(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】真空計
(51)【国際特許分類】
G01L 19/06 20060101AFI20240214BHJP
G01L 9/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01L19/06 Z
G01L9/12
(21)【出願番号】P 2023028389
(22)【出願日】2023-02-27
(62)【分割の表示】P 2017229399の分割
【原出願日】2017-11-29
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】岸田 創太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 圭裕
(72)【発明者】
【氏名】中井 淳也
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-243887(JP,A)
【文献】特開2007-155500(JP,A)
【文献】特開2002-328045(JP,A)
【文献】特表平11-502657(JP,A)
【文献】特開2015-152348(JP,A)
【文献】特開平10-9979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0070447(US,A1)
【文献】特表2004-521328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32,27/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定空間内の雰囲気と接触するダイアフラムと、前記ダイアフラムに対向させて設けられた検出電極とを具備し、当該測定空間内の圧力に応じた出力信号を出力するセンシング機構と、
前記センシング機構の出力信号が入力され、圧力値を算出する圧力算出回路と、
前記センシング機構を温調するヒータと、を備え、
前記ヒータの設定温度が可変であり、
前記圧力算出回路が
前記センシング機構の出力信号に基づいて圧力値を算出する圧力算出部と、
前記圧力算出部が算出する圧力値を補正するための補正係数を記憶する補正係数記憶部と、
外部入力によって受け付けた前記設定温度と、前記補正係数とに基づいて、補正後の圧力値を算出するための補正部と、を備え
、
補正係数記憶部が、前記ヒータの複数の設定温度と、当該複数の設定温度に応じた複数の補正係数を記憶しており、
前記補正部が、外部入力によって受け付けた前記設定温度と、これに対応する前記補正係数とに基づいて、前記圧力算出部が算出する圧力値を補正する真空計。
【請求項2】
前記補正係数記憶部が、前記ヒータの複数の設定温度と、当該複数の設定温度のそれぞれに個別に対応する複数の補正係数を記憶する請求項
1に記載の真空計。
【請求項3】
前記補正係数記憶部が、前記ヒータの複数の設定温度のそれぞれに対応する複数の補正係数をテーブル形式で記憶している請求項
2に記載の真空計。
【請求項4】
前記センシング機構、温度センサ及び前記ヒータを具備するセンサモジュールと、
前記圧力算出回路、及び前記ヒータの温度を制御するヒータ制御回路を具備し、前記センサモジュールから離間させて設けられた本体モジュールと、を備え、
前記ヒータ制御回路が、前記温度センサの測定温度と外部入力によって受け付けられた設定温度との偏差が小さくなるように前記ヒータを温度制御する請求項
2又は3に記載の真空計。
【請求項5】
前記センサモジュールと前記本体モジュールとの間を所定距離離間させ、前記センサモジュールで発生する熱が前記本体モジュールへと伝熱するのを妨げる断熱モジュールをさらに備えた請求項
4に記載の真空計。
【請求項6】
前記本体モジュールに対して前記センサモジュールが、着脱可能である請求項
4又は5記載の真空計。
【請求項7】
前記圧力算出回路が、
前記センシング機構に対応する校正データを記憶する校正データ記憶部と、
前記センシング機構の出力信号と、前記校正データに基づいて圧力値を算出する圧力算出部と、を備え、
前記校正データ記憶部が、外部入力により校正データを更新可能に構成されている請求項
6記載の真空計。
【請求項8】
前記センサモジュールが、前記センシング機構と前記ヒータが一体となって前記本体モジュールに対して着脱可能に構成されている請求項
4~7のいずれかに記載の真空計。
【請求項9】
前記断熱モジュールには、
前記センシング機構と前記圧力算出回路との間を接続するメインコネクタと、
前記ヒータと前記ヒータ制御回路との間を接続するサブコネクタと、が設けられており、
前記サブコネク
タが、
前記ヒータと前記ヒータ制御回路との間を接続する可撓性を有する
コードである請求項
5記載の真空計。
【請求項10】
前記メインコネクタが、
前記センシング機構の出力信号が伝送される中心導線と、
前記中心導線の側周面を覆い、電気的に絶縁する筒状の絶縁体と、
前記絶縁体の外側周面を覆う外導体と、を備え、
前記断熱モジュールには、外導体のさらに外側を覆う筒状の導体製のコネクタソケットが設けられている請求項
9記載の真空計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体プロセスにおいて、成膜が行われる真空チャンバ内ではその真空度をモニタリングするために真空計が設けられている。真空計は、特許文献1に示されるように真空室内の雰囲気にさらされるセンシング機構と、センシング機構から圧力に応じて出力される出力信号が入力され、圧力を示す圧力信号へと変換する圧力算出回路と、を備えている。
【0003】
近年、半導体プロセスの微細化とともに、多種多様な材料ガスが真空チャンバ内に導入されるようになっており、新しい材料ガスの中には従来の材料ガスと比較して凝縮温度が非常に高いものも存在している。
【0004】
このため、センシング機構に対して凝縮しやすい材料ガスの一部が凝縮し、その成分が堆積して、圧力に対する感度が低下したり、センサとしての寿命が短くなったりするといった問題が発生するようになっている。センシング機構に堆積が生じると真空計全体を真空チャンバから交換しなくてはならず、段取り替えや校正に時間がかかり、半導体製造プロセスのダウンタイムが長くなるので、スループットが悪化してしまう。
【0005】
また、材料ガスの中には凝縮させないようにするために高温に設定すると、分解が生じてしまい、意図した成分による成膜が実現できなくなるものもある。したがって、真空チャンバ内に複数種類の材料ガスが導入される場合には、材料ガスの特性に応じた真空計を個別に用意しているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題を解決することを意図してなされたものであり、様々な種類の材料ガスが導入される雰囲気にセンシング機構がさらされる場合でも、当該センシング機構への物質の堆積を防ぎ、長寿命化を実現できる真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る真空計は、測定空間内の雰囲気と接触し、当該測定空間内の圧力に応じた出力信号を出力するセンシング機構と、前記センシング機構を温調するヒータと、を備え、前記ヒータの設定温度が可変であることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、例えば測定空間内に存在するガスの凝縮温度や分解温度に応じてセンシング機構においてガスの凝縮が生じない温度で保つことができ、測定空間内に様々な種類のガスが導入される場合でもセンシング機構に対してガスの成分が堆積することを防ぐことができる。
【0010】
したがって、長期間にわたって真空計としての感度を保ち、寿命を延ばすことができるので、例えば半導体プロセスのダウンタイムの発生頻度を低下させ、スループットを向上させることが可能となる。
【0011】
真空計の外部から前記ヒータを制御するための温度制御信号を受信することなく、当該真空計内だけで前記ヒータの温度制御が実現されるようにし、配線等の構造を簡略化できるようにするには、前記センシング機構を具備するセンサモジュールと、
前記センシング機構の出力信号が入力され、圧力値を算出する圧力算出回路、及び、前記ヒータの温度を制御するヒータ制御回路を具備する本体モジュールと、を備え、
前記ヒータ制御回路が、前記ヒータの温度が入力された設定温度となるように前記ヒータの電流又は電圧を制御するものであればよい。
【0012】
センシング機構を十分に温調できたとしても、わずかではあるがガスの成分が堆積し、真空計の交換がいずれ必要となる場合がある。このような場合でも、問題のあるセンシング機構の部分だけを交換できるようにして、全体を交換してなくても良いようにし、例えば半導体プロセスのダウンタイムを最小にできるようにするには、前記本体モジュールに対して前記センサモジュールが、着脱可能であればよい。
【0013】
従来のセンサモジュールと本体モジュール部が分離して着脱できない真空計では、真空計の寿命が尽きた場合には、真空計全体を交換し、例えばその場で校正を行うことがあった。このため、校正に必要となる時間分だけ、例えば半導体プロセスのダウンタイムが長くなるという問題が発生していた。このような校正作業に係る時間を短縮又は無くし、前記センサモジュールを交換してすぐに正確な圧力値を得られるようにして、ダウンタイムを短縮できるようにするには、前記圧力算出回路が、前記センシング機構に対応する校正データを記憶する校正データ記憶部と、前記センシング機構の出力信号と、前記校正データに基づいて圧力値を算出する圧力算出部と、を備え、前記校正データ記憶部が、外部入力により校正データを更新可能に構成されていればよい。このようなものであれば、例えば真空計の製造業者においてセンサモジュールごとに予め校正作業を行っておき、その校正データを前記センサモジュールとともに販売することで交換作業時に前記校正データ記憶部に新しいセンサモジュールに対応する校正データへ書き換えるだけで、すぐに正確な圧力値を得ることが可能となる。
【0014】
測定空間内に様々な種類のガスが導入されるため、前記ヒータの設定温度が適宜変更されるような場合でも、温度の違いにより前記圧力算出回路で算出される圧力値の正確さが損なわれないようにするには、前記圧力算出回路が、前記ヒータの設定温度に応じた補正係数を記憶する補正係数記憶部と、前記補正係数に基づいて、前記圧力算出部が算出する圧力値を補正する補正部と、をさらに備えたものであればよい。
【0015】
前記センシング機構に対するガスの成分の堆積を防ぐためにヒータを高温に保たなくてはならない場合でも、その熱の影響で前記圧力算出回路が動作不良や故障を起こさないようにするには、前記センサモジュールと前記本体モジュールとの間を所定距離離間させ、前記センサモジュールで発生する熱が前記本体モジュールへと伝熱するのを妨げる断熱モジュールをさらに備えたものであればよい。
【0016】
前記本体モジュールに対して前記センサモジュールを交換した際に、前記センシング機構に対する前記ヒータの位置がずれて所望の温調態様が実現されなくなるといった事態を確実に防ぎ、常に理想的な温調を実現できるようにするには、前記センサモジュールが、前記センシング機構と前記ヒータが一体となって前記本体モジュールに対して着脱可能に構成されていればよい。
【0017】
前記本体モジュールと前記センサモジュールとの間で信号のやりとりをするために複数のラインが必要である場合でも、各部品の寸法誤差や位置誤差の影響を受けることなく、前記本体モジュールに対して前記センサモジュールを簡単に取り付けられるようにするには、前記本体モジュールが、前記ヒータの温度を制御するヒータ制御回路をさらに具備し、前記断熱モジュールには、前記センシング機構と前記圧力算出回路との間を接続するメインコネクタと、前記ヒータと前記ヒータ制御回路との間を接続するサブコネクタと、が設けられており、前記メインコネクタ又は前記サブコネクタの少なくとも一方が、可撓性を有するものであればよい。
【0018】
前記本体モジュールと前記センサモジュールとの離間距離が大きく、外部からのノイズが前記メインコネクタに対して入射しやすい場合でも、そのようなノイズの影響が前記センシング機構の出力信号に重畳しにくくし、正確な圧力値が得られるようにするには、前記メインコネクタが、前記センシング機構の出力信号が伝送される中心導線と、前記中心導線の側周面を覆い、電気的に絶縁する筒状の絶縁体と、前記絶縁体の外側周面を覆う外導体と、を備え、前記断熱モジュールには、外導体のさらに外側を覆う筒状の導体製のコネクタソケットが設けられていればよい。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明に係る真空計によれば、前記センシング機構を温調する前記ヒータの設定温度が可変であるので、測定空間内に様々な種類のガスが導入される場合でもガスの種類に応じた温度に設定して、センシング機構へのガスの成分の堆積を防ぐことができる。したがって、例えば半導体プロセスの微細化に伴い、凝縮しやすい材料ガスが用いられている場合でも、真空計としての寿命が縮んでしまうのを防ぎ、半導体プロセスのダウンタイムが発生する頻度を低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る真空計を示す模式的斜視図。
【
図2】同実施形態における真空計を示す模式的断面図。
【
図3】同実施形態における真空計のセンサモジュールを外した状態を示す模式的斜視図。
【
図4】同実施形態における真空計のセンサモジュールを外した状態を示す模式的断面図。
【
図5】同実施形態における真空計のメインコネクタを示す模式的断面図。
【
図6】同実施形態における真空計の各機能を示す機能ブロック図。
【
図7】同実施形態におけるメインコネクタの模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る真空計100について
図1乃至図を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の真空計100は、例えば半導体プロセスにおいて成膜等が行われる測定空間である真空チャンバ内の真空度をモニタリングするために用いられるものである。この真空計100は、真空チャンバの隔壁の外側に設けられ、真空チャンバ内部と連通するように接続される。
【0023】
図1に示すように、真空計100は先端部に真空継手VCが設けられ、基端部に外部へ測定されている圧力値を出力するための出力端子Tが設けられた概略直方体状のものである。
【0024】
図2の断面図に示すように、この真空計100はケーシングC内に3つのモジュールが収容又は形成してある。すなわち、3つのモジュールは、ケーシングCの先端側に収容される真空チャンバ内の雰囲気と連通するセンサモジュール1と、ケーシングCの基端側に形成され、センサモジュール1からの出力信号を処理する、あるいは、センサモジュール1を制御するための回路等が収容された本体モジュール2と、ケーシングCの中間部分でありセンサモジュール1と本体モジュール2との間に形成され、センサモジュール1の発熱が本体モジュール2へ伝熱するのを妨げる断熱モジュール3と、からなる。
【0025】
本実施形態の真空計100では、本体モジュール2及び断熱モジュール3に対してセンサモジュール1が着脱可能に構成してある。具体的には、
図3に示すようにケーシングCの一つの側面をなすカバーC1をケーシングCの長手方向に対してスライド移動可能に構成されており、
図4の断面図に示すようにセンサモジュール1と本体モジュール2との間の接続を解除してケーシングC内から取り外すことができる。また、逆にケーシングCを開けた状態でセンサモジュール1を収容して、本体モジュール2に対して取り付けることも可能である。
図2に示すように本体モジュール2はその側面がケーシングCからビス等の固定部材Fにより押圧固定されることでケーシングC内の位置が固定される。また、この固定部材Fを取り外すことでケーシングC内から取り外すことができる。また、センサモジュール1の上面側は本体モジュール1との間は断熱モジュール3内に設けられた着脱可能なメインコネクタMCによって接続される。
【0026】
以下に各モジュールの詳細について説明する。
【0027】
センサモジュール1は、
図2及び
図5の断面拡大図に示すように、真空チャンバに対して取り付けられる真空継手VCと、真空チャンバ内の雰囲気に対して一部がさらされるセンシング機構Sと、センシング機構Sの周囲に設けられたヒータ16と、を備えたものである。
【0028】
センシング機構Sは、隔膜式の静電容量型の圧力検出機構であり、真空継手VCから真空チャンバ内の雰囲気が導入される導入空間11と、例えば大気圧等の基準圧力側との間を仕切るダイアフラム12と、前記ダイアフラム12の中央部に対向させて設けられた検出電極13と、検出電極13の電位を出力信号として本体モジュール2へ出力するための出力電極14と、を備えたものである。
【0029】
ダイアフラム12は、薄膜円板状のものであり、その外周部が挟持体により挟まれて支持されている。真空チャンバ内の圧力が変化するとダイアフラム12の両面間の圧力差によって膜変形が生じるように構成されている。ダイアフラム12の導入空間11側には、真空チャンバ内に導入される材料ガスの成分も流入し、そのガスが付着、凝縮して堆積する可能性がある。
【0030】
検出電極13とダイアフラム12との間にはわずかなギャップが形成されており、ダイアフラム12が変形することで検出電極13の検出面とダイアフラム12の中央部との離間距離が変化する。検出電極13はこの離間距離の変化による静電容量の変化を電位の変化として検出するものである。
【0031】
センシング機構Sは、概略立方体形状をなす金属製の収容体15の中に収容されており、この収容体15の外側面に対してヒータ16が設けられる。具体的には、ヒータ16は例えばフィルムヒータ16であって、薄肉円筒状に収容体15に対して巻き回されており、印加される電圧量、又は、電流量によってその設定温度を変更できるものである。
図5に示すように、ヒータ16は、ダイアフラム12を中心として先端側と基端側に延びるように配置されており、主にダイアフラム12の温度が所望の温度で保たれるようにしてある。また、ヒータ16の外周側に断熱のためにインシュレータ17が設けられている。
【0032】
本実施形態では、センシング機構S及びヒータ16は一体となってセンサモジュール1を構成しており、センシング機構Sに堆積が生じて交換が必要となった場合には、ヒータ16も併せて交換されることになる。
【0033】
本体モジュール2は、センシング機構Sの出力信号に基づいて圧力値を算出する圧力算出回路PBと、ヒータ16への給電、及び、制御を司るヒータ制御回路CBを具備している。
【0034】
圧力算出回路PB、及び、ヒータ制御回路CBは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等の入出力手段を備えたいわゆるマイクロコンピュータを備えたものであり、メモリに格納されているプログラムが実行され、各種機器が協業することによりその機能が実現されるものである。
【0035】
圧力算出回路PBは、
図6に示すように少なくとも校正データ記憶部22、圧力算出部23、補正係数記憶部24、補正部25としての機能を発揮するように構成されている。
【0036】
校正データ記憶部22は、現在接続されているセンシング機構Sの特性を示す校正データを記憶しているものである。校正データは、例えばセンシング機構Sの出力信号の示す電圧値と、圧力値との間の関係を示す検量線である。この校正データについては外部入力によって書き換え可能に構成されている。すなわち、センサモジュール1が交換された際には、そのセンサモジュール1に対応する個別の校正データに書き換えることで正確な圧力値を圧力算出回路PBが算出できるようになる。校正データについては、真空計100が設けられている真空チャンバにおいて校正を行い作成してもよいが、製造業者において出荷前のセンサモジュール1の検査時等に校正を行い、そこで得られた校正データとセンサモジュール1をともに提供するようにした方が良い。このようにすれば、センサモジュール1の交換時に校正作業を行わなくても、校正データ記憶部22に新しいセンサモジュール1に対応する校正データを上書きするだけですぐに正確な圧力を得ることが可能となる。
【0037】
圧力算出部23は、センシング機構Sから出力される出力信号の示す電圧値と、校正データ記憶部22に記憶されている校正データに基づいて圧力値を算出するものである。
【0038】
補正係数記憶部24は、ヒータ16の設定温度に応じた補正係数を記憶するものである。すなわち、補正係数は、ダイアフラム12の温度によって変形量が変化するのに対応させて、正しい圧力値が出力されるようにするための係数である。例えば補正係数記憶部24は、各設定温度に対応する補正係数をテーブル形式で記憶している。
【0039】
補正部25は、前記補正係数に基づいて、前記圧力算出部23が算出する圧力値を補正する。具体的には補正部25は、ヒータ16に設定されている設定温度を参照し、その設定温度に対応する補正係数を補正係数記憶部24から読み出す。そして、補正部25は、圧力算出回路PBから出力されている圧力値に対して読みだされた補正係数を乗じて補正後の圧力値を算出する。
【0040】
ヒータ制御回路CBは、例えばユーザからの外部入力によって設定温度を受け付け、その設定温度となるようにヒータ16に印加される電圧値又は電流値をフィードバック制御するものである。本実施形態ではヒータ16制御部に受け付けられる設定温度のレンジは100℃以上300℃以下に設定してある。これは、真空チャンバ内に導入される可能性のある材料ガスの凝縮温度の範囲に応じて設定されている。すなわち、ユーザは真空チャンバ内に導入される材料ガスの種類に応じて、凝縮及び分解が生じない適切な温度を選択して、設定温度とすることができる。また、ヒータ制御回路CBは、例えばセンサモジュール1内に設けられたサーミスタ等の温度センサの測定温度と設定温度との偏差が小さくなるように温度フィードバック制御により、ヒータ16に印加する電流又は電圧を制御するものである。
【0041】
最後に断熱モジュール3について説明する。
図2に示すように断熱モジュール3は、センサモジュール1と本体モジュール2との間を所定距離離間させるとともに、断熱のための空間を有しているものである。この断熱モジュール3においてセンサモジュール1及び本体モジュール2との境界部分にも断熱材31が配置してあり、センサモジュール1内のヒータ16の発熱が本体モジュール2へと伝熱しにくくしてある。センサモジュール1と断熱モジュール3との離間距離は例えばヒータ16に最高温度の設定温度が設定されている場合でも、ヒータ16からの熱により、本体モジュール2内の圧力算出回路PB及びヒータ制御回路CBに誤動作や故障が生じないように温度までしか本体モジュール2の温度が上昇しないように構成されている。
【0042】
この断熱モジュール3が設けられており、センサモジュール1と本体モジュール2との間が離れているので、信号の送受信や電力の供給のために、この断熱モジュール3内にはセンサモジュール1と本体モジュール2との間を接続する複数のコネクタが設けられている。
【0043】
具体的には、断熱モジュール3の中央部に設けられ、センシング機構Sと圧力算出回路PBとの間を接続するメインコネクタMCと、ヒータ16とヒータ制御回路CBとの間を接続するサブコネクタ(図示しない)と、が設けられている。
【0044】
メインコネクタMCは、
図7の拡大図に示すようにセンシング機構Sの出力信号が伝送される中心導線32と、中心導線32の側周面を覆い、電気的に絶縁する筒状の絶縁体33と、前記絶縁体33の外側周面を覆う外導体34と、を備えている。また、このメインコネクタMCの各端部には、センシング機構Sの出力電極14又は圧力算出回路PBの入力端子21が差し込まれた際に半径方向に対して押圧するコンタクトバネ36が設けられている。また、センシング機構Sの出力電極14及び圧力算出回路PBの入力端子の周囲をそれぞれ覆う円筒状のシールドに対してもメインコネクタMCの端部は嵌合し、そこでもコンタクトバネ36により半径方向内側へ押圧されるようにしてある。各コンタクトバネ36によって出力電極14、及び、入力端子21が十分に差し込まれた際に抵抗が発生するようにしてあり、センサモジュール1を交換した際にメインコネクタMCによって本体モジュール2の圧力算出回路PBと十分に接続されていることを目視せずに確認できるようにしてある。
【0045】
さらに断熱モジュール3には、メインコネクタMCの周囲を覆う円筒状で導体製のコネクタソケット35が設けられている。このコネクタソケット35は断熱モジュール3内において固定されており、アース電位となるように接地されている。すなわち、メインコネクタMCの中心導線32は外導体34とメインコネクタMCによって2重にシールドされていることになる。このため、センシング機構Sと圧力算出回路PBとの間が離れていても、ノイズがセンシング機構Sの出力信号に重畳しにくくでき、正確な圧力値を得やすくしている。
【0046】
サブコネクタについては、メインコネクタMCとは異なり可撓性を有するコードでヒータ16とヒータ制御回路CBを接続するようにしてある。このようにすることで、各端子の位置精度や厳しく管理しなくてもセンサモジュール1と本体モジュール2との間を容易に接続できる。
【0047】
このように構成された本実施形態の真空計100であれば、センシング機構Sを温調するヒータ16の設定温度が可変であるので、真空チャンバ内に様々な種類の材料ガスに応じた温度でセンシング機構Sを温調できる。したがって、材料ガスの凝縮温度や分解温度に応じて最も適した温度でセンシング機構Sを温調して、真空チャンバでの成膜等には影響を与えることなく、センシング機構Sのダイアフラム12に対して材料ガスの凝縮による成分の堆積を防ぐことができる。
【0048】
このため、半導体プロセスの微細化に伴い従来使用されていなかった材料ガス等が使用されている場合でも、センシング機構Sの長寿命化を実現でき、ダウンタイムの発生頻度を低減し、スループットを向上させることができる。
【0049】
また、センシング機構Sに対してわずかずつの堆積が進み最終的に寿命を迎えた場合でも、本体モジュール2については残したまま、センサモジュール1のみを消耗品として交換するだけで、すぐに圧力の測定を再開することができる。この際、センサモジュール1の交換とともに対応する校正データを校正データ記憶部22に上書きすることで、交換時における校正作業を省略することができる。
【0050】
したがって、センサモジュール1の交換から圧力の測定の再開までにかかる時間を従来よりも大幅に短縮し、ダウンタイム自体の長さも短縮できる。
【0051】
その他の実施形態について説明する。
【0052】
前記実施形態では、センサモジュールと本体モジュールとの間を所定距離離間させるように断熱モジュールを設けていたが、例えばセンサモジュールでの発熱が本体モジュールへ伝熱するのを十分に遮断できるのであれば、断熱モジュールを省略してもよい。すなわち、センサモジュールと本体モジュールが隣接して設けられるようにしても構わない。
【0053】
本体モジュールに対してセンサモジュールを着脱可能に構成していたが、例えばヒータの加熱によってセンサモジュールがほぼ交換不要である場合には、本体モジュールとセンサモジュールを一体にし、分離不可能にしてもよい。この場合、少なくともヒータの設定温度が可変であればよい。
【0054】
センシング機構については隔膜式の圧力検出機構に限られない。例えば電離式の圧力検出機構であってもよいし、構造体の振動数と圧力との関係に基づいて圧力を検出する者であっても構わない。
【0055】
真空計の測定空間は成膜が行われるような真空チャンバに限られるものではなく、その他の空間を測定空間とするものであってもよい。
【0056】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な実施形態の変形や、実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0057】
100・・・真空計
1 ・・・センサモジュール
11 ・・・導入空間
12 ・・・ダイアフラム
13 ・・・検出電極
14 ・・・出力電極
15 ・・・収容体
16 ・・・ヒータ
17 ・・・インシュレータ
2 ・・・本体モジュール
21 ・・・校正データ記憶部
22 ・・・圧力算出部
23 ・・・補正係数記憶部
24 ・・・補正部
PB ・・・圧力算出回路
CB ・・・ヒータ制御回路
3 ・・・断熱モジュール
31 ・・・断熱材
32 ・・・中心導線
33 ・・・絶縁体
34 ・・・外導体
35 ・・・コネクタソケット
36 ・・・コンタクトバネ
MC ・・・メインコネクタ