(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーンポッティング組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240214BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240214BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240214BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240214BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/36
C08L83/05
C08L83/04
C09K5/14 E
(21)【出願番号】P 2021554858
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038855
(87)【国際公開番号】W WO2021090655
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019201608
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-122000(JP,A)
【文献】特開2011-148958(JP,A)
【文献】特開2016-053140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、オルガノキシシリル基を有しない、25℃における粘度が0.01~100Pa・sのオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン:1~100質量部
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立して、非置換または置換の一価炭化水素基を表し、R
2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、nは、2~100の整数であり、aは、1~3の整数である。)
(C)平均粒径が0.1μm以上5μm未満の結晶性シリカ:100~1,000質量部
(D)平均粒径が
10μm以上
30μm以下の結晶性シリカ:100~1,000質量部
(E)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンシロキサン:0.1~100質量部
(F)ヒドロシリル化反応触媒
を含み、(C)成分/(D)成分の質量比が、2/1~1/2である熱伝導性シリコーンポッティング組成物。
【請求項2】
(C)成分を2種以上または(D)成分を2種以上含む請求項1記載の熱伝導性シリコーンポッティング組成物。
【請求項3】
請求項1
または2記載の熱伝導性シリコーンポッティング組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項4】
熱伝導率が、1.0W/m・K以上であり、かつ密度が、2.2g/cm
3以下である請求項
3記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーンポッティング組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化への意識の高まりから、自動車業界では温室効果ガス低減を目的として、ハイブリット車、プラグインハイブリット車、電気自動車等の環境対策車の開発が進んでおり、それらの燃費性能を向上させる目的で、車両に搭載されるインバータが高性能化・小型化されている。
それに伴って、インバータ内のICやリアクトル等の部品も小型化され、発熱量も増大している。このような発熱する部品に対しては、従来、発熱部品と冷却器との間に、熱伝導性シリコーングリース組成物、熱伝導性シリコーンゲル組成物、熱伝導性シリコーンポッティング組成物等の熱伝導性シリコーン組成物を介在させることで、部品の冷却効率を向上させて部品を保護している。
【0003】
例えば、特許文献1では、オルガノポリシロキサン、加水分解性基含有メチルポリシロキサン、熱伝導性充填材、および硬化剤を含有する熱伝導性シリコーン組成物が提案されているが、この組成物は、微細構造を有する部品に対して密着させることが困難であった。
そこで、特許文献2では、冷却器と発熱部品をあらかじめ組み付けておいて、そこに流動性の高い熱伝導性シリコーンポッティング組成物を流し込み、発熱部品と冷却器の間を熱的に接続する手法が提案されている。
しかし、特許文献2の手法によって実用的な流動性を維持した場合、1.0W/m・K程度の熱伝導率が限界であり、近年の機器の小型化および部品の微細化に伴うさらなる発熱量の増大に十分に対応ができていない。
【0004】
この問題を解決する技術として、特許文献3,4では、熱伝導性充填材を多量に含有させて高熱伝導率化しながらも高流動性を両立させたシリコーンポッティング組成物が提案されている。
しかし、これらの組成物はアルミナを多量に含有しているため、密度が大きく、部品の総重量が重くなってしまうという問題を抱えていた。このため、インバータの性能向上においては、高熱伝導率、高流動性に留まらず、低密度な熱伝導性シリコーンポッティング組成物が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3543663号公報
【文献】特許第5304623号公報
【文献】特開2019-077843号公報
【文献】特開2019-077845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、熱伝導性充填材を多量に含んでいるにもかかわらず、高い流動性を有し、微細な空間に流れ込むことができ、硬化後は所望の熱伝導率を有し、かつ低密度な硬化物を与える熱伝導性シリコーンポッティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、熱伝導性充填材として平均粒径の異なる結晶性シリカを併用することで、熱伝導性充填材を多量に添加しても流動性が高く、かつ低密度な硬化物を与える熱伝導性シリコーンポッティング組成物を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. (A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、オルガノキシシリル基を有しない、25℃における粘度が0.01~100Pa・sのオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン:1~100質量部
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立して、非置換または置換の一価炭化水素基を表し、R
2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、nは、2~100の整数であり、aは、1~3の整数である。)
(C)平均粒径が0.1μm以上5μm未満の結晶性シリカ:100~1,000質量部
(D)平均粒径が5μm以上100μm以下の結晶性シリカ:100~1,000質量部
(E)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンシロキサン:0.1~100質量部
(F)ヒドロシリル化反応触媒
を含み、(C)成分/(D)成分の質量比が、3/1~1/10である熱伝導性シリコーンポッティング組成物、
2. 1記載の熱伝導性シリコーンポッティング組成物を硬化してなる硬化物、
3. 熱伝導率が、1.0W/m・K以上であり、かつ密度が、2.2g/cm
3以下である2記載の硬化物
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、硬化前は、高い流動性を有し、微細な空間に流れ込むことができ、硬化後は、所望の熱伝導率が得られ、低密度であるために部品の保護および軽量化に寄与することができる。このため、本発明の組成物は、例えば、トランスのような微細な構造を有する部品が冷却器に固定されている場合のポッティングに有効であり、このような部材において、硬化後は、高い熱伝導率で効率よく部品の熱を冷却器に伝熱することが可能であり、かつ低密度であるため、部品の軽量化が可能な熱伝導性シリコーンポッティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、室温または加熱下で硬化し、かつ金属、有機樹脂等に接着するものであり、
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)片末端がアルコキシシリル基等で封鎖されたオルガノポリシロキサン、
(C)平均粒径が0.1μm以上5μm未満の結晶性シリカ、
(D)平均粒径が5μm以上100μm以下の結晶性シリカ、
(E)オルガノハイドロジェンシロキサン、
(F)ヒドロシリル化反応触媒
を含有するものである。
【0011】
[(A)成分]
(A)成分は、25℃における粘度が0.01~100Pa・s、好ましくは0.06~10Pa・sであり、珪素原子に結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有し、かつ、オルガノキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンである。25℃における粘度が0.01Pa・s未満では、組成物の保存安定性が悪くなり、100Pa・sを超えると、高流動性を確保できなくなる。なお、上記粘度はB型回転粘度計による測定値(以下、同様とする。)である。
このようなオルガノポリシロキサンは、上記粘度とアルケニル基含有量を満たせば、特に限定されず、公知のオルガノポリシロキサンを使用することができ、その構造も直鎖状でも分岐状でもよく、また異なる粘度を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物でもよい。
(A)成分は、オルガノキシシリル基を有しない点で(B)成分とは区別される。
【0012】
珪素原子に結合するアルケニル基は、特に限定されるものではないが、炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、炭素数2~8のアルケニル基がより好ましい。
その具体例としては、例えばビニル、アリル、1-ブテニル、1-ヘキセニル基などが挙げられる。これらの中でも、合成のし易さやコストの面から、ビニル基が好ましい。
なお、アルケニル基の数は、2~10個が好ましく、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端(両末端または片末端)、途中のいずれに存在してもよいが、柔軟性の面では両末端にのみ存在することが好ましい。
【0013】
珪素原子に結合するアルケニル基以外の有機基は、上記要件を満たせば特に限定されるものではないが、炭素数1~20の一価炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の一価炭化水素基がより好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、n-ドデシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;2-フェニルエチル、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、その具体例としては、フルオロメチル、ブロモエチル、クロロメチル、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基が挙げられる。
これらの中でも、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、合成のし易さやコストの面から、90モル%以上がメチル基であることがさらに好ましい。
従って、(A)成分は、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンが特に好ましい。なお、(A)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
[(B)成分]
(B)成分は、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンであり、組成物の粘度を低下させて、流動性を付与する役割を有する。(B)成分は、片末端に-SiOR2基を有する点で(A)成分とは区別される。
【0015】
【化2】
(式中、R
1は、互いに独立して、非置換または置換の一価炭化水素基を表し、R
2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、nは、2~100の整数であり、aは、1~3の整数である。)
【0016】
R1の一価炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~10の一価炭化水素基が好ましく、炭素数1~6の一価炭化水素基がより好ましく、炭素数1~3の一価炭化水素基がより好ましい。
一価炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基や、これら一価炭化水素基の水素原子の一部または全部が塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルキル基等のハロゲン化一価炭化水素基などが挙げられる。
【0017】
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ヘキシル、n-オクチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル、アリル、1-ブテニル、1-ヘキセニル基等が挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル、トリル基等が挙げられる。
アラルキル基の具体例としては、2-フェニルエチル、2-メチル-2-フェニルエチル基等が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル、2-(ノナフルオロブチル)エチル、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1は、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0018】
R2のアルキル基、アルケニル基としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられ、アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル、メトキシプロピル基等が挙げられ、アシル基としては、例えば、アセチル、オクタノイル基等が挙げられる。
これらの中でも、R2はアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
nは2~100の整数であるが、好ましくは5~80の整数である。
aは1~3の整数であるが、好ましくは3である。
【0019】
(B)成分の25℃における粘度は、0.005~10Pa・sが好ましく、0.005~1Pa・sがより好ましい。このような範囲であれば、組成物からのオイルブリードによる経時での接着力低下を抑制することができ、粘度が高くなり、流動性が低下するのを防ぐことができる。
【0020】
式(1)で表されるオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【0022】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1~100質量部であるが、好ましくは10~80質量部である。1質量部未満であると、低粘度の組成物が得られず、100質量部を超えると、硬化後の物性が乏しくなる。
なお、(B)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
[(C)成分]
(C)成分は、平均粒径が0.1μm以上5μm未満、好ましくは1~4μmの結晶性シリカであり、組成物に熱伝導性を付与する役割を有する。平均粒径が0.1μm未満であると、粒子同士が凝集し易くなり、流動性に乏しくなる。(C)成分の形状は、任意であり、不定形でも球形でもよい。なお、本発明において、平均粒径はレーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準のメジアン径(D50)として測定したものとする。
【0024】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、100~1,000質量部であるが、好ましくは100~500質量部であり、より好ましくは100~300質量部である。(C)成分の配合量が、100質量部未満であると、硬化物に所望の熱伝導率を付与することができず、1,000質量部を超えると、組成物が液体状にならず、流動性に乏しいものとなる。
なお、(C)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
[(D)成分]
(D)成分は、平均粒径が5~100μm、好ましくは10~30μmの結晶性シリカであり、組成物に熱伝導性を付与する役割を有する。平均粒径が100μmを超えると、粒子そのものの流動性が低くなる場合がある。(D)成分の形状は任意であり、不定形でも球形でもよい。
【0026】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、100~1,000質量部であるが、好ましくは200~800質量部、より好ましくは250~700質量部である。(D)成分の配合量が100質量部未満であると、硬化物に所望の熱伝導率を付与することができず、1,000質量部を超えると、組成物が液体状にならず、流動性に乏しいものとなる。
なお、(D)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明においては、(C)成分と(D)成分とを併用することで所望の熱伝導性を付与しながらも組成物に流動性を与えることができる。
(C)成分/(D)成分の質量比は、3/1~1/10であり、好ましくは2/1~1/5である。(D)成分に対し、(C)成分が3倍より多いと組成物の粘度が上がってしまい、流動性が乏しくなる。また、10分の1より少なくても、組成物の粘度が上がってしまい、流動性が乏しくなる。
【0028】
[(E)成分]
(E)成分は、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上、より好ましくは3~100個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンシロキサンである。
(E)成分のオルガノハイドロジェンシロキサンの分子構造は、直鎖状、分岐状および網状のいずれでもよく、複数のオルガノハイドロジェンシロキサン鎖が連結基によって結合していてもよい。珪素原子結合水素原子は、分子鎖末端部分(両末端または片末端)および分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ存在していてもよいし、その両方に存在していてもよい。
(E)成分の珪素原子に結合する水素原子以外の有機基としては、アルケニル基を除く炭素数1~10の一価炭化水素基が挙げられ、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル基等のアルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換された、γ-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。
【0029】
(E)成分の25℃における動粘度は、特に限定されるものではないが、1~10,000mm2/sが好ましく、より好ましくは1~1,000mm2/sである。なお、上記動粘度は、オストワルド粘度計により測定した25℃における測定値である(以下、同様とする。)。また、粘度の違う数種類の(E)成分を併用してもよい。
【0030】
また、(E)成分としては、下記一般式(2)で示される環状のオルガノハイドロジェンシロキサンを使用してもよい。この化合物は、(A)成分および(B)成分と架橋する役割と接着性を付与する役割を持つ。
【0031】
【化4】
(式中、R
3は、互いに独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、R
4は、互いに独立して、水素原子、それぞれ炭素原子もしくは炭素原子と酸素原子とを介して珪素原子に結合しているエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基もしくはトリアルコキシシリル基、エーテル結合含有一価有機基、またはアリール基含有一価有機基を表すが、R
4で示される基のうち、2個以上は水素原子である。mは、2~10の整数である。)
【0032】
R3の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも合成のしやすさやコストの面から、90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0033】
上記のとおり、R4で示される基のうち、2個以上は水素原子であるが、2個以上が水素原子でない場合は、(A)成分等のアルケニル基と反応して架橋構造を形成することができなくなる。
また、R4における水素原子以外の基の具体例としては、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-グリシドキシエチル、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基等のエポキシ基含有一価有有機基;メタクリロキシプロピル、メタクリロキシプロピルメチル、メタクリロキシエチル、アクリロキシプロピル、アクリロキシプロピルメチル、アクリロキシエチル基等の(メタ)アクリロイル基含有一価有機基;トリメトキシシリルプロピル、トリメトキシシリルプロピルメチル、トリメトキシシリルエチル、トリエトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピルメチル、トリエトキシシリルエチル基等のトリアルコキシシリル基含有一価有機基;オキシアルキル基、アルキルオキシアルキル基等のエーテル結合含有一価有機基;フェニル、ジフェニル、ビスフェノールA残基等のアリール基含有一価有機基などや、これらの基の水素原子がフッ素原子等のハロゲン原子で置換された、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキルオキシアルキル基等のエーテル結合含有ハロゲン置換一価有機基などが挙げられる。
mは、2~10の整数であるが、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~4の整数であり、より一層好ましくは2である。
【0034】
式(2)で示される(E)成分の中でも、特に、下記式(3)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンが好ましい。
【0035】
【化5】
(式中、R
3およびR
4は、上記と同じ意味を表す。)
【0036】
(E)成分の具体例としては、下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、(E)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
【0038】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であるが、好ましくは10~30質量部である。0.1質量部未満であると、硬度が不十分となり、100質量部を超えると、硬化後の物性が乏しくなる。
【0039】
[(F)成分]
(F)成分は、ヒドロシリル化反応触媒である。ヒドロシリル化反応触媒は、(A)成分、場合により(A)および(B)成分のアルケニル基と(E)成分のSi-H基との間の付加反応を促進するものであればよく、従来公知のものを使用することができる。具体的には、白金族金属系触媒を用いることが好ましく、中でも、白金および白金化合物から選ばれる触媒が好ましい。
触媒の具体例としては、白金(白金黒を含む。)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・H2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中のnは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸、塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとの錯体、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィン錯体、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体などが挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
(F)成分の配合量は、触媒としての有効量であり、(A)成分、場合により(A)および(B)成分と、(E)成分との反応を進行できる量であればよく、希望する硬化速度に応じて適宜調整すればよい。
特に、(A)成分の質量に対して、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1~7,000ppmとなる量が好ましく、1~6,000ppmとなる量がより好ましい。(F)成分の配合量が上記範囲であると、より効率のよい触媒作用が期待できる。
【0041】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
例えば、室温での組成物の硬化反応を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させる目的で反応制御剤を配合してもよい。
反応制御剤としては、(F)成分の触媒活性を抑制できるものであればよく、従来公知の反応制御剤を使用することができる。
その具体例としては、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-ブチン-1-オール等のアセチレンアルコール化合物、トリアリルイソシアヌレート等の各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0042】
反応制御剤を使用する場合の配合量は、組成物のシェルフライフおよびポットライフと、組成物の硬化性とを考慮すると、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部であり、より好ましくは0.05~1質量部である。
なお、反応制御剤は、組成物への分散性を良くするために、トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で希釈して使用してもよい。
【0043】
また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の粘度を下げ、流動性を付与する目的で、両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンを添加してもよい。
両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは0.01~100Pa・s、より好ましくは0.03~10Pa・s、さらに好ましくは0.05~5Pa・sである。
両末端トリアルコキシシリル基をなす各アルコキシ基は、互いに独立して炭素数1~6のものが好ましく、炭素数1~4のものがより好ましく、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
両末端以外の珪素原子に結合する置換基としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル、アリル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基などの炭素数1~8の一価炭化水素基や、これら一価炭化水素基の水素原子の一部または全部が塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換された、例えばクロロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロゲン化一価炭化水素基などが挙げられる。
【0044】
このようなオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
【0045】
【0046】
式(4)中、R5は、互いに独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
R6は、互いに独立して炭素数1~8の非置換または置換の一価炭化水素基を表し、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル基等のアルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基などの一価炭化水素基や、これらの一価炭化水素基の水素原子の一部または全部を塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル、3-クロロプロピル、トリフルオロメチル基等のハロゲン化一価炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、特にメチル基、エチル基が好ましい。
また、rは、好ましくは1~100の整数である。
両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンを使用する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは5~20質量部である。
【0047】
その他、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、炭酸カルシウム等の補強性、非補強性充填材、顔料、染料等の着色剤を添加することもできる。
【0048】
[熱伝導性シリコーンポッティング組成物の製造方法等]
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従えばよく、例えば、(A)~(F)成分、および必要に応じてその他の成分を混合すればよく、その形態は1液タイプでも、2液タイプでもよい。
なお、1液タイプであれば、冷蔵または冷凍することで長期保存することができ、2液タイプであれば、常温で長期保存することができる。
【0049】
1液タイプの組成物は、例えば、ゲートミキサー(商品名:プラネタリミキサー、井上製作所(株)製)に、(A)、(B)、(C)および(D)成分を入れ、150℃で1時間加熱混合した後、冷却する。その後、(F)成分および反応制御剤を加えて25℃にて30分間混合する。さらに、(E)成分を加えて均一になるように25℃にて30分間混合することで得られる。
【0050】
一方、2液タイプの組成物は、(A)、(E)、(F)成分の組み合わせのみ共存させなければ、任意の組み合わせで構成することができる。例えば、ゲートミキサーに、(A)、(B)、(C)および(D)成分を入れ、150℃で1時間加熱混合し、冷却する。その後、(F)成分を加えて25℃で30分混合して得られた組成物をA剤とする。次に、ゲートミキサーに、(A)、(B)、(C)および(D)成分を入れ、150℃で1時間加熱混合し、冷却する。その後、反応制御剤を加えて室温にて30分間混合し、さらに、(E)成分を加えて、25℃で30分混合することで得られる組成物をB剤とする。これにより、A剤とB剤の2液タイプの組成物を得ることができる。
【0051】
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、25℃での粘度が、好ましくは1~100Pa・s、より好ましくは5~50Pa・sである。25℃での粘度が、1Pa・s未満では、熱伝導性充填材が沈降しやすくなることがあり、100Pa・sを超えると、流動性が乏しくなることがある。
【0052】
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、後の実施例でその測定法を詳述する23℃での流れ性が、100mm以上であることが好ましい。トランスのような微細構造を有する部品が、冷却器に取り付けてあるところに対して、シリコーンポッティング組成物を流し込む場合、好ましくは120mm以上である。流れ性の上限は、流れ性が高ければ高いほど好ましいが、測定限界がアルミニウム板の長さによるため、ここでは測定上限は400mmとなる。
【0053】
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物の硬化条件は、特に限定されるものではなく、従来公知のシリコーンゲルと同様の条件とすることができる。
なお、熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、流し込んだ後、発熱部品からの熱によって硬化させても、積極的に加熱硬化させてもよい。加熱硬化条件は、好ましくは60~180℃、より好ましくは80~150℃の温度にて、好ましくは0.1~3時間、より好ましくは0.5~2時間である。
【0054】
硬化物の25℃における熱伝導率は、1.0W/m・K以上が好ましく、より好ましくは1.5W/m・K以上である。上限は特に制限されないが、通常3.0W/m・K以下である。
硬化物の密度は、2.2g/cm3以下が好ましく、より好ましくは2.1g/cm3以下である。下限は特に制限されないが、通常1.7g/cm3以上である。
硬化物の硬度は、タイプAデュロメータによる測定値が、20以上であることが好ましく、より好ましくは25以上である。上限は特に制限されないが、通常50以下である。
【0055】
本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物を、微細な発熱部品が入ったケース内への充填材として使用すると、高流動性を有するため、微細な構造の隅々まで流れ込み、硬化後は、発熱部品等に良好に接着し、高熱伝導率を有するため、発熱部品の熱を効率よくケースへと伝えて、その信頼性を飛躍的に高めることができる。さらに、低密度であるため部品全体の軽量化に寄与できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0057】
実施例および比較例において使用した各成分を以下に示す。
(A)成分
・A-1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.06Pa・sであるジメチルポリシロキサン
・A-2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.4Pa・sであるジメチルポリシロキサン
【0058】
(B)成分
・B-1:下記式で表されるオルガノポリシロキサン(25℃における粘度:0.03Pa・s)
【化8】
【0059】
(C)成分
・C-1:平均粒径が1μmの結晶性シリカ粉末(製品名:クリスタライト5X、(株)龍森製)
・C-2:平均粒径が4μmの結晶性シリカ粉末(製品名:ミニシル15ミクロン、U.S.SILICA製)
【0060】
(D)成分
・D-1:平均粒径13μmの結晶性シリカ粉末(製品名:クリスタライトNX-7、(株)龍森製)
・D-2:平均粒径26μmの結晶性シリカ粉末(製品名:クリスタライト5K、(株)龍森製)
【0061】
(E)成分
・E-1:下記式で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン(25℃における粘度10mm
2/s)
【化9】
・E-2:下記式で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン(25℃における粘度800mm
2/s)
【化10】
・E-3:下記式で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン(25℃における粘度18mm
2/s)
【化11】
【0062】
(F)成分
・F-1:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液(上記A-3と同じジメチルポリシロキサンに溶解したもの。白金原子として1質量%含有。)
【0063】
その他の成分
・G-1:1-エチニル-1-シクロヘキサノール
・G-2:トリアリルイソシアヌレート
【0064】
・H-1:両末端がトリメトキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が1Pa・sであるオルガノポリシロキサン
【0065】
・I-1:平均粒径1μmのアルミナ粉末
・I-2:平均粒径10μmのアルミナ粉末
【0066】
[実施例1~3、比較例1~5]
(A)~(F)成分およびその他の成分を以下のように混合してシリコーンポッティング組成物を得た。
5Lゲートミキサー(商品名:5Lプラネタリミキサー、井上製作所(株)製)に表1に示す配合量で(A)、(B)、(C)、(D)および(H-1)成分を加えて150℃で2時間加熱混合した。混合物を冷却した後に、(F)成分を加えて25℃で30分混合した。次に、反応制御剤(G-1)および(G-2)成分を加えて25℃で30分混合した。最後に、(E)成分を加えて25℃にて30分混合した。
得られた組成物について以下各物性を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
[1]粘度
熱伝導性シリコーンポッティング組成物の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて20rpmにて測定した。
【0068】
[2]流れ性
熱伝導性シリコーンポッティング組成物を0.60cc量り取り、アルミニウム板(JIS H 4000:2014、幅25×長さ400×厚み0.5mm)に垂らした。垂らした後、すぐにアルミニウム板を28°に傾斜させ、23℃(±2℃)の雰囲気下で1時間放置した。放置した後の熱伝導性シリコーンポッティング組成物の長さを流れた端から端まで測定した。
【0069】
[3]熱伝導率
熱伝導性シリコーンポッティング組成物の硬化物の25℃における熱伝導率を、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性測定装置TPA-501を用いて測定した。
【0070】
[4]硬度
熱伝導性シリコーンポッティング組成物を2.0mmの厚さで120℃にて10分プレス硬化し、さらに120℃のオーブン中で50分間加熱した。得られたシリコーンシートを3枚重ねて、JIS K 6253:2012に規定されるタイプAデュロメータにより硬さを測定した。
【0071】
[5]切断時伸び、引張強さ
熱伝導性シリコーンポッティング組成物を2.0mmの厚さで120℃にて10分プレス硬化し、さらに120℃のオーブン中で50分間加熱した。得られたシリコーンシートの切断時伸びと引張り強さをJIS K 6251:2017に従って測定した。
【0072】
[6]密度
熱伝導性シリコーンポッティング組成物を2.0mmの厚さで120℃にて10分プレス硬化し、さらに120℃のオーブン中で50分間加熱した。得られたシリコーンシートの密度をJIS K 6251:2017に従って測定した。
【0073】
[7]引張せん断接着強さ
厚み1.0mmのアルミニウム板(JIS H 4000:2014)の間に、熱伝導性シリコーンポッティング組成物を、厚さ2.0mm、接着面積25mm×10mmとなるように挟み込んだ状態で、120℃で1時間加熱し、シリコーンポッティング組成物を硬化させ、接着試験片を作製した。得られた試験片の引張せん断接着強さをJIS K 6850:1999に従って測定した。
【0074】
【0075】
【0076】
表2に示されるように、実施例1~3の熱伝導性シリコーンポッティング組成物は、硬化前は良好な流動性を有し、良好な物性を示し、かつ低密度な硬化物を与えることがわかる。
一方、(C)成分および(D)成分のうち一方を有していない場合(比較例1、2)では、組成物の粘度が高くなりすぎるため、ポッティング組成物として適さないものであった。
また、(C)成分および(D)成分の結晶性シリカの代わりに従来のアルミナ粉末を使用した比較例3では、本発明の熱伝導性シリコーンポッティング組成物と比較して密度が大きいものとなった。
(C)成分の配合量が不足する比較例4では流れ性に劣り、(C)成分/(D)成分の質量比が本発明の範囲を満たさない比較例5では、組成物の粘度が高くなりすぎるため、ポッティング組成物として適さないものであった。