(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C08G 65/331 20060101AFI20240214BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20240214BHJP
C10M 107/46 20060101ALI20240214BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20240214BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240214BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C08G65/331
C10M107/38
C10M107/46
G11B5/725
C10N30:06
C10N40:18
(21)【出願番号】P 2021505124
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010759
(87)【国際公開番号】W WO2020184653
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019044942
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝田 夏実
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊也
(72)【発明者】
【氏名】南口 晋毅
(72)【発明者】
【氏名】福本 直也
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154403(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139058(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/199037(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/123043(WO,A1)
【文献】特開2012-009090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/331
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
1-X-R
2-CH
2-R
3-CH
2-R
4 (1)
(式(1)中、R
1は炭素数2~8のアルケニルオキシ基または炭素数3~8のアルキニルオキシ基である。R
2は下記式(2)で表される。式(2)中のaは1~3の整数である。Xは下記式(3)で表される。式(3)中のbは1~5の整数であり、Yは式(2)中の炭素原子に結合される2価の連結基で
O、S、CH
2
のいずれかであり、Rは炭素数1~6のアルキル基またはHである。R
3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R
4は
下記式(7)~(10)のいずれかの末端基である。)
【化1】
【化2】
(式(7)中、gは1~2の整数を表し、hは1~5の整数を表す。)
(式(8)中、iは2~5の整数を表す。)
(式(9)中、jは1~5の整数を表す。)
(式(10)中、kは2~5の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(3)におけるRがメチル基又はHである請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項3】
前記式(1)におけるR
1が、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、4-ペンテニルオキシ基、プロパルギルオキシ基のいずれかである請求項1
又は請求項2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項4】
前記式(1)におけるR
3が、下記式(4)~(6)のいずれかである請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF
2O-(CF
2CF
2O)
c-(CF
2O)
d-CF
2- (4)
(式(4)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~30を表す。但し、c、dが同時に0となることは無い。)
-CF(CF
3)-(OCF(CF
3)CF
2)
e-OCF(CF
3)- (5)
(式(5)中のeは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
-CF
2CF
2O-(CF
2CF
2CF
2O)
f-CF
2CF
2- (6)
(式(6)中のfは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
【請求項5】
数平均分子量が500~10000の範囲内にある請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項7】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2nmである請求項
7に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
本願は、2019年3月12日に、日本に出願された特願2019-044942号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、CF2を含む繰り返し構造を有するフッ素系のポリマーの末端に、ヒドロキシ基等の極性基を有する化合物を含有するものが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
例えば、特許文献1には、二重結合または三重結合を少なくとも一つ有する有機基を含む末端基および極性基を有する含フッ素エーテル化合物が開示されている。また、特許文献2には、両末端にアルケニル基またはアルキニル基と極性基を有する含フッ素エーテル化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/154403号
【文献】国際公開第2018/139058号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録再生装置においては、より一層、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。このため、磁気記録媒体における潤滑層の厚みを、より薄くすることが求められている。
しかし、一般的に潤滑層の厚みを薄くすると、潤滑層の被覆性が低下して、磁気記録媒体の耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、厚みが薄くても優れた耐摩耗性が得られる潤滑層を形成できる磁気記録媒体用潤滑剤の材料として、好適な含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層を有する優れた信頼性および耐久性を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、アルケニルオキシ基またはアルキニルオキシ基である一方の末端基と、パーフルオロポリエーテル鎖との間に、特定の構造を有する連結基と、極性基を有する連結基とが末端基側から順に配置されることにより、極性基を有する連結基と末端基との間が適切な距離とされている含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0008】
[1]下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R1-X-R2-CH2-R3-CH2-R4 (1)
(式(1)中、R1は炭素数2~8のアルケニルオキシ基または炭素数3~8のアルキニルオキシ基である。R2は下記式(2)で表される。式(2)中のaは1~3の整数である。Xは下記式(3)で表される。式(3)中のbは1~5の整数であり、Yは式(2)中の炭素原子に結合される2価の連結基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基またはHである。R3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R4は2つまたは3つの極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している末端基である。)
【0009】
【0010】
[2]前記式(3)におけるYがO、S、CH2のいずれかである[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[3]前記式(3)におけるRがメチル基又はHである[1]又は[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0011】
[4]前記式(1)におけるR1が、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、4-ペンテニルオキシ基、プロパルギルオキシ基のいずれかである[1]~[3]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0012】
[5]前記式(1)におけるR3が、下記式(4)~(6)のいずれかである[1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF2O-(CF2CF2O)c-(CF2O)d-CF2- (4)
(式(4)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~30を表す。但し、c、dが同時に0となることは無い。)
-CF(CF3)-(OCF(CF3)CF2)e-OCF(CF3)- (5)
(式(5)中のeは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)f-CF2CF2- (6)
(式(6)中のfは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
【0013】
[6]前記式(1)におけるR4の極性基が水酸基である[1]~[5]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0014】
[7]前記式(1)におけるR4は下記式(7)~(10)のいずれかの末端基である[1]~[6]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0015】
【化2】
(式(7)中、gは1~2の整数を表し、hは1~5の整数を表す。)
(式(8)中、iは2~5の整数を表す。)
(式(9)中、jは1~5の整数を表す。)
(式(10)中、kは2~5の整数を表す。)
【0016】
[8]数平均分子量が500~10000の範囲内にある[1]~[7]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【0017】
[10]基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、[1]~[8]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[11]前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2nmである[10]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、優れた耐摩耗性を有する潤滑層が設けられているため、優れた信頼性および耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0021】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R1-X-R2-CH2-R3-CH2-R4 (1)
(式(1)中、R1は炭素数2~8のアルケニルオキシ基または炭素数3~8のアルキニルオキシ基である。R2は下記式(2)で表される。式(2)中のaは1~3の整数である。Xは下記式(3)で表される。式(3)中のbは1~5の整数であり、Yは式(2)中の炭素原子に結合される2価の連結基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基またはHである。R3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R4は2つまたは3つの極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している末端基である。)
【0022】
【0023】
上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1は炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、または炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基である。本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、R1中のアルケニルオキシ基またはアルキニルオキシ基と、R2中の水酸基(-OH)が、これを含む潤滑層において保護層との良好な相互作用を示す。本実施形態の含フッ素エーテル化合物において、R1である炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基または炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択できる。
【0024】
R1の炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基は、炭素-炭素二重結合を1つ有する基である。R1がアルケニルオキシ基である場合、アルケニルオキシ基の炭素原子数が8以下であると、アルケニルオキシ基の構造が如何なる構造であっても、R1の有する二重結合とR2の有する水酸基との距離が、式(3)で表されるXが存在することによって適切となる。このことにより、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、これを含む潤滑層において保護層との良好な相互作用を示す。
【0025】
R1の炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基としては、特に限定されるものではなく、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、クロチルオキシ基、ブテニルオキシ基、ベータメタリルオキシ基、メチルブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基、ヘキセニルオキシ基、ヘプテニルオキシ基、及びオクテニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、磁気記録媒体の保護層との良好な親和性を示す潤滑層が得られるため、炭素原子数2~5のアルケニルオキシ基であることが好ましい。具体的には、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、及び4-ペンテニルオキシ基が好ましく、特にアリルオキシ基が好ましい。R1が炭素原子数3以上のアルケニルオキシ基である場合、磁気記録媒体の保護層とより良好な相互作用を示す潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となるため、含フッ素エーテル化合物の最末端に二重結合が配置されていることが好ましい。
【0026】
R1の炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基は、炭素-炭素三重結合を1つ有する基である。R1がアルキニルオキシ基である場合、アルキニルオキシ基の炭素原子数が8以下であると、アルキニルオキシ基の構造が如何なる構造であっても、R1の有する三重結合とR2の有する水酸基との距離が、式(3)で表されるXが存在することによって適切となる。このことにより、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、これを含む潤滑層において保護層との良好な相互作用を示す。
【0027】
R1の炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基としては、特に限定されるものではなく、例えば、1-プロピニルオキシ基、プロパルギルオキシ基、ブチニルオキシ基、メチルブチニルオキシ基、ペンチニルオキシ基、メチルペンチニルオキシ基、ヘキシニルオキシ基、メチルヘキシニルオキシ基、ヘプチニルオキシ基、及びオクチニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、磁気記録媒体の保護層との良好な親和性を示す潤滑層が得られるため、炭素原子数3~5のアルキニルオキシ基であることが好ましい。具体的には、1-プロピニルオキシ基、プロパルギルオキシ基、ブチニルオキシ基、及びペンチニルオキシ基が好ましく、特にプロパルギルオキシ基が好ましい。また、アルキニルオキシ基は、ビニルペンチニルオキシ基のように分子中にアルケニルオキシ基を含む形態であってもよい。R1が炭素原子数3以上のアルキニルオキシ基である場合、磁気記録媒体の保護層とより良好な相互作用を示す潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となるため、含フッ素エーテル化合物の最末端に三重結合が配置されていることが好ましい。
【0028】
上記式(1)におけるR2は、下記式(2)で表される。
【0029】
【化4】
(式(2)中のaは1~3の整数である。)
【0030】
R2は、式(2)で表されるように、水酸基を有する2価の連結基である。上記式(2)におけるaは1~3の整数であるため、R2は1つ~3つの水酸基を有する。R2が極性基である水酸基を有するため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、保護層上に潤滑層を形成した場合、潤滑層と保護層との間に好適な相互作用が発生する。したがって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層では、R1の炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基または炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基と保護層との相互作用に加えて、R2の有する水酸基と保護層との相互作用が得られる。よって、潤滑層と保護層との親和性が良好で、優れた耐摩耗性を有する潤滑層となる。
【0031】
上記式(2)におけるaは1、2又は3の何れかの整数であり、好ましくは2である。
上記式(2)におけるaが1以上であるので、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成した場合に、R2の有する水酸基と保護層との相互作用が得られる。aが2以上であると、R2の有する水酸基と保護層との相互作用がより顕著となる。
また、上記式(2)におけるaが3以下であるので、R2の有する水酸基が多すぎることによって含フッ素エーテル化合物の極性が高くなり過ぎることがない。このため、含フッ素エーテル化合物が異物(スメア)として磁気ヘッドに付着するピックアップの発生を抑制できる。
【0032】
上記式(1)におけるXは、下記式(3)で表される。
【0033】
【化5】
(式(3)中のbは1~5の整数であり、Yは式(2)中の炭素原子に結合される2価の連結基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基またはHである。)
【0034】
式(3)中のbは1~5の整数であり、R1とR2の距離をより適切なものにできることから、1~3の整数であることが好ましく、特に2または3の整数であることが好ましい。
【0035】
式(3)中のYは、式(2)中の炭素原子に結合される2価の連結基であり、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択できる。式(3)中のYとしては、例えば、O(酸素)、S、CH2が挙げられる。これらの中でも、磁気記録媒体の保護層と良好な親和性を示す含フッ素エーテル化合物となるため、式(3)中のYは、OまたはCH2であることが好ましく、特にOが好ましい。
【0036】
式(3)中のRは、炭素数1~6のアルキル基またはHである。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基が挙げられる。式(3)中のRとしては、これらの中でも、メチル基またはHであることが好ましく、特にHが好ましい。
【0037】
上記式(1)におけるXの具体例としては、例えば、式(3)中のYがO(酸素)である場合、-(CH2)b-O-、-{C(CH3)H}b-O-、-{C(C2H5)H}b-O-、-{C(C3H7)H}b-O-、-{C(C4H9)H}b-O-、-{C(C5H11)H}b-O-、-{C(C6H13)H}b-O-などの構造が挙げられる。
また、式(3)中のYがSである場合、-(CH2)b-S-、-{C(CH3)H}b-S-、-{C(C2H5)H}b-S-、-{C(C3H7)H}b-S-、-{C(C4H9)H}b-S-、-{C(C5H11)H}b-S-、-{C(C6H13)H}b-S-などの構造が挙げられる。
また、式(3)中のYがCH2である場合、-(CH2)b-CH2-、-{C(CH3)H}b-CH2-、-{C(C2H5)H}b-CH2-、-{C(C3H7)H}b-CH2-、-{C(C4H9)H}b-CH2-、-{C(C5H11)H}b-CH2-、-{C(C6H13)H}b-CH2-などの構造が挙げられる。
なお、Xの具体例としての上記構造において、bは1~5の整数である。
式(1)におけるXとしては、上記構造の中でも、-CH2-O-、-(CH2)2-O-、-(CH2)3-O-、-(CH2)2-CH2-、-(CH2)3-CH2-、-C(CH3)H-O-のいずれかであることが好ましく、特に-(CH2)2-O-、-(CH2)3-O-であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、式(1)に示すようにR1とR2との間にXが結合している。このため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、R1とR2とが直接結合している化合物と比較して、R1の有する二重結合または三重結合と、R2の有する水酸基との距離が離れている。このことにより、R1の炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基または炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基と、R2の有する水酸基との分子内相互作用が適切となり、優れた耐摩耗性が得られると推定される。
【0039】
上記式(1)におけるR3は、パーフルオロポリエーテル鎖(以下、「PFPE鎖」と略記する場合がある。)である。PFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層表面を被覆するとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。PFPE鎖は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択される。
PFPE鎖としては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド重合体、及びパーフルオロイソプロピレンオキシド重合体等からなるもの、これらの重合体に基づくもの、これら重合体を構成する単量体の共重合体からなるもの等が挙げられる。
【0040】
具体的には、式(1)におけるR3は、下記式(4)~(6)のいずれかで表されるものであることが好ましい。なお、式(4)における繰り返し単位である(CF2CF2O)と(CF2O)との配列順序には、特に制限はない。式(4)は、モノマー単位である(CF2-CF2-O)と(CF2-O)とからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれを含むものであってもよい。
【0041】
-CF2O-(CF2CF2O)c-(CF2O)d-CF2- (4)
(式(4)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~30を表す。但し、c、dが同時に0となることはない。)
-CF(CF3)-(OCF(CF3)CF2)e-OCF(CF3)- (5)
(式(5)中のeは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)f-CF2CF2- (6)
(式(6)中のfは平均重合度を示し、0.1~30を表す。)
【0042】
R3が上記式(4)~(6)のいずれかで表されるPFPE鎖であると、良好な耐摩耗性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。c、d、e、fが30以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が高くなりすぎず、これを含む潤滑剤が塗布しにくい物とはならない。c、d、e、fは20以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。c、d、e、fは1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
【0043】
上記式(1)におけるR3が、式(4)~式(6)のいずれかである場合、含フッ素エーテル化合物の合成が容易であり好ましい。R3が式(4)である場合、原料入手が容易であるため、より好ましい。
また、R3が、式(4)~式(6)のいずれかである場合、パーフルオロポリエーテル鎖中の炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が適正である。このため、適度な硬さを有する含フッ素エーテル化合物となる。よって、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物が、保護層上で凝集しにくく、より一層厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成できる。
【0044】
上記式(1)におけるR4は、2つまたは3つの極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している末端基である。R4で表される末端基を有する含フッ素エーテル化合物は、例えば、末端基に含まれる2つの極性基が、それぞれ異なる炭素原子に結合し、極性基の結合している炭素原子同士が結合しているフッ素エーテル化合物と比較して、凝集しにくい。よって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層では、保護層に密着(吸着)せずに存在している含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止でき、ピックアップが抑制される。また、含フッ素エーテル化合物同士が凝集しにくいため、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物が、保護層上で面方向に広がって延在した状態で配置されやすい。よって、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤では、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、優れた化学物質耐性を有する潤滑層を形成できると推定される。
【0045】
R4で表される末端基は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤の塗布される保護層と、潤滑剤を塗布して形成した潤滑層との密着性に寄与する。式(1)におけるR4は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0046】
R4における極性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシ基およびメルカプト基などが挙げられる。なお、エーテル結合(-O-)は、R4における極性基には含まれない。
R4の2つまたは3つの極性基を含む末端基における極性基は、保護層との密着性が良好な含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が得られるため、水酸基であることが好ましい。
【0047】
式(1)におけるR4は、下記式(7)~(10)のいずれかの末端基であることが好ましい。このようなR4は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤の塗布される保護層と、潤滑剤を塗布して形成した潤滑層との高い密着性および被覆率に寄与する。
【0048】
【化6】
(式(7)中、gは1~2の整数を表し、hは1~5の整数を表す。)
(式(8)中、iは2~5の整数を表す。)
(式(9)中、jは1~5の整数を表す。)
(式(10)中、kは2~5の整数を表す。)
【0049】
式(7)において、gは1~2の整数である。
式(7)において、hが1~5の整数である場合、式(7)で表される末端基中の水酸基間の距離が適正となり、保護層との密着性に優れ、被覆率の高い潤滑層を形成できるものとなる。hは1~2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
【0050】
式(8)において、iが2~5の整数である場合、R3側の水酸基と末端の水酸基との間の距離が適正となり、保護層との密着性に優れ、被覆率の高い潤滑層を形成できるものとなる。iは2~3であることが好ましく、2であることが最も好ましい。
【0051】
式(9)において、jが1~5の整数である場合、R3側の水酸基と末端の水酸基との間の距離が適正となり、保護層との密着性に優れ、被覆率の高い潤滑層を形成できるものとなる。jは1~2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
【0052】
式(10)において、kが2~5の整数である場合、R3側の水酸基と末端の水酸基との間の距離が適正となり、保護層との密着性に優れ、被覆率の高い潤滑層を形成できるものとなる。kは2~3であることが好ましい。
【0053】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、具体的には、下記式(A)~(K)または(M)~(P)で表される化合物であることが好ましい。なお、式(A)~(K)中のma~mk、na~nk、及び式(M)~(P)中のmm~mp、nm、nnは、平均重合度を示す値であるため、必ずしも整数とはならない。
また、式(A)~(K)中のma~mkは式(4)のcであり、na~nkは式(4)のdである。
【0054】
下記式(A)~(K)で表される化合物は、いずれも上記式(1)におけるR2が上記式(2)で表わされる連結基(aが2)であり、R3が上記式(4)で表されるPFPE鎖であり、R4が上記式(7)(gが1、hが1)である。
下記式(A)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)である。
【0055】
【化7】
(式(A)中、ma、naは、平均重合度を示し、maは1~30を表し、naは0~30を表す。)
【0056】
下記式(B)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが1、YがO(酸素)、RがH)である。
【0057】
【化8】
(式(B)中、mb、nbは、平均重合度を示し、mbは1~30を表し、nbは0~30を表す。)
【0058】
下記式(C)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが3、YがO(酸素)、RがH)である。
【0059】
【化9】
(式(C)中、mc、ncは、平均重合度を示し、mcは1~30を表し、ncは0~30を表す。)
【0060】
下記式(D)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数4のアルケニルオキシ基である3-ブテニルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが1、YがO(酸素)、RがH)である。
【0061】
【化10】
(式(D)中、md、ndは、平均重合度を示し、mdは1~30を表し、ndは0~30を表す。)
【0062】
下記式(E)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数4のアルケニルオキシ基である3-ブテニルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)である。
【0063】
【化11】
(式(E)中、me、neは、平均重合度を示し、meは1~30を表し、neは0~30を表す。)
【0064】
下記式(F)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数4のアルケニルオキシ基である3-ブテニルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが3、YがO(酸素)、RがH)である。
【0065】
【化12】
(式(F)中、mf、nfは、平均重合度を示し、mfは1~30を表し、nfは0~30を表す。)
【0066】
下記式(G)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが1、YがO(酸素)、RがCH3)である。
【0067】
【化13】
(式(G)中、mg、ngは、平均重合度を示し、mgは1~30を表し、ngは0~30を表す。)
【0068】
下記式(H)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが1、YがCH2、RがH)である。
【0069】
【化14】
(式(H)中、mh、nhは、平均重合度を示し、mhは1~30を表し、nhは0~30を表す。)
【0070】
下記式(I)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがCH2、RがH)である。
【0071】
【化15】
(式(I)中、mi、niは、平均重合度を示し、miは1~30を表し、niは0~30を表す。)
【0072】
下記式(J)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数4のアルケニルオキシ基である3-ブテニルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが1、YがCH2、RがH)である。
【0073】
【化16】
(式(J)中、mj、njは、平均重合度を示し、mjは1~30を表し、njは0~30を表す。)
【0074】
下記式(K)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数4のアルケニルオキシ基である3-ブテニルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがCH2、RがH)である。
【0075】
【化17】
(式(K)中、mk、nkは、平均重合度を示し、mkは1~30を表し、nkは0~30を表す。)
【0076】
下記式(M)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)であり、R2が上記式(2)で表わされる連結基(aが2)であり、R3が上記式(4)で表されるPFPE鎖であり、R4が上記式(7)で表される基(gが2、hが1)である。
【0077】
【化18】
(式(M)中、mm、nmは、平均重合度を示し、mmは1~30を表し、nmは0~30を表す。)
【0078】
下記式(N)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルキニルオキシ基であるプロパルギルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)であり、R2が上記式(2)で表わされる連結基(aが2)であり、R3が上記式(4)で表されるPFPE鎖であり、R4が上記式(7)で表される基(gが1、hが1)である。
【0079】
【化19】
(式(N)中、mn、nnは、平均重合度を示し、mnは1~30を表し、nnは0~30を表す。)
【0080】
下記式(O)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)であり、R2が上記式(2)で表わされる連結基(aが2)であり、R3が上記式(4)で表される基(cが1~30、dが0)であり、R4が上記式(7)で表される基(gが1、hが1)である。
【0081】
【化20】
(式(O)中、moは、平均重合度を示し、moは1~30を表す。)
【0082】
下記式(P)で表される化合物は、上記式(1)におけるR1が炭素原子数3のアルケニルオキシ基であるアリルオキシ基であり、Xが上記式(3)で表される連結基(bが2、YがO(酸素)、RがH)であり、R2が上記式(2)で表わされる連結基(aが2)であり、R3が上記式(6)で表される基(fが0.1~30)であり、R4が上記式(7)で表される基(gが1、hが1)である。
【0083】
【化21】
(式(P)中、mpは、平均重合度を示し、mpは1~30を表す。)
【0084】
なお、式(M)~(O)中のmm~moは式(4)のcであり、nm、nnは式(4)のdである。また、式(P)中のmpは式(6)のfである。
【0085】
式(1)で表わされる化合物が上記式(A)~(K)、(M)~(P)で表される化合物であると、原料が入手しやすく、厚みが薄くても優れた耐摩耗性が得られる潤滑層を形成できるため好ましい。
【0086】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が500以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤が蒸散しにくいものとなり、潤滑剤が蒸散して磁気ヘッドに移着することを防止できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、3000以下であることが好ましい。
【0087】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400による1H-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をヘキサフルオロベンゼン、d-アセトン、d-テトラヒドロフランなどの単独または混合溶媒へ希釈し、測定に使用した。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとした。
【0088】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、式(1)におけるR3に対応するパーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、それぞれヒドロキシメチル基(-CH2OH)が配置されたフッ素系化合物を用意する。
【0089】
次いで、前記フッ素系化合物の一方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)における-R4からなる基に置換する(第1反応)。その後、他方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)におけるR1-X-R2-からなる基に置換する(第2反応)。
第1反応および第2反応は、従来公知の方法を用いて行うことができ、式(1)におけるR1、R2、R4、Xの種類などに応じて適宜決定できる。また、第1反応と第2反応のうち、どちらの反応を先に行ってもよい。
以上の方法により、式(1)で表される化合物が得られる。
【0090】
本実施形態において、例えば、R4が式(7)~(10)で表される含フッ素エーテル化合物を製造する場合、第1反応においては、前記フッ素系化合物の片末端のヒドロキシメチル基の水酸基と、式(7)~(10)に対応するエポキシ化合物を反応させることが好ましい。第2反応において前記フッ素系化合物にR1-X-R2-からなる基を導入するには、前記フッ素系化合物の片末端のヒドロキシメチル基の水酸基と、R1-X-R2-に対応するエポキシ化合物を反応させることが好ましい。
エポキシ化合物としては、例えば、製造する含フッ素エーテル化合物のR1-XまたはR4で表される末端基に対応する構造を有するアルコールと、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、2-ブロモエチルオキシランから選ばれるいずれかのエポキシ基を有する化合物とを反応させることにより、合成したものなどを用いることができる。このようなエポキシ化合物は、不飽和結合を酸化する方法により合成してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0091】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物である。したがって、これを含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成すると、式(1)においてR3で表されるPFPE鎖によって、保護層の表面が被覆されるとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力が低減される。
また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、Xで表される基によって、R1の有する二重結合または三重結合と、R2の有する水酸基との距離が適正とされている。このため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて形成した潤滑層では、R1で表される末端基と、R2の有する1以上の水酸基とにおける分子内相互作用が適切となり、優れた耐摩耗性が得られる。
【0092】
また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、PFPE鎖が、PFPE鎖の末端に連結されたR2の有する水酸基およびR4の有する極性基と保護層との結合によって、保護層上に密着される。したがって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物によれば、潤滑層と保護層とが強固に結合され、優れた耐摩耗性を有する潤滑層が得られる。
【0093】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0094】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上、Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0095】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0096】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層を形成できる。よって、本実施形態の潤滑剤によれば、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を有する潤滑層が得られる。
【0097】
また、本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層に密着(吸着)せずに存在している潤滑剤層中の含フッ素エーテル化合物が、凝集しにくい。よって、含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止でき、ピックアップが抑制される。
【0098】
また、本実施形態の潤滑剤は、これに含まれる式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が、Xで表される基によって、R1の有する二重結合または三重結合と、R2の有する水酸基との距離が適正とされたものであり、R1で表される末端基と、R2の有する水酸基との間における分子内相互作用が適切である。このため、本実施形態の潤滑剤によれば、優れた耐摩耗性を有する潤滑層が得られる。
【0099】
[磁気記録媒体]
本実施形態の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑層が順次設けられたものである。
本実施形態の磁気記録媒体では、基板と磁性層との間に、必要に応じて1層または2層以上の下地層を設けることができる。また、下地層と基板との間に付着層および/または軟磁性層を設けることもできる。
【0100】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0101】
「基板」
基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0102】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に生じる、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金、CrTi、NiAl、AlRu合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0103】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。
【0104】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の材料としては、CoZrTa合金、CoFe合金などが挙げられる。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0105】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向や結晶サイズを制御するための層である。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo、CoW、CrW、CrV、CrTi合金層などが挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0106】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0107】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO2、SiO、Cr2O3、CoO、Ta2O3、TiO2等が挙げられる。
【0108】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO2、Cr2O3、SiO2等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr2O3-SiO2、Cr2O3-TiO2、SiO2-TiO2等を好適に用いることができる。
【0109】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
【0110】
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0111】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0112】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0113】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、Cr2O3、MgO、Y2O3、TiO2等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si3N4、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0114】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録の磁性層であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0115】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17の材料としては、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素などが挙げられる。
保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基(特に水酸基)との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0116】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4~15原子%であることが好ましい。
【0117】
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0118】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmとするのがよい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0119】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さが小さいものとなる。
【0120】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、
図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0121】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、保護層17と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0122】
潤滑層18の平均膜厚は、0.5nm(5Å)~2nm(20Å)であることが好ましく、0.5nm(5Å)~1nm(10Å)であることがより好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を2nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくできる。
【0123】
保護層17の表面が潤滑層18によって十分に高い被覆率で被覆されていない場合、磁気記録媒体10の表面に吸着した環境物質が、潤滑層18の隙間を通り抜けて、潤滑層18の下に侵入する。潤滑層18の下層に侵入した環境物質は、保護層17と吸着、結合し汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)がスメアとして磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させたりする。
【0124】
汚染物質を生成させる環境物質としては、例えば、シロキサン化合物(環状シロキサン、直鎖シロキサン)、イオン性不純物、オクタコサン等の比較的分子量の高い炭化水素、フタル酸ジオクチル等の可塑剤等が挙げられる。イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる無機イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる有機物イオンとしては、例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン等を挙げることができる。
【0125】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成する方法としては、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0126】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0127】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。
このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0128】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は100~180℃とすることが好ましい。熱処理温度が100℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が十分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は10~120分とすることが好ましい。
【0129】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面を被覆している。
よって、本実施形態の磁気記録媒体10では、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が、潤滑層18の隙間から侵入することが防止されている。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、表面上に存在する汚染物質が少ないものである。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、異物(スメア)を生じさせにくく、ピックアップを抑制できる。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、優れた耐摩耗性を有する。このため、本実施形態の磁気記録媒体10は、優れた信頼性および耐久性を有する。
【実施例】
【0130】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0131】
「潤滑剤の製造」
(実施例1)
以下に示す方法により、上記式(A)で示される化合物を製造した。
【0132】
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)40gと、下記式(11)で表される化合物4.9g(分子量202.3、24mmol)と、t-ブタノール38mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシド1.4g(分子量112.21、12mmol)加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0133】
なお、式(11)で表される化合物は、ジヒドロピランを用いて、エチレングリコールモノアリルエーテルを保護した化合物を、酸化することで合成した。
【0134】
【0135】
反応後に得られた反応生成物を25℃に冷却し、水100mLが入った分液漏斗へ移し、酢酸エチル100mLで3回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体として下記式(12)で示される化合物19.2g(分子量1202.3、15.9mmol)を得た。
【0136】
【化23】
(式(12)中、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。)
【0137】
窒素ガス雰囲気下で100mLナスフラスコに、上記で得られた中間体である式(12)で示される化合物5.95g(分子量1202.3、5.0mmol)と、下記式(13)で示される化合物1.51g(分子量276.3、5.5mmol)と、t-ブタノール2.4mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを1.87g(分子量112.21、25.2mmol)加え、70℃で22.5時間撹拌して反応させた。
【0138】
【化24】
(式(13)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0139】
式(13)で表される化合物は、以下に示す方法により合成した。エチレングリコールモノアリルエーテルの1級水酸基に、エピブロモヒドリンを反応させ、得られた化合物に、硫酸を反応させてジアルコールを得た。得られたジアルコールの1級水酸基を、t-ブチルジメチルシリルクロライドを用いて、t-ブチルジメチルシリル基で保護した後、メトキシメチルクロライドを用いて、2級水酸基をメトキシメチル(MOM)基で保護した。得られた化合物のt-ブチルジメチルシリル基を除去し、生じた1級水酸基にエピブロモヒドリンを反応させた。以上の工程により、式(13)で表される化合物を得た。
【0140】
反応後に得られた反応液を室温に戻し、10%の塩化水素・メタノール溶液26gを加え、室温で3.5時間撹拌した。反応液を食塩水100mLが入った分液漏斗に少しずつ移し、酢酸エチル200mLで2回抽出した。有機層を食塩水100mL、飽和重曹水100mL、食塩水100mLの順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムによる脱水を行った。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(A)(式(A)中、平均重合度を示すmaは4.5であり、平均重合度を示すnaは4.5である。)を4.41g(分子量1350、3.3mmol)得た。
【0141】
得られた化合物(A)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(A);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.45~3.76(21H)、3.85~4.00(6H)、4.07~4.14(6H)、5.10~5.13(1H)、5.28~5.29(1H)、5.85~5.95(1H)
【0142】
(実施例2)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(14)で表される化合物を1.44g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(B)で表される化合物(式(B)中、平均重合度を示すmbは4.5であり、平均重合度を示すnbは4.5である。)を4.41g得た。
式(14)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに、下記式(15)で表される化合物を用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0143】
【化25】
(式(14)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0144】
得られた化合物(B)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(B);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.42~4.17(31H)、5.11~5.12(1H)、5.27~5.29(1H)、5.84~5.95(1H)
【0145】
(実施例3)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(16)で表される化合物を1.60g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(C)で表される化合物(式(C)中、平均重合度を示すmcは4.5であり、平均重合度を示すncは4.5である。)を4.51g得た。
式(16)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに下記式(17)で表される化合物を用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0146】
【化26】
(式(16)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0147】
得られた化合物(C)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(C);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.42~1.51(2H)、3.44~4.12(33H)、5.09~5.12(1H)、5.28~5.29(1H)、5.85~5.96(1H)
【0148】
(実施例4)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(18)で表される化合物を1.52g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(D)で表される化合物(式(D)中、平均重合度を示すmdは4.5であり、平均重合度を示すndは4.5である。)を4.46g得た。
式(18)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりにメチレングリコールと4-ブロモ-1-ブテンから合成されるアルコールを用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0149】
【化27】
(式(18)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0150】
得られた化合物(D)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(D);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]2.34~2.40(2H)、3.44~4.20(31H)、5.09~5.13(1H)、5.28~5.30(1H)、5.85~5.97(1H)
【0151】
(実施例5)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(19)で表される化合物を1.60g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(E)で表される化合物(式(E)中、平均重合度を示すmeは4.5であり、平均重合度を示すneは4.5である。)を4.50g得た。
式(19)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに下記式(20)で表される化合物を用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0152】
【化28】
(式(19)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0153】
得られた化合物(E)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(E);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]2.31~2.38(2H)、3.42~4.16(33H)、5.10~5.12(1H)、5.29~5.31(1H)、5.82~5.92(1H)
【0154】
(実施例6)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(21)で表される化合物を1.67g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(F)で表される化合物(式(F)中、平均重合度を示すmfは4.5であり、平均重合度を示すnfは4.5である。)を4.54g得た。
式(21)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに下記式(22)で表される化合物を用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0155】
【化29】
(式(21)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0156】
得られた化合物(F)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(F);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.47~1.52(2H)、2.32~2.41(2H)、3.42~4.19(33H)、5.10~5.11(1H)、5.25~5.29(1H)、5.85~5.97(1H)
【0157】
(実施例7)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(23)で表される化合物を1.52g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(G)で表される化合物(式(G)中、平均重合度を示すmgは4.5であり、平均重合度を示すngは4.5である。)を4.46g得た。
式(23)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに下記式(24)で表される化合物を用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0158】
【化30】
(式(23)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0159】
得られた化合物(G)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(G);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.41~4.13(33H)、5.12~5.14(1H)、5.26~5.28(1H)、5.82~5.94(1H)
【0160】
(実施例8)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(25)で表される化合物を1.43g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(H)で表される化合物(式(H)中、平均重合度を示すmhは4.5であり、平均重合度を示すnhは4.5である。)を4.42g得た。
式(25)で表される化合物は、以下に示す方法により合成した。アリルアルコールの1級水酸基に、下記式(26)で表される化合物を反応させ、得られた化合物に、硫酸を反応させてジアルコールを得た。得られたジアルコールの1級水酸基を、t-ブチルジメチルシリルクロライドを用いてt-ブチルジメチルシリル基で保護した後、2級水酸基を、メトキシメチルクロライドを用いてメトキシメチル(MOM)基で保護した。得られた化合物のt-ブチルジメチルシリル基を除去し、生じた1級水酸基にエピブロモヒドリンを反応させることで合成した。
【0161】
【化31】
(式(25)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0162】
得られた化合物(H)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(H);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.56~1.78(2H)、3.43~4.16(31H)、5.11~5.12(1H)、5.26~5.27(1H)、5.83~5.93(1H)
【0163】
(実施例9)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(27)で表される化合物を1.51g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(I)で表される化合物(式(I)中、平均重合度を示すmiは4.5であり、平均重合度を示すniは4.5である。)を4.44g得た。
式(27)で表される化合物は、以下に示す方法により合成した。アリルアルコールの1級水酸基に、下記式(28)で表される化合物を反応させ、得られた化合物に、硫酸を反応させてジアルコールを得た。得られたジアルコールの1級水酸基を、t-ブチルジメチルシリルクロライドを用いてt-ブチルジメチルシリル基で保護した後、2級水酸基を、メトキシメチルクロライドを用いてメトキシメチル(MOM)基で保護した。得られた化合物のt-ブチルジメチルシリル基を除去し、生じた1級水酸基にエピブロモヒドリンを反応させることで合成した。
【0164】
【化32】
(式(27)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0165】
得られた化合物(I)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(I);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.36~1.76(6H)、3.40~4.11(29H)、5.11~5.14(1H)、5.25~5.29(1H)、5.85~5.95(1H)
【0166】
(実施例10)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(29)で表される化合物を1.51g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(J)で表される化合物(式(J)中、平均重合度を示すmjは4.5であり、平均重合度を示すnjは4.5である。)を4.45g得た。
式(29)で表される化合物は、アリルアルコールの代わりに3-ブテン-1-オールを用いたこと以外は、式(25)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0167】
【化33】
(式(29)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0168】
得られた化合物(J)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(J);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.36~1.66(4H)、2.30~2.45(2H)、3.47~4.22(29H)、5.08~5.10(1H)、5.27~5.28(1H)、5.88~5.97(1H)
【0169】
(実施例11)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(30)で表される化合物を1.59g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(K)で表される化合物(式(K)中、平均重合度を示すmkは4.5であり、平均重合度を示すnkは4.5である。)を4.49g得た。
式(30)で表される化合物は、アリルアルコールの代わりに3-ブテン-1-オールを用いたこと以外は、式(27)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0170】
【化34】
(式(30)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0171】
得られた化合物(K)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(K);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.36~1.70(6H)、2.35~2.39(2H)、3.40~4.14(29H)、5.09~5.10(1H)、5.27~5.28(1H)、5.82~5.92(1H)
【0172】
(比較例1)
下記式(L)で表される化合物を以下の方法により合成した。
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中の平均重合度を示すpは4.5であり、平均重合度を示すqは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)25.0gと、下記式(31)で示される化合物2.82gと、t-ブタノール24mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシドを0.840g加え、70℃で17時間撹拌して反応させた。
【0173】
【0174】
得られた反応生成物を25℃に冷却し、0.5mol/Lの塩酸で中和後、三井デュポンフロロケミカル社製バートレルXF(以下、バートレルXF)で抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、下記式(32)で示される化合物11.8gを得た。
【0175】
【化36】
(式(32)中、平均重合度を示すpは4.5を表し、平均重合度を示すqは4.5を表す。)
【0176】
窒素ガス雰囲気下で200mLナスフラスコに、上記で得られた式(32)で示される化合物11.8gと、下記式(33)で示される化合物2.08gと、t-BuOH94mLを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にt-BuOKを0.56g加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0177】
得られた反応生成物を25℃に冷却し、0.1mol/Lの塩酸で中和後、バートレルXFで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮した。
【0178】
【0179】
得られた残渣に水2.3mL、トリフルオロ酢酸15mLを加え、室温で6時間撹拌した。水およびトリフルオロ酢酸を35℃以下で留去した。得られた残渣に5%重曹水を200mL加え、バートレルXFで抽出し、有機層を水洗し、濃縮した。得られた残渣にメタノール40mLと1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.1mLとを加え、室温で1時間撹拌した。メタノールを留去し、バートレルXFで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによる脱水を行った。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、下記式(L)で示される化合物を9.54g得た。
【0180】
【化38】
(式(L)中、平均重合度を示すpは4.5を表し、平均重合度を示すqは4.5を表す。)
【0181】
得られた化合物(L)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(L);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.35~3.95(19H)、3.95~4.15(6H)、5.05~5.15(1H)、5.20~5.30(1H)、5.80~6.00(1H)
【0182】
このようにして得られた実施例1~11、比較例1の化合物を、式(1)に当てはめたときのR1の構造、式(2)中のa、式(3)中のb、Y、R、R3の構造、R4の構造を表1に示す。また、実施例1~11、比較例1の化合物の数平均分子量(Mn)を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表1に示す。
【0183】
【0184】
(実施例12)
式(11)で表される化合物の代わりに、下記式(34)で表される化合物を1.60g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(M)で表される化合物(式(M)中、平均重合度を示すmmは4.5であり、平均重合度を示すnmは4.5である。)を4.60g得た。
反応に使用した式(34)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールの有する1級水酸基に、保護基としてtert-ブチルジメチルシリル(TBS)基を導入し、得られた化合物の2級水酸基に保護基としてメトキシメチル(MOM)基を導入した。その後、化合物からTBS基を除去し、生じた1級水酸基に2-ブロモエトキシテトラヒドロピランを反応させた。得られた化合物の二重結合を酸化した。以上の工程により、式(34)で表される化合物を得た。
【0185】
【化39】
(式(34)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0186】
得られた化合物(M)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(M);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.45~4.21(39H)、5.10~5.13(1H)、5.28~5.29(1H)、5.85~5.95(1H)
【0187】
(実施例13)
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(35)で表される化合物を1.51g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記式(N)で表される化合物(式(N)中、平均重合度を示すmnは4.5であり、平均重合度を示すnnは4.5である。)を4.45g得た。
式(35)で表される化合物は、エチレングリコールモノアリルエーテルの代わりに2-(2-プロピニルオキシ)エタノールを用いたこと以外は、式(13)で表される化合物と同様な操作を行い合成した。
【0188】
【化40】
(式(35)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0189】
得られた化合物(N)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(N);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]2.48(1H)、3.16~4.19(33H)
【0190】
(実施例14)
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物の代わりに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)rCF2CH2OH(式中の平均重合度を示すrは7.1である。)で表される化合物を40g用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、上記式(O)で表される化合物(式(O)中、平均重合度を示すmoは7.1である。)を4.41g得た。
【0191】
得られた化合物(O)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(O);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.44~3.77(21H)、3.83~4.01(6H)、4.07~4.13(6H)、5.10~5.13(1H)、5.28~5.29(1H)、5.85~5.94(1H)
【0192】
(実施例15)
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物の代わりに、HOCH2CF2CF2(OCF2CF2CF2)sOCF2CF2CH2OH(式中の平均重合度を示すsは4.4である。)で表される化合物を40g用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、上記式(P)で表される化合物(式(P)中、平均重合度を示すmpは4.4である。)を4.41g得た。
【0193】
得られた化合物(P)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(P);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.46~3.76(21H)、3.86~3.99(6H)、4.08~4.14(6H)、5.11~5.13(1H)、5.27~5.29(1H)、5.85~5.94(1H)
【0194】
このようにして得られた実施例12~15の化合物を、式(1)に当てはめたときのR1の構造、式(2)中のa、式(3)中のb、Y、R、R3の構造、R4の構造を表2に示す。また、実施例12~15の化合物の数平均分子量(Mn)を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表2に示す。
【0195】
(比較例2)
下記式(Q)で表される化合物を以下の方法により合成した。
式(33)で表される化合物の代わりに、上記式(34)で表される化合物を1.60g用いたこと以外は、比較例1と同様な操作を行い、下記式(Q)で表される化合物(式(Q)中、平均重合度を示すmqは4.5であり、平均重合度を示すnqは4.5である。)を4.55g得た。
【0196】
【0197】
得られた化合物(Q)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Q);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.35~3.95(35H)、5.05~5.16(1H)、5.21~5.32(1H)、5.80~5.99(1H)
【0198】
(比較例3)
下記式(R)で表される化合物を以下の方法により合成した。
式(13)で表される化合物の代わりに、下記式(36)で表される化合物を1.26g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、下記式(R)で表される化合物(式(R)中、平均重合度を示すmrは4.5であり、平均重合度を示すnrは4.5である。)を4.30g得た。
式(36)で表される化合物は、以下に示す方法により合成した。2-プロピン-1-オールの1級水酸基とアリルグリシジルエーテルを反応させて得られた化合物の2級水酸基に保護基としてメトキシメチル(MOM)基を導入した。得られた化合物の二重結合を酸化することで、式(36)で表される化合物を得た。
【0199】
【化42】
(式(36)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0200】
【0201】
得られた化合物(R)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(R);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]2.50(1H)、3.12~4.26(29H)
【0202】
このようにして得られた比較例2~3の化合物を、式(1)に当てはめたときのR1の構造、式(2)中のa、式(3)中のb、Y、R、R3の構造、R4の構造を表2に示す。また、比較例2~3の化合物の数平均分子量(Mn)を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表2に示す。
【0203】
【0204】
次に、以下に示す方法により、実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3の磁気記録媒体を得た。
【0205】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9Å~10ÅになるようにバートレルXFで希釈し、潤滑層形成用溶液とした。
【0206】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3の潤滑層形成用溶液を、それぞれディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱して潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去することにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0207】
このようにして得られた実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表3~4に示す。
【0208】
【0209】
【0210】
次に、実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3の磁気記録媒体に対して、以下に示す耐摩耗性試験を行なった。
【0211】
(耐摩耗性試験)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、接触子としての直径2mmのアルミナの球を、荷重40gf、摺動速度0.25m/secで、磁気記録媒体の潤滑層上で摺動させ、潤滑層の表面の摩擦係数を測定した。そして、潤滑層の表面の摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間を測定した。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間は、各磁気記録媒体の潤滑層について4回ずつ測定し、その平均値(時間)を潤滑剤塗膜の耐摩耗性の指標とした。実施例1~11、比較例1、実施例12~15、比較例2~3の化合物を用いた磁気記録媒体の結果を表3~4に示す。摩擦係数増大時間の評価は、以下のとおりとした。
【0212】
A:850sec以上
B:750sec以上、850sec未満
C:650sec以上、750sec未満
D:650sec未満
【0213】
なお、摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、以下に示す理由により、潤滑層の耐摩耗性の指標として用いることができる。磁気記録媒体の潤滑層は、磁気記録媒体を使用することにより摩耗が進行し、摩耗により潤滑層が無くなると、接触子と保護層とが直接接触して、摩擦係数が急激に増大するためである。本摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、フリクション試験とも相関があると考えられる。
【0214】
表3~4に示すように、実施例1~15の磁気記録媒体は、比較例1~3の磁気記録媒体と比較して、摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間が長く、耐摩耗性が良好であった。特に、式(1)に当てはめたときの式(3)中のYがO(酸素)であって、bが2である実施例1、実施例5、及び実施例12~15、bが3である実施例3および実施例6、RがCH3である実施例7では、耐摩耗性が良好であった。
これは、実施例1~15の磁気記録媒体では、潤滑層を形成している式(1)で表される化合物が、Xで表される基により、R1の炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基または炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基と、R2の有する水酸基との距離が適正とされたものであるため、R1で表される末端基と、R2の有する水酸基との分子内相互作用が適切であることによって達成されたものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いることにより、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を実現できる潤滑層を形成できる。
【符号の説明】
【0216】
10・・・磁気記録媒体、11・・・基板、12・・・付着層、13・・・軟磁性層、14・・・第1下地層、15・・・第2下地層、16・・・磁性層、17・・・保護層、18・・・潤滑層。