(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】下水汚泥発酵原料
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20240215BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20240215BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20240215BHJP
【FI】
C02F11/02 ZAB
C02F11/00 C
B09B3/00
(21)【出願番号】P 2020020781
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0136812(KR,A)
【文献】特開平09-227260(JP,A)
【文献】特開2006-102641(JP,A)
【文献】特開昭61-220800(JP,A)
【文献】特開2002-160991(JP,A)
【文献】特開平11-092259(JP,A)
【文献】特開2003-334573(JP,A)
【文献】特開2008-163280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-11/20
C02F3/00-3/34
B09B3/00-3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥と、カルシウム化合物を含む通気助材と、鶏糞とを含み、
前記鶏糞を、前記下水汚泥100質量部に対して8質量部以上100質量部以下含
み、
前記鶏糞の固形分発熱量が3800kcal/kg以上である、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料。
【請求項2】
前記通気助材を、前記下水汚泥100質量部に対して5質量部以上100質量部以下含む、請求項1に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項3】
前記通気助材が石炭灰である、請求項1又は2に記載の下水汚泥発酵原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を好気発酵させるための原料に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥は、有機物及び水を含む泥状の物質であり、生活活動に伴う下水処理の過程で不可避的に排出されるものである。下水汚泥は、その排出量が下水処理量の増加に伴って増えており、都市ゴミと同様に、その処理が問題となっている。下水汚泥を処理するために、例えば該汚泥を焼却処理して、その際に生じた熱をエネルギー源として利用する試みが行われているが、更なる効率的な焼却処理を行うために、下水汚泥の含水率を下げることが望まれている。
【0003】
下水汚泥の含水率を安価に低下させる技術として、下水汚泥を好気発酵させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、有機性廃棄物の堆積物を撹拌して、所定の空間率を有する状態で発酵処理した有機性廃棄物の処理方法が開示されている。また特許文献2には、好気発酵における空気の流通を確保するために、空気取出口及び吸引口を設けて、処理対象を撹拌させながら発酵可能にする、有機質材料の発酵処理装置が開示されている。
【0004】
また特許文献3ないし5には、脱水効率の向上及び悪臭防止等のために、有機汚泥と、フライアッシュとを混合して発酵する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-284608号公報
【文献】特開2012-20224号公報
【文献】特開昭63-185881号公報
【文献】特開平09-074899号公報
【文献】特開平11-228267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、好気発酵を安定的に行うためには、一般的に、通気量の他に、処理対象物に含まれる微生物の栄養源となる栄養素及び水の量や、発酵温度などの各種条件の最適化が必要である。特に、悪臭などの環境汚染防止の観点から、発酵槽の上部から処理対象物を供給して該処理対象物を発酵させ、その発酵物を該発酵槽の下部から排出する構成を有する縦型発酵槽を用いて、密閉条件で好気発酵を行う場合、処理対象物の堆積に起因する質量増加によって、発酵槽内部の処理対象物が圧縮されて密度が高くなってしまい、発酵槽内での通気量が十分なものとならない。その結果、処理対象物の安定的な好気発酵を行うことができなかった。
【0007】
この点に関して、特許文献1及び2に記載の技術は通気量の向上に寄与すると考えられるが、これらはいずれも装置上の工夫であり、下水汚泥又は該汚泥を含む処理対象物の組成及び性状等が変動した場合に、安定的な好気発酵が十分に行えないことがあった。また特許文献3ないし5では、密閉時での発酵条件及び圧縮時の発酵の進行に関しては何ら検討されていない。
【0008】
そこで本発明は、好気発酵を促進させて、且つ好気発酵を安定的に行うことができる下水汚泥発酵原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルシウム化合物を含む通気助材と鶏糞とを組み合せて用いることで、発酵対象物である下水汚泥の発酵が促進されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下水汚泥と、カルシウム化合物を含む通気助材と、鶏糞とを含み、
前記鶏糞を、前記下水汚泥100質量部に対して8質量部以上100質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【0011】
また本発明の好適な態様として、前記通気助材を、前記下水汚泥100質量部に対して5質量部以上100質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【0012】
また本発明の好適な態様として、前記通気助材が石炭灰である、好気性発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【0013】
また本発明の好適な態様として、前記鶏糞の固形分発熱量が3800kcal/kg以上である、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の下水汚泥発酵原料によれば、下水汚泥に特定の材料を添加するという簡便な操作のみで、好気発酵を速やかに進行させることができ、処理対象物の圧縮状態や非圧縮状態によらず、下水汚泥を安定して発酵させることができる。これにより、セメント工場のような工業地域や住宅に隣接する地域でも、性状の異なる下水汚泥を大量に発酵処理することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、密閉式縦型発酵槽の一実施形態を示す断面模式図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例及び比較例における好気発酵評価に用いた発酵容器の外観及び寸法を示す斜視図であり、
図2(b)は温度測定時における各部材の配置位置を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の下水汚泥発酵原料は、その材料として、下水汚泥と、カルシウム化合物を含む通気助材(以下、これを単に「Ca含有通気助材」ともいう。)と、鶏糞とを含む。この下水汚泥発酵原料は、好気発酵処理に好適に用いられるものである。
【0018】
本発明に用いられる下水汚泥は、排水処理又は下水処理の過程で生じる廃棄物であり、有機物、無機物及び水を含む泥状の物質である。このような下水汚泥としては、例えば一般下水汚泥、工業下水汚泥などが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。下水汚泥は、未消化汚泥としてそのまま用いてもよく、あるいは、脱水汚泥及び消化汚泥などの下水汚泥の自己発酵処理物を用いてもよい。
【0019】
本発明の下水汚泥発酵原料は、さらにCa含有通気助材を含む。「カルシウム化合物を含む」とは、通気助材中にカルシウム化合物の総量として0.1質量%以上含むことを指し、好ましくは0.1質量%以上60質量%以下含み、更に好ましくは0.3質量%以上5質量%以下含む。通気助材は、下水汚泥発酵原料の発酵時における通気性を向上させるために用いられる。カルシウム化合物は、例えば無機カルシウム化合物が挙げられ、具体的には、酸化カルシウム(CaO)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の石灰が好ましく挙げられる。
Ca含有通気助材としては、例えば、珪藻の化石からなる無機鉱物である珪藻土及びその破砕物、海水から水酸化マグネシウムを製造する際に生成する残滓であるハイドロケーキ、並びに石炭灰等を挙げることができる。この中でも石炭灰を好ましく用いることができる。
Ca含有通気助材におけるカルシウム化合物の含有量は、例えば後述する実施例に示すように、蛍光X線分析によって測定されるCa量を、酸化カルシウム(CaO)の質量に換算した値とする。
【0020】
石炭灰は、例えば、石炭火力発電所にて微粉石炭を燃焼した際に生成する石炭灰であって、電気集塵機等で回収されるものが挙げられる。このような石炭灰は、下水汚泥と同様に廃棄物として扱われるところ、石炭灰を下水汚泥とともに利用することによって、資源の有効利用及び環境保護に寄与するという利点も奏される。
【0021】
石炭灰の具体例としては、石炭の燃焼によって生成したフライアッシュを用いることができる。フライアッシュは、その嵩密度が好ましくは0.2g/cm3以上1.5g/cm3以下であり、且つブレーン比表面積が好ましくは1000cm2/g以上20000cm2/g以下のものである。フライアッシュは、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム(CaO)及び酸化マグネシウム等の酸化物を含む。
【0022】
石炭灰等のCa含有通気助材を下水汚泥の発酵処理に用いることによって、下水汚泥発酵原料の圧縮の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料中の通気性を改善することができ、処理対象物が圧縮されていない発酵初期の時点から好気発酵を更に安定的に進行させることができる。この理由は明らかではないが、カルシウム成分によって下水汚泥の粒子が凝集しフロックを形成しやすくなり、下水汚泥発酵原料の密度を低下しやすくすることができる。その結果、下水汚泥発酵原料の圧縮の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料中の通気性を改善することができるためであると推測している。特に、石炭灰は、比較的微細な粒子であり且つCaO等のカルシウム成分を含むことに起因して、下水汚泥発酵原料中の分散性が高く、フロックの形成を均一に行うことができるので、好気発酵時における通気性を更に高められる点で有利であると考えられる。
【0023】
本発明の下水汚泥発酵原料におけるCa含有通気助材の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは5質量部以上100質量部以下、より好ましくは7質量部以上70質量部以下、更に好ましくは8質量部以上50質量部以下である。Ca含有通気助材を複数種含む場合、Ca含有通気助材の含有量は、その総量とする。Ca含有通気助材の含有量がこのような範囲にあることによって、下水汚泥の処理量を増加させて発酵処理の効率を高めることができる。これとともに、本発明の下水汚泥発酵原料が圧縮された場合であっても、密度が過度に増加せずに通気性を維持することができ、好気発酵を効率よく進行させることができる。このとき、基準となる下水汚泥の質量は、含水状態での質量とする。
【0024】
本発明の下水汚泥発酵原料は、さらに鶏糞を含む。鶏糞は、一般的に、養鶏場等の家禽飼育施設で飼育されている家禽から採取された糞であり、後述する物性を有するものを好適に用いることができる。このような鶏糞は、下水汚泥や、石炭灰等のCa含有通気助材と同様に廃棄物として扱われるので、資源の有効利用及び環境保護に寄与するという利点も奏される。家禽としては、例えばニワトリ、ウズラ、アヒル、鴨、ガチョウ、及び七面鳥等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる鶏糞は、その物性に応じて、三つの形態に大別される。具体的には、鶏糞として、生鶏糞、乾燥鶏糞及び発酵鶏糞(生鶏糞に好気発酵処理を施した肥料用鶏糞)等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。本明細書において、鶏糞の形態は以下に示す含水率及び固形分発熱量によって区別し、以下の条件を満たさないものは本発明における鶏糞ではない。含水率は、後述する方法で測定することができる。
・生鶏糞 :含水率30質量%以上、且つ固形分発熱量3800kcal/kg以上
・乾燥鶏糞:含水率30質量%未満、且つ固形分発熱量3800kcal/kg以上
・発酵鶏糞:含水率30質量%未満、且つ固形分発熱量3800kcal/kg未満
【0026】
本発明の下水汚泥発酵原料に鶏糞を含有させることによって、好気発酵が長期間にわたり効率的に進行する理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
鶏糞には、発酵に寄与する様々な種類の微生物が含まれており、これらの微生物は増殖可能である好適な温度がそれぞれ異なっている。一般的に、発酵が進行するにつれて、発酵物の温度は上昇していくところ、鶏糞に含有される多種の微生物によって、温度の上昇や圧縮等の発酵物の物理的変化が生じた場合でも好気発酵を行うことができ、その結果、発酵開始から長期間にわたって好気発酵を効率良く進行させることができる。
【0027】
上述した鶏糞のうち、固形分発熱量が3800kcal/kg以上であるものを用いることが好ましく、4000kcal/kg以上であるものを用いることが更に好ましい。すなわち、本発明における鶏糞として、生鶏糞及び乾燥鶏糞の少なくとも一方を用いることが好ましく、生鶏糞を用いることが更に好ましい。一般的に、固形分発熱量が高いことは、好気発酵の進行に有用な有機分が多く含まれていることを意味するので、このような発熱量を有する鶏糞を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。特に生鶏糞は、他の鶏糞と比較して、固形分発熱量が高く且つ発酵に寄与する様々な種類の微生物が生存したまま存在しているので、好気発酵を長期間にわたり効率よく進行させることができる。
【0028】
本発明の下水汚泥発酵原料における鶏糞の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、8質量部以上100質量部以下、好ましくは10質量部以上80質量部以下、更に好ましくは10質量部以上50質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥及び鶏糞の質量は、いずれも含水状態での質量とする。このような範囲にあることによって、下水汚泥の好気発酵を促進し、発酵の進行状態を高いレベルで安定化させることができる。
【0029】
本発明の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞のみから構成されていてもよく、これに加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞以外の他の資材(以下、これを単に「資材」ともいう。)を更に含んでいてもよい。資材としては、例えば、下水汚泥発酵原料を発酵に供する際に安定的な好気発酵を促すための材料が挙げられ、具体的には、下水汚泥の含水率を低減させたり、下水汚泥発酵原料の発酵時における通気性を向上させたり、好気発酵に寄与する微生物の栄養源となる易分解性有機分を供給したりする等を目的とした材料が挙げられる。
【0030】
好気発酵に寄与する微生物の栄養源を供給するための材料としては、例えば鶏糞以外の栄養助材が挙げられる。このような栄養助材の具体例としては、食品汚泥、廃白土、肉骨粉、製紙スラッジ、廃食油、生ごみ、し尿、鶏糞以外の畜糞、堆肥等が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。また堆肥としては、市販品を用いてもよく、後述する汚泥発酵物(本発明の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理して生成される発酵物)を用いてもよい。
【0031】
通気性を向上させて下水汚泥の好気発酵を促すための材料としては、例えばCa含有通気助材以外の通気助材(以下、これを「他の通気助材」ともいう。)が挙げられる。他の通気助材を含むことによって、下水汚泥発酵原料の圧縮の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料の通気性を改善することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的に行うことができる。特に、例えば後述する縦型発酵槽を用いて好気発酵する場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥が圧縮され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、他の通気助材を含むことによって、過度の圧縮状態となることを更に抑制しつつ通気性を更に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0032】
他の通気助材としては、例えば、稲わら、もみがら、草木又はこれらの乾燥物若しくは破砕物などの有機系通気助材等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0033】
資材を含む場合、下水汚泥100質量部に対する資材の総質量部は、好ましくは1質量部以上180質量部以下、更に好ましくは5質量部以上100質量部以下とすることができる。このとき、基準となる下水汚泥の質量は、含水状態での質量とする。
【0034】
発酵初期の時点から好気発酵を安定的に進行させるために十分な水分量を確保する観点から、下水汚泥発酵原料全体の含水率は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。含水率は、例えば市販のハロゲン水分計を用いて、120℃の加熱温度で乾燥したときの乾燥前後の質量の差に基づいて測定することができる。またこれに代えて、JIS A 1203「土の含水比試験方法」に準じて測定することができる。下水汚泥発酵原料の含水率は、例えば、所望の含水率となるように原材料を選択したり、原材料又は下水汚泥発酵原料に対して、水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0035】
このような材料を含む下水汚泥発酵原料は、例えば下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、必要に応じて資材とを、混合するか又は堆積させて、混合物又は堆積物として製造することができる。詳細には、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、必要に応じて資材とを混合して下水汚泥発酵原料を得る方法、又は、屋内若しくは屋外で、各材料を堆積させた堆積物として下水汚泥発酵原料を得る方法等が挙げられる。あるいは、材料のうちいずれかを発酵槽等の容器に供給し、次いで他の原料を任意の順序で該容器内に供給して、該容器内で各原料を交互に若しくはランダムに堆積させた堆積物とし、これをそのままで、又はこれに加えて、該堆積物を発酵槽等の容器内で混合した混合物として、下水汚泥発酵原料を得る方法が挙げられる。
【0036】
上述の下水汚泥発酵原料は、堆積物及び混合物のいずれの形態であっても、下水汚泥の好気発酵処理の用途に適したものとなる。下水汚泥発酵原料は、これをそのまま屋外又は屋内に配するか、あるいはこれを堆積物又は混合物として容器に供給して、下水汚泥の好気発酵処理を行うことができる。
詳細には、下水汚泥発酵原料は、これを堆肥舎内に堆積させたり、これを開放系又は密閉系の発酵槽に供給したりして、下水汚泥を好気発酵させることができる。下水汚泥発酵原料を発酵槽に供給して好気発酵処理に供する場合、発酵槽内の撹拌設備の有無あるいは撹拌方法は問わず、発酵初期から長期間にわたり安定的に好気発酵を行い、下水汚泥を効率良く処理することができる。悪臭などの周囲環境への悪影響を低減する観点から、下水汚泥発酵原料中の下水汚泥を好気発酵処理させる場合、密閉系の発酵槽内で好気発酵させることが好ましい。密閉系とは、好気発酵時において固体及び液体の進入が防止され、且つ空気等の気体の進入が妨げられない反応系を指し、開放系とは、好気発酵時において固体、液体及び気体の進入が妨げられない反応系を指す。
【0037】
特に、本発明の下水汚泥発酵原料は、密閉可能且つ縦型の発酵槽(以下、これを「密閉式縦型発酵槽」ともいう。)を用いて好気発酵させた場合であっても、下水汚泥の好気発酵を長期間にわたり安定的に進行させることができるので好適である。つまり、下水汚泥を発酵処理する方法として、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、必要に応じて資材とを任意の順序で密閉式縦型発酵槽内に供給するか、あるいはこれらの原料を含む混合物を密閉式縦型発酵槽内に供給して、好気発酵させる工程を有することが好ましく、当該工程は密閉系で行われることが更に好ましい。密閉式縦型発酵槽は、該発酵槽内を撹拌する撹拌設備を備えて、発酵槽内に供給された各原料を連続的に又は断続的に撹拌してもよい。
【0038】
密閉式縦型発酵槽を用いる場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥発酵原料が圧縮され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、好ましくは石炭灰等のCa含有通気助材を含むことによって、発酵槽内の下水汚泥発酵原料が過度の圧縮状態となることを抑制しつつ通気性を確保することができ、非圧縮状態と圧縮状態のいずれであっても、下水汚泥の好気発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0039】
図1には、本発明の下水汚泥発酵原料を発酵処理に好適に用いられる密閉式縦型発酵槽の一実施形態が示されている。密閉式縦型発酵槽10は、設置面に対して鉛直方向に延びており、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、必要に応じて資材の混合物を収容可能な筒状の槽部20を有し、その上部に、該混合物を槽部20に投入可能な投入口30と、該槽部20の下部に、好気発酵処理された下水汚泥発酵原料を槽部20外へ排出可能な排出口40とを備えている。投入口30及び排出口40はともに蓋などの開閉可能又は脱着可能な蓋状部材(図示せず)が設けられ、該蓋状部材を投入口30及び排出口40に装着することによって、発酵槽10における槽部20を密閉可能に構成されている。つまり、密閉式縦型発酵槽10は密閉系で好気発酵を行うことができるものである。
【0040】
好気発酵効率をより向上させる観点から、密閉式縦型発酵槽10は、例えば槽部20の外周面に断熱材を配する等の方法によって、断熱構造を有していることが好ましい。また、密閉式縦型発酵槽10は、発酵槽内の原材料を混合するための攪拌設備50を備えていることも好ましい。
図1に示す攪拌設備50は、例えば槽部20内に設けられた攪拌翼51と、該攪拌翼51に接続された攪拌軸52と、槽部20外に設けられたモータ(図示せず)とを備えている。攪拌翼51は、攪拌軸52を介して槽部20外に設けられたモータに接続されており、モータを駆動源として一定方向に回転するようになっている。攪拌設備50を更に備えることによって、下水汚泥発酵原料の好気発酵効率を一層向上させることができる。
【0041】
また、密閉式縦型発酵槽10は、空気や酸素などの酸素含有気体を発酵槽内に供給するための空気流通設備60と、槽部20内の気体を槽部20外へ排気可能な排気口70とを備えていることも好ましい。
図1に示す形態では、酸素含有気体Fは、槽部20外に設けられた空気流通設備60から、好ましくは中空の攪拌軸52及び攪拌翼51の各内部を介して、攪拌翼51の鉛直方向下方側に供給できるようになっている。攪拌翼51の鉛直方向下方側には、酸素含有気体Fを流通可能な気体流通孔(図示せず)を複数備えていることも好ましい。槽部20内に存在する酸素含有気体及び好気発酵によって生じたガスは、排気口70を介して、排気空気として槽部20の上部から排気される。
【0042】
酸素含有気体の供給効率を高めて、下水汚泥の好気発酵効率を高める観点から、酸素含有気体Fは槽部20の鉛直方向下方側から供給され、且つ、酸素含有気体F及びガスは、槽部20の鉛直方向上方側から排気されることが好ましい。下水汚泥発酵原料は、投入口から連続的又は断続的に発酵槽における槽部20内に投入し、下水汚泥発酵原料を発酵槽内で2週間程度好気発酵させ、その後、発酵した下水汚泥発酵原料を汚泥発酵物として排出口から排出する。
【0043】
下水汚泥発酵原料を好気発酵に供することで生成される汚泥発酵物は、例えば肥料、土壌改良材、園芸用土壌等の緑農地材料、セメントクリンカー原料、固形燃料等の用途に用いることができ、資源の有効利用が可能となる。特に、石灰石などの原料と混合してセメントクリンカー原料として使用することが、生成された汚泥発酵物の使用量を増加させて資源の有効利用に一層寄与できる点から好ましい。また、この汚泥発酵物は、下水汚泥発酵原料の調製にあたって、本発明の「他の資材」である堆肥等の栄養助材として再利用することも可能であり、この点でも資源の有効利用に寄与する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下に示す原料における含水率の測定は、ハロゲン水分計(アズワン株式会社製HM1105)を用いて120℃の加熱温度で乾燥したときの質量差から算出した。また、以下に示す発熱量は、固形分発熱量を示す。また、Ca含有通気助材のCa化合物含有量は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX100e)を用いてCa量を測定し、そのCa量を酸化物(CaO)の質量に換算した値として示す。
【0045】
〔実施例1~2および比較例1~4〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
以下の(1)~(5)に示す下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、他の資材として肉骨粉及び堆肥とを以下の表1に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水量が63.2~72.3質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
(1)下水汚泥A:下水処理場から入手した未消化汚泥(含水率78.63質量%)
(2)Ca含有通気助材:石炭火力自家発電所より採取した石炭灰(宇部興産株式会社製、含水率16.18質量%、Ca化合物含有量:3.3質量%)
(3)鶏糞A:発酵鶏糞(含水率27.5質量%、発熱量1570kcal/kg)
(4)肉骨粉:肥料用肉骨粉(含水率0.7質量%、発熱量3600kcal/kg)
(5)堆肥:汚泥発酵物(好気発酵処理済みの下水汚泥発酵原料;含水率19質量%)
【0046】
[好気発酵試験]
実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理に供して、下水汚泥の好気発酵の進行度合を試料の温度変化として評価した。発酵容器として500mL容量のポリビーカーと、該ビーカーの側面および底面を覆う簡易断熱容器を用いた。これらの配置位置及び寸法は、
図2(a)に示すとおりとした。実施例1及び2並びに比較例1~4の下水汚泥発酵原料を、以下に示す方法でポリビーカーに収容し、非圧縮状態および圧縮状態の試料を調製した。
【0047】
・非圧縮状態:調製した下水汚泥発酵原料をポリビーカーへ約400mLずつ収容した。
・圧縮状態:非圧縮状態の試料と同じ質量の下水汚泥発酵原料をポリビーカーへ収容し、JIS A 1109:2006又はJGS 1611に規定される突き棒を、ポリビーカー上端の50mm上方から測定試料の上面に20回自由落下させて、下水汚泥発酵原料の高さが均一(高さが変化しなくなる状態)となるようにまんべんなく押し固めた。
【0048】
次いで、各試料を収容したポリビーカーを
図2(b)に示すように断熱容器に設置し、ポリビーカー内の試料中心部にT型熱電対(株式会社チノー製)を挿入した。熱電対にデータロガーを接続し、試料の温度を連続的に計測可能な状態で好気発酵に供した。実験は20℃に設定した室内で行った。好気発酵の進行度合は、測定された最高温度をピーク温度とし、ピーク温度に至るまでに要した日数にて評価した。ピーク温度に至るまでに要した日数が短いほど発酵が速やかに進行していることを意味する。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞を含み、且つ鶏糞含有量を所定の範囲とした実施例1~2の下水汚泥発酵原料は、比較例と比較して、試料の非圧縮状態・圧縮状態によらず、ピーク温度の到達所要日数が短いことが判る。したがって、実施例の下水汚泥発酵原料は、非圧縮状態と圧縮状態のいずれであっても、下水汚泥の好気発酵を早期に且つ効率良く進行させることができる。
【0051】
〔実施例3~8および比較例4~5〕
以下の実施例及び比較例は、鶏糞の有無及び種類の違いによる好気発酵への影響を評価したものである。
以下の(6)~(12)に示す下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞と、他の資材として肉骨粉及び堆肥とを以下の表2に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水量が61.8~66.0質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。そして、上述した[好気発酵試験]と同様の方法で、非圧縮状態の試料を調製し、好気発酵に供した。好気発酵の進行度合は、測定された最高温度をピーク温度とし、ピーク温度に至るまでに要した日数にて評価した。ピーク温度に至るまでに要した日数が短いほど発酵が速やかに進行していることを意味する。結果を表2に示す。
【0052】
(6)下水汚泥B:下水処理場から入手した未消化汚泥(含水率80.59質量%)
(7)Ca含有通気助材:石炭火力自家発電所より採取した石炭灰(宇部興産株式会社製、含水率16.18質量%、Ca化合物含有量:3.3質量%)
(8)鶏糞B:生鶏糞(含水率35.8質量%、発熱量3990kcal/kg)
(9)鶏糞C:乾燥鶏糞(含水率8.0質量%、発熱量3920kcal/kg)
(10)鶏糞D:発酵鶏糞(含水率11.8質量%、発熱量3740kcal/kg)
(11)肉骨粉:肥料用肉骨粉(含水率0.7質量%、発熱量3600kcal/kg)
(12)堆肥:農業用堆肥市販品(含水率28質量%)
【0053】
【0054】
表2に示すように、下水汚泥、Ca含有通気助材及び鶏糞を含み、且つ鶏糞含有量を所定の範囲とした実施例3~8の下水汚泥発酵原料は、比較例と比較して、ピーク温度の到達所要日数が短いことが判る。このことから、使用する鶏糞の形態は、生鶏糞や乾燥鶏糞、発酵鶏糞のいずれも好適に使用可能であることが判る。特に,発熱量が3800kcal/kg以上である生鶏糞や乾燥鶏糞を用いた実施例6及び7の下水汚泥発酵原料は、ピーク温度の到達所要日数がさらに短く、好気発酵がより早期に進行し、処理効率が高くなることも判る。
【0055】
以上のとおり、下水汚泥にCa含有通気助材及び鶏糞を添加するという簡便な操作のみで、好気発酵の促進と、圧縮に起因する好気発酵の影響の緩衝とを両立でき、処理対象物が非圧縮状態であっても、又は圧縮された場合でも、下水汚泥を早期に且つ安定して発酵させることができる。これにより、セメント工場のような工業地域や住宅に隣接する地域でも、性状の異なる下水汚泥を大量に発酵処理することができ、資源の有効利用に繋げることができる。