(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20240214BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20240214BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/097 365
G03G9/097 351
G03G9/097 375
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2020553795
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041264
(87)【国際公開番号】W WO2020090537
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018204946
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 浩二朗
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-233016(JP,A)
【文献】特開2012-133192(JP,A)
【文献】特開2012-118271(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047296(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/011424(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
前記結着樹脂が、少なくともモノビニル単量体を含む重合性単量体の重合体を含有し、
前記重合体の重量平均分子量が、30000以上80000以下であり、
前記軟化剤がエステルワックスであり、前記軟化剤の含有量が、前記モノビニル単量体100質量部に対し、12質量部以上
15質量部以下であり、
前記帯電制御剤の含有量が、前記モノビニル単量体100質量部に対し、1.7質量部以上15質量部以下であり、
トナーの動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が
1.57以下であり、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過145℃未満であり、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が38000Pa以下であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
フローテスターにて、圧力5.0kgf/cm
2の条件で測定される1/2法における軟化温度(T
1/2)が、110℃超過150℃未満である、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記帯電制御剤が官能基含有共重合体を含有し、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合が3質量%以下である、請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記結着樹脂が、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法、及び静電印刷法等において静電潜像を現像するために用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置、及び静電印刷装置等の画像形成装置においては、感光体上に形成される静電潜像をトナーで現像し、トナー像を紙等の転写材上に転写した後、加熱等により定着することで、定着画像が形成される。
近年、このような画像形成装置において、高画質化及び高速印刷化に対応するものが望まれており、高画質な画像を形成できるトナー、及び耐ホットオフセット性を向上したトナー等の開発が試みられている。
【0003】
例えば特許文献1には、トナーに含まれる結着樹脂として、ガラス転移温度(Tg)から損失弾性率(G”)がG”=1×104Paになる温度の間に、該結着樹脂のtanδの極小が存在し、そのtanδの極小値が1.2未満であり、そのtanδの極小における温度での貯蔵弾性率(G’)がG’=5×105Pa以上であり、且つ、G”=1×104Paになる温度でのtanδの値が3.0以上であるポリエステル樹脂を用いることが開示されている。特許文献1には、結着樹脂中にビニル系樹脂の含有量が多すぎると、耐ホットオフセット性が低下すると記載されている。
【0004】
特許文献2には、体積平均粒径が1μm以下の耐磨耗性添加剤を分散した表面層を有する定着部材と、動的粘弾性温度依存性測定において、tanδのピークが40℃以上70℃以下の範囲に存在し、かつ、該ピーク値が2.0未満であるトナーとを組み合わせて用いる画像形成方法が開示されている。特許文献2には、該ピーク値を2.0未満に制御する方法として、非晶性ポリエステル樹脂をトナーの結着樹脂として用い、更にトナー中に粒径0.1μm以下の微粒子を分散させる方法と、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせてトナーの結着樹脂として用いる方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、結着樹脂、着色剤、離型剤、及び電荷制御剤を含有し、前記離型剤は、極性基を有するワックスを含み、周波数10kHz、せん断応力500Paで粘弾性測定装置により測定される、80~145℃におけるtanδの値が1~2であり、温度-tanδ曲線において180℃以下に破断点が観測される、静電荷像現像用トナーが開示されている。特許文献3には、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-194542号公報
【文献】特開2009-151005号公報
【文献】特開2013-88503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたトナーは、耐ブロッキング性を示し、光沢度の高い画像を形成可能であるものの、耐ホットオフセット性に関しては不十分であり、更なる向上が求められる。特許文献2に開示された画像形成方法では、ホットオフセットの発生は抑制されるものの、トナーが保管時にブロッキングを起こす場合や、画像の光沢度が低下する場合がある。特許文献3に開示されたトナーは、低温定着性に優れ、耐熱保存性が向上されているものの、耐ホットオフセット性が不十分な場合や、画像の光沢度が低下する場合がある。
このように、トナーの低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の全てが良好であり、更に画像の光沢度も良好となるようなトナーを得ることは困難であった。
【0008】
本開示は、良好な低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性を有しながら、画像の光沢度の低下を抑制するトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討したところ、トナーの組成を調整して、特定の粘弾性特性を満たすものとした場合に、保管時のブロッキングが抑制され、低温定着が可能であり、耐ホットオフセット性に優れ、更に形成される画像の光沢度の低下が抑制されることを見出し、本開示に至った。
【0010】
すなわち、本開示のトナーは、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
トナーの動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70以下であり、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過145℃未満であり、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が56000Pa未満であることを特徴とする。
【0011】
本開示のトナーにおいては、フローテスターにて、圧力5.0kgf/cm2の条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)が、110℃超過150℃未満であってもよい。
【0012】
本開示のトナーにおいては、前記帯電制御剤が官能基含有共重合体を含有し、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合が3質量%以下であってもよい。
【0013】
本開示のトナーにおいては、前記結着樹脂が、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の全てが良好であり、更に、形成される画像の光沢度の低下を抑制するトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1のトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示のトナーは、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
トナーの動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70以下であり、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過145℃未満であり、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が56000Pa未満であることを特徴とする。
【0017】
以下、本開示のトナーの粘弾性特性、本開示のトナーに使用される着色樹脂粒子の製造方法及び着色樹脂粒子、本開示のトナーに使用される外添剤、並びに、本開示のトナーの性能について、順に説明する。
【0018】
1.トナーの粘弾性特性
本開示のトナーは、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線の線形が、以下のような特徴を有する。すなわち、50℃以上90℃未満の範囲内に少なくとも1つのピークを有し、90℃に最も近いピークのtanδが最大値となる温度を超えると、温度上昇に伴いtanδが減少して、tanδが1.00未満の極小点に達し、当該極小点となる温度を超えると、温度上昇に伴いtanδが増加して、tanδが1.50に達し、tanδが1.50となる温度(Ta)よりも高い温度領域においては、tanδの最大値が1.50超過となるピークを有するか、tanδが1.5超過1.8以下の範囲内でほぼ一定の値となるか、又はtanδが上昇し続ける。ここで、前記極小点となる温度は、通常80℃以上100℃以下の範囲内である。
また、本開示のトナーは、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70以下であり、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過145℃未満であり、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が56000Pa未満である。
ここで、損失正接(tanδ)は、動的粘弾性測定により測定される貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)との比(G’’/G’)で定義されるものである。
本開示において、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線が、50℃以上90℃未満の温度領域に有する1つ以上のピークのうち、最も低温側のピークにおいて、tanδが最大値となる温度のうちの最も低い温度として特定される。なお、ノイズ等の測定由来の細かい上下変動については、前記ピークと解釈しない。
【0019】
本開示において、前記動的粘弾性測定は、回転平板型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、パラレルプレート又はクロスハッチプレートを用いて、下記条件にて行われる。
周波数:1Hz
サンプルセット:試験片(2~4mm厚)を8mmφプレートにて20g荷重で挟む
昇温速度:5℃/分
温度範囲:40℃から150℃
なお、サンプルセットの際には治具の融着のために温度を40℃で1分間静置した後、40℃から昇温を開始する。これにより、軟化剤の分散構造を崩さず、耐熱温度領域でのtanδと保存性(耐ブロッキング性)の関係を見積もることができる。
試験片は、本開示のトナーを8mmφの筒状の成型器に0.2g注ぎ、1.0MPaで30秒加圧して、厚み2~4mmで8mmΦの円柱の成形体とすることで作製できる。
【0020】
本開示のトナーは、前記ガラス転移温度(Tg)、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)、及び前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)の全てが各々制御された前記特定の粘弾性特性を有することにより、従来のトナーでは実現が困難であった、低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の全てが良好でありながら、画像の光沢度の低下を抑制することができるトナーである。
トナーの粘弾性特性は、例えば、トナーに含まれる着色樹脂粒子が含有する結着樹脂の組成及び重量平均分子量Mw、着色剤の種類、軟化剤の種類及び分子量、帯電制御樹脂のガラス転移点(Tg)、重量平均分子量Mw及び添加量、並びに、外添剤の種類及び添加量等を適宜変更することにより制御することができる。トナーの粘弾性の具体的な制御方法については、後述する各成分の好ましい形態と併せて説明する。
【0021】
本開示のトナーは、前記ガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70以下であることにより、保管時のブロッキングが抑制され、保存性が良好になる。
トナーの前記ガラス転移温度(Tg)は、55℃以上80℃以下であってもよく、57℃以上70℃以下であってもよい。
トナーの前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)は、保管時のブロッキングがより抑制される点及び画像の光沢度の低下を抑制する点から、1.55以下であることが好ましく、1.50以下であることがより好ましく、1.40以下であることがより更に好ましい。前記tanδの下限は特に限定はされないが、定着性の点から、1.00以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。
【0022】
本開示のトナーは、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過であることにより耐ホットオフセット性が良好であり、前記温度(Ta)が145℃未満であることにより、低温定着性が良好になり、画像の光沢度の低下が抑制される。前記温度(Ta)は、耐ホットオフセット性を向上する点から、102℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、一方で、低温定着性を向上し、画像の光沢度を向上する点から、140℃以下であることが好ましい。
【0023】
本開示のトナーは、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が56000Pa未満であることにより、形成される画像の光沢度の低下を抑制することができる。前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)は、画像の光沢度を向上する点から、38000Pa以下であることが好ましく、30000Pa以下であることがより好ましい。
【0024】
また、本開示のトナーは、フローテスターにて、圧力5.0kgf/cm2の条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)が、110℃超過150℃未満であることが、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の点及び画像の光沢度の低下を抑制する点から好ましい。前記軟化温度(T1/2)は、中でも、耐ホットオフセット性を向上する点から、115℃超過であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、一方、低温定着性及び画像の光沢度を向上する点から、134℃未満であることが好ましく、132℃未満であることがより好ましい。トナーの前記軟化温度(T1/2)は、例えば、結着樹脂の組成等により調整できる。
【0025】
前記フローテスターにて、圧力5.0kgf/cm2の条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)は、島津製作所製のフローテスター(商品名CFT-500C)を用いて、下記の測定条件で測定される流動曲線(ピストンストローク-温度)から求めることができる。具体的には、流動曲線において、流出終了点でのピストンストロークと、ピストンストロークの最低値との差の1/2を求め、求めた値と前記最低値との和となる位置の温度として、前記軟化温度(T1/2)を求めることができる。
(測定条件)
開始温度:35℃
昇温速度:3℃/分
予熱時間:5分
シリンダ圧力:5.0kgf/cm2
ダイ穴径:0.5mm
ダイ長さ:1.0mm
試料投入量:1.0~1.3g
【0026】
2.着色樹脂粒子の製造方法
一般に、着色樹脂粒子の製造方法は、粉砕法等の乾式法、並びに乳化重合凝集法、懸濁重合法、及び溶解懸濁法等の湿式法に大別される。中でも、画像再現性等の印字特性に優れたトナーが得られ易いことから湿式法が好ましい。
湿式法による着色樹脂粒子の製造方法においては、公知の方法を用いることができる。
前記乳化重合凝集法では、乳化させた重合性単量体を重合し、樹脂微粒子エマルションを得て、着色剤分散液等と凝集させ、着色樹脂粒子を製造する。
前記懸濁重合法では、重合性単量体と着色剤等のトナー成分を混合した重合性単量体組成物を水系溶媒中に分散させて液滴形成した後、重合性単量体を重合して着色樹脂粒子を製造する。
前記溶解懸濁法では、結着樹脂や着色剤等のトナー成分を有機溶媒に溶解又は分散した溶液を水系溶媒中に分散させて液滴形成した後、当該有機溶媒を除去して着色樹脂粒子を製造する。
湿式法の中でも、ミクロンオーダーで比較的小さい粒径分布を持つトナーを得やすいことから、乳化重合凝集法及び懸濁重合法等の重合法が好ましく、重合法の中でも懸濁重合法がより好ましい。
なお、本開示において水系溶媒とは、少なくとも水を含む溶媒であり、必要に応じて水溶性有機溶媒等の有機溶媒を更に含んでいても良い。前記水系溶媒は、水を50質量%超過の割合で含有することが好ましい。
以下、湿式法の中でも特に好ましい懸濁重合法による着色樹脂粒子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0027】
(A)懸濁重合法
懸濁重合法による着色樹脂粒子の製造方法としては、例えば、
重合性単量体、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を調製する工程と、
前記重合性単量体組成物を水系溶媒中に分散させて、前記重合性単量体組成物の液滴形成を行う工程(以下、液滴形成工程又は造粒工程という場合がある)と、
前記液滴形成後に、前記重合性単量体を重合させる工程(以下、懸濁重合工程という場合がある)と、
を有する製造方法を挙げることができる。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0028】
(A-1)重合性単量体組成物を調製する工程
重合性単量体組成物は、重合性単量体、着色剤、軟化剤(離型剤)及び帯電制御剤を含有し、トナーが前記特定の粘弾性特性を有する範囲で、必要に応じて、分子量調整剤等のその他の添加物を更に含有していてもよい。
重合性単量体組成物は、例えば、重合性単量体組成物が含有する各成分を混合することにより、調製することができる。重合性単量体組成物を調製する際の混合は、例えば、メディア式分散機を用いて行う。
【0029】
(重合性単量体)
本開示において、重合性単量体とは、重合可能な官能基を有するモノマー及びマクロモノマーのことをいい、重合性単量体が重合して、着色樹脂粒子中の結着樹脂となる。
前記重合性単量体は、主成分として、モノビニル単量体を含有することが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点から好ましく、具体的には、重合性単量体の全量100質量部中、モノビニル単量体を50質量部以上の割合で含有することが好ましい。
前記モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、及びα-メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、及びメタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等の二トリル化合物;アクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のオレフィン;が挙げられる。中でも、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点、及びトナーの環境安定性を向上することができ、特に、湿度変化によるトナーの帯電の変化を抑制することができる点から、前記モノビニル単量体が、スチレン、スチレン誘導体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することがより好ましく、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有することがより更に好ましい。また、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点、及びトナーの環境安定性を向上する点から、アクリル酸エステルとしては、中でも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸プロピル及びアクリル酸2-エチルへキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタクリル酸エステルとしては、中でも、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸プロピル及びメタクリル酸2-エチルへキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0030】
前記モノビニル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点、及びトナーの環境安定性を向上する点から、前記モノビニル単量体の合計100質量部中、前述の好ましいモノビニル単量体の合計が、60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがより更に好ましく、90質量部以上であることが特に好ましい。
また、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点、及びトナーの環境安定性を向上する点から、前記モノビニル単量体が、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有し、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの合計との質量比(スチレン:(メタ)アクリル酸エステル)が、50:50~90:10の範囲内であることが好ましく、60:40~80:20の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
前記重合性単量体が前記モノビニル単量体以外の重合性単量体を含有する場合、前記モノビニル単量体の含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整される。特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点、及びトナーの環境安定性を向上する点から、前記重合性単量体の全量100質量部に対し、前記モノビニル単量体の含有量が、90質量部以上であることが好ましく、95質量部以上であることがより好ましく、98質量部以上であることがより更に好ましい。
【0032】
前記重合性単量体は、前記モノビニル単量体とともに、架橋性の重合性単量体を含有していてもよい。前記重合性単量体に架橋性の重合性単量体を含有させることにより、トナーの粘弾性を調整することができ、保存性及び耐ホットオフセット性を向上しやすい点から好ましい。
ここで、架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。
架橋性の重合性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールにカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、及びジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができ、中でも、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、及び前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点から、芳香族ジビニル化合物が好ましい。
前記架橋性の重合性単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
前記重合性単量体が前記架橋性の重合性単量体を含有する場合、前記架橋性の重合性単量体の含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点、及び前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい点から、前記モノビニル単量体100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.06質量部以上1.5質量部以下がさらに好ましく、0.08質量部以上0.8質量部以下であることがより好ましい。前記架橋性の重合性単量体の含有量を調整することにより、前記温度(Ta)及び前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)を調整することができる。前記架橋性の重合性単量体の含有量が多いほど、前記ガラス転移温度(Tg)以上の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が増加し、前記温度(Ta)が高くなる傾向がある。
【0034】
前記重合性単量体は、前記モノビニル単量体とともに、マクロモノマーを含有していてもよい。前記重合性単量体にマクロモノマーを含有させることにより、トナーの保存性と低温定着性とのバランスを向上することができる。
マクロモノマーとしては、例えば、分子鎖の末端に重合可能な炭素-炭素不飽和二重結合を有するもので、数平均分子量が、通常、1,000以上30,000以下の反応性の、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。前記マクロモノマーとしては、例えば、スチレンマクロモノマー、スチレン-アクリロニトリルマクロモノマー、ポリアクリル酸エステルマクロモノマー及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマー等を挙げることができる。中でも、トナーのガラス転移温度(Tg)を制御しやすい点から、ポリアクリル酸エステルマクロモノマー及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。ポリアクリル酸エステルマクロモノマーに用いられるアクリル酸エステルとしては、例えば、前記モノビニル単量体として使用可能なアクリル酸エステルと同様のものを挙げることができ、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマーに用いられるメタクリル酸エステルとしては、例えば、前記モノビニル単量体として使用可能なメタクリル酸エステルと同様のものを挙げることができる。前記マクロモノマーとしては、中でも、前記重合性単量体に含有させることにより、含有させない場合よりも、得られる結着樹脂のガラス転移温度(Tg)が高くなるものを適宜選択して用いるのが、トナーのガラス転移温度(Tg)を前記好ましい範囲内にしやすい点から好ましい。
前記マクロモノマーとしては、市販品を用いてもよい。前記マクロモノマーの市販品としては、例えば、東亞合成(株)製のマクロモノマーシリーズAA-6、AS-6、AN-6S、AB-6、AW-6S等を挙げることができる。
前記マクロモノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
前記重合性単量体が前記マクロモノマーを含有する場合、前記マクロモノマーの含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、前記モノビニル単量体100質量部に対して、0.03質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすく、耐ホットオフセット性と、保存性の低下抑制及び画像のグロス低下抑制を両立しやすい点、及び低温定着性にも優れる点から、前記重合性単量体としては、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体であることが好ましく、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有するモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体であることがより好ましい。
【0037】
前記重合性単量体の合計含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記重合性単量体組成物に含まれる全固形分100質量部に対し、60質量部以上95質量部以下であることが好ましく、65質量部以上90質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上85質量部以下であることがより更に好ましい。
なお、本開示において固形分とは、溶媒以外の全ての成分をいい、液状の単量体等も固形分に含まれる。
【0038】
(着色剤)
前記重合性単量体組成物が含有する着色剤は、従来トナーに用いられている着色剤を適宜選択して用いることができ、特に限定はされない。カラートナーを作製する場合は、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタの着色剤を用いることができる。
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛、及び酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン顔料及びその誘導体、アントラキノン顔料等のシアン顔料、並びにシアン染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、60;C.I.ソルベントブルー70等が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等のイエロー顔料、並びにイエロー染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、213、214;C.I.ソルベントイエロー98、162等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等のマゼンタ顔料、並びにマゼンタ染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、27;C.I.ディスパーバイオレット1;C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、28等が挙げられる。
前記着色剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。画質を向上させるために、前記着色剤として、顔料と染料を併用しても良い。
【0039】
ブラックトナーにおいては、着色剤として、カーボンブラックを含有することが、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、高画質な画像を形成できる点から好ましい。
シアントナーにおいては、着色剤として、銅フタロシアニン顔料及びその誘導体を含有することが、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、高画質な画像を形成できる点から好ましい。
イエロートナーにおいては、着色剤として、C.I.ピグメントイエロー93、155、180、214、219等のジスアゾ顔料、及び、C.I.ソルベントイエロー98、162等のイエロー染料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、保存性を向上しやすい点、及び高画質な画像を形成できる点から好ましく、C.I.ピグメントイエロー155、214及びC.I.ソルベントイエロー98の少なくとも1種を含有することがより好ましく、C.I.ピグメントイエロー214及びC.I.ソルベントイエロー98の少なくとも1種を含有することがより更に好ましい。また、イエロートナーにおいては、着色剤として、ジスアゾ顔料とイエロー染料とを組み合わせて含有することが、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、保存性を向上しやすい点、及び高画質な画像を形成できる点から好ましく、C.I.ピグメントイエロー155及びC.I.ピグメントイエロー214の少なくとも1種と、C.I.ソルベントイエロー98とを組み合わせて含有することがより好ましく、C.I.ピグメントイエロー214と、C.I.ソルベントイエロー98とを組み合わせて含有することがより更に好ましい。また、イエロートナーにおいては、イエロー着色剤に含まれるイエロー顔料とイエロー染料との質量比(イエロー顔料:イエロー染料)が、50:50~95:5の範囲内であることが好ましく、60:40~90:10の範囲内であることがより好ましい。ここで、イエロー着色剤に含まれるイエロー顔料は、ジスアゾ顔料であることが好ましく、C.I.ピグメントイエロー155及びC.I.ピグメントイエロー214の少なくとも1種であることがより好ましく、C.I.ピグメントイエロー214であることがより更に好ましい。イエロー着色剤に含まれるイエロー染料は、C.I.ソルベントイエロー98であることが好ましい。
マゼンタトナーにおいては、着色剤として、C.I.ピグメントレッド122を含有することが、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、高画質な画像を形成できる点から好ましい。
【0040】
前記着色剤の含有量は、所望の発色が得られ、且つトナーが前記特定の粘弾性特性を有するように、着色剤の種類に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記モノビニル単量体100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
(軟化剤)
前記重合性単量体組成物が含有する軟化剤(離型剤)としては、一般にトナーの軟化剤又は離型剤として用いられるものを適宜選択して用いることができ、特に限定されない。前記重合性単量体組成物が軟化剤を含有することにより、定着時におけるトナーの定着ロールからの離型性を向上することができる。
軟化剤としては、例えば、低分子量ポリオレフィンワックスや、その変性ワックス;パラフィン等の石油ワックス;オゾケライト等の鉱物系ワックス;フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス;ジペンタエリスリトールエステル、カルナウバ等のエステルワックス;等が挙げられる。中でも、トナーの粘弾性を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、エステルワックスが好ましく、アルコールとカルボン酸をエステル化して得る合成エステルワックスより好ましく、多価アルコールとモノカルボン酸をエステル化して得る多官能エステルワックスが更に好ましい。
多官能エステルワックスとしては、例えば、ペンタエリスリトールエステル化合物、グリセリンエステル化合物及びジペンタエリスリトールエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。そのような好ましい多官能エステルワックスとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のペンタエリスリトールエステル化合物;ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミテート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネート、ジグリセリンテトラベヘネート、グリセリントリベヘネート等のグリセリンエステル化合物;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート等のジペンタエリスリトールエステル化合物;等が挙げられる。
【0042】
前記軟化剤は、重量平均分子量Mwが、400以上3500以下の範囲内であることが好ましく、500以上3000以下の範囲内であることがより好ましい。前記軟化剤の重量平均分子量Mwが大きいほど、トナーのガラス転移温度(Tg)が高温側にシフトし、トナーのガラス転移温度(Tg)におけるtanδが小さくなり、トナーのtanδ=1.5となる温度(Ta)が高くなり、トナーの軟化温度(T1/2)が高くなる傾向がある。また、前記軟化剤の重量平均分子量Mwが小さいほど、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が小さくなる傾向がある。
前記軟化剤の重量平均分子量Mwは、後述する重合体の重量平均分子量Mwと同様の方法により測定することができる。また、エステルワックスの場合は、溶剤で抽出した後、加水分解によりアルコールとカルボン酸に分解して組成分析を行うことにより、構造式から分子量を算出することもできる。エステルワックスの重量平均分子量Mwは、構造式から算出される分子量と同じ結果になる。
【0043】
また、トナーの粘弾性を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記軟化剤の融点は、50℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、60℃以上85℃以下の範囲内であることがより好ましく、70℃以上80℃以下の範囲内であることがより更に好ましい。
【0044】
前記軟化剤の含有量は、特に限定はされないが、トナーの粘弾性を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記モノビニル単量体100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
なお、前記軟化剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
(帯電制御剤)
前記重合性単量体組成物が含有する帯電制御剤としては、一般にトナーの帯電性を向上させるために用いられる正帯電性又は負帯電性の帯電制御剤を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
正帯電性の帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物及びイミダゾール化合物等の帯電制御化合物、並びに正帯電性の帯電制御樹脂を挙げることができる。負帯電性の帯電制御剤としては、例えば、Cr、Co、Al、及びFe等の金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物及びアルキルサリチル酸金属化合物等の帯電制御化合物、並びに負帯電性の帯電制御樹脂を挙げることができる。
前記帯電制御剤としては、中でも、前記重合性単量体との相溶性が高く、安定した帯電性をトナー粒子に付与させることができ、帯電安定性に優れ、また、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすいことから、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂が好ましい。
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂としては、官能基含有共重合体を用いることができる。具体的には、正帯電性の帯電制御樹脂としては、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基又は4級アンモニウム塩含有基等の官能基を含有する構成単位を含む官能基含有共重合体を用いることができる。負帯電性の帯電制御樹脂としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩含有基、カルボン酸基又はカルボン酸塩含有基等の官能基を含有する構成単位を含む官能基含有共重合体を用いることができる。
【0046】
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、中でも、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合が3質量%以下のものが好ましく、2.5質量%以下のものがより好ましい。一方、帯電安定性の観点から、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合は、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0047】
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、中でも、前記重合性単量体との相溶性が高く、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすいことから、スチレン-アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0048】
また、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、50℃以上110℃以下の範囲内であることが好ましく、60℃以上100℃以下の範囲内であることがより好ましい。前記官能基含有共重合体のガラス転移温度(Tg)が前記範囲内であると、トナーのガラス転移温度(Tg)におけるtanδが低減する傾向がある。なお、前記官能基含有共重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述したトナーのガラス転移温度(Tg)と同様の方法により測定される。
【0049】
また、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、重量平均分子量Mwが、5000以上30000以下の範囲内であることが好ましく、10000以上25000以下の範囲内であることがより好ましい。前記官能基含有共重合体の重量平均分子量Mwが前記範囲内であると、トナーの前記温度(Ta)が前記好ましい範囲になりやすく、当該温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が低減する傾向がある。
なお、本開示において重合体の重量平均分子量Mwは、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算により求めることができる。
【0050】
前記帯電制御剤の含有量は、特に限定はされないが、前記モノビニル単量体100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。前記帯電制御剤の含有量が前記下限値以上であることにより、カブリの発生を抑制することができ、一方、前記上限値以下であることにより、印字汚れを抑制することができる。また、前記帯電制御剤の含有量を調整することにより、トナーの粘弾性を調整することができる。前記帯電制御剤の含有量が多いほど、トナーのガラス転移温度(Tg)におけるtanδは大きくなる傾向があり、トナーのtanδ=1.5となる温度(Ta)は低くなる傾向があり、当該温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)は低下する傾向がある。
なお、前記帯電制御剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
(その他の添加物)
前記重合性単量体組成物は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有する範囲において、必要に応じ、更にその他の添加物を含有していてもよい。
その他の添加物としては、例えば、分子量調整剤を好ましく用いることができる。
分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、及び2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’-ジオクタデシル-N,N’-ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。
前記分子量調整剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
前記重合性単量体組成物が分子量調整剤を含有する場合、分子量調整剤の含有量は、結着樹脂が所望の分子量となるように適宜調整され、特に限定はされないが、通常、前記モノビニル単量体100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下であり、0.1質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0053】
また、前記重合性単量体組成物は、さらに重合開始剤を含有していてもよいが、重合開始剤は、後述する液滴形成工程で得られる分散液に添加してもよい。中でも、重合体の分子量を制御しやすい点から、重合開始剤は、後述する液滴形成工程で、重合性単量体組成物を水系溶媒に分散させた分散体に添加することが好ましい。
【0054】
(A-2)液滴形成工程(造粒工程)
前記重合性単量体組成物を水系溶媒中に分散させて、前記重合性単量体組成物の液滴形成を行う工程においては、分散安定剤を含む水系溶媒中に、前記重合性単量体組成物を分散させることが、着色樹脂粒子の粒径分布が狭くなり易い点から好ましい。
【0055】
前記分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。前記分散安定化剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記分散安定化剤としては、中でも、無機化合物が好ましく、分散安定化剤を含む水系媒体としては、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドを用いることにより、着色樹脂粒子の粒径分布を狭くすることができ、また、洗浄後の分散安定化剤残存量を少なくできるため、得られる重合トナーが画像を鮮明に再現することができ、更に環境安定性を悪化させない。
【0056】
前記分散安定化剤の添加量は、特に限定はされないが、液滴の分散安定性の点から、前記モノビニル単量体100質量部に対して好ましくは3質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量部以上10質量部以下となるように、水系溶媒中に含有させておくことが好ましい。
【0057】
前記液滴形成工程においては、前記重合性単量体組成物を水系溶媒中に分散させた分散体に、重合開始剤を添加することが、重合体の分子量を制御しやすい点から好ましい。
前記重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤を好ましく用いることができる。熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ-t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルブタノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルブタノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、及びt-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中で、残留する重合性単量体の量を少なくすることができ、印字耐久性も優れることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
有機過酸化物の中では、開始剤効率がよく、残留する重合性単量体の量を少なくすることができることから、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステルすなわち芳香環を有しないパーオキシエステルがより好ましい。
【0058】
前記重合開始剤の添加量は、重合体の重量平均分子量Mwが後述する好ましい範囲となるように適宜調整されることが好ましく、特に限定はされないが、重合反応を十分に促進する点から、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.3質量部以上であり、より更に好ましくは1質量部以上であり、一方、重合体の分子量を好ましい値に制御する点から、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下であり、より更に好ましくは10質量部以下である。
【0059】
前記重合性単量体組成物の液滴形成は、公知の方法により行うことができ、特に限定はされない。前記液滴形成の方法としては、例えば、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:キャビトロン)、インライン高速乳化分散機(プライミクス社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行うことが、着色樹脂粒子の粒径分布が狭くなり易い点から好ましい。
【0060】
(A-3)懸濁重合工程
前記液滴形成後に、前記重合性単量体を重合させる懸濁重合工程は、例えば、前記液滴形成後の分散液を加熱することにより重合反応を開始させて行う。前記懸濁重合工程により、着色樹脂粒子が分散した水分散液を得ることができる。前記加熱の条件は、前記重合性単量体の重合体の重量平均分子量Mwが後述する好ましい範囲となるように調整することが好ましく、特に限定はされないが、加熱温度は、50℃以上とすることが好ましく、更に60℃以上95℃以下とすることが好ましい。また、加熱時間は、1時間以上20時間以下とすることが好ましく、更に2時間以上15時間以下とすることが好ましい。
【0061】
また、特に限定はされないが、得られる着色樹脂粒子を所謂コアシェル型(または、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子とするために、前記懸濁重合工程は、前記液滴形成後に、前記重合性単量体を重合させてコア層となる着色樹脂粒子を形成する工程と、当該着色樹脂粒子をコア層として、当該コア層の外側に、当該コア層とは異なる材料からなるシェル層を形成する工程を有するものであってもよい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、相対的に低軟化点を有する材料よりなるコア層が、それより高い軟化点を有する材料よりなるシェル層で被覆されていることが、定着温度の低温化と保存時の凝集防止とのバランスを取りやすい点から好ましい。また、着色樹脂粒子としてコアシェル型の着色樹脂粒子を用いることにより、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい。
【0062】
前記重合性単量体組成物の液滴を重合して得られるコア層となる着色樹脂粒子を用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。中でも、in situ重合法や相分離法が、製造効率の点から好ましい。
in situ重合法では、例えば、前記重合性単量体組成物の液滴を重合して得られるコア層となる着色樹脂粒子が分散している水系溶媒中に、シェル層を形成するための重合性単量体(シェル用重合性単量体)と重合開始剤を添加し、重合することでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
【0063】
シェル用重合性単量体としては、前述した重合性単量体の中から、コア層よりも軟化点が高くなるものを適宜選択して用いることができる。中でも、スチレン、アクリロニトリル、及びメチルメタクリレート等の、Tgが80℃を超える重合体が得られる重合性単量体を、1種単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
【0064】
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)及び2,2’-アゾビス-(2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤の量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは、0.1質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上20質量部以下である。
【0065】
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60℃以上95℃以下である。また、重合の反応時間は好ましくは1時間以上20時間以下であり、更に好ましくは2時間以上15時間以下である。
【0066】
(A-4)後処理工程
前記懸濁重合工程により得られるコアシェル型であってもよい着色樹脂粒子の水分散液は、重合終了後に、後処理として、常法に従い、ろ過、分散安定化剤を除去するための洗浄、脱水、及び乾燥の操作が、必要に応じて数回繰り返されることが好ましい。
【0067】
前記洗浄の方法としては、分散安定化剤として無機化合物を使用した場合、着色樹脂粒子の水分散液への酸又はアルカリの添加により、分散安定化剤を水に溶解し除去することが好ましい。分散安定化剤として、難水溶性の無機水酸化物のコロイドを使用した場合、酸を添加して、着色樹脂粒子水分散液のpHを6.5以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸及び硝酸等の無機酸、並びに蟻酸及び酢酸等の有機酸を用いることができるが、除去効率の大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0068】
脱水及びろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。例えば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
【0069】
(B)粉砕法
粉砕法を採用して着色樹脂粒子を製造する場合、例えば以下のようなプロセスにより行われる。
先ず、結着樹脂、着色剤、軟化剤、帯電制御剤、及びトナーが前記特定の粘弾性特性を有する範囲で必要に応じて更に添加されるその他の添加物を、混合機、例えば、ボールミル、V型混合機、FMミキサー(:商品名)、高速ディゾルバ、インターナルミキサー、フォールバーグ等を用いて混合する。次に、得られた混合物を、加圧ニーダー、二軸押出混練機、ローラ等を用いて加熱しながら混練する。得られた混練物を、ハンマーミル、カッターミル、ローラミル等の粉砕機を用いて、粗粉砕する。更に、ジェットミル、高速回転式粉砕機等の粉砕機を用いて微粉砕した後、風力分級機、気流式分級機等の分級機により、所望の粒径に分級して粉砕法による着色樹脂粒子を得る。
【0070】
なお、粉砕法で用いる結着樹脂としては、前述の(A)懸濁重合法で挙げた重合性単量体を重合して得られる重合体を用いることができ、後述する着色樹脂粒子が含有する結着樹脂と同様である。粉砕法で用いる着色剤、軟化剤及び帯電制御剤としては、前述の(A)懸濁重合法で挙げたものと同様のものを用いることができる。また、粉砕法により得られる着色樹脂粒子を、前述の(A)懸濁重合法により得られる着色樹脂粒子と同様に、in situ重合法等の方法に用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造することもできる。
【0071】
3.着色樹脂粒子
本開示に用いられる着色樹脂粒子は、例えば、前記(A)懸濁重合法、又は前記(B)粉砕法等の製造方法により得ることができる。
以下、本開示のトナーが含有する着色樹脂粒子について説明する。なお、以下で説明する着色樹脂粒子は、コアシェル型のものとそうでないもの両方を含む。
【0072】
本開示に用いられる着色樹脂粒子は、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含み、トナーが前記特定の粘弾性特性を有する範囲で、必要に応じ、更に添加されるその他の添加物を含有していてもよい。
【0073】
前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂としては、例えば、前述の(A)懸濁重合法で挙げた重合性単量体を重合して得られる重合体が挙げられる。なお、本開示において重合体は、単独重合体又は共重合体のいずれであってもよい。前記重合体の各構成単位を誘導する好ましい重合性単量体は、前述の(A)懸濁重合法で述べた好ましい重合性単量体と同様である。前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂としては、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、耐ホットオフセット性と、保存性の低下抑制及び画像のグロス低下抑制を両立しやすい点、低温定着性にも優れる点、及び、トナーの環境安定性を向上することができ、特に、湿度変化によるトナーの帯電の変化を抑制することができる点から、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体であることが好ましく、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有するモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体であることがより更に好ましい。
【0074】
前記重合体の全構成単位100質量%中、前記モノビニル単量体に由来する構成単位の割合は、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがより更に好ましい。
なお、重合体の全構成単位中の各構成単位の割合は、重合体を合成する際の仕込み量から求めることができ、また、1H-NMR測定による積分値から算出することができる。
【0075】
また、前記重合体の前記モノビニル単量体に由来する構成単位100質量%中、前述の(A)懸濁重合法で挙げた好ましいモノビニル単量体に由来する構成単位の合計の割合は、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがより更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
中でも、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記重合体が、スチレンに由来する構成単位と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位とを含有し、スチレンに由来する構成単位と、アクリル酸エステルに由来する構成単位及びメタクリル酸エステルに由来する構成単位の合計との質量比(スチレン:(メタ)アクリル酸エステル)が、50:50~90:10の範囲内であることが好ましく、60:40~80:20の範囲内であることがより好ましい。
【0076】
前記重合体が前記架橋性の重合性単量体に由来する構成単位を含む場合、前記架橋性の重合性単量体に由来する構成単位の割合は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記モノビニル単量体に由来する構成単位100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。
【0077】
前記重合体が前記マクロモノマーに由来する構成単位を含む場合、前記マクロモノマーに由来する構成単位の割合は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、前記モノビニル単量体に由来する構成単位100質量部に対して、0.03質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。
【0078】
前記重合体の重量平均分子量Mwは、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、25000以上100000以下であることが好ましく、30000以上80000以下であることがより好ましい。前記重合体の重量平均分子量Mwが大きいほど、トナーのガラス転移温度(Tg)におけるtanδが小さくなり、トナーのtanδ=1.5となる温度(Ta)が高くなる傾向があり、トナーの軟化温度(T1/2)が高くなる傾向がある。
【0079】
前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂は、典型的には前記重合体であるが、トナーが前記特定の粘弾性特性を有する範囲で、従来からトナーの結着樹脂として広く用いられている、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等や、未反応の重合性単量体が少量含まれていてもよい。中でも、前記結着樹脂100質量部に含まれるポリエステル樹脂の含有量は、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがより更に好ましく、ポリエステル樹脂を含有しないことが特に好ましい。ポリエステル樹脂の含有量が前記上限値以下であることにより、トナーの環境安定性を向上することができ、特に、湿度変化によるトナーの帯電の変化を抑制することができる。
また、前記結着樹脂が前記重合体以外の樹脂を含む場合は、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記結着樹脂100質量部中の前記重合体の含有量が、95質量部以上であることが好ましく、97質量部以上であることがより好ましく、99質量部以上であることがより更に好ましい。
【0080】
前記結着樹脂の含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記着色樹脂粒子に含まれる全固形分100質量部に対し、60質量部以上95質量部以下であることが好ましく、65質量部以上90質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上85質量部以下であることがより更に好ましい。
【0081】
前記着色樹脂粒子が含有する着色剤、軟化剤及び帯電制御剤は、前述の(A)懸濁重合法で挙げたものと同様である。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記着色剤の含有量は、所望の発色が得られ、且つトナーが前記特定の粘弾性特性を有するように、着色剤の種類に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、前記結着樹脂100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記軟化剤の含有量は、トナーの粘弾性を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記帯電制御剤の含有量は、前記結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。前記帯電制御剤の含有量が前記下限値以上であることにより、カブリの発生を抑制することができ、一方、前記上限値以下であることにより、印字汚れを抑制することができる。また、前述したように、前記帯電制御剤の含有量を調整することにより、トナーの粘弾性を調整することができる。
【0082】
本開示のトナーは、中でも、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、特に、保存性を向上し、画像のグロスの低下を抑制して高画質な画像を形成することができる点から、前記着色樹脂粒子が、イエロー着色剤としてジスアゾ顔料とイエロー染料とを組み合わせて含有し、軟化剤としてペンタエリスリトールエステル化合物を含有するイエロートナーであることが好ましく、中でも、前記着色樹脂粒子が、イエロー着色剤としてC.I.ピグメントイエロー214とC.I.ソルベントイエロー98とを組み合わせて含有し、軟化剤としてペンタエリスリトールテトラベヘネートを含有するイエロートナーであることがより好ましい。
【0083】
前記着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は、好ましくは3μm以上15μm以下であり、更に好ましくは4μm以上12μmμm以下である。Dvが前記下限値以上であると、重合トナーの流動性の低下を抑制して、転写性を向上し、画像濃度の低下を抑制しやすい。Dvが前記上限値以下であると、画像の解像度の低下を抑制することができる。
【0084】
また、着色樹脂粒子は、その体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が、好ましくは1.0以上1.3以下であり、更に好ましくは1.0以上1.2以下である。前記Dv/Dnが前記範囲内であると、転写性、画像濃度及び解像度の低下を抑制することができる。
なお、着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)は、粒度分析計(例えば、ベックマン・コールター製、商品名:マルチサイザー等)を用いて測定することができる。
【0085】
本開示の着色樹脂粒子の平均円形度は、画像再現性の観点から、0.960以上であることが好ましく、0.970以上であることがより好ましく、0.980以上であることがさらに好ましい。本開示の着色樹脂粒子の平均円形度は1以下であり、測定試料が完全な球形の場合、平均円形度は1となる。
本開示において、円形度とは、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値である。平均円形度は、測定試料表面の凹凸の度合いを示す指標となり、粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いることができる。測定試料の表面形状が複雑になるほど平均円形度は小さな値となる。
着色樹脂粒子の円形度は、例えば、着色樹脂粒子を分散させた水溶液を試料液とし、フロー式粒子像分析装置(例えば、シメックス社製、商品名:FPIA-2100等)を用いて試料液中の着色樹脂粒子の投影像を撮影し、当該投影像から、粒子の投影面積に等しい円の周囲長、及び粒子投影像の周囲長を測定し、計算式1:(円形度)=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)により求めることができる。平均円形度は、試料液に含まれる各着色樹脂粒子の円形度の平均値である。
【0086】
4.外添剤
本開示のトナーは、前記着色樹脂粒子の表面に付着した外添剤をさらに含有する。本開示のトナーは、外添剤を含有することにより、前記特定の粘弾性特性を満たしやすく、外添剤の種類及び含有量により、トナーの粘弾性を調整することができる。また、本開示のトナーは、外添剤を含有することにより、帯電性、流動性及び保存性を向上することができる。
【0087】
前記着色樹脂粒子を外添剤と共に混合攪拌して外添処理を行うことにより、着色樹脂粒子の表面に、外添剤を付着させることができる。外添処理で行う混合撹拌に用いられる混合装置は、前記着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる混合装置であれば特に限定されず、例えば、FMミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(:商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(:商品名、ホソカワミクロン社製)、及びメカノミル(:商品名、岡田精工社製)等を用いることができる。
【0088】
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム及び酸化セリウム等の無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂及びメラミン樹脂等の有機微粒子;等が挙げられる。これらの中でも、無機微粒子が好ましく、無機微粒子の中でも、シリカ及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1種の微粒子が好ましく、特にシリカからなる微粒子が好適である。
なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることが好ましい。
【0089】
前記外添剤の含有量は、トナーが前記特定の粘弾性特性を有するように適宜調整され、特に限定はされないが、トナーが前記特定の粘弾性特性を満たしやすい点から、着色樹脂粒子100質量部に対して、外添剤の含有量が0.05質量部以上6質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。外添剤の含有量が前記下限値以上であると、転写残の発生を抑制することができ、前記上限値以下であると、カブリの発生を抑制することができる。また、前記外添剤の含有量を調整することにより、トナーの粘弾性を調整することができる。前記外添剤の含有量が多いほど、トナーのtanδ=1.5となる温度(Ta)が高くなる傾向がある。
【0090】
5.トナーの性能
本開示のトナーは、保存性が良好であり、ブロッキング発生温度(耐熱温度)の低下が抑制されたものである。本開示のトナーは、ブロッキング発生温度(耐熱温度)が57℃以上であることが好ましく、58℃以上であることがより好ましく、59℃以上であることがより更に好ましい。なお、本開示において、トナーのブロッキング発生温度とは、トナーを一定の温度で8時間保管した時に、凝集するトナーの質量が、トナー総量の5質量%以下となる最高温度とする。トナーのブロッキング発生温度は、後述する実施例におけるトナーの耐熱温度の測定と同様の方法により測定することができる。
【0091】
本開示のトナーは、低温定着性が良好であり、定着温度の上昇が抑制されたものである。本開示のトナーの定着温度は、170℃未満であることが好ましく、165℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましい。なお、本開示において、トナーの定着温度とは、プリンターを用いてベタ画像を用紙に印字し、ベタ領域にこすり試験を行った場合に、こすり試験前の画像濃度(ID(前))に対する、こすり試験後の画像濃度(ID(後))の比率として下記式から求められる定着率80%以上が得られる最低温度とする。
定着率(%)=〔ID(後)/ID(前)〕×100
前記こすり試験は、測定部分を堅牢度試験機に粘着テープで貼り付け、500gの荷重を載せ、コットン布を巻いたこすり端子で5往復こすることにより行う。
なお、本開示において、ベタ領域とは、その領域内部の(プリンター制御部を制御する仮想的な)ドットのすべてに現像剤を付着させるように制御した領域のことである。
【0092】
本開示のトナーは、耐ホットオフセット性が良好であり、ホットオフセット発生温度の低下が抑制されたものである。本開示のトナーのホットオフセット発生温度は、200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、225℃以上であることが更に好ましく、225℃超過であることがより更に好ましい。なお、本開示において、トナーのホットオフセット発生温度とは、プリンターを用いてベタ画像を用紙に印字した場合に、定着ロールにトナーの融着が発生する定着ロールの最低温度とする。
【0093】
本開示のトナーは、トナーのみからなる1成分現像剤として用いてもよいし、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分現像剤として用いてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
また、重合体の重量平均分子量Mwは、GPCによるポリスチレン換算で求めた。測定用の試料は、重合体を2mg/mLの濃度となるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、超音波処理を10分行った後、0.45μmメンブランフィルターを通して試料とした。測定条件は、温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1.0mL/min、濃度:0.2wt%、試料注入量:100μLとし、カラムは、東ソー(株)製、GPC TSKgel MultiporeHXL-M(30cm×2本)を用いた。また、重量平均分子量Mw1,000~300,000間のLog(Mw)-溶出時間の一次相関式が0.98以上の条件で測定した。なお、着色樹脂粒子中の結着樹脂の重量平均分子量Mwは、着色樹脂粒子をTHFに溶解させたものを試料とし、前述の測定方法により得られたGPCの結果から、予め測定した帯電制御樹脂及びエステルワックスのピークを差し引いたデータを用いて、重量平均分子量Mwを求めた。
【0095】
[実施例1]
1.着色樹脂粒子(1)の製造
(1)コア用重合性単量体組成物の調製:
スチレン73部及びn-ブチルアクリレート27部、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名:AA6、Tg=94℃)0.1部、ジビニルベンゼン0.1部、テトラエチルチウラムジスルフィド0.75部、イエロー着色剤としてC.I.ピグメントイエロー214 10.0部と、C.I.ソルベントイエロー98 2.0部を、メディア式分散機(浅田鉄工社製、商品名:ピコミル)を用いて湿式粉砕した。湿式粉砕により得られた混合物に、帯電制御樹脂1(CCR1)(4級アンモニウム塩含有基を含むスチレンアクリル樹脂、Tg=76℃)2.0部と多官能エステルワックス(ペンタエリスリトールテトラベヘネート、融点76℃、分子量1428)15部を添加し、混合、溶解して、重合性単量体組成物を調製した。
【0096】
(2)水系分散媒体の調製:
イオン交換水280部に塩化マグネシウム10.4部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム7.3部を溶解した水溶液を、攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド分散液を調製した。
【0097】
(3)シェル用重合性単量体の水分散液の調製:
メチルメタクリレート2部と水130部を超音波乳化機にて微分散化処理して、シェル用重合性単量体の水分散液を調製した。
【0098】
(4)液滴形成工程:
前記水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウム量5.3部)に、前記重合性単量体組成物を投入し、さらに攪拌して、そこへ重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルブタノエート6部を添加した。重合開始剤を添加した分散液を、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmにて分散を行い、重合性単量体組成物の液滴を形成した。
【0099】
(5)懸濁重合工程:
重合性単量体組成物の液滴を含有する分散液を、反応器に入れ、90℃に昇温して重合反応を行った。重合転化率がほぼ100%に達した後、前記シェル用重合性単量体の水分散液にシェル用重合開始剤として2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕(和光純薬社製、商品名:VA-086、水溶性開始剤)0.1部を溶解したものを反応器に添加した。次いで、95℃で4時間維持して、重合を更に継続した後、水冷して反応を停止し、コアシェル型着色樹脂粒子の水分散液を得た。
【0100】
(6)後処理工程:
着色樹脂粒子の水分散液を攪拌しながら、pHが4.5以下となるまで硫酸を添加して酸洗浄を行った後(25℃、10分間)、濾別した着色樹脂粒子を、水で洗浄し、洗浄水をろ過した。この際の濾液の電気伝導度は、20μS/cmであった。さらに洗浄ろ過工程後の着色樹脂粒子を脱水、乾燥し、乾燥した着色樹脂粒子(1)を得た。
【0101】
(7)体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)及び粒径分布(Dv/Dn)
前記着色樹脂粒子(1)を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤として界面活性剤水溶液(富士フイルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mLを加えた。そのビーカーへ、更にアイソトンIIを10~30mL加え、20W(Watt)の超音波分散機で3分間分散させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII、測定粒子個数;100,000個の条件下で、着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dn)を測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。結果を表1に示す。
【0102】
(8)平均円形度
容器中に、予めイオン交換水10mLを入れ、その中に分散剤として界面活性剤水溶液(富士フイルム社製、商品名:ドライウエル)0.02gを加え、更に前記着色樹脂粒子(1)0.02gを加え、超音波分散機で60W(Watt)、3分間分散処理を行った。測定時の着色樹脂粒子濃度が3,000~10,000個/μLとなるようにイオン交換水の量を調整して試料液とし、0.4μm以上の円相当径の着色樹脂粒子1,000~10,000個について、フロー式粒子像分析装置(シメックス社製、商品名:FPIA-2100)を用いて投影像を撮影した。着色樹脂粒子の投影像から、粒子の投影面積に等しい円の周囲長、及び粒子投影像の周囲長を測定し、計算式1:(円形度)=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)により各着色樹脂粒子の円形度を求めた。また、試料液に含まれる各着色樹脂粒子の円形度の平均値を平均円形度として算出した。結果を表1に示す。
【0103】
2.トナーの製造
前記着色樹脂粒子(1)100部に、疎水化処理した平均粒径7nmのシリカ微粒子(1)0.20部と、疎水化処理した平均粒径20nmのシリカ微粒子(2)0.76部と、疎水化処理した平均粒径50nmのシリカ微粒子(3)1.91部とを添加し、高速攪拌機(日本コークス工業社製、商品名:FMミキサー)を用いて混合することで、着色樹脂粒子(1)に外添処理を施して、実施例1のトナーを得た。
【0104】
[実施例2~7、比較例1~4]
1.着色樹脂粒子(2)~(7)及び比較着色樹脂粒子(1)~(4)の製造
実施例1の「1.着色樹脂粒子(1)の製造」において、前記コア用重合性単量体組成物の調製の際に、下記表1に従って組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、着色樹脂粒子(2)~(7)及び比較着色樹脂粒子(1)~(4)を得た。
得られた着色樹脂粒子(2)~(7)及び比較着色樹脂粒子(1)~(4)について、実施例1で得た着色樹脂粒子(1)と同様にして、体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)及び粒径分布(Dv/Dn)、並びに平均円形度を求めた。結果を表1に示す。
【0105】
【0106】
なお、表中の各略号は以下の通りである。
ST:スチレン
BA:n-ブチルアクリレート
AA6:ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名:AA6、Tg=94℃)
PY214:C.I.ピグメントイエロー214
SY98:C.I.ソルベントイエロー98
PB15:3:C.I.ピグメントブルー15:3
PR122:C.I.ピグメントレッド122
CCR1:帯電制御樹脂1、4級アンモニウム塩含有基を含むスチレンアクリル樹脂、Tg=76℃、官能基量2質量%、Mw12100
CCR2:帯電制御樹脂2、4級アンモニウム塩含有基を含むスチレンアクリル樹脂、Tg=95℃、官能基量2質量%、Mw12100
CCR3:帯電制御樹脂3、4級アンモニウム塩含有基を含むスチレンアクリル樹脂、Tg=85℃、官能基量1質量%、Mw20000
CCR4:帯電制御樹脂4、4級アンモニウム塩含有基を含むスチレンアクリル樹脂、Tg=85℃、官能基量0.5質量%、Mw20000
なお、帯電制御樹脂(CCR)における官能基量とは、帯電制御樹脂を構成する全構成単位100質量%中の官能基含有構成単位の割合(質量%)である。
【0107】
2.トナーの製造
実施例1の「2.トナーの製造」において、着色樹脂粒子(1)に代えて、着色樹脂粒子(2)~(7)及び比較着色樹脂粒子(1)~(4)を用い、外添処理に用いた外添剤の添加量を下記表2に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7及び比較例1~4のトナーを得た。
【0108】
【0109】
[粘弾性の測定]
各実施例及び各比較例で得たトナーについて、動的粘弾性測定により損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を得た。動的粘弾性測定は、回転平板型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、クロスハッチプレートを用いて、下記条件にて行った。試験片は、トナーを8mmφの筒状の成型器に0.2g注ぎ、1.0MPaで30秒加圧し、厚み2~4mmで8mmΦの円柱の成形体とすることで作製した。
(動的粘弾性測定の条件)
周波数:1Hz
サンプルセット:試験片(2~4mm厚)を8mmφプレートにて20g荷重で挟む
サンプルセット時の温度:40℃
昇温速度:5℃/分
温度範囲:40℃から150℃
【0110】
各実施例で得たトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線の線形は、50℃以上90℃未満の範囲内に少なくとも1つのピークを有し、90℃に最も近いピークのtanδが最大値となる温度を超えると、温度上昇に伴いtanδが減少して、tanδが1.00未満の極小点に達し、当該極小点となる温度を超えると、温度上昇に伴いtanδが増加して、tanδが1.50に達し、tanδが1.50となる温度(Ta)よりも高い温度領域においては、tanδの最大値が1.50超過となるピークを有するか、tanδが1.5超過1.8以下の範囲内でほぼ一定の値となるか、又はtanδが上昇し続ける線形であった。一例として、実施例1で得たトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を
図1に示す。なお、動的粘弾性測定は40℃から150℃までの範囲で行ったが、
図1には50℃から150℃までの測定結果を示す。
また、各トナーのガラス転移温度(Tg)、ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)、90℃以上160℃以下の温度範囲内において損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)を求めた。結果を表3に示す。
【0111】
[軟化温度(T1/2)の測定]
各実施例及び各比較例で得たトナーについて、島津製作所製のフローテスター(商品名CFT-500C)を用い、下記の測定条件で、圧力5.0kgf/cm2の条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)を求めた。
(測定条件)
開始温度:35℃
昇温速度:3℃/分
予熱時間:5分
シリンダ圧力:5.0kgf/cm2
ダイ穴径:0.5mm
ダイ長さ:1.0mm
試料投入量:1.0~1.3g
【0112】
[評価]
(1)トナーの耐熱温度
トナー10gを、100mLのポリエチレン製の容器に入れて密閉した後、所定の温度に設定した恒温水槽の中に該容器を沈め、8時間経過した後に取り出した。取り出した容器からトナーを42メッシュの篩の上にできるだけ振動を与えないように移し、粉体測定機(ホソカワミクロン社製、商品名:パウダテスタ(登録商標)PT-R)にセットした。篩の振幅を1.0mmに設定して、30秒間、篩を振動させた後、篩上に残ったトナーの質量を測定し、これを凝集したトナーの質量とした。
この凝集したトナーの質量が0.5g以下になる最高温度を、トナーの耐熱温度とした。結果を表3に示す。耐熱温度が高いほど、トナーは保管時のブロッキングが生じ難く、保存性に優れる。
【0113】
(2)トナーの定着温度
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(24枚機;印字速度=24枚/分)の定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用いて、定着ロールの温度を5℃ずつ変化させて、それぞれの温度でのトナーの定着率を測定し、温度-定着率の関係を求め、定着率80%以上が得られる最低の温度をトナーの定着温度とした。結果を表3に示す。定着温度が低いほど、トナーは低温定着性に優れる。
なお、定着率は、プリンターで印刷した試験用紙におけるベタ領域のこすり試験前後の画像濃度比率から計算した。こすり試験前の画像濃度をID(前)、こすり試験後の画像濃度をID(後)とすると、定着率(%)=〔ID(後)/ID(前)〕×100である。こすり試験は、試験用紙の測定部分を堅牢度試験機に粘着テープで貼り付け、500gの荷重を載せ、コットン布を巻いたこすり端子で5往復こすることにより行った。
【0114】
(3)グロス(光沢度)
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(24枚機;印字速度=24枚/分)の定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用い、当該プリンターの現像装置内のトナーカートリッジに、トナー100gを充填した後、印字用紙をセットした。
ベタ領域の紙面上トナー量が0.30mg/cm2となるようにプリンターの調整を行った後、定着ロールの温度(定着温度)を170℃に設定し、5cm四方のベタ画像を用紙(Xerox社製、商品名:Vitality)に印字した。得られた5cm四方のベタ領域を、グロスメーター(日本電色工業製、商品名:VGS-SENSOR)を用いて、入射角60°によりグロスの値を測定した。結果を表3に示す。グロスの値が大きい程、画像の光沢感があることを示す。
【0115】
(4)ホットオフセット発生温度(H.O.温度)
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(24枚機;印字速度=24枚/分)の定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用いて、ホットオフセット試験を行った。ホットオフセット試験は、定着ロール部の温度を150℃から5℃ずつ230℃まで変化させて、5cm四方のベタ画像を用紙(Xerox社製、商品名:Vitality)に印字し、定着ロールにトナーの融着が発生していないかホットオフセット現象の有無を目視にて観察した。
このホットオフセット試験において、定着ロールにトナーの融着が発生した最低の設定温度を、ホットオフセット発生温度(H.O.温度)とした。結果を表3に示す。ホットオフセット発生温度(H.O.温度)が高いほど、トナーは耐ホットオフセット性に優れる。
【0116】
【0117】
表3の結果から、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg)が50℃以上90℃未満であり、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70以下であり、90℃以上160℃以下の温度範囲内において、損失正接(tanδ)が1.50となる最も低い温度(Ta)が95℃超過145℃未満であり、前記温度(Ta)における貯蔵弾性率(G’)が56000Pa未満である実施例1~7の本開示のトナーは、定着温度が高すぎず、低温定着性が良好であり、耐熱温度(ブロッキング発生温度)が高く、保存性が良好であり、ホットオフセット発生温度が高く、耐ホットオフセット性が良好であり、形成した画像のグロス(光沢度)の低下が抑制されていた。
一方、比較例1、2のトナーは、前記温度(Ta)が145℃以上であったため、定着温度が高く、低温定着性が劣っていた。
比較例3のトナーは、ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70超過であったため、耐熱温度が低く、保存性が劣っていた。また、比較例3のトナーは、前記温度(Ta)が95℃以下であったため、流動性が高く、画像のグロス低下は抑制されていたものの、ホットオフセット発生温度が低く、耐ホットオフセット性が劣っていた。
比較例4のトナーは、ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が1.70超過であったため、耐熱温度が低く、保存性が劣っており、また、画像のグロスが低下していた。