(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/458 20060101AFI20240214BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20240214BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240214BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20240214BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C23C16/458
C23C16/448
H01L21/365
H01L21/368 Z
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2020148776
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】宇野 和行
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070422(JP,A)
【文献】特開平02-279588(JP,A)
【文献】特開平03-190218(JP,A)
【文献】特開2018-140914(JP,A)
【文献】特開昭60-182723(JP,A)
【文献】特開昭61-186288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
C30B 1/00-35/00
H01L 21/205
H01L 21/208
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜方法であって、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して前記ミスト化部から前記成膜室へと前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記成膜室内に、成膜を行う成膜面を有する基板を設置する設置工程と、
前記成膜室において、前記搬送されたミストを熱処理して前記基板の前記成膜面上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記設置工程において、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置し、
前記成膜工程において、前記基板を少なくとも上下両面から加熱し、
前記成膜室として、該成膜室内に前記供給管の一部が延伸したものを用い、
前記設置工程において、前記供給管の前記一部内に前記基板を設置することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記設置工程において、複数の前記基板を、各々の前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記成膜工程において、前記基板の前記成膜面上に、酸化ガリウムを主成分とする膜を成膜することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるように構成されたミスト化部と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給するように構成されたキャリアガス供給部と、
成膜を行う成膜面を有する基板を保持するように構成された基板保持部を備える成膜室と、
前記ミスト化部と前記成膜室とを接続した供給管であって、該供給管を通して前記キャリアガスによって前記ミストを前記ミスト化部から前記成膜室へと搬送するように構成された供給管と、
前記基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーターと
を具備し、
前記成膜室は、前記供給管を通して前記ミスト化部から前記キャリアガスとともに供給された前記ミストを熱処理することによって、前記基板保持部に保持された前記基板の前記成膜面上に成膜を行うように構成されており、
前記基板保持部は、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されているものであり、
前記成膜室内に前記供給管の一部が延伸しており、前記供給管の前記一部が、前記基板保持部として、前記供給管の前記一部内に前記基板を保持するように構成されているものであることを特徴とす
る成膜装置。
【請求項5】
前記基板保持部は、複数の前記基板を、各々の前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されたものであることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の作製が可能となってきた。α-Ga2O3は、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0003】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されている。特許文献4に記載のミストCVD装置は、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-257337号公報
【文献】特開2005-307238号公報
【文献】特開2012-46772号公報
【文献】特開2014-234337号公報
【文献】特開2014-63973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり高温にする必要もなく、α-酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。しかし、前述のような方法で成膜した場合、成膜速度が小さいという課題があった。また、ドーピングを行った際の再現性がよくないといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜速度に優れた成膜方法、及び成膜速度に優れた成膜方法を実施できる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、成膜方法であって、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して前記ミスト化部から前記成膜室へと前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記成膜室内に、成膜を行う成膜面を有する基板を設置する設置工程と、
前記成膜室において、前記搬送されたミストを熱処理して前記基板の前記成膜面上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記設置工程において、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置し、
前記成膜工程において、前記基板を少なくとも上下両面から加熱することを特徴とする成膜方法を提供する。
【0008】
このような成膜方法によれば、成膜速度を高くすることができる。すなわち、本発明によれば、成膜速度に優れた成膜方法を提供できる。さらに、本発明の成膜方法によれば、ミストにドーパントを含ませる場合であっても、ドーピングの再現性を向上させることができる。すなわち、本発明の成膜方法によれば、成膜速度に優れ、ドーピングの再現性にも優れた成膜方法とすることもできる。
【0009】
さらに、このような成膜方法であれば、成膜面が下向きの状態で成膜工程を行うため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、より清浄性の高い膜を得ることができる。
【0010】
前記成膜室として、該成膜室内に前記供給管の一部が延伸したものを用い、前記設置工程において、前記供給管の前記一部内に前記基板を設置してもよい。
【0011】
これにより、原料の利用効率をより高くすることができ、成膜速度をより高くすることができる。
【0012】
前記設置工程において、複数の前記基板を、各々の前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置してもよい。
【0013】
これにより、さらに生産性よく膜を成膜することが可能となる。
【0014】
例えば、前記成膜工程において、前記基板の前記成膜面上に、酸化ガリウムを主成分とする膜を成膜してもよい。
【0015】
これにより、高い成膜速度で、酸化ガリウム膜を成膜することができる。
【0016】
また、本発明では、成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるように構成されたミスト化部と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給するように構成されたキャリアガス供給部と、
成膜を行う成膜面を有する基板を保持するように構成された基板保持部を備える成膜室と、
前記ミスト化部と前記成膜室とを接続した供給管であって、該供給管を通して前記キャリアガスによって前記ミストを前記ミスト化部から前記成膜室へと搬送するように構成された供給管と、
前記基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーターと
を具備し、
前記成膜室は、前記供給管を通して前記ミスト化部から前記キャリアガスとともに供給された前記ミストを熱処理することによって、前記基板保持部に保持された前記基板の前記成膜面上に成膜を行うように構成されており、
前記基板保持部は、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されているものであることを特徴とする成膜装置を提供する。
【0017】
このような成膜装置によれば、高い成膜速度で成膜を行うことができる装置とすることができる。また、このような成膜装置によれば、ミストにドーパントを含ませる場合、成膜速度に優れ、ドーピングの再現性に優れた成膜方法を実施することができる。
【0018】
さらに、このような成膜装置であれば、成膜面が下向きの状態で成膜を行うことができるため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、より清浄性の高い膜を得ることができる。
【0019】
前記成膜室内に前記供給管の一部が延伸しており、前記供給管の前記一部が、前記基板保持部として、前記供給管の前記一部内に前記基板を保持するように構成されているものであってもよい。
【0020】
これにより、原料の利用効率をより高くすることができ、成膜速度をより高くすることができる。
【0021】
前記基板保持部は、複数の前記基板を、各々の前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されたものであってもよい。
【0022】
これにより、さらに生産性よく膜を成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の成膜方法であれば、原料の利用効率を高くすることができ、成膜速度を大きく改善することが可能となる。それにより、本発明の成膜方法であれば、成膜速度に優れた成膜方法とすることができる。また、ミストにドーパントを含ませる場合、ドーピングの再現性を向上させることができる。それにより、本発明の成膜方法であれば、成膜速度に優れ、ドーピングの再現性にも優れた成膜方法とすることもできる。さらに、本発明の成膜方法であれば、成膜面が下向きの状態で成膜工程を行うため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、欠陥の発生も抑制できることから、より清浄性の高い高品質の膜を得ることができる。
【0024】
また、本発明の成膜装置であれば、原料の利用効率を高くすることができ、成膜速度を大きく改善することが可能となる。それにより、本発明の成膜装置であれば、成膜速度に優れたものとすることができる。また、ミストにドーパントを含ませる場合、ドーピングの再現性を向上させることができる。それにより、本発明の成膜装置であれば、成膜速度に優れ、ドーピングの再現性に優れた成膜装置とすることもできる。さらに、本発明の成膜装置であれば、成膜面が下向きの状態で成膜を行うことができるため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、欠陥の発生も抑制できることから、より清浄性の高い高品質の膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の成膜装置において用いることができるミスト化部の一例を説明する図である。
【
図3】本発明の成膜装置において用いることができる成膜室の一例を示す概略構成図である。
【
図4】本発明の成膜装置において用いることができる成膜室の他の一例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明の成膜装置において用いることができる成膜室の他の一例を示す概略構成図である。
【
図6】本発明の成膜装置において用いることができる成膜室の他の一例を示す概略構成図である。
【
図7】本発明の成膜装置において用いることができる天板の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
上述のように、ミストCVD法において、成膜速度を大きく改善した成膜方法が求められていた。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ミストCVDによる成膜方法において、基板をこの基板の成膜面を下向きとした状態で設置し、且つ基板を少なくとも上下両面から加熱しながら成膜を行うことにより、成膜速度を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
即ち、本発明は、成膜方法であって、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して前記ミスト化部から前記成膜室へと前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記成膜室内に、成膜を行う成膜面を有する基板を設置する設置工程と、
前記成膜室において、前記搬送されたミストを熱処理して前記基板の前記成膜面上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記設置工程において、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置し、
前記成膜工程において、前記基板を少なくとも上下両面から加熱することを特徴とする成膜方法である。
【0030】
また、本発明は、成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるように構成されたミスト化部と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給するように構成されたキャリアガス供給部と、
成膜を行う成膜面を有する基板を保持するように構成された基板保持部を備える成膜室と、
前記ミスト化部と前記成膜室とを接続した供給管であって、該供給管を通して前記キャリアガスによって前記ミストを前記ミスト化部から前記成膜室へと搬送するように構成された供給管と、
前記基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーターと
を具備し、
前記成膜室は、前記供給管を通して前記ミスト化部から前記キャリアガスとともに供給された前記ミストを熱処理することによって、前記基板保持部に保持された前記基板の前記成膜面上に成膜を行うように構成されており、
前記基板保持部は、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されているものであることを特徴とする成膜装置である。
【0031】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0032】
なお、特許文献4には、成膜室内に、基板を成膜面を下向き(フェイスダウン)とした状態で設置することは、記載も示唆もされていない。
【0033】
また、特許文献5には、基板を上方向から加熱することが記載されているが、上下両面から加熱することは記載も示唆もされていない。
【0034】
[成膜装置]
本発明の成膜装置は、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるように構成されたミスト化部と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給するように構成されたキャリアガス供給部と、
成膜を行う成膜面を有する基板を保持するように構成された基板保持部を備える成膜室と、
前記ミスト化部と前記成膜室とを接続した供給管であって、該供給管を通して前記キャリアガスによって前記ミストを前記ミスト化部から前記成膜室へと搬送するように構成された供給管と、
前記基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーターと
を具備し、
前記成膜室は、前記供給管を通して前記ミスト化部から前記キャリアガスとともに供給された前記ミストを熱処理することによって、前記基板保持部に保持された前記基板の前記成膜面上に成膜を行うように構成されており、
前記基板保持部は、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されているものであることを特徴とする。
【0035】
以下、本発明の成膜装置の各構成部材をより詳細に説明する。
(ミスト化部)
ミスト化部は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるように構成されている。ミスト化手段は、原料溶液をミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。超音波振動によるミスト化手段は、より安定してミスト化を行うことができるためである。
【0036】
(原料溶液)
原料溶液は、ミスト化が可能であれば、溶液に含まれる材料、すなわち溶質は特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、例えば、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用してもかまわない。
【0037】
原料溶液は、溶液に含まれる材料、例えば上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、原料溶液として、上記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0038】
また、原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化バリウム(BaO2)、過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0039】
さらに、原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム若しくはニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、イリジウム、若しくはロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016atom/cm3~1×1022atom/cm3であってもよく、約1×1017atom/cm3以下の低濃度にしてもよいし、又は約1×1020atom/cm3以上の高濃度としてもよい。
【0040】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部は、ミスト化部にキャリアガスを供給するように構成されたものである。
【0041】
キャリアガス供給部は、例えば、キャリアガスを収容したキャリアガス源、キャリアガス源とミスト化部とを流体接続したキャリアガス供給管、及びキャリアガス供給管を通るキャリアガスの流量を調製するように構成された流量調節弁を備えることができる。
【0042】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、例えば成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第2のキャリアガスとして、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどをさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。キャリアガスの流量は特に限定されない。例えば、30mm角の基板上に成膜する場合には、キャリアガスの流量は0.01~20L/分とすることが好ましく、1~10L/分とすることがより好ましい。
【0043】
(成膜室)
成膜室は、成膜を行う成膜面を有する基板を保持するように構成された基板保持部を備える。また、成膜室は、供給管を通してミスト化部からキャリアガスとともに供給されたミストを熱処理することによって、基板保持部に保持された基板の成膜面上に成膜を行うように構成されたものである。
【0044】
成膜室は、例えば、以下に説明するヒーターと共に、加熱炉を構成してもよい。成膜室とヒーターとは、横型炉を構成していることが好ましい。
【0045】
或いは、成膜室は、天板と、この天板と上下方向に対向する下板とから構成されていてもよい。この場合、天板は、基板保持部として、基板を保持するように構成された部分を備えることができる。また、天板と下板とは、基板を間に挟んで上下に対向して、成膜空間を定義することができる。成膜空間の側面は、全て開放されていても良いし、又は部分的に開放されていても良い。
【0046】
成膜室の具体例は、後段にて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0047】
(供給管)
供給管は、ミスト化部と成膜室とを接続した供給管であり、この供給管を通してキャリアガスによってミストをミスト化部から成膜室へと搬送するように構成されている。
【0048】
供給管は、例えば、成膜室内に延伸した一部を含むことができる。供給管のこの一部は、以下に説明する基板保持部として、供給管のこの一部内に前記基板を保持するように構成されているものであってもよい。
【0049】
供給管は、例えば、石英管やガラス管、樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0050】
(基板保持部)
基板保持部は、基板を、成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されているものである。
【0051】
例えば、成膜室の内側の天井部が、基板保持部であってもよい。この場合、基板を、成膜室の内側の天井部に接するように、保持することができる。
【0052】
この場合、例えば先に説明したように、成膜室を構成する天板が、基板保持部として、基板を保持するように構成された部分を備えていても良い。
【0053】
或いは、基板保持部は、成膜室の内側の天井部から離して基板を保持するように構成されたものでもよい。例えば、先に説明した供給管のうち成膜室内に延伸した一部が、基板保持部として、成膜室の内側の天井部から離して基板を保持するように構成されていてもよい。
【0054】
このように供給管の一部が基板保持部として内部に延伸した成膜室を具備した成膜装置であれば、成膜室内部よりも狭い供給管の一部においてミストの熱処理による成膜を行うことができるので、原料の利用効率を高めることができ、成膜速度を更に高めることができる。
【0055】
基板保持部は、複数の基板を、各々の成膜面を下向きとした状態で保持するように構成されたものとすることができる。
【0056】
このような基板保持部を具備することにより、複数の基板の成膜面上への成膜を1回のセットアップで行うことができるので、さらに高い生産性で成膜を行うことができる。
【0057】
(ヒーター)
ヒーターは、基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたものである。
【0058】
例えば、ヒーターは、先に説明したように、成膜室と共に加熱炉を構成してもよい。この場合、ヒーターは、例えば、成膜室の少なくとも上外壁及び下外壁に接するように成膜室の外側に設置されていても良いし、又は成膜室の略全周を覆うように成膜室の外側に設置されていても良い。
【0059】
或いは、成膜室が先に説明したように天板及び下板で構成されている場合、ヒーターは、天板及び下板のそれぞれの一部として設けられていても良いし、又は天板及び下板とは別に、天板及び下板のそれぞれを加熱するように設けられていても良い。
【0060】
基板保持部に保持された基板を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーターは、成膜室内の基板が設置された空間、例えば成膜空間を一様に加熱することができる。
【0061】
ヒーターの種類は、基板を直接又は間接的に加熱できるものであれば特に限定されない。
【0062】
(基板)
基板は、成膜可能な成膜面を有し且つ膜を支持できるものであれば特に限定されない。基板の材料は特に限定されず、公知の基板を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、タンタル酸リチウム、タンタル酸カリウム、酸化ガリウム、等が挙げられるが、これに限られるものではない。基板の厚さは特に限定されないが、好ましくは10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。
【0063】
基板の大きさは特に限定されない。基板面積が100mm2以上のものを用いることもできるし、直径が2~8インチ(50~200mm)あるいはそれ以上の基板を用いることもできる。
【0064】
次に、図面を参照しながら、本発明の成膜装置の具体例を説明する。
【0065】
図1に、本発明に係る成膜装置101の一例を示す。
図1に示す成膜装置101は、原料溶液104aをミスト化してミストを発生させるように構成されたミスト化部120と、ミスト化部120にキャリアガスを供給するように構成されたキャリアガス供給部130と、成膜を行う成膜面110aを有する基板110を保持するように構成された基板保持部611を備える成膜室107と、ミスト化部120と成膜室107とを接続した供給管109と、基板保持部611に保持された基板110を少なくとも上下両面から加熱するように構成されたヒーター108とを具備している。
以下、
図1に示す各部材を詳細に説明する。
【0066】
まず、ミスト化部120の一例を、
図2も併せて参照しながら説明する。例えば、ミスト化部120は、
図2に示すように、原料溶液104aが収容されているミスト発生源(原料容器)104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられている容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている原料容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されることができる。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられていてもよく、超音波振動子106と発振器116とが接続されていてもよい。そして、
図2に示すミスト化部120では、発振器116を作動させると超音波振動子106が振動して超音波が発生し、水105aを介してミスト発生源104内に超音波が伝播し、伝播した超音波によって原料溶液104aがミスト化するように構成されることができる。
【0067】
図1に示すキャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有する。このとき、キャリアガス供給部130は、キャリアガス源102aとミスト化部120とを流体接続したキャリアガス供給管131aと、キャリアガス源102aからキャリアガス供給管131aを通してミスト化部120へと送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aとを備えていてもよい。
【0068】
また、本発明の成膜装置101は、必要に応じて、
図1にそれぞれ示すような、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bと、希釈用キャリアガス源102bと供給管109とを流体接続した希釈用キャリアガス供給管131bと、希釈用キャリアガス源102bから希釈用キャリアガス供給管131bを通して供給管109へと送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bとを更に備えることもできる。
【0069】
図1に示す供給管109は、ミスト化部120と成膜室107とを接続している。供給管109は、この供給管109を通して、キャリアガスによって、ミストをミスト化部120、より詳細にはミスト化部120のミスト発生源104から成膜室107へと搬送するように構成されている。
【0070】
図1に示す成膜室107は、供給管109を介してミスト化部120に接続されており、ミストは成膜室107内に供給される。
図1に示す成膜室107は加熱炉であり、例えば横型炉が好適に用いられる。
【0071】
成膜室107内では、
図1に示すように、基板110が、基板保持部611により、成膜面110aを下向きとした状態で保持される。
【0072】
基板110は、
図1のように、成膜室107の内側の天井と接するように保持されてもよいし、天井から離れた位置にあってもかまわない。或いは、
図3に示すように、供給管109の一部109aが成膜室107内まで延伸しており、基板110が、成膜面110aが下向きの状態で、基板保持部611としての当該供給管109の一部109a内に保持されてもかまわない。さらに、供給管109の一部109aを基板保持部611として用いる場合、供給管109の一部109aの口径は、
図4に示すように狭まっていてもよいし、
図5のように広がっていてもかまわない。
【0073】
さて、
図1に示す成膜装置101では、成膜室107の均熱部は、略全周がヒーター108で覆われている。ヒーター108は、成膜室107の炉外壁を一様に加熱する。このようなヒーター108により、基板保持部611に保持された基板110を少なくとも上下両面から加熱することができる。
【0074】
成膜室107は、
図1に示す構造に限定されず、例えば
図6に示すような構造をとることも可能である。
図6に示す成膜室107は、天板601と下板602とから構成されている。このような構成を有する成膜室107の側面は、全開放、もしくは、部分的に開放されている。
【0075】
天板601は部分的に基板配置用開口部611が設けられ、該基板配置用開口部611にあわせて基板110が設置される。すなわち、基板配置用開口部611は、基板保持部として機能する。
【0076】
図6に示す成膜室107では、ヒーター108aが天板601上の基板110に対応する部分を少なくとも覆って配置されており、ヒーター108bが下板602のうち天板601上の基板110に少なくとも対応する部分を含む部分にヒーター108bが埋め込まれている。これらのヒーター108a及び108bが、炉外壁、すなわち天板601と下板602とを一様に加熱する。このようなヒーター108a及び108bにより、基板保持部(基板配置用開口部)611に保持された基板110が少なくとも上下両面から加熱される。
【0077】
天板601にはミスト供給用の開口部610が設けられており、このミスト供給用開口部610に供給管109が接続されている。供給管109から供給されたミストは、一部が基板110と熱反応して膜となり、残りの部分は成膜室107の側面から排気される。
【0078】
なお、
図6では供給管109を成膜室107の天板601に接続しているが、供給管109は、下板602に接続してもかまわないし、天板601及び下板602の両方に接続してもかまわない。
【0079】
また、天板601には適宜回転機構を設けて、天板601を回転させながら成膜を行なっても構わない。回転運動により、基板面内の成膜均一性が向上する。さらに、基板110は、1枚のみでなく、複数枚を同時に処理しても構わない。この場合の天板601の構造は、例えば
図7のようにできる。すなわち、天板601の中心付近にミスト供給用の開口部610が設けられ、基板設置用の複数の開口部611が、開口部610を中心として同心円の位置に、概ね点対称の複数の組が成立するように設けられる。
図7に示すこの構造をとると、供給管109の対面には基板110が配置されないため、ミストの過剰供給による基板温度低下や、膜の異常成長等の不具合が回避できる。なお、
図7では基板配置用の開口611の数は6であるが、その数は特に限定されず、2~5でもよく、8や10などとしても構わない。
【0080】
以上に説明した本発明の成膜装置を用いることにより、本発明の成膜方法を実施することができる。本発明の成膜方法を以下に詳細に説明するが、優れた成膜速度で成膜を行うことができる。すなわち、本発明の成膜装置であれば、成膜速度に優れた成膜方法を実施することができる。
【0081】
[成膜方法]
本発明の成膜方法は、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して前記ミスト化部から前記成膜室へと前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記成膜室内に、成膜を行う成膜面を有する基板を設置する設置工程と、
前記成膜室において、前記搬送されたミストを熱処理して前記基板の前記成膜面上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記設置工程において、前記基板を、前記成膜面を下向きとした状態で、前記成膜室内に設置し、
前記成膜工程において、前記基板を少なくとも上下両面から加熱することを特徴とする。
【0082】
本発明の成膜方法は、例えば、先に説明した本発明の成膜装置を用いて行うことができる。ただし、本発明の成膜方法は、本発明の成膜装置以外の装置を用いて行うこともできる。
【0083】
本発明の成膜方法によれば、高い成膜速度で成膜を行うことができる。理論により縛られることは望まないが、その理由は以下の通りであると考えられる。本発明の成膜工程における基板に対する上下両面からの加熱によって成膜室内に自然対流が生じる。搬送工程において成膜室内に搬送されたミストは、成膜室内に生じた自然対流により、成膜室の壁面をなぞるように上方に向かう。このため、ミストは、基板に効率よく供給されるようになり、この結果成膜速度は向上する。
【0084】
さらに、ミストが安定的に供給されることから、ミストにドーパントを含ませた場合、ドーピングも安定するようになる。
【0085】
そして、本発明の成膜方法であれば、成膜面が下向きの状態で成膜工程を行うため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、欠陥の発生も抑制できることから、より清浄性の高い高品質の膜を得ることができる。
【0086】
例えば、成膜工程において、基板の成膜面上に、酸化ガリウムを主成分とする膜を成膜してもよい。
【0087】
これにより、高い成膜速度で、酸化ガリウム膜を成膜することができる。
【0088】
次に、本発明の成膜方法の各工程をそれぞれ説明する。
【0089】
(ミスト発生工程)
ミスト発生工程では、ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを発生させる。
【0090】
先に説明したが、ミスト化手段は、原料溶液をミスト化できる手段であれば、特に限定されない。原料溶液は、ミスト化が可能であるものであれば限定されず、成膜しようとする膜の組成に合わせて適宜選択することができる。具体例については、本発明の成膜装置の説明で例示したものを参照されたい。
【0091】
(キャリアガス供給工程)
キャリアガス供給工程では、ミストを搬送するためのキャリアガスをミスト化部に供給する。
【0092】
キャリアガスをミスト化部に供給する具体的な手段は、特に限定されない。キャリアガスの種類は、特に限定されず、例えば先に例示したものを用いることができる。
【0093】
(搬送工程)
搬送工程では、ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介してミスト化部から成膜室へとミストをキャリアガスにより搬送する。
ミスト化部から成膜室へとミストを搬送する手段は、特に限定されない。
【0094】
(設置工程)
設置工程では、成膜室内に、成膜を行う成膜面を有する基板を設置する。この際、基板を、成膜面を下向きとした状態で、成膜室内に設置する。
【0095】
基板を成膜室内に設置する手段は特に限定されないが、例えば、設置工程では、先に説明した基板保持部により、成膜室内に基板を設置することができる。
【0096】
例えば、成膜室として、該成膜室内に供給管の一部が延伸したものを用い、設置工程において、供給管の一部内に基板を設置してもよい。
【0097】
これにより、先にも説明したが、成膜室内部よりも狭い供給管の一部においてミストの熱処理による成膜を行うことができるので、原料の利用効率を高めることができ、成膜速度を更に高めることができる。
【0098】
また、設置工程において、複数の基板を、各々の成膜面を下向きとした状態で、成膜室内に設置してもよい。
【0099】
これにより、先にも説明したが、複数の基板の成膜面上への成膜を1回のセットアップで行うことができるので、さらに高い生産性で成膜を行うことができる。
【0100】
(成膜工程)
成膜工程では、成膜室において、搬送されたミストを熱処理して基板の成膜面上に成膜を行う。また、この成膜工程では、基板を少なくとも上下両面から加熱する。
【0101】
加熱手段は、特に限定されないが、例えば、先に説明した、ヒーターを備えた成膜室を用いて行うことができる。
【0102】
熱処理は、加熱によりミストが熱反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。よって、加熱条件は、原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0103】
熱処理は、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、成膜工程における反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0104】
(追加の工程)
本発明の成膜方法は、以上に説明した工程以外の工程を更に含むことができる。以下に、追加の工程の例を示すが、追加の工程は以下の例に限定されない。
【0105】
(バッファ層の形成工程)
上記成膜にあたっては、基板の成膜面と、本発明の成膜方法によって形成する膜との間に適宜バッファ層を設けてもよい。バッファ層の材料としては、Al2O3、Ga2O3、Cr2O3、Fe2O3、In2O3、Rh2O3、V2O3、Ti2O3、Ir2O3、等が好適に用いられる。
【0106】
バッファ層の形成方法は、スパッタ法、蒸着法など公知の方法により成膜することができるが、上記のようなミストCVD法を用いてバッファ層を形成してもよい。すなわち、本発明の成膜方法では、成膜工程において、基板の成膜面上に、複数の膜を形成してもよい。この場合は、原料溶液を適宜変更するだけで形成でき簡便である。具体的には、アルミニウム、ガリウム、クロム、鉄、インジウム、ロジウム、バナジウム、チタン、及びイリジウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属を、錯体又は塩の形態で水に溶解又は分散させたものを原料水溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。溶質濃度は0.01~1mol/Lが好ましい。他の条件についても、上記と同様にすることでバッファ層を形成することが可能である。
【0107】
本発明の成膜方法以外の方法によってバッファ層を成膜する場合、バッファ層を所定の厚さ成膜した後、本発明の成膜方法により成膜を行うことができる。バッファ層の厚さとしては0.1μm~2μmが好ましい。
【0108】
(更なる熱処理工程)
また、本発明に係る成膜方法で得られた膜を、200~600℃で更に熱処理してもよい。これにより、膜中の未反応種などが除去され、より高品質の積層構造体を得ることができる。更なる熱処理は、空気中、酸素雰囲気中で行ってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもかまわない。熱処理時間は適宜決定されるが、例えば、5~240分とすることができる。
【0109】
次に、以下、
図1を再び参照しながら、本発明に係る成膜方法の一例を説明する。
【0110】
まず、
図1に示す成膜装置101において、原料溶液104aをミスト発生源である原料容器104内に収容する。一方で、設置工程として、基板110を成膜室107内の基板保持部611に成膜面110aが下向きとなるよう保持させる。また、ヒーター108を作動させる。
【0111】
次に、流量調節弁103aを開いて、キャリアガス源102aからキャリアガス供給管131a及び供給管109を通してキャリアガスを成膜室107内に供給する。また、流量調節弁103bを開いて、希釈用キャリアガス源102bから希釈用キャリアガス供給管131b及び供給管109を通して希釈用キャリアガスを成膜室107内に供給する。次いで、成膜室107内の雰囲気をキャリアガス及び希釈用キャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。
【0112】
次に、ミスト発生工程として、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。
【0113】
次に、キャリアガス供給工程として、ミストを搬送するためのキャリアガスを、キャリアガス源102aからキャリアガス供給管131aを介して、ミスト化部120に供給する。
【0114】
次に、搬送工程として、ミスト化部120と成膜室107とを接続する供給管109を介して、ミスト化部120から成膜室107へと、ミストをキャリアガスにより搬送する。
【0115】
次に、成膜工程として、成膜室107に搬送されたミストを加熱し熱反応を生じさせて熱処理に供し、基板110の成膜面110aの一部又は全部に成膜を行う。
【0116】
上記の成膜方法とすることで、成膜室107内に搬送されたミストは、熱による自然対流により、成膜室107の壁面をなぞるように上方に向かう。このため、ミストは基板110の成膜面110aに効率よく供給されるようになり、この結果成膜速度は向上する。さらに、ミストが安定的に供給されることから、ミストにドーパントを含ませる場合に、ドーピングも安定するようになる。
【0117】
以上のような成膜方法により、原料の利用効率がよくなり、成膜速度を大きく改善することが可能となる。また、ドーピングの再現性が向上する。さらに、成膜面が下向きのため、膜上への塵、パーティクル等の堆積を抑えることができ、欠陥の発生も抑制できることから、より清浄性の高い高品質の膜を得ることができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0119】
(実施例1)
本実施例では、
図1及び
図2を参照しながら説明した成膜装置101を用いた。
ここで、
図1を再度参照しながら、本実施例で用いた成膜装置101を説明する。成膜装置101は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aと、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bと、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bと、原料溶液104aが収容されるミスト発生源としての原料容器104と、水105aが収容された容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106と、ヒーター108を具備する横型炉である成膜室107と、ミスト発生源104から成膜室107までをつなぐ石英製の供給管109とを備えている。成膜室107は、以下に説明する基板を保持するための基板保持部611を備えている。
【0120】
(基板の設置)
基板110として1辺3cmに切出した正方形のc面サファイア基板を、成膜室107内の基板保持部611により成膜面110aが下向き(フェイスダウン)となるように保持した。
【0121】
(ヒーターの作動)
ヒーター108を作動させて温度を500℃に昇温した。これにより、成膜室107の上部及び下部の炉外壁を均一に加熱し、また、成膜室107内に基板保持部611によって保持された基板110を上下両面から加熱した。
【0122】
(原料溶液の作製)
次に、以下の手順で、原料溶液104aの作製を行った。まず、臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調製した。これに、スズとガリウムとの原子数比が0.02となるよう塩化スズ(II)を混合した。さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液104aとした。
【0123】
(成膜)
上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。続いて、流量調節弁103a及び103bを開いて、キャリアガス源102a及び希釈用キャリアガス源102bからキャリアガス及び希釈用キャリアガスをそれぞれ成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガス及び希釈用キャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに、希釈用キャリアガスの流量を0.5L/minにそれぞれ調節した。キャリアガスとしては窒素を用いた。また、希釈用キャリアガスとしては窒素を用いた。
【0124】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109を経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基板110の成膜面110a上に酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0125】
(評価)
基板110上に形成した薄膜について、FILMETRICS社の干渉式膜厚計F-50を用い測定した。測定箇所を基板110上の面内の9点として、平均膜厚、成膜速度、を算出した。また、ナプソン社製四探針抵抗率測定器RT-3000/RG-80を用いてシート抵抗を測定した。得られた膜厚とシート抵抗を乗じることで当該薄膜の抵抗率が算出される。
【0126】
この結果、実施例1では、平均膜厚0.22μm、成膜速度0.4μm/時間であった。抵抗率は0.33Ωcmとなった。
【0127】
(実施例2)
実施例2では、
図4のように、成膜装置101として、成膜室107の内部に供給管109の一部109aを延伸したものを用い、供給管109のこの一部109a内に、成膜面110aが下向きとなるよう基板110を保持した。これ以外は、実施例1と同じ条件で成膜及び評価を行った。
【0128】
この結果、実施例2では、平均膜厚0.34μm、成膜速度0.7μm/時間であった。抵抗率は0.15Ωcmとなった。
【0129】
(比較例)
比較例1では、実施例1で用いたのと同様の成膜装置101において、成膜室107の底部に基板110を成膜面110aが上向き(フェイスアップ)となるように戴置し、成膜時間は4時間とした。これ以外は、実施例1と同じ条件で成膜及び評価を行った。
【0130】
この結果、比較例1では、平均膜厚0.38μm、成膜速度0.1μm/時間であった。シート抵抗は高すぎて測定できなかったことから、抵抗率は、少なくともシート抵抗測定限界に対応する0.7Ωcm以上であると推定される。
【0131】
以上に示した結果から明らかなように、フェイスアップとした比較例1に比べ、本発明の成膜装置を用いて本発明の成膜方法を実施した実施例1及び2は、成膜速度が向上した。また、実施例1及び2では、比較例1に比べ、抵抗率にも低下がみられ、ドーピングも良好になされたといえる。
【0132】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0133】
101…成膜装置、 102a…キャリアガス源、 102b…希釈用キャリアガス源、 103a及び103b…流量調節弁、 104…ミスト発生源(原料容器)、 104a…原料溶液、 105…容器、 105a…水、 106…超音波振動子、 107…成膜室、 108、108a及び108b…ヒーター、 109…供給管、 109a…供給管の一部、 110…基板、 110a…成膜面、 116…発振器、 120…ミスト化部、 130…キャリアガス供給部、 131a…キャリアガス供給管、 131b…希釈用キャリアガス供給管、 601…天板、 602…下板、 610…ミスト供給用開口部、 611…基板保持部(基板配置用開口部)。