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特許7436397フライ調理用油脂組成物の着色抑制方法、フライ調理用油脂組成物の製造方法及び着色抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】フライ調理用油脂組成物の着色抑制方法、フライ調理用油脂組成物の製造方法及び着色抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A23D9/00 506
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020572189
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2020004033
(87)【国際公開番号】W WO2020166422
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019023605
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】牧田 成人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 尚志
(72)【発明者】
【氏名】椹木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴士
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-50234(JP,A)
【文献】特開2000-96077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法であって、
前記食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
前記調製油は、
油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
前記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴とする、前記抑制方法。
【請求項2】
前記(1)の脱酸工程を実施しない、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記(2)の脱色工程は、前記(1)の工程後の粗原油に対して0質量%超0.25質量%未満の白土を用いる、請求項1又は2に記載の抑制方法。
【請求項4】
前記(2)の脱色工程は、70℃以上120℃以下の温度で5分以上80分以下行う、請求項3に記載の抑制方法。
【請求項5】
前記(2)の脱色工程を実施しない、請求項1又は2に記載の抑制方法。
【請求項6】
前記吸光度差が0.08以上である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項7】
前記油脂組成物中における前記調製油の含有量が、0.05質量%以上20質量%以下となるように前記調製油を添加する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項8】
前記食用油脂は、菜種油、大豆油及びパーム系油脂のうちの少なくとも一種を含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項9】
食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の製造方法であって、
前記食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
前記調製油は、
油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
前記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項10】
食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の着色抑制剤であって、
前記着色抑制剤は調製油を含み、
前記調製油は、油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
前記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴とする、前記着色抑制剤。
【請求項11】
前記調製油のリン分が0.02質量ppm以上2質量ppm以下である、請求項10に記載の着色抑制剤。
【請求項12】
前記調製油を1質量%以上100質量%以下含む、請求項10又は11に記載の着色抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材を油脂組成物でフライ調理したときの油脂組成物の着色を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菜種油、大豆油等の食用油脂を用いて食材をフライ調理すると、加熱操作、食材や雰囲気中の酸素や水分の影響によって、食用油脂が着色する。食用油脂の着色が進行すると、フライ品の品質が悪化するため、食用油脂を長時間使用することができない。
【0003】
食用油脂を用いて揚げ物を調理する際の食用油脂の加熱着色を抑制する先行技術として、特許文献1には、精製された食用油脂に圧搾油及び/又は抽出油、脱ガム油等のリン由来成分を添加して揚げ物用油脂組成物とし、これにより加熱耐性を向上させる方法が記載されている。この揚げ物用油脂組成物によれば、加熱安定性が向上し、特に加熱着色及び加熱臭を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-050234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の方法により油脂組成物の加熱着色を抑制することは有効であるが、フライ調理用油脂組成物の着色の抑制に関しては、未だ改善の余地があり、さらに、リン由来成分を含まなくても特定の条件で調製された調製油に着色の抑制効果があることについて、開示も示唆もされていない。
【0006】
本発明の目的は、食材を油脂組成物でフライ調理したときの油脂組成物の着色を抑制する新規の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、鋭意検討の結果、オリーブから得られる粗原油の精製工程を特定の条件にして得られる調製油を食用油脂に添加することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、その第1の観点において、食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法であって、
上記食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
上記調製油は、
油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
上記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明においては、上記(1)の脱酸工程を実施しないことが好ましい。
【0010】
本発明においては、上記(2)の脱色工程は、上記(1)の工程後の粗原油に対して0質量%超0.25質量%未満の白土を用いることが好ましく、更に、70℃以上120℃以下の温度で5分以上80分以下行ってもよく、未実施であってもよい。
【0011】
本発明においては、上記調製油の上記吸光度差は、0.08以上であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、上記油脂組成物中における上記調製油の含有量が0.05質量%以上20質量%以下となるように、上記調製油を添加することが好ましい。
【0013】
本発明においては、上記食用油脂は、菜種油、大豆油及びパーム系油脂のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、その第2の観点において、食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の製造方法であって、
上記食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
上記調製油は、
油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
上記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴としている。
【0015】
更に、本発明は、その第3の観点において、食用油脂を含むフライ調理用油脂組成物の着色抑制剤であって、調製油を含み、
上記調製油は、油糧原料としてオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、
(1)実施又は未実施の脱酸工程、
(2)実施又は未実施の脱色工程、及び
(3)実施又は未実施の脱臭工程を経たものであり、
前記(2)の脱色工程又は前記(3)の脱臭工程の少なくともいずれかは実施し、
上記調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.05以上であることを特徴としている。
【0016】
本発明においては、上記調製油のリン分は、0.02質量ppm以上2質量ppm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、上記着色抑制剤中に上記調製油は、1質量%以上100質量%以下含まれることが好ましい。
【0018】
ここで、本願の着色抑制剤は、製造方法によって物の発明を特定しているが、下記の通り、当該着色抑制剤をその構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非実際的である事情が存在する。
【0019】
[不可能・非実際的事情の存在]
後述する本発明の効果は、油糧原料としてオリーブから得られる粗原油に脱酸/脱色/脱臭工程を選択的に実施して、所定の吸光度差を有する調製油を生成することにより得られる。より具体的には、それらの工程の選択的な実施によって、着色を抑制する成分が留まり又は生成し、効果を奏すると考えられる。しかしながら、粗原油に含まれる多くの成分のうち、どの化学物質が発明の効果に寄与するのかを完全に網羅的に解析し調べ上げることは、各工程における処理条件等にも依存する中では、現実的ではない回数の実験等を要するものである。すなわち、これは、不可能であるか、又は著しく過大な経済的支出や時間を要するためおよそ実際的ではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフライ調理用油脂組成物の着色抑制方法、フライ調理用油脂組成物の製造方法及び着色抑制剤によれば、例えば、フライ調理用油脂組成物を20~30時間のような長時間での食材のフライ調理に用いても、当該油脂組成物の着色は、調製油を添加していない油脂組成物の着色と比べて優位に抑制される。この着色の抑制は、油脂組成物の使用時間の延長に大いに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施の形態に係るフライ調理用油脂組成物の製造方法を説明する。本発明のフライ調理用油脂組成物の着色抑制方法及び着色抑制剤は、本実施の形態のフライ調理用油脂組成物の製造方法によって具現化されているので、以下併せて説明する。
【0022】
本発明のフライ調理用油脂組成物の製造方法は、食用油脂に調製油を添加する工程を含んでいる。
【0023】
食用油脂は、油脂組成物のベース油となるものであり、通常、精製油である。食用油脂の例としては、菜種油,大豆油,パーム系油脂,パーム核油,コーン油,ヒマワリ油,オリーブ油,綿実油,紅花油,亜麻仁油,ゴマ油,米油,落花生油,ヤシ油等の植物油脂、豚脂,牛脂,鶏脂,乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びこれらに分別,水素添加,エステル交換等を施した加工油脂が挙げられる。食用油脂は、一種単独でも二種以上を併用した調合油であってもよい。食用油脂は、菜種油、大豆油及びパーム系油脂のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。なお、ここでいう「パーム系油脂」とは、パーム油及びパーム油の加工油脂を意味する。食用油脂は、菜種油、大豆油及びパーム系油脂の含有量の合計が、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、75質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0024】
食用油脂は、好ましくは融点が10℃以下、より好ましくは0℃以下である。なお、本明細書で、融点は、上昇融点を意味する。上昇融点は、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法3.2.2.2-2013に準じて測定することができる。
【0025】
食用油脂のフライ調理用油脂組成物に対する含有量は、80質量%以上でよく、好ましくは88質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは93質量%以上である。食用油脂の含有量の上限は特にないが、食用油脂と調製油の合計が100質量%以下である。
【0026】
調製油には、油糧原料としてオリーブから得られる粗原油が用いられる。本発明において「油糧原料としてオリーブから得られる粗原油」とは、オリーブの果実を機械的又は他の物理的手段(例えば、圧搾、遠心分離、濾過)により搾油した油、又はオリーブの果実に有機溶剤を作用させて抽出した油を意味する。粗原油の例としては、エクストラバージンオリーブ油、バージンオリーブ油、オーディナリーバージンオリーブ油、ランパンテバージンオリーブ油、クルードオリーブポマース油等が挙げられる。中でも、エクストラバージンオリーブ油は、オリーブ油由来の欠点風味が含まれないことから、含有させたフライ用油脂組成物の風味が損なわれず好ましい。
【0027】
この調製油は、上述したオリーブから得られる粗原油の精製工程において、脱ガム工程を実施せず、順に、(1)実施又は未実施の脱酸工程、(2)実施又は未実施の脱色工程及び(3)実施又は未実施の脱臭工程(但し、(2)又は(3)の少なくともいずれかは実施)を経たものである。
【0028】
上記脱ガム工程とは、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程であり、一般に食用油脂の精製工程において通常行われる工程であるが、上述の通り、本発明においては実施しない。
【0029】
(1)の脱酸工程は、炭酸ナトリウムや苛性ソーダといったアルカリの水溶液で処理することにより油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。脱酸工程の条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。この脱酸処理は、アルカリを用いない物理的精製法でもよく、物理的精製法には、水蒸気蒸留法や分子蒸留法がある。脱酸工程を経て得られる油を脱酸油とする。本発明においては、脱酸工程を経ることは任意であるが、実施しないことが好ましい。
【0030】
(2)の脱色工程は、油分中に含まれる色素を真空下の活性白土、活性炭等へ吸着させて除去する工程であり、通常、無水下で行われるが、水の存在下で行ってもよい。脱色工程の条件は、例えば、白土、好ましくは活性白土を用い、白土の使用量が粗原油又は脱酸油に対して0質量%超5質量%以下であり、脱色温度が60℃以上120℃以下であり、脱色時間が5分以上120分以下である。脱色工程で色素の付着した白土等は、濾過等により除去される。脱色工程を経て得られる油を脱色油とする。
【0031】
本発明においては、白土の使用量は、粗原油又は脱酸油に対して0質量%超0.25質量%未満であることが好ましく、0.01質量%以上0.18質量%以下であればより好ましい。また、脱色温度は、70℃以上120℃以下であることが好ましく、70℃以上110℃以下であればより好ましい。更に、脱色時間は、5分以上80分以下であることが好ましく、5分以上60分以下であればより好ましい。このような条件下で緩和な脱色工程を実施するか、又は脱色工程を未実施とすると、本発明で規定する範囲の吸光度差を有する調製油が容易に得られる。
【0032】
(3)の脱臭工程は、減圧下で水蒸気蒸留することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。脱臭工程は、例えば、粗原油、脱酸油又は脱色油に対して、水蒸気の使用量が0.1質量%以上10質量%以下、脱臭温度180℃以上300℃以下、減圧度150Pa以上1000Pa以下、脱臭時間10分以上240分以下で行うことができる。水蒸気の使用量は、粗原油、脱酸油又は脱色油に対して、好ましくは0.3質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上5質量%以下である。脱臭温度は、好ましくは200℃以上270℃以下、より好ましくは200℃以上250℃以下である。減圧度は、温度に依存するが、好ましくは200Pa以上800Pa以下である。また、脱臭時間は、脱臭温度及び減圧度に依存するが、好ましくは20分以上240分以下であり、より好ましくは20分以上180分以下である。
【0033】
本発明では、脱色工程を実施しないで脱臭工程を実施することが好ましいが、脱色工程及び脱臭工程の両方を実施してもよい。また、脱色工程を実施して脱臭工程を実施しなくてもよい。
【0034】
本発明では、調製油のイソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が0.05以上であり、好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.15以上である。吸光度差が0.05以上であることにより、高い着色抑制効果が得られるとともに、食用油脂に対する調製油の添加量を抑えることができる。吸光度差の上限は、2.0以下であり、好ましくは、1.5以下であり、より好ましくは1.0以下である。
【0035】
なお、上記調製油の吸光度差とは、脱色工程を実施しないで脱臭工程を実施する場合、脱臭工程後の吸光度差を意味し、脱色工程を実施して脱臭工程を実施しない場合、脱色工程後の吸光度差を意味し、脱色工程及び脱臭工程を実施する場合には、脱臭工程後の吸光度差を意味する。
【0036】
脱臭工程(脱臭工程を実施しない場合は脱色工程)の後、上述した調製油を含有する着色抑制剤を食用油脂に添加する。
【0037】
上記調製油のリン分は、好ましくは0.02質量ppm以上2質量ppm以下であり、より好ましくは0.08質量ppm以上1.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.1質量ppm以上1質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以上0.8質量ppm以下である。
【0038】
本発明の着色抑制剤は、調製油を好ましくは1質量%以上100質量%以下含有しており、より好ましくは10質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上100質量%以下含有している。着色抑制剤は、例えば、上述した食用油脂(すなわち、油脂組成物のベース油)により希釈されていてもよく、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、香料、生理活性物質等の他の素材を適宜含有していてもよい。
【0039】
フライ調理用油脂組成物の着色抑制剤の添加量は、油脂組成物に含まれる調製油が好ましくは0.05質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上15質量%以下となるようにする。
【0040】
上記フライ調理用油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、食用油脂に添加される汎用の助剤を添加することができる。そのような助剤の例には、シリコーン、トコフェロール等の抗酸化剤、香料、着色剤、乳化剤等が挙げられる。本発明のフライ調理用油脂組成物は、シリコーンを含んでいることが好ましい。
【0041】
上記フライ調理用油脂組成物は、食材や調理方法に応じて、例えば、140℃以上230℃以下の温度のフライ調理に用いることができる。フライ調理の例としては、唐揚げ、コロッケやカツ等のパン粉の付いたフライ食品、天ぷら、野菜や魚介類の素揚げ、フリッター、揚げ菓子又は揚げパン、揚げ麺、油揚げが挙げられる。好ましくは、唐揚げ又はパン粉の付いたフライ食品である。
【0042】
本発明による着色の抑制効果は、例えば以下の方法で評価可能である。
【0043】
1.色調の測定
AOCS(The American Oil Chemists' Society) Cc13j-97に準じて、ロビボンド自動比色計を用いてロビボンドセルに入れた油脂組成物(以下、試験油とも言う。)又はベース油(以下、対照油とも言う。)の色度を室温下で測定する。得られた色度Y値及びR値から色調(Y+10R)を求める。
【0044】
2.着色抑制率の算定
対照油の色調を基準とした試験油の着色抑制率を、以下に示す式:
【数1】

で算出する。
【0045】
上述した方法によれば、オリーブから得られる粗原油に、脱ガム工程を実施せず、脱酸/脱色/脱臭工程を選択的に実施して調製油を調製することにより、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が0.05以上である調製油を人為的に生成することができる。これにより、調製油を含有する油脂組成物は、調製油を含有しない従来の油脂組成物よりもフライ調理時に着色が抑制される。よって、油脂組成物を用いて調理されたフライ品の外観を向上させることができ、かつ、油脂組成物をより長時間使用することができる。
【実施例
【0046】
以下に、本発明の実施例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実験には以下の原材料を使用した。
エクストラバージンオリーブ油:AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン,株式会社J-オイルミルズ製 ロット1~3
精製菜種油:Jキャノーラ油,株式会社J-オイルミルズ製(融点0℃以下)
精製大豆油:J大豆白絞油,株式会社J-オイルミルズ製(融点0℃以下)
精製パームオレイン:フライオイルJ(ヨウ素価67),株式会社J-オイルミルズ製(融点0℃以下)
【0048】
(1)実験1
(調製油1の調製)
粗原油としてエクストラバージンオリーブ油(ロット1)を用意し、このエクストラバージンオリーブ油に対し、水蒸気の使用量を2質量%とし、減圧度400Paの条件下、250℃の温度で45分間脱臭処理を行い、調製油1を得た。
【0049】
(吸光度差の測定)
得られた調製油1について、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差を以下の方法により測定した。最初に、対照用及び測定用石英セル(1cm)にイソオクタン(分光分析用試薬、和光純薬工業株式会社製)を入れ、紫外可視分光光度計(製品名「SHIMADZU UV-2450」、株式会社島津製作所製)を用いて600~750nmの範囲でベースライン補正を行った。次に、測定用石英セルに調製油1を入れ吸光度を測定し、750nmにおける吸光度をゼロとしたときの660nmにおける吸光度を求めて吸光度差とした。
【0050】
(リン分の測定)
また、得られた調製油1について、キシレンで希釈し、ICP発光分光分析機(日立ハイテクサイエンス社製)を用いてリン分の濃度を測定した。定量にあたっては、CONOSTAN(登録商標) Oil Analysis Standard(SCP SCIENCE社製)を使用した。
【0051】
(実施例1-1:フライ調理用油脂組成物の調製)
食用油脂(ベース油)として精製菜種油を用意し、調製油1を2.7質量%となるように添加することによりフライ調理用油脂組成物(実施例1-1の試験油)を調製した。
【0052】
実施例1-1に対する比較例1-1として、ベース油の精製菜種油を対照油として用意した。
【0053】
また、エクストラバージンオリーブ油に脱臭処理を施さなかったことを除き、他は実施例1-1と同様にしてフライ調理用油脂組成物(比較例1-2の試験油;粗原油を添加したもの)を調製した。
【0054】
(フライ調理試験)
実施例1-1及び比較例1-1,1-2の試験油及び対照油について、フライ調理試験を行った。
【0055】
フライ調理試験の揚げ種として、以下の加工食材を用意した。
唐揚げ:製品名「若鶏唐揚げGX388」(味の素冷凍食品株式会社製,-20℃保存)、
ポテトコロッケ:製品名「NEWポテトコロッケ60(GC080)」(約60g/個,味の素冷凍食品株式会社製,-20℃保存)
【0056】
電気フライヤー(製品名:FM-3HR、マッハ機器株式会社製)に試験油又は対照油を3.4kg投入し、180℃の揚げ温度まで昇温した後、電気フライヤーに、上記唐揚げ又はポテトコロッケを冷凍のまま以下に示す条件で投入して、1日あたり10時間で3日間、延べ30時間フライ調理を行った。その際、20時間後及び30時間後の試験油及び対照油をそれぞれサンプリングした。
唐揚げ:揚げ重量400g/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数5回/日(1~3日目)、
ポテトコロッケ:揚げ数量5個/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数2回/日(1日目のみ)
【0057】
(色調の測定)
サンプリングした実施例1-1及び比較例1-1,1-2の試験油及び対照油について、色調をそれぞれ測定した。具体的には、AOCS(The American Oil Chemists' Society) Cc13j-97に準じて、ロビボンド自動比色計(Lovibond(登録商標)PFXi-880、The Tintometer Ltd.製)を用いて、ロビボンドセル(W600/OG/1 inch)に入れた試験油又は対照油の色度を室温下で測定した。得られた色度Y値とR値から色調(Y+10R)を求めた。
【0058】
(着色抑制率の算定)
比較例1-1の対照油の色調を基準とした実施例1-1及び比較例1-2の試験油の着色抑制率を、以下に示す式:
【数2】

で算出した。
【0059】
実施例1-1及び比較例1-1,1-2に関して得られた結果を表1に示す。なお、油脂組成物中のリン分の濃度は、調製油中のリン分濃度と油脂組成物中における調製油の含有量とから算出した値である。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示したように、脱臭工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油1を添加した実施例1-1は、調製油を含有しない比較例1-1及び脱酸/脱色/脱臭のいずれの工程も実施していないエクストラバージンオリーブ油(粗原油)を添加した比較例1-2よりも20時間及び30時間後の色調がそれぞれ抑えられた。すなわち、フライ調理時の油脂組成物の着色が抑制された。なお、実施例1-1の油脂組成物中のリン分は0.0054質量ppmと極めて低く、実施例1-1の着色抑制効果はリン由来成分によるものではないことが分かった。
【0062】
(2)実験2
実施例2-1は、フライ調理用油脂組成物中の調製油の含有量を3質量%としたことを除き、他は実施例1-1と同様にして調製油2及びフライ調理用油脂組成物を調製し、実施例1-1と同様の測定を行った。実施例2-2は、エクストラバージンオリーブ油に脱色処理を施し、脱臭処理を施さなかったことを除き、他は実施例2-1と同様にして調製油3及びフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。脱色処理は、エクストラバージンオリーブ油に対する活性白土(V2R、水澤化学工業株式会社製)の使用量0.1質量%、80℃、30分間の条件で行った。実施例2-3は、エクストラバージンオリーブ油に脱色処理を施し、その後、脱臭処理を施したことを除き、他は実施例2-1と同様にして調製油4及びフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。脱色処理については実施例2-2と同一の条件、脱臭処理については実施例2-1と同じ条件で行った。なお、実験2では、エクストラバージンオリーブ油としてロット2を使用した。
【0063】
実施例2-1~3に対する比較例2-1として、ベース油の精製菜種油を対照油として用意した。
【0064】
また、実施例2-3に対する比較例2-2として、活性白土の使用量を0.25質量%としたことを除き、他は実施例2-3と同様にして調製油5及びフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。
【0065】
実施例2-1~3及び比較例2-1,2に関して得られた結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示したように、脱臭工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油2を添加した実施例2-1、脱色工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油3を添加した実施例2-2、脱臭工程及び脱色工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油4を添加した実施例2-3は、調製油を含有しない比較例2-1と比較してフライ調理時の油脂組成物の着色を抑制することが分かった。また、比較例2-2から、脱臭工程及び脱色工程を実施した場合であっても、本発明に従う吸光度差を有していない調製油5は、フライ調理時の油脂組成物の着色を抑制しないことが分かり、後述の結果と合わせて、吸光度差が0.088以上0.244以下で本発明の効果を確認することができた。さらに、実施例2-1と実施例2-2との対比から、脱色工程を実施しないで脱臭工程を実施することが好ましいことが分かった。
【0068】
(3)実験3
実施例3-1~4は、脱臭温度を200℃(実施例3-1)、230℃(実施例3-2)、250℃(実施例3-3)又は270℃(実施例3-4)としたことを除き、他は実施例2-1と同様にして調製油6~9及びフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。なお、実験3では、エクストラバージンオリーブ油としてロット3を使用した。従って、脱臭温度が250℃である実施例3-3(調製油8)は、実施例2-1(調製油2)と同じ条件であり、エクストラバージンオリーブ油のロットが異なるものである。
【0069】
実施例3-1~4に対する比較例3-1として、ベース油の精製菜種油を対照油として用意した。
【0070】
実施例3-1~4及び比較例3-1に関して得られた結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示したように、脱臭工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油6~9は、脱臭温度に関わらず、フライ調理時の油脂組成物の着色を抑制することが分かった。実験3では、脱臭温度が200℃以上270℃以下で本発明の効果を得ることができた。また、この結果から、好ましい脱臭温度は200℃以上250℃以下であることが分かる。
【0073】
(4)実験4
実施例4-1~4では、調製油として上述した調製油8を用い、フライ調理用油脂組成物中の調製油8の含有量を1質量%(実施例4-1)、5質量%(実施例4-2)、8質量%(実施例4-3)又は15質量%(実施例4-4)としたことを除き、他は実施例3-3と同様にしてフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。ただし、実施例4-1は、30時間後の測定を実施しなかった。
【0074】
実施例4-1~4-4に対する比較例4-1として、ベース油の精製菜種油を対照油として用意した。
【0075】
実施例4-1~4-4及び比較例4-1に関して得られた結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4から分かるように、調製油を1質量%以上15質量%以下含有するフライ調理用油脂組成物で本発明の効果が確認され、フライ調理用油脂組成物中の調製油の含有量が多いほど着色抑制効果が向上した。
【0078】
(5)実験5
実施例5-1では、食用油脂として精製菜種油に代えて精製大豆油を用いたこと、調製油として上述した調製油8を用いたことを除き、他は実施例2-1と同様にしてフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。
【0079】
実施例5-1に対する比較例5-1として、ベース油の精製大豆油を対照油として用意した。
【0080】
また、実施例5-2では、食用油脂として精製菜種油に代えて精製パームオレインを用いたことを除き、他は実施例2-1と同様にしてフライ調理用油脂組成物を調製し、測定を行った。
【0081】
実施例5-2に対する比較例5-2して、ベース油の精製パームオレインを対照油として用意した。
【0082】
実施例5-1,5-2及び比較例5-1,5-2に関して得られた結果を表5に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
表5に示したように、食用油脂が大豆油又はパームオレインであっても、脱臭工程を実施し、本発明に従う吸光度差を有する調製油を添加すると、フライ調理時の油脂組成物の着色は抑制されることが分かった。実施例3-3及び5-1の結果から、食用油脂としては菜種油が好ましいことが分かった。また、実施例2-1及び5-2の結果から、20時間程度の加熱時間においては、パームオレインが好ましいことが分かった。