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特許7435788樹脂組成物、管渠補修材および管渠補修方法
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  • 特許-樹脂組成物、管渠補修材および管渠補修方法 図1
  • 特許-樹脂組成物、管渠補修材および管渠補修方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、管渠補修材および管渠補修方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20240214BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240214BHJP
   B29C 63/18 20060101ALI20240214BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20240214BHJP
   E03B 7/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08F283/01
C08J5/24 CFD
B29C63/18
E03F7/00
E03B7/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022539516
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027840
(87)【国際公開番号】W WO2022025097
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020130660
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 健一
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291179(JP,A)
【文献】特開2003-049974(JP,A)
【文献】特開平11-043596(JP,A)
【文献】特開2013-041241(JP,A)
【文献】特開昭50-154390(JP,A)
【文献】特開2002-062644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
C08J 5/04
E03F 7/00
E03B 7/00
B29C 63/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと、
(B)ラジカル重合性モノマーと、
(C)光重合開始剤とを含み、
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが、全多価アルコール成分100モル%に対してネオペンチルグリコールを55~85モル%含む多価アルコール成分(a1)に由来する構造と、
イソフタル酸および/またはテレフタル酸を含む多塩基酸成分(a2)に由来する構造と、
無水マレイン酸および/またはフマル酸を含む不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造とを含み、
前記多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、前記多塩基酸成分(a2)に由来する構造を30~60モル、前記不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40~70モル含み、
ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射して硬化させるための樹脂組成物。
【請求項2】
前記多塩基酸成分(a2)中のイソフタル酸および/またはテレフタル酸の含有量が75モル%以上であり、
前記不飽和二塩基酸成分(a3)中の無水マレイン酸および/またはフマル酸の含有量が90モル%以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が1000~20000である請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部中における前記(B)ラジカル重合性モノマーの含有量が20~60質量部であり、
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対する前記(C)光重合開始剤の含有量が0.01~10質量部である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対して、さらに(D)ビニルエステル樹脂を10~30質量部含む請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)光重合開始剤が、アシルホスフィン系化合物および/またはベンジルケタール系化合物である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物であり、JIS A 7511に準拠して測定した荷重たわみ温度が85℃以上であって、日本下水道協会規格下水道用強化プラスチック複合管の耐薬品性試験に準拠した耐硝酸試験における質量変化率が±0.3%以内である硬化物。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物に、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射して硬化させる硬化物の製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材に含浸させた請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物とを含む管渠補修材。
【請求項10】
前記基材が、ガラス繊維および/または有機繊維からなる請求項9に記載の管渠補修材。
【請求項11】
前記基材が管状である請求項9または請求項10に記載の管渠補修材。
【請求項12】
請求項9~請求項11のいずれか一項に記載の管渠補修材を既設管渠内に設置する設置工程と、
前記管渠補修材に、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射する光硬化工程とを含む管渠補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、硬化物、硬化物の製造方法、管渠補修材および管渠補修方法に関する。
本願は、2020年7月31日に、日本に出願された特願2020-130660号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス管、水道管、下水道管、農業用水管などの既設管渠を補修する方法として、繊維からなる基材に樹脂組成物を含浸させた管渠補修材を用いる方法がある。具体的には、既設管渠内の所定の位置に管渠補修材を設置した後、管渠補修材に含まれる樹脂組成物を硬化させることにより管渠を補修する。この方法では、樹脂組成物として熱硬化樹脂を用いる熱硬化工法と、光硬化樹脂を用いる光硬化工法とがある。熱硬化工法では、温水、蒸気などの熱媒体を用いて樹脂組成物を硬化させる。光硬化工法では、紫外光、可視光などの光を管渠補修材に照射して樹脂組成物を硬化させる。
【0003】
特許文献1には、不飽和ポリエステル樹脂(a)、スチレンモノマー(b)およびシリカ粉(c)を必須成分とする管ライニング材用熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献2には、(A)ビニルエステル樹脂組成物、(B)ウレタン(メタ)アクリレート組成物、(C)不飽和ポリエステル樹脂組成物、及び(D)クメンハイドロパーオキサイドとt-ブチルパーオキシベンゾエートとを含む硬化剤を含有する管渠補修用樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献3には、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂、スチレン及び光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を含む管状の光硬化性ライニング材が記載されている。
【0004】
近年、既設管渠の補修工事における光硬化工法の施工距離が増加している。これは、熱硬化工法と比較して、樹脂組成物の硬化速度が速く、施工時間が短いためである。また、光硬化工法は、熱硬化工法と比較して、樹脂組成物の硬化収縮が少ない、硬化不良が発生しにくい、硬化発熱が少ない、硬化時における可燃性気体の発散が少ないという利点もある。
【0005】
光硬化工法では、光源として、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプなどが用いられている。また、持許文献4には、主たる照射波長が紫外線である発光ダイオード(LED)を用いた光硬化装置で、樹脂層に光照射する配管のライニング方法が記載されている。LEDは、発熱が少なく、省エネルギーかつ長寿命であり、光源として優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4055300号公報
【文献】特許第6460999号公報
【文献】特許第6095278号公報
【文献】特開2008-142996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、光硬化工法に用いる管渠補修材に光を照射しても、耐熱性および耐薬品性の良好な補修面が得られない場合があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、硬化不良が生じにくく、耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られ、管渠補修材の材料として好ましく用いることができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の樹脂組成物を硬化させた耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、基材と、基材に含浸させた本発明の樹脂組成物とを含み、耐熱性および耐薬品性の良好な補修面が得られる管渠補修材を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の管渠補修材を用いる管渠補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、樹脂組成物の硬化反応に着目し、検討を重ねた。
その結果、ネオペンチルグリコールを十分に含む多価アルコール成分に由来する構造を含むことによって、分子間距離が広く波長315~460の光が透過しやすいものとされた、特定の不飽和ポリエステルオリゴマーを含む樹脂組成物とすればよいことを見出した。この樹脂組成物は、光透過性が良好であるため、光照射面だけでなく内部まで照射光が到達しやすく、硬化不良が生じにくいものと推定される。
本発明者は、この樹脂組成物に、波長200~314nmの高エネルギー紫外領域光を含まない、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光のみを照射することにより、耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られることを確認し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1] (A)不飽和ポリエステルオリゴマーと、
(B)ラジカル重合性モノマーと、
(C)光重合開始剤とを含み、
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが、全多価アルコール成分100モル%に対してネオペンチルグリコールを55~85モル%含む多価アルコール成分(a1)に由来する構造と、
イソフタル酸および/またはテレフタル酸を含む多塩基酸成分(a2)に由来する構造と、
無水マレイン酸および/またはフマル酸を含む不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造とを含み、
前記多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、前記多塩基酸成分(a2)に由来する構造を30~60モル、前記不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40~70モル含むことを特徴とする樹脂組成物。
【0011】
[2] 前記多塩基酸成分(a2)中のイソフタル酸および/またはテレフタル酸の含有量が75モル%以上であり、
前記不飽和二塩基酸成分(a3)中の無水マレイン酸および/またはフマル酸の含有量が90モル%以上である[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が1000~20000である[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[4] 前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部中における前記(B)ラジカル重合性モノマーの含有量が20~60質量部であり、
前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対する前記(C)光重合開始剤の含有量が0.01~10質量部である[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと前記(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対して、さらに(D)ビニルエステル樹脂を10~30質量部含む[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記(C)光重合開始剤が、アシルホスフィン系化合物および/またはベンジルケタール系化合物である[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0013】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物であり、JIS A 7511に準拠して測定した荷重たわみ温度が85℃以上であって、日本下水道協会規格下水道用強化プラスチック複合管の耐薬品性試験に準拠した耐硝酸試験における質量変化率が±0.3%以内である硬化物。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物に、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射して硬化させる硬化物の製造方法。
【0014】
[9] 基材と、前記基材に含浸させた[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物とを含む管渠補修材。
[10] 前記基材が、ガラス繊維および/または有機繊維からなる[9]に記載の管渠補修材。
[11] 前記基材が管状である[9]または[10]に記載の管渠補修材。
[12] [9]~[11]のいずれかに記載の管渠補修材を既設管渠内に設置する設置工程と、
前記管渠補修材に、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射する光硬化工程とを含む管渠補修方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、硬化不良が生じにくく、耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる。したがって、本発明の樹脂組成物は、管渠補修材の材料として好ましく用いることができる。
また、本発明の管渠補修材は、基材と、基材に含浸させた本発明の樹脂組成物とを含む。このため、管渠補修材を既設管渠内に設置し、例えば、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を照射することにより、耐熱性および耐薬品性の良好な補修面が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態の管渠補修材の一例を説明するための概略斜視図である。
図2図2は、図1に示す管渠補修材を用いて補修した既設管渠の一例を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の樹脂組成物、硬化物、硬化物の製造方法、管渠補修材および管渠補修方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0018】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと、(B)ラジカル重合性モノマーと、(C)光重合開始剤とを含む。本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、さらに(D)ビニルエステル樹脂を含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物において、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーおよび(B)ラジカル重合性モノマーの一部は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの重合物として含有されていてもよい。
【0019】
<(A)不飽和ポリエステルオリゴマー>
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、(B)ラジカル重合性モノマーと共重合して不飽和ポリエステル樹脂を形成する。
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、全多価アルコール成分100モル%に対してネオペンチルグリコールを55~85モル%含む多価アルコール成分(a1)に由来する構造と、イソフタル酸および/またはテレフタル酸を含む多塩基酸成分(a2)に由来する構造と、無水マレイン酸および/またはフマル酸を含む不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造とを含む。
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、公知の方法で合成できる。
【0020】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの原料として使用される多価アルコール成分(a1)は、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール)を55~85モル%含むものであり、60~80モル%含むことが好ましく、65~75モル%含むことがより好ましい。
【0021】
ネオペンチルグリコールの側鎖に存在する2つのメチル基は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの分子間距離を広げて波長315~460の光を透過しやすくする。多価アルコール成分(a1)にネオペンチルグリコールが55モル%以上含まれていると、光透過性の良好な(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが得られる。この(A)不飽和ポリエステルオリゴマーを含む樹脂組成物は、光照射面だけでなく内部まで照射した光が到達しやすく、硬化不良が生じにくく、光硬化速度の速いものとなる。そのため、高エネルギー紫外領域の光を照射しなくても硬化物が得られる。具体的には、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光のみを照射しても、密度が高く、耐熱性の良好な硬化物が得られる。また、ネオペンチルグリコールの側鎖に存在する2つのメチル基は、ネオペンチルグリコールを用いて合成した(A)不飽和ポリエステルオリゴマー中のエステル結合部位を保護する。このため、ネオペンチルグリコールを55モル%以上含む多価アルコール成分(a1)を用いて合成した、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーを含む樹脂組成物を硬化させると、耐薬品性の良好な硬化物が得られる。
【0022】
また、多価アルコール成分(a1)に含まれるネオペンチルグリコールが85モル%以下であるので、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーを合成する反応時に析出物が析出しにくく、容易に合成できる。また、多価アルコール成分(a1)に含まれるネオペンチルグリコールが85モル%以下であるので、樹脂組成物中に結晶性の高さに由来する析出物が生成されにくく、経時安定性が良好となる。
【0023】
ネオペンチルグリコールの他の多価アルコール成分(a1)としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAおよびビスフェノールF、ビスフェノールS、2,2-ジ(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン{水素化ビスフェノールA}、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどを用いることができる。
【0024】
これらの中でも、ネオペンチルグリコールの他の多価アルコール成分(a1)は、樹脂組成物を硬化させた硬化物の強度、耐熱性、耐薬品性などの物性、ガラス繊維および/または有機繊維などの基材に対する樹脂組成物の含浸性、コストの観点から、エチレングリコールおよび/またはブロピレングリコールを含むことが好ましく、特にブロピレングリコールを含むことが好ましい。ネオペンチルグリコールの他の多価アルコール成分(a1)としては、上記の中から一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0025】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの原料として使用される多塩基酸成分(a2)は、イソフタル酸および/またはテレフタル酸を含む。多塩基酸成分(a2)中のイソフタル酸および/またはテレフタル酸の含有量は、樹脂組成物を硬化させた硬化物の強度、耐熱性、耐薬品性などの物性およびコストの観点から、75モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。多塩基酸成分(a2)は、イソフタル酸および/またはテレフタル酸のみであってもよい。
【0026】
イソフタル酸およびテレフタル酸の他の多塩基酸成分(a2)としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、無水フタル酸、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸(1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸)、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、クロレンディク酸(ヘット酸)、テトラブロモフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水琥珀酸、無水クロレンディク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ジメチルオルソフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルテレフタレートなどを用いることができる。
これらの中でも、イソフタル酸およびテレフタル酸の他の多塩基酸成分(a2)は、樹脂組成物を硬化させた硬化物の強度物性およびコストの観点から、無水フタル酸を含むことが好ましい。イソフタル酸およびテレフタル酸の他の多塩基酸成分(a2)としては、上記の中から一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物中の(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、多塩基酸成分(a2)に由来する構造を30~60モル含むものであり、40~50モル含むことが好ましい。多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、多塩基酸成分(a2)に由来する構造を30モル以上含むため、より優れた強度、耐熱性、耐薬品性を有する樹脂硬化物が得られる。多塩基酸成分(a2)に由来する構造を60モル以下含むため、結晶性の高い酸成分が経時的に析出することによる樹脂組成物の濁りが発生しにくい。したがって、樹脂組成物の光硬化性が損なわれにくい。
【0028】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの原料として使用される不飽和二塩基酸成分(a3)は、無水マレイン酸および/またはフマル酸を含む。不飽和二塩基酸成分(a3)中の無水マレイン酸および/またはフマル酸の含有量は、樹脂組成物を硬化させた硬化物の強度、耐熱性、耐薬品性などの物性、スチレンなどの(B)ラジカル重合性モノマーとの共重合性、およびコストの観点から、90モル%以上であることが好ましい。不飽和二塩基酸成分(a3)は、無水マレイン酸および/またはフマル酸のみであってもよい。
【0029】
無水マレイン酸およびフマル酸の他の不飽和二塩基酸成分(a3)としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などを用いることができる。無水マレイン酸およびフマル酸の他の不飽和二塩基酸成分(a3)としては、上記の中から一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物中の(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40~70モル含むものであり、45~65モル含むことが好ましい。多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40モル以上含むため、光硬化速度の速いものとなる。また、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40モル以上含むため、硬化時に架橋点(硬化の起点)となる不飽和酸量の不足が無く、優れた強度、耐熱性、耐薬品性を有する硬化物が得られる。また、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造が70モル以下であるため、硬化時の発熱温度が高くなり過ぎることを防止でき、割れの無い硬化物が得られる。また、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造が70モル以下であるため、不飽和酸量が過剰であることによって硬化物が脆くなることがなく、靭性の高い硬化物が得られる。
【0031】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が、1000~20000であることが好ましく、4000~17000であることがより好ましく、7000~15000であることがさらに好ましい。(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が1000以上であると、より耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる。(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が20000以下であると、高分子量の不飽和ポリエステル樹脂に起因する樹脂組成物の粘度上昇が生じにくい。また、重量平均分子量が20000以下である(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、分子量の均一性が良好である。このことから、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が20000以下であると、特性の均一な硬化物が得られやすく、好ましい。
【0032】
本実施形態の樹脂組成物中に含まれる(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの含有量は、核磁気共鳴(NMR)装置を用いて樹脂組成物の組成を分析する方法により算出できる。
本実施形態の樹脂組成物の(A)不飽和ポリエステルオリゴマー中に含まれる多価アルコール成分(a1)に由来する構造、多塩基酸成分(a2)に由来する構造、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造は、核磁気共鳴(NMR)装置にて(A)不飽和ポリエステルオリゴマーのH-NMR測定を行い、得られたプロトン数及び積分値から、含有成分の組成及び組成比(モル比)を算出する方法により求めることができる。
【0033】
<(B)ラジカル重合性モノマー>
(B)ラジカル重合性モノマーは、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの分子骨格中の不飽和結合と共重合して、不飽和ポリエステル樹脂を形成する。(B)ラジカル重合性モノマーは、エチレン性炭素炭素二重結合(C=C)を有する化合物である。
(B)ラジカル重合性モノマーとしては、スチレン、スチレンのα位、オルト位、メタ位、パラ位のいずれかに、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、ハロゲン基、ビニル基から選ばれる置換基が結合した化合物、およびそのエステル誘導体などのスチレン系モノマーなどを用いることができる。(B)ラジカル重合性モノマーとしては、上記の中から一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。(B)ラジカル重合性モノマーとしては、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーとの共重合性が良好であるため、上記の中でも特にスチレンを用いることが好ましい。
【0034】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部中における(B)ラジカル重合性モノマーの含有量は、20~60質量部であることが好ましく、35~55質量部であることがより好ましい。(B)ラジカル重合性モノマーの含有量が20質量部以上であると、優れた強度を有する硬化物が得られる樹脂組成物となる。(B)ラジカル重合性モノマーの含有量が60質量部以下であると、樹脂組成物が高粘度になりすぎることがない。したがって、例えば、管渠補修材の基材に含浸させる樹脂組成物として使用した場合に、基材に対する濡れ性および浸透性の良好な樹脂組成物となり、優れた作業性が得られるため、好ましい。
【0035】
<(C)光重合開始剤>
(C)光重合開始剤としては、公知の分子内開裂型の光重合開始剤などを用いることができ、樹脂組成物を硬化させる際に使用する光源からの照射光の波長に応じて、1種または2種以上を適宜選択して使用できる。
分子内開裂型の光重合開始剤としては、例えば、ベンジルジメチルケタール系化合物、α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物、α-アミノアルキルフェノン系化合物、アシルホスフィン系化合物、ベンジルケタール系化合物などが挙げられる。
【0036】
ベンジルジメチルケタール系化合物としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどが挙げられる。
α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)などが挙げられる。
【0037】
α-アミノアルキルフェノン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノンなどが挙げられる。
【0038】
アシルホスフィン系化合物としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0039】
これらの(C)光重合開始剤の中でも特に、波長315~460nmの光を吸収して効率よく活性種を発生するため、樹脂組成物に波長315~460nmの光を照射する場合には、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ジフェニルホスフィンオキサイドを用いることが好ましい。
【0040】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対する(C)光重合開始剤の含有量は、0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~8質量部であることがより好ましく、0.20~5質量部であることがさらに好ましい。(C)光重合開始剤の含有量が0.01質量部以上であると、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとのラジカル重合の開始およびラジカル重合の重合速度を促進させる効果が顕著となる。このため、密度が高く、耐熱性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物となる。(C)光重合開始剤の含有量が10質量部以下であると、樹脂組成物の硬化時に急激な硬化反応および発熱が生じにくく、クラックおよび割れの無い硬化物が得られる。
【0041】
<(D)ビニルエステル樹脂>
(D)ビニルエステル樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(D)ビニルエステル樹脂としては、より耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物となるため、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
(D)ビニルエステル樹脂の重量平均分子量は、500~6000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。重量平均分子量が500以上であると、より耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物となる。重量平均分子量が6000以下であると、高分子量のビニルエステル樹脂に起因する樹脂組成物の粘度上昇が生じにくいため好ましい。
【0043】
(D)ビニルエステル樹脂は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対して、10~30質量部含むことが好ましく、12~28質量部含むことがより好ましく、14~26質量部含むことがさらに好ましい。(D)ビニルエステル樹脂の含有量が10質量部以上であると、より耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物となる。(D)ビニルエステル樹脂の含有量が30質量部以下であると、不飽和基濃度の低下による光硬化性の低下、および(D)ビニルエステル樹脂と(A)不飽和ポリエステルオリゴマーとの相溶性低下に伴う濁りの発生による光硬化性の低下が生じることがない。このため、より耐熱性および耐薬品位の良好な硬化物が得られる。また、(D)ビニルエステル樹脂の含有量が30質量部以下であると、(D)ビニルエステル樹脂の側鎖の水酸基による水素結合に起因した粘性上昇が生じにくく、ガラス繊維および/または有機繊維などの基材に対する含浸性が良好な樹脂組成物となり、好ましい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、カップリング剤、増粘剤、着色剤、難燃剤、充填剤などが挙げられる。
【0045】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと、(B)ラジカル重合性モノマーと、(C)光重合開始剤と、必要に応じて添加される(D)ビニルエステル樹脂およびその他の添加剤とを混合する方法により製造できる。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、以下に示す方法により製造してもよい。
例えば、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとを混合し、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが(B)ラジカル重合性モノマーに溶解された不飽和ポリエステル樹脂を製造する。
その後、得られた不飽和ポリエステル樹脂と、(C)光重合開始剤と、必要に応じて添加される(D)ビニルエステル樹脂およびその他の添加剤とを混合する方法により製造してもよい。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる各成分を混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、モーターを動力とした攪拌翼、ホモディスパーなどを用いて行うことができる。
【0048】
[硬化物]
本実施形態の硬化物は、本実施形態の樹脂組成物を硬化させたものである。
本実施形態の硬化物は、JIS A 7511に準拠して測定した荷重たわみ温度が85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。管渠補修材の基材に含浸させる樹脂組成物として、硬化物の荷重たわみ温度が85℃以上となる樹脂組成物を用いることで、例えば、管渠補修材を下水道管の更生に用いる場合「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン-2017年度版-」における荷重たわみ温度の特性を満たし、耐熱性の良好な補修面が得られる管渠補修材となる。
【0049】
本実施形態の硬化物は、JIS A 7511に準拠して測定した破断時の引張伸び率が3.5%以上であることが好ましく、5.0%以上であることがより好ましい。管渠補修材の基材に含浸させる樹脂組成物として、硬化物の破断時の引張伸び率が3.5%以上となる樹脂組成物を用いることで、例えば、管渠補修材を下水道管の更生に用いる場合「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン-2017年度版-」における破断時の引張伸び率の特性を満たし、靭性の良好な補修面が得られる管渠補修材となる。
【0050】
本実施形態の硬化物は、日本下水道協会規格(JSWAS)下水道用強化プラスチック複合管(K-2)の耐薬品性試験に準拠した耐硝酸試験における質量変化率が±0.3%以内であることが好ましく、±0.25%以内であることが好ましい。管渠補修材の基材に含浸させる樹脂組成物として、硬化物の耐硝酸試験における質量変化率が±0.3%以内となる樹脂組成物を用いることで、日本下水道協会規格の下水道用強化プラスチック複合管における耐硝酸特性を満たし、耐薬品性の良好な補修面が得られる管渠補修材となる。
【0051】
[硬化物の製造方法]
本実施形態の硬化物を製造する方法は、特に限定されるものではなく、本実施形態の樹脂組成物に光を照射して硬化させる方法を用いることができる。
本実施形態の樹脂組成物に光を照射する光源としては、一般的な発光ダイオード(LED)を用いることができる。LEDは、発熱が少なく、省エネルギーかつ長寿命であり、光源として好ましい。
【0052】
光源としては、本実施形態の樹脂組成物を硬化させることができればよく、例えば、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプなどの幅広い波長領域の光を照射する光源を用いてもよい。この場合であっても、本実施形態の樹脂組成物は、容易に硬化して硬化物となる。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化不良が生じにくいものである。このため、本実施形態の硬化物を製造する方法では、例えば、本実施形態の樹脂組成物に、LEDなどを用いて、高エネルギー紫外領域の光を含まない光のみを照射して、硬化させる方法を用いることができる。
高エネルギー紫外領域の光を含まない光としては、例えば、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を用いることができる。この光の中心波長は、UV-Aの高エネルギー側の領域から、可視光領域の藍色領域までの範囲内である。樹脂組成物に照射する光の中心波長は、目的とする硬化物(成形品)の厚みに応じて、適宜決定できる。
【0054】
また、本実施形態の樹脂組成物は、波長純度の高い単波長光のみを照射しても硬化させることができる。したがって、高エネルギー紫外領域の光を含まない光のピーク半値幅は、6~25nmであってもよいし、8~15nmであってもよい。
本実施形態の樹脂組成物に照射する光は、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が340~430nmである光であってもよいし、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が350~405nmである光であってもよい。
【0055】
本実施形態の硬化物の製造方法において、樹脂組成物に照射する光の照度および照射時間は、目的とする硬化物(成形品)の厚み、照射光の波長などに応じて、適宜決定することができ、特に限定されない。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと、(B)ラジカル重合性モノマーと、(C)光重合開始剤とを含む。本実施形態の樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが、全多価アルコール成分100モル%に対してネオペンチルグリコールを55~85モル%含む多価アルコール成分(a1)に由来する構造と、イソフタル酸および/またはテレフタル酸を含む多塩基酸成分(a2)に由来する構造と、無水マレイン酸および/またはフマル酸を含む不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造とを含む。本実施形態の樹脂組成物は、多価アルコール成分(a1)に由来する構造100モルに対して、多塩基酸成分(a2)に由来する構造を30~60モル、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を40~70モル含む。
【0057】
このため、本実施形態の樹脂組成物は、硬化不良が生じにくく、耐熱性および耐薬品性の良好な硬化物が得られる。より詳細には、本実施形態の樹脂組成物中の(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、多価アルコール成分(a1)がネオペンチルグリコールを55~85モル%含み、多価アルコール成分(a1)に由来する構造と多塩基酸成分(a2)に由来する構造と不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造とを特定の割合で含む。したがって、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーは、光透過性が良好であり、しかもエステル結合部位が保護されている。その結果、本実施形態の樹脂組成物は、光照射面だけでなく内部まで照射した光が到達しやすく、光硬化速度が速い。さらに、本実施形態の樹脂組成物の硬化物は、密度が高く、耐熱性および耐薬品性が良好である。
よって、本実施形態の樹脂組成物は、管渠補修材の材料として好ましく用いることができる。
【0058】
[管渠補修材]
図1は、本実施形態の管渠補修材の一例を説明するための概略斜視図である。
本実施形態の管渠補修材11は、基材10と、基材10に含浸させた樹脂組成物とを含む。本実施形態の管渠補修材11では、基材10に、上述した実施形態の樹脂組成物が含浸されている。
基材10は、管渠の内壁形状に追従する適度な柔軟性と強度を有し、樹脂組成物が含浸可能な隙間を有する材料からなる。具体的には、基材10として、ガラス繊維および/または有機繊維からなるものを用いることが好ましい。有機繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、ナイロン、アクリルなどからなる繊維などが挙げられる。
【0059】
基材10の形状は、図1に示すように、管状(筒状)であることが好ましい。基材10が管状であると、管渠の内周面に沿って容易に環状に管渠補修材11を設置できる。
管渠補修材11の内面および/または外部には、公知の樹脂フィルムが設置されていてもよい。樹脂フィルムは、管渠補修材11の表面を保護するとともに、管渠補修材11を用いて管渠を補修する際の作業性を向上させる。管渠補修材11の内面に設置された樹脂フィルムは、基材10に含浸された樹脂組成物を硬化させた後、管渠補修材11から剥離して除去してもよい。
基材10の形状は、図1に示す管状に限定されるものではなく、例えば、シート状であってもよい。
【0060】
[管渠補修方法]
次に、本実施形態の管渠補修方法の一例として、図1に示す管渠補修材11を用いて管渠を補修する場合を例に挙げて説明する。
図2は、図1に示す管渠補修材を用いて補修した既設管渠の一例を示した概略斜視図である。図2において、符号20は、管渠を示している。本実施形態の管渠補修方法を用いて補修する管渠20としては、例えば、ガス管、水道管、下水道管、下水取付管、農業用水管、工業用水管、電力管または通信管などの既設管渠が挙げられる。
【0061】
図1に示す管渠補修材11を用いて管渠20を補修する方法としては、例えば、以下に示す方法を用いることができる。管渠20内における長さ方向所定の位置に、公知の方法を用いて管渠補修材11を設置する(設置工程)。次に、例えば、空気を用いて管渠補修材11の内面に圧力を付与することにより、管渠補修材11の外面を管渠20の内面に密着させる。そして、公知の光照射装置を用いて、管渠補修材11の内側から管渠補修材11に光を照射する(光硬化工程)。このことにより、管渠補修材11の基材10に含浸された樹脂組成物を硬化させる。本実施形態では、管渠補修材11に照射する光として、ピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである光を用いることができる。光源としては、発光ダイオード(LED)を用いることが好ましい。
【0062】
本実施形態の管渠補修材11は、基材10と、基材10に含浸させた本実施形態の樹脂組成物とを含む。このため、管渠補修材11を既設の管渠20内に設置し、管渠補修材11にピーク半値幅が4~35nmであって中心波長が315~460nmである、高エネルギー紫外領域の光を含まない光のみを照射して、樹脂組成物を硬化させても、硬化不良が生じにくく、耐熱性および耐薬品性の良好な補修面が得られる。したがって、本実施形態の管渠補修材11を用いて管渠20の補修を行う場合、管渠補修材11に光を照射する光源として、一般的な発光ダイオード(LED)を用いることができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0064】
<(A)不飽和ポリエステルオリゴマー(UPE-1~UPE-10)の合成>
温度計、攪拌機、不活性ガス吹込管および還流冷却管を備えた四ツ口フラスコに、表1および表2に示す(1)多価アルコールおよび(2)多塩基酸を、表1および表2に示す割合で仕込んだ。そして、四ツ口フラスコに窒素ガスを吹き込みながら、215℃で10時間重合反応を行った。その後、反応液が150℃となるまで冷却した。
冷却した反応液に、表1および表2に示す(3)不飽和二塩基酸を、表1および表2に示す割合で添加し、215℃まで昇温して10時間縮合反応を行った。
以上の工程により、(A)不飽和ポリエステルオリゴマー(UPE-1~UPE-9)を得た。
【0065】
多価アルコール成分(a1)がネオペンチルグリコールを90モル%含むUPE-10については、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーを合成する反応により、析出物が析出して濁りが生じ、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーが得られなかった。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(A)不飽和ポリエステルオリゴマー(UPE-1~UPE-9)について、以下に示す方法により、重量平均分子量を調べた。その結果を表1および表2に示す。
表1および表2に示す重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記条件にて測定した標準ポリスチレン換算重量平均分子量である。
カラム:ショウデックス(登録商標)LF-804+LF-804(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃
試料:(A)不飽和ポリエステルオリゴマーの0.2%テトラヒドロフラン溶液展開溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:示差屈折計(ショウデックスRI-71S)(昭和電工株式会社製)流速:1mL/min
【0069】
「実施例1~実施例10、比較例1~比較例4」
表3および表4に示す割合となるように、(A)不飽和ポリエステルオリゴマー(UPE-1~UPE-9)と、(B)ラジカル重合性モノマーとしてのスチレンとを、モーターを動力とした攪拌翼を用いて混合して重合し、不飽和ポリエステル樹脂を製造した。
得られた不飽和ポリエステル樹脂と、表3および表4に示す(C)光重合開始剤と、必要に応じて添加される(D)ビニルエステル樹脂とを、表3および表4に示す割合で加え、モーターを動力とした攪拌翼を用いて混合する方法により、実施例1~実施例10、比較例1~比較例4の樹脂組成物を得た。
【0070】
表3および表4に示す(B)ラジカル重合性モノマーの含有量は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部中における含有量(質量部)である。
表3および表4に示す(C)光重合開始剤の含有量は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対する含有量(質量部)である。
表3および表4に示す(D)ビニルエステル樹脂の含有量は、(A)不飽和ポリエステルオリゴマーと(B)ラジカル重合性モノマーとの合計100質量部に対する含有量(質量部)である。また、(D)ビニルエステル樹脂としては、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂(リポキシ(登録商標)(R-806;重量平均分子量2400;昭和電工株式会社社製)を用いた。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
次に、実施例1~実施例8、10、比較例1~比較例4の樹脂組成物について、それぞれ以下に示す方法により硬化させて硬化物とした。
樹脂組成物を型枠に入れ、光源として、ピーク半値幅が10nmであって中心波長が385nmである発光ダイオード(商品名;UV-LED照射器H-4MLH84-V2-1S12-SM1(使用可能波長385nm)HOYA株式会社製)を用いて、照度40mW/cm(照度計:ウシオ電機製紫外線照度計UIT-201)の光を30分間照射し、縦200mm、横200mm、厚さ4mmの板状の硬化物を得た。
【0074】
得られた実施例1~実施例8、10、比較例1~比較例4の硬化物についてそれぞれ、JIS A 7511に準拠して「負荷時のたわみ温度(耐熱性)」および「破断時の引張り伸び率(靭性)」を測定し、表3および表4に示す基準により評価した。
また、実施例1~実施例8、10、比較例1~比較例4の硬化物についてそれぞれ、日本下水道協会規格(JSWAS)下水道用強化プラスチック複合管(K-2)の耐薬品性試験に準拠して「耐硝酸性(耐薬品性)」を測定し、表3および表4に示す基準により評価した。それらの結果を表3および表4に示す。表3および表4に示すJSWAS K-2の耐硝酸性の数値(質量変化率)は絶対値である。
【0075】
次に、基材としての♯450チョップドストランドマット(商品名;ECM450-501/T、セントラルグラスファイバー株式会社製)を用意し、縦150mm、横150mmの正方形に6枚切り出し、合計で約38gの実施例9の樹脂組成物を、脱泡ローラーで含浸させて積層体を得た。得られた積層体に、ピーク半値幅が10nmであって中心波長が385nmである発光ダイオード(商品名;UV-LED照射器H-4MLH84-V2-1S12-SM1(使用可能波長385nm)HOYA株式会社製)を用いて、照度40mW/cm(照度計:ウシオ電機製紫外線照度計UIT-201)の光を3分間照射し、縦150mm、横150mm、厚さ5mmの板状の実施例9の硬化物を得た。
【0076】
このようにして得られた実施例9の硬化物と、実施例3の硬化物について、JIS A 7511に準拠して「曲げ強さ」をそれぞれ測定し、以下に示す基準により評価した。
その結果を表3に示す。
(基準)
○;100~149MPa
◎;≧150MPa
【0077】
表3に示すように、実施例1~実施例8、10の硬化物は、いずれも「耐熱性」「耐薬品性」「靭性」の評価が○または◎であった。特に、(D)ビニルエステル樹脂を含む樹脂組成物を用いて製造した実施例1および実施例2の硬化物は、「耐熱性」「耐薬品性」「靭性」の評価が全て◎であった。
また、表3に示すように、実施例3の硬化物は、「曲げ強さ」の評価が○であった。さらに、基材と、実施例3の硬化物と同じ樹脂組成物とを用いて製造した実施例9の硬化物は、「曲げ強さ」の評価が◎であった。
【0078】
これに対し、表4に示すように、多価アルコール成分(a1)がネオペンチルグリコールを50モル%含むUPE-3を用いた比較例1の硬化物は「耐薬品性」の評価が△であった。
また、ネオペンチルグリコールを20モル%含むUPE-4を用いた比較例2の硬化物は「耐薬品性」の評価が×であった。
【0079】
また、多価アルコール成分(a1)が多塩基酸成分(a2)に由来する構造を65モル、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を35モル含むUPE-6を用いた比較例3の硬化物は「耐熱性」および「耐薬品性」の評価が×であった。
また、多価アルコール成分(a1)が多塩基酸成分(a2)に由来する構造を25モル、不飽和二塩基酸成分(a3)に由来する構造を75モル含むUPE-9を用いた比較例4の硬化物は、樹脂組成物を硬化させる際に割れが生じて硬化物が得られなかった。
【符号の説明】
【0080】
10・・・基材、11・・・管渠補修材、20・・・管渠。
図1
図2