(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形物、組成物、グリーンシート、焼成物及びガラスセラミックス基板
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240214BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240214BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240214BHJP
C01F 7/16 20220101ALI20240214BHJP
C04B 35/443 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K7/00
C01F7/16
C04B35/443
(21)【出願番号】P 2020565198
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000434
(87)【国際公開番号】W WO2020145341
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019003650
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】糸谷 一男
(72)【発明者】
【氏名】佐野 義之
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148236(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221372(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137468(WO,A1)
【文献】国際公開第02/079114(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C04B 35/44- 35/443
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折法により得られる回折ピークの、(311)面に相当するピークの半値幅から算出される結晶子径が60nm以上90nm以下である粒子内にモリブデンを含む板状スピネル粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記板状スピネル粒子の厚みTが0.01μm以上5μm以下であり、平均粒子径Lが
0.1μm以上500μm以下であり、アスペクト比L/Tが3以上500以下である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記モリブデンの含有量が、板状スピネル粒子100質量%に対して三酸化モリブデン
換算で0.01質量%以上1質量%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
硬化剤を更に含有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
熱伝導性材料である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる、成形物。
【請求項7】
X線回折法により得られる回折ピークの、(311)面に相当するピークの半値幅から算出される結晶子径が60nm以上90nm以下である粒子内にモリブデンを含む板状スピネル粒子と、ガラス成分と、を含有する、組成物。
【請求項8】
前記板状スピネル粒子の厚みTが0.01μm以上5μm以下であり、平均粒子径Lが
0.1μm以上500μm以下であり、アスペクト比L/Tが3以上500以下である、
請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記モリブデンの含有量が、板状スピネル粒子100質量%に対して三酸化モリブデン
換算で0.01質量%以上1質量%以下である、請求項
7又は
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記板状スピネル粒子の含有量が板状スピネル粒子及びガラス成分の合計体積100v
ol%に対して、10vol%以上50vol%以下である、請求項
7~
9のいずれか
一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項
7~
10のいずれか一項に記載の組成物を成形してなる、グリーンシート。
【請求項12】
請求項7~
10のいずれか一項に記載の組成物を焼成してなる、焼成物。
【請求項13】
請求項12に記載の焼成物を備える、ガラスセラミックス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形物、組成物、グリーンシート、焼成物及びガラスセラミックス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の小型軽量化、高性能化が求められ、これに伴い半導体デバイスの高集積化、大容量化が進んでいる。このため、機器の構成部材に生じる発熱量が増大しており、機器の放熱機能の向上が求められている。機器の放熱機能を向上させる方法としては、例えば、絶縁部材に熱伝導性を付与する方法、より具体的には、絶縁部材となる樹脂に高い熱伝導性を有する無機フィラーを添加する方法が知られている。この際、使用される無機フィラーとしては、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0003】
また、低温焼成基板(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)は、一般的にガラス粉末(例えばCaO-Al2O3-SiO2-B2O3)にAl2O3フィラーを数10%(30%以上55%以下程度)添加した原料に、導体抵抗の小さいAgやCuを内層導体に用い、これらの導体金属の融点より低い(1000℃以下)温度で焼成できるようにしたセラミックスである。高周波モジュール用途に関しては、携帯電話及び車載用ミリ波レーダー、WiGig、VR/ヘッドマウントディスプレイ等において、誘電率(比誘電率)、Q値又は誘電正接、曲げ強さ、熱伝導率、熱膨張係数等の物性に優れたLTCC基板が求められている。特に、次世代通信システムに用いられる基板としては、大量のデータを速く、効率よく処理及び伝達するために、低誘電正接の材料が求められる。従来、LTCC基板用に主に用いられているフィラーとして、破砕アルミナや板状アルミナが挙げられる。しかし、アルミナ固有の誘電正接は10-3と高いことにより、熱伝導率及び機械強度に加え、低誘電正接を兼備したガラスセラミックス基板は成し得ない。
【0004】
一方、低誘電正接の無機粒子としては、MgAl2O4で表わされる、一般式AB2X4となる金属元素の複酸化物スピネルが挙げられる。スピネル粒子は、宝石類として使用される他、その多孔構造や修飾容易性の観点から、蛍光発光体、触媒担体、吸着剤、光触媒、耐熱絶縁材料等の用途に適用されている。また、特許文献1にはスピネル粒子を配合した絶縁体セラミック組成物が開示されている。
【0005】
従来、スピネルは、上記のように宝石類、蛍光発光体、触媒担体、吸着剤、光触媒、耐熱絶縁材料等の用途に適用されているが、熱伝導性を有する無機フィラーとしての用途は想定されていない。この理由は、コストの観点から、従来アルミナがよく使用されており、前記アルミナよりも熱伝導性が低いものとして知られていたスピネルは熱伝導性の無機フィラーとしての使用が想定されなかったためである。
また、スピネル粒子においては、結晶子径が高く、粒子自体の熱伝導率が優れ、かつ低誘電正接や耐薬品性に優れるものであるものが得られる事例は見られるものの、高アスペクト比を有し、優れた機械強度を兼備するガラスセラミックス基板は未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れる樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、前記樹脂組成物を成形してなる成形物を提供する。
また、本発明は、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れるガラスセラミックス基板の製造に用いられる組成物を提供する。
また、本発明は、前記組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供する。
また、本発明は、前記組成物を焼成してなる焼成物を提供する。
また、本発明は、前記焼成物を備えるガラスセラミックス基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モリブデンを含む板状α-スピネル粒子とマグネシウム化合物とを焼成して得られた板状スピネル粒子を用いることで、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、更に機械強度も優れるLTCC基板を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)粒子内にモリブデンを含む板状スピネル粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
(2)前記板状スピネル粒子の厚みが0.01μm以上5μm以下であり、平均粒子径が0.1μm以上500μm以下であり、アスペクト比が3以上500以下である、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記モリブデンの含有量が、板状スピネル粒子100質量%に対して三酸化モリブデン換算で0.01質量%以上1質量%以下である、(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
(4)X線回折法により得られる回折ピークの、(311)面に相当するピークの半値幅から算出される結晶子径が60nm以上である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
(5)硬化剤を更に含有する、(1)~(4)のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
(6)熱伝導性材料である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
(7)(1)~(6)のいずれか一つに記載の樹脂組成物を成形してなる、成形物。
(8)粒子内にモリブデンを含む板状スピネル粒子と、ガラス成分と、を含有する、組成物。
(9)前記板状スピネル粒子の厚みが0.01μm以上5μm以下であり、平均粒子径が0.1μm以上500μm以下であり、アスペクト比が3以上500以下である、(8)に記載の組成物。
(10)前記モリブデンの含有量が、板状スピネル粒子100質量%に対して三酸化モリブデン換算で0.01質量%以上1質量%以下である、(8)又は(9)に記載の組成物。
(11)X線回折法により得られる回折ピークの、(311)面に相当するピークの半値幅から算出される結晶子径が60nm以上である、(8)~(10)のいずれか一つに記載の組成物。
(12)前記板状スピネル粒子の含有量が板状スピネル粒子及びガラス成分の合計体積100vol%に対して、10vol%以上50vol%以下である、(8)~(11)のいずれか一つに記載の組成物。
(13)(8)~(12)のいずれか一つに記載の組成物を成形してなる、グリーンシート。
(14)(8)~(12)のいずれか一つに記載の組成物を焼成してなる、焼成物。
(15)(14)に記載の焼成物を備える、ガラスセラミックス基板。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の樹脂組成物によれば、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れる樹脂組成物を提供することができる。
上記態様の成形物によれば、前記樹脂組成物を成形してなる成形物を提供することができる。
上記態様の組成物によれば、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れるガラスセラミックス基板の製造に用いられる組成物を提供することができる。
上記態様のグリーンシートによれば、前記組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供することができる。
上記態様の焼成物によれば、前記組成物を焼成してなる焼成物を提供することができる。
上記態様のガラスセラミックス基板によれば、前記焼成物を備えるガラスセラミックス基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物、成形物、組成物、グリーンシート、焼成物及びガラスセラミックス基板について詳細に説明する。
【0012】
≪樹脂組成物≫
実施形態に係る樹脂組成物は、板状スピネル粒子と、樹脂と、を含有する。板状スピネル粒子は粒子内にモリブデンを含む。また、実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、粘度調節剤、可塑剤等を更に含有してもよい。
【0013】
<板状スピネル粒子>
一般に、「スピネル粒子」は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、及び酸素原子を含むことから、通常、MgAl2O4の化学組成で表される。実施形態に係る樹脂組成物に含有される板状スピネル粒子は粒子内にモリブデンを含み、モリブデンの含有形態は特に制限されないが、モリブデンがスピネル粒子表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがスピネルに組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがスピネルに組み込まれる形態」としては、スピネル粒子を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、スピネル粒子の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるスピネル粒子を構成する原子としては、特に制限されず、マグネシウム原子、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
中でも、モリブデンは少なくともスピネルに組み込まれる形態で含有されることが好ましい。なお、モリブデンがスピネルに組み込まれている場合、例えば、洗浄による除去がされにくい傾向がある。
【0014】
本明細書において、「アスペクト比」とは、スピネル粒子の平均粒子径を厚みで除した比である。また、ここでいう「板状」とは、アスペクト比が2以上であることを指す。なお、本明細書において、「スピネル粒子の厚み」は、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個のスピネル粒子について測定された厚みの算術平均値とする。「粒径」は、スピネル粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さとする。「スピネル粒子の平均粒子径」は走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個の板状スピネル粒子について測定された粒径の算術平均値とする。
【0015】
板状スピネル粒子は、厚みが0.01μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上3μm以下がより好ましく、0.1μm以上1μm以下がさらに好ましく、0.15μm以上0.75μm以下がよりさらに好ましく、0.2μm以上0.5μm以下が特に好ましく、0.2μm以上0.47μm以下が最も好ましい。板状スピネル粒子の厚みが上記範囲内であることで、機械強度により優れたものとすることができる。
【0016】
板状スピネル粒子は、平均粒子径が0.1μm以上500μm以下が好ましく、0.3μm以上100μm以下がより好ましく、0.5μm以上50μm以下がさらに好ましく、1μm以上30μm以下がよりさらに好ましく、3μm以上20μm以下が特に好ましく、4μm以上9μm以下が最も好ましい。板状スピネル粒子の平均粒子径が上記下限値以上であることで、樹脂等と混合する場合に粘度の上昇をより効果的に抑制することができ、一方で、上記上限値以下であることで、板状スピネル粒子を含む成形品の表面をより平滑なものとすることができる。
【0017】
板状スピネル粒子は、アスペクト比が3以上500以下が好ましく、5以上100以下がより好ましく、7以上50以下がさらに好ましく、9以上30以下がよりさらに好ましく、10以上25以下が特に好ましく、14.5以上20以下が最も好ましい。アスペクト比が上記下限値以上であることで、より機械強度に優れたものとなる傾向があり、一方で、上記上限値以下であることで、板状スピネル粒子を含む成形品の表面をより平滑なものとすることができる。
【0018】
上記の好ましいスピネル粒子の形状について、厚み、平均粒子径、及びアスペクト比の条件は、それが板状である範囲で、どのように組み合わせることもできる。
【0019】
板状スピネル粒子は、円形板状や楕円形板状であってもよいが、粒子形状は、例えば、六角~八角といった多角板状であることが、伝熱特性や、取り扱い性、製造のし易さ等の点から好ましい。
【0020】
板状スピネル粒子の(311)面の結晶子径は、60nm以上が好ましく、65nm以上がより好ましく、66nm以上がさらに好ましく、70nm以上がよりさらに好ましい。一方で、(311)面の結晶子径の上限は特別な限定はなく、例えば、200nm以下とすることができ、150nm以下とすることができ、100nm以下とすることができ、90nm以下とすることができ、82nm以下とすることができる。ここで、(311)面はスピネル粒子の主要な結晶ドメインの1つであり、当該(311)面の結晶ドメインの大きさが(311)面の結晶子径に相当する。当該結晶子径が大きいほど粒子の緻密性及び結晶性が高く、フォノンの散乱が起こる乱れ部分がないことを意味するため、熱伝導性が高いということができる。なお、スピネル粒子の(311)面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「(311)面の結晶子径」の値は、X線回折(XRD)を用いて測定された(311)面に帰属されるピーク(2θ=37度付近に出現するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて算出された値を採用するものとする。なお、ここでいう「37度付近」とは、37度±0.5度の範囲を意味する。
【0021】
上述のとおりスピネル粒子は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、及び、酸素原子を含み、一般的には、MgAl2O4の組成で表される。また、板状スピネル粒子は、モリブデンを含む。また、板状スピネル粒子は、本発明の効果を損なわない限り、その他、不可避不純物、他の原子等が含まれていてもよい。
【0022】
[各原子の含有量]
スピネル粒子中のマグネシウム原子の含有量は、特に制限されないが、例えば、アルミニウム原子のモル量が2モルである場合、0.8モル以上1.2モル以下であることが好ましく、0.9モル以上1.1モル以下であることがより好ましい。
スピネル粒子中のアルミニウム原子の含有量は、特に制限されないが、例えば、マグネシウム原子のモル量を1モルとした場合、1.8モル以上2.2モル以下であることが好ましく、1.9モル以上2.1モル以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、スピネル粒子中のマグネシウム原子及びアルミニウム原子の含有量は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により測定することができる。
スピネル粒子中の酸素原子の含有量は、特に制限されないが、マグネシウム原子及びアルミニウム原子のモル量に応じて決まる。例えば、マグネシウム原子及びアルミニウム原子がそれぞれ1モルと2モルである場合、スピネル粒子中の酸素原子の含有量は、3.8モル以上4.2モル以下であることが好ましく、3.9モル以上4.1モル以下であることがより好ましい。
【0023】
[モリブデン]
モリブデンは、後述する製造方法に起因して含有されうる。
【0024】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等が含まれる。モリブデンは、MoO3として板状スピネル粒子に含まれると考えられるが、MoO3以外にもMoO2やMoO等として板状スピネル粒子に含まれてもよい。
【0025】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、板状スピネル粒子の表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態で含まれていてもよく、モリブデンがスピネルに組み込まれる形態で含まれていてもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0026】
モリブデンの含有量は、特に制限されないが、板状スピネル粒子の高熱伝導性の観点から、板状スピネル粒子100質量%に対して、三酸化モリブデン換算で1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、板状スピネル粒子がより高い緻密性を示す観点から、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.65質量%以下がよりさらに好ましく、0.61質量%以下が特に好ましい。一方で、モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、0.01質量以上とすることができ、0.05質量%以上とすることができ、0.1質量%以上とすることができ、0.15質量%以上とすることができ、0.2質量%以上とすることができ、0.25質量%以上とすることができ、0.31質量%以上とすることができる。なお、本明細書において、板状スピネル粒子中のモリブデンの含有量は、XRF分析により求めることができる。XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0027】
[不可避不純物]
不可避不純物は、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に板状スピネル粒子に混入するものであり、本来は不要なものであるが、微量であり、板状スピネル粒子の特性に影響を及ぼさない不純物を意味する。
【0028】
不可避不純物としては、特に制限されないが、ケイ素、鉄、カリウム、ナトリウム、カルシウム等が挙げられる。これらの不可避不純物は単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
板状スピネル粒子中の不可避不純物の含有量は、板状スピネル粒子の質量に対して、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、10ppm以上500ppm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
[他の原子]
他の原子は、本発明の効果を阻害しない範囲において、着色、発光、スピネル粒子の形成制御等を目的として意図的にスピネル粒子に添加されるものを意味する。
【0031】
他の原子としては、特に制限されないが、亜鉛、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、チタン、ジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
板状スピネル粒子中の他の原子の含有量は、板状スピネル粒子100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
なお、前記板状スピネル粒子は、表面処理されたものを用いることができる。
また、板状スピネル粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、板状スピネル粒子と他のフィラーとを組み合わせて使用してもよい。他のフィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
板状スピネル粒子の含有量は、樹脂組成物の質量に対して、10質量%以上95質量%以下であることが好ましく、30質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。板状スピネル粒子の含有量が上記下限値以上であると、板状スピネル粒子の高熱伝導性をより効率的に発揮できる。一方、板状スピネル粒子の含有量が上記上限値以下であると、成形性により優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0035】
<板状スピネル粒子の製造方法>
板状スピネル粒子の製造方法は、特に限定されず、公知の技術が適宜適用され得るが、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物を、モリブデン存在下で、焼成させる工程(焼成工程)を含む製造方法が好ましい。焼成工程は焼成対象の混合物を得る工程(混合工程)で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0036】
[混合工程]
混合工程は、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物、モリブデン等の原料を混合して混合物とする工程である。この際、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物の混合状態は、特に限定されない。両者を混合する場合には、粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機やミキサー等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合等が行われる。この際、得られる混合物は、乾式状態、湿式状態のいずれであってもよいが、コストの観点から乾式状態であることが好ましい。
【0037】
混合工程において、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物との混合比は特別な限定はないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム元素に対するアルミニウム化合物中のアルミニウム元素のモル比(アルミニウム元素/マグネシウム元素)が、1.8以上2.2以下となるように混合することが好ましく、1.9以上2.1以下となるように混合することがより好ましい。
以下、混合物の内容について説明する。
【0038】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物としては、特に制限されないが、金属マグネシウム、マグネシウム誘導体、マグネシウムオキソ酸塩、マグネシウム有機塩、及びこれらの水和物等が挙げられる。マグネシウム誘導体としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水素化マグネシウム、二ホウ化マグネシウム、窒化マグネシウム、硫化マグネシウム等が挙げられる。マグネシウムオキソ酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、過マンガン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。マグネシウム有機塩としては、例えば、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ナフテン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、モノペルオキシフタル酸マグネシウム等が挙げられる。なお、これらマグネシウム化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム又は硫酸マグネシウムであることが好ましく、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム又は酢酸マグネシウムであることがより好ましい。
【0039】
マグネシウム化合物の平均粒子径は、特に限定されないが、1μm以上10μm以下が好ましく、1.5μm以上5μm以下がより好ましく、2μm以上4μm以下がさらに好ましく、2.5μm以上3.5μm以上が特に好ましい。マグネシウム化合物の平均粒子径が上記下限値以上であると、スピネル結晶化において粒子凝集をより効果的に防止し得る。一方、マグネシウム化合物の平均粒子径が上記上限値以下であると、スピネル結晶化が粒子の中心部までより効率よく進行し得る。
【0040】
マグネシウム化合物は市販品を使用してもよく、自ら調製してもよい。
マグネシウム化合物を自ら調製する場合、反応性を調整することができる。例えば、マグネシウムイオンの酸性水溶液を塩基で中和することで粒子径の小さい水酸化マグネシウムを得ることができる。得られる粒径の小さい水酸化マグネシウムは反応性が高いため、これを用いて得られるスピネルの結晶子径は大きくなる傾向がある。
【0041】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、アルミニウム金属、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、酸化アルミニウム等が挙げられる。酸化アルミニウムとしては、例えば、酸化アルミニウム水和物、β-酸化アルミニウム、γ-酸化アルミニウム、δ-酸化アルミニウム、θ-酸化アルミニウム、α-酸化アルミニウム、2種以上の結晶相を有する混合酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0042】
上述のアルミニウム化合物は、酸化アルミニウムであることが好ましく、α結晶、β結晶、γ結晶、δ結晶及びθ結晶からなる群から選択される少なくとも1つの結晶形態を有する酸化アルミニウムであることが好ましく、α結晶を有する酸化アルミニウムであることがより好ましい。
【0043】
また、上述のアルミニウム化合物はモリブデンを含むことが好ましい。この際、前記モリブデンを含むアルミニウム化合物のモリブデン含有形態は、特に制限されないが、スピネル粒子と同様に、モリブデンがアルミニウム化合物表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態」としては、アルミニウム化合物を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、アルミニウム化合物の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるアルミニウム化合物を構成する原子としては、特に制限されず、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
【0044】
上述のアルミニウム化合物のうち、モリブデンを含むアルミニウム化合物を用いることが好ましく、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物を用いることがより好ましい。
【0045】
モリブデンを含むアルミニウム化合物が好ましい理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推察される。すなわち、アルミニウム化合物に含まれるモリブデンが固相界面における核形成の促進、アルミニウム原子とマグネシウム原子の固相拡散の促進等の機能を果たし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物との固相反応がより好適に進行するものと考えられる。すなわち、後述するように、モリブデンを含むアルミニウム化合物は、アルミニウム化合物、かつ、モリブデンとしての機能を有しうるのである。特に、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物は、反応点に直接又は近接した部分にモリブデンが配置されることとなり、モリブデンによる効果をより効果的に発揮しうる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムで所望の効果が得られる場合であっても、技術的範囲に含まれる。
【0046】
アルミニウム化合物の形状については特に限定されないが、多面体状、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、針状、棒状、板状、円板状、薄片状、鱗片状等が挙げられる。中でも、後述において説明するとおり、実施形態に係る製造方法では、アルミニウム化合物の形状を反映したスピネル粒子が得られる傾向があることから、板状であることが好ましい。
【0047】
アルミニウム化合物の平均粒子径は、特に限定されないが、得たい板状スピネルの粒子径に応じ適宜調整する。アルミニウム化合物の平均粒子径は、0.1μm以上500μm以下であり、0.3μm以上100μm以下が好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上30μm以下がさらに好ましく、1μm以上20μm以下がよりさらに好ましく、1μm以上10μm以下が特に好ましく、3.8μm以上7.0μm以下が最も好ましい。アルミニウム化合物の平均粒子径が上記下限値以上であると、スピネル結晶化において粒子凝集をより効果的に防止し得る。一方、アルミニウム化合物の平均粒子径が上記上限値以下であると、スピネル結晶化が粒子の中心部までより効率よく進行し得る。
【0048】
また、アルミニウム化合物の厚みは0.01μm以上5μm以下であり、0.05μm以上3μm以下が好ましく、0.1μm以上1μm以下がより好ましく、0.15μm以上0.75μm以下がさらに好ましく、0.2μm以上0.5μm以下が特に好ましい。アルミニウム化合物の厚みが上記範囲内であることで、アスペクト比のより大きい板状スピネル粒子を得ることができる。
【0049】
また、アルミニウム化合物のアスペクト比は3以上500以下であり、5以上100以下が好ましく、7以上50以下がより好ましく、9以上30以下がさらに好ましく、10以上25以下が特に好ましい。アスペクト比が上記下限値以上であることで、より機械強度に優れた板状スピネル粒子が得られ、一方で、上記上限値以下であることで、表面がより平滑な成形品や塗膜が得られる板状スピネル粒子となる。
【0050】
アルミニウム化合物は、市販品を使用してもよく、自ら調製したものを使用してもよい。アルミニウム化合物を自ら調製する場合、例えば、モリブデンを含むアルミニウム化合物は、以下に詳述するフラックス法により調製することができる。すなわち、好ましい一実施形態において、スピネル粒子の製造方法は、フラックス法によりアルミニウム化合物を調製する工程をさらに含む。
【0051】
フラックス法は、上述した固相法とは異なり、液相法、中でも溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下のとおりであると推測される。すなわち、溶質及びフラックスの混合物を加熱していくと、溶質及びフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質及びフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0052】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0053】
アルミニウム化合物をフラックス法で調製する場合において、フラックス剤としてモリブデン化合物を使用すると、中間化合物であるモリブデン酸アルミニウムを経由して、モリブデンを含むアルミニウム化合物が得られ得る。この際、アルミニウム化合物に含まれるモリブデンは、フラックス法のデメリットと言われるフラックス不純物に該当しうるが、上述のように、本発明の一実施形態においてはアルミニウム化合物に含有されるモリブデンは、板状スピネル粒子を製造する際に好適な作用効果を発揮しうる。
【0054】
〇フラックス蒸発法
一実施形態において、フラックス法は、アルミニウム源及びモリブデン化合物を含む混合物を焼成するフラックス蒸発工程と、前記焼成工程で結晶成長したアルミニウム化合物を冷却する冷却工程と、を含む。
【0055】
・アルミニウム源
アルミニウム源としては、特に限定されないが、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ、アルミナ水和物、α-アルミナ、2種以上の結晶相を有する混合アルミナ等が挙げられる。遷移アルミナとしては、例えば、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ等が挙げられる。なお、上述のアルミニウム源は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、水酸化アルミニウム、遷移アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト又はアルミナ水和物であることが好ましく、水酸化アルミニウム、遷移アルミナ又はベーマイトであることがより好ましい。
【0056】
アルミニウム源は市販品を使用してもよく、自ら調製してもよい。
アルミニウム源を自ら調製する場合、例えば、高温において構造安定性の高いアルミナ水和物又は遷移アルミナは、アルミニウムの水溶液の中和により調製することができる。より詳細には、前記アルミナ水和物は、アルミニウムの酸性水溶液を塩基で中和することで調製することができ、前記遷移アルミナは、上記で得られたアルミナ水和物を熱処理して調製することができる。なお、これによって得られるアルミナ水和物又は遷移アルミナは、高温において構造安定性が高いため、モリブデンの存在下で焼成すると、平均粒子径の大きいモリブデンを含むアルミニウム化合物が得られる傾向がある。
【0057】
上述したフラックス法において、アルミニウム源の形状は、特に制限されず、球状、無定形、アスペクトのある構造体、シート等のいずれであっても好適に用いることができる。アスペクトのある構造体としては、例えば、ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブ等の形状のものであっても好適に用いることができる。
【0058】
同様に、上述したフラックス法において、アルミニウム源の粒子径は特に制限されず、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0059】
また、アルミニウム源は、有機化合物と複合体を形成していてもよい。当該複合体としては、例えば、有機シランを用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体、有機化合物で被覆した複合体等が挙げられる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
アルミニウム源の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0061】
上述したフラックス法において、アルミニウム化合物を形成するために、形状制御剤を用いることができる。形状制御剤はモリブデン化合物の存在下で、アルミニウム源の焼成によるアルミナの板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0062】
形状制御剤の存在状態は、特に制限されず、例えば、形状制御剤とアルミニウム化合物と物理混合物、形状制御剤がアルミニウム源の表面又は内部に、均一又は局在に存在した複合体等が好適に用いることができる。
【0063】
また、形状制御剤をアルミニウム化合物に添加してもよいが、アルミニウム化合物中に不純物として含んでもよい。
【0064】
形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。一般的に行なわれる酸化モリブデンフラックス法では酸化モリブデンがアルミナのα結晶の(113)面に選択的に吸着し、結晶成分は(113)面に供給されにくくなり、(001)面、又は、(006)面の出現を完全に抑制できるとするものであることから、六角両錘型をベースとした多面体粒子を形成する。上述したフラックス法においては、形状制御剤を用いて、フラックス剤である酸化モリブデンが(113)面に選択的な結晶成分の吸着を抑制することで、(001)面の発達した熱力学的に最も安定的な稠密六方格子の結晶構造を有する板状形態を形成することができる。モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、モリブデンを含む板状アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0065】
形状制御剤の種類については、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物、ゲルマニウム又はゲルマニウム元素を含むゲルマニウム化合物を用いることができる。より安価で生産性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能な点からも、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いることが好ましい。形状制御剤として、シリコン又はケイ素化合物を用いた上記フラックス法により、アスペクト比の高いアルミニウム化合物を容易に製造することができる。
【0066】
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物としては、人工合成シリコン化合物であってもよく、天然シリコン化合物であってもよい。人工合成シリコン化合物としては、例えば、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等が挙げられる。天然シリコン化合物としては、例えば、バイオシリカ等が挙げられる。中でも、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂又はシリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体、シート等を好適に用いることができる。アスペクトのある構造体としては、例えば、ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブ等の形状のものであっても好適に用いることができる。
【0068】
アルミニウム化合物100質量%に対するケイ素の含有量は、二酸化ケイ素換算で、10質量%以下が好ましく、0.001質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上4質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以上2.5質量%以下が特に好ましい。上記ケイ素の含有量はXRF分析により求めることができる。
【0069】
・モリブデン化合物
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、金属モリブデン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、H3PMo12O40、H3SiMo12O40等が挙げられる。この際、前記モリブデン化合物は、異性体を含む。例えば、酸化モリブデンは、二酸化モリブデン(IV)(MoO2)であってもよく、三酸化モリブデン(VI)(MoO3)であってもよい。なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン又はモリブデン酸アンモニウムであることが好ましく、三酸化モリブデンであることがより好ましい。
【0070】
アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/アルミニウム元素)は、0.01以上3.0以下であることが好ましく、0.03以上1.0以下であることがより好ましい。前記モル比が上記下限値以上であると、モリブデンを含むアルミニウム化合物の結晶成長がより好適に進行し得る。一方、前記モル比が上記上限値以下であると、モリブデンを含むアルミニウム化合物の調製が工業的により効率よくできる。
【0071】
-フラックス蒸発工程-
アルミニウム源及びモリブデン化合物を含む混合物を焼成することで、中間化合物であるモリブデン酸アルミニウムを経由し、前記モリブデン酸アルミニウムが分解し、モリブデン化合物が蒸発することで、モリブデンを含むアルミニウム化合物が生成する。この際、前記モリブデン化合物の蒸発がモリブデンを含むアルミニウム化合物の結晶成長の駆動力となる。
【0072】
焼成温度は特に制限されないが、700℃以上2000℃以下であることが好ましく、900℃以上1600℃以下であることがより好ましく、950℃以上1500℃以下であることがさらに好ましく、1000℃以上1400℃以下であることが特に好ましい。焼成温度が上記下限値以上であると、より好適にフラックス反応が進行する。一方、焼成温度が上記上限値以下であると、焼成炉への負担や燃料コストがより低減され得る。
【0073】
焼成時におけるアルミニウム源及びモリブデン化合物の状態は、特に限定されず、モリブデン化合物及びアルミニウム源が同一の空間に存在すればよい。例えば、両者が混合されていない状態であっても、フラックス反応は進行しうる。両者を混合する場合には、粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合等を行うことができ、この際、得られる混合物は乾式状態、湿式状態のいずれであってもよい。
【0074】
焼成の時間についても特に制限されないが、5分以上30時間以下であることが好ましく、モリブデンを含むアルミニウム化合物の形成を効率的に行う観点から、10分以上15時間以下であることがより好ましい。
【0075】
焼成の雰囲気についても特に限定されないが、例えば、空気や酸素のような含酸素雰囲気、窒素やアルゴンのような不活性雰囲気であることが好ましく、実施者の安全性や炉の耐久性観点から腐食性を有さない含酸素雰囲気、窒素雰囲気であることがより好ましく、コストの観点から、空気雰囲気であることがさらに好ましい。
【0076】
焼成装置についても特に制限されず、通常、いわゆる焼成炉を用いる。当該焼成炉は、昇華したモリブデン化合物と反応しない材質で構成されていることが好ましく、モリブデン化合物を効率的に利用可能な密閉性の高い焼成炉であることがより好ましい。
【0077】
-冷却工程-
冷却工程は、焼成工程において結晶成長したアルミニウム化合物を冷却する工程である。
【0078】
冷却速度は、特に制限されないが、1℃/時間以上1000℃/時間以下であることが好ましく、5℃/時間以上500℃/時間以下であることがより好ましく、50℃/時間以上100℃/時間以下であることがさらに好ましい。冷却速度が上記下限値以上であると、製造時間がより短縮され得る。一方、冷却速度が上記上限値以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることがより少なく、より長く使用できる。
【0079】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であってもよく、冷却装置を使用してもよい。
【0080】
-モリブデンを含むアルミニウム化合物-
フラックス法により得られるアルミニウム化合物は、モリブデンを含むため、通常、着色されている。着色された色彩は、含有されるモリブデンの量によっても異なるが、通常、薄い青色から黒色に近い濃青色であり、モリブデン含有量に比例して色彩が濃色になる傾向がある。なお、モリブデンを含むアルミニウム化合物の構成によっては、他の色彩に着色されている場合もある。例えば、モリブデンを含む化合物がクロムを含む場合には赤色に、ニッケルを含む場合には黄色になりうる。
【0081】
モリブデンを含むアルミニウム化合物のモリブデンの含有量は、特に制限されないが、三酸化モリブデン換算で、0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上0.9質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上0.9質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以上0.88質量%以下がよりさらに好ましく、0.7質量%以上0.87質量%以下が特に好ましく、0.83質量%以上0.86質量%以下が最も好ましい。モリブデンの含有量が上記下限値以上であると、スピネルの結晶成長がより効率よく進行できる。一方、モリブデンの含有量が上記上限値以下であると、アルミニウム化合物の結晶品質が向上しうることから好ましい。なお、本明細書において、アルミニウム化合物中のモリブデンの含有量は、上記板状スピネル粒子中のモリブデンの含有量に記載の方法と同様の方法を用いて測定することができる。
【0082】
モリブデンを含むアルミニウム化合物は、モリブデンがフラックス剤として働き、(001)面以外の結晶面を主結晶面とした高α結晶化率であることが好ましく、α結晶化率が90%以上であることがより好ましい。
【0083】
〇徐冷法
また、一実施形態において、フラックス法は、アルミニウム源及びモリブデン化合物を含む混合物を焼成する工程と、得られる焼成物を冷却して結晶成長させる徐冷工程と、を含む。
【0084】
(モリブデン)
モリブデンは、固相反応において、界面における核形成の促進、マグネシウム原子及びアルミニウム原子のうち少なくともいずれかの原子の固相拡散の促進等の機能を有する。
【0085】
モリブデンは、モリブデン金属及びモリブデンを含む化合物中のモリブデンが用いられうる。モリブデンを含む化合物の具体例としては、上述したモリブデン化合物、モリブデンを含むアルミニウム化合物が挙げられる。なお、モリブデンを含むアルミニウム化合物は、モリブデンを含む化合物、かつ、アルミニウム化合物として使用されうる。上述のモリブデンは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
モリブデンの使用量として、アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/アルミニウム元素)は、0.00001以上0.05以下であることが好ましく、0.0001以上0.03以下であることがより好ましい。前記モル比が上記範囲内であると、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物との固溶化及びスピネル晶出がより好適に進行し得る。
【0087】
[焼成工程]
焼成工程は、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物を、モリブデン存在下で、
固溶化及び晶出により、上記板状スピネル粒子に結晶成長させる工程である。
【0088】
前記固溶化及び晶出は、通常、いわゆる固相法により行われる。固相法における固溶化及び晶出のメカニズムとしては、以下のとおりであると推測される。すなわち、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物が接触する環境下において加熱を行うと、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物が界面(固相界面)において核を形成することで、固相間の結合が強化される。そして、前記形成された核を担体として、固相反応が進行しうる。この際、前記固相反応は、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物の二元系状態図が共晶型をとること、これによりマグネシウム化合物及びアルミニウム化合物が界面における反応できる温度はマグネシウム化合物又はアルミニウム化合物が単独で溶融する温度よりも低いことが利用されうる。具体的には、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物が界面において反応して核を形成し、マグネシウム原子及びアルミニウム原子のうち少なくともいずれかの原子が、前記核を介して固相拡散し、アルミニウム化合物及びマグネシウム原子のうち少なくともいずれかの原子と反応する。これにより、緻密な結晶体、すなわちスピネル粒子を得ることができる。この際、前記固相拡散において、マグネシウム原子のアルミニウム化合物への拡散速度は、アルミニウム原子のマグネシウム化合物への拡散速度よりも相対的に高いため、アルミニウム化合物の形状が反映されたスピネル粒子が得られる傾向がある。このため、アルミニウム化合物の形状や平均粒子径を適宜変更することで、スピネル粒子の形状及び平均粒子径を制御することが可能となり得る。上記製造方法では、アルミニウム化合物としてモリブデンを含む板状アルミナ粒子を用いることで、板状スピネル粒子をより容易に製造することができる。
【0089】
ここで、上述の固相反応は、モリブデン存在下で行われる。モリブデンの作用は必ずしも明らかではないが、例えば、界面における核形成の促進、マグネシウム原子及びアルミニウム原子のうち少なくともいずれかの原子の固相拡散の促進等により、固相反応がより好適に進行するものと考えられる。また、上述のフラックス法において説明したとおり、反応の過程として、まずモリブデンとアルミニウム化合物とが反応して、中間体であるモリブデン酸アルミニウムが形成された後、当該モリブデン酸アルミニウムとマグネシウム化合物とが反応するものを含むと推察される。金属成分を複数有するスピネル粒子では、焼成過程において、欠陥構造等が生じやすいため、結晶構造を精密に制御することが困難であるが、モリブデンを用いることにより、スピネル結晶の結晶構造を制御することができる。これにより、(311)面の結晶子径は大きくなり、熱伝導性に優れる板状スピネル粒子が得られうる。なお、固相反応は、モリブデン存在下で行われるため、得られる板状スピネル粒子には、モリブデンが含まれうる。
【0090】
なお、スピネル粒子の(311)面の結晶子径等の結晶制御は、モリブデンの使用量、マグネシウム化合物の種類、焼成温度、焼成時間、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物との混合状態、形状制御剤の有無、形状制御剤の使用量、不純物量等を変更することにより行うことができる。この理由は、モリブデンの量、マグネシウム化合物の種類、焼成温度、焼成時間、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物との混合状態は、固相反応において、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物に固溶化及び晶出の速度等に関連するためであると考えられる。高反応性マグネシウム化合物の使用はマグネシウム化合物の固溶化及び晶出の速度を、モリブデンの使用量の増加、高温焼成、及び長時間焼成はマグネシウム原子及びアルミニウム原子のうち少なくともいずれかの原子の固溶化及び晶出の速度を、それぞれ早くすることができ、例えば、(311)面の結晶子径を大きくすることができる。
【0091】
焼成温度は、特別な限定はないが、1300℃未満が好ましく、800℃以上1300℃未満がより好ましく、900℃以上1200℃以下がさらに好ましい。焼成温度が上記上限値以下であることで、より短時間でより効率的に板状スピネル粒子を製造することができる。一方で、焼成温度が上記上限値以下であることで、スピネル粒子の形状及び分散性をより容易に制御することができる。
【0092】
焼成時間は、特に制限されないが、0.1時間以上1000時間以下であることが好ましく、3時間以上100時間以下であることがより好ましい。焼成時間が上記下限値以上であると、(311)面の結晶子径のより大きな板状スピネル粒子を得ることができる。一方、焼成時間が上記上限値以内であると、製造コストがより低くなり得る。
【0093】
なお、焼成においては、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物との固溶化及び晶出を促進するため、及び、形状を制御するために、形状制御剤を使用することも可能である。当該形状制御剤としては、例えば、ナトリウム化合物、カリウム化合物等が挙げられる。形状制御剤を添加することで、モリブデンが効率よく拡散され結晶形成の均質化へ寄与し、形状や粒子表面がより均一で平滑性の高い板状スピネル粒子を得る事ができる。
【0094】
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、ナトリウム、塩化ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酸化ナトリウム、臭化ナトリウム、臭素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム等が挙げられる。この際、前記ナトリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。中でも、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム又はモリブデン酸ナトリウムを用いることが好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム又はモリブデン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0095】
カリウム化合物としては、特に制限されないが、カリウム、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。中でも、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム又はモリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム又はモリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0096】
形状制御剤の添加量としては、原料100質量%に対して0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。形状制御剤の添加量としては、原料100質量%に対して、酸化物換算で、20質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以上68質量%以下がよりさらに好ましく、55質量%以上67質量%以下が特に好ましく、61質量%以上66質量%以下が最も好ましい。形状制御剤の添加量が上記範囲内であることで、表面の平滑性により優れた板状スピネル粒子を得ることができる。また、アスペクト比をより大きくすることができ、機械強度により優れる傾向がある。
これら添加剤は、上記混合工程において焼成前に混合しておくことが好ましい。
【0097】
焼成雰囲気は、空気雰囲気であってもよく、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であってもよく、酸素雰囲気であってもよく、アンモニアガス雰囲気であってもよく、二酸化炭素雰囲気であってもよい。この際、製造コストの観点からは空気雰囲気であることが好ましい。
【0098】
焼成時の圧力についても特に制限されず、常圧下であってもよく、加圧下であってもよく、減圧下であってもよいが、焼成時に生成する酸化モリブデン蒸気を効率的に焼成炉から排出できる観点から減圧下で行うことが好ましい。
【0099】
加熱手段としては、特に制限されない、焼成炉を用いることが好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
焼成炉は酸化モリブデン蒸気と反応しない材質で構成されていることが好ましく、密閉性の高い焼成炉を用いることがより好ましい。
【0100】
[冷却工程]
板状スピネル粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したスピネル粒子を冷却する工程である。
【0101】
冷却速度は、特に制限されないが、1℃/時間以上1000℃/時間以下であることが好ましく、5℃/時間以上500℃/時間以下であることがより好ましく、50℃/時間以上100℃/時間以下であることがさらに好ましい。冷却速度が上記下限値以上であると、製造時間がより短縮され得る。一方、冷却速度が上記上限値以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることがより少なく、より長く使用できる。
【0102】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であってもよく、冷却装置を使用してもよい。
【0103】
[後処理工程]
本発明の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、添加剤等を除去する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行ってもよく、上述の冷却工程の後に行ってもよく、焼成工程及び冷却工程の後に行ってもよい。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
後処理の方法としては、洗浄及び高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、例えば、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液等で洗浄することにより除去することができる。
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、並びに洗浄部位及び洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
また、高温処理の方法としては、添加剤の昇華点又は沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0104】
[粉砕工程]
焼成物は板状スピネル粒子が凝集して、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状スピネル粒子は、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0105】
[分級工程]
板状スピネル粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、又はマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級等があるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機等の分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状スピネル粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0106】
板状スピネル粒子、或いは上記製造方法で得る板状スピネル粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。板状スピネル粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、上記した工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有する板状スピネル粒子を、生産性高く製造することができるので好ましい。
【0107】
<樹脂>
樹脂としては、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0108】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0109】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱又は放射線や触媒等の手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂であり、一般的には、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、トリアジン環を有する樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。レゾール型フェノール樹脂としては、例えば、未変性のレゾールフェノール樹脂、油変性レゾールフェノール樹脂等が挙げられる。油変性に用いられる油としては、例えば、桐油、アマニ油、クルミ油等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。トリアジン環を有する樹脂としては、例えば、メラミン樹脂等が挙げられる。ビニル樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0110】
上述の樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この際、熱可塑性樹脂を2種以上使用してもよく、熱硬化性樹脂を2種以上使用してもよく、熱可塑性樹脂を1種以上及び熱硬化性樹脂を1種以上使用してもよい。
【0111】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の質量に対して、5質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上65質量%以下がさらに好ましく、30質量%以上63質量%以下がよりさらに好ましく、30質量%以上61質量%以下が特に好ましい。樹脂の含有量が上記下限値以上であると、樹脂組成物により優れた成形性を付与できる。一方、樹脂の含有量が上記上限値以下であると、成形してコンパウンドとしてより優れた高熱伝導性を得ることができる。
【0112】
<硬化剤>
硬化剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。
硬化剤として具体的には、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。
【0113】
前記アミン系化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾール、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0114】
前記アミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0115】
前記酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0116】
前記フェノール系化合物としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミン等でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物等が挙げられる。
【0117】
上述の硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
<硬化促進剤>
硬化促進剤は、樹脂組成物を硬化する際に硬化を促進させる機能を有する。
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
上述の硬化促進剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
<硬化触媒>
硬化触媒は、前記硬化剤の代わりに、重合性官能基を有する化合物の硬化反応を進行させる機能を有する。
硬化触媒としては、特に制限されず、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が用いられうる。
なお、硬化触媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0120】
<粘度調節剤>
粘度調節剤は、樹脂組成物の粘度を調整する機能を有する。
粘度調節剤としては、特に制限されず、例えば、有機ポリマー、ポリマー粒子、無機粒子等が用いられうる。
上述の粘度調節剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
<可塑剤>
可塑剤は、熱可塑性合成樹脂の加工性、柔軟性、耐候性を向上させる機能を有する。
可塑剤としては、特に制限されず、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が用いられうる。
上述の可塑剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
<混合>
実施形態に係る樹脂組成物は、板状スピネル粒子と樹脂、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0123】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合、一般的な熱硬化性樹脂と板状スピネル粒子等との混合方法としては、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、板状スピネル粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物を得る方法が挙げられる。また、別の実施形態における熱硬化性樹脂と板状スピネル粒子等との混合方法として、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、板状スピネル粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で溶融混練した後、冷却することで、固形の組成物として得る方法が挙げられる。混合状態に関して、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていればよいが、板状スピネル粒子も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0124】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の一般的な熱可塑性樹脂と板状スピネル粒子等との混合方法としては、熱可塑性樹脂、板状スピネル粒子、及び必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー等の各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロール等の混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常100℃以上320℃以下の範囲である。
【0125】
樹脂組成物の流動性や板状スピネル粒子等のフィラー充填性をより高められることから、樹脂組成物にカップリング剤を外添してもよい。なお、カップリング剤を外添することで、樹脂と板状スピネル粒子の密着性が更に高められ、樹脂と板状スピネル粒子の間での界面熱抵抗が低下し、樹脂組成物の熱伝導性が向上しうる。
【0126】
前記有機シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキルトリメトキシシラン類;3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン;トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン等のアルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキルトリクロロシラン類;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類;p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;さらに、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシランが挙げられる。なお、上記有機シラン化合物は、単独で含まれていてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0127】
上述のカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
カップリング剤の添加量は特に制限されないが、樹脂の質量に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0129】
<用途>
実施形態に係る樹脂組成物は、熱伝導性材料に使用される。
上述の通り、熱伝導性材料としては、コストの観点からアルミナがよく使用されており、その他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が使用されていた。これに対し、スピネル粒子は、熱伝導性がアルミナよりも劣ることが知られていたため、あえてアルミナに代えてスピネル粒子を用いるという思想はなかった。
【0130】
これに対し、上記板状スピネル粒子は、(311)面の結晶子径が、従来の製法にて得たスピネル粒子と比較し大きいため、熱伝導性能に優れている。また、上記板状スピネル粒子は高いアスペクト比を持つことにより伝熱特性に優れる形状となることより、樹脂へ配合した際、従来のスピネル粒子やアルミナ粒子と比べて、高い熱伝導率を示す。したがって、実施形態に係る樹脂組成物は熱伝導性材料に好適に使用される。
【0131】
また、上記製造方法によって得られる上記板状スピネル粒子はミクロンオーダーの粒径(1000μm以下)かつ結晶子径が大きいことから、樹脂中への分散性に優れるため、樹脂組成物としていっそう優れた熱伝導性を発揮しうる。
【0132】
さらに、上記製造方法によって得られる上記板状スピネル粒子は、固相法で合成したことにより均質な板状の形状をもつ粒子となるものであり、無定形の粒子を粉砕して得たものではないことから、平滑性に優れ、且つ流動性にも優れる上に、樹脂中への分散性にも優れる。このため、実施形態に係る樹脂組成物として、非常に高い熱伝導性を有しうる。
【0133】
≪成形物≫
実施形態に係る成形物は、上記樹脂組成物を成形してなるものである。
【0134】
成形物に含有される上記板状スピネル粒子は熱伝導性に優れることから、当該成形物は、好ましくは絶縁放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与することができる。
【0135】
また、前記成形物は、低誘電部材等にも使用することができる。上記板状スピネル粒子が低誘電正接であり、成形物に優れた機械強度を付与できることにより、高周波回路において通信機能の高機能化に寄与することができる。
【0136】
≪組成物≫
実施形態に係る組成物は、板状スピネル粒子と、ガラス成分とを含有する。板状スピネル粒子は、粒子内にモリブデンを含む。
以下、各成分について説明する。
【0137】
<板状スピネル粒子>
板状スピネル粒子としては、上記樹脂組成物において説明したものが用いられ得ることから、ここでは説明を省略する。
【0138】
板状スピネル粒子の含有量は、板状スピネル粒子及びガラス成分の合計体積100vol%に対して、10vol%以上50vol%以下であることが好ましく、20vol%以上40vol%以下であることがより好ましく、25vol%以上35vol%以下であることがさらに好ましい。板状スピネル粒子の含有量が上記下限値以上であると、板状スピネル粒子の高熱伝導性をより効率的に発揮できる。一方、板状スピネル粒子の含有量が上記上限値以下であると、成形性により優れた組成物を得ることができる。
【0139】
<ガラス成分>
実施形態に係る組成物は、板状スピネル粒子とガラス成分とを混合することで容易に調製することができる。実施形態に係る組成物の調製に当たっては、板状スピネルが粒子であることから、それと混合するガラス成分も粒子であることが、混合のし易さや取扱性の観点からは、好ましい。
【0140】
ガラス成分としては、ボロンシリケート(SiO2・B2O3)等からなる非結晶質ガラス、及び、クリストバライト、アノーサイトやセルシアンと称するRO-Al2O3-2SiO2(Rはアルカリ土類金属Ca、Sr、Ba)、コージエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、ディオプサイト(CaO・MgO・2SiO2)、チタン酸ランタノイド〔(TiO2-Ln2O3(Lnはランタノイド系金属を表す。)〕等の結晶が析出する結晶質ガラスが挙げられ、いずれのものも好適に用いることができるが、耐水性、耐化学安定性、基板強度等の向上の観点から結晶質ガラスが好ましい。
【0141】
ガラス成分に含まれる化合物としては、例えば、ネットワークフォーマ成分として用いられるB2O3、SiO2、GeO2、Al2O3、P2O5、V2O5、As2O5、Sb2O5、ZrO2等や、インターミディエート成分として用いられるTiO2、ZnO、PbO、Al2O3、ThO2、BeO、ZrO2、CdO等、ネットワークモディファイア(改質)成分として用いられるSc2O3、La2O3、Bi2O3、Y2O3、SnO2、Ga2O3、In2O3、ThO2、PbO2、PbO、MgO、Li2O、ZnO、FeO、CdO、Na2O、K2O、Rb2O、HgO、Cs2O等、アルカリ土類金属の酸化物(BaO、CaO、SrO、RaO等)が挙げられる。ガラス成分は、上記化合物等の酸化物を主成分として含有する酸化物ガラスであることが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、酸化物を50質量%以上含有することをいう。これらのうち、ガラス成分は、SiO2を必須成分として含有するケイ酸塩ガラスであることが好ましい。SiO2はガラスの結晶化を抑制し安定性を向上させ、さらに化学安定性を付与する効果に優れる。また、B2O3はガラスの焼結性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、Al2O3はガラス相の安定化に寄与し、化学安定性・耐久性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、ZnOやMgOはガラスの耐水性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、ZrO2は化学安定性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、BaO、CaO等のアルカリ土類金属の酸化物は、ガラス溶融時の粘度低下による焼結性を向上する効果に優れ、好適に用いられる。また、Na2OやK2Oはガラス溶融温度やガラス転移温度(Tg)を低下させ、焼結性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。
【0142】
上記に挙げた化合物は、複数種類を組み合わせてもよく、2種又は3種以上の如何なる組み合わせでもよく、如何なる割合で含まれていてもよい。ガラス成分に含まれる、より好ましい化合物としては、BaO、SiO2、B2O3、Al2O3、MgO、ZnO、ZrO2、アルカリ土類金属の酸化物、Na2O、及びK2Oが挙げられる。酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、必須成分であるSiO2は10質量%以上60質量%以下、B2O3は0質量%以上60質量%以下、Al2O3は0質量%以上40質量%以下、MgOは0質量%以上60質量%以下、ZnOは0質量%以上40質量%以下、ZrO2は0質量%以上40質量%以下、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)は0質量%以上30質量%以下、Na2O又はK2Oは0質量%以上30質量%以下の割合で含有するものが、焼結性が良好で、外観に優れ平滑性に優れたガラスセラミックス基板が得られ、また化学安定性、耐水性、強度に優れたガラスセラミックス基板が得られるため好ましい。
ガラス成分は、SiO2と、上記B2O3、Al2O3、MgO、ZnO、ZrO2、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)、Na2O、及びK2Oからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を主成分として含有することが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiO2と、上記B2O3、Al2O3、MgO、ZnO、ZrO2、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)、Na2O、及びK2Oからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物との質量の和が50質量%以上であることをいう。ガラス成分は、SiO2と、MgO及びRO(Rはアルカリ土類金属を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を主成分として含有することが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiO2と、MgO及びRO(Rはアルカリ土類金属を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物との質量の和が50質量%以上であることをいう。そのうち、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiO2は40質量%以上含有されていることが好ましく、50質量%以上含有されていることがより好ましく、60質量%以上含有されていることがさらに好ましい。
【0143】
ガラス成分に含まれる化合物の、好ましい組み合わせの一例としては、Li2O-SiO2、Na2O-MgO-SiO2-Na2O-BaO-SiO2等のケイ酸塩ガラス、LiO-Al2O3-SiO2、MgO-Al2O3-SiO2、BaO-Al2O3-CaO-MgO-Al2O3-SiO2等のアルミノケイ酸塩ガラス、PbO-ZnO-ZnO-B2O3、CdO-In2O3-B2O3等のホウ酸塩ガラス、Al2O3-B2O3-SiO2、ZnO-B2O3-SiO2等のホウケイ酸ガラス、MgO-P2O5-SiO2、CaO-Al2O3-P2O5-SiO2等のリンケイ酸塩ガラス等が挙げられる。
【0144】
ガラス成分は、ガラス粉末の形態であるものを用いることができる。ガラス粉末の種類は特に限定されるものではなく、種々のものを使用用途に応じ適宜用いることができる。
ガラス粉末の平均粒子径は、特に制限はないが、一例として、0.1μm以上10μm以下が好ましい。ガラス粉末の平均粒子径が上記範囲内であると、取り扱い性により優れる。また、板状スピネル粒子と混合する際、ガラス粉末と板状スピネル粒子の平均粒子径の差がより小さくなり、粒子が均一混合された組成物、グリーンシートが得られる。さらには、焼成時、熱伝導性の均一化により焼成のむらが生じにくくなり、より緻密なガラスセラミックス基板を得られることが可能となり好ましい。「ガラス粉末の平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径d50として算出された値とする。
【0145】
<その他成分>
実施形態に係る組成物は、板状スピネル粒子及びガラス成分以外にも、バインダー成分、可塑剤、溶剤等を含有してもよい。
【0146】
[バインダー成分]
バインダー成分としては、グリーンシートとして塗工が可能なものであり、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、各種樹脂を例示でき、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、オレフィン樹脂、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。中でも、グリーンシートの膜厚均一性、塗工のし易さ、取り扱い性等に優れることから、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂が好ましい。アクリル樹脂としては、アクリル系重合体が挙げられ、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸重合体、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。アクリル樹脂を構成する前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0147】
[可塑剤]
可塑剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限なく用いることができ、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ジイソノニル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、低分子量ポリエステル、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエーテルポリオール、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。可塑剤を含有することで、組成物の粘度が低減し、塗工の膜厚を均一化でき、塗工のしやすさを向上させることができる。
【0148】
[溶剤]
溶剤としては特に限定されず、本発明の効果を損なうものでなければ如何なるものでも使用できる。例えば、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。エーテル系溶剤としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,4-ジオキサン等が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等が挙げられる。溶剤を含有することで、バインダー樹脂を溶解し、ガラス成分と板状スピネル粒子の分散性を向上させることができる。
【0149】
[その他無機フィラー]
また、実施形態に係る組成物は、本発明の効果を損なうものでなければ、高い熱伝導率を維持しつつ、緻密性、耐熱性、耐水性、耐薬品性等の種々の物性をより高めるという目的において、上記板状スピネル粒子及びガラス成分以外にも、これらに該当しない、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミ、炭化珪素、酸化亜鉛、窒化ホウ素、黒鉛等の無機フィラーを含有することができる。これらフィラーの形状に特に制限はなく、球状、板状、燐片状、繊維状、不定形等いかなるものを用いても構わない。
【0150】
<配合量>
実施形態に係る組成物は、例えば、上記板状スピネル粒子と、ガラス成分とを混合して製造することができる。また、実施形態に係る組成物は、例えば、上記板状スピネル粒子と、ガラス成分と、バインダー成分と、可塑剤と、溶剤とを混合して製造することができる。
組成物の総質量100質量%に対する上記ガラス成分の含有量は、例えば、30質量%以上80質量%以下が好ましく、35質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましく、40質量%以上50質量%以下が特に好ましい。
上記板状スピネル粒子及びガラス成分の総質量100質量%に対する上記板状スピネル粒子の含有量は、例えば、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上35質量%以下がさらに好ましく、25質量%以上33質量%以下がよりさらに好ましく、30質量%以上31質量%以下が特に好ましい。
実施形態に係る組成物は、バインダー成分を含有することで、それ自体又はシートとした後に、より容易に所望の形状を保持させることができる。
組成物の総質量100質量%に対する上記バインダー成分の含有量は、固形分換算で、例えば、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上8質量%以下がより好ましく、3質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、3.5質量%以上4.5質量%以下がよりさらに好ましく、4質量%以上4.3質量%以下が特に好ましい。
組成物の総質量100質量%に対する上記可塑剤の含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下が好ましく、1質%以上3質量%以下がより好ましく、1.1質量%以上2質量%以下がさらに好ましく、1.2質量%以上1.6質量%以下がよりさらに好ましく、1.3質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。
組成物の総質量100質量%に対する上記溶剤の含有量は、例えば、10質量%以上50質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上35質量%以下がさらに好ましく、23質量%以上30質量%以下がよりさらに好ましく、25質量%以上27質量%以下が特に好ましい。
実施形態に係る組成物に含まれる上記板状スピネル粒子、ガラス成分、バインダー成分、可塑剤、溶剤の量が、上記範囲内にあることで、組成物の成形加工性並びに焼成後の強度及び熱伝導率の点で、より優れたものとすることができる。
【0151】
≪グリーンシート≫
上記組成物は、ガラスセラミックス基板の製造に好適に用いられ、上記組成物を用いてグリーンシートを製造できる。すなわち、上記組成物は、クリーンシートの製造に使用されるグリーンシート製造用組成物として用いることができる。
実施形態に係るグリーンシートは、上記組成物を成形してなる。すなわち、実施形態に係るグリーンシートは、上記組成物をシート成形して製造することができる(成形加工工程)。シート成形の方法は特に制限されるものではないが、上記方法により得られたスラリー(グリーンシート製造用組成物)をシート状に成形加工することが挙げられる。成形加工方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、カレンダーロール法等の公知の方法に基づき成形することができるが、膜厚調整が容易に可能で、かつ膜厚均一性に優れるドクターブレード法によりシート成形することが好ましい。実施形態に係る組成物は、離型シート上にシート成形することができる。シート成形時又はシート成形後には、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。また、シート成形後に、カッター又は打抜き型等により所望の形状に加工されてよい。
実施形態に係るグリーンシートは、導電パターンを有していてもよい。導電パターンは、導電性金属を含む導電材料を、ビアホール等の貫通孔内に充填すること、グリーンシート上に印刷すること等により形成できる。
実施形態に係るグリーンシートは、グリーンシートが複数枚積層された積層体として提供できる。積層体は、必要に応じてプレス加工を施されてもよい。実施形態に係るグリーンシートは、片方又は両方の側の最表面に離型シートを有していてもよい。
【0152】
実施形態に係るグリーンシートの厚みは、後述のガラスセラミックス基板の厚みに応じて、適宜調整される。グリーンシートが積層体である場合には、上記厚みは、複数層あるグリーンシートの厚みの合計とする。
【0153】
≪焼成物及びガラスセラミックス基板≫
実施形態に係る焼成物は、上記組成物を焼成してなる。当該焼成物としては、上記グリーンシートの焼成物を例示できる。上記グリーンシートを焼成することで、ガラスセラミックス基板を製造できる。すなわち、実施形態に係るガラスセラミックス基板は、上記焼成物を備える。
【0154】
上記組成物も、上記グリーンシートも、焼成することで焼成物とすることができる。この焼成により、含有していたバインダー成分は焼失し、含有していたガラス成分が溶融し連続層を形成すると共に、このガラス連続層中に板状スピネル粒子が分散し、板状スピネル粒子とガラス成分とが強く密着した焼成物が得られる。上記の組成物も、上記グリーンシートも、焼成条件に特に制限は無く、いずれも同様の条件で焼成することができる。得られた焼成物中の板状スピネル粒子は、その板面が焼成物の平面方向に並ぶため、厚み方向の機械的強度を著しく高めることが可能となる。この焼成物は、例えば、ガラスセラミックス基板として用いることができる。
【0155】
上記組成物を焼成する焼成温度及び焼成時間は、一例として、850℃以上1000℃以下程度で、0.5時間以上3時間以下程度とすることができる。
【0156】
実施形態に係る焼成物の密度は、使用するガラス成分の密度、及び板状スピネル粒子の密度、配合割合により値が異なり、実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の密度はガラス成分の密度、及び板状スピネル粒子の密度を求め、配合割合より算出することができる(配合割合より求めたガラスセラミックス基板の密度を理論密度と呼ぶ。)。
組成物内及びグリーンシート内に分散されたガラス成分、並びに焼成時における溶融ガラスと、板状スピネル粒子とのなじみが悪いと、焼成物内のガラス成分と板状スピネル粒子との界面に空隙が生じることとなる。その結果、ガラスセラミックス内に密度の低い空気(0.001293g/cm3)の層が含まれることとなり、実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の密度を測定すると、配合割合より算出した値よりも小さくなる。
従って、実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の内のガラス成分と板状スピネル粒子のなじみが良く、より多くの界面が密着することで、緻密な構造となっている場合、実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の測定密度は理論密度により近くなり、一方、ガラス成分と板状スピネル粒子のなじみが悪いと、より多くの界面に空隙が生じ、実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の測定密度は理論密度と比較しより小さくなる。
実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の緻密性(%)は、以下の式にて求めることができる。緻密性の値がより高いほど、ガラス成分と板状スピネル粒子のなじみが良く、密着性が高く、より高い熱伝導率、機械強度を発現するもと考えられる。尚、密度は、アルキメデス法により求めた値である。
【0157】
緻密性(%)= (実測密度(g/cm3)/理論密度(g/cm3))×100
【0158】
ガラスセラミックス基板の厚みは、例えば、0.05mm以上5mm以下とすることができる。
実施形態に係る組成物が焼成されると、組成物に含まれる上記バインダー成分、可塑剤、及び溶剤は、熱分解又は揮発する一方で、ガラス成分は溶融して焼成物を構成する分散媒の少なくとも一部となる。そして、溶融後に固まったガラス成分の中に、上記板状スピネル粒子が分散した状態となる。
なお、少なくとも上記焼成条件による焼成であれば、通常、板状スピネル粒子が完全に溶融することはない。したがって、実施形態に係る焼成物に含まれる板状スピネル粒子は、上記で説明した種々の特徴を有するものである。
【0159】
実施形態に係る焼成物は、上記板状スピネル粒子と、ガラス成分とを含有する。
焼成物の総質量100質量%に対する上記スピネル粒子の含有量は、例えば、10質量%以上60質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
焼成物の総質量100質量%に対する上記ガラス成分の含有量は、例えば、50質量%以上90質量%以下が好ましく、60質量%以上85質量%以下がより好ましく、70質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。
実施形態に係る焼成物に含まれる、上記板状スピネル粒子及びガラス成分の量が上記範囲内にあることで、焼成後の強度及び熱伝導率の点で、より優れたものとすることができる。
【0160】
実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の熱伝導率は、1.6W/mk以上であることが好ましく、1.8W/mk以上であることがより好ましく、2.0W/mk以上であることがさらに好ましく、2.5W/mk以上であることがよりさらに好ましく、3.0W/mk以上であることが特に好ましく、3.2W/mk以上であることが最も好ましい。一方で、焼成物(ガラスセラミックス基板)の熱伝導率の上限は特に限定されないが、6.0W/mk以下とすることができ、5.0W/mk以下とすることができ、4.0W/mk以下とすることができる。
熱伝導率は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0161】
実施形態に係る焼成物(ガラスセラミックス基板)の曲げ強さは、130Mpa以上であることが好ましく、140Mpa以上であることがより好ましく、160Mpa以上であることがさらに好ましく、180Mpa以上であることがよりさら好ましく、200Mpa以上であることが特に好ましく、215Mpa以上であることが最も好ましい。一方で、焼成物(ガラスセラミックス基板)の曲げ強さは特に限定されないが、300MPa以下とすることができ、280MPa以下とすることができ、260MPa以下とすることができ、252Mpa以下とすることができる。
曲げ強さは、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0162】
従来、無機粒子が含有されているガラスセラミックス基板はあったが、無機粒子を含有させる目的は、基板強度を高めることや、基板収縮を抑えることにあった。
一方、熱伝導率等の熱特性に着目すると、各種無機粒子の中でスピネル粒子は優れた特性を有している。スピネル粒子の中でも、上記板状スピネル粒子は熱伝導率が高く、特に優れている。
また、上記板状スピネル粒子を配合するガラスセラミックス基板は、従来のスピネル粒子を配合するガラスセラミックス基板と比較し、熱伝導率が高く、且つ曲げ強さも高い。このような効果が得られる理由を以下に考察する。上記板状スピネル粒子は、粒子内にモリブデンを含むため、熱伝導率が高い。また、上記板状スピネル粒子は、上述した形状を有し、かつ従来のスピネル粒子と比べ結晶性の高いものである。また、アスペクト比の大きい当該スピネル粒子を用いることで、ガラス成分や他の無機粒子材料等と混合した場合、熱伝パス形成に最も優れた分散状態となる。また、焼成物の曲げ方向と垂直方向に配向し分散したスピネル粒子が、マトリックスであるガラス成分との強固な相互作用を及ぼし、曲げ強度並びに弾性率向上の効果をおよぼす。その結果、焼成物は熱伝導率が高く機械強度に優れたものとなると考えられる。
また、上記板状スピネル粒子を原料として製造されたガラスセラミックス基板は、従来のスピネル粒子と同程度に比誘電率の値が低く、低誘電率化されているものと期待される。
尚、基板内のガラス成分と板状スピネル粒子の界面の評価としては、基板断面の化学機械研磨を行った後、イオンミリング処理を行い、研磨面のSEM観察し、元素差より生じる反射電子像のコントラストを求める手法が挙げられる。ガラス成分相と板状スピネル成分相、及び空隙相の面積比を求めることで空隙率%を表わすことが可能である。これより、ガラス成分と上記板状スピネル粒子の界面を観察したところ、従来のスピネル粒子を用いた場合と比較し、空隙が極端に少なく、緻密性に優れた基板であることが推測できる。
また、ガラス成分と板状スピネル粒子の界面の評価方法として、基板断面をTEMやSTEM観察を行うことで、界面及び界面近傍のガラス成分、並びに板状スピネル粒子の結晶構造及び組成を把握することができる。
【実施例】
【0163】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0164】
≪スピネル粒子の原料であるα-アルミナ粒子の合成例≫
<合成例A-1>α-アルミナ粒子A-1の合成
水酸化アルミニウム145.3g(日本軽金属株式会社製、平均粒子径12μm)と、二酸化珪素(関東化学株式会社製、特級)1.90gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で10時間焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、99gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、106μm篩を通るまで解砕した。
続いて、得られた前記薄青色粉末の98gを0.5%アンモニア水の150mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で0.5時間攪拌後、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、96gの白色の粉末を得た。得られた粉末はレーザー回折式粒度分布計により求めた平均粒子径が7.0μmであり、また、SEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.83質量%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.95g/cm3であった。
【0165】
<合成例A-2>α-アルミナ粒子A-2の合成
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径2μm)145.3gと、二酸化珪素2.85gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5gとを乳鉢で混合した以外は、合成例A-1と同様の操作を行い98gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末はレーザー回折式粒度分布計により求めた平均粒子径が3.8μmであり、また、SEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.86質量%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.94g/cm3であった。
【0166】
≪α-アルミナ粒子の評価方法≫
[α―アルミナ粒子の平均粒子径Lの計測]
作製した試料について、レーザー回折式粒度分布計HELOS(H3355)&RODOS(株式会社日本レーザー製)を用い、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で平均粒子径d50(μm)を求め、平均粒子径Lとした。
【0167】
[α化率の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10度以上70度以下の条件で測定を行った。α-アルミナと遷移アルミナの最強ピーク高さの比よりα化率を求めた。
【0168】
[α-アルミナ粒子内に含まれるMo量の分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF分析結果により求められるモリブデン量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0169】
[密度の測定]
作製した試料を、300℃3時間の条件で前処理を行った後、マイクロメリティックス社製 乾式自動密度計アキュピックII1330を用いて、測定温度25℃、ヘリウムをキャリアガスとして使用した条件で測定した。
【0170】
≪スピネル粒子の合成≫
<合成例B-1>スピネル粒子S-a1の合成
合成例A-1で得たα-アルミナ粒子A-1 20gと、酸化マグネシウム(神島化学製 平均粒子径3.5μm)7.86gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1150℃まで昇温し、1150℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、27.5gの白色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、150μm篩を通るまで解砕した。
続いて、得られた前記白色粉末の25gと2質量%硝酸の100mLを配合し、直径5mmのアルミナビーズを加え、ペイントコンディショナーで20分解砕を行った。その後、分散溶液をろ過により2質量%硝酸を除き、水洗浄と乾燥を行うことで、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、24.5gの白色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来する鋭いピーク散乱が観察された。また、CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ、82nmであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.48質量%含むものであることを確認した。
【0171】
<合成例B-2>スピネル粒子S-a2の合成
合成例A-2で得たα-アルミナ粒子A-2 20gと、酸化マグネシウム(神島化学製 平均粒子径3.5μm)7.86gとを乳鉢で混合し、混合物を得た以外は合成例B-1と同様の操作を行い、24.6gの白色の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は4.0μmであり、平均粒子径が合成例A-1で得たα-アルミナ粒子A-1よりも小さい3.8μmである合成例A-2で得たα-アルミナ粒子A-2を用いた場合、合成例B-1で得た板状スピネル粒子S-a1よりも平均粒子径が小さい粒子が得られた。また、SEM観察)により板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来する鋭いピーク散乱が観察された。また、CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ、70nmであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.53質量%含むものであることを確認した。
【0172】
<合成例B-3>スピネル粒子S-a3の合成
合成例A-1で得たα-アルミナ粒子A-1 20gと、酸化マグネシウム(神島化学製 平均粒子径3.5μm)7.86gと、三酸化モリブデン1.67gを乳鉢で混合し、混合物を得た以外は合成例B-1と同様の操作を行い、24.6gの白色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来する鋭いピーク散乱が観察された。また、CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ、88nmであり、合成例B-1の三酸化モリブデンを添加していない配合で焼成したものと比べ、結晶子径が大きく、三酸化モリブデンが結晶成長に寄与していることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.61質量%含むものであることを確認した。
【0173】
<合成例B-4>スピネル粒子S-a4の合成
合成例A-1で得たα-アルミナ粒子A-1 20gと、酸化マグネシウム(神島化学製 平均粒子径3.5μm)7.86gと、塩化ナトリウム83.57gを乳鉢で混合し、混合物を得た以外は合成例B-1と同様の操作を行い、24.5gの白色の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は8.3μmであり、塩化ナトリウムを配合することで、合成例B-1で得た板状スピネル粒子S-a1よりも平均粒子径が大きい粒子が得られた。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来する鋭いピーク散乱が観察された。また、CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ、66nmであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.31質量%含むものであることを確認した。
【0174】
<合成例B-5>スピネル粒子S-b1の合成
市販のベーマイト(粒子径2μm)23.53gと、酸化マグネシウム(神島化学製 平均粒子径3.5μm)7.86gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1150℃まで昇温し、1150℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、27.6gの白色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、150μm篩を通るまで解砕した。続いて、得られた前記白色粉末の25gと2質量%硝酸の100mLを配合し、直径5mmのアルミナビーズを加え、ペイントコンディショナーで20分解砕を行った。その後、分散溶液をろ過により2質量%硝酸を除き、水洗浄と乾燥を行い、24.6gの白色の粉末を得た。得られた粉末をSEMで観察したところ、板状であったが、粒子形状や粒子径が不揃いであった。また、板の厚み平均が1μmで、レーザー回折式粒度分布計より求められる平均粒子径が2.9μmであり、平均粒子径/厚み平均より求められるアスペクト比が2.9と、合成例B-1~B-4で得た板状スピネル粒子のアスペクト比と比べて、極端に小さい値となった。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来するピーク散乱が観察されたが合成例B-1~B-4で得た板状スピネル粒子の測定結果と比べて、ピークがブロードであり、CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ28nmであり、合成例B-1~B-4で得た板状スピネル粒子の結晶子径と比較して、極端に小さい値となった。
【0175】
<合成例B-6>スピネル粒子S-b2の合成
市販のスピネル粒子(平均粒子径20μmに篩分級で調整されたもの)25gに、径5mmのアルミナビーズ25gを加えペイントコンディショナーを用い解砕を行い、24.7gのスピネル粒子粉末を得た。得られた粉末をSEMで観察したところ、粒子形状や粒子径が不揃いな角状粒子であった。また、板の厚み平均が5.3μmで、レーザー回折式粒度分布計より求められる平均粒子径が5.5μmであり、平均粒子径/厚み平均より求められるアスペクト比が1.0と、合成例B-1~B-4で得た板状スピネル粒子のアスペクト比と比べて、極端に小さい値となった。さらに、XRD測定を行ったところ、スピネルに由来するピーク散乱が観察された。CALSA検出器を用い、37度付近に認められる(311)面のピークより結晶子径を求めたところ88nmであった。
【0176】
≪スピネル粒子の評価方法≫
上記の合成例B-1~B-6で得たスピネル粒子を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。また、測定結果を表1に示す。
【0177】
[スピネル粒子の平均粒子径Lの計測]
作製した試料について、レーザー回折式粒度分布計HELOS(H3355)&RODOS(株式会社日本レーザー製)を用い、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で平均粒子径d50(μm)を求め、平均粒子径Lとした。
【0178】
[スピネル粒子の厚みTの計測]
作製した試料について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の厚みを測定した平均値を採用し、厚みT(μm)とした。
【0179】
[アスペクト比L/T]
スピネル粒子のアスペクト比は下記の式を用いて求めた。
【0180】
アスペクト比 = 板状スピネル粒子の平均粒子径L/板状スピネル粒子の厚みT
【0181】
[スピネル結晶の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10度以上70度以下の条件で測定を行った。
【0182】
[結晶子径の測定]
作製した試料について、株式会社リガク製 X線回折装置SmartLab、検出器CALSAを用い、以下の条件で37度付近に認められるピークより、(311)面の結晶子径(nm)を求めた。
【0183】
(測定条件)
2θ/θ法 2θ=15deg以上80deg以下
step数 0.002deg
スキャンスピード0.05deg./min.
βs=20rpm
Soller/PSC=2.5deg.short
Soller=2.5deg.
【0184】
[スピネル粒子内に含まれるMo量の分析]
作製した試料について、蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
XRF分析結果により求められるモリブデン量を、スピネル粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0185】
[密度の測定]
作製した試料を、300℃3時間の条件で前処理を行った後、マイクロメリティックス社製 乾式自動密度計アキュピックII1330を用いて、測定温度25℃、ヘリウムをキャリアガスとして使用した条件で測定した。
【0186】
[誘電正接の測定]
作製した試料に25gに径5mmのアルミナビーズを加え、ペイントコンディショナーで4時間処理し、スピネル粒子を粉砕した。粉砕したスピネル粒子を用い、ベクトルネットワークアナライザE8361Aを用い、摂動方式共振器法、周波数1GHz、温度25℃、湿度50%の条件で誘電正接を求めた。
【0187】
【0188】
≪PPS樹脂組成物及びその成形物の作製≫
<実施例1~4、比較例1~2>
合成例B-1~B-6で作製したスピネル粒子を用い、ポリフェニレンサルファイト樹脂(PPS樹脂 DIC製LR-100G)の比重を1.34とし、スピネル粒子の体積%が20Vol%となるように、表2に記載のとおり配合し、混合した。混合物をフルフライトのスクリューを設置した二軸混練機を用いて、押出機温度300℃、スクリュー回転数100rpmの条件で2分間溶融混練を行った。得られた混練物をダイスからストランド状で取り出し、PPS樹脂組成物を得た。これをペレット化し9cc計り取り、小型射出成形機を用いて射出温度320℃、金型温度140℃にて射出成形し、JIS K7161-2 1BAに相当するダンベル試験片(幅5mm、全長75mm、厚み2mm)を得た。
【0189】
≪ナイロン樹脂組成物及びその成形物の作製≫
<実施例5~8、比較例3~4>
合成例B-1~B-6で作製したスピネル粒子を用い、ナイロン樹脂(PA6樹脂 DSM製ノバミッド1010PJ)の比重を1.13とし、スピネル粒子の体積%が40Vol%となるように、表3に記載のとおり配合し、混合した。混合物をフルフライトのスクリューを設置した二軸混練機を用いて、押出機温度280℃、スクリュー回転数100rpmの条件で2分間溶融混練を行った。得られた混練物をダイスからストランド状で取り出し、ナイロン樹脂組成物を得た。これをペレット化し9cc計り取り、小型射出成形機を用いて射出温度280℃、金型温度80℃にて射出成形し、JIS K7161-2 1BAに相当するダンベル試験片(幅5mm、全長75mm、厚み2mm)を得た。
【0190】
≪エポキシ樹脂組成物及びその成形物の作製≫
<実施例9~12、比較例5~6>
合成例B-1~B-6で作製したスピネル粒子を用い、エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製EPICLON-850S)(エポキシ当量:188)とEX-321L(トリメチロールプロパングリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量130g/eq.)を85質量%/15質量%で混合したもの)の比重を1.18とし、スピネル粒子の体積%が40Vol%、硬化剤AH-154(ジシアンジアミド、味の素ファインテクノ(株)製)がエポキシ樹脂に対し0.95質量%となるように、表4に記載のとおり配合した。配合物を自転-公転型混練装置で混練し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、加熱プレス成形により厚み0.5mmの樹脂硬化物を作成した(硬化条件170℃×20分)。その樹脂硬化物を乾燥器内で170℃×2時間、200℃×2時間で更に硬化させて、成形物を得た。
【0191】
≪PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の評価≫
上記の実施例1~8及び比較例1~4で製造したPPS樹脂組成物及びナイロン樹脂組成物の試験片を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。また、PPS樹脂組成物の測定結果を表2に、ナイロン樹脂組成物の測定結果を表3に示す。
【0192】
[PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の密度の測定]
得られたダンベル試験片の、大気中とエタノール成形体の質量を小数4位まで測定し、アルキメデス法により、密度を測定した。
【0193】
[PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の緻密性の測定]
配合組成より得られる理論密度に対する、密度測定にて得られた値を%で求めた。値が100%に近いほど、理論密度に近く、緻密性が高いと言える。
【0194】
[PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の熱伝導率の測定]
得られたダンベル試験片から10mm×10mm×2.0mmとなるように切り出し、キセノンフラッシュ法による熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における面に対し垂直方向に伝熱する熱拡散率及び比熱の測定を行った。5サンプル測定し平均値を求めた。比熱については、10mm×10mm×2mmのパイロセラム9606をレファレンスとして測定した。得られた熱拡散率、比熱、そして密度の積から、PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の熱伝導率を見積もった。
【0195】
[PPS樹脂組成物の成形物の誘電率及び誘電正接の測定]
株式会社エーイーティ製誘電率測定装置 ADMS01Oを用い、温度25℃、湿度50%の条件下、空洞共振法にて周波数1GHzの誘電率及び誘電正接を測定した。
【0196】
[PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の曲げ強さ及び曲げ弾性率の測定]
3点曲げ強さ試験を行った。得られたダンベル試験片の一辺を、支点間距離が32mmとなるように、2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置にクロスヘッドの移動速度1mm/分の速度で加重を加えて、試験片が破壊したときの最大荷重を測定し、3点曲げ強さ(MPa)を算出した。当該曲げ強さを5サンプル測定して平均値を求めた。
【0197】
[PPS樹脂組成物の成形物及びナイロン樹脂組成物の成形物の引張強さ及び引張弾性率の測定]
得られたダンベル試験片を用い、JIS K7161-1に準拠し引張強さ、引張弾性率を測定した。引張速度は5mm/minで行い、5サンプル測定して平均値を求めた。
【0198】
≪エポキシ樹脂組成物の成形物の評価≫
上記の実施例9~12及び比較例5~6で製造したエポキシ樹脂組成物の成形物を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。また、測定結果を表4に示す。
【0199】
[エポキシ樹脂組成物の成形物の密度の測定]
得られた成形物を30mm×30mm×0.5mmに切り出し、大気中とエタノール成形体の質量を小数4位まで測定し、アルキメデス法により、密度を測定した。
【0200】
[エポキシ樹脂組成物の成形物の緻密性の測定]
配合組成より得られる理論密度に対する、密度測定にて得られた値を%で求めた。値が100%に近いほど、理論密度に近く、緻密性が高いと言える。
【0201】
[エポキシ樹脂組成物の成形物の熱伝導率の測定]
得られた成形物を10mm×10mm×0.5mmとなるように切り出し、キセノンフラッシュ法による熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における面に対し垂直方向に伝熱する熱拡散率及び比熱の測定を行った。5サンプル測定し平均値を求めた。
【0202】
[エポキシ樹脂組成物の曲げ強さ及び弾性率の測定]
得られた成形物を80mm×10mm×0.5mmとなるように切り出し、3点曲げ強さ試験を行った。得られたダンベル試験片の一辺を、支点間距離が40mmとなるように、2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置にクロスヘッドの移動速度1mm/分の速度で加重を加えて、試験片が破壊したときの最大荷重を測定し、3点曲げ強さ(MPa)を算出した。当該曲げ強さを5サンプル測定して平均値を求めた。
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
表2から、実施例1、2及び4で得たPPS樹脂組成物の成形物の比較により、平均粒子径によらず、アスペクト比が大きいスピネル粒子を用いたものほど、熱伝導率、並びに、力学特性(曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ及び引張弾性率)がより高くなる傾向がみられた。
また、実施例1及び3で得たPPS樹脂組成物の成形物の比較により、結晶子径が大きいスピネル粒子を用いたものほど、熱伝導率、並びに、力学特性(曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ及び引張弾性率)がより高くなる傾向がみられた。
一方で、比較例1及び2で得たPPS樹脂組成物の成形物では、実施例1~4で得たPPS樹脂組成物の成形物よりも、緻密性、熱伝導率、並びに、力学特性(曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ及び引張弾性率)に劣る結果であった。
また、表3及び表4から、ナイロン樹脂組成物の成形物及びエポキシ樹脂組成物の成形物においても、PPS樹脂組成物の成形物と同様の傾向が見られた。
以上のことから、実施形態に係る組成物によれば、緻密性が高く、誘電率や誘電正接等のスピネル粒子の本来持つ性質を損なわずに、熱伝導率及び力学特性に優れた成形物が得られることが示された。
【0207】
≪ガラスセラミックス組成物用バインダー樹脂の合成≫
<合成例C-1>ガラスセラミックス組成物用バインダー樹脂Cの合成
キシレン100部を、窒素気流中80℃に保ち、攪拌しながらメタクリル酸エチル68部、メタクリル酸2-エチルヘキシル29部、チオグリコール酸3部、及び重合開始剤(「パーブチルO」〔有効成分ペルオキシ2-エチルヘキサン酸t-ブチル、日本油脂(株)製〕)0.2部からなる混合物を4時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間ごとに「パーブチルO」0.5部を添加し、80℃で12時間攪拌した。反応終了後不揮発分調整のためキシレンを加え、不揮発分(固形分)50%の、片末端にカルボキシル基を有するビニル共重合体のキシレン溶液を得た。該樹脂の質量平均分子量は7000、酸価は18.0mgKOH/g、ガラス転移温度Tgは38℃であった。
【0208】
≪組成物、グリーンシート及びガラスセラミックス基板の製造≫
<実施例13~16、比較例7~8>
合成例B-1~B-6で得たスピネル粒子と、ガラス粉末(旭硝子株式会社製 平均粒子径d50=4.5μm、アルキメデス法による密度測定結果3.512、SiO2、MgO、アルカリ土類金属の酸化物を主成分とする)と、合成例C-1で得たバインダー樹脂Cと、可塑剤と、メチルエチルケトンとを用いて、全固形分中のスピネル粒子とガラス粉末が占める割合を80体積%、スピネル粒子とガラス粉末の割合が体積比で30/70(焼成後のガラスセラミックス基板中のスピネル粒子の含有量が、ガラス成分とスピネル粒子の合計量に対して、30体積%となる配合とした。)、全固形分/溶剤も含めた全量(Nv)が70質量%となるように、表5の記載のとおり配合した。配合物を、自公転ミキサーを用いて混合してペーストを得た。作製したペーストをポリエチレンテレフタレートフィルム上にドクターブレード法により成膜し、乾燥機で乾燥後、基板用グリーンシートを複数形成した。
次に、複数枚の基板用グリーンシートを、焼成後のガラスセラミックス基板の厚さが0.2mmとなるように、積層して、50MPaでプレスした後、大気中900℃1時間の条件で焼成し、ガラスセラミックス基板を得た。
【0209】
≪ガラスセラミックス基板の評価≫
上記の実施例13~16及び比較例7~8で製造したガラスセラミックス基板を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。また、測定結果を表5に示す。
【0210】
[ガラスセラミックス基板の密度の測定]
ガラスセラミックス基板のサイズが30mm×30mm×0.2mmとなるよう調整し、大気中とエタノール成形体の質量を小数4位まで測定し、アルキメデス法により、密度を測定した。
【0211】
[ガラスセラミックス基板の緻密性の測定]
配合組成より得られる理論密度に対する、密度測定にて得られた値を%で求めた。値が100%に近いほど、理論密度に近く、緻密性が高いと言える。
【0212】
[ガラスセラミックス基板の熱伝導率の測定]
実施例及び比較例で得た複数枚の基板用グリーンシートを、焼成後のガラスセラミックス基板の厚さが1.0mmとなるように、積層して、50MPaでプレスした後、大気中900℃1時間の条件で焼成し、ガラスセラミックス基板を得た。その後、ガラスセラミックス基板を10mm×10mm×1.0mmとなるよう調整し、キセノンフラッシュ法による熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における面に対し垂直方向に伝熱する熱拡散率及び比熱の測定を行った。比熱については、10mm×10mm×1mmのパイロセラム9606をレファレンスとして測定した。得られた熱拡散率、比熱、そして密度の積から、ガラスセラミックス基板の熱伝導率を見積もった。
【0213】
[ガラスセラミックス基板の誘電率及び誘電正接の測定]
株式会社エーイーティ製誘電率測定装置 ADMS01Oを用い、温度25℃、湿度50%の条件下、空洞共振法にて周波数1GHzの誘電率及び誘電正接を測定した。
【0214】
[ガラスセラミックス基板の曲げ強さの測定]
JIS C2141に準拠する3点曲げ強さ試験を行った。ガラスセラミックス基板の一辺を、支点間距離が40mmとなるように、2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置にクロスヘッドの移動速度0.5mm/分の速度で加重を加えて、試験片が破壊したときの最大荷重を測定し、3点曲げ強さ(MPa)を算出した。当該曲げ強さを5サンプル測定して平均値を求めた。
【0215】
【0216】
表5から、実施例13、15及び16で得たガラスセラミックス基板の比較により、平均粒子径によらず、アスペクト比が大きいスピネル粒子を用いたものほど、熱伝導率、及び力学特性(曲げ強さ)がより高くなる傾向がみられた。
また、実施例13及び15で得たガラスセラミックス基板の比較により、結晶子径が大きいスピネル粒子を用いたものほど、熱伝導率、及び力学特性(曲げ強さ)がより高くなる傾向がみられた。
一方で、比較例7及び8で得たガラスセラミックス基板では、実施例13~16で得たガラスセラミックス基板よりも、緻密性、熱伝導率、及び力学特性(曲げ強さ)に劣る結果であった。
以上のことから、実施形態に係るガラスセラミックス基板は、緻密性が高く、誘電率や誘電正接等のスピネル粒子の本来持つ性質を損なわずに、熱伝導率及び力学特性に優れたものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0217】
実施形態に係る樹脂組成物によれば、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れる樹脂組成物を提供することができる。実施形態に係る成形物によれば、前記樹脂組成物を成形してなる成形物を提供することができる。実施形態に係る組成物によれば、高熱伝導率と低誘電正接を併せ持ち、機械強度も優れるガラスセラミックス基板の製造に用いられる組成物を提供することができる。実施形態に係るグリーンシートによれば、前記組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供することができる。実施形態に係る焼成物によれば、前記組成物を焼成してなる焼成物を提供することができる。実施形態に係るガラスセラミックス基板によれば、前記焼成物を備えるガラスセラミックス基板を提供することができる。