(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】繊維強化複合材シート用製造装置及び繊維強化複合材シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
B29B11/16
(21)【出願番号】P 2023567012
(86)(22)【出願日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2023025162
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2022137604
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】人見 一迅
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸司
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/024773(WO,A1)
【文献】特開2006-289819(JP,A)
【文献】特開2003-251589(JP,A)
【文献】特開2007-283492(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175266(WO,A1)
【文献】特開2019-078060(JP,A)
【文献】特開2008-296401(JP,A)
【文献】特開2009-000934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B32B 1/00-43/00
C08F 283/01;290/00-290/14;299/00-299/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1キャリアフィルムを送り出す第1送り出しロールと、
前記第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する第1塗布部と、
前記第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する強化繊維供給部と、
第2キャリアフィルムを送り出す第2送り出しロールと、
前記第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する第2塗布部と、
前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを搬送する搬送部と、
前記切断片が供給された前記第1樹脂組成物及び前記第2樹脂組成物を含む積層体を挟む前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを加圧する加圧部と、
を備え、
前記加圧部は、前記第1キャリアフィルムと前記第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する、
繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項2】
前記クラウンロールのテーパー角度は、0.1°以上1.3°以下であり、
前記軸方向に沿った前記クラウンロールの寸法は、2000mm以下である、請求項1に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項3】
前記クラウンロールの中心径と、前記軸方向における前記クラウンロールの端部の径との差は、0.5mm以上8mm以下である、請求項1または2に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項4】
前記加圧部は、前記クラウンロールに対応する平滑受けロールを有する、請求項1または2に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項5】
前記加圧部は、前記積層体を加圧する平滑ロールを有し、
前記平滑ロールは、前記搬送方向において前記加圧部の最下流に位置する、請求項1または2に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項6】
前記加圧部は、前記搬送方向において互いに隣り合うと共に略同一平面上に位置する第1凹凸ロール及び第2凹凸ロールを有し、
前記第1凹凸ロールの表面には、前記軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第1凸部が設けられ、
前記第2凹凸ロールの表面には、前記軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第2凸部が設けられ、
前記軸方向において、前記複数の第1凸部と前記複数の第2凸部とが、交互に設けられる、請求項1または2に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
【請求項7】
搬送中の第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する工程と、
前記第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する工程と、
搬送中の第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する工程と、
前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを互いに近接させ、前記切断片が供給された前記第1樹脂組成物及び前記第2樹脂組成物を含む積層体を形成する工程と、
加圧部によって前記積層体を加圧する工程と、
を備え、
前記加圧部は、前記第1キャリアフィルムと前記第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する、
繊維強化複合材シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化複合材シート用製造装置及び繊維強化複合材シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維等の補強繊維材が樹脂組成物(例えば、樹脂コンパウンド)に含浸されるシートモールディングコンパウンド(SMC、繊維強化複合材シートとも呼称される)は、例えば、住設部材、自動車部品、電気部品などに広く使用されている。SMCの製造中、樹脂組成物に気体が巻き込まれると、当該気体はSMC内にて気泡になり得る。当該気泡がSMCに残存している場合、当該SMCのプレス成型時に金型が破損する懸念などがある。このため、SMC内からの気泡を除去(脱気もしくは脱泡)する必要がある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、連続的に搬送される樹脂コンパウンドと補強繊維材とを有するSMC材料を、搬送方向上流から下流にかけて当該SMC材料の両面側から加圧することによって、補強繊維材間に樹脂コンパウンドを含浸させてシートモールディングコンパウンドを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載される方法を実施した場合であっても、SMCの脱泡が十分になされないことがある。このため、より精度よく脱気できる手法が望まれている。
【0006】
本開示の一側面に係る目的は、精度よく脱気を実施可能な繊維強化複合材シート用製造装置及び繊維強化複合材シートの製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る繊維強化複合材シート用製造装置は、第1キャリアフィルムを送り出す第1送り出しロールと、搬送中の第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する第1塗布部と、第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する強化繊維供給部と、第2キャリアフィルムを送り出す第2送り出しロールと、搬送中の第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する第2塗布部と、第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを搬送する搬送部と、切断片が供給された第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を含む積層体を挟む第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを加圧する加圧部と、を備え、加圧部は、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する。
【0008】
この繊維強化複合材シート用製造装置では、上記積層体を挟む第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを加圧する加圧部は、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する。これにより、上記積層体がクラウンロールにて加圧されるとき、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの間に存在する気体が、軸方向における積層体の両端に向かってクラウンロールに押し出される。これにより、当該両端を介して、積層体の脱気が精度よく実施される。
【0009】
クラウンロールのテーパー角度は、0.1°以上1.3°以下であり、軸方向に沿ったクラウンロールの寸法は、2000mm以下でもよい。クラウンロールの中心径と、軸方向におけるクラウンロールの端部の径との差は、0.5mm以上8mm以下でもよい。これらの場合、クラウンロールによる気体の押し出しが良好に実施される。
【0010】
加圧部は、クラウンロールに対応する平滑受けロールを有してもよい。この場合、クラウンロールによる気体の押し出しが良好に実施される。
【0011】
加圧部は、積層体を加圧する平滑ロールを有し、平滑ロールは、搬送方向において前記加圧部の最下流に位置してもよい。この場合、平坦な繊維強化複合材シートを良好に製造できる。
【0012】
加圧部は、搬送方向において互いに隣り合うと共に略同一平面上に位置する第1凹凸ロール及び第2凹凸ロールを有し、第1凹凸ロールの表面には、軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第1凸部が設けられ、第2凹凸ロールの表面には、軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第2凸部が設けられ、軸方向において、複数の第1凸部と複数の第2凸部とが、交互に設けられてもよい。この場合、第1凹凸ロール及び第2凹凸ロールによって積層体に加えられる圧力が分散されるので、第1凹凸ロール及び第2凹凸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制しつつ、積層体を十分に加圧できる。
【0013】
本開示の別の一側面に係る繊維強化複合材シートの製造方法は、搬送中の第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する工程と、第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する工程と、搬送中の第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する工程と、第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを互いに近接させ、切断片が供給された第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を含む積層体を形成する工程と、加圧部によって積層体を加圧する工程と、を備え、加圧部は、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する。
【0014】
この製造方法では、加圧部は、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する。これにより、加圧部にて積層体を加圧する工程において当該積層体がクラウンロールにて加圧されるとき、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの間に存在する気体が、軸方向における積層体の両端に向かってクラウンロールに押し出される。これにより、当該両端を介して、積層体の脱気が精度よく実施される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、精度よく脱気を実施可能な繊維強化複合材シート用製造装置及び繊維強化複合材シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る繊維強化複合材シート用製造装置の主要構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1において隣り合う二つのロールのそれぞれが凹凸ロールである場合の概略図である。
【
図4】
図4は、変形例に係る繊維強化複合材シート用製造装置に含まれる脱気装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
[繊維強化複合材シート用製造装置]
図1は、本実施形態に係る繊維強化複合材シート用製造装置の主要構成を示す模式図である。
図1は、本開示の繊維強化複合材シート用製造装置の一例であり、よって、本開示は
図1に記載される形態に限定されるものではない。以下、本実施形態をより分かりやすく説明するため、
図1に基づき説明する。
図1に示される製造装置1は、シートモールディングコンパウンドとも呼称される繊維強化複合材シート(詳細は後述、以下「SMC」とも称される)を製造するための装置(繊維強化複合材シート用製造装置)である。製造装置1は、第1送り出しロール2と、第1塗布部3と、強化繊維供給部4と、第2送り出しロール5と、第2塗布部6と、搬送部7と、加圧部8と、巻取りロール9とを有する。以下では、製造装置1において、第1送り出しロール2から巻取りロール9へ向かうSMCもしくはSMCを製造するための部材(以下、SMC製造用部材)の流れ方向を、搬送方向MDとする。
【0019】
第1送り出しロール2は、第1キャリアフィルムF1を巻回したロールであり、製造装置1の最も上流に位置する。第1キャリアフィルムF1は、SMC製造用部材の一つであり、搬送部7によって引き出される。第1キャリアフィルムF1は、SMCを搬送するための支持部材の一つとして用いられる。第1キャリアフィルムF1は、単層構造を有してもよいし、積層構造を有してもよい。第1キャリアフィルムF1が積層構造を有する場合、第1キャリアフィルムF1は、ラミネートフィルムでもよい。第1キャリアフィルムF1は、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンフィルムなどである。
【0020】
第1塗布部3は、搬送中の第1キャリアフィルムF1上に第1樹脂組成物3aを塗布する部分であり、第1送り出しロール2よりも下流に位置する。第1塗布部3を通過した第1キャリアフィルムF1上には、第1樹脂組成物3aからなる塗膜(不図示)が形成される。第1塗布部3による第1樹脂組成物3aの塗布量は、例えば0.3kg/m2以上2.0kg/m2以下であるが、これに限られない。第1樹脂組成物3aは、SMCを構成する主材料の一つである。第1樹脂組成物3aの詳細は、後述する。
【0021】
強化繊維供給部4は、第1樹脂組成物3aからなる塗膜上に強化繊維RFの切断片CCを供給する部分である。このため、強化繊維供給部4において切断片CCを供給する箇所は、第1塗布部3よりも下流に位置する。強化繊維供給部4は、強化繊維RFの束(例えば、ロービング)を引き出す引き出しロール11と、強化繊維RFを切断する切断装置12とを有する。なお、切断片CCは、SMCを構成する主材料の一つであり、SMCの強度等を向上するために用いられる。強化繊維RFの詳細は後述する。
【0022】
切断装置12は、強化繊維RFを所定の寸法に切断することによって、複数の切断片CCを製造する。本実施形態では、強化繊維供給部4は、第1送り出しロール2及び第1塗布部3の上方に位置する。これにより、切断片CCは、重力を利用して、第1樹脂組成物3aからなる塗膜上に散布される。この場合、切断片CCが第1樹脂組成物3a上に配向性なく均一に落下可能であるので、特定方向におけるSMCの脆弱性などが発生しにくくなり得る。例えば、SMC中における切断片CCの含有率が30質量%以上70質量%以下になるように、強化繊維RFが引き出しロール11などによって引き出され、かつ、切断装置12によって切断される。
【0023】
第2送り出しロール5は、第2キャリアフィルムF2を巻回したロールである。第2キャリアフィルムF2は、SMC製造用部材の別の一つであり、SMCを搬送するための支持部材の別の一つとして機能する。第2キャリアフィルムF2は、例えば、第1キャリアフィルムF1と同一構造を有し得る。
【0024】
第2塗布部6は、搬送中の第2キャリアフィルムF2上に第2樹脂組成物6aを塗布する部分であり、第2送り出しロール5よりも下流に位置する。第2塗布部6を通過した第2キャリアフィルムF2上には、第2樹脂組成物6aからなる塗膜(不図示)が形成される。第2塗布部6による第2樹脂組成物6aの塗布量は、例えば0.3kg/m2以上2.0kg/m2以下であるが、これに限られない。第2樹脂組成物6aは、第1樹脂組成物3aと同一組成物であって、SMCを構成する主材料の一つである。
【0025】
搬送部7は、第1キャリアフィルムF1などを巻取りロール9へ搬送するための装置である。搬送部7は、例えば、少なくとも第1キャリアフィルムF1を搬送するベルトコンベアなどの移送ベルトであるが、これに限られない。本実施形態では、搬送部7は、第1キャリアフィルムF1だけでなく、第2キャリアフィルムF2も巻取りロール9へ搬送する。
【0026】
加圧部8は、切断片CCが供給された第1樹脂組成物3aと、当該第1樹脂組成物3aに対向する第2樹脂組成物6aとを挟む第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2を加圧する部分であり、第1塗布部3及び第2塗布部6よりも下流に位置する。本実施形態では、加圧部8は、製造装置1に含まれる複数のロールを有する。これら複数のロールは、以下に説明するように、例えば、クラウンロールに加え、他のロールを含む。他のロールとしては、例えば、表面が平滑で軸方向に対し径の変化がない平滑ロール、表面に凹凸部を有する凹凸ロール等を含み得る。また、加圧部8は、上記ロールの対となる受けロールを有し得る。加圧部8の少なくとも一部は、上下方向において搬送部7に重なっている。
図1に示されるように、加圧部8は、一対の受け入れロール21と、クラウンロール22と、ロール23~26と、平滑ロール27と、平滑受けロール30a~30fとを有する。
【0027】
一対の受け入れロール21は、第1樹脂組成物3aが塗布された第1キャリアフィルムF1と、第2樹脂組成物6aが塗布された第2キャリアフィルムF2とを受け入れる部材である。一対の受け入れロール21は、第2キャリアフィルムF2に接する第1平滑ロール21aと、第1キャリアフィルムF1に接する第2平滑ロール21bとを有する。一対の受け入れロール21を通過した第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間には、第1樹脂組成物3aと第2樹脂組成物6aと強化繊維RFとを含む積層体Sが形成される。なお、積層体Sは、後にSMCになるシート状部材である。
【0028】
クラウンロール22は、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間に存在する気体を除去するための部材であり、一対の受け入れロール21より下流に位置する。当該気体は、例えば、積層体Sの内部に存在する気泡、積層体Sと第1キャリアフィルムF1との間に存在する気泡、積層体Sと第2キャリアフィルムF2との間に存在する気泡などである。これらの気泡は、例えば、第1樹脂組成物3aの塗布中に巻き込まれる気体、第2樹脂組成物6aの塗布中に巻き込まれる気体、第1樹脂組成物3a及び/又は第2樹脂組成物6aの化学反応によって発生する気体、切断片CCに付着していた気体、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2とを重ね合わせる際に巻き込まれた気体などから形成される。
【0029】
図2は、クラウンロールの概略図である。
図2に示されるように、クラウンロール22は、搬送方向MDに直交する軸方向ADに延在する部材である。クラウンロール22の外径は、一対の受け入れロール21、平滑ロール27、平滑受けロール30a~30fと異なり、軸方向ADにおいて不均一である。本実施形態では、クラウンロール22の外径は、軸方向ADにおけるクラウンロール22の中心から両端に近づくほど小さい。よって、軸方向ADにおいて、クラウンロール22の中心の外径OD1(中心直径)が最も大きく、クラウンロール22の端部22aの外径OD2(端部の直径)が最も小さい。外径OD1は、例えば100mm以上200mm以下である。なお、軸方向ADにおけるクラウンロール22の中央部には、外径が変化しない領域(すなわち、テーパーが設けられない領域、外径が均一である領域とも呼称される)があってもよい。換言すると、クラウンロール22の中央部には、平滑ロール領域が設けられてもよい。この場合、軸方向ADに沿った上記領域の寸法は、例えば、軸方向ADに沿ったクラウンロール22の寸法の半分以下である。
【0030】
本実施形態では、クラウンロール22のテーパー角度は、0.1°以上1.3°以下である。このテーパー角度は、
図2に示されるクラウンロール22の勾配の角度θの倍数に相当する。当該テーパー角度は、0.1°以上1.0°以下でもよいし、0.2°以上0.8°以下でもよい。また、軸方向ADに沿ったクラウンロール22の寸法は、例えば1000mm以上2000mm以下である。当該寸法は、1100mm以上でもよいし、1200mm以上でもよいし、1300mm以上でもよいし、1800mm以下でもよいし、1600mm以下でもよいし、1500mm以下でもよい。もしくは、外径OD1と外径OD2との差は、例えば0.5mm以上8mm以下である。これらの場合(すなわち、クラウンロール22が上記テーパー角度及び上記寸法を有する場合、もしくは外径OD1と外径OD2との差が上記範囲内である場合)、積層体Sがクラウンロール22を通過するとき、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間に存在する気体は、軸方向ADにおける積層体Sの両端から良好に除去される。
【0031】
クラウンロール22の材質は特に限定されないが、積層体Sの破損防止などの観点から、シリコーン、エラストマー、ニトリルゴム、ウレタンゴムなどである。また、JIS K 6253-1997に準拠して測定されるクラウンロール22の硬度は、例えば、40以上55以下である。
【0032】
クラウンロール22による気体除去機能を良好に発揮させるため、クラウンロール22の下側には、平滑受けロール30aが設けられる。平滑受けロール30aは、クラウンロール22に対応する受け部材であって、クラウンロール22に対して離間する。軸方向ADに沿った平滑受けロール30aの寸法は、クラウンロール22と同程度である。平滑受けロール30aの材質は特に限定されず、例えば金属、ステンレス等の合金、ゴム、プラスチックなどである。平滑受けロール30aの外径は、特に限定されないが、例えばクラウンロール22の外径OD1の50%以上90%以下である。以下では、平滑受けロール30a~30fは、互いに同一寸法を有するものとするが、これに限られない。
【0033】
クラウンロール22と平滑受けロール30aとの隙間(ギャップ)は、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2とによって挟まれる積層体Sが通過する領域であり、例えば、SMCの厚さに実質的に相当する。このため、クラウンロール22と平滑受けロール30aとの隙間(ギャップ)の通過時、積層体Sの少なくとも一部は、クラウンロール22と平滑受けロール30aとによって加圧される。ここで、当該隙間は、クラウンロール22と平滑受けロール30aとの最小隙間とする。本実施形態では、平滑受けロール30aは、搬送部7内に設けられる。このため、クラウンロール22と平滑受けロール30aとの間には移送ベルト(不図示)が設けられる。よって、本実施形態における上記最小隙間は、SMCと第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2と移送ベルトとの合計厚さに相当する。
【0034】
ロール23~26のそれぞれは、積層体S内における第1樹脂組成物3a及び第2樹脂組成物6aの強化繊維RFへの含浸を促進するために、積層体Sを加圧する部材であり、クラウンロール22よりも下流に位置する。ロール23~26のそれぞれは、搬送方向MDに沿って順に配置される。ロール23~26は、略同一平面に位置する。ここで、「略」同一平面とは、ロール23~26の各ロール面のうち第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2と接する箇所における高さ方向のずれが、ロール23~26の最大直径に対して±10%以内であることを意味する。ロール23~26の材質は特に限定されず、例えば金属、ステンレス等の合金、ゴム、プラスチックなどである。
【0035】
図3は、
図1において隣り合う二つのロール23,24のそれぞれが凹凸ロールである場合の概略図である。
図3に示されるように、搬送方向MDにおいて互いに隣り合うロール23(第1凹凸ロール)とロール24(第2凹凸ロール)とのそれぞれは、略同一平面に位置すると共に、クラウンロール22と同様に軸方向ADに沿って延在している。軸方向ADに沿ったロール23,24の寸法は、例えばクラウンロール22と同程度である。
【0036】
ロール23の表面23aには、軸方向ADに沿って間欠的に配置される複数の凸部23b(第1凸部)が設けられる。同様に、ロール24の表面24aには、軸方向ADに沿って間欠的に配置される複数の凸部24b(第2凸部)が設けられる。凸部23b,24bのそれぞれは、ロール23,24の径方向に沿って突出する部分である。凸部23b,24bのそれぞれは、軸方向ADから見て環形状を有するが、これに限られない。凸部23b,24bの先端は、丸みを帯びてもよいし、丸みを帯びなくてもよい。凸部23b,24bは、先細り形状を有してもよい。
【0037】
軸方向ADにおいて、複数の凸部23bと複数の凸部24bとが、交互に設けられる。このため、軸方向ADにおいて、複数の凸部23bのうち隣り合う2つの凸部23b同士の間には、複数の凸部24bのうち1つの凸部24bが配置され得る。すなわち、複数の凸部23b,24bは、くし形に配置される。これにより、積層体Sの一部に凸部23bが接触し、積層体Sの別の一部に凸部24bが接触できる。なお、ロール25はロール23と同様の形状を有し、ロール26はロール24と同様の形状を有してもよい。この場合、軸方向ADにおいて、ロール25に設けられる複数の凸部は、ロール24の複数の凸部24bと交互に設けられ、かつ、ロール26の複数の凸部と交互に設けられる。
【0038】
ロール23,24の最大径は、例えば100mm以上200mm以下である。軸方向ADに沿った凸部23b,24bの寸法は、例えば2mm以上10mm以下である。軸方向ADにおいて、隣り合う2つの凸部23b同士の隙間と、隣り合う2つの凸部24b同士の隙間とのそれぞれは、例えば5mm以上20mm以下である。積層体Sへの均一な加圧の観点から、軸方向ADに沿った凸部23b,24bの寸法と、上記隙間とは、互いに同程度でもよい。凸部23b,24bの突出量は、例えば5mm以上15mm以下である。
【0039】
ロール23~26による強化繊維RFへの含浸機能を良好に発揮させるため、ロール23~26の下側には、平滑受けロール30b~30eがそれぞれ設けられる。平滑受けロール30b~30eは、それぞれ、ロール23~26に対応する受け部材であって、ロール23~26に対して離間する。ロール23と平滑受けロール30bとの隙間(ギャップ)は、クラウンロール22と平滑受けロール30aとの最小隙間と略同一である。本実施形態では、平滑受けロール30b~30eのそれぞれも、搬送部7内に設けられる。
【0040】
平滑ロール27は、積層体Sの表面を平坦化するために、積層体Sを均等に加圧する部材であり、ロール23~26よりも下流に位置する。平滑ロール27は、加圧部8における最下流に位置する。軸方向ADに沿った平滑ロール27の寸法は、例えばクラウンロール22と同程度である。平滑ロール27の材質は特に限定されず、例えば金属、ステンレス等の合金、ゴム、プラスチックなどである。平滑ロール27の外径は、特に限定されないが、例えばクラウンロール22の外径OD1の50%以上90%以下である。
【0041】
平滑ロール27による積層体Sの平坦化機能を良好に発揮させるため、平滑ロール27の下側には、平滑受けロール30fが設けられる。平滑受けロール30fは、平滑ロール27に対応する受け部材であって、平滑ロール27に対して離間する。平滑ロール27と平滑受けロール30fとの隙間(ギャップ)は、クラウンロール22と平滑受けロール30aとの最小隙間と略同一である。本実施形態では、平滑受けロール30fも、搬送部7内に設けられる。
【0042】
巻取りロール9は、積層体Sを挟む第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2を巻き取る部材であり、製造装置1の最下流に位置する。巻取りロール9は、加圧部8に含まれる全てのロールを通過した積層体Sを巻き取る。積層体Sを巻き取った巻取りロール9は、必要に応じて、恒温機などに搬送される。これにより、積層体Sに含まれる第1樹脂組成物3a及び第2樹脂組成物6aの化学反応(例えば、Bステージ化)などを促進できる。本実施形態では、巻取りロール9にて巻き取られる積層体SをSMCと呼称してもよいし、上記化学反応が完了した積層体SをSMCと呼称してもよい。
【0043】
このようにして得られる積層体Sの厚み、すなわち、製造装置1にて製造されるSMCの厚みは、用途等に応じて適宜調整される。SMCの厚みは、一般的には1~4mmの範囲である。
【0044】
[SMCの製造方法]
以下では、上述した繊維強化複合材シート用製造装置を利用した、SMCの製造方法の一例について説明する。
【0045】
まず、搬送中の第1キャリアフィルムF1上に第1樹脂組成物3aを塗布する(第1工程)。第1工程の実施によって、第1キャリアフィルムF1上には、第1樹脂組成物3aからなる塗膜が形成される。次に、第1樹脂組成物3a上に強化繊維RFの切断片CCを供給する(第2工程)。第2工程では、切断装置12にて得られる切断片CCが散布される。そして、第1樹脂組成物3aの上方から散布される切断片CCが、第1樹脂組成物3a上に不規則に着地する。これにより、第1樹脂組成物3a上に、配向性なく、かつ、均一に切断片CCが設けられる。
【0046】
また、搬送中の第2キャリアフィルムF2上に第2樹脂組成物6aを塗布する(第3工程)。第3工程の実施によって、第2キャリアフィルムF2上には、第2樹脂組成物6aからなる塗膜が形成される。第3工程は、例えば第1工程及び第2工程と同期して実施される。このため、第3工程は、第1工程後に実施されなくてもよいし、第2工程後に実施されなくてもよい。
【0047】
第1工程~第3工程の実施後、第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2を互いに近接させ、切断片CCが供給された前記第1樹脂組成物3a及び第2樹脂組成物6aを含む積層体Sを形成する(第4工程)。第4工程では、第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2の受け入れロール21への搬送によって、積層体Sを形成する。次に、加圧部8によって積層体Sを加圧する(第5工程)。第5工程では、受け入れロール21、クラウンロール22、ロール23~26、平滑ロール27、及び平滑受けロール30a~30fによって、積層体Sを加圧する。これにより、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間に存在する気体の除去、樹脂組成物の強化繊維RFへの含浸、及び、積層体Sの平坦化が実施される。続いて、第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2に挟まれる積層体Sを巻き取る。以上の工程が、製造装置1にて実施される。
【0048】
巻取りロール9にて巻き取られた積層体Sは、例えば恒温機などによって加熱(熟成)されてもよい。この場合、フィルムの剥離性等に優れるBステージ化後のシート状の成形材料(SMC)が得られる。
【0049】
[第1樹脂組成物3a及び第2樹脂組成物6a]
第1樹脂組成物3a及び第2樹脂組成物6a(以下、単に「樹脂組成物」とする)は、SMCの製造に一般的に用いられるものであればよく、特に限定されない。SMCの製造には、一般には熱硬化性樹脂組成物が広く用いられている。このため、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物を含み得る。熱硬化性樹脂組成物の具体例としては、ビニルエステル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂組成物等が挙げられる。
【0050】
<ビニルエステル樹脂組成物>
ビニルエステル樹脂組成物としては、ビニルエステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物である。ビニルエステル樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応原料とするもの等が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸のどちらか一方又は両方のことであり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートのどちらか一方又は両方のことである。
【0051】
エポキシ樹脂の具体例としては、ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルオキシナフタレン、脂肪族エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノール又はナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン又はナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、オキゾドリドン変性エポキシ樹脂、これらを臭素化したエポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂は、上述した具体例を伸長剤にて伸長したエポキシ樹脂でもよい。エポキシ樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、各種の脂肪族ポリオール化合物、これらのアルキレンオキサイド付加物の一種乃至複数種をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。脂肪族ポリオール化合物は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチルプロパンジオール、1,2,2-トリメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-3-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘサン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール等の脂肪族ジオール化合物;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の脂環族ジオール化合物;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の脂肪族ポリオール化合物等が挙げられる。
【0053】
ビフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビフェノール、テトラメチルビフェノール等のビフェノール化合物、これらのアルキレンオキサイド付加物の一種乃至複数種をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。
【0054】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン等のビスフェノール化合物、これらのアルキレンオキサイド付加物の一種乃至複数種をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。
【0055】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、クレゾール、キシレノール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノール、ビフェノール等、各種フェノール化合物の一種乃至複数種からなるノボラック樹脂をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。
【0056】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等が挙げられる。
【0057】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、N,N-ジグリシジルアニリン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルキシレンジアミン、4,4’-メチレンビス[N,N-ジグリシジルアニリン]等が挙げられる。
【0058】
複素環型エポキシ樹脂としては、例えば、1,3-ジグリシジル-5,5-ジメチルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0059】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル-p-オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステル等が挙げられる。
【0060】
エポキシ樹脂の伸長剤としては、例えば、前記各種のビフェノール化合物、前記各種のビスフェノール化合物、二塩基酸化合物、酸基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0061】
強化繊維RFへの含浸性、成形物の強度等の観点から、樹脂組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はこれを伸長剤にて伸長したエポキシ樹脂(以下「エポキシ樹脂(1)」と略記する)でもよい。この場合、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、170~360g/eqの範囲であることが好ましく、200~300g/eqの範囲であることがより好ましい。
【0062】
エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応は、任意のエステル化触媒の存在下、60~140℃程度の温度条件下で加熱することにより行うことができる。必要に応じて反応溶媒を用いたり、重合禁止剤を添加したりしてもよい。また、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応比率は、強化繊維への含浸性、硬化性等の性能バランスに優れるビニルエステル樹脂とするために、両者の官能基のモル比[カルボキシ基/グエポキシ基]が0.6~1.1の範囲であることが好ましい。
【0063】
ビニルエステル樹脂は、エポキシ樹脂と伸長剤との反応、及び、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応により生じる水酸基を有する。当該水酸基は、例えば、ビニルエステル樹脂組成物中にポリイソシアネート化合物等、水酸基と反応し得る化合物を添加することにより、反応性基として利用することができる。エポキシ樹脂(1)が用いられる場合、当該エポキシ樹脂(1)を(メタ)アクリル酸と反応させて得られるビニルエステル樹脂(以下「ビニルエステル樹脂(1)」と略記する)の水酸基価は、例えば100~300mg/KOHである。なお、樹脂の水酸基価は、後述する実施例に記載した方法にて測定した値である。
【0064】
樹脂組成物は、複数種のビニルエステル樹脂を含んでもよい。強化繊維への含浸性、成形物の強度等の観点から、ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル樹脂(1)(ビスフェノール型エポキシ樹脂又はこれを伸長剤にて伸長したエポキシ樹脂を(メタ)アクリル酸と反応させたビニルエステル樹脂)を含んでもよい。この場合、ビニルエステル樹脂の総質量に対するビニルエステル樹脂(1)の割合は、70質量%以上でもよいし、80質量%以上でもよい。当該割合は、高いほど好ましい。強化繊維RFへの樹脂含浸性の観点から、ビニルエステル樹脂組成物の粘度(25℃での測定値)は、例えば、0.2~8Pa・sの範囲である。なお、樹脂組成物の粘度は、後述する実施例に記載した方法にて測定した値である。
【0065】
ビニルエステル樹脂組成物は、ビニルエステル樹脂以外の重合性不飽和基含有化合物を含有してもよい。また、当該重合性不飽和基含有化合物は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0066】
重合性不飽和基含有化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレートアルキルエーテル、プロピレングリコール(メタ)アクリレートアルキルエーテル等の脂肪族モノ(メタ)アクリレート化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチルモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等の脂環式モノ(メタ)アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等の複素環含有モノ(メタ)アクリレート化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ベンジルベンジル(メタ)アクリレート、フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環含有モノ(メタ)アクリレート化合物;前記各種のモノ(メタ)アクリレートモノマーの分子構造中に(ポリ)オキシエチレン鎖、(ポリ)オキシプロピレン鎖、(ポリ)オキシテトラメチレン鎖等のポリオキシアルキレン鎖を導入した(ポリ)オキシアルキレン変性モノ(メタ)アクリレート化合物;前記各種のモノ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)ラクトン構造を導入したラクトン変性モノ(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物;1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の脂環式ジ(メタ)アクリレート化合物;ビフェノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート等の芳香環含有ジ(メタ)アクリレート化合物;前記各種のジ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)オキシエチレン鎖、(ポリ)オキシプロピレン鎖、(ポリ)オキシテトラメチレン鎖等の(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入したポリオキシアルキレン変性ジ(メタ)アクリレート化合物;前記各種のジ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)ラクトン構造を導入したラクトン変性ジ(メタ)アクリレート化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の脂肪族トリ(メタ)アクリレート化合物;前記脂肪族トリ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)オキシエチレン鎖、(ポリ)オキシプロピレン鎖、(ポリ)オキシテトラメチレン鎖等の(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入した(ポリ)オキシアルキレン変性トリ(メタ)アクリレート化合物;前記脂肪族トリ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)ラクトン構造を導入したラクトン変性トリ(メタ)アクリレート化合物;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の脂肪族ポリ(メタ)アクリレート化合物;前記脂肪族ポリ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)オキシエチレン鎖、(ポリ)オキシプロピレン鎖、(ポリ)オキシテトラメチレン鎖等の(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入した4官能以上の(ポリ)オキシアルキレン変性ポリ(メタ)アクリレート化合物;前記脂肪族ポリ(メタ)アクリレート化合物の分子構造中に(ポリ)ラクトン構造を導入した4官能以上のラクトン変性ポリ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0067】
成形物の強度、耐熱性等の観点から、重合性不飽和基含有化合物は、芳香環含有(メタ)アクリレート化合物でもよい。この場合、強化繊維への含浸性の観点から、重合性不飽和基含有化合物は、芳香環含有モノ(メタ)アクリレート化合物でもよい。
【0068】
樹脂組成物にビニルエステル樹脂と重合性不飽和基含有化合物とが含まれる場合、ビニルエステル樹脂と重合性不飽和基含有化合物との質量比(ビニルエステル樹脂)/(重合性不飽和基含有化合物)は、30/70~85/15の範囲である。この場合、強化繊維への含浸性、成形物における強度、耐熱性等のバランスに優れる。上記質量比は、40/60~70/30の範囲でもよい。
【0069】
ビニルエステル樹脂組成物は、ポリイソシアネート化合物を含有していてもよい。当該ポリイソシアネート化合物は、ビニルエステル樹脂が有する水酸基との反応成分となり得る。また、ポリイソシアネート化合物は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ブタンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;これらのイソシアネート化合物の変性体であるイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体、ウレタンイミン変性体、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の数平均分子量1,000以下のポリオールで変性したポリオール変性体等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、芳香族ポリイソシアネート化合物でもよい。
【0071】
フィルム剥離性、B-ステージ化時におけるタックが少ない等の観点から、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基のモル数とビニルエステル樹脂に含まれる水酸基のモル数との比(NCO/OH)は、0.5~0.95の範囲でもよく、0.55~0.85でもよい。
【0072】
ビニルエステル樹脂組成物は、重合開始剤を含有してもよい。当該重合開始剤は一般的なものを特に制限なく用いることができるが、特に有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、パーオキシエステル化合物、ハイドロパーオキサイド化合物、ケトンパーオキサイド化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカーボネート化合物、パーオキシケタール等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。保存安定性と硬化性とのバランスの観点から、重合開始剤の添加量は、ビニルエステル樹脂と重合性不飽和基含有化合物との総質量に対して、0.3~3質量%の範囲でもよい。
【0073】
ビニルエステル樹脂組成物は、ビニルエステル樹脂、重合性不飽和基含有化合物、ポリイソシアネート化合物、及び重合開始剤の他、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、重合禁止剤、硬化促進剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、補強材、光硬化剤等が挙げられる。
【0074】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂およびこれらを共重合等により変性させたものが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0075】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ナフテン酸銅、塩化銅等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、オクテン酸バナジル、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等の金属石鹸類、バナジルアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート化合物が挙げられる。またアミン類として、N,N-ジメチルアミノ-p-ベンズアルデヒド、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N-エチル-m-トルイジン、トリエタノールアミン、m-トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン、ジエタノールアニリン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
充填剤としては、大きく分けて無機化合物、有機化合物がある。充填剤は、主に、成形物の強度、弾性率、衝撃強度、疲労耐久性等の物性を調整する目的で添加する成分である。
【0078】
無機化合物は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト石灰石、石こう、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉などが挙げられる。有機化合物は、セルロース、キチン等の天然多糖類粉末、合成樹脂粉末などが挙げられる。合成樹脂粉末としては、硬質樹脂、軟質ゴム、エラストマーまたは重合体(共重合体)などから構成される有機物の粉体、コアシェル型などの多層構造を有する粒子が挙げられる。合成樹脂粉末の具体例としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等からなる粒子、ポリイミド樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、フェノール樹脂粉末などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。好ましくは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックス等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
増粘剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物や金属水酸化物など、アクリル樹脂系微粒子などが挙げられる。これらの増粘剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0081】
<エポキシ樹脂組成物>
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤又は硬化促進剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物である。エポキシ樹脂としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルオキシナフタレン、脂肪族エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノール又はナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン又はナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、オキゾドリドン変性エポキシ樹脂、これらを臭素化したエポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂を伸長剤にて伸長したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、各種の脂肪族ポリオール化合物や、これらのアルキレンオキサイド付加物の一種乃至複数種をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。脂肪族ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチルプロパンジオール、1,2,2-トリメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-3-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘサン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール等の脂肪族ジオール化合物;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の脂環族ジオール化合物;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の脂肪族ポリオール化合物等が挙げられる。
【0083】
エポキシ樹脂組成物に含まれるビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂の具体例は、例えば、上述の通りである。なお、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、170~360g/eqの範囲でもよく、170~280g/eqの範囲でもよい。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等が用いられてもよい。エポキシ樹脂組成物には、上述した伸長剤が用いられてもよい。
【0084】
成形物の強度等の観点から、エポキシ樹脂として、分子構造中に芳香環を有するエポキシ樹脂が用いられてもよい。例えば、2官能エポキシ樹脂と、3官能以上のエポキシ樹脂とが併用されてもよい。この場合、両者の質量比(分子構造中に芳香環を有する2官能エポキシ樹脂)/(分子構造中に芳香環を有する3官能以上のエポキシ樹脂)は、20/80~80/20の範囲でもよく、40/60~60/40の範囲でもよい。
【0085】
強化繊維RFへの含浸性の観点から、エポキシ樹脂は、分子構造中に芳香環を有するエポキシ樹脂と、脂肪族エポキシ樹脂とを含んでもよい。この場合、両者の質量比(分子構造中に芳香環を有するエポキシ樹脂)/(脂肪族エポキシ樹脂)は、例えば、70/30~95/5の範囲である。
【0086】
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤又は硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の硬化用に一般に用いられている各種の化合物が特に制限なく用いられる。また、当該硬化剤又は硬化促進剤は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。硬化剤又は硬化促進剤としては、例えば、アミン化合物、アミド化合物、酸無水物、フェノ-ル性水酸基含有樹脂、リン化合物、イミダゾール化合物、イミダゾリン化合物、尿素系化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0087】
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、グアニジン誘導体等の脂肪族アミン化合物;ピペリジン、ピペラジン、イソホロンジアミン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)等の脂環式及び複素環式アミン化合物;フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルメチルアミン、ジメチルベンジルアミン、キシレンジアミン、ピリジン等の芳香族アミン化合物;三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。
【0088】
アミド化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、ポリアミドアミン等が挙げられる。ポリアミドアミンは、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、脂肪酸、ダイマー酸等のカルボン酸化合物と、脂肪族ポリアミンもしくはポリオキシアルキレン鎖を有するポリアミン等との反応物である。
【0089】
酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0090】
フェノ-ル性水酸基含有樹脂としては、例えば、各種のノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノール又はナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、フェノール又はナフトールアラルキル樹脂、フェニレン又はナフチレンエーテル樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0091】
リン化合物としては、例えば、エチルホスフィン、ブチルホスフィン等のアルキルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジプロピルホスフィン等のジアルキルホスフィン;ジフェニルホスフィン、メチルエチルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィン等が挙げられる。
【0092】
イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、3-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、5-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、3-エチルイミダゾール、4-エチルイミダゾール、5-エチルイミダゾール、1-n-プロピルイミダゾール、2-n-プロピルイミダゾール、1-イソプロピルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-n-ブチルイミダゾール、2-n-ブチルイミダゾール、1-イソブチルイミダゾール、2-イソブチルイミダゾール、2-ウンデシル-1H-イミダゾール、2-ヘプタデシル-1H-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,3-ジメチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、2-フェニル-1H-イミダゾール、4-メチル-2-フェニル-1H-イミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ(2-シアノエトキシ)メチルイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール塩酸塩等が挙げられる。
【0093】
イミダゾリン化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等が挙げられる。
【0094】
尿素系化合物としては、例えば、p-クロロフェニル-N,N-ジメチル尿素、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-N,N-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、4,4’-メチレンビスフェニルジメチル尿素等が挙げられる。
【0095】
早期硬化、成形物の物性などの観点から、硬化剤又は硬化促進剤として、アミン化合物、アミド化合物、イミダゾール化合物、または尿素系化合物が用いられてもよい。
【0096】
硬化剤又は硬化促進剤としてアミン化合物、アミド化合物、酸無水物、フェノ-ル性水酸基含有化合物等、エポキシ基と反応し得る官能基を有する化合物が用いられる場合、エポキシ樹脂組成物中における硬化剤又は硬化促進剤の配合量は、例えば、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1モルに対し、硬化剤中の官能基が0.5~1.1モルの範囲となる割合に調整される。また、硬化剤又は硬化促進剤としてリン化合物、イミダゾール化合物、イミダゾリン化合物、尿素系化合物等が用いられる場合、エポキシ樹脂組成物中における硬化剤又は硬化促進剤の配合量は、例えば、エポキシ樹脂成分100質量部に対し、0.5~20質量部の割合で調整される。
【0097】
エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂、上記硬化剤又は硬化促進剤の他、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、重合禁止剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、補強材、光硬化剤等が挙げられる。これらの具体例は前述したものと同様のものが挙げられる。
【0098】
成形性の観点から、エポキシ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有してもよい。この場合、熱可塑性樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ジエン化合物、およびこれらと共重合可能なその他の化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を重合して得られる重合体である。また、熱可塑性樹脂の形状は粉末であることが好ましく、特に、コア層とシェル層で構成される熱可塑性樹脂粉末を有効成分とするものが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、メチルメタクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシルメタクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0099】
ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等の共役ジエン系化合物、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン等の非共役ジエン系化合物などが挙げられる。
【0100】
その他の化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、芳香族ビニル化合物が好ましい。
【0101】
エポキシ樹脂組成物に対する熱可塑性樹脂粉末の添加量は、エポキシ樹脂組成物の合計100質量部に対して、例えば、1~20質量部でもよいし、3~9.5質量部でもよい。
【0102】
強化繊維RFへの樹脂含浸性の観点から、エポキシ樹脂組成物の粘度(25℃での測定値)は、例えば1~50Pa・sの範囲である。
【0103】
[強化繊維RF]
強化繊維RFは、SMCに一般的に用いられる繊維であればよく、特に限定されない。強化繊維RFの具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリコンカーバイド繊維、パルプ、麻、綿、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド繊維(例えば、ケブラー、ノーメックス等のアラミド)などが挙げられる。強化繊維RFは、1種類の繊維を含んでもよいし、2種類以上の繊維を含んでもよい。成形品の機械的強度、耐久性などの観点から、強化繊維RFは、炭素繊維である。炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル系繊維、ピッチ系繊維、レーヨン系繊維などの各種のものが挙げられる。高強度の強化繊維RFを得る観点から、炭素繊維は、RFポリアクリロニトリル系繊維でもよい。
【0104】
強化繊維RFとして、例えば、2.5~50mmの長さにカットされる炭素繊維が用いられる。成形時の金型内流動性、成形品の外観及び機械的物性がより向上することから、5~40mmの長さにカットされる炭素繊維が用いられてもよい。樹脂含浸性及び成形品の機械的物性などの観点から、炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数は、例えば、1000~60000である。
【0105】
成形品の機械的強度、強化繊維RFへの含浸性などの観点から、SMCにおける強化繊維RFの含有率は、例えば、20~80質量%であるが、40~70質量%でもよい。なお、強化繊維RFへの含浸性が不十分である場合、成形品に膨れが生じ、脆弱部が形成されてしまうおそれがある。
【0106】
[成形品の製造方法]
上述した製造装置1にて製造されるSMCを成形することによって、成形品が製造される。生産性、外観性などの観点から、SMCの成形方法としては、加熱圧縮成形が挙げられる。加熱圧縮成形としては、例えば、まず、予め110~180℃に加熱した金型にSMCを投入した後、圧縮成形機にて型締めする。ここで、0.1~30MPaの成形圧力を保持することによって、SMCを硬化させる。これにより、金型の形状に応じた成形品を製造することができる。
【0107】
以上に説明した本実施形態に係る繊維強化複合材シート用製造装置1では、積層体Sを挟む第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2を加圧する加圧部8は、搬送方向MDに直交する軸方向ADに延在するクラウンロール22を有する。これにより、積層体Sがクラウンロール22にて加圧されるとき、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間に存在する気体が、軸方向ADにおける積層体Sの両端に向かってクラウンロール22に押し出される。したがって、上記製造装置1を利用する製造方法の適用によって、当該両端を介して、積層体Sの脱気が精度よく実施される。
【0108】
本実施形態では、クラウンロール22のテーパー角度は、0.1°以上1.3°以下であり、軸方向ADに沿ったクラウンロール22の寸法は、2000mm以下である。もしくは、クラウンロール22の外径OD1と、クラウンロール22の端部22aの外径OD2との差は、0.5mm以上8mm以下である。これらの場合、クラウンロール22による気体の押し出しが良好に実施される。
【0109】
本実施形態では、加圧部8は、クラウンロール22に対応する平滑受けロール30aを有する。このため、クラウンロール22による気体の押し出しが良好に実施される。
【0110】
本実施形態では、加圧部8は、積層体Sを加圧する平滑ロール27を有し、平滑ロール27は、搬送方向MDにおいて加圧部8の最下流に位置する。このため、平坦な繊維強化複合材シートを良好に製造できる。
【0111】
本実施形態では、加圧部8は、搬送方向MDにおいて互いに隣り合うと共に略同一平面上に位置するロール23,24を有し、ロール23の表面23aには、軸方向ADに沿って間欠的に配置される複数の凸部23bが設けられ、ロール24の表面24aには、軸方向ADに沿って間欠的に配置される複数の凸部24bが設けられ、軸方向ADにおいて、複数の凸部23bと複数の凸部24bとが、交互に設けられる。このため、ロール23,24によって積層体Sに加えられる圧力が分散されるので、ロール23,24に起因する凹凸模様の発生を抑制しつつ、積層体Sを十分に加圧できる。
【0112】
次に、
図4を参照しながら、上記実施形態の変形例について説明する。以下では、上記実施形態と重複する記載は省略し、上記実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、変形例に上記実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0113】
本変形例では、本開示の一側面に係る繊維強化複合材シート用製造装置が、上記実施形態の製造装置1と、以下にて説明する製造装置1とは別の装置との組合せ装置である一例を説明する。
図4は、変形例に係る繊維強化複合材シート用製造装置に含まれる脱気装置の構成を示す模式図である。
図4に示される脱気装置100は、繊維強化複合材シート用製造装置の別の一部であって、上記実施形態の製造装置1とは別体の装置である。本変形例では、製造装置1の加圧部8が繊維強化複合材シート用製造装置に含まれる加圧部の一部であり、脱気装置100が繊維強化複合材シート用製造装置に含まれる加圧部の別の一部である。換言すると、本変形例に係る繊維強化複合材シート用製造装置は、製造装置1の加圧部8と、脱気装置100とを備える組合せ装置である。
【0114】
脱気装置100は、送り出しロール101と、脱気部102と、巻取りロール103とを備える。なお、図示しないが、脱気装置100は、脱気部102と巻取りロール103との間に位置する平滑ロールをさらに備えてもよい。送り出しロール101は、例えば、上記実施形態にて記載される第1送り出しロール2及び/又は第2送り出しロール5に相当する。
【0115】
脱気部102は、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2との間に存在する気体を除去するための部分であり、送り出しロール101よりも下流に位置する。脱気部102は、クラウンロール22Aと、平滑受けロール30gとを有する。積層体S1を挟む第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2とが脱気部102を通過するとき、積層体S1が脱気部102に加圧される。クラウンロール22Aと、平滑受けロール30gとは、上記実施形態のクラウンロール22と平滑受けロール30aとそれぞれ同一であるが、これに限られない。
【0116】
巻取りロール103は、積層体S1を挟む第1キャリアフィルムF1及び第2キャリアフィルムF2を巻き取る部材であり、脱気装置100の最下流に位置する。巻取りロール103にて巻き取られる積層体S1は、SMCに相当する。
【0117】
以上に説明した変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が発揮される。加えて、脱気装置100によって積層体Sをより精度よく脱気できるので、より高品質なSMCを製造できる。
【0118】
本開示の一側面に係る繊維強化複合材シート用製造装置及び繊維強化複合材シートの製造方法は、例えば以下の[1]~[7]に記載する通りであり、上記実施形態及び上記変形例に基づいてこれらを詳細に説明した。
[1]
第1キャリアフィルムを送り出す第1送り出しロールと、
前記第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する第1塗布部と、
前記第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する強化繊維供給部と、
第2キャリアフィルムを送り出す第2送り出しロールと、
前記第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する第2塗布部と、
前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを搬送する搬送部と、
前記切断片が供給された前記第1樹脂組成物及び前記第2樹脂組成物を含む積層体を挟む前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを加圧する加圧部と、
を備え、
前記加圧部は、前記第1キャリアフィルムと前記第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する、
繊維強化複合材シート用製造装置。
[2]
前記クラウンロールのテーパー角度は、0.1°以上1.3°以下であり、
前記軸方向に沿った前記クラウンロールの寸法は、2000mm以下である、[1]に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
[3]
前記クラウンロールの中心径と、前記軸方向における前記クラウンロールの端部の径との差は、0.5mm以上8mm以下である、[1]または[2]に記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
[4]
前記加圧部は、前記クラウンロールに対応する平滑受けロールを有する、請求項[1]~[3]のいずれかに記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
[5]
前記加圧部は、前記積層体を加圧する平滑ロールを有し、
前記平滑ロールは、前記搬送方向において前記加圧部の最下流に位置する、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
[6]
前記加圧部は、前記搬送方向において互いに隣り合うと共に略同一平面上に位置する第1凹凸ロール及び第2凹凸ロールを有し、
前記第1凹凸ロールの表面には、前記軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第1凸部が設けられ、
前記第2凹凸ロールの表面には、前記軸方向に沿って間欠的に配置される複数の第2凸部が設けられ、
前記軸方向において、前記複数の第1凸部と前記複数の第2凸部とが、交互に設けられる、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維強化複合材シート用製造装置。
[7]
搬送中の第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する工程と、
前記第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する工程と、
搬送中の第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する工程と、
前記第1キャリアフィルム及び前記第2キャリアフィルムを互いに近接させ、前記切断片が供給された前記第1樹脂組成物及び前記第2樹脂組成物を含む積層体を形成する工程と、
加圧部によって前記積層体を加圧する工程と、
を備え、
前記加圧部は、前記第1キャリアフィルムと前記第2キャリアフィルムとの搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する、
繊維強化複合材シートの製造方法。
【0119】
しかし、本開示の一側面は、上記実施形態、上記変形例及び上記[1]~[7]に限定されない。本開示の一側面は、その要旨を逸脱しない範囲でさらなる変形が可能である。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、加圧部に含まれるクラウンロールは、他のロールよりも上流に位置するが、これに限られない。例えば、加圧部において、クラウンロールは、他のロールよりも下流に位置してもよい。また、加圧部は、複数のクラウンロールを有してもよい。この場合、例えば、加圧部の上流と下流のそれぞれに、クラウンロールが配置されてもよい。
【0120】
上記実施形態及び上記変形例では、加圧部は、クラウンロールに加えて、他のロールを有するが、これに限られない。加圧部は、少なくとも1つのクラウンロールを有していれば、他のロールを有さなくてもよい。もしくは、加圧部は、クラウンロールと、他のロールの代わりにメッシュベルトなどの積層体を加圧する部材とを有してもよい。
【0121】
上記変形例では、製造装置の加圧部は、クラウンロールを有さなくてもよい。この場合であっても、脱気装置に含まれるクラウンロールによって積層体が良好に加圧され、第1キャリアフィルムと第2キャリアフィルムとの間に存在する気体が、軸方向における積層体の両端に向かってクラウンロールに押し出される。したがって、製造装置の加圧部がクラウンロールを有さない場合であっても、当該製造装置と併用される脱気装置の存在により、上述した繊維強化複合材シートの製造方法を実施でき、かつ、上記実施形態と同様の作用効果が奏され得る。なお、上記変形例にて、脱気装置は、複数のクラウンロールを有してもよい。
【実施例】
【0122】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0123】
[水酸基価]
樹脂の水酸基価は、JIS K 0070:1992の規定の方法に基づき測定した。具体的には、樹脂試料1gにアセチル化試薬を加え、規定温度及び時間で反応させた後、水酸化カリウムエタノール溶液にて中和滴定することによって、樹脂の水酸基価を得た。
【0124】
[粘度]
樹脂の粘度は、デジタル粘度計(株式会社アタゴ製、VISCO(登録商標))を用いて、25℃における粘度を測定した。
【0125】
[樹脂組成物(1)の製造]
温度計、窒素導入管、撹拌機を設けた2Lフラスコに、エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量188g/eq)667質量部、ビスフェノールA96.9質量部、2-メチルイミダゾール0.38質量部を仕込み、120℃に昇温して3時間反応させ、エポキシ当量283g/eqのエポキシ樹脂を得た。次いで、反応系内を60℃付近まで冷却し、メタクリル酸228質量部、及び、t-ブチルハイドロキノン0.29質量部を加えた。窒素と空気とを1対1で混合したガス流通下で90℃まで昇温した後、2-メチルイミダゾール0.23質量部を加えた。110℃まで昇温して10時間反応させ、酸価が6以下になったところを反応終点とし、水酸基価206mgKOH/gのビニルエステル樹脂(1)を得た。
【0126】
ビニルエステル樹脂(1)55質量部、フェノキシエチルメタクリレート45質量部、ポリイソシアネート(三井化学ファイン株式会社製「コスモネートLL」)20質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社製「カヤカルボンAIC-75」、有機過酸化物)1質量部を混合し、樹脂組成物(1)を得た。樹脂組成物(1)の粘度は3Pa・sであった。
【0127】
[樹脂組成物(2)の製造]
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(シグマアルドリッチ社製)40質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON 840LV」エポキシ当量178g/eq)40質量部、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(ANHUI XINYUAN Chemical社製「XY-622」)5質量部、グリセロールポリグリシジルエーテル(長瀬産業株式会社製「EX-313」、エポキシ当量141g/eq)15質量部、フッ素離型剤(ダイキン工業株式会社製「ダイフリーFB-962」)2質量部、ジシアンジアミド(ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製「DDA5」)8質量部、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)(ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製「オミキュア52」)6質量部を、3本ロールにて混合した。得られた混合物に更に熱可塑性樹脂粒子(アイカ工業株式会社製「F303」、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系有機微粒子)7質量部を混合し、樹脂組成物(2)を得た。樹脂組成物(2)の粘度は12Pa・sであった。
【0128】
[実施例1]
(シートモールディングコンパウンド用製造装置)
図1に示す製造装置1を用意した。積層体を通す加圧部として、工程手前から順に、クラウンロール1本、凹凸ロール4本、平滑ロール1本を設置した。各ロールに対しコンベアベルト下に設置される受けロールは全て平滑ロールを用いた。なお、隣り合う凹凸ロール同士の凸部が軸方向において互いに交互に位置するように、4本の凹凸ロールは配置された。各ロールの詳細は以下の通りである。
クラウンロール(1):中心外径136mm、両端部外径130mm、軸方向長さ1300mm、シリコーンゴム製。
凹凸ロール:軸最大径160mm、方向長さ1300mm、凸部幅3mm、凸部同士の間隔9mm、凸部高さ10mm、ステンレス鋼製。
平滑ロール:直径100mm、軸方向長さ1300mm、ステンレス鋼製。
受けロール:直径80mm、軸方向長さ1300mm、ステンレス鋼製。
【0129】
(シートモールディングコンパウンドの製造)
製造装置1を用い、上記実施形態に記載される製造方法に沿って、シートモールディングコンパウンドを製造した。ここで、
図1に示される第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2として、ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとのラミネートフィルムが用いられた。また、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2とのそれぞれには、0.5kg/m
2の塗布量で樹脂組成物が塗布された。加えて、強化繊維RFとして炭素繊維ロービング(東レ株式会社製「T700SC-12000-50C」)が用いられ、切断装置12によって強化繊維RFを25mmにカットし、切断片CCを形成した。そして、切断片CCを、繊維方向性が無く、かつ、得られるシートモールディングコンパウンドが均一な厚みになるように、空中から落下させた。ここで、得られるシートモールディングコンパウンド中の炭素繊維含有率が60質量%になるように、切断片CCを落下させた。
【0130】
続いて、第1キャリアフィルムF1と第2キャリアフィルムF2とを近接させ、炭素繊維である切断片CCが配置される第1樹脂組成物3aと、第2樹脂組成物6aとを含む積層体Sを形成した。この積層体Sを移送ベルトで搬送して加圧部8に通した後、巻取りロール9にて巻き取った。そして、巻き取り後の積層体Sを、45℃に設定される恒温機中に24時間静置して、シートモールディングコンパウンド(目付け量:2kg/m2)を得た。
【0131】
(成形物の製造)
先で得たシートモールディングコンパウンド(SMC)を25℃に冷却し、225mm×225mmの試験片を2枚切り出した。300mm×300mmの平板金型の中央に前記試験片を2枚重ねてセットし、金型温度140℃、圧力10MPaの条件で5分間プレス成形して、厚さ約2mmの平板状の成形物を得た。
【0132】
[実施例2~10及び比較例1、2]
樹脂組成物の種類及びロールの種類、本数を下記表1及び表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてSMC及び成形物を得た。なお、表1,2に記載されるクラウンロール(2)は中心外径136mm、両端部外径106mm、軸方向長さ1300mmのシリコーンゴム製ロールである。
【0133】
[各種評価]
実施例1~10及び比較例1、2について、以下の基準で各種評価を行った。各評価の結果は、下記表1及び表2に記載される。
【0134】
(気泡の除去効果の評価)
SMCの製造過程を目視で確認し、加圧部8の通過前の気泡の有無と、加圧部8の通過後の気泡の除去効果を、以下の基準で評価した。
【0135】
(SMCの表面平滑性)
得られたSMCの表面を目視で確認し、表面の平滑性を評価した。
【0136】
(SMCにおける樹脂含浸性の評価)
まず、12.5mmにカットした炭素繊維束1000個の質量を測定し、その平均値を算出し、これを未含浸平均繊維質量とした。また、各実施例及び各比較例にて得られたSMCから30cm×30cmの試験片を切り出した。SMCの厚さ方向の中心で2枚に切断し、内部を露出させた。露出させた内部表面の任意の箇所から炭素繊維束を100個取り出し、その総質量を測定し、炭素繊維束1個当たりの平均質量を算出した。この作業を5枚の試験片にて行った。5点の平均質量の平均値を算出し、これを含浸後平均繊維質量とした。各質量の測定の測定には、分析用電子天秤GR-202(株式会社A&D製、秤量単位0.01mg)を使用した。
【0137】
含浸後平均繊維質量と未含浸平均繊維質量との質量比を算出し、以下の基準で評価した。
5:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し40%以上増加
4:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し20%以上40%未満増加
3:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し10%以上20%未満増加
2:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し3%以上10%未満増加
1:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し3%未満増加
【0138】
(成形物の表面平滑性)
得られた成形物の表面を目視で確認し、表面の平滑性を評価した。
【0139】
(成形物における樹脂含浸性の評価)
デジタルマイクロスコープVHX-5000(株式会社キーエンス製)を用いて、先で得た成形物の断面を拡大率50倍にて観察し、以下の基準により含浸性を評価した。観察される成形物の断面として、2種類の断面を準備した。1種類目の断面は、成形物の面方向における任意の一方向に延在すると共に、成形物の表面に直交する断面である。2種類目の断面は、1種類目の断面と成形物の表面とのそれぞれに直交する断面である。未含浸部の数は、2種類の断面のそれぞれで観察された未含浸部の総和とした。
5:未含浸部が2個以下
4:未含浸部が3、4個
3:未含浸部が5個
2:未含浸部が6~10個
1:未含浸部が11個以上
【0140】
【0141】
【符号の説明】
【0142】
1…製造装置(繊維強化複合材シート用製造装置)、2…第1送り出しロール、3…第1塗布部、3a…第1樹脂組成物、4…強化繊維供給部、5…第2送り出しロール、6…第2塗布部、6a…第2樹脂組成物、7…搬送部、8…加圧部、9…巻取りロール、11…引き出しロール、12…切断装置、21…受け入れロール、21a…第1平滑ロール、21b…第2平滑ロール、22,22A…クラウンロール、22a…端部、23…ロール(第1凹凸ロール)、23a…表面、23b…凸部(第1凸部)、24…ロール(第2凹凸ロール)、24a…表面、24b…凸部(第2凸部)、27…平滑ロール、30a~30g…平滑受けロール、100…脱気装置、101…送り出しロール、102…脱気部、103…巻取りロール、110…クラウンロール、CC…切断片、F1…第1キャリアフィルム、F2…第2キャリアフィルム、OD1…外径(中心径)、OD2…外径(端部の径)、RF…強化繊維、S,S1…積層体。
【要約】
繊維強化複合材シート用製造装置は、第1キャリアフィルムを送り出す第1送り出しロールと、第1キャリアフィルム上に第1樹脂組成物を塗布する第1塗布部と、第1樹脂組成物上に強化繊維の切断片を供給する強化繊維供給部と、第2キャリアフィルムを送り出す第2送り出しロールと、第2キャリアフィルム上に第2樹脂組成物を塗布する第2塗布部と、第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを搬送する搬送部と、切断片が供給された第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を含む積層体を挟む第1キャリアフィルム及び第2キャリアフィルムを加圧する加圧部と、を備え、加圧部は、搬送方向に直交する軸方向に延在するクラウンロールを有する。