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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240214BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20240214BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20240214BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L27/18
C08F220/24
C08F220/26
C08F290/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020553828
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041648
(87)【国際公開番号】W WO2020090607
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018203958
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019070381
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-083299(JP,A)
【文献】特開2010-090338(JP,A)
【文献】特開2003-213062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーと極性溶媒と分散剤とを含み、前記パウダーが前記極性溶媒に分散した分散液であって、前記分散剤が、フルオロアルキル基を有する下式F1で表されるモノマーに基づく単位とオキシアルキレングリコール基を有する下式H1で表されるモノマーに基づく単位とを含み、フッ素含有量、オキシアルキレン基含有量及び水酸基価が、この順に、10~50質量%、20~50質量%、10~100mgKOH/gであるポリマーであり、前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記フルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位と前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーに基づく単位とを合計で90~100モル%含む、分散液。
式F1:CH=CXF1C(O)O-CHCH-RF1
式H1:CH=CXH1C(O)-(OCHCHm1-OH
(式中、XF1が水素原子又はメチル基を示し、RF1が-(CFF又は-(CFFを示し、XH1が水素原子又はメチル基を示し、m1が9~70である。)
【請求項2】
前記ポリマーのフッ素含有量が、20~40質量%である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記ポリマーの水酸基価が、10~45mgKOH/gである、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記フルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位を60~90モル%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーに基づく単位を10~40モル%含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記極性溶媒が、水、ケトン、エステル又はアミドである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記極性溶媒が、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はN-メチル-2-ピロリドンである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記パウダーの体積基準累積50%径が、0.05~6μmである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が、5~60質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項10】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記分散剤の含有量の比率が、0.25以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーが極性溶媒中に分散した、分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、パウダー、分散液、フィルム等の種々の使用形態と、その物性を活用した種々の用途とが知られている。
近年では、低誘電率、低誘電正接等の電気特性と半田リフローにも耐える耐熱性とに優れた、高周帯域の周波数に対応するプリント基板材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。
特許文献1には、PTFEのパウダーが溶媒に分散した分散液から形成されたPTFE層を有する樹脂付金属箔、その金属箔に伝送回線を形成してプリント基板とする方法が記載されている。特許文献2には、かかる分散液として、PTFEのパウダーを含む分散液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-509113号公報
【文献】国際公開第2016/159102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは本質的に表面張力が低く他の材料との相互作用が低いため、そのパウダー分散液は分散性が低い。分散性を改善するために、分散液にフッ素系分散剤を配合する手法が知られているが、その効果は未だ充分ではない場合がある。さらに、分散液から形成されるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む層(塗膜)にフッ素系分散剤が含まれると、その層(塗膜)の物性(濡れ性、接着性、平滑性等)が低下する場合がある。分散液の分散媒が極性溶媒である場合、かかる分散性と層(塗膜)形成性の低下が顕著になり易い点を、本発明者らは知見した。
極性溶媒を分散媒とする、分散性と層(塗膜)形成性とを具備する、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーの分散液が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーと極性溶媒と分散剤とを含み、前記パウダーが前記極性溶媒に分散した分散液であって、前記分散剤が、フルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位とオキシアルキレングリコール基を有するモノマーに基づく単位とを含み、フッ素含有量、オキシアルキレン基含有量及び水酸基価が、この順に、10~50質量%、5~75質量%、10~100mgKOH/gであるポリマーである、分散液。
<2> 前記フルオロアルキル基を有するモノマーが、下式Fで表される化合物である、上記<1>の分散液。
式F:CH=CXC(O)O-Q-R
(式中、Xが水素原子、塩素原子又はメチル基を示し、Qが炭素数1~4のアルキレン基を示し、Rが炭素数1~6のポリフルオロアルキル基又は炭素数3~6のエーテル性酸素原子を含むポリフルオロアルキル基を示す。)
<3> 前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーが、下式Hで表される化合物である、上記<1>又は<2>の分散液。
式H:CH=CXC(O)-(OZ-OH
(式中、Xが水素原子又はメチル基を示し、Zが炭素数1~4のアルキレン基を示し、mが3~200である。)
<4> 前記フルオロアルキル基を有するモノマーが下式F1で表される化合物であり、前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーが下式H1で表される化合物である、上記<1>~<3>のいずれかの分散液。
式F1:CH=CXF1C(O)O-CHCH-RF1
式H1:CH=CXH1C(O)-(OCHCHm1-OH
(式中、XF1が水素原子又はメチル基を示し、RF1が-(CFF又は-(CFFを示し、XH1が水素原子又はメチル基を示し、m1が9~70である。)
<5> 前記ポリマーのフッ素含有量が、20~40質量%である、上記<1>~<4>のいずれかの分散液。
<6> 前記ポリマーのオキシアルキレン基含有量が、20~50質量%である、上記<1>~<5>のいずれかの分散液。
<7> 前記ポリマーの水酸基価が、10~45mgKOH/gである、上記<1>~<6>のいずれかの分散液。
<8> 前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記フルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位を60~90モル%含む、上記<1>~<7>のいずれかの分散液。
<9> 前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーに基づく単位を10~40モル%含む、上記<1>~<8>のいずれかの分散液。
<10> 前記ポリマーが、該ポリマーに含まれる全単位に対して、前記フルオロモノマーに基づく単位と前記オキシアルキレングリコール基を有するモノマーに基づく単位とを合計で90~100モル%含む、上記<1>~<9>のいずれかの分散液。
<11> 前記極性溶媒が、水、ケトン、エステル又はアミドである、上記<1>~<10>のいずれかの分散液。
<12> 前記極性溶媒が、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はN-メチル-2-ピロリドンである、上記<1>~<11>のいずれかの分散液。
<13> 前記パウダーの体積基準累積50%径が、0.05~6μmである、上記<1>~<12>のいずれかの分散液。
<14> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が、5~60質量%である、上記<1>~<13>のいずれかの分散液。
<15>前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記分散剤の含有量の比率が、0.25以下である、上記<1>~<14>のいずれかの分散液。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分散性と濡れ性、接着性、チキソ性、平滑性等の層(塗膜)形成性とに優れた、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーの分散液が提供される。本発明の分散液から形成される層(塗膜)は、濡れ性と接着性とに特に優れており、本発明の分散液はプリント基板の材料として有用な樹脂付金属箔等の製造に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーのD50」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーを構成する粒子(以下、「パウダー粒子」とも記す。)の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径(体積基準累積50%径)である。
「パウダーのD90」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダー粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径(体積基準累積90%径)である。
つまり、パウダーのD50及びD90は、それぞれ、パウダー粒子の体積基準累積50%径及び体積基準累積90%径である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスターおよび2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「十点平均粗さ(RzJIS)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。
「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基の総称である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された上記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって上記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位は、単に「TFE単位」とも記す。
【0008】
本発明の分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)を含むパウダーと極性溶媒と分散剤とを含み、パウダーが極性溶媒に分散した分散液である。分散剤は、フルオロアルキル基を有するモノマー(以下、「モノマーF」とも記す。)に基づく単位とオキシアルキレングリコール基を有するモノマー(以下、「モノマーAO」とも記す。)に基づく単位とを含むポリマー(以下、「AOポリマー」とも記す。)である。AOポリマーのフッ素含有量、オキシアルキレン基含有量及び水酸基価は、この順に、10~50質量%、5~75質量%、10~100mgKOH/gである。
なお、オキシアルキレングリコール基とは、オキシアルキレングリコール残基(式-(OZ)-OHで表される基等であり、式中、Zはアルキレン基を、nは2以上の数を、示す。)である。
【0009】
本発明の分散液は、分散性に優れており、濡れ性、接着性、チキソ性、平滑性等の層(塗膜)形成性にも優れている。その理由としては、分散剤であるAOポリマーが、含フッ素部位と水酸基とポリオキシアルキレン部位とを有し、その水酸基価とフッ素含有量とオキシアルキレン含有量とのそれぞれが、上記の所定範囲に調整されているためと考えられる。
AOポリマーの水酸基価及びオキシアルキレン含有量とフッ素含有量とはトレードオフの関係にあり、それぞれの値を調整して、そのFポリマー及び極性溶媒に対する親和性をバランスさせるのは容易ではない。つまり、AOポリマーのフッ素含有量は、モノマーFの構造(フッ素含有量)及びポリマー中のモノマーF単位の量に起因し、AOポリマーの水酸基価及びオキシアルキレン基含有量は、モノマーAOの構造及びポリマー中のモノマーAO単位の量に起因する。
【0010】
例えば、フッ素含有量の高いモノマーFを選定し、その含有量を高めればフッ素含有量の高いAOポリマーを調製できる。しかし、かかるAOポリマーは、Fポリマーとの親和性が向上する反面、その水酸基価及びオキシアルキレン基含有量が相対的に低下するため、極性溶媒との親和性は低下する。その結果、かかるAOポリマーを含む分散液の分散性は低下する。本発明者らは、鋭意検討の結果、モノマーFの構造とモノマーAOの構造とをそれぞれ選択して、AOポリマーのフッ素含有量と水酸基価とオキシアルキレン基含有量とのそれぞれの値を上記の所定範囲に調整した分散剤を用いれば、分散液の分散性が向上する点を知見した。さらに、かかる分散液から形成される層(塗膜)の物性が優れる点を知見して、本発明を完成したのである。
【0011】
本発明におけるパウダーは、Fポリマーを主成分とするのが好ましい。パウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%が特に好ましい。
パウダーに含まれ得る他の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等が挙げられる。
【0012】
パウダーのD50は、0.05~6μmが好ましく、0.1~3μmが特に好ましい。パウダーのD50が上記範囲にある場合、パウダーの流動性と分散性とが高まり、本発明の分散液から形成される塗膜又は層(以下、「F層」とも記す。)の表面平滑性が優れる。パウダーのD90は、8μm以下が好ましく、1.5~5μmが特に好ましい。パウダーのD90が上記範囲にある場合、パウダーの分散性とF層の均質性とが優れる。
パウダーの疎充填嵩密度及び密充填嵩密度は、この順に、0.08~0.5g/mL、0.1~0.8g/mLであるのが好ましい。
【0013】
本発明におけるFポリマーは、TFEに基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。Fポリマーは、TFE単位からなるホモポリマー(以下、「PTFE」とも記す。)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むコポリマー(以下、「PFA」とも記す。)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく単位(HFP単位)とを含むコポリマー(以下、「FEP」とも記す。)又はTFE単位とフルオロアルキルエチレン(FAE)に基づく単位(FAE単位)とを含むコポリマーが好ましい。
PTFEには、低分子量体やTFE単位以外の単位を極微量含むポリマーも包含される。上記ポリマーは、このポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位を、99.5モル%以上含むのが好ましく、99.9モル%以上含むのが特に好ましい。
また、かかるポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sが特に好ましい。
【0014】
低分子量のPTFEは、高分子量のPTFEに放射線を照射して得られるPTFE(国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載のポリマー)であってもよく、TFEの重合に際して連鎖移動剤を用いて得られるPTFE(特開2009-1745号公報、国際公開第2010/114033号、特開2015-232082号公報等に記載のポリマー)であってよく、コア-シェル構造を有し、シェル部分のみが低分子量のPTFEであるPTFE(特表2005-527652号公報、国際公開第2016/170918号、特開平09-087334号公報等に記載のポリマー)であってもよい。
低分子量のPTFEの標準比重(ASTM D4895-04に準拠して測定される比重)は、2.14~2.22が好ましく、2.16~2.20がより好ましい。
【0015】
Fポリマーは、TFE単位以外の単位を含むポリマーも包含される。上記ポリマーは、このポリマーの全単位に対して、TFE単位以外のモノマーに基づく単位を0.5モル%超含むのが好ましい。TFE以外の単位は、PAVE単位、HFP単位、FAE単位又は後述する官能基を有する単位が好ましい。
Fポリマーは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、ニトリル基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するのが好ましい。Fポリマーが上記官能基を有する場合、AOポリマーに含まれる水酸基及びオキシアルキレン部位のFポリマーとの相互作用が強まり易く、分散液の分散性と層(塗膜)形成性が更に向上し易い。なお、カルボニル基含有基には、アミド基が含まれる。
【0016】
上記官能基は、Fポリマーを構成する単位に含まれてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれてもよく、プラズマ処理等によりFポリマーに導入してもよい。ポリマー主鎖の末端基に上記官能基が含まれるFポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として官能基を有するFポリマーが挙げられる。
上記官能基は、ヒドロキシ基又はカルボニル基含有基が好ましく、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基又は酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)が特に好ましく、カルボキシ基又は酸無水物残基が最も好ましい。
Fポリマーは、TFE単位と、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを含むポリマーが好ましい。
【0017】
官能基を有する単位は、官能基を有するモノマーに基づく単位が好ましい。
官能基を有するモノマーとしては、ヒドロキシ基又はカルボニル基含有基を有するモノマーが好ましく、酸無水物残基を有するモノマー又はカルボキシ基を有するモノマーがより好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーが特に好ましい。
環状モノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が挙げられ、NAHが好ましい。
【0018】
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(PPVE)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFFが挙げられ、PPVEが好ましい。
FAEとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられる。
この場合のFポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位と、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを、この順に、90~99モル%、0.5~9.97モル%、0.01~3モル%含むのが好ましい。
この場合のFポリマーの融点は、250~380℃が好ましく、280~350℃が特に好ましい。
かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載のポリマーが挙げられる。
【0019】
本発明における極性溶媒は、25℃で液体の極性溶媒であり、プロトン性であってもよく、非プロトン性であってもよい。また、極性溶媒は、水性溶媒であってもよく、非水性溶媒であってもよい。極性溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
極性溶媒は、水、アミド、アルコール、スルホキシド、エステル、ケトン又はグリコールエーテルが好ましく、水、ケトン、エステル又はアミドがより好ましく、ケトン、エステル又はアミドが特に好ましい。
極性溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
極性溶媒は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はN-メチル-2-ピロリドンが更に好ましい。
【0020】
本発明におけるAOポリマーは、フルオロアルキル基を有するモノマー(モノマーF)に基づく単位(以下、「単位F」とも記す。)とオキシアルキレングリコール基を有するモノマー(モノマーAO)に基づく単位(以下、「単位AO」とも記す。)とを含む。なお、AOポリマーは、Fポリマー以外のポリマーである。
【0021】
モノマーFとは、CH=CHO-、CH=CHCHO-、CH=CHC(O)O-、CH=CCHC(O)O-、CH=CClC(O)O-等の重合性基と、ポリフルオロアルキル基とを有する化合物の総称である。ポリフルオロアルキル基の炭素原子-炭素原子結合間にはエーテル性酸素原子が存在していてもよく、その炭素原子-炭素原子結合は2重結合を形成していてもよい。
ポリフルオロアルキル基の炭素数は、4~8が好ましい。かかる含フッ素部位の鎖長が比較的短いモノマーFを選定すると、分散液の分散性に優れるだけでなく、F層の濡れ性、接着性等の物性がより向上し易い。
【0022】
モノマーFは、下式Fで表される化合物が好ましい。かかる含フッ素部位の鎖長が比較的短いアクリレート系のモノマーFを選定すると、分散液の分散性に優れるだけでなく、F層の濡れ性、接着性等の物性が特に向上し易い。
式F:CH=CXC(O)O-Q-R
式中の記号は、以下の意味を示す。
は、水素原子、塩素原子又はメチル基である。
は、炭素数1~4のアルキレン基であり、メチレン基(-CH-)又はエチレン基(-CHCH-)が好ましい。
は、炭素数1~6のポリフルオロアルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素数3~6のポリフルオロアルキル基である。Rとしては、-(CFF、-(CFF、-CFOCFCFOCFCF又は-CF(CF)OCFCFCFが挙げられる。中でも、F層の物性(濡れ性、接着性、平滑性等)が更に優れる観点から、Rは、-(CFF又は-(CFFが好ましく、-(CFFがより好ましい。
【0023】
モノマーFの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CClC(O)OCHCH(CFFが挙げられる。
【0024】
モノマーAOとは、CH=CHO-、CH=CHCHO-、CH=CHC(O)O-、CH=CCHC(O)O-等の重合性基と、オキシアルキレングリコール残基とを有する化合物の総称である。
モノマーAOは、オキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、下式Hで表される化合物がより好ましい。かかる水酸基とポリオキシアルキレン部位とを有するアクリレート系のモノマーAOを選定すると、分散液の分散性に優れるだけでなく、F層(塗膜)の濡れ性、接着性等の物性が特に向上し易い。
【0025】
式H:CH=CXC(O)-(OZ-OH
式中の記号は、以下の意味を示す。
は、水素原子又はメチル基である。
は、炭素数1~4のアルキレン基であり、エチレン基(-CHCH-)、プロピレン基(-CHCH(CH)-)又はn-ブチレン基(-CHCHCHCH-)が好ましい。なお、Zは、1種の基からなっていてもよく、2種以上の基からなっていてもよい。後者の場合、異種のアルキレン基の並び方は、ランダム状であってもよく、ブロック状であってもよい。
mは、3~200であり、6~100が好ましく、9~70がより好ましく、F層の濡れ性と平滑性が特に優れる観点から、12~40が特に好ましい。
【0026】
モノマーAOの具体例としては、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH90OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH120OH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))13OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH・(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH10・(OCHCHCHCHOHが挙げられる。
【0027】
AOポリマーのフッ素含有量は、10~50質量%である。その下限は20質量%が好ましく、その上限は40質量%が好ましい。フッ素含有量の下限が上記範囲にあれば、分散液の分散性が優れる。フッ素含有量の上限が上記範囲にあれば、分散剤の各成分に対する分散剤の親和性がバランスして分散液の分散性に加えて、その層(塗膜)形成性が向上し易い。例えば、F層は、濡れ性が高く、接着性に優れる特徴がある。
【0028】
AOポリマーの水酸基価は、10~100mgKOH/gである。その下限は15mgKOH/gが好ましい。その上限は、50mgKOH/gが好ましく、35mgKOH/gがより好ましく、30mgKOH/gが特に好ましい。水酸基価の下限が上記範囲にあれば、分散液の分散性が優れる。水酸基価の上限が上記範囲にあれば、Fポリマーと極性溶媒とのそれぞれに対するAOポリマーの親和性がバランスして分散液の分散性に加えて、その層(塗膜)形成性が向上し易い。具体的には、F層は、Fポリマー自体の物性をそのまま発現し易い。
【0029】
AOポリマーのオキシアルキレン基含有量(以下、「AO含有量」とも記す。)は、5~75質量%である。その下限は、20質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。その上限は、50質量%が好ましく、45質量%がより好ましい。AO含有量の下限が上記範囲にあれば、分散液の分散性が優れる。AO含有量の上限が上記範囲にあれば、Fポリマーと極性溶媒とのそれぞれに対するAOポリマーの親和性がバランスして分散液の分散性に加えて、その層(塗膜)形成性が向上し易い。具体的には、F層は、Fポリマー自体の物性がそのまま発現し、その平滑性が向上し易い。
【0030】
AOポリマーのフッ素含有量、オキシアルキレン基含有量及び水酸基価の好適な範囲の具体例としては、それぞれの値が、この順に、20~50質量%、20~50質量%、15~35mgKOH/gである態様が挙げられる。
なお、AOポリマーのフッ素含有量とAO含有量との和は、100質量%未満であり、45~85質量%であるのが好ましい。AOポリマーのフッ素含有量、水酸基価及びAO含有量は、それを合成する際に使用するモノマーの種類と、その使用量とから計算してもよく、AOポリマーを分析して決定してもよい。
【0031】
AOポリマーに含まれる全単位に対する単位Fの量は、60~90モル%が好ましく、70~90モル%が特に好ましい。
AOポリマーに含まれる全単位に対する単位AOの量は、10~40モル%が好ましく、10~30モル%が特に好ましい。
AOポリマーは、単位F及び単位AOのみからなっていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲において、単位F及び単位AO以外の追加の単位をさらに含んでいてもよい。
AOポリマーに含まれる全単位に対する、単位Fと単位AOとの合計での量は、90~100モル%が好ましく、99~100モル%が特に好ましい。つまり、AOポリマーは、実質的に単位F及び単位AOのみからなるポリマーが好ましい。
AOポリマーは、ノニオン性であるのが好ましい。
AOポリマーの質量平均分子量は、2000~80000が好ましく、6000~20000が特に好ましい。
【0032】
AOポリマーの好適な具体例としては、下式F1で表される化合物に基づく単位と下式H1で表される化合物に基づく単位とを含み、フッ素含有量、オキシアルキレン基含有量及び水酸基価が、この順に、20~40質量%、25~45質量%、15~30mgKOH/gであるポリマーが挙げられる。
式F1:CH=CXF1C(O)O-CHCH-RF1
式H1:CH=CXH1C(O)-(OCHCHm1-OH
F1は、水素原子又はメチル基である。
F1は、-(CFF又は-(CFFである。
H1は、水素原子又はメチル基である。
m1は、9~70であり、12~40が好ましい。
【0033】
上記AOポリマーに含まれる全単位に対する式F1で表される化合物に基づく単位の量は、60~90モル%であり、70~90モル%が好ましい。
上記AOポリマーに含まれる全単位に対する式H1で表される化合物に基づく単位の量は、10~40モル%であり、10~30モル%が好ましい。
上記AOポリマーに含まれる全単位に対する、式F1で表される化合物に基づく単位と式H1で表される化合物との合計での量は、90~100モル%であり、100モル%が好ましい。
AOポリマーは、主鎖末端に水酸基又はカルボキシル基を有していてもよい。この場合、本発明の分散液のレベリング性が向上し易い。かかるAOポリマーは、例えば、その製造に際して使用する重合開始剤や連鎖移動剤の種類を調製して得られる。
【0034】
本発明の分散液中のFポリマーの割合は、5~60質量%が好ましく、30~50質量%が特に好ましい。この範囲において、電気特性と機械的強度とに優れたF層を形成し易い。
本発明の分散液中の分散剤の割合は、1~30質量%が好ましく、3~15質量%が特に好ましい。この範囲において、分散性がより向上し、さらにF層の物性(濡れ性、接着性等)がより向上し易い。
本発明の分散液におけるFポリマーの含有量に対するAOポリマーの含有量の比は、0.25以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.1以下が特に好ましい。上記比の下限は、0.01が好ましい。
【0035】
AOポリマーは、Fポリマー及び極性溶媒の双方との親和性が高いため、上記比が小さい場合(AOポリマーの含有量が少ない場合)でも、分散液の分散安定性に優れる。さらに、上記比が、上記範囲内にあれば、濡れ性が高く接着性により優れ、かつ、Fポリマー自体の物性がそのまま発現されるF層を容易に形成し易い。
本発明の分散液中の極性溶媒の割合は、15~65質量%が好ましく、25~50質量%が特に好ましい。この範囲において、分散液の塗布性が優れ、かつ層(塗膜)形成性が向上し易い。
【0036】
本発明の分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の材料を含んでいてもよい。他の材料は、分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
かかる他の材料は、有機物であってもよく、無機物であってもよい。有機物は、非硬化性樹脂であってもよく、硬化性樹脂であってもよい。非硬化性樹脂としては、熱溶融性樹脂、非溶融性樹脂が挙げられる。熱溶融性樹脂としては、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。非溶融性樹脂としては、硬化性樹脂の硬化物等が挙げられる。
また、他の材料の形状は、粒状であってもよく、繊維状であってもよい。
【0037】
硬化性樹脂としては、反応性基を有するポリマー、反応性基を有するオリゴマー、低分子化合物、反応性基を有する低分子化合物等が挙げられる。反応性基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。
硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリアミック酸、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、多官能シアン酸エステル樹脂、多官能マレイミド-シアン酸エステル樹脂、多官能性マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂が挙げられる。
【0038】
エポキシ樹脂としては、ナフタレン型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、脂環型、脂肪族鎖状型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型、アラルキル型、ビフェノール型等の任意のエポキシ樹脂が挙げられる。
ビスマレイミド樹脂としては、特開平7-70315号公報に記載される樹脂組成物(BTレジン)、国際公開第2013/008667号に記載される樹脂が挙げられる。
ポリアミック酸を形成するジアミン、多価カルボン酸二無水物としては、特許第5766125号公報の[0020]、特許第5766125号公報の[0019]、特開2012-145676号公報の[0055]、[0057]等に記載の化合物が挙げられる。
【0039】
熱溶融性樹脂としては、熱可塑性ポリイミド、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート、熱可塑性ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、硬化性樹脂の熱溶融性の硬化物が挙げられ、熱可塑性ポリイミド、液晶性ポリエステル又はポリフェニレンエーテルが好ましい。
また、かかる他の材料としては、チキソ性付与剤、消泡剤、フィラー、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等も挙げられる。
【0040】
他の材料の好適な具体例としては、比誘電率及び誘電正接が低いフィラーが挙げられる。本発明の分散液が、かかるフィラーを含めば、後述する積層体やプリント基板の電気特性がより向上し易い。
この場合のフィラー又はフィラーを形成する化合物としては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化セリウム、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性の炭酸マグネシウム、非塩基性の炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、窒化ホウ素、窒化アルミ、モンモリロナイト、フォルステライト、ステアタイト、コージェライト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスチョップドファイバー、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、ガラスバルーン、炭素バーン、木粉、ホウ酸亜鉛、ポリイミドパウダーが挙げられるフィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
他の材料の好適な具体例としては、特に誘電正接が低いフィラーである、酸化マグネシウム、フォルステライト、窒化ホウ素、窒化アルミが挙げられる。
本発明の分散液が、かかるフィラーを含む場合、その含有量は、分散液から形成されるF層、特にアニール処理されたF層の線膨張係数が10~100ppm/℃になるように決定されるのが好ましい。具体的には、上記含有量は、フィラーの種類、形状により決定でき、アスペクト比が2以上のフィラーであれば、1~50質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、アスペクト比が1~2の球状フィラーであれば、1~80質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましい。
前者のフィラーの具体例としては、繊維状の硫酸マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製、商品名「モスハイジ」等。)、ガラスカットファイバー(日東紡株式会社製、商品名「PF」、「SS」等。)が挙げられる。これらのフィラーを含む分散液から形成されるF層は、紫外線領域の波長を有する光の吸収、特に266nm及び355nmの波長を有する光の吸収が向上するため、かかる波長の光を使用するUV-YAGレーザー加工性が向上する。そのため、後述する積層体から、より高精度なプリント基板を容易に製造できる。
【0042】
本発明の分散液が、F層の折り曲げ性を維持又は向上させる観点から、フィラーを含む場合、その形状は、粒状が好ましく、粒径1μm以下の粒状がより好ましい。また、アスペクト比が2以上のフィラーとアスペクト比が1~2のフィラーとを併用してもよい。
フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよい。
フィラーの吸水率は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0043】
本発明の分散液の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、50~10000mPa・sがより好ましく、75~1000mPa・sがさらに好ましく、100~500mPa・sが特に好ましい。この場合、分散液の分散性に優れるだけでなく、その塗工性や異種の樹脂材料のワニスとの相溶性にも優れている。
本発明の分散液のチキソ比(η/η)は、1.0~2.2が好ましく、1.4~2.2がより好ましく、1.5~2.0が特に好ましい。この場合、分散液の分散性に優れるだけでなく、F層の均質性が向上し易い。なお、チキソ比(η/η)は、回転数が30rpmの条件で測定される分散液の粘度ηを回転数が60rpmの条件で測定される分散液の粘度ηで除して算出される。
【0044】
本発明の分散液は、上述したとおり、接着性に優れた、F層を形成できる。本発明の分散液から、基材の表面に、F層を形成するのが好ましい。
F層は、単一の層であってもよく、複数の層を含む積層体であってもよい。また、それぞれのF層には、上述した他の材料(各種の有機樹脂、フィラー等。)が含まれていてもよい。
例えば、他の材料を含まないか他の材料の含有量が少ない本発明の分散液を用いて基材の表面に第1のF層を形成し、さらに、他の材料の含有量が高い本発明の分散液を用いて上記第1のF層の表面に第2のF層を形成してもよい。かかる方法により、基材との密着性に優れ、他の材料に起因する物性にもより優れた積層体が容易に得られ易い。
F層の形成に際しては、本発明の分散液から溶媒を加熱して、溶媒を留去して形成するのが好ましい。
基材は、金属箔が好ましい。
金属箔の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。金属箔の表面は、防錆処理(クロメート等の酸化物皮膜等)されていてもよく、粗化処理されていてもよい。
【0045】
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.2~1.5μmが好ましい。この場合、F層との接着性が良好となり易い。
金属箔の厚さは、樹脂付金属箔の用途において機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、その表面の十点平均粗さ以上の厚さであり、2~40μmが好ましい。
金属箔の表面は、その全体がシランカップリング剤により処理されていてもよく、その一部のみがシランカップリング剤により処理されていてもよい。
【0046】
また、金属箔として、極薄金属箔とキャリア金属箔とを積層した積層金属箔(キャリア付金属箔)も使用できる。極薄金属箔の厚さは、2~5μmが好ましい。
例えば、キャリア付銅箔の極薄銅箔側に本発明の分散液からF層を形成した後に、キャリア銅箔のみを剥離すれば、極薄銅箔とF層とをこの順に有する積層体を容易に製造できる。かかる積層体をMSAP(モディファイドセミアディティブプロセス)法に供すれば、極薄銅箔層をめっきシード層として利用したファインパターンも形成できる。
キャリア付金属箔の金属箔同士の間には、剥離層が形成されているのが好ましい。剥離層は、耐熱性の観点から、ニッケル又はクロムを含む金属層、又は、かかる金属層を多層化した多層金属層が好ましい。かかる剥離層であれば、300℃以上の工程に供した後でも、キャリア銅箔を極薄銅箔から容易に剥離できる。
キャリア付金属箔の具体例としては、福田金属箔粉工業株式会社製の商品名「FUTF-5DAF-2」が挙げられる。
【0047】
本発明の分散液を金属箔の表面に塗布(供給)し、金属箔を加熱して、F層を有する樹脂付金属箔を製造できる。
本発明における樹脂付金属箔は、金属箔の少なくとも一方の表面に、F層を有する。つまり、樹脂付金属箔は、金属箔の片面のみにF層を有していてもよく、金属箔の両面にF層を有していてもよい。
樹脂付金属箔の反り率は、25%以下が好ましく、7%以下が特に好ましい。この場合、樹脂付金属箔をプリント基板に加工する際のハンドリング性と、得られるプリント基板の伝送特性とが優れる。
樹脂付金属箔の寸法変化率は、±1%以下が好ましく、±0.2%以下が特に好ましい。この場合、樹脂付金属箔をプリント基板に加工し、さらにそれを多層化し易い。
【0048】
F層の表面の水接触角は、70~100°が好ましく、70~90°が特に好ましい。この場合、F層と他の基材との接着性がより優れる。上記範囲が下限以上であれば、樹脂付金属箔をプリント基板に加工した際の電気特性がより優れる。
F層の厚さは、1~200μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、1~15μmがさらに好ましく、1~9μmが特に好ましい。この範囲において、樹脂付金属箔をプリント基板に加工した際の電気特性と樹脂付金属箔の反り抑制とをバランスさせ易い。樹脂付金属箔が金属箔の両面にF層を有する場合、2つのF層の組成及び厚さは、樹脂付金属箔の反りを抑制する点から、同じであることが好ましい。
F層の比誘電率は、2.0~3.5が好ましく、2.0~3.0がより好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板等に樹脂付金属箔を好適に使用できる。
【0049】
塗布方法は、塗布後の金属箔の表面に分散液からなる安定したウェット膜が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等が挙げられる。
分散液の塗布後、金属箔を加熱するに際しては、低温領域の温度に保持して、溶媒を留去するのが好ましい。低温領域の温度としては、80℃以上180℃未満が好ましく、120℃~170℃が特に好ましい。
低温領域の温度での保持は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
低温領域の温度に保持する方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。
【0050】
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸化性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気のいずれであってもよい。
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。
酸化性ガスとしては、酸素ガスが挙げられる。
【0051】
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、分散剤の酸化分解を促し、よりF層の接着性を向上させる観点から、酸素ガスを含む雰囲気が好ましい。
酸素ガスを含む雰囲気における酸素ガス濃度(体積基準)は、1×10~3×10ppmが好ましく、0.5×10~1×10ppmが特に好ましい。この範囲において、分散剤の酸化分解と、金属箔の酸化抑制とをバランスさせ易い。
低温領域の温度に保持する時間は、0.1~10分間が好ましく、0.5~5分間が特に好ましい。
【0052】
本発明における樹脂付金属箔の製造方法においては、さらに、低温領域での保持温度を超える温度領域(以下、「焼成領域」とも記す。)にて、Fポリマーを焼成させて金属箔の表面にF層を形成するのが好ましい。焼成領域の温度は、焼成における雰囲気の温度を意味する。
本発明におけるF層の形成は、パウダー粒子が密にパッキングし、Fポリマーが融着して進行すると考えられる。なお、分散液が熱溶融性樹脂を含めば、Fポリマーと溶解性樹脂との混合物からなるF層が形成され、分散液が熱硬化性樹脂を含めば、Fポリマーと熱硬化性樹脂の硬化物とからなるF層が形成される。
【0053】
焼成の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。F層の表面の平滑性を高めるために、加熱板、加熱ロール等で加圧してもよい。加熱の方法としては、短時間で焼成でき、遠赤外線炉が比較的コンパクトである点から、遠赤外線を照射する方法が好ましい。加熱の方法は、赤外線加熱と熱風加熱とを組み合わせてもよい。
遠赤外線の有効波長帯は、Fポリマーの均質な融着を促す点から、2~20μmが好ましく、3~7μmがより好ましい。
【0054】
焼成における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記焼成における雰囲気は、酸化性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気のいずれであってもよく、金属箔、形成されるF層それぞれの酸化劣化を抑制する観点から、還元性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。
酸化性ガスとしては、酸素ガスが挙げられる。
【0055】
焼成における雰囲気は、不活性ガスから構成され酸素ガス濃度が低いガス雰囲気が好ましく、窒素ガスから構成され酸素ガス濃度(体積基準)が500ppm未満のガス雰囲気がより好ましい。酸素ガス濃度(体積基準)は、300ppm以下が特に好ましい。また、酸素ガス濃度(体積基準)は、通常、1ppm以上である。この範囲において、分散剤のさらなる酸化分解が抑制され、F層の親水性を向上させ易い。
焼成領域の温度は、250℃~400℃以下が好ましく、300~380℃が特に好ましい。
焼成領域の温度に保持する時間は、30秒~5分間が好ましく、1~2分間が特に好ましい。
【0056】
本発明における樹脂付金属箔には、F層の線膨張を制御したり、F層の接着性をさらに改善したりするために、F層の表面に表面処理をしてもよい。
F層の表面にする表面処理方法としては、アニール処理、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理、微粗面化処理等が挙げられる。
アニール処理における温度は、120~180℃が好ましい。
アニール処理における圧力は、0.005~0.015MPaが好ましい。
アニール処理の時間は、30~120分間が好ましい。
【0057】
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス等が挙げられ、希ガス又は窒素ガスが好ましい。プラズマ処理に用いるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。
【0058】
本発明で得られる樹脂付金属箔のF層の表面は、接着性に優れるため、他の基板と容易かつ強固に積層できる。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体等が挙げられる。
プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル等が挙げられる。
【0059】
本発明における樹脂付金属箔のF層の表面に他の基材を積層する方法としては、樹脂付金属箔と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合のプレス温度は、Fポリマーの融点以下が好ましく、120~300℃がより好ましい。他の基板が耐熱性樹脂フィルムである場合のプレス温度は、310~400℃が好ましい。
熱プレスは、気泡混入を抑制し、酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空度で行うのが特に好ましい。
また、熱プレス時には上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。上記真空度に到達する前に昇温すると、F層が軟化した状態、すなわち一定程度の流動性、密着性がある状態にて圧着されてしまい、気泡の原因となる。
熱プレスにおける圧力は、基板の破損を抑制しつつ、F層と基板とを強固に密着させる観点から、0.2~10MPaが好ましい。
【0060】
本発明における樹脂付金属箔やその積層体は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
例えば、本発明における樹脂付金属箔の金属箔をエッチング等によって所定のパターンの導体回路(パターン回路)に加工する方法や、本発明における樹脂付金属箔を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によってパターン回路に加工する方法を使用すれば、本発明における樹脂付金属箔からプリント基板を製造できる。
プリント基板の製造においては、パターン回路を形成した後に、パターン回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに導体回路を形成してもよい。層間絶縁膜は、本発明の分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にソルダーレジストを積層してもよい。ソルダーレジストは、本発明の分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。
【0061】
以上、本発明の分散液について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の分散液は、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各種測定方法と使用材料とを、以下に示す。
<パウダーのD50及びD90>
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用い、パウダーを水中に分散させて測定した。
<分散液の分散安定性>
1週間静置した後の分散液の分散状態を目視にて確認し、下記基準にて評価した。
〇:沈降するが、軽く撹拌すると再分散した。
△:せん断をかけて撹拌すると再分散した。
×:せん断をかけても再分散しなかった。
【0063】
<F層の水接触角>
25℃にて樹脂付金属箔のF層の表面に純水(約2μL)を置いた際の、水滴とF層の表面とのなす角度を、接触角計(協和界面科学社製CA-X型)を用いて測定し、下記基準で評価した。
○:水接触角が80°以下である。
×:水接触角が80°超である。
<F層の平坦性>
F層表面の凹凸状態を光干渉顕微鏡で観察して中央部と端部(5ヶ所)の凹凸状態を、下記基準で評価した。
○:中央部に対する端部の凹凸幅(平均値)が、10%以下である。
×:中央部に対する端部の凹凸幅(平均値)が、10%超である。
<積層体の剥離強度>
矩形状(長さ100mm、幅10mm)に切り出した積層体の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分で、長さ方向の片端から積層体に対して90°、金属箔とF層とを剥離させた際にかかる最大荷重を剥離強度(N/cm)とした。
【0064】
[Fポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むコポリマー。
[パウダー]
パウダー1:D50が1.7μm、D90が3.8μmである、ポリマー1からなるパウダー。
【0065】
[分散剤]
分散剤1:モノマーF単位とモノマーAO単位とを、この順に81モル%、19モル%含むポリマー(フッ素含有量:35質量%、水酸基価:19mgKOH/g、AO含有量:34質量%)。
分散剤2:モノマーF単位とモノマーAO単位とを、この順に68モル%、32モル%含むポリマー(フッ素含有量:13質量%、水酸基価:14mgKOH/g、AO含有量:74質量%)。
分散剤3:モノマーF単位とモノマーAO単位とを、この順に56モル%、44モル%含むポリマー(フッ素含有量:19質量%、水酸基価:33mgKOH/g、AO含有量:60質量%)。
分散剤4:モノマーF単位とモノマーAO単位とを、この順に42モル%、58モル%含むポリマー(フッ素含有量:12質量%、水酸基価:39mgKOH/g、AO含有量:70質量%)。
分散剤5:モノマーF単位とモノマーAO単位とのコポリマー(フッ素含有量:35質量%、水酸基価:47mgKOH/g、AO含有量:38質量%)。
なお、それぞれの分散剤におけるAO含有量は、使用したモノマーAOに含まれる(OCHCH)単位の量である。
【0066】
モノマーF:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF。
モノマーF:CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOCF(CF)(C(=C(CF)(CF(CF))。
モノマーAO:CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH。
モノマーAO:CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH。
モノマーAO:CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OH。
なお、モノマーAOにおける(OCHCH)単位の数は、平均値である。
【0067】
[金属箔]
銅箔1:粗化処理層を有する銅箔(厚さ12μm、表面の十点平均粗さ0.6μm)。
[他の材料]
フィラー1:シリカ粒子(東ソー社製、NIPSIL(登録商標) VN3)
フィラー2:酸化マグネシウム(タテホ化学社製、ディスパーマグTN-1)
フィラー3:ガラスカットファイバー(日東紡株式会社製、PF)
【0068】
[例1]分散液の製造例
40質量部のN-メチル-2-ピロリドンと12質量部の分散剤1とを混合し、さらに48質量部のパウダー1を混合し、Fポリマーの含有量に対する分散剤の含有量の比が0.25である分散液を得た。分散剤1のかわりに分散剤2、3、4を使用し、分散液をそれぞれ得た。いずれの分散液でも、パウダー1が均一に分散していた。
[例2]分散液の製造例及び評価例
64質量部のN-メチル-2-ピロリドンと3質量部の分散剤1とを混合し、さらに33質量部のパウダー1を混合して、Fポリマーの含有量に対する分散剤の含有量の比が0.1である分散液1を調製した。
分散剤1のかわりに分散剤2、3、4、5を使用する以外は同様にして、分散液2、3、4、5を製造し、分散液の分散安定性を評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、分散液1におけるN-メチル-2-ピロリドンのかわりに、メチルエチルケトン3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はシクロヘキサノンをそれぞれ用いる以外は同様にして調製した分散液は、分散液1と同等の分散性を示した。
【0071】
[例3]樹脂付金属箔の製造例及び評価例
銅箔1の表面にダイコーターを用いて分散液1を塗布し、通風乾燥炉(雰囲気温度:120℃)に通して1分間保持し、遠赤外線炉(温度:340℃)にさらに通して3分間保持し、銅箔1の表面にポリマー1のF層(厚さ5μm)を有する樹脂付銅箔1を得た。
さらに、分散液1のかわりに分散液5を使用する以外は同様にして、樹脂付銅箔5を製造した。それぞれの樹脂付銅箔におけるF層の水接触角及び平坦性を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
[例4]樹脂付金属箔の評価例
樹脂付銅箔1のF層の表面を真空プラズマ処理した。なお、処理条件は、出力:4.5kW、導入ガス:アルゴンガス、導入ガス流量:50cm/分間、圧力:50mTorr(6.7Pa)、処理時間:2分間とした。
処理後の樹脂付銅箔1のF層の表面に、プリプレグとしてFR-4(日立化成社製、GEA-67N 0.2t(HAN)、強化繊維:ガラス繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、厚さ:0.2mm)を重ね、真空熱プレスして積層体1を得た。なお、処理条件は、温度:185℃、加圧圧力:3.0MPa、加圧時間:60分間とした。得られた積層体1の剥離強度は8N/cmであった。
【0074】
[例5]樹脂付金属箔の製造評価例
45質量部のNMPと、2.5質量部の分散剤1を含む溶液(5質量部)と、50質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがし、パウダー分散液4Aを調製した。さらに、10質量部のフィラー1をポットに投入し、さらに1時間、ポットをころがして、パウダー分散液4Bを調製した。
パウダー分散液4Bを銅箔1に、キスリバース法によりロールツーロールで塗工して液状被膜を形成した。塗工は、銅箔1にはサポートフィルムとしてアクリル系粘着フィルムを銅箔1に積層した状態で行った。次いで、この液状被膜を120℃にて5分間乾燥炉に通し、加熱し乾燥して、乾燥被膜を得た。その後、乾燥被膜を窒素オーブン下で380℃にて3分間加熱した。これにより、銅箔1の表面に、厚さ3μmのF層が形成された樹脂付銅箔4を得た。樹脂付銅箔4は、波長266nm及び355nmの吸光性が高くUVレーザー加工性に優れ、銅箔とF層の線膨張係数の差に起因する反りも低減されていた。
樹脂付銅箔4を用い例4と同様にして積層体4を形成し、さらに積層体4の銅箔に伝送線路を形成してプリント基板4を得た。プリント基板4は、比誘電率と誘電正接とが低く、高周波信号の伝送特性に優れていた。
【0075】
[例6]樹脂付金属箔の製造評価例
100質量部のパウダー分散液4Aと20質量部のフィラー2とをポットに投入し、さらに1時間、ポットをころがして、パウダー分散液5Bを調製した。
パウダー分散液5Bを銅箔1に、ダイコート法により塗工して液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜を120℃にて5分間乾燥炉に通し、加熱し乾燥して、乾燥被膜を得た。その後、乾燥被膜を窒素雰囲気下の遠赤外線炉で380℃にて10分間加熱した。これにより、銅箔1の表面に、厚さ100μmのF層が形成された樹脂付銅箔5を得た。樹脂付銅箔5は、誘電特性に優れており、反りも低減されていた。
樹脂付銅箔5を用い例4と同様にして積層体5を形成し、さらに積層体5の銅箔に伝送線路を形成してプリント基板5を得た。プリント基板5は、比誘電率と誘電正接とが低く、高周波信号の伝送特性に優れていた。
【0076】
[例7]樹脂付金属箔の製造評価例
100質量部のパウダー分散液4Aと10質量部のフィラー3とをポットに投入し、さらに1時間、ポットをころがして、パウダー分散液6Bを調製した。
パウダー分散液6Bを銅箔1に、ダイコート法で塗工して液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜を120℃にて5分間乾燥炉に通し、加熱し乾燥して、乾燥被膜を得た。その後、乾燥被膜を窒素雰囲気下の遠赤外線で380℃にて10分間加熱した。これにより、銅箔1の表面に、厚さ100μmのF層が形成された樹脂付銅箔6を得た。樹脂付銅箔6は、反りが低減され、折り曲げてもクラックが入りにくくフレキシブル性が維持されていた。
樹脂付銅箔6を用い例4と同様にして積層体6を形成し、さらに積層体6の銅箔に伝送線路を形成してプリント基板6を得た。プリント基板6は、比誘電率と誘電正接とが低く、高周波信号の伝送特性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の分散液は、分散性と層(塗膜)形成性とに優れており、フィルム、繊維強化フィルム、プリプレグ、金属積層板(樹脂付金属箔)に容易に加工でき、得られる加工物品は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、のこぎり、すべり軸受け等の材料として使用できる。