(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】有機シラン化合物及びメソポーラス有機シリカ
(51)【国際特許分類】
C07F 7/10 20060101AFI20240215BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20240215BHJP
C08G 77/52 20060101ALI20240215BHJP
C08G 77/54 20060101ALI20240215BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C07F7/10 V CSP
C07F7/18 U
C08G77/52
C08G77/54
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020064852
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 伸二
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04873212(US,A)
【文献】特開2010-116512(JP,A)
【文献】国際公開第2007/034861(WO,A1)
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces ,2017年,9(4),3774-3784
【文献】European Journal of Inorganic Chemistry,2008年, (10),1559-1564
【文献】Molecular Catalysis,2017年,43(7),150-157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08G
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
〔前記式(1)中、R
1~R
8のうちの少なくとも
2つの基が下記式(2):
【化2】
(前記式(2)中、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、R
aは炭素数1~6のアルキル基を表し、R
bは置換又は無置換のアリル基を表し、mは1又は2であり、nは0~3の整数である)
で表される基であり、R
1~R
8のうちの残りの基がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である〕
で表されることを特徴とする有機シラン化合物。
【請求項2】
前記式(1)中のR
2、R
3、R
6、R
7のうちの少なくとも2つの基が前記式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の有機シラン化合物。
【請求項3】
下記式(1):
【化3】
〔前記式(1)中、R
1
~R
8
のうちの少なくとも1つの基が下記式(2):
【化4】
(前記式(2)中、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、R
a
は炭素数1~6のアルキル基を表し、R
b
は置換又は無置換のアリル基を表し、mは1又は2であり、nは0~3の整数である)
で表される基であり、R
1
~R
8
のうちの残りの基がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である〕
で表される有機シラン化合物の重合体であることを特徴とするメソポーラス有機シリカ。
【請求項4】
前記式(1)中のR
2
、R
3
、R
6
、R
7
のうちの少なくとも2つの基が前記式(2)で表される基であることを特徴とする請求項3に記載のメソポーラス有機シリカ。
【請求項5】
下記式(3):
【化5】
〔前記式(3)中、R
1~R
8のうちの少なくとも1つの基が下記式(4):
【化6】
(前記式(4)中、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、R
bは置換又は無置換のアリル基を表し、R
cは水素原子又はシリル基を表し、kは1又は2であり、iは1~3の整数であり、jは0~2の整数であり、1≦i+j≦3であり、iとjとの組合せは複数存在する前記式(4)で表される基においてそれぞれ独立であり、*は隣接する構造との結合部位である)
で表される基であり、R
1~R
8のうちの残りの基がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である〕
で表されることを特徴とするメソポーラス有機シリカ。
【請求項6】
前記式(3)中のR
2、R
3、R
6、R
7のうちの少なくとも2つの基が前記式(4)で表される基であることを特徴とする請求項
5に記載のメソポーラス有機シリカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機シラン化合物及びメソポーラス有機シリカに関し、より詳しくは、フェナントロリン環を有する有機シラン化合物及びメソポーラス有機シリカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メソ細孔が規則的に配列したメソポーラスシリカに様々な官能基を有する有機基を導入して、メソポーラスシリカの特性を向上させることが検討されている。例えば、特開2009-49346号公報(特許文献1)には、骨格内に電子供与体を備える多孔体と、この多孔体の細孔内等に配置された電子受容体とを備えるエネルギー変換材料が記載されており、前記骨格内に電子供与体を備える多孔体として、Cu(2,9-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)2+等の電子供与体として機能する有機基を有するシリカ多孔体が記載されている。
【0003】
また、Inorganica Chimica Acta,2000年、第297巻,156~161頁(非特許文献1)及びMicroporous and Mesoporous Materials、2008年、第116巻、28~35頁(非特許文献2)には、加水分解性シリル基とフェナントロリン環とをウレア結合を介して結合した有機シラン化合物が記載されており、ACS Appl.Mater.Interface、2017年、第9巻、3774~3784頁(非特許文献3)には、加水分解性シリル基とフェナントロリン環とをアミド結合を介して結合した有機シラン化合物が記載されている。
【0004】
さらに、J.Phys.Chem.B 2005年、第109巻、15278~15287頁(非特許文献4)には、非特許文献1に記載の有機シラン化合物とテトラアルコキシシランとを用いて合成したフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカが記載されており、J.Phys.Chem.C 2009年、第113巻、2603~2610頁(非特許文献5)には、非特許文献2に記載の有機シラン化合物とエタン架橋した有機シラン化合物とを用いて合成したフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Klosterら、Inorganica Chimica Acta,2000年、第297巻,156~161頁
【文献】Guoら、Microporous and Mesoporous Materials、2008年、第116巻、28~35頁
【文献】Yuanら、ACS Appl.Mater.Interface、2017年、第9巻、3774~3784頁
【文献】Pengら、J.Phys.Chem.B 2005年、第109巻、15278~15287頁
【文献】Guoら、J.Phys.Chem.C 2009年、第113巻、2603~2610頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献4~5に記載のメソポーラス有機シリカにおいては、加水分解条件下や加熱条件下における結合安定性が必ずしも十分ではなく、フェナントロリン環が欠落するという問題があることを本発明者らは見出した。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、加水分解条件下や加熱条件下において、フェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性を有するメソポーラス有機シリカ、並びに、このメソポーラス有機シリカを得ることが可能なフェナントロリン環を有する有機シラン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フェナントロリン環と加水分解性シリル基とをアルキレン基を介して結合することによって調製した有機シラン化合物を用いることによって、フェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性を有するメソポーラス有機シリカが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有機シラン化合物は、下記式(1):
【0011】
【0012】
〔前記式(1)中、R1~R8のうちの少なくとも2つの基(好ましくは、R
2
、R
3
、R
6
、R
7
のうちの少なくとも2つの基)が下記式(2):
【0013】
【0014】
(前記式(2)中、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、Raは炭素数1~6のアルキル基を表し、Rbは置換又は無置換のアリル基を表し、mは1又は2であり、nは0~3の整数である)
で表される基であり、R1~R8のうちの残りの基がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である〕
で表されることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のメソポーラス有機シリカは、前記式(1)で表される有機シラン化合物の重合体であり、前記式(1)において、R
1
~R
8
のうちの少なくとも1つの基(好ましくは、R
2
、R
3
、R
6
、R
7
のうちの少なくとも2つの基)は前記式(2)で表される基であり、R
1
~R
8
のうちの残りの基はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基であり、前記式(2)において、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、R
a
は炭素数1~6のアルキル基を表し、R
b
は置換又は無置換のアリル基を表し、mは1又は2であり、nは0~3の整数である。
【0016】
本発明のメソポーラス有機シリカは、下記式(3):
【0017】
【0018】
〔前記式(3)中、R1~R8のうちの少なくとも1つの基が下記式(4):
【0019】
【0020】
(前記式(4)中、Yは炭素数1~6のアルキレン基を表し、Rbは置換又は無置換のアリル基を表し、Rcは水素原子又はシリル基を表し、kは1又は2であり、iは1~3の整数であり、jは0~2の整数であり、1≦i+j≦3であり、iとjとの組合せは複数存在する前記式(4)で表される基においてそれぞれ独立であり、*は隣接する構造との結合部位である)
で表される基であり、R1~R8のうちの残りの基がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である〕
で表されることを特徴とするものである。
【0021】
本発明のメソポーラス有機シリカにおいては、前記式(3)中のR2、R3、R6、R7のうちの少なくとも2つの基が前記式(4)で表される基であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明の有機シラン化合物を用いることによって、加水分解条件下や加熱条件下においてフェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性を有するメソポーラス有機シリカが得られるとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の有機シラン化合物においては、フェナントロリン環と加水分解性シリル基とがアルキレン基を介して結合されており、その重合体であるメソポーラス有機シリカにおいてもその結合が維持されている。前記アルキレン基は耐加水分解性や耐熱分解性に優れており、本発明のメソポーラス有機シリカにおいては、このようなアルキレン基を介してフェナントロリン環と加水分解性シリル基とが結合しているため、加水分解条件下や加熱条件下において、フェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性が得られると推察される。
【0023】
一方、非特許文献4~5に記載のメソポーラス有機シリカにおいては、フェナントロリン環と加水分解性シリル基とがウレア結合やアミド結合を介して結合している。前記ウレア結合や前記アミド結合は加水分解や熱分解しやすいため、非特許文献4~5に記載のメソポーラス有機シリカにおいては、加水分解条件下や加熱条件下で、前記ウレア結合や前記アミド結合が加水分解や熱分解により切断され、フェナントロリン環が欠落すると推察される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、加水分解条件下や加熱条件下においてフェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性を有するメソポーラス有機シリカを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】実施例B1で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図1B】実施例B1で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図2A】実施例B2で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図2B】実施例B2で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図3A】実施例B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図3B】実施例B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図4A】実施例B4で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図4B】実施例B4で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図5A】実施例B5で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図5B】実施例B5で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図6A】実施例B6で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図6B】実施例B6で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図7A】実施例B7で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図7B】実施例B7で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図8A】実施例B8で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図8B】実施例B8で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図9A】実施例B9で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図9B】実施例B9で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図10A】実施例B10で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図10B】実施例B10で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図11A】比較例B1で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図11B】比較例B1で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図12A】比較例B2で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図12B】比較例B2で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図13A】比較例B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図13B】比較例B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図14】実施例B5~B6及び比較例B2~B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの耐加水分解試験におけるフェナントロリン環の保持率を示すグラフである。
【
図15】実施例B4、B6及び比較例B1、B3で得られたフェナントロリン環を有するメソポーラス有機シリカの耐熱試験におけるフェナントロリン環の保持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
<有機シラン化合物>
先ず、本発明の有機シラン化合物について説明する。本発明の有機シラン化合物は、下記式(1):
【0028】
【0029】
で表されるものであり、前記式(1)中のR1~R8のうちの少なくとも1つの基は下記式(2):
【0030】
【0031】
で表される基である。
【0032】
本発明の有機シラン化合物において、前記式(2)で表される基は架橋点となる基であり、この架橋点となる基が反応して形成される架橋点を有する基(架橋基)中のシロキサン結合(Si-O結合)によってフェナントロリン環が三次元的に架橋されるため、機械的作用や化学的作用に対して高い耐久性を示すメソポーラス有機シリカを得ることができる。また、得られるメソポーラス有機シリカの金属イオンに対する配位力が効果的に向上するという観点から、前記式(1)中のR1~R8のうち(より好ましくはR2、R3、R6、R7のうち)の2つ以上の基が前記式(2)で表される基であることが好ましい。この場合、複数存在する前記式(2)で表される基は同じものであっても異なるものであってもよい。
【0033】
前記式(2)中のYは炭素数1~6のアルキレン基を表す。このような炭素数を有するアルキレン基は耐加水分解性及び耐熱分解性に優れており、このような有機シラン化合物を用いることによって、加水分解条件下や加熱条件下においてフェナントロリン環が欠落することなく、周期的なメソポーラス構造を有し、結合安定性に優れたメソポーラス有機シリカを得ることができる。一方、アルキレン基の炭素数が前記上限を超えると、周期的なメソポーラス構造を有するメソポーラス有機シリカを合成することが困難となる。他方、前記式(2)中のYが単結合の場合には、フェナントロリン環と加水分解性シリル基との間のSi-C結合がH+とのイプソ置換反応を起こしたり、OH-による求核攻撃を受けたりしやすいため、得られるメソポーラス有機シリカにおいては、加水分解条件下や加熱条件下で前記Si-C結合が切断され、フェナントロリン環が欠落する。さらに、前記Si-C結合は、メソポーラス有機シリカの調製時においても結合安定性が低く、切断されやすい。また、前記式(2)中のYがウレア結合(アミノカルバモイル基)又はアミド結合(カルバモイル基)の場合には、得られるメソポーラス有機シリカにおいて、加水分解条件下や加熱条件下で前記ウレア結合又はアミド結合が切断され、フェナントロリン環が欠落する。
【0034】
また、前記アルキレン基は直鎖状の飽和炭化水素基であっても分岐鎖状の飽和炭化水素基であってもよい。前記アルキレン基が分岐鎖状の飽和炭化水素基である場合、前記アルキレン基の炭素数は主鎖の炭素数である。したがって、分岐鎖状のアルキレン基は、炭素数2~6のアルキレン基の末端以外の炭素に炭化水素基が置換されている構造を有している。また、このようなアルキレン基には、炭化水素基以外の他の置換基が結合していてもよい。
【0035】
前記式(2)中のRaは炭素数1~6(好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数2~3)のアルキル基を表す。また、前記式(2)中のRbは置換又は無置換のアリル基を表す。置換アリル基における置換基としては炭化水素基が挙げられる。
【0036】
前記式(2)中のmは1又は2である。mが2の場合、複数存在する加水分解性シリル基は同じものであっても異なるものであってもよい。また、前記式(2)中のnは0~3の整数である。nが0~1の場合、複数存在するRbは同じものであっても異なるものであってもよい。また、nが2~3の場合、複数存在するRaは同じものであっても異なるものであってもよい。さらに、有機シラン化合物の縮合反応が進行しやすく、縮合後の構造が安定するという観点から、nは1~3が好ましく、2~3がより好ましい。
【0037】
前記式(1)中のR1~R8のうちの残りの基はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基(好ましくは炭素数1~12)、アリール基(好ましくは炭素数6~12)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~12)、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である。
【0038】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、前記アリール基としては、フェニル基等の単環の芳香族環、ナフチル基、フルオレニル基等の芳香族縮合環等が挙げられ、前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0039】
このような1価又は2価の有機基のうち、機械的作用や化学的作用に対して高い耐久性を示すメソポーラス有機シリカが得られるという観点から、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、フェニル基、フェノキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0040】
このような本発明の有機シラン化合物は、例えば、フェナントロリン環の所望の位置の炭素にハロゲン原子が結合しているフェナントロリン化合物と、加水分解性シリル基を有する炭素数1~6のアルキルマグネシウムのハロゲン化物とを反応させることによって製造することができる。この反応においては、前記加水分解性シリル基を有する炭素数1~6のアルキル基が、フェナントロリン環の所望の位置の炭素に結合しているハロゲン原子と置換することによって、フェナントロリン環の所望の位置の炭素に前記加水分解性シリル基を有するアルキル基が結合した有機シラン化合物(前記式(1)で表される有機シラン化合物)が生成する。
【0041】
このような反応は、通常、有機溶媒中、触媒の存在下で行われる。前記有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(別名:ジグリム)、1,4-ジオキサン、トルエン等が挙げられる。また、前記触媒としては、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド等が挙げられる。反応温度としては-78~200℃が好ましい。
【0042】
また、本発明の有機シラン化合物は、例えば、フェナントロリン環の所望の位置の炭素にメチル基が結合しているフェナントロリン化合物に塩基を作用させ、さらに、加水分解性シリル基を有する炭素数1~5のハロゲン化アルキルを反応させることによって製造することも可能である。この反応においては、前記加水分解性シリル基を有する炭素数1~5のアルキル基が、フェナントロリン環の所望の位置の炭素に結合しているメチル基に結合することによって、フェナントロリン環と加水分解性シリル基とが炭素数2~6のアルキレン基を介して結合している有機シラン化合物(前記式(1)で表される有機シラン化合物)が生成する。
【0043】
このような反応は、通常、有機溶媒中、塩基の存在下で行われる。前記有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(別名:ジグリム)、1,4-ジオキサン等が挙げられる。また、前記塩基としては、リチウムジイソプロピルアミド、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、リチウムテトラメチルピペリジド等が挙げられる。反応温度としては-78~100℃が好ましい。
【0044】
<メソポーラス有機シリカ>
次に、本発明のメソポーラス有機シリカについて説明する。本発明のメソポーラス有機シリカは、下記式(3):
【0045】
【0046】
で表されるものであり、前記式(3)中のR1~R8のうちの少なくとも1つの基は下記式(4):
【0047】
【0048】
で表される基である。このようなメソポーラス有機シリカとしては、前記式(1)で表される本発明の有機シラン化合物の重合体が挙げられる。
【0049】
本発明のメソポーラス有機シリカにおいて、前記式(4)で表される基は、架橋点を有する基(架橋基)であり、この架橋基中のシロキサン結合(Si-O結合)によってフェナントロリン環が三次元的に架橋されているため、本発明のメソポーラス有機シリカは機械的作用や化学的作用に対して高い耐久性を示す。また、金属イオンに対する配位力が効果的に向上するという観点から、前記式(3)中のR1~R8のうち(より好ましくはR2、R3、R6、R7のうち)の2つ以上の基が前記式(4)で表される基であることが好ましい。この場合、複数存在する前記式(4)で表される基は同じものであっても異なるものであってもよい。
【0050】
本発明のメソポーラス有機シリカにおいて、前記式(3)で表されるフェナントロリン環を含む構造は前記メソポーラス有機シリカの骨格中に含まれていても、通常のメソポーラスシリカの細孔内表面(細孔壁)に結合していてもよい。
【0051】
前記式(4)中のYは炭素数1~6のアルキレン基を表す。このような炭素数を有するアルキレン基は耐加水分解性及び耐熱分解性に優れており、炭素数が前記範囲内にあるアルキレン基を有するメソポーラス有機シリカは、加水分解条件下や加熱条件下においてフェナントロリン環が欠落することなく、周期的なメソポーラス構造を有し、結合安定性に優れている。一方、アルキレン基の炭素数が前記上限を超えると、周期的なメソポーラス構造が形成されにくい。他方、前記式(4)中のYが単結合の場合には、フェナントロリン環と加水分解性シリル基との間のSi-C結合がH+とのイプソ置換反応を起こしたり、OH-による求核攻撃を受けたりしやすいため、加水分解条件下や加熱条件下において前記Si-C結合が切断され、フェナントロリン環が欠落する。さらに、前記Si-C結合は、メソポーラス有機シリカの調製時においても結合安定性が低く、切断されやすい。また、前記式(4)中のYがウレア結合(アミノカルバモイル基)又はアミド結合(カルバモイル基)の場合には、加水分解条件下や加熱条件下において前記ウレア結合又はアミド結合が切断され、フェナントロリン環が欠落する。
【0052】
また、前記アルキレン基は直鎖状の飽和炭化水素基であっても分岐鎖状の飽和炭化水素基であってもよい。前記アルキレン基が分岐鎖状の飽和炭化水素基である場合、前記アルキレン基の炭素数は主鎖の炭素数である。したがって、分岐鎖状のアルキレン基は、炭素数2~6のアルキレン基の末端以外の炭素に炭化水素基が置換されている構造を有している。また、このようなアルキレン基には、炭化水素基以外の他の置換基が結合していてもよい。
【0053】
前記式(4)中のRbは置換又は無置換のアリル基を表す。置換アリル基における置換基としては炭化水素基が挙げられる。前記式(4)中のRcは水素原子又はシリル基を表し、シリル基としてはトリメチルシリル基等のアルキルシリル基が挙げられ、Rcとしては、立体障害を抑制できるという観点から、水素原子が好ましい。
【0054】
前記式(4)中の*は、隣接する構造との結合部位である。前記隣接する構造としては、メソポーラス有機シリカ中の前記式(3)で表される構造からなる繰返し単位、後述する式(5)で表される構造、後述する式(6)で表される構造等が挙げられる。また、前記式(3)で表されるフェナントロリン環を含む構造が通常のメソポーラスシリカの細孔内表面(細孔壁)に結合している場合には、前記メソポーラスシリカの表面構造が挙げられ、前記結合部位は前記メソポーラスシリカの表面のケイ素原子と結合していることが好ましい。
【0055】
前記式(4)中のkは1又は2である。kが2の場合、複数存在するシリル基は同じものであっても異なるものであってもよい。また、前記式(4)中のiは1~3の整数(好ましくは2~3の整数)であり、jは0~2の整数(好ましくは0~1の整数)であり、1≦i+j≦3(好ましくは2≦i+j≦3)である。なお、iとjとの組合せは、複数存在する前記式(4)で表される基においてそれぞれ独立であり、本発明のメソポーラス有機シリカ中の全ての前記式(4)で表される基において同じである必要はない。
【0056】
前記式(3)中のR1~R8のうちの残りの基はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基(好ましくは炭素数1~12)、アリール基(好ましくは炭素数6~12)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~12)、フェノキシ基、ヒドロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である。
【0057】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、前記アリール基としては、フェニル基等の単環の芳香族環、ナフチル基、フルオレニル基等の芳香族縮合環等が挙げられ、前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0058】
このような1価又は2価の有機基のうち、メソポーラス有機シリカの機械的強度及び化学的安定性が向上するという観点から、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、フェニル基、フェノキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0059】
前記式(3)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいて、前記式(3)で表される構造の割合としては、1mol%以上であれば特に制限はないが、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用した場合に、周期的なメソポーラス構造の安定化と金属イオンの適切な固定化量の確保を両立するという観点から、1~90mol%が好ましく、2~80mol%がより好ましく、5~50mol%が特に好ましい。
【0060】
前記式(3)で表される構造の割合が100mol%未満の場合、前記式(3)で表される構造以外の構造(以下、「その他の構造」という)としては、下記式(5)及び(6):
【0061】
【0062】
で表される構造が好ましく、これらの構造はいずれか一方が含まれていても両方が含まれていてもよい。
【0063】
前記式(5)において、R9は、2~4価の有機基であり、アルキレン基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6~12)等が挙げられる。前記式(5)及び(6)において、Rdはそれぞれ独立に炭素数1~8(好ましくは1~4)のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリル基を表し、前記アリル基はメチル基等の置換基を有していてもよい。また、前記式(5)及び(6)において、Reはそれぞれ独立に水素原子又はシリル基を表し、前記シリル基としては、トリメチルシリル基等のアルキルシリル基が挙げられ、Reとしては、立体障害を抑制できるという観点から、水素原子が好ましい。
【0064】
また、前記式(5)及び(6)中の*は、隣接する構造との結合部位である。前記隣接する構造としては、メソポーラス有機シリカ中の前記式(3)で表される構造からなる繰返し単位、前記式(5)で表される構造、前記式(6)で表される構造、メソポーラスシリカの表面構造(好ましくは、メソポーラスシリカの表面のケイ素原子)等が挙げられる。
【0065】
前記式(5)中のrはそれぞれ独立に1又は2であり、前記式(5)及び(6)中のpはそれぞれ独立に1~3の整数(好ましくは2~3の整数)であり、前記式(5)及び(6)中のqはそれぞれ独立に0~2の整数(好ましくは0~1の整数)であり、1≦p+q≦3(好ましくは2≦p+q≦3)である。なお、pとqとの組み合わせは、複数存在する前記式(5)又は(6)で表される構造においてそれぞれ独立であり、本発明のメソポーラス有機シリカ中の全ての前記式(5)又は(6)で表される構造において同じである必要はない。
【0066】
前記式(3)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいて、このようなその他の構造の割合としては、前記式(3)で表される構造との合計量に対して、99mol%以下であれば特に制限はないが、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用した場合に、周期的なメソポーラス構造の安定化と金属イオンの適切な固定化量の確保を両立するという観点から、99~10mol%が好ましく、98~20mol%がより好ましく、95~50mol%が特に好ましい。
【0067】
本発明のメソポーラス有機シリカはメソ細孔を有する構造(メソ細孔構造)を有する。このようなメソ細孔構造における細孔径(中心細孔直径)としては、1~50nmが好ましく、1.5~30nmがより好ましい。中心細孔直径が前記下限未満になると、物質拡散への影響が大きいため、金属イオンの配位が起こりにくく、また、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用しても、触媒反応が起こりにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、周期的なメソポーラス構造が形成されにくい傾向にある。
【0068】
また、前記メソ細孔構造における全細孔容量としては、0.1~2cm3/gが好ましく、0.2~1cm3/gがより好ましい。全細孔容量が前記下限未満になると、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用しても、金属イオンの固定化量が制限されるため、触媒反応が起こりにくい傾向にある。
【0069】
さらに、本発明のメソポーラス有機シリカにおいて、比表面積としては、100~1500cm2/gが好ましく、250~1000cm2/gがより好ましい。比表面積が前記下限未満になると、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用しても、金属イオンの固定化量が制限されるため、触媒反応が起こりにくい傾向にある。
【0070】
なお、前記中心細孔直径は、窒素吸脱着等温線に基づいてDFT(Density-Functional-Theory)法により求めることができ、前記全細孔容量は、窒素吸脱着等温線に基づいてt-プロット法により求めることができ、前記比表面積は、窒素吸脱着等温線に基づいてBET(Brunauer-Emmett-Teller)法により求めることができる。
【0071】
また、本発明のメソポーラス有機シリカのX線回折パターンには、1.5~30nmのd値に相当する回折角度に1本以上の回折ピークが存在していることが好ましい。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中に存在することを意味する。従って、1.5~30nmのd値に相当する回折角度に1本以上の回折ピークがあることは、細孔が1.5~30nmの間隔で規則的に配列している、規則的なメソ細孔構造を備えていることを意味する。このような規則的なメソ細孔構造を備えるメソポーラス有機シリカは、大きな比表面積と細孔容量を有しているため、金属イオンの吸着に有利であり、また、金属イオンを固定化して固体触媒へ適用した場合に細孔内での触媒反応に有利である。
【0072】
さらに、本発明のメソポーラス有機シリカにおいて、フェナントロリン環の含有量としては、メソポーラス有機シリカの単位質量当たり0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.15~1mmol/gがより好ましい。フェナントロリン環の含有量が前記下限未満になると、金属イオンの配位が起こりにくい傾向にある。
【0073】
このような本発明のメソポーラス有機シリカは、例えば、前記式(1)で表される有機シラン化合物を界面活性剤の存在下で公知の方法により加水分解・重縮合させて前記界面活性剤を含有する有機シリカメソ構造体を形成し、この有機シリカメソ構造体から前記界面活性剤を公知の方法により除去することによって製造することができる。この反応においては、前記式(1)で表される有機シラン化合物の加水分解性シリル基が加水分解されてシラノール基(Si-OH)が生成し、その後の重縮合反応によりシロキサン結合(Si-O-Si)が形成されることによって、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにアルキレン基を介して結合しているメソポーラス有機シリカ(前記式(3)で表されるメソポーラス有機シリカ)が生成する。
【0074】
また、本発明のメソポーラス有機シリカは、例えば、前記式(1)で表される有機シラン化合物とメソポーラスシリカとを公知の方法により加水分解・縮合させることによって製造することも可能である。この反応においては、前記式(1)で表される有機シラン化合物の加水分解性シリル基が加水分解されてシラノール基(Si-OH)が生成し、このシラノール基がメソポーラスシリカ表面のシラノール基(Si-OH)と反応することによって、フェナントロリン環がメソポーラスシリカにアルキレン基を介して結合しているメソポーラス有機シリカ(前記式(3)で表されるメソポーラス有機シリカ)が生成する。
【0075】
さらに、本発明のメソポーラス有機シリカを製造する際、前記式(1)で表される有機シラン化合物の割合としては、すべての有機シラン化合物100mol%に対して1mol%以上であれば特に制限はないが、得られるメソポーラス有機シリカに金属イオンを固定化して固体触媒へ適用した場合に、周期的なメソポーラス構造の安定化と金属イオンの適切な固定化量の確保を両立するという観点から、1~90mol%が好ましく、2~80mol%がより好ましく、5~50mol%が特に好ましい。
【0076】
前記式(1)で表される有機シラン化合物の割合が100mol%未満の場合、前記式(1)で表される有機シラン化合物以外の有機シラン化合物(以下、「その他の有機シラン化合物」という)としては、下記式(7)及び(8):
【0077】
【0078】
で表される有機シラン化合物が好ましく、これらの有機シラン化合物はいずれか一方が含まれていても両方が含まれていてもよい。
【0079】
前記式(7)において、R9は、2~4価の有機基であり、アルキレン基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6~12)等が挙げられる。前記式(7)及び(8)において、Rdはそれぞれ独立に炭素数1~8(好ましくは1~4)のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリル基を表し、前記アリル基はメチル基等の置換基を有していてもよい。また、前記式(7)及び(8)において、Rfはそれぞれ独立にアルキル基を表す。
【0080】
前記式(7)中のrはそれぞれ独立に1又は2であり、rが2の場合、複数存在する加水分解性シリル基は同じものであっても異なるものであってもよい。また、前記式(7)及び(8)中のsはそれぞれ独立に0~3の整数である。nが0~1の場合、複数存在するRdは同じものであっても異なるものであってもよい。また、nが2~3の場合、複数存在するRfは同じものであっても異なるものであってもよい。さらに、有機シラン化合物の縮合反応が進行しやすく、縮合後の構造が安定するという観点から、nは1~3が好ましく、2~3がより好ましい。
【0081】
本発明のメソポーラス有機シリカを製造する際、このようなその他の有機シラン化合物の割合としては、すべての有機シラン化合物100mol%に対して、99mol%以下であれば特に制限はないが、得られるメソポーラス有機シリカに金属イオンを固定化して固体触媒へ適用した場合に、周期的なメソポーラス構造の安定化と金属イオンの適切な固定化量の確保を両立するという観点から、99~10mol%が好ましく、98~20mol%がより好ましく、95~50mol%が特に好ましい。
【0082】
本発明のメソポーラス有機シリカを製造する際の加水分解・(重)縮合の方法としては特に制限はなく、例えば、特開2014-193457号公報や特開2017-029926号公報に記載の方法を採用することができる。また、本発明のメソポーラス有機シリカを製造する際に用いられる界面活性剤としては、例えば、特開2014-193457号公報や特開2017-029926号公報に記載の界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤を用いることによって、規則的なメソ細孔を有するメソポーラス有機シリカを得ることができる。さらに、このような界面活性剤を前記有機シリカメソ構造体から除去する方法としては、例えば、特開2014-193457号公報や特開2017-029926号公報に記載の方法を採用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した、3,8-ジブロモ-1,10-フェナントロリンは、Tetrahedron Lett.,2004,45,2801-2803を参照して合成し、(トリイソプロポキシシリル)メチルマグネシウムクロリドは、J.Organomet.Chem.,1993,451,C1-C3を参照して合成し、3-ヨードプロピルトリイソプロポキシシランは、J.Mater.Chem.,2005,15,803-809を参照して合成し、3-ヨードプロピルトリアリルシランは、Org.Biomol.Chem.,2006,4,211-223を参照して合成した。また、その他の合成試薬及び溶媒は、東京化成工業株式会社、シグマアルドリッチ社、富士フイルム和光純薬株式会社、関東化学株式会社から購入したものをそのまま使用した。
【0084】
(実施例A1)
<3,8-ビス((トリイソプロポキシシリル)メチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
グローブボックスの外で、攪拌子を備えた125ml耐酸性耐圧反応容器(Parr社製)に3,8-ジブロモ-1,10-フェナントロリン(Br-Phen-Br,1.49g,4.4mmol)を秤量した。この反応容器をグローブボックスに入れ、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド(NiCl2(dppp),138mg,0.255mmol)と超脱水テトラヒドロフラン(THF,50ml)を順に加えた。次に、攪拌しながら、(トリイソプロポキシシリル)メチルマグネシウムクロリド(12.5mmol)のテトラヒドロフラン(THF,18ml)を、シリンジを用いて3分間かけて滴下した。次に、反応容器を密閉し、室温で1時間攪拌した後、オイルバスを用いて140℃で加熱しながら17時間攪拌し、下記反応式(S1):
【0085】
【0086】
で表される反応を行った。その後、反応容器を室温まで放冷し、次いで、1Lの分液ロートに移し、蒸留水(100ml)を加えてクエンチした。クロロホルム(150ml)を用いて3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後の有機層をろ過した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン(330ml)に溶解し、15分間攪拌した。上澄みをセライト濾過し、残渣をヘキサン(330ml)に溶解してセライトで濾過した。この操作を3回繰り返した。得られたヘキサン溶液をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物を中圧分取液体クロマトグラフ(山善株式会社製、シリカゲルカラム、カラムサイズ:3L、展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=7/3→6/4、流速:60ml/min)により精製して薄黄色粉末を得た(収量:1.11g,収率:41%)。
【0087】
この薄黄色粉末を1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、3,8-ビス((トリイソプロポキシシリル)メチル)-1,10-フェナントロリン(SiOPr-Me-Phen-Me-SiOPr)であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ9.01(s,2H)、8.00(s,2H)、7.65(s,2H)、4.21(sept,J=6.0Hz,6H)、2.35(s,4H)、1.15(d,J=6.0Hz,36H)。
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ151.7、143.7、134.7、133.2、127.8、126.0、65.6、25.5、19.4。
【0088】
(実施例A2)
<4,7-ビス(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた二口フラスコに、4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン(Me-Phen-Me,1.00g,4.80mmol)を秤量し、脱水テトラヒドロフラン(THF,100ml)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミド(LDA,10.0ml,10.0mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加え、反応混合物を0℃で2時間攪拌した。この反応混合物を-78℃に冷却した後、3-ヨードプロピルトリイソプロポキシシラン(3.67g,9.80mmol)を0℃で滴下して0℃で1時間攪拌し、得られた反応混合物にLDA(2.00ml,2.00mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加えて室温で2時間攪拌し、下記反応式(S2):
【0089】
【0090】
で表される反応を行った。得られた反応生成物をジエチルエーテル(20ml)で希釈した後、飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、水層をジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過・濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム/エタノール=10/10/1)により精製して褐色透明液体を得た(収量:2.50g,収率:74%)。
【0091】
この褐色透明液体を1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、4,7-ビス(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリン(SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPr)であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ9.04(d,J=4.8Hz,2H)、8.04(s,2H)、7.44(d,J=4.4Hz,2H)、4.20(sept,J=5.2Hz,6H)、3.34(t,J=7.6Hz,4H)、1.88-1.80(m,4H)、1.64-1.55(m,4H)、1.18(d,J=6.8Hz,36H)、0.70-0.66(m,4H)。
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ149.8、148.5、146.7、127.0、122.8、121.8、64.9、33.8、32.2、25.5、23.2、11.9。
【0092】
(実施例A3)
<4-(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた二口フラスコに、4-メチル-1,10-フェナントロリン(Phen-Me,1.00g,5.15mmol)を秤量し、脱水テトラヒドロフラン(THF,200ml)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミド(LDA,5.15ml,5.15mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加え、反応混合物を0℃で2時間攪拌した。この反応混合物に3-ヨードプロピルトリイソプロポキシシラン(3.85g,5.15mmol)を0℃で滴下して室温で20時間攪拌し、下記反応式(S3):
【0093】
【0094】
で表される反応を行った。得られた反応生成物をジエチルエーテル(20ml)で希釈した後、蒸留水を加え、水層をジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過・濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム/エタノール=10/10/1)により精製して橙色透明液体を得た(収量:1.54g,収率:68%)。
【0095】
この橙色透明液体を1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、4-(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリン(Phen-Bu-SiOPr)であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ9.18(dd,J=4.0Hz,1.6Hz,1H)、9.05(d,J=4.4Hz,1H)、8.24(dd,J=8.0Hz,1.6Hz,1H)、8.05(d,J=9.2Hz,1H)、7.79(d,J=9.2Hz,1H)、7.61(dd,J=8.4Hz,4.8Hz,1H)、7.46(d,J=4.4Hz,1H)、4.20(sept,J=6.0Hz,3H)、3.14(t,J=8.0Hz,2H)、1.88-1.80(m,2H)、1.63-1.56(m,2H)、1.18(d,J=6.8Hz,18H)、0.70-0.66(m,2H)。
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ150.2、149.9、148.8、146.7、146.3、135.7、128.1、127.6、125.9、123.1、122.9、122.4、64.9、33.7、32.3、25.6、23.2、11.9。
【0096】
(実施例A4)
<3,4,8-トリメチル-7-(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた二口フラスコに、3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン(Me2-Phen-Me2,500mg,2.11mmol)を秤量し、脱水テトラヒドロフラン(THF,60ml)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミド(LDA,4.22ml,4.22mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加え、反応混合物を0℃で3時間攪拌した。この反応混合物に3-ヨードプロピルトリイソプロポキシシラン(790mg,2.11mmol)を0℃で滴下して0℃で1時間攪拌し、下記反応式(S4):
【0097】
【0098】
で表される反応を行った。得られた反応生成物をジエチルエーテル(20ml)で希釈した後、蒸留水を加え、水層をジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過・濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム/エタノール=10/10/1)により精製し、薄黄色固体を得た(収量:770.4mg,収率:75%)。
【0099】
この薄黄色固体1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、3,4,8-トリメチル-7-(4-(トリイソプロポキシシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリン(Me2-Phen(-Me)-Bu-SiOPr)であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ8.92-8.90(m,2H)、8.02-7.89(m,2H)、4.21(sept,J=6.0Hz,3H)、3.10(t,J=7.6Hz,2H)、2.68(s,3H)、2.53(s,6H)、1.74-1.60(m,2H)、1.19(d,J=5.6Hz,18H)、0.71-0.67(m,2H)。
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ151.9、151.5、145.8、145.4、145.1、141.1、130.3、129.7、126.6、126.1、122.0、121.9、64.9、33.3、28.3、25.6、23.8、17.5、16.9、14.4、12.0。
【0100】
(実施例A5)
<4,7-ビス(4-(トリアリルシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた200ml二口フラスコに、4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン(Me-Phen-Me,500mg,2.40mmol)を秤量し、脱水テトラヒドロフラン(THF,60ml)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミド(LDA,5.0ml,5.0mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加え、反応混合物を0℃で2時間攪拌した。この反応混合物を-20℃に冷却した後、3-ヨードプロピルトリアリルシラン(1.54g,4.80mmol)を滴下して-20℃で20時間攪拌し、下記反応式(S5):
【0101】
【0102】
で表される反応を行った。得られた反応生成物をジエチルエーテル(20ml)で希釈した後、蒸留水を加え、水層をジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過・濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム/エタノール=10/10/1)により精製し、褐色固体を得た(収量:1.43g,収率:100%)。
【0103】
この褐色固体を1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、4,7-ビス(4-(トリアリルシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリン(Si(allyl)-Bu-Phen-Bu-Si(allyl))であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ9.05(d,J=4.8Hz,2H)、8.04(s,2H)、7.43(d,J=4.4Hz,2H)、5.83-5.72(m,6H)、4.92-4.73(m,12H)、3.14(t,J=8.0Hz,4H)、1.86-1.79(m,4H)、1.60(d,J=8.4Hz,12H)、1.55-1.45(m,4H)、0.72-0.67(m,4H)。
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ149.9、148.3、146.8、134.2、127.0、122.9、121.8、113.7、34.2、32.1、23.6、19.6、11.5。
【0104】
(実施例A6)
<4-(4-(トリアリルシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた200ml二口フラスコに、4-メチル-1,10-フェナントロリン(Phen-Me,1.0g,5.15mmol)を秤量し、脱水テトラヒドロフラン(THF,60ml)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミド(LDA,6.0ml,6.0mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加え、反応混合物を0℃で2時間攪拌した。この反応混合物を-20℃に冷却した後、3-ヨードプロピルトリアリルシラン(1.65g,5.15mmol)を滴下して-20℃で3時間攪拌し、得られた反応混合物にLDA(0.3ml,0.3mmol,1.0M in ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液)を加えて-20℃で1時間攪拌し、下記反応式(S6):
【0105】
【0106】
で表される反応を行った。得られた反応生成物をジエチルエーテル(20ml)で希釈した後、蒸留水を加え、水層をジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過・濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム/エタノール=10/10/1)により精製し、褐色固体を得た(収量:1.91g,収率:96%)。
【0107】
この褐色固体を1H-NMR測定及び13C-NMR測定により同定し、4-(4-(トリアリルシリル)ブチル)-1,10-フェナントロリン(Phen-Bu-Si(allyl))であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ9.18(dd,J=4.8Hz,2.0Hz,1H)、9.07(d,J=4.8Hz,1H)、8.24(dd,J=8.0Hz,1.6Hz,1H)、8.04(d,J=9.2Hz,1H)、7.81(d,J=9.2Hz,1H)、7.62(dd,J=8.0Hz,4.0Hz,1H)、7.45(d,J=4.4Hz,1H)、5.83-5.72(m,3H)、4.92-4.84(m,6H)、3.14(t,J=8.0Hz,2H)、1.86-1.79(m,2H)、1.60(d,J=8.0Hz,6H)、1.55-1.45(m,2H)、0.72-0.67(m,2H)。
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ150.3、149.9、148.5、146.7、146.3、135.7、134.2、128.1、127.5、125.9、123.0、122.9、122.3、113.7、34.2、32.2、23.6、19.6、11.5。
【0108】
(比較例A1)
<5-[ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピルカルバモイル]アミノ]-1,10-フェナントロリンの合成>
アルゴン雰囲気下、攪拌子を備えた二口フラスコに、5-アミノ-1,10-フェナントロリン(Phen-Am,1.50g,7.68mmol)を秤量し、脱水クロロホルム(THF,150ml)に溶解させた。その後、イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル(12.75g,51.5mmol)を加え、反応液が10ml程度になるまで減圧下で濃縮した。得られた濃縮液を80℃で24時間攪拌し、下記反応式(S7):
【0109】
【0110】
で表される反応を行った。得られた反応液を室温まで冷却した後、減圧下で濃縮し、得られた粗生成物にヘキサン(300ml)を加えた。生じた沈殿をろ過により回収し、減圧下で乾燥させ、クリーム色の粉末を得た(収量:3.32g,収率:63%)。
【0111】
このクリーム色の粉末を1H-NMR測定により同定し、5-[ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピルカルバモイル]アミノ]-1,10-フェナントロリン(Phen-Am-bis(Calb-Pr-SiOEt))であることを確認した。その結果を以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ9.13(dd,J=4.4Hz,2.0Hz,1H)、9.10(dd,J=4.4Hz,2.0Hz,1H)、8.49(dd,J=8.0Hz,1.6Hz,1H)、8.06-8.03(m,2H)、7.80(dd,J=8.0Hz,4.4Hz,1H)、7.74(dd,J=8.4Hz,4.4Hz,1H)、3.69(q,J=7.2Hz,12H)、3.09-2.97(m,4H)、1.47-1.39(m,4H)、1.12(t,J=7.2Hz,18H)、0.47-0.43(m,4H)。
【0112】
(実施例B1)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,333mg、0.47mmol)及び塩化ナトリウム(1.00g,17.1mmol)を秤量し、蒸留水(17.3ml)及び濃塩酸(1.15ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で2時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A1で得られた前記SiOPr-Me-Phen-Me-SiOPr(148mg,0.24mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(469mg,1.32mmol)のエタノール溶液(0.33ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P1):
【0113】
【0114】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにメチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(100ml)と2mol/L塩酸(3.0ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がメチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Me-Et-PMO-1a)を得た(収量:300mg)。
【0115】
このPhen-Me-Et-PMO-1aのX線回折パターンを、粉末X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-TTR」)を用いて、Cu-KαをX線源とし、電流値300mA、電圧値50mVの条件で測定したところ、
図1Aに示すように、2θ=1.24゜(d=7.12nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Me-Et-PMO-1aの窒素吸脱着等温線を、比表面積/細孔分布測定装置(カンタクローム社製「Nova3000e」)を用いて測定したところ、
図1B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Me-Et-PMO-1aは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、前記Phen-Me-Et-PMO-1aの比表面積S
BETをBET(Brunauer-Emmett-Teller)法により算出(P/P
0=0.1~0.2の範囲で計算)したところ、600m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTをDFT(Density-Functional-Theory)法により算出したところ、4.7nmであり、全細孔容積V
Pをt-プロット法により算出(P/P
0=0.6~0.8の範囲で計算)したところ、0.50cm
3/gであった。また、前記Phen-Me-Et-PMO-1aに含まれる窒素量をCHN元素分析(株式会社ア・ラビット・サイエンスに依頼)により測定し、得られた窒素量から前記Phen-Me-Et-PMO-1aにおけるフェナントロリン環の固定化量を求めたところ、0.87mmol/gであった。
【0116】
(実施例B2)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「P123」,HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H),811mg,0.14mmol)及び塩化カリウム(5.17g,69.3mmol)を秤量し、蒸留水(28.5ml)及び濃塩酸(4.05ml)を加えた。得られた反応混合物を氷冷し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を45℃まで昇温し、攪拌しながら、実施例A1で得られた前記SiOPr-Me-Phen-Me-SiOPr(384mg,0.623mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.25g,3.52mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を45℃で24時間攪拌した後、90℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P2):
【0117】
【0118】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(P123)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにメチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(150ml)と2mol/L塩酸(4.24ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がメチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Me-Et-PMO-1b)を得た(収量:732mg)。
【0119】
このPhen-Me-Et-PMO-1bのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図2Aに示すように、2θ=0.86゜(d=10.3nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Me-Et-PMO-1bの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図2B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Me-Et-PMO-1bは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Me-Et-PMO-1bの比表面積S
BETを算出したところ、648m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、8.1nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.50cm
3/gであった。また、前記Phen-Me-Et-PMO-1aにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.71mmol/gであった。
【0120】
(実施例B3)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,750mg,1.06mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A2で得られた前記SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPr(331mg,0.473mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.51g,4.26mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P3):
【0121】
【0122】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(100ml)と2mol/L塩酸(3.0ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、白色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-1a)を得た(収量:801mg)。
【0123】
このPhen-Bu-Et-PMO-1aのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図3Aに示すように、2θ=1.48゜(d=5.96nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-1aの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図3B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-1aは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-1aの比表面積S
BETを算出したところ、752m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.6nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.62cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-1aにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.45mmol/gであった。
【0124】
(実施例B4)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「P123」,HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H),811mg,0.14mmol)及び塩化カリウム(5.17g,69.3mmol)を秤量し、蒸留水(28.5ml)及び濃塩酸(4.05ml)を加えた。得られた反応混合物を氷冷し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を45℃まで昇温し、攪拌しながら、実施例A2で得られた前記SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPr(404mg,0.577mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.16g,3.27mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を45℃で24時間攪拌した後、90℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P4):
【0125】
【0126】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(P123)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(150ml)と2mol/L塩酸(4.24ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-1b)を得た(収量:712mg)。
【0127】
このPhen-Bu-Et-PMO-1bのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図4Aに示すように、2θ=0.90゜(d=9.80nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-1bの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図4B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-1bは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-1bの比表面積S
BETを算出したところ、572m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、7.0nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.48cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-1bにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.78mmol/gであった。
【0128】
(実施例B5)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,375mg,0.527mmol)及び塩化ナトリウム(2.25g,38.5mmol)を秤量し、蒸留水(39ml)及び濃塩酸(2.50ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A2で得られた前記SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPr(273mg,0.389mmol)及びテトラエトキシシラン(2.18ml,13.00mmol)のエタノール溶液(0.75ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、90℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P5):
【0129】
【0130】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(150ml)と2mol/L塩酸(4.24ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、白色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-PMO)を得た(収量:772mg)。
【0131】
このPhen-Bu-PMOのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図5Aに示すように、2θ=1.56゜(d=5.66nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-PMOの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図5B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-PMOは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-PMOの比表面積S
BETを算出したところ、750m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.4nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.59cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-PMOにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.45mmol/gであった。
【0132】
(実施例B6)
還流管、セプタム及び攪拌子を備えた200ml三口フラスコに、メソポーラスシリカFSM-16(太陽化学株式会社製,2.50g)を秤量し、トルエン(75ml)を加えた。得られた反応混合物を攪拌しながら、実施例A2で得られた前記SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPr(1.26g,1.79mmol)のトルエン溶液(30ml)及びトリフルオロ酢酸(0.45ml)を添加した。得られた反応混合物を還流下で20時間攪拌し、下記反応式(P6):
【0133】
【0134】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過によりろ別した。未反応の前記SiOPr-Bu-Phen-Bu-SiOPrを除去するため、得られた残渣をトルエン及びメタノールを用いてソックスレー抽出し、真空下で乾燥し、薄橙色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラスシリカ粉末(Phen-Bu-FMS16)を得た(収量:3.46g)。
【0135】
このPhen-Bu-FMS16のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図6Aに示すように、2θ=1.88゜(d=4.70nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-FMS16の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図6B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-FMS16は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-FMS16の比表面積S
BETを算出したところ、633m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.1nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.50cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-FMS16におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.43mmol/gであった。
【0136】
(実施例B7)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,1.00g,1.41mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A3で得られた前記Phen-Bu-SiOPr(212mg,0.482mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.54g,4.34mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P7):
【0137】
【0138】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(200ml)と2mol/L塩酸(5.6ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-2)を得た(収量:751mg)。
【0139】
このPhen-Bu-Et-PMO-2のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図7Aに示すように、2θ=1.36゜(d=6.50nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-2の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図7B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-2は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-2の比表面積S
BETを算出したところ、708m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.4nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.58cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-2におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.51mmol/gであった。
【0140】
(実施例B8)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,1.00g,1.41mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A4で得られた前記Me2-Phen(-Me)-Bu-SiOPr(233mg,0.482mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.54g,4.34mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P8):
【0141】
【0142】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(200ml)と2mol/L塩酸(5.6ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-3)を得た(収量:813mg)。
【0143】
このPhen-Bu-Et-PMO-3のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図8Aに示すように、2θ=1.46゜(d=6.05nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-3の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図8B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-3は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-3の比表面積S
BETを算出したところ、756m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.6nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.63cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-3におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.45mmol/gであった。
【0144】
(実施例B9)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,1.00g,1.41mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A5で得られた前記Si(allyl)-Bu-Phen-Bu-Si(allyl)(286mg,0.482mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.54g,4.34mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P9):
【0145】
【0146】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(200ml)と2mol/L塩酸(5.6ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、白色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-4)を得た(収量:786mg)。
【0147】
このPhen-Bu-Et-PMO-4のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図9Aに示すように、2θ=1.56゜(d=5.66nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-4の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図9B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-4は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-4の比表面積S
BETを算出したところ、891m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.4nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.68cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-4におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.41mmol/gであった。
【0148】
(実施例B10)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,1.00g,1.41mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、実施例A6で得られた前記Phen-Bu-Si(allyl)(183mg,0.482mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.54g,4.34mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P10):
【0149】
【0150】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにブチレン基のみを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(200ml)と2mol/L塩酸(5.6ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、白色のフェナントロリン環がブチレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Bu-Et-PMO-5)を得た(収量:731mg)。
【0151】
このPhen-Bu-Et-PMO-5のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図10Aに示すように、2θ=1.64゜(d=5.39nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-5の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図10B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Bu-Et-PMO-5は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Bu-Et-PMO-5の比表面積S
BETを算出したところ、810m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.3nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.64cm
3/gであった。また、前記Phen-Bu-Et-PMO-5におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.58mmol/gであった。
【0152】
(比較例B1)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、非イオン性界面活性剤(アルドリッチ社製「Brij76」,C18H37(OCH2CH2)10OH,1.00g,1.41mmol)及び塩化ナトリウム(3.00g,51.3mmol)を秤量し、蒸留水(52ml)及び濃塩酸(3.46ml)を加えた。得られた反応混合物を60℃で1時間攪拌し、前記非イオン性界面活性剤を完全に溶解させた。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、比較例A1で得られた前記Phen-Am-bis(Calb-Pr-SiOEt)(167mg,0.242mmol)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1.62g,4.58mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を60℃で24時間攪拌した後、80℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P11):
【0153】
【0154】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(Brij76)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにアミノカルバモイル基とプロピレン基とを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(203ml)と2mol/L塩酸(5.75ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、クリーム色のフェナントロリン環がアミノカルバモイル基とプロピレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMO)を得た(収量:685mg)。
【0155】
このPhen-Am-Calb-Pr-Et-PMOのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図11Aに示すように、2θ=1.40゜(d=6.30nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMOの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図11B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMOは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMOの比表面積S
BETを算出したところ、956m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.6nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.82cm
3/gであった。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMOにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.28mmol/gであった。
【0156】
(比較例B2)
攪拌子を備えた110mlバイアル管に、カチオン性界面活性剤であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB,[CH3(CH2)15N(CH3)3]Br,946mg,2.60mmol)を秤量し、蒸留水(22.4ml)及び濃アンモニア水(10.3ml)を加えた。得られた反応混合物を50℃で1時間攪拌し、前記カチオン性界面活性剤を完全に溶解させた後、室温まで冷却した。得られた非イオン性界面活性剤水溶液を攪拌しながら、比較例A1で得られた前記Phen-Am-bis(Calb-Pr-SiOEt)(514mg,0.745mmol)及びテトラエトキシシラン(4.17ml,18.6mmol)のエタノール溶液(1ml)を添加した。得られた反応混合物を室温で24時間攪拌した後、90℃で加熱しながら24時間静置し、下記反応式(P12):
【0157】
【0158】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過装置によりろ別し、鋳型界面活性剤(CTAB)を含み、フェナントロリン環がメソポーラス有機シリカにアミノカルバモイル基とプロピレン基とを介して結合している有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体をエタノール(366ml)と2mol/L塩酸(10.4ml)の混合溶液に一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、薄黄色のフェナントロリン環がアミノカルバモイル基とプロピレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカ粉末(Phen-Am-Calb-Pr-PMO)を得た(収量:1.23g)。
【0159】
このPhen-Am-Calb-Pr-PMOのX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図12Aに示すように、2θ=2.24゜(d=3.94nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-PMOの窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図12B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Am-Calb-Pr-PMOは規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Am-Calb-Pr-PMOの比表面積S
BETを算出したところ、868m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、3.7nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.61cm
3/gであった。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-PMOにおけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.42mmol/gであった。
【0160】
(比較例B3)
還流管、セプタム及び攪拌子を備えた200ml三口フラスコに、メソポーラスシリカFSM-16(太陽化学株式会社製,1.50g)を秤量し、トルエン(75ml)を加えた。得られた反応混合物を攪拌しながら、比較例A1で得られた前記Phen-Am-bis(Calb-Pr-SiOEt)(517mg,0.750mmol)のトルエン溶液(15ml)を添加した。得られた反応混合物を120℃で24時間攪拌し、下記反応式(P13):
【0161】
【0162】
で表される反応を行った。生成した沈殿を加圧ろ過によりろ別した。未反応の前記Phen-Am-bis(Calb-Pr-SiOEt)を除去するため、得られた残渣をトルエン及びメタノールを用いてソックスレー抽出し、真空下で乾燥し、クリーム色のフェナントロリン環がアミノカルバモイル基とプロピレン基とを介して結合しているメソポーラスシリカ粉末(Phen-Am-Calb-Pr-FMS16)を得た(収量:1.77g)。
【0163】
このPhen-Am-Calb-Pr-FMS16のX線回折パターンを実施例B1と同様にして測定したところ、
図13Aに示すように、2θ=1.88゜(d=4.70nm)に規則的なメソ構造に起因する回折ピークが観察された。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16の窒素吸脱着等温線を実施例B1と同様にして測定したところ、
図13B(図中、黒丸は吸着、白丸は脱着を示す)に示すように、IV型であった。したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16は規則的かつ均一なメソ細孔を有するものであることが確認された。さらに、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、実施例B1と同様にして、前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16の比表面積S
BETを算出したところ、650m
2/gであり、中心細孔直径d
DFTを算出したところ、4.1nmであり、全細孔容積V
Pを算出したところ、0.52cm
3/gであった。また、前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16におけるフェナントロリン環の固定化量を実施例B1と同様にして求めたところ、0.36mmol/gであった。
【0164】
<耐加水分解試験>
実施例B5で得られた前記Phen-Bu-PMO、比較例B2で得られた前記Phen-Am-Calb-Pr-PMO、実施例B6で得られた前記Phen-Bu-FMS16、又は比較例B3で得られた前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16を110mlバイアル管にそれぞれ100mg秤量し、6mol/L塩酸(10ml)を加えた。バイアル管を密閉した後、反応混合物を100℃で加熱しながら3日間静置し、前記メソポーラス有機シリカに加水分解処理を施した。その後、室温まで冷却し、減圧ろ過により前記メソポーラス有機シリカをろ別し、残渣をエタノール(50ml)で洗浄した後、真空下、50℃で乾燥させた。
【0165】
加水分解処理前後のメソポーラス有機シリカについて、CHN元素分析(株式会社ア・ラビット・サイエンスに依頼)により窒素量を測定し、得られた窒素量から加水分解処理前後のフェナントロリン環の固定化量を求め、加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率を算出した。その結果を
図14に示す。なお、比較例B2~B3で得られたメソポーラス有機シリカにおける加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率は、アミノカルバモイル基(ウレア結合)の加水分解反応が下記反応式(I):
【0166】
【0167】
のように進行するものと仮定して算出した。
【0168】
図14に示したように、フェナントロリン環がアルキレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ(実施例B5~B6)においては、加水分解処理後におけるフェナントロリン環の保持率が100%以上であり、加水分解条件下においてもほとんどのフェナントロリン環が残存していることが確認された。なお、実施例B5~B6で得られたメソポーラス有機シリカにおいて、加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率が100%以上となった理由は、酸性加熱条件下において未縮合のアルコキシ基やシラノール部位が脱水縮合したため、前記メソポーラス有機シリカ中の単位質量当たりの窒素量が増加したことによるものと考えられる。
【0169】
一方、フェナントロリン環がアミノカルバモイル基(ウレア結合)とアルキレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカ(比較例B2~B3)においては、実施例B5~B6で得られたメソポーラス有機シリカと同様に、酸性加熱条件下において未縮合のアルコキシ基やシラノール部位が脱水縮合して単位質量当たりの窒素量が増加すると考えられるにもかかわらず、加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率は大きく減少し、加水分解条件下において、メソポーラス有機シリカからフェナントロリン環が欠落することがわかった。
【0170】
また、実施例B5~B6で得られたメソポーラス有機シリカに加水分解処理を施した後のろ液は無色透明であったが、比較例B2~B3で得られたメソポーラス有機シリカに加水分解処理を施した後のろ液は黄色を呈していた。この黄色は、メソポーラス有機シリカから欠落した5-アミノ-1,10-フェナントロリンに起因するものと考えられる。
【0171】
以上の結果から、フェナントロリン環がアルキレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカは、フェナントロリン環がアミノカルバモイル基(ウレア結合)とアルキレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカに比べて、耐加水分解性に優れており、触媒担体として優れた特性を有していることがわかった。
【0172】
<耐熱試験>
実施例B4で得られた前記Phen-Bu-Et-PMO-1b、比較例B1で得られた前記Phen-Am-Calb-Pr-Et-PMO、実施例B6で得られた前記Phen-Bu-FMS16、又は比較例B3で得られた前記Phen-Am-Calb-Pr-FMS16を坩堝に、それぞれ75mg秤量し、窒素気流下(1L/min)、350℃まで2時間で昇温させた後、350℃で4時間焼成した。その後、室温まで冷却し、残渣をクロロホルム(50ml)とエタノール(50ml)で洗浄した後、真空下、50℃で乾燥させた。
【0173】
加熱処理前後のメソポーラス有機シリカについて、CHN元素分析(株式会社ア・ラビット・サイエンスに依頼)により窒素量を測定し、得られた窒素量から加水分解処理前後のフェナントロリン環の固定化量を求め、加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率を算出した。その結果を
図15に示す。なお、比較例B1、B3で得られたメソポーラス有機シリカにおける加水分解処理後のフェナントロリン環の保持率は、アミノカルバモイル基(ウレア結合)の熱分解反応が下記反応式(II):
【0174】
【0175】
のように進行するものと仮定して算出した。
【0176】
図15に示したように、フェナントロリン環がアルキレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカ(実施例B4、B6)においては、加熱処理後におけるフェナントロリン環の保持率が100%以上であり、高温での加熱条件下においてもほとんどのフェナントロリン環が残存していることが確認された。なお、実施例B4、B6で得られたメソポーラス有機シリカにおいて、加熱処理後のフェナントロリン環の保持率が100%以上となった理由は、高温での加熱条件下において未縮合のアルコキシ基やシラノール部位が脱水縮合したため、前記メソポーラス有機シリカ中の単位質量当たりの窒素量が増加したことによるものと考えられる。
【0177】
一方、フェナントロリン環がアミノカルバモイル基(ウレア結合)とアルキレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカ(比較例B1、B3)においては、メソポーラス有機シリカ4、6で得られたメソポーラス有機シリカと同様に、高温での加熱条件下において未縮合のアルコキシ基やシラノール部位が脱水縮合して単位質量当たりの窒素量が増加すると考えられるにもかかわらず、加熱処理後のフェナントロリン環の保持率は大きく減少し、高温での加熱条件下において、メソポーラス有機シリカからフェナントロリン環が欠落することがわかった。
【0178】
以上の結果から、フェナントロリン環がアルキレン基のみを介して結合しているメソポーラス有機シリカは、フェナントロリン環がアミノカルバモイル基(ウレア結合)とアルキレン基とを介して結合しているメソポーラス有機シリカに比べて、耐熱分解性に優れており、触媒担体として優れた特性を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0179】
以上説明したように、本発明によれば、加水分解条件下や加熱条件下においてフェナントロリン環が欠落することなく、優れた結合安定性を有するメソポーラス有機シリカを得ることが可能となる。したがって、本発明のメソポーラス有機シリカは、耐加水分解性及び耐熱分解性に優れているため、有機溶媒や水を溶媒として用いた有機合成反応等の各種触媒の担体として有用である。