(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】光アップコンバージョン材料
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20240214BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20240214BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240214BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20240214BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09K11/06 610
C09K11/06
C07F15/00 C
H05B33/14 A
H05B33/12 E
G02B5/20
(21)【出願番号】P 2019188064
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-10-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼掲載アドレス:https://photochemistry.jp/2019/abstract/poster/1P117.pdf 掲載日: 令和1年9月2日 ▲2▼刊行物: 2019年光化学討論会予稿集 発行日: 令和1年9月10日 ▲3▼集会名: 2019年光化学討論会 開催場所:名古屋大学東山キャンパス(愛知県名古屋市) 開催日: 令和1年9月10日~12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0151646(US,A1)
【文献】特開2019-081829(JP,A)
【文献】特表2016-536449(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104861106(CN,A)
【文献】国際公開第2016/204301(WO,A1)
【文献】特開2017-171888(JP,A)
【文献】Mallena Sirish et al.,J. Photochem. Photobiol. A: Chem.,1995年,85,127-135,DOI: 10.1016/1010-6030(94)03893-Y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/
C07F 15/
G02B 5/20
H05B 33/
H10K 101:60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含み、固体である、光アップコンバージョン材料であって、
前記光アップコンバージョン発光体は、下記一般式(A1)~(A16)で表される化合物のうち少なくとも1種であり、
【化1】
前記一般式(A1)~(A16)において、Ra
1、Ra
2、Ra
3、及びRa
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であるか、又は、Ra
1とRa
2、Ra
3とRa
4が、それぞれ互いに連結して、エーテル結合、エステル結合、アミド結合及びスルフィド結合からなる群より選択された少なくとも一種の結合を有することがある炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基であり、
前記一般式(A1)~(A16)において、Ra
n1(ここでn1は0以上の整数)は、n1個の置換基を表し、それぞれ
中央部の縮合環である芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基であり、
前記光増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有している下記一般式(B)で表される化合物であり、
【化2】
前記一般式(B)中、(Y-X-)
mを除いた部分が三重項増感剤部であり、前記三重項増感剤部において、Rb
n2(ここで0≦n2≦8)は、0個以上の8個以下置換基であって、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基であり、Mは金属であり、
前記一般式(B)において、基Xは、それぞれ独立して、ベンゼン環(前記一般式(B)に示された4つのベンゼン環)に結合した炭素数が1以上の化学構造を有する連結部であり、mは、それぞれ独立して、1又は2であり、
前記一般式(B)において、前記分子アンカー部を構成する基Yは、それぞれ独立して、下記一般式(A1-1)~(A16-1)のいずれかで表される構造を有し、
【化3】
基Yとしての前記一般式(A1-1)~(A
16-1)は、それぞれ、波線が付された結合手によって、前記一般式(B)の基Xと結合しており、基Yにおいて、結合手は、基Yの縮合環、及び当該縮合環に結合している両端のベンゼン環の任意の位置に結合しており(結合手は、縮合環又は両端のベンゼン環の水素原子と置換している)、基YのRa
1、Ra
2、Ra
3、及びRa
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であるか、又は、Ra
1とRa
2、Ra
3とRa
4が、それぞれ互いに連結して、エーテル結合、エステル結合、アミド結合及びスルフィド結合からなる群より選択された少なくとも一種の結合を有することがある炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基であり、
前記一般式(A1-1)~(A
16-1)において、Ra
n1(ここで0≦n1≦8)は、0個以上の8個以下の置換基であって、それぞれ
中央部の縮合環である芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基である、光アップコンバージョン材料。
【請求項2】
前記光アップコンバージョン発光体と、前記光増感剤の前記分子アンカー部とは、共通する化学構造を含んでいる、請求項1に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項3】
前記共通する化学構造は、複数のベンゼン環が縮合した構造である、請求項2に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項4】
前記光増感剤の前記分子アンカー部の構造は、前記光アップコンバージョン発光体と、連結部分を除き同一の化学構造である、請求項1~3に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項5】
前記光増感剤の三重項光増感部は、ポルフィリン骨格を含んでいる、請求項1~4のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項6】
前記光増感剤の前記三重項光増感部と前記分子アンカー部とは、炭素数が1以上の化学構造により結合されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項7】
前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体中、前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤との合計割合が、60質量%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項8】
前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体は、粒径が1nm以上100μm以下の微粒子であり、
前記微粒子が媒質中に分散された構造を備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項9】
前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体は、結晶である、請求項1~8のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料に光を照射することにより、前記照射した光よりも短波長の光を発光させる、光波長の変換方法。
【請求項11】
光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含む溶液を、乾燥させる工程を備えており、
前記光増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有している、請求項1~9のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アップコンバージョン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長波長光を短波長光に変換する光アップコンバージョン発光体が知られている。光アップコンバージョン発光体としては、希土類元素などを用いた無機系光アップコンバージョン発光体が知られている。無機系光アップコンバージョン発光体は、赤外レーザー光を可視光に変換するIRカードなどに応用され、既に実用化されている。
【0003】
一方、有機化合物を用いた有機系光アップコンバージョン発光体では、有機化合物が有する強くて幅広い吸収スペクトルを用いることにより、無機系光アップコンバージョン発光体よりも、幅広い波長かつ低い入射パワーでの光アップコンバージョンが可能となることが知られている。有機系光アップコンバージョン発光体の用途としては、例えば、有機薄膜太陽電池やペロブスカイト太陽電池、および光触媒などが挙げられる。これらの用途において、太陽光から電荷を生成させるのは太陽光スペクトルのうち短波長域である可視光であり、光触媒などでは特に紫外光及び青色光である。そこで、これらデバイスに有機系光アップコンバージョン発光体を用いることにより、その長波長成分を短波長成分に変換し、太陽電池の光電変換効率や光触媒の反応効率を高めることなどが期待されている。また、太陽光で最も強く含まれる緑色成分を、植物の葉緑体が効率よく吸収する短波長の青色成分へと変換することで、植物の育成を促進させる用途も期待されている。さらには規制無く一般に使用が可能な低出力(1mW未満)のレーザーポインターを用いて、通常では起こらない特徴的な短波長発光を得ることが可能なため、偽造防止などの特殊用途のインク材料への応用も考えられている。このように、近年、有機系光アップコンバージョン発光体が注目を集めてきている(例えば、特許文献1、非特許文献1及び2を参照)。
【0004】
有機系光アップコンバージョン発光体は、一般に、光増感剤と共に用いられ、有機系光アップコンバージョン材料として使用される。現在知られている有機系光アップコンバージョン材料における光アップコンバージョンの機構としては、例えば次のような機構が挙げられる。まず、基底状態にある光増感剤分子(1A)が、光エネルギーを吸収して励起一重項状態(1A*)へと遷移する(1A+hν→1A*)。次に、速やかに励起三重項状態(3A*)へと系間交差を起こし(1A*→3A*)、光増感剤分子の励起三重項状態から発光体分子にエネルギーが受け渡される。これにより、光増感剤分子はエネルギーを失ってその基底状態に戻る。一方、基底状態にあった発光体分子(1E)が、励起三重項(3E*)へと変化する(三重項-三重項エネルギー移動:3A*+1E→1A+3E*)。励起三重項状態へ変化した発光体分子の濃度が高まると、励起三重項状態へ変化した発光体分子同士の相互作用が効率よく起きるようになり、励起三重項状態へ変化した一方の発光体分子から他方の発光体分子にエネルギーが移動する。このとき、励起三重項状態へ変化した一方の発光体分子は基底状態に戻り、他方は励起一重項状態へと変化する(三重項-三重項消滅過程:3E*+3E*→1E+1E*)。そして、この励起一重項状態へ変化した発光体分子から、蛍光として、アップコンバージョンされた発光(1E*→1E+hνf)が生じる。このような機構は、「三重項-三重項アップコンバージョン」などと呼ばれている。
【0005】
以上のような機構を考慮すると、有機系光アップコンバージョン材料では、発光体の励起三重項状態のエネルギーが励起一重項状態のエネルギーの半分程度である必要性がある。このため、発光体としては、芳香環骨格をもつ分子などが用いられている。また、光増感剤としては、高効率に励起三重項状態を生成する有機金属錯体などが用いられている。
【0006】
例えば、青色発光領域の光アップコンバージョン発光体として、アントラセン、9,10-ジフェニルアントラセンなどが知られている。また、それらに対応して動作する増感剤としては、金属ポルフィリン系化合物、特にPt-オクタエチルポルフィリン、Pd-オクタエチルポルフィリン、Pt-テトラフェニルポルフィリン、Pd-テトラフェニルポルフィリンなどが知られている。
【0007】
また、従来の有機系光アップコンバージョン材料の多くは後述の通り液体であり、実用化の観点から、固体の有機系光アップコンバージョン材料の開発も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2008-506798号公報
【文献】国際公開2014/136619号
【文献】特開2017-171888号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ceroni, P., Energy up-conversion by low-power excitation: new applications of an old concept. Chemistry (Weinheim an der Bergstrasse, Germany) 2011, 17, 9560-4.
【文献】Trupke, T.; Shalav, a.; Richards, B. S.; Wurfel, P.; Green, M., Efficiency enhancement of solar cells by luminescent up-conversion of sunlight. Solar Energy Materials and Solar Cells 2006, 90, 3327-3338.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機系光アップコンバージョン材料においては、その動作原理上、増感剤と発光体の間のエネルギーの受け渡し及び三重項発光体同士の対消滅に、増感剤と発光体の間または三重項発光体同士の間での、分子衝突が必要である。このため、従来、発光量子収率が10%を越える高効率材料としては、三重項状態となった分子が移動可能な液体であるか、実質上液体を含むゲル状媒体があった。しかし、取り扱いやデバイス化に難点があった。
【0011】
さらに、増感剤と発光体の間のエネルギーの受け渡しや三重項発光体は、大気中の酸素によって阻害されるため、不活性気体中に封止、酸素除去する必要があった。これらの点では、本発明者らの従来の技術(特許文献2)についても、同様である。
【0012】
そこで、本発明者らは固体の高効率材料を実現するべく、固体中においても増感剤と発光体の間で高効率にエネルギーの受け渡しを可能とする方法を検討した。その結果、増感剤と発光体がそれぞれ別々に凝集、結晶化する問題を克服する必要があり、増感剤と発光体の混合溶液から溶媒を蒸発させて固体化する際に増感剤同士の結晶化が生じるよりも早く発光体の結晶化が進行する条件とすることで、増感剤が発光体結晶中に取り込まれて、高効率にエネルギーの受け渡しを可能とする固体を実現できるとの着想を得た。そのために発光体に対する増感剤の濃度を低くし、さらに発光体の濃度を飽和濃度程度まで高め、溶媒の種類と揮発条件を調整して発光体の結晶化を迅速に行うことで、特許文献3に示すように上記のような課題を解決した。特許文献3において、この混合飽和溶液からのキャスト法によって作製し特定の光アップコンバージョン発光体と光増感剤とを含む固体である光アップコンバージョン材料を提供しており、その固体の発光量子収率は最高値で10%を越える。これはそれ以前の固体材料と比して、とても高い光アップコンバージョン発光収率であり、固体でも液体に匹敵する高い光アップコンバージョン発光収率を実現できることを明らかにしている。
【0013】
しかしながら、特許文献3に開示された、混合飽和溶液からのキャスト法によって得られる固体は微結晶粒から形成されており、その微結晶粒の特性は粒子間で均一ではなく、微結晶粒の中にはアップコンバージョン発光を示さない微結晶粒も多数存在する。このため、全体としてのアップコンバージョン収率はその最大値よりも低下することが問題であり、材料全体としてさらなる光アップコンバージョン収率の向上を図る方法の開発が望まれる。
【0014】
このような状況下、本発明は、微結晶粒のばらつきを無くして一律に強い発光が得られるようにすることによって高い光アップコンバージョン収率を実現し得る、新規な固体状の光アップコンバージョン材料を提供することを主な目的とする。また、本発明は、光アップコンバージョン材料の光増感剤として好適に使用し得る、新規化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含み、固体である、光アップコンバージョン材料において、光増感剤として、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有しているものを用いることにより、ほぼ全ての微結晶粒で強い光アップコンバージョン発光が得られることを知得した。ここで、三重項光増感部とは光励起によりその三重項状態を生成して、そのエネルギーを光アップコンバージョン発光体に移動させて、光アップコンバージョン発光体の三重項状態を生成することのできる部分的化学構造を言い、上記光増感剤分子(1A)に相当する役割を担う。また、分子アンカー部は光アップコンバージョン発光体との相溶性が高く、光アップコンバージョン発光体の結晶中に混合し得る部分的化学構造を言う。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0016】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含み、固体である、光アップコンバージョン材料であって、
前記光増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有している、光アップコンバージョン材料。
項2. 前記光アップコンバージョン発光体と、前記光増感剤の前記分子アンカー部とは、共通する化学構造を含んでいる、項1に記載の光アップコンバージョン材料。
項3. 前記共通する化学構造は、複数のベンゼン環が縮合した構造である、項2に記載の光アップコンバージョン材料。
項4. 前記光増感剤の前記分子アンカー部の構造は、前記光アップコンバージョン発光体と、連結部分を除き同一の化学構造である、項1~3に記載の光アップコンバージョン材料。
項5. 前記光増感剤の三重項光増感部は、ポルフィリン骨格を含んでいる、項1~4のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
項6. 前記光増感剤の前記三重項光増感部と前記分子アンカー部とは、炭素数が1以上の化学構造により結合されている、項1~5のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
項7. 前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体中、前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤との合計割合が、60質量%以上である、項1~6のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
項8. 前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体は、粒径が1nm以上100μm以下の微粒子であり、
前記微粒子が媒質中に分散された構造を備える、項1~7のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
項9. 前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体は、結晶である、項1~8のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料。
項10. 項1~9のいずれか1項に記載の光アップコンバージョン材料に光を照射することにより、前記照射した光よりも短波長の光を発光させる、光波長の変換方法。
項11. 光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含む溶液を、乾燥させる工程を備えており、
前記光増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有している、光アップコンバージョン材料の製造方法。
項12. 下記一般式(B1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(B1)中、
基Xは、それぞれ独立して、ベンゼン環に結合した炭素数が1以上の化学構造を有する連結部であり、
mは、それぞれ独立して、1又は2であり、
基Yは、それぞれ、波線が付された結合手によって基Xと結合しており、
前記結合手は、前記基Yの縮合環、及び当該縮合環に結合している両端のベンゼン環の任意の位置に結合しており、
前記基YのRa
1、Ra
2、Ra
3、及びRa
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であるか、又は、Ra
1とRa
2、Ra
3とRa
4が、それぞれ互いに連結して、エーテル結合、エステル結合、アミド結合及びスルフィド結合からなる群より選択された少なくとも一種の結合を有することがある炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基であり、
Ra
n1(ここで0≦n1≦8)は、0個以上8個以下の置換基であって、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基であり、
Rb
n2(ここで0≦n2≦8)は、0個以上8個以下の置換基であって、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基であり、
Mは金属である。]
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い光アップコンバージョン収率を実現し得る、新規な固体状の光アップコンバージョン材料を提供することができる。さらに、本発明によれば、光アップコンバージョン材料の光増感剤として好適に使用し得る、新規化合物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1において、キャスト法で得られた、炭素数6の連結部を有する増感剤(化学式(S1)(k=4)の増感剤)をドープしたDPA(化学式(1a))結晶の顕微透過像である。左と右とは、同一試料中で場所が異なる像である。円形の部分は顕微鏡の視野である。対物レンズは20倍である。スケールバーは50μmである。
【
図2】
図1と同じ試料中の左右それぞれ同じ箇所の、アップコンバージョン発光画像過像である。入射波長は532nmである。スケールバーは50μmである。
【
図3】実施例1で得られた結晶のアップコンバージョン発光のスペクトルである。励起波長は532nmである。
【
図4】
図2に示した2箇所の発光画像の発光強度に対するヒストグラムと、さらに同じ試料中の他の2箇所の発光画像のヒストグラムの合計4箇所のヒストグラムを合算したものである。
【
図5】実施例2において、キャスト法で得られた、炭素数3の連結部を有する増感剤(化学式(S1)(k=4)の増感剤)をドープしたDPA(化学式(1a))結晶の顕微透過像である。左と右とは同一試料中で場所が異なる像である。円形の部分は顕微鏡の視野である。対物レンズは20倍である。スケールバーは50μmである。
【
図6】
図5と同じ試料中の左右それぞれ同じ箇所の、アップコンバージョン発光画像過像である。入射波長は532nmである。スケールバーは50μmである
【
図7】実施例2で得られた結晶のアップコンバージョン発光のスペクトルである。励起波長は532nmである。
【
図8】
図6に示した2箇所の発光画像の発光強度に対するヒストグラムと、さらに同じ試料中の他の2箇所の発光画像のヒストグラムの合計4箇所のヒストグラムを合算したものである。
【
図9】比較例1において、キャスト法で得られた、分子アンカー部を有しない光増感剤(化学式(S2))をドープしたDPA(化学式(A1))結晶の顕微透過像である。左と右とは同一試料中で場所が異なる像である。円形の部分は顕微鏡の視野である。対物レンズは20倍である。スケールバーは50μmである。
【
図10】
図9と同じ試料中の左右それぞれ同じ箇所の、アップコンバージョン発光画像過像である。入射波長は532nmである。スケールバーは50μmである。
【
図11】比較例1で得られた結晶のアップコンバージョン発光のスペクトルである。励起波長は532nmである。
【
図12】
図10に示した2箇所の発光画像の発光強度に対するヒストグラムと、さらに同じ試料中の他の2箇所の発光画像のヒストグラムの合計4箇所のヒストグラムを合算したものである。
【
図13】実施例3において、キャスト法で得られた、炭素数6の連結部を有する増感剤(化学式(S1)(k=4)の増感剤)をドープしたC7-sDPA(化学式(1b))結晶の顕微透過像である。左と右とは、同一試料中で場所が異なる像である。円形の部分は顕微鏡の視野である。対物レンズは20倍である。スケールバーは50μmである。
【
図14】
図13と同じ試料中の左右それぞれ同じ箇所の、アップコンバージョン発光画像過像である。入射波長は532nmである。スケールバーは50μmである。
【
図15】実施例3で得られた結晶のアップコンバージョン発光のスペクトルである。励起波長は532nmである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の光アップコンバージョン材料は、光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含み、固体である、光アップコンバージョン材料であって、光増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有していることを特徴としている。ここで、三重項光増感部とは光励起によりその三重項状態を生成して、そのエネルギーを光アップコンバージョン発光体に移動させて、光アップコンバージョン発光体の三重項状態を生成することのできる部分的化学構造を言い、上記光増感剤分子(1A)に相当する役割を担う。また、分子アンカー部は光アップコンバージョン発光体との相溶性が高く、光アップコンバージョン発光体の結晶中に混合し得る部分的化学構造を言う。本発明の光アップコンバージョン材料は、このような構成を備えることにより、新規な固体状の光アップコンバージョン材料であって、高い光アップコンバージョン収率を実現し得る。具体的には、光アップコンバージョン発光体を主成分とするため固体中において、光アップコンバージョン発光体間の三重項エネルギーの移動が効果的に起こるとともに三重項-三重項消滅によって光アップコンバージョン発光に寄与する部分が高密度に多く存在し、高い光アップコンバージョン収率を実現し得る。以下、本発明の光アップコンバージョン材料、さらに光アップコンバージョン材料の光増感剤として好適に使用し得る、新規化合物について詳述する。
【0020】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0021】
[光アップコンバージョン発光体]
光アップコンバージョン発光体は、本発明の光増感剤の三重項エネルギーを受け取ることができ、三重項-三重項消滅によって光増感剤が吸収した光よりも短波長光を発光する機能を有する化合物であれば、特に制限されず、公知の発光体であってもよい。光アップコンバージョン発光体としては、多環芳香族化合物が挙げられる。多環芳香族化合物としては、置換基を有することがある縮合環数が3~5の多環芳香族化合物が挙げられ、縮合環を構成する芳香環としては、例えば、ベンゼン環、シクロペンタジエニル環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、フラン環、チオフェン環、シロール環などが挙げられ、これらの中でもベンゼン環が好ましい。
【0022】
本発明の光アップコンバージョン材料に含まれる光アップコンバージョン発光体として好ましいものうち、縮合環を構成する芳香環がベンゼン環である化合物としては、具体的は、下記一般式(A1)~(A16)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
一般式(A1)~(A16)において、Ra1、Ra2、Ra3、及びRa4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であるか、又は、Ra1とRa2、Ra3とRa4が、それぞれ互いに連結して、エーテル結合、エステル結合、アミド結合及びスルフィド結合からなる群より選択された少なくとも一種の結合を有することがある炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基である。これらの中でも、Ra1、Ra2、Ra3、及びRa4は、全て水素原子であるか、前記アルキレン基のいずれかであることが好ましい。
【0025】
Ra1とRa2が互いに連結して形成される炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基である場合、Ra1とRa2とが環構造を形成する。同様に、Ra3とRa4が互いに連結して形成される炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基である場合、Ra3とRa4とが環構造を形成する。一般式(A1)~(A16)において、これらの環構造を備えている場合、当該環構造が中心の縮合環を囲む構造となり、発光体間の相互作用が起こりやすくなり、光アップコンバージョン収率をより高めることが可能になるといえる(例えば、R. Sato, H. Kitoh-Nishioka, K. Kamada, T. Mizokuro, K. Kobayashi, Y. Shigeta, J. Phys. Chem. C 2018, 122, 5334-5340.)。また、Ra1、Ra2、Ra3、及びRa4を有する2つのベンゼン環は、これらのベンゼン環が中心の縮合環に結合していない場合にはラジカルが発生し易い位置に結合している。すなわち、これらの構造では、縮合環に結合した2つのベンゼン環によって、これらの位置でラジカルが発生することが阻止されている(例えば、Y. Fujiwara, R. Ozawa, D. Onuma, K. Suzuki, K. Yoza and K. Kobayashi, J. Org. Chem., 2013, 78, 2206.)。よって、ラジカル反応によって発光体同士が反応して2量体となり、光アップコンバージョン収率が低下することが、効果的に抑制されるといえる。
【0026】
また、一般式(A1)~(A16)において、Ran1(ここでn1は0以上の整数)は、n1個の置換基を表し、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基である。当該置換基の最大数(すなわちn1の上限値)は構造により異なるが、n1の範囲は、例えばn1=0~8、好ましくはn1=0(すなわち、置換基Ran1が存在しない)が挙げられる。
【0027】
さらに、光アップコンバージョン発光体としては、下記一般式(1a-1)~(1a-3)、(1b-1)~(1b-3)、(1c-1)~(1c-3)、(1d-1)~(1d-3)で表される化合物が特に好ましい。
【0028】
【0029】
一般式(1a-1)~(1a-3)、(1b-1)~(1b-3)、(1c-1)~(1c-3)、(1d-1)~(1d-3)において、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基を示す。R11及びR12が、それぞれ、アルキル基またはアルコキシ基である場合、炭素数としては特に制限されないが、発光体間の相互作用を起こりやすくする観点からは、好ましくは1~10程度、より好ましくは5~10程度が挙げられる。また、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基を示す。R21及びR22が、それぞれ、アルキル基またはアルコキシ基である場合、炭素数としては特に制限されないが、発光体間の相互作用を起こりやすくする観点からは、好ましくは1~10程度、より好ましくは5~10程度が挙げられる。
【0030】
光アップコンバージョン発光体の具体例としては、下記式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
光アップコンバージョン発光体の製造方法としては、特に制限されず、例えば、特許第6455884号や特開2017-171888号公報などに記載の公知の合成方法により製造することができる。
【0033】
後述の光アップコンバージョン材料において、本発明の光アップコンバージョン発光体は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
[光増感剤]
本発明の光アップコンバージョン材料には、光アップコンバージョン発光体に加えて、光増感剤が含まれる。本発明の光アップコンバージョン材料においては、通常、光アップコンバージョン発光体は量的に主成分であり、光増感剤は少量である。光増感剤は、光エネルギーを吸収して、本発明の光アップコンバージョン発光体に光エネルギーを移動させることができるものである。このように、主成分となる光アップコンバージョン発光体と共に少量の光増感剤を含む組成の固体とすることで、三重項状態による吸収されたエネルギーの蓄積と光アップコンバージョン発光に寄与する部分を多く存在させることができ、高い光アップコンバージョン収率を実現し得る。また、光増感剤から光アップコンバージョン発光体への上記エネルギー移動のためには、両者の三重項エネルギー準位が一致、もしくは前者が高くなるものを組み合わせることが必要である。本発明において、増感剤は、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有していることを特徴としている。光増感剤が光増感剤としての機能を持つ三重項光増感部と、光アップコンバージョン発光体と親和性が高くなるように分子設計された分子アンカー部とが連結された化学構造を有していることにより、光アップコンバージョン発光体が結晶化する際に、分子アンカー部が当該結晶中に取り込まれやすく、その分子アンカー部に連結された増感剤部も同時に当該結晶に取り込まれると期待される。その結果、結晶中において光アップコンバージョン発光体と光増感剤の増感剤部とが近接した位置に存在することになり、増感剤から光アップコンバージョン発光体へのエネルギーの受け渡しを阻害無く効率的に行うことができる。特許文献3に記載の従来の手法に比べ、マトリクスとなる主成分の光アップコンバージョン発光体との相溶性の高い分子アンカー部を増感剤に有することで、三重項増感剤部の構造が増感剤同士の凝集無く結晶構造中に取り込まれる確率が高まる。この結果、固体中において増感剤から発光体へのエネルギー移動が促進できることで、固体化時に生成する微結晶粒の多くにアップコンバージョン特性をもたせることを実現していると考えられる。
【0035】
本発明の光増感剤としては、三重項光増感部と分子アンカー部とが連結された化学構造を有していればよいが、光アップコンバージョン発光体の結晶中に光増感剤がより取り込まれ易くするためには光増感剤の分子アンカー部は、光アップコンバージョン発光体と相溶性の高い分子構造とすることが好ましい。分子構造の類似性が高いもの同士ほど相溶性が高くなるので、光増感剤の分子アンカー部は光アップコンバージョン発光体と共通する化学構造を含んでいることが好ましい。より好ましくは、光増感剤の分子アンカー部の分子構造が光アップコンバージョン発光体の分子構造と同一の構造を含有することが望ましい。具体的には、光増感剤の分子アンカー部の構造は、光アップコンバージョン発光体と、分子アンカー部の三重項光増感部との連結部分を除き同一の化学構造であることが好ましい。なお、ここでの分子アンカー部の「連結部分」とは、光増感剤が、例えば後述の下記一般式(B)で表される化合物である場合を例に説明すると、基Yで表される分子アンカー部のうち、三重項光増感部との連結部である基Xと連結されている部分が、基Yの連結部分であり、基Y(分子アンカー部)は、この連結部分で基Xと結合していることから、1分子として存在する光アップコンバージョン発光体とは異なる構造となる。さらに、共通する化学構造はその励起三重項状態のエネルギーが励起一重項状態のエネルギーの半分程度である必要性から複数のベンゼン環が縮合した構造を含むことが好ましい。ベンゼン環の縮合の数としては、好ましくは3~5が挙げられる。
【0036】
また、光増感剤の三重項光増感部は、有機金属錯体により構成されていることが好ましい。有機金属錯体を構成する金属としては、特に制限されないが、例えば、Li、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ru、Pd、Ag、Re、Os、Ir、Pt、Pbなどが挙げられ、好ましくはPt、Pdが挙げられる。有機金属錯体の具体例としては、ポルフィリンまたはその置換体の金属錯体、フタロシアニンまたはその置換体の金属錯体などが挙げられ、これらの中でも好ましくはポルフィリンまたはその置換体の金属錯体が挙げられる。光増感剤の三重項光増感部は、ポルフィリン骨格を含んでいることが特に好ましい。
【0037】
光増感剤の具体例としては、下記一般式(B)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【0039】
一般式(B)中、基Xは、それぞれ独立して、ベンゼン環(一般式(B)に示された4つのベンゼン環)に結合した炭素数が1以上の化学構造を有する連結部である。mは、それぞれ独立して、1又は2である。基Xの炭素数は、光アップコンバージョン発光体の結晶中に光増感剤がより取り込まれやすいことから、3以上であることが好ましく、3~10であることが好ましく、3~8であることがより好ましく、3~6であることがさらに好ましい。また、合成のしやすさなどから、基Xは、1~2のエーテル結合を有していることが好ましい。また、一般式(B)において、ベンゼン環に結合したm個の基X-Yは、それぞれ、ベンゼン環上のオルト位、メタ位、パラ位のいずれに結合していても良いが、メタ位又はパラ位に結合していることが好ましく、パラ位に結合していることがより好ましい。また、一般式(B)において、ベンゼン環に結合したm個の基X-Yは、それぞれ、1つのベンゼン環のオルト位又はメタ位に2つ結合している態様(すなわち、一般式(B)に、基X-Yが合計8つ存在する、後述の一般式(Bb)、(Bc)など)も挙げられる。一般式(B)の好ましい態様として、例えば、以下の一般式(Ba)、(Bb)、(Bc)などが挙げられる。
【0040】
【0041】
Rbn2(ここで0≦n2≦8)は、0個以上の8個以下の置換基であって、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基である。置換基の数の範囲(すなわちn2の範囲)は、好ましくはn2=0(すなわち、置換基Rbn2が存在しない)が挙げられる。Mは金属である。好ましいMとしては、Li、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ru、Pd、Ag、Re、Os、Ir、Pt、Pbなどが挙げられ、より好ましくはPt、Pdが挙げられる。
【0042】
一般式(B)で表される光増感剤において、基Yが分子アンカー部を構成しており、基Xが連結部を構成しており、基Xを介して基Yと結合されているポルフィリン骨格部分が三重項光増感部を構成している。
【0043】
一般式(B)において、分子アンカー部を構成する基Yは、下記一般式(A1-1)~(A16-1)で表される構造を有することが好ましい。
【0044】
【0045】
基Yとしての一般式(A1-1)~(A1-16)は、それぞれ、波線が付された結合手によって、一般式(B)の基Xと結合している。基Yにおいて、結合手は、基Yの縮合環、及び当該縮合環に結合している両端のベンゼン環の任意の位置に結合している(結合手は、縮合環又は両端のベンゼン環の水素原子と置換している)。基YのRa1、Ra2、Ra3、及びRa4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であるか、又は、Ra1とRa2、Ra3とRa4が、それぞれ互いに連結して、エーテル結合、エステル結合、アミド結合及びスルフィド結合からなる群より選択された少なくとも一種の結合を有することがある炭素数が5~10の直鎖のアルキレン基である。これらの中でも、Ra1、Ra2、Ra3、及びRa4は、全て水素原子であるか、前記アルキレン基のいずれかであることが好ましい。
【0046】
また、Ran1(ここで0≦n1≦8)は、0個以上の8個以下の置換基であって、それぞれ芳香環に結合した水素原子と置換しており、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、またはアミノ基である。置換基の数の範囲(すなわちn1の範囲)は、好ましくはn1=0(すなわち、置換基Ran1が存在しない)が挙げられる。
【0047】
光アップコンバージョン発光体に一般式(A-1)で表される化合物を用いる場合、光アップコンバージョン発光体の結晶中に光増感剤がより取り込まれやすいことから、これらの光増感剤の中でも、基Yが一般式(A1-1)で表されるものが好ましい。すなわち、本発明の光アップコンバージョン発光材料は、一般式(A-1)で表される光アップコンバージョン発光体と、一般式(B)で表される光増感剤であって、基Yが一般式(A1-1)で表される光増感剤とを含むことが特に好ましい。
【0048】
本発明の光アップコンバージョン材料において、光増感剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
一般式(B)で表される化合物は、実施例に記載の合成例1,2に準拠して合成することができる。
【0050】
本発明の光アップコンバージョン材料に使用される光増感剤のうち、下記一般式(B1)で表される化合物は、新規な化合物である。前記の通り、当該化合物は、光アップコンバージョン発光体と共に用いられることにより、光アップコンバージョン材料の光増感剤として好適に機能する。その際、光アップコンバージョン発光体は一般式(A-1)であるものを用いるのがより好ましい。
【0051】
【0052】
一般式(B1)において、基X、m、Rbn2、及びMは、それぞれ、前記一般式(B)と同一であり、基Yは、前記一般式(B)の基Yのうち、一般式(A1-1)で表されるものである。基YのRa1、Ra2、Ra3、及びRa4、Ran1は、それぞれ、前記の通りである。
【0053】
一般式(B1)で表される化合物は、実施例に記載の合成例1,2に準拠して合成することができる。
【0054】
本発明の光アップコンバージョン材料において、光アップコンバージョン発光体と光増感剤との配合割合(モル比)としては、特に制限されないが、アップコンバージョン発光量子収率を効果的に高める観点から、光増感剤1モルに対して、光アップコンバージョン発光体を10~100000モル程度とすることが好ましく、1000~30000モル程度とすることがより好ましく、3000~10000モル程度とすることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の光アップコンバージョン材料において、前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤とを含む前記固体中、前記光アップコンバージョン発光体と前記光増感剤との合計割合としては、特に制限されないが、アップコンバージョン発光量子収率を効果的に高める観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上が挙げられる。
【0056】
また、本発明の光アップコンバージョン材料においては、アップコンバージョン発光量子収率を効果的に高める観点から、光アップコンバージョン発光体及び前記光増感剤により形成された結晶を含んでいることが好ましい。本発明の光アップコンバージョン材料においては、当該結晶になっている部分の発光効率が特に高いためである。
【0057】
本発明において、アップコンバージョン発光量子収率(Φuc)は、下記数式(A)によって算出される。
Φuc=2×Φstd×(Astd/Auc)×(Iuc/Istd)×(Nuc/Nstd)2 (A)
【0058】
上記式において、係数の2は最大の発光量子収率を1とするために導入される係数である。Φstdは標準物質の発光収率であり、その値は既知である。Astd及びAucは、それぞれ標準物質及び被測定試料の励起波長における吸光度である。また、Istd及びIucは、それぞれ標準物質及び被測定試料の発光強度を発光体全域にわたる波長で積分した積分発光強度である。特に、アップコンバージョン用の被測定試料については、励起光よりも短波長のアップコンバージョン発光帯についての積分発光強度である。また、Nstd及びNucは、それぞれ標準物質及び被測定試料の発光波長における溶媒もしくは周囲媒体の屈折率である。
【0059】
標準物質としては、被測定試料と同じ波長および光学配置で励起できるものであり、かつその信頼できる蛍光量子収率が報告されているものであれば利用することができる。例えば、後述の実施例においては、ローダミン101のエチレングリコール溶液(100μM)を標準物質として用い、その蛍光量子収率0.94をΦstdとして用いた。この蛍光量子収率の値は、更にローダミン101のエタノール希薄溶液を標準物質としても、論文「C. Wurth, C. Lochmann, M. Spieles, J. Pauli, K. Hoffmann, T. Schuttrigkeit, T. Franzl, U. Resch-Genger, Appl. Spectroscop. 2010, 64, 733.」に記載の同希薄溶液の蛍光量子収率0.89を下記数式(B)におけるΦstdとして用いて決定した値である。
Φfl=Φstd×(Astd/Auc)×(Iuc/Istd)×(Nuc/Nstd)2 (B)
【0060】
また、論文「Shiina, S. Oishi, S. Tobita, Phys. Chem. Chem. Phys. 2009, 11, 9850.」に記載の方法により、ローダミン101のエチレングリコール溶液(100μM)を直接測定することによって得られた値とも3%の誤差内で一致した。
【0061】
本発明の光アップコンバージョン材料が固体である温度は、使用時に固体であれば特に制限されず、少なくとも、125℃において固体である。
【0062】
本発明の光アップコンバージョン材料の製造方法としては、特に限定されないが、光アップコンバージョン発光体と、光増感剤とを含む溶液を、乾燥させる工程を備える方法により製造することができる。このような製造方法を採用することにより、特に発光効率に優れた光アップコンバージョン材料が得られる。
【0063】
具体的には、前記の光増感剤を含んでおり、かつ、光アップコンバージョン発光体が高濃度、具体的には飽和濃度の10分の1以上の濃度となっており、さらには増感剤分子1モルに対して発光体分子が1000モル以上、より望ましくは3000モル以上である溶液を準備し、当該溶液から溶媒を迅速に揮発させることにより、固体形態の光アップコンバージョン材料を迅速に製造することができる。迅速に揮発させる方法としては、テトラヒドロフランのような揮発性の高い極性溶媒を用いて、濡れ性の良いガラス基板表面に滴下乾燥させるなどの方法を例示できる。このようにして、光アップコンバージョン材料を製造することにより、発光体と光増感剤との相互分散性が高い状態で素早く固体形態に移行させることが可能となる。そして、これにより、液体から固体に移行する際の発光体同士または光増感剤同士の凝集が抑制され、発光体と光増感剤とが隣接したものが、固体中に分散した形態になると考えられる。このため、光増感剤から隣接する発光体への三重項エネルギー移動が、固体中において効率的に行われ、結果として、高いアップコンバージョン発光量子収率が得られるものと考えられる。なお、特許文献2においては、光増感剤と光アップコンバージョン発光体を溶媒に溶解させた溶液を調製しているが、溶媒は乾燥させずに、当該溶液を光アップコンバージョン材料として用いている。特許文献2では、最も高いアップコンバージョン効率を実現する材料系として、溶液を想定しており、溶液からの揮発では非特許文献3に示される様に、増感剤と発光体が別々に結晶化することでアップコンバージョンが生じないことが知られていた。
【0064】
溶媒としては、特に制限されず、例えば、有機溶媒、水などを用いることができる。有機溶媒の具体例としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2-ヘキサンジオール等の多価アルコール及びその誘導体;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が挙げられ、これらの中でも、揮発性が高いことから、好ましくはジアセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、シクロヘキサンが挙げられるが、揮発条件によってはこの限りではない。溶液の乾燥は、例えば、インクジェット法、スプレードライ法などによって行うこともできる。
【0065】
本発明の光アップコンバージョン材料を、得られた微結晶粒そのまま、あるいは粉砕するなどした後、樹脂やガラスなどに含有させてもよい。樹脂としては、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、イミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルフォン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ビニルエステル樹脂などの公知の樹脂を用いることができる。また、樹脂の形状は、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、フィルム状、シート状、繊維状などが挙げられる。
【0066】
ガラスとしては、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、アルミナケイ酸塩ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどを用いることができる。また、ガラスの形状は、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、フィルム状、シート状、繊維状などが挙げられる。
【0067】
さらには、本発明の光アップコンバージョン材料を、溶媒の揮発による結晶化ではなく、アップコンバージョン発光体と増感剤を含む溶液を、増感剤およびアップコンバージョン発光体に対して溶解度が低い溶媒中に急速に吐出して結晶化させる方法で得ても良い。前者に用いる溶媒は両者に溶解度の高い良溶媒であり、後者に用いる溶媒は溶解度の低い貧溶媒である。良溶媒はテトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、トルエン、ヘキサンなどが例示でき、貧溶媒は水が挙げられる。この方法により、本発明の光アップコンバージョン材料が、粒径1nm以上1μm未満程度の固体の微粒子として、貧溶媒中に分散した状態の溶液が得られるが、そのまま、もしくは貧溶媒を揮発させるなどをした後に、高分子あるいはガラスからなる媒質中に分散した固体材料として用いても良い。すなわち、本発明の光アップコンバージョン材料において、光アップコンバージョン発光体と光増感剤とを含む固体は、粒径が1nm~1μm、望ましくは5nm~500nm、より望ましくは10nm~200nmの微粒子であり、当該微粒子が媒質(溶媒、高分子材料、ガラスなど)中に分散された構造を備えるものとすることもできる。
【0068】
本発明の光アップコンバージョン材料では、一般式(B1)の構造を用いる場合、吸収する光の波長が通常480~560nm程度、好ましくは490~510nm程度と525~540nm程度の位置に吸収強度のピークがある。本発明の光アップコンバージョン材料では、発光する光の波長が通常400~550nm程度、好ましくは400~480nm程度の位置に発光強度のピークがある。また、本発明の光アップコンバージョン材料に照射する光の光照射強度(W/cm2)は、光アップコンバージョン材料の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、0.001~10W/cm2程度が挙げられる。
【0069】
本発明の光アップコンバージョン材料は、光アップコンバージョン材料に入射した波長を効率よく短波長に変換することができるため、有機太陽電池などの太陽電池、自然光照明、LED、有機EL素子、バイオマーカー、ディスプレイ、印刷、セキュリティ認証、光データ記憶装置、センサーなどの用途に好適に使用することができる。本発明の光アップコンバージョン材料は、光を照射することにより、照射した光よりも短波長の光を発光させる、光波長の変換方法として好適に使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0071】
[合成例1]
下記式に示す合成経路に従い、後述の実施例1で用いた連結部の炭素数が6の光増感剤(化学式(S1)のk=4の光増感剤(Pd-TPP-OC6O-DPA))を合成した。
【0072】
【0073】
合成例1の前記合成経路における各反応詳細は以下の通りである。
【0074】
(2の合成)
200mL反応ナスフラスコに1(3.00g,7.33mmol),ビス(ピナコラート)ジボロン(B2pin2)(2.22g,8.80mmol),PdCl2(dppf)・CH2Cl2(305mg,0.37mmol),KOAc(2.16g,21.99mmol)を入れAr置換し、dry-1,4-ジオキサン(80mL)を加え、遮光下80°Cで24h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液にCH2Cl2を加えて不溶物をセライトろ過し、ろ液にCH2Cl2と水を加えCH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1:3,CH2Cl2only,CH2Cl2:EtOAc=3:1)で精製し、2を淡黄緑白色固体として得た(2.92g,収率87%)。
Mp = 228~232 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.27 (s, 1H), 7.72-7.57 (m, 10H), 7.52-7.47 (m, 4H), 7.36-7.32 (m, 2H), 1.31 (s,12H).
【0075】
(3の合成)
1Lの反応フラスコに2(4.00g,8.76mmol)とOxone(10.79g,17.55mmol)を入れAr置換し、ArバブリングしたTHF(240mL)、Acetone(48mL)、H2O(24mL)を加え、遮光下室温で2h撹拌した。反応溶液を開放系にして氷冷し、薬さじすり切り5杯ほどのNa2S2O4を溶かした水300mLを加え、過剰のOxoneをクエンチした。その後、反応混合物をEtOAcで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、残渣を吸着シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:EtOAc:hexane=1:10)で精製し、3を黄色固体として得た(2.86g,収率94%)。
Mp = 225~226 °C.
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.83 (d, 1H), 7.67-7.42 (m, 13H), 7.41-7.26 (m, 2H), 7.04 (dd, J = 2.4 and 9.3 Hz, 1H), 6.79 (d, J = 2.4 Hz, 1H).
【0076】
(4aの合成)
50mLの反応フラスコに3(301mg,0.869mmol)とK2CO3(365mg,2.641mmol)を入れAr置換し、ArバブリングTHF(20mL)と1,6-ジヨードヘキサン(0.90mL,5.5mmol)を加え、遮光下50°Cで45h撹拌後、さらに70°Cで24h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液にEtOAcと水を加えてEtOAcで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:EtOAc:hexane=1:40,1:20)で精製し、さらにリサイクル分取HPLCにより精製し、4aを黄緑色固体として得た(355mg,収率73%)。
Mp = 138~140 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.67-7.54 (m, 9H), 7.50-7.47 (m, 4H), 7.33-7.29 (m, 2H), 7.03 (dd, J = 2.4 and 9.8 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 3.83 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 3.19 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 1.86-1.81 (m, 2H), 1.78-1.71 (m, 2H), 1,47-1.41 (m, 4H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 156.19, 139.61, 139.29, 139.28, 137.36, 135.04, 131.42, 131.41, 131.16, 130.53, 128.89, 128.72, 128.52, 127.59, 127.54, 127.19, 126.56, 125.26, 124.20, 120.13, 103.73, 67.50, 33.49, 30.36, 28.92, 25.22, 7.12.
【0077】
(TPP-OC6O-DPAの合成)
50mLの反応フラスコにテトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ポルフィリン(TPP-OH)(69.5mg,0.102mmol)、4a(285mg,0.512mmol)、K2CO3(112mg,0.816mmol)を入れAr置換し、dry-DMF(10mL)を加え、遮光下40°Cで48h、60°Cで68h、80°Cで6h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液からDMFを留去し、残渣にCH2Cl2を加えてろ過した。ろ液にCH2Cl2と水を加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1.5:1,2:1,3:1,5:1,CH2Cl2only,CH2Cl2:EtOAc=4:1)で精製し、さらにトルエン-ヘキサンから熱再結晶して、TPP-OC6O-DPAを赤褐色固体として得た(226mg,収率87%)。
Mp=141~144 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.86 (s, 8H), 8.11 (d, J = 8.3 Hz, 8H), 7.66-7.46 (m, 60H), 7.32-7.29 (m, 8H), 7.09 (dd, J = 2.4 and 9.3 Hz, 4H), 6.91 (d, J = 2.4 Hz, 4H), 4.26 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 3.93 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 2.02-1.97 (m, 8H), 1.89-1.86 (m, 8H), 1.68-1.61 (m, 16H), -2.75 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 159.03, 156.26, 139.62, 139.28, 137.36, 135.74, 135.04, 134.65, 131.42, 131.41, 131.19, 130.53, 128.91, 128.74, 128.70, 128.50, 127.56, 127.17, 126.59, 126.56, 125.26, 124.18, 120.20, 119.92, 112.82, 103.75, 68.25, 67.65, 29.57, 29.18, 26.21, 26.17.
【0078】
(Pd-TPP-OC6O-DPAの合成)
100mLの反応フラスコにTPP-OC6O-DPA(50.2mg,0.0210mmol)とPdCl2(8.32mg,0.0469mmol)を入れAr置換し、dry-ベンゾニトリル(50mL)を加え、遮光下170°Cで2h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液からベンゾニトリルを留去し、残渣をhexaneで洗った後、残渣にCH2Cl2と水を加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、残渣を吸着シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1:1,CH2Cl2only)で精製し、さらにCH2Cl2-ヘキサンから再沈殿して、Pd-TPP-OC6O-DPAを橙色固体として得た(47.9mg,収率91%)。
Mp= 161~164 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.83 (s, 8H), 8.05 (d, J = 8.8 Hz, 8H), 7.66-7.46 (m, 60H), 7.34-7.30 (m, 8H), 7.08 (dd, J = 2.4 and 9.8 Hz, 4H), 6.91 (d, J = 2.4 Hz, 4H), 4.25 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 3.93 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 2.02-1.97 (m, 8H), 1.89-1.85 (m, 8H), 1.69-1.59 (m, 16H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 158.70, 155.94, 141.70, 139.31, 138.95, 137.04, 134.95, 134.73, 133.89, 131.09, 130.88s, 130.71, 130.22, 128.60, 128.42, 128.39, 128.19, 127.25, 126.86, 126.27, 126.25, 124.93, 123.86, 121.25, 119.88, 112.52, 103.45, 67.93, 67.34, 29.25, 28.86, 25.88, 25.85.
【0079】
[合成例2]
下記式に示す合成経路に従い、後述の実施例2で用いた連結部の炭素数が3の光増感剤(化学式(S1)のk=1の光増感剤(Pd-TPP-OC3O-DPA))を合成した。
【0080】
【0081】
合成例2の前記合成経路における各反応詳細は以下の通りである。
【0082】
(4bの合成)
200mL反応ナスフラスコに3(1.00g,2.89mmol)とK2CO3(1.20g,8.67mmol)を入れAr置換し、dry-THF(10mL)と1,3-ジブロモプロパン(1.80mL,17.70mmol)を加え、遮光下70°Cで88h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液にCH2Cl2と水を加えCH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、残渣を吸着シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1:10,1:7)で精製し、4bを黄緑色固体として得た(1.17g,収率87%)。
Mp = 129~133 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.67-7.53 (m, 9H), 7.50-7.47 (m, 4H), 7.33-7.29 (m, 2H), 7.02 (dd, J = 2.4 and 9.8 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 3.98 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 3.57 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 2.27 (quint, J = 6.3 Hz, 2H).
【0083】
(TPP-OC3O-DPAの合成)
50mL反応フラスコに4b(116mg,0.248mmol)、TPP-OH(33.8mg,0.0498mmol)、K2CO3(56.5mg,0.409mmol)を入れAr置換し、dry-DMF(10mL)を加え、遮光下40°Cで48h、60°Cで44h、80°Cで24h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液からDMFを留去し、残渣にCH2Cl2を加えてろ過した。ろ液にCH2Cl2と水を加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、吸着シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1:3,1:1,CH2Cl2:EtOAc=3:1)で精製し、TPP-OC3O-DPAを赤褐色固体として得た(84.3mg,収率76%)。
Mp = 315~318 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.81 (s, 8H), 8.09 (d, J = 8.8 Hz, 8H), 7.68-7.48 (m, 60H), 7.34-7.30 (m, 8H), 7.14 (dd, J = 2.4 and 9.3 Hz, 4H) 7.00 (d, J = 2.4 Hz, 4H), 4.43 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 4.20 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 2.42 (quint, J = 6.3 Hz, 8H), -2.79 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 159.13, 156.42, 139.92, 139.61, 137.75, 136.03, 135.53, 135.17, 131.78, 131.48, 130.94, 129.37, 129.12, 128.86, 127.96, 127.93, 127.53, 127.01, 126.93, 125.65, 124.61, 120.38, 120.18, 113.22, 104.32, 65.23, 64.59, 29.78.
【0084】
(Pd-TPP-OC3O-DPAの合成)
100mL反応フラスコにTPP-OC3O-DPA(90.3mg,0.0406mmol)とPdCl2(17.0mg,0.096mmol)を入れAr置換し、dry-ベンゾニトリル(60mL)を加え、遮光下170°Cで1h撹拌した。室温に戻した後、反応溶液からベンゾニトリルを留去し、残渣にCH2Cl2と水を加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層をエバポレーション後、吸着シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:CH2Cl2:hexane=1:1,3:2,2:1,CH2Cl2only,CH2Cl2:EtOAc=3:1)で精製し、さらにCH2Cl2-ヘキサンから再沈殿して、Pd-TPP-OC3O-DPAを橙色固体として得た(70.1mg,収率74%)。
Mp = 334~337 °C.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.78 (s, 8H), 8.03 (d, J = 8.8 Hz, 8H), 7.68-7.48 (m, 60H), 7.34-7.31(m, 8H), 7.13 (dd, J = 2.4 and 9.3 Hz, 4H), 7.00 (d, J = 2.4 Hz, 4H), 4.42 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 4.20 (t, J = 6.3 Hz, 8H), 2.41 (quint, J = 6.3 Hz, 8H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 158.81, 156.10, 142.00, 139.60, 139.28, 137.42, 135.23, 134.41, 131.45, 131.16, 131.00, 130.61, 129.05, 128.80, 128.54, 127.63, 127.61, 127.21, 126.69, 126.61, 125.32, 124.28, 121.48, 120.06, 112.91, 104.00, 64.90, 64.27, 29.45.
【0085】
[実施例1]
テトラヒドロフラン(THF)からなる媒体中に、合成例1で合成した光増感剤(下記式(S1)のk=4(連結鎖の炭素数6)で表される化学構造のもの)を加え、所定濃度溶液を調製した。次に、この所定濃度溶液に光アップコンバージョン発光体として化学式(1a)で表される化合物(DPA:ジフェニルアントラセン)の粉末を加えて、均一に溶解させ溶液を得た。これは、光増感剤の分子アンカー部の分子構造が、分子アンカー部の連結部分を除き、光アップコンバージョン発光体の分子構造と同一の構造を含有すること場合に相当する。このとき、発光体と光増感剤とのモル比は、光増感剤1モルに対して、光アップコンバージョン発光体を1000モルとし、さらに光アップコンバージョン発光体の濃度は室温(23℃)における飽和濃度とした。次に、得られた溶液をスポイトにとり、スライドガラスの表面に1滴垂らして、そのまま室温(23℃)、大気中で1分間放置して乾燥させることにより、円形に広がった固体試料を得た。なお、円形に広がっている部分の直径は、約2cmであった。
【0086】
【0087】
次に、得られた固体試料光学顕微鏡下(対物レンズ20倍)において透過像として観察した。その結果、固体試料は、種々の形状の粒状の結晶からなることが示された(
図1)。さらに同一の対物レンズを通して、波長532nmの緑色のレーザー光(連続光)を顕微鏡観察視野中央にある固体試料の結晶粒に照射した(照射部位での光強度6.0W/cm
2)。この状態で、固体試料からの発光を、ノッチフィルターを通してCCDカメラで所定の露出時間と感度に固定して観察すると共に、ファイバー分光器で発光スペクトル観察を行った。その結果、結晶粒が鮮やかな青色に発光していることが確認された(
図2)。
図2では2箇所の観測像を例示しているが、それぞれ対応する箇所の透過光学像(
図1)と比較し、観測されたほぼすべての結晶が青色発光を示すことが確認された。これは図示されていない試料中の他の箇所でも同一であった。また、この青色発光箇所のスペクトル(
図3)はピークが455nmであり、入射光532nmよりも短波長であるアップコンバージョン発光であることが確認された。
【0088】
図2を以って示しているアップコンバージョン発光を示す結晶粒が多数得られている事実をより定量的尺度で示すため、
図2に示している試料中の2箇所の発光画像と、さらに同一試料中の他の2箇所の発光画像について、共通する所定の最大発光強度に対して、画像の各画素の明るさ(Brightness)を16段階に分類し、明るさの各段階に属する画素数(出現頻度、Occurrence)を計数したヒストグラムを作成した。この4つの箇所の結果の平均化を行うために得られた4つのヒストグラムを明るさの段階に基づいてそれぞれの段階の出現数の平均値を取り、4箇所の平均の発光強度ヒストグラム(
図4)を得た。この際、最も弱い明るさの段階(0から1)は結晶粒が存在しないために発光が全く得られない画素も含んでいるので、ヒストグラムから除外した。得られたヒストグラムは発光強度段階が強い領域(明るさ段階6から14)においても相当数の出現頻度が示され、強く発光する結晶粒が多数存在することが示された。また、顕微鏡下で、発光している微結晶粒の一つを選択し、そのアップコンバージョン発光量子収率を測定すると2.1%であった。
【0089】
[実施例2]
光増感剤の化学式のk=1(連結鎖の炭素数3)であることを除き、実施例1と全く同一の条件で固体試料を作成し、その得られた固体試料を透過像として観察した。この場合も、光増感剤の分子アンカー部の分子構造が、分子アンカー部の連結部分を除き、光アップコンバージョン発光体の分子構造と同一の構造を含有すること場合に相当する。その結果、固体試料は種々の形状の粒状の結晶からなることが示された(
図5)。さらに実施例1と同一の条件で固体試料からの発光の観察を行ったところ、観測されたほぼすべての結晶から青色発光が得られていることが確認された(
図6)。また、この青色発行箇所のスペクトル(
図7)はピークが445nmであり、入射光532nmよりも短波長であるアップコンバージョン発光であることが確認された。実施例1と同一の手順により、
図6に示す試料中の2箇所の発光画像と、さらに同一試料中の他の2箇所の発光画像について、4箇所の平均の発光強度ヒストグラム(
図8)を得た。得られたヒストグラムは発光強度段階が強い領域(明るさ段階6から14)においても相当数の出現頻度が示され、強く発光する結晶粒が多数存在することが示された。また、顕微鏡下で、発光している微結晶粒の一つを選択し、そのアップコンバージョン発光量子収率を測定すると3.0%であった。
【0090】
[比較例1]
光増感剤として、化学式(S1)の代わりに下記化学式(S2)で表される、連結部を有しない化合物を用いた以外は、実施例1と同一の方法で円形に広がった固体試料を得た。なお、円形に広がっている部分の直径は、約2cmであった。
【0091】
【0092】
得られた固体試料を透過像として観察した。その結果、固体試料は、種々の形状の粒状の結晶からなることが示された(
図9)。さらに実施例1と同一の条件で固体試料からの発光の観察を行った。その結果、青色に発光している結晶粒はわずかであり、ほとんどの結晶粒が発光を示さなかった(
図10)。また、この青色発行箇所のスペクトル(
図11)はピークが445nmであり、入射光532nmよりも短波長であるアップコンバージョン発光であることが確認された。
【0093】
実施例1と同一の手順により、
図9に示す試料中の2箇所の発光画像と、さらに同一試料中の他の2箇所の発光画像について、4箇所の平均の発光強度ヒストグラム(
図12)を得た。得られたヒストグラムは発光強度段階が強い領域(明るさ段階6から14)には出現頻度はほぼ無く、出現頻度の殆どは発光強度が弱い段階(明るさ段階1から6)に示された。このことは、強く発光する結晶粒がほとんど存在しないことを意味している。これらの画像およびヒストグラムの結果が示すように、比較例1は同一条件の実施例1に比べて明らかに劣っており、本発明によりアップコンバージョン発光する固体が均質に得られることを示している。また、顕微鏡下で、発光している微結晶粒の一つを選択し、そのアップコンバージョン発光量子収率を測定すると0.3%であった。
【0094】
[実施例3]
光アップコンバージョン発光体が化学式(1b)である環状アルコキシ鎖を持つDPA誘導体であることを除き、実施例1と全く同一の条件で固体試料を作成し、その得られた固体試料を透過像として観察した。すなわち光増感剤は構造式(S1)(k=4)のものである。この場合は、光増感剤の分子アンカー部の分子構造が光アップコンバージョン発光体の分子構造とは同一ではないが共通の構造を含有する場合に相当する。その結果、固体試料は種々の形状の粒状の結晶からなることが示された(
図13)。さらに実施例1と同一の条件で固体試料からの発光の観察を行ったところ、観測されたほぼすべての結晶から青色発光が得られていることが確認された(
図14)。また、この青色発光箇所のスペクトル(
図15)はピークが430nmであり、入射光532nmよりも短波長であるアップコンバージョン発光であることが確認された。また、顕微鏡下で、発光している微結晶粒の一つを選択し、そのアップコンバージョン発光量子収率を測定すると1.3%であった。実施例3は、実施例1同様にほぼすべての結晶粒でアップコンバージョン発光が得られているものの発光量子収率が実施例1よりも低い。このことは、本発明の効果は光増感剤の分子アンカー部の分子構造が光アップコンバージョン発光体の分子構造とは同一ではないが共通の構造を含有する場合においても得られるが、分子アンカー部の連結部分を除き、同一の構造の場合により良い効果が得られることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は産業上の現在用いられている波長より短波長の光を用いることで効用が生じる分野、すなわち光触媒による燃料物質生成、植物の育成促進、太陽電池の効率向上、セキュリティインク、光硬化剤の波長拡大等において利用が可能であるが、これらの例示に留まるものでは無い。