(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】精度向上を図った熱式マスフローセンサ
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20240214BHJP
G01K 7/42 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
G01K7/42 Z
(21)【出願番号】P 2020545820
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2019016866
(87)【国際公開番号】W WO2019208447
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】スミルノフ,アレクセイ ヴィ.
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512350(JP,A)
【文献】特開2017-110960(JP,A)
【文献】特開平7-56636(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0000981(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
G01K 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスフローコントローラを制御する方法であって、
前記マスフローコントローラの熱式マスフローセンサにガスを供給すること、
前記マスフローコントローラの前記熱式マスフローセンサからのフローセンサ信号を処理して測定フロー信号を生成すること、
前記ガスの流量が変化する際に前記測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、前記測定フロー信号を補正して補正フロー信号を生成すること、並びに、
前記補正フロー信号及びセットポイント信号を用いて前記マスフローコントローラの弁を制御すること
を含んでおり、
前記フローセンサ信号を処理して測定フロー信号を生成することは、前記フローセンサ信号を調整するための定常状態由来の非線形性特性データを利用して前記測定フロー信号を生成することを含み、
前記測定フロー信号を補正
して補正フロー信号を生成することは、
生成した前記測定フロー信号
f
m
と予測センサ感度値S
p との積
f
c
=f
m
×S
p
を求めて補正フロー信号f
c
を生成することを含み、
前記予測センサ感度値S
p は現在のセンサ感度値S
c に向けて徐々に変化する、
方法。
【請求項2】
前記予測センサ感度値S
p の新しい値S
p-new は、S
p-new =k×S
c +(1-k)×S
p-prior (S
p-prior は前記予測センサ感度値S
pの以前の値であり、k=t
s /Tであって、t
s は流量を取得する際のサンプリング間隔であり、Tは時定数である)にて算出される、
請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記時定数Tは2秒以下である、
請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
非線形性補正を徐々に適用することは、前記測定フロー信号を10秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
非線形性補正を徐々に適用することは、前記測定フロー信号を8秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整することを含む、
請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
マスフローコントローラであって、
ガス用の主流路、
前記主流路を通る前記ガスの流量を制御する制御弁、
前記主流路に連結しており、前記ガスの質量流量を示すフローセンサ信号を提供する熱式マスフローセンサ、
前記マスフローコントローラの前記熱式マスフローセンサからの前記フローセンサ信号を処理して測定フロー信号を生成する手段、
前記ガスの流量が変化する際に前記測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、前記測定フロー信号を補正して補正フロー信号を生成する手段、並びに、
前記補正フロー信号を生成する手段及び前記制御弁に連結されており、前記補正フロー信号及びセットポイント信号に基づいて前記制御弁の位置を制御する制御コンポーネント
を備えており、
前記測定フロー信号を生成する手段は、前記フローセンサ信号を調整するための定常状態由来の非線形性特性データを利用して前記測定フロー信号を生成する手段を含み、
前記測定フロー信号を補正
して補正フロー信号を生成する手段は、
生成した前記測定フロー信号
f
m
と予測センサ感度値S
p との積
f
c
=f
m
×S
p
を求めて補正フロー信号f
c
を生成する手段を含み、前記予測センサ感度値S
p は現在のセンサ感度値S
c に向けて徐々に変化する、
マスフローコントローラ。
【請求項7】
前記予測センサ感度値S
p の新しい値S
p-new は、S
p-new =k×S
c +(1-k)×S
p-prior (S
p-prior は前記予測センサ感度値S
pの以前の値であり、k=t
s /Tであって、t
s は流量を取得する際のサンプリング間隔であり、Tは時定数である)にて算出される、
請求項
6に記載のマスフローコントローラ。
【請求項8】
前記時定数Tは2秒以下である、
請求項
7に記載のマスフローコントローラ。
【請求項9】
前記非線形性補正を徐々に適用する手段は、前記測定フロー信号を10秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整する手段を含む、
請求項
6に記載のマスフローコントローラ。
【請求項10】
前記非線形性補正を徐々に適用する手段は、前記測定フロー信号を8秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整する手段を含む、
請求項
9に記載のマスフローコントローラ。
【請求項11】
マスフローコントローラであって、
ガス用の主流路、
前記主流路を通る前記ガスの流量を制御する制御弁、
前記主流路に連結しており、前記ガスの質量流量を示すフローセンサ信号を提供する熱式マスフローセンサ、
前記熱式マスフローセンサからの前記フローセンサ信号を受け取って処理し、測定フロー信号を生成する処理部、
補正フロー信号を生成するためのプロセッサ実行可能な指示が符号化されている非一時的有形のプロセッサ読み取り可能な記録媒体を含む非線形性補償器であって、前記指示は、前記ガスの流量が変化する際に前記測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、前記測定フロー信号を補正して前記補正フロー信号を生成するための指示を含む非線形性補償器、並びに、
前記非線形性補償器及び前記制御弁に連結されており、前記補正フロー信号及びセットポイント信号に基づいて前記制御弁の位置を制御する制御コンポーネント
を備えており、
前記処理部は、前記フローセンサ信号を調整するために定常状態由来の非線形性特性データを利用して前記測定フロー信号を生成するように構成され、
前記指示は、
生成した前記測定フロー信号
f
m
と予測センサ感度値S
p との積
f
c
=f
m
×S
p
を求めて補正フロー信号f
c
を生成する手段を含み、前記予測センサ感度値S
p は現在のセンサ感度値S
c に向けて徐々に変化する、
マスフローコントローラ。
【請求項12】
前記予測センサ感度値S
p の新しい値S
p-new は、S
p-new =k×S
c +(1-k)×S
p-prior (S
p-prior は前記予測センサ感度値S
pの以前の値であり、k=t
s /Tであって、t
s は流量を取得する際のサンプリング間隔であり、Tは時定数である)にて算出される、
請求項
11に記載のマスフローコントローラ。
【請求項13】
前記時定数Tは2秒以下である、
請求項
12に記載のマスフローコントローラ。
【請求項14】
前記非線形性補正を徐々に適用することは、前記測定フロー信号を10秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整することを含む、
請求項
11に記載のマスフローコントローラ。
【請求項15】
前記非線形性補正を徐々に適用することは、前記測定フロー信号を8秒間にわたって調整するために使用されるセンサ感度関数を調整することを含む、
請求項
14に記載のマスフローコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスフローセンサ及びマスフローコントローラに関し、特に、限定はされないが、本発明は、マスフローセンサの精度を向上することに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なマスフローコントローラ(MFC)は、さまざまな工業プロセスの中でも、熱エッチング、ドライエッチングなどの工業プロセスにおけるガスの流量を設定し、測定し、制御する装置である。MFCの重要な部分は、装置を通って流れるガスの質量流量を測定する熱式フローセンサである。
【0003】
(ガスの質量流量に対して完全な線形従属性を有する)理想的なフローセンサ信号とは対照的に、熱式フローセンサにて出力されるフローセンサ信号は、流体の実際の流量に対して非線形であり、熱式フローセンサの感度は
図8に示すようにより大きい流量にて低下する。言い換えると、流量に対するフローセンサ信号の感度は、一定ではなく、流量が増加するにつれて減少する。ここで、感度とは、測定されたガスの質量流量に対するフローセンサ信号の割合を意味する。
【0004】
典型的なマスフローコントローラでは、熱式フローセンサの非線形性が、定常状態条件下でのキャリブレーション中に特徴付けられ、MFCのメモリ内にテーブル形式で非線形性データとして格納される。熱式フローセンサからのフロー信号は非線形性データを用いて調整され、測定流量を提供する。その調整が典型的になされる方法は誤差を含むかまたは不完全であり、結果として、MFCを通って流れる実際の流量に合致しない測定流量を提供してしまうことを、出願人は知見した。例えば、いくつかの例では、
図9に示すように、測定流量のリードバックが既にセットポイントにある一方で、MFCからの実際の流量出力がセットポイントに到達するまでに長時間を要することになる。
【0005】
したがって、フロー信号への非線形性調整による現在の方法の欠点を克服する新規で画期的な特徴を提供できる方法及び/または装置の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
一態様は、マスフローコントローラの熱式マスフローセンサにガスを供給することと、マスフローコントローラの熱式マスフローセンサからのフローセンサ信号を処理して測定フロー信号を生成することとを含む方法に特徴付けられる。ガスの流量が変化する際に測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、測定フロー信号は補正されて補正フロー信号が生成される。この補正フロー信号及びセットポイント信号を用いてマスフローコントローラの弁が制御される。
【0007】
別の態様は、ガス用の主流路と、主流路を通るガスの流量を制御する制御弁と、主流路に連結されてガスの質量流量を示すフローセンサ信号を提供する熱式マスフローセンサとを備えるマスフローコントローラに特徴付けられる。マスフローコントローラは、また、マスフローコントローラの熱式マスフローセンサからのフローセンサ信号を処理して測定フロー信号を生成する手段と、ガスの流量が変化する際に測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、測定フロー信号を補正して補正フロー信号を生成する手段とを備えている。マスフローコントローラの制御コンポーネントは、補正のための前記手段と制御弁とに連結しており、補正フロー信号及びセットポイント信号に基づいて制御弁の位置を制御する。
【0008】
更に別の態様は、ガス用の主流路と、主流路を通るガスの流量を制御する制御弁と、主流路に連結されてガスの質量流量を示すフローセンサ信号を提供する熱式マスフローセンサとを備えるマスフローコントローラに特徴付けられる。マスフローコントローラの処理部は、熱式マスフローセンサからのフローセンサ信号を受け取って処理し、測定フロー信号を生成する。マスフローコントローラの非線形性補償器は、補正フロー信号を生成するためのプロセッサ実行可能な指示が符号化されている非一時的有形のプロセッサ読み取り可能な記録媒体を含んでいる。この指示は、ガスの流量が変化する際に測定フロー信号に非線形性補正を徐々に適用することによって、測定フロー信号を補正して補正フロー信号を生成するための指示を含む。マスフローコントローラの制御コンポーネントは、非線形性補償器と制御弁とに連結しており、補正フロー信号及びセットポイント信号に基づいて制御弁の位置を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】測定フロー信号への非線形性調整のための改良された手法を内蔵したマスフローコントローラ(MFC)のブロック図である。
【
図1B】
図1Aの非線形性補償器の典型的な実施の形態を示すブロック図である。
【
図2】小さい流量でのフローセンサ信号の感度を示すグラフである。
【
図3】
図2に示すよりも大きい流量でのフローセンサ信号の感度を示すグラフである。
【
図4】
図3に示すよりも大きい流量でのフローセンサ信号の感度を示すグラフである。
【
図5A】開示された実施の形態に関連して実行される典型的な方法を示すフローチャートである。
【
図5B】開示された実施の形態に関連して実行される別の典型的な方法を示す別のフローチャートである。
【
図6】実際の流量と
図1AのMFCが新しいセットポイント後に流量を制御している時間とを示す3つのグラフである。
【
図7】
図1Aに示されたMFCの態様を実現するために使用されるMFCの内部コンポーネントを示すブロック図である。
【
図8】従来のマスフローコントローラに一貫して見られる理想的なフローセンサ信号及び実際のフローセンサ信号を示すグラフである。
【
図9】従来のマスフローコントローラに一貫して見られるセットポイント、フローリードバック信号及び実際のフローセンサ信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照すると、
図1Aは、マスフローコントローラ(MFC)100の測定フロー信号161への非線形性調整のための改良された手法を内蔵したMFC100を示している。
図1Bは、MFC100の非線形性補償器165を示す。これらのコンポーネントの図示された配置は、論理上のものであって、実際のハードウェア図を意味しない。よって、実際の実装時にあっては、これらのコンポーネントは、結合されたり、更に分離されたり、消去されたり、及び/または、追加されたりすることができる。当業者であれば、
図1A及び
図1Bに示されるコンポーネントは、ハードウェアにて構成されても良く、ファームウェアと結びついたハードウェアにて構成されても良く、及び/または、ソフトウェアにて構成されても良いことを理解する。また、この明細書を考慮すれば、個々のコンポーネントの構造は当該分野における通常の技術として良く知られている。
【0011】
開示を通して、制御されるガスに関していくつかの例及び実施の形態が述べられるが、そのような例及び実施の形態が、ガスまたは液体である流体に概して適用されることは認識すべきであり、流体は単体の混合物及び/または化合物であっても良い。例えば、液体は硫酸であっても良く、ガスは窒素であっても良い。本適用によれば、MFC100は、ガス状の流体(例えば、窒素)、及び/または液相の流体(例えば、塩酸)を、例えば半導体工場の工具へ送達する。多くの実施の形態におけるMFC100は、高圧、低温状態の流体を異なるタイプのコンテナ、容器へ送達するように構成されている。
【0012】
図示するように、MFC100のベース105は、ガスが流れるバイパス110を有する。バイパス110は、主流路115とセンサ管120とに一定の割合でガスを分配する。結果として、センサ管120を通るガスの流量が、MFC100の主流路115を通って流れるガスの流量を示すことになる。
【0013】
本実施の形態では、センサ管120は、MFC100の熱式マスフローセンサ123の一部をなす小さな孔の管体である。図示するように、センサ素子125,130がセンサ管120の外側に(例えば、巻き付けられて)結合している。一つの例示される実施の形態では、センサ素子125,130は測温抵抗素子(例えば、導線のコイル)であるが、他のタイプのセンサ(例えば、抵抗温度検出器(RTD)、熱電対)を利用しても良い。さらに、別の実施の形態は、異なるセンサ部材、センサからの信号を処理するための異なる構成を、本発明の範囲から逸脱しない限りで利用しても良い。
【0014】
図示するように、センサ素子125,130は、センサ素子回路135に電気的に接続されている。一般的に、センサ素子回路135は、(センサ素子125,130からの信号146,148に応じて)フローセンサ信号150を提供するように構成されている。このフローセンサ信号150は、センサ管120を通る流量を示しているため、MFC100の主流路115を通る流量を示している。
【0015】
フローセンサ信号150は、センサ素子125,130間の温度差に影響を及ぼすセンサ管120に沿った温度プロフィールにより定義される。フローセンサ信号150は、流量の範囲の全体にわたってセンサ管120を通る流量に対して非線形であり、
図8に示すように、フローセンサ信号150の感度はより大きな流量で(より小さな流量に比べて)低下する。
【0016】
図1Aに示すように、フローセンサ信号150は、フローセンサ信号150の処理された表現である測定フロー信号161を生成すべく処理部160で処理される。例えば、測定フロー信号161は、フローセンサ信号150のデジタル表現であって良い。より詳細には、処理部160は、アナログ/デジタル変換器を用いて、フローセンサ信号150を増幅してフローセンサ信号150のデジタル表現に変換する。処理部160は、また、従来から知られているようにフローセンサ信号150にゼロオフセット調整をかけるロジックを含んでいても良い。
【0017】
図示するように、MFC100は、また、非線形性特性データ166を含んでいる。この非線形性特性データ166は、従来から知られていて背景技術にて述べたような(キャリブレーション係数として格納されている)定常状態由来の非線形性特性データを含んでいても良い。図示するように、処理部160は、また、非線形性特性データ166を利用して、(熱式マスフローセンサ123の全体にわたる温度プロフィールが変化する際に)フローセンサ信号150を調整し、大きな流量の場合でも、定常状態条件下でのように(実際の流量に対して)低下しない測定フロー信号161を提供するように構成されている。
【0018】
例えば、非線形性特性データ166のキャリブレーション係数は、
図8にグラフ化されたデータに類似するデータに基づいて生成されても良く、キャリブレーションの後で、例えば、熱式マスフローセンサ123の不正確な出力を補償するためにフローセンサ信号150が調整されても良い。
図8に示すように、例えば、フローセンサ信号150は、100%の流量にあって5%を超えて不正確である。よって、キャリブレーション係数は、実際の流量に合致するように、100%の流量にあってフローセンサ信号150を増加させる係数を含んでいて良い。
【0019】
流量の変化後に新しい温度分布がセンサ管120のセンサ素子125,130全体にわたってすばやく生じるけれども、熱式マスフローセンサ123内の新しく安定した温度プロフィールは流量の変化直後には発生せず、熱式マスフローセンサ123のコンポーネント(例えば、断熱体)内の熱流が温度を変化させて新しく安定した温度プロフィールを立てるには幾ばくかの時間を要することを、出願人は知見した。(温度プロフィールが安定していくときに生じる)伝熱過程の典型的な時定数は、いくつかの例では2~5秒、他の例では2~10秒であり、さらに別の例ではもっと長くなる。
【0020】
(流量が変化した後の)フローセンサ信号150の感度は、たった数秒後に安定化するので、(安定した条件下で生成されたキャリブレーション係数を用いて)実際の流量に対応してフローセンサ信号150に適用される新しい非線形性補正は、(従来適用されるように)即座に適用されるべきではない。その代わりに、非線形性補正は遷移時間中に徐々に変化させるべきである。
【0021】
従来にあっては、流量の範囲の全体にわたる熱式マスフローセンサ123の特性は安定状態の非線形カーブであると考えられている。例えば、キャリブレーションデータは典型的には、キャリブレーションされている熱式マスフローセンサ123が数秒間(例えば、5秒より長い、または、10秒より長い)での各流量値において動作している安定状態条件下での複数の流量値のそれぞれのために取得され、よって、典型的な従来のキャリブレーションデータは、MFC100内部での温度プロフィールが安定していくときに生じるフローセンサ信号150の遷移態様を特徴付けていない。
【0022】
正式の表記では、フローセンサ信号150は、s=FNL(f)(式1)(sはフローセンサ信号150、fは実際の流量、FNLはセンサ非線形性関数)で表される。測定フロー信号161は、フローセンサ信号150にFNL(f)の逆関数を適用して、fm =FNL
-1(s)(式2)(sはフローセンサ信号150、fm は測定フロー信号161)で表される。例えば、流量が0%から100%に変化した場合には、その後直ちに、100%の流量のための非線形性補正がフローセンサ信号150に適用される。しかし、マスフローコントローラの熱特性により、フローセンサ信号150は、1秒後には実際の流量と同じ感度(同じ非線形性)を呈さず、10秒後に同じ感度を呈する。
【0023】
流量が0%から100%に変化した後に、熱式マスフローセンサ123内の温度プロフィール及び熱流が100%の流量で安定するまでには数秒を要する。この時間中に、フローセンサ信号150の感度も変化するので、(典型的な従来のマスフローコントローラの)定常状態由来の非線形性キャリブレーションデータの適用が不正確な結果を生み出す。より正確な流量信号を生成するために、この徐々の感度変化をモデル化することにより、ここで開示する補正手法は上記の不正確な結果を考慮する。
【0024】
例えば、
図2~
図4を参照すれば、セットポイントが経時的に変化した後にフローセンサ信号150の感度がどのように徐々に安定化するかが表されている。例えば、
図2によれば、(点A,B,及びCで示される)非常に小さい流量の場合に、フローセンサ信号150の感度は時刻t
1 (点A)、t
2 (点B)、及びt
3 (点C)の3つの対応する点でほぼ一定である。
【0025】
しかし、点Cから点D(点Dは点Cより大きい流量を示す)へ流量の変化があると(
図3に示すように)、フローセンサ信号150の感度は時刻t
4 から次の時刻t
5 にかけて減少する。よって、点Dにおける同じ実際の流量について、時刻t
5 でのフローセンサ信号150は時刻t
4 でのフローセンサ信号150よりも小さくなる。
【0026】
そして
図4に示すように、質量流量が点Dでの質量流量から再び増加して時刻t
6 での点Eで示される質量流量に到達すると、フローセンサ信号150の感度は時刻t
6 から、時刻t
7 にてフローセンサ信号150が(より低い感度に)安定化するまで減少する。要するに、
図2~
図4は、小さな流量間(例えば、点A,B,及びCでの流量)での変化中ではフローセンサ信号150の感度はほぼ一定であるが、より大きい流量(例えば、時刻t
4 での点Dで示される流量)への流量変化がある場合にはフローセンサ信号150の感度は安定するまで数秒間減少する。
【0027】
このように、フローセンサ信号150の感度を減少させるこの一時的な数秒(例えば、流量の変化後に質量流量が大きな流量に到達した後)を補償しない従来の手法は、(流量の変化後のこの一時的な時間中に)質量流量の不正確な測定を生じることになる。さらに、比較的大きい質量流量(例えば、90%)から別の比較的大きい質量流量(例えば、60%)へ変化が生じた場合に、同様の問題が存在する。なぜなら、流量が減少した場合にフローセンサ信号150の感度が徐々に増加するからである。感度を増加した影響は、最終の流量が比較的小さいとき(例えば、点A,B,及びCなど)には認知されないが、点Eでの流量から点Dでの流量に遷移するときには認知される。よって、徐々の補正ではない即時の非線形性補正により、流量の大きな測定エラ-が起こり得る。
【0028】
従来におけるこの欠点を克服するために、
図1Aに示される実施の形態では、測定フロー信号161が非線形性補償器165に送られ、非線形性補償器165は、流量が新しい流量(例えば、点Eで示される流量)に変化した後の遷移時間中(例えば、時刻t
6 から時刻t
7 )に徐々に非線形性補正を提供する。図示するように、非線形性補償器165で提供される補正は、制御コンポーネント170に送られる補正フロー信号167をもたらし、この実施の形態における制御コンポーネント170は、センサ素子125,130、センサ素子回路135、処理部160、非線形性補償器165、及びセットポイント信号186を含む制御システムの一部を構成する。
【0029】
図1Aにあっては、非線形性補償器165が直接的に制御コンポーネント170に接続されているが、非線形性補償器165と制御コンポーネント170との間に追加の処理コンポーネントを設けても良いことは理解されるべきである。例えば、補正フロー信号167が、制御コンポーネント170に送られる前に、圧力及び/または温度の測定結果に応じて更に修正されるようにしても良い。別の例として、補正フロー信号167が、制御されるガスの構成成分に基づいて修正されるようにしても良い。本発明の範囲を逸脱しない限り、追加の処理が補正フロー信号167に施されるようにしても良い。
【0030】
制御コンポーネント170は概して、セットポイント信号186に基づく流量を提供する制御弁140の位置を制御するための制御信号180を生成するように構成されている。制御弁140は、圧電式弁またはソレノイド弁にて実現されて良く、制御信号180は、電圧(圧電式弁の場合)または電流(ソレノイド弁の場合)であって良い。
【0031】
例えば、ここに開示される非線形性補償器165の実施形態は、流量の変化直後に生じる一時的な熱の課題を補償する。より詳細には、この補償を達成するために、非線形性補償器165は、流量の変化後の測定フロー信号161に対して徐々の調整を施す。
【0032】
より正式の表記では、「センサ感度関数」Fsは、Fs(f)=FNL(f)/f(式3)(FNLはマスフローセンサ非線形性キャリブレーションデータ(非線形性特性データ166)を表す非線形性関数、fは流量)で導出される。特定の流量fについて、その関数は、原点と流量fに対応する関数値FNL(f)での点とを通る直線の傾きを表している。それから、フローセンサ信号150は、s=f×Fs(f)(式4)で定義される。種々の実施の形態によれば、実際の流量fが速く変化する場合に、式4の「f」因子は、(熱式マスフローセンサ123のセンサ素子125,130の全体にわたる温度分布の速い変化を表す)フローセンサ信号150の対応した速い変化となり、一方で、感度関数Fs(f)は徐々に変化する(熱式マスフローセンサ123内のゆっくりした熱処理を表す)。新しいフローセンサ信号150(s)が処理部160で受け取られると、測定フロー信号161(fm )が式2に応じて処理部160で算出される。
【0033】
次に
図1Bを参照すると、非線形性補償器165の典型的な実施の形態を示すブロック図が示されている。
図1Bを参照する一方で、ここに開示された実施の形態に関連して実行される典型的な方法を示すフローチャートである
図5Aが同時に参照される。フローセンサ信号150(s)が処理部160で得られると(ブロック500)、測定フロー信号161(f
m )が式2に応じて処理部160で生成される(ブロック502)。
【0034】
示すように、センサ感度モジュール168は、測定フロー信号fm について式3に応じてセンサ感度値169を算出する(ブロック504)。センサ感度モジュール168は、また、式3を実行するために、(センサ非線形性関数FNLを表す)非線形性キャリブレーションデータ166を受け取る。そして、センサ感度予測モジュール173は、センサ感度値169を用いて予測センサ感度値171(Sp )を生成する(ブロック506)。より詳細には、予測センサ感度値171(Sp )は、熱式マスフローセンサ123の内部モデル及び/または経験的データに基づいて算出されて良い。
【0035】
多くの実装にあって、予測センサ感度値171の新しい値Sp-new は、予測センサ感度値171の以前の値Sp-prior 及び現在のセンサ感度値Sc に基づいて順次算出され、予測センサ感度値Sp は、現在のセンサ感度値169(Sc )に向けて徐々に変化する。予測センサ感度値Sp の変化の割合は、予測センサ感度値Sp と現在のセンサ感度値169(Sc )との差に比例する。例えば、新しい値Sp-new は、Sp-new =k×Sc +(1-k)×Sp-prior (式5)(Sp-new は式5で算出した予測センサ感度値171の新しい値であり、Sp-prior は式5で算出する前の予測センサ感度値171の以前の値であり、k=ts /Tであって、ts はサンプリング間隔(サンプリングされた流量間の間隔)であり、Tは熱式マスフローセンサ123内の熱処理の時定数である(ts 及びTの単位は秒))を用いて、各サンプリング点で算出されても良い。この実装では、安定した流量f1 から新しい流量f2 へ流量が変化したとすると、予測センサ感度値Sp は最初の値S1 =Fs(f1 )から最後の値S2 =Fs(f2 )まで、時定数T:Sp (t)=S2 +(S1 -S2 )×exp(-t/T)にて指数関数的に変化する。この時定数Tはf1 及びf2 に基づいて変動する。
【0036】
示すように、補正モジュール172は、測定フロー信号161を補正して補正フロー信号167を生成する(ブロック508)。補正モジュール172は、fc =fm ×Sp (fc は補正フロー信号167であり、Sp は予測センサ感度値171であり、fm は測定フロー信号161である)にて補正フロー信号167を生成して良い。補正フロー信号167は、マスフローコントローラの弁を制御するために使用される(ブロック510)。
【0037】
図5Bを参照すると、流量の変化を引き起こすセットポイントの変化が存在する際のここに開示された実施の形態に関連して実行される方法を示すフローチャートである。示すように、ガスの最初の流量のための最初のセットポイントsp
1 が得られる(ブロック550)。この最初のセットポイントsp
1 は、マスフローコントローラ100が少しの間(例えば、数秒間または数分間)作動していた最初の流量f
1 に対応している。例示の目的のために、最初のセットポイントsp
1 はマスフローコントローラ100の最大セットポイントの50%であって良い。新しいセットポイントsp
2 がセットポイント信号186を介して受け取られると、流量は次の流量f
2 に変わる(ブロック552)。例示を続けるために、新しいセットポイントsp
2 はマスフローコントローラ100の最大セットポイントの100%であって良い。
【0038】
示すように、熱式マスフローセンサ123からのフローセンサ信号150が得られ(ブロック554)、フローセンサ信号150に非線形性補正を徐々に適用することにより、フローセンサ信号150が補正される(ブロック556)。
図1Aに示す実施の形態では、フローセンサ信号150が、処理部160にて最初に、測定フロー信号161を得るために、(アナログ信号からデジタル信号への変換を含めて)処理され、次いで、測定フロー信号161に対して非線形性補正を徐々に適用して補正フロー信号167を得るように、測定フロー信号161が非線形性補償器165にて補正される。
【0039】
よって、この補正(ブロック556)はいくつかの動作を含んでいて良いが、従来とは異なり、(例えば、
図8に示すような特性データから得られた)熱式マスフローセンサ123の感度は、流量の変化後に温度プロフィールが安定化していく遷移期間中に徐々に調整される。上述したように、結果として、センサ感度値は、最初の流量f
1 での最初の値S
1 =Fs(f
1 )から、次の流量f
2 での次の値S
2 =Fs(f
2 )まで、時定数T:S
p (t)=S
2 +(S
1 -S
2 )×exp(-t/T)にて指数関数的に変化する。この時定数Tは、最初の流量f
1 及び次の流量f
2 に基づいて変動する。
【0040】
ここで開示した実施の形態の利点と、
図5Bに示される方法とは、
図6を参照して示される。
図6には、新しいセットポイントsp2 がより低い最初のセットポイントsp1 から100%に変化した後にMFC100が流量を制御している場合における、実際の流量と時間との関係を表す3つのグラフが示されている。線1は、MFC100が不正確な測定フロー信号161を用いて流量を制御している場合の実際の流量を示している。示すように、温度プロフィールが安定化していく期間(約0.7秒と8秒との間)では、測定流量があまりにも大きいので、実際の流量は非常に小さい。
【0041】
線2は、MFCが補正フロー信号167を用いて1秒の時定数にて流量を制御している場合の実際の流量を示している。線3は、MFCが補正フロー信号167を用いて2秒の時定数にて流量を制御している場合の実際の流量を示している。
【0042】
3つの異なるグラフは、最初は非常に類似しており約98%まで急速に増加する。このことは、急速に変化するセンサ管120の全体にわたる温度プロフィールに一致する。しかし、約0.7秒で)約98%に到達した後は、熱式マスフローセンサ123の温度プロフィールは、セットポイント変化後の約8秒で安定化するまでゆっくりと変化する。
【0043】
次に
図7を参照すると、
図1A及び
図1Bを参照して示されるMFC100を実現するために利用され得る内部コンポーネント1100を表すブロック図が示されている。示すように、表示部1112及び不揮発性メモリ1120は、ランダムアクセメモリ(RAM)1124、(N個の処理コンポーネントを含む)処理部1126、ソレノイド/ピエゾ型弁1130に連結している弁駆動コンポーネント1128、インターフェイスコンポーネント1132、通信コンポーネント1134、及びマスフローセンサ1136が連結しているバス1122に連結している。
図7に示すコンポーネントは内部のコンポーネントを表しているが、
図7はハードウェア図を意図しているのではなく、
図7に示されるコンポーネントの多くは、共通の構成で実現されるかまたは追加の内部コンポーネント中に分配されても良い。さらに、他の現存する及びまだ開発されていない内部コンポーネント及び構造が、
図7を参照して示されている機能コンポーネントを実装するために利用され得ることは、間違いなく予期される。
【0044】
表示部1112は概して作動してユーザに内容の表示を提供し、いくつかの実装では、表示部1112はLCD表示装置またはOLED表示装置で実現される。例えば、表示部1112は、補正フロー信号167のグラフ的または数的な表現として、指し示された流量を提供して良い。一般的に、不揮発性メモリ1120は、デ-タと
図1A及び
図1Bに示された機能コンポーネントに関連するコードを含む実行可能なコードとを格納する(例えば、永続的に格納する)ように機能する。例えばいくつかの実施の形態にあっては、不揮発性メモリ1120は、ブートローダコード、ソフトウェア、作動システムコード、ファイルシステムコード、及び、
図1A及び
図1Bに関連して述べられたコンポーネントの1または複数の部分の実装を容易にするためのコードを含んでいる。別の実装にあっては、
図1A及び
図1Bに示される1または複数のコンポーネントを実装するために、専用のハードウェアが利用されても良い。例えば、
図1A及び
図1Bに示される非線形性補償器165を実現するために、デジタル信号プロセッサが利用されても良い。
【0045】
多くの実装において、不揮発性メモリ1120はフラッシュメモリ(例えば、NANDまたはONENANDメモリ)で実現されるが、他のタイプのメモリが利用され得ることは容易に予想される。不揮発性メモリ1120からのコードを実行することは可能であるが、不揮発性メモリ1120内の実行可能なコードが典型的にRAM1124にロードされて処理部1126内のN個の処理コンポーネントのうちの1または複数にて実行される。示すように、処理部1126は、制御コンポーネント170にて実行される機能によって利用されるアナログの温度及び圧力の入力を受け取るようにしても良い。
【0046】
RAM1124に接続されたN個の処理コンポーネントは一般的に作動して、
図1A及び
図1Bに示される機能コンポーネントを発効させるために不揮発性メモリ1120に格納されている指示を実行する。
【0047】
インターフェイスコンポーネント1132は一般的に、ユーザがMFC100と相互に作用し合えるようにする1または複数のコンポーネントを表現する。インターフェイスコンポーネント1132は、例えば、キーパッド、タッチスクリーン、及び1または複数のアナログまたはデジタルのコントローラを含んでおり、インターフェイスコンポーネント1132がユーザからの入力をセットポイントに翻訳するように使用されても良い。また、通信コンポーネント1134は一般的に、MFC100が外部の処理ツールを含む外部のネットワーク及び装置と通信できるようにする。例えば、指し示された流量は通信コンポーネント1134を介して外部の装置へ通信されても良い。当業者であれば、通信コンポーネント1134が、様々な無線通信(例えば、WiFi)及び有線通信(例えば、イーサーネット)が可能である(例えば、集積されたまたは分散された)コンポーネントを含んでも良いことを認識する。
【0048】
図7に示されたマスフローセンサ1136は、
図1Aに示された熱式マスフローセンサ123を実現するために当業者に知られたコンポーネントの集まりを示している。これらのコンポーネントは、センサ素子、増幅器、アナログ/デジタル変換器、フィルタを含んでも良い。
【0049】
当業者であれば、ここで述べられた情報及び信号が様々な異なる技術及び手法を用いて表現されて良いことを認識する。例えば、上述の記載を通して参照されて良いデータ、指示、命令、情報、信号、ビット、シンボル、及びチップは、電圧、電流、電磁波、磁場もしくは磁性粒子、光波場もしくは光学粒子、または、それらの組み合わせで表現されても良い。さらに、ここで開示された実施の形態に関連して述べられた種々の例示された論理ブロック、モジュール、回路、及び、アルゴリズムステップは、
図7に示されたものとは異なる別のコンポーネントによって実装されても良い。
【0050】
これらの実施の形態に対する種々の変更は当業者にとって明らかであり、ここで定義される一般原則が、本発明の精神及び範囲を逸脱しないで他の実施の形態に適用されても良い。よって、本発明は、ここに示された実施の形態に限定されることを意図してはおらず、ここで開示された原理及び新規な特徴に一致する最も広い範囲に符合する。