(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高強度ゲル
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240214BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240214BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240214BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20240214BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08F2/44 C
A61L27/16
A61L27/52
C08F220/28
C08F265/06
(21)【出願番号】P 2022508413
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010840
(87)【国際公開番号】W WO2021187530
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020050027
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 脩
(72)【発明者】
【氏名】椋木 一詞
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正法
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001596(JP,A)
【文献】国際公開第98/039808(WO,A1)
【文献】特開2010-174063(JP,A)
【文献】特開2011-132491(JP,A)
【文献】国際公開第2003/093337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
A61L 27/16
A61L 27/52
C08F 220/28
C08F 265/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一の網目構造(A)は、少なくとも第一のモノマー(a1)に由来するものであり、
前記第二の網目構造(B)は、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものであり、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマ
ー又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二の網目構造(B)が、前記第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)を含む成分から形成され
、
前記架橋剤(b2)が、下式(2)に示すポリアルキレングリコール構造を有する二官能不飽和モノマーである、高強度ゲル。
【化1】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
【化2】
ただし、式(2)中、R
3
及びR
4
はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは整数である。
【請求項2】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマ
ー又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二の網目構造(B)が、前記第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)を含む成分から形成され
、
前記架橋剤(b2)が、下式(2)に示すポリアルキレングリコール構造を有する二官能不飽和モノマーである、高強度ゲル。
【化3】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
【化4】
ただし、式(2)中、R
3
及びR
4
はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは整数である。
【請求項3】
前記第一のモノマー(a1)
がアニオン性不飽和モノマー
である、請求項1又は2に記載の高強度ゲル。
【請求項4】
網目構造(A)と、前記網目構造(A)中に形成された
架橋点を有さない直鎖構造の第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記網目構造(A)は、少なくとも第一のモノマー(a1)に由来するものであり、
前記第二のポリマー(B’)は、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものであり、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマ
ー又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二のポリマー(B’)が、前記第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化5】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
【請求項5】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合することにより第一の網目構造(A)中に絡み合うように形成された第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマ
ー又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、
架橋点を有さない下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二のポリマー(B’)が、前記第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化6】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
【請求項6】
前記第一のモノマー(a1)
がアニオン性不飽和モノマー
である、請求項
4又は
5に記載の高強度ゲル。
【請求項7】
前記第二のモノマー(b1)の分子量が2000以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の高強度ゲル。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むモデル臓器。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むロボット用部材。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むセンサー材料。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むインプラント用材料。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む再生医療用足場材料。
【請求項13】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む土壌改質剤。
【請求項14】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む3Dプリンタ造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ゲルに関する。
本願は、2020年3月19日に、日本に出願された特願2020-050027号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、自重の数百乃至数千倍の溶媒を保持することができる材料として、従来から高吸水性樹脂、紙おむつや生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シート等に利用されている。また、ゲル材料は、薬物の徐放性も有し、ドラッグデリバリーシステムや創傷被覆材等の医療材料にも応用されている。また、ゲル材料は、衝撃吸収材料、制振材料、防音材料等にも利用されており、その用途は多岐に渡る。
しかしながら、ゲル材料は一般的に強度が低く、微小な応力で構造が破壊されてしまうため、強度が必要とされる用途には不向きであった。
そこで、近年、従来のゲル材料から強度を大幅に向上させた様々な新規ゲル材料が提案されている。
【0003】
強度を向上させたゲル材料としては、下記の(1)~(3)が提案されている。
(1)架橋点が主鎖に沿って動くトポロジカルゲル(特許文献1)。
(2)架橋点として親水性のクレイを用いたナノコンポジットゲル(特許文献2)。
(3)2種類の網目構造が相互に絡み合った構造を有するダブルネットワークゲル(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第3475252号公報
【文献】日本国特許第3914489号公報
【文献】日本国特許第4381297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した(1)~(3)のゲルは、従来のゲルに比べて伸び及び強度の点で共に優れており、様々な応用、産業的利用が期待されている。
特に、(3)のダブルネットワークゲルは、第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、第二のモノマー(b1)を重合等することにより第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有する。この相互侵入網目構造を有するダブルネットワークゲルに関しては、伸び及び強度のバランスを設計することが自在であり、透明性が高い等の点でも優れている。また、架橋剤の添加量を調整することで、より高弾性、高強度のゲルを得ることができる。
【0006】
ところが上記の(1)~(3)のゲル等の従来のゲル材料においては、ゲルが例えば水等の溶媒を網目構造の内部に保持する場合には、零度以下の低温でゲル内部の水が凍ってしまい、ゲルの優れた特性の一つである柔軟性が損なわれてしまうという問題がある。ゲル材料の産業上の利用を考えると、強度を高めるだけでなく、溶媒が凍結するような低温下でもゲルが凍結せずに柔軟性を維持できることが望まれる。
【0007】
本発明は、高強度であり、低温下でも内部の溶媒が凍結しにくく、柔軟性を維持できるゲル材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ダブルネットワークゲルにおいて、側鎖にポリアルキレングリコールを有するモノマーであり、特定のモノマーを第一のモノマーとして用い、ある特定の分子量範囲のモノマーを第二のモノマーとして用いた場合に、高い強度を維持したまま、低温下でも内部の溶媒が凍結せずに柔軟性、透明性が維持されたゲル材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一の網目構造(A)は、少なくとも第一のモノマー(a1)に由来するものであり、
前記第二の網目構造(B)は、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものであり、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二の網目構造(B)が、前記第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化1】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
[2] 第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二の網目構造(B)が、前記第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化2】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
[3] 前記第一のモノマー(a1)が、少なくともアニオン性不飽和モノマーを含む、[1]又は[2]に記載の高強度ゲル。
[4] 前記架橋剤(b2)が、下式(2)に示すポリアルキレングリコール構造を有する二官能不飽和モノマーである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の高強度ゲル。
【化3】
ただし、式(2)中、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは整数である。
[5] 網目構造(A)と、前記網目構造(A)中に形成された直鎖構造の第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記網目構造(A)は、少なくとも第一のモノマー(a1)に由来するものであり、
前記第二のポリマー(B’)は、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものであり、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二のポリマー(B’)が、前記第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化4】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
[6] 第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合することにより第一の網目構造(A)中に絡み合うように形成された第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a1)が、アニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)が、下式(1)に示すポリアルキレングリコール構造を有する、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第二のモノマー(b1)の分子量が300超であり、
前記第二のポリマー(B’)が、前記第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている、高強度ゲル。
【化5】
ただし、式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。
[7] 前記第一のモノマー(a1)が、少なくともアニオン性不飽和モノマーを含む、[5]又は[6]に記載の高強度ゲル。
[8] 前記第二のモノマー(b1)の分子量が2000以下である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の高強度ゲル。
[9] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むモデル臓器。
[10] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むロボット用部材。
[11] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むセンサー材料。
[12] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含むインプラント用材料。
[13] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む再生医療用足場材料。
[14] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む土壌改質剤。
[15] [1]~[8]のいずれか一項に記載の高強度ゲルを含む3Dプリンタ造形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高強度であり、低温下でも内部の溶媒が凍結しにくく、柔軟性を維持できるゲル材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の相互侵入網目構造を有するゲルの模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のセミ相互侵入網目構造を有するゲルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
「単官能不飽和モノマー」とは、1分子中に1個の炭素-炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
「多官能不飽和モノマー」とは、重合性官能基を2個以上有する不飽和モノマーを意味する。
「重合性官能基」とは、重合中に反応し得る官能基であり、多官能不飽和モノマー中の重合性官能基が2個以上反応することで、架橋点を形成し網目構造が形成される。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
「網目構造」とは、不飽和モノマーを重合することにより形成されたポリマー同士を架橋することにより、三次元に張り巡らされた網の目のような構造を意味する。前記構造は、直鎖状のポリマーとは異なり、網目内に溶媒を保持することができる。
「ハイドロゲル」とは、ポリマーで構成された網目構造中に水が溶媒として取り込まれているゲルを意味する。
【0013】
[高強度ゲル]
本発明の高強度ゲルとしては、下記の(i)、(ii)の2種類のゲルが挙げられる。
(i)第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲル(第一の態様)。
(ii)第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に形成された直鎖構造の第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲル(第二の態様)。
【0014】
相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)及び第二の網目構造(B)の2つの網目構造が重なり合い、相互に絡み合っている構造を意味する。
セミ相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)と、架橋点を有さない直鎖状の第二のポリマー(B’)とが別々に存在するのではなく、相互に絡み合っている構造を意味する。
以下、これらをまとめて「(セミ)相互侵入網目構造」ということがある。
より詳しく説明すると、「相互侵入網目構造ハイドロゲル」とは、ベースとなる網目構造に、他の網目構造が、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、
図1に示すように、複数の架橋点1を有する第一の網目構造(A)と、複数の架橋点2を有する第二の網目構造(B)とから構成され、これら第一の網目構造(A)と第二の網目構造(B)が、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。
「セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル」とは、ベースとなる網目構造に、直鎖状のポリマーが、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、
図2に示すように、複数の架橋点3を有する第一の網目構造(A)と、直鎖状の第二のポリマー(B’)とから構成され、これら第一の網目構造(A)と直鎖状の第二のポリマー(B’)が、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。
【0015】
<第一の態様>
本発明の第一の態様に係る高強度ゲルは、第一の網目構造(A)と、第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有する。
【0016】
(第一の網目構造(A))
第一の網目構造(A)は、少なくとも第一のモノマー(a1)に由来するものである。
第一の網目構造(A)は、好ましくは第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された網目構造である。
前記第一のモノマー(a1)は、単官能不飽和モノマーである。前記第一のモノマー(a1)としては、アニオン性不飽和モノマー(a1-1)及び/又はカチオン性不飽和モノマー(a1-2)を用いる。
アニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーを使用することにより、ゲルの強度が高くなる。
【0017】
アニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において負に帯電するモノマーを意味する。
第一の網目構造(A)を第二のモノマー(b1)の溶液(以下、「第二のモノマー溶液」という。)に浸漬した際、第一の網目構造(A)においてアニオン性不飽和モノマー(a1-1)に由来する単位の酸性基が解離することで、アニオン同士が反発して第一の網目構造(A)が膨潤挙動を発現し、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入することが容易になる。
【0018】
アニオン性不飽和モノマー(a1-1)としては、例えば、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等);カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸等);リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸等);これらの塩等が挙げられる。これらの中でも、酸性度が高く、水中で酸性基がより解離しやすいことから、スルホン酸基を有する不飽和モノマー、カルボン酸基を有する不飽和モノマーが好ましく、スルホン酸基を有する不飽和モノマーがより好ましい。
これらアニオン性不飽和モノマー(a1-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
第一のモノマー(a1)中のアニオン性不飽和モノマー(a1-1)の含有量の下限値は、特に限定されないが、第一のモノマー(a1)100モル%のうち、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。
第一のモノマー(a1)中のアニオン性不飽和モノマー(a1-1)の含有量の上限値は、特に限定されないが、第一のモノマー(a1)100モル%のうち、通常、100モル%以下である。
アニオン性不飽和モノマー(a1-1)の含有量が前記下限値以上であれば、第一の網目構造(A)の膨潤挙動が発現しやすく、充分な機械強度を有するゲルを得ることが容易になる。
【0020】
カチオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正に帯電するモノマーを意味する。
カチオン性不飽和モノマー(a1-2)としては、例えば、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに代表されるような不飽和4級アンモニウム塩等が挙げられる。
カチオン性不飽和モノマー(a1-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
アニオン性不飽和モノマー(a1-1)とカチオン性不飽和モノマー(a1-2)とを併用してもよい。
アニオン性不飽和モノマーの方が、カチオン性不飽和モノマーより、第一の網目構造(A)の膨潤挙動の発現しやすさの観点から好ましい。
【0022】
また、第一の網目構造(A)は、必ずしも第一のモノマー(a1)からなる成分から形成されている必要はなく、第一のモノマー(a1)に加えて、他の不飽和モノマーを含む成分から形成されてもよい。前記他の不飽和モノマーとしては、例えば、ノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。
ノニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正負のいずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱であるモノマーを意味する。
【0023】
ノニオン性不飽和モノマーの種類は、溶媒に可溶であれば特に限定されない。
ノニオン性不飽和モノマーとしては、公知のモノマーが挙げられる。
ノニオン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等)、アクリロニトリル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル等の水溶性のものや、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、反応性官能基を有する(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)等の水溶性に乏しいノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。
これらノニオン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
第一の網目構造(A)は、架橋剤として多官能不飽和モノマー(a2)を用いて形成した網目構造である。第一のモノマー(a1)の重合中に、多官能不飽和モノマー(a2)中の重合性官能基が2個以上反応することで架橋点が形成され、第一の網目構造(A)となる。
【0025】
多官能不飽和モノマー(a2)としては、公知の多官能不飽和モノマーが挙げられる。
2官能不飽和モノマーとして、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、モノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能不飽和モノマーとして、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4官能不飽和モノマーとして、例えば、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、第一の網目構造が膨潤しやすくなることから、2官能不飽和モノマー、3官能不飽和モノマーが好ましく、2官能不飽和モノマーがより好ましい。
これら多官能不飽和モノマー(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
多官能不飽和モノマー(a2)の添加量は、第一のモノマー(a1)の100モル%に対して、0.5~20モル%が好ましく、1~15モル%がより好ましく、2~12モル%がさらに好ましい。
多官能不飽和モノマー(a2)の添加量が前記下限値以上であれば、第一の網目構造(A)を有するゲルの形状を保ちやすく、第二のモノマー(b1)を導入する際の第一の網目構造(A)の取り扱いが容易になる。また、
多官能不飽和モノマー(a2)の添加量が前記上限値以下であれば、第一の網目構造(A)が充分に膨潤しやすく、第一の網目構造(A)に第二のモノマー(b1)を充分に吸収させることが容易になる。
【0027】
(第二の網目構造(B))
第二の網目構造(B)は、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものである。
第二の網目構造(B)は、好ましくは第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)中に形成された網目構造である。そして、第二の網目構造(B)は、第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)を含む成分から形成されている。
【0028】
第二のモノマー(b1)は、電気的に中性な単官能不飽和モノマーである。
第二のモノマー(b1)としては、例えば、ノニオン性単官能不飽和モノマーが挙げられる。
ノニオン性単官能不飽和モノマーとは、水中において正負いずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱である、単官能不飽和モノマーである。
【0029】
第二のモノマー(b1)は、下式(1)で表されるモノマーである。
【0030】
【0031】
ただし、式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であり、nは整数である。nは4~43が好ましく、4~30がより好ましく、4~15がさらに好ましい。nがこの範囲であれば、第二のモノマー(b1)の分子量が300超かつ2000以下となりやすい。
【0032】
第二のモノマー(b1)の分子量は300超であり、400以上が好ましく、450以上がより好ましい。第二のモノマー(b1)の分子量が前記下限値超であれば、低温下でも凍結しにくく、柔軟性を維持したゲルが得られる。
第二のモノマー(b1)の分子量は、上限値については特に限定されないが、例えば、2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。第二のモノマー(b1)の分子量が前記上限値以下であれば、第一の網目構造(A)を第二のモノマー溶液に浸漬した際、第二のモノマーが第一の網目に侵入しやすくなるため、透明で高強度なゲルを得ることが容易となる。
【0033】
前記式(1)で表されるモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート又はエトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート又はメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましく、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
これら前記式(1)で表されるモノマーの中で、分子量が300超2000以下であるモノマーとしては、例えば、商品名「AM-30G」(n=3)、「AM-90G」(n=9)、「AM-230G」(n=23)(以上、新中村化学工業社製);商品名「ブレンマーAE400」(n=10)(日本油脂社製)等が挙げられる。分子量が300超である前記式(1)で表されるモノマーとしては、商品名「AM-90G」、「AM-230G」、「ブレンマーAE400」等が挙げられる。
第二のモノマー(b1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
第二の網目構造(B)は、必ずしも第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)のみからなる成分から形成されている必要はなく、第二のモノマー(b1)及び架橋剤(b2)に加えて、他の不飽和モノマーをさらに含む成分から形成されてもよい。
一般に、前記式(1)で表されるような、分子量の大きな側鎖を有するモノマーは、運動性が低下するため重合反応の進行が遅い。そのため、重合反応の進行を促進するために、他の不飽和モノマーを含んでいてもよい。他の不飽和モノマーとしては、例えば、前記ノニオン性不飽和モノマーとして例示したモノマーが挙げられる。
【0035】
第二のモノマー(b1)の含有量は、第二の網目構造(B)の形成に用いる全モノマー100質量%のうち、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
第二のモノマー(b1)の含有量が前記下限値以上であれば、低温下でも柔軟性を維持したハイドロゲルが得られやすい。
【0036】
第二の網目構造(B)は、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(b2)により形成された架橋を有している。すなわち、本発明の第一の態様に係る高強度ゲルの第二の網目構造(B)は、架橋剤として多官能不飽和モノマー(b2)を用いて形成した網目構造である。
【0037】
多官能不飽和モノマー(b2)は、1分子中に重合性官能基を2個以上有していれば、特に限定されない。多官能不飽和モノマー(b2)としては、上述の多官能不飽和モノマー(a2)として例示したものを用いることができるが、重合性官能基を2個有する二官能不飽和モノマーを用いることが好ましく、下式(2)に示すような、ポリアルキレングリコール構造を有する二官能不飽和モノマーを用いることがより好ましい。
【0038】
【0039】
ただし、式(2)中、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは整数である。
ここで、R3及びR4は、式(1)で示す第二のモノマー(b1)のR1と同一でもよく異なってもよい。また、式(2)におけるmは、式(1)におけるnと同一でもよく、異なってもよい。また、mは1~100が好ましく、2~50がより好ましく、4~20がさらに好ましい。mがこの範囲であれば、粘度が大きくなりすぎずに取り扱いがしやすく、また2つ目の不飽和基の反応が進みやすくなる。
【0040】
ポリアルキレングリコール構造を有する二官能モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、得られるゲルがより柔軟になることから、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
多官能不飽和モノマー(b2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
一般的に、架橋剤として多官能不飽和モノマーを用いる場合、架橋密度を高くする観点から、モノマー分子中の重合性官能基間の距離が短いほど良いとされている。一方で、多官能不飽和モノマー中の重合性官能基の1つが重合反応に寄与した後は、残った重合性官能基の反応性が低下することが知られている。
本発明の第一の態様においては、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(b2)を用いるため、1つの重合性官能基が重合した後も、残りの重合性官能基の運動が束縛されずに重合反応に寄与しやすくなる。これにより、網目構造の形成に寄与しないポリマー鎖が減り、最終的に得られる(セミ)相互侵入網目構造を有するゲルが高強度なものとなる。
【0042】
本発明においては、第二の網目構造(B)の架橋度を第一の網目構造(A)の架橋度よりも小さくすることが好ましい。第二の網目構造(B)の架橋度が第一の網目構造(A)の架橋度より小さいと、ゲルの機械特性、特に伸びが損なわれにくくなる。
第一の網目構造(A)における架橋度とは、第一のモノマー(a1)100モル%に対する多官能不飽和モノマー(a2)の添加量を意味する。
第二の網目構造(B)における架橋度とは、多官能不飽和モノマー(a2)による架橋を第二のモノマー(b1)の重合と同時に行う場合、第二のモノマー(b1)100モル%に対する多官能不飽和モノマー(b2)の添加量を意味する。第二の網目構造(B)の架橋をその他の方法で行う場合は、第二のモノマー(b1)に由来するモノマー単位のうち、架橋に寄与しているモノマー単位の割合を、架橋点が結び付けているポリマー鎖の数で割った値で架橋度を求めることができる。架橋点が結び付けているポリマー鎖の数とは、例えば、2種のモノマーを反応させて架橋点とする場合には2である。3価に帯電したホウ酸でイオン結合させる場合には3である。
【0043】
<第一の態様に係る高強度ゲルの製造方法>
本発明の第一の態様に係る高強度ゲルの製造方法としては、下記の製造方法が挙げられる。
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y)前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と
を有する、相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
【0044】
(工程(x))
本発明の第一の態様に係る高強度ゲルの製造方法は、工程(x)において、第一の網目構造(A)が、前述の第一のモノマー(a1)を用いて形成されるものであれば、特に限定されないが、ここでは前述の第一のモノマー(a1)と、多官能不飽和モノマー(a2)により形成されるものを例として記載する。
まず、第一のモノマー(a1)、多官能不飽和モノマー(a2)、重合開始剤等を、溶媒に溶かして第一のモノマー溶液を調製する。ついで、第一のモノマー溶液を容器や枠へ流し込み、前記溶液に熱又は光を当てることにより、第一のモノマー(a1)が重合、架橋されて三次元架橋ポリマーである第一の網目構造(A)が形成される。
【0045】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。アルキルフェノン系開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製、Omnirad1173)等が挙げられる。
【0046】
架橋方法としては、多官能不飽和モノマー(a2)を利用する方法のみで第一の網目構造(A)を形成することもできるが、多官能不飽和モノマー(a2)を用いる方法と、工程(y)において後述するエポキシ開環による架橋やイオン架橋等を併用してもよい。
【0047】
(工程(y))
工程(y)では、第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、多官能不飽和モノマー(b2)等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、多官能不飽和モノマー(b2)等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱又は光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、ポリマーとする。
前記ポリマーの架橋は、第二のモノマー(b1)の重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成することにより、相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
【0048】
第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入する方法としては、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を溶解した第二のモノマー溶液中に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、第一の網目構造(A)が溶媒を吸収し、膨潤していく過程で、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に取り込ませる方法が簡便である。この際、第一の網目構造(A)の形成に多官能不飽和モノマー(a2)を用いていることで、第一の網目構造(A)中への第二のモノマー(b1)の導入が容易となり、高強度ゲルを調製することが可能となる。
【0049】
重合方法は、工程(x)における重合方法と同じ方法を用いることができる。
なお、第一の網目構造(A)が不透明で充分に光を透過しない場合には、熱重合開始剤によるラジカル重合法が好ましい。また、温度によって挙動の変わる不飽和モノマーを用いる場合には、光重合開始剤による光重合法が好ましい場合もある。
第一のモノマー(a1)の重合方法と、第二のモノマー(b1)の重合方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
工程(y)における架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法等が挙げられる。具体的には、下記の架橋方法が挙げられる(第二の網目構造(B)の場合を記載しているが、第一の網目構造(A)の場合、多官能不飽和モノマー(a2)と、これらの方法と同様の方法を併用することも可能である)。特殊な設備を必要としない、製造工程が複雑にならない、操作が簡便である、網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましいが、これらを併用することも可能である。
(α)1分子中に2個以上の炭素-炭素不飽和二重結合を有する多官能不飽和モノマー(b2)を第二のモノマー(b1)とともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によって、第二のモノマー(b1)により形成されたポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)を用いて、イオン結合又は配位結合によって架橋する方法。
【0051】
本発明における第一の様態では、第一のモノマー(a1)がアニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーを有していることから、第二のモノマー(b1)を有する溶液に浸漬した際、第二のモノマー(b1)をより多く取り込むことが可能となり、強度が上がる。さらに、第二のモノマー(b1)の分子量が300を超えることで、水などの溶媒との相溶性に優れ、かつ比較的融点の低いポリアルキレングリコール構造を有する相互侵入網目構造を有する本発明のゲルとなる。このような構成である本発明のゲルは、高強度であるとともに低温特性や透明性にも優れた効果を発現したものと考えられる。
【0052】
<第二の態様>
本発明の第二の態様に係る高強度ゲルは、第一の網目構造(A)と、前記第一の網目構造(A)中に形成された第二のポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有する。
第二の態様に係る高強度ゲルにおいて、第一の網目構造(A)の詳細及び好ましい態様は、第一の態様に係る高強度ゲルにおいて第一の網目構造(A)について説明した内容と同内容である。
【0053】
(第二のポリマー(B’))
第二のポリマー(B’)は、直鎖構造であり、少なくとも第二のモノマー(b1)に由来するものである。
第二のポリマー(B’)は、好ましくは、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された架橋点を有さない直鎖状のポリマーである。そして、第二のポリマー(B’)は、第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている。
第二のモノマー(b1)は、第一の態様に係る高強度ゲルにおいて第二のモノマー(b1)について説明した内容と同内容とすることができる。例えば、第二の態様においても、第二のモノマー(b1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、第二のモノマー(b1)の種類、含有量も、第一の態様に係る高強度ゲルにおいて第二のモノマー(b1)について説明した内容と同内容とすることができる。
【0054】
<第二の態様に係る高強度ゲルの製造方法>
本発明の第二の態様に係る高強度ゲルの製造方法としては、下記の製造方法が挙げられる。
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y’)前記第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、前記第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に第二のポリマー(B’)を形成する工程と
を有する、セミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
【0055】
(工程(x))
本発明の第二の態様に係る高強度ゲルの製造方法において、工程(x)は第一の態様に係る高強度ゲルの製造方法における工程(x)と同様である。
【0056】
(工程(y’))
本発明の第二の態様に係る高強度セミ相互侵入網目構造を有するゲル(ii)の製造方法(II)は、工程(y’)を有する。
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱又は光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、第二のポリマー(B’)とする。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中に第二のポリマー(B’)を形成することにより、セミ相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
第二のモノマー(b1)の導入方法及び重合方法は、工程(y)における導入方法及び重合方法と同様である。
【0057】
本発明の高強度ゲルには、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加材を配合してもよい。
【0058】
本発明における第二の様態でも、第一の様態と同様、第一のモノマー(a1)がアニオン性不飽和モノマー及び/又はカチオン性不飽和モノマーを有していることから、第二のモノマー(b1)を有する溶液に浸漬した際、第二のモノマー(b1)をより多く取り込むことが可能となり、強度が上がる。さらに、第二のモノマー(b1)の分子量が300を超えることで、水などの溶媒との相溶性に優れ、かつ比較的融点の低いポリアルキレングリコール構造を有するセミ相互侵入網目構造を有する本発明のゲルとなる。このような構成である本発明のゲルは、高強度であるとともに低温特性や透明性にも優れた効果を発現したものと考えられる。
【0059】
<作用効果>
以上説明した本発明の高強度ゲルは、相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するため、高強度である。
加えて、相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を構成する第二の網目構造(B)又は第二のポリマー(B’)が、分子量が300超の第二のモノマー(b1)を含む成分から形成されている。そのため、低温下でも内部の溶媒が凍結しにくく、柔軟性を維持できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
<実施例1>
(第一の網目構造(A)の形成)
第一のモノマー(a1)である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPS)の25質量%水溶液に、第一のモノマー(a1)の100モル%に対して、多官能不飽和モノマー(a2)であるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)の4モル%と、光重合開始剤(BASF社製、Omnirad1173、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン)の0.1モル%とを溶かし、第一のモノマー溶液を調製した。
次いで、得られた第一のモノマー溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に枠状のシリコーンゴムシート(厚さ1mm)を置いた型に流し込み、その上を別のPETフィルムで覆い、さらに上下をガラス板で挟んでサンプルを作製した。このサンプルに、光ベルト方式の紫外線照射装置を用いて紫外線を照射することにより、サンプル内の第一のモノマー溶液をゲル化し、第一の網目構造(A)を有するハイドロゲル前駆体とした。
【0062】
(ハイドロゲルの作製)
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の100モル%と、前記第二のモノマー(b1)の100モル%に対して、多官能不飽和モノマー(b2)であるポリエチレングリコールジアクリレート(O9DA、式(2)中のm=9)の0.1モル%と、光重合開始剤(BASF社製、Omnirad1173、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン)の0.005モル%とを、これらの成分を合わせた固形分が40質量%になるように、150質量部の純水に溶解し、第二のモノマー溶液を調製した。
調製した第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するハイドロゲル前駆体を浸漬し、この状態で12時間以上放置することで、第二のモノマー溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で十分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するハイドロゲル前駆体を、PETフィルムで挟み込み、さらに上下をガラス板で挟み込んで、前記ハイドロゲル前駆体に光ベルト方式の紫外線照射装置を用いて紫外線を照射して、重合を行い、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)が形成された相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0063】
<実施例2>
第二のモノマー(b1)としてメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO13A、式(1)中のn=13)を用いて第二のモノマー溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0064】
<比較例1>
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにアクリルアミド(AAm、分子量71)を用い、多官能不飽和モノマー(b2)としてポリエチレングリコールジアクリレート(O9DA、式(2)中のm=9)の代わりにN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を用い、溶媒として150質量部の純水に代えて300質量部の純水を用いて第二のモノマー溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0065】
<比較例2>
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにアクリルアミド(AAm)を用い、多官能不飽和モノマー(b2)としてポリエチレングリコールジアクリレート(O9DA、式(2)中のm=9)の代わりにN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を用いたことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0066】
<比較例3>
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにアクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(MeO3A)を用いたことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0067】
<比較例4>
(第一の網目構造の形成)
第一のモノマー(a1)である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPS)の代わりにアクリルアミド(AAm)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして第一の網目構造を有するハイドロゲル前駆体を得た。
【0068】
(ハイドロゲルの作製)
実施例1と同様にして第二のモノマー溶液を調製した。
調製した第二のモノマー溶液と、得られた第一の網目構造を有するハイドロゲル前駆体とを用いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0069】
<評価>
実施例1、2、及び比較例1~4で得られたハイドロゲルについて、下記の(1)~(3)の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
(1)含水率:
含水率は、以下の式から算出した。
含水率=(乾燥前のハイドロゲルの質量(g)-乾燥後のゲルの質量(g))/乾燥前のハイドロゲルの質量(g)×100
ここで、乾燥後のゲルの質量は、加熱乾燥式水分計MS-70(エー・アンド・デイ製)を用いて測定した。具体的には、ハイドロゲル約1gを200℃に加熱して3分間保持した後に、150℃に温度を下げてその温度を維持し、含水率の時間変化が0.50%/min以内となった時点を乾燥後の状態として測定した。
(2)引張破断応力、引張破断伸度:
得られたゲルをJIS K 6251の3号形ダンベル片に打ち抜き、前記ダンベル片を用いて引張試験を実施した。引張試験もJIS K 6251に準拠し、試験片が破断した際の応力と伸度を測定した。チャック間の距離は50mm、引張速度は500mm/minとした。
引張破断応力及び引張破断伸度を測定できなかった場合、測定値に代えてデータなしを示す「n.d.」を用いた。
(3)低温性能評価:
得られたゲルを-18℃の冷凍庫に12時間以上置いたものについて、目視と手で触った触感により下記の基準で評価した。
A(良好):冷却前の柔軟性を維持していたもの。
D(不良):全体が凍結して固化したもの。
【0070】
【0071】
表1中の略号の意味は、下記の通りである。
〈第一のモノマー(a1)〉
《アニオン性不飽和モノマー(a1-1)》
NaAMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(分子量:229)
〈多官能不飽和モノマー(a2)/多官能不飽和モノマー(b2)〉
MBAAm:N,N’-メチレンビスアクリルアミド(分子量:154)
〈第二のモノマー(b1)〉
《式(1)で表されるモノマー》
MeO9A:メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(式(1)中のnは9である。平均分子量:483)
MeO13A:メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(式(1)中のnは13である。平均分子量:658)
〈多官能不飽和モノマー(b2)〉
《式(2)で表されるモノマー》
O9DA:ポリエチレングリコールジアクリレート(式(2)中のmは9である。平均分子量:522)
〈他のモノマー〉
AAm:アクリルアミド(分子量:71)
MeO3A:アクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(分子量:218)
〈光重合開始剤〉
Omnirad1173:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(分子量:164)
なお、「-」はその成分を配合していないことを示す。
【0072】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1及び2で得られたハイドロゲルでは、引張破断応力、引張破断伸度が、比較例1のハイドロゲルと同等であり、高強度であった。また、実施例1及び2のハイドロゲルでは、柔軟性に関する低温性能評価ついても良好な結果であった。
【0073】
比較例1で得られたハイドロゲルは低温下での柔軟性が不合格であった。加えて、比較例1で用いたアクリルアミドは、一般にハイドロゲルの原料としてよく用いられるモノマーであるが、生体への毒性が高いことが知られている。しかしながら、本発明で用いるような第二のモノマー(b1)は生体への刺激性が低いことが知られている。そのため、本発明の高強度ゲルは、人体と接触するような用途にも好適な材料といえる。
【0074】
第一のモノマー(a1)の代わりにアクリルアミドを用いて実施例1と同様の条件で得られた比較例2のハイドロゲルでは、実施例1のハイドロゲルより強度が向上しているものの、含水率及び低温下での柔軟性については実施例1のハイドロゲルよりも低下していた。
【0075】
第二のモノマー(b1)の代わりに分子量が300以下であるアクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(MeO3A、分子量218)を用いた比較例3のハイドロゲルでは、引張破断応力が実施例1のハイドロゲルより高かったが、低温下での柔軟性については実施例1のハイドロゲルより低下していた。
【0076】
電気的に中性なモノマーを第一のモノマーとして用いた比較例4のハイドロゲルでは、引張試験を実施するに足る強度とならなかった。
【0077】
<実施例3>
(第一の網目構造(A)の形成)
シクロヘキサン467g、ソルビタンモノオレエート(花王社製、レオドールAO-10)10.6g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王社製、エマルゲン130K)2.61gを2000mLの四つ口フラスコに加えて撹拌・混合した。
次に、第一のモノマー(a1)である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPS)の50質量%水溶液に、第一のモノマー(a1)の100モル%に対して、多官能不飽和モノマー(a2)であるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)の4モル%と、熱重合開始剤(和光純薬社製、APS、過硫酸アンモニウム)の1モル%を500mlのガラスビーカーに加えた。さらに、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムと、N,N’-メチレンビスアクリルアミドと、熱重合開始剤の合計の濃度が25質量%となるように水を加え、撹拌・混合し、第一のモノマー溶液を調製した。
この第一のモノマー溶液を前記のフラスコ中に投入した後、室温下、撹拌数500rpmで混合分散し、ここに窒素ガスを500mL/minの流速で2時間バブリングした。
ウォーターバスを加熱してフラスコ内容液を60℃に昇温し、重合を開始した。60℃に達した後、そのまま2時間重合させた。
その後、フラスコをウォーターバスから取り出し、上澄み液を除去し、撹拌しながらアセトンを1000mL加え、そのまま1時間撹拌し続けた。
撹拌後、重合物が沈殿するまで静置し、上澄み液を除去し、撹拌しながらアセトンを1000mL加え、そのまま1時間撹拌し続けた。
その後、重合物が沈殿するまで静置し、上澄み液を除去し、布でろ過した後、80℃で8時間乾燥して、第一の網目構造(A)を有するポリマー粒子を52.6g得た。
【0078】
(ハイドロゲルの作製)
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、平均分子量483)の100モル%と、前記第二のモノマー(b1)の100モル%に対して、多官能不飽和モノマー(b2)であるポリエチレングリコールジアクリレート(O9DA、平均分子量522)の0.5モル%と、光重合開始剤(BASF社製、OmniradTPO、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド)の0.1モル%とを、これらの成分を合わせた固形分が40質量%になるように、60質量部の純水に溶解し、第二のモノマー溶液を調製した。
第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するポリマー微粒子を、2重量%となるように加え、撹拌・混合し、この状態で12時間以上放置することで、第二のモノマー溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させ、微粒子含有ハイドロゲル溶液を調整した。
第二のモノマー溶液で十分に膨潤した第一の網目構造(A)を有する微粒子含有ハイドロゲル溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に枠状のシリコーンゴムシート(厚さ2mm)を置いた型に流し込み、その上を別のPETフィルムで覆い、さらに上下をガラス板で挟み込んで、前記微粒子含有ハイドロゲル溶液に光ベルト方式の紫外線照射装置を用いて紫外線を照射して、重合を行い、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)が形成された相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0079】
<実施例4>
第二のモノマー(b1)としてメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO13A、式(1)中のn=13)を用いて第二のモノマー溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0080】
<比較例5>
第二のモノマー(b1)であるメトキシポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにアクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(MeO3A)を用いて第二のモノマー溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0081】
<比較例6>
第二のモノマー(b1)であるポリエチレングリコールアクリレート(MeO9A、式(1)中のn=9)の代わりにN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)を用いて第二のモノマー溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0082】
<比較例7>
(第一の網目構造の形成)
第一のモノマー(a1)である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPS)の代わりにアクリルアミド(AAm)を用いたことを除いて、実施例3と同様にして第一の網目構造を得た。
【0083】
(ハイドロゲルの作製)
得られた第一の網目構造を用いたことを除いて、実施例3と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0084】
<評価>
実施例3、4及び比較例5~7で得られたハイドロゲルについて、全光線透過率及びHAZEの測定、評価を行った、
具体的には、得られたゲルを、Haze Mater NDH4000(日本電色社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
表2中の略号の意味は、下記の通りである。
〈第一のモノマー(a1)〉
《アニオン性不飽和モノマー(a1-1)》
NaAMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(分子量:229)
〈第二のモノマー(b1)〉
《式(1)で表されるモノマー》
MeO9A:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(式(1)中のnは9である。平均分子量:483)
MeO13A:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(式(1)中のnは13である。平均分子量:658)
〈多官能不飽和モノマー(b2)〉
《式(2)で表されるモノマー》
O9DA:ポリエチレングリコールジアクリレート(式(2)中のmは9である。平均分子量:522)
〈他のモノマー〉
AAm:アクリルアミド(分子量:71)
DMAAm:N,N-ジメチルアクリルアミド(分子量:99)
MeO3A:アクリル酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(分子量:218)
〈熱重合開始剤〉
APS:過硫酸アンモニウム(分子量:228)
〈光重合開始剤〉
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(分子量:348)
なお、「-」はその成分を配合していないことを示す。
【0087】
また、表2に示す結果から明らかなように、実施例3及び4で得られたハイドロゲルでは、全光線透過率及びHAZEの値が良好であった。
【0088】
比較例5、6で得られたハイドロゲルは、全光線透過率及びHAZEの値が実施例3、4のハイドロゲルよりも低下していた。
【0089】
電気的に中性なモノマーを第一のモノマーとして用いた比較例7のハイドロゲルでは、全光線透過率及びHAZEの値を測定出来るに足る強度とならなかった。
【0090】
以上示す結果から、本発明によれば、高強度であり、低温下でも内部の溶媒が凍結しにくく、柔軟性を維持できるゲル材料を提供できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の高強度ゲルは、高強度であり、かつ透明性が高いことから、パッキン、レンズ、膜、緩衝材、衝撃吸収剤、クッション、意匠性シート等の様々な用途への利用が可能である。また、ゲルが複数の網目により構成されるため、機能性付与の自由度や、強度と柔軟性の設計自由度が他の高強度ゲルよりも高く、大変有用である。また、本発明の高強度ゲルは中性であり、人体及び環境への負荷が小さいため、ロボット用部材等の精密部品、センサー材料、3Dプリンタ造形物、金属と接触するベアリングや中間膜、人体と接触するシップやパック、保冷剤、保湿剤、屋外又は屋内で使用される土壌改質剤、苗床、肥料、また、医療用途としてモデル臓器、インプラント用材料、再生医療用足場材料、人工皮膚、人工関節、人工筋肉、人工血管、人工軟骨、人工内臓、義手・義足、細胞培養シート等としての利用可能性があり、工業的、産業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0092】
1,2,3 架橋点
A 第一の網目構造
B 第二の網目構造
B’ 第二のポリマー