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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】窒化珪素基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20240214BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 21/956 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C04B35/587
H05K1/03 610D
G01N21/956 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023165914
(22)【出願日】2023-09-27
(62)【分割の表示】P 2023111250の分割
【原出願日】2022-02-25
(65)【公開番号】P2023165902
(43)【公開日】2023-11-17
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】福本 怜
(72)【発明者】
【氏名】加賀 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 馨
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-029851(JP,A)
【文献】特開2001-114565(JP,A)
【文献】特開2018-184333(JP,A)
【文献】特開昭52-121613(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170247(WO,A1)
【文献】特開昭63-151678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584-35/596
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、
平面形状は、それぞれの辺が100mm以上の矩形形状であり、
熱伝導率は、110W/(m・K)以上であり、
前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である、
窒化珪素基板。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素基板において、
前記中央部と前記縁部のすべてで、クロマティクネス指数b*が10以上である、窒化ケイ素基板。
【請求項3】
請求項2に記載の窒化珪素基板において、
前記中央部と前記縁部のすべてで、クロマティクネス指数a*が―2以上0以下である、窒化ケイ素基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板において、
厚さが0.15mm以上0.8mm以下である、窒化珪素基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素基板およびその製造技術に関し、例えば、熱伝導率が110W/(m・K)以上の窒化珪素基板およびその製造技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003-267786号公報(特許文献1)には、焼結体の色を従来材に比べて黒色化し、かつ、色むらを少なくするとともに、充分な強度を有する窒化珪素系セラミックス焼結体を提供するための技術が記載されている。
【0003】
特開2005-214659号公報(特許文献2)には、配線基板の色に対してコントラストが小さい色の異物も判別できる異物検査装置に関する技術が記載されている。
【0004】
特開2016-204206号公報(特許文献3)、特開2016-204207号公報(特許文献4)、特開2016-204209号公報(特許文献5)および特開2016-204210号公報(特許文献6)には、軽量、かつ、高硬度であり、研磨などの加工に対する耐性に優れ、さらには、外観品質に優れた窒化珪素系セラミック部材を提供するための技術が記載されている。
【0005】
特開平9-227240号公報(特許文献7)には、窒化珪素セラミックス焼結体における表面色調層部の厚さを薄くして、さらに、表面層および内部層の破壊強度特性を均一にすることができる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-267786号公報
【文献】特開2005-214659号公報
【文献】特開2016-204206号公報
【文献】特開2016-204207号公報
【文献】特開2016-204209号公報
【文献】特開2016-204210号公報
【文献】特開平9-227240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、窒化珪素基板の表面に異物や汚れが付着すると、「ろう材」との接触不良や窒化珪素基板自体の絶縁不良を引き起こす要因となることから、異物や汚れを除去する必要がある。したがって、異物や汚れの窒化珪素基板への付着を検出するために、外観検査が行われている。外観検査手法としては、例えば、窒化珪素基板の表面をCCDカメラに代表される撮像装置で撮像した後、撮像された画像のデータと予め登録された基準データとを比較することにより、異物や汚れを検出する手法がある。
【0008】
本発明の目的は、窒化珪素基板の外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態における窒化珪素基板は、シート状の成形体に含まれる珪素を窒化してなる窒化珪素基板であって、第1面と、第1面とは反対側の第2面とを有する。ここで、第1面と第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と縁部との色差をΔEabとすると、ΔEab≦1.5である。
【0010】
一実施の形態における窒化珪素基板の製造方法は、(a)シリコン粉末を含むスラリーを作製する工程、(b)スラリーから成形体を取得する工程、(c)炉内で成形体を焼結する工程、を備える。ここで、(c)工程は、前記成形体を所定の加熱温度で加熱することにより窒化する窒化工程を含み、加熱温度と炉内における成形体の温度との温度差が20℃以下である。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、窒化珪素基板の外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】インバータ回路および3相誘導モータを含むモータ回路を示す図である。
図2】インバータ回路を実現する実装レイアウト例を示す模式図である。
図3】関連技術における窒化珪素基板の製造工程を示すフローチャートである。
図4】実施の形態における窒化珪素基板の製造工程を示すフローチャートである。
図5】成形体を積層配置した状態を示す図である。
図6】色むらが発生した窒化珪素基板の表面を示す写真である。
図7】実施例1の所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示すグラフである。
図8】実施例2の所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示すグラフである。
図9】比較例の所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示すグラフである。
図10】「色空間」の立体的イメージを示す模式図である。
図11】窒化珪素基板を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0014】
本実施の形態における窒化珪素基板は、パワーモジュールに使用される絶縁基板である。パワーモジュールとは、例えば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、鉄道車両、あるいは、産業機器に備わるモータを制御するインバータ回路を構成する電子装置である。
【0015】
<3相インバータ回路の構成例>
以下では、3相インバータ回路を例に挙げて説明する。
【0016】
パワーモジュールは、例えば、エアコンなどに使用される3相誘導モータの駆動回路に使用されるものである。具体的に、この駆動回路には、インバータ回路が含まれ、このインバータ回路は直流電力を交流電力に変換する機能を有する回路である。
【0017】
図1は、インバータ回路および3相誘導モータを含むモータ回路の構成を示す回路図である。図1において、モータ回路は、3相誘導モータMTおよびインバータ回路INVを有している。3相誘導モータMTは、位相の異なる3相の電圧により駆動するように構成されている。具体的に、3相誘導モータMTでは、位相が120度ずれたU相、V相、W相と呼ばれる3相交流を利用して導体であるロータRTの回りに回転磁界を発生させる。この場合、ロータRTの回りを磁界が回転することになる。このことは、導体であるロータRTを横切る磁束が変化することを意味する。この結果、導体であるロータRTに電磁誘導が生じて、ロータRTに誘導電流が流れる。そして、回転磁界中で誘導電流が流れるということは、フレミングの左手の法則によって、ロータRTに力が加わることを意味し、この力によって、ロータRTが回転することになる。
【0018】
このように3相誘導モータMTでは、3相交流を利用することにより、ロータRTを回転させることができることがわかる。つまり、3相誘導モータMTでは、3相交流が必要となる。そこで、モータ回路では、直流から交流を作り出すインバータ回路INVを利用することにより、3相誘導モータに3相交流を供給している。
【0019】
以下に、このインバータ回路INVの構成例について説明する。
【0020】
図1に示すように、例えば、インバータ回路INVには、3相に対応してスイッチング素子Q1とダイオードFWDが設けられている。すなわち、インバータ回路INVでは、例えば、図1に示すようなスイッチング素子Q1とダイオードFWDを逆並列接続した構成により、インバータ回路INVの構成要素を実現している。例えば、図1において、第1レグLG1の上アームおよび下アーム、第2レグLG2の上アームおよび下アーム、第3レグLG3の上アームおよび下アームのそれぞれは、スイッチング素子Q1とダイオードFWDを逆並列接続した構成要素から構成されることになる。
【0021】
言い換えれば、インバータ回路INVでは、正電位端子PTと3相誘導モータMTの各相(U相、V相、W相)との間にスイッチング素子Q1とダイオードFWDが逆並列に接続されており、かつ、3相誘導モータMTの各相と負電位端子NTとの間にもスイッチング素子Q1とダイオードFWDが逆並列に接続されている。つまり、単相ごとに2つのスイッチング素子Q1と2つのダイオードFWDが設けられており、3相で6つのスイッチング素子Q1と6つのダイオードFWDが設けられている。そして、個々のスイッチング素子Q1のゲート電極には、ゲート制御回路GCCが接続されており、このゲート制御回路GCCによって、スイッチング素子Q1のスイッチング動作が制御されるようになっている。このように構成されたインバータ回路INVにおいて、ゲート制御回路GCCでスイッチング素子Q1のスイッチング動作を制御することにより、直流電力を3相交流電力に変換して、この3相交流電力を3相誘導モータMTに供給するようになっている。
【0022】
<スイッチング素子の種類>
例えば、インバータ回路INVに使用されるスイッチング素子Q1としては、パワーMOSFETやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を挙げることができる。
【0023】
<インバータ回路の実装レイアウト例>
図2は、インバータ回路を実現する実装レイアウト例を示す模式図である。
【0024】
図2において、絶縁基板である窒化珪素基板100には、電源配線VLと配線WL1~配線WL3とグランド配線GLとが形成されている。電源配線VLには、電源電位が供給される一方、グランド配線GLには、グランド電位(接地電位)が供給される。また、配線WL1は3相誘導モータのU相と接続され、配線WL2は3相誘導モータのV相と接続され、配線WL3は3相誘導モータのW相と接続される。なお、窒化珪素基板100と、この窒化珪素基板100上に形成された配線パターンを合わせて、「窒化珪素回路基板」と呼ばれることがある。したがって、図2に示すように、「窒化珪素回路基板」上には、半導体装置SA1~半導体装置SA6が搭載されている。
【0025】
図2に示すように、電源配線VLと配線WL1との間には、半導体装置SA1が接続される一方、配線WL1とグランド配線GLとの間には、半導体装置SA2が接続されている。すなわち、半導体装置SA1と半導体装置SA2は、電源配線VLとグランド配線GLとの間で直列接続されており、図1に示すインバータ回路INVの第1レグLG1を構成している。つまり、半導体装置SA1は、第1レグLG1の上アームを構成しているとともに、半導体装置SA2は、第1レグLG1の下アームを構成している。そして、半導体装置SA1および半導体装置SA2のそれぞれは、スイッチング素子Q1として機能するパワーMOSFETが形成された半導体チップを有している。
【0026】
同様に、電源配線VLと配線WL2との間には、半導体装置SA3が接続される一方、配線WL2とグランド配線GLとの間には、半導体装置SA4が接続されている。すなわち、半導体装置SA3と半導体装置SA4は、電源配線VLとグランド配線GLとの間で直列接続されており、図1に示すインバータ回路INVの第2レグLG2を構成している。つまり、半導体装置SA3は、第2レグLG2の上アームを構成しているとともに、半導体装置SA4は、第2レグLG2の下アームを構成している。そして、半導体装置SA3および半導体装置SA4のそれぞれは、スイッチング素子Q1として機能するパワーMOSFETが形成された半導体チップを有している。
【0027】
さらに、電源配線VLと配線WL3との間には、半導体装置SA5が接続される一方、配線WL3とグランド配線GLとの間には、半導体装置SA6が接続されている。すなわち、半導体装置SA5と半導体装置SA6は、電源配線VLとグランド配線GLとの間で直列接続されており、図1に示すインバータ回路INVの第3レグLG3を構成している。つまり、半導体装置SA5は、第3レグLG3の上アームを構成しているとともに、半導体装置SA6は、第3レグLG3の下アームを構成している。そして、半導体装置SA5および半導体装置SA6のそれぞれは、スイッチング素子Q1として機能するパワーMOSFETが形成された半導体チップを有している。
【0028】
以上のようにして、電源配線VL1、配線WL1~配線WL3およびグランド配線GLが形成された窒化珪素基板100上に6つの半導体装置SA1~半導体装置SA6を配置することにより(図2参照)、インバータ回路に対応した実装レイアウトを実現できる。
【0029】
<窒化珪素基板に要求される性能>
上述しように、窒化珪素基板100上には、半導体装置SA1~半導体装置SA6が搭載される。このとき、半導体装置SA1~半導体装置SA6において熱が発生することから、熱に起因する半導体装置SA1~半導体装置SA6の誤動作や故障を防止する必要がある。したがって、半導体装置SA1~半導体装置SA6が搭載されている窒化珪素基板100には、高い放熱特性が要求される。言い換えれば、窒化珪素基板100は、高い熱伝導率を有していることが要求される。また、窒化珪素基板100には、温度変化に起因して発生する応力に対する耐性も要求される。
【0030】
以下では、特に、熱伝導率の向上に着目する。
【0031】
<関連技術の説明>
まず、窒化珪素基板を製造する関連技術について説明する。
【0032】
本明細書でいう「関連技術」とは、公知技術ではないが、本発明者が見出した課題を有する技術であって、本願発明の前提となる技術である。
【0033】
図3は、関連技術における窒化珪素基板の製造工程を示すフローチャートである。
【0034】
窒化珪素粉末に対し、焼結助剤として希土類元素酸化物およびマグネシウム化合物を添加した後、分散媒(有機溶剤)および必要に応じて分散剤を添加し、ボールミルで粉砕することにより、原料粉末の分散物であるスラリーを作製する(S101)。
【0035】
次に、作製したスラリーに対して、有機バインダなどを加えた後、必要に応じて真空脱泡を行うとともに、粘度を所定の範囲内に調整することにより、塗工用スラリーを作製する。その後、作製した塗工用スラリーをシート成形機でシート状に成形して、所定のサイズに切断した後、乾燥することによってシート状の成形体を作製する(S102)。
【0036】
続いて、得られたシート状の成形体を加熱することにより、成形体を緻密化して焼結する(S103)。以上のようにして、窒化珪素基板を製造することができる。
【0037】
上述した関連技術で製造される窒化珪素基板の熱伝導率は、90W/(m・K)程度である。この点に関し、本発明者は、窒化珪素基板の熱伝導率の向上を図ることを検討した結果、関連技術では、窒化珪素粉末を使用することに起因して、さらなる熱伝導率の向上を図ることが困難であるという知見を獲得している。すなわち、窒化珪素粉末は、不純物が多く高純度な窒化珪素粉末を得ることが困難であることによって、関連技術で製造される窒化珪素基板において、さらなる熱伝導率の向上を図ることが困難であるという知見を本発明者は獲得している。そこで、窒化珪素粉末ではなく、珪素粉末を使用することが検討されている。なぜなら、珪素粉末は、窒化珪素粉末に比べて不純物が少なく、高純度の珪素粉末を得ることが容易であるからである。つまり、珪素粉末は、窒化珪素粉末よりも高純度であることから、不純物に起因する熱伝導率の低下を抑制できると考えられる。このことから、本実施の形態では、窒化珪素粉末ではなく、珪素粉末を使用した窒化珪素基板の製造方法を採用している。
【0038】
<実施の形態における窒化珪素基板の製造方法>
以下では、本実施の形態で採用している窒化珪素基板の製造方法を説明する。
【0039】
図4は、本実施の形態における窒化珪素基板の製造工程を示すフローチャートである。
【0040】
1.スラリー作製工程
本実施の形態では、珪素粉末に焼結助剤として希土類元素酸化物およびマグネシウム化合物を添加して得られる原料粉末を使用してスラリーを作製する(S201)。
【0041】
<<珪素>>
本実施の形態では、工業的に入手可能なグレードの珪素粉末を使用することができる。粉砕前の珪素は、例えば、メジアン径D50が6μm以上、BET比表面積が3m/g以下、酸素量が1.0質量%以下、および珪素中の不純物炭素量が0.15質量%以下の粉末であることが望ましい。さらには、メジアン径D50が7μm以上、BET比表面積が2.5m/g以下、酸素量が0.5質量%以下、および珪素中の不純物炭素量が0.10質量%以下の粉末であることがより望ましい。
【0042】
特に、珪素粉末の純度は、99%以上であることが望ましく、99.5%以上であることが望ましい。なぜなら、珪素に含まれる不純物酸素は、反応焼結によって得られる窒化珪素基板の熱伝導を阻害する要因の1つであることから、窒化珪素基板の熱伝導率を向上させる観点から、不純物酸素は少ない方が望ましいからである。
【0043】
さらに、マグネシウム化合物からの酸素量を制限することにより、珪素粉末に含まれる不純物酸素およびマグネシウム化合物からの酸素の総量が、窒化珪素に換算した珪素に対して、0.1質量%以上1.1質量%以下の範囲となるように原料粉末を調整することが望ましい。また、珪素に含まれる不純物炭素は、反応焼結によって得られる窒化珪素基板において、窒化珪素粒子の成長を阻害する結果、緻密化不足になりやすく、これによって、窒化珪素基板の熱伝導率の低下や絶縁特性の低下を招く要因の1つとなることから、できるだけ少ない方が望ましい。
【0044】
なお、本明細書において、BET比表面積(m/g)は、BET比表面積計でBET一点法(JIS R 1626:1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」)によって求めた値である。また、メジアン径D50(μm)は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布において累積度数が50%となるときの粒径である。
【0045】
<<希土類元素酸化物>>
本実施の形態では、希土類元素酸化物として、入手が容易であり、また、酸化物として安定しているイットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、ルテチウム(Lu)などの酸化物が使用される。具体的に、希土類元素酸化物としては、酸化イットリウム(Y)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化エルビウム(Er)、酸化ルテチウム(Lu)などを挙げることができる。
【0046】
希土類元素酸化物の含有量は、例えば、珪素(窒化珪素に換算)、希土類元素酸化物(三価の酸化物換算)およびマグネシウム化合物(MgO換算)の合計に対して、0.5mol%以上2mol%未満である。希土類元素酸化物の含有量が0.5mol%未満である場合、焼結助剤としても効果が不充分となり、密度が充分に高くならない。一方、希土類元素酸化物の含有量が2.0mol%以上である場合、低熱伝導率の粒界相が増加することにより焼結体の熱伝導率が下がるとともに、高価な希土類元素酸化物の使用量が増加する。特に、希土類元素酸化物の含有量は、0.6mol%以上2mol%未満であることが望ましく、1mol%以上1.8mol%以下であることがさらに望ましい。
【0047】
なお、本明細書において、珪素がすべて窒化したときに得られる窒化珪素(Si)のモル数と、希土類元素酸化物を三価の酸化物(RE:REは希土類元素)に換算したときのモル数と、マグネシウム化合物をMgOに換算したときのモル数との合計を単に、「珪素(窒化珪素に換算)、希土類元素酸化物(三価の酸化物換算)およびマグネシウム化合物(MgO換算)の合計」ということがある。
【0048】
<<マグネシウム化合物>>
マグネシウム化合物としては、「Si」、「N」または「O」を含有するマグネシウム化合物を1種類または2種類以上使用することができる。特に、酸化マグネシウム(MgO)、窒化珪素マグネシウム(MgSiN)、珪化マグネシウム(MgSi)、窒化マグネシウム(Mg)などを使用することが望ましい。
【0049】
ここで、マグネシウム化合物の合計に対して、87質量%以上が窒化珪素マグネシウムとなるように選択する。87質量%以上の窒化珪素マグネシウムを使用することにより、得られる窒化珪素基板中の酸素濃度を低減することができる。マグネシウム化合物中の窒化珪素マグネシウムが87質量%未満である場合、焼結後の窒化珪素粒子内の酸素量が多くなる結果、焼結体(窒化珪素基板)の熱伝導率が低くなる。したがって、窒化珪素基板の熱伝導率を向上する観点から、マグネシウム化合物中の窒化珪素マグネシウムは、多い方が望ましく、例えば、90質量%以上であることが望ましい。
【0050】
窒化珪素基板中のマグネシウム化合物の含有量(MgO換算)は、例えば、珪素(窒化珪素に換算)、希土類元素酸化物(三価の酸化物換算)およびマグネシウム化合物(MgO換算)の合計に対して、8mol%以上15mol%未満である。マグネシウム化合物の含有量が8mol%未満である場合、焼結助剤としても効果が不充分となり、密度が充分に高くならない。一方、マグネシウム化合物の含有量が15mol%以上である場合、低熱伝導率の粒界相が増加することにより焼結体の熱伝導率が下がる。特に、マグネシウム化合物の含有量は、8mol%以上14mol%未満であることが望ましく、9mol%以上11mol%以下であることがさらに望ましい。
【0051】
上述した珪素と希土類元素酸化物とマグネシウム化合物を使用してスラリーを作製する(S201)。具体的には、珪素粉末に焼結助剤として希土類元素酸化物およびマグネシウム化合物を所定の比率となるように添加した後、分散媒(有機溶剤)および必要に応じて分散剤を添加し、ボールミルで粉砕することにより、原料粉末の分散物であるスラリーを作製する。分散媒としては、エタノール、n-ブタノール、トルエンなどを使用することができる。また、分散剤としては、例えば、ソルビタンエステル型分散剤、ポリオキシアルキレン型分散剤などを使用することができる。
【0052】
分散媒の使用量は、例えば、原料粉末の総量に対して、40質量%以上70質量%以下であることが望ましく、分散剤の使用量は、例えば、原料粉末の総量に対して0.3質量%以上2質量%以下であることが望ましい。なお、分散後に、必要に応じて分散媒の除去、または、他の分散媒への置換を行ってもよい。
【0053】
2.成形体作製工程
上述のようにして得られたスラリーに対し、例えば、分散媒、有機バインダ、分散剤などを加えて、必要に応じて真空脱泡を行った後、粘度を所定の範囲に調整することにより、塗工用スラリーを作製する。
【0054】
次に、作製した塗工用スラリーをシート成形機でシート状に成形して、所定のサイズに切断した後、乾燥することによってシート状の成形体を作製する(S202)。
【0055】
塗工用スラリーの作製に使用する有機バインダは、特に限定されないが、PVB系樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)、エチルセルロース系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。分散媒、有機バインダ、分散剤などの添加量は、塗工条件に応じて、適宜調整することが望ましい。
【0056】
塗工用スラリーをシート状に成形する方法は、特に限定されるものではないが、ドクターブレード法、押出成形法などのシート成形法を使用することができる。
【0057】
成形体作製工程において形成されるシート状の成形体の厚さは、例えば、0.15mm以上0.8mm以下である。作製されたシート状の成形体は、必要に応じて、例えば、打ち抜き機などを使用して所定のサイズに切断される。
【0058】
3.焼結工程
作製されたシート状の成形体を加熱することにより、成形体に含まれる珪素を窒化した後に緻密化する焼結工程が実施される(S203)。この焼結工程には、成形体中に含まれる有機バインダを除去する脱脂工程と、成形体中に含まれる珪素と窒素とを反応させて窒化珪素を形成する窒化工程(S204)と、窒化工程後に行われる緻密化焼結工程と、が含まれる。すなわち、本実施の形態における窒化珪素基板は、シート状の成形体に含まれる珪素を窒化してなる窒化珪素基板である。窒化珪素基板の厚さは、例えば、0.15mm以上0.8mm以下である。これらの工程は、別々の炉で逐次的に実施してもよいし、同一の炉において連続的に実施してもよい。
【0059】
焼結工程では、例えば、図5に示すように、作製したシート状の成形体100Aを窒化硼素(BN)製のセッタ200上に分離材(図示せず)を挟んで複数枚積層するとともに積層された複数枚の成形体100Aの最上層に重石300を配置して電気炉内に設置する。この状態で、有機バインダの除去工程(脱脂工程)が実施された後、窒化装置において、900℃~1300℃の温度で脱炭素処理が実施され、窒素雰囲気で所定温度まで昇温させて窒化処理が行われる。その後、焼結装置において、緻密化焼結工程が実施される。このような焼結工程は、例えば、重石300によって、成形体100Aに10Pa以上1000Pa以下の荷重をかけながら実施される。
【0060】
なお、上述した分離材としては、例えば、厚さが約3μm以上20μm以下の窒化硼素(BN)粉層が使用される。窒化硼素粉層は、焼結後の窒化珪素基板(焼結体)の分離を容易にする機能を有する。窒化硼素粉層は、例えば、シート状の各成形体100Aの片面に、スプレー、ブラシ塗布またはスクリーン印刷によって、窒化硼素粉がスラリーの状態で塗布されることで、形成される。窒化硼素粉は、例えば、95%以上の純度および1μm以上20μm以下の平均粒径(D50)を有していることが望ましい。
【0061】
以上のようにして、窒化珪素基板を製造することができる。特に、本実施の形態における窒化珪素基板の製造方法によれば、純度の高い珪素粉末を使用していることから、例えば、熱伝導率が110W/(m・K)以上の窒化珪素基板を製造することができる。ただし、本発明者が検討したところ、上述した窒化珪素基板の製造方法には、改善の余地が存在することが明らかになったので、以下では、この点について説明する。
【0062】
<改善の余地>
上述した窒化珪素基板の製造方法では、窒化珪素粉末ではなく、珪素粉末を使用していることから、窒化処理が必要となる。この点に関し、本発明者は、窒化処理での加熱条件によって、製造された窒化珪素基板の表面に色むらが生じることを新規に見出した。
【0063】
ここで、本明細書で窒化珪素基板の「表面」というときは、第1面としての「表面」だけでなく、第1面とは反対側の第2面としての「裏面」も含むことを意図している。例えば、窒化珪素基板の「表面」に色むらが発生しているというときには、窒化珪素基板の「表面または裏面」に色むらが発生していると適宜読み換えることとする。すなわち、本明細書で「表面」というときには、「表面または裏面の少なくとも1つの面」という意図で使用して、表現の煩雑さを回避することにする。
【0064】
また、本明細書でいう「色むら」とは、例えば、矩形形状の窒化珪素基板の中央部の色合いと縁部の色合いとが異なることを意味している。具体的に、図6は、色むらが発生した窒化珪素基板の表面を示す写真である。図6において、窒化珪素基板の中央部は、白味を帯びているのに対し、窒化珪素基板の縁部は、黒味を帯びており、中央部の色合いと縁部の色合いとを比較すると、窒化珪素基板に色むらが発生していることがわかる。
【0065】
例えば、窒化珪素基板の表面に異物や汚れが付着すると、「ろう材」との接触不良や窒化珪素基板自体の絶縁不良を引き起こす要因となることから、異物や汚れを除去する必要がある。したがって、異物や汚れの窒化珪素基板への付着を検出するために、外観検査が行われている。ところが、図6に示すような色むらが発生すると、色むらを異物や汚れの付着として誤検出するおそれがある。具体的に、異物や汚れは黒色領域(黒色点)として認識されることが多いことを考慮すると、例えば、図6に示す窒化珪素基板の縁部は黒味を帯びていることから、この縁部の領域が異物や汚れが付着した領域と誤検出されるおそれがある。したがって、外観検査における誤検出を抑制するためには、窒化珪素基板の表面に発生する色むらを抑制する工夫が望まれていることがわかる。
【0066】
<<色むらの発生メカニズム(推測)>>
そこで、本発明者は、窒化珪素基板の表面に発生する色むらを抑制するために、まず、窒化珪素基板の表面に色むらが発生するメカニズムについて鋭意検討した。この結果、本発明者は、以下に示す色むらの発生メカニズムを推定したので、この推定した色むらの発生メカニズムについて説明する。
【0067】
窒化処理は、窒素雰囲気中において、例えば、図5に示すように、セッタ200上に複数枚のシート状の成形体100Aを配置するとともに、積層された成形体100A上に重石300を配置した状態での加熱処理によって行われる。この場合、例えば、積層された成形体100Aのうち、上下の成形体100Aで挟まれた第1成形体に着目すると、この第1成形体においては、中央部には熱が籠りやすい。このことから、第1成形体においては、中央部の温度が高く、かつ、縁部の温度が低い温度分布が生じる。このとき、温度の高い中央部では、窒化反応が進む一方、縁部では、窒化反応が進みにくくなる。そして、窒化反応が発熱反応であることを考慮すると、窒化反応が進む中央部では、発熱量の正帰還が生じる結果、急激に温度が上昇する。この温度上昇が大きい場合には、中央部の温度が珪素の融点を超えて珪素が溶融してしまう「熱暴走」が生じてしまうとともに、中央部と縁部との間の温度差が大きくなる結果、縁部で窒化不足が生じると考えられる。このような窒化不足が生じた状態で焼結処理を実施すると、最終的に窒化しきらなかった珪素が縁部に残存することになる結果、色むらが発生すると推察される。すなわち、本発明者は、未窒化の珪素が残存することに起因して色むらが発生すると推察している。
【0068】
このように推察されるメカニズムに基づくと、窒化珪素基板の表面に生じる色むらは、窒化処理における昇温工程に起因すると考えられる。すなわち、中央部の温度と縁部の温度との温度差が小さくなるような温度分布を実現しながら昇温工程を実施することができれば、「熱暴走」を抑制しながら、色むらを抑制できると考えられる。そこで、本実施の形態では、窒化処理における昇温工程に工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明することにする。
【0069】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、窒化処理における急激な昇温を抑制することにより、中央部と縁部の温度差が小さい温度分布を維持しながら成形体を加熱する思想である。つまり、基本思想は、中央部の温度と縁部の温度との間の温度差を充分に緩和するために必要な時間を確保できる程度に、急激な昇温を抑制する思想である。
【0070】
この基本思想によれば、中央部の温度と縁部の温度との温度差を小さくしながら徐々に昇温することができることから、中央部での急激な窒化反応に起因する「熱暴走」を抑制しながら、縁部での窒化不足を解消することができる。
【0071】
特に、基本思想では、窒化処理における昇温工程のうち、1270℃から1340℃までの範囲において、単位時間当たりの温度上昇量(以下では加熱温度の傾きとする)の平均を所定値以下となるように工夫を施している。例えば、加熱温度の傾きの平均は、3.1℃/h以下とするのが好ましい。また、最高加熱温度は、1390℃以上1500℃以下であることが好ましい。
【0072】
これにより、基本思想によれば、中央部の温度と縁部の温度との間の温度差を充分に緩和するために必要な時間を確保できる程度にゆっくり昇温させることができる。このことから、基本思想によれば、成形体の縁部での窒化不足が解消される結果、最終的に製造される窒化珪素基板の表面に発生する色むらを低減することができる。したがって、基本思想によれば、色むらに起因する外観検査の誤検出を低減できる結果、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるという顕著な効果を得ることができる。
【0073】
<具体的態様>
以下では、この基本思想を具現化した具体的態様について説明する。
【0074】
前記「<実施の形態における窒化珪素基板の製造方法>」に記載の方法で実施例1、実施例2及び比較例の窒化珪素基板を製造した。各窒化珪素基板は、第1面と、第2面とを有しており、平面形状は、矩形形状であった。各窒化珪素基板の各辺の長さは、長辺200mm、短辺140mmであった。各窒化珪素基板の厚さは、0.32mmであった。
【0075】
各窒化珪素基板を製造するとき、珪素、希土類酸化物、マグネシウム化合物の合計に対して希土類酸化物のモル比は1.2mol%であり、マグネシウム化合物のモル比は9.8mol%であった。
【0076】
実施例1の窒化珪素基板を製造するとき、窒化工程S204において、加熱時間の経過とともに順次ステップ状に加熱温度を上昇させる態様で、最高加熱温度まで加熱温度を上昇させた。最高加熱温度は1400℃であった。1270℃から1340℃までの昇温範囲における加熱温度の傾きの平均は、2.99℃/hであった。図7は、所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示す。図7における横軸は、加熱温度となる炉の実測温度が1300℃付近に到達した基準時からの経過時間を示す。炉の実測温度が1300℃近傍のとき、炉の実測温度と炉内の成形体の温度との温度差は、20℃以下となっていた。実施例1では、窒化処理における成形体の急激な昇温が生じておらず、「熱暴走」は生じていなかった。実施例1の窒化珪素基板の熱伝導率は129W/(m・K)であった。
【0077】
実施例2の窒化珪素基板を製造するとき、窒化工程S204において、加熱時間の経過とともに順次ステップ状に加熱温度を上昇させる態様で、最高加熱温度まで加熱温度を上昇させた。最高加熱温度は1400℃であった。1270℃から1340℃までの昇温範囲における加熱温度の傾きの平均は、3.02℃/hであった。図8は、所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示す。図8における横軸は、加熱温度となる炉の実測温度が1300℃付近に到達した基準時からの経過時間を示す。炉の実測温度が1300℃近傍のとき、炉の実測温度と炉内の成形体の温度との温度差は、20℃以下となっていた。実施例2では、窒化処理における成形体の急激な昇温が生じておらず、「熱暴走」は生じていなかった。実施例2の窒化珪素基板の熱伝導率は126W/(m・K)であった。
【0078】
比較例の窒化珪素基板を製造するとき、窒化工程S204において、加熱時間の経過とともに順次ステップ状に加熱温度を上昇させる態様で、最高加熱温度まで加熱温度を上昇させた。最高加熱温度は1400℃であった。1270℃から1340℃までの昇温範囲における加熱温度の傾きの平均は、4.67℃/hであった。図9は、所定の温度領域における成形体の実測温度、炉の実測温度、及び、成形体と炉との温度差を示す。図9における横軸は、加熱温度となる炉の実測温度が1300℃付近に到達した基準時からの経過時間を示す。炉の実測温度が1300℃近傍のとき、炉の実測温度と炉内の成形体の温度との温度差が20℃を超えて最大44.9℃となっていた。すなわち、比較例では、窒化処理における急激な成形体の昇温が生じて、「熱暴走」が発生していた。比較例の窒化珪素基板の熱伝導率は120W/(m・K)であった。
【0079】
以下では、実施例1あるいは実施例2で示される加熱条件で製造される窒化珪素基板によれば、色むらを低減することができるという検証結果について説明する。
【0080】
<検証結果>
<<色むらの定量的評価方法>>
まず、色むらの定量的評価方法について説明する。
【0081】
本実施の形態では、色むらを評価するに当たり「色空間」を使用する。
【0082】
図10は、「色空間」の立体的イメージを示す模式図である。
【0083】
図10に示す「色空間」の構成パラメータとしては、以下に示すパラメータがある。
【0084】
<<<明度L>>>
「明度L」は、色調の明暗を示す指数である。「明度L」は、0≦L≦100の範囲の値を取り、「明度L」の値が大きくなると、色調は明るくなり、白味を帯びる。一方、「明度L」の値が小さくなると、色調は暗くなり、黒味を帯びる。
【0085】
<<<クロマティクネス指数a>>>
「クロマティクネス指数a」は、色調の赤から緑の度合いを示す指数である。「クロマティクネス指数a」は、-60≦a≦+60の範囲の値を取る。「クロマティクネス指数a」の値がプラス方向に大きくなると色調は赤色となる。一方、「クロマティクネス指数a」の値がマイナス方向に大きくなると色調は緑色となる。そして、「クロマティクネス指数a」の絶対値が小さくなる程、くすんだ色調となる。
【0086】
<<<クロマティクネス指数b>>>
「クロマティクネス指数b」は、色調の黄から青の度合いを示す指数である。「クロマティクネス指数b」は、-60≦b≦+60の範囲の値を取る。「クロマティクネス指数b」の値がプラス方向に大きくなると色調は黄色となる。一方、「クロマティクネス指数b」の値がマイナス方向に大きくなると色調は青色となる。そして、「クロマティクネス指数b」の絶対値が小さくなる程、くすんだ色調となる。
【0087】
上述した「明度L」、「クロマティクネス指数a」および「クロマティクネス指数b」は、「JIS Z 8722:2000」に準拠して測定される。例えば、本実施の形態では、素材の色を表すSCI(反射光を含む)方式で測定する。このとき、測定機器としては、「コニカミノルタ社製 CR-400」を使用し、「視野:CIE2°視野等色関数近似」および「光源:C」という設定で測定を行っている。なお、窒化珪素基板は、PPC用紙10枚を重ねた上に載置し、窒化珪素基板のPPC用紙と接する側とは反対側の表面に対して上記測定機器により測定する。
【0088】
<<<彩度C>>>
「彩度C」は、以下に示す数式1に基づいて、「クロマティクネス指数a」および「クロマティクネス指数b」に基づいて算出される。
【0089】
=√{(a+(b} ・・・数式1
【0090】
<<<色差ΔEab>>>
「色差ΔEab」とは、基準色との色の差を示す指標であり、「明度L」、「クロマティクネス指数a」および「クロマティクネス指数b」に基づいて算出される。
【0091】
図11は、窒化珪素基板100を模式的に示す図であり、「位置1」は中央部に相当する領域を示している一方、「位置2」、「位置3」、「位置4」および「位置5」は4つの縁部に相当する領域を示している。本実施の形態では、「位置1」の色を基準色として、「位置2」~「位置5」における「色差ΔEab」を算出している。
【0092】
具体的に、「位置1」~「位置5」は、以下に示す位置として定義される。
「位置1」:表面において、対角線が交差する位置
「位置2」:表面において、角部CNR1から「位置1」の方向に15mm内側の位置
「位置3」:表面において、角部CNR2から「位置1」の方向に15mm内側の位置
「位置4」:表面において、角部CNR3から「位置1」の方向に15mm内側の位置
「位置5」:表面において、角部CNR4から「位置1」の方向に15mm内側の位置
【0093】
なお、測定範囲は、「位置1」~「位置5」のそれぞれの位置を中心とした20mm×20mmの領域である。
【0094】
<<色むらの検証結果>>
以下では、上述した「色空間」の構成パラメータを使用して、サンプル#1~サンプル#4についての色むらの検証を行ったので、この検証結果について説明する。
【0095】
「サンプル#1」は、実施例1の加熱条件で窒化処理を行って製造された窒化珪素基板であり、「サンプル#2」は、実施例2の加熱条件で窒化処理を行って製造された窒化珪素基板である。また、「サンプル#3」および「サンプル#4」は、比較例の加熱条件で窒化処理を行って製造された窒化珪素基板である。
【0096】
【表1】
【0097】
表1は、「サンプル#1」~「サンプル#4」に関する色むらの検証結果を示す表である。表1に示すように、「サンプル#1」~「サンプル#4」のいずれにおいても、130W/(m・K)の熱伝導率を実現できている。
【0098】
ただし、比較例を示す「サンプル#3」および「サンプル#4」において、「色差ΔEab」は、1.5よりも大きくなっている位置が存在している。これは、比較例における窒化処理の加熱条件で製造された窒化珪素基板では、高い熱伝導率を得ることができる一方で、色むらが顕在化することを意味している。
【0099】
これに対し、実施例1を示す「サンプル#1」において、「色差ΔEab」は、「位置2」~「位置5」のすべてで1.5以下となっている。
【0100】
また、実施例2を示す「サンプル#2」において、「色差ΔEab」は、「位置2」~「位置5」のすべてで0.8以下となっている。
【0101】
このことは、実施例1あるいは実施例2における窒化処理の加熱条件で製造された窒化珪素基板では、高い熱伝導率を得ることができるとともに、色むらも低減できることを意味する。したがって、実施例1および実施例2によれば、放熱特性に優れた窒化珪素基板を得ることができるだけでなく、色むらに起因する外観検査の誤検出を低減できる。
【0102】
さらに、実施例1および実施例2において、中央部(位置1)と縁部(位置2~位置5)のそれぞれの「明度L」は70以上であるともに、「彩度C」は10以上である。これにより、異物や汚れとのコントラストが明瞭となる結果、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるという顕著な効果を得ることができる。
【0103】
ここで、本明細書でいう「縁部」とは、上述した「位置2」~「位置5」のすべてを含む概念として記載されている。すなわち、本明細書でいう「縁部」には、「位置2」~「位置5」のすべてが含まれる。また、「中央部」とは、「位置1」を含む概念として記載されている。したがって、「中央部と縁部との色差をΔEabとすると、ΔEab≦1.5である」という記載は、「位置1」と「位置2」の色差が1.5以下であり、「位置1」と「位置3」の色差が1.5以下であり、「位置1」と「位置4」との色差が1.5以下であり、「位置1」と「位置5」との色差が1.5以下であることを意味している。
【0104】
同様に、「「中央部」と「縁部」のそれぞれの明度が70以上である」という記載は、「位置1」~「位置5」のそれぞれの明度が70以上であることを意味している。
【0105】
また、「「中央部」と「縁部」のそれぞれの彩度が10以上である」という記載は、「位置1」~「位置5」のそれぞれの彩度が10以上であることを意味している。
【0106】
<総括>
本実施の形態では、窒化処理における昇温工程のうち、1270℃から1340℃までの範囲において、加熱温度の傾きの平均を3.1℃/h以下となるように工夫が施されている。
【0107】
これにより、本実施の形態によれば、「色差ΔEab」が1.5以下、さらに言えば、0.8以下となる窒化珪素基板を得ることができる。したがって、本実施の形態における技術的思想は、色むらを低減できる点で優れている。つまり、本実施の形態における技術的思想は、色むらを低減できることを通じて、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できる点で大きな技術的意義を有しているということができる。
【0108】
なお、本実施の形態における技術的思想は、サイズの大きな窒化珪素基板に適用して有効である。具体的に、本実施の形態における技術的思想は、例えば、図2に示すように、3相インバータ回路を構成する6つの半導体装置を1つの窒化珪素基板に搭載する構成などに適用して有効である。なぜなら、サイズの大きな窒化珪素基板を使用する場合、色むらが発生するポテンシャルが大きくなると考えられるからである。
【0109】
この点に関し、色むらの発生ポテンシャルの大きなサイズの大きな窒化珪素基板の製造において、本実施の形態における技術的思想を適用すれば、色むらの発生を低減する観点から有効であると考えられる。特に、本実施の形態における技術的思想は、矩形形状のそれぞれの辺の長さが100mm以上の窒化珪素基板の製造に適用して有効である。
【0110】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0111】
100 窒化珪素基板
100A 成形体
200 セッタ
300 重石
INV インバータ回路
FWD ダイオード
GCC ゲート制御回路
GL グランド配線
LG1 第1レグ
LG2 第2レグ
LG3 第3レグ
MT 3相誘導モータ
NT 負電位端子
PT 正電位端子
Q1 スイッチング素子
RT ロータ
SA 半導体装置
SA1 半導体装置
SA2 半導体装置
SA3 半導体装置
SA4 半導体装置
SA5 半導体装置
SA6 半導体装置
VL 電源配線
WL1 配線
WL2 配線
WL3 配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11