(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】多層構造体及びそれを用いたレトルト用包装材料
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240215BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240215BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20240215BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240215BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240215BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240215BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240215BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20240215BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B32B15/08 Q
B32B27/32 C
B32B27/28 102
B32B27/34
C08L29/04 S
C08K5/13
B29C55/12
B29C48/21
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021505064
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010086
(87)【国際公開番号】W WO2020184523
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019043280
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-079762(JP,A)
【文献】特開2015-183059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 48/00-48/96、55/00-55/30、
61/00-61/10
C08J 11/00-11/28
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂(a)
の含有量が50質量%以上である外層(A)、ポリプロピレン樹脂(b)
の含有量が50質量%以上である内層(B)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)
の含有量が50質量%以上であるバリア樹脂層(C)、及びアルミニウム
原子の含有量が50モル%以上である金属蒸着層(D)を少なくとも有する4層以上の多層構造体であって、
バリア樹脂層(C)及び金属蒸着層(D)が外層(A)及び内層(B)の間に位置し、
少なくとも1層のバリア樹脂層(C)が、少なくとも1層の金属蒸着層(D)よりも外層(A)側に位置し、
合計厚みが200μm以下であり、
ポリプロピレン樹脂(a)及びポリプロピレン樹脂(b)の融点がそれぞれ140℃以上170℃未満であり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)のエチレン単位含有量が15~60モル%、けん化度が85モル%以上であり、
融点が140℃未満の樹脂を
含む層、融点が240℃以上の樹脂を
含む層及び厚み1μm以上の金属層を有さない多層構造体。
【請求項2】
バリア樹脂層(C)と金属蒸着層(D)とが隣接する、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
バリア樹脂層(C)が厚み8~40μmの単層フィルムである、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
単層フィルムが二軸延伸されてなる、請求項3に記載の多層構造体。
【請求項5】
バリア樹脂層(C)が、バリア樹脂層(C)を含む2層以上の層からなる共押出フィルムの一層であり、該共押出フィルムの厚みが8~120μmであり、バリア樹脂層(C)の厚みが1~20μmである、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項6】
共押出フィルムが二軸延伸されてなる、請求項5に記載の多層構造体。
【請求項7】
共押出フィルムのバリア樹脂層(C)以外の層がポリプロピレン樹脂
のみを含む層からなる、請求項5又は6に記載の多層構造体。
【請求項8】
多層構造体の合計厚みに対する、ポリプロピレン樹脂
層の合計厚みの比が0.75以上である、請求項1~
7のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項9】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を20~200ppm含有する、請求項1~
8のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項10】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、少なくとも1つのpKaが3.5~5.5である多価カルボン酸(f)を40~400ppm含有する、請求項1~
9のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項11】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、エステル結合又はアミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(g)を1000~10000ppm含有する、請求項1~
10のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項12】
バリア樹脂層(C)がさらにポリアミド樹脂(h)を含み、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)とポリアミド樹脂(h)との質量比(c/h)が78/22~98/2である、請求項1~
11のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれかに記載の多層構造体を有するレトルト用包装材料。
【請求項14】
120℃30分間のレトルト処理前後における酸素透過度(20℃、65%RH条件下)がともに2cc/(m
2・day・atm)未満である、請求項
13に記載のレトルト用包装材料。
【請求項15】
120℃30分間のレトルト処理前後における波長600nmにおける光線透過率がともに10%以下である、請求項
13または
14に記載のレトルト用包装材料。
【請求項16】
請求項1~
12のいずれかに記載の多層構造体の回収物を含む、回収組成物。
【請求項17】
請求項1~
12のいずれかに記載の多層構造体を粉砕した後に溶融成形する、多層構造体の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を主成分とする外層及び内層、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア樹脂層、及びアルミニウムを主成分とする金属蒸着層を少なくとも有する多層構造体及びそれを用いたレトルト用包装材料、並びに、該多層構造体の回収方法及び該多層構造体の回収物を含む回収組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存するための包装材料には、酸素バリア性をはじめとするガスバリア性が要求されることが多い。ガスバリア性が高い包装材料を用いることで、酸素による食品の酸化や微生物の繁殖を抑制できる。可食期間をさらに延長した食品として、包装材に食品を充填した後に、加圧下で熱水殺菌処理を行うレトルト食品が増加している。レトルト用包装材料向けのガスバリア層としては、アルミニウム箔や、耐熱性の高いポリエステルフィルム上に酸化ケイ素や酸化アルミニウムの蒸着層を積層したガスバリアフィルムが一般に使用されている。アルミニウム箔を使用する場合には、ガスバリア性に加えて遮光性を付与でき、酸化ケイ素や酸化アルミニウムの蒸着層を積層したガスバリアフィルムを使用する場合には、内容物の視認性を付与できる。(特許文献1及び2)
ガスバリア性樹脂として広く包装材料に使用されるエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略称することがある)は、分子中の水酸基同士が水素結合することによって結晶化、高密度化してガスバリア性を発揮する。
また、近年では、環境問題や廃棄物問題が契機となり、市場で消費された包装材料を回収して再資源化する、いわゆるポストコンシューマーリサイクル(以下、単にリサイクルと略称することがある)の要求が世界的に高まっている。リサイクルにおいては、回収された包装材料を裁断し、必要に応じて分別・洗浄した後に、押出機を用いて溶融混合する工程が一般に採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-331578号公報
【文献】特開2002-308285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、EVOHは乾燥した状態では高いガスバリア性を示すものの、水蒸気等の影響で吸湿した状態では、水素結合が弛み、ガスバリア性が低下する傾向がある。したがって、EVOHからなる層をレトルト用包装材料のガスバリア層として使用することは一般に困難であった。
また、乾燥食品向けのガスバリア層として広く包装材料に使用されるアルミニウム蒸着層は、熱水に対する安定性が低く、レトルト用包装材料のガスバリア層として使用することは一般に困難であった。
さらに、従来のレトルト用包装材料に広く使用されるアルミニウム箔や、ポリエステルフィルムは、回収して再資源化する際に溶融混合工程において他の成分と均一に混合することが困難であり、再資源化の障害となっていた。
【0005】
このような状況に鑑み、本発明の目的は、リサイクル性に優れ、レトルト処理前後ともに外観、ガスバリア性及び遮光性に優れる多層構造体及びそれを用いたレトルト用包装材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リサイクル性に優れた多層構造体を検討する過程で、従来、レトルト用包装材料向けには適用困難とされてきたEVOH層とアルミニウム蒸着層を組合せ、さらに特定の構造を有する多層構造体とした場合に、レトルト処理前後ともに外観、ガスバリア性及び遮光性に優れ、かつ、リサイクル性にも優れることを見出した。本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに検討を重ね、本発明を完成させた。すなわち、上記課題は、[1]ポリプロピレン樹脂(a)を主成分とする外層(A)、ポリプロピレン樹脂(b)を主成分とする内層(B)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)を主成分とするバリア樹脂層(C)、及びアルミニウムを主成分とする金属蒸着層(D)を少なくとも有する4層以上の多層構造体であって、バリア樹脂層(C)及び金属蒸着層(D)が外層(A)及び内層(B)の間に位置し、合計厚みが200μm以下であり、ポリプロピレン樹脂(a)及びポリプロピレン樹脂(b)の融点がそれぞれ140℃以上170℃未満であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)のエチレン単位含有量が15~60モル%、けん化度が85モル%以上であり、融点が140℃未満の樹脂を主成分とする層、融点が240℃以上の樹脂を主成分とする層及び厚み1μm以上の金属層を有さない多層構造体;
[2]バリア樹脂層(C)と金属蒸着層(D)とが隣接する、[1]の多層構造体;
[3]バリア樹脂層(C)が厚み8~40μmの単層フィルムである、[1]又は[2]の多層構造体;
[4]単層フィルムが二軸延伸されてなる、[3]の多層構造体;
[5]バリア樹脂層(C)が、バリア樹脂層(C)を含む2層以上の層からなる共押出フィルムの一層であり、該共押出フィルムの厚みが8~120μmであり、バリア樹脂層(C)の厚みが1~20μmである、[1]又は[2]の多層構造体;
[6]共押出フィルムが二軸延伸されてなる、[5]の多層構造体;
[7]共押出フィルムのバリア樹脂層(C)以外の層がポリプロピレン樹脂を主成分とする層からなる、[5]又は[6]の多層構造体;
[8]少なくとも1層のバリア樹脂層(C)が、少なくとも1層の金属蒸着層(D)よりも外層(A)側に位置している、[1]~[7]の多層構造体;
[9]多層構造体の合計厚みに対する、ポリプロピレン樹脂を主成分とする層の合計厚みの比が0.75以上である、[1]~[8]の多層構造体;
[10]エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を20~200ppm含有する、[1]~[9]の多層構造体;
[11]エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、少なくとも1つのpKaが3.5~5.5である多価カルボン酸(f)を40~400ppm含有する、[1]~[10]の多層構造体;
[12]エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)が、エステル結合又はアミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(g)を1000~10000ppm含有する、[1]~[11]の多層構造体;
[13]バリア樹脂層(C)がさらにポリアミド樹脂(h)を含み、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)とポリアミド樹脂(h)との質量比(c/h)が78/22~98/2である、[1]~[12]の多層構造体;
[14][1]~[13]の多層構造体を有するレトルト用包装材料;
[15]120℃30分間のレトルト処理前後における酸素透過度(20℃、65%RH条件下)がともに2cc/(m2・day・atm)未満である、[14]のレトルト用包装材料;
[16]120℃30分間のレトルト処理前後における波長600nmにおける光線透過率がともに10%以下である、[14]または[15]のレトルト用包装材料;
[17][1]~[13]の多層構造体の回収物を含む、回収組成物;
[18][1]~[13]の多層構造体を粉砕した後に溶融成形する、多層構造体の回収方法;
を提供することで解決される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層構造体は、レトルト処理前後ともに外観、ガスバリア性及び遮光性に優れるため、レトルト用包装材料に好ましく用いられる。また、本発明の多層構造体は、粉砕後に溶融成形した際の均一性に優れ、ブツや着色が抑制されるため、ポストコンシューマーリサイクルへの適用性が高いレトルト用包装材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はこのような材料を使用した態様に限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0009】
<外層(A)及び内層(B)>
本発明の多層構造体は、ポリプロピレン樹脂(a)を主成分とする外層(A)、ポリプロピレン樹脂(b)を主成分とする内層(B)を有する。ポリプロピレン樹脂は、耐熱性、機械物性、ヒートシール性に優れ、また経済的に入手できることから、ポリプロピレン樹脂を主成分とする層を外層及び内層に有する多層構造体は、レトルト用包装材料として好ましく用いられる。ポリプロピレン樹脂(a)とポリプロピレン樹脂(b)は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。ポリプロピレン樹脂としては、例えばポリプロピレン;プロピレンと、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンとを共重合したプロピレン系共重合体等が挙げられる。また、これらを酸でグラフト変性させて得られるグラフト変性ポリプロピレンや、プロピレンと酸を共重合させて得られるプロピレン系共重合体もポリプロピレン樹脂として例示できる。プロピレン系共重合体中のプロピレン単位含有量は50モル%以上である必要があり、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。また、外層(A)におけるポリプロピレン樹脂(a)の含有量及び内層(B)におけるポリプロピレン樹脂(b)の含有量は、50質量%以上である必要があり、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0010】
ポリプロピレン樹脂(a)及びポリプロピレン樹脂(b)の融点はそれぞれ140℃以上170℃未満である必要があり、少なくとも一方の融点が160℃以上170℃未満であることが好ましく、両方の融点が160℃以上170℃未満であることがより好ましい。融点が上記範囲であると、得られる多層構造体のヒートシール性及びレトルト耐性が向上し、さらに、多層構造体を粉砕後に溶融成形した際の均一性に優れる。該ポリプロピレン樹脂のMFR(メルトフローレート、210℃、2.16kg荷重下)は、通常0.5~50g/10minである。該ポリプロピレンのMFRが上記範囲であると、該ポリプロピレン樹脂及び該ポリプロピレン樹脂を含む多層構造体の粉砕物の溶融成形性が向上する。なお、本発明において、樹脂のMFRは、JIS K 7210:2014に準拠して測定される。また、該ポリプロピレンの密度は、通常0.88~0.93g/cm3である。
【0011】
外層(A)及び内層(B)は、それぞれ上記ポリプロピレン樹脂(a)及び(b)を主成分として用いて製膜されたフィルムが用いられる。かかる層の製膜方法は特に限定されないが、一般に押出機により溶融押出することで製膜される。外層(A)及び内層(B)は、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれであってもよいが、機械強度を向上する観点からは外層(A)は二軸延伸フィルムであることが好ましく、ヒートシール性を向上する観点からは内層(B)は無延伸フィルムであることが好ましい。延伸する方法としては特に限定されず、同時延伸、逐次延伸のいずれも可能である。延伸倍率は、得られるフィルムの厚みの均一性及び機械的強度の観点から面積倍率を8~12倍とすることが好ましい。面積倍率は12倍以下が好ましく、11倍以下がより好ましい。また、延伸倍率としては、面積倍率は8倍以上が好ましく、9倍以上がより好ましい。面積倍率が8倍未満であると、延伸斑が残る場合があり、また12倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じやすくなる場合がある。
【0012】
外層(A)及び内層(B)の厚みは、工業的な生産性の観点から、20~150μmが好ましい。具体的には、無延伸フィルムの場合の厚みは20~150μmがより好ましく、二軸延伸フィルムの場合の厚みは20~60μmがより好ましい。
【0013】
本発明の多層構造体中の各層の厚みは用途に応じて適宜調整すればよいが、リサイクル性を向上する観点から、多層構造体の合計厚みに対する、ポリプロピレン樹脂を主成分とする層の合計厚みの比は0.75以上が好ましく、0.85以上がより好ましい。ガスバリア性を向上する観点からは、該比は0.98以下が好ましい。
【0014】
<バリア樹脂層(C)>
本発明の多層構造体は、EVOH(c)を主成分とするバリア樹脂層(C)を有する。EVOH(c)はガスバリア性に優れることから、EVOH(c)を主成分とする層を中間層に有する多層構造体は、レトルト用包装材料に好ましく用いられる。また、EVOH(c)はポリプロピレン樹脂と容易に溶融混合できるため、リサイクル性に優れたレトルト用包装材料を提供できる。また、バリア樹脂層(C)におけるEVOH(c)の含有量は50質量%以上である必要があり、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0015】
EVOH(c)は、通常、エチレンとビニルエステルとを重合して得られるエチレン-ビニルエステル共重合体をけん化することにより得られる。EVOH(c)のエチレン単位含有量は15~60モル%である。エチレン単位含有量が15モル%以上であると、EVOH(c)及び該EVOH(c)を含む多層構造体の粉砕物の溶融成形性が向上する。エチレン単位含有量は、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。一方、エチレン単位含有量が60モル%以下であると、本発明の多層構造体のガスバリア性が向上する。エチレン単位含有量は、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。また、EVOH(c)のけん化度は85モル%以上である。けん化度とは、EVOH(c)中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。けん化度が85モル%以上であると、本発明の多層構造体のガスバリア性が向上する。けん化度は95モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましい。EVOH(c)のエチレン単位含有量及びけん化度は、1H-NMR測定で求められる。
【0016】
EVOH(c)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位を含有していてもよい。他の単量体単位の含有量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。他の単量体単位としては、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;アルキルビニルエーテル;N-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド又はその4級化物、N-ビニルイミダゾール又はその4級化物、N-ビニルピロリドン、N,N-ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
EVOH(c)のMFR(210℃、2.16kg荷重下)は0.5~50g/10minが好ましい。EVOH(c)のMFRは1g/10min以上がより好ましく、2g/10min以上がさらに好ましい。一方、EVOH(c)のMFRは30g/10min以下がより好ましく、15g/10min以下がさらに好ましい。EVOH(c)のMFRが上記範囲であると、EVOH(c)及び該EVOH(c)を含む多層構造体の粉砕物の溶融成形性が向上する。
【0018】
EVOH(c)は、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を20~200ppm含有することが好ましい。本発明の多層構造体はアルミニウムを主成分とする金属蒸着層(D)を有するため、その粉砕物の溶融成形時にはアルミニウムが樹脂の架橋反応を促進し、増粘やゲル化を起こすことがあるが、多価金属イオン(e)を一定量含有することで、増粘、ゲル化やスクリューへの樹脂の付着が抑制される。中でも、EVOH(c)は、多価金属イオン(e)として、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンを含有することが好ましく、マグネシウムイオンを含有することがより好ましい。また、多価金属イオン(e)をカルボン酸塩として含有することが好ましい。このときのカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれであってもよいが、脂肪族カルボン酸が好ましい。脂肪族カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、酢酸が好ましい。また、多価金属イオン(e)は、後述する多価カルボン酸(f)の塩として含有することも好ましい。
【0019】
EVOH(c)中の多価金属イオン(e)の含有量は20~200ppmが好ましい。当該含有量が20ppm以上であると、多層構造体の粉砕物の粘度安定性が良好となり、樹脂のゲル化や押出機内のスクリューへの樹脂の付着が抑制される。多価金属イオン(e)の含有量は40ppm以上がより好ましい。一方、多価金属イオン(e)の含有量が200ppm以下であると、多層構造体の粉砕物の過剰な分解が抑制され、回収組成物の色相が良好となる。多価金属イオン(e)の含有量は150ppm以下がより好ましい。
【0020】
EVOH(c)は、少なくとも1つのpKaが3.5~5.5である多価カルボン酸(f)を40~400ppm含有することが好ましい。該含有量が40ppm以上であると、多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に樹脂の分解や着色が抑制される。該含有量は60ppm以上がより好ましい。一方、該含有量が400ppm以下であると、多層構造体の粉砕物の過剰な架橋を抑制できる。多価カルボン酸(f)の含有量は300ppm以下がより好ましい。
【0021】
多価カルボン酸(f)とは、分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する化合物であり、少なくとも1つのカルボキシル基のpKaが3.5~5.5の範囲にあればよく、例えばシュウ酸(pKa2=4.27)、コハク酸(pKa1=4.20)、フマル酸(pKa2=4.44)、リンゴ酸(pKa2=5.13)、グルタル酸(pKa1=4.30、pKa2=5.40)、アジピン酸(pKa1=4.43、pKa2=5.41)、ピメリン酸(pKa1=4.71)、フタル酸(pKa2=5.41)、イソフタル酸(pKa2=4.46)、テレフタル酸(pKa1=3.51、pKa2=4.82)、クエン酸(pKa2=4.75)、酒石酸(pKa2=4.40)、グルタミン酸(pKa2=4.07)、アスパラギン酸(pKa=3.90)等が挙げられる。
【0022】
EVOH(c)は、エステル結合又はアミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(g)を1000~10000ppm含有することが好ましい。当該含有量が1000ppm以上であると、多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に樹脂の着色、増粘及びゲル化を抑制できる。ヒンダードフェノール系化合物(g)の含有量は2000ppm以上がより好ましい。一方、ヒンダードフェノール系化合物(g)の含有量が10000ppm以下であると、ヒンダードフェノール系化合物(g)に由来する着色やブリードアウトを抑制できる。ヒンダードフェノール系化合物(g)の含有量は8000ppm以下がより好ましい。
【0023】
ヒンダードフェノール系化合物(g)は、少なくとも1つのヒンダードフェノール基を有する。ヒンダードフェノール基とは、フェノールのヒドロキシル基が結合した炭素に隣接する炭素の少なくとも1つに嵩高い置換基が結合したものをいう。嵩高い置換基としては、炭素原子1~10のアルキル基が好ましく、t-ブチル基がより好ましい。
【0024】
ヒンダードフェノール系化合物(g)は室温付近において固体状態であることが好ましい。該化合物(g)のブリードアウトを抑制する観点から、ヒンダードフェノール系化合物(g)の融点又は軟化温度は50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。同様の観点から、ヒンダードフェノール系化合物(g)の分子量は200以上が好ましく、400以上がより好ましく、600以上がさらに好ましい。一方、該分子量は、通常、2000以下である。また、EVOH(c)との混合を容易にする観点から、ヒンダードフェノール系化合物(g)の融点又は軟化温度は200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。
【0025】
ヒンダードフェノール系化合物(g)はエステル結合又はアミド結合を有する必要がある。エステル結合を有するヒンダードフェノール系化合物(g)としては、ヒンダードフェノール基を有する脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステルが挙げられ、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(g)としては、ヒンダードフェノール基を有する脂肪族カルボン酸と脂肪族アミンとのアミドが挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール系化合物(g)がアミド結合を有することが好ましい。
【0026】
ヒンダードフェノール系化合物(g)の具体的な構造としては、BASF社からイルガノックス1010として市販されているペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1076として市販されている3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、イルガノックス1035として市販されている2,2’-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1135として市販されている3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル、イルガノックス245として市販されているビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、イルガノックス259として市販されている1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1098として市販されているN,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]が挙げられる。中でも、イルガノックス1098として市販されているN,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、及びイルガノックス1010として市販されているペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が好ましく、前者がより好ましい。
【0027】
EVOH(c)は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、多価金属イオン(e)、多価カルボン酸(f)、ヒンダードフェノール系化合物(g)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えばアルカリ金属イオン、多価金属イオン(e)以外のアルカリ土類金属イオン、多価カルボン酸(f)以外のカルボン酸(モノカルボン酸)、リン酸化合物、ホウ素化合物、酸化促進剤、ヒンダードフェノール系化合物(g)以外の酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、防曇剤等が挙げられる。特に、多層構造体の層間接着性を改善する観点からは、アルカリ金属イオンを含むことが好ましい。また、EVOH(c)及び該EVOH(c)を含む多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に着色が抑制できる観点からは、モノカルボン酸、リン酸化合物が好ましい。ホウ素化合物を含むことで、EVOH(c)及びの多層構造体の粉砕物の溶融粘度を制御できる。
【0028】
EVOH(c)の製造方法は特に限定されないが、EVOH(c)、多価金属イオン(e)、多価カルボン酸(f)、ヒンダードフェノール系化合物(g)、必要に応じてその他の添加剤を溶融混練することにより製造できる。多価金属イオン(e)、多価カルボン酸(f)及びヒンダードフェノール系化合物(g)は、粉末等固体状態のまま、又は溶融物として配合してもよく、溶液に含まれる溶質又は分散液に含まれる分散質として配合してもよい。溶液及び分散液としては、それぞれ水溶液及び水分散液が好適である。溶融混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を用いることができる。溶融混練時の温度範囲は、使用するEVOH(c)の融点等に応じて適宜調節でき、通常、150~300℃が採用される。
【0029】
バリア樹脂層(C)は、ポリアミド樹脂(以下、PAと略称することがある)(h)を含み、EVOH(c)とPA(h)との質量比(c/h)が78/22~98/2であることも好ましい。PA(h)を含むことにより、熱水処理後のガスバリア性や外観をさらに向上することができる。前記質量比(c/h)が78/22未満の場合、多層構造体の粉砕物の溶融成形時に増粘やゲル化が発生しやすくなる。一方、前記質量比(c/h)が98/2を超える場合、熱水処理後のガスバリア性や外観の向上が不十分となる場合がある。
【0030】
PA(h)としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン26/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)、11-アミノウンデカンアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミドあるいはこれらのポリアミドをメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミンなどの芳香族アミンで変性したものが挙げられる。また、メタキシリレンジアンモニウムアジペートなども挙げられる。これらの中でも、熱水処理後のガスバリア性及び外観を特に向上できる観点から、カプロアミドを主体とするポリアミド樹脂であることが好ましく、具体的には、PA(h)の構成単位の75モル%以上がカプロアミド単位であることが好ましい。中でも、EVOH(c)との相溶性の観点から、PA(h)がナイロン6であることが好ましい。
【0031】
PA(h)の重合方法としては、特に限定されず、例えば、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、またはこれらを組み合わせた方法等、公知の方法を採用することができる。
【0032】
本発明の1つの実施形態では、バリア樹脂層(C)としては、上記EVOH(c)を主成分として用いて製膜された単層フィルムが用いられる。かかる層の製膜方法は特に限定されないが、一般には押出機により溶融押出することで製膜される。バリア樹脂層(C)は、厚み8~40μmの単層フィルムであってもよく、該単層フィルムが二軸延伸されてなる、厚み8~20μmの二軸延伸単層フィルムであってもよい。ガスバリア性を向上する観点からは、バリア樹脂層(C)は二軸延伸単層フィルムを用いることが好ましい。延伸する方法は特に限定されず、同時延伸、逐次延伸のいずれの方式も可能である。延伸倍率は、得られるフィルムの厚みの均一性、ガスバリア性及び機械的強度の点から面積倍率を8~12倍とすることが好ましい。面積倍率は12倍以下が好ましく、11倍以下がより好ましい。また、延伸倍率としては、面積倍率は8倍以上が好ましく、9倍以上がより好ましい。面積倍率が8倍未満であると、延伸斑が残る場合あり、また12倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じやすくなる場合がある。また、延伸前の原反に予め含水させておくことで、連続延伸が容易となる。延伸前原反の水分率は2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。延伸前原反の水分率は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。水分率が2質量%未満の場合、延伸斑が残る場合があり、特にロールの幅方向に延伸する場合、フィルムを保持するグリップに近い部分の延伸倍率が高くなり、グリップ近辺で破れが生じやすくなる場合がある。一方、水分率が30質量%を超えると、延伸された部分の弾性率が低く、未延伸部分との差が十分でなく、延伸斑が残る場合がある。延伸する際の温度は、延伸前の原反の水分率により異なり得るが、一般に50℃~130℃の温度範囲が採用される。特に同時二軸延伸では、70℃~100℃の温度範囲であると、延伸斑の少ない二軸延伸フィルムが得られる。逐次二軸延伸では、ロールの長手方向に延伸する場合には70℃~100℃、ロールの幅方向に延伸する場合は80℃~120℃の温度範囲を採用することで、延伸斑の少ない二軸延伸フィルムが得られる。
【0033】
バリア樹脂層(C)の厚みは、工業的な生産性の観点から、8~40μmが好ましい。具体的には、無延伸フィルムの場合の厚みは8~40μmがより好ましく、二軸延伸フィルムの場合の厚みは8~20μmがより好ましい。
【0034】
本発明の別の実施形態では、バリア樹脂層(C)は、バリア樹脂層(C)を含む2層以上の層からなる共押出フィルムの一層であることも好ましい。共押出フィルムのバリア樹脂層(C)以外の層はEVOH樹脂以外の樹脂を主成分とする層からなることが好ましく、ポリプロピレン樹脂を主成分とする層からなることがより好ましく、ポリプロピレン樹脂のみを含む層からなることがさらに好ましい。該共押出フィルムにおけるポリプロピレン樹脂としては、未変性ポリプロピレン樹脂及び変性ポリプロピンレン樹脂のいずれも用いることができる。酸変性ポリプロピレン樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂をマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、又は無水イタコン酸等で変性した樹脂が挙げられる。酸変性ポリプロピレン樹脂はポリプロピレン接着性樹脂として用いることができる。
【0035】
共押出フィルムの製膜方法は特に限定されないが、一般には押出機により溶融押出する溶融成形法によって製膜される。この場合、共押出フィルムの厚みは8~120μm、バリア樹脂層(C)の厚みは1~20μmが好ましい。共押出フィルムが二軸延伸されてなる場合、共押出フィルムの厚みは8~60μm、バリア樹脂層(C)厚みは1~10μmが好ましい。延伸する方法は特に限定されず、同時延伸、逐次延伸のいずれも可能である。延伸倍率は、得られるフィルムの厚みの均一性及び機械的強度の観点から面積倍率を8~12倍とすることが好ましい。面積倍率は12倍以下が好ましく、11倍以下がより好ましい。また、延伸倍率としては、面積倍率は8倍以上が好ましく、9倍以上がより好ましい。面積倍率が8倍未満であると、延伸斑が残る場合があり、また12倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じやすくなる場合がある。
【0036】
<金属蒸着層(D)>
金属蒸着層(D)はアルミニウムを主成分とする層である。金属蒸着層(D)におけるアルミニウム原子の含有量は50モル%以上である必要があり、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。金属蒸着層(D)は多層構造体を構成するいずれの層に積層されてもよいが、バリア樹脂層(C)に隣接していることが好ましい。金属蒸着層(D)の平均厚みは120nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。また、金属蒸着層(D)の平均厚みは30nm以上が好ましく、45nm以上がより好ましく、60nm以上がさらに好ましい。なお、金属蒸着層(D)の平均厚みとは、電子顕微鏡により測定される金属蒸着層(D)断面の任意の10点における厚みの平均値である。多層構造体の回収組成物の着色を低減する観点からは、多層構造体が金属蒸着層(D)を複数有する場合においては、金属蒸着層(D)の合計厚みは1μm以下が好ましい。本発明の多層構造体は、金属蒸着層(D)を有することで、波長600nmにおける光線透過率を10%以下とすることができ、遮光性に優れる。
【0037】
金属蒸着を行う際、金属が蒸着される層の表面温度の上限は60℃が好ましく、55℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。また、該表面温度の下限は特に限定されないが、0℃が好ましく、10℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。金属蒸着を行う前に、金属が蒸着される層の表面をプラズマ処理してもよい。該プラズマ処理は公知の方法を用いることができ、大気圧プラズマ処理が好ましい。大気圧プラズマ処理では放電ガスとして、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。中でも、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、コストを低減できることから、特に窒素が好ましい。
【0038】
<多層構造体>
本発明の多層構造体の層構成は、ポリプロピレン樹脂(a)を主成分とする外層(A)、ポリプロピレン樹脂(b)を主成分とする内層(B)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(c)を主成分とするバリア樹脂層(C)、及びアルミニウムを主成分とする金属蒸着層(D)を少なくとも有する4層以上の多層構造体であって、バリア樹脂層(C)及び金属蒸着層(D)が外層(A)及び内層(B)の間に位置し、合計厚みが200μm以下であり、融点が140℃未満の樹脂を主成分とする層、融点が240℃以上の樹脂を主成分とする層及び厚み1μm以上の金属層を有さないことを特徴とする。
ポリプロピレン樹脂を主成分とする外層(A)及び内層(B)を有することにより、本発明の多層構造体は、十分な耐熱水性を有し、レトルト用包装材料として好ましく用いられる。
また、本発明の多層構造体はEVOH(c)を主成分とするバリア樹脂層(C)、及びアルミニウムを主成分とする金属蒸着層(D)をともに有し、かつそれらが外層(A)及び内層(B)の間に位置することで、レトルト処理前後ともに優れたガスバリア性及び遮光性を有する。
また、本発明の多層構造体は厚み1μm以上の金属層を有さないことが必要である。厚み1μmを超える金属層を有すると、多層構造体の粉砕物から回収組成物を得た場合に他の成分との混合が不均一になるのに加え、着色の問題が発生する。ガスバリア性をさらに向上する観点から、バリア樹脂層(C)と金属蒸着層(D)とが隣接することが好ましい。また、レトルト処理後の外観及びガスバリア性をさらに向上する観点から、少なくとも1層のバリア樹脂層(C)が、少なくとも1層の金属蒸着層(D)よりも外層(A)側に位置していることが好ましい。
【0039】
また、本発明の多層構造体の合計厚みは200μm以下である。合計厚みが上記範囲であることで、本発明の多層構造体は軽量かつ柔軟性を有するため、軟包装の用途に用いられる。また、多層構造体に使用される樹脂量が少なく、環境負荷が抑制される。
【0040】
本発明の多層構造体は、融点が140℃未満の樹脂を主成分とする層を有さないため、レトルト処理による変形、白化、層間剥離等の問題を抑制できる。一方、本発明の多層構造体は、融点が240℃以上の樹脂を主成分とする層及び厚み1μm以上の金属層を有さないため、多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に、他の成分との混合が不均一になることを抑制できる。
【0041】
本発明の多層構造体は、120℃30分間のレトルト処理前後における酸素透過度(20℃、65%RH条件下)がともに2cc/(m2・day・atm)未満であることが好ましい。酸素透過度が上記範囲であると、多層構造体は優れたガスバリア性を有する。
【0042】
本発明の多層構造体は、120℃30分間のレトルト処理前後における波長600nmにおける光線透過率がともに10%以下であることが好ましい。光線透過率が上記範囲であると、多層構造体は優れた遮光性を有する。
【0043】
本発明の多層構造体を構成する各層は必要に応じて、接着層を介して積層してもよい。接着層は、公知の接着剤を塗工し、乾燥することで形成できる。当該接着剤は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。接着層の厚さは特に限定されないが、1~5μmが好ましく、2~4μmがより好ましい。
【0044】
本発明の多層構造体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記した以外の他の層を有していても良い。他の層としては、例えば印刷層が挙げられる。印刷層は本発明の多層構造体のいずれの位置に含まれていてもよいが、外層(A)の少なくとも一方の表面に位置することが好ましい。印刷層としては、例えば顔料又は染料、及び必要に応じてバインダー樹脂を含む溶液を塗工し、乾燥して得られる皮膜が挙げられる。印刷層の塗工方法としては、グラビア印刷法の他、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等を用いた各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは特に限定されないが、0.5~10μmが好ましく、1~4μmがより好ましい。
【0045】
本発明の多層構造体を製造する際に発生する端部や不良品を回収した回収物(スクラップ)を再使用することが好ましい。本発明の多層構造体を粉砕した後に溶融成形する多層構造体の回収方法、及び本発明の多層構造体の回収物を含む回収組成物もまた本発明の好適な実施態様である。
【0046】
本発明の多層構造体の回収に際して、まず、本発明の多層構造体の回収物を破砕する。粉砕された回収物を、そのまま溶融成形して回収組成物を得てもよいし、必要に応じてその他の成分とともに溶融成形して回収組成物を得てもよい。回収物に添加する成分としてはポリプロピレン樹脂が挙げられる。当該ポリプロピレン樹脂としては、本発明の多層構造体に用いられるものとして上述したものが用いられる。粉砕された回収物を直接多層構造体等の成形品の製造に供してもよいし、粉砕された回収物を溶融成形して、回収組成物からなるペレットを得た後、当該ペレットを成形品の製造に供してもよい。
【0047】
回収組成物における、ポリプロピレン樹脂に対するEVOH(c)の質量比[EVOH(c)/ポリプロピレン樹脂]は、1/99~30/70が好ましい。該質量比が1/99未満の場合、回収物の使用比率が低下するおそれがある。一方、該質量比が30/70を超えると、回収組成物の溶融成形性と機械物性が低下することがある。
【0048】
本発明の多層構造体は、レトルト処理前後ともに外観、ガスバリア性及び遮光性に優れるため、レトルト用包装材料に好ましく用いられる。また、本発明の多層構造体は、粉砕後に溶融成形した際の均一性に優れ、ブツや着色が抑制されるため、ポストコンシューマーリサイクルへの適用性が高いレトルト用包装材料を提供できる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0050】
(1)レトルト処理前のOTR(酸素透過速度)
各実施例及び比較例で得られた多層構造体を用いて、外層(A)を酸素供給側、内層(B)をキャリアガス側として酸素透過速度を測定した。具体的には、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX-TRAN2/21」)を用い、温度20℃、酸素供給側の湿度65%RH、キャリアガス側の湿度65%RH、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で酸素透過速度(単位:cc/(m2・day・atm))を測定した。キャリアガスには2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。結果を下記のA~Eの5段階で評価した。基準A~Cが実使用に十分なレベルである。
判定基準
A :0.1cc/(m2・day・atm)未満
B :0.1cc/(m2・day・atm)以上、0.5cc/(m2・day・atm)未満
C :0.5cc/(m2・day・atm)以上、2cc/(m2・day・atm)未満
D :2cc/(m2・day・atm)以上、20cc/(m2・day・atm)未満
E :20cc/(m2・day・atm)以上
【0051】
(2)レトルト処理後のOTR(酸素透過速度)
各実施例及び比較例で得られた多層構造体を12cm四方に2枚切り出した後、内層(B)が互いに向かい合うように重ね合わせ、3辺をヒートシールすることによってパウチを作製した。次に、パウチの開口部から80gの水を充填し、開口部をヒートシールすることによって水が充填されたパウチを作製した。これをレトルト装置(株式会社日阪製作所製の高温高圧調理殺菌試験機「RCS-40RTGN」)を使用して、120℃で30分のレトルト処理を実施した。レトルト処理後、パウチの表面の水を拭き取り、20℃、65%RHの恒温恒湿の部屋で3時間静置してからパウチを開封して水を除き、外層(A)を酸素供給側、内層(B)をキャリアガス側としてOTRを測定した。具体的には、上記(1)と同様に測定し、結果の評価も同様の基準で評価した。ただし、測定開始24時間後の測定値を判断基準とした。
【0052】
(3)レトルト処理前後の遮光性
上記(2)と同様にして、パウチを作製し、レトルト処理を実施した。レトルト処理後、パウチの表面の水を拭き取り、20℃、65%RHの恒温恒湿の部屋で3時間静置した。このようにして得たレトルト処理前後の多層構造体について、島津製作所製紫外可視分光光度計「UV-2450」を用いて波長600nmにおける光線透過率を測定し、下記のA、Bの2段階で評価した。基準Bは遮光性が求められる用途への実使用に適さないレベルである。
判定基準
A :600nmにおける光線透過率が10%以下
B :600nmにおける光線透過率が10%を超過
【0053】
(4)レトルト処理後の外観
上記(2)と同様にして、パウチを作製し、レトルト処理を実施した。レトルト処理後、パウチの表面の水を拭き取り、20℃、65%RHの恒温恒湿の部屋で3時間静置した後、パウチの外観特性を下記のA~Dの4段階で評価した。基準Dは実使用に適さないレベルである。
判定基準
A :レトルト処理前と比較して外観変化はほとんど見られなかった
B :軽度な白化、変色、変形が見られた
C :中程度の白化、変色、変形が見られるか、又は部分的な層間剥離が見られた
D :重度の白化、変形が見られるか、又は広範囲に層間剥離が見られた
【0054】
(5)多層構造体の粉砕物の溶融成形物のブツ及び着色
各実施例及び比較例で得られた多層構造体を4mm四方以下のサイズに粉砕した。この粉砕物とポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製「ノバテックPP EA7AD」(密度0.90g/cc、MFR(230℃、2.16kg荷重下)1.4g/10min))とを質量比(粉砕物/ポリプロピレン樹脂)20/80の割合でブレンドし、下記に示す押出条件にて単層製膜を行うことで、厚み20μmの単層フィルムを得た。単層フィルムの厚みはスクリュー回転数及び引取りロール速度を適宜変えることで調整した。また、対照として、ポリプロピレン樹脂のみを用いて、同様に厚み20μmの単層フィルムを得た。
押出機:東洋精機製作所製一軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
押出温度:C1/C2/C3/D=190/230/230/230℃
引取りロール温度:80℃
得られた単層フィルムのブツ及び着色状況を下記A~Dの4段階で評価した。基準Dは実使用に適さないレベルである。
ブツの判定基準
A :対照と比べて、ブツの量はほとんど変わらなかった
B :対照と比べて、小さなブツの量がわずかに多かった
C :対照と比べて、小さなブツの量が多かった
D :対照と比べて、大きなブツの量が多かった
着色の判定基準
A :対照と比べて、色相変化の度合いは小さかった(ごく淡い黄色またはごく淡い灰色)
B :対照と比べて、軽度の着色が見られた(淡い黄色または淡い灰色)
C :対象と比べて、中程度の着色が見られた(黄色または灰色)
D :対象と比べて、顕著な着色が見られ、ムラも見られた
【0055】
(6)多層構造体の粉砕物の溶融粘度安定性
各実施例及び比較例で得られた多層構造体を4mm四方以下のサイズに粉砕した。この粉砕物60gをラボプラストミル(二軸異方向)を用いて窒素雰囲気下、230℃、100rpmの条件で混練したときのトルク変化を測定した。混練開始10分後及び90分後のトルク値(それぞれTI及びTF)を算出し、TF/TIの比率によって、下記A~Dの4段階で評価した。基準Dは実使用に適さないレベルである。
判定基準
A :80/100以上120/100未満
B :60/100以上80/100未満、又は120/100以上140/100未満
C :40/100以上60/100未満、又は140/100以上160/100未満
D :40/100未満、又は160/100以上
【0056】
[製造例1]
エチレン含有量32モル%、けん化度99.9モル%、MFR(210℃、2.16kg荷重)3.60g/10minであるEVOH樹脂(多価金属イオン、多価カルボン酸、ヒンダードフェノール化合物は含まない)を株式会社日本製鋼所社製二軸押出機「TEX30α」(スクリュー径30mm)に供給した。また、二軸押出機内で多価金属塩として酢酸マグネシウム水溶液を液添ポンプで添加し、該添加位置よりも下流側に、スクリュー構成として順ズラシニーディングディスク(Forward kneading disk)がL(スクリュー長)/D(スクリュー径)=3を有するスクリューを用いて、溶融温度220~230℃、押出速度20kg/hrの条件で溶融押出を行い、ストランドを得た。得られたストランドを冷却槽で冷却固化した後に切断してマグネシウムイオンを150ppm含むEVOHペレットを得た。
【0057】
[製造例2]
酢酸マグネシウム水溶液の濃度を変更したこと以外は製造例1と同様にしてマグネシウムイオンを250ppm含むEVOHペレットを得た。
【0058】
[製造例3]
酢酸マグネシウム水溶液の代わりに酢酸カルシウム水溶液を用い、濃度を変更したこと以外は製造例1と同様にしてカルシウムイオンを150ppm含むEVOHペレットを得た。
【0059】
[製造例4]
酢酸マグネシウム水溶液の代わりにクエン酸水溶液を用い、濃度を変更したこと以外は製造例1と同様にしてクエン酸を300ppm含むEVOHペレットを得た。
【0060】
[製造例5]
酢酸マグネシウム水溶液の代わりにクエン酸水溶液を用い、濃度を変更したこと以外は製造例1と同様にして、クエン酸を500ppm含むEVOHペレットを得た。
【0061】
[製造例6]
EVOH樹脂に加えてエステル結合を有するヒンダードフェノール系化合物(BASF社製「イルガノックス1010」)を二軸押出機に供給したこと以外は製造例1と同様にして、エステル結合を有するヒンダードフェノール系化合物を5000ppm含むEVOHペレットを得た。
【0062】
[製造例7]
EVOH樹脂に加えて、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(BASF社製「イルガノックス1098」)を供給したこと以外は製造例1と同様にして、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物を5000ppm含むEVOHペレットを得た。
【0063】
[製造例8]
EVOH樹脂に加えて、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物(BASF社製「イルガノックス1098」)を供給したこと以外は製造例1と同様にして、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物を15000ppm含むEVOHペレットを得た。
【0064】
[製造例9]
EVOH樹脂に加えて、PA樹脂としてナイロン6(UBE NYLON SF1018A)及び酢酸マグネシウム水溶液を供給したこと以外は製造例1と同様にして、EVOH樹脂とPA樹脂の合計に対してPA樹脂を15部及びマグネシウムイオンをEVOH樹脂に対して150ppm含むEVOH及びPAを含有する樹脂ペレットを得た。
【0065】
[製膜例1]
エチレン含有量32モル%、けん化度99.9モル%、MFR(210℃、2.16kg荷重)3.60g/10minであるEVOH樹脂(多価金属イオン、多価カルボン酸、ヒンダードフェノール化合物は含まない)を下記に示す押出条件で単層製膜を行い、厚み15μmの単層EVOHフィルムを得た。単層EVOHフィルムの厚みはスクリュー回転数及び引取りロール速度を適宜変えることで調整した。
押出機:東洋精機製作所製一軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
押出温度:C1/C2/C3/D=190/220/220/220℃
引取りロール温度:80℃
【0066】
[製膜例2]
スクリュー回転数及び引取りロール速度を変更した以外は製膜例1と同様にして、厚み30μmの単層EVOHフィルムを得た。
【0067】
[製膜例3]
スクリュー回転数及び引取りロール速度を変更した以外は製膜例1と同様にして、厚み135μmの単層EVOHフィルムを得た。この単層EVOHフィルムの水分率を15%に調湿して、東洋精機製作所製の二軸延伸装置を用いて、80℃、20秒間予熱した後、延伸温度80℃、延伸倍率9倍(縦方向に3倍、横方向に3倍)、延伸速度1m/分で同時二軸延伸した。次いで、得られたフィルムを木枠に固定して、温度140℃で10分間熱処理を行い、厚さ15μmの二軸延伸単層EVOHフィルムを得た。
【0068】
[製膜例4]
エチレン含有量48モル%、けん化度99.9モル%、MFR(210℃、2.16kg荷重)14.8g/10minであるEVOH樹脂(多価金属イオン、多価カルボン酸、ヒンダードフェノール化合物は含まない)、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製「ノバテックPP EA7AD」(密度0.90g/cc、MFR(230℃、2.16kg荷重下)1.4g/10min))及びポリプロピレン接着性樹脂(三井化学社製「アドマーQF500」(MFR(230℃、2.16kg荷重下)3.0g/10min))を用い、3種3層の共押出フィルム(EVOH樹脂/ポリプロピレン接着性樹脂/ポリプロピレン樹脂=9μm/9μm/81μm)を製膜した。押出機及び押出条件、使用したダイは下記の通りとした。
EVOH
押出機:単軸押出機(東洋精機株式会社 ラボ機ME型CO-EXT)
スクリュー:口径20mmφ、L/D20、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=175/210/220/230℃
ポリプロピレン接着性樹脂
押出機:単軸押出機(株式会社テクノベル SZW20GT-20MG-STD)
スクリュー:口径20mmφ、L/D20、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=150/200/220/230℃
ポリプロピレン樹脂
押出機:単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所 GT-32-A)
スクリュー:口径32mmφ、L/D28、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/230/230℃
ダイ:300mm幅3種3層用コートハンガーダイ(プラスチック工学研究所社製)
なお、表1においては、共押出フィルムを構成するポリプロピレン接着性樹脂及びポリプロピレン樹脂をまとめて「PP」と表記した。
【0069】
[製膜例5]
スクリュー回転数及び引取りロール速度を変更した以外は製膜例4と同様にして、3種3層の共押フィルム(EVOH樹脂/ポリプロピレン接着性樹脂/ポリプロピレン樹脂=27μm/27μm/243μm)を製膜した。この共押出フィルムをテンター式同時二軸延伸設備により160℃にて縦方向に3倍、横方向に3倍延伸し、3種3層の二軸延伸共押フィルム(EVOH樹脂/ポリプロピレン接着性樹脂/ポリプロピレン樹脂=3μm/3μm/27μm)を得た。
【0070】
[製膜例6]
スクリュー回転数及び引取りロール速度を変更した以外は製膜例4と同様にして、3種3層の共押出フィルム(EVOH樹脂/ポリプロピレン接着性樹脂/ポリプロピレン樹脂=6μm/6μm/54μm)を製膜した。
【0071】
[製膜例7~14]
製造例1~8で得られたEVOH樹脂ペレットを使用した以外は製膜例1と同様にして、厚み15μmの単層EVOHフィルムを得た。
【0072】
[製膜例15]
製造例9で得られたEVOH及びPAを含有する樹脂ペレットを使用し、押出温度を下記とした以外は製膜例1と同様にして、厚み15μmの単層EVOHフィルムを得た。
押出温度:C1/C2/C3/D=230/230/230/230℃
【0073】
[実施例1]
製膜例1で得られた単層EVOHフィルムの片面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「パイレンフィルム―OT P2161」、厚さ30μm)及び無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製「RXC-22」、厚さ50μm)のそれぞれ片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。(以下、アルミニウム蒸着層をVM、二軸延伸ポリプロピレンフィルムをBOPP、無延伸ポリプロピレンフィルムをCPP、接着剤層をAdと略記することがある)
続いて、接着剤を塗工したBOPP及びCPPと上記アルミニウムを蒸着した単層EVOHフィルムとをラミネートして、BOPP30/Ad2/EVOH15/VM/Ad2/CPP50という構造を有する多層構造体を得た(なお、各層を表す記号中の数字は、各層の厚み(単位:μm)を表す)。ここで、アルミニウムを蒸着した単層EVOHフィルムは、アルミニウム蒸着層がCPP側、EVOH層がBOPP側になるようにした。当該多層構造体を用いて上記(1)~(6)の評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例2~8,11,12,15~23及び比較例4,7]
多層構造体の層構成を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、多層構造体を得た。なお、実施例6,7,9,10では、単層EVOHフィルムの代わりに製膜例4~6のいずれかで得られた共押出フィルムを用いた。この場合、共押出フィルムのEVOH側の表面にアルミニウムの蒸着を行った。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。ここで、表1に記載の多層構造体に使用した各層は、下記の通りである。
BOPP20:二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「パイレンフィルム-OT P2161」、融点164℃、厚さ20μm)
BOPP30:二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「パイレンフィルム-OT P2161」、融点164℃、厚さ30μm)
BOPP50:二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「パイレンフィルム-OT P2161」、融点164℃、厚さ50μm)
CPP30:無延伸ポリプロピレンフィルム(東レ社製「トレファンNO 3951」、融点144℃、厚さ30μm)
CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製「RXC-22」、融点166℃、厚さ50μm)
CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製「RXC-22」、融点166℃、厚さ100μm)
BOPET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製「ルミラーP60」、融点256℃、厚さ12μm)
PE50:無延伸ポリエチレンフィルム(東セロ社製「T.U.X. HZR-2」、融点127℃、厚さ50μm)
Al9:アルミ箔(厚さ9μm)
なお、表1においては、アルミニウム蒸着層とアルミニウムが蒸着される層の順列を考慮し、たとえば、「VM/EVOH」または「EVOH/VM」と表している。例えば、実施例1の多層構造体においてはVM層が内層側に、EVOH層が外層側になるよう積層されていることを示す。このような表記は、他のアルミニウム蒸着層についても同様である。
また、表1において、製膜例4~6で得られた共押出フィルムを含む多層構造体については、共押出フィルムで構成される部分を、例えば(PP90/EVOH9)のように括弧内に示した。なお、「BO」は二軸延伸したフィルムであることを意味する。
【0075】
[実施例9]
製膜例5で得られた二軸延伸共押出フィルムのEVOH樹脂側の表面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、CPP50の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工したCPP50と上記アルミニウムを蒸着した二軸延伸共押出フィルムとをラミネートして、BO(PP30/EVOH3)/VM/Ad2/CPP50という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0076】
[実施例10]
製膜例6で得られた共押出フィルムのEVOH樹脂側の表面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、OPP30の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工したOPP30と上記アルミニウムを蒸着した共押出フィルムとをラミネートして、BOPP30/Ad2/VM/(EVOH6/PP60)という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例13]
BOPP30の片面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、アルミニウムを蒸着したBOPP30の蒸着面側、及びCPP50の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工したアルミニウムを蒸着したBOPP30及びCPP50と製膜例1で得られた単層EVOHフィルムとをラミネートして、BOPP30/VM/Ad2/EVOH15/Ad2/CPP50という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0078】
[実施例14]
CPP50の片面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、アルミニウムを蒸着したCPP50の蒸着面側、及びBOPP30の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工したアルミニウムを蒸着したCPP50及びBOPP30と製膜例1で得られた単層EVOHフィルムとをラミネートして、BOPP30/Ad2/EVOH15/Ad2/VM/CPP50という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0079】
[比較例1]
BOPP30の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。そして、これとCPP50とをラミネートして、バリア樹脂層(C)及び金属蒸着層(D)を含まない多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0080】
[比較例2]
製膜例1で得られた単層EVOHフィルムにアルミニウムの蒸着を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、金属蒸着層(D)を含まない多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0081】
[比較例3]
BOPP30の片面に、日本真空技術社製「EWA-105」を用いて、厚みが70nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。次に、CPP50の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工したCPP50とアルミニウムを蒸着したBOPP30とをラミネートして、BOPP30/VM/Ad2/CPP50という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0082】
[比較例5]
BOPET12の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させ、これとBOPP30とをラミネートした。該積層体のBOPET12側の表面、及びCPP100の片面にそれぞれ上記2液型の接着剤を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工した上記積層体及びCPP100と上記アルミニウムを蒸着した単層EVOHフィルムとをラミネートして、BOPP30/Ad2/BOPET12/Ad2/EVOH15/VM/Ad2/CPP100という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0083】
[比較例6]
BOPP30の片面に、2液型の接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させ、これとAl9とをラミネートした。該積層体のAl9側の表面、及びCPP100の片面にそれぞれ上記2液型の接着剤を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して乾燥させた。
続いて、接着剤を塗工した上記積層体及びCPP100と上記アルミニウムを蒸着した単層EVOHフィルムとをラミネートして、BOPP30/Ad2/Al9/Ad2/EVOH15/VM/Ad2/CPP100という構造を有する多層構造体を得た。得られた多層構造体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0084】
【0085】