(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20240214BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
H01J37/22 502F
(21)【出願番号】P 2022551118
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036728
(87)【国際公開番号】W WO2022064719
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄子 美南
(72)【発明者】
【氏名】白崎 保宏
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】木附 洋彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋也
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0036981(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置であって、
前記試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子源、
前記試料に対して照射する光を出射する光源、
前記荷電粒子線を前記試料に対して照射することにより前記試料から生じる2次荷電粒子を検出する検出器、
前記検出器から得られる2次荷電粒子信号に基づき前記試料の観察画像を生成する画像処理部、
前記荷電粒子線の照射条件を制御する荷電粒子制御部、
前記光の照射条件を制御する光制御部、
を備え、
前記光制御部は、前記荷電粒子線の照射条件にしたがって、前記光の照射条件を変調するシーケンスを算出し、
前記光制御部は、前記シーケンスにしたがって、前記光の照射条件を制御
し、
前記光制御部は、前記試料の特徴量を強調した前記2次荷電粒子を前記試料から生じさせる前記シーケンスを、前記試料の特徴量ごとに算出し、
前記画像処理部は、前記光制御部が前記試料の特徴量ごとに算出した前記シーケンスにしたがって前記試料から生じる前記2次荷電粒子の検出結果を用いて前記観察画像を生成することにより、前記試料の特徴量を強調した前記観察画像を生成する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記光制御部は、前記試料の特徴量として、
前記試料上に形成されている形状パターン、
前記試料の材質、
前記試料上に形成されている回路パターンの電気的接続関係、
のうち少なくともいずれかを取得し、
前記光制御部は、
前記試料上に形成されている形状パターン、
前記試料の材質、
前記試料上に形成されている回路パターンの電気的接続関係、
のうち少なくともいずれかを強調した前記2次荷電粒子を前記試料から生じさせる前記シーケンスを算出する
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記検出器は、前記試料上の1つの領域における前記観察画像を生成するために必要な前記2次荷電粒子が得られるまで前記荷電粒子線を走査している間の走査期間において、前記試料の第1特徴量を強調した前記2次荷電粒子と、前記試料の第2特徴量を強調した前記2次荷電粒子とを検出し、
前記画像処理部は、前記走査期間において得られる前記2次荷電粒子信号を用いて、前記第1特徴量を強調した第1画像と、前記第2特徴量を強調した第2画像とを生成する
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記光制御部は、前記観察画像上における前記特徴量ごとのコントラストが閾値以上であるか否かを判定し、
前記光制御部は、前記コントラストが前記閾値以上ではない場合は、前記光の照射条件を変更し、
前記画像処理部は、前記変更した前記光の照射条件にしたがって改めて前記観察画像を取得する
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料上の座標と前記座標における前記光の照射条件との間の関係を記述したデータを格納する記憶部を備え、
前記光制御部は、前記データが記述している関係にしたがって、前記試料上の座標に対応する前記光の照射条件が得られるように、前記シーケンスを算出する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記荷電粒子線装置はさらに、ユーザから指示入力を受け取るインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記試料上の領域ごとに前記光の照射条件を前記指示入力によって指定することができるように構成されており、
前記光制御部は、前記指示入力による指定にしたがって、前記試料上の領域ごとに前記光の照射条件を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記荷電粒子線装置はさらに、ユーザから指示入力を受け取るインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記試料上において、前記第1特徴量を強調する第1光照射条件を用いて前記光を照射する第1領域と、前記第2特徴量を強調する第2光照射条件を用いて前記光を照射する第2領域とを、前記指示入力によって指定することができるように構成されており、
前記光制御部は、前記指示入力による指定にしたがって、前記第1領域においては前記第1光照射条件を用いて前記光を照射し、前記第2領域においては前記第2光照射条件を用いて前記光を照射する
ことを特徴とする請求項
3記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記荷電粒子線装置はさらに、ユーザから指示入力を受け取るインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記試料上において前記観察画像を取得する領域を前記指示入力によって指定することができるように構成されており、
前記画像処理部は、前記2次荷電粒子のうち前記指示入力によって指定された領域から取得したものを用いて前記観察画像を生成することにより、前記指示入力によって指定された領域における前記特徴量のみを強調した前記観察画像を生成する
ことを特徴とする請求項
3記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記光制御部は、前記観察画像上の輝度分布を取得し、
前記光制御部は、同じ前記特徴量を強調した前記観察画像上の領域間における輝度差が閾値以内となるように、前記シーケンスを算出する
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記光制御部は、同じ前記特徴量を強調した前記観察画像上の領域のうち、輝度値が前記観察画像上の他の領域よりも低い低輝度領域に対して、前記他の領域よりも大きい光量を有する前記光が照射されるように、前記シーケンスを算出する
ことを特徴とする請求項
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料上の座標と前記座標における前記試料の特徴量との間の関係を記述したデータを格納する記憶部を備え、
前記光制御部は、前記データが記述している関係にしたがって、同じ前記特徴量を有する前記試料上の領域を特定し、その領域における前記観察画像上の輝度差が前記閾値以内となるように、前記シーケンスを算出する
ことを特徴とする請求項
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項12】
前記光制御部は、前記試料上の領域ごとに前記2次荷電粒子の信号強度を取得し、
前記光制御部は、同じ前記特徴量を有する前記試料上の領域間における前記信号強度の差分が閾値以内となるように、前記シーケンスを算出することにより、同じ前記特徴量を強調した前記観察画像上の領域間における輝度差が前記閾値以内となるようにする
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項13】
前記光制御部は、前記荷電粒子線を前記試料に対して照射していないタイミングにおいて前記光を前記試料に対して照射し、
または、
前記画像処理部は、前記光を前記試料に対して照射していないタイミングにおいて前記試料から生じる前記2次荷電粒子の検出結果を用いて前記観察画像を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項14】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置であって、
前記試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子源、
前記試料に対して照射する光を出射する光源、
前記荷電粒子線を前記試料に対して照射することにより前記試料から生じる2次荷電粒子を検出する検出器、
前記検出器から得られる2次荷電粒子信号に基づき前記試料の観察画像を生成する画像処理部、
前記荷電粒子線の照射条件を制御する荷電粒子制御部、
前記光の照射条件を制御する光制御部、
を備え、
前記光制御部は、前記荷電粒子線の照射条件にしたがって、前記光の照射条件を変調するシーケンスを算出し、
前記光制御部は、前記シーケンスにしたがって、前記光の照射条件を制御し、
前記光制御部は、前記試料の特徴量として、
前記試料の材料の組成、膜厚、膜構成、ドーパント種、ドーパント濃度、ドーパント深さ、キャリア移動度、キャリア寿命、結晶性、結晶欠陥、
のうち少なくともいずれかを取得し、
前記光制御部は、
前記試料の材料の組成、膜厚、膜構成、ドーパント種、ドーパント濃度、ドーパント深さ、キャリア移動度、キャリア寿命、結晶性、結晶欠陥、
のうち少なくともいずれかを強調した前記2次荷電粒子を前記試料から生じさせる前記シーケンスを算出する
ことを特徴とす
る荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、歩留まり向上を目的として、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によるインライン検査計測が重要な検査項目となっている。しかしながら、リソグラフィ工程において利用されるレジストや反射防止膜等の有機材料は互いに組成が近く、あるいはトランジスタを構成する珪素系の半導体材料は互いに組成が近いので、材料からの2次電子放出の差が得られにくい。このような材料によって構成された試料はSEMの像コントラストが低くなってしまうので、半導体デバイスの超微細パターンや欠陥の視認性が低下する。
【0003】
下記特許文献1は、試料に対して光を照射することにより、試料の材料や電気特性を強調したコントラストを有する観察像を得ることができる走査電子顕微鏡について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光を照射することによってコントラストを強調した観察像は、光の照射条件に依拠したコントラストを有する。光の照射条件は、観察像上で強調する試料の特徴量(例:試料の材料、試料上に形成された形状パターン、試料上に形成された回路パターンの電気的接続関係)に応じて、最適条件がそれぞれ異なる。したがって特許文献1のような従来の走査電子顕微鏡においては、FOV(Field Of View)内の所望の特徴量を全て強調することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、試料に対して荷電粒子線と光を照射することにより試料の観察像を得る荷電粒子線装置において、試料の複数の特徴量を強調した観察像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る荷電粒子線装置は、荷電粒子線の照射条件にしたがって、光の照射条件を変調するシーケンスを算出し、前記シーケンスにしたがって、前記光の照射条件を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る荷電粒子線装置によれば、試料に対して荷電粒子線と光を照射することにより試料の観察像を得る荷電粒子線装置において、試料の複数の特徴量を強調した観察像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る荷電粒子線装置1の構成図である。
【
図2】実施形態1における光照射条件の例を示す模式図である。
【
図4】荷電粒子線装置1が試料8の観察画像を取得する手順を説明するフローチャートである。
【
図6A】ユーザが荷電粒子線装置1に対して指示入力を与えるために用いるGUIの1例である。
【
図6B】ユーザが荷電粒子線装置1に対して指示入力を与えるために用いるGUIの別例である。
【
図7】試料8の観察像の輝度分布が不均一になっている例である。
【
図8】光制御部200が光照射条件を変更する手順の1例を示す。
【
図9】2次粒子信号と光照射シーケンスの例である。
【
図10】荷電粒子線装置1が同じ特徴量を有する画像領域の輝度分布を均一にする処理を説明するフローチャートである。
【
図11】S1002においてユーザが用いるGUIの1例である。
【
図12A】試料に対して光を照射するタイミングを例示するタイミングチャートの1例である。
【
図12B】試料に対して光を照射するタイミングを例示するタイミングチャートの別例である。
【
図14】
図13に示した試料に対して各偏光面を照射した際の試料内における光の吸収率の関係を示す。
【
図15】SEMの走査信号に同期して光の偏光面を制御・照射する光学系の例を示す。
【
図16】
図13の試料を用いて、パターンに合わせて照射する光の偏光面を制御した場合のSEM像を示す。
【
図17】
図16(4)のSEM像を取得する場合のSEMおよび光照射条件のタイムシーケンスを示す。
【
図18】実施形態5において荷電粒子線装置1が提供するGUIの例を示す。
【
図19】光照射条件である光の平均強度と照射量を制御する光学構成の例について示す。
【
図20】光の照射条件である光の波長を制御する光学構成の例について示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る荷電粒子線装置1の構成図である。荷電粒子線装置1は、試料8に対して電子線30(1次荷電粒子)を照射することにより試料8の観察像を取得する、走査型電子顕微鏡として構成されている。荷電粒子線装置1は、電子光学系、ステージ機構系、電子線制御系、光照射系、荷電粒子制御部100、画像処理部110、光制御部200、記憶部300を備える。
【0011】
電子光学系は、電子銃2、偏向器3、電子レンズ4、検出器5により構成されている。ステージ機構系は、XYZステージ6、試料ホルダ7により構成されている。電子線制御系は、電子銃制御部9、偏向信号制御部10、検出制御部11、電子レンズ制御部12により構成されている。光照射系は、光源13、光照射部24、により構成されている。
【0012】
荷電粒子制御部100は、電子銃制御部9、偏向信号制御部10、検出制御部11、電子レンズ制御部12を介して、走査電子顕微鏡を制御する。画像処理部110は、検出器5が検出した2次荷電粒子信号を用いて、試料8の画像を生成する。光制御部200は、光源13と光照射部24を制御することにより、試料8に対して照射する光の照射条件を制御する。記憶部300は、試料8の特徴量を記述したデータを保持する。
【0013】
電子銃2より加速された電子線30は、電子レンズ4によって集束され、試料8に照射される。偏向器3は、試料8上に対する電子線30の照射位置を制御する。検出器5は、電子線30を試料8に対して照射することにより試料8から放出される2次荷電粒子を検出する。
【0014】
光源13は、試料8に対し照射する光を出射する。光源13は、出力波長が紫外線から近赤外までの領域で単波長もしくは多波長が出力可能なレーザである。光源13より放出された光は、装置筐体23に具備されたガラス窓22を介して、真空中に設置された試料8に対して照射される。光照射部24は、光制御部200からの指示にしたがって、光源13が出射する物理的特性を表す光パラメータを変調することにより、光照射条件を変調する。
【0015】
<実施の形態1:光パラメータを変調する原理について>
試料8に対して光を照射するとともに、その照射領域に対して電子線30を照射することにより、照射領域の光吸収特性に応じてコントラストを変化させた画像を得ることができる。照射領域の光吸収特性は、例えば以下のような特徴量に依拠する:(a)照射領域を形成する材料、(b)照射領域に形成された3次元形状パターン、(c)照射領域に形成された回路パターンの電気的接続関係、など。ここでいう電気的接続関係とは、例えば上下層に形成されている他の回路パターンと電気的に接続されているか否かなどのような、電気回路上の接続関係のことである。
【0016】
したがって、ある光照射条件において取得した画像は、その照射条件において試料から生じる2次荷電粒子量に対応するコントラストを有することになるので、画像上で強調される試料の特徴量も、その照射条件における固有のものとなる。換言すると、1つの光照射条件によって画像コントラストを強調することができる特徴量は、限定されていることになる。そうすると、1つの画像上において試料の特徴量を全て強調するのは、困難であるといえる。
【0017】
そこで本発明においては、試料の特徴量ごとに光照射条件を変更することにより、その特徴量を強調したコントラスト有する画像を生成することとした。これにより、試料の複数の特徴量を観察像上で強調することができると考えられる。特徴量を強調した画像は、特徴量ごとに個別に生成することもできるし、1回の電子線スキャンのなかで光照射条件を変えながら画像を生成することにより複数の特徴量を1つの画像のなかで全て強調することもできる。
【0018】
図2は、本実施形態1における光照射条件の例を示す模式図である。比較のため、従来の光照射条件を併記した。ここでは試料上に異なる2つの材料(材料Aと材料B)によって形成された形状パターンが存在するものとする。従来の光照射によって画像コントラストを強調する技術においては、光照射条件は試料上の部位によらず一定である。したがってこれにより得られる画像上においては、各材料の光吸収特性に対応してコントラストが強調されることになる。
図2上段は、各材料によって形成されている部位のコントラストを塗りつぶしパターンによって模式的に示している。
【0019】
ただし、従来の光照射条件は部位によらず一定であるので、必ずしも各材料の光吸収特性に応じて最適化されているものではない。そうすると、得られる画像のコントラストは必ずしも各材料部位を明確に識別できる程度に明瞭ではない場合があり得る。例えば
図2に示す例においては、材料Bによって形成されている部位がやや暗く、他の部分から区別できない可能性がある。さらに材料Aによって形成されている部位も、必ずしも他の部位から明瞭に区別できない可能性がある。
【0020】
図2下段は本実施形態1における光照射条件の例を示す。電子線30が材料Aの部位を照射している期間においては、材料Aの光吸収特性にしたがって、画像上のコントラストが最も高くなるように、光照射条件をセットする。同様に電子線30が材料Bの部位を照射している期間においては、材料Bの光吸収特性にしたがって、画像上のコントラストが最も高くなるように、光照射条件をセットする。これにより、材料ABそれぞれによって形成されている部位がいずれも高いコントラストを有する画像を得ることができる。
【0021】
1つの画像を得るためには、試料上の観察部位(Field Of View)内の全体に対して、電子線30を走査する必要がある。その1回分の走査期間において、材料Aの部位の観察画像と、材料Bの部位の観察画像とがそれぞれ得られることになる。画像処理部110は、これらの観察画像を合成して1つの画像としてもよいし、材料Aの部位のみを強調した画像と材料Bの部位のみを強調した画像を個別に生成してもよい。個別に生成する場合は、各材料によって形成された部位をそれぞれ識別することができる。1つの画像を生成する場合は、形状パターン全体を俯瞰的に把握することができる。
【0022】
画像コントラストを強調するために調整する光照射条件としては、例えば以下のものが挙げられる:波長、時間平均強度、照射量、偏光、照射角度。パルス光を照射する場合はさらに以下の光照射条件を調整することができる:パルス幅、ピーク強度、パルス間インターバル時間。
【0023】
図2においては、試料の特徴量の例として、試料を形成している材料を挙げたが、その他の特徴量を強調できるような光照射条件を用いてもよい。例えば上述の(a)~(c)はその特徴量の例である。その他に以下のような特徴量を強調することが考えられる:材料の具体的組成、膜厚、膜構成、ドーパント種、ドーパント濃度、ドーパント深さ、キャリア移動度、キャリア寿命、結晶性、結晶欠陥。
【0024】
図3は、試料上の観察部位の模式図である。光照射部24は、電子線30が照射されている箇所を含む周辺領域に対して光を照射する。電子線30の照射位置は、電子線30の走査シーケンスにしたがって特定することができる。光照射部24は、その照射位置(および周辺領域)に対して光を照射する。その他の領域に対して光を照射する必要はない。電子線30の照射位置に対してのみ光を照射することにより、その照射位置の特徴量を画像上で効果的に強調することができる。
【0025】
<実施の形態1:動作手順>
図4は、荷電粒子線装置1が試料8の観察画像を取得する手順を説明するフローチャートである。本フローチャートは、1つの観察画像を取得するために実施する処理を説明している。以下
図4の各ステップについて説明する。
【0026】
(
図4:ステップS401)
光制御部200は、試料8の特徴量を記述した試料データを取得する。特徴量の例は上述の通りである。試料データは、試料8の表面上の座標ごとに、その特徴量を記述している。例えば試料8上の座標ごとに、その座標の部位を形成する材料を記述することができる。あるいは試料8上に形成された形状パターンを表す座標を記述することができる。試料データはその他の特徴量についても同様に、少なくとも電子線30を照射する位置における試料8の特徴量を特定することができる情報を記述する。
【0027】
(
図4:ステップS401:補足)
試料データは、あらかじめ記憶部300に格納しておいてもよいし、荷電粒子線装置1が備えるユーザインターフェース(例えばGraphical User Interface:GUI)を介してユーザが入力してもよい。あるいはネットワークを介して別装置から提供してもよい。その他適当な手法によって提供してもよい。
【0028】
(
図4:ステップS402)
光制御部200は、試料データが記述している特徴量にしたがって、光照射条件を決定する。具体的には、試料8上の座標ごとに、その座標における所望の特徴量を強調した画像コントラストが得られるように、その座標における光照射条件を決定する。1つの座標において複数の特徴量が存在する場合、その特徴量のうち所望のいずれか1以上を強調できるような光照射条件を選択する。S404から本ステップへ戻ってくる場合については後述する。
【0029】
(
図4:ステップS402:補足その1)
試料8の特徴量と、その特徴量を強調した画像コントラストを得ることができる光照射条件との間の関係は、あらかじめ実験結果などにしたがって規定しておく。例えばその関係を記述したデータを記憶部300にあらかじめ格納しておいてもよいし、光制御部200の動作を規定するソフトウェア内部にあらかじめその関係を規定した動作を組み込んでおいてもよい。
【0030】
(
図4:ステップS402:補足その2)
試料8の座標と、その座標における特徴量を強調した画像コントラストを得ることができる光照射条件との間の関係は、あらかじめ光照射条件データとして記述して記憶部300に格納しておいてもよい。この場合、S401において取得する試料データに加えて、またはこれに代えて、光照射条件データを本ステップにおいて取得することになる。換言すると光制御部200は、試料8上の座標ごとに光照射条件を決定することができればよい。
【0031】
(
図4:ステップS403)
荷電粒子制御部100は、試料8に対して電子線30を照射するとともに、電子線30を観察領域内で走査する。検出器5は、観察領域から得られる2次荷電粒子を検出し、2次荷電粒子信号として画像処理部110へ出力する。画像処理部110は、2次荷電粒子信号を用いて、観察領域の画像を生成する。
【0032】
(
図4:ステップS404)
光制御部200は、得られた観察画像のコントラストが十分であるか否かを判断する。コントラストが十分であれば本フローチャートを終了する。コントラストが十分ではない場合は、光照射条件が適切ではなかった可能性があるので、S402に戻って別の光照射条件を用いて同様の処理を実施する。コントラストが十分であるか否かは、例えば特徴量に対応する画像領域とそれ以外の画像領域との間の輝度差が閾値以上であるか否かによって判断することができる。その他適当な手法によって判断してもよい。
【0033】
(
図4:ステップS404:補足)
本ステップからS402へ戻る際には、例えば規定の光照射条件をランダムに変更した上で、S402へ戻ればよい。具体的には、例えばS402において用いるべき光照射条件として、ある程度の幅を有する値をあらかじめ定義しておく。S402を最初に実施する際にはその幅範囲内の中心値を用い、S402を2回目以降実施する際にはその幅範囲内で未使用の値をランダムに用いればよい。その他適当な方法により光照射条件を変更してもよい。例えば探索的手法によって、最適な画像コントラストが得られる光照射条件を決定してもよい。
【0034】
図5は、光照射シーケンスの具体例を示す図である。試料上には
図5上段に示す形状パターンが形成されているものとする。ラインA~ラインDそれぞれをスキャンするときの光照射シーケンスを
図5中段に示す。照射シーケンスのうちレーザパワーのピークが最も高い部分は、中央に形成されている矩形を強調するための光照射条件を表す。照射シーケンスのうち最高ピークの両側にある部分は、その両側に形成されている矩形を強調するための光照射条件を表す。
【0035】
光照射シーケンスによって得られる2次粒子信号を全てサンプリングすると(サンプリングD)、
図5下段のサンプリングDが表すように、全ての特徴量を強調した観察画像が得られる。2次粒子信号のうち一部のみをサンプリングすると、そのサンプリングした特徴量のみを強調した観察画像が得られる。サンプリングAは中央の矩形のみを強調し、サンプリングBはその両側の矩形のみを強調した例である。あるいは形状パターンが形成されていない背景部分から得られる2次粒子信号のみを強調してもよい。サンプリングCはこれに相当する。
【0036】
2次粒子信号をサンプリングすることに代えて、いったん全ての2次粒子信号を取得しておき、画像処理部110が観察画像を生成する際にいずれかの2次粒子信号を選択的に用いてもよい。この場合であっても、
図5下段と同様に各特徴量を選択的に強調した観察画像を得ることができる。
【0037】
図6Aは、ユーザが荷電粒子線装置1に対して指示入力を与えるために用いるGUI(Graphical User Interface)の1例である。GUIは例えば光制御部200が表示装置(例えばディスプレイ)上に画面表示することによって提供することができる。
【0038】
GUIの左下には、試料上に形成された形状パターンが表示されている。同種の形状パターン(例えば同じ材料によって形成されているパターン)はあらかじめグループ化されている。ユーザはGUI上で形状パターンを選択し、その形状パターンに対する光照射条件を画面右下においてセットする。光制御部200は、そのセッティングにしたがって、試料上の形状パターンごとに光照射条件をセットする。これにより、光照射箇所ごとに、その箇所に形成された試料特徴量を強調する光照射条件をセットすることができる。
【0039】
試料上の座標ごとの材料、形状パターン、回路パターン、その他の特徴量についての情報は、例えば試料上の座標ごとにこれら特徴量を記述したデータ(例:形状パターンの座標と材料を記述したデータ)をあらかじめ記憶部300に格納しておき、そのデータを読み出すことによって取得できる。あるいはいったん試料の観察画像を取得し、その観察画像上で形状パターンを画像認識によって識別することにより、形状パターンを特定することもできる。
図6A右上は観察画像の1例である。
【0040】
図6Bは、ユーザが荷電粒子線装置1に対して指示入力を与えるために用いるGUIの別例である。ユーザは、観察画像を生成する形状パターンを、GUI左下において指定する。画像処理部110は、その指定された形状パターンから得られた2次粒子信号を用いて、試料の観察画像を生成する。これにより例えば
図5において例示したように、ユーザが指定した形状パターンの特徴量のみを強調した観察画像を得ることができる。
【0041】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る荷電粒子線装置1は、荷電粒子線の照射条件にしたがって、試料に対して照射する光の照射条件を変調するシーケンスを算出し、そのシーケンスにしたがって、光照射条件を制御する。これにより、荷電粒子線の照射条件に応じて試料の特徴を強調した観察画像を得ることができる。
【0042】
本実施形態1に係る荷電粒子線装置1は、試料の特徴量ごとに、その特徴量を強調する2次荷電粒子を試料から発生させる光照射シーケンスを算出し、その光照射シーケンスにしたがって取得した2次荷電粒子信号を用いて、観察画像を生成する。これにより、試料の特徴量を個別に強調した観察画像を得ることができる。したがって試料が複数の特徴量を有している場合であっても、その複数の特徴量を観察画像上で全て強調することができる。
【0043】
本実施形態1に係る荷電粒子線装置1は、試料が有する特徴量を個別に強調した複数の観察画像を生成することもできる(
図2右下参照)。特徴量を個別に強調した複数の観察画像を生成する場合は、各観察画像のなかで特徴量をそれぞれ識別することができる。1つの観察画像を生成する場合は、特徴量全体を俯瞰的に把握することができる。
【0044】
本実施形態1に係る荷電粒子線装置1は、観察画像上に表れている試料の特徴量ごとのコントラストが十分ではない場合は、光照射条件を変更して改めて観察画像を取得する。これにより、試料の特徴量を観察画像上で確実に強調することができる。
【0045】
<実施の形態2>
実施形態1では、試料8の特徴量ごとにコントラストを強調した画像を得ることができる光照射条件を、試料8上の座標ごとに定める例を説明した。本発明の実施形態2では、光照射条件を定める手法の1例として、画像輝度分布が観察領域内で均一となるようにする例を説明する。荷電粒子線装置1の構成は実施形態1と同様である。
【0046】
図7は、試料8の観察像の輝度分布が不均一になっている例である。観察像の輝度値は様々な要因によって変動する。例えば試料8が帯電している場合、その影響によって2次荷電粒子量が変動し、その変動によって観察像上の輝度値が変化し、同じ観察条件であっても画像上の輝度分布が不均一となる場合がある。
図7においては、電子線30の照射条件と光照射条件が同じであっても、帯電による影響がある位置とそれ以外の位置との間で輝度分布が異なる例を示した。観察画像上の輝度値を変動させる要因としては、試料8の帯電以外にも様々なものがある。
【0047】
本実施形態2において、光制御部200は、
図7が例示するような輝度分布が不均一な観察画像を得た場合、輝度分布が均一となるように、光照射条件を調整する。例えばS404において輝度分布が不均一であるか否かを判定し、S404からS402へ戻る過程において光照射条件を変更する際に、輝度分布が均一となるように光照射条件を変更すればよい。
【0048】
図8は、光制御部200が光照射条件を変更する手順の1例を示す。ここでは
図7に示す輝度不均一画像に対して光照射条件を調整する例を説明する。
図7の観察像は、左上端部に近い部位は光照射条件を変更する必要がなく、右下端部に近い部位は輝度値を上げるために光強度を増やす必要がある。したがって光制御部200は、
図8右上に例示するように、画像下側に近づくほど、より広いx座標範囲に対して光強度を増やすように補正を実施する。補正後の観察画像は、
図8右下のように画像全体がより均一な輝度分布を有する。
【0049】
光制御部200は、観察画像内の輝度分布を厳密に一致させる必要はない。例えば本来は同じ輝度値を有すると想定される2つの箇所の輝度値を比較して、両者の差分が閾値以内に収まるように、光照射条件を補正すればよい。調整する光照射条件は光強度に限られるものではなく、輝度分布を均一にすることができるのであればその他の光照射条件を補正してもよい。
【0050】
同じ特徴量を有する領域(例えば同じ材料によって形成されている形状パターン)は同じ輝度分布を有すると想定されるので、その画像領域の輝度分布を均一にする必要があると考えられる。ただしそのためには、試料上の同じ特徴量を有する領域をあらかじめ把握しておく必要がある。例えば試料上の座標ごとに特徴量を記述したデータを記憶部300にあらかじめ格納しておき、光制御部200がこれを読み出すことにより、同じ特徴量を有する領域を特定できる。このデータは光照射条件を座標ごとにセットするために用いるデータと同じであってもよい。
【0051】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る荷電粒子線装置1は、観察画像の輝度分布を取得し、試料の同じ特徴量を強調した箇所においては、画像領域間の輝度分布が均一となるように、光照射シーケンスを算出する。これにより、同じ特徴量を強調する画像領域がそれぞれ異なる輝度分布を有することを抑制できる。したがって、輝度分布の相違によって同じ特徴量を誤って別の特徴量として誤認識することを抑制できる。
【0052】
<実施の形態3>
実施形態2においては、観察画像の輝度分布を取得し、同じ特徴量に対応する画像領域においては輝度分布が均一となるように光照射条件を調整することを説明した。観察画像の輝度分布が均一であるか否かは、その観察画像を生成するために用いる2次粒子信号から判定することもできると考えられる。そこで本発明の実施形態3では、2次粒子信号に基づき観察画像の輝度分布を調整する動作例を説明する。荷電粒子線装置1の構成は実施形態1と同様である。
【0053】
図9は、2次粒子信号と光照射シーケンスの例である。ここでは試料上に形成された同じ特徴量を有する領域(例えば同じ材料によって形成された領域)を横断するように電子線30をスキャンした例を示す。同じ特徴量を有する領域から得た2次粒子信号の強度は
図9のパターン3が示すようにピクセルごとに同等となるはずである。しかし実施形態2で例示した様々な要因によって、パターン1が示すように輝度分布がピクセルごとに不均一となる場合がある。そこで光制御部200は、同じ特徴量を有する領域から同等の2次粒子信号が得られるように、光照射条件をピクセルごとに調整する。
【0054】
図9のパターン1においては、ピクセル位置が進むにつれて2次粒子信号量が低下しているので、光制御部200はその低下量に応じて光照射強度を増加させる。したがってピクセル位置ごとの光照射強度は、
図9のパターン2が示すように、ピクセル位置が進むにつれて増加することになる。
【0055】
図9においては光照射量を漸増させる例を示したが、これに限らず、2次粒子信号の不均一性に応じて光照射量をピクセル位置ごとに調整することができる。例えば同じ特徴量を有する領域のピクセルのなかで2次粒子信号量が最も大きいものを基準として、その他のピクセルからも同等の2次粒子信号量が得られるように、光照射条件をセットすればよい。
【0056】
図10は、荷電粒子線装置1が同じ特徴量を有する画像領域の輝度分布を均一にする処理を説明するフローチャートである。ここでは
図9と同様に、試料上に形成された同じ特徴量を有する領域(を横断するように電子線30をスキャンする場合における動作例を示した。以下
図10の各ステップについて説明する。
【0057】
(
図10:ステップS1001)
光制御部200は、試料上に形成されている同じ特徴量を有する領域についての情報を取得する。例えば試料上の座標ごとに特徴量を記述したデータを記憶部300から読み出すことによってその情報を取得することもできるし、いったん試料の観察画像を生成してその観察画像上の同じ形状を識別することによりその情報を取得することもできる(例えば同じ形状パターンは同じ特徴量を有すると仮定する)。
【0058】
(
図10:ステップS1002)
ユーザは、後述するGUIを介して、以下の情報を入力する:(a)領域内の輝度分布をどの程度まで均一化させるかを指定する値(面内均一量);(b)輝度分布を均一化する領域のピクセルサイズ;(c)輝度分布を均一化する対象外とする領域の座標(除外領域)。
【0059】
(
図10:ステップS1003)
荷電粒子制御部100は、電子線30のスキャンを開始する。
【0060】
(
図10:ステップS1004)
光制御部200は、標準光照射パラメータを用いて、試料に対して光を照射する。標準光照射パラメータは、観察画像上で試料の特徴量を強調することができるように、その特徴量ごとにあらかじめ規定されたものである。観察倍率に応じて標準光照射パラメータを変えてもよい。
【0061】
(
図10:ステップS1005)
光制御部200は、画像処理部110が観察画像をまだ形成していないピクセル位置における2次粒子信号強度を取得する。本実施形態においては、観察画像上の輝度分布を用いることなく、2次粒子信号強度に基づき輝度分布を均一化することが目的である。本ステップはその目的にしたがって、観察画像を形成せずにその輝度分布を判定するためのものである。
【0062】
(
図10:ステップS1006)
光制御部200は、S1005において取得した2次粒子信号が、S1002においてセットした均一量の範囲内に収まっているか否かを判定する。例えばピクセル位置ごとの2次粒子信号間の差分が均一量の範囲内であるか否かを判定すればよい。範囲外であればS1007へ進む。範囲内であればピクセル位置カウンタNを1つインクリメントしてS1008へ進む。
【0063】
(
図10:ステップS1007)
光制御部200は、2次粒子信号強度が均一範囲外であるピクセル位置における光照射強度を調整する。例えば2次粒子信号強度が均一範囲よりも弱いピクセル位置においては光照射強度を10%増やし、2次粒子信号強度が均一範囲よりも強いピクセル位置においては光照射強度を10%減らす。本ステップの後はS1005へ戻って同様の処理を繰り返す。
【0064】
(
図10:ステップS1008)
全てのピクセル位置について以上の処理を完了した場合は、本フローチャートを終了する。完了していなければS1005へ戻って同様の処理を繰り返す。
【0065】
図11は、S1002においてユーザが用いるGUIの1例である。面内均一量は画面右下の「均一性」から入力できる。輝度分布を均一化する領域のピクセルサイズは画面上段の「ピクセルサイズ」から入力できる。均一化の対象外領域は、画面左下において除外領域を指定することにより指定できる。試料上に形成されている形状パターンの座標については、実施形態1と同様に取得すればよい。
図11と同様のGUIは、実施形態2においても用いることができる。
【0066】
<実施の形態3:まとめ>
本実施形態3に係る荷電粒子線装置1は、試料上の同じ特徴量有する領域においては、2次粒子信号の強度が均一となるように、光照射シーケンスを算出する。これにより、観察画像を生成する前に、実施形態2と同様の効果を発揮することができる。
【0067】
<実施の形態4>
図12Aは、試料に対して光を照射するタイミングを例示するタイミングチャートの1例である。
図12Aにおいては、試料に対して電子線30を照射していない期間(例:ラインAをスキャンする期間とラインBをスキャンする期間との間の間隙期間)において、試料に対して光を照射する。このタイミングで観察画像を取得することにより、特徴量を有する領域以外の部分を観察画像上で強調することができる。
【0068】
図12Bは、試料に対して光を照射するタイミングを例示するタイミングチャートの別例である。画像処理部110は、試料に対して光を照射していない期間における観察画像を、その他の期間における観察画像とは別に生成してもよい。例えば試料に対して光を照射していない期間における2次粒子信号をサンプリングし、あるいはその期間における2次粒子信号のみを用いて観察画像を生成する。これにより
図12Aと同様に、特徴量を有する領域以外の部分を観察画像上で強調することができる。
【0069】
<実施の形態5>
本実施形態では、照射する構造情報に応じて変化する試料への照射量を偏光面制御によって制御し、従来の電子線条件制御による2次電子放出量制御では識別が困難であった同一材料の構造を利用したコントラスト制御方法を搭載した荷電粒子線装置について説明する。本実施形態5に係る荷電粒子線装置1の構成図は実施形態1と同様である。
【0070】
図13は、本実施形態で用いた試料を示す。本実施形態においては、窒化酸化膜(SiN:Silicon Nitride)によってライン状に形成されている試料を用いた。ライン部分と基板部分が同じSiNによって形成されているので、1次電子線の照射条件でコントラストを強調・変化させることは困難である。そこで、光と構造物との間の干渉性を用いて、形状に合わせた光照射量変化によって各座標におけるコントラストを強調することとした。光は、構造物の高さや幅に応じて反射量や吸収量(照射量)に違いが生じるので、各座標の形状に合わせて光照射量を制御することにより、各座標において最適なコントラストを得ることができる。具体的には、各座標にある周辺の形状情報にしたがって、照射する光の偏光面を制御する。
【0071】
光の吸収係数と2次電子放出量の増加分との間には相関がある。そこで、偏光面制御によって照射量を制御することにより2次電子放出量を計測し、電子線単体では困難であった構造の違いを利用したコントラスト形成方法について以下説明する。
【0072】
図14は、
図13に示した試料に対して各偏光面を照射した際の試料内における光の吸収率の関係を示す。光の照射量と2次電子放出量との間には相関があり、光の照射量が増加するに従い2次電子放出量は増加する。よって、光の照射量が大きいほうが2次電子放出量の発生が多くなる。偏光面Pを照射した場合、凸部は光が照射されるので光の吸収率が90%であり、たいして凹部では構造によって光が反射されるので10%となった。偏光面Sを照射した場合、凸部では80%の光が照射され、凹部でも光が回折して照射されるので80%の光が照射される。本特性を利用して、構造に依存しないコントラスト制御形成に向けて、照射位置に合わせて光の偏光面を調整・制御・照射する。また、
図14はGUI上にも表示可能である。
【0073】
図15は、SEMの走査信号に同期して光の偏光面を制御・照射する光学系の例を示す。光源13より出射したレーザ光をビームスプリッタ55によって分割し、1つの光路はP偏光板53によってP偏光に偏光し、もう一方の光路はS偏光板54によってS偏光に偏光する。電気変調素子52は、SEMのスキャン信号に同期して、スキャンする場所に合わせて照射するレーザの偏光面を制御する。電気変調素子52は、音響光学変調器や電気光学変調器等によって実装することができる。
【0074】
図16は、
図13の試料を用いて、パターンに合わせて照射する光の偏光面を制御した場合のSEM像を示す。
図16(1)は、光を照射せずに取得したSEM像である。
図16(2)は、凸部にP偏光、凹部にS偏光を同量照射した場合のSEM像を示す。
図16(3)は、凹凸部にP偏光を照射した際のSEM像を示す。凹部に対してP偏光の光を照射すると、凹部に対しての光照射率が低いので、2次電子放出量が小さくなり、凸凹部のコントラストが大きくなる。そのため、SEM像コントラストが凸部>凹部となる。
図16(4)は、コントラストが凸部<凹部となるように、P偏光とS偏光との照射量を制御して照射した場合のSEM像を示す。
【0075】
図17は、
図16(4)のSEM像を取得する場合のSEMおよび光照射条件のタイムシーケンスを示す。
図17上段の図は、SEMのスキャン方向を示す。
図17下段は、本SEMのスキャンシーケンスと光の照射シーケンスを示す。本スキャンシーケンスに示すように、色々な動作をするSEMのスキャンシーケンスに合わせて光照射条件を制御することが可能である。
【0076】
図18は、本実施形態5において荷電粒子線装置1が提供するGUIの例を示す。上段左側には、電子線照射条件を設定する電子線照射条件設定部が表示される。上段右側には、SEM像が表示される。「撮像」ボタンで撮像可能である。「観察」ボタンが活性の場合は、SEM観察像表示部にリアルタイムでSEM像が表示される。下段左側に光・Scan条件設定部があり、上段左側の電子線照射条件のスキャンモードに「ベクタ」が選択されている場合は、「ベクタScan設定」部においてScan方向を設定する。ベクタScan設定には、SEMの走査方向が左右行き来しながらスキャンする「左右」モード、ランダムにスキャンする「ランダム」モード、パターン毎にスキャンを実施する「パターン認識」モード、ユーザがスキャン方向やスキャンシーケンスを決定する「手動設定」モードがある。各パターンに合わせて光の照射条件を設定する手法は実施形態1で示したGUIと同様である。GUIの左下には、試料上に形成された形状パターンが表示されている。同種の形状パターン(例えば同じ材料によって形成されているパターン)はあらかじめグループ化されている。ユーザはGUI上で形状パターンを選択し、その形状パターンに対する光照射条件を画面右下においてセットする。光制御部200は、そのセッティングにしたがって、試料上の形状パターンごとに光照射条件をセットする。これにより、光照射箇所ごとに、その箇所に形成された試料特徴量を強調する光照射条件をセットすることができる。光照射条件は
図18の右下で設定可能であり、各形状パターンによって弁別された光照射条件ごとに光照射条件が設定可能である。本実施形態では、各領域(図中のA、B)に応じて偏光面と強度比率が設定可能である。
【0077】
試料上の座標ごとの材料、形状パターン、回路パターン、その他の特徴量についての情報は、例えば試料上の座標ごとにこれら特徴量を記述したデータ(例:形状パターンの座標と材料を記述したデータ)をあらかじめ記憶部300に格納しておき、そのデータを読み出すことによって取得できる。あるいはいったん試料の観察画像を取得し、その観察画像上で形状パターンを画像認識によって識別することにより、形状パターンを特定することもできる。
【0078】
本実施形態を用いれば、各座量の形状に応じて変化する2次電子放出量を偏光面によって制御し、加速電圧制御による2次電子放出量制御では識別が困難であった同一材料の形状コントラストを反映した情報の取得が可能になる。
【0079】
<特徴量に合わせて光照射条件を変調する方法について>
図19と
図20は、試料の特徴量に合わせて光の照射パラメータを変調する光学構成の例について説明する。この光学構成は、上記各実施形態において用いることができる。
【0080】
図19は、光照射条件である光の平均強度と照射量を制御する光学構成の例について示す。
図19(1)に示すように、電気光学効果素子を用いて、試料の特徴量に合わせた強度変調を実施する。電気光学効果素子は、LBO(三ホウ酸リチウム)等に電圧を印可することにより結晶の偏光面を変化させ、透過率を変調する光学素子である。そこで、試料の特徴量にあわせた光の強度を照射するために、光制御部200で算出された光制御信号を電気光学素子に入力し、各ピクセルに合わせて光の照射量や強度を変調することが可能である。
図19(2)は、光源13として半導体レーザを用いた場合の例を示す。半導体レーザは、入力電流に応じて光の照射量が変化するので、各座量に合わせた強度変調条件を光制御部200より、半導体レーザ制御部58に入力することで、半導体レーザへの入力電流量を制御し、試料への光照射量を制御する。光の強度変調には、音響光学素子や磁気光学素子を用いて制御してもよい。
【0081】
図20は、光の照射条件である光の波長を制御する光学構成の例について示す。
図20(1)は、音響光学素子59を用いて各波長の照射タイミングを制御する光学構成である。光源13より出射した光は、ビームスプリッタ55によって分割され、一方向の光は、音響光学素子59と偏光子61を通る。もう一方向の光路は、波長を変調するための第2高調波発生装置60を通り元波長とは違う波長に変調され、また音響光学素子59と偏光子61を通り、ビームスプリッタ55によってもう一方の光路と合流する光学構成となっている。この際、各波長の光路に設置された音響光学素子59は、試料の特徴量に合わせて各波長のレーザの照射タイミングを制御し、照射する。
図20(2)は、光源に白色光源57とエタロンフィルタを用いて、試料の特徴量に合わせた光の照射制御する光学構成について示す。エタロンフィルタは、フィルタへの入射光角度に依存して、透過する光の波長が変化する特性を持った光学素子である。本発明では、光源に白色光源57を用い、光に対するエタロンフィルタの入射角度を機械的ステージ56によって制御することにより、試料への照射光の波長を制御する。エタロンフィルタの角度制御は、光制御部200で算出された波長が出力されるように制御されている。白色光源57は、ハロゲンランプやスーパーコンテニアム光源でもいいし、キセノンランプ等の様々な波長の光が出射可能な光源であれば何を用いてもよい。
【0082】
図示はしないが、一つの光学構成上に波長の異なる複数のレーザを設置し、試料の特徴量に合わせて電気光学素子や音響光学素子を動作させることにより、試料に照射する波長を特徴量に合わせて制御・照射する方法もある。
【0083】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0084】
以上の実施形態において、荷電粒子制御部100、画像処理部110、および光制御部200は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0085】
以上の実施形態において、荷電粒子線装置1の例として走査電子顕微鏡を説明したが、その他の荷電粒子線装置においても本発明を適用することができる。すなわち試料に対して光を照射することにより2次荷電粒子の発生をアシストする荷電粒子線装置において、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1:荷電粒子線装置
2:電子銃
3:偏向器
4:電子レンズ
5:検出器
13:光源
52:電気変調素子
53:P偏光板
54:S偏光板
55:ビームスプリッタ
56:機械的ステージ
57:白色光源
58:半導体レーザ制御部
59:音響光学素子
60:第2高調波発生装置
61:偏光子
62:エタロンフィルタ
100:荷電粒子制御部
110:画像処理部
200:光制御部
300:記憶部