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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電荷輸送性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240214BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240214BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20240214BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K3/36
C08K5/17
H05B33/22 D
H10K50/15
H10K50/17
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020532355
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028443
(87)【国際公開番号】W WO2020022211
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018138733
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】村梶 春香
(72)【発明者】
【氏名】菅野 裕太
(72)【発明者】
【氏名】東 将之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 知佳
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/014946(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/186688(WO,A1)
【文献】特開2016-181355(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024829(WO,A1)
【文献】特開2015-213147(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L65/00-65/04
C08L71/00-71/14
C08K 3/00- 5/59
H01L51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチオフェン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、ノニオン系含フッ素界面活性剤と、第一級アミン化合物と、溶媒とを含み、前記溶媒が有機溶媒のみからなり、金属酸化物ナノ粒子がSiO である、電荷輸送性組成物。
【請求項2】
前記ノニオン系含フッ素界面活性剤が、パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造と、アルキレンオキシド構造とを有する、請求項1記載の電荷輸送性組成物。
【請求項3】
前記パーフルオロアルケニル基が、分岐鎖状パーフルオロアルケニル基である、請求項2記載の電荷輸送性組成物。
【請求項4】
前記パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造が、式(14)~(16)のいずれかで表される、請求項2記載の電荷輸送性組成物。
【化13】
【請求項5】
前記アルキレンオキシド構造が、-(AO)n-(式中、Aは炭素数2~10のアルキレン基を表し、nは2~50の整数を表す。)で表される基を含む、請求項2~4のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項6】
前記ポリチオフェン化合物が、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体である、請求項1~5のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【化14】

(式中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]-R、若しくはスルホン酸基であり、又はR及びRが結合して-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。)
【請求項7】
前記ポリチオフェン化合物の重量平均分子量が、5,000~100,000である、 請求項6記載の電荷輸送性組成物。
【請求項8】
更に、ドーパント物質を含む請求項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項9】
前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸化合物である請求項8記載の電荷輸送性組成物。
【請求項10】
前記ドーパント物質が、分子量5,000を超える有機化合物を含まない請求項8記載の電荷輸送性組成物。
【請求項11】
陽極と陰極とそれらの間の電荷輸送性薄膜とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の前記電荷輸送性薄膜用である、請求項1~10のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物から得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項13】
請求項12記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させる工程を備える電荷輸送性薄膜の製造方法。
【請求項15】
請求項12記載の電荷輸送性薄膜を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELともいう)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動及び高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスと、スピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別されるが、ウェットプロセスを用いることで大面積に効率的に成膜できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの開発が精力的に進められている。
このような事情の下、有機EL素子に用いられる電荷輸送性薄膜には、電荷輸送性、平坦性、透明性などの特性がその用途、機能に応じて求められる中、ウェットプロセスで成膜可能な正孔注入層に関する報告がなされている(例えば特許文献1~6参照)。
しかしながら、正孔注入層用のウェットプロセス材料に関しては常に改善が求められており、特に、高い透明性は光取出し効率等の向上に寄与し、高い平坦性は発光品位等の向上に寄与することから、電荷輸送性薄膜に関する透明性と平坦性の改善は常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2006/025342号
【文献】国際公開第2008/032616号
【文献】国際公開第2010/058777号
【文献】国際公開第2013/042623号
【文献】国際公開第2015/186688号
【文献】国際公開第2016/171935号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高い透明性を有し、平坦性に優れる電荷輸送性薄膜を与える電荷輸送性組成物を提供することである。
また、他の本発明の目的は、優れた特性を示す有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ポリチオフェン化合物、金属酸化物ナノ粒子、ノニオン系含フッ素界面活性剤及び有機溶媒を含む組成物を用いて作製された電荷輸送性薄膜が高い透明性を有するとともに、平坦性に優れ、当該電荷輸送性薄膜を正孔注入層として用いた場合に優れた特性を示す有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の発明を提供する。
【0007】
1.ポリチオフェン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、ノニオン系含フッ素界面活性剤と、有機溶媒とを含む電荷輸送性組成物。
【0008】
2.ポリチオフェン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、ノニオン系含フッ素界面活性剤と、溶媒とを含む、前記溶媒が有機溶媒のみからなる電荷輸送性組成物。
【0009】
3.前記ノニオン系含フッ素界面活性剤が、パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造と、アルキレンオキシド構造とを有する、前項1または2記載の電荷輸送性組成物。
【0010】
4.前記パーフルオロアルケニル基が、分岐鎖状パーフルオロアルケニル基である、前項3記載の電荷輸送性組成物。
【0011】
5.前記パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造が、式(14)~(16)のいずれかで表される、前項3記載の電荷輸送性組成物。
【化1】
【0012】
6.前記アルキレンオキシド構造が、-(A0O)n-(式中、A0は炭素数2~10のアルキレン基を表し、nは2~50の整数を表す。)で表される基を含む、前項3~5のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【0013】
7.前記ポリチオフェン化合物が、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体である、前項1~6のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【化2】

(式中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]-R、若しくはスルホン酸基であり、又はR及びRが結合して-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。)
【0014】
8.更に、ドーパント物質を含む前項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【0015】
9.前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸化合物である前項8記載の電荷輸送性組成物。
【0016】
10.前記ドーパント物質が、分子量5,000を超える有機化合物を含まない前項8記載の電荷輸送性組成物。
【0017】
11.陽極と陰極とそれらの間の電荷輸送性薄膜とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の前記電荷輸送性薄膜用である、前項1~10のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【0018】
12.前項1~11のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物から得られる電荷輸送性薄膜。
【0019】
13.前項12記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
14.前項1~11のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させる工程を備える電荷輸送性薄膜の製造方法。
【0021】
15.前項12記載の電荷輸送性薄膜を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電荷輸送性組成物は、ポリチオフェン化合物とともに、金属酸化物ナノ粒子とノニオン系含フッ素界面活性剤とを含んでいるため、当該組成物を用いることで、高い透明性と高い平坦性を有する薄膜を形成できるだけでなく、当該薄膜は、絶縁材料であるノニオン系含フッ素界面活性剤を含むにもかかわらず、当該薄膜を備えた有機EL素子の特性にも悪影響を及ぼさない。
したがって、本発明の電荷輸送性組成物は、有機EL素子をはじめとした電子素子用薄膜の作製に好適に用いることができ、特に、有機EL素子の正孔注入層の作製に適している。
また、本発明の電荷輸送性組成物は、スピンコート法やインクジェット法など、大面積に成膜可能な各種ウェットプロセスを用いた場合でも、電荷輸送性に優れた薄膜を再現性よく製造できるため、近年の有機EL素子の分野、特に有機ELディスプレイの分野における進展にも十分対応できる。
なお、本発明において電荷輸送性とは導電性と同義であり、正孔輸送性と同義である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a】実施例2-1で得られた素子による発光画像である。
図1b】比較例2-1で得られた素子による発光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の電荷輸送性組成物は、電荷輸送性物質としてポリチオフェン化合物を含む。好ましい一態様においては、平坦性に優れ、有機EL素子に適用した場合に優れた寿命特性を与える電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点から、本発明の電荷輸送性組成物が含むポリチオフェン化合物に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は包含されない。
本発明のある態様においては、その上に塗布によって機能膜が形成される際にその塗膜のはじき等を抑制し平坦性に優れる機能膜を再現性よく実現できる電荷輸送性薄膜を与える組成物を得る観点等から、本発明の電荷輸送性組成物が含むポリチオフェン化合物は、フッ素原子を含有しない。
本発明の電荷輸送性組成物に含まれるポリチオフェン化合物は、チオフェン誘導体由来の複数の構造単位で構成される。その重量平均分子量は、通常1,000~1,000,000であるが、組成物中のポリチオフェン化合物の析出を抑制するという観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは100,000以下である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
ポリチオフェン化合物中、隣接する前記構造単位同士は互いに結合しており、その結合位置は、通常、チオフェン環の2位と5位である。また、複数の構造単位は同一であっても異なっていてもよく、2種以上の異なる構造単位が含まれる場合、構造単位は任意の順序で配列されていてよい(ランダムポリマー、ブロックポリマーなど)。更に、ポリチオフェン化合物は、レジオランダム型であってもレジオレギュラー型であってもよい。
【0025】
好ましくは、本発明の電荷輸送性組成物は、電荷輸送性物質として式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体を含む。
【0026】
【化3】
【0027】
式中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のフルオロアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]-R、若しくはスルホン酸基であり、又はR及びRが結合して-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~20のフルオロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。
【0028】
炭素数1~40のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基、ベヘニル基、トリアコンチル基、及びテトラコンチル基等が挙げられるが、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0029】
炭素数1~40のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1~40のアルキル基において少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された基を挙げることができ、特に限定されないが、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、1,1,2-トリフルオロエチル基、1,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,2,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、1-フルオロプロピル基、2-フルオロプロピル基、3-フルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、1,2-ジフルオロプロピル基、1,3-ジフルオロプロピル基、2,2-ジフルオロプロピル基、2,3-ジフルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、1,1,2-トリフルオロプロピル基、1,1,3-トリフルオロプロピル基、1,2,3-トリフルオロプロピル基、1,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3-トリフルオロプロピル基、2,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1,2,2-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,2,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基及びパーフルオロオクチル基が挙げられる。
【0030】
炭素数1~40のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、c-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、及びn-エイコサニルオキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
炭素数1~40のフルオロアルコキシ基としては、炭素原子上の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基であれば特に限定されないが、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、パーフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、1,2-ジフルオロエトキシ基、1,1-ジフルオロエトキシ基、2,2-ジフルオロエトキシ基、1,1,2-トリフルオロエトキシ基、1,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ基、パーフルオロエトキシ基、1-フルオロプロポキシ基、2-フルオロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、1,1-ジフルオロプロポキシ基、1,2-ジフルオロプロポキシ基、1,3-ジフルオロプロポキシ基、2,2-ジフルオロプロポキシ基、2,3-ジフルオロプロポキシ基、3,3-ジフルオロプロポキシ基、1,1,2-トリフルオロプロポキシ基、1,1,3-トリフルオロプロポキシ基、1,2,3-トリフルオロプロポキシ基、1,3,3-トリフルオロプロポキシ基、2,2,3-トリフルオロプロポキシ基、2,3,3-トリフルオロプロポキシ基、3,3,3-トリフルオロプロポキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,2,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、及びパーフルオロプロポキシ基が挙げられる。
【0032】
炭素数1~40のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコサニレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、及び9-フェナントリル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基及びナフチル基が好ましい。
【0034】
炭素数6~20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、アントラセノキシ基、ナフトキシ基、フェナントレノキシ基、及びフルオレノキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0036】
上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体において、R及びRは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、-O[C(R)-C(R)-O]-R、-OR、若しくはスルホン酸基であるか、又はR及びRが結合して-O-Y-O-であるものが好ましい。
【0037】
~Rは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を表し、これらの基の具体例としては上記で挙げたものと同じである。
中でも、R~Rは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、又はフェニル基が好ましい。
【0038】
は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、又はフェニル基が好ましく、水素原子、メチル基、プロピル基、又はブチル基がより好ましい。
また、Rは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、又はフェニル基がより好ましく、-CHCFがより一層好ましい。
pは、1、2、又は3が好ましい。
【0039】
本発明においては、Rは、好ましくは水素原子又はスルホン酸基、より好ましくはスルホン酸基であり、且つ、Rは、好ましくは炭素数1~40のアルコキシ基又はO-[Z-O]-R、より好ましくは-O[C(R)-C(R)-O]-R又はOR、より一層好ましくは-O[C(R)-C(R)-O]-R、-O-CHCH-O-CHCH-O-CH、-O-CHCH-O-CHCH-OH又は-O-CHCH-OHであるか、或いはR及びRは、好ましくは互いに結合して-O-Y-O-である。
【0040】
例えば、本発明の好ましい態様に係る上記ポリチオフェン誘導体は、Rがスルホン酸基であり、Rがスルホン酸基以外である繰り返し単位を含むか、又はR及びRが結合して-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
すなわち、好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、Rがスルホン酸基であり、Rが炭素数1~40のアルコキシ基若しくは-O-[Z-O]-Rである繰り返し単位を含むか、又はR及びRが結合して-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
より好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、Rがスルホン酸基であり、Rが-O[C(R)-C(R)-O]-R又はORである繰り返し単位を含む。
より一層好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、Rがスルホン酸基であり、Rが-O[C(R)-C(R)-O]-Rである繰り返し単位を含むか、又はR及びRが結合して-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
更に好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、Rがスルホン酸基であり、Rが、-O-CHCH-O-CHCH-O-CH、-O-CHCH-O-CHCH-OH、若しくはO-CHCH-OHである繰り返し単位を含むか、又はR及びRが、下記式(Y1)または(Y2)で表される基である繰り返し単位を含む。
【化4】
【0041】
上記ポリチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、例えば、下記式(1-1)~(1-5)で表されるいずれかの繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体を挙げることができるが、これらに限定される訳ではない。
【0042】
【化5】
【0043】
また、上記ポリチオフェン誘導体は、必ずしも全ての繰り返し単位にスルホン酸基を有している必要はない。従って、必ずしも全ての繰り返し単位が同一の構造を有している必要はなく、異なる構造の繰り返し単位を含むものであってもよい。その好適な構造としては、例えば、下記式(1a)で表される構造を有するポリチオフェン誘導体を挙げることができるが、これに限定される訳ではない。なお、下記式において、各単位はランダムに結合していても、ブロック重合体として結合していてもよい。
【0044】
【化6】
【0045】
式中、a~dは、各単位のモル比を表し、0≦a≦1、0≦b≦1、0<a+b≦1、0≦c<1、0≦d<1、a+b+c+d=1を満足する。
【0046】
更に、上記ポリチオフェン誘導体は、ホモポリマー又はコポリマー(統計的、ランダム、勾配、及びブロックコポリマーを含む)であってよい。また、ポリチオフェン誘導体は、他のタイプのモノマー(例えば、チエノチオフェン、セレノフェン、ピロール、フラン、テルロフェン、アニリン、アリールアミン、及びアリーレン(例えば、フェニレン、フェニレンビニレン、及びフルオレン等)等)から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0047】
本発明において、ポリチオフェン誘導体における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、ポリチオフェン誘導体に含まれる全繰り返し単位中、50モル%超が好ましく、80モル%超がより好ましく、90モル%超がより一層好ましく、95モル%超が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0048】
本発明において、重合に使用される出発モノマー化合物の純度に応じて、形成されるポリマーは、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本発明において、上記の「ホモポリマー」という用語は、1つのタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味するものであるが、不純物から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。本発明において、上記ポリチオフェン誘導体は全ての繰り返し単位が、上記式(1)で表される繰り返し単位であるホモポリマーであることが好ましく、上記式(1-1)~(1-5)で表されるいずれかの繰り返し単位であるホモポリマーであることがより好ましい。
【0049】
本発明において、上記ポリチオフェン誘導体が、スルホン酸基を有する繰り返し単位を含む場合、有機溶媒に対する溶解性や分散性をより向上させる観点から、更にアミン化合物を用いて、ポリチオフェン誘導体に含まれるスルホン酸基の少なくとも一部にアミン化合物が付加したアミン付加体としてもよい。このポリチオフェン誘導体のアミン付加体の構造の例としては、前記スルホン酸基が、前記アミン化合物の塩となった構造を挙げることができる。
【0050】
アミン付加体の形成に使用できるアミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-エイコサニルアミン等のモノアルキルアミン化合物;アニリン、トリルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アントリルアミン、2-アントリルアミン、9-アントリルアミン、1-フェナントリルアミン、2-フェナントリルアミン、3-フェナントリルアミン、4-フェナントリルアミン、9-フェナントリルアミン等のモノアリールアミン化合物等の一級アミン化合物、N-エチルメチルアミン、N-メチル-n-プロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチル-n-ブチルアミン、N-メチル-s-ブチルアミン、N-メチル-t-ブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、ジエチルアミン、N-エチル-n-プロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチル-n-ブチルアミン、N-エチル-s-ブチルアミン、N-エチル-t-ブチルアミン、ジプロピルアミン、N-n-プロピルイソプロピルアミン、N-n-プロピル-n-ブチルアミン、N-n-ブロピル-s-ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、N-n-ブチルイソプロピルアミン、N-t-ブチルイソプロピルアミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(s-ブチル)アミン、ジイソブチルアミン、アジリジン(エチレンイミン)、2-メチルアジリジン(プロピレンイミン)、2,2-ジメチルアジリジン、アゼチジン(トリメチレンイミン)、2-メチルアゼチジン、ピロリジン、2-メチルピロリジン、3-メチルピロリジン、2,5-ジメチルピロリジン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、3,5-ジメチルピペリジン,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、オクタメチレンイミン等といったジアルキルアミン化合物;ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、1,1'-ジナフチルアミン、2,2'-ジナフチルアミン、1,2'-ジナフチルアミン、カルバゾール、7H-ベンゾ[c]カルバゾール、11H-ベンゾ[a]カルバゾール、7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、13H-ジベンゾ[a,i]カルバゾール等といったジアリールアミン化合物;N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-n-プロピルアニリン、N-イソプロピルアニリン、N-n-ブチルアニリン、N-s-ブチルアニリン、N-イソブチルアニリン、N-メチル-1-ナフチルアミン、N-エチル-1-ナフチルアミン、N-n-プロピル-1-ナフチルアミン、インドリン、イソインドリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン等のアルキルアリールアミン化合物等の二級アミン化合物、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチル-n-ブチルアミン、N,N-ジメチル-s-ブチルアミン、N,N-ジメチル-t-ブチルアミン、N,N-ジメチルイソブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-メチルジ(n-プロピル)アミン、N-メチルジイソプロピルアミン、N-メチルジ(n-ブチル)アミン、N-メチルジイソブチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチル-n-ブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジ(n-ブチル)エチルアミン、トリ(n-プロピル)アミン、トリ(i-プロピル)アミン、トリ(n-ブチル)アミン、トリ(i-ブチル)アミン、1-メチルアセチジン、1-メチルピロリジン、1-メチルピペリジン等のトリアルキルアミン化合物;トリフェニルアミン等のトリアリールアミン化合物;N-メチルジフェニルアミン、N-エチルジフェニルアミン、9-メチルカルバゾール、9-エチルカルバゾール等のアルキルジアリールアミン化合物;N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ(n-プロピル)アニリン、N,N-ジ(i-プロピル)アニリン、N,N-ジ(n-ブチル)アニリン等のジアルキルアリールアミン化合物等の三級アミン化合物が挙げられるが、アミン付加体の溶解性、得られる電荷輸送性薄膜の電荷輸送性等のバランスを考慮すると、トリエチルアミンが好ましい。
アミン付加体は、アミン自体又はその溶液にポリチオフェン誘導体を投入し、よく撹拌することで得ることができる。
【0051】
本発明においては、上記のポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体は、還元剤で処理したものを用いてもよい。
ポリチオフェン誘導体では、それらを構成する繰り返し単位の一部において、その化学構造が「キノイド構造」と呼ばれる酸化型の構造となっている場合がある。用語「キノイド構造」は、用語「ベンゼノイド構造」に対して用いられるもので、芳香環を含む構造である後者に対し、前者は、その芳香環内の二重結合が環外に移動し(その結果、芳香環は消失する)、環内に残る他の二重結合と共役する2つの環外二重結合が形成された構造を意味する。当業者にとって、これらの両構造の関係は、ベンゾキノンとヒドロキノンの構造の関係から容易に理解できるものである。種々の共役ポリマーの繰り返し単位についてのキノイド構造は、当業者にとって周知である。一例として、上記式(1)で表される繰り返し単位に対応するキノイド構造を、下記式(1’)に示す。
【0052】
【化7】
【0053】
式(1’)中、R及びRは、上記式(1)において定義されたとおりである。
【0054】
このキノイド構造は、上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体がドーパントにより酸化反応を受けるプロセス、いわゆるドーピング反応によって生じ、ポリチオフェン誘導体に電荷輸送性を付与する「ポーラロン構造」及び「バイポーラロン構造」と称される構造の一部を成すものである。これらの構造は公知である。有機EL素子の作製において、「ポーラロン構造」及び/又は「バイポーラロン構造」の導入は必須であり、実際、有機EL素子作成時、電荷輸送性組成物から形成された薄膜を焼成処理するときに、上記のドーピング反応を意図的に起こさせて、これを達成している。このドーピング反応を起こさせる前のポリチオフェン誘導体にキノイド構造が含まれているのは、ポリチオフェン誘導体が、その製造過程(特に、その中のスルホン化工程)において、ドーピング反応と同等の、意図しない酸化反応を起こしたためと考えられる。
【0055】
上記ポリチオフェン誘導体に含まれるキノイド構造の量と、ポリチオフェン誘導体の有機溶媒に対する溶解性や分散性の間には相関があり、キノイド構造の量が多くなると、その溶解性や分散性は低下する傾向にある。このため、電荷輸送性組成物から薄膜が形成された後でのキノイド構造の導入はこのような問題を引き起こさないが、上記の意図しない酸化反応により、ポリチオフェン誘導体にキノイド構造が過剰に導入されていると、電荷輸送性組成物の製造に支障をきたす場合がある。ポリチオフェン誘導体においては、有機溶媒に対する溶解性や分散性にばらつきがあることが知られているが、その原因の1つは、上記の意図しない酸化反応によりポリチオフェン誘導体に導入されたキノイド構造の量が、各々のポリチオフェン誘導体の製造条件の差に応じて変動することであると考えられる。
そこで、上記ポリチオフェン誘導体を、還元剤を用いる還元処理に付すと、ポリチオフェンにキノイド構造が過剰に導入されていても、還元によりキノイド構造が減少し、ポリチオフェンの有機溶媒に対する溶解性や分散性が向上するため、均質性に優れた薄膜を与える良好な電荷輸送性組成物を、安定的に製造することが可能になる。
【0056】
還元処理の条件は、上記キノイド構造を還元して非酸化型の構造、即ち、上記ベンゼノイド構造に適切に変換する(例えば、上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体においては、上記式(1’)で表されるキノイド構造を、上記式(1)で表される構造に変換する)ことができるものである限り特に制限はないが、例えば、適当な溶媒の存在下又は非存在下、単にポリチオフェン誘導体やそのアミン付加体を還元剤と接触させることにより、この処理を行うことができる。
このような還元剤も、還元が適切にされる限り特に制限はないが、例えば、市販品で入手が容易であるアンモニア水、ヒドラジン等が適当である。
また、還元剤の量は、用いる還元剤の種類に応じて異なるため一概に規定できないが、処理すべきポリチオフェン誘導体やそのアミン付加体100質量部に対し、通常、還元が適切に行われる観点から、0.1質量部以上であり、過剰な還元剤が残存しないようにする観点から、10質量部以下である。
【0057】
還元処理の具体的な方法の一例としては、ポリチオフェン誘導体やそのアミン付加体を28%アンモニア水中で、室温にて終夜撹拌する。このような比較的温和な条件下での還元処理により、ポリチオフェン誘導体やそのアミン付加体の有機溶媒に対する溶解性や分散性は十分に向上する。
本発明の電荷輸送性組成物において、ポリチオフェン誘導体のアミン付加体を使用する場合、上記還元処理は、アミン化合物を付加してアミン付加体を形成する前に行っても、アミン付加体を形成した後に行ってもよい。
【0058】
なお、この還元処理によりポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体の溶媒に対する溶解性や分散性が変化する結果、処理の開始時には還元処理に用いる溶媒に溶解していなかったポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体が、処理の完了時には溶解している場合がある。そのような場合には、ポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体と非相溶性の有機溶媒(スルホン化ポリチオフェンの場合、アセトン,イソプロピルアルコール等)を反応系に添加して、ポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体の沈殿を生じさせ、濾過する等の方法により、ポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体を回収することができる。
【0059】
式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体の重量平均分子量は、約1,000~1,000,000が好ましく、約5,000~100,000がより好ましく、約10,000~約50,000がより一層好ましい。重量平均分子量を下限以上とすることで、良好な導電性が再現性よく得られ、上限以下とすることで、溶媒に対する溶解性が向上する。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0060】
なお、本発明の電荷輸送性組成物が含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体は、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
また、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体は、市販品を用いても、チオフェン誘導体などを出発原料とした公知の方法によって重合したものを用いてもよいが、いずれの場合も再沈殿やイオン交換等の方法により精製されたものを用いることが好ましい。精製したものを用いることで、当該化合物を含む組成物から得られる薄膜を備えた有機EL素子の特性をより高めることができる。
【0061】
なお、共役ポリマーのスルホン化及びスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されている。
また、スルホン化ポリチオフェンについては、国際公開第2008/073149号及び国際公開第2016/171935号に記載されている。
【0062】
本発明の電荷輸送性組成物に含まれる式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体又はそのアミン付加体の少なくとも一部は、有機溶媒に溶解している。
【0063】
なお、本発明においては、特に制限されるものではないが、本発明の効果を損なわない範囲において、電荷輸送性物質として、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体以外の電荷輸送性化合物からなる電荷輸送性物質を併用してよいが、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体のみを用いることが好ましい。
【0064】
本発明の電荷輸送性組成物中の電荷輸送性物質の含有量は、通常、所望の膜厚や組成物の粘度等を勘案し、組成物全体に対して0.01~20質量%の範囲で適宜決定される。
【0065】
本発明の電荷輸送性組成物は、金属酸化物ナノ粒子を含む。ナノ粒子とは、一次粒子についての平均粒子径がナノメートルのオーダー(典型的には500nm以下)である微粒子を意味する。金属酸化物ナノ粒子とは、ナノ粒子に成形された金属酸化物を意味する。
本発明で用いる金属酸化物ナノ粒子の一次粒子径は、ナノサイズであれば特に限定されるものではないが、再現性よく平坦性に優れた薄膜を得ることを考慮すると、2~150nmが好ましく、3~100nmがより好ましく、5~50nmがより一層好ましい。なお、粒子径は、BET法による窒素吸着等温線を用いた測定値である。
【0066】
本発明における金属酸化物ナノ粒子を構成する金属は、通常の意味での金属に加え、半金属も包含する。
通常の意味での金属としては、特に限定されるものではないが、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びW(タングステン)からなる群より選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
一方、半金属とは、化学的及び/又は物理的性質が金属と非金属の中間である元素を意味する。半金属の普遍的な定義は確立されていないが、本発明では、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)の計6元素を半金属とする。これらの半金属は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また通常の意味での金属と組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明で用いる金属酸化物ナノ粒子は、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びW(タングステン)から選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物を含むことが好ましい。なお、金属が2種以上の組み合わせである場合、金属酸化物は、個々の単独の金属の酸化物の混合物であってもよく、複数の金属を含む複合酸化物であってもよい。
【0068】
金属酸化物の具体例としては、B、BO、SiO、SiO、GeO、GeO、As、As、As、Sb、Sb、TeO、SnO、ZrO、Al、ZnO等が挙げられるが、B、BO、SiO、SiO、GeO、GeO、As、As、As、SnO、SnO、Sb、TeO、及びこれらの混合物が好ましく、SiOがより好ましい。
【0069】
本発明の電荷輸送性組成物が含む金属酸化物ナノ粒子は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0070】
本発明の電荷輸送性組成物が含む金属酸化物ナノ粒子は、組成物中に均一に分散していることが好ましい。
【0071】
なお、上記金属酸化物ナノ粒子は、1種以上の有機キャッピング基を含んでもよい。この有機キャッピング基は、反応性であっても非反応性であってもよい。反応性有機キャッピング基の例としては、紫外線又はラジカル開始剤により架橋できる有機キャッピング基が挙げられる。
【0072】
本発明の電荷輸送性組成物において、金属酸化物ナノ粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、電荷輸送性組成物中での粒子の凝集を抑制する、再現性よく平坦性に優れた薄膜を得る等の観点から、固形分に対し、40~95質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましく、60~90質量%が最も好ましい。
なお、本発明において、固形分とは、本発明の電荷輸送性組成物に含まれる溶媒以外の成分を意味する。
【0073】
特に、本発明においては、金属酸化物ナノ粒子が分散媒に分散した金属酸化物ナノ粒子ゾルを用いることで、金属酸化物ナノ粒子が均一に分散した組成物を再現性よく調製できる。
すなわち、金属酸化物ナノ粒子自体を、電荷輸送性物質等と共に溶媒と混合して分散させるよりも、予め金属酸化物ナノ粒子ゾルを調製し、そのゾルを、電荷輸送性物質等が溶媒に溶解又は分散した混合物と混合することで、金属酸化物ナノ粒子が均一に分散した電荷輸送性組成物を再現性よく製造できる。
このような金属酸化物ナノ粒子ゾルは、市販品を用いてもよく、本発明の電荷輸送性組成物が含み得る溶媒及び金属酸化物ナノ粒子を用いて、公知の方法で調製することもできる。
より具体的な好適な一例としては、本発明の電荷輸送性組成物の調製においては、SiOナノ粒子が分散媒に分散したシリカゾルを用いることが好適である。
シリカゾルとしては、特に限定されるものではなく、公知のシリカゾルから適宜選択して用いることができる。
市販のシリカゾルは通常、分散液の形態にある。市販のシリカゾルとしては、SiOナノ粒子が種々の溶媒、例えば、水、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、シクロヘキサノン、酢酸エチル、トルエン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等に分散したものが挙げられる。
特に、本発明においては、分散媒が、グリコール系溶媒、アルコール溶媒又は水であるシリカゾルが好ましい。
【0074】
市販のシリカゾルの具体例としては日産化学(株)製のスノーテックス(登録商標)ST-O、ST-OS、ST-O-40、ST-OL、日本化学工業(株)製のシリカドール20、30、40等の水分散シリカゾル;日産化学(株)製のメタノールシリカゾル、MA-ST-M、MA-ST-L、IPA-ST、IPA-ST-L、IPA-ST-ZL、EG-ST等のオルガノシリカゾルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
シリカゾルのSiOナノ粒子濃度は、通常5~50質量%程度であるが、SiOナノ粒子の濃度が高い場合、シリカゾルを、電荷輸送性物質等が溶媒に溶解又は分散した混合物と混合した際に、当該混合物が含む溶媒の種類によってはSiOナノ粒子が凝集してしまうことがあるため、組成物調製の際はその点に留意する。
【0076】
本発明の電荷輸送性組成物は、ノニオン系含フッ素界面活性剤を含む。ノニオン系含フッ素界面活性剤が含まれることで、その組成物の塗布後の表面を平滑にする(本明細書中ではレベリング効果ともいう)ことができる。
【0077】
本発明のある態様において、ノニオン系含フッ素界面活性剤はパーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造及びアルキレンオキシド構造を有する。パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造としては、特に限定されるものではなく、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、本発明においては分岐鎖を含むものが好ましく、分岐鎖状のパーフルオロアルケニル基を含む構造がより好ましい。
またその炭素数としても特に限定されるものではないが、炭素数2~20程度が好ましく、炭素数5~20がより好ましく、炭素数5~15がより一層好ましい。
好適なパーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造としては、式(14)で示されるα-パーフルオロノネニル構造や、式(15)、(16)で示される構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
【化8】
【0079】
一方、アルキレンオキシド構造としても特に限定されるものではないが、-(AO)-(式中、Aは炭素数2~10のアルキレン基を表し、nは2~50の整数を表す。)で表される基を含むアルキレンオキシド構造が好ましく、-(CHCHO)-(式中、nは上記と同じ。)で表されるエチレンオキシド基を含む構造がより好ましい。
炭素数2~10のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。好ましくは炭素数2~4のアルキレン基である。
また、アルキレンオキシド鎖は、一部が分岐していてもよく、またそのアルキレン鎖中にカルボニル基を有していてもよい。
【0080】
パーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造をRとすると、本発明で好適に用い得るノニオン系含フッ素界面活性剤としては、式(14)及び(15)の構造については、式(A1)又は(A2)で表されるものが挙げられ、式(16)の構造については、式(A3)で表されるものなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
-O-(AO)-R (A1)
-O-(AO)-R (A2)
-(OA-O-R-O-(AO)-R (A3)
(式中、Rは、互いに独立してパーフルオロアルケニル基含有パーフルオロ炭化水素構造を、Rは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。A及びnは、上記と同じ意味を表す。)
【0081】
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基などが挙げられる。
【0082】
より好ましくは、R-O-が式(14’)で表されるα-パーフルオロノネニルオキシ構造で、Aがエチレン基のものであり、その具体例としては、α-パーフルオロノネニルオキシ-ω-メチルポリエチレンオキシド、α-パーフルオロノネニルオキシ-ω-ペルフルオロノネニルポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0083】
【化9】
【0084】
なお、本発明で使用可能なノニオン系含フッ素界面活性剤は、例えば、特開2010-47680号公報、特開2011-57589号公報、特開2012-72287号公報等に記載の方法で合成することができ、また、市販品としても入手可能である。
市販品の具体例としては、(株)ネオス製のノニオン系含フッ素界面活性剤であるフタージェントMシリーズ(251、212M、215M、250(α-パーフルオロノネニルオキシ-ω-メチルポリエチレンオキシド))、同Fシリーズ(209F、222F、245F)、同Gシリーズ(208G、218GL、240G)、同P・Dシリーズ(212P、220P、228P、FTX-218、DFX-18)、オリゴマーシリーズ(710FL、710FM、710FS、730FL、730LM)等が挙げられるが、中でもMシリーズ、Fシリーズ、Gシリーズ、P・Dシリーズ(212P、220P、228P)、オリゴマーシリーズ(710FL、710FM、710FS)が好ましい。
本発明において、ノニオン系含フッ素界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0085】
ノニオン系含フッ素界面活性剤の量は、所望のレベリング効果が発揮されるとともに、得られる薄膜の有機EL素子特性に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、通常、固形分に対し、0.1~10質量%程度が好ましく、1~8質量%がより好ましく、3~7質量%がより一層好ましい。
【0086】
本発明の電荷輸送性組成物は、有機溶媒を含む。
このような有機溶媒は、各成分を良好に溶解又は分散するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族又はハロゲン化芳香族炭化水素溶媒;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ノルマルヘキシル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;塩化メチレン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、2-ベンゾキシエタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール1,3-オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等のグリコール系溶媒などの中から、適宜選択して用いればよい。
なお、これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0087】
本発明の電荷輸送性組成物には、溶媒として水も含まれ得るが、水の含有量は、組成物の保存安定性、組成物をインクジェット塗布する際の吐出安定性、初期特性又は耐久性に優れる有機EL素子を再現性よく得る観点等から、溶媒全体の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、溶媒として有機溶媒のみを用いることが最適である。なお、この場合における「有機溶媒のみ」とは、溶媒として用いるものが有機溶媒だけであることを意味し、使用する有機溶媒や固形分等に微量に含まれる「水」の存在までをも否定するものではない。
【0088】
本発明の電荷輸送性組成物では、得られる薄膜の用途に応じ、その電荷輸送能の向上等を目的としてドーパント物質を含んでいてもよい。
ドーパント物質としては、組成物に使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント物質、有機系のドーパント物質のいずれも使用できる。好ましくは、前記ドーパント物質は電子受容性ドーパント物質である。電子受容性ドーパント物質は、ポリチオフェン誘導体との前記ドーピング反応により、ポリチオフェン誘導体に電荷輸送性を付与することができる物質である。
【0089】
無機系のドーパント物質としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等のヘテロポリ酸;塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl)、四塩化チタン(IV)(TiCl)、三臭化ホウ素(BBr)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF・OEt)、塩化鉄(III)(FeCl)、塩化銅(II)(CuCl)、五塩化アンチモン(V)(SbCl)、五フッ化砒素(V)(AsF)、五フッ化リン(PF)等の金属ハロゲン化物、Cl、Br、I、ICl、ICl、IBr、IF等のハロゲンなどが挙げられる。
【0090】
また、有機系のドーパント物質としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等のテトラシアノキノジメタン類;テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等のハロテトラシアノキノジメタン(ハロTCNQ)類;テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)等のベンゾキノン誘導体;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、p-スチレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、ジヘキシルベンゼンスルホン酸、2,5-ジヘキシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、6,7-ジブチル-2-ナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、3-ドデシル-2-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、4-ヘキシル-1-ナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、2-オクチル-1-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、7-へキシル-1-ナフタレンスルホン酸、6-ヘキシル-2-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、2,7-ジノニル-4-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、2,7-ジノニル-4,5-ナフタレンジスルホン酸、国際公開第2005/000832号記載の1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、国際公開第2006/025342号記載のアリールスルホン酸誘導体、特開2005-108828号公報記載のジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等のアリールスルホン酸化合物;10-カンファースルホン酸等の非芳香族スルホン化合物などが挙げられる。
これら無機系及び有機系のドーパント物質は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
好ましい一態様においては、平坦性に優れ、有機EL素子に適用した場合に優れた寿命特性を与える電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点から、本発明の電荷輸送性組成物が含むアリールスルホン酸に、ポリスチレンスルホン酸(PSS)は包含されない。
【0091】
本発明におけるドーパント物質として好ましいアリールスルホン酸化合物の例としては、式(H1)又は(H2)で表されるアリールスルホン酸化合物が挙がられる。
【0092】
【化10】
【0093】
前記式中、Aは、O又はSを表すが、Oが好ましい。
は、ナフタレン環又はアントラセン環を表すが、ナフタレン環が好ましい。
は、2~4価のパーフルオロビフェニル基を表し、sは、AとAとの結合数を示し、2≦s≦4を満たす整数であるが、Aがパーフルオロビフェニルジイル基、好ましくはパーフルオロビフェニル-4,4’-ジイル基であり、かつ、sが2であることが好ましい。
qは、Aに結合するスルホン酸基数を表し、1≦q≦4を満たす整数であるが、2が最適である。
【0094】
~Aは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基を表すが、A~Aのうち少なくとも3つは、ハロゲン原子である。
【0095】
炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0096】
炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロプロペニル基(アリル基)、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
その他、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基の例としては上記と同様のものが挙げられるが、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0097】
これらの中でも、A~Aは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつ、A~Aのうち少なくとも3つは、フッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基、又は炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつ、A~Aのうち少なくとも3つはフッ素原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつ、A、A及びAがフッ素原子であることがより一層好ましい。
なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0098】
rは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数を表し、1≦r≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2が最適である。
【0099】
本発明のある態様においては、再現性よく高い平坦性の薄膜を与える均一性に優れる組成物を得る観点、固形分の析出が抑制された保存安定性に優れる組成物を得る観点等から、本発明の電荷輸送性組成物が含むドーパント物質は、分子量が5,000を超える有機化合物、好ましくは分子量が4,000を超える有機化合物、より好ましくは分子量が3,000を超える有機化合物、更に好ましくは分子量が2,000を超える有機化合物を含まない。
ドーパント物質として用いるアリールスルホン酸化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、本発明で用いるポリチオフェン化合物とともに用いた場合における有機溶媒への溶解性を考慮すると、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下である。
【0100】
本発明において、好適に用いることができるアリールスルホン酸化合物の例としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
【化11】
【0102】
本発明の電荷輸送性組成物では、ポリチオフェン化合物の分散性や溶解性を向上させる等の目的で、アミン化合物を含んでもよい。
このようなアミン化合物は、組成物に使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0103】
アミン化合物は、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物、第三級アミン化合物のいずれでもよい。
第一級アミン化合物の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-エイコサニルアミン等のモノアルキルアミン化合物;アニリン、トリルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アントリルアミン、2-アントリルアミン、9-アントリルアミン、1-フェナントリルアミン、2-フェナントリルアミン、3-フェナントリルアミン、4-フェナントリルアミン、9-フェナントリルアミン等のモノアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0104】
第二級アミン化合物の具体例としては、N-エチルメチルアミン、N-メチル-n-プロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチル-n-ブチルアミン、N-メチル-s-ブチルアミン、N-メチル-t-ブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、ジエチルアミン、N-エチル-n-プロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチル-n-ブチルアミン、N-エチル-s-ブチルアミン、N-エチル-t-ブチルアミン、ジプロピルアミン、N-n-プロピルイソプロピルアミン、N-n-プロピル-n-ブチルアミン、N-n-ブロピル-s-ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、N-n-ブチルイソプロピルアミン、N-t-ブチルイソプロピルアミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(s-ブチル)アミン、ジイソブチルアミン、アジリジン(エチレンイミン)、2-メチルアジリジン(プロピレンイミン)、2,2-ジメチルアジリジン、アゼチジン(トリメチレンイミン)、2-メチルアゼチジン、ピロリジン、2-メチルピロリジン、3-メチルピロリジン、2,5-ジメチルピロリジン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、3,5-ジメチルピペリジン,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、オクタメチレンイミン等といったジアルキルアミン化合物;ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、1,1’-ジナフチルアミン、2,2’-ジナフチルアミン、1,2’-ジナフチルアミン、カルバゾール、7H-ベンゾ[c]カルバゾール、11H-ベンゾ[a]カルバゾール、7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、13H-ジベンゾ[a,i]カルバゾール等といったジアリールアミン化合物;N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-n-プロピルアニリン、N-イソプロピルアニリン、N-n-ブチルアニリン、N-s-ブチルアニリン、N-イソブチルアニリン、N-メチル-1-ナフチルアミン、N-エチル-1-ナフチルアミン、N-n-プロピル-1-ナフチルアミン、インドリン、イソインドリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン等のアルキルアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0105】
第三級アミン化合物の具体例としては、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチル-n-ブチルアミン、N,N-ジメチル-s-ブチルアミン、N,N-ジメチル-t-ブチルアミン、N,N-ジメチルイソブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-メチルジ(n-プロピル)アミン、N-メチルジイソプロピルアミン、N-メチルジ(n-ブチル)アミン、N-メチルジイソブチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチル-n-ブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジ(n-ブチル)エチルアミン、トリ(n-プロピル)アミン、トリ(i-プロピル)アミン、トリ(n-ブチル)アミン、トリ(i-ブチル)アミン、1-メチルアセチジン、1-メチルピロリジン、1-メチルピペリジン等のトリアルキルアミン化合物;トリフェニルアミン等のトリアリールアミン化合物;N-メチルジフェニルアミン、N-エチルジフェニルアミン、9-メチルカルバゾール、9-エチルカルバゾール等のアルキルジアリールアミン化合物;N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ(n-プロピル)アニリン、N,N-ジ(i-プロピル)アニリン、N,N-ジ(n-ブチル)アニリン等のジアルキルアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0106】
とりわけ、本発明の電荷輸送性組成物がアミン化合物を含む場合、本発明で用いるポリチオフェン化合物の分散性や溶解性を向上させる能力に優れることから、当該アミン化合物は、第一級アミン化合物を含むことが好ましく、モノアルキルアミン、特に炭素数2以上20以下のモノアルキルアミンを含むことが好ましい。
【0107】
本発明の電荷輸送性組成物がアミン化合物を含む場合、その含有量は、ポリチオフェン化合物に対して、通常200質量%以下であり、当該アミン化合物による上記効果を得るためには50質量%以上が好ましい。
【0108】
本発明の電荷輸送性組成物の粘度は、通常、25℃で1~50mPa・sであり、表面張力は、通常、25℃で20~50mN/mである。
本発明の電荷輸送性組成物の粘度と表面張力は、用いる塗布方法、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、用いる有機溶媒の種類やそれらの比率、固形分濃度等を変更することで調整可能である。
【0109】
また、本発明における電荷輸送性組成物の固形分濃度は、組成物の粘度及び表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常0.1~15.0質量%程度であり、組成物中の電荷輸送性物質や金属酸化物ナノ粒子の凝集を抑制する等の観点から、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%程度以下、より一層好ましくは5質量%以下である。
【0110】
本発明の電荷輸送性組成物は、例えば、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体と、金属酸化物ナノ粒子と、ノニオン系含フッ素界面活性剤と、有機溶媒を混合することで製造できる。
その混合順序は特に限定されるものではないが、容易に且つ再現性よく、本発明の電荷輸送性組成物を製造できる方法の一例としては、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体、ノニオン系含フッ素界面活性剤等を有機溶媒と混合して混合物を得、その混合物に、予め準備した金属酸化物ナノ粒子ゾルを加える方法や、その混合物を、予め準備しておいた金属酸化物ナノ粒子のゾルに加える方法が挙げられる。この場合において、必要であれば、最後に更に有機溶媒を追加で加えたり、溶媒に比較的溶けやすい一部の成分を混合物中に含めないでそれを最後に加えたりしても良いが、構成成分の凝集や分離を抑制し、均一性に優れる電荷輸送性組成物を再現性よく調製する観点から、良好な分散状態の金属酸化物ナノ粒子ゾルを、その他の成分を含む混合物とは別に準備して、両者を混合し、その後に良く撹拌することが好ましい。なお、金属酸化物ナノ粒子やポリチオフェン誘導体は、共に混合される溶媒の種類や量によっては、混合した際に凝集又は沈殿する可能性がある点に留意する。また、ゾルを用いて組成物を調製する場合、最終的に得られる組成物中の金属酸化物ナノ粒子が所望の量となるように、ゾルの濃度やその使用量を決める必要がある点も留意する。
組成物を調製する際、成分が分解したり変質したりしない範囲で、適宜加熱してもよい。
【0111】
本発明においては、電荷輸送性組成物は、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る目的で、組成物を製造する途中段階で又は全ての成分を混合した後に、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いてろ過しても良い。
【0112】
以上で説明した電荷輸送性組成物を基材上に塗布して焼成等の手段で蒸発させることで、基材上に本発明の電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
【0113】
組成物の塗布方法としては、特に限定されず、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じて組成物の粘度及び表面張力を調節することが好ましい。
【0114】
また、本発明の組成物を用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されず、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面を有する薄膜を得ることが可能であるが、再現性よく高電荷輸送性薄膜を得られることから、大気雰囲気下が好ましい。
【0115】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度等を勘案して、概ね100~260℃の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましい。なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現する等の目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。加熱は、例えばホットプレートやオーブン等の適当な機器を用いて行えばよい。
【0116】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、5~200nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、組成物中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0117】
また、本発明の電荷輸送性組成物を基材上に塗布し、真空乾燥(減圧乾燥)等の手段で蒸発させることで、基材上に、本発明の電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
【0118】
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、上述の本発明の電荷輸送性薄膜を有するものである。
有機EL素子の代表的な構成としては、以下(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層あるいは電子注入輸送層がホール(正孔)ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。更に、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0119】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」及び「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
「電子注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料を含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0120】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層等の陽極と陰極の間の機能層、好ましくは陽極と発光層の間の機能層として用い得るが、正孔注入層に好適である。
【0121】
本発明の電荷輸送性組成物を用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
本発明の電荷輸送性組成物から得られる薄膜をからなる正孔輸送層を有するOLED素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
陽極基板上に、上記の方法により、本発明の電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子輸送層/ホールブロック層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成する代わりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0123】
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属やこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0124】
発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy))等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(LiO)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物が挙げられるが、これらに限定されない
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0127】
正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1’-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1’-ペンテン-5’-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0128】
発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0129】
本発明の電荷輸送性組成物から得られる電荷輸送性薄膜は、上述した通り有機EL素子の機能層として好適に用いられるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ぺロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオード及び有機プラスモン発光素子等の電子素子における電荷輸送性薄膜としても利用することができる。
【実施例
【0130】
[1]スルホン酸基にアミンが付加したポリチオフェン誘導体の合成
[製造例1]
上記式(1a)で表される繰り返し単位を含むポリマーであるポリチオフェン誘導体の水分散液(濃度0.6質量%)500gをトリエチルアミン0.9gと混合し、得られた混合物を回転蒸発により乾固させた。そして、得られた乾燥物を真空オーブン中、50℃で一晩更に乾燥して、スルホン酸基にアミンが付加したポリチオフェン誘導体Xを4g得た。
【0131】
[2]電荷輸送性組成物の調製
[実施例1-1]
製造例1で得たポリチオフェン誘導体X0.032gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)0.73g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)1.93g、n-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.047g、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)4.83g、及び2-(ベンジルオキシ)エタノール(関東化学(株)製)0.97gの混合溶媒に投入し、得られた混合物を80℃で2時間撹拌(350rpm)した後、室温に戻した。
そこへ、予め調製した、上記式(b-1)で表されるアリールスルホン酸化合物の10%エチレングリコール溶液0.32gと、分散媒(金属酸化物ナノ粒子であるSiOがこれに分散している)がエチレングリコールであるオルガノシリカゾルEG-ST(日産化学(株)製、濃度20.5質量%、以下同様)1.16gを加え、得られた混合物を30℃で30分間撹拌した(350rpm)。
最後に、ノニオン系含フッ素界面活性剤としてフタージェント(登録商標)215M((株)ネオス製)0.015gを加え、得られた混合物を30℃で30分間撹拌し、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して3wt%の電荷輸送性組成物Aを得た。
なお、上記式(b-1)で表されるアリールスルホン酸化合物は、国際公開第2006/025342号に記載された方法に従って合成した。
【0132】
[比較例1-1]
215Mを加えていないこと以外は実施例1-1と同様の方法で電荷輸送性組成物Bを得た。
【0133】
[比較例1-2]
EG-STを加えていないこと以外は実施例1-1と同様の方法で電荷輸送性組成物Cを得た。
【0134】
[3]有機EL素子の作製及び特性評価
[実施例2-1]
電荷輸送性組成物Aを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下、60℃で5分間乾燥し、230℃で15分間の加熱焼成を行い、ITO基板上に50nmの薄膜を形成した。ITO基板としては、インジウム錫酸化物(ITO)が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にOプラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPD(N,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニルベンジジン)を0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、関東化学社製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、新日鉄住金化学社製の発光層ホスト材料NS60と発光層ドーパント材料Ir(PPy)を共蒸着した。共蒸着はIr(PPy)の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、Alq、フッ化リチウム及びアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq及びアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nm及び80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤(((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカット WB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製,HD-071010W-40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0135】
【化12】
【0136】
[比較例2-1]
電荷輸送性組成物Aのかわりに電荷輸送性組成物Bを用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0137】
得られた素子を輝度1000cd/mで駆動させた場合における駆動電圧、電流密度、電流効率及び外部量子効率を測定した。結果を表1に示す。また、得られた素子を4.5Vで駆動させた場合の発光画像を図1a及び図1bに示す。
【表1】

図1a及び図1bに示されるように、本発明の電荷輸送性薄膜を有する有機EL素子(実施例2-1)では、発光ムラが確認されなかったのに対し、比較例の電荷輸送性薄膜を有する有機EL素子(比較例2-1)では、発光ムラが観察された。
また、表1に示されるように、本発明の電荷輸送性薄膜を有する有機EL素子(実施例2-1)は、当該薄膜にノニオン系含フッ素界面活性剤が含まれているにもかかわらず、良好な素子特性を示した。
【0138】
[実施例3-1及び比較例3-1]
電荷輸送性組成物Aを、スピンコーターを用いて石英基板に塗布した後、大気中、60℃で5分、次いで120℃で1分間乾燥し、窒素雰囲気下、230℃で30分間の加熱焼成を行い、石英基板上に薄膜(膜厚56nm)を得た。
また、電荷輸送性組成物Aの代わりに電荷輸送性組成物Cを用いた以外は同様の方法で、石英基板上に薄膜(膜厚56nm)を得た。
これらの薄膜の可視光領域(波長:400nm~800nm)の平均透過率は、電荷輸送性組成物Aから得られた薄膜では99.0%であったのに対し、電荷輸送性組成物Cから得られた薄膜では87.4%であった。
このように、金属酸化物ナノ粒子が含有される本発明の電荷輸送性薄膜は、それを含有していない薄膜に比べ、優れた透明性を示した。
図1a
図1b