(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】セロオリゴ糖を含む植物活力剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
A01N 43/16 20060101AFI20240214BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240214BHJP
C05F 11/10 20060101ALI20240214BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01P21/00
C05F11/10
A01G7/00 604Z
(21)【出願番号】P 2021528235
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023469
(87)【国際公開番号】W WO2020255933
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019112247
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
(72)【発明者】
【氏名】木元 久
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-215606(JP,A)
【文献】特開平09-216806(JP,A)
【文献】特開2001-017176(JP,A)
【文献】国際公開第2011/087002(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/046758(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/16
A01P 21/00
C05F 11/10
A01G 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロオリゴ糖
及びキシロオリゴ糖を含むことを特徴とする植物活力剤
であって、前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.5~2である、植物活力剤。
【請求項2】
前記植物活力剤中の前記セロオリゴ糖の含有量が0.05~10質量%である、請求項1に記載の植物活力剤。
【請求項3】
前記植物活力剤中の前記セロオリゴ糖及び前記キシロオリゴ糖の合計含有量が、0.05~10質量%である、請求項
1に記載の植物活力剤。
【請求項4】
展着剤をさらに含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の植物活力剤を植物に適用することを含む、植物栽培方法。
【請求項6】
前記植物活力剤を、オリゴ糖の合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に適用することを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記植物活力剤の植物への適用が葉面散布により行われる、請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の植物活力剤を適用しない場合と比較して、増大したエリシター活性を有する植物又はその一部の生産方法であって、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の方法により植物を栽培することを含む、方法。
【請求項9】
前記エリシター活性が、植物中のグルカナーゼ産生量を測定することにより決定される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の植物活力剤を含有する肥料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロオリゴ糖を含む植物活力剤、及び該植物活力剤を用いた植物の栽培・生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、日照時間、気温及び降雨量等の非生物的ストレス、並びに病害虫等の生物的ストレスによって収穫量が減少する。特に農業作物の収穫量を増加させるために、これまで、各種の肥料及び農薬が使用されてきた。肥料は、植物の生長に必要とされる栄養源であるがストレスを緩和する機能は有さない。農薬は、植物に寄生する病害虫を直接駆除し、生物的ストレスを排除するが、農薬を使用する場合には、安全性は十分確認されているとはいえ、過剰摂取による人体や環境への影響が懸念されるし、特に化学合成法によって製造される農薬等の薬剤は、いったん散布すると土壌中等に長期間残存する懸念もあり、出来れば他の方法により生物ストレスに対して耐性をつけることが望まれていた。このことから、近年これらに加えて、人体にも環境にも安全な物質としてバイオスティミュラントの利用が注目されている。
【0003】
「バイオスティミュラント」は、「生物刺激剤」や「植物活力剤」等とも称され、任意の物質群・微生物を含有し、植物体やその根系に施用された場合に、自然な状態の作物体内でも起こっている一連のプロセスを刺激することによって、養分吸収を向上させたり、施肥効率を高めたり、ストレス耐性を付与し、品質を向上させることができるものであって、病害虫に対して直接の作用は示さず、それゆえいかなる殺虫・殺菌剤にも分類されないものをいう。すなわち、自然界に存在する成分(微生物を含む)であって、植物ホルモンや栄養分ではないが、ごく少量でも植物の活力を刺激し、生育を促進する物質を指す。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、植物の養分吸収と養分利用率を高め、生育が促進され、農作物の収量と品質が良くなるとされている。農業用バイオスティミュラントには、作物の生理学的プロセスを制御・強化するために、植物又は土壌に施用される化合物、物質及び他の製品の多様な製剤が含まれる。バイオスティミュラントは、作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善するために、栄養素とは異なる経路を通じて植物生理に作用する。
このように、バイオスティミュラントにより、従来の農薬や肥料による問題を生じることなく、植物が本来有する能力を刺激して、その成長を促進することができる。
【0004】
このようなバイオスティミュラントに関連するものとして、これまでに、キチンオリゴ糖と抗菌活性を有するキトサン等とを組み合わせた植物活力剤(特許文献1)、食酢にオリゴ糖類及び植物抽出成分を配合した植物活力剤(特許文献2)、セルロースを含む植物成長促進剤(特許文献3)、ヘキソフラノース誘導体を含む植物生長調節剤(特許文献4)、低分子化したキチンやキトサンを用いて植物の耐病性を高める方法(特許文献5)、ならびにキチン及び/又はキトサン等を含む肥料(特許文献6)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-143013号公報
【文献】特開2001-64112号公報
【文献】特開2002-114610号公報
【文献】特開2013-151438号公報
【文献】特開2015-48436号公報
【文献】特開2017-95352号公報
【文献】国際公開第2017/104687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、植物の生理学的プロセスを制御・強化し、農作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、セロオリゴ糖が、植物の成長を促進させかつ植物のエリシター活性を増大させるという驚くべき知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の通りである。
[1] セロオリゴ糖を含むことを特徴とする植物活力剤。
[2] 前記植物活力剤中の前記セロオリゴ糖の含有量が0.05~10質量%である、1に記載の植物活力剤。
[3] キシロオリゴ糖をさらに含む、1又は2に記載の植物活力剤。
[4] 前記植物活力剤中の前記セロオリゴ糖及び前記キシロオリゴ糖の合計含有量が、0.05~10質量%である、3に記載の植物活力剤。
[5] 前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.5~2である、3又は4に記載の植物活力剤。
[6] 展着剤をさらに含む、1~5のいずれかに記載の植物活力剤。
[7] 1~6のいずれかに記載の植物活力剤を植物に適用することを含む、植物栽培方法。
[8] 前記植物活力剤を、オリゴ糖の合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に適用することを含む、7に記載の方法。
[9] 前記植物活力剤の植物への適用が葉面散布により行われる、7又は8に記載の方法。
[10] 1~6のいずれかに記載の植物活力剤を適用しない場合と比較して、増大したエリシター活性を有する植物又はその一部の生産方法であって、7~9のいずれかに記載の方法により植物を栽培することを含む、方法。
[11] 前記エリシター活性が、植物中のグルカナーゼ産生量を測定することにより決定される、10に記載の方法。
[12] 1~6のいずれかに記載の植物活力剤を含有する肥料組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の農薬や肥料による人体や環境への影響といった問題を生じることなく、植物の生理学的プロセスを制御・強化し、農作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第一の態様において、セロオリゴ糖を含むことを特徴とする植物活力剤が提供される。
本発明に係る「植物活力剤」は、植物の生育に関わる温度、光、水、及び塩等の非生物的ストレスの緩和作用を有するものだけでなく、病害虫等の生物的ストレスの緩和作用を有するものも含む。
【0011】
本発明において、セロオリゴ糖は、植物由来物質のエリシター(すなわち「内生エリシター」)として用いられる。
【0012】
エリシターは、高等植物の組織又は培養細胞に生体防御反応を誘導する物質の総称であり、植物の免疫機構において病害抵抗性を誘導する。植物は、葉面等に存在する受容体でエリシターを感知し、病原抵抗反応を発動する。これにより、各種の病原菌に対して、各種化合物が分泌される生体防御作用(免疫)が起こる。エリシターが植物に作用すると、ファイトアレキシンや感染特異的タンパク質の合成・蓄積、活性酸素生成、活性窒素生成、過敏感反応性細胞死、遺伝子発現変化などの防御反応が誘導され、これらの反応により植物は病原菌から身を守り耐病性を高めるものと考えられている。
ファイトアレキシンは、エリシターの作用によって植物体内で合成、蓄積される抗菌性化合物であり、植物種ごとに生産される抗菌性化合物は異なる。代表的なファイトアレキシンとして、フラボノイド、テルペノイド、脂肪酸誘導体などが挙げられる。活性酸素は病原微生物を殺す作用を有し、さらに、活性酸素及び活性窒素は単独で又は協調して様々な防御反応を発動するシグナルとして機能する。このようなエリシター効果による病害抵抗性は、幅広い病害に対して抵抗性を増強させることなどから農業利用に期待されている。
【0013】
セロオリゴ糖は、複数のグルコースがβ-グリコシド結合により重合した少糖類であり、保湿性、べたつき抑制、清味付与、でんぷん老化低減、タンパク変性抑制などの機能性が近年見出され、医薬、化粧品、食品、飼料分野への利用が期待されている。特に、グルコースの重合度が3以上のセロオリゴ糖は、上記の機能性の増大、新たな機能性賦与という点でより大きな期待が寄せられている。現在工業的に利用されているセロオリゴ糖は、酵素反応によって製造されているが、主成分はグルコースと二量体のセロビオースであり、三量体のセロトリオース以上のオリゴマーはほとんど含有していない。しかしながら、近年、出願人らにより、炭素触媒を用いた植物性バイオマスの加水分解反応において、昇温速度、冷却速度、反応温度、反応時間を制御して水熱反応をさせることによりグルコースの重合度が3~6のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖の製造方法が報告されている(特許文献7)。
セロオリゴ糖をセルロースの加水分解反応により得る場合、セルロース原料としてはアビセル(Merck社製)などの結晶性微粉セルロースや、コットンリンターパルプを使用することが好ましい。
【0014】
本発明において用いられるセロオリゴ糖は、下記の化学構造を有するものが特に好ましい。
【化1】
【0015】
本発明に係る植物活力剤は、内生エリシターとして、キシロオリゴ糖をさらに含むことが好ましい。
【0016】
キシロオリゴ糖は、キシロース数個がβ-グリコシド結合により重合した少糖類であり、一般的には、ヘミセルロースの主成分であるキシランの加水分解によって得られ、主に食品用途として販売されている。
【0017】
本発明において用いられるキシロオリゴ糖は、下記の化学構造を有するものが特に好ましい。
【化2】
【0018】
本発明に係る植物活力剤は粉状、顆粒状、液状等のいずれの形態で製品化してもよいが、一般には散布しやすい液状とすることが好ましい。本発明に係る植物活力剤は、セロオリゴ糖及び場合によりキシロオリゴ糖を水等の溶媒に高濃度で溶解させた原液として供給することができる。植物活力剤原液中の前記セロオリゴ糖及び前記キシロオリゴ糖の合計含有量は、好適には0.05~10質量%であり、より好適には0.1~8質量%であり、さらに好適には0.5~6質量%である。別の実施態様では、植物活力剤原液中の前記セロオリゴ糖及び前記キシロオリゴ糖の合計含有量は、好適には1~15質量%であり、より好適には3~12質量%であり、さらに好適には5~10質量%である。植物活力剤がキシロオリゴ糖を含まない場合、前記合計含有量は、植物活力剤原液中のセロオリゴ糖の含有量を指す。
【0019】
本発明に係る植物活力剤が前記キシロオリゴ糖を含む場合、植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比(すなわち、セロオリゴ糖の含有量/キシロオリゴ糖の含有量)は、好適には0.5~2であり、より好適には0.6~1.5であり、さらに好適には0.8~1.2である。別の実施態様では、前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比は、好適には0.2~1.5であり、より好適には0.3~1.2であり、さらに好適には0.4~1である。
【0020】
本発明に係る植物活力剤は、活性成分であるオリゴ糖以外の他の成分、例えば、防腐剤、展着剤、沈殿防止剤、増粘剤、賦形剤をさらに含んでもよい。防腐剤としてはソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エステル、安息香、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、ポリアミノプロピルビグアナイド、ポリリジン等が挙げられる。展着剤は界面活性剤を主成分とする粘稠な液体であり、植物活力剤の展着剤として使用できる限り特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル等が挙げられる。沈殿防止剤としては、ポリりん酸又はポリりん酸の塩類、又はポリカルボン酸型高分子界面活性剤等が挙げられる。増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルアミド、でん粉などの水溶性高分子、又は廃糖蜜、アルコール醗酵濃縮廃液、アミノ酸醗酵濃縮廃液等が挙げられる。賦形剤としては、乳糖やでんぷん等が挙げられる。
【0021】
本発明の第二の態様において、本発明に係る植物活力剤を植物に適用することを含む、植物栽培方法が提供される。
【0022】
本発明に係る植物活力剤が適用される対象植物は特に制限されないが、典型的には、農作物であり、キク科、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、バラ科、ウリ科、ヒルガオ科、アカザ科、ユリ科、セリ科、アオイ科、ショウガ科、ハス科などの植物が挙げられる。
具体的には、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ハナヤサイ類、コマツナ、ミズナ、ダイコン、カブなどのアブラナ科植物、ジャガイモ、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、シシトウ、タバコなどのナス科植物、シュンギク、レタス、リーフレタス、ゴボウ、フキなどのキク科植物、スイカ、メロン、カボチャ、キュウリ、ニガウリ、へちま、ひょうたんなどのウリ科植物、ホウレン草、ふだん草、スイスチャード、おかひじき、ビート等などのアカザ科植物、ニンジン、セロリ、パセリ、ミツバなどのセリ科植物、大豆(エダマメ)、小豆、インゲンマメ、ソラマメ、エンドウマメ、シカクマメ、落花生などのマメ科植物、サツマイモ、エンサイなどのヒルガオ科植物、ニラ、ネギ類、タマネギ、ニンニク、アスパラガスなどのユリ科植物、イチゴ、リンゴ、ナシ、ビワなどのバラ科植物、オクラ、綿などのアオイ科植物、ショウガなどのショウガ科植物、ハスなどのハス科植物、とうもろこし、米、大麦、小麦、サトウキビなどのイネ科植物等が挙げられる。
なかでも、キャベツ、コマツナなどのアブラナ科植物、トマト、ナスなどのナス科植物、レタス、リーフレタスなどのキク科植物、イチゴ、リンゴなどのバラ科植物が好ましく、そのなかでもコマツナ、トマトがより好ましい。
【0023】
本発明に係る植物活力剤は、一般には、その原液に水等を加え所望の濃度に希釈(例えば1000倍に希釈)して使用され、植物活力剤中のオリゴ糖の合計含有量が、好適には0.1~500質量ppmとなる濃度において植物に適用される。植物活力剤中のオリゴ糖の合計含有量は、より好適には0.5~200質量ppm、さらに好適には1~100質量ppmとなる濃度において植物に適用される。
【0024】
植物活力剤の植物へ適用は、当業界に慣習的な方法により行うことができ、散布方法も特に限定されず、例えば、植物の葉、茎等に直接散布する方法、植物を栽培する培養基や土壌中に散布する方法、肥料等に配合して培養基や土壌中に散布する方法等のいずれであってもよい。なお、肥料中に配合する場合、肥料としては、窒素、燐酸、カリウムを含有する化学肥料、油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料等、その種類は限定されない。散布方法としては、特に、葉面散布により行われることが、エリシター活性を有効に発現させる上で好ましい。葉面散布は当業界に慣習的な手法、例えば動力噴霧器、肩掛け噴霧器、ブロードキャスター、スプレイヤー、有人又は無人ヘリコプター、煙霧器、ハンドスプレーなどにより行うことができる。
【0025】
植物活力剤を肥料に配合して散布する場合、肥料組成物中の固形分100質量%に対して、前記セロオリゴ糖の含有量は5~40質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。植物活力剤がキシロオリゴ糖を含む場合、肥料組成物中の固形分100質量%に対して、前記キシロオリゴ糖の含有量は5~40質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。肥料組成物は、前記セロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖以外に、窒素、燐酸、カリウムから選択される少なくとも1種の栄養素を含有することが好ましく、窒素、リン酸、及びカリウムの3つの栄養素全てを含有することがより好ましい。液状肥料である場合、肥料組成物は水を70~99質量%含有することが好ましく、75~99質量%含有することがより好ましく、散布前にこの原液を100倍から1000倍希釈して用いることが好ましい。
【0026】
このような方法によって植物を栽培することにより、植物活力剤を適用しない場合と比較して、エリシター活性を有する植物又はその一部(例えば、根、茎、葉、花、果実、種子、組織、細胞など)を生産することが可能となり、ひいては、農作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善することができる。
【0027】
上述のとおり、エリシター効果は病害抵抗性の一つの指標として重要であるが、本発明者らは、このたび、エリシター効果の一つのシグナルであるグルカナーゼ産生量により、その酵素活性を測定することでエリシター活性を評価できることを見出した。栽培中植物の葉の一部を採取して、そのグルカナーゼ活性を分析することにより、同一個体の経時的な評価が可能となる。
【0028】
エリシター活性の評価方法における手順の概要を以下に示す:
(i)植物のサンプリング及び前処理を行う;(ii)BSAをタンパク質標準として検量線を作成する(色素結合法による波長(600nm)の吸光度を利用);(iii)(i)で調製した検体のタンパク質濃度を測定する;(iV)(i)で調製した検体のグルカナーゼ活性を測定する。具体的には、グルカナーゼにより可溶性の低分子分解物が遊離すると発色するB-HS試薬にて、その活性を波長590nmの吸光度値として評価する;(v)タンパク質単位あたりのグルカナーゼ活性を算出する。
このようなエリシター活性の評価方法の具体的な手順については下記実施例で詳細に説明されている。
【0029】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
[1.オリゴ糖の準備]
(1)セロオリゴ糖
アビセル(Merck社製結晶性微粉セルロース)10gと、活性炭BA50(味の素ファインテクノ(株)製)1.5gを、直径1.5cmのアルミナ球2000gと共に容量3600mLのセラミックポットミルの中に入れて、卓上ポットミル回転台(日陶科学(株)製,卓上ポットミル型式ANZ-51S)にセットし、60rpmで48時間処理して反応原料を取得した。なお、温度については室温で開始し、剪断発熱による温度上昇は成り行きに任せた。
続いて、反応原料0.374gと水40mLを、高圧反応器(内容積100mL,オーエムラボテック(株)製オートクレーブ,ハステロイC22製)に入れた後、600rpmで撹拌しながら反応温度まで10~30℃/分(平均昇温速度11.3℃/分)で230℃まで加熱後、直ちに加熱を止め、反応器を10~30℃/分(平均降温速度16.7℃/分)で風冷にて冷却して反応液を作製した。
続いて反応液を、遠心分離装置により回収した上清液を、凍結乾燥してセロオリゴ糖粉末を取得した。
【0031】
(2)キシロオリゴ糖
物産フードサイエンス株式会社製、キシロオリゴ糖95Pを用いた。
【0032】
[2.トマトの植物乾燥重量及び根乾燥重量の測定]
(1)植物活力剤の調製
[1.オリゴ糖の準備]で用意した各オリゴ糖を、下記表中の実施例1-6における植物活力剤濃度(質量ppm)の1000倍になるよう、それぞれの組成比率でスターラー撹拌して水に溶解後、0.45μmフィルターで除菌したものを植物活力剤原液とした。この原液を水で1000倍に希釈して、以下の栽培試験に使用した。
【0033】
(2)栽培試験
トマトの種子を蒸留水に6時間浸漬した後に角質層を取り除き、次にそれを30分間通気した場所で乾燥した。次に複数の吸収紙を敷いた培養皿にそれぞれ10個ずつの種子を載せた後、培養皿毎に各条件の植物活力剤液を満たして6時間浸漬した。その後、各培養皿から大きさの揃った3個の種子を選抜して、条件ごとに鉢植えして11日間栽培した。発芽した種子は、植物乾燥重量及び根乾燥重量を測定し、植物活力剤を適用しない場合(比較例1)と比較した。植物乾燥重量は、根の部分をカットして残った上部をそのまま、恒温乾燥機により50℃で12時間、乾燥させてから測定した。また、根の部分は付着物をよく水洗し、恒温乾燥機により50℃で12時間、乾燥させてから重量を測定した。
【0034】
【0035】
[3.コマツナのエリシター活性の評価-1]
(1)植物活力剤の調製
[1.オリゴ糖の準備]で用意した各オリゴ糖を、下記表中の実施例7及び8における植物活力剤濃度(質量ppm)の1000倍になるよう、それぞれの組成比率でスターラー撹拌して水に溶解後、0.45μmフィルターで除菌したものを植物活力剤原液とした。この原液を水で1000倍に希釈して、以下の栽培試験に使用した。
【0036】
(2)MS培地の調製
コマツナの育成にはムラシゲスクーグ(MS)寒天培地を使用した。調製した植物活力剤を各比較例及び実施例に示される終濃度となるようにMS培地に添加し、その後、121℃20分でオートクレーブを行った。
【0037】
(3)播種及び生育方法
クリーンベンチ上にて、高圧蒸気滅菌したMS培地をプラントボックスに移し、よく冷ました後、コマツナ(わかみ、サカタのタネ)の種を10粒ずつ播種した。その後、明所にて22℃24時間、長日条件下で6日間生育させた。
【0038】
(4)タンパク質抽出
以下の組成のタンパク質抽出用緩衝液を調製した。
【0039】
【0040】
バイオマッシャー(株式会社ニッピ)付属の1.5mlチューブに上記で作製したタンパク質抽出用緩衝液300μlを添加し、その中にハサミで4×4mm程度にカットしてサンプリングした葉(植物体)を入れた。この操作を各サンプルにつき、5回行った。次いで、手で撹拌棒を回転させ、概ね目に見える固形分が無くなる程度まで植物体を破砕した。15,000×g、10分、4℃の条件下で遠心分離し、水層を新しい1.5mlチューブに回収し、抽出液を調製した。
【0041】
(5)タンパク質濃度の調整
純度既知の牛血清アルブミン(BSA)2mg/mlを段階希釈(1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、1/64希釈)してスタンダードを作製した。作製したスタンダードを用い、600nmにおける吸光度(Abs600)の平均値をとり、検量線を作成した(n=3)。クマシーブリリアントブルー(CBB)液300μlを96ウェルプレートに分注し、上記で調製した抽出液を6μl添加した。Abs600を測定した。ブランクはMilliQを用いた。抽出液の吸光度を段階希釈したBSA2mg/mlによって作成した検量線に当てはめ、タンパク質濃度を求めた。
なお、抽出液のAbs600測定値が検量線から外れた場合は、超純水(MilliQ)で適宜希釈して再測定してタンパク質濃度を求めた。
求めた値を用いて抽出液の濃度が一定になるように希釈を行い以下のグルカナーゼ活性測定に用いた。
【0042】
(6)グルカナーゼ活性の測定
1.5mlチューブに、B-HS試薬(Megazyme社)1錠をMilliQ 10mlに懸濁したB-HS基質溶液100μl、0.2M リン酸緩衝液(pH6.0)50μl、及び上記で調製した希釈液又は超純水(ブランク)50μlを混合し、各比較例及び実施例のサンプルを調製した。15分毎にサンプルをよく振りつつ、30℃のウォーターバスで、1時間30分、酵素反応を行った。反応停止液0.2N NaOHを100μl(合計300μl)加えて反応を停止した。15,000rpm、5分の条件下で遠心分離し、上清200μlを96ウェルプレートに分注し、グルカナーゼ活性を評価するために590nmにおける吸光度(Abs590)を測定し、植物活力剤を適用しない場合(比較例2)と比較した。
【0043】
【0044】
[4.コマツナのエリシター活性の評価-2]
(1)植物活力剤の調製
[1.オリゴ糖の準備]で用意した各オリゴ糖を、下記表中の実施例9及び10における植物活力剤濃度(質量ppm)の1000倍になるよう、それぞれの組成比率でスターラー撹拌して水に溶解後、0.45μmフィルターで除菌したものを植物活力剤原液とした。この原液を水で1000倍に希釈して、以下の栽培試験に使用した。
【0045】
[3.コマツナのエリシター活性の評価-1]と同様にして、コマツナ由来のタンパク質抽出液を調製した後、そのグルカナーゼ活性の測定を測定し、植物活力剤を適用しない場合(比較例3)と比較した。
【0046】