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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240215BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021186227
(22)【出願日】2021-11-16
(65)【公開番号】P2022155458
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2021057955
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雄之
(72)【発明者】
【氏名】木下 晋平
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099780(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014702(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0191159(US,A1)
【文献】国際公開第2011/002087(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/030586(WO,A1)
【文献】特開2007-231245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0184070(US,A1)
【文献】特開2008-127509(JP,A)
【文献】特開2012-046766(JP,A)
【文献】特開2010-047772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/00
H01L 33/48-33/64
G02B 5/20- 5/28
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第一窒化物と、セリウム源と、を含む混合物を準備することと、
前記混合物を、窒素ガスを含む雰囲気下、1300℃以上1900℃以下の温度で熱処理して第二窒化物を得ることと、を含み、
前記第一窒化物は、リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、セリウムと、を組成に含み、窒素を3とする場合に、リチウムの含有比が0以上0.6以下、カルシウム及びストロンチウムの総含有比が0.4以上1以下、ケイ素の含有比が1以上1.7以下、アルミニウムの含有比が0.4以上1以下、セリウムの含有比が0.001以上0.1以下である組成を有し、
前記第二窒化物は、窒素を3とする場合に、リチウムの含有比が0以上0.6以下、カルシウム及びストロンチウムの総含有比が0.4以上1以下、ケイ素の含有比が1以上1.7以下、アルミニウムの含有比が0.4以上1以下、セリウムの含有比が0.002以上0.1以下である組成を有し、
前記準備された混合物は、前記第一窒化物に対する前記セリウム源の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記準備された混合物におけるセリウム源は、酸化セリウム、窒化セリウム及びフッ化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理して第二窒化物を得ることは、0.1MPa以上200MPa以下の圧力下で実施される請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記準備された混合物における第一窒化物は、リチウム源、カルシウム源及びストロンチウム源からなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウム源と、ケイ素源と、を含む原料混合物を、窒素ガスを含む雰囲気下に1200℃以上2000℃以下の温度で熱処理して準備される請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム源は、リチウムアミド及び窒化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウム源は、窒化カルシウム及びフッ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項3又は4に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理により得られる第二窒化物の組成におけるセリウムの原子分率が、前記混合物における第一窒化物の組成におけるセリウムの原子分率よりも大きい請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理により得られる第二窒化物は、下記式で表される組成を有する請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
(LiSi・((Ca,Sr)AlSiN(1-x):Ce
(式中、x、yは、0≦x<1、0.002≦y≦0.1を満たす。)
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法で製造される窒化物蛍光体であり、
リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、セリウムと、を組成に含み、
アルミニウムのモル含有量を1とする場合にセリウムのモル含有量が0.01より大きい組成を有し、
CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶として含み、
X線回折パターンから算出される結晶子サイズが70nm以下である窒化物蛍光体。
【請求項9】
下記式で表される組成を有する請求項に記載の窒化物蛍光体。
(LiSi・((Ca,Sr)AlSiN(1-x):Ce
(式中、x、yは、0≦x<1、0.006<y≦0.1を満たす。)
【請求項10】
下記式で表される組成を有する請求項に記載の窒化物蛍光体。
(LiCaSr)AlSi:Ce
(式中、m、n、r、s、t、u及びvは、0<m<1、0<n<1、0≦r<1、0<s<1、1<t<2、2.7≦u≦3.3、0.006<v≦0.1を満たす。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光源装置から射出された光をマイクロミラー表示素子等によって、スクリーン上に投影してカラー画像を表示させる画像投影装置(プロジェクター)においては、光源装置の高出力化が求められている。これに伴い、光源装置に使用される蛍光体には、高い出力特性が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Li、Ca、Si、Al、O、N及びCeを含み、CaAlSiN結晶を母体結晶とする蛍光体が記載され、発光効率が高く、高輝度発光するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/110457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、高エネルギーで励起する場合に十分な発光強度が得られる窒化物蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様に係る窒化物蛍光体の製造方法は、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第一窒化物と、セリウム源と、を含む混合物を準備することと、前記混合物を1300℃以上1900℃以下の温度で熱処理して第二窒化物を得ることと、を含み、前記第一窒化物は、リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、を組成に含む。
【0007】
第二態様の窒化物蛍光体は、リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、セリウムと、を組成に含み、アルミニウムのモル含有量を0.6とする場合にセリウムのモル含有量が0.006より大きい組成を有する。窒化物蛍光体は、CaAlSiN3と同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶として含み、X線回折パターンから算出される結晶子サイズが70nm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、高エネルギーで励起する場合に十分な発光強度が得られる窒化物蛍光体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】波長変換部材を主面側から見た平面図である。
図1B】波長変換部材を側面から見た側面図であり、その一部を拡大して示す図である。
図2】発光装置の一例を示す概略構成図と、その波長変換部材の一部を拡大して示す図である。
図3】発光装置の別の一例を示す概略構成図と、その波長変換部材の一部を拡大して示す図である。
図4】励起光源の出力密度に対する、波長変換部材からの出射光の発光強度の変化を示す図である。
図5】励起光源の出力密度に対する、波長変換部材からの出射光のうち550nm以上800nm以下の発光強度の変化を示す図である。
図6】比較例1に係る窒物蛍光体の走査電子顕微鏡画像の一例である。
図7】実施例1に係る窒物蛍光体の走査電子顕微鏡画像の一例である。
図8】比較例4に係る窒物蛍光体の走査電子顕微鏡画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、窒化物蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す窒化物蛍光体の製造方法に限定されない。
【0011】
窒化物蛍光体の製造方法
窒化物蛍光体の製造方法は、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第一窒化物と、セリウム源と、を含む混合物を準備する準備工程と、準備した混合物を1300℃以上1900℃以下の温度で熱処理して第二窒化物を得る熱処理工程と、を含む。第一窒化物は、リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、を組成に含む。
【0012】
CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第一窒化物をセリウム源と共に熱処理することで、特に表面近傍の組成におけるセリウムの含有比が増加した窒化物蛍光体が得られる。得られる窒化物蛍光体は、高エネルギーで励起する場合であっても、励起エネルギーに応じた発光強度を示すことができる。これは、例えば、セリウム含有率を増加させた窒化物蛍光体を得るよりも、賦活剤であるセリウムを第一窒化物に熱処理工程において後から導入して窒化物蛍光体を得る方が窒化物蛍光体粒子の表面近傍におけるセリウムの含有率が大きくなり易く、表面近傍におけるセリウムによる励起光の吸収が増加するためと考えることができる。
【0013】
準備工程では、第一窒化物及びセリウム源を含む混合物を準備する。この混合物は、第一窒化物とセリウム源とを所望の配合比になるように計量した後、ボールミルなどを用いる混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダ―などの混合機を用いる混合方法、乳鉢と乳棒を用いる混合方法などにより混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
【0014】
第一窒化物は、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、アルミニウム(Al)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)と、を組成に含み、更にセリウム(Ce)を組成に含んでいてもよく、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする。CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とするとは、第一窒化物が、CaAlSiN結晶又はCaAlSiNと同一の結晶構造を有する結晶を母体結晶とすることを意味する。CaAlSiN結晶の詳細については、例えば、特開2006-008721号公報を参照することができる。また、CaAlSiNと同一の結晶構造を有する結晶としては、例えば、LiSi結晶、SiO結晶、SrAlSiN結晶、NaSi結晶、及びこれらの固溶体結晶が挙げられる。
【0015】
第一窒化物は、例えば320nm以上500nm以下の光を吸収して550nm以上620nm以下の波長範囲に発光ピークを有する蛍光体であってよい。第一窒化物の最大励起波長は、好ましくは420nm以上480nm以下の波長範囲にあってよい。また第一窒化物は570nm以上600nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有していてよい。
【0016】
第一窒化物の組成は、Nを3とする場合に、Liの含有比が、例えば0以上1未満であってよく、好ましくは0.2以上0.6以下、又は0.3以上0.5以下である。また、第一窒化物の組成は、Nを3とする場合に、Ca及びSrの総含有比が、例えば0より大きく1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。また、第一窒化物の組成は、Nを3とする場合に、Siの含有比が、例えば1以上2以下であってよく、好ましくは1.1以上1.7以下、又は1.3以上1.5以下である。また、第一窒化物の組成は、Nを3とする場合に、Alの含有比が、例えば0以上1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。更に第一窒化物の組成は、Ceを含んでいてもよい。第一窒化物は、Nを3とする場合に、Ceの含有比が、例えば0以上0.1以下であってよく、好ましくは0.001以上0.02以下、又は0.004以上0.01以下である。
【0017】
第一窒化物は、Li、Si及びNを含み、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第三窒化物と、Ca及びSrの少なくとも一方の元素、Al、Si及びNを含み、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第四窒化物との固溶体であってもよい。また、第一窒化物の組成においては、Li、Ca及びSrの一部がCeに置換されていてもよい。第三窒化物は、例えば、LiSiで表される組成を有していてもよい。また、第四窒化物は(Ca,Sr)AlSiNで表される組成を有していてもよい。すなわち、第一窒化物は、下記式(1)で表される組成を有していてもよい。
(LiSi・((Ca,Sr)AlSiN(1-p):Ce (1)
式(1)中、p及びqは、0≦p<1、0≦q≦0.1を満たす。好ましくは、0.2≦p≦0.6、又は0.3≦p≦0.5であってよく、0<q≦0.1、0.001≦q≦0.02、又は0.004≦q≦0.01であってよい。
【0018】
第一窒化物の組成は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により分析することができる。また、第一窒化物の組成における窒素の含有量は、酸素・窒素分析装置によって分析することができる。
【0019】
第一窒化物の体積平均粒径は、例えば1μm以上50μm以下であってよく、好ましくは10μm以上40μm以下、又は20μm以上30μm以下である。体積平均粒径は、体積基準の粒径分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径を指す。蛍光体の粒度分布は、コールター原理に基づく細孔電気抵抗法(電気的検知帯法)により、粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0020】
セリウム混合物に含まれる第一窒化物は、購入されたものであってもよく、所望の組成を有するように調製されたものであってもよい。第一窒化物の調製方法については後述する。
【0021】
セリウム源としては、例えば、セリウムを含む化合物、セリウム単体、セリウムを含む合金等であってよく、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。セリウムを含む化合物としては、酸化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物等)、窒化物、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化セリウム等を生成し得る化合物、合金等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。セリウム化合物として具体的には、酸化セリウム、窒化セリウム、フッ化セリウム、水素化セリウム、セリウムアミド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくは酸化セリウム、窒化セリウム及びフッ化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、より好ましくは少なくとも酸化セリウムを含んでいてよい。セリウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
セリウム源の純度は、例えば95質量%以上であってよく、好ましくは99.5質量%以上である。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0023】
混合物におけるセリウム源の含有率は、第一窒化物に対して、例えば0.1質量%以上10質量%以下であってよく、好ましくは0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であり、また好ましくは5質量%以下、又は1質量%以下である。
【0024】
熱処理工程では、準備した混合物を所定の温度で熱処理して第二窒化物を得る。熱処理工程で得られる第二窒化物は、目的の窒化物蛍光体を含んでいてよい。熱処理工程における熱処理温度は、例えば1300℃以上1900℃以下であり、好ましくは1400℃以上、又は1500℃以上であってよく、また好ましくは1700℃以下、1600℃以下であってよい。
【0025】
熱処理は、所定の熱処理温度まで昇温することと、その熱処理温度を維持することと、その熱処理温度から降温することとを含んでいてよい。熱処理温度までの昇温速度は、例えば室温からの昇温速度として、0.1℃/分以上20℃/分以下であってよく、好ましくは0.5℃/分以上、又は1℃/分以上であってよく、また好ましくは15℃/分以下、又は10℃/分以下であってよい。熱処理温度を維持する熱処理時間は、例えば0.5時間以上10時間以下であってよく、好ましくは1時間以上、又は2時間以上であってよく、また好ましくは5時間以下、又は4時間以下であってよい。熱処理温度からの降温速度は、例えば室温までの降温速度として、1℃/分以上600℃/分以下であってよい。
【0026】
熱処理工程における雰囲気は、例えば含窒素雰囲気であってよい。含窒素雰囲気は、窒素の含有率が、例えば90体積%以上であってよく、好ましくは95体積%以上、又は98体積%以上であってよく、実質的に窒素雰囲気(N2ガスが100体積%)であってよい。ここで実質的に窒素雰囲気とは、不可避的に混入する窒素以外の気体の存在を排除しないことを意味する。窒素以外の気体の含有率は、例えば1体積%以下であってよい。
【0027】
熱処理工程の雰囲気における圧力は、ゲージ圧として0.1MPa以上200MPa以下であってよく、好ましくは0.3MPa以上、又は0.6MPa以上であってよく、また好ましくは10MPa以下、又は1.2MPa以下であってよい。
【0028】
混合物の熱処理は、例えばガス加圧電気炉を用いて行うことができる。混合物の熱処理は、例えば混合物を、黒鉛等の炭素材質又は窒化ホウ素(BN)材質のルツボ、ボート等に充填して用いて行うことができる。炭素材質、窒化ホウ素材質以外に、アルミナ(Al)、Mo材質等を使用することもできる。中でも窒化ホウ素材質のルツボ、ボートを用いることが好ましい。
【0029】
熱処理工程で得られる第二窒化物には、粉砕、分散、洗浄、濾過、分級等の処理を行ってもよい。洗浄は、例えば第二窒化物を水中に分散し、固液分離することで行うことができる。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。また、第二窒化物には酸処理をおこなってもよい。酸処理は、例えば、第二窒化物を酸性水溶液中に分散し、固液分離することで行うことができる。酸処理後には水洗と固液分離を行ってもよい。酸処理には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸を用いることができる。更に固液分離後には、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。
【0030】
第一窒化物の調製方法
混合物に含まれる第一窒化物は所望の組成を有するように調製されたものであってもよい。すなわち、準備工程は、所望の第一窒化物を調製することを含んでいてもよい。第一窒化物は、例えば以下のようにして調製することができる。
【0031】
第一窒化物の調製方法は、リチウム源、カルシウム源及びストロンチウム源からなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウム源と、ケイ素源と、を含み、必要に応じてセリウム源を更に含む原料混合物を、窒素ガスを含む雰囲気にて1200℃以上2000℃以下の温度で熱処理することを含んでいてよい。
【0032】
リチウム源としては、リチウム化合物、リチウム単体、リチウム合金等が挙げられる。リチウム化合物としては、リチウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物)、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化リチウム等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。リチウム化合物として具体的には、例えば窒化リチウム、リチウムアミド、水素化リチウム、フッ化リチウム等を挙げることでき、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、窒化リチウム及びリチウムアミドの少なくとも一方を含むことが好ましい。リチウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
リチウム源(例えば、リチウム化合物)の純度は、例えば95質量%以上であり、99.5質量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0034】
原料混合物は、リチウム源におけるリチウムの一部が他のアルカリ金属に置換されていてもよい。他のアルカリ金属には、ナトリウム、カリウム等が含まれる。リチウム源が他のアルカリ金属を含む場合、その含有率は、リチウムに対して、例えば10モル%以下であってよく、好ましくは5モル%以下であり、含有率の下限は、例えば1モル%以上である。
【0035】
カルシウム源としては、カルシウム化合物、カルシウム単体、カルシウム合金等が挙げられる。カルシウム化合物としては、カルシウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物)、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化カルシウム等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。カルシウム化合物として具体的には、例えば窒化カルシウム、フッ化カルシウム、水素化カルシウム、カルシウムアミド等を挙げることでき、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、窒化カルシウム及びフッ化カルシウムの少なくとも一方を含むことが好ましい。カルシウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カルシウム源として2種を併用する場合、その併用比は、例えば質量基準で10:0.01以上9:1以下であってよい。
【0036】
カルシウム源(例えば、カルシウム化合物)の純度は、例えば95質量%以上であり、99.5質量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0037】
ストロンチウム源としては、ストロンチウム化合物、ストロンチウム単体、ストロンチウム合金等が挙げられる。ストロンチウム化合物としては、ストロンチウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物)、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化ストロンチウム等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。ストロンチウム化合物として具体的には、例えば窒化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、水素化ストロンチウム、ストロンチウムアミド等を挙げることでき、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、窒化ストロンチウム及びフッ化ストロンチウムの少なくとも一方を含むことが好ましい。ストロンチウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ストロンチウム源として2種を併用する場合、その併用比は、例えば質量基準で10:0.01以上9:1以下であってよい。
【0038】
ストロンチウム源(例えば、ストロンチウム化合物)の純度は、例えば95質量%以上であり、99.5質量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0039】
原料混合物は、カルシウム源又はストロンチウム源におけるカルシウム又はストロンチウムの一部が他の第2族金属に置換されていてもよい。他の第2族金属には、マグネシウム、バリウム等が含まれる。カルシウム源又はストロンチウム源が他の第2族金属を含む場合、その含有率は、カルシウム及びストロンチウムの総量に対して、例えば10モル%以下であってよく、好ましくは5モル%以下であり、含有率の下限は、例えば1モル%以上である。
【0040】
アルミニウム源としては、アルミニウム化合物、アルミニウム単体、アルミニウム合金等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、アルミニウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物)、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化アルミニウム等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。アルミニウム化合物として具体的には、例えば窒化アルミニウム、フッ化アルミニウム等を挙げることでき、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくとも窒化アルミニウムを含むことが好ましい。アルミニウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
アルミニウム源(例えば、アルミニウム化合物)の純度は、例えば95質量%以上であり、99.5質量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0042】
原料混合物は、アルミニウム源におけるアルミニウムの一部が、ガリウム、インジウム、バナジウム、クロム、コバルト等の他の第III族金属に置換されていてもよい。アルミニウム源が他の第III族金属を含む場合、その含有率は、アルミニウムに対して、例えば10モル%以下であってよく、好ましくは5モル%以下であり、含有率の下限は、例えば1モル%以上である。
【0043】
ケイ素源としては、ケイ素化合物、ケイ素単体、ケイ素合金等が挙げられる。ケイ素化合物としては、ケイ素を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物)、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化ケイ素等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。ケイ素化合物として具体的には、例えば窒化ケイ素、フッ化ケイ素を挙げることでき、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくとも窒化ケイ素を含むことが好ましい。ケイ素源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ケイ素源(例えば、ケイ素化合物)の純度は、例えば95質量%以上であり、99.5質量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0045】
原料混合物は、ケイ素源におけるケイ素の一部が、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の他の第IV族金属に置換されていてもよい。ケイ素源が他の第IV族金属を含む場合、その含有率は、ケイ素に対して、例えば10モル%以下であってよく、好ましくは5モル%以下であり、含有率の下限は、例えば1モル%以上である。
【0046】
セリウム源としては、セリウム化合物、セリウム単体、セリウム合金等が挙げられる。セリウム化合物としては、酸化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物等)、窒化物、水素化物、アミド化合物、イミド化合物、熱処理で窒化セリウム等を生成し得る化合物等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。セリウム化合物として具体的には、酸化セリウム、窒化セリウム、フッ化セリウム、水素化セリウム、セリウムアミド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、酸化セリウム、窒化セリウム、フッ化セリウム等からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。セリウム源は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
セリウム源の純度は、例えば95質量%以上であってよく、好ましくは99.5質量%以上である。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0048】
原料混合物は、セリウム源におけるセリウムの一部が、ユウロピウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム,イッテルビウム、ルテチウム等の希土類金属に置換されていてもよい。セリウム源が他の希土類金属を含む場合、その含有率は、セリウムに対して、例えば10モル%以下であってよく、好ましくは5モル%以下であり、含有率の下限は、例えば1モル%以上である。
【0049】
原料混合物は、金属フッ化物の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。金属フッ化物としては、アルカリ土類金属フッ化物、アルカリ金属フッ化物等を挙げることができる。金属フッ化物は、少なくともアルカリ土類金属を含んでいてよく、アルカリ土類金属に加えて、Li、Na、K、B、Al等をさらに含んでいてもよい。アルカリ土類金属フッ化物に含まれるアルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、少なくともCaと、Mg、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種とを含むことが好ましく、Ca及びSrの少なくとも一方を含むことがより好ましい。また、金属フッ化物は、リチウム源、カルシウム源及びストロンチウム源の少なくとも一部を兼ねていてもよい。原料混合物における金属フッ化物の含有量は、アルミニウムに対するフッ素原子のモル含有比が、例えば0.02以上0.3以下となる量であってよく、モル含有比は0.02以上0.3未満が好ましく、0.02以上0.27以下がより好ましく、0.03以上0.18以下が更に好ましく、0.04以上0.13以下が更に好ましい。モル含有比を上記下限値以上とすることにより、フラックスとしての効果を十分に得ることができる。また、上記上限値以下することにより、フラックスを必要以上に含ませることなくフラックスの効果を得ることができる。
【0050】
金属フッ化物の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。金属フッ化物は、購入したものを用いてもよく、所望の金属フッ化物を製造して用いてもよい。
【0051】
原料混合物は、金属フッ化物に加えて、それ以外のハロゲン化物等のフラックスを更に含んでいてもよい。ハロゲン化物としては、希土類、アルカリ金属等の塩化物等が挙げられる。原料混合物がハロゲン化物のフラックスを含む場合、その含有量は金属フッ化物に対して、例えば20質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0052】
第一窒化物の調製に用いられる原料混合物は、リチウム源、カルシウム源、ストロンチウム源、アルミニウム源、ケイ素源及び必要に応じて用いられるセリウム源を所定の量比で混合することにより調製できる。原料混合物におけるリチウム源、カルシウム源、ストロンチウム源、アルミニウム源、ケイ素源及びセリウム源の含有比は、目的とする第一窒化物の組成に応じて適宜選択すればよい。すなわち、原料混合物におけるリチウム源、カルシウム源、ストロンチウム源、アルミニウム源、ケイ素源及びセリウム源の含有比は、第一窒化物の組成とほぼ同一であってもよい。
【0053】
第一窒化物の調製方法では、原料混合物に含まれるセリウムのモル含有比を所定の範囲とすることができる。原料混合物におけるセリウム源とカルシウム源とストロンチウム源の総モル数に対するセリウム源のモル含有比をセリウム比とすると、原料混合物におけるセリウム比は、例えば、0.004以上0.009以下であってよく、好ましくは0.005以上であり、また好ましくは0.008以下、又は0.007未満である。
【0054】
原料混合物は、原料混合物を構成する各成分を所望の配合比になるように計量した後、ボールミルなどを用いる混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダ―などの混合機を用いる混合方法、乳鉢と乳棒を用いる混合方法などにより各成分を混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
【0055】
得られた原料混合物を熱処理することで、所望の第一窒化物を得ることができる。原料混合物の熱処理温度は、例えば1200℃以上であり、好ましくは1500℃以上、1800℃以上、又は1900℃以上であってよい。また熱処理温度は、例えば2200℃以下であり、好ましくは2150℃以下、2100℃以下、又は2050℃以下であってよい。上記下限値以上の温度で熱処理することで、セリウムが結晶中に入り込み易く、所望の第一窒化物が効率よく形成される。また熱処理温度が上記上限値以下であると形成される第一窒化物の分解が抑制される傾向がある。原料混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよく、2以上の熱処理温度を含む多段階で行ってもよい。
【0056】
原料混合物の熱処理における雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気が好ましく、実質的に窒素ガス雰囲気であることがより好ましい。窒素ガスを含む雰囲気とすることにより、原料に含まれ得るケイ素等を窒化させることもできる。また、窒化物である原料や蛍光体の分解を抑制することができる。原料混合物の熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む場合、窒素ガスに加えて、水素、アルゴン等の希ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また原料混合物の熱処理の雰囲気における窒素ガスの含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。窒素以外の元素を含むガスの含有率を所定値以下とすることにより、それらのガス成分が不純物を形成することによる窒化物蛍光体の発光強度の低下が抑制される。
【0057】
原料混合物の熱処理における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成する第一窒化物の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、ゲージ圧として0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.5MPa以上20MPa以下がより好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、さらに好ましい。
【0058】
原料混合物の熱処理は、例えばガス加圧電気炉を用いて行うことができる。原料混合物の熱処理は、例えば原料混合物を、黒鉛等の炭素材質又は窒化ホウ素(BN)材質のルツボ、ボート等に充填して用いて行うことができる。炭素材質、窒化ホウ素材質以外に、アルミナ(Al)、Mo材質等を使用することもできる。中でも窒化ホウ素材質のルツボ、ボートを用いることが好ましい。
【0059】
原料混合物の熱処理後には、熱処理で得られる第一窒化物に対して、解砕、粉砕、洗浄、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。具体的には、第一窒化物を粗粉砕した後に、ボールミル、ジェットミル、振動ミルなどの一般的な粉砕機を用いて所定の粒径に粉砕することができる。洗浄は、例えば脱イオン水、酸性水溶液等の水を含む液媒体を用いて行ってよい。
【0060】
窒化物蛍光体
窒化物蛍光体は、例えば上述した製造方法で製造され、高エネルギーで励起する場合にも、励起エネルギーに応じた高い発光強度を達成することができる。窒化物蛍光体は、上述した製造方法で得られる第二窒化物であってよい。
【0061】
また、窒化物蛍光体は、リチウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウムと、ケイ素と、窒素と、セリウムと、を組成に含み、アルミニウムのモル含有量を0.6とする場合にセリウムのモル含有量が0.006より大きい組成を有していてよい。さらに窒化物蛍光体は、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶として含み、X線回折パターンから算出される結晶子サイズが70nm以下であってよい。
【0062】
窒化物蛍光体のX線回折パターンから算出される結晶子サイズは、好ましくは66nm未満、又は65nm以下であってよく、また好ましくは30nm以上、又は40nm以上であってよい。窒化物蛍光体の結晶子サイズは、窒化物蛍光体のX線回折(XRD)パターンをリートベルト解析して算出することができる。リートベルト解析は、例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(株式会社リガク製)により行うことができる。
【0063】
窒化物蛍光体の結晶子サイズが前記範囲内であると発光強度がより向上する傾向がある。第一窒化物を既述の熱処理工程において、所定の温度で熱処理することで、例えば窒化物蛍光体の粒子が結晶子サイズの小さい単結晶の集合体に変化して、発光強度がより向上すると考えることができる。
【0064】
窒化物蛍光体の発光ピーク波長は、例えば550nm以上であってよく、好ましくは560nm以上、又は570nm以上であってもよい。窒化物蛍光体の発光ピーク波長の上限は、例えば620nm以下であってよく、好ましくは610nm以下、又は600nm以下であってよい。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば110nm以上であってよく、好ましくは120nm以上、又は125nm以上である。また半値幅の上限は、例えば150nm以下であってよく、好ましくは140nm以下、又は135nm以下である。窒化物蛍光体は、最大励起波長を、例えば320nm以上500nm以下の波長範囲に有していてよく、好ましくは420nm以上480nm以下の波長範囲に有していてよい。
【0065】
窒化物蛍光体の内部量子効率は、例えば75%以上であってよく、好ましくは80%以上、又は85%以上である。なお、内部量子効率は、例えば量子効率測定システム(大塚電子製、商品名QE-2100)を用いて、室温(25℃)で測定される。
【0066】
窒化物蛍光体は、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、アルミニウム(Al)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)と、セリム(Ce)とを組成に含み、CaAlSiN3と同じ結晶構造を有してよい。窒化物蛍光体の組成は、Nを3とする場合に、Liの含有比が、例えば0以上1未満であってよく、好ましくは0.2以上0.6以下、又は0.3以上0.5以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Nを3とする場合に、Ca及びSrの総含有比が、例えば0より大きく1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Nを3とする場合に、Siの含有比が、例えば1以上2以下であってよく、好ましくは1.1以上1.7以下、又は1.3以上1.5以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Nを3とする場合に、Alの含有比が、例えば0以上1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。更に窒化物蛍光体の組成は、Nを3とする場合に、Ceの含有比が、例えば0.001以上0.1以下であってよく、好ましくは0.002以上0.02以下、又は0.004以上0.01以下である。
【0067】
また、窒化物蛍光体の組成は、Alを0.6とする場合に、Liの含有比が、例えば0以上1未満であってよく、好ましくは0.2以上0.6以下、0.25以上0.5以下、又は0.3以上0.5以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Alを0.6とする場合に、Ca及びSrの総含有比が、例えば0より大きく1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Alを0.6とする場合に、Siの含有比が、例えば1以上2以下であってよく、好ましくは1.1以上1.7以下、又は1.3以上1.5以下である。さらに、窒化物蛍光体の組成は、Alを0.6とする場合に、Ceの含有比が、0.006より大きく0.1以下であってもよく、好ましくは0.007以上、又は0.008以上であってよく、また好ましくは0.02以下、0.015以下、又は0.013以下であってよい。
【0068】
また、窒化物蛍光体の組成は、Alを1とする場合に、Liの含有比が、例えば0以上1.7未満であってよく、好ましくは0.33以上1以下、0.4以上0.83以下、又は0.5以上0.83以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Alを1とする場合に、Ca及びSrの総含有比が、例えば0より大きく1.7以下であってよく、好ましくは0.67以上1.3以下、又は0.83以上1.1以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Alを1とする場合に、Siの含有比が、例えば1.7以上3.3以下であってよく、好ましくは1.8以上3以下、又は2.2以上2.5以下である。さらに、窒化物蛍光体の組成は、Alを1とする場合に、Ceの含有比が、0.01より大きく0.17以下であってもよく、好ましくは0.012以上、又は0.013以上であってよく、また好ましくは0.04以下、0.025以下、又は0.02以下であってよい。
【0069】
また、窒化物蛍光体の組成は、Al+Siを2とする場合に、Liの含有比が、例えば0以上1未満であってよく、好ましくは0.2以上0.6以下、0.25以上0.5以下、又は0.3以上0.5以下である。また、窒化物蛍光体の組成は、Al+Siを2とする場合に、Ca及びSrの総含有比が、例えば0より大きく1以下であってよく、好ましくは0.4以上0.8以下、又は0.5以上0.7以下である。さらに、窒化物蛍光体の組成は、Al+Siを2とする場合に、Ceの含有比が、0.006より大きく0.1以下であってもよく、好ましくは0.007以上、又は0.008以上であってよく、また好ましくは0.02以下、0.015以下、又は0.013以下であってよい。
【0070】
窒化物蛍光体は、Li、Si、N及びCeを含み、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第三窒化物と、Ca及びSrの少なくとも一方の元素、Al、Si、N及びCeを含み、CaAlSiNと同じ結晶構造を有する結晶を母体結晶とする第四窒化物との固溶体であってもよい。また、窒化物蛍光体の組成においては、Li、Ca及びSrの一部はCeに置換されていてもよい。第三窒化物は、例えば、LiSiで表される組成を有していてもよい。また、第四窒化物は(Ca,Sr)AlSiNで表される組成を有していてもよい。すなわち、窒化物蛍光体は、下記式(2)で表される組成を有していてもよい。
(LiSi・((Ca,Sr)AlSiN(1-x):Ce (2)
式(2)中、x及びyは、0≦x<1、0<y≦0.1を満たす。好ましくは、0.2≦x≦0.5、又は0.3≦x≦0.5であってよく、0.001≦y≦0.1、0.002≦y≦0.02、又は0.004≦y≦0.01であってよい。またyは、0.006<y≦0.1を満たしていてもよい。
【0071】
また窒化物蛍光体は、下記式(3)で表される組成を有していてもよい。
(LiCaSr)AlSi:Ce (3)
【0072】
式(3)中、m、n、r、s、t、u及びvは、0<m<1、0<n<1、0≦r<1、0<s<1、1<t<2、2.7≦u≦3.3、0.006<v≦0.1、を満たしてよい。好ましくは0.15≦m≦0.5、0.5≦n≦0.7、0.05≦r≦0.3、0.5≦s≦0.61、1.37≦t≦1.5、2.9≦u≦3.1、0.006<v≦0.03を満たしていてよい。また、0<m+n+r+v≦1、又は0.75≦m+n+r+v≦1を満たしていてよく、1.9≦s+t≦2.1を満たしていてもよい。
【0073】
窒化物蛍光体は、第一窒化物をセリウム源と共に熱処理することで得られる第二窒化物に含まれることから、窒化物蛍光体の組成におけるセリウムの原子分率(atom%)は、第一窒化物の組成におけるセリウムの原子分率(atom%)よりも大きくなっている。第一窒化物がセリウムを含む場合、第二窒化物の組成におけるセリウムの原子分率(atom%)の第一窒化物の組成におけるセリウムの原子分率(atom%)に対する比(第二窒化物/第一窒化物)は、例えば1以上10以下であってよく、好ましくは1.2以上、又は1.5以上であり、また好ましくは10以下又は2以下である。
【0074】
窒化物蛍光体においては、その粒子の表面近傍の組成におけるセリウムの存在比が、粒子の内部(例えば、中心近傍)の組成におけるセリウムの存在比よりも多くなっていてもよい。これにより高エネルギー励起においても、励起エネルギーに対応する発光強度が得られると考えられる。ここで表面近傍とは表面からの距離が、例えば1μm以下の領域を意味し、また、中心近傍とは表面からの距離が、その粒子の粒径の半分程度である領域を意味する。窒化物蛍光体の粒子におけるセリウムの分布は、例えば粒子断面におけるエネルギー分散型X線分析によって測定することができる。

【0075】
窒化物蛍光体では、第一窒化物よりも、最大励起波長付近における反射率が低下することが好ましい。これにより、窒化物蛍光体への励起光の吸収が増えることで、発光強度又は内部量子効率が向上する場合がある。例えば450nmにおいて、第一窒化物の反射率に対する窒化物蛍光体の反射率の比は、0.95以下であってよく、好ましくは0.92以下、0.9以下、又は0.88以下であってよい。
【0076】
窒化物蛍光体の粒径及び粒度分布は、発光強度の観点から、単一ピークの粒度分布を示していてよい。窒化物蛍光体の体積平均粒径は、例えば1μm以上50μm以下であってよく、好ましくは10μm以上40μm以下、又は15μm以上30μm以下である。
【0077】
波長変換部材
波長変換部材は、支持体と、その支持体の上に配置され、蛍光体を含む蛍光体層と、を備える。波長変換部材は発光素子と組み合わせて発光装置を構成することができる。蛍光体として既述の窒化物蛍光体を含むことで、発光素子の出力に比例して出力光の発光強度も大きくなる、リニアリティーに優れる発光特性を示すことができ、発光特性に優れる。
【0078】
波長変換部材の一例を模式的に図1A及び図1Bに示す。図1Aは、波長変換部材50を主面側から見た概略平面図である。図1Bは、波長変換部材50を側面側から見た概略平面図及びその部分拡大図である。図1Aに示すように波長変換層52は、円盤状の支持体54の円周に沿って配置される。また、図1Bに示すように、支持体54の主面の一方に、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とがこの順に積層されて波長変換層52が配置される。
【0079】
発光装置
発光装置は、発光素子と、発光素子に励起される蛍光体を含む波長変換部材とを備える。発光素子の発光ピーク波長は、例えば350nm以上500nm以下の波長範囲内にあってよく、好ましくは380nm以上470nm以下の波長範囲内、又は400nm以上460nm以下の波長範囲内にあってよい。この波長範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。さらに、発光素子から放射される光の一部を発光装置から外部に放射される光の一部として有効に利用することができるため、高い発光効率を有する発光装置を得ることができる。
【0080】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は例えば、30nm以下であってよい。発光素子として、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティーが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。発光素子は、発光ダイオード(LED)であってもよく、レーザーダイオード(LD)であってもよい。また、発光素子は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
発光素子の出力は、例えば、波長変換部材に入射される光パワー密度として、0.5W/mm以上であってよく、好ましくは5W/mm以上、又は10W/mm以上である。発光素子の出力の上限は、例えば、1000W/mm以下であってよく、好ましくは500W/mm以下、又は150W/mm以下である。発光素子の出力が前記範囲であると、波長変換部材は、発光素子の出力に応じたリニアリティーにより優れる。
【0082】
ここで発光装置の構成例を、図面を参照して説明する。図2は、発光装置の構成の一例を示す概略構成図である。発光装置100は、発光素子10と、入射光学系20と、波長変換部材50とを備える。波長変換部材50は、支持体54と、その支持体54上に配置され、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とを含む波長変換層52を備える。発光素子10から出射された光は、入射光学系20を通過して、波長変換部材50の支持体54側から入射し、蛍光体70を含む蛍光体層80を通過し、入射光の少なくとも一部が蛍光体70によって波長変換される。あるいは、波長変換された光と、波長変換されなかった入射光の残部がともに波長変換部材50から出射される。この場合、発光装置100が出射する光は、発光素子10からの光と、波長変換された光の混色光となる。
【0083】
図3は、発光装置の構成の一例を示す概略構成図である。発光装置110は、発光素子10と、入射光学系20と、波長変換部材50とを備える。波長変換部材50は、支持体54と、支持体54上に配置され、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とがこの順に積層された波長変換層52とを備える。発光素子10から出射した光は、入射光学系20を通過して、波長変換部材50の波長変換層52側から入射し、波長変換層52を通過して、反射された光が波長変換層52から出射される。波長変換層52を通過する光の少なくとも一部は、蛍光体70によって波長変換される。あるいは、波長変換された光と、波長変換されなかった入射光の残部がともに波長変換部材50から出射される。この場合、発光装置110が出射する光は、発光素子10からの光と、波長変換された光の混色光となる。
【0084】
プロジェクター用光源装置
プロジェクター用光源装置は、上記発光装置を含んで構成される。高出力における発光特性に優れる発光装置を含むことで、高出力のプロジェクターを構成することができる。
【0085】
本開示における波長変換部材を備える発光装置は、プロジェクター用光源装置としてだけではなく、例えば、シーリングライト等の一般照明装置、スポットライト、スタジアム用照明、スタジオ用照明等の特殊照明装置、ヘッドランプ等の車両用照明装置、ヘッドアップディスプレイ等の投影装置、内視鏡用ライト、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォンなどの撮像装置、パーソナルコンピュータ(PC)用モニター、ノート型パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯情報端末(PDX)、スマートフォン、タブレットPC、携帯電話などの液晶ディスプレイ装置等における光源に備えられる発光装置として用いることができる。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
実施例1
Ca、CaF、LiNH、Si、AlN及びCeOを原料化合物として用いた。仕込み組成比として、各元素のモル比である、Ca:Li:Ce:Si:Alが、0.594:0.400:0.006:1.4:0.6となるように窒素ガス雰囲気のグローブボックス内で各原料化合物を計量し、混合して原料混合物を得た。この時、Caのモル比0.594のうち、約97モル%に相当する0.576をCaで、約3モル%に相当する0.018をCaFから得られるように計量した。原料混合物を窒化ホウ素(BN)材質のルツボに充填し、窒素ガス(Nガスが100体積%)雰囲気で、ゲージ圧0.92MPa、1800℃以上2100℃以下の範囲内で熱処理を行った。熱処理した時間は、3時間であった。熱処理後は温度調節をすることなく、室温まで自然冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物を、粉砕し、脱イオン水に分散させて洗浄した後、分級処理を行って、実施例1の第一窒化物を得た。
【0088】
得られた実施例1の第一窒化物に対して、0.5質量%のCeOを大気中で計量し、混合して混合物を得た。混合物を窒化ホウ素(BN)材質のルツボに充填し、窒素(Nガスが100体積%)雰囲気で、ゲージ圧0.92MPa、1500℃で熱処理を行った。熱処理した時間は、3時間であった。熱処理後は温度調節をすることなく、室温まで自然冷却させて熱処理物として第二窒化物を得た。得られた第二窒化物を粉砕して、実施例1の窒化物蛍光体を得た。
【0089】
実施例2
実施例1と同様にして、実施例2の第一窒化物を得た。実施例2の第一窒化物は実施例1の第一窒化物とは、製造ロットが異なる。
【0090】
実施例2の第一窒化物を用いたこと、その第一窒化物及びCeOの混合物の熱処理温度を1400℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の窒化物蛍光体を得た。
【0091】
実施例3
実施例2の第一窒化物を用いたこと、その第一窒化物及びCeOの混合物の熱処理の温度を1600℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の窒化物蛍光体を得た。
【0092】
実施例4
実施例2の第一窒化物を用いたこと、その第一窒化物及びCeOの混合物の熱処理の温度を1800℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の窒化物蛍光体を得た。
【0093】
実施例5
実施例1の第一窒化物及びCeOの混合物の熱処理の温度を1600℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の窒化物蛍光体を得た。
【0094】
実施例6
実施例1の第一窒化物に対して1.0質量%のCeOを計量したこと、第一窒化物及びCeOの混合物の熱処理の温度を1600℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の窒化物蛍光体を得た。
【0095】
比較例1
Ca、LiN、Si、AlN及びCeOを原料化合物として用いたこと以外は、実施例1と同様にして第一窒化物を得た。得られた第一窒化物を、実施例1のようにCeOと混合せずに、そのまま比較例1の窒化物蛍光体とした。
【0096】
比較例2
実施例2の第一窒化物を、実施例1のようにCeOと混合して熱処理せずに、そのまま比較例2の窒化物蛍光体とした。
【0097】
比較例3
実施例1の第一窒化物を、実施例1のようにCeOと混合して熱処理せずに、そのまま比較例3の窒化物蛍光体とした。
【0098】
比較例4
仕込み組成比として、各元素のモル比である、Ca:Li:Ce:Si:Alが、0.591:0.400:0.009:1.4:0.6となるようにして原料混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして第一窒化物を得た。得られた第一窒化物を、実施例1のようにCeOと混合して熱処理せずに、そのまま比較例4の窒化物蛍光体とした。
【0099】
比較例5
実施例1の第一窒化物をCeOと混合せずに、実施例1の混合物の熱処理における温度を1600℃に変更して、第一窒化物のみを熱処理したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の窒化物蛍光体を得た。
【0100】
評価
(1)組成分析
実施例1、比較例3及び4で得られた窒化物蛍光体について、走査型蛍光X線分析装置及びイオンクロマトグラフィー装置を用いて組成分析を行った。Al=0.6を基準として、各元素の含有比を求めた。結果を表1に示す。また、Al=1を基準とした各元素の組成比を表2に、Al+Si=2を基準とした各元素の組成比を表3に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【表3】
【0103】
表1から3に示されるように、実施例1で得られた窒化物蛍光体は、窒化物蛍光体の組成に含まれるCeの含有比が比較例3及び4で得られた窒化物蛍光体よりも大きいことが分かる。これは、第一窒化物に、追加でCeOを加えた混合物を熱処理して窒化物蛍光体を得た影響と考えられる。
【0104】
(2)発光特性
上記で得られた窒化物蛍光体について、量子効率測定システム(大塚電子製、商品名QE-2100)を用いて、室温(25℃)で発光特性を測定した。結果を表4に示す。なお、相対発光強度は、比較例1で得られた窒化物蛍光体の発光強度を100%として算出した。また、体積平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定装置を用いて測定した。反射率は、分光蛍光光度計(日立ハイテクサイエンス製、商品名F-4500)を用いて、波長が450nmにおける反射率として、室温(25℃)で測定した。結果を表4に示す。
【0105】
(3)結晶子サイズ
上記で得られた窒化物蛍光体について、試料水平型多目的X線回折装置(株式会社リガク製、X線源:CuKα線(λ=1.5418Å)、製品名:Ultima IV、)を用いて、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンを、解析ソフトPDXL(株式会社リガク製)を用いてリートベルト解析し、結晶子サイズを算出した。結果を表4に示す。表4には、仕込み組成におけるAlを1としたときのCeの含有比を併せて示す。
【0106】
(4)走査電子顕微鏡観察
比較例1、実施例1及び比較例4で得られた窒化物蛍光体について、電界放出型走査電子顕微鏡(製品名:SU8230、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、走査電子顕微鏡(SEM)画像を得た。比較例1のSEM画像を図6に、実施例1のSEM画像を図7に、比較例4のSEM画像を図8にそれぞれ示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示されるように、実施例1から6に係る窒化物蛍光体は、比較例1、4及び5に係る窒化物蛍光体よりも発光強度又は内部量子効率が高いことが分かる。また、実施例1から6に係る窒化物蛍光体は、比較例1に係る窒化物蛍光体よりも、波長が450nmの光における反射率が低下しており、波長が450nmである光をより吸収することが分かる。さらに、実施例1、5及び6に係る窒化物蛍光体は、同じく20%程度の反射率を示す比較例4に係る蛍光体よりも発光強度及び内部量子効率が高いことが分かる。
【0109】
表4に示されるように、比較例4に係る窒化物蛍光体は、比較例1に係る窒化物蛍光体よりも結晶子サイズが大きいことが分かる。このことは、セリウムの含有量が増えると結晶子サイズが大きくなるという傾向を示唆している。一方で、実施例1から6に係る窒化物蛍光体はセリウムの含有率が比較例4に係る窒化物蛍光体と同等以上であるにも関わらず、比較例1に係る窒化物蛍光体に比べて結晶子サイズが小さいことが分かる。これは、既述のように第一窒化物をセリウム源と共に所定の温度で熱処理することによって、窒化物蛍光体におけるセリウムの含有量を増やしながら結晶子サイズを小さくするという物性制御ができたことを示す。
【0110】
図6の比較例1に係る窒化物蛍光体、および、図8の比較例4に係る窒化物蛍光体と比較して、図7の実施例1に係る窒化物蛍光体は、粒子の表面の凹凸が多いことが分かる。これは、例えば第一窒化物に追加でCeOを加えた混合物を第一窒化物の熱処理温度より低い温度で熱処理したことによって結晶子サイズの小さい単結晶の集合体に変化したためと考えられる。
【0111】
(5)波長変換部材の評価
実施例1及び比較例1から3で得られた窒化物蛍光体を用いて、以下のようにして波長変換部材を作製し、その発光強度を評価した。結着剤であるシリコーン樹脂の100質量部と、窒化物蛍光体の100質量部とを混合して蛍光体ペーストを調製した。支持体としては、アルミニウムを材料とし、板状かつ主面側から平面視して円盤状の金属部材を用いた。支持体の一方の主面に印刷法により、金属部材の円周に沿って所定の幅で、蛍光体ペーストを円環状に配置して波長変換層を形成した。これにより波長変換部材を得た。得られた波長変換部材の蛍光体層の厚みを以下に示す。
【0112】
【表5】
【0113】
波長変換部材について、発光強度を以下のように測定した。円盤状の波長変換部材を駆動装置に固定し、回転数7200rpmで回転させながら発光特性を測定した。波長変換部材の励起光源として、発光ピーク波長が455nmであるレーザーダイオード(LD)を準備し、以下の表6に示すように段階的にレーザーダイオードの出力密度(W/mm)を変化させ、各出力密度における波長変換部材からの出射光の発光強度を470nm以上800nm以下の波長範囲で測定した。発光強度については、浜松フォトニクス製Siフォトダイオードを用いて測定し、比較例1で得られた窒化物蛍光体を用いた波長変換部材におけるレーザーダイオードの出力密度が8W/mmの場合に対する発光強度を基準(100%)とする相対発光強度(相対Po%)として表6及び図4に示す。また、表7及び図5には、550nm以上800nm以下の波長範囲(例えば、赤色成分を含む波長範囲)における相対発光強度(相対Po%)を示す。
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
表6及び表7に示されるように、実施例1に係る窒化物蛍光体を用いた波長変換部材は、励起光源として、レーザーダイオードの出力密度を変化させた場合、比較例1から3に係る窒化物蛍光体を用いた波長変換部材よりも発光強度が高いことが分かる。本開示の窒化物蛍光体の製造方法を用いて得られた窒化物蛍光体は、高エネルギーで励起する場合であっても十分な発光強度を示す。特に赤色成分を含む波長範囲における発光強度がより高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示の窒化物蛍光体を用いる波長変換部材又は発光装置は、例えば、シーリングライト等の一般照明装置、スポットライト、スタジアム用照明、スタジオ用照明等の特殊照明装置、ヘッドランプ等の車両用照明装置、プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ等の投影装置、内視鏡用ライト、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォンなどの撮像装置、パーソナルコンピュータ(PC)用モニター、ノート型パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯情報端末(PDX)、スマートフォン、タブレットPC、携帯電話などの液晶ディスプレイ装置等における光源に備えられる波長変換部材、発光装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0118】
10:発光素子、50:波長変換部材、52:波長変換層、54:支持体、70:蛍光体、80:蛍光体層、82:光透過層、100、110:発光装置。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8