(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】プロピオン酸金属塩水溶液
(51)【国際特許分類】
C07C 51/41 20060101AFI20240214BHJP
C07C 53/122 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C53/122
(21)【出願番号】P 2020040793
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】沼 寛
(72)【発明者】
【氏名】小松 康尚
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-155520(JP,A)
【文献】特開昭58-113143(JP,A)
【文献】特開昭62-120338(JP,A)
【文献】特表平10-511094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0299280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/
C07C 53/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸ナトリウム塩またはプロピオン酸カルシウム塩からなるプロピオン酸金属塩の水溶液であって、
プロピオン酸金属塩濃度は、プロピオン酸ナトリウム塩の場合25~48質量%であり、プロピオン酸カルシウム塩の場合25~38質量%であり、
プロピオン酸金属塩濃度25質量%の水溶液
に、希釈する場合は純水を用いて調整した際において
1)pH(20℃)が7.0~8.6であり、
2)プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステル
からなる香料成分を0.1
~20ppm含む、
ことを特徴とするプロピオン酸金属塩水溶液。
【請求項2】
プロピオン酸金属塩が、ナトリウム
塩である、請求項
1に記載のプロピオン酸金属塩水溶液。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載のプロピオン酸金属塩水溶液からなる、撒布用不凍液。
【請求項4】
プロピオン酸又は無水プロピオン酸と、
ナトリウム若しくはカルシウムの水酸化物又は炭酸塩とを反応させて、
プロピオン酸ナトリウム塩またはプロピオン酸カルシウム塩からなるプロピオン酸金属塩を生成させ、得られた
該プロピオン酸金属塩を用いて、
プロピオン酸金属塩濃度が、プロピオン酸ナトリウム塩の場合25~48質量%であり、プロピオン酸カルシウム塩の場合25~38質量%であるプロピオン酸金属塩水溶液を製造する方法であって、
a)該プロピオン酸金属塩水溶液のpH(20℃)が、プロピオン酸金属塩濃度25質量%の水溶液
に、希釈する場合は純水を用いて調整した際に
おいて、7.0~8.6になるように酸を加えて調整し、且つ
b)上記プロピオン酸金属塩の反応原料である、プロピオン酸又は無水プロピオン酸
に、
生成されるプロピオン酸金属塩に対して、プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステル
からなる香料成分が、
該プロピオン酸金属塩を用いて前記プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の前記プロピオン酸金属塩水溶液
に調整した際において0.1
~20ppm含まれる量で副生されるように、
エタノール及び/又はプロパノールを、4ppm以上800ppm以下の範囲内から含有させる、ことを特徴とする、請求項1記載のプロピオン酸金属塩水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプロピオン酸金属塩水溶液に関し、詳しくは不快臭が低減されたプロピオン酸金属塩水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピオン酸金属塩は、凍結防止剤,融雪剤等の撒布用不凍液、さらには、パン,ケーキ等の食品防腐剤、及び動物用飼料の保存料等として有用に用いられている。とりわけ、最近は金属への防錆効果が見出されたことで凍結防止剤及び融雪剤として注目されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
こうしたプロピオン酸金属塩は、通常、プロピオン酸と水酸化ナトリウムとの反応、或いはプロピオン酸と炭酸ナトリウムとの反応により得られる(特許文献2及び3)。その形態は粉体であり、これを袋詰めにして製品とされる。
【0004】
しかし、凍結防止剤及び融雪剤として使用される場合は、使用形態は、25質量%程度に水に溶解させた溶液状態であり、前記粉体の形態である場合は使用時に水に溶解させる必要があり、溶液の形態が望まれていた。
【0005】
また、凍結防止剤及び融雪剤として使用する場合、環境省が規定している一律排水基準(非特許文献2)によれば水素イオン濃度(水素指数)(pH)を5.8以上8.6以下とする必要があるが、一般的にプロピオン酸金属塩は弱酸の塩であるため、水溶液とした際に弱アルカリとなる。そのため、酸を加えることでpHを5.8以上8.6以下の範囲に調整する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6256757号公報
【文献】特開昭62-145042号公報
【文献】特開昭62-120338号公報
【文献】プロピオン酸ナトリウムの本線試行導入による効果検証の実施について、[online]、インターネット<URL:https://thesis.ceri.go.jp/db/files/20882092145d22da6c36b38.pdf>
【文献】環境庁、“水・土壌・地盤・海洋環境の保全 水環境の保全 一律排水基準”、[online]、インターネット<URL:https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プロピオン酸金属塩水溶液は、これに酸を加えてpHを8.6以下とした場合、該水溶液中に遊離のプロピオン酸が発生し、その一定量は空気中に揮発する。而して、プロピオン酸は、刺激的な酸っぱい臭いを有しているため、前記プロピオン酸金属塩水溶液では、上記遊離プロピオン酸の揮発に起因して、周囲に特有の不快臭が拡散する不具合があった。
【0008】
このため、前記pHを8.6以下に調整したプロピオン酸金属塩水溶液において、周囲に対して不快臭を感じさせない液を開発することが大きな課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、前記プロピオン酸金属塩水溶液に、プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルを特有量含有させることにより、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、プロピオン酸ナトリウム塩またはプロピオン酸カルシウム塩からなるプロピオン酸金属塩の水溶液であって、
プロピオン酸金属塩濃度は、プロピオン酸ナトリウム塩の場合25~48質量%であり、プロピオン酸カルシウム塩の場合25~38質量%であり、
プロピオン酸金属塩濃度25質量%の水溶液に、希釈する場合は純水を用いて調整した際において
1)pH(20℃)が7.0~8.6であり、
2)プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルからなる香料成分を0.1~20ppm含む、
ことを特徴とするプロピオン酸金属塩水溶液である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプロピオン酸金属塩水溶液は、pHが5.8以上8.6以下の環境省が規定している一律排水基準を満足する液でありながら、周囲に対する不快臭が緩和されており、取り扱い性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明において、プロピオン酸金属塩は、プロピオン酸の如何なる金属塩であっても制限されるものではないが、通常は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、及びカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩であるのが好ましい。製造コストの上ではナトリウム塩またはカルシウム塩が好適であり、さらに、ナトリウム塩が最も安価であり、特に好適である。こうしたプロピオン酸金属塩は、プロピオン酸や無水プロピオン酸に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の、水酸化物や炭酸塩を反応させる公知の方法により製造されたものが、制限無く使用できる。
【0014】
本発明では、上記プロピオン酸金属塩は、25質量%以上の濃度の水溶液の形態である。即ち、プロピオン酸金属塩を凍結防止剤や融雪剤として使用する場合、その形態は、通常、20~30質量%の水溶液である。従って、斯様に25質量%以上の高濃度の水溶液に、予め調整されていれば、使用時には、必要により上記濃度範囲の所望の値に希釈するだけで、直ぐに調整でき取り扱いに有利なものになる。
【0015】
プロピオン酸金属塩濃度は、溶液中の濃度をより高くするほど、輸送費を低減することができる。ただし、濃度が各プロピオン酸金属塩の溶解度を超えるまで高くなると、固形分の析出が生じ濃度が不均一になり、また、配管に詰まりが発生する虞が生じる。よって、プロピオン酸金属塩の溶解度よりも低くすることが好ましく、具体的には、プロピオン酸ナトリウムであれば、25~48質量%が好ましく、30~45質量%がより好ましい。他方、プロピオン酸カルシウムであれば、25~38質量%が好ましく、30~35質量%がより好ましい。
【0016】
本発明のプロピオン酸金属塩水溶液では、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の水溶液を基準としたpH(20℃)、即ち、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%である場合だけでなく、この値を超えて高濃度である場合には、これを該25質量%に純水により希釈した場合のpHが7.0~8.6になるように調整されている。このpH範囲は、環境省が規定している一律排水基準を満足する値である。
【0017】
つまり、プロピオン酸金属塩は、前記したように弱酸塩であるため、そのまま水溶液としただけでは弱アルカリ性を呈して、前記環境省が規定する一律排水基準を超えるものになる。本発明ではこれに酸を加えて、前記プロピオン酸金属塩濃度25質量%の水溶液とした際に、上記排水基準を満足する穏やかなpH範囲(7.0~8.6)となるように調整する。より好ましいpH範囲は、7.5~8.1である。
【0018】
ここで、前記pHが8.6を超えて高くなると、環境省が規定している一律排水基準の範囲外の、アルカリ性を呈した液になる。他方、pHが7.0未満になると、酸性を呈するため、金属を腐食させる可能性があり好ましくない。斯様にpH調整するために、プロピオン酸金属塩水溶液に加える酸は、特に限定されるものではないが、塩酸、硫酸のような鉱酸の他、ギ酸、酢酸、プロピオン酸のような有機酸を例示できる。
【0019】
酸を加えることで、プロピオン酸金属塩水溶液のpH調整を行うと、該水溶液にはプロピオン酸が塩として存在するだけでなく、遊離酸としても存在するようになる。而して、プロピオン酸は、悪臭防止法および悪臭防止用施行令において特定悪臭物質として指定されている物質であり、たとえ微量であっても不快臭を認知させる。従って、前記課題として示したように、水溶液中に、該プロピオン酸が遊離するようになると、その一部は揮発するから、周囲には不快臭が漂う。
【0020】
本発明では、こうした遊離プロピオン酸による不快臭を緩和するために、前記プロピオン酸金属塩水溶液に対して、プロピオン酸エチルエステル及び/又は、プロピオン酸プロピルエステルを特定量で含有させる。具体的には、必要により純水により希釈して、前記プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の水溶液とした際に、当該プロピオン酸エチルエステル及び/又は、プロピオン酸プロピルエステルを0.1ppm以上含むものになるように含有させる。
【0021】
ここで、プロピオン酸エチルエステル及びプロピオン酸プロピルエステルは、バナナやパイナップルに似た果実香を有しており、香料成分にも当たる。従って、これを上記プロピオン酸金属塩水溶液に含有させれば、その不快臭は良好に緩和される。
【0022】
上記プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルの濃度が前記下限値未満である場合には、芳香が弱くなり、プロピオン酸の不快臭を十分に緩和できなくなる。なお、これら香料成分は、遊離プロピオン酸の不快臭を緩和させる量で配合されていれば、必要以上に多く含有させる必要性はなく、あまりに多量に含有させると、臭気強度が強くなりすぎることで嗜好性の悪化を招く虞もある。
【0023】
前記プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の状態において、プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルの濃度は、0.1ppm以上20ppm以下がより好ましく、さらには1ppm以上10ppm以下が特に好ましい。プロピオン酸エチルエステルとプロピオン酸プロピルエステルとでは、プロピオン酸プロピルエステルの方が臭気の嗜好性が高いため好ましい。両者を併用する場合はプロピオン酸プロピルエステルを合計量に対して少なくとも30質量%、より好適には50~95質量%含有させるのが好ましい。
【0024】
以上の要件を満足するプロピオン酸金属塩水溶液は、如何なる方法により製造したものであっても良く、例えば、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%以上であり、前記pH要件も満足するプロピオン酸金属塩水溶液に、プロピオン酸エチルエステルやプロピオン酸プロピルエステルを、前記濃度要件を満足するように添加して製造しても良い。
【0025】
香料成分としてのプロピオン酸エチルエステルやプロピオン酸プロピルエステルは、決して安価ではないため、本発明では、プロピオン酸金属塩水溶液の製造時、即ち、プロピオン酸や無水プロピオン酸に、金属水酸化物や金属炭酸塩を反応させてプロピオン酸金属塩を製造する際に、該プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルを副生させる方法により製造するのがより好ましい。
【0026】
具体的には、プロピオン酸又は無水プロピオン酸に、金属水酸化物又は金属炭酸塩を反応させてプロピオン酸金属塩を生成させ、得られたプロピオン酸金属塩を用いて、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%以上であるプロピオン酸金属塩水溶液を製造する方法であって、
a)該プロピオン酸金属塩水溶液のpH(20℃)が、プロピオン酸金属塩濃度25質量%の水溶液とした際に7.0~8.6になるように酸を加えて調整し、且つ
b)上記プロピオン酸金属塩の反応原料である、プロピオン酸又は無水プロピオン酸に、エタノール及び/又はプロパノールを、生成されるプロピオン酸金属塩に対して、プロピオン酸エチルエステル及び/又はプロピオン酸プロピルエステルが、該プロピオン酸金属塩を用いて前記プロピオン酸金属塩濃度が25質量%のプロピオン酸金属塩水溶液を製造した際に0.1ppm以上含まれる量で副生されるように含有させる、
ことを特徴とする、請求項1記載のプロピオン酸金属塩水溶液の製造方法である。
【0027】
ここで、a)工程の、プロピオン酸金属塩水溶液に酸を加えてのpHの調整は、該プロピオン酸金属塩水溶液に、塩酸、硫酸のような鉱酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸のような有機酸を添加して実施すれば良い。
【0028】
また、b)工程における、プロピオン酸又は無水プロピオン酸に、エタノール及び/又はプロパノールを含有させることは、高純度のプロピオン酸又は無水プロピオン酸に、プロピオン酸又は無水プロピオン酸を別に添加して得ても、もちろん良い。
【0029】
プロピオン酸又は無水プロピオン酸の製法には、エチレンをカルボニル化する方法があり、この方法により得られる粗プロピオン酸には、不純物としてエタノールとプロパノールが含有され易いため、通常は蒸留によって精製するが、これの精製を調整して、前記エタノールやプロパノールが前記所望量で含有されたものとして得るのが効率的で特に好ましい。
【0030】
上記プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の水溶液とした際に、当該プロピオン酸エチルエステル及び/又は、プロピオン酸プロピルエステルを0.1ppm以上含むものを得るためには、該プロピオン酸にはエタノール及び/又はプロパノールは4ppm以上含有させるのが好ましい。同様に、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%の水溶液とした際に、当該プロピオン酸エチルエステル及び/又は、プロピオン酸プロピルエステルを0.1ppm以上20ppm以下含むものを得るためには、該プロピオン酸にはエタノール及び/又はプロパノールは4ppm以上800ppm以下含有させるのが好ましく、さらにはプロピオン酸エチルエステル及び/又は、プロピオン酸プロピルエステルを1ppm以上10ppm以下含むものを得るためには、該プロピオン酸にはエタノール及び/又はプロパノールは40ppm以上400ppm以下含有させるのが特に好ましい。
【0031】
プロピオン酸又は無水プロピオン酸に、金属水酸化物又は金属炭酸塩を反応させる方法は、水溶液中で実施しても良いが、前記特許文献2及び3に記載されるような、液状のプロピオン酸又は無水プロピオン酸を、金属水酸化物又は金属炭酸塩の粉体と反応させる方法により実施するのが好ましい。得られたプロピオン酸金属塩を水に溶解させて前記プロピオン酸金属塩水溶液とすれば良い。
【0032】
本発明のプロピオン酸金属塩水溶液は、プロピオン酸金属塩濃度が25質量%以上であり、必要により希釈して、凍結防止剤や融雪剤等の道路や滑走路への撒布用不凍液として有用に使用できる。濃度調整に当たっては、プロピオン酸金属塩水溶液が保管される工場で実施してから出荷しても良いし、プロピオン酸金属塩水溶液を凍結防止剤や融雪剤として使用する現場に移送し、そこで調整しても良い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例において、プロピオン酸金属塩水溶液の各物性値及び評価はそれぞれ以下の方法により実施した。
【0034】
1)プロピオン酸金属塩濃度
プロピオン酸金属塩水溶液における、プロピオン酸金属塩濃度の測定は、以下の方法により実施した。即ち、水溶液の温度を20℃として、屈折計を用いてBrix値を測定し、事前に作成した各プロピオン酸金属塩の濃度とBrix値の相関図からプロピオン酸金属塩の濃度を算出した。
【0035】
2)pH
プロピオン酸金属塩水溶液のpH(20℃)測定は、ガラス電極を用いてJIS Z 8802に規定されている方法で測定した。
【0036】
3)プロピオン酸エチルエステル及びプロピオン酸プロピルエステルの定量
濃度25質量%のプロピオン酸金属塩水溶液に含有される、プロピオン酸エチルエステル及びプロピオン酸プロピルエステルの定量は、以下の方法により実施した。即ち、50mLのガラス瓶にプロピオン酸金属塩水溶液30g、ヘプタン3g、スターラーピースを入れて密栓し、スターラーを用いて10分間強撹拌し、静置して油層と水層を分離させ、油層をガスクロマトグラフで分析し、事前に作成したプロピオン酸エチルエステル及びプロピオン酸プロピルエステルの夫々の濃度とガスクロマトグラフの分析値との相関図から、プロピオン酸エチルエステル及びプロピオン酸プロピルエステルの濃度を算出した。
【0037】
4)エタノール及びプロパノールの定量
プロピオン酸に含まれる、エタノール及びプロパノールの定量は、以下の方法により実施した。即ち、プロピオン酸をガスクロマトグラフで分析し、事前に作成したエタノール及びプロパノールの夫々の濃度とガスクロマトグラフの分析値との相関図から、エタノール及びプロパノールの濃度を算出した。
【0038】
5)臭気
濃度25質量%のプロピオン酸金属塩水溶液を内容積が1Lのポリエチレン製瓶に200g入れ、ポリ瓶を良く振り混ぜた後に25℃の室内に1時間放置した。次に、ポリエチレン製瓶の蓋を少し開けて、容器内の臭いを嗅ぎ、香りの強度と嗜好性を評価した。ここで、香りの強度と嗜好性の評価は、8名のパネラーによって、下記スコア基準を設けて実施した。その際、比較例1を、他のサンプルと比較するための基準臭(臭気の強度が0~5段階のうちの3、嗜好性が0~5段階のうちの2)とした。
【0039】
なお、香りの強度及び嗜好性の評価の各値は、8名のパネラーから得た評価スコアの平均値として決定した。
【0040】
香りの強度の官能評価基準については、以下の通りスコアを設定し評価した。
【0041】
1点:非常に弱い
2点:弱い
3点:普通
4点:強い
5点:非常に強い
嗜好性の強度の官能評価基準については、以下の通りスコアを設定し評価した。
【0042】
1点:非常に不快
2点:不快
3点:違和感がない
4点:好ましい
5点:非常に好ましい
実施例1
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを81ppm、プロパノールを125ppm含んでいた。
【0043】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水513gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0044】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0045】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0046】
実施例2
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを2.9ppm、プロパノールを7.1ppm含んでいた。
【0047】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水513gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0048】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0049】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0050】
実施例3
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを173ppm、プロパノールを222ppm含んでいた。
【0051】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水513gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0052】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0053】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0054】
実施例4
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを425ppm、プロパノールを480ppm含んでいた。
【0055】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水513gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0056】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0057】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0058】
実施例5
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを81ppm、プロパノールを125ppm含んでいた。
【0059】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水508gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)15gを加えてpH7.4に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0060】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0061】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0062】
実施例6
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを81ppm、プロパノールを125ppm含んでいた。
【0063】
上記プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水516gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)7gを加えてpH8.8に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0064】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0065】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0066】
実施例7
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を蒸留精製した。得られたプロピオン酸は、エタノールを81ppm、プロパノールを125ppm含んでいた。
【0067】
上記プロピオン酸278gと、水酸化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体147gを水574gで溶解させたスラリーとを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)7gを加えてpH8.1に調整した後に水酸化カルシウム由来の不純物を濾過して、プロピオン酸カルシウムの濃度が35質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸カルシウム水溶液を製造した。
【0068】
このプロピオン酸カルシウム水溶液600gに水240gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0069】
このプロピオン酸カルシウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0070】
比較例1
プロピオン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の粉末400gを水590gに溶解させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウム濃度が40質量%となるプロピオン酸ナトリウム水溶液を製造した。
【0071】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0072】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0073】
比較例2
エチレンをカルボニル化する方法で得られた粗プロピオン酸を前記各実施例よりも高精製に蒸留した。得られたプロピオン酸は、エタノールを0.6ppm、プロパノールを2.0ppm含んでいた。
【0074】
上記の精製プロピオン酸310gと、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)の固体167gを水513gで溶解させた溶液とを混合させ、この水溶液に1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10gを加えてpH8.1に調整して、プロピオン酸ナトリウムの濃度が40質量%であり、プロピオン酸エチルエステルおよびプロピオン酸プロピルエステルを含有するプロピオン酸ナトリウム水溶液を得た。
【0075】
このプロピオン酸ナトリウム水溶液500gに水300gを加えてプロピオン酸ナトリウム濃度が25質量%となるように希釈し、撒布用不凍液を得た。
【0076】
このプロピオン酸ナトリウム希釈水溶液からなる撒布用不凍液について、各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0077】