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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】多孔質炭素及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/105 20060101AFI20240214BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20240214BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01C7/105
C01B32/00
C08K3/04
C08L101/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021511180
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005476
(87)【国際公開番号】W WO2020202819
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】62/829,391
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】チューバロウ,パウエル
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 義隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏行
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-251283(JP,A)
【文献】特開2019-008955(JP,A)
【文献】特開2011-184749(JP,A)
【文献】特表2018-511162(JP,A)
【文献】特開2013-110112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0197663(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0252082(US,A1)
【文献】国際公開第2018/182048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/105
C01B 32/00
C08K 3/04
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素であって、
多孔質炭素をラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度をIとし、1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度をIとしたときに、I/Iが2.0以上であり、
多孔質炭素が1μm未満の寸法の空孔を有し、
多孔質炭素がバリスタ素子用多孔質炭素である、多孔質炭素。
【請求項2】
Gバンドのピークの最大強度をMとし、Dバンドのピークの最大強度をMとしたときに、M/Mが0.80以上である、請求項1に記載の多孔質炭素。
【請求項3】
多孔質炭素を製造する際の熱分解のピーク温度が800℃以上1500℃以下である、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。
【請求項4】
フルフラール及びフロログルシノールを含む原料の混合物の熱分解によって製造される、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項5】
原料中、フロログルシノール100重量部に対してフルフラールが100~500重量部である、請求項4に記載の多孔質炭素。
【請求項6】
ポリイミドを含む原料の熱分解によって製造される、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項7】
多孔質炭素粒子であって、
多孔質炭素粒子をラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度をIとし、1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度をIとしたときに、I/Iが2.0以上であり、
多孔質炭素粒子が1μm未満の寸法の空孔を有し、
多孔質炭素粒子の平均粒子寸法が、0.01~50μmであり、
多孔質炭素がバリスタ素子用多孔質炭素である、多孔質炭素粒子。
【請求項8】
多孔質炭素粒子の平均粒子寸法が、0.02~10μmである、請求項7に記載の多孔質炭素粒子。
【請求項9】
Gバンドのピークの最大強度をMとし、Dバンドのピークの最大強度をMとしたときに、M/Mが0.80以上である、請求項7又は8に記載の多孔質炭素粒子。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載の多孔質炭素又は請求項7から9のいずれか1項に記載の多孔質炭素粒子と、樹脂とを含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバリスタ素子のような電気素子の材料として用いることのできる多孔質炭素、及び多孔質炭素を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~5には、カーボンエアロゲルを用いた技術が記載されている。
【0003】
特許文献6には、カーボンナノチューブを含み、カーボンナノチューブ中の半導体型単層カーボンナノチューブが70重量%以上である樹脂組成物が記載されている。また、特許文献6には、その樹脂組成物を含むバリスタ素子形成用ペーストが記載されている。
【0004】
【文献】特開2010-211207号公報
【文献】特開2007-016160号公報
【文献】特開2006-265091号公報
【文献】特開平09-328308号公報
【文献】特表2011-509909号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/0197663号
【発明の開示】
【0005】
バリスタ素子とは、一対の電極間の電圧が低い場合には電気抵抗が高く、一対の電極間の電圧が所定以上になると急激に電気抵抗が低くなる性質を有する素子(電子部品)である。一般的にバリスタ素子は、一対の電極の間に非直線性抵抗特性を有する材料を配置した構造を有する。非直線性抵抗特性を有する材料としては、炭化珪素、酸化亜鉛及びチタン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0006】
バリスタ素子の高性能化、低コスト化をするためには、新たなバリスタ素子用材料の開発を見出し、開発していく必要がある。
【0007】
本発明は、バリスタ特性を有することが、従来知られていなかった材料を用いた、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、バリスタ素子を製造するための樹脂組成物に含まれる多孔質炭素を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)
本発明の構成1は、多孔質炭素であって、
多孔質炭素をラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度をIGとし、1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度をIDとしたときに、ID/IGが2.0以上であり、
多孔質炭素が1μm未満の寸法の空孔を有し、
多孔質炭素がバリスタ素子用多孔質炭素である、多孔質炭素である。
【0010】
本発明の構成1の多孔質炭素を用いれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物及びバリスタ素子形成用ペーストを得ることができる。
【0011】
(構成2)
本発明の構成2は、Gバンドのピークの最大強度をMGとし、Dバンドのピークの最大強度をMDとしたときに、MD/MGが0.80以上である、構成1の多孔質炭素である。
【0012】
本発明の構成2の多孔質炭素を用いれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物及びバリスタ素子形成用ペーストをより確実に得ることができる。
【0013】
(構成3)
本発明の構成3は、多孔質炭素を製造する際の熱分解のピーク温度が800℃以上1500℃以下である、構成1又は2の多孔質炭素である。
【0014】
本発明の構成3によれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物等に含まれる多孔質炭素を、より確実に得ることができる。
【0015】
(構成4)
本発明の構成4は、フルフラール及びフロログルシノールを含む原料の混合物の熱分解によって製造される、構成1から3のいずれかの多孔質炭素である。
【0016】
本発明の構成4によれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物等に含まれる多孔質炭素を、さらに確実に得ることができる。
【0017】
(構成5)
本発明の構成5は、原料中、フロログルシノール100重量部に対してフルフラールが100~500重量部である、構成4の多孔質炭素である。
【0018】
本発明の構成5によれば、フロログルシノールに対するフルフラールの配合量を適切な範囲にすることにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物等に含まれる多孔質炭素を、より容易に得ることができる。
【0019】
(構成6)
本発明の構成6は、ポリイミドを含む原料の熱分解によって製造される、構成1から3のいずれかの多孔質炭素である。
【0020】
本発明の構成6によれば、ポリイミドを原料として用いることにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物等に含まれる多孔質炭素を、より確実に得ることができる。
【0021】
(構成7)
本発明の構成7は、構成1から6のいずれかの多孔質炭素と、樹脂とを含む樹脂組成物である。
【0022】
本発明の構成7の樹脂組成物を用いることにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造することができる。
【0023】
本発明によれば、バリスタ特性を有することが、従来知られていなかった材料を用いた、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、バリスタ素子を製造するための樹脂組成物に含まれる多孔質炭素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施例のバリスタ素子に用いた電極の平面模式図である。
図2】本発明の実施例のバリスタ素子の平面模式図である。
図3】本発明の実施例1の多孔質炭素のSEM写真(倍率:1万倍)である。
図4】本発明の実施例1の多孔質炭素のSEM写真(倍率:10万倍)である。
図5】本発明の実施例2の多孔質炭素のSEM写真(倍率:1万倍)である。
図6】本発明の実施例2の多孔質炭素のSEM写真(倍率:10万倍)である。
図7】比較例2の多孔質炭素のSEM写真(倍率:1万倍)である。
図8】比較例2の多孔質炭素のSEM写真(倍率:10万倍)である。
図9】本発明の実施例1の多孔質炭素のラマンスペクトルである。
図10】本発明の実施例2の多孔質炭素のラマンスペクトルである
図11】比較例2の多孔質炭素のラマンスペクトルである
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0026】
本実施形態の多孔質炭素は、バリスタ素子用多孔質炭素である。本実施形態の多孔質炭素は、多孔質炭素が1μm未満の寸法の空孔を有する。
【0027】
本明細書で、「多孔質炭素」とは、炭素を含む材料を原料としたゲル状の混合物に含まれる溶媒を超臨界乾燥により気体に置換し、炭素以外の成分を熱分解により除去することにより得られる多孔性の炭素である。なお、このような多孔質炭素は、一般的に、カーボンエアロゲルと言われている。
【0028】
多孔質炭素は、その製造方法に起因して、多数の空孔を有する。空孔の寸法は、1μm未満であり、ナノメートルオーダーの寸法の空孔(ナノ空孔)である。一般的に、多孔質炭素のナノ空孔の寸法は、200~300nmである。空孔の寸法は、多孔質炭素の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影することにより得たSEM写真を用いて、SEM写真中の複数の空孔の直径の平均として得ることができる。SEM写真中のすべての空孔の直径を測定して平均を求めることができる。また、例えば10~20個の空孔の直径を測定して平均を求めることにより、空孔の寸法とすることができる。
【0029】
上述のように、本発明の実施形態の多孔質炭素は、ナノメートルオーダーの寸法のナノ空孔を有するので、一般的な多孔質炭素と区別するために「ナノ多孔質炭素」という場合がある。
【0030】
本実施形態の多孔質炭素は、バリスタ素子用多孔質炭素として、好ましく用いることができる。
【0031】
図2に、バリスタ素子の一例の模式図を示す。図2に示すバリスタ素子は、図1に示すような一対の電極14a及び14bの上に、バリスタ特性を有する材料(例えば、本発明の樹脂組成物)を配置した構造を有する。なお、図2に示すバリスタ素子の構造は、単なる一例であり、一対の電極間にバリスタ特性を有する材料を配置した構造であれば、いずれの構造を採用することができる。例えば、面平行に配置した電極の間にバリスタ特性を有する材料を配置した構造、及び一対の電極を三次元的に櫛形に配置した構造などを採用することができる。
【0032】
バリスタ素子は、非直線性抵抗特性を有する電子素子である。バリスタ素子の一対の電極14a及び14bの間に印加する電圧Vと、そのときに両端子間を流れる電流Iとの関係は、Kを定数として、I=K・Vαで近似することができる。このαを非直線性係数という。通常のオーミックな抵抗体の場合はα=1であるが、バリスタ素子の場合にはα>1となる。バリスタ素子の非直線性係数αが6以上の場合には、使用に耐える適切なバリスタ特性を有するといえる。
【0033】
本発明の樹脂組成物を用いれば、使用に耐える適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子、すなわちバリスタ素子の非直線性係数αが6以上のバリスタ素子を製造することができる。
【0034】
次に、実施形態の多孔質炭素の多孔質炭素について、具体的に説明する。
【0035】
本実施形態の多孔質炭素は、バリスタ素子用多孔質炭素である。本実施形態の多孔質炭素は、その多孔質炭素をラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度をIとし、1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度をIとしたときに、I/Iが2.0以上である。本発明の多孔質炭素を用いれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物及びバリスタ素子形成用ペーストを得ることができる。
【0036】
本発明の多孔質炭素は、ラマン分光法によるラマン散乱(ラマンシフト)の波数(wavenumber、単位は通常cm-1)に対するラマン散乱の強度を測定した場合に、所定のラマンスペクトルを有する。一般的に炭素からなる物質は、炭素の結合状態により、1590cm-1付近及び1350cm-1付近にピークを有する。1590cm-1付近のピークは、グラファイトの結合状態のようなsp混成軌道に由来するGバンドのピークであると考えられる。1350cm-1付近のピークは、ダイヤモンドの結合状態のようなsp混成軌道に由来するDバンドのピークであると考えられる。Dバンドは、ダイヤモンド状非晶質カーボンによるものと考えられるので、Dバンドの強度が強いことは、グラファイトの結合状態からの乱れが生じているものと考えられる。本発明の多孔質炭素は、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度をIとし、1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度をIとしたときに、I/Iが2.0以上であることを特徴とする。なお、I/Iは、2.1以上3.0以下であることが好ましく、2.2以上2.5以下であることがより好ましい。
【0037】
Gバンドのピークの積算強度とは、ラマン散乱の波数に対するラマン散乱の強度をプロットしたラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークからノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のピークの面積である。Dバンドのピークの積算強度についても同様である。なお、Gバンドのピークと、Dバンドのピークとは近接しているので、ローレンツ関数などの適切な関数を用いてピークフィッティングすることにより、Gバンドのピークと、Dバンドのピークとを分離することができる。このようなピーク分離の手法は公知である。
【0038】
本発明の多孔質炭素は、Gバンドのピークの最大強度をMとし、Dバンドのピークの最大強度をMとしたときに、M/Mが0.80以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の多孔質炭素は、ラマン散乱の波数に対するラマン散乱の強度をプロットしたラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークの最大強度をMとし、Dバンドのピークの最大強度をMとしたときに、M/Mが0.80以上であることが好ましい。Gバンドのピークの最大強度Mは、Gバンドのピークを構成する波数範囲の測定値からノイズであるバックグラウンドを差し引いた後の、Gバンドにおけるラマン散乱のピーク強度の最大値である。Dバンドのピークの最大強度Mについても同様である。なお、Gバンドのピークと、Dバンドのピークとは近接しているので、ローレンツ関数などの適切な関数を用いてピークフィッティングすることにより、Gバンドのピークと、Dバンドのピークとを分離した後に、最大強度M及び最大強度Mを算出することができる。なお、M/Mは、0.80以上3.0以下であることがより好ましく、0.90以上1.5以下であることがさらに好ましい。本実施形態の多孔質炭素を用いることにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物及びバリスタ素子形成用ペーストをより確実に得ることができる。
【0040】
次に、本発明の実施形態の多孔質炭素の製造方法について説明する。
【0041】
<製造方法1>
本実施形態の多孔質炭素の製造方法1では、多孔質炭素は、フルフラール及びフロログルシノールを含む原料の混合物の熱分解によって製造されることができる。
【0042】
(材料を用意する工程)
本実施形態の多孔質炭素の製造方法1は、材料を用意する工程を含む。材料を用意する工程では、まず、所定量のフルフラール及びフロログルシノールを用意する。本実施形態の多孔質炭素では、原料中、フロログルシノール100重量部に対してフルフラールが100~500重量部であることが好ましく、120~340重量部であることがより好ましく、160~310重量部であることがさらに好ましい。
【0043】
(前処理工程)
製造方法1は、フロログルシノール及びフルフラールをエタノールに溶解し、エタノール溶液を得るための前処理工程を含む。前処理工程では、まず、フロログルシノールをエタノールに溶解させる。次に、フロログルシノールのエタノール溶液に対して、フルフラールを溶解させる。なお、この溶解の際のエタノールの量としては、フロログルシノール及びフルフラールの合計量のエタノール溶液中の濃度が、1~45重量%、好ましくは1.5~30重量%、より好ましくは2~25重量%になるような量のエタノールを用いることができる。なお、製造方法1では、前処理工程におけるフロログルシノール及びフルフラールの合計量のエタノール溶液中の濃度(溶剤中の原料濃度)のことを、初期濃度(重量%)という。
【0044】
(ゲル化工程)
製造方法1は、フロログルシノール及びフルフラールのエタノール溶液をゲル化するためのゲル化工程を含む。ゲル化工程では、上述のようにして得られたフロログルシノール及びフルフラールのエタノール溶液を撹拌した後、室温で放置することにより、ゲル化した固体を得ることができる。
【0045】
(洗浄工程)
製造方法1は、ゲル化した固体を洗浄するための洗浄工程を含む。洗浄工程では、ゲル化した固体を洗浄する。洗浄には、エタノールを用いることができるが、それに限られない。他のアルコール類を用いることもできる。洗浄は、例えば、エタノールをゲル化したものに加えること、及び加えたエタノールを排出することを、繰り返し行うことにより、ゲル化したものを洗浄することができる。なお、洗浄工程は、排出するエタノールの着色がなくなるまで行うことができる。
【0046】
(超臨界乾燥工程)
製造方法1は、洗浄した固体に対する超臨界乾燥工程を含む。洗浄後のゲル化した固体を取り出し、超臨界乾燥を行う。具体的には、ゲル化した固体を密封容器に入れ、所定の圧力下で超臨界液体COを密封容器に導入する。その後、その状態を保った後に、超臨界液体COを排出する。必要に応じ、この工程を繰り返し行うことができる。
【0047】
(熱分解工程)
製造方法1は、超臨界乾燥後の固体に対する熱分解工程を含む。熱分解工程では、上述のようにして得られた超臨界乾燥後の固体を、炉に入れ、窒素雰囲気中で、0.8~1.2℃/分の加熱速度で、800℃以上(例えば800℃~1500℃、好ましくは800℃~1200℃、より好ましくは800℃~1000℃)になるまで昇温する。昇温完了後、その温度で5~60分間(好ましくは20~30分間)保持することにより、熱分解する。この結果、炭素以外の成分を取り除き、多孔質炭素を得ることができる。
【0048】
(粉砕工程)
製造方法1は、熱分解工程により得られた多孔質炭素を粉砕して粒子化するためのするための粉砕工程を含む。粉砕工程では、加熱後の多孔質炭素を室温まで戻し、多孔質炭素を粉砕することにより、粉末状の多孔質炭素を得ることができる。粉砕工程では、多孔質炭素が所定の粒子寸法になるように、多孔質炭素を粉砕することができる。粉砕工程では、多孔質炭素の平均粒子寸法は、作業性の点等から、0.01~50μmであることが好ましく、0.02~10μmであることがさらに好ましい。平均粒子寸法は、全粒子の積算値50%の粒子寸法(平均粒径:D50)が上記の粒子寸法とすることができる。平均粒径D50は、株式会社堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960(レーザー回折散乱法)によって粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果からD50値を得ることにより求めることができる。
【0049】
以上のようにして、製造方法1により、多孔質炭素を製造することができる。
【0050】
<製造方法2>
本実施形態の多孔質炭素の製造方法2では、多孔質炭素が、ポリイミドを含む原料の熱分解によって製造される。
【0051】
(材料を用意する工程)
本実施形態の多孔質炭素の製造方法2は、材料を用意する工程を含む。材料を用意する工程では、所定量の無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを用意する。
【0052】
(前処理工程)
製造方法2は、ポリイミド溶液を合成するための前処理工程を含む。製造方法2の前処理工程では、まず、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを材料として用いて、ポリアミド酸溶液を合成することができる。なお、この合成の際の溶媒として、ジメチルアセトアミド及びトルエンを用いることができる。無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンの合計重量に対する溶媒(ジメチルアセトアミド及びトルエン)の合計重量は、合成されるポリアミド酸溶液の初期濃度が所定の範囲となるように選択することができる。製造方法2において、初期濃度(重量%)とは、前処理工程におけるポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度(合成後のポリアミド酸溶液の重量に対する、原料である無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンの合計重量の割合)のことをいう。初期濃度は、1~45重量%であり、好ましくは1.5~30重量%、より好ましくは2~25重量%、さらに好ましくは10~15重量%である。ポリアミド酸溶液の合成は、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを混合して加熱することにより行うことができる。この結果、ポリアミド酸溶液を合成することができる。次に、上述のようにして得られたポリアミド酸溶液に対して、所定量のピリジン及び無水酢酸を添加して、ポリイミド溶液を合成することができる。
【0053】
(ゲル化工程)
製造方法2は、ポリイミド溶液をゲル化するためのゲル化工程を含む。ゲル化工程では、上述のようにして得られたポリイミド溶液を撹拌する。その後、室温で放置することにより、ゲル化した固体を得ることができる。
【0054】
(洗浄工程、超臨界乾燥工程、加熱工程、及び粉砕工程)
製造方法2は、洗浄工程、超臨界乾燥工程、加熱工程、及び粉砕工程を含む。製造方法2では、上述のゲル化工程の後、製造方法1と同様に、洗浄工程、超臨界乾燥工程、加熱工程、及び粉砕工程を行うことにより、多孔質炭素を製造することができる。
【0055】
本実施形態の多孔質炭素は、製造方法1及び2の熱分解工程において、多孔質炭素を製造する際の熱分解のピーク温度が800℃以上であり、好ましくは800℃~1500℃であり、より好ましくは800℃~1200℃、さらに好ましくは800℃~1000℃である。熱分解のピーク温度が所定の温度であることにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造するための樹脂組成物等に含まれる多孔質炭素を、より確実に得ることができる。
【0056】
<樹脂組成物>
次に、本実施形態の樹脂組成物について、具体的に説明する。本発明の樹脂組成物は、上述の本実施形態の多孔質炭素と、樹脂とを含む。本実施形態の樹脂組成物は、樹脂として、エポキシ樹脂及び硬化剤を含むことが好ましい。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂、及びシリコーンエポキシコポリマー樹脂から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0058】
樹脂組成物が所定のエポキシ樹脂を含むことにより、バリスタ素子用の材料が適切に硬化したバリスタ素子を製造することができる。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤として、アミン化合物、フェノール、酸無水物、イミダゾール化合物又はそれらの混合物を含むことが好ましい。樹脂組成物が所定の硬化剤を含むことにより、バリスタ素子を製造する際に、適切にエポキシ樹脂を硬化させることができる。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる硬化剤は、イミダゾールを含むことが好ましい。イミダゾール化合物としては、イミダゾール及びイミダゾール誘導体等を用いることができる。多孔質炭素を含むバリスタ素子において、硬化剤としてイミダゾール化合物、特にイミダゾールを含む場合には、より良好なバリスタ特性、具体的には高い非直線性係数αを有するバリスタ素子を得ることができる。また、硬化剤が、イミダゾール化合物(特にイミダゾール)と、イミダゾール化合物以外のアミン化合物との両方を含む場合には、さらに高い非直線性係数αを有するバリスタ素子を得ることができる。
【0061】
イミダゾール化合物以外のアミン化合物としては、脂肪族アミン、脂環式アミン及び芳香族アミン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びジエチルトルエンジアミンから選択して用いることができる。特に、アミン化合物として、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(芳香族アミン系硬化剤「KAYAHARD A-A」(日本化薬株式会社製)として市販されている。)及び/又はジエチルトルエンジアミン(アルベマール社製「エタキュア」として市販されている。)を好ましく用いることができる。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる硬化剤がイミダゾール化合物を含む場合、樹脂成分中に含まれるイミダゾール化合物の重量割合は、1~20重量%であることが好ましい。イミダゾール化合物が所定の配合量であることにより、高い非直線性係数αを有するバリスタ素子を得ることを確実にできる。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量を100重量部として、上述の本実施形態の多孔質炭素を、0.5重量部~10重量部含むことが好ましい。樹脂組成物が所定量の多孔質炭素を含むことにより、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を得ることができる。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物及び後述するバリスタ素子形成用ペーストは、多孔質炭素以外の無機成分(フィラー等)を含まないこと、すなわちフィラーレスであることが好ましい。本実施形態の樹脂組成物を用いた場合には、フィラー等の無機成分を含まない簡単な構成の樹脂組成物及びバリスタ素子形成用ペーストであっても、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造することができる。
【0065】
<バリスタ素子形成用ペースト>
上述の本実施形態の樹脂組成物を用いることにより、バリスタ素子形成用ペーストを得ることができる。本発明の樹脂組成物は、そのままでもバリスタ素子形成用ペーストとして使用することができる。しかしながら、スクリーン印刷等の際に、ペーストの塗布を良好に行う点から、バリスタ素子形成用ペーストは、さらに溶媒及びその他の添加物を含むことができる。
【0066】
本実施形態のバリスタ素子形成用ペーストは、さらに溶媒を含むことができる。溶媒として、例えば、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらに対応する酢酸エステルのようなエステル類、並びにテルピネオール等が挙げられる。溶媒は、上述の樹脂組成物(エポキシ樹脂、硬化剤及び多孔質炭素)の合計100重量部に対して、2~10重量部で配合することが好ましい。
【0067】
本実施形態のバリスタ素子形成用ペーストは、さらに、無機顔料及び有機顔料等の着色剤、イオントラップ剤、難燃剤、シランカップリング剤、レベリング剤、チキソトロピック剤、エラストマー、硬化促進剤、金属錯体、分散剤及び消泡剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0068】
本実施形態のバリスタ素子形成用ペーストは、上述のエポキシ樹脂と、硬化剤と、所定の多孔質炭素と、場合により溶媒等のその他の成分とを、流星型撹拌機、ディソルバー、ビーズミル、ライカイ機、三本ロールミル、回転式混合機、又は二軸ミキサー等の混合機に投入し、混合して製造することができる。このようにしてバリスタ素子の製造に適した樹脂組成物を製造することができる。本実施形態のバリスタ素子形成用ペーストは、スクリーン印刷、浸漬、他の所望の塗膜又は配線形成方法に適する粘度を有するバリスタ素子形成用ペーストに調製することができる。
【0069】
上述の本実施形態のバリスタ素子形成用ペーストを、所定の電極に接するように、塗布し、硬化させることにより、適切なバリスタ特性のバリスタ素子を製造することができる。塗布方法しては、例えばスクリーン印刷及び浸漬等が挙げられる。
【0070】
本発明の本実施形態によれば、適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を得ることができる。
【実施例
【0071】
以下、実施例により、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<多孔質炭素の製造>
まず初めに本発明の実施例及び比較例に用いた多孔質炭素の製造方法について説明する。表1及び表2に、実施例及び比較例に用いた多孔質炭素の製造の際に用いた材料及び製造条件を示す。実施例2~4及び比較例1~4の多孔質炭素は、フルフラール及びフロログルシノールを材料(原料)として、製造方法1により製造した。実施例1及び比較例5の多孔質炭素は、ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを主材料(原料)として、製造方法2により製造した。
【0073】
<製造方法1:実施例2~4及び比較例1~4の多孔質炭素の製造方法>
実施例2~4の多孔質炭素の材料の配合量を表1に、比較例1~4の多孔質炭素の材料の配合量を表2に示す。
【0074】
(材料を用意する工程)
実施例2~4及び比較例1~4の多孔質炭素の製造方法(製造方法1)では、まず、表1及び表2に記載されている所定量のフルフラール及びフロログルシノールを用意した。
【0075】
(前処理工程)
次に、フロログルシノールをエタノールに溶解させた。次に、フロログルシノールのエタノール溶液に対して、フルフラールを溶解させた。なお、この溶解の際に、フロログルシノール及びフルフラールの合計重量が、表1及び表2に示す初期濃度となるようにエタノールを用いた。製造方法1において、初期濃度(重量%)とは、フロログルシノール及びフルフラールの合計量のエタノール溶液中の濃度(溶剤中の原料濃度)のことをいう。
【0076】
(ゲル化工程)
次に、上述のようにして得られたフロログルシノール及びフルフラールのエタノール溶液を撹拌した。その後、室温で、放置することにより、ゲル化することができた。
【0077】
(洗浄工程)
次に、ゲル化した固体を洗浄した。洗浄には、エタノールを用いた。エタノールをゲル化したものに加えること、及び加えたエタノールを排出することを、繰り返し行うことにより、ゲル化したものを洗浄した。なお、洗浄は、排出するエタノールの着色がなくなるまで行った。
【0078】
(超臨界乾燥工程)
次に、洗浄後のゲル化した固体を取り出し、超臨界乾燥した。具体的には、固形物を密封容器に入れ、超臨界液体COを密封容器に導入した。その後、その状態を一定時間保ち、その後、超臨界液体COを排出した。超臨界液体COの導入、排出を繰り返し行うことで、超臨界乾燥を行った。
【0079】
(熱分解工程)
上述のようにして得られた超臨界乾燥後の固体を、炉に入れ、窒素雰囲気中で、1℃/分の加熱速度で、実施例の場合には800℃以上(具体的には、表1及び2に記載の温度)になるまで昇温することにより、熱分解した。昇温完了後、その温度で30分間保持した。この結果、炭素以外の成分を取り除き、多孔質炭素を得ることができた。
【0080】
(粉砕工程)
加熱後の多孔質炭素を室温まで戻し、粉砕することにより、実施例2~4及び比較例1~4の多孔質炭素を得ることができた。
【0081】
<製造方法2:実施例1及び比較例5の多孔質炭素の製造方法>
実施例1の多孔質炭素の材料の配合量を表1に、比較例5の多孔質炭素の材料の配合量を表2に示す。
【0082】
(材料を用意する工程)
実施例1及び比較例5の多孔質炭素の製造方法(製造方法2)では、まず、表1及び表2に記載されている所定量のピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを用意した。
【0083】
(前処理工程)
次に、ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを材料として用いて、ポリアミド酸溶液を合成した。なお、この合成の際の溶媒として、原料である無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンの合計重量が、ポリアミド酸溶液中、表1及び表2に示す初期濃度となるような重量の溶剤(ジメチルアセトアミド及びトルエン)を用いた。溶媒として用いた溶剤は、ジメチルアセトアミド及びトルエンの混合溶剤を用いた。ポリアミド酸溶液の合成は、ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを混合して加熱することにより行った。この結果、ポリアミド酸溶液を合成することができた。次に、上述のようにして得られたポリアミド酸溶液に対して、表1及び表2に記載されている所定量のピリジン及び無水酢酸を添加した。この結果、ポリイミド溶液を得ることができた。
【0084】
(ゲル化工程)
次に、これを撹拌した。その後、室温で、放置することにより、ゲル化した固体を得ることができた。
【0085】
(その他の工程)
その後、製造方法1と同様に、洗浄工程、超臨界乾燥工程、熱分解工程、及び粉砕工程を行うことにより、実施例1及び比較例5の多孔質炭素を製造することができた。なお、加熱工程における昇温後の温度は、表1及び2に記載の温度とした。
【0086】
なお、粉砕工程では、実施例及び比較例の多孔質炭素の平均粒子寸法D50が、25nmとなるように行った。
【0087】
<走査型電子顕微鏡(SEM)写真>
上述のようにして得られた実施例1、実施例2及び比較例2の多孔質炭素の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図3~8に示す。実施例1のSEM写真を、図3(倍率:1万倍)及び図4(倍率:10万倍)に示す。実施例2のSEM写真を、図5(倍率:1万倍)及び図6(倍率:10万倍)に示す。比較例2のSEM写真を、図7(倍率:1万倍)及び図8(倍率:10万倍)に示す。実施例1及び実施例2のSEM写真では、1μ未満の空孔が多数存在することが見て取れる。これに対して比較例2のSEM写真では、1μm未満の空孔が多数存在するとはいえず、比較的平滑な表面となっていることが見て取れる。
【0088】
<ラマン分光法による測定>
上述のようにして得られた実施例及び比較例の多孔質炭素を、ラマン分光法により測定し、ラマンスペクトルを得た。図9~11に、それぞれ実施例1、実施例2及び比較例2のラマンスペクトルを示す。図9~11の横軸はラマンシフト(単位:cm-1)であり、縦軸はラマン散乱光の信号強度(任意単位)である。
【0089】
なお、ラマン分光の測定装置としては、「Cora 7100」(Anton Paar社製)を用いた。照射するレーザー光は、波長532nmで強度50mWとし、測定時間を60秒とした。図9~11から明らかなように、ラマンスペクトルでは、1590cm-1付近のGバンドのピーク、及び1350cm-1付近のDバンドのピークが観察されたことが分かる。なお、必要に応じて、得られた信号からバックグラウンドを差し引くなどの処理をすることができる。
【0090】
ラマン分光法により測定により得られたラマンスペクトルから、1590cm-1付近のGバンドのピークの積算強度I、及び1350cm-1付近のDバンドのピークの積算強度Iを算出し、Gバンド及びDバンドの積算強度の比(I/I)を算出した。実施例及び比較例の多孔質炭素のGバンド及びDバンドの積算強度の比(I/I)を表1及び2に示す。
【0091】
同様に、ラマン分光法により測定し、得られたラマンスペクトルから、Gバンドのピークの最大強度M、及びDバンドのピークの最大強度Mを得て、Gバンド及びDバンドのピークの最大強度の比(M/M)を算出した。実施例及び比較例のGバンド及びDバンドのピークの最大強度の比(M/M)を表1及び表2に示す。
【0092】
<樹脂組成物の材料及び配合割合>
実施例及び比較例の樹脂組成物に用いた材料は、下記のとおりである。表1及び表2に、実施例及び比較例の材料の配合割合を示す。
【0093】
(エポキシ樹脂)
実施例及び比較例に用いたエポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄住友金属株式会社製番「YDF-8170」)(80重量%)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製「1001」)(20重量%)とを混合したエポキシ樹脂である。
【0094】
(硬化剤)
実施例及び比較例の樹脂組成物には、硬化剤として、アミン系硬化剤、及びイミダゾール系硬化剤を混合したものを用いた。
【0095】
アミン系硬化剤として、日本化薬株式会社製「KAYAHARD A-A(HDAA)」(3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン)を用いた。
【0096】
イミダゾール系硬化剤として、四国化成工業株式会社製「2P4MHZ-PW」を用いた。
【0097】
(エポキシ樹脂及び硬化剤の配合割合)
エポキシ樹脂及び硬化剤の配合量(合計100重量%)は、67.63重量%のエポキシ樹脂、25.61重量%のアミン系硬化剤、及び6.76重量%のイミダゾール系硬化剤である。
【0098】
(多孔質炭素(カーボンエアロゲル))
実施例及び比較例の樹脂組成物には、エポキシ樹脂及び硬化剤の配合量を100重量部として、5重量部の多孔質炭素を用いた。
【0099】
(その他の成分)
実施例及び比較例の樹脂組成物には、エポキシ樹脂、硬化剤及び多孔質炭素に加え、エポキシ樹脂及び硬化剤の配合量を100重量部として、0.50重量部のシランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBM-403)、及び0.25重量部の分散剤(楠本化成社製、HIPLAAD ED-451)を用いた。
【0100】
次に、上述の配合割合のエポキシ樹脂、硬化剤、多孔質炭素、シランカップリング剤、及び分散剤を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによってバリスタ素子形成用ペーストを製造した。
【0101】
<バリスタ素子の試作>
図1に示すような、櫛形の電極14a及び14bを有する基板12を用いた。基板として、FR-4を材料とする多層プリント配線板(銅箔付き)を用いた。多層プリント配線板の銅箔をパターニングすることにより、電極14a及び14bを形成した。
【0102】
次に、図2に示すように、基板12の表面に形成された櫛形の電極14a及び14bを覆うように、上述のようにして製造した実施例及び比較例の樹脂組成物をスクリーン印刷し、エポキシ樹脂を硬化させた。エポキシ樹脂の硬化は、165℃の温度で2時間保持することで行った。硬化後のエポキシ樹脂の厚さは、すべて90μmだった。以上のようにして、実施例及び比較例のバリスタ素子を試作した。
【0103】
<バリスタ素子の電流-電圧特性の測定及び非直線性係数αの算出>
上述のようにして試作した実施例及び比較例のバリスタ素子の電流-電圧特性を測定した。具体的には、バリスタ素子の一対の電極(電極14a及び電極14b)に対して所定の電圧を印加し、そのときに流れる電流値を測定することによって、バリスタ素子の電流-電圧特性を測定した。
【0104】
<非直線性係数αの算出>
バリスタ素子の電流-電圧特性は、Kを定数、αを非直線性係数として、I=K・Vαで近似することができる。バリスタ素子の電流-電圧特性から、フィッティングにより、非直線性係数αを算出した。表1及び表2に、実施例及び比較例のバリスタ素子の非直線性係数αの算出結果を示す。バリスタ素子の非直線性係数αが6以上の場合には、使用に耐える適切なバリスタ特性を有するといえる。
【0105】
表1及び表2から明らかなように、本発明の実施例1~4の非直線性係数αは、すべて6以上だった。このことは、多孔質炭素のラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークの積算強度I及びDバンドのピークの積算強度Iの比(I/I)が2.0以上である本発明の実施形態の多孔質炭素を含む樹脂組成物を用いるならば、使用に耐える適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を製造することができることを示している。また、本発明の実施例1~4の多孔質炭素のラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークの最大強度M及びDバンドのピークの最大強度Mの比(M/M)は0.80以上だった。
【0106】
これに対して、比較例1~5の非直線性係数αは、すべて2.2以下であり、使用に耐える適切なバリスタ特性を有していなかった。また、比較例1~5の多孔質炭素のGバンドのピークの積算強度I及びDバンドのピークの積算強度Iの比(I/I)は2未満だった。また、比較例1~5の多孔質炭素のGバンドのピークの最大強度M及びDバンドのピークの最大強度Mの比(M/M)は0.8未満だった。
【0107】
以上のことから、所定のラマンスペクトルを有する本発明の実施形態の多孔質炭素が含まれる樹脂組成物を用いることにより、使用に耐える適切なバリスタ特性を有するバリスタ素子を得ることができることが明らかである。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【符号の説明】
【0110】
10 バリスタ素子
12 基板
14a、14b 電極
16 樹脂組成物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11