(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08C 1/15 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C08C1/15
(21)【出願番号】P 2020568077
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020000992
(87)【国際公開番号】W WO2020153183
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019007919
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 敦弘
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-042853(JP,A)
【文献】国際公開第2007/049651(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123737(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 1/00-1/16
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において
、2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させる工程を備えるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、カルボキシル基含有単量体単位を1~20重量%の割合で含有する請求項1に記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10~59重量%の割合で含有する請求項2に記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、共役ジエン単量体単位を40~89重量%の割合で含有する請求項2または3に記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項5】
前
記2価の金属塩が、無機酸
の2価の金属塩である請求項1~4のいずれかに記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項6】
前記2価の金属塩の使用量が、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴム100重量部に対して、1~10重量部である請求項1~5のいずれかに記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項7】
前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、前
記2価の金属塩を含有する水溶液と接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させる請求項1~6のいずれかに記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【請求項8】
前
記2価の金属塩を含有する水溶液中の
、2価の金属塩の濃度が、1~10重量%である請求項7に記載のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法に関し、さらに詳しくは、保存時の安定性に優れ、かつ、接着性高分子と混合してフレキシブルプリント回路基板用の接着材料とした際に、優れた表面平滑性を実現できるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムを製造することが可能なカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状ニトリルゴムなどの液状ジエン系ゴムは、塗料、プライマー、接着剤などの主要成分として使用されたり、固形ゴムに配合することで、共架橋可能な可塑剤として使用される。
【0003】
たとえば、特許文献1では、カルボキシル基含有単量体単位として、メタクリル酸単位を含有する液状ニトリルゴムと、固形のニトリルゴムとを含む耐油性ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記特許文献1で用いられている液状ニトリルゴムなどの、従来の液状ニトリルゴムは、保存安定性が十分でなく、一定期間保存すると粘度が上昇してしまい、そのため、固形のゴムや樹脂等と配合した際に、得られる配合物の特性が安定しないという課題があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、保存時の安定性に優れ、しかも、接着性高分子と混合してフレキシブルプリント回路基板用の接着材料とした際に、優れた表面平滑性を実現できるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムを製造することが可能なカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスから、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを分離させる際に、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを、pHが5以下の条件下において、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させる工程を備えるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の製造方法において、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、カルボキシル基含有単量体単位を1~20重量%の割合で含有するものであることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10~59重量%の割合で含有するものであることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、共役ジエン単量体単位を40~89重量%の割合で含有するものであることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記1価または2価の金属塩が、無機酸の1価または2価の金属塩であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記1価または2価の金属塩が、2価の金属塩であり、前記2価の金属塩の使用量が、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴム100重量部に対して、1~10重量部であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、前記1価または2価の金属塩を含有する水溶液と接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記1価または2価の金属塩を含有する水溶液中の、1価または2価の金属塩の濃度が、1~10重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、保存時の安定性に優れ、しかも、接着性高分子と混合してフレキシブルプリント回路基板用の接着材料とした際に、優れた表面平滑性を実現できるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させる工程を備える。
【0012】
<カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス>
まず、本発明で用いるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスについて説明する。
本発明で用いるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスは、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムが、水中に分散してなる分散液である。
【0013】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスに含まれるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムとしては、25℃において液体状態を有する(25℃において流動性を有する)カルボキシル基を含有するニトリルゴムであり、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、たとえば、JIS K6300に準拠して測定したムーニー粘度が、通常、1以下、あるいは、粘度が低すぎてムーニー粘度が測定不可能なものである。
【0014】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを構成するカルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、たとえば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と、カルボキシル基含有単量体と、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な単量体とを共重合することにより得ることができる液状のゴムである。
【0015】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、炭素数3~18のものが好ましく、炭素数3~9のものが特に好ましい。その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴム中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは10~59重量%であり、より好ましくは13~53重量%、さらに好ましくは17~47重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、耐溶剤性および耐寒性にバランス良く優れたものとすることができる。
【0017】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、液状ニトリルゴムに、カルボキシル基を導入することができ、これにより、樹脂や固形のゴムなどの接着性の高分子と配合して、接着材料とした際における、耐溶剤性や接着性を高めることができる。
【0018】
本発明で用いるカルボキシル基含有単量体としては、たとえば、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0019】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0020】
α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β-不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0021】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn-ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn-ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn-ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn-ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0022】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、液状ニトリルゴム中にカルボキシル基を導入することによる効果がより一層顕著になることから、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸、またはメタクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0023】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴム中における、カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、好ましくは1~20重量%、より好ましくは2~15重量%、さらに好ましくは3~10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、樹脂や固形のゴムなどの接着性の高分子と配合して、接着材料とした際における、耐溶剤性や接着性を高めることができる。
【0024】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを構成する、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と、カルボキシル基含有単量体とともに、共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。
【0025】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0026】
カルボキシル基含有液状ニトリルゴム中における、共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは40~89重量%、より好ましくは45~85重量%、さらに好ましくは50~80重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、良好なゴム弾性を保ちながら、耐油性、耐熱老化性および耐化学的安定性に優れたものとすることができる。
【0027】
また、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α-オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」に該当するものを除く)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0028】
α-オレフィン単量体としては、炭素数が3~12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが挙げられる。
【0029】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0030】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2~12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸α-シアノブチルなどの炭素数2~12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1~12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのジアルキルアミノ基含有α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0031】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0032】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナムアミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、 N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0033】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0034】
本発明で用いるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスは、上述した単量体を、公知の乳化重合法により共重合することより得る方法、あるいは、上述した単量体を、公知の溶液重合法などにより共重合した後、得られた共重合体について乳化操作を行う方法などによって得ることができるが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0035】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩とホルマリンとの重縮合物、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0036】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部である。
【0037】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α-メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは8~15重量部である。
【0038】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは80~300重量部である。
【0039】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0040】
また、乳化重合に際しては、重合温度を、0~70℃として乳化重合を行うことが好ましく、3~40℃として乳化重合を行うことがより好ましい。このような低い温度にて、乳化重合を行うことにより、分岐反応を抑制し、これにより、得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの保存前の粘度を低くすることができるとともに、保存時の安定性をより高めることができる。
【0041】
さらに、乳化重合に際しては、重合転化率が、好ましくは40~80%、より好ましくは50~70%となった段階で、重合開始剤および/または分子量調整剤の追加添加を行うことが好ましく、これにより、得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの保存前の粘度上昇を適切に抑制しながら、最終重合転化率を適切に高めることができる。なお、重合開始剤を中途添加する際における、その添加量は、重合開始時点における添加量を100重量部とした場合に、0~100重量部とすることが好ましく、20~50重量部とすることがより好ましい。分子量調整剤を中途添加する際における、その添加量は、重合開始時点における添加量を100重量部とした場合に、0~50重量部とすることが好ましく、0~25重量部とすることがより好ましい。また、この際には、重合転化率が、好ましくは70~95%、より好ましくは75~90%となった段階で重合を停止させることが好ましい。
【0042】
また、上記方法にしたがって、乳化重合を行った後、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化させるための水素化反応を行ってもよい。水素化反応は、従来公知の方法を制限なく用いることができる。
【0043】
<カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法>
次いで、本発明のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法について、説明する。
本発明のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの製造方法は、上述したカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において(すなわち、塩析操作時のpHが5以下)、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させる工程を備える。
【0044】
本発明の製造方法において、上述したカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、1価または2価の金属塩に接触させる方法としては、特に限定されないが、1価または2価の金属塩を含有する水溶液と、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスとを混合する方法などが挙げられる。この際においては、(α)1価または2価の金属塩を含有する水溶液中に、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを添加して混合する方法、あるいは、(β)カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスに、1価または2価の金属塩を含有する水溶液を添加する方法のいずれを採用してもよいが、(β)の方法が好ましい。
【0045】
また、本発明の製造方法においては、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、1価または2価の金属塩に接触させる際に、pHが5以下の条件下において、これらを接触させるものであり、本発明の製造方法によれば、このような工程を採用することにより、得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムを、保存時の安定性に優れ、かつ、接着性高分子と混合して接着材料とした際に、優れた表面平滑性を実現できるものである。なお、本発明の製造方法において、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスと、1価または2価の金属塩とが接触することにより形成される、これらを含む混合液のpH(すなわち、塩析操作時のpH)が、5以下となる条件で、これらを接触させればよく、たとえば、1価または2価の金属塩を、水溶液の状態で、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスと混合する場合には、これらを混合した際に形成される混合液のpH(すなわち、塩析操作時のpH)が5以下となるように、1価または2価の金属塩の水溶液のpHを調整する方法を採用することが好ましい。
【0046】
本発明の製造方法において、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、1価または2価の金属塩に接触させる際に、pHが5以下の条件下において、これらを接触させるものであり、この際のpH(すなわち、塩析操作時のpH)は、好ましくは1~4.5、より好ましくは1.5~4、さらに好ましくは1.5~3である。pHが高すぎると、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを保存した際における保存安定性が低下してしまうことに加え、接着性高分子と混合して接着材料とした際における、表面平滑性の向上効果が得られなくなってしまう。
【0047】
1価または2価の金属塩としては、水に溶解させた場合に1価または2価の金属イオンとなる金属を含む塩であればよく、特に限定されないが、たとえば、塩酸、硝酸および硫酸等から選ばれる無機酸や酢酸等の有機酸と、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ニッケル、およびスズ等から選ばれる金属との塩が挙げられる。
【0048】
1価または2価の金属塩としては、無機酸の1価または2価の金属塩が好ましく、無機酸の1価または2価の金属塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化ニッケル、塩化スズなどの金属塩化物;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル、硝酸スズなどの硝酸塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、硫酸スズなどの硫酸塩;等が挙げられる。これらのなかでも、無機酸のナトリウム塩、無機酸のカルシウム塩、無機酸のマグネシウム塩が好ましく、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムが好ましく、塩化カルシウムが特に好ましい。1価または2価の金属塩は、一種単独でまたは複数種併せて用いることができるが、少なくとも2価の金属塩を用いることが好ましい。
【0049】
1価の金属塩の使用量は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴム100重量部に対し、好ましくは10~1000重量部、より好ましくは30~500重量部、さらに好ましくは50~200重量部である。2価の金属塩の使用量は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴム100重量部に対し、好ましくは1~10重量部、より好ましくは2~8重量部、さらに好ましくは2.5~5重量部である。1価または2価の金属塩の使用量を上記範囲とすることにより、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析をより効率的に行うことができる。
【0050】
また、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、1価または2価の金属塩に接触させる際における、温度条件は、特に限定されないが、好ましくは10~100℃、より好ましくは20~90℃である。これらを接触させる際における温度は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスの温度や、1価または2価の金属塩を、水溶液の状態で用いる場合には、1価または2価の金属塩の温度を調整することにより、調整することができる。1価または2価の金属塩を水溶液の状態で用いる場合の1価または2価の金属塩の濃度は、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~5重量%である。
【0051】
そして、本発明の製造方法においては、上述のように、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させた後、必要に応じて水洗を行った後、エバポレーションや真空乾燥などにより水相を除去することで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得ることができる。また、この際には、塩析後や洗浄後においては、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムからなる油層と、水層とに分離されることとなるため、水層部分を容器から流す等の操作により除去した後、エバポレーションや真空乾燥などに水分を完全に除去するという方法を採用してもよい。
【0052】
本発明の製造方法により得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは1000~50000であり、より好ましくは3000~20000である。また、本発明の製造方法により得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの、70℃における粘度は、好ましくは2000~12000mPa・sであり、より好ましくは3000~10000mPa・s、さらに好ましくは3500~6800mPa・sである。なお、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの、70℃における粘度は、たとえば、JIS Z8803に従って、音叉型振動式粘度計を使用して測定することができる。
【0053】
以上のようにして、本発明の製造方法によれば、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得ることができる。そして、このような本発明の製造方法により得られる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、保存時の安定性に優れるものである。そのため、本発明の製造方法により得られる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、樹脂や固形のゴムと混合することで、接着材料、摩擦材料、ブレーキ材料どの各種用途に用いた場合でも、安定した特性を発揮するこができるものであり、これらの用途に好適に用いることができるものである。特に、本発明の製造方法により得られる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、保存時の安定性に優れることに加え、接着性高分子と混合して接着材料とした際に、優れた表面平滑性を実現できるものであるため、上記用途の中でも、接着性樹脂や他のゴムなどの接着性の高分子に配合することで、接着材料(とりわけ、フレキシブルプリント回路基板用の接着材料)として、特に好適に用いることができるものである。
【0054】
なお、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムと組み合わされる樹脂や、固形のゴムとしては特に限定されないが、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムなどの固形のゴム;スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマー材料;PMMA、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS、塩化ビニル、PETなどの樹脂材料;エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、熱・光硬化性明アクリレート樹脂などの光または熱硬化樹脂;などが挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0056】
[カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの粘度]
カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの粘度は、JIS Z8803に従って、音叉型振動式粘度計(製品名「SV-10」、エーアンドデイ社製)を使用し、70℃で測定した。測定に際しては、サンプル量を20.2gとし、サンプル充填するためのガラスセルとして、製品名「AX-SV-35」(エーアンドデイ社製)を使用し、ガラスセル用の循環水ジャケットとしては、製品名「AX-SV-37」(エーアンドデイ社製)を使用した。また、測定結果の解析用のソフトウェアとしては、製品名「RsVisco」(エーアンドデイ社製)を使用した。
【0057】
[40℃、1週間保存後のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムの粘度]
カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを、温度40℃の条件下、1週間保存した。そして、保存後のカルボキシル基含有液状ニトリルゴムについて、上記と同様の方法にて、粘度測定を行った。
【0058】
[表面平滑性の評価]
カルボキシル基含有液状ニトリルゴム50部に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名「jER(登録商標) 828EL」、三菱ケミカル社製)100部、および硬化剤として4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(東京化成工業社製)30部を混合することで、接着剤組成物を調製し、これをメチルエチルケトンに溶解分散させて、固形分濃度が30質量%の接着剤溶液を作製した。そして、得られた接着剤溶液を、厚さ25μmのポリイミド製のフィルムの片面に、乾燥後の膜厚が30~40μmとなるように塗布し、さらに150℃、20分間乾燥することで、カバーレイフィルムとした。
【0059】
そして、得られたカバーレイフィルムを、所要の配線パターンを有する銅張り積層板(厚さ35μmの銅箔の配線パターンと、厚さ25μmのポリイミド製の基材フィルムで形成される銅張り積層板)の銅箔面(配線パターン面)に対し、温度200℃、圧力100kg/cm2にて、3分間プレスすることで、これらを貼り合わせ、この際における、カバーレイフィルムの表面平滑性を評価した。表面平滑性は、以下の基準に基づいて評価した。表面平滑性の判定は、レーザー変位計を用いて、以下のように2段階で評価して行った。いずれもサンプル数5個に対して行った。
○:5個のサンプル全てにおいて、凹凸の高さが8μm未満である。
×:5個のサンプ中、サンプル1個でも、凹凸の高さが8μm以上であるものが見られる。
【0060】
[重合転化率]
反応途中の重合反応液に適量の重合停止剤を加え、重合停止した重合反応液について、JIS K 6387-2:2011に準拠して全固形分の測定を行うことで、重合反応液の全固形分量を求めた。そして、全固形分量から乳化剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、分子量調整剤、および重合開始剤を合計した副資材固形分を引き、重合に用いた単量体混合物の全重量から未反応の単量体混合物の重量を引いた値に相当する補正された全固形分量(全固形分量-副資材固形分量)を、重合に用いた単量体混合物の全重量で除することにより重合転化率を算出した。なお、前述した以外の重合副資材は計算への影響が軽微であるため、今回の計算では考慮しなかった。
【0061】
<製造例1、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)の製造>
内容積10リットルの反応容器中に、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)の水溶液30部、水酸化ナトリウム0.5部、濃度10重量%のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩の水溶液10部、硫酸ナトリウム0.2部、硫酸0.02部およびイオン交換水200部を仕込み、ここに、アクリロニトリル24部、メタクリル酸8部、およびt-ドデシルメルカプタン(TDM)(分子量調整剤、商品名「Sulfole 120」、シェブロンフィリップス化学社製)10部を加えた。そして、内部の気体を窒素で3回置換した後、反応容器を5℃に保ち、1,3-ブタジエン68部、還元剤、およびキレート剤を適量加えたのち、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド(重合開始剤)0.12部を仕込み、重合反応を開始した。そして、上記方法にしたがって、重合転化率を確認しながら重合反応を継続し、重合転化率が55%になった時点でt-ドデシルメルカプタン(TDM)2部、およびジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド(重合開始剤)0.05部と、適量の還元剤とを添加し、さらに重合反応を継続し、重合転化率が85%に達した時点で、濃度5重量%の亜硝酸ナトリウム(重合停止剤)の水溶液1部を加えて重合反応を停止した。次いで、ラテックス中の重合体100部に対して、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン0.5部を、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(製品名「テイカパワー LN2450」、テイカ社製)0.1部で分散させてなる濃度10%の水溶液の状態で添加した後、70℃に加温し、減圧下、70℃にて水蒸気蒸留により残留単量体を回収した。その後、ラテックス中の重合体100部に対して、老化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン1.5部を添加することで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)を得た。なお、得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)のpHは、2.5であり、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの組成は、アクリロニトリル単位25重量%、1,3-ブタジエン単位67重量%、メタクリル酸単位8重量%であった。また、得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、25℃において液体状態を有するものであり、かつ、JIS K6300に準拠してムーニー粘度を測定したところ、粘度が低すぎてムーニー粘度が測定不可能であった。
【0062】
<製造例2、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-2)の製造>
内容積10リットルの反応容器中に、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)の水溶液30部、水酸化ナトリウム0.5部、濃度10重量%のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩の水溶液10部、硫酸ナトリウム0.2部、硫酸0.02部およびイオン交換水200部を仕込み、ここに、アクリロニトリル33部、メタクリル酸4部、およびt-ドデシルメルカプタン(TDM)(分子量調整剤、商品名「Sulfole 120」、シェブロンフィリップス化学社製)12部を加えた。そして、内部の気体を窒素で3回置換した後、反応容器を10℃に保ち、1,3-ブタジエン63部、還元剤、およびキレート剤を適量加えたのち、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド(重合開始剤)0.12部を仕込み、重合反応を開始した。そして、上記方法にしたがって、重合転化率を確認しながら重合反応を継続し、重合転化率が55%になった時点で、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド(重合開始剤)0.05部と、適量の還元剤とを添加し、さらに重合反応を継続し、重合転化率が80%に達した時点で、濃度5重量%の亜硝酸ナトリウム(重合停止剤)の水溶液1部を加えて重合反応を停止した。次いで、ラテックス中の重合体100部に対して、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン0.5部を、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(製品名「テイカパワー LN2450」、テイカ社製)0.1部で分散させてなる濃度10%の水溶液の状態で添加した後、70℃に加温し、減圧下、70℃にて水蒸気蒸留により残留単量体を回収した。その後、ラテックス中の重合体100部に対して、老化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン1.5部を添加することで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-2)を得た。なお、得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-2)のpHは、3であり、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの組成は、アクリロニトリル単位34重量%、1,3-ブタジエン単位61重量%、メタクリル酸単位5重量%であった。また、得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-2)中に含まれる、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、25℃において液体状態を有するものであり、かつ、JIS K6300に準拠してムーニー粘度を測定したところ、粘度が低すぎてムーニー粘度が測定不可能であった。
【0063】
<実施例1>
濃度2.5重量%の塩化カルシウム水溶液を準備し、塩酸を加えることで、pH=2に調整した。そして、製造例1で得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)を、80℃で攪拌しながら、攪拌下において、pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液を添加し、これらを混合することで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムからなる油層と、水層とを分離した。なお、pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液の添加量は、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)中のカルボキシル基含有液状ニトリルゴム100部に対して、塩化カルシウムの量が3.5部となる量とした。また、この際における、混合液のpH(すなわち、塩析操作時のpH)は2であった。
【0064】
次いで、水層を除去した後、攪拌下において、カルボキシル基含有液状ニトリルゴム100部に対して、イオン交換水100部を添加し、60℃で10分間混合し、次いで水層を除去するという洗浄操作を2回繰り返した後、エバポレータにて、110℃、-80kPa(ゲージ圧)の条件にて、水分を揮発させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得た。そして、得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムを用いて、粘度(保存前、および40℃、1週間保存後)の測定、および表面平滑性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
<実施例2>
pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液に代えて、pH=4.5に調整した塩化カルシウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例2における、塩析操作時のpHは4であった。
【0066】
<実施例3>
製造例1で得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)に代えて、製造例2で得られたカルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例3における、塩析操作時のpHは2.5であった。
【0067】
<実施例4>
pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液に代えて、pH=4に調整した塩化カルシウム水溶液を使用した以外は、実施例3と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例4における、塩析操作時のpHは4であった。
【0068】
<比較例1>
pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液に代えて、pH=7に調整した塩化カルシウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1における、塩析操作時のpHは6であった。
【0069】
<比較例2>
pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液に代えて、水酸化ナトリウムを使用してpH=10に調整した塩化カルシウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例2における、塩析操作時のpHは8であった。
【0070】
<比較例3>
濃度2.5重量%の硫酸アルミニウム水溶液を準備し、塩酸を加えることで、pH=2に調整した。そして、pH=2に調整した塩化カルシウム水溶液に代えて、得られたpH=2の硫酸アルミニウム水溶液を使用するとともに、その使用量を、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックス(A-1)中のカルボキシル基含有液状ニトリルゴム100部に対して、硫酸アルミニウムの量が2部となる量とした以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムの塩析を行い、次いで、水洗および水分の揮発操作を行うことで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを得て、同様に測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例3における、塩析操作時のpHは2であった。
【0071】
【表1】
比較例2,3については、40℃、1週間保存時の粘度が高くなり過ぎてしまい、測定不能であった。
【0072】
表1に示すように、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスを、pHが5以下の条件下において、1価または2価の金属塩に接触させることで、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムを塩析させ、水相から分離させる工程を採用した場合には、得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、40℃、1週間保存時の粘度上昇が抑制されており、保存安定性に優れるものであり、しかも、接着性高分子と混合して接着材料とした際における、表面平滑性に優れるものであった(実施例1~4)。
一方、カルボキシル基含有液状ニトリルゴムのラテックスの塩析を、pHが5超である条件下で行った場合や、1価または2価の金属塩に代えて、3価の金属塩である硫酸アルミニウムを使用した場合には、得られるカルボキシル基含有液状ニトリルゴムは、40℃、1週間保存時の粘度上昇が大きく、保存安定性に劣るものであり、しかも、接着性高分子と混合して接着材料とした際における、表面平滑性に劣る結果となった(比較例1~3)。