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  • 特許-排ガス処理設備の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】排ガス処理設備の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20240214BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B01D53/64 ZAB
B01D53/78
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022083168
(22)【出願日】2022-05-20
(65)【公開番号】P2023171006
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和巳
(72)【発明者】
【氏名】中田 耕次
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0038171(US,A1)
【文献】特表2012-502792(JP,A)
【文献】特開2022-072981(JP,A)
【文献】特開昭64-067227(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0202566(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02588908(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/64
B01D 53/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備を運転する方法であって、
前記排ガスは、タングステン化合物を含んでおり、
該排ガス処理設備は、
熱により排ガスを燃焼又は分解処理する反応室と前記反応室からの排ガスを処理する洗煙室とを有する除害装置と、
該除害装置からのガスが導入される湿式スクラバーと
を有しており、
該洗煙室の上部に第1の散水ノズルが設けられ、該湿式スクラバーの上部に第2の散水ノズルが設けられており、
該洗煙室底部と該第1の散水ノズルとを循環する水と、該湿式スクラバーの底部と該第2の散水ノズルとを循環する水との少なくともいずれか一つのpHを5~7とすることを特徴とする排ガス処理設備の運転方法。
【請求項2】
前記反応室の内壁面に沿って水を流すための散水手段が設けられており
該散水手段から流出する水のpH及び該反応室の底部に溜まる水のpHを5~8とすることを特徴とする、請求項1の排ガス処理設備の運転方法。
【請求項3】
前記水のpHを一時的にpH10以上の高pHとすることを特徴とする、請求項1の排ガス処理設備の運転方法。
【請求項4】
前記水に過酸化水素を添加することを特徴とする、請求項1~のいずれかの排ガス処理設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理設備の運転方法に係り、詳しくは、半導体製造プロセス等からの排ガスを処理するための排ガス処理設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、LED、太陽電池等の製造プロセスからは、ペルフルオロ化合物などを含んだ排ガスが排出される。なお、この排ガス中にはWF、CH、Cl、BCl、F、HF、SiH、NH、PH、TEOS(テトラエトキシシラン)、TRIS(トリエトキシシラン)、TiClなどが含まれることもある。このような排ガスを処理する除害装置では、燃焼、電気加熱、プラズマなどを用いて、ペルフルオロ化合物等を燃焼(酸化)又は熱分解反応させた後、当該装置に組み込まれた洗煙室で排ガスを洗浄し、ガス中のF等を吸収除去する。
【0003】
この除害装置として、燃焼室の内壁面に沿って水を流下させ、燃焼生成物の内壁面への付着を防止すると共に、内壁面を燃焼熱から防護するよう構成した水冷式燃焼方式の除害装置がある(特許文献1)。
【0004】
除害装置からの排ガスを更に浄化処理する装置として湿式スクラバーが広く用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-24741号公報
【文献】実開昭63-66132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
排ガス処理設備にあっては、半導体製造プロセス等からの排ガスを処理するにあたり、洗煙室や湿式スクラバーといった散水手段を備えた湿式排ガス処理装置内部や配管等において堆積物が生成し易く、排ガス処理設備を停止して堆積物を除去する作業が必要となる。なお、堆積物としてはシリカ系やタングステン系の固形物などが挙げられるが、これ以外の固形物も生成する。
【0007】
従来の排ガス処理設備にあっては、堆積物が生成した場合、装置を停止し、作業者が洗浄作業を行うようにしており、手間、コスト及び時間がかかっていた。
【0008】
特に、排ガスがWFなどのタングステン(W)化合物を多く含んでいると、排ガス処理設備にW酸化物を多く含んだ固形物が堆積し、排ガス配管や排水配管に詰まりが生じ易くなる。
【0009】
本発明は、排ガス処理設備における堆積物や付着物などの生成を抑制することができる排ガス処理設備の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の排ガス処理設備の運転方法は、電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備を運転する方法であって、該排ガス処理設備は、散水手段を備えた湿式排ガス処理装置を有しており、該湿式排ガス処理装置における水のpHを5~8とすることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記排ガス処理設備は、熱により排ガスを燃焼又は分解処理する反応室と前記反応室からの排ガスを処理する洗煙室とを有する除害装置と、該除害装置からのガスが導入される湿式スクラバーとを有しており、該洗煙室及び該湿式スクラバーは、それぞれ前記散水手段としての散水ノズルを上部に備えており、該洗煙室底部と該散水ノズルとを循環する水と、該湿式スクラバーの底部と該散水ノズルとを循環する水との少なくともいずれか一つのpHを5~8とする。
【0012】
本発明の一態様では、前記除害装置は、前記排ガスが導入される反応室と、該反応室の内壁面に沿って水を流すための前記散水手段とを備えており、該散水手段から流出する水のpH及び該反応室の底部に溜まる水のpHを5~8とする。
【0013】
本発明の一態様では、前記排ガスは、タングステン化合物を含む。
【0014】
本発明の一態様では、前記水のpHを一時的にpH10以上の高pHとする。
【0015】
本発明の一態様では、前記水に過酸化水素を添加する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、湿式排ガス処理装置の水のpHを5~8とすることにより、排ガス処理設備における堆積物や付着物の生成を抑制することができる。本発明は、特に、W(タングステン)化合物を含む排ガスを処理する場合にW酸化物を多く含む生成物の付着、堆積を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】排ガス処理設備の構成図である。
図2】湿式スクラバーの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1,2を参照して実施の形態に係る方法が適用される排ガス処理設備の一例について説明する。
【0019】
この排ガス処理設備は、反応室としての塔状の燃焼室1及び洗煙室11を有する除害装置10と、湿式スクラバー20とを備えている。なお、本図においては除害装置10と湿式スクラバー20とは1対1となるように記載されているが、通常は一つの湿式スクラバー20で複数台(例えば10台)の除害装置10から排出されるガスが処理するよう構成されている。
【0020】
この燃焼室1の上部に設けられたバーナ2に対し、半導体製造プロセスからの排ガスとブロワーからの空気が供給され、燃焼室1内において排ガスが燃焼処理される。
【0021】
なお、排ガスとしては電子部品製造プロセスで発生するガスが好適であり、特にWFなどのW化合物を含有するものが好適である。W化合物の他に、シラン類(SiH,Si,SiHClなど)や、その他のガス成分(B,PH,NH,NO,H,HSe,GeHe,AsH,CH,C,CO,Cl,F,ClF,NF,CH,NO,O,CF,C,C,CHFなど)を含んでいてもよい。
【0022】
燃焼室1の内壁面に沿って水を流すようにノズル(図示略)が設けられており、該ノズルに対して給水ライン(配管3,5,6及びポンプ4)によって工業用水(工水)等よりなる設備用水が供給される。このノズルから流出した水が燃焼室1の内壁面を水膜状に流れ下り、内壁面が燃焼熱から防護される。なお、燃焼室1の内壁面を水が水膜状に流れることにより、燃焼ガス中の水可溶成分を吸収すると共に、微粒子を捕捉する。また、ガス温度を低下させる。
【0023】
内壁面を流れ下った水は、燃焼室底部のピット1aに溜まる。
【0024】
前記の通り、ノズルへの給水ラインは、配管3、ポンプ4、配管5,6を有している。配管5,6の接合部に配管7の一端が接続されている。配管7は燃焼室1の底部のピット1aに給水するように設けられている。
【0025】
配管5にアルカリ剤を注入するように薬注装置9が設けられている。薬注装置9は、アルカリ剤の水溶液を貯留するタンクと、薬注ポンプと、薬注ポンプを制御する制御回路とを有している。
【0026】
この実施の形態では、ピット1aと、後述の1次洗煙室11のピット11aにそれぞれpH計1b,11bが設けられており、pH計1b,11bの検出信号が該制御回路に送信される。
【0027】
燃焼室1に隣接して1次洗煙室11が設置されている。燃焼室1の下部と1次洗煙室11の下部同士はダクト12によって連通しており、燃焼室1からのガスが該ダクト12を介して1次洗煙室11内に導入され、1次洗煙室11内を上昇する。
【0028】
なお、燃焼室1のピット1a内の水の一部は、該ダクト12を通って1次洗煙室11のピット11aにオーバーフローにより流出する。燃焼室1のピット1a内の水の一部は、ダクト12とは別の水移送配管によってピット11aに移送されてもよい。
【0029】
1次洗煙室11の底部のピット11aの水がポンプ14及び配管15を介して散水器16によって散水される。1次洗煙室11内を上昇してきたガスが、散水器16から散水された水と接触してガス中の水可溶成分や微粒子が水に吸収ないし捕捉される。
【0030】
1次洗煙室11を通り抜けたガスは、ガス出口17からダクト18及び送風機19により、ガス導入口25を通って湿式スクラバー20に導入される。
【0031】
湿式スクラバー20内の上部のノズル21(散水手段)に対し、湿式スクラバー20内の底部の水が循環ポンプ23及び配管22によって供給される。ガスは、該ノズル21から散水された水と接触して水可溶成分と微粒子が水に吸収ないし捕捉された後、流出口26から流出する。湿式スクラバー20には設備用水が配管24によって補給される。
【0032】
燃焼室1,1次洗煙室11及び湿式スクラバー20の底部の水は、配管31,32,33を介して取り出され、排水処理設備(図示略)に送水(ブロー)されて処理される。
【0033】
湿式スクラバー20の構成の詳細を図2に示す。湿式スクラバー20内の上部には、ミストキャッチャー40が設けられている。ノズル21の下側にはグレイチング41が設けられている。
【0034】
湿式スクラバー20の下部水槽44の一部は側方に張り出しており、その上側にポンプ23が設置されている。下部水槽44内の水は、配管22aによってポンプ23に吸引され、配管22を介してノズル21に送水される。
【0035】
ノズル21から散水された水は、中間プレート42上に落下し、該中間プレート42に設けられた落水孔43を通って下部水槽44内に落下する。
【0036】
前記ガス流入口25は、中間プレート42よりも上側の湿式スクラバー側壁面に設けられている。
【0037】
下部水槽44に前記配管24が接続されている。下部水槽44の側面の上位箇所に溢流口45が設けられている。下部水槽44内の水位が該溢流口45よりも高くなると、下部水槽44内の水が溢流口45から中継タンク46に流出し、該中継タンク46から配管47を介して前記配管33に流出する。
【0038】
下部水槽44内の底部と配管47とを連通するように配管48が設けられており、該配管48に弁49が設けられている。弁49は下部水槽44から水抜きする場合のみ開とされ、その他のときは閉とされている。
【0039】
下部水槽44に対し、薬注装置50からアルカリ剤の水溶液が配管51を介して注入可能とされている。薬注装置50は、アルカリ剤の水溶液を貯留するタンクと、薬注ポンプと、該薬注ポンプを制御する制御回路とを有している。
【0040】
この実施の形態では、配管22と中継タンク46にそれぞれpH計52,53が設けられており、pH計52,53の検出信号が該制御回路に送信される。
【0041】
この実施の形態では、pH計1b,11bで検出されるpHが5~8に維持されるように薬注装置9からアルカリ剤が配管5に添加される。なお、薬注装置9とは別に、洗煙室11にのみアルカリ剤を添加する洗煙室11専用の薬注装置を設置し、pH計11bの検出pHが5~8に維持されるようにこの薬注装置を制御してもよい。この場合、薬注装置9は、pH計1bの検出pHが5~8となるように制御される。
【0042】
また、この実施の形態では、pH計52,53で検出されるpHが5~8に維持されるように薬注装置50からアルカリ剤が下部水槽44に添加される。pH計は52,53のいずれか一方でも良く、これ以外に設けても良い。
【0043】
アルカリ剤の添加制御は、例えば、検出pHが第1基準値(例えば7.0)を下回ったときに薬注(アルカリ剤添加)を行い、検出pHが該第1基準値よりも高い第2基準値(例えば7.5)を上回るようになったときに薬注を停止するように行われる。ただし、この7.0及び7.5は一例であり、これに限定されない。
【0044】
このように、除害装置10及び湿式スクラバー20の水のpHを5~8に維持することにより、W酸化物などの固形物の付着、堆積が抑制される。
【0045】
WOがアルカリ性の水に溶解することは既知である。WOの溶解性はpH5以上、特にpH6以上になると急激に増加する。排ガス処理装置(除害装置、スクラバー)の循環水のpHを5~8とすることにより、WOが溶解し、ブローにより装置外に排出される。この時、WOは分散状態であればよく、完全に溶解させなくてもよい。
【0046】
本発明では、上記のpH制御は、常時pHが5~8となるように行われるのが好ましいが、排ガス中の酸性成分が多くなったりすることにより、pH5~8に維持することが難しくなることもある。このようなときには、一時的に高pH例えばpH10~13となるようにし、W酸化物などの固形物の溶解ないし分散を促進させるようにしてもよい。
【0047】
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、メタ珪酸ナトリウム等の無機アルカリ剤、コリン、TMAH等の有機系アルカリ剤などのアルカリ系薬剤が好適であるが、これに限定されない。アルカリ剤は、電子部品工場等からの廃アルカリであってもよい。
【0048】
半導体製造設備等の精密部品製造では、NH、コリン、TMAHなどの金属成分を含まないアルカリ剤が望ましい。さらに、Hを加え発泡させることで、固形物の分解を促進させることが可能である。
【0049】
pHを5~8(中性~アルカリ性)にすると、Caスケール、スライムの発生が懸念される。これを抑制するため、アルカリ剤だけでなく、Caスケール防止剤とスライムコントロール剤を添加するようにしてもよい。Caスケール防止剤としては、ヘキサメタリン酸ソーダやトリポリリン酸ソーダ等の無期トリポリリン酸類、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸等のホスホン酸類、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有素材、必要に応じてそれとビニルスルホン酸、アリスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホン酸基を有するビニルモノマーや、アクリルアミド等のノニオン性ビニルモノマーを組み合わせたコポリマーが使用される。スライムコントロール剤としては、ジクロログリオキシム(DCG)、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、ジブロモ-2-ニトロエタノール(BBAB)、クロロメタイソチアゾリン(Cl-MIT)などが使用される。
【0050】
また、排ガス処理装置への供給水(工水など)中にCaイオンが存在すると、固形物が沈殿するため、供給水は、Caイオン濃度が低い軟水又は純水が望ましい。
【0051】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。例えば、上記実施の形態ではpH計を除害装置10及び湿式スクラバー20にそれぞれ2箇所ずつ設置しているが、それぞれ1箇所又は3箇所以上に設置してもよい。
【0052】
上記実施の形態では、除害装置10は「燃焼式」であるが、これに限定されず、電熱式やプラズマ式などの熱を利用して除害するものであればよい。また、燃焼室1は散水手段(内壁面に沿って水を流すようにノズル)を有するが、このような設備が無いものであっても良い。
【0053】
また、上記実施の形態では、燃焼室1、1次洗煙室11及び湿式スクラバー20のいずれの装置においても循環水等のpHを5~8に維持するようにアルカリ剤が添加されているが、いずれか一つの装置においてpHを5~8に維持するようにしても良いが、WOを主成分とする固形物が堆積しやすい全ての装置に設けることが好ましい。更に、上記実施の態様は、洗煙室及び湿式スクラバーを有するものであるが、いずれか一方のみを有するものや、洗煙室を複数有するものであっても良い。
【実施例
【0054】
[試験例1]
各pHにおけるWOの存在状態(コロイド状、イオン状)を調べるため、以下の通り、WOのpH別の溶解試験を行った。
【0055】
<試験方法>
(1) 超純水500mLにNaOHを加え、pHが1.5,2,4,又は6の4種類の溶液を調製した。
(2) (1)の各溶液にそれぞれ試薬特級のWO粉末100mgを加え、充分撹拌した。その後24時間静置した。
(3) (2)の各溶液から、上澄み液を10mL採取し、ICP-MSによりW濃度を測定した。
【0056】
その結果(上澄水中のW濃度)は下記の通りであり、WOはpH4以上で溶解し易くなることが認められた。これは、WOがpH4以上でイオン化し易くなるためであると考えられる。
【0057】
<上澄水中のW濃度>
pH1.5:7mg/L
pH2:8mg/L
pH4:46mg/L
pH6:67mg/L
【0058】
[試験例2]
各pHにおけるWOの分画を実施した。試験方法は以下の通りである。。
【0059】
<試験方法>
(1) 試薬特級のWO粉末100mgを超純水500mLに添加した液を、HNO/NaOHによりpH3、5、又は7に調整した。
(2) (1)の各液を24時間静置した。
(3) (2)の各液250mLを孔径0.45μmのフィルターで濾過した。
(4) (3)で得られた各250mLの未濾過液と、250mLの濾液とについて、それぞれW濃度をICP-MSにより測定した。
【0060】
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
<考察>
表1の通り、pH3及びpH5では孔径0.45μmフィルターでW成分が除去されるが、pH7ではW成分がフィルターを透過した。これは、pH7ではW成分がイオン化しフィルターを透過したためであると考えられる。
【0063】
[試験例3]
<試験方法>
NaOH、コリン、アンモニア(NH)、コリン+H、アンモニア+Hの各水溶液(アルカリ濃度は1wt%、0.1wt%又は0.01wt%とした。H濃度はwt%濃度でアルカリと等濃度とした。)をそれぞれ500mLずつ調製した。
【0064】
また、比較のために、超純水(UPW)500mLを準備した。
【0065】
各溶液及び超純水に試薬特級のWO粉末を300mg添加し、10分撹拌した後、1μmのガラスフィルターにより吸引ろ過を行った。
【0066】
また、濾過残渣を12時間120℃で乾燥させた後、重量を測定し、ガラスフィルターを透過したWOの割合を溶解率として算出した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
<考察>
表2の通り、アルカリの濃度が高いほど高い溶解性を示した。また、Hをアルカリと等量加えても溶解率に大きな変化はなかったが、発泡効果があり溶解促進効果が見込まれた。
【0069】
[試験例4]
HNOによりpH3とした液500mLを収容したビーカーを6個(No.1~6)用意した。各ビーカーに試薬特級のWO粉末を100mg添加し、10分間撹拌した。
【0070】
その後、各ビーカーに表3の通りMgCl又はCaClを添加し、10分間撹拌した。24時間静置した後、分散状況を観察した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
<考察>
表3の通り、CaClを100mg/L添加するとWOが沈殿する。このため、排ガス処理装置への供給水としては、Caイオン濃度の低い軟水や純水が好ましいことが認められた。
【符号の説明】
【0073】
1 燃焼室
1b pH計
2 バーナ
4 ポンプ
10 除害装置
11 1次洗煙室
11b pH計
20 湿式スクラバー
21 ノズル
23 循環ポンプ
40 ミストキャッチャー
44 下部水槽
46 中継タンク
50 薬注装置
52,53 pH計
図1
図2