立常微分方程式の数値積分ソフトウエアを利用して同プロセスの動的な挙動をシミュレーションすることができる。例えば、特定の装置構成、負荷想定、曝気強度により変化するバルク水相のDOの条件に応じた処理水質の予想を行うことが可能である。
【0094】
前項のような数学モデルを利用することで、様々な生物膜における酸素透過性条件下での、様々な負荷条件に対して、様々な曝気強度で処理を行った際の、例えば処理水のTOC濃度を予想することができる。シミュレーション結果を整理した表を作成し、本発明の制御システムで利用する制御表作成に活用できる。
【0095】
[曝気強度の制御]
曝気強度は、例えば、曝気風量もしくはブロワへの給気風量、DO制御のDO目標値、間欠曝気運転における弱曝気工程時間、もしくはこれらの組み合わせで制御することができる。
【0096】
曝気強度は、原水負荷もしくは酸素消費速度に応じて連続的又は段階的に制御する。
【0097】
[弱曝気工程風量、最小担体流動曝気風量、最長曝気停止時間、最長弱曝気時間]
本発明では、弱曝気工程における一定の風量を弱曝気工程風量と呼ぶ。この風量は弱曝気工程における処理槽内の液相の最低限の攪拌を維持して生物膜とバルク水との接触を維持するために必要な風量である。弱曝気工程で完全に曝気を停止する場合には、曝気による攪拌がなくなるため、曝気とは別の機械的な攪拌機能が必要となる。本事例では弱曝気工程でも最小限の曝気を行い曝気による攪拌を行うことを想定している。最小担体流動曝気風量は、特に流動床担体を利用する装置において、強曝気工程で担体全体の流動状態を確保し、曝気槽底部への担体の堆積を防ぎ、堆積に伴い低下する生物膜とバルク水との接触面積低下を抑制するとともに、担体の底部への堆積に伴い発生する汚泥の腐敗の問題および硫化水素臭の発生を抑制するために必要な最小限の曝気風量であり、通常弱曝気工程風量よりも多くなる。強曝気工程ではDO制御を行うが、風量が常に最小担体流動曝気風量以上の風量となることを制約条件とした制御を行う。
【0098】
本事例の間欠曝気の説明では、弱曝気工程と強曝気工程から構成される制御サイクルの合計工程時間をサイクル時間と称し、弱曝気工程の工程時間を弱曝気工程時間、強気工程の工程時間を強曝気工程時間と称する。弱曝気工程時間および強曝気工程におけるDO目標値は、原水負荷に応じて連続的又は段階的に制御する。強曝気工程時間はサイクル時間から弱曝気工程時間を引いた時間として自動的に決定される。また、弱曝気工程時間を調整する場合の最長時間を最長弱曝気工程時間と称する。従って最長弱曝気工程時間はサイクル時間より短い時間となる。
【0099】
曝気と曝気停止を繰り返す間欠曝気方式を採用する流動床担体装置において、曝気停止もしくは弱曝気運転工程では、最小担体流動曝気風量が確保されないため、この工程の間担体の装置底部への堆積が発生する。同工程の時間を一定時間内に制限し残りのサイクル時間を最小担体流動曝気風量以上の風量(本発明では強曝気工程での風量と呼ぶ。)を確保することで堆積した担体の再流動化を図り、担体の底部への長期堆積に伴い発生する汚泥の腐敗の問題および硫化水素臭の発生を抑制する。
【0100】
最小担体流動曝気風量又は最長曝気停止時間は、予備実験の結果データや、実機での実運転データなどに基づいて決定することが好ましい。本事例では、原水負荷が高い場合には、弱曝気および強曝気を繰り返す間欠曝気運転は行わず、曝気装置の能力を最大限利用できる連続曝気を行う。原水負荷が低下した場合には、制御表に従い低めのDO目標値を設定し曝気風量を抑制するが、曝気風量が最小担体流動曝気風量に達した段階で、曝気方式を間欠曝気運転に切り替える。連続曝気運転から間欠曝気運転に切り替える操作は風量を直接測定し最小担体流動曝気風量を判断基準として実施することもできるが、下記(a)~(d)のいずれかの指標を監視し指標値と風量との関係を事前評価しておくことにより、指標に基づき曝気風量を推定し、曝気風量≧最小担体流動曝気風量の場合には連続曝気、曝気風量<最小担体流動曝気風量の場合には間欠曝気を行う制御を行うことも可能である。
(a) 原水負荷の計測値が所定値以下
(b) 曝気槽の酸素消費速度の計測値が所定値以下
(c) 連続曝気下で負荷に応じて制御するDO目標値が所定値以下
(d) 連続曝気下で負荷に応じて制御する曝気強度(含む曝気風量)の設定値が所定値以下
【0101】
上記(a)の原水負荷は、流入負荷、槽負荷、担体容積負荷、及び担体表面積負荷のいずれかであることが好ましい。
【0102】
[流動床以外の生物処理]
図1では、流動床担体を用いた生物処理について説明したが、固定床担体やグラニュールを用いる場合も同様の手法で本発明を実施することができる。
【0103】
本実施形態では、有機物を含む排水を、曝気を伴う好気性生物膜処理により処理するときに用いることを説明したが、他にも生物膜を用いた生物学的硝化脱窒処理など、曝気槽にて生物膜を用いた好気処理工程を含む生物処理を行う場合にも同じ手法で本発明を実施することができる。
【実施例
【0104】
[実施例1]
図1に示す流動床担体の好気性生物処理装置の運転を行うに際し、原水負荷に追随して随時適切に曝気制御しつつ、処理水水質の程度に応じて表1に示す制御表を切り替えるという制御を行った。酸素拡散性の違いによる5種類の制御表は、上段から下段のそれぞれを制御表名「優良」「良」「標準」「若干悪化」「悪化」で呼称する。酸素拡散性が高い制御表に切り替える判断基準を処理水TOC5mg/L未満とし、この状況の処理水質を「目標以下」と呼称する。酸素拡散性が低い制御表に切り替える判断基準として処理水TOC10mg/L上限より大とし、この状況の処理水質を「悪化」と呼称する。処理水TOC5mg/L以上、10mg/L以下の場合、制御表は変更せず、この状況の処理水質を「良好」と呼称する。手分析による処理水質の確認、制御表変更の判断は毎日1回実施した。運転開始時は上から4番目の「若干低下」制御表を用いて運転制御を開始した。
【0105】
運転開始から90日後に、「若干低下」制御表を利用した曝気制御では処理水TOCが11mg/Lとなり処理水質が「悪化」状況となったので、制御表を「低下」に変更し、翌91日後には処理水TOCが7mg/Lと目標TOCの範囲に回復し「良好」となったので「低下」制御表での曝気制御を継続した。しかし、180日後に制御表「低下」での曝気制御でも処理水質が11mg/Lとなり「悪化」状況となった。「低下」の制御表による曝気制御でも処理の目標範囲を逸脱した状況から、酸素拡散性が許容範囲を逸脱して低下したものと判定し、一時的な強曝気(風量20m/(反応槽底面積m2・hr))を12時間行って担体表面の生物膜の剥離処理を行った。剥離した生物膜は処理水と共に曝気槽2から排出した。
【0106】
【表2】
【0107】
剥離処理後は「低下」の制御表を利用した状態で曝気制御を継続した。翌181日後、処理水TOCが3mg/Lまで改善し「目標以下」状態となったため、制御表を「若干低下」に変更、182日後、処理水TOCがなお3mg/Lで「目標以下」状態であることが確認できたため、制御表を「標準」に変更、183日後、処理水TOCが6mg/Lで「良好」であることが確認できたため、以降「標準」の制御表による曝気制御を継続した。結果、生物膜の剥離処理により制御表は「低下」から「標準」に切替わっており、本発明の生物膜剥離操作により微生物担体の酸素拡散性が回復していることが確認された。
【符号の説明】
【0108】
2 曝気槽
3,3a,3b,3c 散気管
4,17 ブロア
12 撹拌水槽
13 撹拌機
15 選別装置
図1
図2
図3
図4
図5