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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】透明導電フィルム積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240214BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240214BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240214BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B32B27/18 J
B32B27/34
B32B27/40
B32B27/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022571660
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048067
(87)【国際公開番号】W WO2022138882
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020215258
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 惇
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/035059(WO,A1)
【文献】特表2009-505358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155024(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/171022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
H01B3/16-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、
前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、
を有し、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、かつ前記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来するとともに、前記樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来し、前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であり、前記カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対する前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下であることを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、及びN-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体の少なくとも一方である請求項1に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項3】
前記透明な熱可塑性樹脂フィルムがポリカーボネートフィルムである請求項1又は2に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項4】
前記バインダー樹脂がポリ-N-ビニルアセトアミドである請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである請求項1からのいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体と、ポリカーボネートを主成分とする樹脂フィルムとの成形用透明導電フィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電フィルム積層体に関する。さらに詳しくは、3次元加工(立体成形)するのに好適な透明導電フィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス型ディスプレイ、太陽電池(PV)及びタッチパネル(TP)の透明電極、帯電防止(ESD)フィルムならびに電磁波遮蔽(EMI)フィルム等の種々の分野で使用されている。これらの透明導電膜としては、従来、ITO(酸化インジウム錫)を用いたものが使われてきたが、インジウムの供給安定性が低い、製造コストが高い、柔軟性に欠ける、及び成膜時に高温が必要である等の問題があった。そのため、ITOに代わる透明導電膜の探索が活発に進められている。それらの中でも、金属ナノワイヤを含有する透明導電膜は、導電性、光学特性、及び柔軟性に優れること、ウェットプロセスで成膜が可能であること、製造コストが低いこと、成膜時に高温を必要としないことなどから、ITO代替透明導電膜として好適である。例えば、銀ナノワイヤを含み、高い導電性、光学特性、柔軟性を有する透明導電膜が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、銀ナノワイヤを含有する透明導電膜は、銀質量当たりの表面積が大きく、種々の化合物と反応し易いために耐環境性に欠けるという問題があり、工程中に使用される種々の薬剤や洗浄液の影響や、長期保管によってさらされる空気中の酸素や水分の影響等により、ナノ構造体が腐食し、導電性が低下しやすい。また、特に電子材料などの用途では、基板の表面への微粒子状の不純物やちりやホコリなどの付着や混入を防ぐために、ブラシ等を用いた物理的洗浄工程が用いられる場合が多いが、この工程によっても表面が傷つけられることが問題になる。
【0004】
これを解決するため、銀ナノワイヤを含有する透明導電膜の表面に保護膜を積層し、該透明導電膜に硬度及び耐環境性を付与する試みが多く行われている。また、電子回路からの配線と透明導電膜を電気的に接合する必要があるために、保護膜表面から透明導電膜への電気的なコンタクト性を維持できるような保護膜が求められている。
【0005】
これらを解決するため、下記特許文献2では、導電性繊維を含有する透明導電膜への電気的コンタクト性を維持しながら、該透明導電膜に高い耐環境性を付与できる保護膜を備える透明導電フィルム及びその製造方法が開示されている。
【0006】
一方、昨今のタッチパネル及びタッチパッドの普及に伴い、これらを搭載する機器の種類が多様化しており、機器の操作性をより高めるために、タッチ面が曲面を含む3次元形状であるタッチパネル及びタッチパッドが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、透明な基材シートと、基材シートの一方の面に乾燥塗膜の伸び率が10%以下、可視光透過率が90%以上となるよう導電性インキを用いて形成された複数の主電極領域を有する主電極層と、を少なくとも備えた積層体であって、積層体が加熱軟化時の絞り加工により3次元曲面を含む成形物となっている、3次元曲面形状のタッチ面を有する静電容量方式のタッチパネルが開示されている。
【0008】
より具体的には、特許文献1で開示される3次元曲面タッチパネルの製造方法においては、まず、透明な基材シートの表面に、有機導電材料を含む導電性インキを用いて形成された複数の主電極領域を有する主電極層を設ける。次いで、主電極層上に絞り加工によって3次元曲面内の周縁部となる箇所に、補助電極領域を有する補助電極層を設ける。その後、これら三層からなる積層体を加熱軟化させた状態での絞り加工によって3次元曲面に成形し、冷却又は放冷して曲面形状成形物を得るものである。金属ナノ繊維よりもカーボンナノチューブ又はPEDOT等の方が伸び性に優れることに着目し、絞り加工時に伸びが小さい主電極領域には金属ナノ繊維、伸びが大きい補助電極領域にはカーボンナノチューブ又はPEDOT等が用いられている。
【0009】
特許文献2には、熱成形が可能な積層体として、(A)主な成分としてポリカーボネートを含有する熱成形用フィルム、(B)接着層、(C)透明導電層の順に積層した積層体が開示されている。
【0010】
特許文献3には、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び導電性繊維を含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂の熱分解開始温度が210℃以上であり、かつ前記保護膜が熱硬化性樹脂の熱硬化膜であることを特徴とする透明導電基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-246741号公報
【文献】特開2021- 70181号公報
【文献】国際公開第2018/101334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の製造方法で用いられているカーボンナノチューブ又はPEDOT等の有機導電性材料を含む導電性インキから形成される導電性インキ層(導電層)は、そもそも有機材料自体の抵抗値が50Ω/□以上と高く、かつ、変形時に導電層が延伸されるため、更に抵抗値が高くなる傾向があり、工業的な面から問題がある。
【0013】
それに対して、金属より構成される金属層は開口率90%以上のメッシュ形状でも1Ω/□以下と有機導電性材料よりも抵抗値が低く、導電特性に優れる。
【0014】
一方で、樹脂基板上に金属めっき処理又は金属蒸着等により形成された金属層を有する導電性フィルムを用いて立体形状(3次元形状)を付与しようとすると、金属層が樹脂基板の伸びに追随できずに破断する場合が多く、特許文献1に開示されているような工夫をする必要がある。
【0015】
特許文献2には、(C)透明導電層が導電性ペーストもしくはメタルメッシュ層を含むものにより構成されていることは開示されているが、(C)透明導電層に保護膜を設けること、熱成形するために好適な保護膜の構成については開示されていない。
【0016】
特許文献3には、保護膜を備える透明導電フィルムが開示されているが、立体形状(3次元形状)を付与することを意図しておらず、立体形状(3次元形状)を付与するために好適な保護膜の構成については開示されていない。
【0017】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、曲面を有する3次元成形に好適な透明導電フィルム積層体を簡便に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、延伸することによる抵抗値の上昇が小さい熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂材料及び柔軟性に優れる銀ナノワイヤを導電部材として用いた透明導電膜と、熱可塑性樹脂を主成分として含む保護膜と、を備えた透明導電フィルム積層体が3次元成形に好適であることを見出した。
【0019】
本発明は、以下の実施態様を含む。
【0020】
[1]透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、かつ前記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来することを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【0021】
[2]前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体の少なくとも一方である[1]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0022】
[3]前記透明な熱可塑性樹脂フィルムがポリカーボネートフィルムである[1]又は[2]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0023】
[4]前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミドである[1]から[3]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【0024】
[5]前記保護膜を構成する樹脂成分がカルボキシ基を含有するポリウレタン又はエチルセルロースを含む熱可塑性樹脂に由来する[1]から[4]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【0025】
[6]前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来し、前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であり、前記カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対する前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下である[5]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0026】
[7]前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである[1]から[6]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【0027】
[8] [1]から[7]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体と、ポリカーボネートを主成分とする樹脂フィルムとの成形用透明導電フィルム積層体。
【発明の効果】
【0028】
本発明の透明導電フィルム積層体によれば、3次元成形後も良好な導電性、透明性を有する3次元成形体が得られ、曲面形状を有するタッチパネル等の曲面形状成形物の成形に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0030】
実施形態にかかる透明導電フィルム積層体は、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、上記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、上記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマーユニットとして70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、かつ上記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来することを特徴とする。本明細書において「透明」とは、全光線透過率が75%以上であることを意味する。
【0031】
<透明基材>
上記透明基材は着色していてもよいが、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。使用できる透明基材は熱可塑性樹脂フィルムであり、熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリエチレンナフタレート[PEN]等)、ポリカーボネート、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート[PMMA]等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムは、3次元成形する上では良好な成形性を有する非晶性の熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。そのため、前記樹脂フィルムの中でも非晶性であるポリカーボネート、及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、ポリカーボネートがより好ましい。ポリカーボネートは、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ARTON(登録商標、JSR株式会社製)等)やノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学株式会社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス株式会社製))を用いることができる。ポリカーボネートとしては、具体的には、ユーピロン(登録商標、三菱ガス化学株式会社製)、又はパンライト(登録商標、帝人株式会社製)を用いることができる。これらの中でもガラス転移温度(Tg)が90~170℃のものが引き出し配線やコネクタ部分などの製造工程における加熱に耐えうるため好ましく、125~160℃のものがより好ましい。厚みは10~500μmであることが好ましく、25~250μmであることがより好ましく、40~150μmがさらに好ましい。
【0032】
<透明導電膜>
透明導電膜を構成する導電部材としては、金属ナノワイヤを使用する。金属ナノワイヤは、カーボンナノチューブより伸び性が低いが、柔軟性を有する材料であり、透明性の観点ではカーボンナノチューブより好ましい。また、特定のバインダー樹脂(後述するポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標)))と組み合わせた導電性インクを用いれば、15%の歪みを加えても断線等の不具合が発生しない配線形成が可能であることを事前に確認している。しかしながら、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標)は吸湿性があり、その影響により透明導電膜のシート抵抗値が不安定になるため、その表面を覆う保護膜を設ける必要がある。金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。一実施形態では、金属ナノワイヤとともに(混合して)、又は金属ナノワイヤに代えて、ポーラス又はノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意味し、それらの性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。本明細書において、前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブの両方を包含する。狭義の金属ナノワイヤ及び狭義の金属ナノチューブは、それぞれ単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0033】
透明導電膜は、金属ナノワイヤが交差部を有するように透明基材上に形成され、金属ナノワイヤが形成されていない開口部を光が透過できる構成を有する。金属ナノワイヤが交差部を有するナノ構造ネットワークを構成することが好ましく、交差部の少なくとも一部が融着したナノ構造ネットワークを形成することがより好ましい。金属ナノワイヤの交差部が融着していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折パターンの解析から確認できる。具体的には、金属ナノワイヤ同士が交差している箇所の電子線回折パターンを解析し、結晶構造が変化していること(再結晶の発生)から確認することができる。
【0034】
金属ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤ及び金ナノワイヤの大規模な合成及び精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細に記述されている。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブが形成される(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892-3901参照)。
【0035】
金属ナノワイヤの径の太さの平均は、1~500nmが好ましく、5~200nmがより好ましく、5~100nmがさらに好ましく、10~50nmが特に好ましい。金属ナノワイヤの長軸の長さの平均は、1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、2~70μmがさらに好ましく、5~50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の平均及び長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤの平均径をb、長軸の平均長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定される。具体的には、b(平均径)は電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。また、a(平均長さ)の算出には、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。
【0036】
金属ナノワイヤの材料としては、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種並びにこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低いシート抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀及び銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定のシート抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。これらの金属の中でも、金又は銀の少なくとも1種を含むことがより好ましく、銀ナノワイヤであることが最も好ましい。
【0037】
透明導電膜は、金属ナノワイヤとバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂としては、一般に、透明性を有し、加工性に優れるものを使用することができる。ポリオール法を用いて製造された金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を使用することが好ましい。一実施態様では、バインダー樹脂は、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含む。バインダー樹脂としては、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、又はセルロース系樹脂のいずれかのみを用いてもよいし、これらの複数種を併用してもよい。セルロース系樹脂は、後述する一種のみを用いることもできるが、複数種を併用してもよい。後加工の観点からは耐熱性が高いバインダー樹脂を使用することが好ましいことを考慮すると、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))がより好ましい。
【0038】
ポリ-N-ビニルアセトアミドは、N-ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーである。N-ビニルアセトアミド共重合体として、、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体を使用することができる。NVAと共重合可能なモノマーとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、アクリロニトリルが挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電膜のシート抵抗が高くなり、金属ナノワイヤとの混和性、又は基板との密着性が低下する傾向があり、また、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるため、N-ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含まれることが好ましく、80モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましい。このような重合体は絶対分子量による重量平均分子量で3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることがさらに好ましい。ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド共重合体の絶対分子量は以下の方法により測定される。
【0039】
<絶対分子量測定>
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置した。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
【0040】
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて分子量の測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出する。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaHPO水溶液+0.1mol/L NaHPO水溶液
流速 :0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0041】
セルロース系樹脂は、エーテル基を含む、いわゆるグリコシド結合によって共有結合された6員エーテル環からなる線状ポリマーである。セルロース自体は水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒に溶解しないが、変性したセルロース誘導体には水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒に溶解するものがある。セルロース系樹脂としては、水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒のいずれかに溶解するものであれば特に制限されないが、セルロースエーテルを使用することができる。セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルC1-4アルキルセルロース)、カルボキシアルキルセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、及びアルキル-カルボキシアルキルセルロース(例えば、メチルカルボキシメチルセルロース)が挙げられる。これらを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも上記溶媒への溶解性、耐環境性(耐湿性)の観点からメチルセルロース、又はエチルセルロ-スを用いることが好ましい。セルロース系樹脂の重量平均分子量は、10万~20万であることが好ましい。本開示において、セルロース系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリエチレンオキシド換算の値である。
【0042】
上記透明導電膜は、上記金属ナノワイヤ、バインダー樹脂及び溶媒を含む導電性インクを透明基材の少なくとも一方の主面上に印刷等により塗布し、溶媒を乾燥除去することによって形成することができる。
【0043】
溶媒は、金属ナノワイヤが良好に分散し、かつバインダー樹脂を溶解するが透明基材を溶解しない溶媒であれば特に限定されない。ポリオール法で合成した金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒を使用することが好ましい。バインダー樹脂の乾燥速度を容易に制御できることから、アルコールと水との混合溶媒を使用することがより好ましい。アルコールは、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール及びイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール」と表記する。]を少なくとも1種含むことが好ましく、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことがより好ましい。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを用いると、溶媒の乾燥が容易となるため工程上有利である。アルコールとして、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。併用できる炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。これらのアルコールを炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用することにより、溶媒の乾燥速度を調整する事ができる。混合溶媒における全アルコールの含有率は、5~90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であるとコーテイングした際に縞模様(塗布斑)が発生する場合がある。
【0044】
導電性インクは、バインダー樹脂、金属ナノワイヤ及び溶媒を自転公転攪拌機等を用いて攪拌して混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される金属ナノワイヤの含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0~99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0045】
導電性インクの印刷は、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア法、スリットコート法等により行うことができる。印刷により形成される印刷膜又はパターンの形状については特に限定はないが、透明基材上に形成される配線又は電極のパターンの形状、あるいは透明基材の全面又は一部の面を被覆する膜(ベタパターン)の形状が挙げられる。形成したパターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電性を有する。透明導電膜の乾燥厚みは、使用する金属ナノワイヤの径、所望するシート抵抗値等により異なるが、好ましくは10~300nmであり、より好ましくは30~200nmである。透明導電膜の乾燥厚みが10nm以上であれば金属ナノワイヤの交点の数が増えるため良好な導電性を得ることができる。透明導電膜の乾燥厚みが300nm以下であれば、光が透過しやすくなり金属ナノワイヤによる反射が抑制されるため良好な光学特性を得ることができる。必要に応じて導電パターンに適宜な光照射を行ってもよい。
【0046】
<保護膜>
一般的に、透明導電膜を保護する保護膜は、透明導電膜を機械的に保護する観点からは硬化性樹脂組成物の硬化膜より形成することが好ましい。しかし、硬化膜は成形加工性に優れないため、、3次元成形に用いられる保護膜としては好ましくない。最終的な適用形態にもよるが、例えばタッチパネルに適用する場合には、透明導電フィルム積層体は通常他の部材と貼り合わせて使用される、すなわち他の部材により機械的に保護された形態となる。その場合、透明導電フィルム積層体自体には高い機械的強度は必要とされない。そのため、一実施形態の透明導電フィルム積層体を構成する樹脂成分を含む保護膜は、成形加工性に優れる熱可塑性樹脂を主成分とする。換言すると、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する。後述するように、保護膜は樹脂を溶媒に溶解した樹脂組成物を透明導電膜の上に塗布することにより形成される。そのため、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来するとは、保護膜を形成するために用いる樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂であることを意味する。透明導電膜のバインダー樹脂及び透明基材を侵すことがなく、かつ透明導電膜上に良好に塗布することが可能な溶媒に樹脂成分を溶解し、透明導電膜上に膜形成が可能な樹脂組成物を用いる必要がある。適用できる樹脂組成物としては、例えば、エチルセルロースやカルボキシ基を有するポリウレタンを含む樹脂組成物が挙げられる。エチルセルロースを含む樹脂組成物としては、例えばエトセル(登録商標)STD-100(ダウ・ケミカル(米)社製 エチルセルロース 重量平均分子量:180,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.0[カタログ値])が挙げられる。カルボキシ基を含有するポリウレタンは、その重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、3,000~85,000であることがより好ましく、5,000~70,000であることが更に好ましく、10,000~65,000であることが特に好ましい。本明細書において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量は、GPCで測定したポリスチレン換算の値である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量が1,000未満であると、塗膜の伸度、可撓性、並びに強度が損なわれる場合があり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなる場合がある。
【0047】
本明細書においては、特に断りのない限り、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量に関するGPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:ShodexカラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル-プ 100μL
試料濃度:約0.1質量%
【0048】
カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~140mg-KOH/gであることが好ましく、15~130mg-KOH/gであることがより好ましい。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が10mg-KOH/g以上であると、保護膜の耐溶剤性は良好であり、硬化成分を微量併用した際の樹脂組成物の硬化性も良好である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が140mg-KOH/g以下であると、ポリウレタン樹脂の溶媒への溶解性が良好であり、樹脂組成物の粘度を所望の粘度に調整し易い。
【0049】
本明細書において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は以下の方法により測定した値である。
【0050】
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを中和の終点とする。
【0051】
下記の計算式を用いて得た値を、カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価とする。酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(mL)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0052】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐光性及び耐候性の観点では(a1)、(a2)、及び(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0053】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0054】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエ-テルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートが挙げられる。
【0055】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0056】
(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、高温高湿時の信頼性が高く、電子機器部品の部材に適した保護膜を得ることができる。上記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0057】
上述の通り耐候性及び耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。そのため、必要に応じて芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いる場合は、これらの含有量は、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、好ましくは50mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下である。
【0058】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。ポリオール化合物の数平均分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0059】
(a2)ポリオール化合物としては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ-テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、及び植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸及びその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換して得られる炭素原子数が18~72のポリオール化合物が挙げられる。保護膜の耐水性、絶縁信頼性、及び基材との密着性のバランスの観点からは、(a2)ポリオール化合物はポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
【0060】
ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数が3~18のジオールを、炭酸エステル又はホスゲンと反応させることにより得ることができ、例えば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0061】
式(1)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルキレン基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。
【0062】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造することができる。
【0063】
ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルカンジイル基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0064】
本発明の効果を損なわない範囲で、(a2)ポリオール化合物として、ポリエステル又はポリカーボネートを合成する際のジオール成分として通常用いられる、分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びジプロピレングリコールが挙げられる。
【0065】
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、又は炭素原子数が1若しくは2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する、分子量が200以下のカルボン酸又はアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、及びN,N-ビスヒドロキシエチルアラニンが挙げられ、これらの中でも、溶媒への溶解性が高いことから、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、及び2,2-ジメチロ-ルブタン酸が好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、上記の3成分((a1)、(a2)及び(a3))のみから合成が可能である。さらに(a4)モノヒドロキシ化合物及び/又は(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐光性の観点からは、(a4)モノヒドロキシ化合物及び(a5)モノイソシアネート化合物は、分子内に芳香環又は炭素-炭素二重結合を含まない化合物であることが好ましい。
【0067】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成ができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンを無触媒で反応させることが、最終的に錫等の混入を考慮する必要がないため有利である。
【0068】
有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されない。有機溶媒は、アミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ-テル、エチレングリコールジエチルエ-テル、エチレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0069】
生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、及び電子材料用途においてポリウレタンを保護膜用インクの原料にすることを考慮すると、有機溶媒は、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、γ-ブチロラクトン、又はそれらの組合せであることが好ましい。
【0070】
原料の投入順序については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に反応容器に入れ、溶媒に溶解又は分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
【0071】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量及び酸価に応じて調節される。
【0072】
具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)のモル比は、好ましくは0.5~1.5:1、好ましくは0.8~1.2:1、さらに好ましくは0.95~1.05:1である。
【0073】
(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基のモル比は、好ましくは1:0.1~30、より好ましくは1:0.3~10である。
【0074】
前述した通り、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上は熱可塑性樹脂に由来する。保護膜を構成する樹脂成分の6質量%以下が硬化性樹脂(化合物)に由来してもよい。樹脂組成物中の樹脂成分の硬化性樹脂(化合物)の量が6質量%以下の範囲であれば、3次元成形加工性の顕著な低下を招くことなく、保護膜としての機能を向上させることができる。熱可塑性樹脂と併用することができる好適な硬化性樹脂(化合物)としては一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)が挙げられる。
【0075】
保護膜を形成する際に、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが互いに反応しうる場合がある。例えば、熱可塑性樹脂としてカルボキシ基を含有するポリウレタンを使用し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、ポリウレタンのカルボキシ基とエポキシ樹脂のエポキシ基とが反応し、ポリウレタン-エポキシ樹脂複合体が形成される場合がある。本明細書において、「保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する」とは、保護膜の形成に使用した熱可塑性樹脂、例えばカルボキシ基を含有するポリウレタンが、保護膜の樹脂成分の94質量%以上に相当し、保護膜の形成に使用した熱硬化性樹脂、例えば一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、保護膜の樹脂成分の6質量%以下に相当することを意味する。保護膜を形成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来する場合、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、上記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であることを意味する。
【0076】
一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0077】
一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をより好適に使用することができる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER(登録商標)604(三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON(登録商標) EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON(登録商標) HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、TEPIC(登録商標)-S(日産化学株式会社製)が挙げられる。
【0078】
エポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンとの配合割合は、カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下であることが好ましい。
【0079】
エポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンとを併用する場合、樹脂組成物中に硬化促進剤をさらに配合することができる。硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、Irgacure(登録商標)184が挙げられる。硬化促進剤の使用量は、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部、さらに好ましくは40~60質量部である。上記硬化促進剤は、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0080】
硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、例えば、多官能チオール化合物やオキセタン化合物が挙げられる。多官能チオール化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)が挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亜合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産株式会社製)が挙げられる。硬化助剤の使用量は、添加した効果が得られ、かつ硬化速度の過度の上昇を回避しハンドリング性を維持することができるため、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部である。上記硬化助剤も、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0081】
樹脂組成物には、溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。溶媒としては、透明導電膜や透明基材を侵さないものを使用することができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、バインダー樹脂の溶解性又は印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後にカルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。樹脂組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。溶媒の沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、塗布のムラが出来やすい溶媒の沸点が300℃より高いと、乾燥及び硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するため、工業的な生産には向かなくなる。
【0082】
溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒;、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒;イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒;メチルエチルケトン(沸点80℃)等のケトン系の溶媒;又は酢酸エチル(沸点77℃)等のエステル系溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。2種類以上を混合する場合には、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮して、凝集及び沈殿が生じない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒、又はインクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。溶媒単独では透明導電膜又は透明基材を侵す溶媒も、他の溶媒との混合溶媒として透明導電膜又は透明基材を侵さない組成とすれば適用できる。
【0083】
樹脂組成物は、カルボキシ基を含有するポリウレタンに、必要に応じてエポキシ化合物と、硬化促進剤及び/又は硬化助剤と、を配合した混合物に、樹脂組成物中の溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように溶媒を配合し、これらの成分が均一になるように攪拌して製造することができる。
【0084】
樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~10質量%の範囲であると、樹脂組成物を透明導電膜上に塗布したときに、膜厚が過度に厚くなることがなく、透明導電膜との電気的なコンタクトをとれる状態を保持することができ、かつ保護膜に耐候性及び耐光性を付与することができる。
【0085】
以上に述べた樹脂組成物を使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法等の印刷により、透明導電膜上に樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥及び除去することにより保護膜が形成される。保護膜の厚みは、通常100nm超1μm以下である。保護膜の厚みは、100nm超500nm以下であることが好ましく、100nm超200nm以下であることがより好ましく、100nm超150nm以下であることがさらに好ましく、100nm超120nm以下であることが特に好ましい。保護膜の厚みが1μmを超えると後工程で配線と透明導電膜との導通が得られにくくなる。
【0086】
上述の通り透明基材上に透明導電膜(例えば銀ナノワイヤ層)及び保護膜を順次形成することにより得られる透明導電フィルム積層体は、3次元加工性に優れる。透明導電フィルム積層体の3次元加工方法としては、真空成形、ブロー成形、フリーブロー成形、圧空成形、真空圧空成形、熱プレス成形等種々の公知の方法が挙げられるが、いずれの方法を用いても、3次元加工した透明導電フィルム積層体には応力がかかり歪みが発生する。この歪みに伴い透明導電フィルム積層体は延伸される。3次元加工性が低い透明導電フィルム積層体では、低応力(低延伸倍率)で透明導電フィルム積層体を構成する透明導電膜の破断又はシート抵抗値の顕著な増大が通常認められる。一方、3次元加工性が良好な透明導電フィルム積層体では、高応力(高延伸倍率)まで透明導電膜の破断が発生しないか、あるいはシート抵抗値の上昇が小さい。したがって、透明導電フィルム積層体を引張試験してシート抵抗値の変化を測定することにより、透明導電フィルム積層体の3次元加工性を評価することができる。後述の実施例に示すように、一実施形態の透明導電フィルム積層体では、歪みを加える前のシート抵抗値(R)に対する、15%の歪を加えた後のシート抵抗値(R)の比(R/R)が25以下と良好である。これは、樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂である保護膜を使用することにより、歪みを加えても保護膜にクラックが発生し難く、保護膜のクラックが透明導電膜に伝搬してその導電性を損なうことを回避できるためと考えられる。なお、3次元加工性の観点では、保護膜中に硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤等)を含まないことが好ましい。
【0087】
他の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体は、さらに熱可塑性樹脂を含む基材(前面板)と積層した成形用積層体(成形用透明導電フィルム積層体)としての態様を含む。透明導電フィルム積層体の保護、加飾、賦形形状の保持等のために前述の透明導電フィルム積層体に熱可塑性樹脂を含む基材(前面板)を積層する。基材を構成する熱可塑性樹脂の種類は透明であれば特に限定されないが、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、熱可塑性ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエーテルスルホン、セロファン等の各種樹脂が用いられる。基材の熱可塑性樹脂は、これらの選択肢のうち、少なくともポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。基材(前面板)の厚みは、0.5~3.0mmの範囲であることが好ましく、0.6~2.5mmの範囲であることがより好ましく、0.8~2.0mmの範囲であることがさらに好ましい。0.5~3.0mmの範囲であれば、問題なく賦形でき、賦形後の形状を保持できる。
【0088】
基材に含まれるポリカーボネート樹脂の種類としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されないが、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート等が好ましく、ビスフェノールA骨格、又はビスフェノールC骨格を有するポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとビスフェノールCの混合物、又は、共重合体を用いても良い。ビスフェノールC系のポリカーボネート樹脂、例えば、ビスフェノールCのみのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCとビスフェノールAの混合物あるいは共重合体のポリカーボネート樹脂を用いることにより、基材の硬度を向上できる。また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、15,000~40,000であることが好ましく、より好ましくは20,000~35,000であり、さらに好ましくは22,500~25,000である。前述の透明導電フィルム積層体を構成する透明基材として使用するポリカーボネートと同一のものを使用することが好ましい。
【0089】
また、基材に含まれるアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体(PMMA等)、又はMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものが挙げられる。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のようなアクリル樹脂として、例えば、アクリペット(登録商標、三菱ケミカル株式会社製)、デルペット(登録商標、旭化成株式会社製)、パラペット(登録商標、株式会社クラレ製)があるが、これらに限定されない。
【0090】
基材はポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることも可能である。ポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることにより、表面硬度を向上させつつ、基材の熱成形性を維持することが可能である。
【0091】
また、基材は、熱可塑性樹脂以外の成分として添加剤を含んでよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤が挙げられ、これらから成る群から単独で又は2種類以上を用いることができる。また、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を基材に添加してもよい。
【0092】
基材は、熱可塑性樹脂を80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む。また、基材の熱可塑性樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂を80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む。
【0093】
熱可塑性樹脂に更にハードコートをした基材を使用することもできる。光重合性化合物を含有するハードコート組成物を基材に塗布、乾燥後、紫外線により硬化する方法や熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物を基材に塗布、乾燥後、加熱することにより硬化する方法によりハードコートをした基材を得ることができる。光重合性化合物を含有するハードコート組成物を基材に塗布、乾燥後、紫外線により硬化する方法が好ましい。ハードコートは後記接着層とは反対の基材表面に設けることが好ましい。
【0094】
光重合性化合物は、光重合性を有する官能基を保有する化合物であればいずれも使用可能であるが、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有するものが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートはポリオール、イソシアネート、及び、(メタ)アクリレート由来のウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとを含む樹脂材料の重合体を含む。すなわち、ポリオール、イソシアネート、及び、(メタ)アクリレートの三成分を脱水縮合反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0095】
ハードコート組成物は、物性を改善するために添加剤を添加することが可能である。添加剤としては、例えば、防汚性や滑り性を付与可能なフッ素系添加物又はシリコーン系添加物、耐擦傷性改善のための無機粒子成分が挙げられる。
【0096】
熱可塑性樹脂にハードコート層とは別な処理層、例えば、アンチグレア層や防汚染・指紋跡処理層を有する基材を用いることもできる。
【0097】
透明導電フィルム積層体と基材とは、接着層を介して積層される。接着層は、透明導電フィルム積層体と基材とを接着可能であるものであればいずれも使用することができる。接着層は、基材表面に粘着剤を塗布、乾燥することで容易に得ることが可能である。市販の光学透明粘着向けシート(OCA)又は光学透明粘着樹脂(OCR)を使用し貼り合わせることも可能である。
【0098】
OCAは大気圧もしくは真空下で被着体を貼り合わせるものであり、アクリル系、シリコーン系などの材料が使用される。例えば、LUCIACS(登録商標、日東電工株式会社製)、クリアフィット(登録商標、三菱ケミカル株式会社製)、HSV(積水化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0099】
OCRは被着体を張り合わせるための接着樹脂であり、アクリル系、シリコーン系などの材料が市販されている。
【実施例
【0100】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0101】
<銀ナノワイヤの作製>
銀ナノワイヤ1
ポリビニルピロリドンK-90(株式会社日本触媒製)(0.98g)、AgNO(1.04g)及びFeCl(0.8mg)を、エチレングリコール(250ml)に溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた銀ナノワイヤ粗分散液を水/エタノール=20/80[質量比]混合溶媒2000mlに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施し不純物を除去し、銀ナノワイヤ1(平均直径:26nm、平均長さ:20μm)を得た。得られた銀ナノワイヤ1の平均径は、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用いて任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法(径)を測定し、その算術平均値として求めた。また、得られた銀ナノワイヤ1の平均長は、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用いて任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法(長さ)を測定し、その算術平均値として求めた。また、上記メタノール、エチレングリコール、AgNO、FeClは富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0102】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)の作製>
調製例1(銀ナノワイヤインク1)
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤ1の水/エタノール混合溶媒の分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.62質量%、水/エタノール=20/80[質量比])、水1.1g、メタノール6.0g(富士フィルム和光純薬株式会社製)、エタノール7.2g(富士フィルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フィルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、固形分濃度10質量%、絶対分子量90万)0.7gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク1を40g作製した。
【0103】
調製例2(銀ナノワイヤインク2)
銀ナノワイヤインク1において配合したPNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、固形分濃度10質量%、絶対分子量90万)0.7gをエトセル(登録商標)STD100cps(ダウ・ケミカル(米)社製 エチルセルロース、重量平均分子量:180,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.0[カタログ値])を用いて調製した溶液(固形分濃度10質量%、エタノール溶液)0.7gに変更した以外は調製例1同様に調製し、銀ナノワイヤインク2を得た。エタノールは、富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0104】
<銀ナノワイヤインク塗膜の印刷>
上記調製例1で調製した、銀ナノワイヤインク1を用いて、バーコート印刷機(コーテック株式会社社製AFA-Standard)により、PCフィルム(三菱ガス化学株式会社製 ユーピロン(登録商標)FS-2000H ガラス転移温度:130℃(カタログ値)、100μm厚)の主面上に、ウェット膜厚20μmにて塗工し、A4サイズのベタパターンとして透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。楠本化成株式会社製恒温器ETAC HS350を用い、80℃、1分の条件で溶媒乾燥を行った後、得られた透明導電膜のシート抵抗を測定した。シート抵抗は、透明導電膜(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。銀ナノワイヤインク1を用いた透明導電膜のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。なお、シート抵抗は非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製 EC-80P)を用いて測定した。また、透明導電膜の厚みは、光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した結果、80nmであった。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)が直接測定できる。
【0105】
<保護膜インク(樹脂組成物)の作製>
カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成例
合成例1
攪拌装置、温度計、コンデンサー(還流冷却器)を備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)16.7g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(湖州長盛化工有限公司社製)10.8g、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(富士フイルム和光純薬株式会社製)62.6gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0106】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)23.5gを30分かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温し、100℃で15時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に100℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシ基を含有するポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は33500、その樹脂溶液の酸価は39.4mgKOH/gであった。
【0107】
保護膜インク1
上記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)7.1g、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物92.9gを加え、均一になるようにシンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク1を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク1の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタンの量)は3質量%であった。
【0108】
保護膜インク2
保護膜インク1において配合したカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液をエトセル(登録商標)STD100cps(ダウ・ケミカル(米)社製 エチルセルロース)溶液(固形分濃度10質量%エタノール溶液)30.0gに変更し、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物70.0gを加えた以外は保護膜インク1と同様に調製し、保護膜インク2を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク2の不揮発分(固形分)濃度(エトセル(登録商標)の量)は3質量%であった。
【0109】
保護膜インク3
上記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)1.8g、エポキシ化合物1としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.1g、硬化促進剤としてU-CAT5003(第4級ホスホニウムブロマイド)(サンアプロ株式会社製)0.05g、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物28.0gを加え、均一になるように株式会社シンキー製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク3を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク3の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。保護膜インク3中のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は1.0である。
【0110】
保護膜インク4
保護膜インク3において配合したエポキシ化合物1をエポキシ化合物2(EPICLON(登録商標)850(DIC株式会社製 ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂))0.2gに、硬化促進剤を0.1gに、それぞれ変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク4を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク4の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。保護膜インク4中のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は1.0である。
【0111】
保護膜インク5
保護膜インク3において、配合したエポキシ化合物1の量を0.07gに変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク5を得た。保護膜インク5のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.7である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク5の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0112】
保護膜インク6
保護膜インク3において、配合したエポキシ化合物1の量を0.2gに変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク6を得た。保護膜インク6のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は2.0である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク6の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0113】
保護膜インク7
保護膜インク4において、配合したエポキシ化合物2の量を0.13gに変更した以外は保護膜インク4と同様に調製し、保護膜インク7を得た。保護膜インク7のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.7である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク7の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0114】
保護膜インク8
保護膜インク3において、配合したエポキシ化合物1の量を0.05gに変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク8を得た。保護膜インク8のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.5である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク8の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0115】
保護膜インク9
保護膜インク3において、配合したエポキシ化合物1の量を0.01gに変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク9を得た。保護膜インク9のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.1である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク9の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0116】
保護膜インク10
保護膜インク3において、配合したエポキシ化合物1の量を0.002gに変更した以外は保護膜インク3と同様に調製し、保護膜インク10を得た。保護膜インク10のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.02である。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク10の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0117】
<保護膜の印刷>
実施例1
上記調製例1により得られた銀ナノワイヤインク1を用いて、PCフィルムの主面上に印刷した透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)に、前述のバーコート印刷機を用いて透明導電膜の主面上に、ウェット膜厚約7μmにて保護膜インク1を塗工し、A4サイズのベタパターンとして保護膜つき透明導電膜(保護膜つき銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。前述の恒温器を用い、80℃、1分間の条件で溶媒乾燥を行って、実施例1にかかる透明導電フィルム積層体とした。得られた透明導電フィルム積層体のシート抵抗を測定した。この場合のシート抵抗は、透明導電フィルム積層体(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。保護膜インク1を用いた透明導電フィルム積層体のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。なお、シート抵抗は前述の非接触式抵抗測定器を用いて測定した。また、保護膜の厚みは、前述の銀ナノワイヤ層の膜厚同様光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した結果、90nmであった。この場合、測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚とした。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)とその上に形成された保護膜の膜厚(Tp)との総膜厚(Tc+Tp)が直接測定できるので、この測定値から先に測定した銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を差し引くことにより保護膜の膜厚(Tp)が得られる。
【0118】
実施例2、3、及び比較例1~8
実施例1と同様にして、表1に示した組合せで銀ナノワイヤインク塗膜、保護膜を製膜して、それぞれの透明導電フィルム積層体とした。なお、比較例8は、15%の歪みを加えても断線等の不具合が発生しない配線形成が可能であることを事前に確認した、保護膜を製膜しない透明基材に銀ナノワイヤインク塗膜のみを設けた2層構成である。
【0119】
【表1】
【0120】
透明導電膜の評価
<シート抵抗値>
非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製 EC-80P、プローブタイプHigh:10~1000Ω/□、S-High:1000~3000Ω/□)を用いて上記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体のシート抵抗値を測定し、下記判定に従い判定した。結果を表2に示す。
○:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが10以下である。
△:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが30以下である。
×:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□でない。
【0121】
<光学特性>
上記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体をHaze meter NDH 2000(日本電色社製)で測定し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:Hazeが1.0以下かつ、全光線透過率が88%以上かつ、b*が1.4以下であるもの。
△:上記に2項目が該当するもの。
×:上記に1項目が該当する、もしくは該当するものがないもの。
【0122】
<引張特性>
引張試験は上記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を幅30mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。事前にチャック間に相当する部位に10mm間隔で標線を付け、10か所に区切り、それぞれのシート抵抗値を測定し、これをRとした。その後、上記試験片を精密万能試験器(島津製作所製オートグラフAG-X)にセットした。セット時のチャック間距離は100mmであり、試験速度50mm/min、試験設定温度155℃で任意のひずみを与えた。試験後に10か所のシート抵抗値を再度測定し、これをRとした。この値からR/Rを算出し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:15%歪み時のR/Rの平均値が10以下であるもの。
△:15%歪み時のR/Rの平均値が10以上であるもの。
×:上記に該当しないもの。
【0123】
<耐環境性>
上記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を85℃、85%に保った高温高湿器内にて、500時間経過後の抵抗値変化を算出し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:抵抗値変化が10%以下であるもの。
△:抵抗値変化が10%を超え20%以下であるもの。
×:抵抗値変化が20%を超えたもの。
【0124】
【表2】
【0125】
表2中の保護膜の熱可塑性樹脂含有率(質量%)は、各実施例、比較例に用いた各保護
膜インク組成(不揮発分(固形分)である[カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量]に対する[カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエトセル(登録商標)]の割合(質量%))から算出した。
【0126】
保護膜を構成する樹脂成分として硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)を含まない実施例1,2及び6質量%以下の硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)を含む実施例3で得られた透明導電フィルム積層体は引張試験後いずれも接触抵抗を測定でき、電子デバイス用電極として適用できることが分かる。しかし、保護膜中に配合した硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)の量が6質量%超(熱可塑性樹脂であるカルボキシ基を含有するポリウレタンの量が94質量%未満)の比較例1~7では、引張試験を行うと、いずれも15%歪み(チャック間距離が115mm)となった時点でシート抵抗値が測定できなくなり、透明導電フィルム積層体が導電体としての機能を喪失している。保護膜に硬化成分を添加した場合、保護膜の架橋が進み、引張載荷の早期に保護膜のクラックが発生することで、銀ナノワイヤを追従的に破断し、シート抵抗が測定できなくなっていると考えられる。
【0127】
<透明導電フィルム積層体と基材(前面板)との成形用透明導電フィルム積層体>
実施例4
実施例1で得られた透明導電フィルム積層体の保護膜側に、OCAを介して前面板を貼合することで透明導電フィルム積層体と前面板との成形用積層体を製造した。OCAとしては日東電工株式会社製CS9864UAS(厚み100μm)を使用した。前面板としては三菱ガス化学製FS-2000H(厚み0.5mm)を使用した。具体的には、両面にセパレータを具えたOCAを所定の大きさに裁断後、一方のセパレータを剥離して、一方の粘着面を前面板の表面にハンドローラー(2kgローラー)を用いて1往復の条件で貼り付けた。次に、他方のセパレータを剥離して、他方の粘着面を透明導電フィルム積層体の保護膜側に下記条件で貼り付けて、透明導電フィルム積層体と前面板との積層体(成形用透明導電フィルム積層体)を作製し、試験片とした。
(貼り合わせ条件)
面圧:0.4MPa
真空度:30Pa
貼り付け時間:2秒
次に、上記試験片をオートクレーブに投入し、温度50℃、圧力0.5MPaの条件で15分間、オートクレーブ処理した。さらに、上記試験片は、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後、試験に使用した。
【0128】
実施例5
銀ナノワイヤインク1の代わりに銀ナノワイヤインク2を使用し、実施例1同様に製造して得られた透明導電フィルム積層体を用いて、実施例4同様に透明導電フィルム積層体と前面板との積層体を作製した。
【0129】
比較例9
比較例8にかかる透明導電フィルム積層体を用いた以外は実施例4と同様に透明導電フィルム積層体と前面板との積層体を作製した。
【0130】
比較例10
銀ナノワイヤインク1の代わりに銀ナノワイヤインク2を使用し、比較例8同様に製造して得られた透明導電フィルム積層体を用いて、比較例9と同様に透明導電フィルム積層体と前面板との積層体を作製した。
【0131】
成形用透明導電フィルム積層体の評価
<シート抵抗値>
非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製 EC-80P、プローブタイプHigh:10~1000Ω/□、S-High:1000~3000Ω/□)を用いて上記各実施例、比較例で得られた各成形用透明導電フィルム積層体のシート抵抗値を透明基材側(前面板を貼合した面とは反対側の面)から測定し、下記判定に従い判定した。結果を表3に示す。
○:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが10以下である。
△:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが30以下である。
×:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□でない。
【0132】
<光学特性>
上記各実施例、比較例で得られた各成形用透明導電フィルム積層体をHaze meter NDH 2000(日本電色社製)で測定し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:Hazeが1.0以下かつ、全光線透過率が88%以上かつ、b*が1.4以下であるもの。
△:上記に2項目が該当するもの。
×:上記に1項目が該当する、もしくは該当するものがないもの。
【0133】
<引張特性>
引張試験は上記各実施例、比較例で得られた各成形用透明導電フィルム積層体を幅30mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。事前にチャック間に相当する部位に10mm間隔で標線を付け、10か所に区切り、それぞれのシート抵抗値を測定し、これをRとした。その後、上記試験片を精密万能試験器(島津製作所製オートグラフAG-X)にセットした。セット時のチャック間距離は100mmであり、試験速度50mm/min、試験温度155℃で任意のひずみを与えた。試験後に10か所のシート抵抗値を再度測定し、これをRとした。この値からR/Rを算出し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:15%歪み時のR/Rの平均値が10以下であるもの。
△:15%歪み時のR/Rの平均値が10以上であるもの。
×:上記に該当しないもの。
【0134】
<耐環境性>
上記各実施例、比較例で得られた各成形用透明導電フィルム積層体を85℃、85%RHに保った高温高湿器内にて、500時間経過後の抵抗値変化を算出し、下記判定に従い、判定した。結果を表3に示す。
○:抵抗値変化が10%以下であるもの。
△:抵抗値変化が10%を超え20%以下であるもの。
×:抵抗値変化が20%を超えたもの。
【0135】
【表3】
【0136】
実施例4と実施例1との比較により、透明導電フィルム積層体と基材とを貼合した成形用透明導電フィルム積層体でも透明導電フィルム積層体単独の場合と概ね同等のシート抵抗値、光学特性、引張特性、耐環境性が得られることが示唆される。実施例4と実施例5との比較から、透明導電膜のバインダー樹脂としてPNVAを用いた実施例4よりもエトセルを用いた実施例5の方が引張特性には優れるものの、光学特性はやや低くなっている。透明導電膜のバインダー樹脂としてエトセルを用いた方が引張特性に優れる理由としては、エトセルのガラス転移温度がPNVAのガラス転移温度より低いため、試験条件においてより変形しやすくなっているためと推測できる。OCAによる貼合によるシート抵抗値、光学特性への影響は微々たるものであった。
【0137】
実施例4、5と比較例9、10との構成の相違は、透明導電フィルム積層体の保護膜の有無である。保護層を有さない透明導電フィルム積層体を用いた比較例9、10では、保護膜を有する透明導電フィルム積層体を用いた実施例4、5に比べて耐環境性の悪化が顕著であった。透明導電膜に水溶性のバインダー樹脂を用いているため、保護膜を形成しないとバインダー樹脂が吸湿しやすく、抵抗値変化が大きくなったと推測される。