(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置および試料観察方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/147 20060101AFI20240214BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20240214BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2022550293
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035486
(87)【国際公開番号】W WO2022059171
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】備前 大輔
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】白崎 保宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高田 哲
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102603(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/053967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/147
H01J 37/28
H01L 21/66
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向器を含み、パルス化された荷電粒子線を前記偏向器により試料上を走査させる荷電粒子光学系と、
前記試料にパルス光を照射する光源と、
前記荷電粒子線の前記試料への照射によって生じる二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器からの信号から走査像を形成する画像形成部と、
前記荷電粒子線を
ラインに沿った第1の方向に偏向させる偏向信号、前記パルス光を前記試料に照射する第1のタイミング、前記荷電粒子線を前記試料に照射する第2のタイミング及び前記検出器が前記二次荷電粒子を検出する第3のタイミングが同期するよう前記光源、前記荷電粒子光学系及び前記検出器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、前記第1のタイミングの時間間隔における前記荷電粒子線の前記第1の方向への偏向量が前記走査像におけるnピクセル座標に相当するとき、1回の前記第1の方向への走査によって前記荷電粒子線が照射される位置が異なるピクセル座標となるよう、前記偏向信号に対する前記第1のタイミング
、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを同じ時間だけシフトさせて同じラインをm回(m<n)走査し、
前記画像形成部は、前記m回の走査によって得られたm枚の走査像を積算した積算走査像から、信号が欠損したピクセル座標の画素値を復元する荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記偏向信号に対する前記第1のタイミングの初期シフト量は、前記複数のラインごとにランダムもしくはあらかじめ設定された値になるように設定される荷電粒子線装置。
【請求項12】
偏向器を含み、パルス化された荷電粒子線を前記偏向器により試料上を走査させる荷電粒子光学系と、前記試料にパルス光を照射する光源と、前記荷電粒子線の前記試料への照射によって生じる二次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器からの信号から走査像を形成する画像形成部と、前記荷電粒子線を
ラインに沿った第1の方向に偏向させる偏向信号、前記パルス光を前記試料に照射する第1のタイミング、前記荷電粒子線を前記試料に照射する第2のタイミング及び前記検出器が前記二次荷電粒子を検出する第3のタイミングが同期するよう前記光源、前記荷電粒子光学系及び前記検出器を制御する制御部と、画像表示部とを備えた荷電粒子線装置による試料観察方法であって、
前記制御部は、前記第1のタイミングの時間間隔における前記荷電粒子線の前記第1の方向への偏向量が前記走査像におけるnピクセル座標に相当するとき、1回の前記第1の方向への走査によって前記荷電粒子線が照射される位置が異なるピクセル座標となるよう、前記偏向信号に対する前記第1のタイミング
、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを同じ時間だけシフトさせて同じラインをm回(m<n)走査し、
前記画像形成部は、前記m回の走査によって得られたm枚の走査像を積算した積算走査像から、信号が欠損したピクセル座標の画素値を復元し、
前記制御部は、前記画像表示部に、信号が欠損したピクセル座標の画素値が復元された復元走査像を表示する試料観察方法。
【請求項15】
請求項12において、
前記制御部は、前記第1の方向への走査開始位置を前記第1の方向と直交する第2の方向に移動させて複数のラインを走査し、
前記制御部は、前記複数のラインごとに、前記偏向信号に対する前記第1のタイミングの初期シフト量を、前記複数のラインごとにランダム、もしくは前記複数のラインごとに異なるようにあらかじめ設定された値とする試料観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポンプ光またはポンプ荷電粒子を試料に照射し、その後所定のタイミングでプローブ荷電粒子の照射に基づいて試料から発生する二次荷電粒子を検出するポンプ-プローブ荷電粒子線装置およびそれを用いた試料観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡やイオン顕微鏡等の荷電粒子線装置は、微細な構造を持つ様々な試料の観察に用いられている。例えば、半導体デバイスの製造工程におけるプロセス管理を目的として、荷電粒子線装置の一つである走査電子顕微鏡が、試料である半導体ウェーハ上に形成された半導体デバイスパターンの寸法計測や欠陥検査等の測定に応用されている。
【0003】
近年、半導体デバイスの三次元化と使用材料の多様化が進展し、電気特性や材料特性の検査・計測に対するニーズが高まっている。このような新しいニーズに対して、試料にパルス光を照射し、その後にパルス電子線を照射して画像を取得するポンプ-プローブ電子顕微鏡が有効であることが特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0004】
具体的には、特許文献1では、半導体中の欠陥準位に相当するエネルギーのパルスレーザーを照射することで、試料中の積層欠陥を観察する方法が開示されている。また、特許文献2では、半導体デバイス製造の露光プロセスにて使用されるレジスト材料を対象に、レジスト材料に照射するパルスレーザーの時間間隔を調整することで、帯電状態を制御して高コントラストで画像を取得する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/102603号
【文献】国際公開第2020/053967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載のポンプ-プローブ機能を有する走査電子顕微鏡では、1回の電子線走査ですべてのピクセル位置に対して検出信号を取得することができない。この課題について
図1A,Bを用いて説明する。走査電子顕微鏡では一次電子を試料上で走査し、一次電子の走査によって発生する二次電子を検出することで走査像を形成する。
【0007】
図1Aは、通常の(ポンプ-プローブ機能を使用しない)走査電子顕微鏡における、一次電子を走査するための偏向信号10、一次電子の照射タイミング11、検出サンプリングのタイミング12、ピクセル座標13のタイムチャートである。一次電子が連続的に照射され、全てのピクセル座標において検出サンプリングが実施されるため、一次電子を1回走査すれば全ピクセル座標において二次電子の信号を検出することができる。
【0008】
図1Bは、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡における偏向信号20、ポンプ光の照射タイミング21、プローブ電子の照射タイミング22、検出サンプリングのタイミング23、ピクセル座標24のタイムチャートである。ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では試料の帯電状態、電子状態、温度などの状態を変化させるためのポンプ光を時間間隔T
Pumpで照射し、走査像を形成するためのプローブ電子をポンプ光に対して遅延時間T
Delayだけ
遅らせて照射し、プローブ電子の照射タイミングに合わせて検出サンプリングを行う。なお、厳密には、試料で発生した二次電子が検出器に到達するまでの遅延時間もあるため、プローブ電子の照射タイミングと検出サンプリングのタイミングとの間には遅延時間を持たせるが、ここでは省略している。
【0009】
このため、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では一次電子を1回走査するだけでは全ピクセル座標において二次電子の信号を検出できず、全ピクセル座標で二次電子の信号を検出するためにはポンプ光およびプローブ電子のピクセル座標をずらして複数回(この例では少なくとも8回)の一次電子走査を実施する必要がある。
【0010】
このように、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では通常の走査電子顕微鏡と比べて撮像時間が長くなるという特徴がある。このため、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡を半導体デバイスパターンの寸法計測や欠陥検査に利用する場合はスループットの低下という課題を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の態様である荷電粒子線装置は、偏向器を含み、パルス化された荷電粒子線を偏向器により試料上を走査させる荷電粒子光学系と、試料にパルス光を照射する光源と、荷電粒子線の試料への照射によって生じる二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器からの信号から走査像を形成する画像形成部と、荷電粒子線をラインに沿った第1の方向に偏向させる偏向信号、パルス光を試料に照射する第1のタイミング、荷電粒子線を試料に照射する第2のタイミング及び検出器が二次荷電粒子を検出する第3のタイミングが同期するよう光源、荷電粒子光学系及び検出器を制御する制御部とを有し、
制御部は、第1のタイミングの時間間隔における荷電粒子線の第1の方向への偏向量が走査像におけるnピクセル座標に相当するとき、1回の第1の方向への走査によって荷電粒子線が照射される位置が異なるピクセル座標となるよう、偏向信号に対する第1のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを同じ時間だけシフトさせて同じラインをm回(m<n)走査し、
画像形成部は、m回の走査によって得られたm枚の走査像を積算した積算走査像から、信号が欠損したピクセル座標の画素値を復元する。
【発明の効果】
【0012】
ポンプ-プローブ機能を有する荷電粒子線装置の撮像時間を短縮できる。
【0013】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】通常の走査電子顕微鏡における走査像形成のタイムチャートである。
【
図1B】ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡における走査像形成のタイムチャートである。
【
図2】実施例1に係る走査電子顕微鏡の構成図である。
【
図3】積算による走査像形成を説明するための図である。
【
図4】ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡における画像復元フローである。
【
図8】アーティファクトの発生を抑制するための走査像形成のタイムチャートである。
【
図9】実施例2に係る走査電子顕微鏡の構成図である。
【
図10】実施例2に係るポンプ-プローブ走査電子顕微鏡における走査像形成のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例で示す図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。以下の実施例では荷電粒子として電子を用いる走査電子顕微鏡を例に説明するが、荷電粒子として各種イオンを用いる場合でも同等の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0016】
【0017】
走査電子顕微鏡は、試料に電子線を照射する電子線光学系と、電子線の照射に起因して試料から放出される二次電子を検出する検出系と、真空チャンバー内に配置されたステージ機構系と、走査電子顕微鏡の構成要素を制御し、各種情報を処理する制御系と、得られた走査像に対して画像復元等の処理を行う画像処理系と、を備える。
【0018】
具体的には、電子源101で生成された一次電子102は偏向器104で偏向および対物レンズ103で集束された後、可動ステージ106上に搭載された試料105に照射される。対物レンズ103の動作は対物レンズ制御部113、偏向器104の動作は偏向器制御部114、および可動ステージ106の動作はステージ制御部107でそれぞれ制御される。なお、試料105には可動ステージ106を介して負極性の電圧が印加されていてもよい。
【0019】
走査電子顕微鏡にポンプ-プローブ機能を付加するためには、一次電子102をパルス化する必要がある。これはブランキング電極108と絞り109により実現される。ブランキング電極108に電圧が印加されると一次電子102は偏向されて絞り109に衝突する。一方、ブランキング電極108に電圧が印加されなければ一次電子102は絞り109を通過して試料105に照射される。したがって、ブランキング電極108に印加する電圧を制御することにより一次電子102をパルス化できる。ブランキング電極108の動作はブランキング制御部110で制御される。なお、この例ではブランキング電極108により一次電子102をパルス化しているが、1次電子102をパルス化する方法はこれに限定されない。例えば、電子源101をフォトカソードとし、パルスレーザーを電子源101に照射してもよいし、電子源101から一次電子102を取り出すための電圧(図示せず)をパルス化してもよい。
【0020】
ブランキング電極108と絞り109によってパルス化された一次電子102の試料105への照射に起因して発生するパルス化された二次電子111は、検出器112で検出される。
図2の構成では検出器112は偏向器104よりも電子源101側に配置しているが、二次電子111を検出できるのであれば、偏向器104と対物レンズ103の間や、対物レンズ103と試料105の間に配置されていてもよい。検出器112の構成としてはシンチレータ・ライトガイド・光電子増倍管で構成されるE-T検出器や半導体検出器が挙げられるが、電子を検出できる構成であればどのような検出器を用いてもよい。また、検出器112は複数の位置に搭載されていてもよい。検出器112から走査像を形成するための信号を取得するタイミングは検出サンプリング制御部115で制御される。
【0021】
画像形成部116では、偏向器制御部114で決定される一次電子102のピクセル座標に対して、検出サンプリング制御部115で取得された信号を割り当て、走査像を形成する。生成された走査像は画像表示部117に表示されるとともに、記録部118に記録される。
【0022】
電子源101、ブランキング電極108、絞り109、検出器112、偏向器104、対物レンズ103、試料105、および可動ステージ106は筐体119に収められており、筐体119の内部は真空ポンプ(図示せず)にて真空状態に保持されている。
【0023】
試料105の状態を変化させるためにパルスレーザー120が筐体119の外側に設置されており、パルスレーザー120から放出されたパルス光121は筐体119に取り付けられたポート122を通過して試料105に照射される。ここで、パルス光121の波長は、典型的には紫外光から可視光領域だが、パルス化されていればマイクロ波、テラヘルツ波、X線、γ線を用いてもよい。パルスレーザー120で生成されるパルス光121の照射タイミングはパルスレーザー制御部123で制御される。
【0024】
ステージ制御部107、ブランキング制御部110、対物レンズ制御部113、偏向器制御部114、検出サンプリング制御部115、画像形成部116、画像表示部117、記録部118、パルスレーザー制御部123、および後述する画像処理部124の動作はワークステーション(制御部)125により制御される。
【0025】
図2に示したポンプ-プローブ走査電子顕微鏡において画像復元を実施する方法について説明する。
図1Bに示したようにポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では、1回の走査だけでは全ピクセル座標の信号検出を行えない。例えば、パルス光121及び一次電子102を4ピクセル毎に照射する場合であれば、偏向信号に対するパルス光121及び一次電子102の照射タイミングを1ピクセルずつシフトさせながら4回走査する必要がある。このとき、各走査で得られる走査像(模式図)と最終的に得られる走査像(模式図)との関係を
図3に示す。走査像31~34にあらわれている黒い縦のラインは信号が記録されていないことを示しており、それぞれの走査像31~34は飛び飛びの画素にしか信号がないことが確認できる。従来のポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では4回の走査で得た第1~第4の走査像31~34を積算することで、全ピクセル座標に信号が記録された走査像(積算走査像)35を得ていた。なお、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡において偏向信号に対するパルス光121及び一次電子102の照射タイミングをシフトさせて複数回の走査を行う場合、1ラインごとに繰り返し走査を行ってもよいし、1フレームごとに繰り返し走査を行ってよい。以下の実施例、変形例において同様である。
【0026】
これに対して、本実施例では、走査回数を減らし、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡のスループットを向上させるため、一部の画素のみに信号が記録されている画像から信号が記録されていない画素の信号を予測し、画像復元を行う。具体的なフローを
図4に示す。試料挿入後、パルス光121の時間間隔T
Pumpを設定(S402)し、パルス光121に対する一次電子102の遅延時間T
Delayを設定する(S403)。次に、サンプリング
画素の間引き率Pを設定する(S404)。例えば、時間間隔T
Pumpが4ピクセル相当に設定されると、全画素で信号を得る(間引き率P=0)ためには、4回の電子線走査が必要になる。一方、間引き率P=25%と設定されていれば、
図3の例では、走査像31~34のうちいずれか3つの走査像を得るため、3回の電子線走査が実施されることになる。
【0027】
ステップS402~S404で設定する条件を含む各種観察条件は、画像表示部117に表示されるGUIを通して設定することができる。
図5に条件設定画面の例を示す。条件設定画面40は走査像表示部41、観察条件設定部42を含む。観察条件設定部42は、ステップS402~S404において設定される観察条件設定部43を含む。走査像表示部41にはポンプ-プローブ走査電子顕微鏡で取得した通常(ポンプ-プローブ機能を使用しない)の走査像、あるいはポンプ-プローブ走査像を表示することができる。これにより、観察視野の探索や画像復元条件を含む観察条件の調整を走査像表示部41の画像を確認しながら行うことができる。
【0028】
次に、設定した観察条件で走査像を取得する(S405)。そして、画像処理部124で取得した走査像を積算した積算走査像から信号が記録されていない画素の信号を復元し(S406)、復元後の画像(復元走査像)を画像表示部117に表示する(S407)。
【0029】
ここで、S406で実施する画像復元は、記録部118に保存されている辞書を用いて実施することができる。スパースモデリングにより画素データが一部欠落した画像データから欠落のない画像データを復元できることが知られている。あらかじめ取得したポンプ-プローブ走査像を用いて学習したスパースモデリングに使用する基底画像(基底画像の集合を辞書という)を記録部118に保存しておくことで、一部の画素が間引かれたポンプ-プローブ走査像からポンプ-プローブ走査像の全ての画素の信号を推定することが可能である。あるいは、記録部118に保存されている機械学習の処理アルゴリズムを用いて画像復元を実施してもよい。この場合の具体的な学習の方法については後述する。いずれの手法を用いても、従来のポンプ-プローブ走査電子顕微鏡と比較して、サンプリング画素の間引き率Pに応じ、走査像の画像取得時間を削減することができる。
【0030】
図6に画像復元のための機械学習のフローを示す。本実施例での機械学習は教師有り学習であり、教師データとして全画素の信号が記録されている走査像を必要とする。そこで、パルス光121の時間間隔T
Pump(S602)および一次電子102の遅延時間T
Dela
y(S603)を設定した後、可動ステージ106により試料105を撮像位置に移動し
(S604)、走査像を取得する(S605)。ステップS605で取得される走査像は間引き率P=0%で複数回の走査を行い、走査像を積算して得られる、全画素に信号が記録された積算走査像である。所定回数、撮像位置の移動と走査像取得とを繰り返し、学習に十分な数の走査像を取得する(S606)。取得された走査像は記録部118に記録される。その後、サンプリング画素の間引き率Pを設定し(S607)、設定した間引き率Pに従い、ステップS605で取得した走査像から間引き走査像を生成する(S608)。そして、ステップS608で生成した間引き走査像からステップS605で取得した走査像が再現できるように機械学習を実施する(S609)。ここで、学習のアルゴリズムの一例としては、Deep Neural Network、Convolutional Neural Networks、Generative adversarial networks等が使用できる。他にも間引きした走査像から全画素の信号が記録
された走査像を推定できるアルゴリズムであれば適用できる。機械学習により得られる学習済みモデルは記録部118に保存され(S610)、フローは終了する。記録部118に保存された学習済みモデルを用いて信号欠損部の信号を復元する(S406)。なお、間引き率P=0%の積算走査像から所定の間引き率Pの走査像を疑似的に作成するのではなく、実際に間引き率Pを変えながら取得した積算走査像を学習に用いてもよい。
【0031】
ここで、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では、パルス光121の時間間隔TPumpおよび一次電子102の遅延時間TDelayを変えることで取得される走査像のコントラストが
変化する。また、サンプリング画素の間引き率Pを増やすと画像取得時間が短縮化される代わりに復元画像に実際には存在しない像であるアーティファクトが混在する確率が増す。
【0032】
このため、ユーザーが最適なコントラストと画像取得時間になる観察条件を探索できるようにすることが望ましい。そこで、本実施例のポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では、パルス光121の時間間隔T
Pump、一次電子102の遅延時間T
Delayおよびサンプリン
グ画素の間引き率Pについて複数の条件で画像復元した走査像を画像表示部117に表示する。
図7に最適化条件設定画面の例を示す。最適化条件設定画面50は例えば、
図5に示した条件設定画面40に最適化ボタンを設け、最適化ボタンを押下することにより、呼び出せるようにしてもよい。この場合、条件設定画面40の観察条件設定部43に設定されたパルス光121の時間間隔T
Pump、一次電子102の遅延時間T
Delayを基準として
複数の条件を設定することが望ましい。ユーザーが直接複数の条件を設定してもよい。
【0033】
一般的には、パルス光121の時間間隔T
Pumpおよび一次電子102の遅延時間T
Dela
yを変化させると走査像のコントラストが変化し、間引き率Pを増やすとアーティファク
トが増加する傾向にある。そこで、
図7の例では、パルス光121の時間間隔T
Pumpと一次電子102の遅延時間T
Delayの組み合わせを3種類、間引き率Pを3種類設定し、そ
の組み合わせで計9つのポンプ-プローブ画像を取得して、最適化条件設定画面50に表示している。各列はパルス光121の時間間隔T
Pumpと一次電子102の遅延時間T
Dela
yの同じ組み合わせであり、それぞれ上から間引き率Pを0、25、50%としたもので
ある。なお、模式図としてはポンプ-プローブ画像は、丸がパターンを、丸と背景との色の差がコントラストを、丸の形状のくずれがアーティファクトを表現している。
【0034】
ユーザーは最適化条件設定画面50に表示された走査像の中から、コントラストとアーティファクトの関係を勘案して所望の走査像を選択する。選択された走査像のパルス光121の時間間隔TPump、一次電子102の遅延時間TDelayおよびサンプリング画素の間
引き率Pが走査像を取得するための条件として設定される。
【0035】
なお、この例ではポンプ-プローブ画像を取得する条件の数を9としたが、これに制限されない。また、最初に間引き率Pを0%に固定して、パルス光121の時間間隔TPumpと一次電子102の遅延時間TDelayの条件を変えて、コントラストの良好な走査像を得
る条件を探索し、その後、両条件を固定して間引き率Pのみを変えて、最終的に3つの条件を設定してもよい。これにより、良好なポンプ-プローブ画像を得る条件を効率的に探索することができる。
【0036】
さらに、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡において画像復元を行う際、アーティファクトを低減する方法について説明する。一般に疎なサンプリング画像から元画像を復元する処理ではサンプリングはランダムである方がアーティファクトは現れにくい。しかしながら、ポンプ-プローブ走査電子顕微鏡では、複数のパルス光121の時間間隔TPumpおよび一次電子102の遅延時間TDelayを一定として走査像を取得しなければならないため
、サンプリング間隔が等間隔となり、復元画像にアーティファクトが生じやすい傾向がある。
【0037】
図8に、アーティファクトの発生を抑制するための、一次電子を走査するための偏向信号60、ポンプ光の照射タイミング61、プローブ電子の照射タイミング62、検出サンプリングのタイミング63、ピクセル座標64のタイムチャートを示す。
図8は、一次電子102を横方向に走査する例であるが、縦方向に走査する場合でも同様の効果を得ることができる。1ライン走査中はパルス光121の時間間隔T
Pump、一次電子102の遅延時間T
Delayは固定であり、検出サンプリングも等間隔である。2ライン目の走査におい
て、パルス光121の時間間隔T
Pumpおよび一次電子102の遅延時間T
Delayは1ライ
ン目と同じであるが、パルス光121の照射開始タイミングを1ライン目とは異なるタイミングとし、3ライン目以降も同様とする。このように、複数のラインで、パルス光121の時間間隔T
Pumpおよび一次電子102の遅延時間T
Delay、及びm回の走査ごとの偏
向信号60に対するパルス光121の照射タイミングのシフト量変更パターンは同じとする一方、複数のラインごとに偏向信号60に対するパルス光121の照射タイミングの初期シフト量を異ならせることにより、パルス光121の時間間隔T
Pumpと一次電子102の遅延時間T
Delayを固定しつつ、一次電子102の走査方向とは直交する方向にランダ
ム性を高めたサンプリングが可能となる。
【0038】
各ラインにおけるパルス光121の照射開始タイミングは、ワークステーション(制御部)125が各ラインの走査開始時に乱数を生成して決定してもよいし、予め記録部118に記録された照射開始タイミングを読み出しても照射開始タイミングを制御してもよい。また、アーティファクトの発生はパターンの形状によって影響を受けるため、観察対象の走査像や設計パターンを入力し、記録部118にあらかじめ所定のパターンに対応する照射開始タイミングの対応テーブルを記憶しておき、入力された走査像や設計パターンから対応テーブルを照合して照射開始タイミングを決定してもよい。あるいは、パターンと好ましい照射開始タイミングとを学習させた学習済みモデルを作成し、学習済みモデルを用いて照射開始タイミングを求めてもよい。
【実施例2】
【0039】
実施例1ではポンプ源としてパルスレーザーを用いる例を説明した。しかしながら、ポンプ源として電子線などの荷電粒子源を用いた場合でも有効であり、実施例2としてポンプ源として荷電粒子源を用いる構成について説明する。
【0040】
実施例2の走査電子顕微鏡の構成を
図9に示す。実施例1と同じ構成については同じ符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
図9の構成は、
図2の構成からポンプ光の照射のためのパルスレーザー120、ポート122およびパルスレーザー制御部123を取り除き、パルス電子源901を筐体119に取り付け、パルス電子源901が発生させるパルス電子902を試料105に照射するものである。パルス電子源901はパルス電子源制御部903によって制御される。また、パルス電子源901に代えて、イオン等の他のパルス化された荷電粒子線を照射する荷電粒子線源を搭載してもよい。
【0041】
ポンプ源として電子線を用いる場合の検出サンプリングの方法について
図10を用いて説明する。
図10は、実施例2のポンプ-プローブ走査電子顕微鏡における偏向信号70、ポンプ電子の照射タイミング71、プローブ電子の照射タイミング72、検出サンプリングのタイミング73、ピクセル座標74のタイムチャートである。ポンプ源として電子を用いる場合、ポンプ電子とプローブ電子の照射の両方で試料105より二次電子111が発生するが、検出サンプリングのタイミングをプローブ電子の照射タイミングに合わせることで、プローブ電子によって発生した二次電子111を検出し走査像を形成する。
【0042】
なお、ポンプ電子とプローブ電子の試料105に対する照射エネルギーは同じでもよいし異なっていてもよい。ポンプ電子の照射エネルギーを変える方法としては、パルス電子源901の加速電圧を電子源101とは異なる値に設定する、あるいは試料105に印加する電圧(リターディング電圧)をポンプ電子とプローブ電子の照射時で変更することによって実現できる。ただし、ピクセル座標ごとに大きくプローブ電流量がかわらないよう、観察視野に対してポンプ電子のスポット径は十分な大きさとすることが望ましい。
【0043】
なお、電子源101をポンプ電子源として兼用することも可能である。この場合の走査電子顕微鏡の構成は
図2の構成からパルスレーザー120、ポート122およびパルスレーザー制御部123を取り除いたものとなる。プローブ電子の場合と同様に、ブランキング電極108と絞り109により一次電子102をパルス化することでポンプ電子もパルス化される。ポンプ電子については、プローブ電子よりもデフォーカスするようにしてもよい。ただ、ポンプ電子の照射位置とプローブ電子の照射位置との距離が数ピクセル相当であれば、観察するパターンにも依存するが、一次電子102の照射条件を変化させなくともポンプ電子の影響をプローブ電子の照射位置において観察することは一般的に可能である。
【0044】
以上、本発明について実施例、変形例を挙げて説明した。上記した実施例、変形例は発明の要旨を変更しない範囲で種々変形が可能であり、また、これらを組み合わせて使用することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10,20,60,70:偏向信号、11:一次電子の照射タイミング、12,23,63,73:検出サンプリングのタイミング、13,24,64,74:ピクセル座標、21,61:ポンプ光の照射タイミング、22,62,72:プローブ電子の照射タイミング、31~35:走査像、40:条件設定画面、41:走査像表示部、42,43:観察条件設定部、50:最適化条件設定画面、71:ポンプ電子の照射タイミング、101:電子源、102:一次電子、103:対物レンズ、104:偏向器、105:試料、106:可動ステージ、107:ステージ制御部、108:ブランキング電極、109:絞り、110:ブランキング制御部、111:二次電子、112:検出器、113:対物レンズ制御部、114:偏向器制御部、115:検出サンプリング制御部、116:画像形成部、117:画像表示部、118:記録部、119:筐体、120:パルスレーザー、121:パルス光、122:ポート、123:パルスレーザー制御部、124:画像処理部、125:ワークステーション(制御部)、901:パルス電子源、902:パルス電子、903:パルス電子源制御部。