IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本放送協会の特許一覧

<>
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図1
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図2
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図3
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図4
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図5
  • 特許-信号処理回路及び固体撮像素子 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】信号処理回路及び固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
   H04N 25/772 20230101AFI20240215BHJP
   H04N 25/57 20230101ALI20240215BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240215BHJP
   H03M 1/60 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H04N25/772
H04N25/57
H01L27/146 A
H01L27/146 F
H03M1/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020007604
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114741
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
【審査官】鈴木 明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-004225(JP,A)
【文献】特開2016-086407(JP,A)
【文献】特開2019-047486(JP,A)
【文献】特開2011-091584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 25/00-25/79
H01L 27/14-27/148
H03M 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の電荷量に対応する電圧検出ノードと、電圧検出ノードをリセット電圧とするリセット手段と、前記電圧検出ノードの電圧としきい値電圧を比較するコンパレータとを有し、パルスを発生するパルス発生回路と、
前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた、信号処理回路において、
前記電荷量の検出期間ごとに前記しきい値電圧を制御し、前記しきい値電圧の異なる検出期間の前記カウンタ回路の出力ビットを組み合わせて、前記カウンタ回路のビット数よりもビット数が拡張された出力を得ることを特徴とする、信号処理回路。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理回路において、
前記カウンタ回路のビット数に対応するメモリと、
前記カウンタ回路と前記メモリとを接続するカウンタ出力スイッチと
を更に備えることを特徴とする信号処理回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の信号処理回路において、
前記リセット電圧と前記しきい値電圧の差分電圧を、第1検出期間と第2検出期間で2の累乗の比とすることを特徴とする信号処理回路。
【請求項4】
請求項3に記載の信号処理回路において、
前記カウンタ回路のビット数nに対して、第1検出期間と第2検出期間の前記差分電圧の比を2nとすることを特徴とする信号処理回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の信号処理回路を、各画素に設けた固体撮像素子。
【請求項6】
請求項5に記載の固体撮像素子において、
画素ごとに、又は、複数の画素をまとめたブロックごとに、前記しきい値電圧の設定を異ならせることを特徴とする固体撮像素子。
【請求項7】
画素ごとに、検出対象の電荷量に対応する電圧検出ノードと、電圧検出ノードをリセット電圧とするリセット手段と、前記電圧検出ノードの電圧としきい値電圧を比較するコンパレータとを有し、パルスを発生するパルス発生回路と、前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた信号処理回路を有する、固体撮像素子において、
前記信号処理回路を第1のしきい値電圧で制御する画素と、前記信号処理回路を第2のしきい値電圧で制御する画素とを、隣接して配置し、両画素の前記カウンタ回路の出力ビットを組み合わせて、前記カウンタ回路のビット数よりもビット数が拡張された出力を得ることを特徴とする固体撮像素子。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の固体撮像素子において、
各画素を構成する回路要素を異なる基板に形成し、前記基板を3次元積層したことを特徴とする固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理回路及び固体撮像素子に関し、特に、固体撮像素子(イメージセンサ)の各画素において、光電変換した信号をA/D(アナログ/デジタル)変換する信号処理回路と、それを利用した固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像素子は、光電変換された信号(電荷量又は電圧)をアナログ信号として処理していたが、信号を固体撮像素子内でA/D変換し、デジタルデータとして出力することにより、光電変換のダイナミックレンジを拡大するとともに、出力信号の処理を容易化することができる。
【0003】
例えば、CMOSイメージセンサなどにおいて、縦横にアレイ状に並んだ画素の列毎にA/D変換回路を共有する方式の列並列信号処理のイメージセンサが作製されている。しかし、このような一列の画素のA/D変換処理を一つのA/D変換回路で行う構成では、イメージセンサの高精細度化に伴って(すなわち、一列あたりの画素数の増大に伴って)、A/D変換処理にかかる時間が長時間化し、動画イメージ処理において1フレームレートの時間内で全画素の信号処理を行うことが困難になってきている。
【0004】
そこで、固体撮像素子の低雑音化や処理の高速化を目的として、これまで列ごとに設けられていたA/D変換回路を画素ごとに備える方式の読み出し回路が提案されている。その中でも、フォトダイオード(PD)、奇数個のCMOSインバータ、及びカウンタから構成され、入射光量に応じた数のパルスを出力する1ビット型A/D変換回路(1bit ADC)は、フォトダイオードの直近でA/D変換を行うため信号伝達時の雑音の影響を受けにくく、入力可能な光量がフォトダイオードの蓄積容量で制限されないためダイナミックレンジが拡大できるなどの特長がある(非特許文献1)。
【0005】
1bit ADCでは、1フレーム期間中に発生したパルスをカウンタで数えて出力する。そのため、ダイナミックレンジがフォトダイオードの蓄積容量で制限されることはないが、搭載するカウンタの数が出力ビット及びダイナミックレンジの上限となる。画素を平面的に配置する場合、カウンタを増やすほど画素面積が増大して、解像度が低下してしまうため、画素あたり搭載できるカウンタの数には限りがある。一方、この問題を解消するために、3次元集積化技術を用いて、カウンタを複数の層に分割して配置する技術も提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】F. Andoh, et al. "A Digital Pixel Image Sensor for Real-Time Readout", IEEE Trans. Electron Devices, Vol. 47, No. 11, pp.2123-2127 (2000).
【文献】M.Goto et.al, "Triple-Layering Technology for Pixel-Parallel CMOS Image Sensors Developed by Hybrid Bonding of SOI Wafers", Proceedings of IEEE International 3D Systems Integration Conference (3DIC), 4018 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、1bit ADCを用いた固体撮像素子において、3次元集積化技術により、各画素のカウンタを積層配置することによって、画素面積を削減でき、解像度の向上とダイナミックレンジの拡大の両者を実現できる効果がある。しかしながら、3次元集積化技術は現時点ではまだ完成されたものではなく、積層数の増大による歩留まりの低下やコストの増大が考えられるため、やはり搭載できるカウンタの数には限りがある。
【0008】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、限られた数のカウンタを用いて、検出信号量に対して出力ビット及びダイナミックレンジを拡大することができる、信号処理回路及び固体撮像素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る信号処理回路は、検出対象の電荷量に対応する電圧検出ノードと、電圧検出ノードをリセット電圧とするリセット手段と、前記電圧検出ノードの電圧としきい値電圧を比較するコンパレータとを有し、パルスを発生するパルス発生回路と、前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた、信号処理回路において、前記電荷量の検出期間ごとに前記しきい値電圧を制御し、前記しきい値電圧の異なる検出期間の前記カウンタ回路の出力ビットを組み合わせて、前記カウンタ回路のビット数よりもビット数が拡張された出力を得ることを特徴とする。
【0010】
また、前記信号処理回路は、前記カウンタ回路のビット数に対応するメモリと、前記カウンタ回路と前記メモリとを接続するカウンタ出力スイッチとを更に備えることが望ましい。
【0011】
また、前記信号処理回路は、前記リセット電圧と前記しきい値電圧の差分電圧を、第1検出期間と第2検出期間で2の累乗の比とすることが望ましい。
【0012】
また、前記信号処理回路は、前記カウンタ回路のビット数nに対して、第1検出期間と第2検出期間の前記差分電圧の比を2nとすることが望ましい。
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る固体撮像素子は、信号処理回路を、各画素に設けたことを特徴とする。
【0014】
また、前記固体撮像素子は、画素ごとに、又は、複数の画素をまとめたブロックごとに、前記しきい値電圧の設定を異ならせることが望ましい。
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る固体撮像素子は、画素ごとに、検出対象の電荷量に対応する電圧検出ノードと、電圧検出ノードをリセット電圧とするリセット手段と、前記電圧検出ノードの電圧としきい値電圧を比較するコンパレータとを有し、パルスを発生するパルス発生回路と、前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた信号処理回路を有する、固体撮像素子において、前記信号処理回路を第1のしきい値電圧で制御する画素と、前記信号処理回路を第2のしきい値電圧で制御する画素とを、隣接して配置し、両画素の前記カウンタ回路の出力ビットを組み合わせて、前記カウンタ回路のビット数よりもビット数が拡張された出力を得ることを特徴とする。
【0016】
また、前記固体撮像素子は、各画素を構成する回路要素を異なる基板に形成し、前記基板を3次元積層することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明における信号処理回路及び固体撮像素子によれば、限られた数のカウンタを用いて、検出信号量に対して出力ビット及びダイナミックレンジを拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施例の信号処理回路を説明するための図である。
図2】フォトダイオード電圧としきい値電圧とパルス出力の関係を示すタイミングチャートである。
図3】第1検出期間と第2検出期間のしきい値電圧の制御の例を示す図である。
図4】リセット電圧としきい値電圧の差分と、カウンタ回路のビット重みの関係を示す図である。
図5】第2の実施例の信号処理回路を説明するための図である。
図6】本発明の固体撮像素子を3次元構造で構成した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
(第1の実施例)
本発明の第1の実施例の信号処理回路を図1に示す。図1の信号処理回路は、固体撮像素子の1画素に対応しており、1ビット型A/D変換回路(1bit ADC)を構成している。
【0021】
第1の実施例の信号処理回路は、フォトダイオード(PD)10の電圧検出ノード11と、リセットトランジスタ(TR)20と、コンパレータ(比較器)31と、インバータ回路(インバータ・チェーン)32と、カウンタ回路40とにより構成される。このうち、電圧検出ノード11、リセットトランジスタ(TR)20、コンパレータ(比較器)31、及びインバータ回路(インバータ・チェーン)32は、光電変換された電荷量(検出対象の電荷量)に対応してパルスを発生するパルス発生回路を構成する。以下、各構成要素について説明する。
【0022】
フォトダイオード(PD)10は、光電変換素子として機能し、その電圧検出ノード11は、光がフォトダイオード10に入射することにより生成された電荷(又は光電流)により、電位(VPD)が変化する。なお、電圧検出ノード11は、フォトダイオード(PD)10の電極をそのまま利用することもできるが、電荷蓄積用のコンデンサ(例えば、フローティングディフュージョン)を設け、その電極を電圧検出ノード11とし、光電変換によりフォトダイオード(PD)10で生成された電荷を当該コンデンサに転送して、電圧検出をしてもよい。電圧検出ノード11の電圧(VPD)は、コンパレータ31に入力される。
【0023】
リセットトランジスタ(TR)20は、インバータ回路32の出力電圧(VOUT)で制御され、オン(導通)することにより、電圧検出ノード11(フォトダイオード10の電極)にリセット電圧(VRST)を印加する。このように、リセットトランジスタ(TR)20は、リセット手段として機能する。
【0024】
コンパレータ(比較器)31は、一方の入力(-入力)にフォトダイオード10の電圧検出ノード11の電圧(VPD)が入力され、他方の入力(+入力)にしきい値電圧(VTH)が入力され、両者を比較する。コンパレータ31の出力は、電圧検出ノード11の電圧(VPD)がしきい値電圧(VTH)よりも高いときはLowとなり、電圧検出ノード11の電圧(VPD)が次第に低くなって、しきい値電圧(VTH)に達すると、Highに反転する。また、再び電圧検出ノード11の電圧(VPD)がしきい値電圧(VTH)よりも高くなれば、出力はLowとなる。コンパレータ31の出力信号はインバータ回路(インバータ・チェーン)32に出力される。本実施例の信号処理回路(パルス発生回路)は、光電変換された電荷量(光電流)が一定であっても、しきい値電圧(VTH)とリセット電圧(VRST)との差分電圧によりパルス数が変わる。したがって、後述のとおり、コンパレータ31のしきい値電圧(VTH)を制御信号とし、パルス発生動作を制御することができる。
【0025】
インバータ回路(インバータ・チェーン)32は、反転回路であるインバータ(Inv1、Inv2,・・・Inv2n)が偶数段接続された多段回路である。インバータ・チェーン32の初段のインバータ(Inv1)には、コンパレータ31の出力信号が入力される。最終段のインバータ(Inv2n)の出力は、パルス発生回路の出力(VOUT)として、カウンタ回路40に出力されるとともに、リセットトランジスタ(TR)20のゲートに入力される。このインバータ回路32は偶数段のインバータが接続されているため、入力がHighであれば、出力もHighとなる。したがって、一種の遅延回路として機能し、パルス幅の調整や、パルス発生動作の安定化に寄与する。なお、インバータ回路32は必須のものではなく、コンパレータ31のみでパルス発生動作を安定に制御することができれば、削除することもできる。
【0026】
カウンタ回路40は、パルス発生回路の出力(VOUT)のパルス数をカウントし、電荷量の検出期間(例えば、1フレーム期間)ごとに確定したビット値を出力する。また、ビット値が読み出された後、リセットされる。カウンタ回路40は、例えば1bitのカウンタ8個からなり、各カウンタ41~48はパルスが入力されるとその立ち上がり(又は立ち下り)で1と0の出力が切り換わり、入力された半分の数のパルスを次のカウンタに出力する。したがって、カウンタ41が1bit目、カウンタ42が2bit目、カウンタ48が8bit目の出力となり、8bitカウンタとしてパルスをカウントし、ビット値をカウンタ出力(O1~O8)として出力する。なお、全ビットのカウンタにはリセット端子(CRST)が接続され、リセット端子CRSTがHighレベルの時には各ビットのカウンタの値は0となり、Lowレベルの時には通常のカウンタ動作をするという制御を行う。また、1bit目のカウンタにはイネーブル端子ENが設けられており、イネーブル端子ENがHighレベルの時にはカウンタは動作するが、Lowレベルの時には動作しないという制御を行う。1bit目が動作しなければ、2bit目以降も変化しないので、イネーブル端子ENによって全ビットのカウンタ制御(カウント動作と停止)ができる。
【0027】
図1の信号処理回路の動作の概要について、図2のフォトダイオード電圧(電圧検出ノード電圧)としきい値電圧とパルス出力の関係を示すタイミングチャートを用いて説明する。
【0028】
(1)図2(a)を参照すると、タイミングチャートのスタート時点は、フォトダイオード(PD)10の電圧検出ノード11の電位VPDがリセット電圧(VRST)であり、フォトダイオード10のリセットが完了して、リセット解除された状態を示している。コンパレータ31の一方の入力(-入力)に電圧VPDが入力され、他方の入力(+入力)には、しきい値電圧(VTH1)が入力される。このときVPD(VRST)>VTH1であるから、コンパレータ31の出力はLowである。インバータ回路32の入力がLowであるから、偶数段の最終段インバータ(Inv2n)の出力(インバータ回路32の出力)、すなわちパルス発生回路の出力(VOUT)もLowであり、リセットトランジスタ(TR)20はオフ(OFF)状態になっている。これを初期化状態とする。
【0029】
(2)フォトダイオード10に光が入射すると、光電変換により生成した電荷(光電流)がフォトダイオード10内に蓄積して、フォトダイオード10の電極(電圧検出ノード)11の電圧(VPD)が次第に低下する。
【0030】
(3)フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電圧(VPD)が、しきい値電圧(VTH1)に達すると、コンパレータ31の出力がHighに反転する。この出力変化は偶数個のインバータの出力が順次反転して伝達され、最終段のインバータ(Inv2n)の出力、すなわち、パルス発生回路の出力(VOUT)がHighとなる。
【0031】
(4)パルス発生回路の出力(VOUT)がHighになると、リセットトランジスタ20がオン(ON)状態になり、フォトダイオード10の電極にリセット電圧(VRST)が印加され、フォトダイオード10(及び電圧検出ノード11)が再度リセットされる。
【0032】
(5)フォトダイオード10がリセットされると、コンパレータ31の一方の入力(-入力)の電圧VPDがリセット電圧(VRST)となり、コンパレータ31の出力がLowに戻る。コンパレータ31の出力変化は、偶数個のインバータ出力が順次反転して伝達され、最終段のインバータ(Inv2n)の出力、すなわち、パルス発生回路の出力(VOUT)がLowになり、初期状態(1)に戻る。
【0033】
(6)このような過程を経て、出力(VOUT)にパルスが発生する。その後、上記の(1)~(6)の過程が繰り返されて、パルスが複数発生し、カウンタ回路40(カウンタ41~48)により、パルス数がカウントされる。フォトダイオード10へ入射する光量が多ければ光電変換された電荷量が多くなり、フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電位変化が速くなって、コンパレータ31の反転タイミングが速くなる。よって、しきい値電圧が一定の時、光量に比例したパルス数が発生する。
【0034】
(7)電荷量の検出期間(例えば、1フレーム期間)終了後、発生したパルス数をカウンタ回路40から読み出す。ここでは、8bitのカウンタ41~48としている。各画素のカウンタの値(出力ビット)は、例えばXYアドレス方式などで読み出される。各カウンタのリセット端子(CRST)は、前述のパルスをカウントする動作の間はLowレベルであるが、カウンタの値を読み出した後に、いったんHighレベルにしてカウンタをリセットする。その後、再びLowレベルにして、次の検出期間(フレーム)のカウント動作を再開する。
【0035】
各画素のカウンタの値をXYアドレス方式で読み出すとき、X方向・Y方向それぞれの走査を行うため、最初に読み出す画素と最後に読み出す画素では読み出しタイミングに時間差が生じる。カウンタの読み出し期間にカウンタの値が変化してしまうと、画素の読み出しタイミングによって画素間の露光時間が変わってしまうので、カウンタの読み出し期間にはカウンタの動作を止めることが望ましい。よって、本実施例では、カウンタの読み出し期間は、イネーブル端子ENをLowにしてカウンタの動作を止めることで、画素間の露光時間が変わるのを防ぐことができる。
【0036】
コンパレータ31のしきい値電圧によるパルスの制御について説明する。図2(a)と図2(b)は、しきい値の違いによるパルス出力周波数の変化の様子を示す。しきい値電圧VTHがリセット電圧VRSTに近いほど、すなわち、図2(b)よりも図2(a)の場合の方が、パルス出力周波数が増える。
【0037】
1bit ADCのパルス出力周波数fOUTは、次式で表される。
【0038】
【数1】
ここで、Cはフォトダイオード(PD)の容量、IPDはフォトダイオードで発生する電流(入射光量に比例)、ΔV = VRST - VTH である。
【0039】
容量Cは定数であり、検出期間(例えば、1フレーム期間)中に光電流IPDが一定とすると、パルス出力周波数fOUTと差分電圧ΔVが反比例する。
【0040】
次に、本発明における、出力のビット深度拡大のための動作について説明する。図3に、第1検出期間と第2検出期間のしきい値電圧の制御の例を示す。2種類の検出期間を設けて、それぞれを第1フレーム(T1)及び第2フレーム(T2)とする。第1フレーム(T1)と第2フレーム(T2)を、異なるしきい値電圧(VTH1 とVTH2)で動作させることで、T1とT2のパルス出力周波数が変化する。入射光量(光電変換量)が一定とすると、第1フレーム(T1)と第2フレーム(T2)で、1パルス当たりの光量(電荷量)が異なる。したがって、パルス数をカウントしたA/D変換後の各ビットに対応する電荷量が、第1フレーム(T1)と第2フレーム(T2)で異なることとなる。
【0041】
次に、しきい値によりパルス周波数を変化させて、カウンタ回路の各ビットの重みを制御することについて説明する。ここで、ビットの「重み」とは、検出する信号とビットとの対応関係であり、換言すれば、当該ビットがデジタル出力の何桁目のビットに対応するかを意味する。
【0042】
図4は、リセット電圧としきい値電圧の差分(ΔV)とカウンタ回路のビット重みの関係を示す図である。ここで、入射光量は各検出期間(フレーム期間)の中では一定であるとみなす。(1)に示すように、リセット電圧としきい値電圧の差分ΔVがある基準電圧V0である場合の8bitカウンタの値をX1、X2、・・・X8(ここで、最下位ビット(LSB)はX1、最上位ビット(MSB)はX8)とする。(2)のように、ΔVを2倍にすることでパルス出力周波数fOUTが半分になり、カウンタの値が半分になることから、ビットの重みが1つシフトし、8個のカウンタ出力に対して、下位ビットX1が切り捨てられる一方で、上位ビットX9が加わることとなる。同様に、(3)のように、ΔVを22(=4)倍にすることでカウンタの値が1/4になることから、ビットの重みがさらに1つシフトし、8個のカウンタ出力に対して、さらに下位ビットX2が切り捨てられる一方で、上位ビットX10が加わる。よって、ΔVを2倍にするごとにビットの重みが1つずつシフトし、(8)のΔVが280では、ΔVがV0の場合と比較すると、すべてのビットが入れ替わる。
【0043】
このことから、図3におけるVTH1 とVTH2を、VRST-VTH1 : VRST-VTH2 = 1:28となるように設定することで、2回の読み出しによって、期間T2に対する信号読み出しでは上位8ビット(図4におけるX9、X10、・・・X16)が読み出され、期間T1に対する信号読み出しでは下位8ビット(図4におけるX1、X2、・・・X8)が読み出されることとなり、8ビット分のカウンタを用いて、16ビットの情報を出力できることとなり、ビット深度(ビット数)を拡大できる。イメージセンサとしてはより明るい光に対する情報を取得できるので、ダイナミックレンジを拡大することができる。本方式によれば、限られたカウンタで多くのビットの情報を獲得することができるため、センサの高集積化と多ビット化(広ダイナミックレンジ化)が両立できる。
【0044】
なお、ΔVの比率は1:28でなくても、1:2~1:27などの2の累乗の比率にして2回の読み出しのビット情報を一部重複させて、確度を向上させると共に、ビット数の拡大を図ることも可能である。
【0045】
上記のとおり、第1検出期間(第1フレーム)と第2検出期間(第2フレーム)における、リセット電圧としきい値電圧の差分電圧ΔVは、2の累乗の比とする。そして、カウンタ回路のビット数nに対して、第1検出期間と第2検出期間における、リセット電圧としきい値電圧の差分電圧ΔVの比を2nとすることが望ましい。
【0046】
(第2の実施例)
本発明の第2の実施例の信号処理回路を図5に示す。図5の信号処理回路は、固体撮像素子の1画素に対応しており、1ビット型A/D変換回路(1bit ADC)を構成している。図5の信号処理回路とその動作を、以下に説明する。
【0047】
第2の実施例の信号処理回路は、フォトダイオード(PD)10の電圧検出ノード11と、リセットトランジスタ(TR)20と、コンパレータ(比較器)31と、インバータ回路(インバータ・チェーン)32と、カウンタ回路40と、カウンタ出力スイッチ(SW)50と、メモリ60により構成される。第1の実施例と比較して、カウンタ出力スイッチ(SW)50とメモリ60が追加されており、それ以外の構成は同じである。以下、追加された構成要素とその動作について説明する。
【0048】
カウンタ出力スイッチ(SW)50は、カウンタ回路40の各ビット(41~48)の出力に対応して設けられており、カウンタ回路40とメモリ60とを接続する。
【0049】
メモリ60は例えば1bitのメモリ8個からなり、各メモリ61~68は、それぞれカウンタ41~48に対応している。メモリ60(61~68)は、スイッチ50が導通すると、カウンタ回路40の出力が書き込まれ、所定の読み出しタイミングにおいて、書き込まれたビット値をメモリ出力(O1~O8)として出力する。図5では、一例として1bitメモリ8個を用いているが、8bitのカウンタ回路出力を同時に書き込むことができれば、8bit入力の1個のメモリであってもよい。メモリの構成はDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)が考えられる。
【0050】
第2の実施例の動作について説明する。第2の実施例(図5)の信号処理回路は、第1の実施例と同様に、フォトダイオード(PD)10の電圧VPDが光入射により低下し、コンパレータ31のしきい値VTHに達するとコンパレータ31とインバータ回路32が反転し、出力VOUTがHighレベルになる。すると、リセットトランジスタTRがオンしてフォトダイオード電圧VPDがVRSTとなる。再びコンパレータ31とインバータ回路32が反転して出力VOUTがLowレベルとなりリセットトランジスタTRがオフする。この動作を繰り返すことで出力VOUTにはパルス信号が現れる。この発生したパルス信号の数をカウンタ回路40でカウントし、1フレーム期間(1検出期間)終了後にカウンタ出力スイッチ(SW)50をONして、全ビットの値をメモリ60に書き込む。その後、カウンタ回路40は直ちにリセットされ、再びパルス信号のカウントを開始する。また、各画素のメモリ出力(O1~O8)は例えばXYアドレス方式などで読み出す。
【0051】
メモリ60はフレームメモリとしての機能を担っており、メモリ60があることで、各画素のメモリの値の読み出し期間に、カウンタ回路40によって次の期間のパルスカウントを行うことができ、常時パルスをカウントすることが可能となる。第1の実施例では、イネーブル端子ENの信号によりカウンタの読み出し期間はパルスのカウントを止めているが、本実施例では、カウンタの値をメモリ60に書き込んだ後は、直ちにカウンタ回路40のリセットとカウント再開を行うことができ、期間T1とT2の間の時間を限りなく小さくできる。よって、メモリ60を搭載することにより全期間のパルスのカウント(露光)を行うことができるため、第2の実施例の方が、第1の実施例よりもより正確な光量(電荷量)の検出ができる。
【0052】
なお、図5の回路では、カウンタ41にイネーブル端子(EN)が記載されているが、第2の実施例においては、1フレーム期間終了後にカウンタ出力スイッチ(SW)50を動作させて、瞬時にカウンタ回路40の出力をメモリ60に転送できるため、カウンタ回路40を止める必要はない。したがって、イネーブル端子(EN)を削除することも可能である。
【0053】
第1の実施例及び第2の実施例では、しきい値をVTH1とする第1検出期間(第1フレーム)と、しきい値をVTH2とする第2検出期間(第2フレーム)とを組み合わせて、ビット数(ダイナミックレンジ)を拡張したが、フレーム期間のパターンは2回でなくともよく、3回以上としてもよい。しきい値を異ならせ、リセット電圧と各しきい値電圧の差分(ΔV)を2の累乗の比とすることにより、カウンタ回路のビットの重みを更に変えて、ビット数(ダイナミックレンジ)を更に拡張することができる。ただし、複数フレーム期間内に入射光量が一定とみなせる必要があるため、被写体の動きに追従できないくらい長時間にはならないことが望ましい。
【0054】
第1の実施例及び第2の実施例は、固体撮像素子の光電流(光電変換された電荷量)の検出を例として説明したが、本発明の信号処理回路は、電荷量を検出する任意の用途に利用することができる。
【0055】
(第3の実施例)
第3の実施例として、第1又は第2の実施例で説明した信号処理回路を、各画素に設けた固体撮像素子を構成することができる。各画素において、信号処理回路により検出期間(1フレーム)ごとにコンパレータ31のしきい値を異ならせてビットの重みを変えることで、少ないカウンタ数でビット数(ダイナミックレンジ)が拡大した固体撮像装置が実現できる。
【0056】
本発明における信号処理回路は画素単位で独立に制御することが可能である。このことから、信号処理回路のコンパレータのしきい値(第1検出期間のしきい値VTH1と第2検出期間のしきい値VTH2)は全画素同一としてもよいし、複数の画素をまとめたブロックごと、あるいは画素ごとに異なるしきい値を与えてもよい。
【0057】
(第4の実施例)
第4の実施例としての固体撮像素子は、第1又は第2の実施例で説明した信号処理回路を各画素に設け、隣接して配置した画素間で、一方の画素はコンパレータのしきい値を第1のしきい値VTH1として第1検出期間T1だけのパターンで動作させ、他方の画素はコンパレータのしきい値を第2のしきい値VTH2として第2検出期間T2だけのパターンで動作させてもよい。異なるパターンの画素のビットを取得して、一方の画素の出力を光電変換出力の下位ビットとし、他方の画素の出力を光電変換出力の上位ビットとして、空間的に情報の補完を行っても良い。このとき、1つの検出期間で大きなビット数を得ることができ、高速動作をする被写体に対して、広いダイナミックレンジで撮像することができる。
【0058】
(第5の実施例)
本発明の固体撮像素子は、画素ごとにパルス発生回路及びカウンタ回路を設けており、また、画素やブロックごと、検出期間ごとにパルス発生パターンを変える場合には、しきい値VTHを個別に供給する必要があるため、複数の配線による画素および素子面積の増大も懸念される。このため、固体撮像素子を3次元構造とし、画素面積を削減して解像度を向上させることが考えられる。
【0059】
図6は、本発明の固体撮像素子を、3次元構造で構成した例を示す図である。図6の固体撮像素子100は、信号処理回路を有する画素を構成する各回路要素を異なる基板に形成し、それを3次元積層したものである。
【0060】
図6において、固体撮像素子100は、例えば、光電変換層(受光層)110と、パルス発生回路層120と、カウンタ回路層130と、制御信号供給層140とから、構成されている。各層は、画素単位で分割されており(図は9分割を示す)、分割されたそれぞれの区画は縦方向の接続配線111,121,131で接続され、全体で固体撮像素子100が構成されている。
【0061】
すなわち、光電変換素子(フォトダイオード)10を最上層の受光層110に形成し、リセット手段20、コンパレータ31及びインバータ回路32を2層目のパルス発生回路層120に形成し、カウンタ回路40をカウンタ回路層130に形成する。そして、制御信号供給回路(しきい値電圧の発生回路等)や出力信号の読み出しの走査回路等を最下層の制御信号供給層140に形成して、各回路を縦方向に接続し、例えば最下層140から出力141を取り出すことができる。
【0062】
このように、カウンタ回路や制御信号供給回路を1bit ADCとは別の基板に形成して3次元積層して、画素ごとに3次元的に配線することで、画素面積を削減し高精細な固体撮像素子を実現できる。なお、各層の構成はこの例に限られず、様々に設定することができ、例えば、受光部とパルス発生回路とを同じ層に形成してもよいし、第2の実施例のようにメモリの層を加えてもよい。3次元構造により、画素面積を削減でき、解像度の向上とダイナミックレンジの拡大の両者を実現できる効果がある。
【0063】
上記の実施の形態では、固体撮像素子の信号処理回路の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、信号処理方法として構成されてもよい。例えば、図1の回路図及び図3のタイミングチャートに従って、信号処理回路を制御する信号処理方法として構成されても良い。
【0064】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 フォトダイオード
11 電圧検出ノード
20 リセットトランジスタ
31 コンパレータ
32 インバータ回路
40 カウンタ回路
41~48 カウンタ
50 カウンタ出力スイッチ(SW)
60~68 メモリ
100 固体撮像素子
110 光電変換層
111 接続配線
120 パルス発生回路層
121 接続配線
130 カウンタ回路層
131 接続配線
140 制御信号供給層
141 出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6