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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】DNA酵素及びRNA切断方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240215BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N9/22 ZNA
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020049242
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021145616
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発ゲノム編集の国産技術基盤プラットフォームの確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮岸 真
(72)【発明者】
【氏名】猪股 梨華
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-000117(JP,A)
【文献】特開2002-125685(JP,A)
【文献】国際公開第2005/108570(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/083073(WO,A1)
【文献】特開2005-270096(JP,A)
【文献】Runjhun Saran et al.,Searching for a DNAzyme Version of the Leadzyme,J Mol Evol,2015年,Vol.81,pp.235-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00 - 9/99
15/00 - 15/90
C40B 10/00
40/02
40/06 - 40/10
50/06
C12Q 1/00 - 3/00
G01N 33/48 - 33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛存在下において標的RNAを切断する活性を有するDNA酵素であり、
標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第1のアーム領域、コア領域、及び前記標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第2のアーム領域、を5’側からこの順で含み、第1のアーム領域と前記コア領域との間及び第2のアーム領域と前記コア領域との間はそれぞれ直に接しており、
記コア領域が、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、若しくは5’-GG-3’である塩基配列からなる領域であり、かつ、前記標的RNAの被切断領域が、5’-AAG-3’、5’-CAG-3’、若しくは5’-UAG-3’である塩基配列からなる領域であるか、又は、
前記コア領域が、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、若しくは5’-GCA-3’である塩基配列からなる領域であり、かつ、前記標的RNAの被切断領域が、5’-GAAG-3’である塩基配列からなる領域である、
DNA酵素。
【請求項2】
前記第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数が、それぞれ独立に、4塩基以上である、請求項1に記載のDNA酵素。
【請求項3】
前記第1のアーム領域、前記コア領域、及び前記第2のアーム領域の合計塩基数が10~37塩基である、請求項1又は2に記載のDNA酵素。
【請求項4】
亜鉛存在下において標的RNAをDNA酵素で切断せしめる切断工程を含み、
前記DNA酵素が、前記標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第1のアーム領域、コア領域、及び前記標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第2のアーム領域、を5’側からこの順で含み、第1のアーム領域と前記コア領域との間及び第2のアーム領域と前記コア領域との間はそれぞれ直に接しており、
記コア領域が、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、若しくは5’-GG-3’である塩基配列からなる領域であり、かつ、前記標的RNAの被切断領域が、5’-AAG-3’、5’-CAG-3’、若しくは5’-UAG-3’である塩基配列からなる領域であるか、又は、
前記コア領域が、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、若しくは5’-GCA-3’である塩基配列からなる領域であり、かつ、前記標的RNAの被切断領域が、5’-GAAG-3’である塩基配列からなる領域である、DNA酵素である、
RNA切断方法。
【請求項5】
前記切断工程における亜鉛濃度が0.01~30mMである、請求項に記載のRNA切断方法。
【請求項6】
前記切断工程におけるpHが5.5~9である、請求項4又は5に記載のRNA切断方法。
【請求項7】
前記DNA酵素の前記第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数が、それぞれ独立に、4塩基以上である、請求項4~6のうちのいずれか一項に記載のRNA切断方法。
【請求項8】
前記DNA酵素において、前記第1のアーム領域、前記コア領域、及び前記第2のアーム領域の合計塩基数が10~37塩基である、請求項4~7のうちのいずれか一項に記載のRNA切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA酵素及びRNA切断方法に関し、より詳しくは、亜鉛存在下で標的RNAを切断する活性を有するDNA酵素及び亜鉛存在下で標的RNAをDNA酵素で切断せしめるRNA切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素活性を有するRNAであるリボザイムが見い出されて以降、これまで、様々なリボザイムが発見されている(C.Guerrier-Takadaら,Cell,1983,35,p.849-857(非特許文献1)等)。リボザイムは、基質RNAと相補的な塩基対を形成することによって基質RNAと結合し、これを切断するが、このとき、マグネシウムやカルシウム等の金属を必要とすることが知られている。
【0003】
また近年では、酵素活性を有するDNAであるデオキシリボザイム(DNA酵素)も見い出されている。DNA酵素は、リボザイムよりも化学的に安定で調製や取り扱いが容易である。また、特定のRNAを切断する活性を有するDNA酵素は、有害遺伝子のmRNAを切断する遺伝子治療等のツールとしても注目が集まっている。
【0004】
このようなDNA酵素としては、例えば、米国特許第10287578号明細書(特許文献1)において、10-23DNA酵素及び8-17DNA酵素から選択されるDNA酵素がリンカーを介してナノ粒子に結合した化合物が開示されており、オーストラリア特許第199894038号明細書(特許文献2)において、エンドヌクレアーゼ活性を有する特定の構造の核酸が開示されている。また、Jing Liら,Nucleic Acids Research,2000,Vol.28,No.2,p.481-488(非特許文献2)においては、亜鉛依存型のRNA切断活性を有するDNA酵素が開示されており、Hongzhou Guら,J.Am.Chem.Soc.,2013,135,24,p.9121-9129(非特許文献3)においては、亜鉛存在下でDNA切断活性を有するDNA酵素(I-R3等)が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来のDNA酵素では、活性中心となるコア配列の塩基数が多いため(例えば、非特許文献2に記載のDNA酵素では、5’-XAGCYTCGAA-3’の14塩基)、前記コア配列を含むDNA酵素の大量調製や、基質配列によっては基質核酸との正確なホールディングが困難となる場合があり、よりシンプルで短いコア配列を有するDNA酵素の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第10287578号明細書
【文献】オーストラリア特許第199894038号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】C.Guerrier-Takadaら,Cell,1983,35,p.849-857
【文献】Jing Liら,Nucleic Acids Research,2000,Vol.28,No.2,p.481-488
【文献】Hongzhou Guら,J.Am.Chem.Soc.,2013,135,24,p.9121-9129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、活性中心の塩基数が十分に少ない、特定のRNAを切断することが可能なDNA酵素、及びそれを用いたRNA切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、先ず、ビーズに結合させたDNA中に3塩基のRNA(5’-gaa-3’)が挿入されてなる基質核酸と、同基質核酸のDNAの配列と二本鎖を形成するDNA中に10塩基のDNA(N×10)からなるランダム領域が挿入されてなる核酸(ライブラリ核酸)からなる核酸ライブラリーと、をそれぞれ合成した。なお、前記二本鎖を形成するDNA配列は、DNA切断活性を有するDNA酵素(例えば、非特許文献3に記載のI-R3等)の基質-DNA酵素の配列を基に構築した。次いで、これらを用いてSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法によるスクリーニングを行うことにより、RNA切断活性を有するDNA酵素を取得した。すなわち、前記基質核酸と前記核酸ライブラリー中のライブラリ核酸とをアニーリングさせると、当該ライブラリ核酸のランダム領域がRNA切断活性中心を含む場合には、前記基質核酸のRNA部分が切断されて当該RNA切断活性中心を含むライブラリ核酸が溶液中に再リリースされる。これを利用して、前記再リリースされたライブラリ核酸をPCRで増幅して配列を解析することにより、前記核酸ライブラリーから、RNA切断活性中心を含むDNA酵素を取得した。さらに、本発明者らは、前記RNA切断活性中心を含むランダム領域を最小化することにより、当該活性中心の塩基数を2~3塩基にまで、十分に少なくすることに成功した。
【0010】
また本発明者らは、このDNA酵素は前記基質核酸の塩基を全てRNAの塩基に置き換えても当該基質核酸の切断活性を有する、すなわち確かにRNA切断活性を有するDNA酵素であり、特に亜鉛存在下で、基質配列特異的に触媒活性(エンドリボヌクレアーゼ活性)を示すことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かかる知見により得られた本発明の態様は以下のとおりである。
[1]
亜鉛存在下において標的RNAを切断する活性を有するDNA酵素であり、
標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第1のアーム領域、コア領域、及び前記標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第2のアーム領域、を5’側からこの順で含み、かつ、前記コア領域が、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、5’-GG-3’、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、5’-GCA-3’、5’-GCT-3’、又は5’-CCA-3’である塩基配列を含む7塩基以下の領域である、
DNA酵素。
[2]
前記標的RNAの被切断領域が、5’-AAG-3’、5’-CAG-3’、又は5’-UAG-3’である塩基配列を含む領域である、
[1]に記載のDNA酵素。
[3]
前記第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数が、それぞれ独立に、4塩基以上である、[1]又は[2]に記載のDNA酵素。
[4]
前記第1のアーム領域、前記コア領域、及び前記第2のアーム領域の合計塩基数が10~37塩基である、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載のDNA酵素。
[5]
亜鉛存在下において標的RNAをDNA酵素で切断せしめる切断工程を含み、
前記DNA酵素が、前記標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第1のアーム領域、コア領域、及び前記標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第2のアーム領域、を5’側からこの順で含み、かつ、前記コア領域が、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、5’-GG-3’、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、5’-GCA-3’、5’-GCT-3’、又は5’-CCA-3’である塩基配列を含む7塩基以下の領域である、DNA酵素である、
RNA切断方法。
[6]
前記切断工程における亜鉛濃度が0.01~30mMである、[5]に記載のRNA切断方法。
[7]
前記切断工程におけるpHが5.5~9である、[5]又は[6]に記載のRNA切断方法。
[8]
前記標的RNAの被切断領域が、5’-AAG-3’、5’-CAG-3’、又は5’-UAG-3’である塩基配列を含む領域である、
[5]~[7]のうちのいずれか一項に記載のRNA切断方法。
[9]
前記DNA酵素の前記第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数が、それぞれ独立に、4塩基以上である、[5]~[8]のうちのいずれか一項に記載のRNA切断方法。
[10]
前記DNA酵素において、前記第1のアーム領域、前記コア領域、及び前記第2のアーム領域の合計塩基数が10~37塩基である、[5]~[9]のうちのいずれか一項に記載のRNA切断方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性中心の塩基数が十分に少ない、特定のRNAを切断することが可能なDNA酵素、及びそれを用いたRNA切断方法を提供することが可能となる。本発明のDNA酵素は、活性中心の塩基数が十分に少ないことにより、より安価で提供することができ、かつ、より安定に様々な配列の基質核酸を認識することができる。さらに、本発明のDNA酵素は、亜鉛存在下において特異的に機能するため、細胞内における使用や亜鉛の検出等にも有効である。また、本発明のDNA酵素は、核酸アプタマー等と結合させることにより、アロストリックリボザイムのように、ターゲット分子を検出するシステムとして使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例の「1.核酸酵素の取得」において用いた基質核酸及びライブラリ核酸の構成を示す模式図である。
図2】実施例の「1.核酸酵素の取得」におけるスクリーニングの手法を示す模式図である。
図3】スクリーニングでピックアップした核酸酵素候補(s1~s5)による基質核酸(Sub1)の切断活性確認の変性アクリルアミドゲル電気泳動写真である。
図4】スクリーニングでピックアップした核酸酵素と基質核酸との間において想定される二次構造を示す模式図である。
図5】実施例の「2.核酸酵素の最小化」において用いた核酸酵素(s1、s6、s7)及び基質核酸の構成を示す模式図である。
図6】実施例の「2.核酸酵素の最小化」における、核酸酵素(s1、s6、s7、IR3)による基質核酸(Sub2)の切断活性確認の変性アクリルアミドゲル電気泳動写真である。
図7】実施例の「2.核酸酵素の最小化」における、核酸酵素(s1)による基質核酸(Sub3)の切断活性確認の変性アクリルアミドゲル電気泳動写真である。
図8】実施例の「3.核酸酵素の特性解析」においてpH依存性評価で得られた、反応液のpHと切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフである。
図9】実施例の「3.核酸酵素の特性解析」において亜鉛濃度依存性評価で得られた、反応液のZnイオン濃度(Zn(mM))と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフである。
図10】実施例の「3.核酸酵素の特性解析」において金属イオン選択性評価で得られた、反応液の金属種及びその濃度(mM)と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフである。
図11】実施例の「4.核酸酵素の反応速度解析」において得られた、反応時間と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフである。
図12】実施例の「5.核酸酵素のコア領域の配列依存性評価」において得られた、置換したコア領域の塩基配列(5’-N-3’)と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフである。
図13】実施例の「6.核酸酵素の切断部位の解析」において用いた自己切断型核酸酵素の構成を示す模式図である。
図14】実施例の「6.核酸酵素の切断部位の解析」において得られた、LC-Massスペクトル解析の結果を示すグラフである。
図15】実施例の「7.基質の被切断領域の配列依存性評価」における、核酸酵素(s7)による基質核酸(Sub2、Sub4~Sub6)の切断活性確認の変性アクリルアミドゲル電気泳動写真である。
図16】実施例の「7.基質の被切断領域の配列依存性評価」において得られた、置換した塩基配列(基質コア置換配列)と切断残存率との関係を示すグラフである。
図17】実施例の「8.核酸酵素のスクリーニングによる再取得」において用いた基質核酸及びライブラリ核酸の構成を示す模式図である。
図18】実施例の「8.核酸酵素のスクリーニングによる再取得」において得られた、ランダム領域の塩基配列(5’-N-3’)とそのリード数(Number)との関係を示すグラフ(a)、ランダム領域の塩基配列と切断率(Cleavage(%))との関係(b)を示すヒートマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を例に挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明のDNA酵素は、
亜鉛存在下において標的RNAを切断する活性を有するDNA酵素であり、
標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第1のアーム領域、コア領域、及び前記標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な第2のアーム領域、を5’側からこの順で含み、かつ、前記コア領域が、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、5’-GG-3’、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、5’-GCA-3’、5’-GCT-3’、又は5’-CCA-3’である塩基配列を含む7塩基以下の領域である、
DNA酵素である。また、本発明のRNA切断方法は、亜鉛存在下において標的RNAを前記DNA酵素で切断せしめる切断工程を含む、方法である。
【0016】
(DNA酵素)
「DNA酵素」とは、酵素活性(触媒活性)を有する一本鎖DNAであり、「デオキシリボザイム」、「触媒DNA(catalytic DNA)」、「DNAザイム(DNAzyme)」としても知られている。本発明において、「DNA]とは、2個以上のデオキシリボヌクレオチドがホスホジエステル結合により結合した分子及びその修飾体を意味する。
【0017】
本発明のDNA酵素は、RNAを標的として、当該標的RNAを切断する活性(エンドリボヌクレアーゼ活性)を有するものであり、当該活性を有している限り、その全部又は一部に修飾核酸を含むものであってもよい。
【0018】
本明細書において、「修飾核酸」とは、非天然ヌクレオチドにより構成される核酸、又は非天然核酸をいう。ここで、「非天然ヌクレオチド」とは、天然には存在しない人工的な化学修飾を塩基又は糖を含むヌクレオチドであって、天然のヌクレオチドと同様の性質/構造を有するものをいう。種々の非天然ヌクレオチドが公知であり、例えば、脱塩基ヌクレオシド、アラビノヌクレオシド、2’-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾(例えば、置換五単糖(2’-O-メチルリボース、2’-デオキシ-2’-フルオロリボース、3’-O-メチルリボース、1’, 2’-デオキシリボース)、アラビノース、置換アラビノース糖、置換六単糖、α-アノマー糖等)を有するヌクレオシドを含む非天然ヌクレオチドが挙げられる。また、本明細書における非天然ヌクレオチドは、塩基アナログ又は修飾塩基を含むヌクレオチドであってもよい。前記塩基アナログには、例えば、2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、5位置換-2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-オキサゾリル)プリン-9-イル基が挙げられる。前記修飾塩基には、例えば、修飾ピリミジン(例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル)、修飾プリン(例えば、6-メチルアデニン、6-チオグアノシン)、及びその他の複素環塩基が挙げられる。また、本明細書において、「非天然核酸」とは、その骨格に天然には存在しない人工的な化学修飾が導入された核酸アナログであって、天然の核酸と同様の性質/構造を有するものをいう。非天然核酸には、例えば、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、架橋化核酸、モルホリノ核酸、トリアゾール連結核酸、メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2’-O-メチル型DNA/RNAが挙げられる。
【0019】
本発明のDNA酵素は、第1のアーム領域及び第2のアーム領域と、第1のアーム領域及び第2のアーム領域に挟まれたコア領域と、を含む。すなわち、本発明のDNA酵素は、5’側から、第1のアーム領域、コア領域、及び第2のアーム領域をこの順で含む。
【0020】
本発明のDNA酵素における「コア領域」は、RNA切断の活性中心となる塩基配列を含む領域を示す。このようなRNA切断の活性中心となる塩基配列(以下、場合により「コア配列」という)としては、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-GA-3’、5’-GT-3’、5’-GG-3’、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、5’-GCA-3’、5’-GCT-3’、又は5’-CCA-3’であることが好ましく、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、5’-ACA-3’、5’-TCA-3’、又は5’-GCA-3’であることがより好ましく、5’-AC-3’、5’-AA-3’、5’-AT-3’、5’-AG-3’、5’-GC-3’、又は5’-ACA-3’であることがさらに好ましく、5’-AC-3’であることが特に好ましい。
【0021】
本発明に係るコア領域には、本発明の効果が阻害されない限り、前記コア配列の他に、第1のアーム領域との間、及び/又は、第2のアーム領域との間に、さらに他の塩基(介在塩基)を含んでいてもよい。このような介在塩基が含まれる場合、その塩基数としては、1コア領域あたり、5塩基以下であることが好ましく、1~3塩基であることが好ましい。また、本発明に係るコア領域の全塩基数(前記コア配列の塩基数と前記介在塩基数との合計)としては、7塩基以下であることが好ましく、2~6塩基であることが好ましい。本発明のDNA酵素において、第1のアーム領域と前記コア配列との間、及び/又は、第2のアーム領域と前記コア配列との間は、かかる介在塩基を介して接していてもよいが、DNA酵素をより最小化する観点からいずれも直に接していることが好ましい。
【0022】
前記コア領域の5’側に隣接する第1のアーム領域は標的RNAの被切断領域の3’側に隣接する領域(以下、場合により「基質3’領域」という)と、前記コア領域の3’側に隣接する第2のアーム領域は標的RNAの被切断領域の5’側に隣接する領域(以下、場合により「基質5’領域」という)と、それぞれハイブリダイズ可能な領域である。
【0023】
本発明において、前記基質3’領域及び基質5’領域とそれぞれ「ハイブリダイズ可能な領域」とは、典型的には、当該基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列に対してそれぞれ相補的な塩基配列からなる領域を示すが、当該基質3’領域及び基質5’領域とそれぞれハイブリダイズする限り完全に相補的でなくともよい。
【0024】
本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列としては、互いに独立して、それぞれ、第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列を4塩基以下(好ましくは4塩基)とする場合には、後述する基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(4塩基以下)に対してそれぞれ相補的、すなわち、配列相補性が100%であることが好ましい。
【0025】
他方、互いに独立して、それぞれ、第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列を5~6塩基とする場合には、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(5~6塩基)に対して、それぞれ、そのうちの4~6塩基に対して相補的であることが好ましい。また、この場合には、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(5~6塩基)に対して、少なくとも、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列相補性を有していることが好ましい。
【0026】
さらに、互いに独立して、それぞれ、第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列を7塩基以上とする場合には、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(7塩基以上)に対して、それぞれ、そのうちの4塩基~全長に対して相補的であることが好ましい。また、この場合には、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(7塩基以上)に対して、少なくとも、40%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列相補性を有していることが好ましい。
【0027】
或いは、互いに独立して、それぞれ、第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列を5塩基以上とする場合には、それぞれ、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列の全長(5塩基以上)に対して相補的な塩基配列の1~複数個所において、連続して1~5塩基(好ましくは1~3塩基)の塩基が挿入、欠失、又は置換されたものであってもよい。なお、前記配列相補性は、当業者であれば公知の手法(例えば、BLAST(NCBI))を用いて適宜計算することができる。
【0028】
本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列は、上記ハイブリダイズの条件を満たすように、標的RNAの被切断領域の両端に位置する基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列に合わせて、適宜設計することができる。
【0029】
本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数としては、それぞれ独立に、4塩基以上であることが好ましく、6塩基以上であることがより好ましく、9塩基以上であることがさらに好ましい。本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基数の上限としては、特に限定されず、基質3’領域及び基質5’領域にそれぞれ上記の条件でハイブリダイズする限り多くすることができるが、例えば、サイズの最小化という観点からは、15塩基が挙げられる。
【0030】
本発明のDNA酵素のサイズとしては、標的RNAを切断する活性を有するものであれば特に限定はされないが、サイズの最小化という観点から、第1のアーム領域、コア領域、及び第2のアーム領域の合計塩基数の下限を、好ましくは10塩基、より好ましくは12塩基、さらに好ましくは14塩基とすることができる。第1のアーム領域、コア領域、及び第2のアーム領域の合計塩基数の上限としては特に限定されないが、例えば、サイズの最小化という観点からは、37塩基が挙げられる。
【0031】
本発明のDNA酵素としては、本発明の効果が阻害されない限り、第1のアーム領域の5’側、及び/又は、第2のアーム領域の3’側に、基質3’領域及び基質5’領域とのハイブリダイズに寄与しない領域をさらに含んでいてもよい。この場合のDNA酵素のサイズとしては、特に制限されない。
【0032】
このようなDNA酵素を得る方法としては、特に制限されず、従来公知の方法又はそれに準じた方法によって適宜得ることができる。例えば、標的RNAの塩基配列に基づく第1のアーム領域及び第2のアーム領域並びに上記のコア領域の塩基配列から、市販の合成機によって化学的に合成して合成DNAを取得する方法、大腸菌等の宿主細胞で前記合成DNAを挿入したプラスミドを増殖させてプラスミドとして取得する方法、前記合成DNAからPCR等による増幅によって取得する方法が挙げられる。
【0033】
本発明のDNA酵素としては、本発明の効果が阻害されない限り特に制限されず、例えば、ペプチド、ペプチド疑似物、ウイルス由来タンパク質、コレステロール、ステロイド、コレステロール誘導体、脂肪、ビタミン、ビオチン、葉酸、レチン酸、タンパク質、フェリチン、LDL、インスリン、抗体、糖若しくはオリゴ糖、ポリエチレングリコール、及びアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種に結合していてもよい。
【0034】
また、本発明のDNA酵素としては、本発明の効果が阻害されない限り特に制限されず、例えば、プラスチックプレートなどのプレート、ニトロセルロースなどの繊維状物質、金属粒子やラテックス粒子などの粒子といった固相に結合して固定されていてもよい。
【0035】
(標的RNA)
本発明において、「標的RNA」とは、本発明のDNA酵素により触媒作用を受ける(切断される)RNAであって、本発明のDNA酵素の基質に相当するRNAを示す。また、本発明において、「RNA」とは、2個以上のリボヌクレオチドがホスホジエステル結合により結合した分子及びその修飾体を意味する。
【0036】
本発明に係る標的RNAとしては、一本鎖RNAであることが好ましい。一本鎖RNAは、下記の被切断領域を有し、本発明のDNA酵素に切断されうるものであれば特に制限されず、ヘアピン構造、ハンマーヘッド構造等の3次元構造を有するものであってよく、その全部又は一部に前記修飾核酸を含むものであってもよい。また、天然由来のRNAであっても、市販の合成機によって化学合成されたRNA、或いは、試験管内で転写によって合成されたRNAであってもよい。天然の一本鎖RNAとしては、例えば、mRNAやtRNAなどが挙げられる。
【0037】
また、本発明に係る標的RNAの一部はDNAであってもよい。本発明に係る標的RNAとしては、少なくとも下記の基質コア配列の5’側に隣接する1塩基はRNAである必要があるが、それ以外においては、下記の基質5’領域、基質3’領域、及び被切断領域の全部又は一部の塩基はDNAであってもよい。
【0038】
本発明に係る標的RNAは、本発明のDNA酵素に切断される被切断領域と、前記被切断領域の3’側に隣接する領域(基質3’領域)と、前記被切断領域の5’側に隣接する領域(基質5’領域)と、を含む。すなわち、本発明に係る標的RNAは、5’側から、基質5’領域、被切断領域、及び基質3’領域をこの順で含む。
【0039】
本発明に係る標的RNAにおける「被切断領域」は、本発明のDNA酵素に認識される塩基配列を含み、当該DNA酵素に切断される領域を示す。このようなDNA酵素に認識される塩基配列(以下、場合により「基質コア配列」という)としては、5’-AAG-3’、5’-CAG-3’、又は5’-UAG-3’であり、5’-AAG-3’又は5’-CAG-3’であることがより好ましく、5’-AAG-3’であることがさらに好ましい。
【0040】
前記被切断領域には、本発明の効果が阻害されない限り、前記基質コア配列の他に、前記基質5’領域との間に、さらに他の塩基(介在塩基)を含んでいてもよい。このような介在塩基が含まれる場合、その塩基数としては、10塩基以下であることが好ましく、1~3塩基であることがより好ましい。また、本発明に係る被切断領域の全塩基数(前記基質コア配列の塩基数と前記介在塩基数との合計)としては、13塩基以下であることが好ましく、3~6塩基であることが好ましい。本発明に係る標的RNAにおいて、前記基質5’領域と前記基質コア配列との間は、かかる介在塩基を介して接していてもよいが、切断効率の観点から直に接していることが好ましい。
【0041】
本発明において、前記被切断領域の3’側に隣接する基質3’領域、及び前記被切断領域の5’側に隣接する基質5’領域は、それぞれ、本発明のDNA酵素の第1のアーム領域及び第2のアーム領域がハイブリダイズ可能な領域を示す。当該第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列は、上記ハイブリダイズの条件を満たすように、前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列に合わせて、適宜設計することができる。
【0042】
このような基質3’領域及び基質5’領域の位置、すなわち、本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域のハイブリダイズの対象となる基質3’領域及び基質5’領域の位置としては、少なくとも、前記基質3’領域は前記被切断領域の3’末に隣接する1塩基目から3’末方向に、前記基質5’領域は前記被切断領域の5’末に隣接する1塩基目から5’末方向に、互いに独立して、それぞれ、50塩基目迄の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、前記1塩基目~15塩基目迄の範囲内、前記1塩基目~9塩基目迄の範囲内、前記1塩基目~6塩基目迄の範囲内にあることが好ましい。
【0043】
前記基質3’領域及び基質5’領域の塩基数(本発明に係る第1のアーム領域及び第2のアーム領域のハイブリダイズの対象となる全長)としては、それぞれ独立に、4塩基以上であることが好ましく、6塩基以上であることがより好ましく、9塩基以上であることがさらに好ましい。前記基質3’領域及び基質5’領域の全長の上限としては、特に限定されず、長い範囲を選択して、これに合わせて第1のアーム領域及び第2のアーム領域を設計してもよいが、例えば、DNA酵素のサイズの最小化という観点からは、15塩基が挙げられる。
【0044】
また、本発明に係る標的RNAにおいて、上記の基質3’領域、被切断領域、及び基質5’領域の合計塩基数としては、特に限定されないが、サイズの最小化という観点から、その下限を、好ましくは11塩基、より好ましくは13塩基、さらに好ましくは15塩基、さらにより好ましくは17塩基とすることができる。前記基質3’領域、被切断領域、及び基質5’領域の合計塩基数の上限としては特に限定されないが、例えば、サイズの最小化という観点からは、それぞれ独立に、25塩基、23塩基、21塩基が挙げられる。
【0045】
本発明に係る標的RNAとしては、本発明の効果が阻害されない限り、前記基質3’領域の3’側、及び/又は、前記基質5’領域の5’側に、第1のアーム領域及び第2のアーム領域とのハイブリダイズに寄与しない領域をさらに含んでいてもよく、これらの領域は、塩基配列や機能が既知でなくともよい。また、本発明に係る標的RNAのサイズとしては、上記の基質3’領域、被切断領域、及び基質5’領域を含むものであれば特に制限されない。
【0046】
さらに、本発明に係る標的RNAとしては、特に制限されず、目的に応じて、細胞内に存在するRNA又は細胞外に存在するRNAとすることができる。細胞内に存在するRNAとしては、内因性RNAであっても、外因性RNAであってもよい。内因性RNAとしては、mRNA、tRNA、リボゾームRNA,ノンコーディングRNA、microRNA等の、細胞内でゲノムDNAから転写されたRNAが挙げられる。外因性RNAとしては、例えば、細胞内に導入したRNAやプラスミドベクター等によって細胞内で発現させたRNA、感染したウイルス由来のRNAが挙げられる。細胞外に存在するRNAとしては、細胞に由来するRNAであっても、細胞外で転写させたRNAであっても、化学合成したRNAであってもよい。細胞内での外因性RNAの転写は、標的RNAをコードするDNAを含むベクターを細胞内に導入することにより行うことができる。
【0047】
このような標的RNAは試料中に含まれるものであってもよく、前記試料としては特に制限されず、例えば、化学合成したRNAを含む溶液の他、各種生物(細胞、組織、器官、個体)及びその抽出液;ヒト及び動物の体液(唾液、涙、汗、尿、血液、リンパ液等);植物生体液;生物培養液;環境中の水(河川、湖沼、港湾、水路、地下水、浄水、下水、排水等);固形物(土壌、燃え殻等)の懸濁液等を目的に応じて適宜用いることができる。また、前記試料としては、前記標的RNAと前記DNA酵素とを接触させる前に、適宜、希釈液で適宜希釈又は懸濁したものであっても、pH調整したものであってもよい。前記希釈液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等の緩衝液である。
【0048】
(RNA切断活性)
本発明のDNA酵素は、亜鉛存在下において標的RNAを切断する酵素活性(RNA切断活性、エンドリボヌクレアーゼ活性)を有する。なお、本発明において、DNA酵素が前記RNA切断活性を有することは、特に制限されないが、例えば、DNA酵素と標的RNAとを反応液(例えば、50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、1mM ZnCl)中、37℃で1時間静置後に当該反応液を電気泳動等することにより、前記標的RNAの断片の存在を指標として確認することができる。
【0049】
本発明のDNA酵素は、亜鉛存在下でRNA切断活性を有する亜鉛依存型酵素である。このときの至適亜鉛濃度としては、前記標的RNA、前記DNA酵素、及び亜鉛を含む反応系において、0.01~30mMであることが好ましく、0.1~3.0mMであることがより好ましく、0.2~2.0mMであることがさらに好ましく、0.5~1.5mMであることがさらにより好ましい。
【0050】
また、本発明のDNA酵素の至適pHとしては、前記標的RNA、前記DNA酵素、及び亜鉛を含む反応系において、5.5~9であることが好ましく、6.5~8であることがより好ましく、7.0~7.5であることがより好ましい。本発明のDNA酵素の前記標的RNAとの反応温度及び反応時間としては、適宜調整することができる。
【0051】
本発明のDNA酵素は、前記標的RNAの被切断領域のうちの少なくとも1箇所を切断する。このような切断箇所としては、前記基質コア配列の5’側、すなわち、基質コア配列が5’側からAAGである場合にはその5’側1塩基目のAと当該Aの5’側に隣接する塩基との間、基質コア配列が5’側からCAGである場合にはその5’側1塩基目のCと当該Cの5’側に隣接する塩基との間、基質コア配列が5’側からUAGである場合にはその5’側1塩基目のUと当該Uの5’側に隣接する塩基との間が挙げられる。
【0052】
(RNA切断方法)
本発明のRNA切断方法は、亜鉛存在下において前記標的RNAを本発明のDNA酵素で切断せしめる切断工程を含む方法である。本発明のRNA切断方法として、より具体的には、
前記標的RNAと本発明のDNA酵素とを接触させ、前記標的RNAと前記DNA酵素とをハイブリダイズさせるハイブリダイズ工程と、
亜鉛存在下において、前記標的RNAを前記DNA酵素で切断せしめる切断工程と、
を含む方法であることが好ましい。前記標的RNAと前記DNA酵素とを接触させた後、これに亜鉛を添加すること等により、前記ハイブリダイズ工程の後に前記切断工程を行ってもよいが、前記ハイブリダイズ工程と前記切断工程とは、亜鉛存在下で前記標的RNAと前記DNA酵素とを接触させ、切断、解離を繰り返すことにより同時に行うこともできる。
【0053】
本発明のRNA切断方法は、細胞内において行っても、無細胞系において行ってもよい。本発明のRNA切断方法の場となる「細胞内」としては、真核細胞又は原核細胞内であることが好ましく、より好ましくは真核細胞内である。前記真核細胞としては、例えば、動物細胞(哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類の細胞等)、植物細胞、藻細胞、酵母が挙げられ、前記真正細菌細胞としては、大腸菌、サルモネラ菌、枯草菌、乳酸菌、高度好熱菌が挙げられ、前記古細菌細胞としては、メタン菌、高度好塩菌、超好熱菌、高熱好酸菌が挙げられる。これらの細胞は、生体外で培養した状態(例えば、培地中又は培地上にて生育している細胞)であっても、生体内に存在する状態であってもよい。
【0054】
また、本発明のRNA切断方法の場となる「無細胞系」とは、生きた細胞(前記真核細胞、原核細胞)のない系を示す。本発明に係る無細胞系としては、前記標的RNAとDNA酵素とが接触可能な系であれば特に制限されず、例えば、緩衝液内;前記真核細胞又は原核細胞の細胞破砕液内、細胞抽出液内;細胞上清、生体の尿、血液(血清)、唾液等の試料の破砕液内、抽出液内等が挙げられる。
【0055】
前記ハイブリダイズ工程において、前記標的RNAと前記DNA酵素とを接触させる方法としては特に制限されない。細胞内においては、例えば、前記標的RNAを含む細胞に対して前記DNA酵素を直接導入する方法が挙げられる。また、前記標的RNAを含む細胞として、細胞内に存在するRNAが上記の外因性RNAである場合には、細胞内に標的RNAが直接導入されたものであっても、標的RNAをコードするDNAを含むベクターの導入により細胞内で転写されたものであってもよい。
【0056】
上記の細胞にDNA酵素、標的RNA、又は標的RNAをコードするDNAを含むベクターを導入する方法としては、当業者であれば、細胞の種類などに応じて、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができ、例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、ジーンガン法、リン酸カルシウム法、リポソーム法(リポフェクション法)、ナノパーティクル法、DEAE-デキストラン法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、ウイルス(アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウィルス等)、アグロバクテリウム法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法、熱ショック法(塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法)等が挙げられる。このような方法は、「Leonard G.Daviset al.,Basic methods in molecular biology,New York:Elsevier,1986」など、多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
【0057】
また、前記標的RNAと前記DNA酵素とを接触させる方法として、無細胞系においては、例えば、標的RNAの溶液とDNA酵素の溶液とを混合すればよい。これらの溶液の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等の緩衝液が好ましい。
【0058】
前記標的RNAと前記DNA酵素とを細胞内又は無細胞系で接触させることにより、前記標的RNAの基質3’領域と前記DNA酵素の第1のアーム領域、及び、前記標的RNAの基質5’領域と前記DNA酵素の第2のアーム領域、がそれぞれハイブリダイズされる。
【0059】
前記切断工程においては、亜鉛を共存させることにより、前記標的RNAを前記DNA酵素で切断せしめることができる。前記亜鉛としては、亜鉛イオン(Zn2+)の状態であることが好ましい。
【0060】
前記亜鉛を共存させる方法として、細胞内においては、例えば、亜鉛の塩化物、硫化物、酸化物等の亜鉛化合物の溶液を、上記のDNA酵素を導入した又はする細胞を含む培地に添加する方法、亜鉛酸化物のナノパーティクルにDNA酵素を封入し、細胞に導入する方法(例えば、Angew Chem Int Ed Engl.2019 May 27;58(22):7380-7384.doi:10.1002/anie.201902714.)が挙げられる。
【0061】
前記亜鉛を共存させる方法として、無細胞系においては、例えば、亜鉛の塩化物、硫化物、酸化物等の亜鉛化合物の溶液を前記標的RNAと前記DNA酵素との混合溶液に添加するか、前記亜鉛化合物を前記標的RNAの溶液及び/又は前記DNA酵素の溶液に予め添加しておくことが好ましい。前記各溶液の溶媒としては、前記緩衝液が挙げられる。
【0062】
このような切断工程における亜鉛濃度、pHとしては、その好ましい範囲も含めて、前記DNA酵素において述べたとおりである。
【0063】
さらに、このような切断工程における温度としては、例えば、25~65℃であることが好ましく、30~50℃であることがより好ましく、35~42℃であることがさらに好ましい。
【0064】
また、前記切断工程における時間としては、例えば、10~360分間であることが好ましく、20~120分間であることがより好ましく、30~90分間であることがさらに好ましい。
【0065】
(DNA酵素、RNA切断方法の利用)
本発明のDNA酵素は、標的RNAの被切断領域の1箇所を塩基配列特異的に切断することができるため、標的RNAの被切断領域(好ましくは基質コア配列)の両端の基質3’領域及び基質5’領域の塩基配列に基づいて第1のアーム領域及び第2のアーム領域の塩基配列を調製することにより、当該標的RNAの切断工程を含む様々な方法に用いることができる。
【0066】
例えば、標的mRNAの一塩基多型を検出する方法として、本発明のDNA酵素の塩基配列特異性を利用し、RCA法、PCR法、LAMP法と組み合わせて、検出することが可能である。また、本発明のDNA酵素のRNA切断活性を利用して、標的mRNAを切断し、その切断されたmRNAをプライマーとして用い、RCA法、LAMP法、PCR法と組み合わせて検出するシステムを構築することもできる。
【0067】
さらに、細胞内で特定のタンパク質をコードするmRNAを標的RNAとすることにより、当該特定のタンパク質に由来する機能を制御して、当該細胞やそれを含む組織、器官、個体の形質を変化させる方法(例えば、ヒトにおける疾患(ウイルス感染症、癌等)の予防や治療、モデル動物における疾患の発症、植物の品種改良、魚類の筋肉量増大、微生物における物質生産の増大)に用いることができる。また、例えば、疾患の原因となる遺伝子(癌遺伝子等)、ウイルス、病原菌のRNAを標的RNAとすることにより、当該疾患の予防及び/又は治療方法に用いることもできる。さらに、例えば、二次構造が未知のRNAを標的RNAとすることにより、その二次構造を分析する方法等に利用することもできる。
【0068】
さらに、本発明のDNA酵素のRNA切断活性は、亜鉛の存在に特異的に依存するため、例えば、標的RNAの切断活性を指標とする試料中の亜鉛検出方法にも用いることができる。かかる方法では、前記試料に本発明のDNA酵素とその標的RNAとを添加するとこれらがハイブリダイズし、前記試料中に亜鉛が存在する場合には前記標的RNAが切断されるため、当該標的RNAの切断が確認された場合には前記試料中に亜鉛が存在していると判定することができる。前記試料としては、亜鉛が存在しうる試料であれば特に制限されない。
【0069】
また、本発明のDNA酵素のRNA切断活性は、例えば、Yongyun Zhaaoら,Nature Communications DOI:10.1038/ncomms2492に記載されているようなRNA増幅による標的RNAの検出方法にも用いることができる。
【0070】
さらに、本発明のDNA酵素のRNA切断活性は、アプタマーとDNA酵素とを結合させてアロステリック核酸酵素を作製し、前記アプタマーのターゲット分子を検出するバイオセンサーにも用いることができる(例えば、Nature Chemical Biology volume 7,p.519-527(2011))。さらに、このアロステリック核酸酵素をDNAコンピューターに応用することも可能である(例えば、Nucleic Acids Research,2019,Vol.47,No.3,p.1094-1109)。
【0071】
また、本発明は、上記の各方法に用いるための本発明のDNA酵素を含むキットも提供する。これらキットには、当該DNA酵素の標的RNA;酵素反応に必要な緩衝液、亜鉛化合物、pH調整剤等の試薬をさらに備えていてもよい。前記DNA酵素、標的RNA、試薬の標品としては、緩衝液、安定剤、保存剤、防腐剤等の他の成分が添加してあってもよい。
【0072】
さらに、本発明は、前記DNA酵素を有効成分として含む医薬組成物も提供することができる。この医薬組成物は、標的RNAが原因となって生じる疾病の予防及び/又は治療のために用いられるものであることが好ましい。このような標的RNAとしては、例えば、ウイルスや病原菌のRNAや、各種疾患に関連するタンパク質をコードするmRNA、遺伝子(癌遺伝子等)のRNA等が挙げられる。
【実施例
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
1.核酸酵素の取得
10塩基のランダム領域を含む核酸ライブラリーを合成し、基質核酸を用いて、RNAを切断する核酸酵素をSELEX法によるスクリーニングにより取得した。図2に、スクリーニング方法の模式図を示す。先ず、図1に示すように、DNA中に3塩基のRNA(5’-gaa-3’)が挿入されてなる基質核酸(基質核酸1、配列番号:1)を化学合成し、その3’側にビオチン(ビオチン2)を結合させてビオチン化し、ビーズ(ストレプトアビジンビーズ5)に結合させた(図2の(I))。また、図1に示すように、基質核酸1のDNAの配列と二本鎖(二本鎖4)を形成するDNA中に10塩基のDNA(N×10)からなるランダム領域が挿入されてなる核酸(以下、「ライブラリ核酸(ライブラリ核酸31)」という。)からなる核酸ライブラリー(核酸ライブラリー3)を化学合成した。次いで、核酸ライブラリー3中のライブラリ核酸31の前記ランダム領域の両側と、基質核酸1とで、アニーリングにより二本鎖を形成させた(図1図2の(II))。ライブラリ核酸31がRNA切断活性を有するランダム領域を含む場合には、基質核酸1のRNA部分が切断され、当該ランダム領域を含むライブラリ核酸31が溶液中に再リリースされる(図2の(III)、(IV))。
【0075】
この図2に示すサイクルを3サイクル行った。溶液中に再リリースされたライブラリ核酸31は、下記のプライマー:
フォワードプライマー:配列番号:23
リバースプライマー:配列番号:24
を用いてPCRで増幅した。3サイクル後に増幅された核酸について、シークエンサー(MiSeq、Illumina社製)により配列を解析した。得られた約3万リードの配列から、上位465配列をMEME(Multiple EM algorithm for motif Elicitation)により解析して近似配列を有するクラスターの配列を抽出し、その中から、核酸酵素の候補となる下記の表1に示す配列を5つ任意にピックアップした(s1~s5、配列番号:2~6)。表1には、上記の基質核酸(Sub1)も併せて示す。また、表1には、ネガティブコントロールとして、基質核酸と同じ配列のDNAは切断するが、RNA配列は切断しないことが知られている核酸酵素(非特許文献3に記載のI-R3、IR3、配列番号:7)も併せて示す。
【0076】
なお、特に断りのない限り、以下の表及び図中、大文字のA、T、C、GはそれぞれDNAの塩基を示し、小文字のa、u、c、gはそれぞれRNAの塩基を示し、以下の表中、下線部はランダム領域を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
次いで、ピックアップした各核酸酵素候補のRNA切断活性を確認した。ピックアップした各核酸酵素候補(s1~s5)又はIR3と、基質核酸(Sub1)とをそれぞれアニーリングさせた後、反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、10mM MgCl、1mM ZnCl)中で37℃において1時間静置して反応させた。反応後の溶液を、それぞれ、尿素を含む18%のポリアクリルアミドゲル(変性アクリルアミドゲル)に電気泳動してCyberGoldで染色し、基質核酸の切断活性を確認した。結果(変性アクリルアミドゲル電気泳動写真)を図3に示す。
【0079】
図3に示したように、ピックアップした全ての核酸酵素候補(s1~s5:実施例1~実施例5)では切断された基質核酸の断片が確認され、いずれも基質核酸(Sub1)の切断活性を有する核酸酵素であった。
【0080】
2.核酸酵素の最小化
上記の「1.核酸酵素の取得」で得られた核酸酵素配列におけるコンセンサス配列を用いた二次構造の考察から、例えば図4に示すように、ランダム領域の5’側から3塩基目~6塩基目の配列(例えば、図4では5’-CAAC-3’)が基質核酸と二本鎖を形成している可能性が考えられた。この場合、ランダム領域(例えば、図4のランダム領域6)の5’側から7塩基目~10塩基目の配列は、バルジ構造となり、核酸酵素の活性に寄与しないことが想定される。このことを実験的に実証するために、上記の「1.核酸酵素の取得」で得られた核酸酵素配列中、最も出現頻度の多かった配列(s1、図5の(a))から、ランダム領域の7塩基目~10塩基目を欠失させた核酸酵素(s6、配列番号:8、実施例6、図5の(b))、並びに、s6からさらに5塩基目及び6塩基目を基質鎖と二本鎖を形成するように置換した核酸酵素(s7、配列番号:9、実施例7、図5の(c))をそれぞれ化学合成した。また、切断活性をより定量的に解析するために、基質核酸として、Sub1の3’側をFITC(fluorescein isothiocyanate)でラベルした基質核酸(Sub2)を化学合成した。さらに、Sub2の配列を全てRNA配列に置換した基質核酸(Sub3、配列番号:10)も化学合成した。各核酸酵素及び基質核酸を下記の表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
各核酸酵素(s1、s6、s7、IR3)と基質核酸(Sub2、Sub3)とをそれぞれアニーリングさせた後、反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、10mM MgCl、0mM ZnCl(-)又は1mM ZnCl(+))中で37℃において1時間静置して反応させた。反応後の溶液を、それぞれ、尿素を含む18%のポリアクリルアミドゲル(変性アクリルアミドゲル)に電気泳動してCyberGoldで染色し、基質核酸の切断活性を確認した。また、電気泳動後にGelDoc(バイオラド社)を用いて画像を取得し、切断された基質核酸の画像濃度及び切断されなかった基質核酸(基質核酸)の画像濃度から、次式:
Cleavage(%)={(切断された基質核酸の画像濃度)/(切断された基質核酸の画像濃度+基質核酸の画像濃度)}×100
により、基質核酸の切断率(Cleavage(%))を算出した。基質核酸としてSub2を用いたときの電気泳動の結果(変性アクリルアミドゲル電気泳動写真)及び切断率を図6に、基質核酸としてSub3を用いたときの電気泳動の結果(変性アクリルアミドゲル電気泳動写真)を図7に、それぞれ示す。
【0083】
図6に示したように、s6及びs7のどちらの核酸酵素も切断活性を示し、本発明のDNA酵素の最小のコア配列が5’-AC-3’の2塩基であることがわかった。また、図7に示したように、基質核酸の全てをRNAに置換した場合においても同様に切断活性を示すことが確認され、基質の最小の被切断領域の塩基配列(基質コア配列)は5’-aag-3’(Sub2では、5’側から22塩基~24塩基の5’-aaG-3’)の3塩基であることがわかった。
【0084】
3.核酸酵素の特性解析
上記の核酸酵素s7を例として、pH依存性、亜鉛濃度依存性、金属イオン選択性を評価した。先ず、核酸酵素s7と基質核酸Sub2とをアニーリングさせた後、反応液の組成を50mM HEPES、150mM NaCl、1mM ZnClとし、反応液のpHを6、6.5、7、7.5、又は8としたこと以外は上記の「2.核酸酵素の最小化」と同様にして基質核酸の切断率を算出し、pH依存性を評価した。反応液のpHと切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフを図8に示す。
【0085】
また、核酸酵素s7と基質核酸Sub2とをアニーリングさせた後、反応液におけるZnイオン(ZnCl)の濃度を0、0.1、0.3、1、3、又は10mMとしたこと以外は上記のpH依存性の評価と同様にして基質核酸の切断率を算出し、亜鉛濃度依存性を評価した。反応液のZnイオン濃度(Zn(mM))と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフを図9に示す。
【0086】
さらに、核酸酵素s7と基質核酸Sub2とをアニーリングさせた後、反応液の組成を50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、XmM 塩化金属としたこと以外は上記のpH依存性の評価と同様にして基質核酸の切断率を算出し、金属イオン選択性を評価した。前記Xは0.1、1、又は10であり、前記塩化金属は、MgCl、CaCl、MnCl、FeCl、CoCl、CuCl、ZnCl、又はBaClである。反応液の金属種及びその濃度(mM)と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフを図10に示す。
【0087】
図8に示したように、本発明のDNA酵素(例えば、s7)は、至適pHが5.5~9、より好ましくは6.5~8、さらに好ましくは7.0~7.5、の範囲にあることがわかった。
【0088】
また、図9、10に示したように、本発明のDNA酵素(例えば、s7)は、亜鉛(亜鉛イオン)の存在に特異的に依存するものであって、その至適亜鉛濃度が0.01~30mM、より好ましくは0.1~3.0mM、さらに好ましくは0.2~2.0mM、さらにより好ましくは0.5~1.5mM、の範囲にあることがわかった。
【0089】
4.核酸酵素の反応速度解析
上記の核酸酵素s7を例として、反応速度を解析した。解析は、核酸酵素s7と基質核酸Sub2とをアニーリングさせた後、反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、1mM ZnCl)中で、37℃において、0分、5分、20分、60分、又は180分間静置して反応させた。反応後の溶液を、それぞれ、尿素を含む18%のポリアクリルアミドゲルに電気泳動してCyberGoldで染色し、上記の「2.核酸酵素の最小化」と同様にして切断率を算出した。反応時間と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフを図11に示す。図11に示したように、本発明のDNA酵素(例えば、s7)の反応速度を表す反応速度定数kobsは0.20±0.01/minであった。
【0090】
5.核酸酵素のコア領域の配列依存性評価
本発明のDNA酵素のコア領域の配列依存性を確認するために、核酸酵素s7において、上記の「2.核酸酵素の最小化」で確認された最小のコア配列5’-AC-3’を異なる塩基配列(5’-N-3’)に置換した15の核酸酵素を化学合成し、酵素活性を確認した。すなわち、合成した各核酸酵素と基質核酸Sub2とをアニーリングさせた後、反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、1mM ZnCl)中で37℃において1時間静置して反応させた。反応後の溶液を、それぞれ、尿素を含む18%のポリアクリルアミドゲルに電気泳動してCyberGoldで染色し、上記の「2.核酸酵素の最小化」と同様にして切断率を算出した。置換したコア領域の塩基配列(5’-N-3’)と切断率(Cleavage(%))との関係を示すグラフを図12に示す。また、図12より、用いた核酸酵素の中で、特に活性を示した核酸酵素(s8~s11、配列番号:11~14、実施例8~実施例11)を下記の表3に示す。表3中、太斜字は、Nに対応する塩基配列を示す。
【0091】
【表3】
【0092】
6.核酸酵素の切断部位の解析
核酸酵素の切断部位を調べるために、上記の核酸酵素s7を基に、下記の表4及び図13に示す自己切断型の核酸酵素(s12、配列番号:15)を合成した。これを反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、1mM ZnCl)中で37℃において1時間静置して切断させた後、切断後の核酸をLC-Massスペクトル解析により解析(ジーンデザイン株式会社)した。結果を図14に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
図14に示したように、切断後の5’側は水酸基(図14の(a))、3’側は2’,3’サイクリックリン酸構造(図14の(b))を有しており、ハンマーヘッドリボザイムで切断されたときと同様の切断反応であることが示唆された。また、自己切断型の核酸酵素(s12)の切断部位は5’側から18塩基目のgと19塩基目のaとの間であり、上記の基質コア配列(5’-aaG-3’)の直前であることがわかった。
【0095】
7.基質の被切断領域の配列依存性評価
本発明のDNA酵素が切断する基質の被切断領域の配列依存性を確認するために、Sub2において、基質コア配列5’-aag-3’(Sub2では、5’側から22塩基~24塩基の5’-aaG-3’)のうちの1塩基を他のRNA又はDNAに置換した基質核酸(Sub4~Sub6、配列番号:16~18)を化学合成した。各基質核酸を下記の表5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
核酸酵素s7と合成した各基質核酸(Sub2、Sub4~Sub6)とをそれぞれアニーリングさせた後、反応溶液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、1mM ZnCl)中で37℃において1時間静置して反応させた。反応後の反応液を、それぞれ、尿素を含む18%のポリアクリルアミドゲルに電気泳動してCyberGoldで染色し、各基質核酸の切断活性を確認した。結果(変性アクリルアミドゲル電気泳動写真)を図15に示す。
【0098】
さらに基質配列を網羅的に解析するため、Sub2において、上記の基質コア配列(5’-aag-3’)をランダムな配列に置換した基質核酸を化学合成し、それぞれ核酸酵素s7で上記と同様に切断後、シークエンサー(MiSeq、Illumina社製)により切断された配列(基質コア配列)の解析を行ない、次式:
切断残存率=(切断後の各基質コア配列のリード数の割合)/(切断される前の各基質コア配列のリード数の割合)
により、各基質コア配列を有する基質核酸の切断残存率を算出した。置換した塩基配列(基質コア置換配列)と切断残存率との関係を示すグラフを図16に示す。なお、図16中、各基質コア置換配列は、5’側からのRNAの塩基配列を示し、TはUに置き換えて読むものとする。
【0099】
図15に示したように、基質コア配列(5’-aag-3’)の5’側1塩基目をcに置換した基質配列(Sub4、基質コア配列:5’-cag-3’)は切断されたが、5’側から2塩基目、3塩基目をそれぞれc又はCに置換した基質配列(Sub5、Sub6)は切断されなかった。また、図16に示したように、基質コア配列(5’-aag-3’)を、5’-cag-3’に置換した基質核酸に対して、特に高い切断活性が示されることがわかった。また、前記基質コア配列を5’-uag-3’に置換した基質核酸に対しても約半分の切断活性が示されることがわかった。
【0100】
8.核酸酵素のスクリーニングによる再取得
核酸酵素s7の類縁の核酸酵素を網羅的にする取得するため、図17に示すように、核酸酵素s7のDNA酵素のコア配列(5’-AC-3’)に代えて3塩基(5’-N-3’)のランダム領域を有するライブラリ核酸からなる核酸ライブラリーを化学合成した。また、下記の表6に示す、DNA中に4塩基のRNA(5’-gaag-3’)が挿入されてなる基質核酸(Sub7、配列番号:19)を化学合成した。これらを用いたこと以外は上記の「1.核酸酵素の取得」と同様にして、図2に示すサイクルにより、溶液中に再リリースされたライブラリ核酸に含まれるランダム領域の塩基配列を解析した。得られたランダム領域の塩基配列(5’-N-3’)とそのリード数(Number)との関係を示すグラフを図18(a)に、当該ランダム領域の塩基配列と切断率(Cleavage(%))との関係を示すヒートマップを図18(b)に、それぞれ示す。
【0101】
図18(a)及び図18(b)に示したように、前記ランダム領域が5’-ACC-3’である場合が一番セレクションにより濃縮されており、最も高い活性を有する核酸酵素であることが示唆された。この核酸酵素の配列は、核酸酵素s7と同じ配列である。次いで、5’-ACA-3’、5’-GCC-3’、5’-TCA-3’、5’-GCA-3’、5’-AAC-3’、5’-ATC-3’、5’-AGC-3’の配列の順に濃縮が確認され、これらの配列を含む核酸酵素も高い切断活性を有することがわかった。なお、5’-GCC-3’、5’-AAC-3’、5’-ATC-3’、5’-AGC-3’の配列を含む核酸酵素は、3塩基目のCが上記の基質コア配列(5’-aag-3’)のgと二本鎖を形成することから、それぞれ、核酸酵素s11、s8、s9、s10と同じ配列であるといえる。これら以外の基質核酸Sub7に対して新たに活性が確認された主な核酸酵素(s13~s15、配列番号:20~22、実施例12~14)を下記の表6に示す。
【0102】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明したように、本発明によれば、活性中心の塩基数が十分に少ない、特定のRNAを切断することが可能なDNA酵素、及びそれを用いたRNA切断方法を提供することが可能となる。本発明のDNA酵素は、活性中心の塩基数が十分に少ないことにより、より安価で提供することができ、かつ、より安定に基質核酸をホールディングさせることができる。さらに、本発明のDNA酵素は、亜鉛存在下において特異的に機能するため、細胞内における使用や亜鉛の検出等にも有効である。
【符号の説明】
【0104】
1…基質核酸、2…ビオチン、3…核酸ライブラリー、31…ライブラリ核酸、4…二本鎖、5…ストレプトアビジンビーズ、6…ランダム領域。
【配列表フリーテキスト】
【0105】
配列番号:1
<223> 基質核酸Sub1
<223> 21~23はRNAを示す
配列番号:2
<223> 核酸酵素s1
配列番号:3
<223> 核酸酵素s2
配列番号:4
<223> 核酸酵素s3
配列番号:5
<223> 核酸酵素s4
配列番号:6
<223> 核酸酵素s5
配列番号:7
<223> ネガティブコントロールIR3
配列番号:8
<223> 核酸酵素s6
配列番号:9
<223> 核酸酵素s7
配列番号:10
<223> 基質核酸Sub3
配列番号:11
<223> 核酸酵素s8
配列番号:12
<223> 核酸酵素s9
配列番号:13
<223> 核酸酵素s10
配列番号:14
<223> 核酸酵素s11
配列番号:15
<223> 核酸酵素s12
<223> 18~20はRNAを示す
配列番号:16
<223> 基質核酸Sub4
<223> 21~23はRNAを示す
配列番号:17
<223> 基質核酸Sub5
<223> 21~23はRNAを示す
配列番号:18
<223> 基質核酸Sub6
<223> 21~23はRNAを示す
配列番号:19
<223> 基質核酸Sub7
<223> 21~24はRNAを示す
配列番号:20
<223> 核酸酵素s13
配列番号:21
<223> 核酸酵素s14
配列番号:22
<223> 核酸酵素s15
配列番号:23
<223> フォワードプライマー
配列番号:24
<223> リバースプライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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