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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】乾燥装置及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240214BHJP
   F26B 13/08 20060101ALI20240214BHJP
   B65H 20/02 20060101ALI20240214BHJP
   B41J 15/04 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 305
F26B13/08
B65H20/02 Z
B41J15/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020092536
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021187016
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏哉
(72)【発明者】
【氏名】戸田 直博
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎一郎
(72)【発明者】
【氏名】船田 康平
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0210379(US,A1)
【文献】特開2017-219250(JP,A)
【文献】特開2019-025651(JP,A)
【文献】特開2017-039579(JP,A)
【文献】米国特許第07044059(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0271542(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
F26B 13/08
B65H 20/02
B41J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の媒体を搬送する搬送部と、
搬送中の前記媒体を円筒の周面に巻回しながら加熱する加熱部と、
前記加熱部よりも搬送方向下流側に配置され前記加熱部と接触し、搬送により当該加熱部から離れる前記媒体を巻き付けてさらに搬送する接触搬送ローラと、
前記接触搬送ローラを冷却する冷却部と、
を備えることを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記接触搬送ローラは、前記加熱部に接触する第一接触搬送ローラと、当該第一接触搬送ローラに接触する第二接触搬送ローラと、を含み、
前記第一接触搬送ローラは、前記加熱部と前記第二接触搬送ローラに対して押圧状態によって軸心位置が定まり、前記加熱部の回転に従って回転し、
前記第二接触搬送ローラは、前記第一接触搬送ローラの回転に従って回転する、
請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記第一接触搬送ローラを前記加熱部に対し押圧する押圧部材をさらに備える、
請求項2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、圧縮バネである請求項3に記載の乾燥装置。
【請求項5】
前記冷却部は、前記接触搬送ローラに対して送風する送風機構を備える、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乾燥装置。
【請求項6】
媒体に液体を吐出する液体吐出部と、
媒体に付着した前記液体を乾燥させる乾燥部と、を有し、
前記乾燥部として請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乾燥装置を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥装置及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状の記録媒体に液体を吐出することで、液体の像(ドット)による画像を形成する液体吐出装置が知られている。また、記録媒体に付着した液体を乾燥させて定着させるために記録媒体の裏面(液体付着面の反対面)をドラム状部材(搬送ドラム)に巻き付けて、搬送ドラムを高温にし、その熱伝達により加熱・乾燥する乾燥装置が知られている。
【0003】
乾燥効率を高めるには、ドラムヒータとしての搬送ドラムの温度を高温に設定することが好ましい。しかし、熱ストレスに弱い記録媒体の場合、搬送ドラムの設定温度が高くなると記録媒体自体の熱収縮が大きくなる。その結果、記録媒体に「シワ」を生じさせることになり、液体付着面に形成された画像の質を低下させる。なお、記録媒体がOPPフィルムであって、厚みが20μm程度のものの場合は、搬送ドラムの温度が70℃以上になると熱収縮によるシワが生ずる。
【0004】
記録媒体の熱収縮を避けることを主とするならば、搬送ドラムの設定温度を低くすればよい。しかし、乾燥時間を十分に確保するために搬送ドラムの径を大型にする必要があり、これによって装置全体の大型化し、また、消費電力が増加する。
【0005】
なお、記録媒体の液体付着面側を加熱する加熱乾燥部と、記録媒体に接するドラム面の温度の調整をする温度調整部を個別に設けることで、搬送ドラムの温度調整によって記録媒体の温度を調整しながら、液体付着面を乾燥させる技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の技術は、記録媒体の液体付着面側を加熱して乾燥を促進させる構成であり、記録媒体全体の温度は、熱容量が大きい搬送ドラムの温度に支配される。したがって、乾燥時間の短縮化を図る場合、搬送ドラムの温度をあげる必要があるが、その場合、シワの発生が課題となる。
【0007】
搬送ドラムを利用してシート状の記録媒体の液体付着面を乾燥させるときにシワが生ずる根本的な原因は、主に、搬送ドラムから記録媒体が離れる差異に生ずる接触圧のムラによるものである。接触圧のムラによって記録媒体への熱伝導にムラが生ずることで、シワの発生につながる。これを避けるには、やはり、搬送ドラム側の設定可能な温度には制約があり、乾燥処理を効率化しつつ、乾燥後の記録媒体の質の低下を防ぐには課題がある。また、当該記録媒体画像を形成した画像形成物の生産性の向上させる点においても課題となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、記録媒体を乾燥させる乾燥装置において、記録媒体の質の低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一態様は、乾燥装置に関し、長尺状の媒体を搬送する搬送部と、搬送中の前記媒体を円筒の周面に巻回しながら加熱する加熱部と、前記加熱部よりも搬送方向下流側に配置され前記加熱部と接触し、搬送により当該加熱部から離れる前記媒体を巻き付けてさらに搬送する接触搬送ローラと、前記接触搬送ローラを冷却する冷却部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録媒体を乾燥させる乾燥装置において、記録媒体の質の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る液体吐出装置の実施形態であるプリントシステムの全体構成を示す図。
図2】本発明に係る乾燥装置の第一実施形態を示す全体構成図。
図3】上記乾燥ユニットが備えるシート離間調整部の効果を説明するグラフ。
図4】本発明に係る乾燥装置の第二実施形態を示す全体構成図。
図5】本発明に係る乾燥装置の比較例としての従来構成を例示する構成図。
図6】上記比較例による課題を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[液体吐出装置の実施形態]
以下、本発明に係る液体吐出装置の実施形態としてのプリントシステム1について図面を参照しながら説明する。図1に示すようにプリントシステム1は、長尺状の記録媒体としてのシートPを供給するシート供給ユニット10と、インクジェットプリンタ20と、本発明に係る乾燥装置の実施形態の一つであって乾燥部としての乾燥ユニット30と、画像が形成されて乾燥が終了したシートPを搬出するために巻き取るシート巻取ユニット40と、を組み合わせて構成される。
【0013】
[シート供給ユニット10の概要]
シート供給ユニット10は、液体が付与されて搬送される乾燥対象の物体として、連長のシート状記録媒体であるシートPをインクジェットプリンタ20へと供給する装置である。シート供給ユニット10は、シートPを保持する元巻ローラ102と、シートPをインクジェットプリンタ20に向けて搬出する搬送ローラ112と、を備えている。なお、元巻ローラ102と搬送ローラ112の回転速度は、後述するインクジェットプリンタ20が備える制御部200によって制御されればよい。
【0014】
[インクジェットプリンタ20の概要]
インクジェットプリンタ20は、搬送されてきたシートPに対して、所定のタイミングにおいて所定の位置に液体インクを吐出して付着させ、その像(ドット)によって画像を形成する液体吐出部としての画像形成部201を構成する。また、インクジェットプリンタ20は、シートPへの画像形成制御、これに伴うシートPの搬送制御を行う制御部200を備えている。なお、制御部200は、インクジェットプリンタ20の動作の制御の他に、シート供給ユニット10,後述する乾燥ユニット30、シート巻取ユニット40の動作を制御してもよい。
【0015】
画像形成部201は、シート供給ユニット10から搬送されるシートPに対して、所要の色の液体インクを吐出付与する液体吐出ヘッドを備える。例えば、シートPの搬送方向上流側から、画像形成に用いる各色の液体インクに対応するフルライン型のインクジェットヘッド211が設けられている。図1では、インクジェットヘッド211のうち、黒色インクに対応するものをヘッド211K、シアン色インクに対応するものとヘッド211C、マゼンタ色インクに対応するものをヘッド211M、黄色インクに対応するものをヘッド211Yとして表記し、これら四色の液体インクによって画像を形成するように動作する。
【0016】
なお、図1においては、シートPの搬送方向の上流側から、ヘッド211K、ヘッド211C、ヘッド211M、ヘッド211Yの順に配置されているが、この配置順に限定されるものではなく、任意の順番でよい。また、インクジェットヘッド211は、4色の液体インクに対応する構成に限定されるものではなく、さらに異なる色の液体インクに対応するインクジェットヘッド211を備えてもよい。
ではない。
【0017】
シートPは、シート供給ユニット10が備える元巻ローラ102から繰り出され、搬送ローラ112によって、画像形成部201に対向して配置された搬送ガイド部材213上に送り出され、搬送ガイド部材213で案内されて搬送される。
【0018】
[シート巻取ユニット40の概要]
シート巻取ユニット40は、巻取りローラ405と、排出ローラ414と、第一案内ローラ415と、第二案内ローラ416と、を備えている。
【0019】
画像形成部201によって液体が付与されたシートPは、乾燥ユニット30を経て、第一案内ローラ415、第二案内ローラ416によって案内される。案内されたシートPは、排出ローラ414によって送られて、巻取りローラ405に巻き取られる。
【0020】
[乾燥ユニット30の概要]
次に、乾燥ユニット30の概要について説明する。乾燥ユニット30は、シートPに付着した液体(液体インク)を乾燥させる装置である。乾燥ユニット30は、乾燥構成部300と、乾燥構成部300の動作を制御する乾燥制御部320を備える。
【0021】
乾燥構成部300は、周面にシートPを周面に接触させて、巻回しながら弧を描く搬送経路を構成するドラム301と、ドラム301の周面にシートPが接触するように案内し、また、ドラム301の周面から離れたシートPをシート巻取ユニット40へと搬送する搬送部を構成する複数の搬送ガイドローラ302と、ドラム301の周囲に配置され、周面上のシートPに加熱し、液体付着面を乾燥させる加熱ユニット305と、を含む。なお、加熱ユニット305は、ドラム301の周面の周囲に複数配置される。
【0022】
乾燥構成部300は、ドラム301の周面に接触させた状態でシートPを搬送しながらドラム301と加熱ユニット305からの加温し、液体付着面を乾燥させるように構成されている。加熱ユニット305は、電熱、赤外線、熱風などにより加熱する構成である。ドラム301は搬送部の一部を構成し、かつ、シートPに所定の温度を加えて乾燥を促進させるための加熱部も構成する。
【0023】
また、乾燥構成部300は、シート離間調整部310を備える。シート離間調整部310は、シートPの搬送経路においてドラム301よりも下流側に配置され、シートPがドラム301から離れるときの、ドラム301からの熱伝達状態の均一化を図るための構成である。熱伝達均一化構成としてのシート離間調整部310によって、シートPのドラム301の周面への法線力が付与される。このシート離間調整部310によって、ドラム301から離れる(離脱する)位置におけるシートPへの熱伝達の不均一化を防止でき、シートPのシワの発生を防ぐことができる。
【0024】
[比較例]
ここで、乾燥構成部300にシート離間調整部310を適用しない従来構成例に基づいて、シートPにシワが生ずる原理を説明する。図5に示すように、シートPは、位置Aにおいてドラム301の周面に接触し始め、周面を搬送されながらドラム301と加熱ユニット305からの熱によって液体付着面の乾燥が促進され、位置Bにおいてドラム301から離脱するように構成されている例を想定する。
【0025】
この場合、シートPにおけるシワの発生箇所の一つは、シートPがドラム301への巻き付き状態から離れる「離れ際」としての位置Bであることが、出願人の実施した実験により確認された。
【0026】
その際の実験では、ドラム301の温度を95℃に設定し、シートPを周面に巻き付けて搬送させている途中でシートPの搬送を停止させた。そして、そのままの状態でドラム301の周面温度を低下させた後に、シートPを切り出してサンプリングし、切り出したシートPの一片ごとの状態を観察することで、搬送中のシートPの各箇所のシワの発生状態を確認した。その結果、図6(a)に示す破線部分(ドラム301に巻き付いている状態からシートPが離れる際となる位置Bの相当する)よりも、搬送方向下流においてシワ303の発生が多くなっていることが観察された。
【0027】
上記の確認に基づくシワ303の発生原理は概ね以下のようなものと推測される。まず、ドラム301に対してシートPが巻き付いている「巻き付き領域」においては、ドラム301の周面に対するシートPの密着度合いは均一になっている。この密着度合いは、後述するように、「シートPのドラム301への法線力」として表すことができる。それ故、巻き付き領域におけるシートPへの熱伝導の状況は均一に保たれる。その結果、シートPに熱収縮が生じても、巻き付き領域内では均等に生ずることになるのでシワ303のような現状は生じない。
【0028】
一方、ドラム301から離脱する際においては、ドラム301の周面に対するシートPの密着度合いは弱まり、その結果、シートPの周面に対する接触状態にムラが生ずることになる。その結果、位置B近傍におけるシートPへの熱伝導の状況は不均一になり、位置Bを境界としてシートPに不均一に熱収縮が生じて、位置Bよりも下流側においてシワ303が生ずることになる。
【0029】
以上説明した現象を、図6(b)に示すグラフのように、横軸をドラム301の周面上の位置(搬送位置)とし、縦軸をシートPのドラム301の周面への法線力との関係で表す。図6(b)に示すように、位置Aから除去に法線力が上昇し、ある位置をピークとして、その後、位置Bに向けて法線力はなだらかに低下する。そして、位置Bを境界として法線力はゼロとなる。すなわち、位置Bよりも下流側ではシートPはドラム301の周面から離脱している。
【0030】
[第一実施形態]
次に、乾燥ユニット30の第一実施形態について図2を用いて説明する。図2に示すように、本実施形態に係る乾燥ユニット30が備えるシート離間調整部310は、少なくとも、第一接触搬送ローラとしてのニップローラ311と、冷却部としての冷却ファン312と、弾性部材であり押圧部材としての圧縮バネ313と、を備える。
【0031】
シート離間調整部310は、ドラム301からシートPが離間する位置Bを境界とするシワ303の発生(図6参照)を防止するために、ドラム301に接触して連れ回るニップローラ311を有する。ニップローラ311は、ゴムなどの弾性体により形成されるローラ部材であって、ドラム301から離間するシートPを周面巻き付けて下流に搬送する搬送構成の一部として機能する。
【0032】
ニップローラ311は、圧縮バネ313によってドラム301の周面に向けて付勢された状態で保持されている。したがって、ニップローラ311の周面は、ドラム301の周面に押圧された状態になっている。このとき、ニップローラ311のドラム301に対する押圧力は、圧縮バネ313による付勢力とともに、ニップローラ311が有する弾性力によって保たれる。すなわち、ニップローラ311は、ドラム301に対して押圧されながら、ドラム301の回転に応じて連れ回りする状態で保持されている。この連れ回りによって、ドラム301から離間したシートPは、ニップローラ311の周面に巻き付いて搬送される。
【0033】
シート離間調整部310を用いることによって、ドラム301からシートPが離間する瞬間まで、ニップローラ311によってシートPとドラム301に一定のニップ力が生じている。このニップ力によって、比較例(図5及び図6参照)において発生するようなシートPとドラム301の密着ムラは発生しない。密着ムラが発生しないことで、シートPの幅方向において均一に熱伝達がなされることになり、比較例のようなシワ303の発生を防ぐことができる。
【0034】
シート離間調整部310を備える乾燥ユニット30における、シートPのドラム301への法線力の推移を示したグラフを図3に示す。図3に示すように、本実施形態において、ドラム301からシートPが離間する間際(位置Bの直近)まで、ニップローラ311の押圧力によって法線力が高い状態が維持される。すなわち、位置Bに至るまで、シートPがドラム301の周面に対する密着度合いは安定していて、比較例において説明したような、密着の不均一に起因する熱収縮の不均一を防止することができる。
【0035】
なお、シートPがニップローラ311の巻き付いた後における、ニップローラ311からのシートPの離間時では、ニップローラ311の温度がドラム301よりも低い温度であるため、密着ムラが生じていたとしても、そもそもの熱ストレスが小さくなる。例えば、ドラム301の温度が95℃であっても、ニップローラ311の温度は50℃以下となる。すなわち、ニップローラ311からシートPが離間する位置を境界にした熱収縮に不均一さがあっても、そもそもの熱ストレスが小さいため、シワ303の発生はほぼない状態にある。
【0036】
以上説明したとおり、本実施形態に係る乾燥ユニット30であれば、ドラム301を介して搬送する間に、シートPの温度を高温にして乾燥を促進した後において、ニップローラ311からシートPが離れる際においては、十分にシートPの温度が下がっている状態にできる。そして、ニップローラ311によって、熱収縮の不均一さによるシワが生じやすい位置Bの下流側におけるシートPの温度変化を緩和することができる。また、ニップローラ311をドラム301に押圧して保持することで、シートPのドラム301に対する密着度合い(法線力)が弱くなりがちな領域において、シートPとドラム301の密着度合いを維持することもできる。これらによって、ドラム301から離間した後のシートPによって、熱収縮の不均一に起因するシワの発生を防止できる。
【0037】
なお、乾燥ユニット30を長時間稼働させて、乾燥処理を行い続けると、ドラム301に接触しているニップローラ311の温度が上昇することが懸念される。例えば1時間の連続乾燥によって、ニップローラ311の温度が80℃にまで上昇した場合、ニップローラ311からシートPが離れる際、ドラム301から離間するときに生ずる課題と同様にシワの発生原因となることが想定される。そこで、シート離間調整部310では、ニップローラ311の温度を冷却させる冷却ファン312を備えている。冷却ファン312は、ニップローラ311に自然風を送風する送風機構を備える。
【0038】
なお、冷却ファン312の冷却能力は、ニップローラ311からシートPが離間したことでシワが生じ内程度のものとする。例えば、ニップローラ311の温度を70℃以下に維持できる程度の風量及び風速を生じさせるものであればよい。なお、冷却ファン312による自然風の送風ではニップローラ311の過度の温度上昇を抑制できないときは、水冷機構を更に設けてもよい。
【0039】
以上のとおり、本実施形態に係るシート離間調整部310を用いることにより、乾燥ユニット30を長時間に亘って稼働させたときでも、従前のようなシワ303の発生を防止でき、シートPの質を安定させることができる。
【0040】
[第二実施形態]
次に、乾燥ユニット30の第二実施形態について図4を用いて説明する。図4に示すように、本実施形態に係る乾燥ユニット30が備えるシート離間調整部310aは、少なくとも、ニップローラ311と、冷却ファン312aと、弾性部材としての圧縮バネ313aと、第二接触搬送ローラとしてのニップガイドローラ314と、を備える。
【0041】
第一実施形態に係るシート離間調整部310によれば、ドラム301に接触するニップローラ311を冷却ファン312によって冷却することで、シートPにおける熱収縮の不均一を防止することができる。ここで、ドラム301の熱量に着目すると、ニップローラ311との接触により、ニップローラ311に熱量が奪われる関係になっている。奪われた熱量を補充するには、ドラム301の設定温度を高くすればよい。しかしこの場合、ドラム301の熱量を増加させて所定の温度を維持させるためにエネルギー消費量が増加するので、エネルギー効率の観点で非効率になりえる。
【0042】
上記を鑑みて、本実施形態に係るシート離間調整部310aは、ニップローラ311に対する搬送方向下流側に対して、ニップローラ311に押圧接触するニップガイドローラ314を備える。ニップガイドローラ314は、ドラム301から離間したシートPがニップローラ311に巻きつけられて搬送する搬送経路の一部を構成する。シートPは、ニップガイドローラ314を介して搬送ガイドローラ302へと搬送される。
【0043】
シート離間調整部310aにおいては、ドラム301からニップローラ311に向けてシートPが搬送される経路と同様に、ニップローラ311からシートPが離れる際にニップガイドローラ314にシートPが巻き付かれるように構成されている。ニップローラ311とニップガイドローラ314の間には一定の押圧力が生じているため、その間を介しているシートPにも均一な圧力がかかっている。したがって、シートPがニップローラ311からニップガイドローラ314へと至る搬送経路上において、密着ムラがなく、熱伝達が均一な状態が形成される。したがって、ドラム301からシートPが離れる際を境界として発生しうる従来のようなシワの発生を防止できる。
【0044】
シートPがニップガイドローラ314から離間される際、ニップガイドローラ314の温度はニップローラ311よりも低い温度であるから、シワの発生温度以下になっている。したがって、ニップガイドローラ314から離間する位置を境界とした搬送方向下流におけるシワの発生を防止できる。
【0045】
例えば、ドラム301の温度が95℃であり、ニップローラ311を冷却せずに、連続運転で80℃まで温度が上昇していても、ニップローラ311の次に配置されているニップガイドローラ314は60℃程度までした温度が上がらない。したがって、ニップガイドローラ314の下流において、熱収縮の不均一が生ずることもなく、シワを防止できる。
【0046】
また、シート離間調整部310aによれば、ドラム301が熱量を大きく奪われることなく、しわの発生を防止することができるので、エネルギー効率を向上できる。
【0047】
シート離間調整部310aは、軸心位置が固定されたドラム301とニップガイドローラ314の間に挟み込まれるようにして、軸心位置がフリーの状態のまま、ニップローラ311が配置されている。ニップローラ311は、自重または圧縮バネ313aの押圧状態に応じて軸心位置が定まるように構成されていて、ドラム301とニップガイドローラ314に押圧された状態で保持される。なお、ニップガイドローラ314は、様々な構成のものを適用することが可能であるが、その一例としては、アルミ等の金属からなる円筒部と玉軸受とシャフトとからなる棒部材である。
【0048】
ニップローラ311は、ドラム301の回転駆動が、ドラム301との摩擦力によって連れ回りをする。ニップガイドローラ314は、ニップローラ311の回転駆動及びニップローラ311との摩擦によって連れ回りをする。すなわち、ドラム301とニップローラ311、ニップローラ311とニップガイドローラ314は、常にそれぞれの回転体の接線方向に沿って駆動がされるように配置されている。これによって、ドラム301やローラ(ニップローラ311やニップガイドローラ314)の軸振れ等による押圧力の変動が発生しにくい状態になっており、結果として、安定したニップ圧(密着度合い)を維持することができるので、シートPにおけるシワの発生を防止できる。
【0049】
また、3つの回転体(ドラム301,ニップローラ311、ニップガイドローラ314)の軸心位置や振れ精度を厳密に管理する必要がなくなり、安価な構成でシワの防止効果を生じさせることができる。
【0050】
なお、第一実施形態と同様に、乾燥ユニット30を長時間稼働させて、乾燥処理を行い続けると、ドラム301に接触しているニップローラ311の温度が上昇し、ニップガイドローラ314の温度上昇も想定される。そこで、シート離間調整部310aも、ニップローラ311とニップガイドローラ314の温度上昇を抑制するために冷却させる冷却ファン312aを備える。冷却ファン312aは、ニップローラ311とニップガイドローラ314に自然風を送風する送風手段である。
【0051】
また、シート離間調整部310aは、ドラム301とニップガイドローラ314の間にニップローラ311が配置されていて、これらの構成によって、シートPの搬送方向上流側から下流側に向かってシートPの温度が低下するような温度勾配が生じている。そのため、冷却ファン312aの冷却能力は、第一実施形態のものに比べて低いものでもよい。すなわち、第二実施形態であれば第一実施形態に比較して、さらにエネルギー効率を向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 :プリントシステム
10 :シート供給ユニット
20 :インクジェットプリンタ
30 :乾燥ユニット
40 :シート巻取ユニット
200 :制御部
201 :画像形成部
211 :インクジェットヘッド
213 :搬送ガイド部材
300 :乾燥構成部
301 :ドラム
302 :搬送ガイドローラ
303 :シワ
305 :加熱ユニット
310、310a :シート離間調整部
311 :ニップローラ
312、312a :冷却ファン
313 :圧縮バネ
313a :圧縮バネ
314 :ニップガイドローラ
320 :乾燥制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【文献】特開2016-114284号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6