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特許7435939高生産性Fc結合性タンパク質、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高生産性Fc結合性タンパク質、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 14/735 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240214BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/735 ZNA
C12N15/70 Z
C12N1/21
C12P21/02 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019202298
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021073883
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】畑山 耕太
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198817(WO,A1)
【文献】特開2017-178908(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111393(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/056374(WO,A1)
【文献】特開2019-076069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
C12P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)から選択される、Fc結合性タンパク質。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において以下の(A)から(のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質:
(A)配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換、
(B)配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(C)配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(D)配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記(A)から(D)のアミノ酸置換を有し、
さらに前記(A)から(D)に示すアミノ酸置換以外に1から30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を有するアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記(A)から(D)のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、前記(A)から(D)のアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
【請求項2】
以下の(4)~(6)から選択される、請求項1に記載のFc結合性タンパク質。
(4)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸残基において前記(A)から(D)ならびに以下の(E)または/および(F)のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質:
(E)配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換、
(F)配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換。
(5)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記(A)から(D)ならびに(E)または/および(F)のアミノ酸置換を有し、
さらに前記(A)から(F)に示すアミノ酸置換以外に1から30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を有するアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
(6)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記(A)から(D)ならびに(E)または/および(F)のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、前記(A)から(F)のアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
【請求項3】
配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列における34番目から431番目までのアミノ酸残基を含む、請求項1または2に記載のFc結合性タンパク質。
【請求項4】
配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれかに記載のFc結合性タンパク質。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
請求項に記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項8】
宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、請求項に記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項または請求項に記載の形質転換体を培養することにより請求項1~のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を生産する工程、および前記工程で生産されたFc結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、Fc結合性タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト新生児(neonatal)Fcレセプター(以下、ヒトFcRnという。)に由来し、免役グロブリンG(IgG)やIgGの定常領域であるFc領域と他のタンパク質とを融合させた融合タンパク質(以下、Fc融合タンパク質という。)に対し結合親和性を有するFc結合性タンパク質に関するものである。より詳しくは、タンパク質工学的手法を用いて生産性を向上させたFc結合性タンパク質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトFcRnは、IgGの受容体であり、IgGのFc領域に結合する分子である。ヒトFcRnは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI関連分子であり、重鎖(α鎖)と、β2ミクログロブリン(β鎖)により構成されている(非特許文献1)。ヒトFcRnのα鎖のアミノ酸配列(配列番号6)は、UniProt(Accession number:P55899)などの公的データベースに公表されている。また、β鎖のアミノ酸配列(配列番号7)は、UniProt(Accession number:P61769)に公表されている。
【0003】
ヒトFcRnとIgG(Fc領域)の結合はpH依存的であり、pH6.0-6.5で結合しpH7.4以上で解離する。このpH依存性はヒトFcRnの体内でのIgGのリサイクリング機構や輸送機構に関与しており、pH依存的にヒトFcRnに結合・解離するIgGおよびFc融合タンパク質は体内寿命が長いことが知られている(非特許文献2)。ヒトFcRnのこの特徴を利用し、組換えヒトFcRnをリガンドとしたアフィニティーカラムを用いてヒトIgGの体内寿命を評価する方法が知られている(非特許文献3)。
【0004】
前述した通り、組換えヒトFcRnはアフィニティーカラムのリガンドとして機能する特性を備えている。しかしながら、ヒトFcRnは熱やpH変化などによりタンパク質変性が起こる傾向があった。そのため、特許文献1では、熱や酸に対する安定性が向上したヒトFcRnに由来したFc結合性タンパク質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-183087号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】N.E.Simister等,Nature,337,184-187,1989
【文献】M.Raghavan等,Biochemistry,34,14649-14657,1995
【文献】F.Cymer等,Bioanalysis,9,1305-1317,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特許文献1に開示のFc結合性タンパク質よりもさらに生産性が向上したFc結合性タンパク質、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、Fc結合性タンパク質を構成するアミノ酸のうち特定の位置にあるアミノ酸を他の特定のアミノ酸に置換することにより、Fc結合性タンパク質の生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の<1>から<11>に記載の態様を包含する:
<1>
配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において少なくとも以下の(A)から(F)のうち1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質:
(A)配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換、
(B)配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(C)配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(D)配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(E)配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換、
(F)配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換。
【0010】
<2>
以下の(1)~(3)の何れかに記載のタンパク質である、Fc結合性タンパク質:
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有し、さらに前記少なくとも1つのアミノ酸置換の位置以外の1若しくは数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列全体に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記1以上のアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質。
【0011】
<3>
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸残基において前記(A)から(D)のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、<1>または<2>に記載のFc結合性タンパク質。
【0012】
<4>
さらに前記(E)および/または(F)のアミノ酸置換を有する、<1>~<3>のいずれかに記載のFc結合性タンパク質。
【0013】
<5>
配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列における34番目から431番目までのアミノ酸残基を含む、<1>~<4>のいずれかに記載のFc結合性タンパク質。
【0014】
<6>
配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなる、請求項1~5のいずれかに記載のFc結合性タンパク質。
【0015】
<7>
<1>~<6>のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするDNA。
【0016】
<8>
<7>に記載のDNAを含む発現ベクター。
【0017】
<9>
<8>に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
【0018】
<10>
宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、<9>に記載の形質転換体。
【0019】
<11>
<9>または<10>に記載の形質転換体を培養することにより<1>~<6>のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を生産する工程、および第1工程で生産されたFc結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、Fc結合性タンパク質の製造方法。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明のFc結合性タンパク質における、アミノ酸置換の基準となるFc結合性タンパク質FcRn_m7のアミノ酸配列(配列番号1)は、特開2018-183087号公報で開示のFc結合性タンパク質FcRn_m7のアミノ酸配列と一致する。なお、配列番号1において、その1番目のメチオニンから26番目のアラニンまでがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジンから33番目のグリシンまでがリンカー配列であり、34番目のイソロイシンから132番目のメチオニンまでがヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域[配列番号7(Uniprot登録番号:P61769)の21番目から119番目の領域]であり、133番目のグリシンから157番目のセリンまでがGSリンカー配列であり、158番目のアラニンから431番目のセリンまでが7アミノ酸置換を有するヒトFcRnα鎖の細胞外領域[配列番号6(Uniprot登録番号:P55899)の24番目から297番目の領域のアミノ酸配列に相当し、かつそのうち(配列番号6)の71番目のシステインがアルギニンに置換、78番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換、151番目のグリシンがアスパラギン酸に置換、192番目のアルギニンがロイシンに置換、196番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換、232番目のグルタミンがロイシンに置換および295番目のリジンがグルタミン酸に置換された配列]であり、432番目から437番目まではポリヒスチジン配列である。
【0022】
なお「高生産性」とは、野生型(配列番号6および7に記載のヒトFcRnに比べて生産性が向上していることを意味してよく、好ましくは配列番号1に記載のヒトFcRnに比べて生産性が向上していることを意味してよい。ここで、向上するとは、比較対象(野生型または特許文献1に記載のヒトFcRn)と比べて生産性が5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上高くなることをいう。
【0023】
本発明のFc結合性タンパク質は、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において少なくとも以下の(A)から(F)のうち1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸残基を含む、Fc結合性タンパク質:
(A)配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換、
(B)配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(C)配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(D)配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換、
(E)配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換、
(F)配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換。
【0024】
前記態様の具体例として、以下の(1)~(3)に示す、Fc結合性タンパク質が挙げられる。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有し、さらに前記少なくとも1つのアミノ酸置換の位置以外の1若しくは数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を有するアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列の34番目から431番目までのアミノ酸残基において、前記1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列全体に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記1以上のアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含む、Fc結合性タンパク質。
【0025】
本発明のFc結合性タンパク質は、少なくとも前記置換(C)が生じていることが好ましく、前記置換(A)から置換(D)が全て生じていることが更に好ましい。
【0026】
本発明のFc結合性タンパク質は、前記の置換(A)から置換(D)に記載の全てのアミノ酸置換に加え、前記の置換(E)および/または置換(F)に記載のアミノ酸置換が生じることで、形質転換体による生産性(発現量)がさらに向上する。
【0027】
本発明のFc結合性タンパク質は、前記の置換(A)から置換(F)に記載の6つのアミノ酸置換が生じることで、前記の配列番号1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7に比べ、熱安定性が向上する。
【0028】
本発明のFc結合性タンパク質の一例として、
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含み、かつ当該34番目から431番目までのアミノ酸配列において置換(A)、置換(B)、置換(C)および置換(D)に記載のアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含み、かつ当該34番目から431番目までのアミノ酸配列において置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)および置換(E)に記載のアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)、
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含み、かつ当該34番目から431番目までのアミノ酸配列において置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)および置換(F)に記載のアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号4に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)、および
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含み、かつ当該34番目から431番目までのアミノ酸配列において置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)、置換(E)および置換(F)に記載のアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号5に記載のアミノ酸配列のうち34番目から431番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)、
が挙げられる。
【0029】
本発明のFc結合性タンパク質は、IgGのFc領域結合性を有している限り、そのN末端側および/またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。これらの付加的なアミノ酸配列の中では、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明のFc結合性タンパク質は、IgGのFc領域結合性を有している限り、そのN末端側および/またはC末端側に、本発明のFc結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の担体に固定化する際に有用な、システインまたはリジンを含むオリゴペプチドからなる付加的なアミノ酸配列(以下、担体固定化用タグと呼ぶ。)を有していても良い。
【0031】
加えて、本発明のFc結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
【0032】
本明細書において、「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加」、ならびに「アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1から50個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加であってよく、好ましくは1から40個、より好ましくは1から30個、更に好ましくは1から20個、特に好ましくは1から10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加であってよい。また本明細書における「置換」、「欠失」、「挿入」および「付加」には、遺伝子が由来する生物(微生物も包含する)の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0033】
前記(2)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上であってよく、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上であってよい。
【0034】
本明細書において、アミノ酸配列の「相同性」は、アミノ酸配列の「同一性」と同義である。ここで、アミノ酸配列の「同一性(相同性)」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列のアミノ酸残基ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列を整列させ、一致したアミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化方法は、特に限定されないが、例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知の配列比較プログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全アミノ酸残基数は、1つのギャップを1つのアミノ酸残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全アミノ酸残基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、配列同一性(%)は、長い方の配列の全アミノ酸残基数で、一致したアミノ酸残基数を除して算出される。
【0035】
本発明のFc結合性タンパク質は、両アミノ酸の物理的性質と化学的性質またはそのどちらかが類似したアミノ酸間で置換する保守的置換をさらに有してもよい。保守的置換は、Fc結合性タンパク質に限らず一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、アスパラギン酸とグルタミン酸間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間に生じる置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。
【0036】
本発明のFc結合性タンパク質の一例として、そのN末端側にMalEシグナルペプチドが付加され、かつそのC末端側にポリヒスチジンが付加された、
(e)配列番号2のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質、
(f)配列番号3のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質、
(g)配列番号4のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質、
(h)配列番号5のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質、
が挙げられる。
【0037】
次に、本発明のFc結合性タンパク質をコードするDNA(以下、本発明のDNAとする。)および本発明のDNAを含有する発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする。)について説明する。
【0038】
本発明のDNAは、(I)Polymerase Chain Reaction(PCR)法といったDNA増幅法を利用してヒトゲノムDNAのFcRnをコードする領域をもとに改変して作製する方法、(II)ヒトFcRnのアミノ酸配列(配列番号6および配列番号7)から塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製し、それをさらにDNA増幅法を利用し改変して作製する方法、または、(III)例えば配列番号2から配列番号5に記載のアミノ酸配列を塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製する方法等により得ることができる。これらの方法において、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際には、本発明のFc結合性タンパク質の生産に利用する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましい。一例として、大腸菌を宿主として利用する場合、アルギニンではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシンではATAが、ロイシンではCTAが、グリシンではGGAが、プロリンではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドンを避けるように変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2019年5月30日)を利用することによっても可能である。
【0039】
DNA増幅法を用いて本発明のDNAを作製する際は、エラープローンPCR法を用いた変異導入法を利用することができる。エラープローンPCR法における反応条件は、DNAに所望の変異を導入できる条件であれば特に限定はなく、例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnClを0.01から10mM、好ましくは0.1から1mMの濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことができる。
【0040】
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号8の塩基配列からなるDNA、配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号9の塩基配列からなるDNA、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号10の塩基配列からなるDNA、および配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号11の塩基配列からなるDNAを例示することができる。
【0041】
本発明のDNAを用いて宿主を形質転換する場合、本発明のDNAそのものを用いてもよいが、ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等)の適切な位置に本発明のDNAを挿入した発現ベクター(本発明の発現ベクター)を用いると、安定した形質転換が実施できる点で好ましい。ここで、適切な位置とは、ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。また、ベクターに本発明のDNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性DNAに連結される状態で挿入することが好ましい。
【0042】
本発明の発現ベクターとして使用するベクターは、宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、例えば大腸菌を宿主とする場合、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pBBRベクター等のプラスミドベクターが例示できる。また本発明において使用するプロモータとしては、例えば大腸菌を宿主とする場合、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等を挙げることができる。
【0043】
本発明のFc結合性タンパク質を生産可能な形質転換体(以下、本発明の形質転換体とする。)は、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換することで得ることができる。本発明の形質転換体として使用する宿主に特に制限はなく、一例として、動物細胞(CHO細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyc es octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌[JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等]、枯草菌等があげられる。なお、遺伝子工学に関する実験が容易な点および生産性の点で、大腸菌を宿主として用いることが好ましい。本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行えばよく、例えば、宿主として大腸菌[JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等]を選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等により形質転換すればよい。
【0044】
本発明の形質転換体から本発明の発現ベクターを調製するには、形質転換に用いた宿主に適した方法で、本発明の形質転換体から本発明の発現ベクターを抽出し、調製すればよい。例えば本発明の形質転換体の宿主が大腸菌の場合、形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)等の市販の抽出キットを用いて調製すればよい。
【0045】
次に、本発明のFc結合性タンパク質の製造方法(以下、本発明の製造方法とする。)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を培養することで本発明のFc結合性タンパク質を生産する工程(以下、第1工程という。)、第1工程で生産された本発明のFc結合性タンパク質を培養物から回収する工程(以下、第2工程という。)の2つの工程を含む。なお本明細書において、培養物とは、第1工程において培養された本発明の形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。
【0046】
本発明の製造方法における第1工程では、形質転換体をその培養に適した培地で培養すればよい。例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria-Bertani(LB)培地等を使用することが好ましい。本発明の発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、その遺伝子に対応した薬剤を培地に添加して第1工程を実施すれば、形質転換体の選択的増殖が可能となり、例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加すればよい。また、培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を添加してもよく、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。さらにグリシン等の前記形質転換体から培養液へのタンパク質分泌を促す試薬を添加してもよく、具体的には、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は利用する宿主に関して一般的に知られた温度であればよく、例えば宿主が大腸菌である場合、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であり、本発明のFc結合性タンパク質の特性により選択すればよい。培地のpHは宿主が大腸菌の場合、pH6.8からpH7.4、好ましくはpH7.0前後である。本発明の発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合は、本発明のFc結合性タンパク質が良好に製造可能な条件下で培地に誘導剤を添加してその発現を誘導すればよい。誘導剤としてはisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を例示することができ、その添加濃度は0.005から1.0mMの範囲、好ましくは0.01から0.5mMの範囲である。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で行なえばよい。
【0047】
本発明の製造方法における第2工程では、第1工程で生産された本発明のFc結合性タンパク質を培養物から一般的に知られた回収方法によって回収する。例えば本発明のFc結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のFc結合性タンパク質を回収すればよく、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液から回収すればよい。
【0048】
本発明の製造方法により回収された本発明のFc結合性タンパク質の純度を向上したい場合には、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を使用することが好ましく、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて行なうことがより好ましい。また、前記クロマトグラフィーにより精製した本発明のFc結合性タンパク質の純度は当該技術分野において公知の方法を用いて調べればよく、一例として、SDS(Sodium dodecyl sulfate)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0049】
本発明のFc結合性タンパク質のIgGへの結合親和性の評価は、Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法や表面プラズモン共鳴法等を用いて測定すればよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明のFc結合性タンパク質は、特開2018-183087号公報で開示されている既知のFc結合性タンパク質と比較し、生産性が向上している。特開2018-183087号公報で開示されている既知のFc結合性タンパク質と同様に、本発明のFc結合性タンパク質はIgGまたはFc融合タンパク質を分離するための吸着剤のリガンドとして有用であり、生産性の向上により工業的生産に適している。
【実施例
【0051】
以下、実施例、比較例および参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
比較例1 Fc結合性タンパク質FcRn_m7の製造と評価
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m7の製造
特開2018-183087号公報では、Fc結合性タンパク質FcRn_m7が開示されている。Fc結合性タンパク質FcRn_m7のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
(1-1)発現ベクターpET-FcRn_m7の作製
特開2018-183087号公報で開示されている発現ベクターpET-FcRn_m7を、当該公報に記載された方法で作製した。この発現ベクターpET-FcRn_m7を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m7を得た。
(1-2)Fc結合性タンパク質FcRn_m7の製造
前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m7を30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone,5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した150mLのTB培地(24g/L Yeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を20℃に切り替え、終濃度0.05mMのIPTGを添加し約18時間振盪培養した。遠心操作により培養液から得られた菌体から、BugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液からのFc結合性タンパク質FcRn_m7の精製は、His・Bind Resin(メルク製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7が高純度であることをSDS-PAGEにより確認した。精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7のタンパク質濃度はMicro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて定量した。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m7の生産性評価
Fc結合性タンパク質FcRn_m7の生産性評価として、培養液1Lあたりの発現タンパク質量(発現量)を評価した。
【0053】
比較例1の(1-1)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m7を30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した30mLのTB培地に接種し(100mLバッフル付フラスコを使用)、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を20℃に切り替え、終濃度0.05mMのIPTGを添加し約18時間振盪培養した。遠心操作により培養液(2mL)から得られた菌体から、BugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて可溶性タンパク質抽出液を回収した。この可溶性タンパク質抽出液を適宜希釈し、SDS-PAGEに供した。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を幾つかの濃度に調整し(1ウェルあたり1.5ngから15ngの範囲)、濃度の標準としてSDS-PAGEに供した。SDS-PAGE後、ゲルからメンブレンへタンパク質の転写を行ない、ウェスタンブロッティングによる検出を行った。検出抗体はHorseradish peroxidase標識抗His抗体、発色基質はTMBを使用した。濃度既知である精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7のバンドシグナル強度から検量線を作成し、可溶性タンパク質抽出液のFc結合性タンパク質FcRn_m7の濃度を定量した。本濃度を基に培養液1Lあたりの発現タンパク質量(発現量)を算出した。
【0054】
その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m7の発現量は45mg/Lであった(表1)。
【0055】
【表1】
【0056】
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m7の抗体に対する結合親和性評価
Fc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する結合親和性評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトをヒト抗体製剤(人免疫グロブリン グロブリン筋注、日本薬局方製)、固相をFc結合性タンパク質FcRn_m7としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはニトリロ三酢酸(NTA)をコートしたセンサーチップ(Sensor Chip NTA、GEヘルスケア製)を使用し、NTAにニッケルを固定した後、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7をセンサーチップに固定した(Fc結合性タンパク質FcRn_m7のC末端側のポリヒスチジンとニッケルの結合を利用)。抗体結合性の測定にはpH6.0緩衝液(67mM リン酸緩衝液、150mM 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)を用い、カイネティクス解析はシングルサイクルカイネティクス法により行った。測定条件は表2に示す。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T200 Evaluation Software)を用いて行い、アナライト濃度(C)に対する平衡値(Req)のプロットから解離定数(K)の値を算出した。解離定数(K)の値は小さいほど結合親和性が高いことを示す。
【0057】
Fc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値は10±4μM(n=3)であった。
【0058】
【表2】
【0059】
(4)Fc結合性タンパク質FcRn_m7の熱安定性評価
(4-1)サンプル調製
比較例1の(1)で製造した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7の溶媒を、Amicon Ultra遠心式フィルター(メルク製)を使用してD-PBS(-)緩衝液に置換し、タンパク質濃度を定量した(紫外線吸収法;A280=1.0を1.0mg/mLとした)。
(4-2)熱安定性評価
熱安定性の評価はリアルタイムPCR装置QuantStudio3(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を使用してThermal shift Assay法により行った。タンパク質濃度は0.25から0.5mg/mLの範囲、蛍光色素はSYPRO Orange[終濃度0.5%(v/v)]、昇温温度は30℃から85℃、昇温速度は0.025℃/sの測定条件とした。変性中点の算出にはQuantStudio Design&Analysis Software ver.1.2(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を使用した。
【0060】
Fc結合性タンパク質FcRn_m7の変性中点は60±2℃(n=2)であった。
【0061】
実施例1 変異導入Fc結合性タンパク質からのFc結合性タンパク質候補のスクリーニング
(1)Fc結合性タンパク質へのランダム変異導入とランダム変異体ライブリーの作製
比較例1の(1-1)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m7を鋳型として、配列番号12および配列番号13からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、特開2018-50616号公報で開示されている方法で実施した。得られたPCR産物をm7-EPとした。PCR産物m7-EPは、制限酵素NcoIおよびHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した特開2018-183087号公報で開示されている発現ベクターpETMalEとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、30μg/mLのカナマイシンを添加したLB寒天培地(10g/L tryptone,5g/L Yeast extract,5g/L NaCl,15g/L Agar)で培養(37℃で約18時間)後、LB寒天培地上に形成されたコロニーをランダム変異体ライブリー(形質転換体)とした。
(2)Fc結合性タンパク質候補のスクリーニング
(2-1)発現培養
前記(1)のランダム変異体ライブリー(形質転換体)および比較例1の(1-1)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m7(比較対照として)をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地400μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。各前培養液15μLは30μg/mLのカナマイシンを添加したTB培地500μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で振盪培養した。2時間後に培養温度を20℃に切り替え、終濃度0.05mMのIPTGおよび0.3%(w/v)のグリシンをそれぞれ添加後、約18時間振盪培養した。各培養液に対して遠心操作を行い、発現した組換えタンパク質を含む培養上清を得た。この培養上清サンプルに対して加熱処理(46℃で10分間)を行い、評価サンプルとした。
(2-2)抗体結合性評価を指標としたスクリーニング
抗体結合性評価として以下のELISA法を実施した。
【0062】
ヒトIgGを含む抗体製剤(人免疫グロブリン グロブリン筋注、日本薬局方製)をD-PBS(-)緩衝液で10μg/mLの濃度に調整後、それを96穴マイクロプレート(MaxiSorp、Nunc社製)の各ウェルに100μL/well添加し、4℃で18時間静置しIgGを固定化した。固定化終了後、各ウェルの溶液を捨て、2%(w/v)のSkim Milk(Becton,Dickinson and Company製)を含むD-PBS(-)を200μL/well添加し、30℃で2時間静置しブロッキングを行った。洗浄緩衝液[50mM リン酸緩衝液(pH6.0)、150mM 塩化ナトリウム、0.05%(w/v)Tween 20]を用いて各ウェルを洗浄した。各ウェルに50μL/wellの評価サンプル調整緩衝液[200mM リン酸緩衝液(pH5.8)、300mM 塩化ナトリウム]を添加した。続いて、前記(2-1)で調製した評価サンプルを50μL/well添加し、混合後、30℃で1時間静置し、固定化IgGと反応させた。反応後、洗浄緩衝液を用いて各ウェルを洗浄し、Horseradish Peroxidase標識抗His-Tag抗体試薬(BETHYL社製)[2%(w/v)のSkim Milkを含む洗浄緩衝液で希釈]を各ウェルに添加し、30℃で1時間静置した。洗浄緩衝液を用いて各ウェルを洗浄し、50μL/wellのTMB Peroxidase Substrate(セラケアライフサイエンシーズ社製)を各ウェルに添加した。50μL/wellの1M リン酸を添加することで発色反応を止め、マイクロプレートリーダー(Tecan製)にて450nmの吸光度を測定した。
【0063】
ELISA法の450nmの吸光度は、抗体結合性を有する組換えタンパク質量と相関する。組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m7(比較対照:Fc結合性タンパク質FcRn_m7を生産)の培養上清と比較し、顕著に吸光度が増加した形質転換体をランダム変異体ライブリーから選抜した。選抜されたそれぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。
(3)Fc結合性タンパク質候補
前記(2)のスクリーニングの結果、以下のFc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。
(3-1)Fc結合性タンパク質FcRn_m8a
Fc結合性タンパク質FcRn_m8a(アミノ酸配列:配列番号14)をコードする塩基配列(配列番号15)を含む発現ベクターpET-FcRn_m8a、およびそれを含有する形質転換体である組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8aを取得した。
(3-2)Fc結合性タンパク質FcRn_m8b
Fc結合性タンパク質FcRn_m8b(アミノ酸配列:配列番号16)をコードする塩基配列(配列番号17)を含む発現ベクターpET-FcRn_m8b、およびそれを含有する形質転換体である組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8bを取得した。
(3-3)Fc結合性タンパク質FcRn_m11
Fc結合性タンパク質FcRn_m11(アミノ酸配列:配列番号2)をコードする塩基配列(配列番号8)を含む発現ベクターpET-FcRn_m11、およびそれを含有する形質転換体である組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m11を取得した。
【0064】
参考例1 Fc結合性タンパク質FcRn_m8aの製造と評価
実施例1の(3-1)に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m8aのアミノ酸配列(配列番号14)は、配列番号1のアミノ酸配列に対して前記の置換(E)(配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換)が生じたアミノ酸配列である。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m8aの製造
製造は、実施例1の(3-1)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8aを使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m8aの生産性評価
生産性評価は、実施例1の(3-1)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8aを使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m8aの発現量は50mg/Lであった。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m8aの抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m8aを用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m8aのヒト抗体に対する解離定数(K)の値は17±4μM(n=4)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
【0065】
参考例2 Fc結合性タンパク質FcRn_m8bの製造と評価
実施例1の(3-2)に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m8bのアミノ酸配列(配列番号16)は、配列番号1のアミノ酸配列に対して前記の置換(F)(配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換)が生じたアミノ酸配列である。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m8bの製造
製造は、実施例1の(3-2)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8bを使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m8bの生産性評価
生産性評価は、実施例1の(3-2)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m8bを使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m8bの発現量は38mg/Lであった。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m8bの抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m8bを用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m8bのヒト抗体に対する解離定数(K)の値は16±6μM(n=4)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
【0066】
実施例2 Fc結合性タンパク質FcRn_m11の製造と評価
実施例1の(3-3)に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m11のアミノ酸配列(配列番号2)は、配列番号1のアミノ酸配列に対して前記の置換(A)(配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換)、置換(B)(配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換)、置換(C)(配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(D)(配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換)が生じたアミノ酸配列である。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m11の製造
製造は、実施例1の(3-3)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m11を使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m11の生産性評価
生産性評価は、実施例1の(3-3)に記載の組換え大腸菌BL21(DE3)/FcRn_m11を使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m11の発現量は69mg/Lであり、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7の発現量(45mg/L)より高く、前記の置換(A)、置換(B)、置換(C)および置換(D)を有することで生産性が向上した(表1)。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m11の抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m11を用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m11のヒト抗体に対する解離定数(K)の値は8±3μM(n=3)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
実施例3 Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの製造と評価
Fc結合性タンパク質FcRn_m12aのアミノ酸配列を配列番号3に示す。なお、配列番号3において、その1番目のメチオニンから431番目のセリンまでは、配列番号1の1番目のメチオニンから431番目のセリンに相当するアミノ酸配列に対して前記の置換(A)(配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換)、置換(B)(配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換)、置換(C)(配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(D)(配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(E)(配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換)が生じたアミノ酸配列に相当する。配列番号3において、その432番目のロイシンから439番目のヒスチジンまではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの製造
Fc結合性タンパク質FcRn_m12aをコードする塩基配列(配列番号9)を含む発現ベクターpET-FcRn_m12aおよびそれを有する形質転換体の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12aの作製は、下記の方法で行った。
【0067】
実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号12および配列番号18に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、比較例1の(1-1)と同様の方法によりPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素NheIおよびSacIで消化した。さらに、実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号19および配列番号20に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、同様にPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素SacIおよびXhoIで消化した。制限酵素NheIおよびXhoIで制限酵素処理した比較例1の(1-1)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m7とライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12aを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-FcRn_m12aには配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号9の塩基配列が含まれることを確認した。
【0068】
Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの製造は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12aを使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの生産性評価
生産性評価は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12aを使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの発現量は125mg/Lであり、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7の発現量(45mg/L)より高く、前記の置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)および置換(E)を有することで生産性が向上した(表1)。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m12aの抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m12aを用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m12aのヒト抗体に対する解離定数(K)の値は18±11μM(n=3)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
実施例4 Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの製造と評価
Fc結合性タンパク質FcRn_m12bのアミノ酸配列を配列番号4に示す。なお、配列番号4において、その1番目のメチオニンから431番目のセリンまでは、配列番号1の1番目のメチオニンから431番目のセリンに相当するアミノ酸配列に対して前記の置換(A)(配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換)、置換(B)(配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換)、置換(C)(配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(D)(配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(F)(配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換)が生じたアミノ酸配列に相当する。配列番号4において、その432番目のロイシンから439番目のヒスチジンまではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの製造
Fc結合性タンパク質FcRn_m12bをコードする塩基配列(配列番号10)を含む発現ベクターpET-FcRn_m12bおよびそれを有する形質転換体の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12bの作製は、下記の方法で行った。
【0069】
実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号12および配列番号21に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、比較例1の(1-1)と同様の方法によりPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素NheIおよびSacIで消化した。さらに、実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号22および配列番号20に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、同様にPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素SacIおよびXhoIで消化した。これらの制限酵素消化産物を制限酵素NheIおよびXhoIで制限酵素処理した比較例1の(1-1)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m7とライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12bを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-FcRn_m12bには配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号10の塩基配列が含まれることを確認した。
【0070】
Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの製造は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12bを使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの生産性評価
生産性評価は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m12bを使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの発現量は159mg/Lであり、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7の発現量(45mg/L)より高く、前記の置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)および置換(F)を有することで生産性が向上した(表1)。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m12bの抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m12bを用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m12bのヒト抗体に対する解離定数(K)の値は15±8μM(n=3)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
【0071】
実施例5 Fc結合性タンパク質FcRn_m13の製造と評価
Fc結合性タンパク質FcRn_m13のアミノ酸配列を配列番号5に示す。なお、配列番号5において、その1番目のメチオニンから431番目のセリンまでは、配列番号1の1番目のメチオニンから431番目のセリンに相当するアミノ酸配列に対して前記の置換(A)(配列番号1の214番目のバリンがアスパラギン酸に置換)、置換(B)(配列番号1の230番目のリジンがグルタミン酸に置換)、置換(C)(配列番号1の242番目のリジンがグルタミン酸に置換)および置換(D)(配列番号1の400番目のリジンがグルタミン酸に置換)、置換(E)(配列番号1の306番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換))および置換(F)(配列番号1の315番目のセリンがスレオニンに置換)が生じたアミノ酸配列に相当する。配列番号5において、その432番目のロイシンから439番目のヒスチジンまではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである。
(1)Fc結合性タンパク質FcRn_m13の製造
Fc結合性タンパク質FcRn_m13をコードする塩基配列(配列番号11)を含む発現ベクターpET-FcRn_m13およびそれを有する形質転換体の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m13の作製は、下記の方法で行った。
【0072】
実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号12および配列番号18に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、比較例1の(1-1)と同様の方法によりPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素NheIおよびSacIで消化した。さらに、実施例1の(3-3)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m11を鋳型として、配列番号22および配列番号20に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、同様にPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素SacIおよびXhoIで消化した。これらの制限酵素消化産物を制限酵素NheIおよびXhoIで制限酵素処理した比較例1の(1-1)に記載の発現ベクターpET-FcRn_m7とライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m13を得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-FcRn_m13には配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号11の塩基配列が含まれることを確認した。
【0073】
Fc結合性タンパク質FcRn_m13の製造は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m13を使用して比較例1の(1-2)と同様の方法で行った。
(2)Fc結合性タンパク質FcRn_m13の生産性評価
生産性評価は、前記の組換え大腸菌BL21(DE3)/pET-FcRn_m13を使用して比較例1の(2)と同様の方法で行った。比較例1の(1)で作製した精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m7を濃度の標準として使用した。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m13の発現量は156mg/Lであり、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7の発現量(45mg/L)より高く、前記の置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)、置換(E)および置換(F)を有することで生産性が向上した(表1)。
(3)Fc結合性タンパク質FcRn_m13の抗体に対する結合親和性評価
抗体に対する結合親和性評価は、精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m13を用いて、比較例1の(3)と同様の方法で行った。その結果、Fc結合性タンパク質FcRn_m13のヒト抗体に対する解離定数(K)の値は12±1μM(n=3)であった。この値は、比較例1に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7のヒト抗体に対する解離定数(K)の値(10±4μM)に近く、抗体に対する結合親和性が維持されていることが判明した。
(4)Fc結合性タンパク質FcRn_m13の熱安定性評価
精製済みのFc結合性タンパク質FcRn_m13を用いて、比較例1の(4)と同様の方法で熱安定性評価を行った。
【0074】
Fc結合性タンパク質FcRn_m13の変性中点は64±2℃(n=2)であり、比較例1の(4)に記載のFc結合性タンパク質FcRn_m7の変性中点(60±2℃)より高く、前記の置換(A)、置換(B)、置換(C)、置換(D)、置換(E)および置換(F)を有することで熱安定性が向上したことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のFc結合性タンパク質は、IgGまたはFc融合タンパク質を分離するための吸着剤のリガンドとして有用である。
【配列表】
0007435939000001.app