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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   F24H 15/375 20220101AFI20240214BHJP
   F24H 4/02 20220101ALI20240214BHJP
   F24H 15/212 20220101ALI20240214BHJP
   F24H 15/305 20220101ALI20240214BHJP
【FI】
F24H15/375
F24H4/02 G
F24H15/212
F24H15/305
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020132521
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029265
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】増田 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳一
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-236849(JP,A)
【文献】特開2012-112618(JP,A)
【文献】米国特許第04390396(US,A)
【文献】中国実用新案第201454124(CN,U)
【文献】特開2011-020885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 15/375
F24H 4/02
F24H 4/00
F25B 43/00
F24H 15/212
F24H 15/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留器内の原料水を循環させる原料水循環ラインと、
該原料水循環ラインに設けられた、原料水を加熱するための第1熱交換器と、
該蒸留器から蒸気を吸引する吸引ラインと、
該吸引ラインに設けられた、蒸気を冷却するための第2熱交換器と、
温水タンクを有し、該温水タンク内の温水を前記第1熱交換器に循環通水する温水循環ラインと、
冷水タンクを有し、該冷水タンク内の冷水を前記第2熱交換器に循環通水する冷水循環ラインと、
該冷水タンク内の冷水を低温流体とし、該温水タンク内の温水を高温流体とし、該低温流体の熱を該高温流体に移動させるヒートポンプと
を有する蒸留装置において、
該ヒートポンプから前記温水タンクに送水される高温水の一部を前記冷水タンクに導入する導入ラインと、
該冷水タンク内の冷水を該温水タンクに流入させる返送ラインと
を備えたことを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記返送ラインは、前記導入ラインから温水が冷水タンクに流入した際に、該冷水タンクからオーバーフローするオーバーフロー水を前記温水タンクに流入させるものである請求項1の蒸留装置。
【請求項3】
前記導入ラインにバルブが設けられている請求項1又は2の蒸留装置。
【請求項4】
前記冷水タンクの温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出温度が設定温度よりも低いときに前記バルブを開とする制御器と
を備えたことを特徴とする請求項3の蒸留装置。
【請求項5】
前記温水タンク内の高温水を前記ヒートポンプの凝縮器の流入部に送水するポンプ及び往配管と、
該凝縮器の流出部から流出する高温水を前記温水タンクに戻す復配管と
を備えており、
前記導入ラインは、該復配管から分岐する導入配管であり、
該導入配管に前記バルブが設けられている
請求項3又は4の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置に係り、特にヒートポンプを用いた蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプを用いた蒸留装置の一例を図2に示す。
【0003】
供給ライン(図示略)を介して蒸留器1内に導入された原料水は、該蒸留器1からポンプ2及び配管3を介して熱交換器4に送液され、該熱交換器4で加熱された後、配管5を介して蒸留器1の頂部に戻され、蒸気が発生する。蒸留器1内の上部は、吸引機11によって吸引されており、蒸留器1内の蒸気は、配管6を介して熱交換器7に導入され、冷却された後、配管8を介して凝縮水タンク9に導入され、気水分離される。凝縮水は凝縮水タンク9内に溜まり、該凝縮水タンク9の下部から取出ライン(図示略)を介して取り出される。凝縮水タンク9の上部は配管10を介して吸引機11に接続されている。
【0004】
熱交換器4の熱源流体流路4aには、ヒートポンプシステム12からの高温水が通水され、熱交換器7の熱源流体流路7aにはヒートポンプシステム12からの低温水が通水される。
【0005】
ヒートポンプシステム12のヒートポンプ20は、周知構成のものであり、蒸発器21からの代替フロン等の熱媒体を圧縮機22で断熱圧縮により高温として凝縮器23に導入し、凝縮器23からの熱媒体を膨張弁24を介して蒸発器21に導入し、断熱膨張させて降温させるように構成されている。
【0006】
凝縮器23内に設けられた伝熱チューブ23aに温水タンク30内の水がポンプ31及び配管32を介して通水され、高温熱媒体と熱交換して加熱される。加熱されて高温水となった水は、配管33を介して温水タンク30に返送される。
【0007】
この温水タンク30内の高温水が、ポンプ34及び配管35を介して熱交換器4の熱源流体流路4aに通水され、原料水と熱交換してこれを加熱する。原料水と熱交換することにより温度が低下した水は、配管36を介して温水タンク30に返送される。
【0008】
蒸発器21内に設けられた伝熱チューブ21aに、冷水タンク40内の水がポンプ41及び配管42を介して通水され、低温熱媒体と熱交換して冷却される。冷却されて低温水となった水は、配管43を介して冷水タンク40に返送される。
【0009】
このタンク40内の低温水が、ポンプ44及び配管45を介して熱交換器7の熱源流体流路7aに通水され、蒸気と熱交換してこれを冷却する。蒸気と熱交換することにより温度が上昇した水は、配管46を介して冷水タンク40に返送される。この冷水タンク40にはヒータ47が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平3-52627号公報
【文献】特開2019-158173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図2に示すような、蒸留操作にヒートポンプを用いる蒸留装置にあっては、熱交換器7で回収した蒸気の熱エネルギーを、ヒートポンプ20によって原料水の加熱に利用するようにしているので、熱効率が良い。
【0012】
しかし、蒸留器1からの蒸気が得られない装置始動時や、蒸気量が不十分である時は、冷水タンク40内の水は熱を一方的に奪われ、やがて過冷却となることにより、ヒートポンプシステム12が停止する。
【0013】
このような過冷却を防止するため、冷水タンク40にヒータ47等の加温装置を設置するのが一般的である。
【0014】
本発明は、このようなヒータ等の熱源を使用せずにヒートポンプ単独で安定して運転することができる蒸留装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次を要旨とするものである。
【0016】
[1] 蒸留器内の原料水を循環させる原料水循環ラインと、該原料水循環ラインに設けられた、原料水を加熱するための第1熱交換器と、該蒸留器から蒸気を吸引する吸引ラインと、該吸引ラインに設けられた、蒸気を冷却するための第2熱交換器と、温水タンクを有し、該温水タンク内の温水を前記第1熱交換器に循環通水する温水循環ラインと、冷水タンクを有し、該冷水タンク内の冷水を前記第2熱交換器に循環通水する冷水循環ラインと、該冷水タンク内の冷水を低温流体とし、該温水タンク内の温水を高温流体とし、該低温流体の熱を該高温流体に移動させるヒートポンプとを有する蒸留装置において、該ヒートポンプから前記温水タンクに送水される高温水の一部を前記冷水タンクに導入する導入ラインと、該冷水タンク内の冷水を該温水タンクに流入させる返送ラインとを備えたことを特徴とする蒸留装置。
【0017】
[2] 前記返送ラインは、前記導入ラインから温水が冷水タンクに流入した際に、該冷水タンクからオーバーフローするオーバーフロー水を前記温水タンクに流入させるものである[1]の蒸留装置。
【0018】
[3] 前記導入ラインにバルブが設けられている[1]又は[2]の蒸留装置。
【0019】
[4] 前記冷水タンクの温度を検出する温度センサと、該温度センサの検出温度が設定温度よりも低いときに前記バルブを開とする制御器とを備えたことを特徴とする[3]の蒸留装置。
【0020】
[5] 前記温水タンク内の高温水を前記ヒートポンプの凝縮器の流入部に送水するポンプ及び往配管と、該凝縮器の流出部から流出する高温水を前記温水タンクに戻す復配管とを備えており、前記導入ラインは、該復配管から分岐する導入配管であり、該導入配管に前記バルブが設けられている[3]又は[4]の蒸留装置。
【発明の効果】
【0021】
一般的にヒートポンプは、冷却能力と加温能力にギャップがあり、加温能力のほうが大きい。本発明は、このギャップを利用して、ヒータ等の熱源を使用せずにヒートポンプ単独で蒸留装置を安定運転させるようにしたものである。
【0022】
本発明の一態様の蒸留装置は、温水と冷水を混合する手段を有しており、その混合を冷水の温度によって制御することで、ヒーター等の熱源を用いずにヒートポンプを安定運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る蒸留装置の構成図である。
図2】従来例に係る蒸留装置の構成図である。
図3】比較例の結果を示すグラフである。
図4】比較例の結果を示すグラフである。
図5】比較例の結果を示すグラフである。
図6】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。
【0025】
この実施の形態では、配管33から配管50が分岐している。該配管50と、バルブ51及び配管52を介して配管33内の高温水の一部が冷水タンク40に送水可能とされている。
【0026】
また、冷水タンク40に温度センサ53が設けられており、検出した温度信号が制御器54に入力されている。該制御器54によってバルブ51の開閉又は開度が制御される。
【0027】
また、冷水タンク40のオーバーフロー水を温水タンク30に導くように配管55が設けられている。
【0028】
図1の蒸留装置のその他の構成は図2と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0029】
この蒸留装置においては、温度センサ53で検出される冷水タンク40内の水の温度が所定温度T1よりも高い状態のときには、バルブ51が閉じており、この状態での蒸留装置の作動は図2の場合と同一である。
【0030】
温度センサ53で検出される冷水タンク40内の水の温度が所定温度T1(例えば30℃)以下の時には、バルブ51を開ける。
【0031】
これによって、ヒートポンプ20で加温された高温水の一部が配管33から分流し、配管50,52を介して冷水タンク40に流入する。この高温水流入に伴って冷水タンク40の水の一部は配管55にオーバーフローし、該配管55を介してタンク30に流入する。
【0032】
このように、ヒートポンプ20からの高温水の一部が冷水タンク40に流入し、冷水タンク40内の水温を上昇させるため、過冷却が防止される。
【0033】
制御器54は、温度センサ53の検出温度が所定温度T2(例えば40℃)以上となったときにはバルブ41を閉める。
【0034】
これによって、冷水タンク40への温水タンク30からの温水の流入が止まる。これ以降は、ヒートポンプ20からの高温水の全量が温水タンク30に流入するので、温水タンク30の水温の上昇速度が増大する。
【0035】
タンク30内の水の温度が目的温度T3(例えば80℃)に達すると、蒸留器1で蒸気を生成させることが可能となるので、定常運転に移行する。
【0036】
なお、バルブ51が開となっている状態では、凝縮器23において水に与えた熱エネルギーの一部が高温水の形態でタンク40内の水に与えられるが、この場合でもタンク30内の水温は低下しない。すなわち、ヒートポンプでは、一般に、加温能力の方が冷却能力よりも大きいので、配管50,52から高温水の一部を冷水タンク40に送水し、冷水タンク40から同量の低温水が温水タンク30に流入する状態においても、温水タンク30内の水温は低下せず、徐々に上昇する。
【実施例
【0037】
以下、図1の蒸留装置に用いられるヒートポンプシステム12(ヒートポンプ20、温水タンク30、冷水タンク40、配管50,52及びバルブ51にて構成されている。)の運転例を説明する。
【0038】
<ヒートポンプ>
加温能力:32.3kW
冷却能力:19.8kW
消費電力:10kW
冷水タンクの温度が5℃以下になると過冷却防止のために停止する。
【0039】
温水タンク目標温度は80℃とする。
【0040】
<タンク容量>
温水タンク及び冷水タンクともに100L。
【0041】
[比較例1](バルブ51閉)
バルブ51を閉とし、温水初期温度10℃、冷水初期温度10℃にて、ヒートポンプシステム12の運転を開始した。
【0042】
温水及び冷水の水温の経時変化を図3に示す。本試験は冬の市水を循環水と想定した試験である。図3に示すように約1.7分で冷水タンクの温度が5℃に達し、ヒートポンプが停止した。その際、温水タンクの到達温度は約18℃と目標には達しなかった。本試験より、初期温度が10℃の場合、ヒータ等の外部熱源からの加温が必要であることが認められた。
【0043】
[比較例2]
温水初期温度を30℃、冷水初期温度を30℃としたこと以外は比較例1と同一条件にて試験を行った。
【0044】
温水及び冷水の水温の経時変化を図4に示す。本試験は夏の市水を循環水と想定した試験である。図4に示すように約9分で冷水タンクの温度が5℃に達し、ヒートポンプが停止した。その際、温水タンクの到達温度は約70℃と目標には達しなかった。本試験より、初期温度が30℃の場合でも、ヒータ等の外部熱源からの加温が必要であることが認められた。
【0045】
[比較例3]
比較例1において、20kWの電気ヒータを冷水タンクに設置して作動させたこと以外は同一条件にて試験を行った。
【0046】
温水及び冷水の水温の経時変化を図5に示す。本試験では、冷却能力と同程度のヒータを用いているため、冷水の温度は10℃で一定となった。過冷却による装置の停止は起こらないため、温水は約15分で80℃に達した。この時の全消費電力は7.6kWであった。
【0047】
[実施例1]
温水初期温度10℃、冷水初期温度10℃にてヒートポンプシステム12の作動を開始した。
【0048】
運転開始から30分間はバルブ51を開とし、30分経過後はバルブ51を閉とした。
【0049】
温水及び冷水の水温の経時変化を図6に示す。試験を開始してから30分間は、バルブ51が開いているため、冷水と温水が混合され、ともに昇温している。それ以降は、バルブ51が閉じ温水と冷水の混合が起こらないため、温水は加温され、冷水は冷却される。バルブ51を閉じた9分後に温水タンクは目標の80℃に達し、冷水は初期温度の10℃まで冷却される結果となった。
【0050】
以上より、本発明を適用することで、ヒータ等の熱源を用いずに、ヒートポンプの始動が可能となることが認められた。
【0051】
また、この時の消費電力は6.6kWである。比較例3のヒータを用いた場合と比較すると、消費電力が約13%小さい。そのため、本発明を用いることで、消費電力も削減することも可能になることが認められた。
【符号の説明】
【0052】
1 蒸留器
4,7 熱交換器
12 ヒートポンプシステム
20 ヒートポンプ
21 蒸発器
22 圧縮機
23 凝縮器
24 膨張弁
30 温水タンク
40 冷水タンク
47 ヒータ
51 バルブ
53 温度センサ
54 制御器
図1
図2
図3
図4
図5
図6