(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】カバー部材
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20240214BHJP
C03C 17/42 20060101ALI20240214BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20240214BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G09F9/00 302
C03C17/42
C03C17/34 A
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2021542793
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2020031348
(87)【国際公開番号】W WO2021039552
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019154124
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
【審査官】中村 直行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048061(JP,A)
【文献】特開2017-062430(JP,A)
【文献】特開2017-001940(JP,A)
【文献】特開2014-188733(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048978(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0184529(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0147810(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00 - 6/46
C03C 15/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基体と、防汚層と、印刷層と、接着部材とを備えるカバー部材であって、
前記透明基体は第1の主面及び第2の主面を有し、
前記防汚層は前記第1の主面上の少なくとも一部に形成され、
前記印刷層は前記第2の主面上の少なくとも一部に形成され、
前記接着部材は前記防汚層側の面に接着され、
前記接着部材が前記透明基体または前記防汚層に実質的に接触する領域が前記透明基体の厚み方向に平行に前記第2の主面に投影された領域を接着部材接触部投影領域とし、
前記接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から、該領域の境界から1000μm内側の部分までの領域を、境界近傍領域とし、
前記接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とした際に、
前記境界近傍領域の少なくとも一部は前記印刷層を備え、前記内側領域の少なくとも一部は前記印刷層を備えない、カバー部材。
【請求項2】
前記透明基体の第1の主面は、前記接着部材が前記透明基体または前記防汚層に実質的に接触する領域内に、前記防汚層が実質的に存在しない領域をさらに備え、
当該防汚層が実質的に存在しない領域が前記透明基体の厚み方向に平行に前記第2の主面に投影された領域を防汚層不存在部投影領域とした際に、
前記防汚層不存在部投影領域の少なくとも一部が前記内側領域に含まれ、
前記防汚層不存在部投影領域の前記内側領域に含まれる部分は前記印刷層を備えない、請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記防汚層不存在部投影領域の全体が前記内側領域内に含まれる、請求項2に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記接着部材は環状であり、
前記内側領域の少なくとも一部に当該環の周方向に沿って連続して印刷層を備えない部分が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記印刷層は前記透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、前記接着部材接触部投影領域が前記印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部とを含み、
前記接着部材接触部投影領域は、前記印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部の間に連続的に形成された前記印刷層を備えない部分を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項6】
前記第2の主面の、外周端から、外周端から50μm内側の部分までの領域を外周端近傍領域とした際に、前記内側領域の一部が前記外周端近傍領域に含まれ、前記内側領域の前記外周端近傍領域に含まれる部分は前記印刷層を備えない、請求項1~5のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項7】
透明基体と、防汚層と、印刷層とを有するカバー部材であって、
前記透明基体は第1の主面及び第2の主面を有し、
前記防汚層は前記第1の主面上の少なくとも一部に形成され、
前記印刷層は前記第2の主面上の少なくとも一部に形成され、
前記第1の主面は、前記防汚層が実質的に存在しない領域を備え、
当該防汚層が実質的に存在しない領域が前記透明基体の厚み方向に平行に前記第2の主面に投影された領域を防汚層不存在部投影領域とし、
前記防汚層不存在部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とした際に、
内側領域の少なくとも一部は前記印刷層を備えない、カバー部材。
【請求項8】
前記防汚層不存在部投影領域が環状である、請求項7に記載のカバー部材。
【請求項9】
前記第2の主面の、外周端から、外周端から50μm内側の部分までの領域を外周端近傍領域とした際に、前記防汚層不存在部投影領域の一部が前記外周端近傍領域に含まれ、前記防汚層不存在部投影領域の前記外周端近傍領域に含まれる部分は前記印刷層を備えない、請求項7または8に記載のカバー部材。
【請求項10】
前記防汚層不存在部投影領域の全体において印刷層を備えない、請求項7~9のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項11】
前記印刷層は前記透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、前記防汚層不存在部投影領域が前記印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部とを含み、
前記防汚層不存在部投影領域は、前記印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部の間に連続的に形成された前記印刷層を備えない部分を有する、請求項7~10のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項12】
前記透明基体はガラス基体である、請求項1~11のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項13】
前記ガラス基体は化学強化ガラス基体である、請求項12に記載のカバー部材。
【請求項14】
前記透明基体の第1の主面と前記防汚層との間に密着層をさらに備える、請求項1~13のいずれか1項に記載のカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット型PC(Personal Computer)やスマートフォン等のモバイル機器、あるいは、液晶テレビやタッチパネルなどのディスプレイ装置(以後これらを総称して表示装置等ということがある)に対しては、ディスプレイである表示面の保護ならびに美観を高めるための保護板が用いられることが多くなっている。
【0003】
これら保護板(以降、カバーガラスともいう)には、指紋、皮脂、汗等による汚れの付着を抑制するために防汚層が形成されることが多い。さらに、防汚層の耐摩耗性を向上させるために、防汚層と保護板の間に密着層を形成する場合もある。また、表示の視認性をより高めるために、密着層に反射防止性や防眩性が付与されることもある。
【0004】
これら保護板の用途によっては、最表面に部材を取り付けることが要求される場合がある。例えば、カーナビ等の車載ディスプレイの中でも、センターインフォメーションディスプレイ(CID)上のカバーガラスでは、使用時に人間の指が触れる側の表面にエアコンやラジオの音量調整等のためのボタン状あるいはダイアル状の部材が取り付けられることがある。
【0005】
特許文献1では、このような部材とカバーガラス最表面との接着性を確保するための方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献1にも開示されているように、意匠性の観点等から、カバーガラスには印刷層が設置される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発明者らは、ダイアル状あるいはボタン状の部材(以降、「接着部材」ともいう)が取り付けられたカバーガラスにおいて、部材が取り付けられた位置に対応する裏面側に印刷層が存在する場合、以下の課題が生じることを新規に見出した。すなわち、接着部材を人が操作する際に、カバーガラスを押すような荷重が生じる。また、接着部材に人や物体が接触あるいは衝突した際に、接着部材の角部でカバーガラスを局所的に曲げるような強い力がかかることがある。このような局所的に強い荷重が多数回加わった場合に、裏面の印刷層に局所的な強い引っ張り応力が生じ、また、カバーガラスと印刷層との間に強いせん断力が加わることになり、結果として、印刷層に亀裂や剥がれが生じやすくなるという課題があることを見出した。
【0009】
本発明は上記にかんがみてなされたものであり、長期間使用しても印刷層に亀裂や剥がれが生じる恐れが低減されたカバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明の第1のカバー部材は、透明基体と、防汚層と、印刷層と、接着部材とを備えるカバー部材であって、透明基体は第1の主面及び第2の主面を有し、防汚層は第1の主面上の少なくとも一部に形成され、印刷層は第2の主面上の少なくとも一部に形成され、接着部材は防汚層側の面に接着され、接着部材が透明基体または防汚層に実質的に接触する領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域を接着部材接触部投影領域とし、接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から、該領域の境界から1000μm内側の部分までの領域を、境界近傍領域とし、接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とした際に、境界近傍領域の少なくとも一部は印刷層を備え、内側領域の少なくとも一部は印刷層を備えない、カバー部材である。
本発明のカバー部材の一態様において、透明基体の第1の主面は、接着部材が透明基体または防汚層に実質的に接触する領域内に、防汚層が実質的に存在しない領域をさらに備え、当該防汚層が実質的に存在しない領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域を防汚層不存在部投影領域とした際に、防汚層不存在部投影領域の少なくとも一部が内側領域に含まれ、防汚層不存在部投影領域の内側領域に含まれる部分は印刷層を備えなくてもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、防汚層不存在部投影領域の全体が内側領域内に含まれてもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、接着部材は環状であり、内側領域の少なくとも一部に当該環の周方向に沿って連続して印刷層を備えない部分が設けられていてもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、印刷層は透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、接着部材接触部投影領域が印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部とを含み、接着部材接触部投影領域は、印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部の間に連続的に形成された印刷層を備えない部分を有してもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、第2の主面の、外周端から、外周端から50μm内側の部分までの領域を外周端近傍領域とした際に、内側領域の一部が外周端近傍領域に含まれ、内側領域の外周端近傍領域に含まれる部分は印刷層を備えなくてもよい。
また、上記の課題を解決する本発明の第2のカバー部材は、透明基体と、防汚層と、印刷層とを有するカバー部材であって、透明基体は第1の主面及び第2の主面を有し、防汚層は第1の主面上の少なくとも一部に形成され、印刷層は第2の主面上の少なくとも一部に形成され、第1の主面は、防汚層が実質的に存在しない領域を備え、当該防汚層が実質的に存在しない領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域を防汚層不存在部投影領域とし、防汚層不存在部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とした際に、内側領域の少なくとも一部は印刷層を備えない、カバー部材である。
本発明のカバー部材の一態様において、防汚層不存在部投影領域が環状であってもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、第2の主面の、外周端から、外周端から50μm内側の部分までの領域を外周端近傍領域とした際に、防汚層不存在部投影領域の一部が外周端近傍領域に含まれ、防汚層不存在部投影領域の外周端近傍領域に含まれる部分は印刷層を備えなくてもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、防汚層不存在部投影領域の全体において印刷層を備えなくてもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、印刷層は透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、防汚層不存在部投影領域が印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部とを含み、防汚層不存在部投影領域は、印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部の間に連続的に形成された印刷層を備えない部分を有してもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、透明基体はガラス基体であってもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、ガラス基体は化学強化ガラス基体であってもよい。
本発明のカバー部材の一態様において、透明基体の第1の主面と防汚層との間に密着層をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカバー部材は、長期間使用しても印刷層に亀裂や剥がれが生じる恐れが低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の一実施態様におけるカバー部材の上面図である。
【
図3】
図3は第1の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図5】
図5は第1の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図6】
図6は第2の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図8】
図8は第2の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図9】
図9は第3の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図10】
図10は第3の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図11】
図11は第4の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図13】
図13は第4の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図14】
図14は第5の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図16】
図16は第5の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図17】
図17は第6の形態に係るカバー部材の上面図である。
【
図19】
図19は第6の形態に係るカバー部材の接着部材の周辺を印刷層側から観察した拡大図である。
【
図20】
図20は例1のカバー部材を印刷層側から観察した概略図である。
【
図21】
図21は例2のカバー部材を印刷層側から観察した概略図である。
【
図22】
図22は例3のカバー部材を印刷層側から観察した概略図である。
【
図23】
図23は例4のカバー部材を印刷層側から観察した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0014】
<第1の実施形態>
[カバー部材]
図1に本発明の第1の実施形態のカバー部材10の上面図を示す。
図2に
図1のA-A線にそった断面図を示す。
本実施形態のカバー部材10は、透明基体1と、防汚層2と、印刷層3と、接着部材4とを備える。
透明基体1は第1の主面1A及び第2の主面1Bを有する。防汚層2は透明基体1の第1の主面1A上の少なくとも一部に形成される。印刷層3は透明基体1の第2の主面1B上の少なくとも一部に形成される。接着部材は防汚層2側の面に接着される。
以下、これらについて詳細に説明する。
【0015】
[透明基体]
透明基体1は、透明な材料からなるものであれば、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂、またはそれらを組み合わせた複合材料もしくは積層材料等の材料からなるものが好ましく使用される。
【0016】
透明基体の材料として用いられる樹脂の例としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ビスフェノールAのカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、およびポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0017】
透明基体の材料として用いられるガラスの例としては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、および石英ガラス等のガラス等が挙げられる。
【0018】
透明基体としてガラス基体を用いる場合、ガラスの組成は、成形や化学強化処理による強化が可能な組成であることが好ましく、ナトリウムを含むことが好ましい。
【0019】
ガラスの組成は特に限定されず、種々の組成を有するガラスを用いることができる。例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスを用いることができる。(i)SiO2を50~80%、Al2O3を2~25%、Li2Oを0~20%、Na2Oを0~18%、K2Oを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、Y2O3を0~5%およびZrO2を0~5%含むガラス。(ii)SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrO2を0~5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス。(iii)SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、MgOを4~15%およびZrO2を0~1%含有するガラス。(iv)SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、MgOを6~14%およびZrO2を0~1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
【0020】
透明基体として、意匠性および強度の観点から、ガラス基体が好ましい。
ガラス基体の製造方法は特に限定されない。例えば、所望の組成となるようにガラス原料を溶融炉に投入し、1500~1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することによりガラス基体を製造できる。なお、ガラス基体の成形方法はこの方法に限定されず、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等のダウンドロー法や、フロート法、ロールアウト法ならびにプレス法等を用いてもよい。
【0021】
透明基体としてガラス基体を用いる場合には、当該ガラス基体は強化処理が施されたガラス基体であることが好ましい。特に、ガラス基体は化学強化処理が施された化学強化ガラス基体であることが好ましい。
【0022】
化学強化処理方法は特に限定されず、ガラス基体の主面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層(圧縮応力層)を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、基体の主面近傍のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオンを、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオンに置換する。これにより、ガラス基体の主面に圧縮応力が残留し、ガラス基体の強度が向上する。ここで、イオン半径が小さなアルカリ金属イオンは、例えばLiイオンやNaイオンである。イオン半径がより大きなアルカリ金属イオンは、例えばLiイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。
【0023】
透明基体としてのガラス基体は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。なお、このような条件は、上記した化学強化処理を行うことで満たすことができる。
実用上の強度の観点からはガラス基体の表面圧縮応力(以下、CSという。)が400MPa以上であることが好ましく、700MPa以上であることがより好ましい。また、ガラス基体が自身の圧縮応力に耐えることができずに自然に破壊してしまう恐れをなくすためには、ガラス基体のCSは1200MPa以下が好ましく、900MPa以下がより好ましく、850MPa以下がさらに好ましい。
特に、本実施形態におけるカバー部材をディスプレイ装置のカバー部材(カバーガラス)として用いる場合は、ガラス基体のCSは700MPa以上850MPa以下であることが好ましい。
また、ガラス基体の圧縮応力層の深さ(以下、DOLという。)は、ガラス基体が鋭い物品と衝突して傷がついた場合にも破壊されにくいためには、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。一方、ガラス基体が自身の圧縮応力に耐えることができずに自然に破壊してしまう恐れをなくすためには、ガラス基体のDOLは150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、60μm以下が特に好ましい。
特に、本実施形態におけるカバー部材をディスプレイ装置のカバー部材(カバーガラス)として用いる場合は、ガラス基体のDOLは25μm以上60μm以下であることが好ましい。
【0024】
ガラス基体は、Li2Oを含有している場合、化学強化処理を2回以上施すことで、さらに強度を向上できる。
具体的には、例えば、1回目の処理では、例えば硝酸ナトリウム塩を主に含む無機塩組成物にガラス基体を接触させて、NaとLiのイオン交換を行う。次いで2回目の処理で、例えば硝酸カリウム塩を主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、KとNaのイオン交換を行う。このようにすることで、DOLが深く、表面応力の高い圧縮応力層を形成でき、好ましい。
【0025】
透明基体の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。例えば、樹脂基体、ガラス基体等の場合には、厚さは0.1~5mmが好ましく、0.2~2mmがより好ましい。
透明基体1としてガラス基体を用い、上記化学強化処理を行う場合は、これを効果的に行うために、ガラス基体の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0026】
また、透明基体の寸法は、用途に応じて適宜選択できる。ディスプレイ装置のカバーガラスとして使用する場合は、寸法は50mm×100mm~2000×1500mmが好ましく、厚さが0.5~4mmであることが好ましい。
【0027】
透明基体の形状は、平坦な形状のみでなく、一か所以上の屈曲部を有する基体のような曲面を有する形状であってもよい。例えば最近では、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォンおよびカーナビゲーション等の画像表示装置を備える各種機器において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。透明基体が曲面を有する形状である場合、カバー部材はこのような画像表示装置のカバー部材として好適に使用できる。
【0028】
透明基体が曲面を有する場合、透明基体の表面は、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。表面全体が曲面で構成される場合の例として、たとえば、透明基体の断面が円弧状である場合が挙げられる。
【0029】
透明基体が曲面を有する場合、その曲率半径(以下、「R」ともいう。)は、透明基体の用途、種類等に応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、Rは25000mm以下が好ましく、1mm~5000mmがより好ましく、5mm~3000mmが特に好ましい。Rが上記の上限値以下であれば、平板に比較し、意匠性に優れる。Rが上記の下限値以上であれば、曲面表面へも均一に防汚層2や印刷層3を形成できる。
【0030】
透明基体の表面は、防眩処理されていてもよい。透明基体がガラス基体の場合は、シリカ微粒子を含む液をガラス基体表面にコーティングするスプレー法や、ガラス基体表面をエッチングにより加工するフロスト処理(アンチグレア処理ともいう)などの方法により、ガラス基板の一方の主面に凹凸構造を形成し、防眩性を付与してもよい。
【0031】
フロスト処理の方法は特に限定されず、公知の方法、例えば国際公開第2014/112297号に記載の方法などを用いることができる。
【0032】
[防汚層]
防汚層2は、撥水性や撥油性を有することで防汚性を発揮するものであり、透明基体1の第1の主面1Aに防汚性を付与できるものであればその材料は特に限定されない。例えば、防汚層2は含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。含フッ素有機ケイ素化合物としては、例えば含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。本明細書において、含フッ素加水分解性ケイ素化合物とは、ケイ素原子に加水分解可能な基または原子が結合した加水分解性シリル基を有し、さらにそのケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物をいう。なお、前記ケイ素原子に結合して加水分解性シリル基を構成する加水分解可能な基または原子を併せて、「加水分解性基」という。
【0033】
防汚層を形成するために用いる組成物としては、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を好ましく使用できる。具体的には、KP-801(商品名、信越化学工業株式会社製)、X-71(商品名、信越化学工業株式会社製)、KY-130(商品名、信越化学工業株式会社製)、KY-178(商品名、信越化学工業株式会社製)、KY-185(商品名、信越化学工業株式会社製)およびオプツ-ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業株式会社製)などが好ましく使用できる。
【0034】
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を、透明基体表面または後述する密着層の表面に付着させ反応させて成膜することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。
【0035】
防汚層の厚さは、特に限定されないが、均一性を向上させて耐擦り性を向上させるためには、2nm以上が好ましい。一方、カバー部材のヘイズ値等の光学特性を良好にするためには、防汚層の厚さは20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
【0036】
防汚層の成膜方法としては、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法およびスプレーコート法等の湿式方法、および蒸着法等が挙げられる。透明基体または後述する密着層との密着性が高い被膜を得るには、防汚層は真空蒸着法により形成することが好ましい。
【0037】
本実施形態における透明基体1の第1の主面1Aは、接着部材4が接着される部分の少なくとも一部において、防汚層が実質的に存在しないことが好ましい。防汚層を備えない部分に接着部材を接着することにより高い接着強度が得られる。
なお、「防汚層が実質的に存在しない」とは、μ‐X線光電子分光分析装置で表面の組成分析を行ったときに、フッ素原子(F)のピークカウント(cps)が、防汚層が存在する領域の62%以下であることをいう。
【0038】
防汚層の存在しない領域を形成する手段は、特に制限されず、マスキング、レーザーマーカー、コロナ放電、プラズマ及びレーザークリーニングなどの公知の手法が使用できる。より具体的には、例えば、防汚層を形成しない部分をテープ等でマスキングした状態で防汚層を形成し、その後にテープ等を除去することにより防汚層の存在しない領域を形成してもよい。テープ等としては、PETテープ、ポリイミドテープ等が好ましく用いられる。
【0039】
また、特許文献1に記載のように、一度防汚層を透明基体の第1の主面の全体に形成し、その後、レーザー、プラズマ等で防汚層を部分的に除去することにより防汚層の存在しない領域を形成してもよい。この場合は、例えば、防汚層を除去しない部分をガラス、アルミナまたはベークライト等の耐熱性のある薄板等でマスキングしてからレーザー、プラズマ等による処理を行うこと等により、部分的に防汚層を除去できる。
【0040】
[密着層]
また、防汚層2の密着性を確保するために、本実施形態のカバー部材は透明基体と防汚層の間に密着層を備えてもよい。密着層の防汚層側の最表層は、防汚層との密着性の観点から、酸化ケイ素を主成分とする層であることが好ましい。
【0041】
密着層の防汚層と接する層における表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.5nm以下がさらに好ましい。Raが、3nm以下であれば、十分平滑であるため、布等と防汚層との引っかかりを抑制でき、耐摩耗性が向上する。
【0042】
なお、例えば防眩処理によって、第1の主面1Aが凹凸形状を有する場合、密着層の算術平均粗さ(Ra)を測定する際には当該凹凸形状を含まないように測定領域を設定すればよい。測定領域を例えば凹凸の稜線を除く領域に設定するなどして、密着層のRaを測定できる。
【0043】
また、例えば防眩処理によって、透明基体1の第1の主面1Aが凹凸形状を有する場合、密着層の防汚層と接する層における二乗平均粗さ(Rq)は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、Rqは1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。Rqが上記範囲であれば、防汚層の剥がれが抑制され耐摩耗性が向上されるだけでなく、ギラツキ防止性や防眩性も両立できる。凹凸形状のRqの測定に際しては、上述の密着層の算術平均粗さ(Ra)の測定とは反対に、第1の主面の凹凸形状を十分に含むように測定領域を選べばよい。また、密着層や防汚層の表面粗さは十分平滑なので、密着層や防汚層がある状態で、上記の方法で測定されたRqの値は、凹凸形状のRqと同値であると考えてよい。なお、密着層を形成する方法は特に限定されないが、密着層は、例えば後述する低反射層における、酸化ケイ素を主成分とする層を形成する場合と同様の方法で形成できる。
【0044】
[低反射層]
低反射層とは、反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、表示装置等からの光の透過率を向上でき、表示装置等の視認性を向上できる膜のことである。
本実施形態のカバー部材は、透明基体の第1の主面と防汚層の間に、低反射層を備えることが好ましい。低反射層の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成とできる。また、低反射層は低屈折率層1層のみを含む構成でもよい。
【0045】
低反射層は、高屈折率層と低屈折率層とを、それぞれ1層ずつ含む構成であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、低反射層は高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した構成であることが好ましい。
【0046】
反射率低減の効果を高めるためには、低反射層は複数の層が積層された積層体であることが好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上10層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上8層以下の層が積層されていることがより好ましく、4層以上6層以下の層が積層されていることがさらに好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましい。
【0047】
高屈折率層および低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される反射率低減の効果の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)および窒化ケイ素(Si3N4)から選択される1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料およびSiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。
【0048】
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化タンタルおよび窒化ケイ素から選択される1種を主成分とする層であり、低屈折率層が酸化ケイ素を主成分とする層である構成が好ましい。
また、低反射層の最表層の主成分を酸化ケイ素とすることで、低反射層は密着層としても用いることができる。
【0049】
低反射層は乾式成膜法によって形成されることが好ましい。乾式成膜法としては、例えば、蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、およびプラズマCVD法等が挙げられる。その中でも、蒸着法またはスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0050】
[接着部材]
接着部材4は、例えば押しボタン、スイッチ、ダイアルおよびメーター等のフレーム、ならびにロゴやマーク等の加飾部材等である。接着部材4の材料としては、例えば樹脂材料、金属材料、ゴム材料等が用いられる。
接着部材の形状は特に限定されないが、例えば円状、楕円状、四角状、環状等である。
【0051】
接着部材4の接着に使用する接着剤は特に限定されないが、例えばエポキシ系、シアノアクリル系、熱硬化樹脂性、エラストマー系の接着剤等を用いることができる。なお、接着剤の種類は、ガラス物品と接着部材を接着できるものであれば特に限定はされないが、耐久性に優れるものが好ましい。
【0052】
接着部材は、カバー部材を防汚層側から観察した際に、接着部材の全体がカバー部材上にあるように取り付けられてもよく、接着部材の一部のみがカバー部材上にあるように取り付けられてもよい。すなわち、カバー部材を防汚層側から観察した際に、接着部材の一部がカバー部材の外側にあってもよい。
【0053】
接着部材が押しボタン、スイッチ、ダイアルなどのように操作した情報の送信を伴う部材である場合の情報の送信手段は特に制限されない。例えば、磁力や静電気力を介して、例えば透明基体の裏側にある受信装置に送信してもよいし、配線を介して送信してもよい。配線を用いる場合は、接着部材の一部がカバー部材の外側にあることが好ましい。配線の隠ぺい等が簡便にできるためである。
【0054】
[印刷層]
本実施形態におけるカバー部材10は、透明基体1の第2の主面1B上の少なくとも一部に印刷層3を備える。印刷層3は、例えば表示パネルの外側周辺部に配置された配線回路のような、表示を見るときに視界に入り邪魔になる部分を遮蔽し、表示の視認性と美観を高める光遮蔽部であってもよいし、文字や模様等の印刷部であってもよい。
【0055】
印刷層は、インクを印刷する方法で形成された層である。印刷法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法およびインクジェット法等が挙げられる。簡便に印刷できるうえ、種々の基体に印刷でき、また基体のサイズに合わせて印刷できることから、印刷法はスクリーン印刷法またはインクジェット法が好ましい。
【0056】
インクの種類は特に限定されないが、例えばセラミックス焼成体等を含む無機系インクや、染料または顔料のような色料と有機系樹脂を含む有機系インクを使用できる。
【0057】
無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等がある。印刷部は、例えば上記セラミックスとシリカからなる無機系インクを溶融し、所望のパターンで、透明基体1の第2の主面1B上に印刷した後、焼成して得られる。このような無機系インクは、溶融、焼成工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
【0058】
有機系インクは、染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、透明ABS樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマーからなる樹脂、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。有機系樹脂は、上記樹脂の混合物であってもよい。また、染料あるいは顔料は、遮光性を有するものであれば特に限定なく使用できる。
無機系インクと有機系インクとでは、焼成温度が低いことから、有機系インクが好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
【0059】
印刷層は複数の層を積層した複層でもよく、単一の層でもよい。複層の印刷層は、上記インクの印刷、乾燥を繰り返すことで形成できる。
【0060】
印刷層の厚さは、特に限定されないが、十分な遮光性を得る観点からは、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。一方、ディスプレイとの貼合時に気泡の混入を抑制する観点、あるいは印刷層の内部応力による剥がれ抑制の観点からは、印刷層の厚さは50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
【0061】
[印刷層と接着部材との関係]
本実施形態のカバー部材において、以下のように接着部材接触部投影領域を定義する。
接着部材接触部投影領域とは、接着部材が透明基体または防汚層に実質的に接触する領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域を意味する。なお、接着部材が透明基体または防汚層に実質的に接触する領域とは、接着部材が透明基体または防汚層に密着している領域のみならず、接着部材から透明基体または防汚層までの距離(第1の主面に垂直な方向の距離)が1mm以下である領域も含む概念である。
【0062】
接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から、該領域の境界から1000μm内側の部分までの領域を、境界近傍領域とする。
接着部材接触部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とする。
また、接着部材が透明基体または防汚層に実質的に接触する領域内に、防汚層が実質的に存在しない領域がある場合において、当該防汚層が実質的に存在しない領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域のことを、防汚層不存在部投影領域とする。
これらの領域と、印刷層との関係について以下に詳細に説明する。まず、これらの領域について、本実施形態のカバー部材の例として複数の形態を挙げ、図面を参照しながら説明する。
【0063】
第1の形態として接着部材104の形状が、防汚層側から観察した際に円形であるカバー部材110を挙げて説明する。
図3に第1の形態に係るカバー部材110を防汚層側から観察した上面図を、
図4に
図3のB-B線に沿った断面図における接着部材104周辺の拡大図を、
図5に第1の形態に係るカバー部材110の接着部材104の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図5における点線Xは、接着部材104が透明基体101または防汚層102に実質的に接触する領域の境界線を、透明基体101の厚み方向に平行に透明基体101の第2の主面101Bに投影した線である。すなわち、この点線Xによって区画される領域(点線Xの内側の領域)が、接着部材接触部投影領域である。
図5における点線Yは、接着部材接触部投影領域の境界(すなわち点線X)から1000μm内側の部分を示す線である。すなわち、点線Xから点線Yまでの領域が、境界近傍領域である。
図5における点線Zは、接着部材接触部投影領域の境界(すなわち点線X)から500μm内側の部分を示す線である。すなわち、この点線Zによって区画される領域(点線Zの内側の領域)が、内側領域である。
なお、防汚層不存在部投影領域については図示を省略する。以降の例においても同様である。
【0064】
第2の形態として接着部材204の形状が防汚層側から観察した際に環状(以下「ドーナツ状」ともいう)であるカバー部材210を挙げて説明する。
図6に第2の形態に係るカバー部材210を防汚層側から観察した上面図を、
図7に
図6のC-C線に沿った断面図における接着部材204周辺の拡大図を、
図8に第2の形態に係るカバー部材210の接着部材204の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図8における点線X1および点線X2は、それぞれ接着部材204が透明基体201または防汚層202に実質的に接触する領域の境界線を、透明基体201の厚み方向に平行に透明基体201の第2の主面201Bに投影した線である。すなわち、この点線X1から点線X2までの領域が、接着部材接触部投影領域である。
図8における点線Y1は、接着部材接触部投影領域の外側の境界(すなわち点線X1)から1000μm内側の部分を示す線である。また、点線Y2は、接着部材接触部投影領域の内側の境界(すなわち点線X2)から1000μm内側の部分を示す線である。すなわち、第2の形態においては、点線X1から点線Y1までの領域と、点線X2から点線Y2までの領域とを合わせた領域が境界近傍領域である。
図8における点線Z1は、接着部材接触部投影領域の外側の境界(すなわち点線X1)から500μm内側の部分を示す線である。また、点線Z2は、接着部材接触部投影領域の内側の境界(すなわち点線X2)から500μm内側の部分を示す線である。すなわち、第2の形態においては、点線Z1から点線Z2までの領域が、内側領域である。
【0065】
図5や
図8に示すように、本実施形態のカバー部材では内側領域において印刷層が存在しない領域が存在する。すなわち、本実施形態のカバー部材において、内側領域の少なくとも一部は印刷層を備えない。このことにより、接着部材に荷重が加わって、第2の主面の接着部材接触部投影領域に局所的に応力がかかった場合でも、印刷層に強い引っ張り応力が加わることを抑制できる。したがって、印刷層に亀裂や割れが生じにくい。
【0066】
上記のように、接着部材接触部投影領域の内側に印刷層が存在しない領域を設けることにより印刷層の亀裂や割れを抑制できる。しかし、接着部材接触部投影領域の境界の付近において印刷層が存在しない場合、接着部材の周辺を斜めから覗くと印刷層の切れ目が見えてしまい、美観を損なう恐れがある。
したがって、本実施形態のカバー部材は、
図5や
図8に示すように、境界近傍領域において、印刷層が存在する領域が存在する。すなわち、本実施形態のカバー部材において、境界近傍領域の少なくとも一部は印刷層を備える。このことにより、印刷層の切れ目が視認されて美観を損なう恐れが抑制されている。
美観向上のためには境界近傍領域において、接着部材接触部投影領域の境界(すなわち、
図5では点線X、
図8では点線X1及び点線X2)から好ましくは10μm以内、より好ましくは50μm以内、さらに好ましくは100μm以内の領域は、領域内の全体に印刷層を備えることが好ましい。
【0067】
一方、境界近傍領域は美観を左右する領域であるが、接着部材に荷重が加わった際に特に応力がかかりやすい領域でもある。したがって、印刷層の亀裂や割れを抑制するためには、境界近傍領域の少なくとも一部は印刷層を備えないことが好ましい。
【0068】
また、特に防汚層が除去されている領域では、接着部材が透明基体の第1の主面に接着されているため、接着部材に荷重が加わった際に特に第2の主面に応力が加わりやすい。したがって、防汚層不存在部投影領域は、少なくとも一部において印刷層を備えないことが好ましく、全体において印刷層を備えないことがより好ましい。特に、防汚層不存在部投影領域が内側領域に含まれる場合は、防汚層不存在部投影領域の内側領域に含まれる部分は印刷層を備えないことが好ましい。防汚層不存在部投影領域は、一部が内側領域に含まれていてもよく、全体が内側領域に含まれていてもよい。
【0069】
上記の第1及び第2の形態としては、防汚層側の面から観察した際に透明基体の端部に沿って帯状に印刷層が形成されており、当該印刷層の幅方向に接着部材が収まる例を示した。しかし、本実施形態のカバー部材においては、以下に示す第3~第6の形態のように、印刷層の幅方向に接着部材が収まらなくてもよい。すなわち、防汚層側の面から観察した際に、接着部材の一部が印刷層の外側に形成されていてもよい。
図9に、第3の形態に係るカバー部材310を、防汚層側から観察した上面図を示す。また、
図10に、第3の形態に係るカバー部材310の接着部材304の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図10に示す点線X1、X2、Y1、Y2、Z1およびZ2については、
図8に示す第2の形態と同様である。
第3の形態は、防汚層側の面から観察した際に、接着部材304の一部が、印刷層303の、カバー部材内側方向の端部の外側にある例である。また、第3の形態は、カバー部材の防汚層側の面から観察した、接着部材の形状が環状である例である。接着部材の形状が環状である場合は、
図10に示すように、内側領域の少なくとも一部に当該環の周方向に沿って連続して印刷層を備えない部分が設けられることが好ましい。
【0070】
また、第4の形態に係るカバー部材410として、防汚層側から観察した際に接着部材404の一部がカバー部材の外側にある例を説明する。
図11に第4の形態に係るカバー部材410を防汚層側から観察した上面図を、
図12に
図11のD-D線に沿った断面図における接着部材404周辺の拡大図を、
図13に第4の形態に係るカバー部材410の接着部材404の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図13に示す点線X1、X2、Y1、Y2、Z1およびZ2については、
図8に示す第2の形態と同様である。
【0071】
透明基体401の第2の主面401Bにおいて、外周端から50μm内側の部分を点線Wで示す。第2の主面401Bにおいて、外周端から、外周端から50μm内側の部分(すなわち線Wで示す部分)までの領域を外周端近傍領域とする。
第4の形態のように、防汚層側から観察した際に接着部材404の一部がカバー部材の外側にある場合は、この外周端近傍領域と、内側領域の少なくとも一部が重なる場合がある。この重なる部分には、接着部材に荷重がかかった場合において特に強い応力がかかる。したがって、この重なる部分は印刷層を備えないことが好ましい。すなわち、内側領域の一部が外周端近傍領域に含まれる場合、内側領域の外周端近傍領域に含まれる部分は印刷層を備えないことが好ましい。
第2の主面401Bにおいて、外周端から、外周端から100μm内側の部分までの領域と、内側領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、より好ましい。また、第2の主面401Bにおいて、外周端から、外周端から200μm内側の部分までの領域と、内側領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、さらに好ましい。また、第2の主面401Bにおいて、外周端から、外周端から500μm内側の部分までの領域と、内側領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、特に好ましい。また、第2の主面401Bにおいて、外周端から、外周端から1000μm内側の部分までの領域と、内側領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、最も好ましい。
また、外周端近傍領域と境界近傍領域とが重なる部分が印刷層を備えないことが、特に好ましい。このような構成とすることで、印刷層の外周端に生じる応力をより確実に低減できる。
【0072】
また、第5の形態に係るカバー部材510として、印刷層が透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、接着部材接触部投影領域が、印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部とを含む構成における好適な例を説明する。
図14に第5の形態に係るカバー部材510を防汚層側から観察した上面図を、
図15に
図14のE-E線に沿った断面図における接着部材504周辺の拡大図を、
図16に第5の形態に係るカバー部材510の接着部材504の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図16に示す点線X、YおよびZについては、
図5に示す第1の形態と同様である。
【0073】
このような構成においては、
図16に示すように接着部材接触部投影領域に含まれる印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部との間に連続して印刷層を備えない部分が存在することが好ましい。すなわち、接着部材接触部投影領域は、印刷層の幅方向における一方の端部と他方の端部の間に連続的に形成された印刷層を備えない部分を有することが好ましい。このように印刷層を備えない部分を形成することによって、印刷層が長さ方向(幅方向に垂直な方向)において不連続となる。このことにより、印刷層にかかる応力を低減できる。
【0074】
第5の形態では、カバー部材の防汚層側から観察した、接着部材の形状が円状である例を挙げたが、接着部材の形状が環状である場合も同様である。第6の形態として、接着部材接触部投影領域が、印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部とを含む構成において、接着部材の形状が環状である例を説明する。
図17に第6の形態に係るカバー部材610を防汚層側から観察した上面図を、
図18に
図17のF-F線に沿った断面図における接着部材604周辺の拡大図を、
図19に第6の形態に係るカバー部材610の接着部材604の周辺を印刷層側から観察した拡大図を示す。
図19に示す点線X1、X2、Y1、Y2、Z1およびZ2については、
図8に示す第2の形態と同様である。また、点線Wについては
図13に示す第4の形態と同様である。
この例においても、第5の形態と同様に、接着部材接触部投影領域に含まれる印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部との間に連続して印刷層を備えない部分が存在することが好ましい。また、第4の形態を用いて説明した通り、外周端近傍領域と内側領域の重なる部分は、印刷層を備えないことが好ましい。
【0075】
以上に複数の例を挙げて説明したが、本実施形態のカバー部材はこれらに限定されない。例えば、以上の例では接着部材の形状が円形、およびドーナツ形であるものを説明したが、接着部材の形状は他の形状であってもよい。また、ほかにも本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更を加えたものも本発明の範囲内に含まれる。
【0076】
<第2の実施形態>
[カバー部材]
第2の実施形態のカバー部材は、透明基体と、防汚層と、印刷層とを有する。透明基体は第1の主面及び第2の主面を有する。防汚層は透明基体の第1の主面上の少なくとも一部に形成される。印刷層は透明基体の第2の主面上の少なくとも一部に形成される。
本実施形態のカバー部材は、接着部材が防汚層側の面に接着されて、使用される。すなわち、本実施形態のカバー部材は、接着部材が接着される前段階のカバー部材である。
【0077】
透明基体、防汚層、印刷層、後に接着される接着部材、並びに任意の構成要素である密着層及び低反射層の好ましい構成については、第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態のカバー部材は、第1の実施形態のカバー部材と同様に部分的に印刷層を備えない部分を有する。第1の実施形態においては、この印刷層を備えない部分の好適な態様について接着部材との位置関係を用いて規定したが、第2の実施形態においてはカバー部材が接着部材を備えないため、印刷部材を備えない部分の好適な態様の規定方法が第1の実施形態と異なる。
以下に詳細に説明する。
【0078】
第2の実施形態においては、透明基体の第1の主面は、防汚層が実質的に存在しない領域を備える。なお「実質的に存在しない」の意味については第1の実施形態と同様である。この防汚層が実質的に存在しない領域の一部又は全体が、後に接着部材との接着部分となる。したがって、第2の実施形態においては、この防汚層が実質的に存在しない領域との位置関係を用いて、印刷層を備えない部分の好適な態様を規定する。
【0079】
第2の実施形態においては、透明基体の第1の主面における防汚層が実質的に存在しない領域が透明基体の厚み方向に平行に第2の主面に投影された領域のことを、防汚層不存在部投影領域とする。この定義については、第1の実施形態と同様である。
また、第2の実施形態においては、防汚層不存在部投影領域における、該領域の境界から500μm以上内側の領域を内側領域とする。
【0080】
第2の実施形態においては、内側領域の少なくとも一部が印刷層を備えないようにする。
第2の実施形態においては、防汚層が実質的に存在しない領域と、後に接着部材が接着される領域は、おおむね一致する。そのため、第2の実施形態における防汚層不存在部投影領域は、接着部材が取り付けられた後において、接着部材に荷重が加わった場合に局所的に大きな応力が生じうる場所である。したがって、第2の実施形態において内側領域の少なくとも一部が印刷層を備えないようにすることにより、後に接着部材が接着された際に、第1の実施形態と同様に印刷層に亀裂や割れが生じにくくなる。
【0081】
接着部材不存在部投影領域の形状、すなわち、第1の主面における防汚層が実質的に存在しない領域の形状は接着部材の形状に応じて適宜設定すればよく、例えば円状、楕円状、四角状、環状等である。
【0082】
第1の実施形態と同様に、防汚層不存在部投影領域は少なくとも一部において印刷層を備えないことが好ましく、全体において印刷層を備えないことがより好ましい。
また、接着部材不存在部投影領域が環状である場合は、内側領域の少なくとも一部に当該環の周方向に沿って連続して印刷層を備えない部分が設けられることが好ましい。
また、第2の実施形態においては、外周端近傍領域と、防汚層不存在部投影領域の少なくとも一部が重なる場合、この重なる部分は印刷層を備えないことが好ましい。すなわち、防汚層不存在部投影領域の一部が外周端近傍領域に含まれる場合、防汚層不存在部投影領域の外周端近傍領域に含まれる部分は印刷層を備えないことが好ましい。第2の主面において、外周端から、外周端から100μm内側の部分までの領域と、防汚層不存在部投影領域の重なる部分が印刷層を備えないことがより好ましい。また、外周端から、外周端から200μm内側の部分までの領域と、防汚層不存在部投影領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、さらに好ましい。また、外周端から、外周端から500μm内側の部分までの領域と、防汚層不存在部投影領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、特に好ましい。また、外周端から、外周端から1000μm内側の部分までの領域と、防汚層不存在部投影領域の重なる部分が印刷層を備えないことが、最も好ましい。
また、第1の実施形態と同様に、印刷層が透明基体の端部に沿って帯状に形成されており、防汚層不存在部投影領域が、印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部とを含む構成においては、防汚層不存在部投影領域に含まれる印刷層の幅方向における一方の端部と、他方の端部との間に連続して印刷層を備えない部分が存在することが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明に関して実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。例1~例3は実施例であり、例4は比較例である。
【0084】
(例1)
(印刷層の形成)
250mm×350mm×1.3mmのガラス基体(AGC株式会社製、ドラゴントレイル)の第2の主面の端部から、該端部の50mm内側までの領域に印刷層を形成した。ただし、後述する第2の主面の接着部材接触部投影領域の境界から、該境界の1000μm内側までにあたる領域の全体には印刷層を形成しなかった。
以下の手順でスクリーン印刷によって印刷を施し、黒色の印刷層を形成した。まず、スクリーン印刷機により、黒色インク(商品名:GLS-HF、帝国インキ製造株式会社製)を3μmの厚さに塗布した。その後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上記と同じ手順で、上記同様の黒色インクを3μmの厚さに塗布した。その後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。こうして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された黒色の印刷層を形成し、第2の主面の外側周辺部に印刷層を備えたガラス基体を得た。
【0085】
(密着層の形成)
ガラス基体の第1の主面に密着層としてSiO2膜を形成した。SiO2膜はマグネトロンスパッタリング法でSiターゲットを用いて、Ar/O2雰囲気中で成膜した。膜厚は10nmとした。
【0086】
(防汚層の形成)
次に、第1の主面に、防汚層を形成した。まず、防汚層の材料として、含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成材料を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して材料溶液中の溶媒除去を行い、含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成用組成物(以下、被膜形成用組成物という。)とした。被膜形成用組成物としては、KY-185(信越化学工業株式会社製)を用いた。
次いで、上記被膜形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。温度が270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、印刷層と密着層が形成されたガラス基体を真空チャンバ内に設置した。その後、上記被膜形成用組成物が入った加熱容器に接続されたノズルから、ガラス基体の第1の主面に向けて被膜形成用組成物を供給し、成膜を行った。
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら、密着層上の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の膜厚が4nmになるまで行った。その後、真空チャンバからガラス基体を取り出した。
【0087】
(接着部材の接着)
次いで、第1の主面において、ドーナツ形状の接着部材(外径70mm、内径40mm、材質:ABS樹脂)を、接着部材の右端がガラス基体の第1の主面の右端から20mm内側の位置となるように接着して例1のカバー部材を得た。接着剤としてはハマタイトSS-310(横浜ゴム株式会社製)を使用し、室温にて20時間固定して接着した。この際、第1の主面の接着部材の取り付け位置において、接着部材の境界線から500μm以上内側の領域の全体において、防汚層を以下の条件で除去してから接着部材を接着した。
【0088】
(防汚層の除去条件)
使用マスク:防汚層除去領域の形状に穴を空けた厚さ0.7mmのガラスマスクを第1の主面上に重ねて置き、以下の大気圧プラズマ処理を行った。ドーナツ状領域の中心部分の防汚層を除去しない部分には上記のガラスマスクとは別に円形のガラスマスクを置いた。マスク材はガラスに限らず、アルミナやベークライト等耐熱性のある薄板であれば使用可能である。
使用装置:ウエッジ株式会社製プラズマ照射機PS―1200AW
使用ガス:Air
周波数:50Hz
出力:1200W
ヘッド速度・処理回数:20mm/Sec×4往復
ガラス-プラズマ照射口間距離:5mm
【0089】
(表面F量の評価)
防汚層を除去した領域、すなわち、ガラスマスクをして大気圧プラズマ処理を行った領域について、周辺部の1.5mmを除く内部領域の表面F量を調べた。防汚層を除去していない領域のF量(F-count)は0.193kcpsであった。これに対し、防汚層を除去した領域の周辺部1.5mmを除く内部領域のF量(F-count)は0.120kcps以下であった。これは、防汚層を除去しない領域のF量を100%とした場合に比べて62%以下であった。
μ‐X線光電子分光分析装置での測定条件は以下である。
測定装置:アルバックファイ社製 走査型μ‐X線光電子分光分析装置 Quantra SXM
X線源:Al Kαの100μm, 25W, 15kV
測定条件:Pass energy=224[eV], Energy step=0.4[eV/step], 1 cycle
測定角度 45° point測定
【0090】
(接着強度の評価)
次に接着部材の接着強度の評価を以下の条件で行った。なお、各例の接着部材の接着強度を評価するにあたり、比較用として、防汚層を除去しなかった以外は上記と同様の手順で接着部材を接着したサンプルも別に作製して評価した。
評価装置:PosiTest AT-A(DeFelsko社製)
治具:アルミ金属製、20mmφ
治具用プライマー:横浜ゴム株式会社製、ハマタイト プライマー No.70
引張速度:0.2MPa/sec
接着強度評価の結果、防汚層を除去せずに接着部材を接着したサンプルでは約0.75MPaの接着強度であった。一方で、上述の除去条件で防汚層を除去した例1では、約1.00MPaの接着強度であり、優れた接着強度であった。
例1のカバー部材を印刷層側から観察した概略図を
図20に示す。
図20中の点線X1及びX2は、接着部材接触部投影領域の境界線を示す。
【0091】
(例2)
印刷層を、第2の主面の端部から、該端部の25mm内側までの領域に形成した点、および、接着部材を、接着部材の右端がガラス基体の第1の主面の右端から5mm外側の位置となるように接着した点以外は、例1と同様にして例2のカバー部材を得た。
防汚層を除去した領域の周辺部1.5mmを除く内部領域のF量(F-count)は0.12kcps以下であった。これは、防汚層を除去しない領域のF量を100%とした場合に比べて62%以下であった。
接着部材の接着強度は約1.00MPaであり、優れた接着強度であった。
例2のカバー部材を印刷層側から観察した概略図を
図21に示す。
図21中の点線X1及びX2は、接着部材接触部投影領域の境界線を示す。
【0092】
(例3)
例1と同様のガラス基体の第2の主面の端部から、該端部の25mm内側までの領域に印刷層を形成し、第1の主面に防汚層を形成した。印刷層を形成する際、
図22に示すように、印刷層の幅方向において一方の端部と他方の端部との間に連続して印刷層を備えない部分を形成した。印刷層を備えない部分の幅は5mmとし、当該部分の幅方向の中心線が後述する接着部材接触部投影領域の中心を通るようにした。次いで、円板形状の接着部材(外径40mm)を、接着部材の右端がガラス基体の第1の主面の右端から5mm外側の位置となるように接着して例3のカバー部材を得た。この際、接着部材と実質的に接触する領域(円形の領域)に内接し、1つの辺がガラス基体の外周端と共通するような長方形の領域の全体において、防汚層を除去してから接着部材を接着して、例3のカバー部材を得た。上記した以外の、印刷層の形成、防汚層の形成、および接着部材の接着等における条件は例1と同様とした。
防汚層を除去した領域の周辺部1.5mmを除く内部領域のF量(F-count)は0.12kcps以下であった。これは、防汚層を除去しない領域のF量を100%とした場合に比べて62%以下であった。
接着部材の接着強度は約1.00MPaであり、優れた接着強度であった。
例3のカバー部材を印刷層側から観察した概略図を
図22に示す。
図22中の点線Xは、接着部材接触部投影領域の境界線を示す。
【0093】
(例4)
例1と同様のガラス基体の、第2の主面の端部から、該端部の40mm内側までの領域に印刷層を形成し、第1の主面に防汚層を形成した。次いで、円板形状の接着部材(外径30mm)を、接着部材の右端がガラス基体の第1の主面の右端から5mm内側の位置となるように接着して例4のカバー部材を得た。この際、第1の主面の接着部材の取り付け位置において、接着部材の境界線から500μm以上内側の領域の全体において、防汚層を除去してから接着部材を接着して、例4のカバー部材を得た。上記した以外の、印刷層の形成、防汚層の形成、および接着部材の接着等における条件は例1と同様とした。
防汚層を除去した領域の周辺部1.5mmを除く内部領域のF量(F-count)は0.12kcps以下であった。これは、防汚層を除去しない領域のF量を100%とした場合に比べて62%以下であった。
接着部材の接着強度は約1.00MPaであり、優れた接着強度であった。
例4のカバー部材を印刷層側から観察した概略図を
図23に示す。
図23中の点線Xは、接着部材接触部投影領域の境界線を示す。
【0094】
(評価)
各例のカバー部材について、下記の(1)から(4)の操作を施した。
(1)カバー部材を鉛直に立て、接着部材に5kgの重りをかけて1分間保持した。その後重りをかけたまま上下を回転させさらに1分間保持した。この操作を計50回繰り返した。
(2)カバー部材を接着部材が上になるように水平に保持し、接着部材の上に5kgの重りをのせ、1分間保持した。その後、重りを除去して1分間保持した。この操作を計50回繰り返した。
(3)ヒートサイクル試験を実施した。ヒートサイクル試験は、カバー部材を-40℃の環境に30分投入した後85℃の環境に30分投入する、というサイクルを100回繰り返すことで行った。
(4)湿熱試験機にカバー部材を投入し、70℃95%RHの環境に100時間保持した。
【0095】
その後、カバー部材をNaOH溶液(pH=11)に2時間浸漬させた。これにより、印刷層に亀裂が生じていた場合に当該亀裂からNaOH溶液が侵入してガラスを溶かすため、印刷層の亀裂が目視しやすくなる。
【0096】
その後、印刷層側の面からカバー部材を目視、および顕微鏡(50倍)で観察し、印刷層の剥がれが確認できるかどうかを確かめ、下記基準で評価した。
A:印刷層の剥がれが、目視でも顕微鏡を用いた観察でも確認できない。
B:印刷層の剥がれが、目視では確認できないが、顕微鏡を用いた観察では確認できる。
C:印刷層の剥がれが、目視で確認できる。
【0097】
比較例である例4のカバー部材では、印刷層の剥がれが目視で確認された(評価C)。
実施例である例3のカバー部材では、印刷層の耐久性が高く、印刷層の剥がれが目視では確認されなかったが、顕微鏡では確認された(評価B)。
実施例である例1及び例2のカバー部材では、印刷層の耐久性が特に高く、印刷層の剥がれが目視でも顕微鏡でも確認されなかったが(評価A)。
また、例1~3のいずれでも、接着部材を斜め方向から覗き込んでも印刷層の切れ目が視認されにくく、美観に優れた。
【0098】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年8月26日出願の日本特許出願(特願2019-154124)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0099】
10、110、210、310、410、510、610 カバー部材
1、101、201、401、501、601 透明基体
1A、101A、201A、401A、501A、601A 透明基体の第1の主面
1B、101B、201B、401B、501B、601B 透明基体の第2の主面
2、102、202、402、502、602 防汚層
3、103、203、303、403、503、603 印刷層
4、104、204、304、404、504、604 接着部材
X、X1、X2 接着部材接触部投影領域の境界
Y、Y1、Y2 接着部材接触部投影領域の境界から1000μm内側の部分
Z、Z1、Z2 接着部材接触部投影領域の境界から500μm内側の部分
W 透明基体の外周端から500μm内側の部分