(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】食肉加工液
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20240215BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20240215BHJP
A23L 13/40 20230101ALN20240215BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L17/40 A
A23L13/40
(21)【出願番号】P 2020548610
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036807
(87)【国際公開番号】W WO2020066845
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018185925
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】笠原 僚
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三四郎
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-102742(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123257(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/076879(WO,A1)
【文献】特開2003-009821(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174229(WO,A1)
【文献】特開平08-009907(JP,A)
【文献】特許第5154714(JP,B2)
【文献】特開2005-318871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00-17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む
、魚介類用の食肉加工液であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下であ
り、
前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上15以下である、食肉加工液。
【請求項2】
リン酸塩を実質的に含まない、請求項1に記載の食肉加工液。
【請求項3】
蒸し物用である、請求項1または2
に記載の食肉加工液。
【請求項4】
前記成分(A)が、油脂加工リン酸架橋タピオカ澱粉である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の食肉加工液。
【請求項5】
前記成分(B)が、炭酸水素ナトリウムである、請求項1乃至4いずれか1項に記載の食肉加工液。
【請求項6】
成分(C):α化澱粉をさらに含む、請求項1乃至5いずれか1項に記載の食肉加工液。
【請求項7】
前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、請求項6に記載の食肉加工液。
【請求項8】
魚介類が
、エビ、白身魚、イカおよびホタテからなる群から選択される1または2以上である、請求項1乃至7いずれか1項に記載の食肉加工液。
【請求項9】
以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む
、魚介類用の粉体状の食肉加工液用組成物であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下であ
り、
前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上15以下である、粉体状の食肉加工液用組成物。
【請求項10】
当該食肉加工用組成物全体に対して、前記成分(A)と前記成分(B)を合計で25質量%以上100質量%以下含む、請求項9に記載の食肉加工液用組成物。
【請求項11】
蒸し物用である、請求項9または10に記載の食肉加工液用組成物。
【請求項12】
成分(C):α化澱粉をさらに含む、請求項9乃至11いずれか1項に記載の食肉加工液用組成物。
【請求項13】
前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、請求項12に記載の食肉加工液用組成物。
【請求項14】
以下の成分(A)および(B)を含む
魚介類用の食肉加工液を
魚介類に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下であ
り、
前記食肉加工液中の成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上15以下である、食肉加工食品の製造方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
【請求項15】
前記食肉加工食品が蒸し物である、請求項14に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項16】
魚介類に適用する前記工程が、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法で適用する工程である、請求項14または15に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項17】
魚介類に適用する前記工程において、前記
魚介類100質量部に対する前記成分(A)の添加量が質量比で0.1質量部以上20質量部以下となるように適用する、請求項14乃至16いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項18】
前記食肉加工食品が
、蒸しエビおよびエビフライからなる群から選択される、請求項14乃至17いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項19】
食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法であって、
前記食肉加工食品の製造において、以下の成分(A)および(B)を含む
魚介類用の食肉加工液であって、前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下であ
り、成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上15以下である前記食肉加工液を、
魚介類に含有させることを含む、前記方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食肉加工品の品質を改善する技術として、リン酸塩を入れることによって肉の水分を保つことができ、肉の弾力が高まり、軟らかい食感になることが知られている。
また、食肉加工食品の品質を改善しようとするその他の技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特開2007-6724号公報)には、食肉が単独で、または他の食品素材と共に封入されたレトルトパウチ食品において、レトルト殺菌された後の食肉の食感低下を抑制するため原料肉に対して添加される食肉用品質改良剤を提供することを目的とする技術として、油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉と、平均粒子径が0.05~50μmである粉末状のカードランを含む食肉用品質改良剤について記載されている。また、かかる改良剤を食肉に添加する方法として、改良剤をピックル液に分散させて使用する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2(特開2009-112269号公報)には、油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を用いる魚介類の処理方法について記載されており、かかる処理方法により処理された魚介類は、加熱調理による歩留まりの低下が改善され、また、加熱調理後の食感に優れるとされている。また、同文献には、油脂加工澱粉を魚介類に用いる方法として、油脂加工澱粉を含有する溶液に魚介類を浸漬する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-6724号公報
【文献】特開2009-112269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、前述のリン酸塩については、近年健康への好ましくない影響が懸念されており、食品メーカーもリン酸使用を避ける傾向がある。しかしながら、リン酸塩を配合しない場合、上記特許文献に記載の技術では、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての好ましい食感および異味のない自然な味を付与しうるとともに、製造時の作業性に優れる食肉加工食品を得るという点で改善の余地があることが本発明者らの検討により明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の食肉加工液、食肉加工液用組成物、食肉加工食品の製造方法、および、食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法が提供される。
[1] 以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む食肉加工液であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、食肉加工液。
[2] リン酸塩を実質的に含まない、[1]に記載の食肉加工液。
[3] 前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、[1]または[2]記載の食肉加工液。
[4] 前記成分(A)が、油脂加工リン酸架橋タピオカ澱粉である、[1]乃至[3]いずれか1項に記載の食肉加工液。
[5] 前記成分(B)が、炭酸水素ナトリウムである、[1]乃至[4]いずれか1項に記載の食肉加工液。
[6] 成分(C):α化澱粉をさらに含む、[1]乃至[5]いずれか1項に記載の食肉加工液。
[7] 前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、[6]に記載の食肉加工液。
[8] 前記食肉が、鶏肉、豚肉、牛肉、エビ、白身魚、イカおよびホタテからなる群から選択される1または2以上である、[1]乃至[7]いずれか1項に記載の食肉加工液。
[9] 以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む粉体状の食肉加工液用組成物であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、粉体状の食肉加工液用組成物。
[10] 当該食肉加工用組成物全体に対して、前記成分(A)と前記成分(B)を合計で25質量%以上100質量%以下含む、[9]に記載の食肉加工液用組成物。
[11] 当該食肉加工用組成物中、前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、[9]または[10]に記載の食肉加工液用組成物。
[12] 成分(C):α化澱粉をさらに含む、[9]乃至[11]いずれか1項に記載の食肉加工液用組成物。
[13] 前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、[12]に記載の食肉加工液用組成物。
[14] 以下の成分(A)および(B)を含む食肉加工液を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、食肉加工食品の製造方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
[15] 前記食肉加工液中の前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、[14]に記載の食肉加工食品の製造方法。
[16] 食肉に適用する前記工程が、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法で適用する工程である、[14]または[15]に記載の食肉加工食品の製造方法。
[17] 食肉に適用する前記工程において、前記食肉100質量部に対する前記成分(A)の添加量が質量比で0.1質量部以上20質量部以下となるように適用する、[14]乃至[16]いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
[18] 前記食肉加工食品が、グリルチキン、唐揚げ、蒸しエビおよびエビフライからなる群から選択される、[14]乃至[17]いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
[19] 食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法であって、
前記食肉加工食品の製造において、以下の成分(A)および(B)を含む食肉加工液であって、前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である前記食肉加工液を、食肉に含有させることを含む、前記方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように本発明によれば、リン酸塩を配合しない場合においても、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての好ましい食感および異味のない自然な味を付与しうるとともに、製造時の作業性に優れる食肉加工液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書中では食肉加工液をピックル液ともいう。
【0009】
(食肉加工液)
本実施形態において、食肉加工液は、以下の成分(A)および(B)を含む。
(A)油脂加工澱粉
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
そして、成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である。
【0010】
また、食肉加工液は、リン酸塩を実質的に含まないことが好ましい。ここで、リン酸塩を実質的に含まないとは、食肉加工液の調製時にリン酸塩が意図的に配合されていないことをいう。このとき、食肉加工液中のリン酸塩の含有量は、食肉加工液全体に対して好ましくは0.01質量%以下である。
【0011】
(成分(A))
成分(A)は、油脂加工澱粉である。油脂加工澱粉とは、原料澱粉に食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上を添加した後、混合、加熱する操作を備えた工程を経て生産される澱粉質素材である。
【0012】
成分(A)の原料澱粉に制限はなく、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、エンドウ豆澱粉およびこれらの化工澱粉、たとえばアセチル化、エーテル化、リン酸架橋化、アジピン酸架橋化などの架橋化を単独もしくは組み合わせたものなどが挙げられる。
また、成分(A)は、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての食感を向上させる観点および食肉加工液調製時および調製後の分散性を高める観点から、好ましくは油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは油脂加工リン酸架橋タピオカ澱粉である。なお、上記油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチの原料であるタピオカ澱粉、コーンスターチおよびワキシーコーンスターチは、化工澱粉であってもよい。
【0013】
また、成分(A)の原料である食用油脂として、大豆油、ハイリノールサフラワー油等のサフラワー油、コーン油、ナタネ油、エゴマ油、アマニ油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、コメ油、パーム油、ヤシ油、ゴマ油、椿油、茶油、カラシ油、カポック油、カヤ油、クルミ油、ケシ油などが挙げられる。
また、食用油脂として、ヨウ素価が100以上の油脂を用いることがより好ましく、さらに140以上の油脂を用いることが好ましい。このようなヨウ素価の高い油脂は加熱による酸化を受けやすく、澱粉の改質効果が高く、食肉加工食品等の食品の食感改良効果が期待できる。ヨウ素価が140以上の油脂として、具体的には、ハイリノールサフラワー油、アマニ油などがあり、より好ましくはハイリノールサフラワー油である。
【0014】
また、食用油脂類縁物質として、モノグリセリン脂肪酸エステル;ジグリセリンモノオレイン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル;有機酸脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリソルベート;リン脂質などが挙げられる。食用油脂類縁物質は、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての食感を向上させる観点および食肉加工液調製時および調製後の分散性を高める観点から、好ましくは、ポリグリセリン脂肪酸エステルであり、より好ましくはジグリセリンモノオレイン酸エステルである。
【0015】
ここで、油脂加工澱粉調製時の食用油脂または食用油脂類縁物質の配合量は、澱粉の改質効果をより確実に得る観点から、100質量部の原料澱粉に対して、食用油脂および食用油脂類縁物質の合計でたとえば0.005質量部以上とし、0.008質量部以上が好ましく、より好ましくは0.02質量部以上とする。また、100質量部の原料澱粉に対しての食用油脂または食用油脂類縁物質の配合量は、食感改良効果の観点から、食用油脂および食用油脂類縁物質の合計でたとえば2質量部以下とし、1.5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.8質量部以下とする。
【0016】
また、油脂加工澱粉の製造に用いる澱粉と食用油脂の組み合わせは、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての食感を向上させる観点から、好ましくは架橋タピオカ澱粉、アセチル化タピオカ澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチおよびワキシーコーンスターチからなる群から選ばれる1種または2種以上と、ハイリノールサフラワー油、アマニ油などのヨウ素価が100以上の油脂との組み合わせであり、好ましくは、架橋タピオカ澱粉とハイリノールサフラワー油の組み合わせである。
【0017】
また、油脂加工澱粉の原料として、上述した成分以外の成分を用いてもよく、たとえば全脂大豆粉や脱脂大豆粉等の大豆粉が挙げられる。
【0018】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。
成分(A)の油脂加工澱粉の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む:
原料澱粉に、食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上を配合して混合物を調製する工程、ならびに
混合物を調製する工程で得られた混合物を加熱処理する工程。
【0019】
ここで、混合物を調製する工程において、油脂加工澱粉の酸化臭を抑制する観点から、混合物がpH調整剤を含む構成としてもよい。
pH調整剤は、食品に利用可能なpH調整剤であればよく、原料澱粉および食用油脂の種類に応じて選択することができるが、水への溶解性や、最終製品への味などの影響から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;およびリン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム等のリン酸塩;およびクエン酸3ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、フマル酸1ナトリウム等の上記以外の有機酸塩等が好ましく、これらの1種以上を配合するのが好ましい。さらに好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩を1種以上用い、さらにまた好ましくは炭酸ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムからなる群から選択される1種以上を用いる。
また、油脂加工澱粉の酸化臭をさらに効果的に抑制する観点からは、pH調整剤として、1質量%水溶液の25℃におけるpHが6.5以上であるものを用いることが好ましく、上記pHはより好ましくは8.0以上、さらに好ましくは10以上である。
【0020】
油脂加工澱粉調製時のpH調整剤の添加量は、成分(A)の酸化臭を抑制する観点から、澱粉100質量部に対して、たとえば0.005質量部以上であり、好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上である。また、食肉加工食品にえぐみが生じることを抑制する観点から、pH調整剤の添加量は、澱粉100質量部に対してたとえば2質量部以下であり、好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは1.2質量部以下、よりいっそう好ましくは1質量部以下である。
また、pH調整剤の添加量は、混合物のpHがたとえば6.5~10.9程度、好ましくは6.5~10.5程度となるように調整することができる。
混合物のpHは、前述の混合物を調製する工程にて得られた混合物の10質量%濃度の澱粉スラリーを調製して、ガラス電極法により測定したpH値である。
【0021】
pH調整剤は、好ましくは澱粉と油脂を混合するときに、添加する。pH調整剤の添加方法に制限はなく、塩をそのままの形で添加してもよいが、好ましくは、事前に塩類に対して、1~10倍量程度の水でpH調整剤を溶解させた後、得られた塩溶液を添加する。さらに好ましくは、100質量部の原料澱粉に対して0.1質量部以上10質量部以下の水にpH調整剤を溶解した後、添加することが好ましい。pH調整剤を事前に水溶液とすることにより、加熱による澱粉の損傷をさらに安定的に抑制できる。
なお、混合物を調製する工程におけるpH調整剤の添加順序に制限はなく、原料澱粉と食用油脂または食用油脂類縁物質を混合した後にpH調整剤を添加してもよいし、原料澱粉とpH調整剤を添加した後、食用油脂または食用油脂類縁物質を加えてもよい。好ましくは、作業性の点から、原料澱粉と食用油脂または食用油脂類縁物質を混合した後にpH調整剤を添加するのがよい。
【0022】
次に、混合物を加熱処理する工程について説明する。
混合物を加熱処理する工程において、混合物を調製する工程で得られた混合物を加熱することにより、油脂加工澱粉が得られる。
加熱処理については、たとえば150℃以上の高温で加熱、焙焼すると澱粉粒の損傷により、澱粉の粘度が低下し、澱粉本来の保水性が失われる懸念がある。すると、食肉加工食品に加えたときに歩留まりの減少などが生じるおそれがある。そのため、加熱処理は、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃未満の低温でおこない、より好ましくは40~110℃程度の低温で加熱処理する。こうすることにより、澱粉の損傷を押さえ、食肉改良効果がより高くなる。なお、加熱温度の下限に制限はないが、加熱期間を適度に短縮して生産性を向上させる観点から、たとえば40℃以上とする。
【0023】
加熱処理する期間は、澱粉の状態および加熱温度に応じて適宜設定され、たとえば0.5時間以上25日以下、好ましくは5時間以上20日以下であり、より好ましくは6時間以上18日以下である。
【0024】
以上により成分(A)を得ることができる。
成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpH(以下、単に「成分(A)のpH」ともよぶ。)は、ピックル液の製造時の分散性向上の観点から、4.0以上であり、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.5以上、さらに好ましくは6.0以上、さらにより好ましくは8.0以上である。
また、異味のない自然な味を付与させる観点から、成分(A)のpHは、12.0以下であり、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.5以下である。
【0025】
食肉加工液中の成分(A)の含有量は、咀嚼時の歯ごたえを向上させ、パサつきを抑制する観点から、食肉加工液全体に対して、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、さらにより好ましくは2質量%以上である。
また、咀嚼時の歯ごたえを向上させる観点から、食肉加工液中の成分(A)の含有量は、食肉加工液全体に対して、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下、さらにより好ましくは4質量%以下である。
【0026】
(成分(B))
成分(B)は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤である。
食肉加工食品の異味を抑制する観点から、成分(B)は、好ましくは炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群から選択される1以上を含み、より好ましくは炭酸水素ナトリウムを含み、さらに好ましくは炭酸水素ナトリウム(重曹)である。ただし、油脂加工澱粉を製造する際のpH調整剤としての炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムは、成分(B)には含まれない。
【0027】
食肉加工液中の成分(B)の含有量は、食肉加工食品の最初の歯ごたえを向上する観点から、食肉加工液全体に対して、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、さらにより好ましくは、0.8質量%以上である。
また、異味を抑制する観点から、食肉加工液中の成分(B)の含有量は、食肉加工液全体に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0028】
また、食肉加工液中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量、すなわち、((A)/(B))は、異味を抑制する観点から、質量比で、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.2以上である。
また、最初の歯ごたえを向上させる観点から、上記質量比((A)/(B))は、たとえば40以下であり、好ましくは15以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、さらにより好ましくは4以下である。
【0029】
(水)
食肉加工液は、具体的には水を含む。食肉加工液中の水の含有量は、たとえば食肉加工液に含まれる水以外の成分の含有量を除いた残部とすることができる。
また、食肉加工液中の水の含有量は、食肉加工食品の異味を抑制する観点から、たとえば80質量%以上であってよく、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは92質量%以上である。
食肉加工食品の食感、味および食肉加工食品の製造時の作業性を向上する観点から、食肉加工液中の水の含有量は、たとえば99.7質量%以下であってよく、好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下である。
【0030】
本実施形態における食肉加工液は、上述した特定の成分(A)および(B)を含むため、食肉に好適に用いられ、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての好ましい食感および味のバランスに優れるとともに、製造時の作業性に優れる食肉加工食品を得ることができる。たとえば、本実施形態によれば、食肉加工食品の最初に歯が入るときの好ましいプリっと感、咀嚼中の適度な抵抗、および、パサつかないしっとり感のバランスに優れるとともに、異味が抑制された食肉加工食品を得ることも可能となる。
【0031】
(その他の成分)
食肉加工液は、成分(A)および(B)ならびに水以外の成分を含んでもよい。
たとえば、食肉加工液が、以下の成分(C)をさらに含んでもよい。
成分(C):α化澱粉
ここで、成分(C)は、成分(A)以外の澱粉である。また、α化澱粉とはα化処理された澱粉であり、α化処理の方法としては、たとえばジェットクッカー処理、ドラムドライヤー処理、エクストルーダー処理等が挙げられる。なお、成分(C)のα化澱粉には、部分的にα化された澱粉も含まれる。
食肉加工液がさらに成分(C)を含む構成とすることにより、食肉加工食品の製造時の作業性を向上させることができる。たとえば、食肉加工液がさらに成分(C)を含む構成とすることにより、食肉加工液の分散性を向上させることが可能となり、これにより、塊状の食肉の表面に適用する食肉加工液を一様な状態とすることも可能となる。
【0032】
成分(C)のアミロース含量は、食肉加工液作製時の分散性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、また、100質量%以下である。
【0033】
また、成分(C)のα化度の指標としては、冷水膨潤度を用いることができる。冷水膨潤度の測定方法については実施例の項で後述する。
【0034】
成分(C)の冷水膨潤度は、食肉加工食品の製造時の作業性を向上する観点から、乾物換算で、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。
また、食肉加工食品の最初の歯ごたえを向上する観点から、成分(C)の冷水膨潤度は、乾物換算で、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下、さらにより好ましくは15以下である。
【0035】
成分(C)の具体例として、α化ワキシー澱粉、α化ハイアミロースコーンスターチ、α化コーンスターチからなる群から選択される1または2以上の澱粉が挙げられる。最初の歯ごたえを向上させる観点から、成分(C)は、好ましくはα化ハイアミロースコーンスターチである。
【0036】
食肉加工液が成分(C)を含むとき、食肉加工液中の成分(C)の含有量に対する成分(A)の含有量すなわち((A)/(C))は、質量比で、食肉加工食品の最初の歯ごたえを向上させる観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは3以上、さらにより好ましくは5以上である。
また、食肉加工食品の咀嚼時の歯ごたえを向上させる観点から、上記質量比((A)/(C))は、好ましくは40以下であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、さらにより好ましくは13以下である。
【0037】
また、食肉加工液は、成分(A)~(C)および水以外の成分を含んでもよい。かかる成分の具体例として、成分(A)および(C)以外の澱粉(オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム等);
塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム等の調味料;
醤油、食酢、油脂、酒、みりん等の液体調味料;
ナツメグ、こしょう、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、ターメリックパウダー等のスパイス類;
亜硝酸ナトリウム等の発色剤;
ソルビン酸ナトリウムやグリシン、酢酸Na等の保存料;
アスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤;
コチニール色素などの着色料;
カゼインナトリウム等の乳化剤;
キサンタンガムやローカストビーンガム、グアーガム等の増粘安定剤;
貝殻焼成カルシウム、卵殻カルシウム、炭酸カルシウム等の栄養強化剤等が挙げられる。その他、タンパク質素材、香料等の、通常食品に用いられる成分を含んでもよい。
【0038】
(食肉)
本実施形態において、食肉加工液が適用される食肉の具体例として、牛、豚、羊、山羊等の哺乳動物の肉;
鶏、アヒル、七面鳥、ガチョウ、鴨等の家禽類に代表される鳥類の肉;
ワニ等の爬虫類;
カエル等の両生類;ならびに
白身魚等の魚、エビ、イカ、ホタテ等の魚介類の肉等が挙げられ、好ましくは鶏肉、豚肉、牛肉、魚介類からなる群から選択される。これらは1種で用いても2種以上を混合して用いてもよい。食肉は、より好ましくは鶏肉、豚肉、牛肉、エビ、白身魚、イカおよびホタテからなる群から選択される1または2以上である。
また、食肉加工食品の原料である食肉は、好ましくは塊状の肉であり、その具体例として、薄切り肉、厚切り肉等の切り身状の肉;ブロック状の肉;エビのように素材そのままで使用されるものや、魚の切り身のように、ある程度の大きさにカットされたものが挙げられる。
また、本実施形態における食肉加工食品の原料である食肉は、ミンチ状にされていないものが好ましく、より好ましくは1cm3以上のものである。
【0039】
(食肉加工食品)
本実施形態において、食肉加工食品は、上述した本実施形態における食肉加工液を用いて得られる。
食肉加工食品の具体例として、各種食肉のグリル、フライ、唐揚げ、蒸し物が挙げられる。食肉加工液を適用した際の食味および食感の好ましさが向上する観点から、食肉加工食品は、好ましくはグリルチキン、畜肉の唐揚げをはじめとする唐揚げ、蒸しエビおよびエビフライからなる群から選択される。
【0040】
(食肉加工液用組成物)
本実施形態において、食肉加工液用組成物は、粉体状であり、上述した成分(A)および(B)を含む。食肉加工液用組成物は、食肉加工用液の調製に好適に用いられる。成分(A)および(B)の具体例および配合量については、食肉加工液について前述のとおりである。
また、食肉加工液用組成物中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量の質量比((A)/(B))は、好ましくは食肉加工液について前述した範囲である。
【0041】
食肉加工液用組成物は、さらに上述した成分(C)をさらに含んでもよい。成分(C)の具体例については、食肉加工液について前述のとおりである。
また、食肉加工液用組成物中の成分(C)の含有量に対する成分(A)の含有量の質量比((A)/(C))は、好ましくは食肉加工液について前述した範囲である。
【0042】
また、食肉加工液用組成物は、成分(A)~(C)以外の粉体状の成分を含んでもよい。かかる成分の具体例として、成分(A)および(C)以外の澱粉(オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム等);
塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム等の調味料;
ナツメグ、こしょう、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、ターメリックパウダー等のスパイス類;
亜硝酸ナトリウム等の発色剤;
ソルビン酸ナトリウムやグリシン、酢酸Na等の保存料;
アスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤;
コチニール色素などの着色料;
カゼインナトリウム等の乳化安定剤;
キサンタンガムやローカストビーンガム、グアーガム等の増粘安定剤;
貝殻焼成カルシウム、卵殻カルシウム、炭酸カルシウム等の栄養強化剤等が挙げられる。
その他、タンパク質素材、香料等の、通常食品に用いられる成分を含んでもよい。
【0043】
食肉加工液用組成物中、成分(A)の含有量と成分(B)の含有量の合計は、最初の歯ごたえやパサつきを抑制する観点から、食肉加工液用組成物全体に対して好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、さらにより好ましくは70質量%以上である。
また、成分(A)の含有量と成分(B)の含有量の合計は、食肉加工液用組成物全体に対して100質量%以下であり、好ましくは100質量%未満である。
【0044】
(食肉加工食品の製造方法)
本実施形態において、食肉加工食品の製造方法は、たとえば、上述した成分(A)および(B)を食肉に適用する工程を含む。さらに具体的には、食肉加工食品の製造方法は、成分(A)および(B)を含む食肉加工液を食肉に適用する工程を含む。
食肉加工液を食肉に適用する工程は、食肉加工食品の製造安定性および製造時の作業性を高める観点から、好ましくは、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法で適用する工程である。
【0045】
本実施形態の製造方法において、質量比((A)/(B))は、異味を抑制する観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.2以上である。
また、上記質量比((A)/(B))は、最初の歯ごたえを向上させる観点から、たとえば40以下であり、好ましくは15以下であり、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、さらにより好ましくは4以下である。
【0046】
また、食肉に適用する上記工程において、食肉100質量部に対する成分(A)の添加量は、食肉加工食品の咀嚼時の歯ごたえを向上させ、パサつきを抑制する観点から、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは2以上である。
また、咀嚼時の歯ごたえを向上させる観点から、食肉100質量部に対する成分(A)の添加量は、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは15以下、さらに好ましくは、10以下である。
【0047】
また、食肉に適用する上記工程において、さらに成分(C):α化澱粉を食肉に適用してもよい。
このとき、食肉加工液中の成分(C)の含有量に対する成分(A)の含有量すなわち((A)/(C))は、質量比で、最初の歯ごたえを向上させる観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは3以上、さらにより好ましくは5以上となるように食肉に適用する。
また、咀嚼時の歯ごたえを向上させる観点から、上記質量比((A)/(C))は、好ましくは40以下であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、さらにより好ましくは13以下となるように食肉に適用する。
【0048】
本実施形態の食肉加工食品においては、食肉に成分(A)および(B)を含む食肉加工用液が適用されているため、リン酸塩を配合しない場合においても、食肉加工食品に歯を入れてから咀嚼中にわたっての好ましい食感および異味のない自然な味を付与しうる、作業性に優れた食肉加工液を提供できる。
【0049】
(食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法)
また、本実施形態において、食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法は、食肉加工食品の製造において、上述の成分(A)および(B)を含む食肉加工液を、食肉に含有させることを含む。
成分(A)および(B)を食肉に含有させる方法に制限はないが、食肉加工液を食肉に均一に浸透させる観点から、好ましくは、成分(A)および(B)を食肉中に含浸させる方法であり、たとえば、塊状の食肉に、食肉加工液をインジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法により含浸させる方法である。
また、前記歯ごたえは、好ましくは咀嚼時の歯ごたえである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む食肉加工液であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、食肉加工液。
2. リン酸塩を実質的に含まない、1.に記載の食肉加工液。
3. 前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、1.または2.記載の食肉加工液。
4. 前記成分(A)が、油脂加工リン酸架橋タピオカ澱粉である、1.乃至3.いずれか1つに記載の食肉加工液。
5. 前記成分(B)が、炭酸水素ナトリウムである、1.乃至4.いずれか1つに記載の食肉加工液。
6. 成分(C):α化澱粉をさらに含む、1.乃至5.いずれか1つに記載の食肉加工液。
7. 前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、6.に記載の食肉加工液。
8. 前記食肉が、鶏肉、豚肉、牛肉、エビ、白身魚、イカおよびホタテからなる群から選択される1または2以上である、1.乃至7.いずれか1つに記載の食肉加工液。
9. 以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
を含む粉体状の食肉加工液用組成物であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、粉体状の食肉加工液用組成物。
10. 当該食肉加工用組成物全体に対して、前記成分(A)と前記成分(B)を合計で25質量%以上100質量%以下含む、9.に記載の食肉加工液用組成物。
11. 当該食肉加工用組成物中、前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、9.または10.に記載の食肉加工液用組成物。
12. 成分(C):α化澱粉をさらに含む、9.乃至11.いずれか1つに記載の食肉加工液用組成物。
13. 前記成分(C)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、1以上40以下である、12.に記載の食肉加工液用組成物。
14. 以下の成分(A)および(B)を含む食肉加工液を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法であって、
前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である、食肉加工食品の製造方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
15. 前記食肉加工液中の前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量が、質量比で、0.1以上40以下である、14.に記載の食肉加工食品の製造方法。
16. 食肉に適用する前記工程が、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法で適用する工程である、14.または15.に記載の食肉加工食品の製造方法。
17. 食肉に適用する前記工程において、前記食肉100質量部に対する前記成分(A)の添加量が質量比で0.1質量部以上20質量部以下となるように適用する、14.乃至16.いずれか1つに記載の食肉加工食品の製造方法。
18. 前記食肉加工食品が、グリルチキン、唐揚げ、蒸しエビおよびエビフライからなる群から選択される、14.乃至17.いずれか1つに記載の食肉加工食品の製造方法。
19. 食肉加工食品の歯ごたえを向上させる方法であって、
前記食肉加工食品の製造において、以下の成分(A)および(B)を含む食肉加工液であって、前記成分(A)の10質量%の水分散液の25℃におけるpHが4.0以上12.0以下である前記食肉加工液を、食肉に含有させることを含む、前記方法。
(A)油脂加工澱粉、
(B)炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1または2以上のアルカリ剤
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
以下の例において、断りのない場合、「%」とは、「質量%」である。また、断りのない場合、「部」とは、「質量部」である。
【0051】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
(澱粉)
リン酸架橋タピオカ澱粉1:アクトボディーTP-1、株式会社J-オイルミルズ製
リン酸架橋タピオカ澱粉2:アクトボディーTP-2、株式会社J-オイルミルズ製
リン酸架橋タピオカ澱粉3:アクトボディーTP-4W、株式会社J-オイルミルズ製
生タピオカ澱粉:株式会社J-オイルミルズ製
コーンスターチ:株式会社J-オイルミルズ製
α化ハイアミロースコーンスターチ:ジェルコールAH-F、株式会社J-オイルミルズ製(冷水膨潤度6.5)
アセチル化タピオカ油脂加工澱粉(以下「K-1」ともいう。):ねりこみ澱粉K-1、日本食品化工株式会社製
(乳化剤)
グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル:ポエムW-60、理研ビタミン株式会社製
ジグリセリンモノオレイン酸エステル:リケマールJV2681、理研ビタミン株式会社製
(その他)
脱脂大豆粉:ミルキーS、株式会社J-オイルミルズ製
パン粉:フライスター7ゴールド、フライスター株式会社製
ハイリノールサフラワー油:サフラワーサラダ油、サミット製油株式会社製
【0052】
(製造例1)
100質量部のリン酸架橋タピオカ澱粉1に、ハイリノールサフラワー油0.1質量部、ジグリセリンモノオレイン酸エステル0.05質量部、および、炭酸ナトリウム10質量部に対して水30質量部を加えて炭酸ナトリウムを完全に溶解させた25%炭酸ナトリウム水溶液0.4質量部(炭酸ナトリウム当量として0.1質量部)を加え、混合機(スーパーミキサー、株式会社カワタ製)で3000rpm、3分間均一に混合し、混合物(水分14.8%)を得た。この混合物を棚段式乾燥機にて、70℃10日間加熱し、油脂加工澱粉1を得た。なお、本明細書の製造例における混合機は、すべてスーパーミキサー(株式会社カワタ製)を用いた。
【0053】
(製造例2)
製造例1において、ジグリセリンモノオレイン酸エステルの添加量を0.1質量部とした他は、製造例1と同じ方法で油脂加工澱粉を製造し、油脂加工澱粉2を得た。
【0054】
(製造例3)
製造例1において、リン酸架橋タピオカ澱粉1にかえて生タピオカ澱粉を用いた他は、製造例1と同じ方法で油脂加工澱粉を製造し、油脂加工澱粉3を得た。
【0055】
(製造例4)
本例では、100質量部のリン酸架橋タピオカ澱粉(リン酸架橋タピオカ澱粉2およびリン酸架橋タピオカ澱粉3の1:1の混合物)に、脱脂大豆粉を1.7質量部、ハイリノールサフラワー油0.2質量部を加え、混合機で3000rpm、3分間均一に混合し、混合物(水分14.8%)を得た。この混合物を棚段式乾燥機にて、70℃14日間加熱し、油脂加工澱粉4を得た。
【0056】
(製造例5)
本例では、製造例4において、リン酸架橋タピオカ澱粉にかえて、澱粉混合物(リン酸架橋タピオカ澱粉2およびコーンスターチの1:0.95の混合物)を添加し、脱脂大豆粉を2.01質量部添加するとともに、ハイリノールサフラワー油の添加量を0.24質量部とした他は、製造例4と同じ方法で油脂加工澱粉を製造し、油脂加工澱粉5を得た。
【0057】
(製造例6)
本例では、製造例4において、リン酸架橋タピオカ澱粉にかえて、100質量部のコーンスターチを添加し、ハイリノールサフラワー油の添加量を0.1質量部とし、脱脂大豆粉を添加しなかった他は、製造例4と同じ方法で油脂加工澱粉を製造し、油脂加工澱粉6を得た。
【0058】
(製造例7)
本例では、製造例4において、100質量部のリン酸架橋タピオカ澱粉(リン酸架橋タピオカ澱粉2およびリン酸架橋タピオカ澱粉3の1:2.15の混合物)とし、クエン酸三ナトリウム0.3質量部を加え、ハイリノールサフラワー油の添加量を0.3質量部とし、脱脂大豆粉を添加しなかった他は、製造例4と同じ方法で油脂加工澱粉を製造し、油脂加工澱粉7を得た。
【0059】
本例では、特許文献2の「油脂加工澱粉(試作品A)の作成」(段落0030)に準じて油脂加工澱粉を製造した。
(製造例8)
ハイリノールサフラワー油7.5gとグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル7.5gとからなる油脂組成物を60℃に加温・溶解した。リン酸架橋タピオカ澱粉1の水分を12.5%に調湿したもの100質量部に対して上記油脂組成物0.5質量部を添加し、混合機で3000rpm、10分間均一に混合した。得られた混合物を、密閉タンクに詰めて、60℃にて14日間加熱処理し、油脂加工澱粉8を得た。
【0060】
製造例1~8で得られた各油脂加工澱粉および前述のアセチル化タピオカ油脂加工澱粉「K-1」のpHを表1に示す。ここで、油脂加工澱粉のpHはそれぞれ以下の方法で測定した。
(pH)
各油脂加工澱粉について、10質量%の水分散液を調製し、25℃における各水分散液のpHをガラス電極法で測定した。
【0061】
【0062】
成分(C)の冷水膨潤度は以下の方法で測定した。
(冷水膨潤度の測定方法)
「澱粉・関連糖質実験法」、279-280頁、1986年、学会出版センターに記載される方法で冷水膨潤度を測定した。具体的には以下の方法で測定した。
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、電磁水分計:型番MX50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1g精秤し、遠心管にとり、メチルアルコール1mLに含浸させ、ガラス棒で撹拌しながら、25℃の蒸留水を加え正確に50mLとした。ときどき振盪し、25℃で20分間放置した。遠心分離機(日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプタ)にて25℃で30分間、4000rpmで遠心分離し、上清を傾斜して、秤量瓶にとった。秤量瓶にとった上清を蒸発乾固させ、さらに110℃にて3時間減圧乾燥し、秤量し上清乾燥質量を求めた。さらに沈澱部質量を求め、次式で溶解度を算出後、冷水膨潤度を算出した。
溶解度(S)db%=上清乾燥質量(mg)/1000×100
冷水膨潤度=沈澱部質量(mg)/(1000×(100-S)/100)
【0063】
(実施例1-1~1-3、実施例2-1~2-3、実施例3-1~3-5、実施例4-1~4-3、実施例5-1~5-4、実施例6-1~6-4、実施例7、比較例1、2および対照例1-1~1-2、対照例2~6)
本例では、各種ピックル液を調製し、これを用いて蒸しエビの作製および評価をおこなった。ピックル液は、表3~表9の各例について、各表に示した原材料を配合し、混合して調製した。蒸しエビの製造方法および評価方法を以下に示す。
【0064】
(蒸しエビの製造方法)
原料のエビとして、生むきエビ(バナメイ)冷凍品(サイズ規格:51-60)を流水解凍したものを用いた。
一方、ピックル液の原材料のうち、成分(A)と成分(B)を混合し、粉体状の食肉加工液用組成物を作製した。次に、上記組成物とその他のピックル液の原材料をすべて合わせ、懸濁しておいた。
表3~表8については、チャック付き袋に生むきエビ100部を入れ、ピックル液100部を加え空気を抜いて封をした。
そして、バットに各チャック袋を置き、4℃の冷蔵庫中に4時間静置し、浸漬した。
ただし、表9においては、上記の静置・浸漬の代わりにタンブリングによって食肉に適応した。すなわち、チャック袋にエビ100部を入れ、ピックル液40部を加え空気を抜いて封をし、タンブラー(RTN-VSQ0、株式会社大道産業製)を用い、4℃、120分間タンブリングした。
その後、各チャック袋の中身をざるにあけ、水気をよく切り、重量測定し、浸漬後歩留まりを算出した。
次に、エビを穴あきホテルパンに並べ、スチームコンベクションオーブン(株式会社マルゼン製;SSC-03NSTU)の低温スチームモードにて99℃、5分間調理した。
スチーム調理後、ただちにエビの重量を測定し、スチーム後歩留りを算出した。その後、調理後歩留まりを算出した。
そして、エビを室温(25℃)まで冷却した。これを官能評価に用いた。
【0065】
(浸漬後歩留りの算出)
上記で得られた浸漬前重量と浸漬後重量から、以下の計算式を用いて、浸漬後歩留りを算出した。
浸漬後歩留り(%)=浸漬後重量/浸漬前重量×100
【0066】
(スチーム後歩留りの算出)
上記で得られたスチーム前重量とスチーム後重量から、以下の計算式を用いて、スチーム後歩留りを算出した。
スチーム後歩留り(%)スチーム後重量/浸漬後重量×100
【0067】
(調理後歩留りの算出)
上記で得られた浸漬後歩留りとスチーム後歩留りから、以下の計算式を用いて、調理後歩留りを算出した。
調理後歩留り(%)=浸漬後歩留り×スチーム後歩留り/100
【0068】
(官能評価)
各例で得られた蒸しエビの、最初の歯ごたえ、咀嚼時の歯ごたえ、パサつきおよび味(異味の有無)を評価した。表8以外の各表に記載の各例について3人の専門パネラーが評価し、表8に記載の各例については、2人の専門パネラーが評価した。各評価項目について、評点が2点超であるものを合格とした。各項目の評価基準を表2に示す。
また、後述する蒸しエビ以外の例(表10、表11)においても、断りのない部分については、蒸しエビの評価に準じて官能評価をおこなった。
なお、表3、表5に記載の例では、専門パネラーの合議により評点を決定した。また、表4、表6、表7、表8および表9に記載の例では、各専門パネラーの採点値の平均を評点とした。
【0069】
(作業性評価)
各例のピックル液について、ピックル液作製時の分散性および浸漬時の再分散性を1名の作業者が評価した。各評価項目について、2点以上のものを合格とした。各項目の評価基準を表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表3より、成分(A)および成分(B)を所定量含む食肉加工液をエビに適用し、作製した蒸しエビは良好な食感および食味であった。
食肉加工液中、最初の歯ごたえおよび味に対しては、成分(A)の含有量が1質量%以上5質量%以下のときいずれも良好であった。咀嚼時の歯ごたえについては、成分(A)の含有量が1質量%以上5質量%以下のとき良好であり、中でも、3質量%のときよりいっそう良好であった。パサつきの抑制については、成分(A)の含有量が1質量%以上5質量%以下のとき良好であり、3質量%以上5質量%以下含有するとより良好であった。
【0073】
【0074】
【0075】
表4および表5より、成分(A)のpHが所定の範囲である食肉加工液は作業性が良好であり、その食肉加工液をエビに適用し作製した蒸しエビは、良好な食感および食味であった。
成分(A)のpHが4.6以上のとき、パサつきが抑制され異味の無い自然な味の食品が得られた。また、咀嚼時の歯ごたえは、成分(A)のpHが4.6以上9.2以下のとき良好であり、pHが5.8以上9.0以下でさらに良好であった。最初の歯ごたえに関しては、成分(A)のpHが4.6以上9.2以下のとき良好であり、pHが9.0のときさらに良好であった。また、ピックル液作製時の作業性については、成分(A)のpHが4.6以上9.2以下で良好であり、pHが5.6以上9.2以下でさらに良好であり、pHが9.0以上9.2以下でよりいっそう良好であった。
また、表4より、油脂加工澱粉製造時にジグリセリンモノオレイン酸エステルを加える場合、ジグリセリンモノオレイン酸エステルの量は0.05質量部(実施例2-1)の方が0.1質量部(実施例2-2)の場合より、最初の歯ごたえ、咀嚼時の歯ごたえの好ましさおよびパサつきの抑制の観点からより優れていた。また、油脂加工澱粉の原料澱粉としてはリン酸架橋タピオカ澱粉(実施例2-1および実施例2-2)である場合、最初の歯ごたえ、咀嚼時の歯ごたえの好ましさ、パサつきの抑制、味の点で優れていた。
【0076】
【0077】
表6より、食肉加工液中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量(すなわち(A)/(B))が所定の範囲である食肉加工液は作業性が良好であり、その食肉加工液をエビに適用し作製した蒸しエビは、良好な食感および食味であった。
((A)/(B))の値が0.33以上3.0以下のとき最初の歯ごたえが良好であり、1.0のときさらに良好であった。咀嚼時の歯ごたえおよび味は、0.33以上3.0以下のとき良好であり、1.0以上3.0以下のとき、さらに良好であり、3.0のときよりいっそう良好であった。パサつきの抑制については、0.33以上3.0以下のとき良好であり、3.0のときさらに良好であった。
【0078】
【0079】
表7より、成分(A)および(B)に加えて、成分(C)を0.25質量%以上0.4質量%以下含む食肉加工液では再分散性がさらに向上した。
一方、成分(A)のpHが所定の範囲外の油脂加工澱粉8を含む食肉加工液は食肉加工液製造時の分散性が悪く、その食肉加工液をエビに適用し作製した蒸しエビは、異味が感じられ、好ましいものではなかった。
【0080】
【0081】
表8より、成分(A)と共に、成分(B)として炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムのいずれか1つを含む食肉加工液を適用した蒸しエビは、いずれも良好な食感および味であった。
最初の歯ごたえは、成分(B)として炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムの順に良好であった。味については炭酸水素ナトリウムがさらに自然で異味が無く良好であった。
また、成分(B)として炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムを混合した食肉加工液を適用しても、良好な蒸しエビを得られることがわかった。
【0082】
【0083】
表9より、実施例7では、リン酸塩を含まない食肉加工液を、タンブリングによってエビに適用した場合でも、静置して浸漬した場合と同様に、食感や味に優れた蒸しエビが得られた。
殊に食肉100質量部あたりの成分(A)が1.2質量部と値が小さくても、最初の歯ごたえが良くパサつきが抑制された蒸しエビが得られた。
【0084】
(実施例8、比較例3、4、対照例7-1、7-2)
本例では、グリルチキンの作製および評価をおこなった。
ピックル液は、表10の各例に記載の原材料のうち氷水以外の原料を配合し、混合して粉体組成物を調製した後、氷水と混合して調製した。グリルチキンの製造方法および評価方法を以下に示す。
【0085】
(グリルチキンの製造方法)
冷凍鶏ムネ肉を前日から冷蔵(4℃)解凍した。解凍後の鶏ムネ肉の皮を除去し、裏表1回ずつテンダライザー(ラブシエール、ワタナベフ―マック株式会社製)を用いてテンダリングし、25gずつにカットした。
一方、ピックル液については、表10に記載の配合に基づきダマがなくなるまでよく混合した。
チャック付ラミネート袋(ラミジップLZ-22、生産日本社製)にカットした肉を20個ずつ入れ、タンブリング前重量を計測した。その後、肉質量の40%となるようピックル液を添加し、真空包装機(株式会社ハギオス製)で減圧して封をした。条件は、減圧20秒、シールは中温で2秒とした。
封をした後、袋を水平にして揺すり、ピックル液を均一にした。そして、4℃にてタンブラー(RTN-VSQ0、株式会社大道産業製)120分間タンブリングした。
タンブリング後、各袋の中身をざるにあけ、水分をきった後、タンブリング後重量を計測した。
その後、スチームコンベクションオーブン用棚の上に網をのせ、肉を並べた。そして、スチームコンベクションオーブン(株式会社マルゼン製;SSC-03NSTU)のスチームコンビネーションモード、設定温度200℃、100%、7分間焼成し、グリルチキンを得た。グリルチキンを放冷後、加熱調理後重量を計測した。
【0086】
(タンブリング後歩留りの算出)
上記で得られたタンブリング前重量とタンブリング後重量から、以下の計算式を用いて、浸漬後歩留りを算出した。
タンブリング後歩留り(%)=タンブリング後重量/タンブリング前重量×100
【0087】
(焼成歩留りの算出)
上記で得られたタンブリング後重量と加熱調理後重量から、以下の計算式を用いて、焼成歩留りを算出した。
焼成後歩留り(%)=加熱調理後重量/タンブリング後重量×100
【0088】
(調理後歩留りの算出)
上記で得られた浸漬後歩留りとスチーム後歩留りから、以下の計算式を用いて、調理後歩留りを算出した。
調理後歩留り(%)=タンブリング後歩留り×焼成後歩留り/100
【0089】
(官能評価)
各例で得られたグリルチキンを、表2に記載の評価項目および評点に基づき、2人の専門パネラーが合議にて官能評価した。評点が2点超であるものを合格とした。
【0090】
(作業性評価)
各例のピックル液について、ピックル液作製時の分散性および浸漬時の再分散性を1名の作業者が評価した。各評価項目について、2点以上であるものを合格とした。
【0091】
【0092】
表10より、本実施例の食肉加工液を、鶏ムネ肉のような一枚肉に適用した場合でも、食感や味に優れたグリルチキンが得られた。また、本実施例の食肉加工液を適用した場合、焼成でも良好な食品が得られることがわかった。
殊に、実施例のグリルチキンは、最初の歯ごたえ、咀嚼時の歯ごたえにおいて、肉らしさが感じられ、好ましいものであった。一方、リン酸塩を使用した対照例では、最初の歯ごたえは優れていたものの、咀嚼時の歯ごたえにおいて均一感があり、肉らしさが感じられず、劣るものであった。
【0093】
(実施例9、対照例8-1、8-2)
本例では、エビフライの作製および評価をおこなった。ピックル液は、表11の各例に記載の原材料を配合し、混合して調製した。エビフライの製造方法および評価方法を以下に示す。
【0094】
(エビフライの製造方法)
原料のエビには、蒸しエビの製造に用いたものと同種のエビを用いた。
一方、ピックル液の原材料のうち、成分(A)、成分(B)、および食塩を混合し、食肉加工液用組成物を調製した。この食肉加工液用組成物を氷水と合わせ、懸濁しておいた。
ピックル液を調製後、エビを、当量のピックル液中に、4℃にて一晩浸漬した。浸漬後、蒸しエビの製造方法と同じ方法で浸漬後歩留まりを算出した。
その後、エビの外側にバッター液およびパン粉をこの順に付け、キャノーラ油中、175℃で3分間油ちょうした。バッター液の配合を以下に示す。
【0095】
バッター液原材料 質量部
油脂加工澱粉4 97.0
食塩 2.0
グルタミン酸Na 1.0
ホワイトペッパー 0.5
キサンタンガム 0.4
冷水 200.0
【0096】
油ちょう後のエビフライを、表2に記載の評価項目および評点に基づき、5人の専門パネラーが合議にて官能評価した。評点が2点超であるものを合格とした。
また、作業性については、表2に記載の評価項目および評点に基づき、1名の作業者が評価した。各評価項目について、2点以上であるものを合格とした。
【0097】
【0098】
表11より、本実施例の食肉加工液を適用したエビを用い、油ちょうにて調理したエビフライは、非常に良好なものであった。すなわち、本実施例の食肉加工液を適用した場合、加熱方法が油ちょうでも良好な食品が得られることがわかった。
【0099】
この出願は、2018年9月28日に出願された日本出願特願2018-185925号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。